VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/05/08(水) 12:29:50.78 ID:dn1UoSlj0<>

《 世界線変動率:1.130238 》



一人の観測者が、大切な人を助けた世界線。

一人の観測者の、大切な人がいない世界線。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367983790
<>【シュタゲSS】 まゆり「安寧のヴェスティージ」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:31:40.77 ID:dn1UoSlj0<>
オカリンと付き合い始めて数週間ほど経過しました。

そういう関係になってからの彼は、その優しさを少しだけ色濃くして私に接してくれる。
夢を見ているような出来事ばかりの毎日で、まゆしぃはとても嬉しいのです。

すぐにでも触れられるような距離に、彼の腕はいつもあった。
それを物怖じせずに触れることが出来る。
それは、思わず口元がもにゅもにゅと動いてしまうほどの溢れる高翌揚感。
「オカリンとはこういう関係だったらいいな」と幼い頃から描いてた、小さな夢と大きな幸せ。


そんな夢を手に入れているのに。
思い描いた幸せのはずなのに。


ときどき、声を上げて泣きたくなるのは何故だろう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:37:02.27 ID:dn1UoSlj0<>
何かが足りない。
大きな空っぽが胸にある。

海辺の砂が手の平の上で風にさらわれていくような感覚。

言葉にするのが難しいけれど、確かに何かを失っている気がする。


その些細な喪失感の正体が分からないまま、私は日々を幸せに生きています。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:37:11.25 ID:+LCb2ZVDO<> まゆりいいいいいぃ!おれだあああぁ!しあわせになってくれえええぇ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:40:53.53 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「トゥットゥルー♪」

岡部「おはよう、まゆり。8時前とはまた早い時間にラボに来たんだな」

まゆり「えっへへー。オカリンに会いたかったから早起きしてきたのです」

岡部「……そもそも、今日は駅前で10時集合という予定じゃなかったか?」

まゆり「オカリンは最近ラボに籠りっきりだから、ここに来れば確実に会えると思ったんだー」

岡部「いや、言うほど俺はラボに籠っているつもりは無いんだが」

まゆり「えー!? ずーっとラボに居るよぅ!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:47:38.40 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「オカリン、昨日ちゃんと家に帰った?」

岡部「いや、ラボに泊まった」

まゆり「その前は?」

岡部「ラボに泊まってガジェットを作っていたぞ」

まゆり「それじゃあ、さらにその前はー?」

岡部「ら、ラボで考え事をしていて結局朝になっていた」

まゆり「オカリンオカリン、最後に家に帰ったのはいつ?」

岡部「…10日前」

まゆり「……たまには家に帰るべきだってまゆしぃは思うのです」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:49:32.51 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「あのね、ラボで何かを研究するのは別にいいんだ」

岡部「む?」

まゆり「ただ…オカリンが何か無茶をして体を壊さないかが、まゆしぃは心配なのです」

岡部「……すまない。これからはちゃんと自分の体を省みるように善処するよ」

まゆり「そう言ってくれると安心するなぁ」

岡部「ありがとな、まゆり」

まゆり「えっへへー。なんだかくすぐったいねぇ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/05/08(水) 12:52:19.78 ID:dn1UoSlj0<>

オカリンは昔と変わらない優しい目をして私を撫でてくれた。

まゆしぃを「人質」ではなく、一人の女の子として見てくれた。
それが凄く嬉しくて、それと同時になんだかちょっぴり寂しい気がする。

オカリンが中学生から続けてくれたあの口調も、最近はすっかりを鳴りを潜めていた。
まゆしぃを「人質」から開放したんだフゥーハハハハ! とか前のように言ってくれないのはやっぱり寂しいな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/05/08(水) 12:53:27.65 ID:y1lic3LS0<> マユリ様「ホゥ…?面白そうじゃないかネ。続け給えヨ。」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/05/08(水) 12:54:00.58 ID:dn1UoSlj0<>
オカリンは、大学の飲み会に積極的に参加するようになった。
サークルにも入って、そこで皆をまとめる役職にも就いたぞと、胸を叩きながら教えてくれた。

