646:名無しNIPPER[ saga]
2020/01/14(火) 04:58:34.78 ID:vE/hdyzg0
挑戦的だが頑なでもある様子で語る罪の女神を、月と太陽の女神は真っすぐに見据え、一歩だけ近付いた。
寵愛の女神フィナがかの女神の前に身を乗り出すが、その肩もかの女神は手で制し、退かせる。
月と太陽の女神「なんとしても……それは真の言葉ですか?」
ベルカ「偽り無く」
月と太陽の女神「………」
コブラ「……」
グウィンドリン「……」
月と太陽の女神「…キアラン、残滅をこれへ」
キアラン「!!」ピクッ
ベルカの短い返答からやや間を開け、かつての大王の妻たる者が口にした命令を聞き、キアランは背中を斬られた者の如く顔を跳ね上げ、かの女神の眼を見た。
その眼は硬い決意を湛えて静かに、しかし結晶のように冷たい光をキアランに返している。
冷たい決意が何を示すかをオーンスタインとフィナは知っていたが、かの女神の子供たちは事の成り行きに漠然とした不安を感じるだけであり、それはベルカも同じだった。
同じではあったが、ベルカの抱いた不安は今にも火を吹きそうなほどに膨らんでいた。
そしてコブラもまた…
コブラ「…グウィンドリン。こんなものを俺に見せて本当にいいのか?」
グウィンドリン「後悔は無い。世の為であるならば」
コブラ「世の為、か…」
並んで記憶を見届ける者に、グウィンドリンはただ応えた。
刺冠に隠れたその顔はコブラからは窺い知れない。だが心が繋がるのなら、哀しみもまた繋がっている。
キアラン「でっ…」
月と太陽の女神「………」
キアラン「…できません…」
月と太陽の女神「貴女が出来ないのは我が命を拒むこと」
キアラン「ならば四騎士の位などすぐにでも棄てましょう。ですからどうかそれだけは…」
縋り付くような小さな声を震わせて、口速に懇願するキアランの言葉を、決意の正体に見当がついたベルカの怒声が覆い消した。
ベルカ「そ、そうです!罪の女神の法において許されぬ事です!い、いや如何なる神世に!人界にあっても到底許されない!」
ベルカ「闇が迫りつつある人界に神の自死など伝わっては、如何なる事が起こりうるか承知しているのですか!?」
ベルカ「それこそあらゆる手管を用いて秘匿せねばならぬのですよ!?そのような事を行えば、血筋の者を除いた貴女様の遺す全てを、アノール・ロンドより隠滅することになりましょう!」
月と太陽の女神「ええ、そうなるでしょう。オーンスタイン」
ゴゴゴォォン…!!
ベルカ「なっ…!」
主君の命を受け、オーンスタインは左掌に雷球を握った。
動揺を隠さぬベルカの前で、雷球は曇天を裂くような雷鳴を上げながら細り、槍のように尖っていく。
全身に寒気を覚えたキアランは自身の右太腿を貫く十字槍に手を掛けたが…
ドガシャアアン!
雷の大杭を握ったオーンスタインに背中を踏みつけられ、石床に縫い止められた。
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