勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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322:名無しNIPPER[saga]
2016/08/06(土) 16:30:35.13 ID:AsT68X2i0
魔界、大魔王城―――試験都市フィルストより大河を挟んで南東に位置する険しい山脈の中腹に、それは在った。
外敵を阻む城壁、その門を守護する門番、その他勇者達の進撃を止めるべく雲霞の如く現れる魔物の群れ―――そんな修羅場を想定して突入した勇者と戦士であったが、魔物の抵抗は拍子抜けするほど無かった。
勇者達は大魔王城の奥へ奥へとあっさりと進み続け、遂には最奥の大魔王の間へとたどり着いたのだった。
戦士「こんなにも簡単に辿りつくものなのか。大魔王の懐というものは」
勇者「どうかな。何かの罠かもしれない。この大魔王城、城というのは名ばかりで、実際ここに来るまで下へ下へと降りてきた。潜ってきた。これはもはやダンジョンと呼んだ方が正しい。もしここで何か罠を仕掛けられたとしたら、地上に出るのは、まあ、骨だろうな」
戦士「引き返すか?」
勇者「虎穴に入らずんば虎児を得ず、って奴さ。進もう。周囲への警戒を怠らないで」
戦士「了解だ」
これは、大魔王の間へと通じる扉を前にした時の、勇者と戦士の会話だ。
そして今、勇者と戦士は扉を潜り、広大で静謐な大広間で大魔王と向かい合っている。
広間の中央に立つ大魔王は、身の丈2m程で、癖のついた長い黒髪を後ろに流した切れ長の目の男だった。
白を基調とした衣服に黒いマントを羽織った大魔王の姿は、その額から二本の角が伸びていること以外は、およそ人間とほとんど変わらぬものだった。
少なくない皺の刻まれたその顔からして、年の頃は(あくまで人間の基準で言えば)五十も半ばといったところだろうか。
大魔王「ようこそ余の城へ。歓迎するぞ、勇者よ」
勇者「そうかい。おもてなしってんなら、テメエの首を差し出してくれよ」
鷹揚に話しかけてきた大魔王に、勇者は軽口をもって返した。
しかしその実――――大魔王から感じ取れる圧倒的な強者の雰囲気に、勇者は己の肌がヒリヒリと痛むような感覚を覚えていた。
勇者「ふぅぅ〜…」
肺の底で押し固まるようになってしまっていた空気を吐き出し、勇者は突進の姿勢を取る。
隣で戦士も同様に剣を構えた。
大魔王「ほう、こうして面と向かって対峙してなお、余に挑む気概があるか」
大魔王は感嘆するように言った。
そして大魔王は一度静かに目を瞑る。
再度の開眼と同時に大魔王の眼光はギラリと鋭さを増し、その全身から放たれていた圧力が倍増した。
もはやどす黒い気の流れとして可視化できるまでになったソレは、勇者と戦士の体を否が応にも震えさせる。
だが、このようなプレッシャーに晒されるのは初めてのことではない。
既に一度、受けたことがある。
勇者と戦士は気後れしそうになる己を鼓舞し、下っ腹に力を入れて大魔王の姿を睨み付けた。
そんな二人の様子に、大魔王は己の顎を撫でてふぅむと声を漏らす。
大魔王「力の差がわからんはずはないのだ、お主等ほどの力量があれば。挑めば死ぬと、それを察することが出来ん程に愚鈍というわけでもあるまい」
そこまで言って、大魔王ははたと気づいたように首をひねった。
大魔王「いや、逆か? 敵わぬと悟った上で、余の手から逃れきる算段をつけておるのか。だから、敵わぬと知ってなお、挑める。であれば、その賢しさは『俺』の好むところではあるが」
勇者と戦士は、こちらに語り続ける大魔王の様子を伺い、仕掛ける機を探る。
そしていざ、飛びかからんと地を蹴ろうとした刹那―――その機先を制するように、大魔王が手のひらをこちらに向けた。
大魔王「よせよせ。まずは話をしようぜ。俺達には話し合いでケリをつけることが出来る脳味噌がある。そうだろう? 『伝説の勇者』の息子よ」
トントン、と己の額を指で叩き、大魔王は不敵に笑った。
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