VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/28(金) 00:46:18.93 ID:jo+olBoY0<>【Prologue】
黒の国、魔王の城の大広間で勇者と魔王は対峙していた。
今しがた勇者が開けた扉から流れ込んだ冷たい風が二人の間を無神経に通り過ぎる。
勇者「よっ」
できるだけ明るく垢抜けた声を出すよう意識して勇者はそう声をかけた。
魔王「遅い、遅刻だ!!」
できるだけ重々しく威厳のある声を出すよう意識して魔王はそう答えた。
しかし二人の声は震えており、顔は今にも泣き出しそうに歪んでいる。
涙を流すまいと必死に堪える二人の眼は既に赤く色づいていた。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1356623178
<>勇者「よっ」魔王「遅い……遅刻だ!!」
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:47:19.73 ID:jo+olBoY0<> 魔王「貴様という奴はいつもいつも待ち合わせには遅れてくるのだな」
この小言は魔王が勇者にかけた言葉の中で『遅刻だ』の次に多いだろう。
いつものように勇者にそう言うことで魔王は少しだけ平静を取り戻した。
勇者「悪ぃ悪ぃ、今日は時間に余裕持って出てきたつもりだったんだけど……どうにも足が思うように動いてくれなくてな」
ハハッ、と笑いながら言った勇者であったがその笑顔が無理に作ったものにすぎないことは勇者自身実感していた。
勇者「………………」
魔王「………………」
お互いかける言葉を探しているがこの世界のどこにもそんな言葉は見つからないだろう。
二人でいる時は沈黙こそ心地よかったものだが今はその沈黙に押し潰されそうになっている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:48:26.20 ID:jo+olBoY0<> 魔王「まぁ…………なんだ」
スラァ……チャキ
魔王は口を開くと腰に差していた魔剣を抜き、構えた。
魔王「こうしていても仕方ない……始めよう」
勇者「…………本当に……本当に俺達は闘うしかないのか……?」
魔王「……そうだ、それが私達の宿命であり……使命だろ?」
勇者「…………そうか、そうだな…………」
勇者は力無く答えると背負っていた聖剣を抜いた。
魔王「言っておくが手加減などするなよ?」
勇者「当たり前だ、お前こそ手加減なんかしたら承知しねぇからな」
魔王「フッ、それでこそお前だよ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!
解放された両者の魔翌力が大気を震わせ地鳴りを起こす。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:49:20.60 ID:jo+olBoY0<> 魔王「なぁ……勇者?」
勇者「なんだよ」
消え入りそうな声で魔王が言う。
魔王「…………今まで、ありがとう」ツー
魔王の真紅の瞳から大粒の涙が一粒こぼれ落ちた。
勇者「……馬鹿、何泣いてんだよ」ポロッ
流れ出た魔王の涙を目にし、勇者もまた涙を堪えることができずに泣いた。
魔王「ハハッ……最後にこうして……勇者の泣き顔を見ることができるとはな」ポロポロ
勇者「うるせーよ……さっさと始めようぜ」ポロポロ
もはや溢れ出す涙を止めることなどできはしなかった。
流れる涙を振り払うように二人は叫んだ。
魔王「…………ならばいくぞ、勇者よ!!」ドンッ!!
勇者「あぁ!!魔王!!」ドンッ!!
勇者と魔王、古より闘うことを宿命づけらし二人の死闘が幕を開けた。
――――それはとある月の無い夜の物語。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:50:29.04 ID:jo+olBoY0<> 【Episode01】
――――白の国・王都・王宮
どの国でも王の間というものは豪華な装飾の施された広々とした空間に王と大臣、少数の護衛がいるのみである。
金と空間の無駄遣いとも言えるその場所だが今日の白の国は違った。
仔猫一匹通ることができないほど大勢の人々がひしめき合っている。
上流貴族から街の商人、はてや旅芸人まで身分は様々だ。
王の間に入り切らない人々はこの日のために王の間の吹き抜けを利用して作られた特設観覧席へ、そこにも入れない人は危険を冒して城の外壁にしがみつき窓から王の間を見ている。
それほどの数の人々がいるというのに王の間は物音一つせずに静まりかえっている。
群集は皆、王の間の中央――――王とその前に跪く少年をただじっと見つめている。
やがておもむろに白の王が口を開く。
白の王「大魔導師」
大魔導師「はい、彼の魔翌力、魔法のセンスはこのわしすら遥かに凌ぐほど。なんら異論はありませんな」
白の王「騎士団長」
騎士団長「ハッ、大勇者様に勝るとも劣らぬ剣の腕、反対するいわれなどありはしません」
白の王「ふむ……では最後に大勇者の意見は?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:51:47.90 ID:jo+olBoY0<> 大勇者「そうですね……」
大勇者と呼ばれた中年の男は目を閉じ、口髭を撫なでて何かを思案しているようだったが静かに目を開けると言った。
大勇者「親の贔屓目無しにしても彼の勇者としての資質は他の勇者候補達の中でも飛び抜けています」
大勇者「真の継承はまだ先となるでしょうが次なる勇者は彼をおいて他にいないかと」
白の王「そうか……では」
白の王はゆっくりと立ち上がり低い声を広間に響かせた。
白の王「白の王の名において命ずる、今この時よりお主を第100代目勇者とする!!」
白の王「悪しき魔族と災厄の化身、魔王を倒すためにその力、その魂を世界の全ての人間に捧げることを誓え!!」
勇者「ハッ!!この力、この魂は生きとし生ける全ての人々のために!!!!」
おーーーー!!
わーー!!わーー!!
パチパチパチパチ!!!!
新たに勇者へと任命された少年が凛々しく誓いの言葉を述べると同時に王の間はギャラリー達の割れんばかりの歓喜の声と盛大な拍手に包まれた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:52:55.79 ID:jo+olBoY0<> ――――王宮・中庭
わいわいがやがや!!
勇者任命の儀とそれを祝う宴は白の国……いや、この世界最大の宴と言っても過言ではない。
新たな勇者を一目見ようと各国から何千何万という人々が白の国へと訪れ、宴は十日余り続く。
王宮前の大通りは屋台が立ち並び、夜には舞踏会が行われ、花火が上げられる。
この宴の規模の大きさこそが勇者という存在が人々にとっていかに大きな存在なのかを暗に示していると言えよう。
わいわいがやがや!!
祭りを行きかう人々の話題はもっぱら新勇者のことでもちきりだ。
「やはり100代目の勇者様は大勇者様のご子息であったか」
「どうせコネだろ、コネ。親の七光りってやつだよ」
「しかし剣も魔法も超一流の腕と聞く、勇者の名を冠するということは伊達ではないさ」
「歴代最強と言われる99代目勇者の父上の名が重荷にならなければ良いですけど……」
わいわいがやがや!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:53:41.88 ID:jo+olBoY0<> 勇者「あ、そこのお姉さん!!」
メイド「はい、いかがなさいましたか?」
勇者「俺にも1杯ドリンクくれないかな?え〜っと……そのオレンジのやつ」
メイド「かしこまりました、どうぞ」スッ
勇者「どうも♪」
勇者「……よし、変装は完璧みたいだな♪」ボソッ
帽子を目深に被り、黒縁の伊達眼鏡をかけ、地味な茶色の服に身を包んだこの少年が先ほど任命の儀を済ませた勇者だとは誰も思わないだろう。
王宮の窓硝子に写った自分の姿をじっくりと見てから満足気にうんうん、と二度頷くと勇者は手にしていたドリンクを一口飲んだ。
頼んだドリンクはどうやらアルコールだったらしい。
酒の飲めない勇者は顔をしかめた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:54:29.44 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「よぅ、勇者ぁ!!飲んでるー!?」ダキッ
勇者「おわっ!!ま、魔法使い!?」
突然背後から抱きつかれて勇者は持っていたドリンクを溢しそうになる。
魔法使い「何さ、お祝いに来てくれた仲間に向かってその態度は〜」
勇者「あのなぁ、誰だっていきなり後ろから抱きつかれたらビックリするに決まってるだろ?」
勇者「それに俺がなんのために変装してると思ってるんだよ、周りに聞こえるような大声出すな、少しは気を遣え」ヒソヒソ
魔法使い「にゃはは、ごめんごめん☆」
特に悪びれた様子もなく魔法使いは両手のグラスを交互にあおった。
勇者「そんなにグビグビ飲むなよ……任命早々新聞に『勇者一行魔法使い、飲酒で粗相!!』とか載るのヤだからな」
魔法使い「だいじょーぶぃ♪」
勇者(もう相当できあがってやがる……)
魔法使いの言葉に些かの安堵も得られぬ勇者に声をかける者がいた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:55:19.42 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「いや〜、魔法使いさんはもう酔ってますねぇ」クスクス
笑顔で武闘家が言った。
僧侶「ホント、お酒はほどほどにしてねってあれほど言ったのに……」ハァ
ため息をつき僧侶が言う。
勇者「お前らも来てたのか」
僧侶「勇者君の晴れ舞台なんだし当たり前だよ」ニコッ
勇者「……つーか俺ってやっぱ勇者だってわかる?これでも上手く変装したつもりだったんだけど……」
武闘家「いえ、傍目には地味な学生ぐらいにしか見えないんじゃないですか?」
勇者「じゃあなんでお前らはわかるんだよ」
武闘家「僕達何年の付き合いだと思ってるんですか、変化魔法で別人に変身していたってわかりますよ」フフッ
勇者「それはそれで怖いな」ハハッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:56:26.38 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「とりあえず、勇者の任命おめでとうございます」スッ
僧侶「おめでとう、勇者君♪」スッ
二人は各々のグラスを勇者へと差し出す。
勇者「あぁ、ありがとう。これからもよろしくな」スッ
勇者はそれに答え自らのグラスと二人のグラスを軽くぶつける。
キン、という軽い音が二つ生まれ、宴の賑わいの中に消えた。
武闘家「……あれ?勇者お酒飲めるようになったんですか?」
勇者「飲めないよ、間違えて貰ってきちゃっただけだ」
魔法使い「ん、じゃああたしがもーらう♪」ヒョイ
勇者「あ、コラ!!……まぁいいか、どうせ飲めないんだし」
僧侶「ねぇ、勇者君?」
勇者「ん?何?」
僧侶「任命の儀の時に大勇者様が『真の継承はまだ先』って言ってたけど……あれってどういうこと?」
僧侶「任命の儀を済ませたんだから勇者君はもう正式に100代目の勇者じゃないの?」
僧侶は不思議そうに小首を傾げた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:58:00.34 ID:jo+olBoY0<> 勇者「あ〜……あれな。僧侶は勇者になるための条件ってわかるか?」
僧侶「うん。勇者の刻印を持ってる勇者候補の中から特に勇者の素質に優れた人が次の勇者になるんでしょ?」
勇者「そ、僧侶も子供の頃に教会で洗礼受けただろ?あれで勇者としての適性……つまり魔王と闘えるだけの潜在的な力を持ってる奴にはこうして腕に刻印が現れる。その素質が高ければ高い程ハッキリと鮮やかにな」
言って勇者は周りからは見えないように自らの右手の袖を捲った。
彼の腕には燃える様な朱の紋様が浮かび上がっている。
この色が勇者の素質を持つということの証である。
幼子の頃に教会で洗礼を受けるとほとんどの子は腕に刻印を宿す。
その刻印によって潜在的な魔翌力や肉体的な強さなどが判明するのだ。
攻撃魔法の適性があるなら蒼の刻印、
回復・補助魔法の適性があるなら翠の刻印、
肉体的な強さに適性があるなら黄色の刻印、
といったように刻印の色によってその子供の才能が分かるのである。
僧侶「何度見ても綺麗な赤だね」
勇者「そうか?なんか見慣れちまったからな」ハハッ
勇者「……んで朱の刻印を持つ勇者候補が修行して力をつけていって一番勇者に相応しい奴が次の勇者になるんだけど……今回はちょっと特殊なケースなんだ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:59:20.02 ID:jo+olBoY0<> 武闘家が引き継ぐ。
武闘家「勇者のお父さん……大勇者様がまだご健在ですからね」
僧侶「?」
武闘家「大勇者様はその歴代最強とも謳われる実力で長年に亘って魔族と闘い、数々の戦果を上げて来ました」
武闘家「その活躍ぶりは僧侶さんもご存知ですよね?」
僧侶「当たり前だよ、すっごく強かったって言われてる先代の魔王を倒してからもずっと前線で闘ってる白の国の英雄だもん、白の国の人達だけじゃなくて世界中の人が知ってるよ」
武闘家「そうですね、そしてそれが勇者がまだ真の勇者たりえない理由なんです」
僧侶「どういうこと?」
武闘家「勇者の継承にはその勇者候補の出身国の王の任命の他にもう1つ、条件があるんです。それが……」
勇者「聖剣の加護、だ」
僧侶「聖剣の加護?」
武闘家「そう、勇者にのみ扱うことを許された世界に一振りの剣、それが聖剣です」
武闘家「勇者は聖剣の所有者となる時に聖剣と契約を交わします。契約が果たされることで聖剣はその秘めたる力を主である勇者に解放し、勇者は人外の力を手に入れるのです」
武闘家「それが聖剣の加護」
武闘家「聖剣の加護を受けられるのは世界に勇者ただ1人だけ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 01:00:48.30 ID:jo+olBoY0<> 僧侶「あ、じゃあ……」
武闘家「そうです。今聖剣と契約しているのは大勇者様ですから勇者は聖剣と契約することはできない」
武闘家「『真の継承はまだ先になる』と大勇者様が仰っていたのはそういう理由ですよ」
武闘家「本来なら勇者の任命はその代の勇者が魔王に倒されるか引退するかして、新しい勇者が必要になってから行われるものですからね、現役の勇者がいるにも関わらず次の勇者の任命を行うことは異例なんです」
武闘家「先代の魔王を倒して十数年もの間、勇者として前線で活躍なさっている大勇者様と、現時点でその後を継ぐに相応しい実力を持つと認められた勇者がそれだけ凄いってことですよ」
勇者「誉めても何も出ねぇぞ」
僧侶「へぇ〜〜……武闘家君ってホントに物知りだよね〜」
武闘家「ふふ、そんなことありませんよ」ニコッ
魔法使い「魔王だかなんだか知らないけどあたし達にかかれば赤子の首を捻るようなもんだー!!」
勇者「首捻ってどーすんだよ、怖ぇよ。手だよ手」
魔法使い「そーそーそれそれ♪」
魔法使い「あたし達が魔王を倒して黒の国を落として世界に平和を取り戻すんだぁー♪」
誰がどう見てもただの酔っぱらいにしか見えない少女に勇者と僧侶がうんざりため息をつく。
武闘家はいつもの様ににこにこ笑ってる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 01:02:03.69 ID:jo+olBoY0<> 僧侶「でも……魔法使いちゃんの言う通りだね」
僧侶「私達の代で世界に平和を取り戻せるといいね……そのためにも勇者君、絶対魔王を倒そうね!!」
勇者「…………あぁ、そうだな」
勇者は少しだけ、本当に少しだけ悲しげにそう答えた。
瞳には微かに困惑の色が浮かんでいた。
武闘家(…………?)
僧侶「そ、それはそうと勇者君?」モジモジ
勇者「ん?」
僧侶「あのね、そろそろ舞踏会が始まるけど……これから予定あるかな?やっぱりこのパーティーの主役だし忙しい?」
頬を赤らめながら僧侶が尋ねる。
勇者「いや、確か今日は特に予定もなかったハズだけど………………」
僧侶「じゃ、じゃあさ、わ、わた、私と一緒に舞踏会に出てくれたらな〜、なんて思うんだけ……」
勇者「あーーーー!!!!!!」
突如上げられた大声に中庭の誰もが勇者の方を向いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 01:03:23.22 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「どうかしたんですか?」
勇者「あ、あぁ、それが待ち合わせがあるのをすっかり忘れてたんだ……!!」オロオロ
魔法使い「ほほーう、彼女かにゃ?」ムフフ
僧侶(!!)ピクッ
勇者「馬鹿、違ぇよ、ただの幼馴染みだよ、お さ な な じ み!!」
魔法使い「なーんだ、つまんないの〜」
僧侶(……)ホッ
勇者「えーっと、なんだっけ僧侶?舞踏会の時に……」
僧侶「あ!!うぅん、なんでもないの!!なんでも!!」アハハ〜
僧侶「先約がいたんじゃ仕方ないよね、勇者君は急いでそっちに行ってあげて」
勇者「そっか、悪いな!!ホントごめん!!じゃあ俺行ってくるわ!!」タタタッ
慌てふためきながら勇者はその場を後にした。
武闘家「行っちゃいましたね〜」
魔法使い「残念だったね、僧侶〜、せっかく勇者との距離を縮めるチャンスだったのに〜」ニヒヒ
僧侶「からわかないでよ、もぅ!!」カァ
武闘家「それにしても……勇者に幼馴染みがいるなんて聞いたことありましたか?」
魔法使い「んにゃ?」
僧侶「そういえば私も聞いたことないや」
武闘家「僕も初耳なんですが……」
「…………???」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 01:04:50.76 ID:jo+olBoY0<> ――――緑の国・名も無きの湖のほとり
この世界に十ある国々の中で緑の国は黒の国に次いで二番目に大きな国である。
しかし『大きい』と言うのは国土の話であり軍事力はほぼ皆無、自衛のために形だけの国王軍があるのみだ。
その広大な領土の約八割が森林と草原という緑豊かなこの国は争いを嫌い、黒の国――――つまり魔族の軍勢――――に対抗するため白の国が中心となって作った『聖十字連合』には非加盟であり、黒の国とも戦争をしていない。
それ故に聖十字連合、黒の国は緑の国での戦義協定により禁止している。
この世界で最も美しい自然を有するこの国は最も平和に近い国であり……見方によっては最も平和から遠い国であると言えよう。
シュンッ!!
勇者「……っと」スタッ
勇者は転移魔法でこの地へと降り立った。
空間転移にかかる時間は距離と使用者の力量に左右される。
白の国の中央に位置する王都から緑の国の外れのこの場所へと長距離の転移をするとなると、並みの魔法使いでも十数分はかかるが、転移魔法を得意とする勇者は数秒程度で転移に成功した。
もっとも、勇者は今日までこの地に何百回と訪れているためここへの空間転移にすっかり慣れているのだが。
勇者「ぅわ〜〜……すっかり遅くなっちゃったからな〜、まだいるかな……」キョロキョロ
勇者「……お、いたいた♪」タッタッタ
湖のほとりに設けられた質素な休憩所。
そのベンチに待ち合わせの相手が腰かけているのを見つけると勇者は休憩所へと駆けていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:05:03.90 ID:t+Iy3nYAO<> 「魔力」も「殺す」もまともに書き込めない>>1とか・・・
書き始める前に初心者案内用のスレくらい見れないのか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 01:06:25.09 ID:jo+olBoY0<> 勇者「よっ」
「遅い、遅刻だ!!」ギロッ
勇者が声をかけるとベンチに座っていた女性――――魔王はパタンと読んでいた本を閉じ、鋭くと勇者をにらみつけた。
魔王「まったく貴様という奴は待ち合わせに毎度遅れて来おって……!!」
勇者「そう言うなって、こっちも忙しくてさ、なんとか時間作って来たんだぜ?」
魔王「ふん、貴様のことだ、大方すっかり忘れていたのだろう?」
勇者「うぐ……」グサッ
魔王の辛辣な言葉が勇者の心に痛恨の一撃を放つ。
勇者「ま、まぁいいじゃねぇかよ、遅れてでもちゃんと来たんだしさ、来ないよりもよっぽどマシだよ、うんうん」
自分に言い聞かせるように頷きながら勇者は言って魔王の左へと腰を下ろす。
魔王「ハァ……デートに遅れて来るような男はいずれ愛想を尽かされるぞ?」
勇者「生憎デートするような娘なんて俺にはいないんでね」
魔王「相変わらずの唐変木め……」
勇者「ん?なんか言った?」
魔王「なんでもない」フイッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 01:12:29.27 ID:jo+olBoY0<> >>18
すみません、完全に確認不足でした <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:36:52.57 ID:jo+olBoY0<> 勇者「……って言うかお前……口調」
魔王「む?」
勇者「だから口調だって、俺と2人の時はその堅ッ苦しい口調じゃなくていいって言っただろ?」
魔王「そうであったな……どうもこちらの口調でいる時間の方が長いものですっかり慣れてしまった……」
魔王「ゥオッホン!!」
魔王は盛大に咳払いすると声の調子を確かめた。
魔王「あーあ〜…………うん、これでいいかな?」
勇者「うん、よし」
先程までの厳かで重厚な声とはうって変わって、どこにでもいる普通の女の子の声で魔王は話し始めた。
魔王「わたしもあーいう低い声で重々しく話すのなんてホントは嫌なんだけどさ、どうにも魔王って立場上そういうわけにもいかなくって……」ハァ
勇者「まぁなー、100代目魔王様がこんな風に女の子の高い声で話してたら威厳も何もあったもんじゃないからな〜」
魔王「そういうことっ」
魔王「あ、そう言えば勇者の任命の儀って今日だったんでしょ?」
勇者「あ、あぁ」
魔王「えへへ、これで勇者もやっと正式に勇者に認められたわけだ、お姉ちゃんは嬉しいぞ♪」ナデナデ
勇者「だぁ!!頭を撫でるな!!それに二つしか歳変わらねぇクセに姉貴面もするな!!」カァッ
耳まで赤くして勇者が抗議する。
魔王「ふふ、ごめんごめん」
勇者「……ったく、お前って奴は……」
勇者(元の口調に戻ると性格もガラッと変わるからな…………ま、こっちの魔王が素の魔王なんだけど……) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:37:52.04 ID:jo+olBoY0<> 魔王「どうかした?」
勇者「どうにもしねーよ」
勇者「……それよか……」
勇者は魔王の長く伸びた黒く艶のある黒髪を見て言った。
勇者「髪、伸ばしてんだな」
魔王「ぇえ!?今さら!?」
勇者「え?」
魔王「髪伸ばし始めてもう2ヶ月だよ!?遅いよ!!」
勇者「いや、だって前から大分長かったじゃん!!そこからさらにちょこっと伸びたって気づくわけな……」
魔王「シャラ〜〜〜ップ!!」
勇者「」ビクッ
魔王の剣幕に押される勇者。
魔王「女の子の変化には敏感に反応してあげないとダメなんだよ?」
魔王「そんなんじゃ勇者のこと好きになってくれた娘がいてもすぐ心変わりされちゃうよ!!」
勇者「へーへー、どうせ俺は乙女心がわかりませんよ〜、そんな俺に恋する女の子なんかいるワケないだろっての」ケッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:38:44.06 ID:jo+olBoY0<> 魔王「…………」
プニ
勇者「?」
魔王は左手の人指し指をピンと伸ばすと勇者の右の頬をつついた。
魔王「そーゆーところが鈍チンだって言ってるの〜」グリグリ
勇者「な、なんだよ」
魔王「はぁー……なんだかなー……疲れちゃうよ」
ガクリと頭と肩を落として魔王が言った。
勇者「そりゃこっちの台詞だ」
わけがわからない、と勇者もため息をつく。
しばらく魔王は目の前の湖、その水面を物思いに眺めていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:39:53.27 ID:jo+olBoY0<> 魔王「……ねぇ勇者?わたし達がここでこうして会うようになってどれくらい経つかな?」
勇者「え?えーっと……あれだよな、初めて会ったのが俺が7歳の頃だから……10年ぐらいじゃないか?」
魔王「そっか……もうそんなになるんだね……」
勇者「10年、か……」
魔王「なんだかあっという間だったね」
勇者「ハハ、たしかにな」
勇者「……て言うかなんだよ、急にそんな話して」
魔王「うん…………勇者とこうしてここで一緒に過ごせる時間もこれからはあんまりとれないのかな、って思ってさ」
勇者「別にそんなこと………………いや、たしかにそうかもな」
勇者「正式に勇者に任命されたんだ、これからは色んな国を巡ったり色んな戦場に行ったりしなきゃならなくなるかもな……」
勇者「ここでこうしてお前と会うことも少なくなっちゃうかも知れないな……」
魔王「うん……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:40:43.82 ID:jo+olBoY0<> 勇者「……でもさ、俺が勇者に任命されたってことは俺達の夢にまた一歩近づいたってことだろ?」
勇者「そう悲しむことじゃないさ、むしろ喜ばなきゃ」
魔王「そっか……そうだね」
勇者「俺達の夢が現実になったらきっと毎日だって会えるさ、だからそれまではちょっと会える機会が減ったって我慢しようぜ」ニッ
魔王「うんっ」ニコッ
勇者「ところでさっき何の本読んでたんだ?」
勇者は魔王が右手に持っている本を見て尋ねた。
本にはブックカバーがかけられており勇者には題名がわからなかった。
魔王「勇者には全然わかんないようなムズカシー本だよ」フフッ
腰まで伸びる髪を人指し指にクルクルと巻きつけて魔王は笑って答えた。
勇者「あ、お前馬鹿にしてんな!?」
魔王「だって勇者漫画とエッチな本しか読まないでしょ?」
勇者「そんなことねぇよ!!つーかエロ本は余計だ!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:42:04.75 ID:jo+olBoY0<> 白の国の王都では舞踏会が始まり王宮の大広間はきらびやかな衣装に身を包んだ人々が吹奏楽団の奏でる曲に合わせてパートナーと手を取り合って踊ってる。
「でな、その後に武闘家がさ……」
「でもそれって勇者が……」
「あ、てめぇこの……」
「ふふっ……」
緑の国の静かな湖畔では勇者と魔王、二人の話声だけが風に乗って流れていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:43:46.62 ID:jo+olBoY0<> 【Memories01】
――――10年前・緑の国
その日俺は親父に連れられて緑の国に来ていた。
なんでも古くからの友人に会うんだとか。
親父「よし、もう少しで着くぞ」
親父は脇を歩いている俺の方を向いて言った。
ずっと山道を歩いてきて俺は酷く疲れてたんだけど親父が何度「おぶってやろうか?」と言ってもそれを断った。
男がおぶってもらうなんてかっこ悪いと思ったからやせ我慢してたんだ。
親父「綺麗なところだろう?この国は中立国だから戦争もなくてな、こうして雄大な自然が広がっているんだ」
俺「チューリツコクって?」
親父「勇者も人間と魔族が長い間戦争をしているのは知っているだろう?」
親父「白の国、赤の国、橙の国、黄の国、青の国、藍の国、紫の国、銀の国……この8つの国が結んだ軍事同盟が『聖十字連合』」
親父「その聖十字連合と黒の国が戦争をしているんだが緑の国はどちらの軍勢の味方もしていないんだ」
親父「そういう風に周りで戦争が起こった時にどこかの国に協力したりしない国を中立国って言うんだ」
俺「へぇ〜〜……」
親父「本当に分かったのか?」
俺「むずしい話されてもおれよくわかんねーや」
親父「だろうな」ハハッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:45:00.44 ID:jo+olBoY0<> 話しているうちに目的地に着いた。
一軒のログハウスが森の中にひっそりと建っていた。
その小屋は小さくてもしっかりとした造りで、森の中の木々達と調和しているように感じた。
親父がドアをノックすると、ドアがギィと不快な音を立てて開き、中から大男が出てきた。
親父より頭一つ大きいその男は筋骨隆々を絵に描いたようなたくましい男だった。
大男「よぅ、大勇者。久しぶりじゃねぇか」
親父「剣士こそ、久しぶりだな」
俺は「なるほど、この人が剣士なのか」と思った。
親父と一緒に数々の戦場を駆け抜けた相棒。
魔王とも剣を交えたことがあったという凄腕の剣の使い手らしい。
よく親父から剣士のオッチャンの話を聞かされていたからどんな人なのかと思っていたけど……親父が『素手で倒した熊を生で食べて腹を壊すような豪快な奴だ』と笑いながら話していた通りの人だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:46:09.42 ID:jo+olBoY0<> 剣士のオッチャン「お前が時間通りに来るなんてな、こりゃ明日は雨だな」ガハハ
親父「茶化すなよ」
剣士のオッチャン「……ん?おーー!!大勇者の子供か!!」
剣士のオッチャン「俺がお前に会ったのは随分と昔のことだからな〜、あの頃は豆みたいに小さかったのに随分と大きくなったもんだ」ガハハ
言ってオッチャンは俺の頭をわしわしと撫でてきた。
すごい力で頭を左右に揺らされてクラクラしてしまった。
親父「まったく、こんな山奥に家を建てて……城の魔法使いに近くまで転移魔法で飛ばしてもらったんだがそれでも相当歩かされたぞ」
剣士のオッチャン「そいつは悪かった。ただ……できるだけ静かに暮らしたいと思ってな」
剣士のオッチャン「……お前はまだ現役なんだろ?……すまねぇな、俺は……」
親父「いや、いいんだ。お前の選択は間違いではないし誰もお前を責めたりしないよ」
剣士のオッチャン「…………本当にすまない」
親父「だから謝るなって」
さっきまであんなに豪胆に見えたオッチャンが急に二回りは小さくなって見えた。
顔に差した影はそれぐらい暗く重いものだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:49:00.79 ID:jo+olBoY0<> 親父「まだ……来てはいないようだな」
親父は小屋の中を覗くと言った。
剣士のオッチャン「あぁ、きっと来てくれるとは思うが……」
親父「私はこれから剣士と昔の友人に会わなければならないのだが……勇者も会うか?」
てっきり親父は剣士のオッチャンに会いに来たのだとばかり思っていて、もう一人会う友達がいたとは思わなかった。
でも俺はその友人が誰なのかすぐにピンと来た。
先代の魔王と戦っていた時、親父は三人でパーティを組んでいたらしい。
親父と剣士と最後の一人が大賢者。
攻撃魔法も回復魔法も使いこなすすげー爺さんだったんだとか。
大賢者さんも剣士のオッチャンと同じ様に前線を退いたと聞いていたから今日は昔の仲間と集まる日だったということだろう。
正直どんなすごい爺さんなのか会ってみたい気もしたけどオッサン二人と爺さんの話を聞いても面白くなさそうだったから俺は辺りをブラブラしてこようと思った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:50:36.55 ID:jo+olBoY0<> 俺「う〜ん……いいや、おれこの辺を探検してくるよ」
親父「そうか、まぁ2時間程で済むだろうしそれでもいいかもしれないな」
戦士「ガハハ、親父さん似なだけあって好奇心旺盛なところまでそっくりだな」
親父「くれぐれもあまり遠くに行きすぎるなよ」
俺「分かってるよ、じゃあ行ってくる!!」
そう言って俺は小屋を後にした。
森の中に入る時に後ろからまた木と木の擦れる不快な音とバタンというドアの閉まる音が聞こえた。
緑の国の大自然は俺にとっては新鮮そのものだった。
白の国の王都にある自然公園にはよく行っていたけれど、ここの自然は全くと言っていいほど違っていた。
綺麗に剪定された木々、森の間を通る道……自然公園が『造られた自然』だったのに比べてここの自然は人の手が一切加えられていない、大自然が生んだ緑だった。
俺は木々の間を抜けて道無き道を進んだ。
見たこともない色の蝶を追いかけてみたり、鹿の親子を眺めてみたり、登れそうな木に登ってみたり……さっきまでの疲れなんて吹っ飛んでこの大自然を楽しんでいた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:52:38.46 ID:jo+olBoY0<> そうしているうちに開けた場所に出た。
そこは小高い丘で一面に白い小さな花が咲いていた。
一瞬その光景に見とれていた俺だが花々の真ん中に女の子が一人座っているのを見て驚いた。
こんな森の中に人が、しかも俺とたいして歳も変わらないような女の子がいるなんて……。
俺はその娘に興味が沸いて近づいていった。
俺「こんにちは」
女の子「だ、だれ!?」バッ
女の子はいきなり声をかけられてびっくりしたみたいだ。
でも相手がただの子供だとわかると少し安心したらしい。
女の子「おどろいた……だれもいないと思ってたのに急に声をかけるんだもん……どうしてこんなところにいるの?迷子?」
俺「ちがうよ!!探険だよ、探険!!」
女の子「ふふっ、そっか、じゃあわたしと一緒だね」ニコッ
その娘の笑顔に俺はドキッとした。
正直結構可愛かった。
肩まである綺麗な黒髪に綺麗で大きな瞳に綺麗な唇と綺麗な肌……ってさっきから綺麗しか言ってないな……我ながら語彙力ってもんがない……と、とにかく可愛かった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:53:36.92 ID:jo+olBoY0<> 俺「君……名前は?」
女の子「わたし?わたしは魔王よ」
俺は状況を理解するのに数秒かかった。
魔王……?
魔王って魔族の王様だろ?
どうしてこんなところに……って言うかホントにこの娘が魔王なのか?
魔王って魔族の王様で……この娘が魔王?
父さんの敵?
魔王が目の前にいる?
俺の目の前に?
