385: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/05/09(月) 00:44:41.19 ID:xCZG2UL5o
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彼女が父に憧れ、科学者を志す少女だった頃、彼女は妹が嫌いだった。
滅多に喋らなくて、こちらが何を言っても手応えがなくて、そのくせ、身に覚えのないことで笑ってきて。
そんな妹の態度が不気味で、癇に障って、苛立ちをぶつけてしまうことも珍しくなかった。
あの日も、いつもの調子で。
黙って彼女の人形を持ち出して、怒っても素知らぬ顔で、終いには薄ら笑いまで浮かべてきたから。
我を忘れた彼女は、下り階段を背にした妹を突き飛ばしてしまった。
妹は半身不随の重傷を負いながらも、何とか一命を取り留めた。
その少し後、彼女が父から聞いた話によれば、妹の治療にはある特殊な措置が施されたのだという。
P73偏食因子。
人体の細胞を"オラクル細胞"に変質させ、驚異的な身体能力の向上と捕喰への抵抗性を与える、アラガミへの最古の対抗手段。
21年前、フェンリルのアラガミ総合研究所で開発されたそれは、現在用いられる"偏食因子"の実用化に大きく貢献した祖とも言える。
当時の開発段階では、ほぼアラガミの"オラクル細胞"そのものであったP73偏食因子は、人体への投与に適さなかった。
事実、"マーナガルム計画"の一環として行われた転写実験では"オラクル細胞"の暴発捕喰を引き起こし、
母体を介して、胎児段階で投与を施された被験者の子と、予め防衛手段を持っていたその父のみが生き残る結果となっている。
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