女神
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454:名無しNIPPER[sage]
2017/09/12(火) 23:57:30.64 ID:mEsaNNkyo

 丘の上にある社宅になっているマンションを出ると、下に広がっている盆地が見える。
梅雨の朝に見るその光景は灰色にかすんでいて、それは、まるで美術で習った中国の山水
画のようだ。もちろん、見えるのは地方の県庁所在地の中途半端なビル街なんだけど、俺
は結構その景色が好きだった。

 好きだったけど、一人でその景色の中を歩くよりは、連れがいた方が楽しい。だから、
その頃は、学校まで四十分。その間を退屈だと思ったことはなかった。姉さんには言えな
いけど、あいつと一緒に登校していたから。

 女神とか言い出した翌日も俺は優と二人で、梅雨の下で登校した。

 クラスでからかわれるほどいつも一緒に登校していたといっても、実際はほとんど会話
は成り立っていなかった。最初に電車と会った日は別として、優はいつも自分のスマホを
眺めていて、俺が話を振っても生返事だった。楽しいといっても、さすがにこれだけつま
らなそうに無視されるといろいろな感情が湧き出してくる。

 別にこいつに好意を持たれようと努力する気なんかない。俺には姉さんがいたし、それ
はおいておくとしても、言い寄ってくる女は学校にいたわけだし、別に優に好意を求めよ
うとは思わなかった。

 それでも疑問は残る。俺と話す気がないなら何で毎朝俺と一緒に登校するのだ。ぼっち
が好きなら一人で登校したっていいじゃないか。こいつはそういうことに耐性がありそう
だし。

 別に優に好意を持ち始めたわけじゃないけど、毎朝俺の話を無視されると少しむっとし
た。こんなことなら一人で登校したっていいわけだし、とりあえず告られるほどじゃない
けど、俺に好意を抱いているとしか思えない女だって近所にいる。そいつと一緒に登校し
たっていい。なのに何で俺はこんな不愛想な女と一緒にいるのだ。可愛いことは認めるけ
ど、そんな女はほかにもいる。もっと愛想のいい女の子が。これが姉さんに内緒にしてま
で俺がしいたことか? 自分がなにをしたのか、この頃の俺はわからなくなっていた。

 こうなるともう意地のようなもので、あるいは俺に振り向かない女は許さないという俺
の病気のようなものだった。別に関心もないのに、俺は優に俺の方を振り向かせようと思
ったのだ。


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