楽しそうでいいね、ってその時は言ったけれど。
何かを忘れるように学生生活にのめり込んで、何かから逃げるようにラボで何かを研究している。
そんな風に見えちゃうのはなんでだろうね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:55:28.45 ID:dn1UoSlj0<>
くぁぁ、と軽く欠伸をするオカリンの目元には黒々としたクマが出来ていた。
寝不足が原因と思われる血色の悪さから、顔も白くてまるでパンダみたい。
いつか倒れてしまいそうな危うさを覚えてしまいそうになる。


まゆり「オカリン、また寝てないの?」

岡部「ん? あぁ、あまり眠気を感じないから気にするな。
   やはりガジェット製作に気合を入れすぎているのが要因だろう」

まゆり「ダメだよぅ、ちゃんと眠らないと体に悪いよー」

岡部「ああ、ちゃんと眠らなくちゃいけないな」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:56:45.80 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「ねぇ、オカリン」

岡部「なんだ?」

まゆり「なにか眠れない理由とかあるんじゃないかな、ってまゆしぃは思うのです」

岡部「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 12:59:21.35 ID:dn1UoSlj0<>
岡部「どうにも最近は同じ夢を見るから、眠るのが少し億劫になってきているだけだ。
   何も心配することないさ」

まゆり「オカリン…」

岡部「それよりまゆり、最近なにか変わった事は無いか?
   例えば…不審な車に追われたりとか、変なアロハを着た男に備考されたりとかは?」

まゆり「心配しなくても大丈夫だよー。
    いつもオカリンが家まで送ってくれるから、危ないことがあっても安心一番なのです」

岡部「そうか…それは何よりだ」

まゆり「そう、まゆしぃは大丈夫だよ〜」



オカリン。
まゆしぃは大丈夫だよ。

だからね、オカリンも……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 13:02:18.56 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「あのね、オカリン」

岡部「どうした?」


少しだけ目蓋を腫らしている、赤みを帯びた目が覗き込んでくる。
とても優しい眼で見つめてくれる。


まゆり「……なんでもないよー」

岡部「むぅ、全くまゆりは昔から相変わらず不思議だな」

まゆり「えー、そうかなー?」

岡部「ああ、そういう所は昔から全然変わってない」

まゆり「えっへへー♪」



だから、聞けない。

どうしていつも一人きりで泣いているの、って。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 13:07:45.54 ID:dn1UoSlj0<>
岡部「そろそろ動くとしよう」

まゆり「んぅ? どこ行くのー?」

岡部「お前とデ、デートに…行ってみようか、と、思ってるのだが……」

まゆり「おー! 今日のオカリンはなんだか大胆だねぇ」

岡部「ど、どこか行きたい場所はあるか?」

まゆり「まゆしぃはね、オカリンと一緒ならどこでも楽しいのです♪」

岡部「…そうか。俺もだよ、まゆり」



そう言ってオカリンは柔らかく微笑んでラボを出た。
その後ろ姿を抱きしめているように見えたのは、淡い暖色の色合いをした陽炎。

どこかで見た事のある、誰かの綺麗な髪の色。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 13:13:24.27 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「オッカリーン♪ 今日は天気も良くてお散歩日和なのです!」


そう言いながら後ろを振り返ると、そこにはよたよたと足取りの覚束ないオカリン。
さながら砂漠でオアシスを求める放浪者のような姿だった。


岡部「ま、待て、まゆり。すまん、徹夜明けの疲れ目にこの日光は眩しすぎる……」

まゆり「うーん。それじゃあ今日はラボでのんびりしてみる?」

岡部「いや、流石にそれは何と言うか……。
   では、そうだな。ラボで少し仮眠を取らせてもらう。その後に出かけるのはどうだ?」

まゆり「ナイスアイデアだと思うのです」

岡部「まゆりが少し退屈してしまうのが難点だがな」

まゆり「いいよいいよー。じゃあ、この前買ってきた漫画でも読んでおくのです」



おーかべー。 全く、情けないわね。まるでモヤシっ子じゃないの。



溜息混じりのそんな声が、どこからか聞こえた気がした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 13:14:58.55 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「それじゃあねー、何か買出しでもしてこよっかなー」

