638:名無しNIPPER[ saga]
2019/10/29(火) 23:26:08.10 ID:yOY1b+4D0
古き日のグウィンドリン「何故……如何にしてここに…?」
かつてのグウィンドリンからの問いに女神は応えることなく、オーンスタインを置いて一室へと入り…
古き日のグウィンドリン「!」グイッ
我が子の細腕を掴み、椅子から立たせると、部屋の外へと連れ出した。
古き日のグウィンドリン「あ、姉上?…それに…」
一室から抜け出たグウィンドリンの眼に映ったのは、母とオーンスタインだけではなかった。
神妙な面持ちで立つ寵愛の女神フィナの後ろに、グウィネヴィア、プリシラ、ヨルシカの三柱が、不安に陰る目線をかつてのグウィンドリンに送っていた。
アノール・ロンドの夜に輝く月光は、長い廊下の左側に一定間隔で続く大窓から、光の柱を差し込んでいる。
月と太陽の女神「オーンスタイン、追っ手の気配はありますか?」
オーンスタイン「近付いてきます。既に時は無いかと存じます。早急な脱出を」
古き日のグウィンドリン「脱出…?」
月と太陽の女神「分かりました。細かい話は歩きながら話しましょう。着いてきて」グイッ
古き日のグウィンドリン「あっ…」
状況の掴めぬかつてのグウィンドリンは、ただ母に腕を引かれるままに、廊下を足早に歩かざるを得なかった。
オーンスタインを殿に置き、王家の子らを率いる月と太陽の女神の横を、コブラと今のグウィンドリンは歩いた。
コブラもその軽口を開かない。この先何が起こるのか、グウィンドリンに尋ねるにはあまりに酷であるとコブラ判断していた。
月と太陽の女神「グウィネヴィア、貴女は火の神フランを訪ねなさい。あの方は火継ぎの法を考案し、フラムトを友としています。追っ手が掛かる事は無いでしょう」
グウィネヴィア「わ、分かりました…」
月と太陽の女神「ヨルシカ、貴女は竜の血を最も濃く受け継いでいます。故に前王も、太陽の血筋を快く思わぬ者達も、貴女を歓迎するでしょう」
月と太陽の女神「ですが最も安全と思えるのは…」
ババッ! ダン!
月と太陽の女神「!」
速歩きに廊下を進む神々を飛び越えて、オーンスタインは月と太陽の女神の前に降り立つと同時に、十字槍を構えた。
オーンスタインの目の前には、光差す窓と窓の間に直立する、黒い人型が置かれている。
月と太陽の女神「オーンスタイン!」
オーンスタイン「構わずお行き下さい。私めはこの者を打ち破り、直ぐに後を追います」
ゴオオォーーッ!
槍を中腰に構え、人型に向かってオーンスタインは跳躍した。
矢のような突貫に人型も駆け出し、その顔を月光に晒した。
オーンスタイン「!」ドガッ!
人型の顔を確認し、オーンスタインは石床を踏み砕きながら槍を押し留め、止まった。
キアラン「王の刃キアラン、暗月の命を受け、馳せ参じました」
オーンスタイン「キアラン…来てくれたか」
オーンスタインも、王家の者達も、人型が被る純白の面には見覚えがあった。
四騎士の長たる竜狩りは、王の敵を弑する刺客達の長からの救援に、心から感謝し、勇気を震わせた。
そして誉れ高き竜狩りの十字槍で、困惑とともにキアランからの黄金色の一閃を防いだ。
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