俺「…………ホントに?ホントに君が魔王なの……?」
女の子「えぇ、そうよ。れっきとした黒の国の王様なんだから……ホラ」
その娘は着ていた漆黒のローブを捲って左腕を俺に見せた。
そこには魔王の証である黒の刻印がハッキリと浮かんでいた。
それを見て俺の中で熱く黒い何かが弾けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:55:19.72 ID:jo+olBoY0<> 次の瞬間俺は魔王へと駆け出し彼女の胸ぐらを掴んで地面に押し倒すと馬乗りになった。
魔王「きゃっ、ちょっと!!いきなり何するの!?」
俺「だまれ魔王!!母さんの仇め!!」
魔王「な、何言ってるの!?わたしはあなたのお母さんのことなんて知らな……」
俺「うるさい!!おれの母さんはな、魔族に殺されたんだ!!」
魔王「!!」
俺「だから魔族の王様のお前は母さんの仇だ!!」
俺「それに……」グイッ
俺は右手の裾を捲るって魔王に勇者の朱の刻印を見せつけた。
俺「おれは勇者、99代目勇者のこどもなんだ!!勇者のコクインだってある!!」
魔王「!!」
俺「まだ王様から勇者に認められてないけどな、いつか必ず父さんみたいなすごい勇者になるんだ!!」
俺「だからお前なんかこのおれが倒してやる!!」
俺は右拳を強く握りしめて魔王の顔を殴ろうとした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:56:25.49 ID:jo+olBoY0<> …………でも、殴れなかった。
恐怖の色を宿した瞳を微かに潤ませ、やがて来るであろう痛みに耐えようと口を一文字に結んで俺を見つめる少女を、俺は殴ることができなかった。
俺「……なんで抵抗しないんだよ……?」
振り上げた拳をわなわなと振るわせて俺は魔王に言った。
俺「子供でもお前は魔王なんだろ!?」
俺「おれなんかよりずっとずっと強いんじゃないのか!?」
俺「なのに……なんでそんな泣きそうな目でおれを見るだけなんだよ!!」ポロポロ
怒りの矛先をどこに向けたらいいのかわからなくなったからか、
自分の行動が酷く惨めに思えたからか、
わけがわからなくなってしまったからか、
…………俺はいつの間にか泣き出していた。
魔王「……私の……」
俺「……?」グスッ
魔王「わたしのお父さんは……わたしの前の魔王だったの……」
俺「……!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 01:57:49.97 ID:jo+olBoY0<> 『前の魔王』ってことは99代目の……親父が倒した魔王だってことだ。
つまり魔王にとって俺は親の仇の息子にあたるわけだ。
俺「だったら……だったら俺が憎いんじゃないのか!?殺してやりたいくらいに!!」
魔王「うぅん、だからわたし……あなたの気持ちがわかるの」
魔王「あなたもわたしと同じ気持ちなのかな、って思ったら……わたし…………」グスッ
堪えきれなくなったのか、魔王も泣き出した。
泣いてる女の子の上にいつまでも乗っているワケにはいかないし俺は魔王から降りて…………やっぱり泣いた。
俺は目の前に魔族の王がいるってだけで殴りかかりそうになったのに、魔王は仇の息子を前にしても相手を想う優しい心を持っていた。
それに比べて俺はなんてちっぽけで貧相な人間なんだろう?
悲しみと怒りと不甲斐なさと惨めさがさらに俺の涙腺を刺激した。
そのまま二人はしばらくわんわん泣いていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:02:16.76 ID:jo+olBoY0<> 落ち着いたころに俺は魔王に聞いてみた。
俺「……お前はおれたちのこと……人間のこと憎んでるのか?」
魔王「……わたしのお父さんはね、わたしが小さい頃に死んじゃって……わたしお父さんのことあんまり覚えてないの」
魔王「だからお父さんがいないことも悲しいってあんまり思わないし……それにお母さんが言ってたの」
魔王「『人間と魔族は長い間戦争をしてるけど人間は悪い人ばかりじゃないわ』って」
魔王「だから人間みんなのことを憎んでなんかいないよ、もちろんあなたのことも」
魔王「だってこうしてわたしと一緒に泣いてくれる人が悪い人なわけないでしょ?」ニコッ
赤く腫れた眼で俺に微笑む魔王を見て俺は自分が情けなくて仕方がなかった。
俺「……さっきはひどいことしてホントにごめん……」
魔王「…………ううん、いいの」
俺「………………」スッ
俺は黙って魔王に右手を差し出した。
魔王「?」
俺「……仲直りの握手だよ」
俺「もし……もしよかったらさ、その…………これからおれと友達になってくれないかな?」
魔王「友達……」
俺「やっぱりいやかな……?」
魔王「…………うぅん、そんなことないよ。よろしくね、勇者」ニコッ
魔王は優しく俺の手を握り返してくれた。
あの優しく柔らかな、少しだけ冷たい手の感触はきっと一生忘れない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:03:37.63 ID:jo+olBoY0<> 魔王「えへへ……『友達』か……」
俺「なんだよ、なんかおかしいのか?」
魔王「ちがうの、わたし今まで友達っていなかったから……初めて友達ができてうれしいの」
俺「え?」
魔王「小さい頃から部屋で魔法とか政治の勉強ばっかりだし、お城にはわたしみたいな子供なんていないし……だからあなたが初めての友達なの」
俺「そうなんだ……」
魔王「そうだ!!あなたをわたしのとっておきの場所に連れていってあげる」
勇者「とっておき?」
魔王「うん♪行くよ〜」
パァッ
勇者「!?」
カァッ!!
俺と魔王を中心に地面に魔法陣が浮かび上がったかと思うと俺達は青白い光に包まれた。
それは魔王が放った転移魔法だった。
気がつくと俺達は別の場所へと飛ばされていた。
俺「な……今のって転移魔法だろ!?すげー!!」
魔王「そう?……それより見て、綺麗なところでしょ?」
その場所は森の中にある静かな湖だった。
木々の緑の中にある小さな湖はその水面にすみわたる青空を映し出していた。
森の鳥達のさえずりと虫の音以外は何も聞こえない、静かな静かな湖のほとり。
俺「…………うん、とっても綺麗なところだ」
魔王「わたしに友達ができたらここに連れてくることが夢だったんだ」
俺「そっか……連れてきてくれてありがとな」ニッ
魔王「わたしの方こそ、友達になってくれてありがと」ニコッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:05:00.34 ID:jo+olBoY0<> 俺「……そういや魔王って何さいなの?見た感じおれとあんまり変わらないように見えるけど……」
魔王「わたし?わたしは9歳だよ?勇者は?」
俺「おれは7さい」
魔王「じゃあわたしの方がお姉さんだね」エヘヘ
俺「そっか2つしか変わらないのか……それなのにあんな転移魔法なんて使えるんだな」
魔王「まぁこれでも魔王だからね、とりあえず一通りの魔法は使えるよ」
勇者「でもすごいよ、転移魔法ってむずかしいんだろ?おれの父さんも苦手で上手くできないんだ」
魔王「たしかに上級魔法だけど練習すれば勇者もできるようになるよ。ちょっとコツがいるだけ……なんならわたしが教えてあげようか?」
勇者「ホント!?教えて教えて!!」
魔王「そうだね、勇者が転移魔法を使えるようになったらここで待ち合わせして会えるもんねっ」
それから俺は魔王に転移魔法の基礎を教えてもらった。
けどすぐにはできるようになるもんじゃないし、とりあえずその日は基本の軽いレクチャーが終わったら雑談を始めた。
俺「魔王はよくここに来るの?」
魔王「うん、お気に入りの場所だから」
魔王「お母さんがお仕事してたりお出かけしてる時はこっそりお城を抜け出して緑の国に来るの」
魔王「黒の国にも山や森はあるけど緑の国の自然が一番綺麗だし空気も美味しいから」
魔王「それでお散歩してた時にこの場所を見つけたんだ」
勇者「へぇ〜」
魔王「今日もお母さんがお出かけだから抜け出してきたの」フフッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:06:24.83 ID:jo+olBoY0<> ここでふとした疑問が俺に生まれた。
俺「……お母さんっていくつ?」
魔王「へ?なんで?」
俺「だって魔族って人間よりずっと長生きなんだろ?何百さいなのかなーって思って」
魔王「ふふっ、お母さんは今年で30歳だよ、それに魔族はそんなに長生きしないよ」
魔王「長生きする人で100歳ぐらい、普通の人で80歳ぐらいじゃないかな?」
俺「じゃあ人間と変わらないじゃん!!」
魔王「そうなの?」
俺「うん」
俺「じゃあその……魔王は人間、た、食べたことあるのか?」
魔王「アハハ、なにそれ〜そんなことするワケないじゃない。勇者は面白いね」クスクス
俺「近所のおじいさんが言ってたんだ、魔族は何百年も生きていられて人間を食べてツノが生えてて……」
魔王「嘘嘘。そんなのでたらめだよ。そのおじいさんボケちゃってるんじゃないの?」フフフ
俺「なんだそっか……でも……」
俺は魔王の言葉を聞き考えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:07:46.35 ID:jo+olBoY0<> 俺「そしたら人間と魔族って何がちがうんだろうな……」
俺「外見だって同じだし、ジュミョーも同じなんだろ?」
俺「何にもちがわないのに……それなのに人間と魔族はお互いを認め合えずにずーっと戦争してる……」
魔王「…………」
魔王も俺の問いに答えることはできずただ黙っていた。
俺達には想像もつかない大きな禍根が二つの種族の間にある。
そのことを子供ながらに俺と魔王は理解していた。
そして俺は……目の前にいる魔王を……いや、一人の友達を見てある考えが浮かんだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:09:17.95 ID:jo+olBoY0<> 俺「なぁ、魔王?」
魔王「なに?」
俺「おれは勇者のコクインを持ってる……王様もきっと次の勇者になれるって言ってくれてる」
俺「いつか立派な勇者になるつもりだ」
魔王「そっか…………そしたら……わたし達は闘わなくちゃならないね…………せっかく友達になれたのに……」ウル
俺「ちがう」
魔王「……?」
俺「おれとお前で人間と魔族を仲直りさせようぜ」
魔王「なかなおり……?」
俺の突拍子のない一言に魔王は戸惑ったみたいだ。
俺「そうさ、人間代表の勇者と魔族代表の魔王が力を合わせるんだ!!」
俺「おれたちで戦争を止めようぜ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:10:37.27 ID:jo+olBoY0<> 魔王「え……そうなったらすごいけど…………でも、できるかな……?」
魔王「人間と魔族は何百年も戦争してきたんだよ?それをわたし達が止めるなんて……」
俺「おれたちだからだよ」
魔王「……?」
俺「だってこうして友達になれたじゃん!!おれたちならきっとできるよ!!」ニッ
曇っていた魔王の顔がみるみる晴れやかになっていった。
魔王「……うん、そうだね!!わたしたちだからきっとできるんだよね!!」
俺「あぁ!!」
魔王「魔族と人間が仲良くできる世界か……そんなの考えたこともなかったよ」
俺「そんな世界を作るのがおれたちの夢だ」
スッ……
魔王は右手を小指だけ伸ばして俺に向けてきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:11:53.23 ID:jo+olBoY0<> 俺「?」
魔王「指切りしよ、勇者」
魔王「2人で平和な世界を作ろうって約束するの」
俺「へへっ、わかった」
キュッ
俺は魔王の小指に自分の小指を絡ませた。
俺「うん……よし」ニッ
魔王「えへへ……」ニコリ
魔王「そういえば勇者はどうしてあんな山奥に来ていたの?」
俺「それは父さんに連れられて…………って、あ!!そろそろ戻らないと……!!」
魔王「そっか、わたしもそろそろお城に戻るね、きっとお母さんももうすぐ帰ってくるだろうし」
魔王「さっきの花畑のところまで転移魔法で送ってあげるね」
俺「うん、ありがとう」
魔王「また……会えるよね?」
俺「うん、当たり前だろ?」ニカッ
魔王「そうだね♪ちゃんと転移魔法練習してね」
俺「任せとけって」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:13:35.85 ID:jo+olBoY0<> パァッ!!
地面に魔法陣が現れる。
魔王「……あ、わたしと勇者が友達なことは誰にも言っちゃダメだよ?もちろんこの場所のことも」
俺「なんで?」
魔王「だって魔王が勇者と友達だったら他の魔族達が不信感を抱いちゃうでしょ」
魔王「勇者も魔王と友達だって他の人たちに知られたら勇者に任命してもらえないかもしれないし……」
俺「わかった、じゃあ2人だけのヒミツだな」
魔王「そういうことっ」
魔王「……それじゃ勇者、またね」ニコッ
俺「うん、またな」ニッ
カァッ!!
魔王の笑顔を見たと思ったら元いたところ――――小高い丘の花畑に立っていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:15:20.87 ID:jo+olBoY0<> 「おーーい、勇者ーー!!どこだーー!?」
少しすると聞き覚えのある声が森の中から聞こえた。
親父の声だった。
俺「父さーん!!こっちだよー!!」タタッ
俺は声のする方へ駆けながら言った。
親父もこっちの声に気づいたみたいですぐ見つけてくれた。
親父「まったく、遠くに行きすぎるなと言ったのに……」ハァ
俺「へへっ、ごめんごめん」
俺「もう1人の友達は来てくれたの?」
親父「ん?あぁ、まぁな、久しぶりに会ったが元気そうで良かったよ」
親父「……さて、近くの街まで帰って緑の国の魔法使いに白の国まで飛ばしてもらわないとな」
俺「え〜……?また歩くの?父さんが転移魔法使えればすぐ帰れるのに……」ブツブツ
親父「仕方ないだろう、私は転移魔法が苦手なんだ。どこに飛ぶかわからんのはお前も知っているだろ?」
親父「試しに使ってみてこの前みたいに無人島にでも飛ばされてみるか?」
親父「それはそれで面白そうだが……」フム
俺「そっちの方がヤだよ……いいよ、さっさと行こうぜ」
親父「なんならおぶってやろうか?」
俺「いい!!自分で歩く!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:17:38.68 ID:jo+olBoY0<> 白の国に帰ってから俺はその日魔王に教えてもらった転移魔法の基礎を毎日練習して、二ヵ月後やっと転移魔法が使えるようになった。
七歳の子供が上級魔法を使えるようになったから周りは「やっぱり大勇者様の子供だ」って騒いでたけど実際は魔王のおかげだった。
喜び勇んで魔王との秘密の湖に飛んでみると缶が置いてあって中には魔王から手紙が入っていた。
お互い湖に来たときは返事を書いて缶に入れて連絡を取り合おうというものだった。
何回か手紙のやりとりをしてお互い都合の合う日を探して、初めて魔王に会ってから半月後、やっと魔王と再会を果たした。
魔王が俺に
『遅刻だ!!』
と言ったのはその時が最初だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/28(金) 02:20:25.26 ID:jo+olBoY0<> 【Episode02】
――――白の国・王都・勇者の家
勇者は自分の部屋でベッドに腰かけ物思いにふけっていた。
今日は旅立ちの日。
正式に勇者に任命された者が仲間達と共に各国を巡る旅に出るのである。
儀礼的な旅ではあるが勇者が世界を自身の目で見て回り、必要があらばその地での魔族との闘いに戦力として加わると共に、全ての国の王に謁見することで黒の黒の王都へと攻め入る許可が得られるのだ。
旅の最中に故郷、実家に戻ることを禁止されてなどいないが勇者はこの旅が終わるまでは家に帰らないと決めていた。
この旅が終わる時……勇者にとってそれは人間と魔族が争うことを止める時。
だから世界が平和になったら、またこのベッドで寝転がりながら漫画でも読もう、その時までこの部屋とはお別れだ。
と自分に言い聞かせた。
飾り気のない部屋だが勇者にとっては幼い頃から過ごしてきた"自分の空間"である。
名残惜しくないと言えば嘘になる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:22:50.21 ID:jo+olBoY0<> 勇者「よし……行くか!」
やがて勇者はそう言って腰を上げると装備の最終確認をした。
忘れ物がないかチェックし終えると最後に壁に立て掛けてあった愛剣を腰に差した。
戸口の前に立って部屋を見渡すと、ふと机の上に目が留まった。
勇者の机の上には『新説魔法学〜魔力痕研究学〜 著:魔法研究局局長』なる分厚い本が無造作に置いてある。
先日魔王に「勇者は漫画とエッチな本しか読まない」と言われたから難しい本を読んで魔王に自慢してやろうと思って買ってきたのだが……見事に目次で挫折した本だ。
勇者は二度と開かないであろうその本を見て苦笑するとゆっくりと戸を閉め、部屋を後にした。
階段を降り一階へ行くと父親がテーブルで新聞を広げていた。
父の淹れたコーヒーの香りがほのかに部屋を包んでいる。
大勇者「……行くのか」
勇者に気づいた大勇者が新聞をたたんで言った。
勇者「あぁ、白の神樹の前で武闘家達と待ち合わせしてる」
大勇者「そうか」
勇者「…………世界を平和に……人間と魔族が共存できるようになるまで、俺この家には帰らねぇからな」
大勇者「『人間と魔族の共存』…………か」フンッ
大勇者は勇者の言葉を鼻で笑った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:24:42.24 ID:jo+olBoY0<> 大勇者「お前はまだそんなことを言っているのか」
大勇者「勇者と魔王……いや、人間と魔族は争う運命にあるのだ、お前の言う『平和な世界』など子供の絵空事にすぎん」
勇者「…………」ビキッ
父の一言に勇者はこめかみに青筋を浮かべた。
勇者「親父は……親父はいつもそうだ!!」
勇者「なんで否定することしかしないんだよ!!」
勇者「人と魔族と何が違うって言うんだよ!!何も変わらないだろうが!!」
勇者「心を開いて話し合えば分かり合えるハズだろ!?」
勇者の言葉に大勇者も語気を強める。
大勇者「それが甘い理想にすぎないと言っているんだ!!」
大勇者「人と魔族の戦争が始まって数百年……お前のように魔族と和解しようとした人間が1人もいなかったとでも思うか!?」
大勇者「だが今もこうして争いが続いている!!和解など不可能という何よりの証拠ではないか!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:26:37.78 ID:jo+olBoY0<> 勇者「昔のことなんか知ったこっちゃねぇよ!!」
勇者「できないと思ってやらなかったら絶対できるワケないだろうが!!」
大勇者「馬鹿げたことに時間と労力を費やすことが無意味以外のなんだと言うのだ!!」
大勇者「魔族は母さんの仇なのだぞ!?憎むべき人間の敵だ!!」
勇者「憎しみだのなんだの過去のこといつまでも引きずってるからお互い歩み寄れないんだろ!?」
勇者「大切なのは過去じゃねぇだろ、これからやってくる未来だろ!?」
二人の言い争いは徐々に熱を帯びていき、いつしか怒鳴り合う形になっていた。
……と、そこで二人のものではない別の声が間に割って入った。
「……これこれ、喧嘩はよさぬか」
勇者・大勇者「……ッ!?」バッ
二人がドアの方へ目をやるとそこには高貴な衣装に身を包み白く長い髭をたくわえた老人が立っていた。
勇者「お、王様……!?」
白の王「一応ノックはしたんじゃがな、返事がなかったから勝手に入らせてもらったよ、すまなかったな」
大勇者「こ……これはお見苦しいところを!!」
椅子から立ち上がり大勇者が頭を下げる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:28:47.06 ID:jo+olBoY0<> 白の王「よいよい……だが旅立ちの日だと言うのに親子が喧嘩別れなどするものではないぞ」
大勇者「ハッ」
勇者「…………」ムスッ
白の王「そうそう、わしは旅立つ勇者に一言はなむけの言葉を送りに来たんじゃった」
白の王「勇者よ、わしはお主が大勇者にも負けないような素晴らしい勇者になれると思っておる」
白の王「100代目勇者としてのお主のこれからの活躍に期待しておるよ」フフ
勇者「……はい、ありがとうございます」ペコッ
勇者「……じゃあ俺はもう行きますね」
白の王「うむ」
勇者がドアノブに手をかけたところで大勇者が言った。
大勇者「これだけは覚えておくんだな…………お前が本気で魔王と……魔族と闘う気になるまで私は聖剣をお前に託すつもりはない」
勇者はその言葉を聞くと大勇者の方へと向き直り思いきり舌を出して言った。
勇者「んなナマクラ俺には必要ないね!!勝手にしやがれ!!」
大勇者「なっ……!!」
ガチャ!!バタンッ!!
大勇者が二の句を継げずにいるうちに勢いよくドアを閉めて勇者は実家を後にした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:30:33.77 ID:jo+olBoY0<> 大勇者「ハァ…………申し訳ありません、王の前であの様な……」
白の王「なに、元気があって良いことではないか」
白の王「何よりお主の若い頃にそっくりじゃ」ホッホッホ
大勇者「まったく…………王は今日はお1人で?」
白の王「久しぶりにお主と話がしたくてな、一応護衛はつけておるが家の前で待機させておるよ」
大勇者「そうですか」
白の王「……座っても良いかの?」
チラとテーブルと椅子に目を遣り白の王が言った。
白の王「最近歳でずっと立っておると疲れてしまってのぅ……」ハハッ
大勇者「これはとんだご無礼を、どうぞお掛けになって下さい」
白の王「うむ、失礼するぞ」
よっこいせ、と言って白の王は質素な木の椅子に腰を下ろした。
大勇者「たいした物はお出しできませんが……お飲み物は紅茶とコーヒーどちらが良いでしょうか?」
白の王「すまんな、気を遣わせて……じゃあ砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを頂こうか」
大勇者「ハッ、少々お待ちを……」
大勇者は少し離れた流しへ行くとコーヒー豆を挽き始めた。
豆の砕けるガリガリと言う音を聞きながら白の王はぼんやりと大勇者の背を眺めていた。
白の王「……どうじゃ?身体の方は?」
白の王は心配そうに尋ねる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:32:30.71 ID:jo+olBoY0<> 大勇者は右手を開いて閉じてを何回か繰り返すとやや影のある声で言った。
大勇者「……正直そろそろ限界でしょうね……」
白の王「そうか……」
大勇者「我ながらよくもったと思いますよ、先代魔王と闘ってからほぼ20年になるのですから」
大勇者「私は戦場を駆ける身、いつ死んでも良いように心構えはしているつもりです」
大勇者「心残りがあるとすれば…………息子のことでしょうか」
普段の凛々しさとは似つかない小さな声で大勇者が言った。
白の王「…………まさかとは思っておったがお主の子もまた勇者の刻印を持つことになるとは…………」
白の王「真っ直ぐで優しいあの子もやがて魔族と……魔王と命懸けで闘うことになるのかのう?」
大勇者「えぇ……人々のために魔王と闘うのが勇者の務めなのですから」
白の王「わしが100代目の勇者に任命しておいてなんじゃが…………勇者という重責を背負わせてしまって本当にすまない……」
大勇者「いえ、王が気に病むことではありませんよ。息子が私と同じように勇者になったのは…………やはり運命なのでしょう」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:34:23.62 ID:jo+olBoY0<> 大勇者「それに我が子だからこそ……勇者という存在の使命と宿命を背負い切ることができる、と信じられるのです」
大勇者のその言葉を聞き白の王は軽く笑った。
白の王「ホッホ、いつも喧嘩ばかりじゃがやはり親は親、じゃな」ニコリ
大勇者「フフッ、そうですな」
挽き終えたコーヒー豆をフィルターへと移しながら大勇者は苦笑した。
白の王「ときに大勇者よ、お主には大変申し訳ないのじゃが……」
大勇者「はい、なんでしょうか?」
白の王「やっぱり紅茶をもらえるかのう?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:36:36.59 ID:jo+olBoY0<> ――――白の国・王都・白の神樹前広場
白の国の王都、その中心を通る大通り。
北側は王宮へ、南側は白の神樹へと真っ直ぐに伸びている。
人と魔族が争い合う遥か昔からこの地に根を下ろすその大木は樹齢千年とも言われ、人々から深く愛され、信仰の対象になっている。
神樹の前には大きな広場があり憩いの場として連日多くの人々で賑わっている。
僧侶「あ、勇者君、こっちこっち!!」
雑踏の中から勇者を見つけた僧侶は手を振って自身の存在をアピールした。
勇者「お待たせ」
武闘家「2分13秒の遅刻……勇者にしては来るのがやけに早いですね……本物の勇者ですか?」
勇者「お前なぁ……」
武闘家「冗談ですよ、冗談☆」ニコッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:38:35.70 ID:jo+olBoY0<> 勇者「まったく……あれ?魔法使いは?」
僧侶「なんか美味しそうな匂いがするってさっきフラッとどこかに行っちゃったの」
勇者「しょーがない奴だなぁ」ハァ
勇者「俺達はこれからピクニックに行くんじゃないんだぞ?ちゃんと責任感を持ってだな……」
武闘家「あれ?誰か遅刻してきた人がいませんでしたか?責任感が足りないですよね〜」フフッ
勇者「…………まぁ肩肘張りすぎるのも良くないよな、少しの間ここで待っててやるとするか、うん」
武闘家「そうですね」クスクス
「良かった、間に合った!!」
幼い声に三人が振り返るとそこには一人の少年が立っていた。
僧侶「弟君!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:40:45.77 ID:jo+olBoY0<> 僧侶は三人姉弟の一番上である。
彼女のすぐ下の弟がこの場に現れたのだ。
勇者「よう、弟どうしたんだ?」
僧侶弟「こんにちは、勇者様。今日姉ちゃん達が旅立っちゃうっていうからお見送りに来たんです」
僧侶「もぅ、お別れなら家を出る時にしたでしょ?それに妹ちゃんの面倒見ててって……」
僧侶弟「でも妹は今昼寝してるし……」
僧侶「一人にしたら危ないでしょ!!私が旅に出てる間妹ちゃんをよろしくって言ったのに……」
僧侶弟「…………」シュン…
武闘家「まぁまぁ、僧侶さんもそれくらいにしてあげて下さい。弟君も大好きなお姉さんとしばらくお別れしなければならずに寂しいんですよ」
僧侶「それは分かってるけど…………」
勇者「ま、たまには家に帰ってやれよ。なんなら俺が送ってやるからさ」
僧侶「うん、ありがとう勇者君」
僧侶弟「勇者様、武闘家さん、姉ちゃんのことよろしくお願いしますね」
勇者「おぅ、任せろ!!」ニッ
武闘家「僕達の方が僧侶さんにお世話になりっぱなしですけどね」フフッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:43:08.78 ID:jo+olBoY0<> 僧侶はその場に膝立ちになると弟と目線を合わせた。
優しく弟の両の頬に触れ、真っ直ぐに瞳を見つめた。
僧侶「私がいない間、お父さんとお母さんに迷惑かけちゃダメよ?」
僧侶弟「わかってるって」
僧侶「妹ちゃんのこともよろしくね、弟君はお兄さんなんだからね」
僧侶弟「うん」
二人は静かに目を閉じた。
僧侶「弟君に神樹の御加護がありますように……」
僧侶弟「姉ちゃんと勇者様達にも神樹の加護がありますように」
僧侶弟は祈り終えると目を開け目の前に悠然とそびえる大樹を見上げた。
僧侶弟「やっぱり大きいなぁ……それにここにいると安心するし」
僧侶弟「ねぇ姉ちゃん、他の国にも白の国みたいに神樹があるってホント?」
僧侶「えぇ、本当よ」
僧侶はゆっくりと立ち上がりながら答えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:47:10.53 ID:jo+olBoY0<> 僧侶「どの国にも王都には白の国と同じように神樹があるの、勿論黒の国にもね」
僧侶「……と言うよりも神樹のある場所がそれぞれの国の王都になったのかな」
僧侶「私達がこうして暮らしていられるのも神樹のおかげなのよ?」
僧侶弟「え?そうなの?」
僧侶弟は姉を見て目を丸くした。
勇者「なんだ、学校で習ってないのか?」
僧侶弟「はい」コクン
僧侶「この神樹はね、ある種の結界を張っているの。あ、でも結界と行っても邪を退けるバリアみたいなものじゃないよ」
僧侶弟「??」
僧侶「えーっと……」
武闘家「『環境改善装置』、みたいなものでしょうか?」
僧侶がどう説明したら良いか困っていたので武闘家がフォローを入れる。
武闘家「神樹はその溢れる生命力を周囲の環境にも分け与えているんです」
そのまま武闘家が説明を代わってくれたので僧侶は内心ホッとした。
武闘家「神樹の力によって空気は洗浄され、土壌は肥え、嵐や地震の様な自然災害すら抑制されているのですよ」
僧侶「ずっと……ずっと前から神樹達は私達人間を……この世界を守り続けてきてくれたのよ」
僧侶弟「そうだったんだ……全然知らなかった」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:50:03.19 ID:jo+olBoY0<> 僧侶弟はもう一度白の大樹を見上げた。
地中深くに広がる根、
何より太く力強い幹、
天へと自由に伸びる枝葉、
生命の神秘というものを目で、肌で、感じる。
勇者「この木からしてみれば……きっと人間と魔族の争いなんて子供の喧嘩みたいなもんなんだろうな……」
木漏れ日を眩しそうに見つめながら小さくそう呟いた勇者を少年は不思議そうに眺めていた。
魔法使い「あー、勇者じゃん!やっと来たの〜?」
両腕で大きな紙袋を抱きかかえた魔法使いが勇者に声をかけた。
右手に持っていたホットドッグを旨そうに頬張る。
魔法使い「ほーひふほひふほひほふひへひへは〜」モグモグ
勇者「魔法使い……ってか食いながらしゃべるなよ、何言ってるかサッパリわかんねぇよ」ハァ
魔法使い「ん……んぐっ」ゴクンッ
魔法使い「来るの遅いよー、この遅刻ジョーシューハンめ」
勇者「お前に言われたくねぇよ!!」
魔法使い「え〜?あたしより勇者の方がずーっと遅刻の回数多いよ〜」ペロッ
口の周りについたケチャップを器用に舌で舐めとり魔法使いが言った。
武闘家「うーん、正直どっちも似たようなものなんですけどね」フフ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:51:41.13 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「……にゃ?この子は?」
魔法使いが僧侶の隣の少年に気付いた。
僧侶「私の弟だよ」
勇者「あれ?魔法使いは会うの初めてなのか?」
魔法使い「あー!君が僧侶ちゃんの弟君か!あたしは魔法使いだよ、はじめまして♪」
僧侶弟「は、はい、はじめまして…………」
僧侶弟は魔法使いを見てなにやら戸惑っている。
僧侶弟「あ、あの魔法使いさん?」
魔法使い「なぁに?」
僧侶弟「魔法使いさんは……その…………猫なんですか?」ジー
僧侶弟は魔法使いの頭、栗色の髪の中から生える二つの猫の耳を凝視して尋ねた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:54:11.03 ID:jo+olBoY0<> さっきから通行人がこちらを見てくるのは勇者に気づいてだと思ったがどうやらそうではなかった様だ。
魔法使い「残念ながらあたしは猫じゃないよ〜」アハハ
僧侶弟「そ、そうですよね……えっと、変わったコスプレですね」
魔法使い「コスプレなんかしてないよ?ちゃんとあたしの耳だよ?」ピコピコ
僧侶弟「!?」
小刻みに耳を動く魔法使いの猫耳に僧侶弟は驚きを隠せなかった。
勇者「俺達はもう慣れちゃったから気にもしてなかったけど……普通の奴からしてみりゃそりゃ驚きだよな」
魔法使い「昔魔法に失敗しちゃってね、その時にこうなっちゃったんだー」
僧侶弟「へぇ……」
僧侶「本当は魔法で治せるんだけど魔法使いちゃんが気に入っちゃって……ずっとそのままなの」
魔法使い「だって可愛いじゃん!!」ピコピコピコピコ
勇者「分かった分かった、てか帽子はどうしたんだよ?」
本来なら帽子で耳が隠れるのであまり人々からジロジロと見られることもないのだが、魔法使いがいつも被っている黒の帽子が今日は頭に乗っていない。
魔法使い「たまにはなくてもいいかなーって」
勇者「ダメだ、被れ。あんまり騒がれたくないから『100代目勇者旅立ちの式』ってのを断ってきたのに……王都の城門を出るまでは我慢して被ってろよ」
魔法使い「わかったよ〜〜」プクッ
頬を膨らませた魔法使いがパチンと指を鳴らすと頭上に小さな魔法陣が現れた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 02:57:38.14 ID:jo+olBoY0<> 魔法陣が光ったかと思うと既に彼女の頭の上には愛用の帽子がふわりと乗っていた。
勇者「とりあえずよし。……そしてその紙袋はなんなんだ?」
魔法使い「これ?これはねぇ〜、ポップコーンと焼き鳥とホットドッグとチョコバナナとそれから〜」
勇者「あのなぁ、それ抱えながら旅に出るわけにもいかないだろ……食料ならこっちの袋の中に入ってるし」
魔法使い「えー、だったらわざわざ旅なんかしなくても転移魔法で他の国の王都に跳んでっちゃえばいいじゃん、だいたいの国は行ったことあるんだしさー」
勇者「それじゃ世界中の色んな場所、色んな人達を見て回れないだろうが」
勇者「とは言え捨てるのも勿体無いし……そうだな、買ったもんは全部僧侶の弟にやれ」
僧侶弟「え?」
僧侶「なんか悪いよ、勇者君」
勇者「いいんだよ、ホラ魔法使い」
魔法使い「う〜ん……わかった、じゃあお近づきの印ってことで弟君にあげるよ♪妹ちゃんと仲良く分けっこしてね」ニコッ
僧侶弟「はぁ……あ、ありがとうございます」
魔法使い「いいのいいの♪……でも〜」ガサゴソ
魔法使いは僧侶の弟に渡した紙袋を漁ると、小さな袋を取り出した。
魔法使い「あった☆この焼き鳥はあたしが貰ってくね♪」
勇者「……まぁそれぐらいなら持って行ってもいいか」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:00:28.23 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「さて……全員揃ったことですしそろそろ行きましょうか」
僧侶「そうだね、随分遅くなっちゃったもんね」
僧侶「……そうだ、弟君。お姉ちゃんとの約束ちゃんと覚えてる?」
僧侶弟「妹の面倒をちゃんとみること。姉ちゃんの育ててるサボテンの世話を忘れないこと。それと勉強も頑張ること!」
僧侶「あとお父さんとお母さんに迷惑をかけないこと、ね?」
僧侶弟「うん!任せといてよ!」
僧侶「ふふ、わかった。頑張ってね」ニコ
勇者「僧侶、いいか?」ニッ
僧侶「うん、時間とらせてごめんね」
魔法使い「ん〜、最初はどこに行くんだっけ?」
勇者「赤の国、だな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:01:56.87 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「その次は大砂漠を迂回するようにして黄の国へ、そしたら……いえ、まずは赤の国へ行くこと。そこからですね」
勇者「そういうことだな」
勇者は目を閉じ深く息を吸い込んだ。
勇者「……よし!!じゃあ100代目勇者様一行の旅立ちだ!!行くぞぉ!!」
魔法使い・僧侶「おー!!」
武闘家「ふふっ、いつも元気があっていいですね」ニコニコ
僧侶弟「行ってらっしゃい、姉ちゃん!!勇者様達!!」
一行は旅は幕を開けた。
僧侶弟は四人の背中が見えなくなるまで、白の神樹の前で手を振り続けていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:03:49.83 ID:jo+olBoY0<> ――――黒の国・魔王の城・王の間
魔王は王座に座り書類に目を通しながら黒騎士の言葉に耳を傾けていた。
黒騎士「……以上が先の赤の国との戦になります」
全身を黒の甲冑に身を包んだ男は魔王の前に跪き重々しい声で闘いの結果を報告した。
魔王「やはり赤の国は白の国に次ぐ戦力の国……一筋縄ではいかんな」
魔王「先日の黄の国での戦はどうであった?」
黒騎士「ハッ、こちらの勝利まであと一歩というところでしたが大勇者が現れ戦況が一転、撤退を余儀無くされました」
側近「……いかがいたしましょうか?」
魔王「そうだな…………」
長い沈黙の後に魔王が答える。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:05:15.60 ID:jo+olBoY0<> 魔王「赤の国、黄の国との前線へ兵の補給をし、そのまま現状待機だ」
黒騎士「待機……ですか?」
黒騎士は怪訝そうに尋ねる。
黒騎士「お言葉ですがどちらの国も先の戦で戦力が消耗していると思われます。ここで総攻撃をかければ重要拠点を落とし、赤の国、黄の国との闘いを有利に運ぶことができるかと……」
魔王「そうであろうな……今までだったらな」
黒騎士「新たな勇者……ですか」
魔王「うむ、100代目勇者という新たな戦力を得た人間側の力を侮ってはならん」
魔王「戦力を補給しにらみ合いに持って行くだけでも十分に相手への牽制になろう、『急いては事を仕損じる』と言うであろう?」
黒騎士「…………ハッ、心得ました。では御意に」
一礼すると黒騎士はきびきびと歩き王の間を後にした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:07:28.92 ID:jo+olBoY0<> 魔王「…………ふぅー〜…………」
側近と二人きりになると魔王は長く息を吐いた。
魔王「どうにか誤魔化せただろうか?」
側近「どうでしょうか?黒騎士殿はご命令に納得がいかなかったようでしたが……」
魔王「そうだろうな……黄の国への侵攻はともかく赤の国は今が攻め入る好機だと誰もが考えるであろう」フゥ
側近「そろそろ限界でしょうか?」
魔王「……だとしてもまだ時間を稼がねばなるまい、勇者は先日旅に出たばかりだと聞くしな」
側近「うふふ、魔王様と勇者さんの計画が早く実現すると良いですね」
魔王「そうだな」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:10:24.80 ID:jo+olBoY0<> 側近は勇者と魔王の仲を知る唯一の人物である。
勇者と魔王の夢を現実のものとするにはどうしても第三者の協力が必要だと二人は考えるようになった。
勇者はまだしも魔王は魔族の頂点に立つ身として一人で黒の国全体を和平へと向かわせるのは到底不可能である。
そこで白羽の矢が立ったのが魔王の幼少期は世話係を務め、現在は側近を任されている彼女であった。
五年前、魔王が十三の時に魔王は当時既に側近であった彼女に全てを打ち明けた。
大勇者の息子、100代目勇者候補と交遊があること。
彼と共に魔族と人間の戦争のない平和な世界を目指していること。
話を聞いた時は多少のことには動じない側近も流石に面食らったようだったが、魔王の良き理解者である彼女は『魔王様に付き従うのが私の役目ですから』と二人の後押しをすることを快諾したのだった。
自国の消耗を抑えつつ他国へ甚大な被害を出さない侵略をするという難しい采配は魔王の知識だけではこう長く続けてこれなかっただろう。
だがそうした采配にも限界がきているのは否めなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:12:57.98 ID:jo+olBoY0<> 側近「……黒騎士殿だけでなく他の将軍達も遅々として進まぬ侵攻、ひいては魔王様の指揮に不満を抱えているようです」
魔王「…………こればかりは仕方ないな」
魔王は眉間に皺を寄せ次の書類に目を通しながら答えた。
側近「えぇ……でも魔王様の支持率はお父上に次いで2番目に高いのですよ?」フフッ
魔王「そうなのか?」
側近「税金を減らし地方の開発発展に意欲的に取り組み、可能な限り国民の声に耳を傾けていらっしゃいますからね」
側近「平和な世界であったならば間違いなく名君と呼ばれるのでしょうね」
魔王「そうか…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:15:59.60 ID:jo+olBoY0<> 魔王は手に持つ書類の最後のページをめくった。
最後の紙には子供の幼い字で『まおうさま このまえむらにいどをつくってくれてありがとう』と書かれて可愛らしい絵が描かれていた。
魔王「ふふっ、私には戦に強い国を作るよりも国民のための平和な国を作る方が合っているのかもしれんな」
「魔族の王たる魔王がかような考えでどうするのだ!!」
男の低い声が王の間に響き亘る。
コツコツと足音を立て玉座の前へ漆黒の鎧の男が現れた。
側近「魔将軍殿……!!」
魔将軍「黒騎士から聞いたぞ、赤の国、黄の国の侵略を中止させたと!!」
魔将軍は軍事において魔王に次ぐ権力を持つと共に過激な反人間派の中心人物である。
先程の魔王の決定に異論を唱えるのも無理はない。
魔王「黒騎士にも申したが新たな勇者という存在がある故迂闊な進軍は我が軍の被害をいたずらに増やすだ……」
魔将軍「それはただの逃げ腰にすぎん!!」
魔王の言葉を遮り魔将軍が叫んだ。
魔将軍「我が軍の兵達は戦で命を落とすことなど常から覚悟していおる!!」
魔将軍「敵の重要拠点を落とせるとなれば多少の犠牲はつきものだと分からぬのか!!」
魔将軍「人間は貴女の父上を殺した憎むべき仇なのだぞ!?それを毎度腑抜けた指揮で……!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:17:35.85 ID:jo+olBoY0<> 側近「魔将軍殿!!先程から魔王様に対してなんたる無礼な……!!」
魔王「よいのだ、側近」
魔王「……ともかく、私は決定を覆すつもりはない」
魔王はそう重々しく言うと真っ直ぐに魔将軍を睨んだ。
魔将軍「…………チッ、頑固なところばかり兄上に似おって……」
身を翻すと魔将軍は来た時と同じように足音を立てて王の間を去った。
側近「…………」
魔王「叔父上……」
軍内部で魔王に対する不満を持つ者が増えつつあるのは確かである。
もしかしたらもうあまり時間はないのではないか?