岡部「む、俺も一緒に行こう」

まゆり「ここはまゆしぃに任せてゆっくり休んでくれると嬉しいなー」

岡部「だが……」

まゆり「彼女さんからのお願いも聞いてくれないなんて、まゆしぃは悲しいのです…」

岡部「す、すまない……」

まゆり「いいんだよー。オカリンは顔色も悪いし、帰ってくるまで寝ておくべきだよ」

岡部「それじゃあ言葉に甘えて、このまま少し寝ることにする。
   買出しから帰ってきたら起こしてくれ」

まゆり「うん、分かったー。 オカリンのために特別にマユシィ・ニャンニャンで起こしちゃうよー」

岡部「…いや、それは遠慮しておこう」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/05/08(水) 13:16:45.03 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「オカリン、何か欲しいものある?」

岡部「選ばれし者の知的飲料を頼む」

まゆり:(´・ω・`)?

岡部「…ドクペを一つ買ってきてくれ」

まゆり「うん、分かったー」

岡部「まゆり」

まゆり「ん?」

岡部「気をつけてな」

まゆり「ありがとう、オカリン。それじゃあ行ってくるね」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/05/08(水) 13:19:17.44 ID:dn1UoSlj0<>
〜〜


まゆり「トゥットゥルー。 ジューシーからあげナンバーワーン♪」

まゆり「ただいま、オカリン! おでん缶もおまけで買ってきたよー」

まゆり「……オカリン?」


岡部「………zzz……zzz」



ソファに横になって、自分の白衣を掛け布団変わりにしてオカリンは眠っていた。
こうして眠っているオカリンの顔を見るのは久しぶりな気がする。
昔はよく一緒にお昼寝していたのに、気がつけばすごく大人になっているなぁ。
おヒゲも伸びるようになって、尚更大人っぽく見えるのです。


まゆり「えへへ……」


そっと頭を撫でてみる。
少しごわついた髪が妙に心地良い。
触られても一向に起きる気配が無いところから察するに、深い眠りに就いているみたい。

大好きな人の顔をこうして間近で見つめられて、まゆしぃ大勝利。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 13:22:07.64 ID:dn1UoSlj0<>
もう少しだけ、髪を撫でてみる。
気持ち良さそうな寝顔が時折歪むのは、あまり良い夢を見ていないからだろうか。
そうして心配していたら、また柔らかい顔で寝息を立て始めた。

もしかしたら、幸せな夢と辛い夢を交互に見ているのかな?


岡部「………zzz……zzz」

まゆり「オカリン」

まゆり「まゆしぃはね、幸せだよ」

岡部「………zzz……zzz」

まゆり「でもね、なんだかこの幸せには足りないような気がするのです」

まゆり「なんでそう思っちゃうのか考えていると、凄く泣きたくなるんだ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/05/08(水) 14:52:40.80 ID:3zhByHEF0<> >>9
マユリ様!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 14:56:58.79 ID:OKCCJrVho<> はよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 18:06:23.26 ID:dn1UoSlj0<>
まゆしぃがそう告げると、音も無く一筋の涙がオカリンの頬を伝った。
それを封切に止め処なく涙が溢れてくる。


まゆり「え、えっ! は、はわわ、お、オカリーン……!」


慌てて起こそうとオカリンを揺する前に寝顔を覗き込む。



岡部「………z…………紅莉…栖………zzz……」



大切な宝物を選んで捨てなければならない、幼い子どもに見えてしまうような。


とても悲しそうな寝顔だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 18:19:23.18 ID:dn1UoSlj0<>

撫でている手を止めて、オカリンが眠っている頭の近くにそっと腰を下ろす。

起こさないようにゆっくりと頭を上げて、まゆしぃの太ももに位置を固定してみた。


「よいしょ…っと。オカリン、意外と頭重いんだねぇ。えっへへー」


そして再び頭を撫でてみた。
悲しそうな顔が沈み、ギュっと瞑ったままの目が緩和していく。


手に感じるのは、少しごわついた髪。

耳に聞こえてきたのは、安らかな吐息。

スカートに染み込むのは、温かい雫。


せめて泣き止むまでは…このままでいてもいいよね、オカリン? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 18:26:58.08 ID:dn1UoSlj0<>
岡部「…………ん、んんぅ」

