220: ◆c4YEJo22yk[sage saga]
2016/03/23(水) 20:26:16.61 ID:iF6tRhcm0
「プロデューサーさんっ、私にもっとギターを教えてくださいっ!」
「えっ……? それはちょっとなあ……」
百合子に頼まれて、俺は言葉を詰まらせる。
俺だってギターに対する知識なんてほとんどないのだ。
それは百合子だって知っているはずなのに、どうして俺に頼むのだろうか。
申し訳ないけど、このお願いは断ろう。
そう思って口を開こうとすると、
「私、できればプロデューサーさんに教えて欲しいんだけどなあ……ダメですか?」
彼女はしゅんとした顔をして、上目遣いで俺のことを見ていた。
――かわいい。
俺が今までの人生で見た全ての中で、一番かわいい。
「ま、まあ……俺に出来る範囲でなら教えるけど」
「やったー! ありがとうございますっ」
つい、了承してしまった。
悲しいかな、男はかわいい女の子に頼られるとこうも弱いのだ。
「それで、どのくらい上手くなりたいんだ?」
俺が尋ねると、百合子はしばらく逡巡して答えた。
「杏奈ちゃんとセッション出来るくらいですね!」
「それはかなり頑張らなくちゃいけないぞ……」
百合子だけじゃなく、俺もな。
今の俺の演奏レベルでは、他人に教えられることなんて皆無に等しい。
「わかった。俺も百合子に教えられるように練習しておくよ」
「一緒に上手くなりましょうね!」
そう言うと百合子は、また『Em7』をジャーン! と鳴らして満足そうな顔をした。
きっと彼女の目には大観衆が映っているのだろう。
「人前で演奏したいなら、まずは別のコードも覚えようか」
「はいっ、頑張ります!」
苦笑した俺に、百合子はぐっと拳を握ってみせる。
「じゃあまずは『C』のコードフォームから……」
そう言って俺はギターの基礎を教え始めた。
「あれっ、何だか音が変かも……。間違えてますか?」
「薬指の押さえる場所が違うな、もう一つとなりだよ」
「ううっ、指がつりそうです……」
二人の会話と、ぎこちないギターの音色だけが部屋を満たす。
それはとても幸せな時間だった。
おわり
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