310:名無しNIPPER[saga]
2016/07/13(水) 22:34:59.02 ID:EEZv3dvio
教室に戻ると、主を失った優の机に、何かの文字がマジックのような物で黒々と記され
ていた。
『モモ◆ihoZdFEQao(笑)』
その文字を見て俺が呆然としてクラスの連中を眺めた時、どこからともなくクスっと嘲
笑うような悪意のある笑い声が俺の耳に届いた。思わずかっとなった俺が、声のした方に
いるやつの腕を見境なく掴もうと体を動かした時、夕也が俺の体を羽交い絞めにした。
「落ち着け。こんな低級な嫌がらせに反応するな。おまえが反応するとこいつらますます
いい気になるぞ」
夕也は俺を押しとどめながら大きな声でそう言って、周囲の生徒を睨みつけた。教室内
の生徒たちは一様に下を向き、夕也と目を合わせないようにしていたが、その時でもまた
クスクスという笑い声がどこからか小さく響いた。
どこかからか雑巾を持ってきた有希は、優の机の文字を拭き取り始めた。油性のマジッ
クのような物で書かれたらしく、その文字は汚れを広げるだけで一向に消えようとはしな
かった。それでも、一生懸命に優の机を拭き続けている有希の目には、涙が浮かんでいた。
夕也の言葉を聞き、有希の目に光っている涙を見た瞬間、俺の体から力が抜けた。夕也は
ようやく俺の体から手を離した。
「悪いん」
俺は何とか声を口から絞り出すことができた。それはまるで自分の声ではないかのよう
に掠れた小さな声だった。
「俺、今日は家に帰る。これ以上ここにいると自分でも何をしでかすかわかんねえし」
「・・・・・・その方がいいかもしれねえな。わかった。鈴木には俺から話しておくから」
夕也友が言った。
「一緒に付いていってあげようか?」
有希が目に浮かんだ涙をさりげなく拭きながら言った。
「おう、それがいいよ」
夕也もそれに同意した。「気分の悪くなった麻人を有希が送って行ったって、鈴木には
言っておけばいいな」
「・・・・・・いや、いい」
俺は断った。「家に帰るだけだし、お前らを付き合せちゃ悪いしな」
「大丈夫か」
夕也が言った。
「ああ。平気だよ。じゃあな」
俺はカバンを取り上げた。
「二人ともいろいろありがとな」
俺が教室を出て行く時、再び小さな嘲笑めいた声が教室の中から俺の背中に届いた。
468Res/896.79 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20