623:名無しNIPPER[saga]
2019/10/09(水) 18:53:16.39 ID:Pt1A5g6W0
ザッ ザッ ザッ…
入場の許しを得て、群青の騎士は大広間を縦断していく。
騎士の体格は大きく、背丈はオーンスタインよりも頭ひとつ半ほど高いが、その歩みには鈍重さのかけらも感じられない。
鷹とも狼とも見える兜からは、サーコートと同じ色に染められた長房が揺れる。
そして騎士は、その兜を脱ぐことも無く玉座の前へと立ち、空の玉座へ向け跪いた。
ベルカ「如何なる用で参った?闇霊狩りアルトリウスよ」
闇霊狩りと呼ばれた騎士は、跪いたまま。
しかし兜を脱がずに応えた。
アルトリウス「如何なる用でも、お申し付けください」
騎士の言葉は容量を得ぬものであると、ベルカの周りにいる神々は眉をひそめた。
用があって呼びつけるならまだしも、用を求めて呼びつけるなど礼を失すること甚だしい。
「四騎士ともあろう者が何を言う。録に残るのだぞ?」
神の一柱が当然の苦言を呈する中、法官はこの場で交わされた言葉を一句漏らさず書に書きとめている。
だがベルカは、その唇に賞賛の意を込めて笑った。
ベルカ「フフッ……そうきたか」
ベルカ「四騎士というのは王の命で戦うばかりで、政や謀りなど分からぬものと思っていたが、存外話が分かるではないか」
アルトリウス「………」
ベルカ「何らかの任を仰せつかったのちに無事役を果たし、恩赦によって友たる騎士達にかつての役を与えようと、汝は考えた」
ベルカ「しかし自ら名乗り出るのであれば、今までの汝の行い同様、報酬を求めぬ忠義から来る行いであると神々に示すことになり、褒めの言葉一つで事を収められる可能性がある」
ベルカ「だが我らが汝に申し付けるという形になれば、我らは汝の行いに対して見返りを与えなければならない身となり、汝はかつての友を取り戻せる」
ベルカ「よい策だ。我らの慣例の盲点を突いているし、我も流石にこのような真似はせぬと高を括っていたのは確かだ」
ベルカ「だが悲しいかな、その策は我々が『用など無い』と言ってしまえばそれで消えてしまう、あまりに儚いものだ」
ベルカ「それに万が一にも役を与える事になろうとも、その役を果たした者に恩赦を与えられるのは王のみ。王子でも王女でも、ましてや我らでも無い。王ただ一柱のみなのだ」
アルトリウス「………」
ベルカ「……しかし王が不在である今、王が座につくまで一切の事を治めないとなれば、暫定政府の意義が問われるはめに陥ろう」
ベルカ「ここは王による恩赦ではなく、暫定政府が存続する限りは有効とする、暫定的な新たな恩赦を作らねばなるまい」
アルトリウス「!」
「何を仰るのです!?」
「闇霊狩りはまだ何も求めてはおりませんぞ!それに恩赦を与えるというのですか!?」
「我らに仇なさんとした鷹の目はどうなります!?アルトリウスが任を果たせば、鷹の目に再び王城の門をくぐらせることになるのですぞ!」
神々が口々にベルカへ忠告を入れる中、ベルカの微笑みは弛まずアルトリウスへ向けられている。
その表情に、コブラは飽きるほどの見覚えがあった。
コブラ「……そりゃあ恩赦も出すか」
コブラ「生きて帰らせるつもりが無いんだからな」
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