まゆり「あ、オハリン♪」

岡部「それは、『おはよう』と『オカリン』を重ねた言葉か?」

まゆり「ピンポンぴんぽーん! 正解なのです」


岡部「なぁ、まゆり……」

まゆり「ん? なぁに?」

岡部「なんで俺は、お前に、膝枕をされているんだ…!?」

まゆり「えっへへー。オカリンが寝づらそうだったから、ゆっくり眠れるように工夫してみたのです」

岡部「そ、そうか……」


岡部「まゆり」

まゆり「ん?」


岡部「もう少しだけ…このままでいいか?」

まゆり「うん、いいよー」

岡部「ありがとう…」

まゆり「いいんだよ、オカリン」



無理しなくても、いいんだよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/08(水) 18:40:57.05 ID:dn1UoSlj0<>
まゆり「オカリン、オカリン」

岡部「どうしたんだ?」

まゆり「そういえば最近は『ほーおーいんなんとか』って言わないよね」

岡部「…『鳳凰院凶真』か?」

まゆり「そうそう! ほーおーいんきょーま!」

岡部「あれは…そうだな、そろそろ出てもいい頃合だな」

まゆり「え?」

岡部「フゥーハハハハ! 我が名は鳳凰院凶真!
   今は“機関”に存在を悟られぬために、岡部倫太郎の中に潜っていたのだ!」

まゆり「わ、いきなり大きい声を出すからびっくりしたのです」

岡部「す、スマン……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 00:53:31.73 ID:44C2QMkV0<>
岡部「それにしてもよく寝たな」

まゆり「もう夕方になっちゃったねぇー」

岡部「……さすがに眠りすぎたな」

まゆり「まゆしぃは足がシビシビ状態で動けないのです…」

岡部「む? なんだ足が痺れているのか?」

まゆり「オカリン、触っちゃダメだよ」

岡部「分かった分かった。そんな事をするほど俺も子供ではない」


岡部「…まゆり」

まゆり「?」

岡部「お前は、生きてるよな?」

まゆり「まゆしぃはねー、いつも元気ビンビンなのです!」

岡部「…ん、ならいい。 まだ寝惚けているみたいだ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 00:54:21.57 ID:44C2QMkV0<>
まゆり「どんな夢を見ていたのー?」

岡部「…さぁ。 よく覚えていないな」

まゆり「楽しい夢?」

岡部「そうだったような気がする」

まゆり「怖い夢?」

岡部「そうだったような気もする」


まゆり「そういう事はね、まゆしぃもよくあるのです」

岡部「?」

まゆり「夢の中でたくさん、たっくさーん色んなことがあったのに
    起きるとね、全部忘れちゃってるんだー」

岡部「確かに夢ではよくあることだな」

まゆり「オカリンもね、あんまり考えすぎちゃいけないよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 00:56:23.38 ID:44C2QMkV0<>
岡部「夢、か。 ああ、そうだな。夢の事をウダウダ考えるのは俺の性に合わんな!」

まゆり「うんうん!」

   「…」

   「……」

   「………」

まゆり「………オカリン?」

岡部「どうした、何かを期待したような目で見つめられても何も出らんぞ?」

まゆり「いつものオカリンなら、ここで高笑いをすると思ったんだけれど…予想が外れてまゆしぃガッカリなのです」

岡部「ふ、フゥーハハハハ! この鳳凰院凶真の発言を先読みするとは予想外だぞ、まゆり!
   まさか…“先見の眼を持つ巫女(リード・アンド・レッド)”の能力者かっ!?」

まゆり「んー、えっとねー。まゆしぃはその『ぴーぽ安藤ネット』っていうのは持ってないよー」

岡部「…言ってみただけだ。気にしないでくれ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 00:58:31.11 ID:44C2QMkV0<>
まゆり「ねぇねぇオカリン」

岡部「ん?」

まゆり「あのね、起きているのに夢を見たことってある?」

岡部「ああ、それは白昼夢というヤツか?」

まゆり「そういう風に呼ぶの? オカリン物知りだねー」

岡部「当たり前だろう。俺は狂気のマ、マッドサイエンティスト…ほ、鳳凰院凶真だからなっ!」


まゆり「あのね、それが誰だかは分からないけれど…」

岡部「けれど?」

まゆり「まゆしぃには、とても大切なお友達がいた気がするの」

岡部「!?」



まゆり「その大切なお友達の事を考えるとね、凄く切なくなって胸がギューっとなるんだ」

岡部「……そうか」

まゆり「そのお友達に会えたらね、ありがとうって言いたいなー」

岡部「言えるさ。 いつか、きっと言えるさ」


まゆり「オカリン」

岡部「……」

まゆり「…泣いているの?」

岡部「……馬鹿だな、まゆり。俺が泣くわけないだろう」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:00:44.32 ID:44C2QMkV0<>
まゆり「オカリン、まゆしぃはね」