魔王はそう考えていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:20:50.60 ID:jo+olBoY0<> 【Memories02】
――――5年前・白の国・王都・白薔薇学園
学年主任の先生「じゃあしばらくは今発表した班編成でパーティを組んでもらうぞ、模擬戦や任務にもそのパーティで取り組んでもらうことになる」
学年主任の先生「勿論明日からの銀の国での演習にもこのパーティで参加してもらうからな、わかったかー?」
学生達「はーい!!」
学生課の先生が最後の確認をとるとみんなが大講堂に響き亘る声で返事をした。
一方私は今聞いたパーティが信じられずに茫然としていた。
……まさかこんなことになるだなんて思いもしなかった……。
たしかに私は授業を欠席したことは勿論、遅刻したこともないし、魔法の実習もテスト勉強も一生懸命やってきたと自分でも思う。
この前のテストでは学年で四位だったし、『回復魔法の腕前は既に一人前だよ』と魔法課の先生も誉めてくれた。
だけど良い成績をとろうと頑張っていたのは優越感に浸りたいからとかみんなに誉めてもらいたいからとかじゃなくて特待生として奨学金が欲しかったからだった。
決して稼ぎは多くないのにこうして由緒ある白薔薇学園に通わせてくれたお父さんとお母さんの負担を少しでも減らそうと特待生枠を狙っていた。
だから…………。
…………まさかこんなことになるなんて思いもしなかった…………。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:24:24.43 ID:jo+olBoY0<> 武闘家君「君が僧侶さんですか?初めまして、僕は武闘家」
サラサラの金髪を後ろで結った少年が私に声をかけてきた。
武闘家君「いつまでこのパーティで一緒になるかわからないけどよろしくお願いしますね」ニコッ
そう言って武闘家君は屈託のない笑顔で挨拶した。
私「よ、よろしくね、武闘家君」
私は以前から武闘家君を知っていた……と言うのもこの学年で二番目の有名人だから。
何を隠そうその成績は学年トップ。
毎回テストではほとんどの科目で満点を叩き出す秀才だ。
魔法使いちゃん「僧侶みっけ!!えへへ、同じパーティだったね、よろしく♪」ニパッ
私「うん、よろしく」
魔法使いちゃん「……と、こっちが武闘家君かな?」
武闘家君「はい、魔法使いさん……ですね?お噂はかねがね」フフッ
魔法使いちゃん「そう?やっぱりあたしって有名人なのかな〜?♪」
私「……うーん……ある意味、ね」アハハ…
魔法使いちゃんは同じクラスの娘で前から交流もあったし仲が良かった。
彼女はこの学年で"ある意味"一番の有名人だ。
初級炎撃魔法陣を展開する最初の魔法実習の授業で、実習室を三つ半壊させたんだからそれは有名にもなる。
以来魔法使いちゃんは先生達から要チェック人物として扱われているんだけれど本人はそんなこと少しも気にしてないみたいだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:26:55.09 ID:jo+olBoY0<> 「なんだよ、武闘家。同じ班だったんだから一緒に行ってくれりゃ良かったじゃねぇかよ」
背後からまだ少しだけあどけなさの残る少年の声がした。
武闘家君「フフッ、ごめんなさい」
少年「まぁいいけどさ……えっと……こっちが僧侶でこっちが魔法使いか?」
魔法使いちゃん「そうだよ〜、そう言う君は勇者?」
少年「おぅ、俺が勇者だ!!……っつってもまだ勇者"候補"だけどな」ハハッ
勇者君「よろしくな、2人とも」
武闘家君「あれ?僕は?」
勇者君「お前は前から俺とつるんでたじゃねぇか」
私「え、えっと……よろしくね、勇者君」
勇者君「あぁ、よろしくな♪」ニッ
私達のパーティ最後の一人は学年一の……いや、この学園一の有名人、勇者君だった。
99代目勇者の大勇者様の息子で七歳で転移魔法を使えるようになったという天才。
剣の腕もピカ一でこの前は一年生にもかかわらず剣術の先生に勝ったんだとか。
次の勇者最有力候補との呼び声も高かった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:29:03.62 ID:jo+olBoY0<> 学年一の秀才と学年一の問題児、時期勇者候補。
そんなすごいパーティの中に凡人の私が選ばれるだなんて全くもって思いもしなかった。
私「……すごいメンバーばっかりだね……」
魔法使いちゃん「そうかな〜?」
私「うん……なんだか私場違いだよ……」ウゥ
武闘家君「そんなことありませんよ、僧侶さんはとっても優秀じゃないですか」
勇者君「なに!?」
武闘家君「えぇ、回復魔法は学年でも3本の指に入ると聞きますしこの間のテストはたしか学年4位でしたよ」
勇者「げ……1位と4位がいんのかよ……」
武闘家君「どうかしましたか?赤点ギリギリだった勇者君?」クスクス
勇者君「馬鹿にしやがって!!」コノコノ!!
武闘家君「あはは、冗談ですってば、もう」クスクス
私「……ふふっ」
じゃれ合う二人を見て私は笑ってしまった。
そうだ、学年一位の秀才も勇者候補も私と同じ十二歳の子供なのだ。
決して雲の上の人なんかじゃない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:30:40.20 ID:jo+olBoY0<> 魔法使いちゃん「なんだ、勇者って言ってもあたしと大して変わらないじゃん」アハハ
勇者君「う、うるさいなぁ、実技が出来ればいいんだよ、実技が出来れば!!」
武闘家君「魔法使いさんには失礼かもしれませんが、勇者と魔法使いさんは実技A学力C、僕は実技B学力A、僧侶さんは実技A学力Aと言ったところでしょうか」
武闘家君「ね?このパーティの中で一番バランスがとれてるのが僧侶さんなんですよ、何も場違いなことなんてありません」フフッ
私「そ、そうかな……?」
勇者君「俺達同い歳のただのガキなんだからさ、気楽に行こうぜ」
魔法使いちゃん「そーそー!!気楽にお気楽リラックス♪」
私「ふふ、ありがとう、みんな」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:33:57.07 ID:jo+olBoY0<> そこで剣術の先生が声をかけてきた。
剣術の先生「随分と楽しそうだな、勇者」
勇者君「あ、ども」
剣術の先生「初めてパーティを組んで浮かれるのも分かるが、そんな浮いた気持ちでは明日からの演習で遭難することになるかも知れんぞ」フンッ
勇者君「大丈夫ですよ、もし危なくなったら転移魔法使って山小屋まで跳びますから」ニコッ
剣術の先生「流石、天才は違うというわけか。……まぁいい、くれぐれもはしゃぎすぎないようにな」
そう言って剣術の先生は職員室へ向かっていった。
魔法使いちゃん「なに〜、あの先生感じ悪ーい」ブー
勇者君「この前俺に負けたの根に持ってんだろ、ったく剣士の風上にも置けねぇ奴だよ」ケッ
武闘家君「勇者があんなにこっぴどく負かさなければ良かったんですよ」ハァ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:36:14.37 ID:jo+olBoY0<> 私「勇者君何したの?」
武闘家「先生の太刀を5分間ひたすら避け続けて、その後に先生の竹刀を弾き飛ばして喉元に竹刀を突きつけて『まだやりますか?』なんて…………僕だったら恨みを買わないようにもう少し上手くやりますけどね」
勇者君「だって頭きたんだもんよ、仕方ねぇだろ?」
勇者君「剣の腕なんて剣士のオッチャンの足元にも及ばないクセしてさ、偉そうに『剣の道とはなんたるものか』なんてご高説垂れてよ」
勇者君「挙げ句実技授業は生徒いびりしかしねぇんだ」
魔法使いちゃん「それはあたしも頭にきちゃうなー」
勇者君「だろ?あの野郎負かした時の他の生徒達からの歓声と言ったらなかったぜ」ウンウン
勇者「……ま、とりあえずみんなしばらくよろしくな!!明日からの演習も頑張ろうぜ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:40:20.13 ID:jo+olBoY0<> ――――翌日・銀の国・白銀の山
白薔薇学園の一年生が初めてパーティを組まされて最初に挑む実習は雪山サバイバル。
魔法課の先生が雪山に生徒達を転移魔法で運び、そこから各パーティが協力して目的地の山小屋を目指す、というものだった。
『過酷な自然の中でパーティの絆を深めるのだ!!』と熱血漢の先生が雪も溶けてしまうような暑苦しさで語っていた。
大陸の北方に位置する銀の国はいわゆる雪国で、一年中雪が積もっているらしい。
演習が始まり雪山の中腹に跳ばされた時、私達は辺り一面の銀世界に胸を踊らせた。
白の国にも雪は降るけれど年に一、二回程度だし積もってもせいぜい靴が埋まる程度。
私達はあんなに沢山の雪を目の当たりにしたのは初めてだったから演習が開始されてしばらくの間は折角の雪景色を堪能した。
勇者君と魔法使いちゃんは雪合戦をして大いにはしゃいでいた。
武闘家君が二人に何も言わなかったのはきっと武闘家君も少しこの白い世界を楽しんでいたかったのかもしれない。
私も小さな雪ダルマを作っては太陽の光に銀色に輝く景色を眺めていた。
しかし、雪山を舐めてはいけない。
白銀の山は比較的なだらかな山だけど森が多いから見通しも良くはないし、何より山の天気は変わり易い。
さっきまでお日様が見えていたと思ったらみるみる雲が空を覆って気が付けば吹雪が…………なんてことも珍しくない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:42:02.96 ID:jo+olBoY0<> そんなわけで私達パーティは
見事に遭難した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:43:36.62 ID:jo+olBoY0<> 魔法使いちゃん「勇者ぁー、今どこなの〜!?」
魔法使いちゃんがうんざりと勇者君に尋ねる。
勇者君「だーかーらー、今ここらへんだよ、ここらへん!!」
勇者君がうんざりと地図を指差す。
武闘家君「違いますよ、もうその地図には載ってない場所です」ハァ
武闘家君がうんざりため息をつく。
私「とりあえずそろそろ休まない……?」
私はうんざりと近くの切り株に腰を下ろした。
勇者君「なんだ僧侶、もうへばったのかよ、だらしないぞ!!」
勇者君は『まだまだ元気だ』と言わんばかりに両手に持っていた荷物を何度も上げ下げした。
武闘家君「いえ、僧侶さんの言う通りです。体力を蓄えるためにも今は休むのが得策でしょうね」
武闘家君は空を見上げると山の頂へと視線を移しながら言った。
武闘家君「曇っていてわかりにくいでしょうがそろそろ日も暮れる頃ですよ」
武闘家君「それに山の頂上付近の天気の荒れ様を見る限りじきにここも吹雪にみまわれるでしょう」
武闘家君「今からビバークの準備をしておかないと取り返しのつかないことになりますよ」
勇者君「う……わかったよ」
武闘家君の説得に勇者君もここでのビバークに賛成をしてくれた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:46:47.04 ID:jo+olBoY0<> 魔法使いちゃん「"びばーく"って?」
私「簡単に言うとテントで野宿しようってことだよ……」
勇者君「へぇ〜……」
武闘家君「演習開始前に先生が説明してくれたじゃないですか……2人とも一体何を聞いてたんですか?」
勇者君・魔法使いちゃん「寝てた!!」
二人は声を揃えて何故か自慢気に言った。
勇者君「なんだ、魔法使いもか!?」
魔法使いちゃん「そう言う勇者も!?」
勇者君「あの先生の話は催眠魔法よりタチ悪いよな〜」ククッ
魔法使いちゃん「わかるわかるー☆」ケタケタ
武闘家君「二人とも……笑い事じゃないですよ?」ニコッ
武闘家君は確かに笑っていたけどその威圧的な笑みに勇者君と魔法使いちゃんは一瞬で真顔に戻った。
勇者君・魔法使いちゃん「すみませんでした」シュン
武闘家君・私「…………」ハァ
私達は同時にため息をついた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:48:47.16 ID:jo+olBoY0<> 武闘家君がテントを建てるのに良さそうな場所を見つけてくれたので私達はそこで吹雪をやり過ごすことにした。
勇者君と魔法使いちゃんもテントの建て方は知っていたみたいで、四人で協力してすぐに組み立てが終わった。
最後に吹雪を和らげるために、私が耐氷撃魔法陣と耐風撃魔法陣をテントの周りに張ってビバークの準備は完了。
素早く準備を済ませたつもりだったけど吹雪が来るのは予想より早く、私達がテントに入るとすぐに強風が吹き荒れた。
四人が入ったテントはぎゅうぎゅう詰めだった。
私達は、出入口から時計周りに勇者君、魔法使いちゃん、私、武闘家君の順に円を描いてみんな毛布にくるまっていた。
でもそうして四人で寄り添っていたから少しだけ暖かかった。
勇者君「いや〜しかし吹雪ってのはすごいもんだな……テントが吹き飛ばされちまいそうだ」
テントの中心に置かれたランプをぼんやりと眺めながら呟いた。
風が吹く度にテントの金具が軋んでギシギシと音を立てていたのだから無理もない。
武闘家君「それでも僧侶さんの補助魔法のお陰で随分マシになってるんですよ?」
私「でも私補助魔法は覚え立てだし初級魔法しか使えないからあんまり役に立ててないかも……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:51:14.09 ID:jo+olBoY0<> 武闘家君「雪玉と一緒にコンパスを投げたり滑って崖から落ちて迷子になった人に比べたら大活躍です」
魔法使いちゃん「あんなこと言われてますよ、雪玉と一緒にコンパスを投げた勇者君」ヤレヤレ
勇者君「そうですね、滑って崖から落ちて迷子になった魔法使いさん」ヤレヤレ
武闘家君「とにかく、遭難の原因はあなた方二人にあるんですからね?」
勇者君「わ、わかってるよ」
魔法使いちゃん「そう言えば勇者の転移魔法は?」
魔法使いちゃんが思い出したように言った。
魔法使いちゃん「ホラ、昨日学校で『遭難したら山小屋まで跳ぶ』って言ってたじゃん」
勇者君「あ、あぁ、あれな、うん……」
勇者君が表情を曇らせた。
武闘家君「転移魔法は原則自分の行ったことのある場所にしか跳べないんですよ、だから勇者は山小屋には跳べないワケです」
勇者「……はい、その通りです」シュン
勇者君が一回り小さくなった。
武闘家君「てっきり僕は事前に山小屋に行ったことがあるからあんな大口叩いたんだと思っていたんですが……甘かったですね」ハァ
勇者君「……面目ない」シュン
勇者君がさらに一回り小さくなった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:56:38.89 ID:jo+olBoY0<> 私「……この魔法具……使おうか?」
そこで私は手にしていた小さな円盤型の魔法具をランプの光にかざした。
演習中に遭難してしまったり事故にあったりしてしまった時、どうしても生徒達の手では解決できないような問題に直面した時には、この魔法具に魔力を込めれば山小屋で待機している先生達に連絡が入り助けに来てくれる、というものだった。
遭難したとその状況は魔法具を使うのに相応しい状況……と言うかそのための魔法具だったんだけどね。
勇者君「いーや、それはダメだ」
でも勇者君はキッパリと言った。
勇者君「それ使ったらリタイアってことだろ?それだけはヤだ」ムスッ
武闘家君「勇者は変なところで負けず嫌いですからね」
魔法使いちゃん「あたしもリタイアは嫌だな〜」
私「でも……」
武闘家君「……まぁ大丈夫ですよ、日が上ればある程度の方位はわかりますから地図と周囲の地形を照らし合わせてなんとかしてみせます」
武闘家君「まだ食料は多目に5日分はありますからね『まだあわてるような時間じゃない』……ってやつですね」ニコッ
私「何それ?」
勇者君「流石武闘家!!頼りにしてるぜ!!」
魔法使いちゃん「かっこいー!!」
武闘家「はいはい……それよりそろそろご飯にしませんか?お腹空いたでしょ?」フフッ
勇者君・魔法使いちゃん「賛成ー!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 03:58:25.16 ID:jo+olBoY0<> 私達は乾パンと干し肉、簡易スープの質素な晩餐をとった。
どうせなら勇者君の転移魔法で街に言ってレストランでご飯を食べてホテルに泊まって明日の朝このテントに戻れば良いんじゃないか、という悪魔の提案を魔法使いちゃんがしたけど勇者君がズルはしたくないと言って却下した。
私にはそんなお金もなかったし正直助かった。
それから私達はお互いのことを話し合って打ち解けていった。
勇者君はお父さんに負けないような100代目の勇者を目指して毎日修行していることを話してくれた。
剣術は大勇者様のパーティだった剣士様に習ってるんだって。
私が「じゃあ魔法は大賢者様に習ってるの?それとも大魔導師様?大勇者様?」って聞いたら「魔法は特別コーチがいる」って笑って言った。
勇者君が見せてくれた勇者の刻印は今まで見たどんな赤よりも赤く、夕焼けの空のような朱色だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:04:58.02 ID:jo+olBoY0<> 私が弟君と妹ちゃんと一緒に一面綿飴だらけの真っ白な平原で遊んでいる夢を見ていると不意聞こえたに武闘家君の声で目が覚めた。
武闘家君「駄目です!!危険すぎます!!」
勇者君「でも行かないわけにはいかねぇだろ!!」
私「どうしたの……?」
私はまだ重たい瞼を擦りながら尋ねた。
武闘家君「あ、僧侶さん、起こしてしまいましたか……」
魔法使いちゃん「どうしたもこうしたもないよ、勇者が外に出るって言うんだよ」
私「え?な、なんで!?」
勇者「悲鳴が聞こえたんだよ!!多分俺達みたいに遭難した奴らが助けを求めてるんだ!!」
勇者君が声を荒らげて言った。
武闘家君「だとしてもこの吹雪の中外に出るだなんて自殺行為です!!」
武闘家君「先生に救難信号を送る魔法具だってあります、仮に遭難した人達がいても大丈夫なハズです!!」
武闘家君は必死に勇者君に訴えた。
勇者君「んなもん知るか!!」
だけど勇者君は武闘家君よりも必死な顔で叫んだ。
勇者君「すぐ近くに助けを求めてる人がいるかもしれないのに放っておけねぇだろ!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:06:46.74 ID:jo+olBoY0<> 「きゃーー!!だ、誰かーー!!」
私達「!!!!」
風の唸る音がビュウビュウと聞こえる中、女の子の叫び声がたしかに私達に届いた。
勇者君「……やっぱり!!」
勇者君「おい、危ないからお前らはここにいろよ!!ちょっと行ってくる!!」ダッ
私「ちょ、勇者君!?」
勇者君は私達の制止を振り切りテントから飛び出していった。
魔法使いちゃん「行っちゃった……」
私「どうしよう、武闘家君……」
武闘家君「………………」
武闘家君は目を固く閉じ沈黙していた。
やがて大きなため息をつくと言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:08:38.29 ID:jo+olBoY0<> 武闘家君「吹雪でただでさえ視界も悪いのにランプも持たずに飛び出して行きますかね」ハァ…
武闘家君「……勇者1人じゃ不安ですし僕も勇者の後を追います。必ず連れて帰ってきますから2人ここで待っていて下さいね」
武闘家君がランプに手を伸ばしたところで、魔法使いちゃんが武闘家君より先にランプを手にとった。
魔法使いちゃん「あたしも行くよ、こんなところでじっとしてるなんて性に合わないし♪」ヒョイッ
武闘家君「…………魔法使いさん」
魔法使いちゃん「僧侶はどうする……?」
私「私は…………」
もしここで外に出たら吹雪の中で息絶えてしまうかもしれない
。
真っ暗な夜の闇の中で何も見えず何も感じられず、ただただ冷たい雪が残酷に私の体温と五感を奪っていくのだろうか?
そう考えたら私は怖くて怖くて仕方がなかった。
だけど私は……何よりも温かなものが"そこ"にある様な気がした。
私「行くよ、私も行く。……だって私達4人で1つのパーティでしょ」ニコッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:11:22.48 ID:jo+olBoY0<> 不安を吹き飛ばす様に私は精一杯に笑ってみせた。
テントの外は暗闇が銀世界を包み込んでいた。
しかもそれだけじゃなく荒れ狂う吹雪のせいで、ランプの灯りがあってもほんの少し先までしか見えない。
防寒着越しにも伝わる刺すような冷気が私達の体力を奪っていくのがわかった。
武闘家君の指示で少し進む度に魔法使いちゃんは小規模な炎撃魔法で前方に道を作った。
私達も同じように少し歩いては周囲に耐雪撃魔法と耐風撃魔法を放って吹雪を和らげた(と言っても焼け石に水だったけど)。
そうして勇者君の足跡を追いかけて数分もしない内にどうにか私達は勇者君に追いついた。
そこには思いもよらない光景が広がっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:13:51.21 ID:jo+olBoY0<> 血まみれで倒れる二人の男の子と一人の女の子。
さらにもう一人女の子が近くの木に寄りかかり泣きながら震えていた。
そして四人の前には巨大な獣に少年が立ち向かっているところだった。
その少年が勇者君だっていうのは分かったけど……あの獣は一体……?
武闘家君「な……魔獣堕ちした大熊山猫!?」
武闘家君が驚きを隠せない様子で言った。
魔法使いちゃん「オオクマヤマネコ?熊なの?猫なの?」
武闘家君「一応猫……ですよ、分類上は。でもその凶暴さと怪力は熊に匹敵します」
武闘家君「それに……魔獣堕ちしてるだなんて……」
授業で習っていたから魔獣堕ちというのは私も知っていた。
強い憎しみや恐怖を抱いたまま殺された動物に世界に満ちている魔力が悪い方へ作用してしまう現象のことだ。
魔獣堕ちした動物はその強い憎悪の念によって血と破壊を求める獣になってしまう。
負の魔力の力を得て生前の何倍も強力な力を持つようになった動物達は『魔物』や『モンスター』と呼ばれ、人々から恐れられている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:16:36.55 ID:jo+olBoY0<> その魔物が今、目の前にいる。
私は混乱しながらも状況をどうにか把握した。
あの子達のパーティが遭難したところで魔物に襲われ、勇者君が現れた、というところかな、と思った。
私より数秒早く状況を理解していた武闘家君が私達に指示を出す。
武闘家君「僕は魔法使いさんで勇者の助けに入ります!!僧侶さんは怪我人の手当てを!!」
私「は、はいっ!!」
魔法使いちゃん「わかった!!」
私は一番近くに怪我して倒れていた男の子へと駆けて行った。
私「大丈夫!?」
男の子「う……」
意識はある様だった。
私は回復魔法の魔法陣を組んだ。
いつもならそんなに時間もかからずに展開できるのに焦りから少し時間がかかってしまった。
やっとのことで術式を組み終え魔法陣が発動した。
男の子を中心に回復魔法の緑色の温かな光り生まれ彼の傷を癒す。
上級回復魔法なら一度に沢山の人達の手当てをしてあげられるけどあの時の私が使えたのは下級回復魔法だけだった。
私は彼の傷が治るのをもどかしく感じながら勇者君達の方を見た。
丁度武闘家君と魔法使いちゃんが勇者君達の加勢に入ったところだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:18:51.24 ID:jo+olBoY0<> 武闘家君「勇者!!」
魔法使いちゃん「助けに来たよっ!!」
勇者君「な……武闘家に魔法使い!?」
武闘家君「勝手に飛び出して行ったかと思えば魔物と闘っているとは……本当に世話が焼けますね、っと!!」
武闘家君は飛び上がり魔物の頭に回し蹴りを叩き込んだ。
魔物「グガァ!?」
しかし魔物はピンピンしていて、鋭い爪で武闘家君を襲った。
ビュッ!!!!
