269: ◆DTYk0ojAZ4Op[saga]
2015/10/05(月) 03:23:32.35 ID:D2uU4S3W0
賢者「そう、虚しいだけよ。
そんな事をしたって、
あの子はもう居ないんだから。
でもね。
思い出に耽るのは当たり前に許された慰みよ。
恥じる事なんてないわ」
戦士「じゃあ。
…別に、いいじゃないか」
賢者「あんた、自分では、違和感をうまく口にできないのね」
戦士「……………」
賢者「私が言ってあげるわ。
あんたの場合、少し違うのよ」
戦士「なにが…違うんだよ。
あいつが死んでから、まだひと月も経ってないんだ。
仕方ないだろ」
賢者は表情を隠すように、俺の胸元に顔を埋めている。
身体を包み込む風が少し柔らかなものになった気がした。
魔力とは意思の力。
魔法とは心を映し出す鏡。
その効果には、術者の精神状態が如実に現れる。
優しげに頬を撫ぜる風が心地良い。
柔らかく、暖かく流れる風。
涙を拭われている時と、それはよく似ていた。
賢者「あんたがあの子の跡を追うのは、
まるでその度、あの子がもう居ないんだって、
確認しているかのようだわ。
ひとつひとつ、
自分に言い聞かせるように。
…あんたは、あの子の跡を追って、
あの子の死を思い知るために旅をしてるんだわ」
眼前で魔物に奪われた、妻の姿を思い出す。
魔女にはまだ、
僅かながら息があった。
生きながらにして飲まれた、妻。
俺は、
賢者「戦士はね、きっと、
…あの子の死を、
まだ受け入れられていないのよ」
彼女を、守れなかったんだ。
―――君と、生きて、いきたかった。
今度も、また。
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