岡部「?」

まゆり「オカリンの重荷にだけはなりたくないんだ」

岡部「…俺はお前をそう思ったことなぞ一度も無い!」

まゆり「えっへへー。オカリンは優しいねぇ♪」

岡部「馬鹿を言うな、これは俺の本音であって…」

まゆり「でもね、まゆしぃは時々思っているんだよ。『頑張っているオカリンの重荷にはなりたくない』って」

岡部「だから…っ!」


まゆり「それでね、こうも思うの。
   『まゆしぃ自身が自分を重荷じゃないって思えたなら、いつかオカリンを支えてあげたい』って」

岡部「まゆり……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:01:33.10 ID:44C2QMkV0<>
まゆり「ねぇ、オカリン。今のまゆしぃ達の関係って、なぁに?」

岡部「恋人同士、でいいと思う」

まゆり「恋人同士なら、支えあってもいいよね。
    ラボメンの仲間よりも、ほんのちょっとだけ進んだ関係って捉えていいかなってまゆしぃは思うのです」

岡部「……ああ、そうだな」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:02:23.09 ID:44C2QMkV0<>
優しいオカリン。誰かのための何かであろうとする、まゆしぃの素敵な幼馴染。

貴方が少しでも幸せに生きることが出来るなら、それがまゆしぃの支えだよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:04:01.26 ID:44C2QMkV0<>
まゆり「春の頃はオカリンとっても寂しそうだったけれど…。
    今は、前よりもっと寂しそうに見えるよ…」

岡部「……」

まゆり「だからね、いつかオカリンの気が向いたときにでも話してほしいな。
    きっと今抱えている辛さや、悲しさ。少しでも支えになりたいよ…」

岡部「……」

まゆり「話したくない出来事は誰だって持っているから、無理にじゃないよ」

岡部「……」

まゆり「それじゃあ、今日は暗くなってきたからまゆしぃはこの辺りで帰宅するのです!」

岡部「……気をつけて、帰るんだぞ」

まゆり「うん。ありがと、オカリン」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/05/10(金) 01:08:46.14 ID:44C2QMkV0<>

岡部「まゆり」

まゆり「ん?」


岡部「明日、ラジ館の屋上に来てくれ」


岡部「そこで、話す。俺の全てを。
   鳳凰院凶真が経験してきた事柄を、包み隠さず話そう」



まゆり「…うん、分かった。待ってるね、オカリン」

岡部「……ああ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:14:15.34 ID:44C2QMkV0<>
〜〜


その日は、曇天模様の翳り空。

ラジ館の屋上には生温かくも心地良い風が吹きすさんでいて、
夏の終わりをどことなく感じさせる空気がそこにはあった。

少し錆のつき始めた扉を後ろ手で閉めて、目的の場所に立ってみた。


まゆり「…オカリン?」


呼んではみたけれど、返事が無い。
思い返せば、何時にラジ館に来ればいいのか聞いていなかったのが大きなミスの要因だろう。
でも、あの後に改めてメールを送るのは何となく躊躇われた。
それならばここにオカリンが来るまで待っていよう、というのが昨日の夜に出した結論。

しかして、暇をつぶす手段を思いつくまでは思考が巡らなかった。


まゆり「待ちぼうけさんだねぇ…」


そう言いながら何となく屋上のフェンスに足を進めると、そこには……。


岡部「まゆり、早かったな」

まゆり「わわ、ビックリしたのです」


オカリンが、地面に寝転がって空を見上げていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:16:47.96 ID:44C2QMkV0<>
まゆり「もぅ、いきなり驚かすなんてオカリンはイジワルだよぅ」

