女神
1- 20
345:名無しNIPPER[saga]
2016/08/18(木) 22:37:34.20 ID:IwnlMYSho

 私たちは石井会長が麻衣ちゃんを一年生の校舎に送り届けるところまで見届けた。別れ
際に麻衣ちゃんは名残惜しそうに会長の手を握りながら彼を見上げて笑顔で何か囁いてい
た。始業前だったので周囲には校舎に駆け込んでいく一年生が溢れていて、そんな中で手
を取り合って寄り添っている一年生と三年生のカップルはかなり目立っていたけれども、
少なくとも麻衣ちゃんの方は全くそのことを気にしていないようだった。

 麻衣ちゃんの関心が麻人から石井生徒会長に変っても、彼女自身の持って生まれた性質
は全く変っていないようだった。かつて麻衣ちゃんは麻人に対して同じように好意をむき
出しにしてぶつけていたっけ。私はこれまでの麻衣ちゃんのことを思い浮かべた。中学に
入学した時も高校に入学した時も、麻衣ちゃんは周囲を気にせず麻人に抱きつきべったり
寄り添っていたものだった。そして妹に甘い麻人の方も別にそれを制止するでもなく麻衣
ちゃんに付き合っていた。そんな実の兄妹の様子に周囲の生徒は最初のうちこそ好奇心に
溢れたぶしつけな視線を向けていたものだったけど、麻衣ちゃんが堂々とそういう態度を
取り続けているうちに逆に周囲がそれに慣れてしまいい、つのまにか周囲の噂も収まった
のだった。

 相手が麻人から石井先輩になっても麻衣ちゃんは相変わらずだ。そしていつか周りの生
徒たちは前と同じくこの人目を引くカップルに慣れていくのだろう。一年生と三年生のカ
ップルが珍しいといってもあり得ない組み合わせではない。少なくとも実の兄妹がべたべ
た恋人同士のように振る舞っているよりは当たり前の関係だろうし。

 ようやく麻衣ちゃんは会長の手を離し小さな手のひらを会長に向けて振ると、足早に校
舎の中に吸い込まれていった。私たちもそれを期に自分たちの教室に向った。

「いろいろあってあんたも辛いでしょうけど」

 肩を並べて歩いていた時、私は思わず麻人に話しかけた。

「麻衣ちゃんのことだけはよかったよね」

 私は麻人に微笑んだ。

「麻衣ちゃんにさ。初めてあんた以外の彼氏が出来て母親役の私も一安心だよ」

「俺はあいつの彼氏なんかじゃなかったって」

 麻人が当惑したように言った。

「今さら何言ってんのよ。あんたはずっと麻衣ちゃんの兄兼彼氏だったでしょうが」

 私はそれに突っ込んだけど、まあ今となってはどうでもいい話だった。とにかく私は娘
を嫁に出した母親のように寂しいながらもほっとしていた。その感情は麻人も共有してい
るに違いない。そう思って改めて彼の方を見たけど、麻人は黙ったまま相変わらず当惑し
ている様子だった。

「・・・・・・あのさ」

 麻人が私に言った。

「何?」

 その時あたしは自分が自然に麻人の手を握っていることに気がついた。さっきから麻人
は、私の言葉にではなく自分の手を握っていた私の行動に当惑していたのだった。

「あ、悪い。つい」

 私は慌てて彼の手を離した。

「いや」

 麻人はそれだけ言ってまた黙ってしまった。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
468Res/896.79 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice