勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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692: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:43:30.44 ID:uAQKxthS0
彼のおかげで、世界は長く平和であった。
平和であったから、人は増えた。
人が増えたから、土地が必要になった。
人は木を切り、山を拓き、川を曲げ、海を埋めて生活圏を拡大していった。
当然に、森に生きるエルフ、山に生きる竜種などの亜人種との衝突が起きた。
しかし彼によって彼らは平和であることを強制された―――あらゆるいざこざを、力尽くで収束させられ続けた。
『繁栄を妨げる邪魔者』として、人は彼を嫌った。
『人に肩入れする不公平な偽神』と、エルフは彼を憎んだ。
人食を禁止されたこともあり、竜種は元より彼を快く思ってはいなかった。
結果として彼は排斥された。
その気になれば彼はその排斥に抗うことも出来ただろう。
その力を十全に振るえば、彼に敵対する悉くを打ち倒すことが出来ただろう。
しかし彼はそれをしなかった。
彼に剣を向ける者達を―――――新たな『勇者』として擁立され、彼に立ち向かってくる少年を―――――彼は、どうしても薙ぎ払うことが出来なかった。
敗北した彼は世界の果てというべき場所へと追いやられた。
歯止めの利かなくなった人と他種族の生存競争は、その圧倒的な数の差により人が圧勝した。
エルフや竜種などの亜人種は歴史から消え去り、人はなお一層勢力を拡大していった。
木々は減り、山は姿を変え、精霊は眠りにつき世界から姿を消した。
それは、あの光の精霊であっても例外ではなく。
勇者の力の源として、世界樹の森は徹底的に破壊されてしまった。
精霊加護を失った彼は、いつしか普通に年老い始めた。
そして、やがて彼は病に侵され、程なくして――――普通に、死んだ。
それは、彼によって大魔王討伐が為されてから、およそ二百年後のことであった。
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