勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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325:名無しNIPPER[saga]
2016/08/06(土) 16:32:09.52 ID:AsT68X2i0
大魔王「時に勇者よ。この大魔王城に辿り着くまでに魔界の地を歩き、お前は何を思った。何を感じた」
勇者「何……というと?」
大魔王「自らの世界との違いに驚きを感じなかったか? 余りにも荒れ果てた大地を見て、とある感想を抱きはしなかったか?」
大魔王「すなわち――――魔界という世界は、とっくに終わってしまっているのではないか、と」
勇者は草一つ無かった大地を、飢えて死に物狂いになっていた恐竜型魔物の姿を思い返した。
大魔王「その印象は正しい。木々は悉く枯れ、水は隙間なく濁り、大地は命を腐らせる毒に満ち満ちている。もはやこの地で自然のままに次世代に命を繋ぐことなど不可能だ。これを終わっていると言わずして何と言う」
大魔王「何とかせねばならなかった。この世界に生きるいち生命体として、このまま絶滅することを良しとするわけにはいかなかった」
勇者「それで、お前は魔王軍を組織し、俺達の世界へ差し向けたわけか。自分達の生きる新天地として、俺達の世界を奪い取るために」
大魔王「そうではない。そうではないのだ、勇者よ」
大魔王はふるふると首を横に振った。
大魔王「俺がお前達の世界の事を知ったのは偶々、偶然によるものだった」
大魔王「初めてお前達の世界を目にした時、俺はただただ感動したものだよ。大地には植物が雄々しく茂り、その実りは数多の生命の営みを支えていた。清涼なる川の流れは海に繋がり、海より出でる雲は大地に雨を降らす……澱みなく循環する水は、あらゆる命の温床となっていた」
大魔王「俺は分析した。俺は考察した。何故この世界は俺達の世界とこうまで違う? この世界をここまで豊かたらしめている要因とは何だ? それを知ることで、俺達の世界を蘇らせることが出来るのではと、俺は夢見たのだ」
大魔王「だが、結果として分かったのは、お前たちの世界を豊かたらしてめている要因などではなく、逆だった。俺達の世界が荒廃してしまった理由。それが浮き彫りになっただけだった」
大魔王「魔界はどうひっくり返っても生命豊かな世界などにはなれん。世界の構造が、そうなっていた。俺達の世界は、どうしようもなくどん詰まってしまっていたのだ」
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