武闘家君「おっと……!!」
スカッ
体を捻って紙一重で攻撃を避けて着地。
即座に次の攻撃へ備えた。
武闘家君「やっぱりたいして効いてませんか……」フム
勇者君「馬鹿野郎、テントで待ってろって言ったのに!!」
勇者君が武闘家君達に怒鳴った。
武闘家君「人に説教できる立場ですか?ランプも持たずに飛び出してどうやって帰ってくるつもりだったんです?」
武闘家君「テントに転移魔法で跳ぶにしても曖昧な座標認識では成功しないでしょ?」
勇者君「うっ……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:22:17.17 ID:jo+olBoY0<> 魔法使いちゃん「それに……助けに来たのはあたし達だけじゃないよ」チラッ
勇者「!?」バッ
魔法使いちゃんの言葉に勇者君は振り返った。
私は一人目の回復を終えもう一人の男の子を治療しながら勇者君達を見守っているところだった。
勇者君「僧侶もか……」
魔法使いちゃん「僧侶が『私達4人で1つのパーティでしょ』って」
魔法使いちゃん「やっぱり困った時は助け合わないとね」ニコッ
勇者君「…………」
勇者君「……ったく、バカは俺1人で十分だってのに」チッ
武闘家君「とか言って、内心嬉しいんでしょ」フフッ
勇者君「うっさい、ほっとけ!!」カァッ
魔法使いちゃん「否定はしないんだね」クスクス
魔物「グルルル……」ユラッ
武闘家君「さて……と」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:25:32.13 ID:jo+olBoY0<> 武闘家君「魔獣堕ちした大熊山猫の討伐任務……難易度はAってところでしょうか」スッ
武闘家君が半身で構えた。
勇者君「初任務にとって不足無し、ってな」チャキッ
勇者君も続いた。
魔法使いちゃん「あたしも全力でやっちゃうよー☆」サッ
魔法使いちゃんも身構えた。
私「こっちが終わったら私もすぐ加勢するから!!」
回復しながらでは応援するぐらいしかできなかったけど、私は精一杯叫んだ。
魔物「ガアアァ……!!」グルルル
魔物は立ち上がり赤く光る眼で私達を睨みつけ、不気味に喉を鳴らしていた。
勇者君「よっしゃ、勇者一行の初陣だ!!行くぞ!!!!」ダッ
武闘家君「はいっ!!」ダッ
魔法使いちゃん「うんっ!!」ダッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:28:00.33 ID:jo+olBoY0<> ――――――――
剣術の先生「……まったく、無茶したものだな」
勇者君「ナハハ……」ボロッ
武闘家君「ハハッ、返す言葉もないですね」ボロ〜
魔法使いちゃん「アハハ」ボロボロ
どうにか魔獣を倒した私達は魔物に襲われていた班の魔法具を使って先生達に連絡をとった。
魔物に襲われた時に魔法具を持っていた男子が助けを呼ぶ間もなく気絶してしまったから緊急事態なのに先生達の助けが来なかったみたい。
魔法課の先生が一人と剣術の先生が魔法具の魔力座標を目印に転移魔法で救援に来てくれた。
魔法課の先生は「君達が彼らを助けに来てくれなかったら下手すれば死人が出ていたかもしれない、本当に勇敢な行動だった」と誉めてくれたけど、剣術の先生は例の如く嫌味を言うだけだった。
私「ちょっと、3人とも動かないで、回復しづらいよ」パアァ
勇者君「あ、悪ぃ……っつつ……」
剣術の先生「魔獣堕ちした大熊山猫を相手にそれだけの怪我で済んだんだ、ありがたいと思え」
武闘家君「ハハッ、ホントですね」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:29:41.53 ID:jo+olBoY0<> 魔法課の先生「魔物の浄化はしたのかい?」
私「そう言えばまだ……ですね」
魔獣堕ちした動物は一度倒してもまた魔獣堕ちしてしまう可能性が高い。
それを防ぐために封印魔法で魔物の魂を浄化してあげるのだ。
魔法課の先生「じゃあ僕が……」
魔法使いちゃん「あたしがやるー!!」
私「魔法使いちゃんが?大丈夫?」
魔法使いちゃん「うん、先週授業でやったやつでしょ?」
私「先々週、だけどね……」アハハ…
魔法使いちゃん「『細けぇこたぁいいんだよ』ってやつだよ♪」
私「何それ?」
魔法使いちゃん「それじゃ、行くよー☆」タタタッ
カァッ!!
虫の息で倒れていた魔物へと駆けて行き、魔法使いちゃんは封印魔法陣の術式を組んだ。
パアアァァ……!!
魔物使いちゃんと魔物の下に白く光る魔法陣が形成され、一人と一匹が光りに包まれた。
そして……
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:32:29.48 ID:jo+olBoY0<> ボフンッ!!
私達「……爆……発……?」ハ?
魔法使いちゃん「ケホケホ!!もぅ、なんで爆発したのー?」ピコピコ
煙の中から魔法使いちゃんが頭から生えた猫耳を動かしながら出てきた。
私達は状況が理解できずにしばらくの間、ただ呆然と魔法使いちゃんの頭に生える"それ"を眺めていた。
魔法使いちゃん「どうしたのみんな?あたしの頭になんかついてる?」ピコピコ
私「み、耳だよ!!魔法使いちゃん!!ね、ねねね猫耳がぁ!!」
魔法使いちゃん「猫耳?」
私「か、鏡!!ホラ!!」サッ
魔法使いちゃん「?…………!!」
魔法使いちゃん「わっ!!ホントだ!!すごーい!!」ピコピコピコピコ!!
私「いや、『すごーい』じゃなくて!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:35:31.69 ID:jo+olBoY0<> 勇者君「…………ぷっ」
武闘家君「…………くっ」
勇者君「ハハハハ!!なんだその頭!!封印魔法に失敗して猫耳とか……ぶっ!!くくくくく!!」ゲラゲラ
武闘家君「フフフッ……なんとも魔法使いさんらしいと言えば魔法使いさんらしいですが……流石学年一の問題児ですね、くくくっ」クスクス
勇者君と武闘家君は堪え切れずに笑いだした。
魔法課の先生は苦笑し、剣術の先生は呆れて言葉も出ないようだった。
魔法課の先生「やれやれ、君にはいつも驚かされるよ。ホラ、僕が治してあげるから」スッ
魔法使いちゃん「えー!!このままでいい!!」
魔法課の先生が片手を魔法使いちゃんにかざしたところで魔法使いちゃんはその申し出を断った。
魔法課の先生「このままでいいって……すぐに済むし痛くもないよ?」
私「そうだよ魔法使いちゃん、先生に治してもらお、ね?」
魔法使いちゃん「でもこの方が可愛いじゃん!!」ピコピコ
私「そ、そうかなぁ……?」
魔法課の先生「ふむ……じゃ気が変わったらいつでも治してあげるよ、特に害は無いだろうしね」ククッ
魔法使いちゃん「ありがとうございます♪」ピコピコ
剣術の先生「非常識な……」チッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:37:37.64 ID:jo+olBoY0<> 魔法課の先生「……さて、そろそろ帰ろうか。怪我した生徒達も早いところベッドでぐっすり寝たいだろうしね」
勇者君「あ〜い、それじゃ」ヒラヒラ
魔法課の先生「なんだ君達は一緒に帰らないつもりなのかい?」
勇者君「だってまだ雪山演習の途中じゃないッスか」
魔法課の先生「魔物と闘って生徒達を救ったんだ、ここで帰っても誰も責めやしないさ」
剣術の先生「格好つけおって、お前達も遭難していたんだろ?」フンッ
勇者君「そ、そうですけど……ちゃんと自分達の力で演習達成したいんで」
剣術の先生「……勝手にするんだな、ただし雪山演習は通常通りの採点をさせてもらうからな」
勇者君「うぐっ…………魔法使い、僧侶いいか?」
武闘家君「僕には聞かないんですね」
勇者君「お前に拒否権はない」ニヤッ
武闘家君「あ、酷いな〜……ま、このパーティは大変なことも多いけど楽しいことの方がもっと多いですからね、ご一緒しますよ」ニコッ
魔法使いちゃん「あたしも、勇者達といるの楽しいから行くよ♪」ニパッ
勇者君「そっか……僧侶は?」
勇者君はじっと私を見つめてきた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:38:54.99 ID:jo+olBoY0<> 剣術の先生「お前は特待生を狙っているんだろう?当然悪い点はとりたくないよな?」フッ
剣術の先生「魔物に襲われた生徒達の迅速な手当てを評価して、ここで帰還すればお前だけでも雪山演習の評価はA+にしてやろう。どうする、うん?」ポン
剣術の先生はそう言うと私の肩に手を置いてきた。
武闘家君「僧侶さん……」
魔法使いちゃん「僧侶……」
二人が心配そうに私を見ていた。
でも……私の心は既に決まっていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:40:45.13 ID:jo+olBoY0<> ギュッ!!
剣術の先生「いだっ!!」
私は先生の手の甲を思い切りつねって言った。
私「私もみんなと残りますよ、初めてできた大切な仲間ですもん♪」
私「あ、さっきのセクハラまがいの行動は誰にも言いませんからお気になさらず」ニコッ
剣術の先生「クッ……折角目をかけてやったと言うのにリーダーが馬鹿だとパーティも馬鹿になる、と言うことか」フンッ
勇者君「んだと!?」
武闘家君「勇者、落ち着いて、リーダーが馬鹿なのは否定できません」
勇者君「お前はどっちの味方なんだ!?」クワッ
魔法使いちゃん「あはは」ケタケタ
私「ふふっ」クスクス
自然と私達は笑い出していた。
勇者君には不思議な力があるな、と私はその時思った。
勇者君の側にいると優しい気持ちになれる。
世界を平和にする勇者に必要なのは剣術の腕や魔法の才能ではなく、周りの人々を笑顔にする力なんじゃないかな?
その日から私はそんな風に考えるようになった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 04:42:58.31 ID:jo+olBoY0<> 翌日の夕方。
私達はなんとか目的地の山小屋へとたどり着いた。
勿論順位は最下位。
当然評価は最低点のD。
私の成績表に『D』がついたのは在学中の四年間で後にも先にもその時だけだった。
だから学生時代の成績表を見るとそのDを見てクスリと笑い、あの時のことを鮮明に思い出す。
私が大切な仲間と出会った、あの時のことを……。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/28(金) 06:54:34.62 ID:jo+olBoY0<> 【Episode03】
――――黒の国・魔王の城・王の間
側近(どうしたのでしょうか……?)ムゥ…
王座に腰かける魔王を見て側近は疑問を抱いていた。
先程から政策の進行具合を部下が報告しているというのに魔王は心ここに在らず、という様子だ。
ぼんやりと何かを考えているようで目の焦点が合っていない。
側近(いつもなら王として威厳のある態度で凛としていらっしゃるのに……)
部下との謁見前、勇者と会ってきてから魔王はこんな調子であった。
側近(……勇者さんと何かあったのでしょうか……?)
部下「今期の予算の振り分けについては以上になります。黒鉄の街と漆黒の街から予算増加の要望がありますがいかがなさいますか?」
魔王は書類の文字を指でなぞると、視線を上方に移して部下の問いに答えた。
魔王「……う〜〜ん……どっちの街も最近人口増えてるもんね、交易も盛んな都市だし……どうしようかな〜……」
側近・部下「!?!?!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 06:57:27.29 ID:jo+olBoY0<> 側近が慌てて魔王に耳打ちする。
側近「ま、魔王様!!口調が!!」ヒソヒソ
魔王「!!!!」ハッ
部下「…………」
唖然とする部下。
側近「…………」
固まる側近。
魔王「…………」
焦る魔王。
……王の間が沈黙で満たされる……。
魔王「……ゴ、ゴホン」
魔王「フ、フハハッ、同年代のおなごの様に話してみたがどうであった、側近よ?」アセアセ
側近「魔王様、今は部下の前なのですよ?お戯れになるのもほどほどにしていただかないと」アセアセ
魔王「すまんな、たまにはくだけた言葉使いをしてみるのも良いかと思ってなぁ」アセアセ
部下「……さ、左様でしたか、いやはや面くらってしまいましたよ」ハハッ
魔王「うむ……で、黒鉄の街と漆黒の街の予算についての話であるが他を削ってなんとかしてみよう。双方の統治者には前向きに検討する、と伝えてくれ」
部下「ハッ。で、では私はこれで失礼致します」ペコッ
部下はそそくさとその場を去っていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:00:17.74 ID:jo+olBoY0<> 扉の閉まる音を聞いてから魔王はうなだれて言葉を吐いた。
魔王「ぐ……部下の前であの様な態度をとってしまうとは……不覚だ」ウゥ…
側近「言葉遣いの注意は幼い頃から散々してきましたでしょう? 今さらこんなミスをするだなんて……」
魔王「わかっている……」ズーン
側近「まぁ……彼は真面目な人ですから誰かに言いふらしたりはしないと思いますけれど……」
側近「……それにしても今日の魔王様は変です」
魔王「……やっぱりか?」
側近「はい、すごく」キッパリ
側近「ずっと魔王様にお付きして参りましたがこんなに呆けた魔王様を見たことはありません」
側近「勇者さんと会った時に何かあったのですか?」
魔王「す、鋭いな」ギクッ
側近「魔王様のことなら身体中のホクロの数だってわかりますから」
魔王「それは正直引くぞ……?」
側近「そんなことより、何があったのですか?」ジトー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:02:41.85 ID:jo+olBoY0<> 魔王「う、うむ…………それがな?」
魔王は両の人指し指を胸の前でツンツンとつけたり離したりを繰り返しながら、小声で言った。
魔王「ゆ、勇者が……」モジモジ
側近「勇者さんが?」
魔王「勇者が……仲間達に会って欲しいと申すのだ」モジモジ
側近(……!!)
側近は魔王の口から発せられた言葉に驚いたものの、ややあってから笑顔で魔王へ言った。
側近「……よかったではありませんか、魔王様が勇者さん以外の人間とお会いなさるというのはお2人の夢が叶う日が近いという証拠でしょう?」ニコリ
魔王「それは……そうなのだが……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:04:31.10 ID:jo+olBoY0<> 勇者と魔王が人間と魔族の和平を目指していることを知る者は少ない。
魔族ならば側近、人間ならば大勇者と白の王のみである。
さらに二人の仲を知る者は側近のみだ。
これには勿論理由がある。
勇者と魔王に交流があるということを周囲の人間が知れば、お互いの立場に悪影響を及ぼし兼ねないからである。
魔王の君主としての国民の支持に揺らぎが生まれるかもしれないし、勇者は勇者で『魔族のスパイ』の濡れ衣で100代目勇者の選定に影響が出ていたかもしれない。
そういう訳で二人の関係を公にするのは来たるべき時が来てから、と二人は決めていた。
和平の計画も然りである。
勇者は正式に100代目の勇者に任命され、諸国の王との謁見が許されてから各国の王に和平への道を進言するつもりであったし、
魔王は魔族の王としての地位を磐石なものとしてから和平へと黒の国全体の舵を切るつもりであった。
魔王が軍事関連の政策よりも国民のための政策に力を入れているのはそのためであり、魔王が政治に携わるようになってからは若干ではあるが軍備は縮小の傾向にあった。
斯くして勇者と魔王、二人の関係を第三者に知らせるということは、言うなれば計画が最終段階へ移行しつつあるということなのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:07:06.68 ID:jo+olBoY0<> 側近「……で、何がご心配なのですか?」
魔王「その……勇者以外の人間に会うなど初めてのことだからな、どうしたらいいかと……」
魔王「勇者は『俺の仲間はみんな良い奴らばっかだから心配すんな!』と言っておったのだが……」
側近「……魔王様ともあろう御方が情けない……」
魔王「だってだって!!勇者とは小さい頃からずっと会ってたからいいけどさ、他の子とどう接したらいいかなんてわかんないよー!!」バタバタ
魔王はどこからか取り出した大きな熊のぬいぐるみを抱き締めながら足をバタつかせた。
側近「魔王様、口調。それと精神不安定な時に熊のぬいぐるみを出すのもやめて下さい、威厳の欠片もありません」
魔王「う、うむ……でもどうしたらいいかわからぬのが事実なのだ……」シュン…
魔王「あぁ……国政や財政を考えるほうがよほどマシだ……側近も手伝ってくれるし……」
魔王「……!!」ハッ
魔王は何かを閃いた様ようで、勢い良く顔を上げると側近を見た。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:11:21.39 ID:jo+olBoY0<> 側近「な、なんでしょうか?」
魔王「そうだ!!側近も一緒に来てはくれぬか!?」
側近「私がですか?」
魔王「側近が共に来てくれるならば多少は私も安心できる!!」
側近「勇者さんがいるではありませんか」
魔王「勇者は人間でしょ!!魔族は私1人なんですのよ!?心細いでござろう!!」
側近「必死になるあまり言葉遣いが大変なことになっております」
魔王「……それに側近も勇者に会ったことはないではないか、これを機に……な?」
側近「ハァ…………わかりました、私もお供致します。このままでは今後の執務に支障をきたしますからね」
今にも泣き出しそうな魔王の懇願を受けてしぶしぶと承諾した。
魔王「側近〜〜〜!!」ギュッ
満面の笑顔で側近の胸に飛び込んだ魔王を側近は優しく撫でた。
側近「はいはい。……たしかに私もそろそろ勇者さんに会うべきだろうと思っていましたし」ヨシヨシ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:13:36.48 ID:jo+olBoY0<> 魔王「……そう言えばどうして側近は今まで勇者と会おうとしなかったのだ?」
魔王「何度も誘ったのに『魔王様だけで』と言って一度も来なかったではないか」
側近「あら、簡単な理由ですよ」
魔王「?」
側近は口に手をあて、静かに微笑みながら言った。
側近「男女が2人きりで会うというのに野暮なことはしたくありませんでしたので」ウフフッ
魔王「………………」
魔王「………………なっ!///」カァッ
ややあって魔王の顔は赤く染まった。
魔王「よ、余計な真似を!!」
側近「そうでしたの?」フフッ
魔王「そうだ!!それに……」
側近「それに……?」
魔王「……あの鈍感勇者には無駄な気遣いだよ〜、だ」ブスー
両の頬を林檎の様に膨らませると魔王は不満たっぷりに独りごちた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:15:20.87 ID:jo+olBoY0<> ――――赤の国・街道沿いのとある宿屋
魔法使い「それにしても勇者の幼馴染みかー、楽しみだな〜♪」ルンルン
宿屋の一室、四人部屋のベッドに寝転がり魔法使いは楽しそうに言った。
機嫌が良いので彼女の猫耳も小刻みに動いている。
勇者「そうか、きっと仲良くなれると思うぜ」
勇者は椅子に腰掛け剣の手入れをしていた。
勇者に任命されてからはまだ戦場に駆り出されたことはないが武器の手入れを怠るわけにはいかない。
僧侶「どんな人なの、勇者君?」
魔法使いの隣のベッドに座って本を読んでいた僧侶が尋ねた。
『いつか神樹の下で』という名のその本は巷で流行りの恋愛小説だ。
武闘家「僕も気になりますね」
勇者の向かいの席に座り、新聞を読んでいた武闘家が言った。
軽い遠視の彼は掛けていた眼鏡の位置を片手で整えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:17:28.84 ID:jo+olBoY0<> 勇者「俺より2つ歳上でさ、しょっちゅう俺のことからかったり馬鹿にしてくるんだよな〜」ムス
魔法使い「じゃあ武闘家みたいな人なんだ!」
勇者「いや、見た目も性格も全然違うな」
僧侶「そう言えば武闘家君も知らないんだよね?」
魔法使い「そーそー、勇者との付き合いは武闘家の方があたし達より長いのにさ、一度も会ったことないんでしょ?」
武闘家「はい。……と言うか存在を知ったのもついこの前ですよ」
魔法使い「勇者〜、その人ホントに幼馴染みなのー?」ジトー
魔法使いが疑いの眼差しを向ける。
実際三人は勇者に本当に幼馴染みなどというものがいるのか半信半疑なのだ。
勇者「ホントだって!!7歳の頃からの付き合いだよ!!」
勇者「ただなんつーか家庭の事情?、が複雑でな、みんなに紹介できなかったんだよ」
勇者「だけど……そろそろ紹介できるかな、って」
僧侶「"家庭の事情"?」ウーン…
魔法使い「貴族なの?それとも〜王族とかっ!?」
勇者「んー、まぁ似たようなもんだ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:18:50.84 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「ふ〜ん……じゃあさ、お堅かったりしない? あたし真面目すぎる人はちょっと苦手なんだけど」
勇者「それは大丈夫だと思うけど……堅苦しいかったりくだけてたりするからなぁ……」
僧侶「……???」
勇者「ま、会えばわかるさ」
武闘家「…………そうですね、『百聞は一見に如かず』と言いますしね」
勇者「……ただ……」
僧侶「ただ?」
勇者は目を伏せて影のある声を漏らした。
勇者「……そいつに会ったらお前らきっとすごく驚くと思うんだ、お互いの立場とかそいつの背負ってるもんとか……そういうものにさ」
勇者「だけど……そんなの気にしないでそいつ自身のことを、ただ見てやってくれないか?」
勇者「お前らなら大丈夫だと思うけど……きっとそいつもお前らに嫌われたりしないか気にしてると思うんだ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:20:52.88 ID:jo+olBoY0<> その"幼馴染み"が勇者にとって大切な存在であること、"幼馴染み"が自分達に受け入れられるかを勇者が不安に思っていることを三人は勇者の声色、眼差し、顔つきから感じ取った。
長い付き合いの彼らにとって仲間の心の内を読むことなど難しいことではない。
魔法使い「なーんだ、そんなこと? あたし達が差別とか偏見とかするわけないじゃん☆」ニャハハ
僧侶「うん、それに勇者君の友達なら私達の友達だよ」ニコッ
武闘家「そういうことですね」フフッ
三人は勇者を安心させようと普段より少し明るく言った。
勇者「そっか…………ありがとう」
魔法使い「さ、て、と♪ そろそろ時間なんじゃない?」ウズウズ
勇者「あぁ、そうだな、じゃあ行くぞ!!」
僧侶・武闘家「はい!」
勇者が指を軽く鳴らすと軽快な音と共に部屋全体に青の魔法陣が広がった。
四人は青白い光りに包まれ転移空間の中へといざなわれる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:22:35.50 ID:jo+olBoY0<> 『転移空間』とは転移魔法によって別の場所へと移動する際に、場所と場所とを繋ぐ魔法次元である。
平たく言えばワームホールのようなものだ。
転移魔法によって長距離を移動する際には転移空間を経由して目的地へと向かうのだ。
上下前後左右が無限に広がる青い光に満たされた空間に浮かんだ四人は凄まじい速さでその空間を進んでいく。
そして転移空間内に無数に散らばる小さな光、夜空の星々のようなそれら光のうちの一つへと吸い込まれた。
再び青白い光に包まれたかと思うと勇者達は静かな森の中へ立っていた。
武闘家「ここは……?」キョロキョロ
勇者「待ち合わせ場所だよ、緑の国の外れだな」
僧侶「緑の国!?そんな遠くに数秒で……やっぱり勇者君はすごいね!」
魔法使い「赤の国から緑の国まで跳ぶとなったらあたしでも2、3分かかっちゃうもんな〜」
勇者「ここには百回以上来てるからな、慣れちゃってるんだ」ハハッ
勇者「さ、行こうぜ」
そう言って勇者は歩き出した。
他の三名もそれに続く。
ほんの十数秒で森の中の開けた場所に出た。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:24:27.88 ID:jo+olBoY0<> そこは静かな湖の畔。
勇者と魔王、二人だけの秘密の湖畔だ。
今そこに初めて二人以外の人間が訪れた。
僧侶「わぁ……綺麗なところだね」
武闘家「えぇ、とても静かな……素敵な所ですね」
魔法使い「ここが待ち合わせ場所?」
勇者「あぁ、そいつとはいつもここで会ってる。俺達だけの秘密の場所だ」
勇者「ん〜……まだ来てないか……僧侶と魔法使いはベンチで座って待ってろよ」
武闘家「こんな山奥に休憩所ですか……他にも誰か来るということですか?」
勇者「いや、ベンチもテーブルも俺達が置いたんだよ」
武闘家「なるほど」
僧侶「じゃあお言葉に甘えて……」
パァ……!!
僧侶がベンチに腰を降ろそうとした時、勇者達の目の前の地面に青の魔法陣が現れた。
魔法使い「転移魔法陣……ってことは!!」
勇者「……だな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:25:45.38 ID:jo+olBoY0<> そこは静かな湖の畔。
勇者と魔王、二人だけの秘密の湖畔だ。
今そこに初めて二人以外の人間が訪れた。
僧侶「わぁ……綺麗なところだね」
武闘家「えぇ、とても静かな……素敵な所ですね」
魔法使い「ここが待ち合わせ場所?」
勇者「あぁ、そいつとはいつもここで会ってる。俺達だけの秘密の場所だ」
勇者「ん〜……まだ来てないか……僧侶と魔法使いはベンチで座って待ってろよ」
武闘家「こんな山奥に休憩所ですか……他にも誰か来るということですか?」
勇者「いや、ベンチもテーブルも俺達が置いたんだよ」
武闘家「なるほど」
僧侶「じゃあお言葉に甘えて……」
パァ……!!
僧侶がベンチに腰を降ろそうとした時、勇者達の目の前の地面に青の魔法陣が形成された。
魔法使い「転移魔法陣……ってことは!!」
勇者「……だな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:29:36.84 ID:jo+olBoY0<> 魔法陣から発せられた青白い光の中から二人の女性が現れた。
一人は艶のある漆黒の髪を腰まで伸ばした美しい少女。
魔王「む……勇者達の方が先に来ていたか」
もう一人は赤の髪を二つに結った真面目そうな長身の女性であった。
側近「仕方ありませんよ、会議が思ったより長引きましたので……」
武闘家「この方々が勇者の幼馴染み……ですか?」
魔法使い「2人も!?」
僧侶「しかも女の人!?」
驚く魔法使いと僧侶であったが、勇者もまた驚いていた。
勇者「……2人も居るとは……俺もちょっと驚き……だな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:30:59.08 ID:jo+olBoY0<> しかし魔王がこの場に連れてくる女性は一人しかいないということを勇者はすぐに理解した。
勇者「……そっか、アンタが側近さんだな?」
眼鏡を掛けた女性に向かって勇者が言った。
側近「えぇ、初めまして、勇者さん」ペコリ
勇者へと深々と丁寧なお辞儀を返す側近。
魔法使い「え?こっちの人は初めて会うの?幼馴染みじゃないの……?」
勇者「えっと……そうだな、先にコイツを紹介しちゃった方が良さそうだな」
魔王の一瞥する勇者。
魔王が緊張しているのは勇者には一目瞭然だった。
無論勇者も緊張している。
本当に仲間達に魔王という存在を受け入れ貰えるのかどうか……。
勇者「…………ふぅ〜…………」
大きく息を吐くと勇者は言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:32:23.59 ID:jo+olBoY0<> 勇者「紹介するよ、俺の幼馴染みの……魔王だ」
魔王「は、はじめまして」ニコッ
……。
…………。
………………。
武闘家「ま…………?」
魔法使い「お…………?」
僧侶「う…………?」
事態を飲み込めない三人。
魔法使いと僧侶は思考が追いつかずに固まっているし、少しのことには動じない武闘家でさえ唖然としている。
魔王と言えば黒の国の王。
魔族の王にして聖十字連合の――――人間の最大の敵。
勇者一行の旅の終着点。
それが…………こんな少女?
自分達と大して歳も変わらないこの女性が諸悪の根源である魔王…………?
三人は同じことを同じ様に考え同じ様に混乱していた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:34:34.16 ID:jo+olBoY0<> 僧侶「ゆ、勇者君、いくらなんでも無理のある冗談かな〜って」
魔法使い「そうだよ〜、こんな可愛い娘が魔王なワケないじゃん」
武闘家「魔王だなどと言っては彼女に失礼ですよ?」
三人はどうにか状況を整理し終えた。
そうだ、これは勇者の笑えないジョークだ。
前々からギャグのセンスがないとは思っていたがまさかこんなしょうもない冗談を言うとは驚かされる。
かえってこちらが気を遣ってしまうではないか。
魔王「うむ……まぁそうなるな」フム
勇者「俺も初めて会った時は信じられなかったしなぁ」ハハッ
苦笑する勇者と魔王。
勇者「魔王」
魔王「わかっている……私は本物の魔王だよ、武闘家、魔法使い、僧侶」スルッ
武闘家・魔法使い・僧侶「!!」
魔王はローブを捲って自らの左腕を彼らに見せた。
新月の暗闇よりも暗く黒い、魔王の刻印を。
魔法使い「あれって魔王の刻印だよね?」ゴクッ
僧侶「嘘……じゃあ本当に、ま、魔王なの?」
武闘家「……一体どういうことなんですか、勇者?」
武闘家「何故魔王が……」
勇者「大丈夫、全部話すよ。そのためにお前達を今日こうしてここに連れてきたんだからな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:36:41.45 ID:jo+olBoY0<> ――――――――
――――
――
―
武闘家「まさか100代目勇者と100代目魔王が知己の仲にあったとは……流石に驚きを禁じ得ませんよ」
勇者と魔王の関係、二人の計画を聞き暫く唖然としていた武闘家達だったが、やっと状況を飲み込み始めた。
武闘家「理解はできてもまだ納得はできないですね」
勇者「今まで黙っててごめんな?」
武闘家「いえ、2人の事情からすれば仕方ないですよ」
武闘家「それにやっと謎も解けました」
勇者「謎?」
武闘家「『魔王を倒そう』って言うといつも少し戸惑っていたじゃ、ないですか。戦場でも『できるだけ殺すな』って言いますし……少し気になってたんですよ」
勇者「顔には出さないようにしてたつもりなんだが……お前は相変わらず鋭い奴だな」ハハッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:38:44.29 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「二人の関係を他に知っている人間は?」
勇者「お前達だけだけど……」
武闘家「そうですか……ありがとうございます」ニコッ
武闘家はいつものように微笑んだ。
勇者「?」
武闘家「魔王さんを僕達に最初に紹介してくれたこと、勇者の僕達に対する信頼の表れだと思いますから」フフッ
勇者「武闘家……」
魔法使い「そんなことよりも勇者!!」
魔法使いが二人の会話に口を挟んむ。
勇者「な、なんだよ」
魔法使い「幼馴染みがこんな美人な女の子だなんて知らなかったよ!!」
勇者「いや、男だなんて一言も言ってないだろ!?」
魔法使い「しかも静かな湖畔で2人っきりって……ロマンチックすぎだよ!!」
僧侶「やっぱり2人はそういう関係なの……?」ウゥ
勇者「そういうってどういう関係だよ!?」
武闘家「やれやれですね」フフッ
騒ぐ魔法使い、泣きそうな僧侶、焦る勇者とそれを見て笑う武闘家。
いつもの100代目勇者とその仲間達の姿がそこにはあった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:40:56.03 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「さて……」
武闘家は魔王へと向き直った。
武闘家「魔王さん……いえ、魔王"様"と呼んだ方がよろしいでしょうか?」
魔王「様づけでなくて良いし変に畏まることもない」
武闘家「そうですか。挨拶が遅れましたがはじめまして、武闘家と言います」ペコリ
魔王「うむ、勇者からいつも話は聞いておる。いつも勇者が迷惑をかけてすまない……さぞ苦労していることだろう」
武闘家「いやはや、ホントにその通りですね」アハハ
勇者「おい!!」
武闘家「勇者の話はおいておくとして……魔王さん、貴女が僕達人間に仇なす存在でないこと、勇者と共に世界を平和へ導こうとしていることは分かりました」
武闘家「ですが正直な話、僕達人間にとって魔族は憎むべき敵なんです」
武闘家「魔族との戦争で親が殺された子供達も沢山います、家や故郷を焼かれた人もいます」
武闘家「幸い僕達の中にはそういう人はいませんが……『魔族』という種をすんなり受け入れることはできません」
魔王「………………」
側近「………………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:45:49.21 ID:jo+olBoY0<> 勇者「武闘家……」
武闘家「ですからそのことを踏まえて言います」
武闘家「これからよろしくお願いしますね」ニコリ
魔王「な…………」
武闘家「僕達も勇者と同じ様に貴女と友人になりたい」
武闘家「ゆっくり時間をかけて魔族のことを知り、人間のことを分かってもらいたい」
武闘家「勇者と魔王……2人が平和への架け橋となれるように、僕達も2人に協力したいのです」
武闘家「僧侶さんも魔法使いさんもそうですよね?」
僧侶「う、うん……いきなりでびっくりしちゃったけど……私も魔王さんと友達になりたいかな、って」
僧侶「武闘家君も言ってたけど魔王さんが魔族だってことに私は……少し抵抗があります」
僧侶「でも勇者君の友達は私達の友達です。だからきっと仲良くなれると思います」
僧侶「魔王さんにとっての初めての人間の女友達になれたら嬉しいです」ニコ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:48:16.91 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「あー、僧侶ずるいよ〜、あたしが魔王の初めての女友達になるんだからぁ!!」プンプン
僧侶「ふふっそうだったの?ごめんね魔法使いちゃん」クスッ
魔法使い「そうなのー!」
魔法使い「あたしは人間とか魔族とかあんまし気にしないし仲良くしようね、魔王♪」ニパッ
魔王「………………」
魔王は胸中に沸き上がる感情をどう言葉にして良いのかわからなかった。
春の陽射しの様に温かで優しい安堵感。
勇者の他にも私を受け入れてくれる人間がいる。
魔族であるこの私を。
何百万人といる人間の中のたかだか三人。
しかし紛れもなくこの一歩は人と魔族が歩み寄っていくための大きな一歩なのだ。
側近「良かったですね、魔王様」フフッ
魔王「うむ…………ありがとう、3人とも…………」
勇者「な、だから言ったろ、俺の仲間達はみんな良い奴らだってさ♪」
魔王「そうだな、本当に素晴らしい仲間達だな」フフッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:49:48.31 ID:jo+olBoY0<> 勇者「さてと、じゃあ……」
魔王「……なんだ?」
勇者「俺"達"の前じゃその魔王様口調は禁止だ」ニッ
魔王「え……」
僧侶「魔王様口調……?」
勇者「あぁ、こいつ人前じゃ偉そうな口調だけどホントはくだけた感じで話すんだぜ」
魔法使い「そうなの?だったらあたし堅苦しいの嫌いだしそっちの方がいい!!♪」
魔王「だ、だが……」チラッ
魔王は困惑しつつ側近の方を見た。
魔王に人前では"魔王様口調"を話すよう指導してきたのは側近なのだ。
普通の女の子の様に話すことなど果たして彼女が許すだろうか?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:51:13.89 ID:jo+olBoY0<> しかし魔王の心配は杞憂に終わった。
側近は『仕方ありませんね』と言わんばかりに微笑んで言った。
側近「ご友人の前だけ、ですよ?」フフッ
魔王「!!…………ありがとう、側近!!」
魔王はこれ以上ないくらい嬉しそうな声で側近に礼を言うと四人の人間達の方を向く。
微かに瞳を潤ませ目一杯の笑顔でその少女は言った。
魔王「改めまして、わたしは魔王です!よろしくね、みんなっ!!」ニコッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:53:15.00 ID:jo+olBoY0<> ――――黒の国・魔王の城・地下研究室
魔将軍「首尾はどうだ?」
薄暗い地下室で魔将軍は白衣を着た眼鏡の男に声をかけた。
白衣の魔族「どちらも順調ですよ……ご覧になりますか?」
何日も洗っていない頭を掻きながら白衣の魔族は答えた。
パラパラとフケの落ちるその頭髪はおよそ清潔とは無縁である。
魔将軍「うむ」
白衣の魔族「じゃ、サンプル体の方からいきますか」ポチッ
ガコッ!
