本田未央「プロデューサーとのごはん」 その2
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758: ◆Tw7kfjMAJk[sage saga]
2019/01/20(日) 18:26:46.75 ID:eq8ixgN30

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「ふー……おいしかったけど、さすがにちょっと苦しいかも」

 結局、未央はとんかつをたいらげた。なんならごはんをおかわりすらしてしまった。さすがに食べ過ぎたー、とお腹をさする。心なしか、ちょっと膨らんでいるような気もする。

「満足したか?」

「した!」

 それはもう。肉の甘み旨味たっぷりの分厚いとんかつに芳醇なソースをたっぷりつけて白ごはんといっしょに頬張っちゃって。これで満足するなっていうほうが無理な話だ。

「ただ、次に来るとしても同じの頼んじゃいそうなんだよね」

 他のメニューも気になってはいるのだ。とんかつがこれだけおいしかったのだから他のものもおいしいと思う。他の人が頼んでた海老フライとかおいしそうだったし……貝柱とかもおいしそうだったなぁ。牡蠣フライも気になるし……でも、このとんかつを食べておいて他のものは頼めない。主に胃の容量的に。

「あ、でも」

 そうだ、と未央は目を輝かせて彼を見る。いきなりそんな視線をぶつけられたものだから、彼は不思議そうな顔をして、

「なんだ?」

「いやー……プロデューサーの言う通り、ここのとんかつは三〇〇がベストっていうのは、身をもって勉強させていただきました」

 あの大きさだからこその食感なのだろう。絶妙な火入れを堪能するためには三〇〇を頼むしかないが、そうするとさすがに他のものは頼めない。というか、とんかつだけでもちょっと苦しくなるくらいだし個人的にはもうちょっと量が少ないと嬉しい。

 そこで、だ。

「そこで! 次にここに来るときは、三〇〇をシェアしながら他のメニューもシェアすることを具申します!」

 ひとりで食べれば三〇〇だけでお腹いっぱいになってしまう。他のメニューも気になるが、ここに来ればほぼ間違いなく同じものが食べたくなってしまうだろう。

 しかし、ふたりなら違う。三〇〇の味を堪能しながらも別のメニューを頼むことができる。

「ああ、確かにいいかもな。ここは他のメニューもすこぶるうまいが、三〇〇の魔力に惹かれてなかなか手が出ないんだ。しかし、食べてすぐ次の、って」

 彼がころころと喉に声を転がせて笑う。確かに、自分でもちょっと食い意地はってるかなーって思うけど……おいしかったんだもん。お腹いっぱいでも、次に来たときのことを考えちゃうくらいに。

「そうか。そこまで気に入ってくれたなら良かったよ」

「うん。連れてきてくれてありがと、プロデューサー」

「どういたしまして」

 でも、ほんとうにおいしかった。私はソースのほうが好きだったけど、塩もすごくおいしかったし……そう言えば。

「プロデューサーって、塩だよね」

「は? いや、確かにここのだとどちらかと言えば塩のが好きだが……いきなりなんだよ」

「んー? ちょっと、思っただけ」

 意味がわからないと彼が喉を鳴らす。そりゃわからないだろう。プロデューサーが塩、だなんて。

 とんかつは、ソースのほうが好きだったけど……うん。

「私も、塩、好きだよ」

「お、そうか。まあ、素材がいいからってのもあるんだろうけどな。塩で食べてうまいってことは肉がうまいってことだ」

 だから、こういうところでこそだよな、と彼は笑う。素材自体が良くないと、か。……そういう意味で言っているわけじゃないってことくらいわかってる。でも。

「……えへへ」

 笑みをこぼして、未央はぴたりとプロデューサーにくっついた。

「どうした?」

「ちょっと、くっつきたくなっちゃって」

「……そうか」

「そうなのです」

 剥がれることなくぴたりと寄り添い、歩いていく。

 そんなふたりの顔は、ほのかに赤く染まっていた。






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