636:名無しNIPPER[ saga]
2019/10/29(火) 06:55:21.17 ID:yOY1b+4D0
グウィンドリン「うむ。ベルカと暫定政府は、アルトリウスを死地へと向かわせたのちに、月の血を引く者を再び幽閉した。そして暫定政府の横暴に批判的、あるいは反発していた者達の立場も、アルトリウス行方知れずの報がアノール・ロンドに届くと、一層に危うくなった」
グウィンドリン「暫定政府の神々を色恋により翻弄し、移り気と罵られながらも、我らと我が母を陰ながら護った寵愛の女神フィナ」
グウィンドリン「月の血を秘すべき指導者に立てるという、ベルカの真意に気付くことなく、シースと我ら月の子らを厳しく縛り、我らの無力を暫定政府に訴え続けた岩のハベル」
グウィンドリン「同じくベルカの真意を知らず、しかしすでに傀儡と化した己の身を知る太陽の王女。暫定政府に、王家の者としての尊厳ある立場を、月の血筋の者達に約束するよう訴え続けた我が姉グウィネヴィア」
グウィンドリン「その三柱を中心とした、神々と被使役層の巨人達による旧体制派も、急速に力を落としていく事となった」
コブラ「王家大好きな四騎士がもういないんじゃ、政治的拮抗ってやつも御破算か」
グウィンドリン「然り。録を付ける者は法に仕えなければならず、その法はベルカの手中にあった」
グウィンドリン「ゆえに我が読んだ多くの録にも、この沙汰に関する項が極めて少なく、多くが省略されている」
グウィンドリン「最も事細かく記したものも、一行半程度で済まされていた」
コブラ「この一大事件がか?どんなマジックを使えばそうなる?」
グウィンドリン「録にはこうあった」
グウィンドリン「『太陽の血筋を重んじる多くの神々が、被使役層の巨人と共に暫定政府への反意を示したが、ベルカ三権長が、グウィネヴィア王女の身の安全は自身の全責任において保証すると広く宣言すると、彼らの反意は収められた』と」
コブラ「こらまた上手にまとめたもんだぜ。王女を人質に取りました、じゃ正当性が通らないもんな」
グウィンドリン「録を書く者はいたが、それを見聴きし伝える者は何処にもおらぬのだ。本来ならば正当性とやらも気にかける必要は無い。ただ、悦に浸ったのだろう」
グウィンドリン「だがその愉悦も……否、愉悦を抱いたからこそ、更なる反意を育んだのだろうな」
グウィンドリンがひとまず語り終えると、新たな転移が行われた。
コブラとグウィンドリンはまたも新王を弾劾した大広間に立ち、コブラの眼には今や見慣れた者達の姿が映った。
法官と暫定政府の神々。銀騎士達。広間を埋める神々の姿。空の玉座の隣に立つベルカ。場の警護を任されたオーンスタイン。
彼らの視線は、玉座の前に四つん這いとなっている、被告者たる一体の被使役巨人へと向けられている。
その被使役巨人に憐れみの眼を向けたのは、見せしめを見ざるを得ない立場にある、王家の者達だけである。
だが被告たる巨人が受けるのは、アルトリウスが得た任ではなかった。
巨人「いやだ!いやだ!王様、たすけて!」
ガシッ!
空の玉座に助けを求める巨人の首根っこを掴み、引き倒したのは、オーンスタインだった。
ベルカが巨人に言い渡した刑罰を執行するため、広間の隅にある昇降機から姿を現したのは、大鎚を担いだスモウ。
コブラ「…粛清か…」
ベルカ「これより、王女グウィネヴィア様への拉致を画策した罪により、汝を死刑に処する。最期に言い遺しておくべき事はあるか」
巨人「お、おれ、おれ、お偉い方々に戻ってほしかっただけ!昔みたいに!おれ、王女様さらわない!」
ベルカ「ではスモウ、刑の執行を」
巨人「いやだ!いやだあああ!!あああああ!!」
被告者たる巨人は四つん這いの身体を起こそうと、全身に必死の力を込めるが、オーンスタインの竜の如き大力に首を抑えられ、ただ糞尿を漏らすだけだった。
辺りに立ち込める悪臭に神々は顔をしかめ、笑う者や罵倒を叫ぶ者もいた。
月の子らは哀れみによって皆うつむき、彼らの母もたまらず巨人から眼を背けたが、王女グウィネヴィアは溢れんばかりの涙を溜めた目で、もがく巨人を見つめた。
王家の者の言葉は、容易く均衡や公平性を損なわせるという事を、グウィネヴィアは知っている。だからこそ、助けにも眼で応えるしかないのだった。
コブラ「うっ!」
グウィンドリン「………」
あらゆる尊厳を奪われた巨人は尚も、その場にいもしない王を呼び続け、そしてスモウの大鎚は振り下ろされた。
広間を揺るがす轟音と共に、巨人は頭と下半身と両腕を残し、一撃のもとに叩き潰され、瞬時に絶命した。
被使役層の者であるとはいえ、被告者たる巨人は超常の存在である。破壊された巨人の肉体はすぐにソウルとなってスモウの身体に纏わり、消えた。
そして跡には、漏れ落ちて人の膝ほどの高さに積み重なった糞尿と、涙の水たまりが残った。
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