白衣の魔族が細い指で壁のボタンを押した。
金属の擦れる音と歯車の回る音と共に石壁が開いていく。
開いた地下研究室の壁の奥にはさらに薄暗い小部屋があった。
小部屋へと足を踏み入れた魔将軍は立ち込める悪臭に僅かに顔をしかめた。
白衣の魔族はと言うと、この異臭にはなれているようで顔色一つ変えない。
白衣の魔族「これがサンプルナンバー205と207です」
そう言って彼は部屋の半分を占める鋼鉄の檻へ仰々しく腕を広げた。
サンプル205「ギャアアァァァーー!!!!」ガシッ!!
サンプル207「ゴアアァァァァーー!!!!」ガシッ!!
ガシャン!!ガシャーン!!
誰もが一目見て異常だと分かる二人の魔族が鎖に繋がれた手で檻を揺らした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:55:01.15 ID:jo+olBoY0<> サンプル205「アガァ!!ウグゥ……ガアァ!!」ボタボタ
サンプルナンバー205と呼ばれた魔族は焦点の定まらぬ充血した眼をし、口からは涎を垂らしている。
サンプル207「グルルル……ギョアァ!!グウゥ……!!」ガリガリガリガリ
サンプルナンバー207は身体中に血管を浮き出たせ、一心不乱に石畳の床を掻き始めた。
爪が剥げて指先から血が流れ出てもやめようとしない。
白衣の魔族「どっちもこの状態になってから1週間が経ってます。ま、ここまで異常は出てないから大丈夫でしょ」
魔将軍「異常は出てない……か」
白衣の魔族「クククッ、この状態が既に異常ですがね、クク、ククククッ」
白衣の魔族は肩を揺らして笑った。
魔将軍は付き合い切れない、とばかりに重いため息をつくと話を戻した。
魔将軍「調整の方は大丈夫なのか?」
白衣の魔族「ククッ、クククッ……え?あぁ、調整ですか?」
白衣の魔族「この1週間で十分なデータが取れましたからね、あと2、3週間もあれば完璧なものにしてみせます」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:56:54.58 ID:jo+olBoY0<> 魔将軍「そうか……もう一方はどうだ?」
白衣の魔族「そっちはあと2、3ヶ月……ってところですかね、っと」グイッ
ガコン!
ジャラジャラジャラジャラ……
白衣の魔族がレバーを引くと部屋の隅にあった巨大な水槽から幾本もの鎖が巻き上げられていく。
白衣の魔族「いかがでしょう?数少ない文献の記述を元に最新鋭の魔法科学を注ぎ込んで注文に応えられる品を作ったんですけど」
白衣の魔族は緑色の液体の滴る"それ"を指差し言った。
魔将軍「素晴らしい……いや、期待以上の出来だ!!」
魔将軍は拳を握り締め嬉々と叫んだ。
白衣の魔族「そうですか、そりゃ何よりです」
白衣の魔族「言っときますけど同じものをいくつも作れ、なんて言われても無理ですよ?」
白衣の魔族「魔将軍様に頼んで調達してもらった材料はどれも超がつくほどの貴重品。国宝の類いの魔法具も何個か使いましたからね」
魔将軍「構わん、これさえあればそれで十分だ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 07:59:49.94 ID:jo+olBoY0<> 白衣の魔族「そうですか……あー、魔将軍様?一つお聞きしてもいいですか?」
白衣の裾で眼鏡のレンズを拭きながら白衣の魔族が魔将軍に問うた。
魔将軍「なんだ?」
白衣の魔族「僕としては研究ができればそれでいいんですけどね、なんだってこんな指示を?」
白衣の魔族「黒い噂の絶えないあなたのことだ、魔王様にもこの研究って内緒なんでしょ?」
白衣の魔族「下手すりゃ世界がひっくり返るような……いや、世界が壊れるかもしれない研究、なんでまた極秘裏に?」
魔将軍「お前は何も分かっていないな、そんな研究だから極秘裏なんだろう?」フッ
白衣の魔族「ま、そりゃそうでしょうがね」
魔将軍「お前はただこの研究を完成させれば良いのだ」
無愛想にそう言うと魔将軍は小部屋の出口へと歩いて行った。
ふと足を止めた彼は白衣の魔族の方を振り向くと狂気を妊んだ黒い笑みを浮かべて言った。
魔将軍「そうだな、これだけは言っておこう……」
魔将軍「私のすることは全てこの世界のためだ、とな」ニッ
未だ水槽の前に立つ白衣の魔族はその鬼気迫る笑みに背筋を凍らせた。
薄暗い空間の中には肉体を弄ばれた憐れな魔族が石畳を引っ掻く音だけが、絶え間なく聞こえていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:02:33.73 ID:jo+olBoY0<> 【Memories03:】
――――緑の国・名も無き湖のほとり
わたし「温泉?」
わたしはその時聞いた言葉をそのまま聞き返した。
勇者「温泉」
勇者は頷きながら先程の言葉を繰り返した。
わたし「温泉回とはこれまたなんともベタな展開だねー」
勇者「なんの話だよ」
その日もわたしと勇者達はいつもの湖で密会をしていた。
勇者「この前橙の国に行った時に女王様が一番豪華な温泉宿を一つ貸し切りで使わせてくれるって言ってくれたんだよ」
橙の国と言えば人間側の国で一番大きな火山を有する国だ。
そのため多くの温泉があり温泉施設も充実している。
観光地や慰安地としては定番の国だ。
人間の国になんて緑の国以外行ったことはなかったけど魔王たるものそれくらいの知識はあって当然だ。
武闘家「それで交流を深めるために魔王さんもいかがかな、と思いまして」ニコッ
武闘家がにこやかにそう言った。
彼は学生時代も今も女性から人気があると勇者から聞いていたけど、この爽やかさならそれも頷ける。
魔法使い「毎日お仕事で疲れ溜まってるんでしょ?魔王も一緒に行こーよ、ね?♪」ピコピコ
魔法使いが猫の形の耳を動かしながら意気揚々と言った。
この目で見るまでは猫耳の少女なんて半信半疑だったし、初めて見たときは驚いた彼女のその耳にもすっかり慣れてしまった。
僧侶「どうかな?やっぱり忙しい……?」
僧侶が優しい声で尋ねてきた。
出会った当初は敬語でどこかよそよそしかった彼女も、今ではわたしのことを『魔王ちゃん』と呼んでくれている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:05:05.79 ID:jo+olBoY0<> わたし「う〜ん……忙しいには忙しいけど仕事詰めればなんとかなるかなぁ……」
わたしはスケジュールを確認しながら答えた。
わたし「ある程度の仕事なら側近に任せられるし……」
ごめん、側近。
あの日仕事を任せたのはみんなで温泉に行きたかったからなの。
頭痛と腹痛がするって言って部屋で寝込んでたのは嘘だったんだ。
ホントにごめん。
勇者「よし、じゃあ決まりだな」ニッ
僧侶「良かった、魔王ちゃんも一緒に来れて」ホッ
武闘家「本当は橙の女王様に謁見した日に泊まって行くように言われたんですが、勇者がどうせなら魔王さんも、って無理言って貸し切りの日の変更をお願いしたんですよ」フフッ
勇者「おま、言わなくてもいいことを……」
わたし「そうなの?勇者にも可愛いとこあるんだね」フフッ
そう言ってわたしは勇者の頭を撫でた。
少しクセのある髪の感触が手のひらに伝わった。
勇者「だぁ!!頭撫でんなっての!!」ビシッ
わたし「いーじゃん、わたしと勇者の仲でしょ?」
勇者「別に仲良くなくはねぇけど仲良くねぇよ!!」
わたし「それは一体どっちなの?」クスクス
勇者「あー、もー、知らん!!」プイッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:06:48.61 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「何度見ても勇者と魔王さんのやりとりは面白いですね」フフッ
魔法使い「ねー、息のあった漫才って感じだよね」ケタケタ
わたし「漫才してるつもりはないんだけどな〜」ウフフ
勇者「まったくだ」ケッ
僧侶「…………」
ふと気づくと僧侶が何やらうらめしい面持ちでわたし達を見ていた。
わたしは勇者みたいに鈍感じゃないからそこで勇者をからかうのはおしまいにした。
魔法使い「でも温泉か〜、楽しみだな〜♪あたしは修学旅行以来かな?」
僧侶「ん〜、私もそうかも」
わたし「修学旅行か……わたしはそんなの行ったことないからな〜……やっぱり楽しいんでしょ?」
魔法使い「そりゃあもう!昼間はみんなでわいわい遊んで夜になったら枕投げ、あとは遅くまでガールズトークに華を咲かせるんだよ!!♪」
わたし「ガ、ガールズトーク……!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:08:01.59 ID:jo+olBoY0<> 『ガールズトーク』
なんて素晴らしい響きだろう。
年頃の女の子達が夜更けにとりとめもない話で盛り上がるという、甘酸っぱい時間。
夢にまで見たその一時をわたしも過ごすことができるだなんて……!!
僧侶や魔法使いと出会うまでわたしには同年代の女友達というものがいなかった。
側近はお付きの人達の仲では比較的歳が近いけれど、それでも『少し歳の離れたお姉さん』といった感じだ。
そもそもわたしには友達と呼べる存在は勇者ぐらいしかいなかったんだし、そんな話をする機会すらなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:09:58.71 ID:jo+olBoY0<> わたし「わたしも今から楽しみになってきたよっ!!」メラメラ
僧侶「ま、魔王ちゃん?なんで燃えてるの?」
わたし「何言ってるの僧侶!!ここで気合入れなくていつ気合入れるの!?」ゴオォ
僧侶「肩の力抜くのが温泉だと思うんだけどな〜」アハハ…
わたし「よーし、じゃあ溜まってる仕事さっさと終わらせるよ!!」
魔法使い「うんうん、頑張ってねー♪」
武闘家「2日後の5時にここに集合、ということで」ニコッ
わたし「任せて!勇者じゃないから遅刻なんてしないよっ!!」
勇者「一言多いっつーの!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:11:08.10 ID:jo+olBoY0<> ――――――――
で、2日後。
きっかり5時にわたしは緑の国の湖に到着した。
勇者達は一足先に来ていたから、勇者に『遅い、遅刻だ!!』って言われたけどわたしは懐中時計を取り出して一秒たりとも遅刻していないことを主張した。
ちなみに温泉行きが決まってから通常の三倍のスピードで仕事をしたものだから側近がひどく狼狽えていた。
その日の午後に体調不良を訴えると『無理をなさるからですよ』と残りの仕事を引き受けてわたしに早く寝るように奨めてくれた。
重ね重ねホントにごめん、側近。
それからわたし達は勇者の転移魔法で橙の国の温泉宿へと跳んだ。
勇者の転移魔法で移動するのはこの時が初めてだったんだけれど長距離の転移を一瞬で済ませるなんて正直驚いた。
転移魔法を教えたわたしとしても嬉しかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:12:56.63 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「わ〜〜!!おっき〜〜〜い!!」キラキラ
宿の正面玄関に着くなり魔法使いが目を輝かせて言った。
いつもの黒帽子を被っていたから見えなかったけれど、帽子の中ではきっと耳が小刻みに動いていたに違いない。
僧侶「魔法使いちゃんはしゃぎすぎ!!……って言いたいところだけど……ホントに立派な建物だね〜……」ポカーン
その温泉宿は変わった造りの巨大な木造建築だった。
屋根には瓦が敷き詰められていて、建物は壁ではなく柱と梁による軸組構造をしていた。
そして宿とは思えないその大きさは小さな城と言っても過言ではなかった。
勇者「"一番豪華な温泉宿"……か、こりゃすげぇな」ハハッ
武闘家「こういう時だけは勇者の名前に感謝しないといけませんね」
勇者「"だけ"ってなんだ、"だけ"って」オイ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:14:31.38 ID:jo+olBoY0<> 綺麗な女の人「いらっしゃいませ」ペコ
着物を着た綺麗な女の人が丁寧なお辞儀で出迎えてくれた。
綺麗な女の人「私この旅館の女将を務めさせていただいております」
女将「100代目勇者様御一行でございますね?」
魔法使い「そうだよー」
女将「女王様からお話は伺っております。今日は休め存分に寛いでいって下さいませ」
武闘家「ありがとうございます」
女将「……あら?そちらの方は……?」
女将はわたしを見て言った。
女将「勇者様御一行は勇者様を含め4人とお聞きしておりましたが……」
わたし「え?え〜と、わたしは……」
勇者「コイツは俺達の大事な友達なんだ」
僧侶「今日はどうしてもみんなで一緒にここに来たくて……駄目でしたか?」
女将「いえいえ、勇者様のご友人とあらば私達にとっては大事なお客様です。精一杯おもてなしさせていただきます」ニコリ
わたし「あ、ありがとうございますっ!!」
魔族だとバレないか内心不安だったけど女将は快くわたしを受け入れてくれた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:16:36.20 ID:jo+olBoY0<> 女将「お風呂とお食事はどちらを先になさいますか?」
勇者「飯!!」
魔法使い「ご飯!!」
武闘家「そうくると思ってましたよ」ハハッ
僧侶「温泉は晩ご飯の後でゆっくり入ろっか」フフッ
女将「かしこまりました、人数がお1人増えましたのでお料理の準備に少々お時間をいただきますが先に大座敷でお待ち下さいませ」
仲居の案内で大座敷へと通された。
畳が敷かれたその広々とした座敷は五人で使うには余りにも広すぎた。
藺草の香りが独特の空間だった。
少し待つと沢山の料理が運ばれてきた。
いつもわたしがお城で食事する時に出されるのとたいして変わらない量だったけど、勇者や魔法使いが興奮して涎を垂らしていたからきっとすごい量だったんだろう。
勇者・魔法使い「ウマーーーい!!」ガツガツ
武闘家「2人とも……こういう料理はがっつくものじゃありませんよ?」
勇者「何を言うか!!美味いもんは自分が一番美味いと思う食べ方をするのが一番だ!!」モゴモゴ
魔法使い「ほーだほーだ〜!!」モキュモキュ
わたし「たしかにそうだけどさ〜」
僧侶「でもホントに美味しいね、活け作りなんて私初めて食べたよ」パクッ
武闘家「そうですね、僕もお刺身は久しぶりに食べましたね」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:18:18.70 ID:jo+olBoY0<> 武闘家「魔王さんは普段どんなものを食べるんですか?」
わたし「お城のお抱えのコックが毎日腕を奮って料理を作ってくれるんだけどね…………こういう料理は初めて食べたよ」モグモグ
わたし「とっても美味しい♪」ニコッ
僧侶「それは良かった」フフッ
魔法使い「この料理も美味しいけど僧侶の料理もとっても美味しいんだよ☆」
わたし「そうなの?」
武闘家「えぇ、お店が出せる腕ですよ」
僧侶「そ、そんな、私なんてたいしたことないよ」
僧侶「お父さんとお母さんが仕事であんまり家に居ないから弟君達にご飯作ってあげてただけだし、レパートリーだって少ないし……」
勇者「いや、お前の料理の腕は間違いなく一流だ、俺が保証するよ」ニカッ
僧侶「そ、そう……かな?////」カァ
勇者に誉められて僧侶は頬を赤らめた。
なんとも分かりやすい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:21:06.54 ID:jo+olBoY0<> 勇者「それに比べてお前ときたら……」ハァ
やっぱりそうきたか。
わたしは絶対にその話になると思っていた。
わたし「わたしだってサンドウィッチ作れるもん!!」
勇者「サンドウィッチ"だけ"だろ」
わたし「う……」グサッ
勇者「しかもまともなサンドイッチ作れるようになるまで5、6回失敗作食わされたぞ?」
勇者「パンに肉と野菜を挟むだけの料理をどうやったら失敗するかね〜」ヤレヤレ
わたし「う〜〜…………」
言い訳だけどご飯はお城のコック達が作ってくれていたからわたしは料理なんてサッパリしたことがなかったし仕方ない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:23:04.36 ID:jo+olBoY0<> 僧侶「…………じゃあ2人であの湖で魔王ちゃん手作りのお弁当食べたりしてたの……?」
勇者「まぁちょくちょくな」
魔法使い「ほぅほぅ」ニタニタ
武闘家「これはこれは」フフッ
勇者「なんだよお前ら、気色悪いな」
魔法使い「別に〜、なんでもないんじゃない?ねぇ、武闘家?」ニタニタ
武闘家「フフッ、そうですね」クスクス
僧侶「うぅ……2人でピクニックだなんて……」ショボーン
いたずらな笑みを浮かべる魔法使いの隣で僧侶がしょげていた。
なんとも分かりやすい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:25:13.30 ID:jo+olBoY0<> そんなこんなで晩ご飯を食べ終えたわたし達は一番の目的である(わたしにとっては二番目の目的だったけど)温泉に入ることにした。
僧侶「『大浴場』と『砂風呂』と『サウナ風呂』とそれから……」
僧侶が壁に掛けられた大きな温泉の案内板を見上げながら言った。
勇者「流石橙の国一の温泉だな〜、色んな種類の風呂があるな〜」
わたし「どれに入ろっか?」
魔法使い「そりゃーもー決まってるでしょ、豪華な温泉宿と言ったら露天風呂で決まりだよ!!」
僧侶「露天風呂か〜、いいね♪」
勇者「俺達も露天風呂にするか」
武闘家「そうですね」
わたし「…………」ジー
勇者「ん?なんだよ?」
わたし「武闘家はともかく……勇者、覗いたりしないでよね〜」
勇者「覗かねぇよ!!馬鹿かお前は!!」
わたし「え〜、ホントに〜?」ジトー
勇者「あぁ、絶対だ」フンッ
わたし「でも信用できないな〜」ジトー
勇者「お前なぁ…………」イラッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:27:38.64 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「まぁまぁ、魔王。そのへんにしといてあげなよ」
勇者「魔法使い……」
魔法使い「勇者だって年頃の男の子だもん見たいもんは見たいんだよ」ヤレヤレ
勇者「こらぁ!!フォローになってねぇよ!!一瞬でもお前をいい奴だと思った俺が馬鹿だったよ!!」
僧侶「ゆ、勇者君もしかして見たいの……?もし勇者君がどうしても見たいって言うなら私……その……////」モジモジ
勇者「いやいやいや、僧侶は一体何を言ってんだよ!?」
魔法使い「そうだよ僧侶、勇者は"見たい"んじゃなくて"覗きたい"んだよ」ハァ
わたし「あー、背徳感とスリルを味わいたいわけか」フムフム
魔法使い「変わってるよね〜」ウンウン
勇者「お前らは俺をなんだと思ってるんだ!?」
武闘家「フフフッ、楽しそうで羨ましいですよ」
勇者「誰も楽しんでねぇって!!」クワッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:29:11.21 ID:jo+olBoY0<> 勇者をからかい終えたわたし達はその宿自慢の露天風呂へと向かった。
混浴ではなく男湯と女湯は分かれていたので勇者と武闘家とは浴場の入り口で別れた。
露天風呂は思っていたよりずっと広くて綺麗な造りをしていた。
大小様々な石で作られたいくつもの温泉。
竹垣で囲まれた開放的な造りの大浴場。
宿は高台に位置していたので浴場からは橙の国の王都を一望できた。
温泉はそれぞれ効能が違うみたいだったので、わたし達はその中で一番大きな、美肌効果のあるらしい温泉に浸かることにした。
わたしは熱いお風呂が好きだから丁度良い湯加減だったけど僧侶には少し熱すぎたみたい。
魔法使い「はぁ〜……極楽極楽……」ブクブク
わたし「湯加減も良いしね」チャプ
僧侶「そう……かな?少し熱くない?」ボー
魔法使い「…………」ジー
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:31:51.70 ID:jo+olBoY0<> わたし「どうしたの?魔法使い?」
魔法使い「んにゃ、魔王のおっぱいって大きいな〜って思って」ニャハ
わたし「そうかな?」ボイン
僧侶「たしかに……大きい」プルン
魔法使い「おっきいよ〜、あたしなんて全然ないもん」ペターン
わたし「そう言われてみると僧侶と魔法使いよりは大きいかも」マジマジ
わたし「でも側近の方が大きいし……」
魔法使い「そりゃ側近さんは大きいけどさ、魔王だって上の下ぐらいあるよ〜」
魔法使い「ちなみに僧侶は中の中であたしは下の中だよ」ビッ
僧侶「誰に解説してるの?」
わたし「ふ〜ん……胸の大きさなんてあんまり気にしたことなかったな〜」
僧侶「女の子は結構気にするもんなんだよ?」
僧侶「私もどうやったら大きくなるかな〜、なんて悩んで毎日牛乳飲んだりしてたし……」ブクブク…
わたし「へぇ〜……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:35:43.71 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「そんなけしからん魔王は……こうだー!」バシャッ!!
言うなり魔法使いはわたしに飛びかかり胸を鷲掴みにしてきた。
わたし「ちょっ、魔法使い!?////」
魔法使い「けしからん、実にけしからんですなぁ」モミモミ
魔法使いの細い指がわたしの胸を揉みしだいた。
わたし「あっ……ちょ……やめ……んんっ////」ハァハァ
僧侶「ま、魔法使いちゃん……////」
魔法使い「今までこのたわわな乳房で勇者を散々誘惑してきたのかにゃ〜?」モミュモミュ
わたし「んぁっ……そ、そんなことしてな……ひぅっ////」ハァハァ
たくし上げては小刻みに揺らすように揉む魔法使いのテクニックはわたしの理性を飛ばすには十分な腕前だった。
魔法使い「どうやったらこんないけないおっぱいになるの〜?」モニュモニュ
わたし「わかんないよ……くぁっ……はぁはぁ…………ひゃぅんっ////」ハァハァ
体の奥がジンジンと熱くなり頭がボーっとしてきた。
魔法使い「ほらほら、さっさと吐くのだ〜〜!!」モミモミモミモミモミモミモミモミ
わたし「んぁっ…………ぅうん…………ッ…………あんっ!!////」ハァハァ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:37:21.73 ID:jo+olBoY0<> わたしは無我夢中で魔法使いのセクハラを振りほどいた。
わたし「こ、この……」バッ
魔法使いに向けて左手をかざした。
わたし『爆撃魔法陣・烈』!!
カアァ!!
魔法使い「へ?」
ドガアァーン!!
赤の魔方陣から爆撃が放たれた。
魔法使い「にゃーーーー!!」プスプス
バシャァン!!
魔法使い「…………」プカァ
その時わたしが使ったのは中級爆撃魔法だ。
威力を抑えたとは言え轟音とともに露天風呂全体が揺れた。
魔法使いは爆撃魔法を受けて温泉に浮かんでいた。
わたし「ハァハァ……」
僧侶「ま、魔王ちゃん、いくらなんでもやり過ぎじゃ……」
わたし「ハッ、しまった、つい……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:38:47.77 ID:jo+olBoY0<> ドタドタドタ!!
突然屋内からけたたましい足音が聞こえてきた。
わたし・僧侶「?」
ガラガラガラ!!
勇者「どうした!?爆発音と悲鳴が聞こえたけど何があった!?」
勢いよく開いた浴場の扉からタオルを腰に巻いた裸の勇者が飛び出してきた。
わたし「な…………////」カァッ
僧侶「え…………////」カァッ
勇者「あ…………////」カァッ
わたしも僧侶も立ち上がっていて、湯船から太ももから上が出ている状態だった。
つまり……ノーガード……。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:41:44.53 ID:jo+olBoY0<> 勇者「あ……!!ち、違うんだ!!俺はただお前らが心配で様子を見に来ただけで!!これは、その……!!」アタフタ
わたしは近くにあった風呂桶を掴むと思い切り振りかぶってあわてふためく勇者の顔面目がけて全力で投げた。
わたし「フンッ!!」ブンッ
カッコーーン!!
勇者「ごふっ!!」ガハッ
勇者「」ピクピク
その場に仰向けに倒れる勇者。
武闘家「だからむやみに女湯に飛び込んじゃいけないって言ったじゃないですか……」ハァ
脱衣場から武闘家の声だけが聞こえた。
武闘家「何もなかったんですよね?お騒がせしました〜」グイッ
勇者「」ズルズル
扉の影から武闘家の腕だけが現れ勇者を引きずっていった。
わたしも僧侶もただ茫然とするしかなかった。
魔法使い「」プカァ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:43:15.36 ID:jo+olBoY0<> 風呂から上がったわたし達はさっきの爆発騒ぎを女将にひたすら謝った。
女将は『はしゃぎすぎてしまっただけですよね、ご無事ならそれがなによりです』と笑って許してくれた。
女場に入ってしまったことを勇者に謝られたがわたしにも非があったことだし許してあげることにした。
とはいえ裸を見られたことは事実なので今度わたし達に何か奢ってくれるという条件付きで、だ。
その後女性陣は見晴らしの良い部屋へと通された。
みんな浴衣に身を包んで敷いてあった布団へと寝転がった。
魔法使いが枕投げの提案をしてきたがわたしと僧侶は謝り疲れていたので流石に止めることにした。
魔法使い「じゃあ……始める?」ウズウズ
わたし「始めちゃおっか?」ウズウズ
僧侶「何を……?」
わたし・魔法使い「ガールズトーク!!」ビッ
小さな灯りだけがわたし達を優しく照らす部屋でわたしと魔法使いは口を揃えて言った。
僧侶「もぅ……二人とも元気だね」
わたしと魔法使いがうつ伏せになって顔を見合わせているにもかかわらず僧侶は仰向けになって寝る準備をしていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:44:32.60 ID:jo+olBoY0<> わたし「何を言うの、この一時のためにわたしは温泉に来たようなもんだよ!!」
僧侶「そうなの?」
わたし「そうなの!!」
わたし「今までわたし歳の近い女の子の友達っていなかったからこういう話をするのがずっと夢だったんだ♪」
僧侶「…………そっか…………」
そう言ってからしばらく僧侶は無言だった。
けど、やがてうつ伏せになって顔をこちらに向けた。
僧侶「魔王ちゃんがそう言うなら私も付き合ってあげるよ、別にこういうの嫌じゃないし」フフッ
わたし「ありがとうっ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:46:39.58 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「さてさて、じゃあ何から話しますかな?」
わたし「はいは〜い」
わたしは勢い良く挙手した。
魔法使い「ん?魔王何かあるの?」
わたし「うん、どうして僧侶は勇者が好きなの?」
僧侶「ぶふぅーーーーーーっ!!!!????」
魔法使い「おぉ!!これはいきなりド直球で来たね〜♪」ヌフフ
僧侶「ま、魔王ちゃん!?いきなり何言ってるの!?////」アタフタ
わたし「え?ガールズトークってこういう話をするんじゃないの?」
僧侶「それはそうだけどまずは『好きな人いるの?』『誰が好きなの?』みたいに探り合いから入るもので、その……」
わたし「だって僧侶は勇者が好きなんでしょ?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:48:41.59 ID:jo+olBoY0<> 僧侶「魔法使いちゃんが喋ったんでしょ!!」ジッ
魔法使い「まっさか〜、喋る必要すらないよ」アハハ
わたし「見てればすぐわかるよ」クスッ
僧侶「うぅ……////」カァッ
僧侶は真っ赤になった顔を枕に押し付けていた。
女のわたしから見ても可愛らしかった。
わたし「で、どうなの?」ニコニコ
魔法使い「あたしもちゃんとは聞いたことなかったし気になるな〜」ピコピコ
僧侶「うぅ〜〜……わかったよ、話すよ〜〜……」
それからモジモジとまごつきながらではあるが僧侶は勇者への想いを語り始めた。
僧侶「その……勇者君優しいから……かな?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:50:39.58 ID:jo+olBoY0<> 僧侶「魔法使いちゃんはわかると思うけど……学生の頃から周りの人に色々気配りしてくれてたじゃない?」
僧侶「休みの人に配布物届けてあげたり、文化祭とか体育祭の前は遅くまで残って準備していったり……」
魔法使い「あー、面倒臭そうによくやってたね」
僧侶「そうそう、『なんで俺が……』ってぶつくさ言いながらなんだかんだやってくれるんだよね」フフッ
わたし「へ〜……」
僧侶「演習や任務で私達が失敗したり危なくなったりしたときもフォロー入れてくれたり助けてくれたり……ね?」
僧侶「遠征任務の時は必ず勇者君が一番重い荷物を持ってたの魔法使いちゃん気づいてた?」
魔法使い「そうだったの?気にしたこともなかったよ……毎回誰が何持つかなんて決めてなかったし」
僧侶「うん、勇者君が何も言わずに重い荷物を引き受けてくれたからね」
僧侶「私も最初は全然気にならなかったんだけど……段々と勇者君のそういう優しさに気づいていって…………とっても優しくて良い人だな……って思うようになったの」
僧侶は終始どこか嬉しそうに話していた。
こんなに嬉しそうに勇者のことを話せるなんてきっと本当に勇者のことが好きなんだな、とわたしは思った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:54:38.36 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「純情だね〜」キュン
わたし「ピュアだね〜」キュンキュン
僧侶「うぅ……なんだか自分でも恥ずかしいよ……////」モジモジ
わたし「何も恥ずかしがることなんてないよ、立派な恋心じゃない」ニコッ
魔法使い「そうそう、良い話だったよ」ニパッ
僧侶「2人とも………………ありがとう」
僧侶は小さい声で照れ臭そうに言った。
僧侶「じゃあ次は私から魔王ちゃんに質問」
わたし「ん?何?」
僧侶「魔王ちゃんはどうして勇者君のことが好きなの?」
わたし「ぶふぅーーーーーーっ!!!!????」
魔法使い「おー!!またもド直球!!」ピコピコ
わたし「な、なんでそんな……!!」
魔法使い「まさかバレてないとでも思ったの?」ニャハハ
僧侶「私もわかりやすいかも知れないけど魔王ちゃんも十分わかりやすいよ」クスッ
魔王「うぅ……やっぱり……?」
僧侶「うん」ニコ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:57:49.16 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「で、好きなんでしょ?」
わたし「そりゃ……そうだけど……」ゴニョゴニョ
魔法使い「ひゅーひゅー、勇者に聞かせてあげたいよ」アハハ
わたし「む〜……////」カァッ
僧侶「魔王ちゃんは……いつから勇者君のこと好きなの?」
わたし「いつから……かな?」
僧侶にそう問われてわたしは少し考え込んだ。
いつから……一体いつからわたしは勇者に恋心とも呼べるこの感情を抱いているのだろう?
