387:名無しNIPPER[saga]
2018/06/03(日) 01:03:12.40 ID:Zu134+7i0
爛れの体躯から垂れ流され続けた熱が収まり、大空洞の底を流れる溶岩は、溜まりを残しつつも、その大部分を冷え固めている。
その冷めた地を行くべきだと皆思いはしていたが、不死達はまたも躊躇していた。
実際に歩みを進められるだけの胆力は、クラーグにのみ備わっている。理由は明確で、その地は強者にのみ許された食餌の道だったのだ。
ソラール「………」
クラーグ「何を臆するか。我に大言を吐いたその口は開かぬのか」クックックッ…
溶岩が引き、姿を現したのは熱い岩塊だけでは無かった。
刃の無い大斧を携えた牛頭のデーモン達は、それぞれがクラーグと同等に大きく、一様に不死達を見つめている。
その牛頭達と比べて体格が小さく、ソラールと比べ頭三つ程しか大きくない山羊頭のデーモン達も、コブラの持つ特大剣と同等の大きさの鉈を、なんと二刀も引きずっていた。
戦士「……こりゃ罠だ…俺たちをハメやがった…」
クラーグ「罠など何処にある。地に沸く混沌ある処、総てデーモンの根城だ。そこに攻め込むために我に恩を売りつけたのは…」
ソラール「そうだ。俺だ。俺がきこ…いや貴女に恩を売った」
クラーグ「そういう事だ。恩を着させられたなら、魔女とて報いねばならぬ。貴様はデーモンの群れに捨て置かれるとでも思ったか」
ソラール「………」
クラーグ「…ふん」
二の足を踏んで煮え切らぬ不死達を残し、クラーグは冷めた溶岩を歩き、デーモン達へと近づいた。
ソラールは負い目を感じ、後に続こうかとも考えたが、太古の魔女がデーモン相手に何をするのかという好奇心にも囚われ、気抜けした様子で立ち尽くす。
魔女が手に炎を纏わせると、ソラールと同じく観戦を決め込んだラレンティウスの瞳孔は拡大した。
炎は凝縮されて鉄の輝きを帯び、捻れて細り、炎を纏った一本の魔剣となった。
明らかな敵意を向けられた山羊頭のデーモンは二本の大鉈を束ね、上段に構え、魔女に迫る。
鉈に血を吸わせ、ソウルという糧を得るために。
クラーグ「………」ヒュン!
バシャアアーッ!!
そんなデーモンとしての原始的本能で打ち倒せるほど、火の魔女クラーグは容易くはなかった。
魔女の扇を仰ぐような優雅な一振りからは、灼熱の炎風が槍のように放たれ、掲げられた二本の大鉈を、斬られた水風船のように弾けさせた。
液状になった大鉈を全身に被ったデーモンは断末魔の悲鳴を上げ、身体を丸めつつも転倒せず、動きを止めた。
クラーグは、のたうってもがく事さえ山羊頭のデーモンに許さなかった。
牛頭「ブゴオオオーーッ!!」
それを見た牛頭デーモンの一体が、咆哮を上げてクラーグに突進した。
仲間意識か、飢えか、闘争心か、それらのいずれに突き動かされたにせよ、駆け出したのはこの一体だけではない。
ドドドドドドドドドド!!!
少なく見積もっても百人力はある怪物が群れをなして、クラーグに殺到した。
群れの先頭のデーモンは跳び上がり、手に持つ得物をクラーグの脳天目掛け振り下ろす。
クラーグ「………」ボゴォン!!
クラーグはその一撃を右掌から放った大発火で逸らしつつ、左手の魔剣で、一撃を放ったデーモンの額を打ち抜く。
脳を破壊されたデーモンを蹴り飛ばし、二体目と三体目のデーモンがクラーグに襲いかかるが…
ドオオオーーッ!!
蜘蛛の放った大爆発に押しのけられ、転倒した。
クラーグ「不死共よ。ここで助太刀を挟まぬのなら、デーモン共を撫で斬りに伏せ、私は帰るぞ」
クラーグのこの提案は、この地にあっては脅しともとれた。
人の世には、これほどの試練がこの地にある事など、当然伝わっていない。
傾国さえ可能なデーモンの群れ如きで済んでいる。そんな可能性すらあり得るのだ。
ソラール「太陽ーッ!!」ダッ!
求める偉大さに最も近い物の名を叫び、ソラールは突貫した。
他の不死達は大いに尻込みしたが、結局ソラールに続いた。
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