66:名無しNIPPER[saga]
2016/09/20(火) 18:47:04.82 ID:vBdGE3T40
鐘が鳴り終わり、鐘を鳴らした者達もいなくなった頃。
鐘楼の影の中から黒い聖職衣に身を包んだ男が抜け出てきた。
男は鐘を鳴らした者達と彼らを罠にはめた騎士のやりとりや、鐘の出した乱雑に過ぎる音色を思いながら、それらに関わる者達を嘲笑していた。
カリムのオズワルド「あんな調子で使命が務まるんですかねえ…鐘はまだ不浄の地下にもあるというのに……ンフフフフ…」
男は不死であったが、不死の使命などには興味は無い。
男の使命は、罪の女神ベルカの名の下に罪を許し、または因果を帰結させる事にある。
罪人が醜く落ちぶれ亡者になるか、浅ましく業の深いまま、のうのうと生き延びるか、その模様を嗜む事こそが男の最上の喜びであった。
ソラール「失礼。貴公に問うが、ここに赤い衣をまとった金髪の男と、青というか銀というか…よく分からんが、全身鎧に……いや全身鎧でもないなアレは…」
そんな男の前に、おおよそ罪という罪からは縁もゆかりも無いであろう男が現れた。
オズワルドはそんな面白みも何も無い男にもまた、嘲笑が出来る男だったが、面白みが無いゆえに言葉に表す事も無かった。
オズワルド「分かりますよ。盗み聞きした訳では無いのですが……そうですねえ、男の方はコブラ、女の方はレディと言いましたかねえ。名前も変わっていましたよ」
ソラール「おお、その二人だ!その二人がここを通らなかったか!?」
オズワルド「ええ通りましたとも。鐘の護りを倒し、鐘を鳴らして去って行きましたよ。ちょうど貴方が歩いてきた方角へね」
ソラール「そうか…世界がズレてしまったのか…」
オズワルド「ズレたと?それは早合点なのではないですかねぇ」
ソラール「いや、確かにズレている。ここを守る怪物なら私も倒した。確か二匹の怪物だった。まったく骨が折れたものだ」
オズワルド「おやおや、それはやはり変ですよ。フッフッフッ…」
オズワルド「鐘のガーゴイルを倒した貴方がいる世界に、鐘のガーゴイルを倒した者達を知る私がいるはずないじゃありませんか。ンフフフフ…」
ソラール「……それは…どういう事だ?」
オズワルド「本来ならば、貴方の世界にはコブラとレディなる人物について、何も知らない私がいるはずでしょう?」
オズワルド「それなのに、ほら、私はここにいる」
ソラール「…………」
オズワルド「失礼を承知でお聞きしますが……もしかして、亡者化が進んでいるのではありませんか?」
ソラール「…………そんな訳は無い」
オズワルド「お認めなさい。無知もまた罪である以上、知らぬ事は自刃を意味しますよ?」
ソラール「そんな事はありえない。俺は亡者では無い。亡者になるには、まだ早すぎる」
ソラール「俺には目指すものがあるんだ…」
オズワルド「お認めになりませんか……まぁそれも良いでしょう。罪への身の置き方はそれぞれです。強制はしませんよ」
ソラール「………」
ソラールは酷く心をかき乱されたような気がした。
偉大な男になるという夢は潰えることは無いが、その夢が叶うまでこの身が持つという保証は無い。
彼は本来は能天気な男だが、それでも不安は消える事は無く、夢で紛らわせるしか無かった事もまた、確かだった。
ガッ
ソラールは梯子の手すりに手を掛けると、その長さと高さに全く臆せず、登り始めた。
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