思えば今までそんなこと考えたこともなかった。
二人が好奇の眼差しで見つめてくる中、わたしは答えを出せずにいたが、やがてある日のある出来事に思い当たった。
わたし「多分あの時からだと思う……」
僧侶・魔法使い「あの時?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 08:59:26.61 ID:jo+olBoY0<> わたし「うん……わたしが14歳の頃だから……5年くらい前になるかな。わたしが魔王として本格的に政治や軍事に関わるようになって少し経った頃のことだよ」
わたしはその頃のことを自分自身に言い聞かせる様に一つ一つ思い出しながら話した。
わたし「そのくらいの年頃の子ってさ、自分の存在や他人の存在が気になって気難しくなるじゃない?……いわゆる多感なお年頃ってやつ?」
わたし「わたしもご多分に漏れずそうだった……でもそんなわたしの日常は普通の女の子のそれとは大きく違っていたの……」
わたし「朝は人間達との戦の戦況報告から始まって昼までは前線視察や地方へ行っての国事、午後は山の様な書類に目を通しては判子を押したり、政治・経済・軍事に帝王学の勉強……それが毎日。14歳の女の子がだよ?」
わたし「今は……二人の前ではこうして普通に話しているけど、女の子らしい言葉遣いで話すことも許されなかった」
わたし「『どうしてわたしは魔王なの?』『どうしてわたしは普通の女の子に生まれてこなかったんだろう?』って……自分の運命を呪ったこともあった」
わたし「それでどんどん荒んでいっちゃってさ、ある日勇者に八つ当たりして……今まで溜め込んできたものが溢れ出るように泣き出した……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:01:34.99 ID:jo+olBoY0<> わたし「そしたら勇者がね……わたしに優しくこう言ってくれたの」
わたし「『世界中の誰もがお前を魔族の王様として見ても、俺だけはお前のこと1人の女の子として見てやる。だからそんな顔すんな』って」フフッ
その時の勇者の声、勇者の顔は鮮明に覚えている。
その言葉が、その笑顔が、魔王という重責に押し潰されそうになっていたわたしを救ってくれた光なのだから。
わたし「今までずっと弟みたいに思ってた歳下の男の子がすごく大きく……頼りになる存在に見えてさ、なんだかドキッとしちゃった」エヘヘ
わたし「だからわたしが勇者を好きになったのは……多分その時からかな……」
魔法使い「…………」
僧侶「…………」
わたしの話を静かに聞いていたは二人はしばらくして口を開いた。
魔法使い「良い話だね」
僧侶「……うん、いかにも勇者君らしいね」
わたし「もし勇者に出会わなかったら今のわたしはいなかったと思う。わたしが今のわたしでいられるのは勇者のその一言があったからだと思う」
わたし「だからわたしにとって勇者は誰よりも何よりも大切な人なんだ……そんなこと照れ臭くて勇者には言えないけどね」ウフフッ
僧侶「…………」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:03:40.37 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「それにしても2人ともさ〜」
わたしの話に耳を傾けてくれていた僧侶を尻目に魔法使いがいたずらな声で言った。
わたし・僧侶「?」
魔法使い「そんなに勇者のこと好きならさっさと告白しちゃえばいいのに」
僧侶「うっ……」グサッ
わたし「それは……」グサッ
魔法使い「僧侶にしたって魔王にしたってずっと前から勇者のこと好きなんでしょ?」
魔法使い「グズグズしてないでさっさと告白しちゃえばいいんだよ」
なかなか痛いところを突いてくるな、と思った。
たしかにわたしが勇者に想いを告げるに至らなかった理由の半分はわたしの臆病さ故なのは認める。
でももう半分は勇者のせいなのだ。
僧侶を見ると僧侶もわたしと同じことを考えていたようでわたし達は目が合うなり二人同時にため息をついた。
わたし「そりゃわたしにも非があるだろうけどさ……あの勇者が相手じゃ……ね」ハァ
僧侶「うん……」ハァ
わたしと僧侶の皮肉めいたため息で魔法使いもわたし達の気持ちを察してくれた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:06:53.25 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「あ〜……なるホドね、勇者鈍いもんね〜」アハハ
わたし「だよね!あれは態とやってるんじゃないかってレベルだよ!!」
僧侶「うん……私も私なりに頑張ってるつもりなんだけどのれんに腕押し糠に釘で……」
わたし「『女の子のアプローチにはちゃんと気づいてあげなきゃダメだよ!』って言っても『アプローチなんかされてねぇもん』って言ってたし」プンスカ
僧侶「そうなの!?うぅ……休みの日に一緒に買い物に行こうって誘うのに私がどれだけ苦労したか……」ズーン
わたし「わたしも『髪の長い娘が好き』って勇者が言ってたから髪伸ばしたのに全然気づいてくれなかったし……」ハァ…
魔法使い「にゃはは、こりゃ2人ともまだまだ苦戦しそうだね」ケタケタ
わたし達を見て愉快そうに魔法使いが笑っていたから今度は魔法使いに話題を振ってやろうと思った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:08:39.99 ID:jo+olBoY0<> わたし「そういう魔法使いはどうなの?」
魔法使い「何が?」
僧侶「そうだよ、魔法使いちゃんだって好きな人とかいるんじゃないの?」
僧侶「魔法使いちゃんにはいつもからかわれてるからたまには仕返し」フフッ
魔法使い「え〜?あたしの話なんかしたってつまんないよ?」
わたし「魔法使いも年頃の乙女なんだしなにかあるでしょ?」フフフ
魔法使い「だってあたし2年前から武闘家と付き合ってるし」
わたし・僧侶「………………」
わたし・僧侶「えぇーーーー〜〜〜〜!!!!????」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:09:55.31 ID:jo+olBoY0<> 突然のカミングアウトにわたし達は驚愕の叫び声を上げずにはいられなかった。
金髪の美青年、学校でも女子達の憧れの的だったという武闘家が二年も前からこの魔法使いと……。
わたし「まほ、魔法使いとあああのぶぶ、武闘家が……!?」
僧侶「そそそ、そんな、だって今まで……!!」
わたしと僧侶は開いた口が塞がらなかった。
魔法使い「武闘家が『照れ臭いから二人だけの秘密にして下さい』って」ニャハハ
僧侶「え、えっと、その……ぇえ!?」
わたし「あの爽やかで大人びた武闘家が破天荒な魔法使いと付き合ってるだなんて……」
わたしの呟きに魔法使いはもっともだと言わんばかりに返答した。
魔法使い「なんかあたしの自由なとこが好きなんだとかなんと…………ぶっ」プルプル
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:11:58.46 ID:jo+olBoY0<> いや、返答"しようと"した。
が正しい。
魔法使いは突然吹き出すと小刻みに肩を振るわせ始めた。
わたし・僧侶「?」
魔法使い「…………ぷっ、くくくくっ、冗談だよ、冗談」アハハハハ
魔法使い「二人とも騙され易いな〜、武闘家とあたしが付き合ってるワケないじゃん」ニャハハ
わたし・僧侶「」
そう、つまり魔法使いに完全にしてやられたのだ。
魔法使い「ちょっと考えればすぐわかるのに本気にしちゃって…………あー可笑しい、お腹痛い〜」ジタバタ
わたし・僧侶「魔法使い(ちゃん)〜!?」メラメラ
魔法使い「にゃはは、ごめんごめん、そんなに怒らないでよ、ね?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:13:26.03 ID:jo+olBoY0<> 魔法使い「……ショージキに言うとね、あたしは今好きな人なんていないよ」
魔法使い「それで……僧侶や魔王がちょっと羨ましい」
わたし「わたし達が?」
僧侶「羨ましい?」
魔法使い「うん……二人は気づいてないかもしれないけど……純粋に、ただ一途に、他人のことを想えるってそれだけで素晴らしいことなんだよ」
魔法使い「自分じゃない他の誰かのことで胸がいっぱいになる。その人のこと考えると嬉しくなったり、切なくなったり、楽しくなったり、悲しくなったりしちゃう……これってとっても素敵なことじゃない?」
魔法使い「例えその恋がどんな結果になったとしても、そうして人を好きになること自体が、意味のあることなんだよ」
魔法使い「……そうして人は自分の人生に色んな形で経験を刻んでいく……大人になるってそういうことだよ」フフッ
わたし「……な、なんだか……いつもの魔法使いと違う……」
僧侶「う、うん……なんだか大人だね……」
それからはとりとめもない話でわたし達三人は大いに盛り上がった。
わたしの知らない勇者のことを聞いたり、二人の知らない勇者のことを話したり。
二人の身の上話を聞いたり、魔王としてのわたしの武勇伝を聞かせたり。
人間と魔族の戦争が無事に終わったら何をするか、まだ見ぬ未来に胸を弾ませ予定を立てたりもした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:14:43.37 ID:jo+olBoY0<> 楽しい時間はあっという間に過ぎて行くもので、気がつくと東の空が白んでいた。
勇者達はあと一泊していく予定だったそうだが、スケジュールを詰めてなんとか時間を作ったわたしはその日の朝にお城へ戻らなければならなかった。
わたしは用意を済ませて玄関へと向かった。
勇者達もわたしの見送りということで寝惚け眼をこすりながら部屋から出てきた。
玄関へ着くと女将が玄関掃除をしているところだった。
わたし「おはようございます」
僧侶「おはようございます」
女将「これはこれは、勇者様ご一行様。おはようございます」ペコ
勇者・魔法使い「むにゃ……むにゃ……」ボー
武闘家「二人はまだ半分寝てるみたいですね」クス
女将「……あら、もうお帰りになるのですか?」
女将がわたしの方を見て言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:16:19.29 ID:jo+olBoY0<> わたし「えぇ、今日も仕事がありますからわたしは帰らなければならないので……」
女将「そうですか……ご多忙な中わざわざ私どもの宿に足を運んで戴き誠にありがとうございました」ペコ
わたし「いえいえ、お陰様でとっても素敵な時間を過ごせましたよ」
女将「そう言って戴けるとありがたいです」ニコ
女将「……今度はお暇のある時にゆっくり泊まりにいらっしゃって下さいね」
わたし「……はいっ!必ずまた来ます」ニコッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:18:02.49 ID:jo+olBoY0<> 玄関を出ると橙の国の東の山から丁度大陽が顔を覗かせようとしているところだった。
朝焼けに赤く染まる東の空とまだ微かに夜の星々が浮かぶ西の空。
わたし達は眩しい朝日に目を細めながら鮮やかに彩られた空を静かにただ眺めていた。
わたし「……さて、そろそろ行かなきゃ」
わたしは時計を見て言った。
そろそろ側近がわたしの部屋に来る時間だった。
体調不良の魔王は部屋で寝ている設定なので戻っていないとマズい。
わたし「勇者……温泉、誘ってくれてありがとうね」
勇者「おぅ、メチャクチャ感謝しろよ」ニッ
わたし「あ、でも女湯覗くような人には感謝したくないかな〜」
勇者「な、まだ許してくれてないのかよ!?あれは事故であってだな、だいたい湯煙で全然見えなかったし、その……」アセアセ
わたし「ふふっ、冗談だよ」クスクス
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:19:35.30 ID:jo+olBoY0<> わたし「勇者はこんな奴だからさ、武闘家も大変だろうけどこれからもよろしくね?」
武闘家「はい、任せて下さい。勇者のお守りはもう慣れっこですから」フフッ
勇者「ちぇっ」
魔法使い「魔王、昨日の約束覚えてる?」
わたし「勿論!平和になったらキャンプにバーベキューに夏祭りに海水浴にミュージカルでしょ?」
魔法使い「うん!絶対行こうね♪」
わたし「うん!わたしも楽しみにしてるよ♪」
わたし「それと……僧侶?」
僧侶「?」
わたし「僧侶は優しくてとっても可愛くて良い娘だけど……わたし負けないからね?」フフッ
僧侶「!…………うん、私も負けないよ」ニコッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:21:13.23 ID:jo+olBoY0<> 勇者「なんだお前ら?なにかの勝負でもするのか?」
わたし「まぁね〜、そのうち勇者にもわかるかもね」チラッ
僧侶「うん、そのうち……ね」チラッ
勇者「え〜、なんだよそれ、気になるじゃないかよ!!」
武闘家「勇者は今は無理に知らなくても良いことかもしれませんね」
魔法使い「そうかもね〜」
僧侶「でも気づいてくれても良いかも……」
わたし「そこに気づけないから勇者なんだよ」フフッ
勇者「おい!!俺だけ仲間外れかよ!!」ムスッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:22:44.44 ID:jo+olBoY0<> わたし「まぁまぁ、まずは和平を実現をさせてから、だよ」
わたし「わたし達の未来はそこから始まるんだからさ」
勇者「……チッ、わかったよ。それまで我慢しといてやるよ」フンッ
わたし「それじゃ……またねみんな」
わたしは転移魔法陣の術式を組んだ。
地面に青く輝く魔法陣が展開され青白い光がわたしを包む。
勇者「なぁ、魔王」
わたし「……?」
わたしが黒の国の自室へと跳ぶ前に勇者が声をかけてきた。
勇者「またみんなでここに来ような」
わたし「……うん、絶対来ようね!」
勇者「あぁ、絶対だ!」
カアァァァッ
朝日と魔法陣の光に包まれ、わたしは橙の国を後にした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:24:38.68 ID:jo+olBoY0<> 人と魔族が争うことのない世界……わたしと勇者の夢が叶ったなら、きっと大手を振ってみんなで色んなところに行けるだろう。
そしてその夢が現実のものとなるまであと一歩というところまで来ている。
すぐそこまでやって来ている希望に満ちた未来を想い、わたしは胸を高鳴らせていた。
私が勇者達に剣を向ける十日前のことであった。 <>
◆qV6dwdDny6<>sage saga<>2012/12/28(金) 09:28:58.79 ID:jo+olBoY0<> 長いので何日かに分けて投稿しようと思います
とりあえず今日はここまでで
誤字脱字等多々あると思いますが温かく見守って頂けるとありがたいです^^; <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 10:18:54.60 ID:YpNuBOSeo<> 文章しっかりしてるし応援してる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 11:13:52.63 ID:nTZFSiq7o<> 乙
面白いよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 12:40:36.00 ID:KjtFXHOko<> \ /
\ 丶 i. | / ./ /
\ ヽ i. .| / / /
\ ヽ i | / / /
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ー
__ わ た し で す --
二 / ̄\ = 二
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/ / / | i, 丶 \ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 12:51:16.72 ID:8mBl6AEco<> すごく面白い
期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 22:23:11.61 ID:r+D/VSAuo<> ここまで一気か?
すげぇな <>
◆qV6dwdDny6<>sage<>2012/12/28(金) 22:29:02.90 ID:XwBozpx0P<> >>178
乙
とりあえずググって一番にトリップキーが出てくるような鳥は
変えた方がいいと思うの <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 22:30:54.40 ID:nTZFSiq7o<> ん? <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:07:43.01 ID:hr/uKPTi0<> 覗いて下さった皆さんありがとうございます
すっごく励みになります
完結目指して頑張りますの最後までお付き合い下さるとうれしいです♪
>>184
ご忠告ありがとうございます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/29(土) 01:19:24.72 ID:hr/uKPTi0<> 【Episode04】
――――青の国・王都・王宮
青の国は水の都として有名な国である。
国土には三本の大河が流れ、大小合わせて百を超える湖が点在している。
海に面し、多数の島を持つ国でもあるので内陸の国からは海水浴やバカンスを目的とした観光客も多い。
そんな青の国の王都は国で一番大きい湖のほぼ中心に位置する島の上にある。
もっとも、元々島だった部分は王都の半分以下であり大半は人工島となっているのだが。
王都のある島から南に位置する島には青の神樹が根を下ろし人々を温かく見守っている。
青の神樹の加護により清く澄みわたった湖の水は名水として名高い。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:20:44.33 ID:hr/uKPTi0<> 青の王「人間と魔族の和平を目指す……とな?」
勇者「はい。何百年にも及ぶ闘いの歴史に終止符を打つのが私の夢なのです」
王宮の中庭、美しい噴水で『水の芸術』と評判高いその庭園で勇者は青の国の王に謁見していた。
本来ならば謁見は王の間で行われるものだが、通常の謁見の後に勇者が青の王に頼み二人だけで会う機会を設けてもらったのだ。
青の王「しかし魔族は我々人間にとって最大の敵……そう簡単に和平が実現できるとは思えん……」
青の王「それは魔族にとっても同じことだ。聖十字連合の各国が和平の申し入れをしたところで魔王が果たしてそれを受け入れるか……」
勇者「それについては私に策があります。まだ内容についてはお話しできませんが……必ずや魔王も和平を承諾するでしょう」
青の王「…………」
突然の勇者からの提言により困惑と当惑に曇った青の王の顔を勇者はただ真っ直ぐに、決意に満ちた眼で見つめた。
しかし内心、こう思っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:21:41.66 ID:hr/uKPTi0<> 勇者(またか…………)
100代目勇者一行が白の国を旅立ってから三ヵ月が経っていた。
訪れた国は赤の国、黄の国、橙の国、藍の国……そして青の国の計五つだ。
各国での王との謁見の場で勇者は魔族との和平を王達に進言した。
白の国の王を含めれば六人の国の代表者へ停戦を目指す意思を伝えたことになる。
旅立った当初、勇者は魔族側との停戦に異を唱えるのは赤の国の王だけだろうと思っていた。
赤の国は強力な軍隊を持ち、魔族との戦争により軍事方面で多大な利益を上げている国だからである。
血気盛んな赤の王の下、聖十字連合の中で最も軍事面に力を入れている。
とは言え他の国々の王達が皆停戦に賛成すればいかに赤の王と言えども和平を承諾せざるを得ない。
勇者はそう考えていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:22:56.51 ID:hr/uKPTi0<> しかし…………王達の反応は思わしくなかった。
赤の国の王が和平に反対なのは予想通りではあったが、他の国の王達は皆『保留』という答えだった。
昔から勇者のことを良く知る白の国の王も『個人的には応援している』、平和主義で温厚な藍の国の王でさえ『今はまだ答えを出せない』というものであった。
そして各国の王は必ず最後に勇者を見てこう言う。
青の王「勇者よ……見たところお主はまだ聖剣と契約を交わしてはおらぬな?」
青の王の視線の先には勇者の腰に差された剣があった。
その剣も名剣であることに変わりはないのだが、真の勇者のみが持つことを許された聖剣でないことは一目瞭然である。
勇者「はい。聖剣の今の持ち主は私の父、99代目の勇者です故……」
勇者は何度も聞いた質問に対し心の中で舌打ちをしながら今までと同じ様に答えた。
青の王「そうか…………お主が聖剣との契約を交わし真の勇者となった時、また改めて話を聞かせてくれないだろうか?」
青の王「如何せん急に魔族との和平と言われて私も驚いてしまってな。私達人間の未来に繋がる大事な話だからこそ、その場で二つ返事をすることはできぬ」
青の王「一国の主として私もこの件についてはゆっくりと考えたいのだ」
勇者「ハッ…………」
青の王「前向きに検討する故、お主は引き続き各国を巡る旅を続けるが良い」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:24:14.49 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――王宮・テラス
勇者「…………クソッ!!」
ガンッ!!
武闘家「その様子からしてまたあんまり良い返事は貰えなかったみたいですね」
青の王との謁見を終えた勇者は王宮のテラスで仲間達と落ち合った。
勇者が苛立ちに任せて蹴り倒した木製の椅子が無惨に転がっている。
僧侶「青の王様はなんて……?」
倒れている椅子を優しく元に戻しながら僧侶が勇者に聞いた。
勇者「また他のとこの王様達と同じだよ」
勇者「『まだ返事はできない』『聖剣と契約したらまた来い』ってよ……!!」チッ
勇者は感情表現が豊かな方ではあるが、こうも他人の前で苛立ちをあらわにするのは珍しい。
幼き日に魔王と誓った人間と魔族との和平。
その計画が最後の最後に来て滞っているのだから苛立ちもするし不満もつのるのだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:25:00.90 ID:hr/uKPTi0<> 魔法使い「でもさ〜、そんなに聖剣ってのは重要なもんなのかな〜?」
テラスの手すりにもたれかかりながら魔法使いが言った。
勇者「さぁな……だけど魔剣と契約を交わした魔王を倒せるのは聖剣と契約を交わした勇者だけだって言われてる」
勇者「こと戦闘力に関しちゃかなり重要なモンらしいけど……」
武闘家「おそらく……一種のシンボル的なものではないでしょうか?」
魔族使い「シンボル?」
武闘家「えぇ、任命の儀を済ませ、聖剣を手にした者……それこそが『勇者』であると王様達は認識しているんでしょうね」
武闘家「ですから100代目勇者に任命されているとは言え聖剣と契約を交わしていない勇者は現時点では勇者として半人前、ということじゃないでしょうか?」
勇者「まだまだヒヨッこってことかよ」
武闘家の話を聞いた勇者は苦々しい顔でそう呟いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:26:31.89 ID:hr/uKPTi0<> そして父親のことを思い浮かべた。
勇者「……にしてもあの親父がすんなり俺に聖剣を渡してくれるとは思えないしな」
僧侶「そう言えばどうして大勇者様は勇者君に聖剣を預けないの?」
勇者「『魔王と闘う意志のない腑抜けには聖剣は渡さない』ってよ」ケッ
武闘家「大勇者様は反魔族派ですからね……勇者は大勇者様といつも喧嘩してるんでしょ?」
勇者「あの分からず屋の頑固者が悪いんだよ。あのクソ親父、魔族を根絶やしにしないと気が済まないんじゃねぇか?」イライラ
旅立ちの日の我が家での言い争いを思い出し勇者の中に父への苛立ちの炎が再び燃え上がった。
何が魔族は人間の敵だ。
そうやって他の種族を受け入れられない心が人間にとって最大の敵だろうが。
母さんのことだって…………。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:27:54.63 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「あ〜〜……あのクソ親父のこと思い出したらイライラしてきた」
武闘家「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ」
魔法使い「そうだよ〜、眉間に皺の寄った勇者なんて似合わないよ?」
勇者「わかってるよ……にしてもこれからどうすっかな……」ハァ
僧侶「今まで通り他の国の王様達に魔族との和平を提案していくしかないんじゃない?」
武闘家「そうですね、勇者として半人前ってことは半分は間違いなく勇者ってことですよ」
武闘家「また保留の意見が返ってくるかも知れませんが、それでも勇者の提言のおかげで王様達に和平の道を考えて貰えるようになったと前向きにとらえましょうよ」
魔法使い「うんうん、きっと無駄じゃないよ。そんで真の勇者とやらになったらまたお願いに行けば良いんだよ」
魔法使い「そしたら案外王様達も『よし、今すぐ和平だ!』って言うかもよ?☆」
勇者「そんなに上手く行けばいいけどな〜……」ハハッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:29:21.83 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「ん〜〜〜〜…………」ガシガシ
勇者「よしっ!!」
頭を掻きむしると勇者は声を上げた。
勇者「そうだな、やれることをやってかないとな!!」
僧侶「うん、それでこそ勇者君だよ」ニコッ
勇者「魔王も魔王で頑張ってんだ。俺もちょっとやそっとの障害ぐらい乗り越えてみせなきゃ笑われちまうよ」
魔法使い「『ちょっと上手くいかないことがあったからってふて腐れちゃうの?勇者はだらしないな〜』とか言いそうだよね」ニャハハ
武闘家「まったくですね」フフッ
勇者「ったく、勘弁してくれよ」ハァ
肩をすくませため息混じりに勇者は苦笑した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:30:36.82 ID:hr/uKPTi0<> その時王宮が急に騒がしくなった。
がやがやがやがや!!
タッタッタッタ!!
勇者「…………なんだ?」
僧侶「さぁ……?」
石畳の廊下を駆ける兵士達の足音。
時に飛び交ういくつもの怒鳴り声。
明らかに異常な空気が王宮に満ちている。
魔法使い「よくわかんないけど何かあったみたいだね……」
武闘家「……すみません!!」
武闘家は廊下を駆けてきた若い兵士に声をかけた。
若い兵士「これは武闘家さん、なんでしょうか?」
武闘家「急に騒がしくなったのでどうかしたのかな、と……」
若い兵士「どうもこうもありませんよ!!魔族の連中宣戦布告も無しに攻めて来たんです!!」
勇者「なっ……!?」
僧侶「えっ……!?」
武闘家「魔族が奇襲攻撃を……!?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:35:46.10 ID:hr/uKPTi0<> 人間と魔族の戦争は戦技協定と呼ばれる掟にのっとって行われている。
これは開戦当初に人間側と魔族側との間で取り決められた戦争についての誓いである。
緑の国での戦の禁止や、相手側の種族を捕虜として拘束することの禁止などがこれに含まれている。
そうした掟の中に『開戦前には宣戦布告を要する』というものがある。
事前に侵攻側が防衛側に対し日時と場所を指定し、互いの準備が整ったところで戦が行われるのだ。
お互いの国がフェアに正々堂々と闘って戦に白黒をつけるために生まれた掟である。
無論、何百年と続く人間と魔族の戦に置いて宣戦布告を為さずに奇襲攻撃を仕掛けた王や魔王も何人かいる。
だが彼らは一人の例外も無く卑怯者の汚名を着せられている。
勝利に目が眩み正々堂々と戦いをすることが出来ない卑しい王である、と罵られることになるのだ。
その奇襲攻撃を魔王が指示したのだ。
人間と魔族との和平を目指し、争いを好まぬあの魔王が、だ。
勇者達は未だに先程の兵士の言葉が信じられずにいた。
勇者「おい……それホントなのかよ!?」
若い兵士「ホントもホントですよ、お陰で今すぐ援軍を送らなくちゃならないってんで兵士と上位魔法使いが召集かけられてるんです!!」
魔法使い「上位魔法使い……転移魔法で兵士さん達を戦場まで飛ばすんだね」
若い兵士「えぇ……っと、自分も兵士長に呼ばれてるので失礼します!!」ダッ
兵士は勢い良く廊下を蹴って練兵場へと向かって行った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:37:18.52 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「勇者……」
勇者「わかってる!!」
武闘家が何か言おうとしたがそれを遮るように勇者が怒鳴った。
勇者「魔王が……アイツがこんなマネするわけない!!」
僧侶「うん……私もそう思う」
武闘家「僕も……そうですが……」
魔法使い「…………」
四人は魔王が奇襲攻撃の指示を出したとは到底思えなかった。
他の誰かが魔王に無断で指示を出したのか、何かの手違いか……。
しかし心の奥底には魔王を疑う思いがあったのも事実である。
魔王がそんなことするはずない。
そう思えば思うほど懐疑の念が顔を覗かせるのだ。
武闘家「…………とにかく、詳しい状況がわからないことには何も言えません。大臣さんのところへ向かいましょう」
勇者「……あぁ!!」
勇者達は王の間へと全速力で向かった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:38:56.21 ID:hr/uKPTi0<> たどり着いた王の間は混乱の様相を極めていた。
青の王は幾人もの臣下からの話を同時に聞きつつ頭を抱え、大臣は彼らに大声で指示を出し、指示を受けた臣下達は右往左往しながらその場を後にする。
つい先ほど勇者達が招き入れられた静かな王の間はそこにはなかった。
勇者「大臣さん!!」
青の大臣「おぉ、勇者殿!!」
武闘家「魔族が奇襲攻撃をかけてきたというのは本当なのですか?」
青の大臣「うむ……風鳴の大河の戦場に魔族が攻めて来おってな、我が軍の兵士達は不意打ちに大打撃を受けている。このままでは……」
風鳴の大河とは青の国の西を流れる黒の国と国境を為す河川である。
もっとも長年続く魔族との戦争において国境は幾度となく変動してはいるのだが、青の国と黒の国との国境と言えばまず誰もが思い浮かべるのはその河川だ。
そしてそれ故青の国と黒の国の主戦場となっている地域の一つである。
青の国も常時それなりの兵を置いてはいるのだが……突然の奇襲には対応出来なかった様だ。
青の大臣「我々としても奇襲の報を受けてからできる限り兵を集めておる。既に劣勢となった戦場に援軍を投入したとしてどこまで巻き返せるか分からぬがそれでもやらねばなるまい」ムゥ…
勇者「その必要はないです」
難しい顔をした青の大臣に勇者は言った。
僧侶「勇者君……?」
勇者「風鳴きの大河の戦場へは俺たちが向かいます」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:40:47.23 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家・僧侶・魔法使い「!」
青の大臣「ゆ、勇者殿達が!?」
勇者「はい。風鳴きの戦場には俺の転移魔法で跳べますし、俺達なら戦力としては申し分ないでしょ?」
青の大臣「たしかに勇者殿達が行ってくれるのならばこの上ない戦力になるが……」
勇者「お前らも大丈夫だよな?」
勇者は仲間達の顔を確認する。
僧侶「勇者君がそう言うなら……私は行くよ」
武闘家「えぇ、僕も僧侶さんに同じです」
魔法使い「あたしも大丈夫だよ〜、最近動いてなかったから丁度良いかな、なんて」ニャハ
勇者「よし……じゃあ決まり、だな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:42:02.69 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「援軍には俺達が行きます。魔族側の規模が分からないからなんとも言えませんけど……奇襲には大規模な軍勢はかけられないだろうから多分戦闘に関しては俺達だけで大丈夫だと思います」
三人の返事を聞き、勇者は改めて青の大臣へそう言った。
青の大臣「勇者殿達の武勲は聞いておるが……本当に大丈夫か?」
魔法使い「大丈夫大丈夫♪」
武闘家「そうですね、むしろ魔法使いさんがやりすぎないかが心配ですよ」
勇者「ま、そういうことです。転移魔法で援軍を送るんだったら医療班の人達をお願いします」
青の大臣「う、うむ……わかった」
不安げに青の大臣は勇者の申し出を受け入れた。
勇者「じゃ、行くぞみんな」パチィンッ!!
武闘家「はい!」
僧侶「うん!」
魔法使い「りょーかいっ!!」
カアアァァッ!!
転移魔法陣が勇者達の足元に浮かび上がった。
王の間の人々が転移魔法の青白い光に目を細めた時には勇者達はもうその場にはいなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:45:47.01 ID:hr/uKPTi0<> ――――青の国・風鳴の大河
ウオオオォォォ!!
わー!!わー!!
キン!!ガキーン!!
風鳴の大河の戦場では青の国の兵士と黒の国の兵士とか熾烈な闘いを繰り広げていた。
しかし黒の国側の奇襲は現在の戦況に大きく影響を与え、青の国側は必死の防衛線を張っている状況だった。
今や風鳴の大河にある青の国の砦は最後の一つが辛うじて残るのみである。
槍を持った黒の兵士「うおおぉーー!!」ビュッ
髭面の黒の兵士「はああぁーー!!」ブンッ
聖騎士「甘い!!」ビュバッ
槍を持った黒の兵士「がっ……!?」ドサッ
髭面の黒の兵士「ぐぁ!!」ドサッ
二人の黒の兵士達の同時攻撃の隙間を縫う様に紙一重でかわし、聖騎士は両手で持った大剣を振り抜き二人の兵を一閃によって討ちとった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:47:58.00 ID:hr/uKPTi0<> 聖騎士「くっ……善戦しているとは言え明らかな劣勢だ……」
聖騎士は額を伝う汗を拭いながら現状を分析すると悲嘆の声を漏らした。
聖騎士として戦場を長く駆ける彼女の切れ長の眼には今の戦況が残酷なまでに写っていた。
賢者「はうぅ……多勢に無勢ですもんね……」ウルウル
まだ十四になったばかりの賢者は今にも泣き出しそうな顔でか細い声で言った。
実力はあっても実戦経験の無い彼女にとって初めての戦が奇襲攻撃の防衛というのは酷な話だろう。
弓術士「あ〜あ、迫り来るこの魔族の兵士達がみんなビキニのおねーちゃん達ならいいのになぁ……っと!!」ビュン
小柄な黒の兵士「うあっ!!」ドサッ
弓術士「っしゃ!ナイスショット♪」グッ
軽口を叩きながら弓術師の放った矢は砦へ脚を踏み入れようとした小柄な魔族の右大腿部を的確に射抜いた。
星氷の勇者「大丈夫、僕達がここの守りに徹していればこの砦が落とされることはまずないよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:48:47.20 ID:hr/uKPTi0<> 星氷の勇者「だから援軍が来るまで絶対にここを死守するんだ!!」
青の王よりこの地の守りを任されていた星氷の勇者が叫んだ。
彼が『星氷の勇者』と呼ばれているのには勿論理由がある。
それは彼が100代目勇者候補の一人であったからだ。
朱の刻印を持つ勇者候補達は候補者の証としてそれぞれが二つ名――――異名をを自国の王から与えられる。
背格好や性格、家柄、戦闘スタイルなど二つ名の由縁は様々だ。
彼が『星氷』の名を冠するのは、美しいまでに洗練された彼の氷撃魔法を讃えて与えられたものである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:50:13.81 ID:hr/uKPTi0<> 聖騎士「そうは言うが守ってばかりいては勝つことはできないのだぞ?」
聖騎士「私達がここの守りをしなければならないのだから攻撃に割ける戦力などたかが知れている」
聖騎士「私達に援軍が来る様に魔族側にも援軍は来る。長期戦になればいずれ私達も闘えなくなり……ここも落とされる」
聖騎士は悲痛な面持ちで星氷の勇者の言葉に意見を述べた。
冷静に今の戦況を考えれば考えるほどこの戦の行く末が嫌と言うほど分かってしまう。
彼女自身それがつらかった。
星氷の勇者「でも僕達が諦めるわけにはいかない!!」
星氷の勇者「僕はこれでも勇者の端くれだ、最後まで希望を捨てずに闘い抜くだけだよ!!」
聖騎士「……まぁお前ならそう言うと思っていたがな」フッ
弓術士「そっすね、なんともアニキらしいッスよ」ニヤ
賢者「はひっ!!私も頑張ります!!」ギュッ
星氷の勇者「ありがとうみんな…………よし、なんとしても僕達でここを死守するんだ!!」チャキッ
カアァァァッ!!
