625:名無しNIPPER[saga]
2019/10/10(木) 04:38:14.53 ID:O/ri+cnk0
ベルカは懐から黒鉄色の小箱を取り出した。
小箱には銀色に輝く頭蓋が彫られており、頭蓋の眼窩はアルトリウスを見返している。
その小箱を見て、神々は口を開くのをやめた。
ベルカ「この箱の頭蓋が何を示すか、汝も知るところであろう」
ベルカ「頭蓋は解呪の証であり、光たる神に降りかかる災いを闇たる人で拭うことを示すが、この箱に収められている宝具はその類いとも異なる」スッ…
ベルカの指が小箱の隙間に差し込まれる。
そしてアルトリウスへ向け開かれた小箱には、闇霊を狩る者にのみ与えられる紋章を刻まれた、銀のペンダントが収められていた。
アルトリウス「…これは、闇狩りの……」
ベルカ「あらかじめ汝の紋章を刻んでおいた。アノール・ロンドに大いなる闇が迫る時に備え、闇を打ち払う算段が昔に整えられていたが、遂に闇も現れず、多くの宝具が死蔵された。この名も無きペンダントもそのひとつだ」
ベルカ「これを握り念じれば、闇狩りの光が放たれる。闇は光に貫かれ、千々と消えるだろう」
跪いたまま小箱を受け取り、アルトリウスはペンダントを手にする。
長い鎖に繋がれていたが、装身具部分は神の身には小さく、人の掌にしてようやく釣り合うような大きさをしていた。
ベルカはペンダントが抜かれた小箱を懐に仕舞い直し、しかしアルトリウスの前に立ったまま、話を続けた。
ベルカ「アルトリウス。汝がそのような申し出をするのを、我は実のところ待っていたのだ」
アルトリウス「………」
ベルカ「汝の友を牢や僻地へ送ったのも、あくまで前王の愚行を広く弾劾するための一計。アノール・ロンドに渦巻く王家への不信を分散し、発散させる為の行いだったのだ」
ベルカ「不信が収まった頃を見計らい、我は王の四騎士に暫定的な恩赦を与え、騎士を再び集結させ、新たなアノール・ロンドの護り手とするつもりでいたのだが……それも遅すぎた」
ベルカ「今や竜狩りは我らに不信感を強めておるし、鷹の目は王家への忠誠が過ぎ、柔和さを失っている。最早我らが再起を願っても、聞く耳など持たぬだろう」
アルトリウス「…闇の巣食うウーラシールに……ゴーに遣いを出したのですか?」
ベルカ「うむ。だが、その遣いも遂に行方が途絶えた。恐らくは闇の者の手か、もしくは怒れるゴーの手に掛かったのだろう」
アルトリウス「ゴーがそのような事をするはずがございません。アノール・ロンドへの愛を持つ勇が、アノール・ロンドの民を討つなどあり得ません」
ベルカ「承知している。だが闇が神の心を惑わし、蝕むことは、汝も知っていよう。すでに遅いが、行かせるべきではなかった。これは我らの誤ちだ」
アルトリウス「………」
ベルカ「汝が訝しむのも分かる。だがこれは、皆がどうかは知らぬが、我が本心である事は保証する。その為に大法官にも録を残させた」
ベルカ「万が一に我からの申し出が謀りでも、国の興りからある至宝を棄て、勇士を弑するなど、神代が永久に続くが如く永久に語られる大恥となろう」
ベルカ「さすれば、スモウの大鎚に磨り潰されるのも我が身だ。どうにせよ、汝の願いは叶えられようというもの」
アルトリウス「!…そのような事は、断じて考えてはおりません。王の四騎士の名誉に誓えます」
ベルカ「そのような誓いは立てる事は無い。ただ任を受け、友を救えばよいのだ」
ベルカは再び微笑むと、元いた場へと戻り、姿勢を改め、令を発した。
ベルカ「闇霊狩りアルトリウスよ。汝はこれよりウーラシールへと向かい、深淵の主たるマヌスを征伐せよ」
ベルカ「無事征伐した暁には、汝に三つの恩赦を与え、それを四騎士の復権に使う事を許す」
ベルカ「では行くがよい」
令を受けたアルトリウスは、跪いたまま頭を一度下げると、立ち上がって踵を返した。
足甲が立てる細やかな金属音が、徐々に遠ざかっていく。
その背中に、ベルカは三度目の微笑みを向け、神々は愚か者に向ける哀れみの視線を贈る。
結局のところ、誠実なる四騎士の背中に祈りと不安の視線を向けたのは、太陽と月の三柱のみであった。
776Res/935.37 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20