432:薔薇の見える丘(お題:最強の女騎士まさかの敗北)6/6[saga]
2017/05/01(月) 00:23:46.70 ID:XkZMTs0r0
塔は大雨になるとよく雨漏りした。
そういえばあの日も大雨だった。
床にできた水たまりを覗くとそこには白髪の多く混じった金髪の老婆がいた。
皴に覆われた顔面を同じく皴だらけの手が触れる。
思えば長いこと鏡を見ていなかった。
若い頃は長い金髪をなびかせ、戦場を駆け巡り、剣鬼として帝国最強の女騎士と恐れられたが今では見る影もない。
戦に負け、老いに負け、己に負け、老いたローザには何も残されていなかった。
絶命の数時間前、こんなことならもっと早くに後進に道を譲るべきであったとひどく後悔した。
ローザは絶望の淵に立たされた。後は飛び降りるだけだ。
遠退いていく意識の中で、エリカはあれからどうなったのだろうかと思った。
無事なのだろうか。もし、戦死しているのならば、エリカのもとへ行ける。
愛弟子と二人しがらみのない世界で今度はのんびりと酒でも飲みかわしたいものだ。
次の朝、見回りの召使がローザの息がないことに気づいた。
衰弱死だった。ローザの遺体は、人知れず葬られた。
エリカは生き延びていた。戦後、国外に移住した。今は家族と暮らしている。
帝国騎士団の歴史的大敗から、早30年の時が過ぎようとしていた。
終戦の同時刻に宮殿の北側の塔の鐘が鳴る。
そこはかつてローザが幽閉されていた塔だ。
ローザの死後、鎮魂のため聖職者がつけさせたものであった。
ここは薔薇の見える丘。
遺骨の無い墓がひっそりと存在する。
今日も丘は風が強く吹いている。
風が宮殿に咲き誇る薔薇の香りを運ぶ。
墓前には、一輪の赤い薔薇と一冊の本が置かれていた。
その本のタイトルは―――
「帝国最後の最強女騎士、ローザ・アリヨ=マリーの生痕、著:エリカ・バルニエール」
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