599:名無しNIPPER[saga]
2019/06/25(火) 03:54:27.06 ID:aa7490Ni0
グウィン「………」
女王の進言に、王は押し黙った。沈黙は否定や肯定を必ずしも表すものではない。
グウィンドリンがやや俯くと…
コブラ「!」
王と女王の微かな動きも止まり、広間の空気は全く動きを失った。
記憶の世界がグウィンドリンのものであるが故に、記憶の動きもまた、グウィンドリンに従う。
グウィンドリン「我が王は悩み、しかし終に、竜との同盟を結んだ」
グウィンドリン「女王にはかつて、白竜公を神の国の誠なる友とした功がある。そして白竜公の出自を知らぬ王が恐れたのは、何より濁り水の流行りだった」
コブラ「水道代でもケチったのか?」
グウィンドリン「その程度で済めば、憂いも露と消えよう」
グウィンドリン「だが、看過は不可能だった」
ブォン…
静止した時の中、グウィンドリンが虚空に右手を差し伸べると、空中に楕円形の鏡のような物が現れた。
鏡の数は二枚。どちらにも一切の装飾は無く、額縁や鏡台すらも無い。
そして薄氷のような二枚には、それぞれ異なる人物が映っていた。
一枚に映るのは、緑色の瞳と銀の長髪を備え、額に一対の短い角を生やす、色白の女の顔。
もう一枚に映るのは、緑色の瞳と銀の長髪を備え、首に波打つヒダを現し、目元に白鱗を生やす、色白の少女の顔。
ボオォ…
次に、グウィンドリンが虚空に左手を差し出すと、その掌にも同様の鏡が現れる。
鏡の数は先と同様に二枚。一枚には何事かを話し込む、幾人かの神々の姿。
もう一枚には、夕暮れを背に佇み、翼を広げる三つ目の黒竜の姿が映った。
グウィンドリンは両の手を下ろし、四枚の鏡をコブラの周囲に展開させる。
コブラ「濁り水ってのはコレか?確かに何となく陰謀がありそうな組み合わせだ」
グウィンドリン「奸計の類では無い。起きるべくして起きたことだ」
グウィンドリン「二柱の女神は我が姉妹。角を持つ者は姉のプリシラ。目元に白鱗をたたえる者は妹のヨルシカという。いずれも我が母から産まれ、この暗月のグウィンドリンや白竜公と同じく、月と竜の力を持つ」
グウィンドリン「古竜であるシースを許容し、半竜であり王家の血筋たる我らを害するなど、その害の大小を別にしたとて、我が父には許しがたい行いだったのだ。故に父と兄上は、竜を弑した身でありながら竜を受け入れた。総ては父が母を愛したが故」
コブラ「兄…いや、今はいい。続けてくれ」
グウィンドリン「うむ……だが王の懸念する濁りとは、厄事の重なりそのものを指していた」
グウィンドリン「ダークソウルによる、人の国ウーラシールの破壊。その報を受けた王は、闇を孕む人世界に対して警戒を強め、神の世を護るべく、人への不干渉に近い政を執ろうと考えた。だがそれが人の世に知られれば、人は絶望に駆られ、更なる闇を孕む」
グウィンドリン「そのような事態を避けるには、人に大義を示す必要があり、その大義こそが『古竜の残滓を追い立てること』だったのだ。だが、そこに矛盾が生じたのだ」
コブラ「なるほどな…人の闇に対抗するために竜との協力体制を結ぶと、人に示す古竜討伐の大義が崩れて人からの不信を招くし、かといって竜と結ばずに闇を放置すると、闇への対抗手段が無くなっちまって、人間社会がドロドロに腐り落ちるわけか…」
グウィンドリン「左様。そして竜との戦いという大義を保つためには、竜が居なければならない。故にアノール・ロンドは、竜の討伐をあえて怠った。だがその大義も、優れた騎士であるが故に戦の怠りに気付いた『鷹の目のゴー』と『竜狩りオーンスタイン』からの不信により揺らぎ、戦いの戦果を巡る神同士の不和と不信も相まり、遂に限りを迎えつつあった」
グウィンドリン「我ら月と竜の子らを守るため、神の国を護り、人の世を保つため、王が選ぶべき道は一つしか無く、他の道は許されなかった」
止まった時はそのままに、王とその妻は溶け、大広間は崩れ去っていく。
転移にも慣れたコブラの眼前からは、四枚の鏡も消えた。
割れた天井からは晴天が滲み出し、空に輝く太陽に、コブラは思わず顔に手影を作った。
グウィンドリン「王は人からの不信を受け入れる事を選んだ。時が充分にあれば、他の道も模索のしようがあっただろう。しかし母も父も、それが許されない事を知っていた。知っていたからこそ、例え策が不足であろうと、我らが未熟であろうと、発令を急いだのだ」
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