勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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547:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/25(日) 16:05:30.63 ID:dyU/3Fo20
『「伝説の勇者」の伝説は我が子によって首を刎ねられて終わりを迎えた。ふむ、なんとも痛ましいものだ。己が父の首を刎ねた時、君は一体何を思った?』

「特に、何も」

『強い覚悟をもって事に臨んでいたということかな。何が起きても心が揺らがぬよう、君は心を決めていた』

「いいや、違う。そんなんじゃない。ただ、本当にどうでもよかった。俺は、どちらでもよかったんだ」

『どちらでも、とは?』

「勝っても負けても、どちらでもいいということさ。親父が大魔王の手先として剣を取り、俺の前に立ちふさがった時点で、俺と親父のどちらかが死ぬことは決まってしまった」

「親父にそんな意図は全くなかっただろう。あの臆病なお人よしは、あの場に及んでさえ俺との間に平和的な解決があるものと、きっとそう考えていた」

「あいつは、何も知らなかったから」

「この世に『加護の継承の例外』なんてものが存在することを知らなかったから」

「迂闊にも、その時俺は運命というものを信じてしまいそうになったよ」

「俺は知っていた。知ってしまっていた。その現象を、騎士に教えてもらっていた」

「知っていたから、自暴自棄というのかな、もうどうなってもいいと思ってしまっていた。ああ、誤解はしないでほしい。どうでもよくなったのは、自分の命に関してだけだ。『伝説の勇者の息子』としての使命は、変わらずこの胸に抱いていたさ」

「俺が死んでも、親父が死んでも、その加護は生き残った方に集中する。たとえ親父が生き残ったとしても、流石に俺の力をまるごと継承すればもう一度大魔王に挑もうという気概も沸くはずだ。俺はそう思った」

「……結果は知っての通りさ。俺は親父の首を断ち、その加護を、つまりはあんたの加護を丸ごと継承した。死んでも構わんと捨て身でかかる俺と、何とか俺を殺さず無力化しようと手加減していた親父じゃ、この結果も当然と言えるのかもしれないが」

『しかし、君は父の死に対して随分と淡泊な印象を受ける。普通の人間ならば、自らの手で父を殺めたことをもっと気に病みそうなものだが』

「あの親父のせいで今まで散々苦労を背負わされてきて、それでいて魔界であんな手酷い裏切りを受けたんだ。親子の情なんてきれいさっぱり無くなっちまうさ」

『「伝説の勇者」の責務も何もかもを放り投げ、魔界で隠遁していたという話か。なるほど確かに、これはひどい話だ。捨てられた本人である君が憤るのも理解できる』

『しかし、そんな彼の心情を最もよく理解できるのもまた、君なのではないかな?』

「……はあ?」

『彼は「伝説の勇者」としてその身に大きな使命を背負っていた。世界中の期待を一身に請け負っていた。それはどれ程の苦悩であったことか。それを、諦めていいのだと、そう思った時に彼が覚えたであろう安堵の気持ち……君こそが、一番わかってあげられるのではないか?』

「冗談はやめてくれ。俺とあいつは全然違う。そりゃ、『伝説の勇者』の名前の重圧に、皆の期待に雁字搦めにされていたってのは一緒なのかもしれないが、それでも」

「あいつは、望んでそうなった。何でもなかった一青年から、本人の意思で『伝説の勇者』になったんだ」

「俺は違う。俺は生まれた時から『伝説の勇者の息子』だった。俺に自身の在り方を選択する余地なんてなかった」

『周囲の期待も何もかもを投げ捨てて生きるという選択肢もあったはずだ。現にそうして生きた青年がいたことを君は知っている。「伝説の勇者の息子」としての人生を全うすると選択したのは、まぎれもなく君の意思であったはずだ』

「………」

『責めているわけではない。君がそういう人間であるということを改めて確認しただけだ』

『自己犠牲を嫌いながら、それでも他者を優先してしまう善性の塊。極めて特異な「勇気ある者」』

『実に、実に興味深い』

『さあ、もっと聞かせてくれ』



『「伝説の勇者」の息子―――――――勇者。君の物語を』





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