【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン
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657:名無しNIPPER[saga]
2020/01/18(土) 07:14:29.21 ID:nE/5JVwn0
キアランの黄金の刃は幾度も振るわれた。
ひと刺しするたびに刃に絡むソウルはしかし、揺るぎなき祝福が施された指輪の力によって鎧の中へと戻るが、それは刃を止める理由にはならない。
だがあくまで眩ましの刃のみで竜狩りを傷つけ、必殺の一撃を振るわぬのは、同じ主君をいただく戦友へのせめてもの情けだろうか。

一方オーンスタインは、エレーミアスの腹部の大穴に刺した右腕に渾身の力を込め、水瓜を握り潰すが如くにソウルを絞り出していた。
白く輝く大穴に何があるかはコブラには見えなかったが、エレーミアスの呻き声が一層増したのを見、口には出さず、ただ察した。


プリシラ「グウィネヴィア!およしなさい!これまでです!グウィネヴィア!」


グウィネヴィアは岩の如く退かぬオーンスタインをなんとか引き剥がそうと、濡れ口も濡れ眼も締め、顔も赤らに、竜狩り鎧の胴に回した手に力を込めていた。
怒声をあげるプリシラに制止を受けようが、素手で引くには鋭すぎる鎧に指を切られようが、グウィネヴィアの心は母を救うこと唯一心だった。


エレーミアス「ごほっ…」


そして、中々に死ねぬ女神は力無い咳と共に、幾度めかも知れぬ白煙を吐いた。



オーンスタイン「……キアラン…我が友よ…」

キアラン「!!」

弱々しさを震えに隠し、オーンスタインは友の名を呼ぶが、その声にキアランは激情に満ちた目線を返した。
オーンスタインはその消え入りそうな声で、二の句を告げた。


オーンスタイン「残滅を…頼む…」


キアラン「……残…」


グウィネヴィア「なりません!!オーンスタイン!癒すのです!私の指輪でお母様を癒して!!」

プリシラ「癒してはなりません!これは母の望んだこと!そなたもそれは承知のはず!引く後はもはや無いのです!」

オーンスタイン「…もはや…手遅れに…」

グウィネヴィア「あなたがお母様をこのようにしたのでしょう!?手遅れなどと泣き言を言える身ですか!?」


エレーミアス「キア…ラン…」


グウィネヴィア「! お母様っ…!?」



身を刻まれ、息も絶え絶えなかの女神の細声に、誰もが口を閉ざし、耳を澄ませた。



キアラン「!!」



だが、かの女神は皆が聞くべき言葉は言わず、ただキアランに微笑み、ぎこちなく頷いたのみであった。



グウィネヴィア「………お母様…?」


小さい疑問の声が無音を打つと、キアランは左手に残滅を握り、片足跳びにエレーミアスへ刃を滑らせた。
矢のような一閃はグウィネヴィアに止める糸間も与えずに、音もなくエレーミアスの首筋を斬った。


グウィネヴィア「えっ…?」


暗銀の残滅には、神をも容易く落命せしめる猛毒の秘術が仕込まれている。
エレーミアスの身体から流れるソウルは灰色にくすんで消えはじめ、エレーミアスの四肢は衣服を残して、灰とも塩ともつかぬ白粉に砕けていく。


グウィネヴィア「…そんな、嘘…嘘よ…」

母の死を目にし、グウィネヴィアは腰砕けに壁に背をつけると、へたり込み、丸まって大声で泣きはじめた。
猛毒は真珠のごとき軟肌を灰色の石粉のような有様に変えたが、しかしエレーミアスからは、微笑みだけは最期まで奪わなかった。
オーンスタインの左手から抜けたかの女神の胴体は、壁を擦って石床に落ち、脆い壺のように砕け散ったが、頭はその手に残った。
オーンスタインはエレーミアスの頭部を胸に抱え込むと、崩れ落ちるように跪いて、嗚咽を漏らしはじめた。


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