【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン
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666:名無しNIPPER[saga]
2020/02/02(日) 06:05:53.88 ID:Qu5hoY050
月光に照らされた惨状が闇夜に混ざり、次の転移が始まる。
古い景色を飲み込み、依然コブラとグウィンドリンを包む闇は、そして新たに景色を生み出した。
コブラはやや広い円形の暗がりに立ち、新たな景色を見渡す。
足元に広がるのは石畳。天井も同様に石造りであり、中心には篝火が置かれている。
その篝火を、壁に設けられた二ヶ所の通路の片方から差し込む陽光が照らしていた。
だが目立つのは、壁に掘られたグウィンの立像と、円形の部屋にひしめいて言い争う、数多の神々の姿だった。



グウィンドリン「ベルカを含め、多くの神々を失ったアノール・ロンドは力を弱め、残った神々も尽く月の派閥に傾倒した」

グウィンドリン「月の派閥は神の威光の復活を願い、我を主神に立てるよう事を進めた」

グウィンドリン「しかし、座に我が就く前に、注意深く見張っていたはずの小ロンド公国が深淵に落ちたとの報が届き、神々は自らの誤ちを知った」

グウィンドリン「誤ちはふたつ。ひとつは人を恐れ、太陽による人への慈悲の危うさを恐れたあまりの、人への消極的干渉という姿勢を月の派閥が貫いてしまったこと」

グウィンドリン「そしてもうひとつは、誰も降りようとはしなかった一連の争乱によって、アノール・ロンドの国力の荒廃が著しく加速してしまったことだ」

グウィンドリン「神の恩寵を受けし人の国を二つも闇に堕としたという事実は、それによる闇の力の隆盛に、闇の竜たるカラミットとミディールが呼応する可能性をも浮かび上がらせ、それらの解決を巡り、月の派閥も多数の派閥に分裂した」



言い争う神々の群れから一柱、また一柱と、付き合い切れぬと離れる者が出る。
細る群れの中心に立つ、古き日のグウィンドリンは、彼らを止めることもなく見送った。
政の経験など皆無に等しいかの神に、彼らを止めるに足る闇への打開策など思いつかず、例え止めようと、離れる者の心は既にアノール・ロンドには無いのだ。
そしてとうとう、古き日のグウィンドリンと、どう転ぼうと不毛な答えしか導き出せない激論を交わす、幾柱かの神々のみが議場に残った。
言い争う者達の言葉には月の血筋の者達の意向も、更にはアノール・ロンドさえも抜けつつあり、論戦の内容は国のためというよりは、目の前の論敵を破るためだけの物となりつつあった。



コブラ「グウィンドリン」


グウィンドリン「………」


コブラ「あんたはなぜアノール・ロンドに残ったんだ?ここの連中は誰一人としてあんたを、王の家系ってやつを見ていない」

コブラ「どいつも自分のことばかりで、あんたの名前を出すにしたって叩き棒がせいぜいだ。連中はあんたを信用しちゃいなかったはずだ」


グウィンドリン「然り。我にでき得ることは何も無かった。しかしアノール・ロンドは王家の家であり、神々の家でもある」

グウィンドリン「例え皆が去っても、誰かが留守を預からねばならぬだろう」


コブラ「帰って来たいと思えるような家ならな」



コブラの溜息と共に、円形の議場に差し込む陽光は沈んだ。
かと思うと、月光に成り代わり、次の瞬間にはまた陽光が議場を照らした。
時間が加速している。議場を行き交う神々は尾を引いて、コブラとグウィンドリンの周りを駆け巡った。
そしてやはり、コブラは異変に気付いた。


コブラ「会議に顔出す神の数が減ってるぜ。どうやら出て行きたい家になっちまったようだ」


グウィンドリン「否。粛清と総括が繰り成されているのだ」


コブラ「!?」

コブラ「お、おいおい、この期に及んでまだやりあったってのか!?あんたはどうして止めなかったんだ?」


グウィンドリン「我を担ぎ上げ、その声を何者が握り、そして伝えるのか…そのような話が持ち上がった時、神々はすでに正気では無くなっていたのだ」

グウィンドリン「恐怖に唆されたのか、絶望に蝕まれたのか、野心に、もしくは貴公の敵の闇に知らずのうちに毒されたのか、それはもはや分からぬ」

グウィンドリン「かの法官にも動きは無かった。だが、その中で我がひとつの派閥に寄ればどうなるかは、当時の我が身にも予想できた」

グウィンドリン「これは逃れ得ぬ殺戮だったのだ。我が兄が旅立ち、争いの果てに母が死に、ベルカを含めた神々がアノール・ロンドから消えた時から、定められたこと」

グウィンドリン「我が動こうが動くまいが、民は寄る方を喪い、神々は死んでいくのだ」


議場を流れる神々の姿は、装衣もそのままにやつれていった。
瞳は疑いと欲に満ち、並べる言葉は神が減るたびに美辞麗句に塗れ、彼らの内の真実を隠した。
そして議場を埋めた神々が半数程に減ると、神々は議長の一声とともに議場に一切姿を見せなくなり、代わりに伝言を抱えた書記官の姿が議場を埋めた。
書記官の数も徐々に減り始めると、銀騎士を侍らせた書記官が現れるようになり、その銀騎士も減り始めると、ついに神々がまばらに姿を現し始めた。
しばらくのちに議場は銀騎士と書記官と神々で満杯になったが、その華やかさとは裏腹に神々は皆声を潜め、相手が誰かも悟られぬよう、他者を盾として話した。
そして彼らは、議場の端で篝火を眺めるかつてのグウィンドリンには、いつ如何なる日も挨拶のみをかけ、あとは知らぬ存ぜぬという様子だった。


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