星氷の勇者が剣を構えたその時、空中に青く輝く魔法陣が現れた。
星氷の勇者「!?」
賢者「これは……転移魔法陣?」
パッ!!
スタ!!スタタタッ!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:55:59.08 ID:hr/uKPTi0<> 転移魔法の光の中から四人の男女が星氷の勇者達の目の前に降り立った。
「…………思ったより状況は悪いみたいだな……」
少しクセのある黒髪の少年は鋭い眼差しで戦場を見渡して言った。
風になびいたマントから彼の腰に差された小振りの剣が見える。
「うん……怪我人もたくさん出てそうだね……」
金髪碧眼の絵に描いたような可愛らしい少女が緊張した声で返した。
肩まで伸びた彼女の絹の様は髪が風に吹かれて揺れた。
「いいね、ピンチの方ががぜん燃えるってもんだよ!!」
大きな黒帽子を被った少女が何故か意気揚々と言う。
腕を伸ばしてストレッチする様は明らかにこの状況を楽しんでいる様に見えた。
「分かってると思いますが……遊びに来たわけじゃないんですからね?」
金髪の少年が黒帽子の少女に釘を刺した。
小さく漏らした彼のため息ははしゃぐ子供を前にした親のものと同じだ。
聖騎士「な…………!!」
弓術士「アンタ達は…………!!!!」
星氷の勇者「勇者さんっ!!!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 01:58:46.73 ID:hr/uKPTi0<> 星氷の勇者達三人は突如として現れた100代目勇者一行に驚きの声を上げた。
その声に勇者達も振り返る。
勇者「おー!!青坊じゃん!!久しぶりだなー!!」
青坊というのは勇者が星氷の勇者を呼ぶ時のあだ名だ。
勇者は自分より一つ年下の青の国出身の彼をそう呼んでいるのだ。
勇者「なんでここにいるんだ?」
星氷の勇者「僕達はもともとここの守りを青の王様から任されてますから」
弓術士「僧侶ちゃ〜ん!!会いたかったよ〜〜」ガバッ
僧侶「止めて下さい、セクハラで訴えますよ」サッ
弓術士「ぐぇ!!」ドシーン
武闘家「弓術士さんは相変わらずみたいですね」フフッ
聖騎士「あぁ、残念ながらな」ハァ
星氷の勇者「皆さんはどうしてここに……?」
勇者「たまたま青の国の王宮に居たら奇襲攻撃の知らせがあってな、俺達が援軍として加勢に来たってワケだ」
魔法使い「あたし達が来たからにはどーんと泥船に乗ったつもりでいてよ!!」
勇者「お前の場合は本当に泥船になっちまいそうだよ」ハァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:00:09.52 ID:hr/uKPTi0<> 賢者「あ、あの……」
賢者がおそるおそる声を発した。
賢者「は、はじめまして……」
勇者「ん?見ない顔だな……」
星氷の勇者「そうですね、勇者さん達は会うの初めてですもんね」
星氷の勇者「彼女は最近僕達のパーティに加わった賢者ちゃんです。青の国の魔法学校を飛び級で卒業した飛びきり優秀な子なんですよ」
勇者「賢者!?そりゃすげーな!!そういやお前のとこのパーティ回復は聖騎士がして攻撃魔法はお前がしてたもんな」
星氷の勇者「はい、彼女が仲間になってくれたお陰で戦略に幅ができました」
勇者「俺は勇者だ、よろしくな」ニッ
賢者「は、はい!!……ゆ、勇者様ってもしかして……」
聖騎士「あぁ、この前正式に任命された100代目の勇者だ」
賢者「!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:01:35.45 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「まぁ100代目勇者なんて名ばかりだけどな」ハハッ
武闘家「ただの遅刻魔ですからね」ニコッ
勇者「うっさいなー」ムスッ
僧侶「勇者君、青君に会えて嬉しいのは分かるけど……」
勇者「あぁ、そうだな」
勇者「青坊、この砦の守りはお前らに任せるぞ。俺達は攻撃に回って魔族の奴らを撤退させる」
星氷の勇者「はい!!」
聖騎士「頼むぞ勇者!!」
弓術士「ねぇねぇ僧侶ちゃん、この戦いが終わったら俺とデートでも……」
僧侶「しません」キッパリ
弓術士「そっすよね〜」
勇者「魔法使いと武闘家は戦場で黒の国の兵士達と闘ってくれ。僧侶は怪我人の手当て」
僧侶「了解!!」
魔法使い「勇者は?」
勇者「俺は本陣に攻め入って指揮官とケリつけてくる」
武闘家「分かりました」
勇者「魔法使い、帽子は」
魔法使い「大丈夫、ちゃんと被ってるよ」
勇者「武闘家」
武闘家「はいはい、ちゃんと手加減しますからご心配なく」
勇者「……じゃあ行くぞ!!!!」パチィン!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:05:17.51 ID:hr/uKPTi0<> 勇者の転移魔法によって勇者一行は戦場へと散開した。
賢者「ゆ、勇者様達大丈夫なんでしょうか?」
勇者達の姿が見えなくなると賢者が不安そうに言った。
聖騎士「心配はいらない、奴らは強い」
賢者「でもたった4人じゃ……」
弓術士「なぁに、勇者の旦那達がいりゃ一万人力ッスよ」
星氷の勇者「……賢者ちゃん、歴代最強の勇者って誰だと思う?」
賢者「え?それはやっぱり大勇者様こと99代目の勇者様じゃないですか?」
賢者「最上級魔法の八重魔法陣ができるなんて後にも先にも大勇者様以外ありえないって言われてますよ」
星氷の勇者「そうだね、攻撃力っていう面で見たらたしかに大勇者様は歴代最強だと思う」
星氷の勇者「でも僕は勇者さんがも負けないくらい強いと思う」
星氷の勇者「……去年だったかな、100代目勇者候補達の中で誰が一番強いのか、実戦形式の試合をしたことがあるんだ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:07:34.68 ID:hr/uKPTi0<> 聖騎士「たしかお前は3位だったな」
星氷の勇者「うん。……試合前は大勇者様と99代目勇者の座を争った黄の国の裂空の勇者や、大火力の炎撃魔法の使い手の赤の国の煉撃の勇者が優勝だろうって言われてたんだけどね、優勝したのは勇者さんだった」
弓術士「他の候補者7人を相手にストレート勝ち。ぶっちぎりの優勝だったッスねぇ」
賢者「ふえぇ……」
聖騎士「『13秒完全試合』だな」
賢者「?」
星氷の勇者「勇者さんが闘った時間だよ」
賢者「どういう……」
星氷の勇者「7試合を計13秒で片づけちゃったんだ。つまり1試合あたり2秒かからずに勝ちを決めちゃったってこと」
賢者「えぇ!?そんな!!だって皆さんすごく強い方々ばっかりだったんじゃないんですか!?」
聖騎士「だがこれは事実だ。私達もその場にいて試合を見ていた」
弓術士「いやー、観客も審判も唖然としてたもんなぁ」ハハッ
星氷の勇者「その時僕達は改めて勇者さんの二つ名を思い知らされたよ」
星氷の勇者「『瞬天の勇者』、の二つ名をね」フフッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:10:37.41 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――
ウオォォォ!!
キィン!!キキィン!!
魔法使い「そーいや勇者が100代目の勇者に任命されてから戦場で戦うのって初めてじゃない?」グッグッ
風鳴きの戦場の中心地、兵士達の雄叫びが大地を揺らすその場所で魔法使いは腕を伸ばしながら言った。
武闘家「そうですね、諸国を巡る旅に出てからは戦場へ駆り出されたことはまだありませんでしたから」
魔法使い「もっと戦場に出るようになるのかと思ったら全然戦わなかったもんねぇ……戦うのっていつぶりぐらいだっけ?」
武闘家「任命前に戦ったきりでしたから多分4ヶ月くらいかと」
魔法使い「はぁ〜……久しぶりだから大丈夫かなぁ……」
武闘家「何の心配ですか?」
魔法使い「手加減☆」
武闘家「だと思いました」フフッ
ザザザッ!!
多数の黒の国の兵士達が二人の前に立ちはだかった。
眼鏡の黒の兵士「前方に敵軍の兵士と思われる者達を発見、素手の男1女1!!」
唇の厚い黒の兵士「戦場に女だと!?」
長髪の黒の兵士「戦場に出たら男も女も関係ないだろうが!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:13:37.69 ID:hr/uKPTi0<> 黒の中隊長「その通りだ」
黒の中隊長「たかが小娘一人と優男一人戦場に転がるただのゴミと変わらん!!」
黒の兵士達「ハッ!!」ザザザザザッ!!
両手では数え切れない魔族達が魔法使い達に襲いかかろうと身構える。
武闘家「僕達ゴミですって」ハハッ
魔法使い「失礼しちゃうなー〜……っと。よしっ、準備運動おしまいっ」
魔法使い「危ないから下がっててね、武闘家」ババッ
武闘家「言われなくても」スッ
魔法使いは不敵に微笑み両手を左右に広げた。
魔法使い「行っくよーー☆」ニッ
彼女の両の手のひらに魔力が集中していき、空中に赤の魔法陣が形成される。
眼鏡の黒の兵士「赤の魔法陣……攻撃魔法の使い手と言うことは……あの女魔法使いか!!」
長髪の黒の兵士「たかが魔法使いの女一人恐るるに足らん!!」
新米黒の兵士「……せ、先輩、でも……」
長髪の黒の兵士「どうした!?」
新米黒の兵士「魔法陣があんなにたくさん……」
長髪の黒の兵士「!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:16:16.92 ID:hr/uKPTi0<> キィン!!
キキキキキキキキキィィン!!
黒の兵士達が魔法使いの方を見ると彼女の周囲の空中には多数の魔法陣が展開されていた。
左右の手を中心に二十個ずつ、計四十の魔法陣が砂煙舞う戦場に浮かび上がった。
唇の厚い黒の兵士「なっ……!?」
眼鏡の黒の兵士「れ、連撃魔法陣展開!?」
長髪の黒の兵士「しかもなんて数だ……!!」
魔法陣展開には二つの応用がある。
そのうち一つが連撃魔法陣展開だ。
一つの魔法陣を同時に複数個展開するこの技術は展開する魔法陣の数・レベルに応じて、必要とされる集中力と魔力も増してゆく。
並みの魔法使いが上級魔法陣の複数展開をするとするならば十が限界とされている。
だが魔法使いが術式を組んだ魔法陣は上級炎撃魔法陣だ。
それが四十もの同時展開……黒の兵士達が狼狽えるのも無理は無かった。
長髪の黒の兵士「な……あの女化け物か!!??」
魔法使い「くらえっ!!」バッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:18:04.36 ID:hr/uKPTi0<> 左右に広げていた手を前に向け、魔法使いは叫んだ。
魔法使い『四十連炎撃魔法陣・灼』!!!!
ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
ヒュンヒュン!!ヒュヒュヒュン!!
ドガガガガガガガガガーーーン!!
黒の兵士達「ぐああああああーーー!!!!」
四十の魔法陣から放たれた灼熱の火球が魔族達を襲う。
火の玉が戦場を飛び交い、あちこちで火柱が立ち上る様はさながら大軍隊による一斉砲撃の様であった。
眼鏡の黒の兵士「ぐぅ……!!」
唇の厚い黒の兵士「うぅ……!!」
新米黒の兵士「熱い……!!」
魔法使い「どうだったかな、あたしの情熱の炎の熱さは?」ニャハ
長髪の黒の兵士「ぐ……うぅ……き、貴様何者だ……!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:19:34.85 ID:hr/uKPTi0<> 炎撃魔法を受け倒れる黒の兵士の問いに魔法使いは答えた。
魔法使い「あたしは100代目勇者の仲間の一人、『燃え萌え魔法少女』魔法使いちゃんだよ☆」キラーン
決めポーズも忘れない。
長髪の黒の兵士「ふざけおっ……て……」ガクッ
彼はそう言うと心底悔しそうな顔で意識を失った。
黒の兵士達「うおおおぉぉぉ!!」ドドドド!!
魔法使い「ん、まだまだいるね〜。でもさっきので手加減の仕方も思い出したしもうちょっと強い魔法使っても大丈夫かな?」ニッ
魔法使いが両手を体の前へと向けた。
広げた手のひらを今度は重ね合わせる。
キィン!!
先程の上級炎撃魔法陣の数倍はあろうという巨大な魔法陣が彼女の目の前に展開される。
手のひらへと魔力を集中させ、その力を解き放つ。
魔法使い『炎撃魔法陣・獄』!!!!
ゴオオオォォォォォォ!!!!!!
水平方向へと放たれた最上級炎撃魔法の巨大な火柱が戦場の魔族達に襲いかかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:21:51.45 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――
ドガアァァァーーン!!!!
武闘家「いやぁ、魔法使いさんはしゃいでますねぇ」
戦場に立ち上るいくつもの火柱、響く爆音を見ながら武闘家が言った。
武闘家「前回の戦場では『燃える炎は元気の証☆キュア魔法使い』って言ってたのに今回は『燃え萌え魔法少女』ですか」アハハ
武闘家「さて、中央より西側は魔法使いさんに任せて僕は東側で戦うとしましょうか」
鼻ピアスの黒の兵士「よそ見してんじゃねぇぞあんちゃん!!」ブンッ
スキンヘッドの黒の兵士「ここはテメェみてぇなヒョロいガキの来るところじゃねぇんだ!!」ブンッ
武闘家の背後から二人の魔族が襲いかかった。
パシッ
グルン
黒の兵士E・黒の兵士F「!?」ブワッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:24:06.75 ID:hr/uKPTi0<> >>217 最後の一行に表記ミス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:24:47.88 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――
ドガアァァァーーン!!!!
武闘家「いやぁ、魔法使いさんはしゃいでますねぇ」
戦場に立ち上るいくつもの火柱、響く爆音を見ながら武闘家が言った。
武闘家「前回の戦場では『燃える炎は元気の証☆キュア魔法使い』って言ってたのに今回は『燃え萌え魔法少女』ですか」アハハ
武闘家「さて、中央より西側は魔法使いさんに任せて僕は東側で戦うとしましょうか」
鼻ピアスの黒の兵士「よそ見してんじゃねぇぞあんちゃん!!」ブンッ
スキンヘッドの黒の兵士「ここはテメェみてぇなヒョロいガキの来るところじゃねぇんだ!!」ブンッ
武闘家の背後から二人の魔族が襲いかかった。
パシッ
グルン
黒の兵士達「!?」ブワッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:28:03.25 ID:hr/uKPTi0<> ……が、武闘家が優しく彼らの攻撃をいなすと魔族達は空中を舞った。
ドゴオォーン!!
鼻ピアスの黒の兵士「がふっ!!」
スキンヘッドの黒の兵士「ぐうっ!!」
そのまま地面に叩きつけられた兵士達。
二人の倒れた地面は不自然なほど陥没していた。
ベテランの黒の兵士「な……一体どうなってるんだ!?」
ベテランの黒の兵士「あいつらはただ投げられたようにしか見えなかったがあの地面の凹みはそれだけじゃ説明がつかないぞ……!?」
双子の黒の兵士兄「えぇい、ただの武闘家相手に臆することはねぇ、行くぞ!!」ダッ
双子の黒の兵士弟「あぁ!!」ダッ
ベテランの黒の兵士「ま、待てお前ら!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:31:03.54 ID:hr/uKPTi0<> 双子の黒の兵士達「うらあぁぁぁー!!」ブンッ!!
手にした斧を武闘家へと振り下ろす二人。
ガガッ!!
双子の黒の兵士達「!?」ググッ
ベテランの黒の兵士「……そんな馬鹿な」
その場の魔族達は誰もが目の前に広がる光景に目を疑った。
筋骨隆々の大男二人が振り下ろした巨大な戦斧。
それを細身の少年が受け止めていたからだ。
しかも一つの斧につき片手、斧の刃を人指し指と中指で挟むようにして受け止めている。
双子の黒の兵士兄「ぐぐぐ……!!」ググッ
双子の黒の兵士弟「動かない……!!」ググッ
武闘家「駄目ですよ、むやみやたらと真っ直ぐに突っ込んできちゃ」
ブンブンッ
グルンッ!!
ドガアァーン!!
双子の黒の兵士達「ぐはぁっ……!!」
彼らもまた先ほどの兵士達と同じ様に宙を舞い、地面へと叩きつけられた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:34:36.16 ID:hr/uKPTi0<> ベテランの黒の兵士「な……なんなんだアイツは…………ん?」
ボオ……
黒の兵士は武闘家の身体の異変に気づいた。
彼の身体は淡く黄色に光っている。
ベテランの黒の兵士「黄色の光…………まさか!!」ハッ
武闘家「はい、そのまさかです」ニコッ
ベテランの黒の兵士「お前肉体強化魔法を仲間にかけてもらって戦っていたのか!!」
魔法陣によって対象者の肉体を一定時間強化するのが肉体強化魔法である。
肉体強化魔法の効果が持続している内は対象者の身体が補助魔法の証である黄色の光に包まれるのが特徴だ。
武闘家「ん〜、半分正解、半分不正解です」
ベテランの黒の兵士「だ、だが元より強靭な肉体を持つ黄の刻印の者は肉体強化魔法に拒絶反応が出て効果がないハズ……それに魔法による肉体強化だけじゃ投げられたアイツらがすごい勢いで地面に叩きつけられた説明が……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:37:03.30 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「それは……これですよ」スッ
武闘家は静かにその場にしゃがみこむと地面に手を当てた。
ドッゴオオオォォォッ!!
ただ手を当てただけ。
それだけで彼の周囲の大地が激しく音をたてて割れた。
ベテランの黒の兵士「……!!……ば、馬鹿な……!!」
キイィィン……!!
黒の兵士の視線の先。
武闘家の手のひらには赤く光る魔法陣が浮かび上がっていた。
ベテランの黒の兵士「じゅ……重撃魔法陣……!!」ゴクッ
武闘家「正解です。あなたのお仲間さん達を投げた時に重撃魔法で通常の何十倍もの重力をかけて地面に叩きつけたんですよ」フフッ
ベテランの黒の兵士「あ、有り得ない!!!!戦士や武闘家は全く魔法は使えないハズじゃ……」ワナワナ
武闘家「普通はそうですよね。でも僕はちょっと特殊な人間でして」スルッ
ベテランの黒の兵士「……!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:39:25.14 ID:hr/uKPTi0<> 袖を捲り、剥き出しにされた武闘家の右腕。
そこには青の刻印と黄色の刻印が混ざり合った見たこともない刻印が刻まれていた。
武闘家「賢者っているじゃないですか。あれは青の刻印と緑の刻印の両方の刻印を持つ人達なんですよ」
武闘家「それと似たようなもので僕は青の刻印と黄の刻印が合わさった特殊な刻印を持っています。…………あ、これすごく珍しいんですよ、勇者の刻印より数が少ないんです」アハ
武闘家「だから本当は僕は『武闘家』ではないんです。…………古い書物には肉弾戦と魔法を組み合わせるこの戦闘スタイルで闘う人についてこう書かれています」
武闘家「『魔拳闘士』、と」ニコ
ベテランの黒の兵士「マ、マケントウシ…………?」ゴクッ
武闘家「さて、種明かしも済んだことですし僕も僕の役目を果たさせてもらいますよ」ニコッ
ベテランの黒の兵士「く、くそおおおぉぉぉ!!」ダダッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:40:42.39 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家『肉体強化魔法陣・豪』!!
キィン!!
武闘家『肉体強化魔法陣・堅』!!
キィン!!
武闘家『肉体強化魔法陣・疾』!!
キィン!!
武闘家の足元ち立て続けに展開された魔法陣が発動し、武闘家の身体は黄色の光に包まれた。
ベテランの黒の兵士「うああああぁぁぁ!!」ブンッ
武闘家「破ッ!!」
バキィィィン!!
ベタランの黒の兵士「な、なぁっ!?」
肉体強化の加護を受けた武闘家の掌底は黒の兵士の剣を易々と折った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:43:43.56 ID:hr/uKPTi0<> シャッ!!
狼狽する黒の兵士の懐へと目にも止まらぬ速さで潜りこんだ武闘家は右手に魔法陣を展開し、彼の腹部へと鋭い突きを放った。
武闘家『重撃魔法陣・砕』!!
ドゴッッッ!!
ベタランの黒の兵士「が……はぁっ!!」
ギューーーン!!
目の細い黒の兵士「ぎゃっ!!」
眉の太い黒の兵士「うわっ!!」
八重歯の黒の兵士「ぐえっ!!」
武闘家の拳と重撃魔法の合わせ技を受け吹き飛ばされ彼は幾人の黒の兵士達を巻き添えにした。
武闘家「あ…………しまった、やりすぎた……」
武闘家「う〜ん、僕も魔法使いさんのこと言えませんね〜」ポリポリ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:50:40.15 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――
そばかすの青の兵士「うぐ……」ドサッ
眼鏡の青の兵士「お、おい!!しっかりしろ!!」
坊主の青の兵士「うぅ……腕が……うぅ……!!」
色黒の青の兵士「意識が遠退く……血を……流しすぎた……」
鷲鼻の青の兵士「ぐあぁ……痛い……!!」
青の国最後の砦。
医務室には多くの兵士達が担ぎ込まれており、既に定員を超えていた。
医療班は必死に兵士達の手当てをしてはいるが次から次へと運び込まれる負傷者達に手が回らず何十人もの兵士が医務室の外の地べたに横たわっている。
そばかすの青の兵士「……俺はもう駄目だ……手足の感覚がもうないんだ……」
眼鏡の青の兵士「諦めるな!!踏ん張れ!!」
そばかす青の兵士「……なぁ、俺が死んだら故郷の妹に『いつも喧嘩ばっかりしてたけど兄ちゃんはお前のことを愛していた』って伝えてくれないか……」
眼鏡の青の兵士「馬鹿野郎!!気をしっかり持て!!お前妹なんていないだろ!!故郷にいるのは牛よりデカいおふくろさんだけだろうが!!」ユサユサ
坊主の青の兵士「……ぐうぅ……せめて包帯だけでも……」
色黒の青の兵士「…………」ヒュウヒュウ
鷲鼻の青の兵士「うあぁ…………俺の足が……足がぁ……!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:52:49.84 ID:hr/uKPTi0<> タタタタッ
兵士達の呻き声が聞こえる中、地を駆ける軽い足音が聞こえてきた。
僧侶「皆さん大丈夫ですか!?」
眼鏡の青の兵士「あ、貴女は……?」
僧侶「私は100代目勇者の仲間として援軍に来ました、僧侶です!!」
眼鏡の青の兵士「僧侶さん……ってことは回復魔法が使えるんだな!?」
僧侶「えぇ、勿論です。皆さんの傷を癒すために私はここに来たんですから!!」グッ
眼鏡の青の兵士「た、頼む俺の怪我は後でいい!!コイツをすぐに治してやってくれ!!」
そばかすの青の兵士A「…………」ハァ…ハァ…
坊主の青の兵士「そ、僧侶さん……俺の傷も……!!」
色黒の青の兵士「…………」ヒュウ…ヒュウ…
鷲鼻の青の兵士「俺の足が先だ!!変な方向に曲がってて……!!」
「俺も……!!」
「僕も……!!」
僧侶が現れたと知り兵士達は我先にと僧侶に治療を請うた。
僧侶「……大丈夫です。皆さんまとめて私が治します!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:54:38.86 ID:hr/uKPTi0<> 僧侶はそう言って目を閉じた。
深く意識を集中する……。
キイイィィィィン!!
やがて僧侶を中心に地面に巨大な緑の魔法陣が浮かび上がった。
眼鏡の青の兵士「これは最上級回復魔法陣……!!」
坊主の青の兵士「し、しかも多重魔法陣だ……!!」
多重魔法陣とは同様の魔法陣を重ねがけすることにより魔法の効果を増幅させる技術だ。
先述の魔法陣展開の応用のもう一つの形だ。
連撃魔法陣を魔法のかけ算とするなら多重魔法陣は魔法の累乗だ。
その威力は凄まじく、それ故、難易度も必要とされる魔力も桁違いである。
カアアァァァ……!!!!
僧侶『二重回復魔法陣・愛』!!!!
パアアアァァァ……!!!!
広範囲・多人数の仲間の傷を癒す最上級回復魔法。
多重魔法陣展開によって効果を増した温かな治癒の光が兵士達を優しく包み込む……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 02:59:07.06 ID:hr/uKPTi0<> そばかすの青の兵士「う……傷が……」シュゥ…
眼鏡の青の兵士「気持ち良い……」シュゥ…
坊主の青の兵士「なんて温かな光だ……」シュゥ…
色黒の青の兵士「すぅ……すぅ……」シュゥ…
鷲鼻の青の兵士「た、助かった……」シュゥ…
僧侶「……ふぅ、なんとか間に合って良かったです」ウフフッ
眼鏡の青の兵士「僧侶さん、本当にありがとうございました……貴女が来てくれなかったら俺達は……」
僧侶「そんな、お礼なんていいんですよ」
僧侶「皆さんを助けることができて本当に良かったです」ニコッ
青の兵士達(――――――――!!!!)ズキューーーーン!!
僧侶の笑顔に兵士達に稲妻に似た衝撃が走った。
(あぁ……なんて美しいんだ……)
(こんな素敵な笑顔の女性見たことがない……)
(まるで天女……!!)
(女神のようなお人だ……)
(戦場に舞い降りた天使……)
(僧侶さん……)
(僧侶さん……)
僧侶「……?」
僧侶(心なしか皆さんから熱い視線を感じるような……まぁ気のせいかな)
余談ではあるがこの後、風鳴きの戦場の青の兵士達を中心にして『僧侶さんファンクラブ』という団体が結成される。
僧侶は『戦場の天使』とファン達から呼ばれ、大変な人気を博すことになるのだが、この時の僧侶はそのことを知るよしもない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:02:55.67 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――
勇者「ふーむ……結構片付けたつもりだけどまだいるもんだな」
勇者は手にした剣で肩を叩くと対峙している魔族達を見据えた。
大剣の黒の兵士「ぐ……」ジリッ
大盾の黒の兵士「くっ……」ジリジリッ
黒の兵士達は勇者を前にすっかり萎縮してしまっている。
それもその筈、勇者が魔族達の本陣に攻め入ってから数分も経たない内に半数以上の兵士達が勇者の手によって討ち倒されたのだ。
勇者の後ろには意識を失った百人余りの兵士達が倒れている。
大剣の黒の兵士(クソッ……!!わけがわからねぇ!!一人であの数の兵士達を一体どうやって倒したってんだ……!?)
彼は焦りと恐怖で混乱した頭で必死に状況を分析しようと試みた。
大盾の黒の兵士(倒された兵士達に目立った外傷はない……あっても刀傷ぐらいだ。……ってこと魔法は使わずに打撃かあの短い剣で倒したってことになる)
たしかに勇者の持つ剣は一般的な剣に比べてやや小振りであった。
その理由は勇者の独特の戦闘スタイルによるものである。
大振りのナイフよりは長いその短めの剣を勇者は利き手である右手に持ち、左手には何も持っていない。
大剣の黒の兵士(あの短い剣じゃ重い一撃は出せないだろうし、何より攻撃範囲が狭い。それなのにわざわざあの剣を使うことにどんなメリットが……)
勇者「なんだ、来ないのか?なら俺から行くぜ」チャッ
大剣の黒の兵士(く、来る!!)サッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:05:12.11 ID:hr/uKPTi0<> ゴッ!!
大剣の黒の兵士「が……!?」ドサッ
身構えた瞬間、側頭部に強烈な衝撃を受け彼はそのまま意識を失った。
大盾の黒の兵士「!?」バッ
黒の兵士は目を疑った。
先程まで距離を置いて相対していた勇者がいつの間にかすぐ隣の同胞の右側頭部に蹴りを入れていたからだ。
脳を揺らされた同胞はその場に崩れ落ちた。
大盾の黒の兵士(なんだ!?一体何が起こっている!?)
大盾の黒の兵士(さっきまであそこにいたこの男がすぐ隣に……!!)
彼は今まで感じたことのない異質な速さに恐怖を覚えた。
それは自分の知る速さの概念を超えた、別次元の速さである……彼はなんとなくそれを実感した。
大盾の黒の兵士「うわあああぁぁぁ!!!!」ダダダッ
喚きながら手にした槍で勇者へと襲いかかる黒の兵士。
勇者は特に焦るでもなく彼に左手をかざした。
大盾の黒の兵士(!?)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:10:09.11 ID:hr/uKPTi0<> 次の瞬間彼の目には天地のひっくり返った光景が映った。
勇者に攻撃を仕掛けた筈が目の前に勇者はおらず、空のあるべきところに地面があり、地面のあるべきところに空がある。
ドシャア!!
大盾の黒の兵士「あ゛……!!」
自分が逆さになっているのだと気づいた時には既に彼は地面に頭から落下し意識を断たれていた。
若い黒の兵士(まるで手品だ……)ゴクッ
勇者に倒された二人の兵士からやや離れたところで一部始終を眺めていた黒の兵士は一連の出来事をそう感じた。
まず勇者は二人の目の前から消え、一人目の兵士の頭上へと現れた。
速すぎて彼には勇者の移動の軌跡は見えなかったが、事実勇者がそこに現れた以上、超スピードで移動したことになる。
一人目の兵士の頭部に思い切り蹴りを入れ、着地すると今度は襲ってきた兵士に手をかざした。
二人目の兵士は消えたかと思うと勇者から少し離れたに空中に逆さまになって現れ、そのまま地面に頭を打って気絶した。
若い黒の兵士「む……無理だ……何が何だかさっぱりわからないけど俺達なんかが敵う相手じゃねぇ……」ガクガク <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:12:21.46 ID:hr/uKPTi0<> 黒騎士「これが音に聞く瞬天の勇者か……だがその実力は噂以上の様だな」
若い黒の兵士「く、黒騎士様!!」
全身を黒の甲冑に身を包んだその男こそこの戦場の指揮官、黒騎士である。
魔将軍の右腕でもある彼の実力は黒の国の軍隊の中でも三本の指に入るという達人である。
勇者「『瞬天の勇者』か。なんかそう呼ばれるのも懐かしいな」ハハッ
若い黒の兵士「黒騎士様……しゅ、瞬天の勇者とは一体……」
黒騎士「『瞬天の勇者』……100代目勇者の二つ名のことよ。そのすさまじいまでの高速戦闘により瞬天の異名が与えられたと聞く」
若い黒の兵士「ひゃ、100代目勇者……!!この男が……!!」ゴクッ
勇者「……なぁ、アンタが指揮官なんだろ?」チャッ
勇者は剣の先を黒騎士へと向けて言った。
黒騎士「だったらどうした?」
勇者「聞きたいことがある。…………今回の奇襲攻撃、一体誰の指示だ?」
黒騎士「何を寝惚けたことを言っている、軍事の最高責任者は魔王様であらせられる。魔王様以外の指示など有り得ないであろう」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:15:00.66 ID:hr/uKPTi0<> 勇者(…………!!!!)
勇者は黒騎士の言葉に動揺を隠せなかった。
魔王が、本当に魔王がこの奇襲攻撃を指示したと言うのか。
だとしたら何故?
こんなことをしては人間側の魔族に対する憎しみや不信感が増し人間と魔族の和平が不可能になる。
勇者(今まで俺達がやってきたことがこの戦で全て無駄になるんだぞ!?)
勇者(魔王、お前はどうして……)
黒騎士「今まで戦に対し消極的だった魔王様だが人間側に対して全面戦争を仕掛けるおつもりになった様だ。此度の戦はその序曲にすぎないということ」
勇者「………………」
勇者はしばらく黙り込んでいた。
黒騎士はそんな彼をただ静かに、だが注意して見詰めていた。
勇者「…………わかった。とりあえず俺はこの戦を終わらせることに全力を賭けるとする」
黒騎士「ホゥ……どうするつもりだ?」
勇者「……アンタに一騎討ちを申し込む」
黒騎士「!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:16:16.81 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「俺が勝ったら全軍を退かせろ」
黒騎士「フフ……何かと思えば一騎討ちとは……私がその申し入れを受けなかったらどうするつもりだ?」
勇者「いや、受けるさ。見たとこアンタは武人だからな。人間だろうが魔族だろうが根っからの武人ってのは一目見ればわかるもんさ」
黒騎士「クククッ……生意気な小僧だ。だが気に入ったぞ!!その勝負受けて立とうではないか!!」
若い黒の兵士「く、黒騎士様お気をつけ下さい!!奴は妙な技を使います!!」
黒騎士「なに、大体の種は分かっている」サッ
そう言って黒騎士は勇者へと手をかざした。
黒騎士『三十連氷撃魔法陣・冷』!!
