利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目
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妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]
2017/04/19(水) 01:45:50.23 ID:Pat0QSv5o
多少の不安の色を見せる声で、彼女は私に抱き付いてきた。
あまりに急な事だったので対応も出来ず、されるがままとなってしまう。
……分からん。川内が何を考えてこうしたのか、まったく分からない。
「ね、提督。こうやってさ、ギューって抱き締めたら落ち着くよ?」
「落ち着く……?」
更に予想外の言葉を投げられ、彼女が口にした言葉をそのまま返してしまった。
……何がどう落ち着くというのだろうか。いまいち理解できない。
「うん。護ってくれているみたいで、怖い事とか不安な事とか全部考えなくても良くてさ、絶対に危険なんて無くて、それですっごいあったかいんだよ? 落ち着く以外ないじゃん?」
まるで父親に甘える娘のようだ──。
真っ先に思いついた言葉がそれだった。だが、それを口にすると不機嫌になりそうなので止めておく。娘じゃなくて女の子として見てーと言いそうだ。
「そうか」
なので、その言葉で濁して頭を撫でる。すると、気持ち良さそうに声を漏らす少女の姿がそこにあった。
私はいつも以上に甘えてくる川内の頭を撫で続ける。川内は余程気に入ったらしく、その状態を維持していた。
──が、五分もすると変化が訪れる。彼女は段々と体重を私へ預け、私を抱き締めている腕が徐々に下がり、力無く私の腰元へ落ちたのだ。
どうしたのだろうか、と一瞬だけ思ったが、すぐに事態を理解する。
何も難しい事などない。眠ってしまっただけのようだ。いつもならば眠たくなると自分の部屋へ戻るのだが……。
「……ほら川内。自分の部屋で寝なさい」
「ん……んん……?」
背中をポンポンと叩き、夢の中へと旅立ってしまった彼女をこちらへ戻す。未だまどろみの中に居る彼女は、眠たそうな目で私を見詰めてきた。その瞳には何か意志がある訳でもなく、ただただ私を見ているだけだ。
「ここで寝るぅ……」
「……こら、川内」
また珍しい事に、我侭を言ってきたので軽く叱り、無理にでも自分の部屋へ戻そうとする。風紀上よろしくないからだ。他の子達が真似でもしたら収拾つかなくなってしまう。
──いつもなら、そうしただろう。
「……ちゃんと布団の中で寝なさい。風邪をひくぞ」
だが、今日はそうしなかった。寂しそうな顔をした彼女の顔を見たからか、それとも自分の心が不安定になっているからか、はたまた両方か──。
……本当、弱くなってしまったな、私よ。
川内は、はぁい、と間延びした返事をして、彼女はもそもそと布団の中へと潜り込む。そして、布団から顔を出すとこちらへ両手を伸ばしてきた。
本当ならばその腕の中に身を収めるのが良いのだろうが、今の私ではそれは出来ない。
少しだけ考えて、その両手に腕を伸ばしてみる。すると、ゆっくりと私の腕を抱き締めて寝息を立て出した。
「今回だけだぞ……?」
聞こえていないのを分かった上で忠告する。
そんな意味の無い言葉を紡ぎながら、私も彼女と同じ布団の中へと入った。
「うん……てぇとく……すきだよ……」
若干、呂律の回っていない愛の告白。一体、彼女はどのような夢を見ているのだろうか。
空いているもう片方の手で彼女の頭を二撫でほどして、私も目を閉じた。
(──出来る事ならば、誰も悲しまない未来を描きたいものだ)
そんな叶わない願いを心で呟き、意識を手放す為に頭の中を空っぽにする。
ああ……本当に、そうなれば良いのにな……。
しがらみだらけの私の心。それが解かれるのは、一体いつになるのだろうか。
少なくとも今日、そのしがらみは僅かながら解かれたと信じたい──。
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