608:名無しNIPPER[saga]
2019/09/10(火) 01:21:00.20 ID:dRuSYwHz0
コブラ「クーデターか。ますます神話らしくなってきたぜ」
尊位を堕とし、支えられた法に異を唱える行いこそが神話であるというコブラの認識を、グウィンドリンは否定しなかった。
ただ黙して聞き入れ、かつての法官が眺めたように、過去を見渡している。
意志ある者を縛るのは、やはり力と法、そして因果応報なのだから。
新王「なにゆえに」
ベルカ「とぼけまいぞ。すでに汝の成した悪行も聞き及んでいる」
コブラ「白鳥に化けて尻でも触ったか?」
ベルカ「今、王の四騎士の二柱たる竜狩りと鷹の目は、竜の残滓を追い立てるべく隊を連れ、西に東にと散っている。その二柱が人界において戦神と崇められている事は、我らも知るところである」
ベルカ「だがその二柱が異郷の地にて竜を見出し、王たる汝に撃滅の認可を求めるたびに、どういうわけか人の都にて凶事の報が降り、騎士は帰郷を余儀なくされた」
ベルカ「凶事には虚実あり。アストラの魔物を人に討たせるべく、人に啓示を示す結果になる時もあるが、根無しの風評を掴まされ、おとぎ話が人の世に流れるのみに終わる時もある」
ベルカ「ゆえに逃したのだ。朽ちぬ石の竜も、瘴気の眠り竜も、黒竜も。四騎士一の雄たるアルトリウスと、対竜において功を積みし岩のハベルを擁しながらな」
ベルカ「戦神たるならば、確かに人の求めに応じ、力を貸さねばならぬ時もあろう。だが真偽定まらぬものに精査もせずに向かわせたとあれば、事の責は四騎士にではなく、それらに命を下す者にこそ生じよう」
ベルカ「大法官ライブクリスタルよ、前へ」
法官「はっ」
コブラ「ライブクリスタルだぁ?」
グウィンドリン「聞き覚えがあるのか?」
コブラ「ああ、あるぜ。クリスタルボウイの身体を構成してる物質の名前だ」
コブラ「悪趣味とは前から思ってたが、ネーミングセンスにも遊び心が足りないとはな。人生初の偽名とはいえ引き出しが少なすぎやしないか」
大法官と呼ばれた者はやはりクリスタルボウイだったが、コブラは訝しんだ。
クリスタルボウイが謀りを働く事無く日々の職務に励んでいたのであれば、竜の討伐の怠りを放置する事も無く、王への弾劾という大事に関わることも無かったはずだ。
ましてや、クリスタルボウイの記憶をソウルに刻まれたグウィンドリンが、クリスタルボウイの企みを『飛ばす』はずがない。
だが疑問をグウィンドリンにぶつけるのは、新王への弾劾の記憶が終わってからでも遅くはない。
コブラはひとまず言葉を切った。あくまで、ひとまずは。
ベルカ「竜狩り…人からの信仰…人への封じ…闇への見張り…そして火の守り…」
ベルカ「それらは王の命と、神々皆の献身と結束によって成される」
ベルカ「ライブクリスタル。汝は王に、人界にて凶事が生じる度、その凶事への精査を進言したか」
法官「進言致しました」
ベルカ「では、王はなんと?」
法官「人の望むがままに力を貸し、人が眼を眩ますうちに闇を見定め、凶事に備えよと」
ベルカ「では人の国たる輪の都には何をした?」
法官「王の命により、太陽の末娘たるフィリアノール様を贈り、都を封印致しました」
法官の言葉を聞き、神々はざわめいた。
フィリアノールは、輪の都とアノール・ロンドの断交があくまで一時的な措置である事を証明する役を背負っているはずである。
しかし、先王グウィンは措置を内密に恒久的なものとしており、フィリアノールは見棄てられ、新王はグウィンのその措置を継承してしまっていたのである。
措置の中身を知り、そして変える事もできるというのに、それも行わずに。
ベルカ「名を失いし王よ、汝に問う。人の信仰を求めて人に応じるならば、なにゆえに人の都を封印したのだ?」
ベルカ「人が闇を孕むなどは承知の上で、我らは人を縛り、人を導いたはず。神々を信仰により強めるために」
ベルカ「だが汝は、王の血筋を闇の小川に棄て置いてまで人を拒むというのに、人の求めに応えると宣う。竜狩りをも怠ってまでその矛盾を守り、アノール・ロンドの神々にどのような正義があるというのか」
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