VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 22:01:30.48 ID:V1/jJoJX0<>page1

ガブリエル=ランスウォーカーは、早くに両親を失った。
そして遠い親戚にたらい回しにされながら、8歳のガブリエルは出身地方の外れにある孤児院に引き取られることになった。
小高い丘の上に立つ、通称『青あざの棟』。


ガブリエルは、図書塔の中にいた。
古書の匂いが好きであるという理由の他にも、授業を抜け出したいという欲求があった為である。
図書塔の奥にある閲覧室の中で本を読みながらじっと待つ。
本は何でもかまわない。『魔術書』、『歴史学』、『流通歴』・・・・。
とにかく、現実から少しでも逃亡できる物があれば何でもよかった。
「祿歴2年、ガダネ国女王カリデレネ=ガダネは宮廷の私産を使い果たした後、膨大な納税を国民に課したが・・・」
「・・・魔術師ベルウェアの・・・怒りをかい・・・」
「『苦しみの人形』で・・・・」
「カリデレネを・・・・城内の・・・・金庫室の前で・・・呪殺・・・」
「・・・・『苦しみの人形』か・・・」
彼は閲覧室を出ると、彼の身長の3倍はある書棚が並ぶスペースへ移動した。
まだ立派とは言えない大きさのガブリエルはずらっと並ぶ本を見比べながら歩いた。


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<>レオナルドの片翼 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 22:54:29.65 ID:V1/jJoJX0<>
大きなスペースにこれでもかと押し込まれた本達は、少し触れてしまっただけで全ての均衡が崩れてしまいそうだ。
その多くの本の中から選び取ったのは、『禁ず呪術』という本。
昔から現代に至るまで、多くの魔術師が禁忌を犯して作り上げた呪術の効果が書いてある。
発禁処分を受け、一部の流通ルートを除いてはお目にかかれない本である。
本を片手に、ガブリエルは閲覧室に戻った。
「・・・これだ。」


『苦しみの人形』
「魔術師ベルウェア=フランソワが20年という構想を経て作った呪術。道化師によるパペットの余興がヒントになったと言われている。効力は人体を乗っ取り、術士にしか自由がきかなくなるものだ。術自体の構造は綿密に練られた結果、非常に複雑な物になっており術の継承は口伝である。一部の人間の間では『暗殺者(アサシン)』が現在までこの術を継承し、それを使用し暗躍しているという噂がある。」


「『暗殺者(アサシン)』かぁ・・・・」
そうつぶやくと本を閉じて閲覧室の窓から外を見た。
高低差の多い場所に立つ孤児院からは、大きな空とどこまでも続く草原しか見えない。
たまに通る物と言えば家畜を積んだ馬車程度の物だった。
だが、窓に付けられた鉄格子に顔を思い切り近づけてガブリエルはその外の風景を眺めていた。
孤児院に来るまでは広い世界がこんなに魅力的な物だとは気づかなかったからだ。
少年は、光が差し込んでいるはずなのに年中暗い雰囲気の孤児院はもうこりごりだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 00:45:54.99 ID:9UCC5NDe0<>
「ガブリエル!」
外への空想を巡らしている彼の脳味噌を急にストップさせる声が聞こえた。
振り向くと、閲覧室のドア越しに顔を真っ赤にした初老の女性が紫がかった唇の間からふーっ、ふーっと息を漏らしながら立っている。
「ガブリエル!!あんたって奴は一体何をしているんだい!?こんなゴミみたいな場所でクソ垂らして永遠に外眺めてるつもりだったのかい!?」
ガブリエルは言った。
「違うよ、エレオ先生。・・・『祈り』の時間に間に合うように仕度はしたんだ。そうしたら『ヒッチドワ』がやってきて僕の持っていた聖書を奪っていったんだ。」
ガブリエルの上目づかいの言い訳を聞いたエレオは
「はん!『ヒッチドワ』だって?!・・・・もうお前にはうんざりしたよ!あたしは正直な子しか救ってやれないね!!」
エレオは一度ガブリエルの頬をぴしゃっとはたきシャツの襟首を持つと、ネクタイが乱れるのもかまわず文字通り図書塔から引きずっていった。
「やめてよ、エレオ先生。長いズボンじゃ無いから太ももが地面に擦れて痛いよ・・・。」
「うるさいんだよぉ!この甘ったれ!臆病野郎!あんたはこの院の害虫なんだよ!」
まだ非力なガブリエルは思いきり引っ張るエレオに太刀打ちできない。
良いタイミングをつかんでとにかく立ち上がるところまでしか出来なかった。
「ネクタイが頸に引っかかって苦しいよ・・・・」
だがエレオは一切聞く耳を持たない。
「なんでこんな意地悪をするの・・・・?」


エレオに無理矢理連れてこられたのは、院長室だった。
院長室の前に来たときガブリエルははっと気がついてエレオに
「い、院長室は!駄目!駄目だ!本当に駄目だよ!!・・・お願い・・・・懺悔でも何でもしますから・・・」
と両目に涙をためながら懇願した。
「今更遅いんだよ・・・。あたしはお前みたいなウジ虫が・・・大嫌いなんだ・・・。」
エレオは意地悪く笑いながらガブリエルの顎をつまみ、彼女の顔に近づけた。
「でもね・・・よくお聞きよ・・・・あたしは・・・・ウジ虫の悲鳴を・・・聞くのが好きでね・・・・」
一つ一つ噛み締めるようにエレオは言った。
泣くのを堪えているガブリエルから目を離し、院長室のドアをノックした。
すると、中から男性の声が聞こえた。
「入りなさい」


エレオがドアを開けると、ガブリエルを部屋の中に押し込み
「レイムズ院長。ガブリエルが、『祈り』をちょろまかして閲覧室に居ました。」
聞いたことの無いような声色のエレオが、孤児院長レイムズに報告した。
両端には、香木を使った家具が置かれ中央には高級な繊維を使っているであろう赤い大きなカーペットが敷かれていた。
「おやおや、話には聞いていましたが。まさか私の所まで来てしまうとは。」
院長室の奥に陣取っているのは、特殊な加工を施した机だ。
そしてそこに座っているのは、レイムズ。丸眼鏡をかけて、祠祭のような服を着ている。
レイムズの書斎は寂れた雰囲気の孤児院と別の場所にあるんじゃないのかと言うほど着飾った部屋だ。
「違います!レイムズさん!僕は・・・『ヒッチドワ』に聖書を・・・」
「ガブリエル。・・・・中級の・・・そこらの魔術師が少し苦労するくらいの・・・そんな『召喚鬼(ミスルテ)』がこの院内に現れるわけが無いでしょう。大方、『祈り』が退屈で退屈でしょうが無かったんでしょう?」
「・・・」
「エレオ。」
レイムズが目で合図すると、エレオは満足げといった顔で院長室から出て行った。


「さて、ガブリエル。君は・・・この院のお約束は知っていますね?」
ガブリエルは、怪訝とした表情で机越しにレイムズを見る。
「・・・・ガブリエル。忘れてしまったなら・・・思い出させてあげましょう。この院のお約束はたった一つ。」
一拍おいてレイムズは
「『良い子でいる』、です。」
「レイムズさん、お仕置きはやめて・・・」
「ガブリエル、聞こえませんでした?」
「え・・・・?」
「復唱してください」
「あ・・・・」
「『良い子でいる』」
「い・・・・う・・・」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/02/13(水) 14:48:09.82 ID:UEWRS+1Ko<> ... <>