文才ないけど小説かく 7
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343:アルバム(お題:吉兆)[sage]
2016/12/23(金) 00:23:47.26 ID:z8i+ik/So
「たしかヨーグルトを優也の分を食べてしまって、それで優也がぐずったのよ……そういえば冷蔵庫にヨーグルトあったよね、見てくれない?」
 冷蔵庫を開けた。三つ入りパックのアロエヨーグルトが卵置き場にあったので、僕はその一つを姉に渡した。姉は残りのおかゆをちびちび食べている。
「殺されかけた、って、僕なにかしたっけ。全然覚えてない」
「小学生の時だったかしら。確かその時も私、風邪引いていたんだと思う。私、風邪引いたらヨーグルト食べたくなるのかな、昔から。で、最後の一個を食べちゃって、僕も食べたかったって優也はだだこねて。風邪でしんどかったから面倒くさくって相手にもしなかったわ。そしたら、優也、私が部屋で寝てるときに首を締めにきたのよ」
 殺されかけた、という言葉が首を締める、という行為に結びついて、空恐ろしくなった。
「え、うそ。まじで僕そんなことしたの?」
「刃物持ってこられるよりましね、と思ったわ」
「いやいや、そういう問題じゃなくって……で、なに、喧嘩でもしたの?」
「ううん、静かなものだったわ。私の上にまたがってスッと首に手をかけられて、ああ、首締められるんだな、って私は呑気に思ってた覚えがある。けれど力は入れられなくって、そのまましばらくして、黙って優也出てった」
 姉はおかゆを食べ終えて、そのままスプーンでアロエヨーグルトを口にした。
「夢でも見てたんじゃないの? 熱でうなされた悪夢とか」
「さあね……そう言われればそうかもしれない。でも悪夢だろうとなんだろうと、もとよりもうずっと昔のあやふやな記憶よ。変わりはしないわ」
「僕は僕がそんな怖いことやったとは信じたくないし、そんなことをする人間だと澄香姉ちゃんには思われたくはないよ」
「そう言われてもね……私も記憶の中で、優也は首を締める優也で永遠の存在になっちゃってるから、いまさら言われても変えられないわ」
 冤罪だ、と主張しても無駄なようだった。なんともいやな記憶を呼び覚まさせてしまって、アルバムなんて安易に見せるもんじゃないな、と僕は思う。
「ま、どうであれ、優也はそれだけの存在じゃないから安心しなさい。ちゃんと可愛い面も嫌な面も私は知っているんだから……。幸い、今ならヨーグルトはまだ残っているわよ」
「じゃあ今食べてるの、一口ちょうだい」
「風邪、移すでしょう。冷蔵庫にまだあるでしょって言ってるの」
「平気だよ。僕はちょっとだけでいいんだ」
 僕は姉のヨーグルトを一口食べる。こんなことで昔は泣いていたんだな、と思うと味わい深いような気がする。
 再びアルバムをめくっていた姉が「あれ」と呟いた。



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