勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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260:名無しNIPPER[sage saga]
2016/06/26(日) 19:12:37.52 ID:Trw4ei5x0
感情が昂りすぎて、頭の中は真っ白になってしまっていた。
冷静になろうと努めても、それはとても叶わなくて、自分がちゃんと呼吸をしているのかどうかさえ判然としない。
両手は固く握っているはずなのに、肘から先の感覚が曖昧で、実はまったく力が入っていないんじゃないかと錯覚する。
ゆっくりと一歩を踏み出したつもりだったのに、体はつんのめって前向きに転んでしまった。
自分が転んだその音に、ようやくその男は反応して、こちらの方に目を向ける。
「×××、×××××」
最初に自分達に声をかけて来た魔族が、その男に何か話している。
男は魔族の言葉に二度、三度と頷くと、こちらに歩み寄り、手を差し伸べてきた。
「××。×××、××」
優し気な眼差しで微笑みかけてくる。
――――その性質を、知っている。
困っている者を見かけたら、手を差し伸べずにはいられない、その性質を知っている。
それが高じて、この男は家族を置き去りにして、世界平和なんて曖昧模糊な目的の為に旅立った。
そうして、一度はその目的を達成し、闇の底へ消えて―――コイツは誰もが知る伝説の存在となったのだ。
ああ―――――よく、知っているとも――――――!!
「訳わかんねえ言葉で喋ってんな。ちゃんと自分の国の言葉で話せよ。―――『伝説の勇者』」
手を差し伸べていた男の肩がギクリと跳ねた。
自身で発した声の冷たさに、自分で少し驚いてしまった。
そして、一度口を開けば『それ』はもう止まらなかった。
水門は開かれ、せき止められていた大量の水が怒涛の勢いで流れ出す。
一度そうなってしまえばもはや、それに再度蓋をすることなど不可能だ。
感情の奔流――――――――元よりそれを抑え込むつもりなど、無い。
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