610:名無しNIPPER[saga]
2019/09/10(火) 14:59:18.01 ID:dRuSYwHz0
コブラ「ふーむ…つまりは敵を騙すにはまず味方からってヤツをやろうとして、上手くやりすぎたんだな」
グウィンドリン「味方を騙す?何を言うか貴公は…」
コブラ「俺の世界のコトワザさ。太陽王の息子の妹…いや、弟であるアンタでさえこの考え方に馴染みが無いとすると、相当に徹底してたみたいだな」
コブラ「人の信仰によって神々が力を強めるってんなら、力の増幅装置とも言える人間に、同調するヤツらも少なくなかったはずだ。というか俺の経験から言わせてもらえば、そっちの方が多くなる。神を名乗るヤツは決まって俺よりも強欲で自信家だからな」
コブラ「でだ、そんな連中がそうでない連中と1つ屋根の下で暮らすとなると…まぁよくて美人を巡って殴りあい、悪くて派閥間の殺し合いに発展しかねないだろ?アンタの兄貴はそれを嫌ったのさ」
コブラ「人を拒んで遠ざけると神は弱くなり、闇への監視もおざなりになるから世界の闇も大きくなる」
コブラ「人を受け入れて近付くと、神は強くなるが、神同士の仲間割れの危険が増える。驕った人間が神に挑戦してくる可能性も出てくる。まぁこれについては分からんでもないがね。いやこれはタチの悪い冗談。へへへ…」
グウィンドリン「………」
コブラ「更にあんたの記憶によれば、ウーラシールっていう人間の国が闇に破壊されちまってるし、しかも神が人間を恐れているとは、万が一にも人間に察知させるわけにもいかない。とくれば、あとはもう誤魔化すしかない」
コブラ「人に対して、どっちつかずの矛盾にまみれた態度を貫き通し、突き放しはするが信仰も求めるってわけだ。そんな綱渡りがいつまでも続くはずがなかったのさ」
コブラの呆れたような、それでいて得意げなような解説に、グウィンドリンは返す言葉も無かった。
後の事の運びを知る者として、コブラの分析は多くの面において的を射ていたのだ。
コブラ「しかし、そうなると恐ろしくデカい疑問が出てくる」
グウィンドリン「貴公の敵が動かぬことか?」
コブラ「それもある。だが本当に分からないのは、おたくの兄上が反論しないことさ」
罪の女神の弾劾に、名を失いし王は一切口を挟まなかった。
神々を前に、矛盾を抱えた政がいかにアノール・ロンドに必要であるかを説くことも可能だったが、自身を責められるに任せた。
先王の冠を象った輝ける王冠に宿る威光をも、振るおうとしない。
ベルカ「名を失いし王よ。汝は大法官に闇を見定め、凶事に備えよと申したが、その見定めと備えには、輪の都にて古竜に強いた闇食いも含まれているのだろうな?」
ベルカの言葉は、またも大広間をどよめかせた。
そのどよめきは先のものより大きく、王に疑問を呈する声も上がった。
「ミディールに闇を喰ませるなど、それではカラミットを愛で、育むことと変わりが無いではありませんか!」
「人への統治を怠り、闇を縛らず、更には闇を我らが敵に与えるなど、王はアノール・ロンドを滅ぼすことを望むか!」
神々からの疑問は、王に向けるならば余りにも畏れ多いものだったが、それにも名を失いし王は反論を行わなかった。
闇の時代の到来を恐れるあまり、人への積極的な干渉統治を行わない王の弱腰姿勢を不安視する勢力は、決して少なくはない。
「異議を申し立てる」
「竜が敵と申すにしても、言葉をお選びいただきたい。仮に先の言葉を通すにしても、白竜公と暗月の血を敵と含まぬ事を確約していただきたい」
その不安の言葉に対して声を発したのは、白竜シースに仕える六目の伝道者達の一人と、その者たちの長だった。
神の都にて奇跡ではなく魔術を嗜む彼らにとって、暗月の血と白竜公の安全の確保は、何にも代え難い事項だった。
コブラ「おっと場外乱闘か。レフェリーの女神の出番だ」
ベルカ「静粛に。含むところがあれば場を設けるが、その場はここではない」
ベルカ「名を失いし王よ。この場は、我が汝に課した罪に対し、汝が釈明を行う機会も兼ねている。しかし釈明を行わぬのならば、言い渡されるままの罰を受けることになろう」
新王「ならば言い渡されるままの罰を受けよう。全ては真実だ」
ベルカ「………」
名を失いし王は玉座から立ちあがり、冠を外す事も無く、その右手に剣槍を持った。
太陽の剣槍は古い竜狩り譚にも記されている。その冒険譚は、長旅の末の戦いの物語だった。
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