岡部「済まない。 驚かすつもりなんて無かった」


岡部「ただ…アイツはどういう気持ちでここに寝そべって、一体何を考えていたのかが知りたくて…」

まゆり「?」

岡部「……何でもない」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:18:24.52 ID:44C2QMkV0<>
岡部「まゆり」

まゆり「うん」


岡部「…今から話すのは、鳳凰院凶真が戦ってきた歴史だ」

まゆり「うん」

岡部「全ては設定、仮初め。この世界では『なかったこと』。
   そんな『もしもの物語』を前提として聞いてくれ」



岡部「狂気のマッドサイエンティストことこの俺、鳳凰院凶真。
   いつものように研究に勤しんでいたある日、奇跡の未来ガジェットを作り上げた」


岡部「未来ガジェット8号、電話レンジ(仮)。
   それは、過去にメールを飛ばせるという擬似的なタイムマシンだった」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:22:03.42 ID:44C2QMkV0<>

オカリンは、全てを話した。
長い長い時間をかけて、全てを話してくれた。


オカリンの話す物語では、ラボメンが8人に増えていた。
ラボメン達が織り成す群像劇を誇らしげに話してくれた。

その日々を噛み締めるように。


深甚な情が見える優しい声色で、一人の女の子のことを教えてくれた。
ラボメンで一番頼もしい女性だと表層的に取り繕いながら。

抱いた想いを噛み[ピーーー]ように。


鳳凰院凶真の物語をまゆしぃに語り聞かせた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:26:49.27 ID:44C2QMkV0<>
岡部「そうさ…! この俺、鳳凰院凶真は…一人の女を犠牲にして、この世界に辿り着いた!」


岡部「戦い続けた世界線は抹消され、世界は改変された」

岡部「全ては…全ては『なかったこと』になる!」


岡部「そう、こうして日々を平和に過ごす今、これこそが運命石の扉(シュタインズ・ゲート)の選択!」


口元は三日月、眉毛は八の字。自虐的な表情を隠しつつ、空を仰ぎ見てオカリンは高笑いをする。
コップ一杯の水を零さず運ぶような、危うさを醸し出しながら。


まゆり「オカリン」

岡部「エル・プサイ……」


まゆり「もういいんだよ、オカリン」

岡部「コング………ルゥ…!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:29:19.89 ID:44C2QMkV0<>
オカリンの語る『鳳凰院凶真』の話を聞いて、一つだけ確かなことがあった。

仮にもしその話が本当じゃなくても、仮初めで形成された夢物語だったとしても。
オカリンがいつも助けに来てくれる夢は、オカリンの中で本当にあった事柄だったんだ。

その夢の中では、ラボメンはオカリンの言うように8人居て。
みんなとっても楽しそうにラボに集まって…。

そして、まゆしぃの身に何かあって、オカリンはそれを解決するために走り回っていた。


泣きながら、走り回っていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:31:52.56 ID:44C2QMkV0<>
そんなオカリンを傍でいつも支えてくれていた、凛とした女の子の姿が情景にうっすら浮かんでくる。

いつもラボを活気付けてくれていた、理知的な女の子。

オカリンといつも言い争いながら二人にしか分からない論理を語っていた。

強気で勝気、でもそれは寂しがりやの自分を騙すための虚勢と気づいてから、
まゆしぃはその子をとても愛しく思っていた。



――サンクス、まゆり


思い出そうとすると、そんな言葉が耳の奥に優しく木霊を繰り返す。


確かにそこに居た筈なのに、何故だかその子の顔をまゆしぃは思い出せない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/10(金) 01:35:45.69 ID:44C2QMkV0<>
私は大粒の涙を零しながら、オカリンを抱きしめた。

壊れそうな心を隠すように纏った『狂気の科学者』ごと、そっと優しく。


まゆり「辛かったよね、大変だったね」

岡部「な、何を馬鹿な。最初に言っただろう、これはあくまで設定の話であって…」


まゆり「頑張ったね……」


岡部「うっ……ううっ……くっ……うううううぅぅぅ……!」



オカリンの目蓋から止め処ない涙が溢れてくる。



ようやく分かった。

オカリンの心は、もうどうしようもない程までに傷ついていた事を。

磨り減りすぎて、どこが傷ついているのか分からないくらい磨耗していた事を。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/05/13(月) 17:17:59.44 ID:s4gOsD5CO<> 支援 <>