カアッ!!
勇者「!!」
勇者の周りに幾つもの魔法陣が展開された。
勇者をとり囲む様に氷の刃が空中に形成され、それらが全方位から勇者を襲う。
ドドドドドドドドッ!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:18:15.25 ID:hr/uKPTi0<> 黒の兵士O「おぉ!!全方位攻撃!!あれならいくら速く動けようが関係ありませんな!!」グッ
黒騎士「…………」
若い黒の兵士「……黒騎士様?」
勇者「ったく、いきなりだな〜」
若い黒の兵士「!?」バッ
背後から聞こえた勇者の声に兵士は振り返った。
彼らの後ろ……そこには傷一つ負っていない勇者が立っていた。
若い黒の兵士「ば……馬鹿な!!あの攻撃は避けようがない……!!それなのにかすり傷一つなくあの場を移動するだなんて……!!」
黒騎士「やはり…………転移魔法か」
若い黒の兵士「て、転移魔法……?あの移動に使う転移魔法でしょうか?」
黒騎士「あぁ。奴の尋常じゃない速度での移動、対象の座標操作……転移魔法を使っているとするなら全ての辻褄が合う」
若い黒の兵士「な……しかしそんなこと有り得ません!!戦闘に転移魔法を応用するだなんて聞いたことがありませんし、何より不可能です!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:21:22.39 ID:hr/uKPTi0<> 転移魔法が上級魔法と言われているのは術式を組むことの難しさにある。
通常魔法陣を展開するには使用者自身の魔力を源として発動する魔力の構築式を組む必要がある。
このことを一般に『術式を組む』と言う。
炎撃魔法を例に上げるならば、どの様な形、どの様な規模、どの様な特性の炎を出すのか、それを構築式に組み込み魔法陣を展開することで使用者の意図する魔法を放つことができる、という仕組みだ。
そして転移魔法はこの術式が攻撃魔法に比べ複雑なのだ。
移動する前の場所の情報式、移動先の場所の情報式、移動させる物・人の情報式。
これらの術式を組むことが非常に難易度が高いので上位魔法とされているのだ。
さらに転移魔法は術式を組むのに時間がかかる。
情報式を正確に術式に組み込まなければならないので、その作業に時間を労することになるのだ。
若い黒の兵士「あんな一瞬で転移魔法の術式を組んで、しかも周囲に魔法陣の展開を認識させる間も無く発動させるだなんて……それはもはや神業なんて話ではありません!!」
黒騎士「だが実際に奴はそれをやってのけている。でなければ先程の氷撃魔法をかいくぐり私達の背後に現れたことに説明がつかない」
若い黒の兵士「…………」
黒騎士「奴のあの短い剣も転移魔法を用いた戦闘により特化した証だろう」
黒騎士「剣撃において間合いが重要なのは万人の知るところ……通常ならば短い剣は相手の間合いの懐に入らなければならないため問題があるように思われる」
黒騎士「だが奴は転移魔法によって瞬時に自分が斬り込める領域へ移動することができる。ならば小回りが利き素早く振ることのできる短めの剣の方が適している」
黒騎士「左手は転移魔法を展開するために敢えて何も持っていないのだろう……素手の方が即座に魔法陣を展開できるからな」
黒騎士「……以上が私の推察だが……どうだ?瞬天の勇者よ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:26:53.74 ID:hr/uKPTi0<> 黒騎士の問いに勇者は拍手で答えた。
勇者「ご名答。まさか武器の特性まで言い当てるとは……流石、指揮官ってところだな」パチパチパチパチ
勇者「でもネタが分かったところでアンタには勝ち目がないんだぜ?」
黒騎士「フッ……舐めるなよ、小僧が」
スラァ……
黒騎士はドスの効いた声でそう言い腰に差していた大剣を抜いた。
黒騎士「種が割れていれば対策などいくらでも立てられる。経験の差というものを見せてやろう」チャッ
黒騎士「来い!!」ゴオッ!!
勇者「なら行くぜ!!」
ヒュンッ!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:28:22.16 ID:hr/uKPTi0<> 黒騎士の視界から勇者が消えた。
転移魔法による瞬間移動だ。
しかし黒騎士は冷静だった。
黒騎士("視界から消えた"と言うことは裏を返せば"視界の外にいる"ということ……つまり奴は私の背後か頭上から攻めてくる……!!)
ザッ!!
黒騎士は前へと一歩踏み込んだ。
勇者「!!」スカッ
黒騎士の背後へと空間転移した勇者の攻撃は空を切った。
黒騎士「思った通り、貴様の移動先から動けば私に攻撃は当たらない!!」バッ
黒騎士が振り向きざまに叫んだ。
黒騎士「消え去れ、100代目勇者!!」サッ
カアアアァァァ!!
黒騎士『二重炎撃魔法陣・獄』!!!!
ゴオオオオォォォォッッ!!!!
勇者へと放たれた獄炎の火柱。
赤熱の焔が勇者の身を焼き尽くす。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:29:42.04 ID:hr/uKPTi0<> カアァ!!
黒騎士「!?」
ゴオオオオォォォォッッ!!!!
黒騎士「ぐああああぁぁぁ!!!!」
しかし叫び声を上げたのは黒騎士だった。
確実に勇者に命中するはずだった炎撃魔法は彼には当たらず、代わりに黒騎士が炎撃魔法の業火に焼かれている。
若い黒の兵士「!?……ど、どうなってるんだ……!?」
若い黒の兵士「黒騎士様が勇者に向かって炎撃魔法を放ったはずなのに……いきなり黒騎士様の脇から炎撃魔法の炎が……!?」
黒騎士「ぐっ……貴様私の炎撃魔法を転移させたな……!?」ヨロ
勇者「その通りっ!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:30:48.33 ID:hr/uKPTi0<> ヒュンッ
バキィッ!!
黒騎士「がっ!!」
ヒュンッ
ドゴッ!!
黒騎士「ぐっ!!」
ヒュンッ
ドガッ!!
黒騎士「ぐはっ!!」
腹部に攻撃を受けた次の瞬間には背中に攻撃を、背中に攻撃を受けた次の瞬間には脇腹に攻撃を。
黒騎士は為す術もなく勇者の攻撃を受けるしかなかった。
勇者の攻撃を防御しようと身構えると勇者は防御がされていない側へと空間転移し攻撃をしてくる。
これでは防御のしようがない。
転移魔法による神速の移動術は勇者の一方的な攻撃を可能にしたのだった。
勇者「せいっ!!」
バキィッ!!
黒騎士「が……はぁっ!!」ガフッ
勇者の蹴りが的確に黒騎士の顎へと命中し、黒騎士は仰向けに倒れた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:32:46.42 ID:hr/uKPTi0<> 若い黒の兵士「あ……あ……」ガクガク
若い黒の兵士(そ……そんな……あの黒騎士様が手も足も出ないだなんて……)ワナワナ
若い黒の兵士(黒騎士様が弱いんじゃない……勇者が圧倒的に強すぎるんだ……!!)ブルブル
勇者「さて、勝負はもうついたな」チャキッ
勇者は黒騎士の喉元に剣先をあてがい言った。
黒騎士「ぐ……無念……まさかこれほどまでとは…………」グッ
勇者「ちゃんと約束は守ってもらうぜ」
黒騎士「……分かっている……おい、お前!!」
若い黒の兵士「は、はいっ!!」ビクッ
黒騎士「全軍に撤退命令を出せ」
若い黒の兵士「わ、わかりました!!」ダダッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:33:39.17 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「ふぅ……話のわかる指揮官で助かったよ」キンッ
黒騎士「…………どうした、トドメは刺さないのか……?」
勇者「俺は戦争を止めに来ただけだ。魔族を殺しにきたわけじゃない」
勇者「俺が倒した魔族の兵士達も気絶してるだけでみんな生きてるよ」
勇者「俺の仲間も上手くやって死人は出してないと思う」
黒騎士「…………瞬天の勇者は戦場で死人を出さない、と聞いていたがまさか本当だったとはな……」
勇者「お仲間連れて早く引き上げるんだな。そんじゃ」パチィン
勇者は後ろでに手を振ると転移魔法によってその場から音も無く去っていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:34:45.35 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――
ドゴオォッ!!
大柄な黒の兵士「う……が……!!」ドサッ
武闘家「これでこっちはあらかた片付きましたかね」フゥ
手首を揺らしながら武闘家は辺りを見渡した。
武闘家の手によって無力化された何十人もの魔族の兵達が戦場に倒れていた。
突然空中に青の魔法陣が浮かび上がった。
キィン
武闘家「おや」
パッ
スタ
勇者「よっ」
転移魔法により勇者がその地へと降り立った。
武闘家「どうでしたか?」
勇者「あぁ、敵の指揮官倒して軍を引かせるように言ってきたよ」
武闘家「お疲れ様です。僕の方も戦意のある兵士達はほとんど倒し終えたところです」
武闘家「魔法使いさんも少し前に攻め入ってくる魔族の軍を壊滅させたので今は砦の方へ回ってるみたいです」
勇者「そうか」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:37:16.98 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「久しぶりに運動した気分はどうだ?」
武闘家「やはり体を動かすのは気持ち良いですね、はしゃいでしまいましたよ」フフッ
武闘家「…………と言いたいところですが、ここは戦場。命の奪い合いをする戦争を楽しむことなんてできませんよ」
勇者「……たしかにな」
武闘家「今回の判断、お見事でしたよ」
勇者「…………何がだ?」
武闘家「あのまま青の国の兵士達が援軍に送り出されていたら、おそらく風鳴の戦場での戦いは凄惨極める血みどろの争いとなっていたでしょう」
武闘家「突然の奇襲攻撃に魔族達に敵意をむき出しにした青の兵士達は多くの黒の兵士達の命を奪い、黒の兵士達もまた多くの青の兵士達の命を奪うことになったに違いありません」
武闘家「勇者が援軍を僕達だけに、と言ったのは双方の被害を最小限に止めるためだったんでしょ?」
勇者「まぁ……な」
武闘家「多くの命が失われることになれば両国に計り知れない憎しみの種を生むことになる。そうなっては和平の実現が困難なものになってしまいますから……」
武闘家「でも勇者……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:37:53.64 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「分かってる。被害を最小限に抑えたと言っても今回の魔族側の奇襲攻撃は青の国と黒の国との間に……いや、人間と魔族の間に大きな軋轢を生むだろうな……」
武闘家「はい。…………今回の奇襲攻撃について何か聞き出せましたか?」
勇者「敵の指揮官は魔王の指示だ、って言ってた」
武闘家「…………そうですか」
勇者「指揮官はそう言ったけど…………俺は何かの間違いだって思いたい…………」
武闘家「それは僕も同じです。多分、僧侶さんも魔法使いさんも同じ想いでしょう」
勇者「………明日アイツに会う予定だったからな、その時にアイツの口から真実を聞けばいいさ」
武闘家「えぇ……」
勇者「………………」
それきり勇者は何も言わなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:38:37.50 ID:hr/uKPTi0<> なんで?
そんなはずはない。
どうして?
何か理由があるんだ。
何故?
何故?
――――何故?
沸き上がる疑問と疑念。
どこまで行っても灯りのない暗闇が勇者の心を埋め尽くした。
少年は風に吹かれて血と煙りの臭いに満たされた戦場にただ静かに立っていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:40:05.28 ID:hr/uKPTi0<> ――――黒の国・王都・魔王の城
魔王「何故だ!!!!」
バァンッ!!
怒気を孕んだ重々しい声を上げると魔王は目の前にあったテーブルを思い切り叩いた。
衝撃によって倒れたティーカップから溢れた紅茶がテーブルの上に広げられていた書類に染みを作った。
魔将軍「先程も言ったであろう、お前の生温い指揮の下、近年は大きな戦もなくなり魔族も人間もすっかり緊張感を無くしている」
魔将軍「争い合うのが魔族と人間の宿命。此度の奇襲攻撃はそれを忘れないためのものだ」
魔将軍「そもそも戦に卑怯もクソもあったものではないだろう」フンッ
魔王「ふざけたことをぬかすな!!私に無断で兵を動かし宣戦布告もなしに戦をするなど……いくら叔父上でも許さんぞ!?」ワナワナ
魔王は込み上げる怒りを抑えることができずに拳を握り締めて言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:41:57.58 ID:hr/uKPTi0<> なんということだ。
魔族側の奇襲攻撃を受けては人間側の魔族に対する印象はガタ落ちではないか。
いや、それだけに止まらず黒の国の民衆達の私に対する評価も大きく低下するだろう。
奇襲攻撃を指示するような卑怯者の王が臣民の信頼を得られる筈が無い。
私と勇者の夢である人間と魔族の和平がこんな形で揺るがされることになろうとは……!!
側近「軍隊の私的利用及び許可無き出撃命令……これらは大罪に値します。いくら魔将軍様でも厳重な処罰を受けて貰いますので覚悟なさって下さい」
魔将軍「階級の剥奪だろうが無期限幽閉だろうが処刑だろうが好きにするのだな、私は必要なことだからやったまでだ」
魔王「まだ言うか……!!」ギリッ
魔将軍「……フンッ、では処罰とやらが決まったら連絡を戴こうか。私はこれで失礼する」バッ
そう言って魔将軍は椅子から立ち上がると部屋を出ようとドアの方へと向かおうとした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:43:11.73 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「待て!!魔将軍!!」
魔将軍「……"叔父上"ではなく"魔将軍"……か」ボソッ
魔将軍「なんだ、まだ何か用があるのか?」
魔王「今度同じ真似をしてみろ、その時は私は容赦なくお前の首をはねる……!!」キッ
瞳の奥に怒りの炎を燃やし、魔王は叔父を睨みつけた。
魔将軍「…………フン、肝に銘じておこう」
それだけ言うと魔将軍は部屋を後にした。
魔王「叔父上……何故私に無断で軍を動かすようなことを…………!!」ギリッ
側近「魔将軍殿は予てから人間達を憎んでおられましたから……魔王様の指揮に強い不満を持っての行動でしょう」
魔王「だからと言って……!!」
冷静に推察を述べた側近に魔王は吠えた。
彼女自身この沸き上がる怒りを静めることなどできなかったのだ。
側近「……落ち着いて下さい、魔王様。こういう時にこそ冷静な判断をすべきです」
魔王「くっ…………そうだな、いきなり怒鳴ってすまなかった」
側近「私は気にしてなどおりませんよ」
魔王「………………」フゥ…
魔王は堅く目を閉じると長く細いため息を漏らした。眉間に刻まれた深い皺が彼女の苦悩を表している。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:44:08.72 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「……過ぎたことを考えるのはよそう。これからのことを考えねばならんな」
側近「えぇ。……今回の奇襲攻撃については魔将軍殿の独断専行によるものだと聖十字連合と民衆には伝えましょう。魔王様の統率力を疑われることになるでしょうがその方がいくらかはマシと言うものです」
魔王「うむ……叔父上には汚名を着てもらった上で重い罰を与えねばならん。階級剥奪の上で無期懲役と言ったところか……」
側近「…………」
側近はやはり魔王は優しい、いや、優しすぎると思った。
魔将軍のとった行動は極刑に値するほどの重罪である。
にもかかわらず命をとろうとはしないとは…………それは魔王の単なる優しさか、肉親に対する情の表れか……。
魔王「……どうかしたか?」
側近「いえ、なんでもございません」
魔王「青の国には詫び状を入れねばなるまい、加えてある程度を賠償金も払う必要も出てくるだろうな」
側近「そうですね……実際できることと言えばそれぐらいのことでしょうから」
魔王「今回の一件……叔父上だけに止まらず反人間派の過激な人間殲滅の思想はもはや歯止めの効かないところまできていると見える」
側近「……いかがなさるおつもりですか?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:45:56.05 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「……予定を繰り上げて停戦会議を開こうと思う」
側近「!!」
ついに……ついにこの時が来たのか。
側近はなんとか唾を飲み込み渇いた口を潤すと言った。
側近「ですが勇者さんは先日青の国に着いたばかりだと聞いております。まだ各国の王に対して十分な根回しができているとは……」
魔王「反人間派がまた何かしでかす前に我々魔族の総意として和平の表明をする必要がある。時は一刻の猶予も許されんほどに切迫しておるのだ」
魔王「魔族の総意として和平の意を唱えれば反人間派の動きに制限を与え処罰もしやすくなる」
側近「…………」
魔王の言ったことは正しかった。
このままでは反人間派という爆弾達の導火線にいつ火が点くかわからない。
まして一度爆発してしまえば連鎖的に爆発を繰り返し魔王と勇者の和平への夢を完全に断たれることにもなりかねない。
側近「……わかりました。それが魔王様のご意思とあらば」
魔王「うむ……急な決定ですまないな」
そう言って魔王は椅子から立ち上がった。
魔王「私は今から母上に和平の意志を伝えてくる。……きっと母上には私の口から直接伝えなければならない……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:48:26.47 ID:hr/uKPTi0<> 先代魔王の妻である黒の王妃――――自らの母に和平の意を告げるということは魔王も本気ということだからだ。
魔王の決意と覚悟を悟った彼女は静かに閉められたドアを見つめ、ただ廊下から響く足音を聞いていた。
部屋を出た魔王は早足で母の元へと向かった。
胸中は絶対に母を説得してみせる、という決意と母が人間との停戦など許すだろうか、という不安が半々といったところだ。
夫を大勇者に殺された王妃にあえて魔王は人間との和平を目指していることを話していなかった。
『全ての人間が悪ではない』と言っていたが本心では最愛の夫を人間に殺された母は人間に対し憎しみを抱いており、娘が和平を目指すことなど許すはずもないと考えていたからだ。
魔王の城の西の棟の最上階。
そこに王妃の私室がある。
晴れの日にはその部屋の窓から周囲を一望できるのだが今日の空は黒い雲に覆われ、お世辞にも良い眺めとは言えそうもない。
コンコンッ
魔王が扉をノックすると部屋の中から透き通った声が返ってきた。
「はい、入りなさい」
魔王はゆっくりと扉を開け、王妃の部屋へと入る。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:49:46.00 ID:hr/uKPTi0<> 部屋の中では窓際の椅子には一人の女性が腰掛け、本を読んでいるところだった。
艶のある黒髪も、大きな瞳も、彼女は魔王によく似ていた。
優しそうなその顔は気品に溢れ、若かりし頃は絶世の美女であったろうと誰もが思うだろう。
いや、実際齢四十になる今でも十分に美しい。
王妃「あら、魔王。どうしたのこんな時間に……お仕事の方はもういいのかしら?」
魔王の来訪に王妃は少し驚いたようだった。
日中魔王は国事をしているため私室で隠居生活を送る王妃と会うことはあまりない。
魔族の王として本格的に魔王が政治に携わるようになってからは朝夕の食事の時に顔を合わせる程度であり、昼下がりのこんな時間に会うことなど最近は皆無であった。
魔王「今日は母上にお話があって参りました」
黒の王妃「なにかしら、急に畏まって……まぁそっちのソファに座りなさいな、すぐに紅茶を入れますから……」
王妃は読んでいた本を閉じ、ポットを取ろうと立ち上がった。
魔王「いえ、お茶はいりません……それにこのままで結構です」
魔王の真剣な顔つきに事態の深刻さを察した王妃は紅茶を入れるのやめ、魔王を真っ直ぐに見詰めた。
黒の王妃「……何か大事な話のようね……」
魔王「はい。…………単刀直入に申し上げます」ザッ
魔王はその場に跪くと深々と頭を下げ魔王として、低い声で言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:53:01.78 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「私は……私は人間達との和平を目指しています」
魔王「……父上を殺した人間達を母上が憎んでいるだろうことは重々承知しています。ですが魔族と人の争うことのない平和な世界の実現のためにどうか……どうかお力を貸してはいただけないでしょうか?」
魔王は意志を込めた声で言った。
魔王になってからというもの多くの演説をこなしてきた魔王だがたった数行の今のセリフを言うほど緊張しや演説はおそらくはない。
言い終えた時には手のひらが汗ばみ、膝が少し震えていた。
目を閉じて母の言葉を待った。
下手をすれば勘当されてもおかしくはない。
怒りと失意に満ちた返事に備え魔王は心の中で身構えていた。
黒の王妃「そう…………」
だが魔王の耳に届いた母の声は儚げで悲しみに満ちていた。
魔王「……?」
魔王が顔を上げると王妃はその大きな瞳から一粒の涙を流して言った。
黒の王妃「あなたも……あの人と同じなのね…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:54:39.81 ID:hr/uKPTi0<> その笑みは今まで魔王が見たこともない様な悲しい笑顔だった。
魔王「あの人……父上と私が同じ!?」
魔王「ど、どういうことなのですか!?」
魔王は混乱していた。
父、先代魔王と自分が同じ……それは父も人間との和平を目指していたということなのだろうか?
だが父は魔王がまだ幼い頃、大勇者との死闘の末に命を失ったと聞いている。
一体…………。
黒の王妃「……良いでしょう。今こそ全てを話す時のようですね……少しここで待っていなさい」
王妃はそう言って奥の部屋へと入って行った。
外は雨が降りだしたようで、雨粒が窓を打つ音だけが部屋に響いていた。
遠くの空には稲光が見えた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:56:20.80 ID:hr/uKPTi0<> 黒の王妃「待たせてごめんなさいね」
奥の部屋から出てきた王妃の腕には一振りの剣が抱かれていた。
剣から放たれる並々ならぬ力に魔王はその剣の正体を瞬時に理解した。
魔王「……魔剣…………」
黒の王妃「えぇ、あの人……あなたのお父さんが死んだ後、ずっと私が預かっていたの」
黒の王妃「本来なら魔剣はその代の魔王が二十歳になった時に契約をするもの」
黒の王妃「……まだあなたは二十歳になってはいないけれど、黒の国王妃の名においてこの魔剣をあなたに授けます」
魔王「な、何故今なのですか?それに先ほど全てを話すと……」
黒の王妃「…………全てを話すために必要なことだからです」
黒の王妃「さぁ、魔剣を手に取り抜き放ちなさい。魔剣との契約が為されれば自ずと真実を知ることになります」スッ
魔王「…………」
王妃の言葉が何を意味するのか魔王はわからなかった。
だが真実とやらをを知るため、自分にできることは母の言う通りにすることだけだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 03:57:41.61 ID:hr/uKPTi0<> チャキッ
魔王は魔剣の柄に手をかけた。
スラァ…………
ゆっくり、ゆっくりと剣を鞘から抜いていく。
キィン!!
魔王「……ッ!?」
魔王が魔剣を抜き終えると同時に彼女の足元には黒い魔法陣が現れた。
魔王「な、なんだこれは!?」
カアアァァァ!!!!
赤々とした怪しげな光が彼女を包む。
『魔剣と契約を交わす者よ……』キイィン
魔王「……くっ!?」
脳に直接響く重々しい声。
『今こそ汝に全ての真実を……!!』キイィン
ドドドドドドドドドドドド!!!!
魔王「がっ…………ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:00:33.69 ID:hr/uKPTi0<> 魔王の脳には一瞬の内に膨大な情報が刻まれた。
それは先程の重々しい声による語りかけであり、
歴代の魔王達の思い出であり、
父らしき人物が若き大勇者にトドメを刺される瞬間の映像であった。
魔王「うっ……ぐ……あぁ……」ガクッ
突然の出来事に魔王は頭を抑えて膝をついて倒れ込んだ。
ガシャンッ!!
床に落とされた魔剣とその鞘が無機質な音を立てた。
魔王「い、今のは…………」ハァハァ
黒の王妃「魔剣に記録された今までの魔王達の記憶とこの戦争の真実……魔剣と契約することでその全てを知ることができると私はあの人から聞きました……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:02:03.20 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「…………そんな……これが……これが真実……!?」ワナワナ
黒の王妃「…………」
魔王「嘘だと……嘘だと言って下さい母上!!こんな……こんなことって……!!」
黒の王妃「……残念ながら全てが残酷な真実です」
魔王「う……くぅ……これが……これが全てだと言うのか……!!……なら私は……私は何を…………!!」ガンッガンッ
魔王は喚きながら力任せに床を叩いた。
彼女の顔は醜く歪み、瞳から溢れる出る涙が彼女の悲しみ、無力さ、虚無感……全てを物語っていた。
黒の王妃「真実を知ってしまったあなたの気持ちは痛いほど分かります……ですがあなたにはまだ知らなければならないことがあります」
魔王「ぐ……うぅ……ぐ…………」
黒の王妃「……私の口からあの人の……99代目魔王の死、その真実を語りましょう……」
いつの間にか雨風は強まり外は嵐となっていた。
まだ日は沈んでいない筈だが空を覆った分厚い雲が魔王の城一帯を夜の様に暗くしていた。
豪雨が屋根を打ち、暴風が窓を揺らした。
薄暗い王妃の部屋を轟く稲妻が不規則に照らし出す。
魔王「…………それが父上のやろうとしたことと……その結果なのですか……」
王妃から父の過去の全てを聞かされた魔王は虚ろな声で言った。
黒の王妃「えぇ……そうです」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:03:26.03 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「ふっ……ふ、ふはははははふはははははははははははは」
魔王は笑った。
大声を出して。
涙を流しながら。
ひたすら自嘲的に。
魔王「何が……何が魔族と人間の和平だ…………」グスッ
黒の王妃「魔王…………」
王妃が心配そうに声をかける。
黒の王妃「…………父と同じ未来を望み、父と同じく真実を知ったあなたはどのような道を選ぶのですか……?」
魔王「……私は……父上と同じ道を歩みます」
涙を拭って魔王が言った。
魔王「勇者と……この命を懸けて闘います」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:04:47.39 ID:hr/uKPTi0<> 黒の王妃「…………そう……ですか……」
決意に満ちた声でそう宣言した魔王とは対照的に王妃は切ない声で言った。
黒の王妃「やはりそれが魔王と勇者の宿命なのですね…………」
魔王「母上……真実を教えて下さりありがとうございました」
黒の王妃「…………礼など不要です。私はただ貴方を地獄へと突き落としただけなのですから……」
黒の王妃「どうして……あなたもあの人も魔王なのかしら……私は悩み苦しむ夫と娘に何もしてあげられない……」ギュッ
王妃は下唇を噛みスカートの裾を握りしめた。
伏せたその眼からは己の無力さに対する深い嘆きが見てとれた。
魔王「母上……そんなことありません」ギュッ
黒の王妃「魔王…………」
娘は母を優しく抱き締めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:06:08.09 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「父上がその身を賭して勇者と闘ったのは母上や愛する民を守るため……勿論私も父上と同じ様に大切な人達を守るために闘うつもりです」
魔王「父上も私もそうして大切なもののために闘うことができるのは母上やみんなとの大切な思い出があるからです……だからどうかそう気に病まないで下さい」
黒の王妃「…………駄目ね、私。娘に慰められてるようじゃ……」フフッ
瞳を潤ませて王妃は笑った。
魔王「……では私はこれで」スッ
部屋の扉を閉めようとした時、後ろ手に魔王は母の声を聞いた。
黒の王妃「……魔王。例えあなたがこの先どんな選択をするとしても私はあなたの味方よ。それだけは忘れないでね……」
魔王「…………ありがとう、母さん」
小さく呟き魔王は扉を閉めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:07:36.73 ID:hr/uKPTi0<> 母の私室を後にし、しばらく歩くと魔将軍が壁にもたれて立っていた。
魔王「叔父上……」
魔将軍「……魔剣を腰に差しているところを見るとどうやら全てを知ったようだな」
魔王「その言葉……叔父上も真実を知っておったのだな……」
魔将軍「…………そうだ。兄上亡き後、兄上からの手紙を読んでな。そこに全てが記されておった」
魔将軍「……真実を知った今、お前はどうするのだ?今後とも腑抜けた指揮を続けるつもりか?」
魔王「……どうするもこうするもあるまい……私達に闘う以外の選択肢は残されていないのだからな」
魔将軍「そうか……ついに全面戦争か」フッ
魔王は窓から外を眺めた。
魔王の城のすぐ北側に生える黒の神樹は強風に吹かれて枝葉を激しく揺らしている。
魔王「……勇者……」
無意識の内に彼女の口から小さく洩れその言葉は、雷鳴によってかき消され魔王自身の耳にすら届くことはなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/29(土) 04:08:53.79 ID:hr/uKPTi0<> 【Memories04】
思い出というものは必ずしも綺麗で鮮やかで輝かしいものではない。
脳裏によぎるだけで吐き気をもよおし、苛立ちを覚え、後悔に頭を抱える思い出も存在する。
『思い出は全部記憶しているが、記憶は全部は思い出せない』
私の好きな小説のある登場人物の言葉だ。
だからあの日の出来事は私の中に単なる記憶ではなく思い出として刻まれている。
それも忌々しい形で。
人によってはそんな思い出はすぐにでも忘れてしまいたいと思うかもしれない。
だが私は忘れたいなどとは思わない。
その思い出が今の私を造っている、そう思えるからだ。
だからふとした時にあの日のことを思い出しては己という存在を確かめてみたりする。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:14:13.39 ID:hr/uKPTi0<> ――――十七年前・黒の国・魔王の城
私「何のご用ですかな、兄上」
その日の午後、私は会議が終わり部屋でまどろんでいたところを侍女がドアをノックする音に起こされた。
魔王様がお呼びです、とのことだったので顔を洗ってから王の間へと向かった。
王の間の玉座には兄上が深く腰掛けて私を待っていた。
銀色の髪が窓からの日差しに輝いて見え、それと対照的に漆黒の王衣がより一層黒く見えた。
兄上が99代目魔王に即位してから一年近く経っていた。
歴代最強にして最高の魔王と称される兄上は元々王としての器があったようだ。
兄上「いや、大した用ではないのだが……」
私の問いに兄上は少し申し訳なさそうに答えた。
私「大した用でもないのに出陣前の将軍を呼び出されては困りますな」
兄上「む……それはすまない」
私「冗談ですよ、相変わらず冗談が通じませんな」ハハッ
兄上「そうか」フッ
私が茶化すと兄上はいつも静かに笑ったものだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:15:36.24 ID:hr/uKPTi0<> 私「……で、どうしたのですか?」
兄上「あぁ……お前と話がしたくてな」
私「話……ですか?」
突然話をしたい、と言われて私の心臓は一拍大きな音を立てた。
兄上が改まって私に話すような重大な話があるのだと思ったからだ。
私「…………」ゴクッ
兄上「……何を緊張しているのだ、お前が想像しているような重苦しい話などしないさ」
兄上「ここのところ家族としてお前と話す時間がなかったからな、ただとりとめもない話ができればと思っただけだ」
私「なんだ……そうでしたか。てっきり私は何かただならぬ事態でもあったのかと……」フゥ
兄上「言っただろう?大した用ではない、と」フッ
兄上の言葉を聞いて私は安堵の息を洩らした。
それとは逆に兄上の瞳が一瞬僅かに暗くなったことを今でも覚えている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:16:46.47 ID:hr/uKPTi0<> 私「しかしですな、兄上。急にとりとめもない話をしようと言っても困ってしまいます」
兄上「ハハッ、同感だ。何を話したら良いのかわからん」
私「う〜む…………そう言えば姫君はもうすっかり大きくなられましたな」
そこで私は兄上の娘――――私にとっては姪にあたる姫君の話を持ち出した。
兄上「あぁ、もうじき2歳になるな」
兄上が魔王に即位する約一年前、兄上と王妃様の間に珠の様に可愛らしい娘が生まれた。
髪の色も瞳の色も誰が見ても母親似だとわかるその娘だったが、鼻筋や口元などは兄上に似ているように思われた。
兄上「最近はやんちゃが過ぎるようになってきてな、壁に落書きしたりして私達や世話役の侍女の手を焼かせているよ」
そう言った兄上の顔はどこか嬉しそうだった。
私「ですがまんざら嫌そうでもございませんな」
兄上「……まぁな、我が子の成長を見ることができるというのは実に良いものだ。……時にお前はどうなのだ?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:18:24.41 ID:hr/uKPTi0<> 私「どう……と申されますと?」
兄上の問いに惚けてみたが無駄だった様だ。
兄上「何を惚けている、お前ももうそろそろ結婚しても良い年頃ではないか」
私「いつも申しておりましょう、生憎私は結婚して家庭を持つつもりはありませんよ。生涯独り身で黒の国の兵士として死するつもりですからな」
兄上「ふむ…………そうか、家庭を築くというのも良いものなのだが残念だな……」
私「…………まぁ、魔族と人間が戦争を止めるような平和な世界になればその時は私も考えましょう。よろしく頼みますよ、兄上」
兄上「…………」
私「兄上……?」
兄上は99代目魔王に即位する前から人間側との和平を目指していた。
魔王となる一年程前、兄上がまだ魔将軍の地位にあった時に私は初めてその話を聞かされて驚いたものだ。
魔将軍になりたての頃は魔族のために聖十字連合に勝つと言っていた兄上も前線で戦っていくうちに、戦場では魔族も人間も懸け代えのない多くの命が失われていくことを痛感し、和平の道を目指すことを決めたと言う。
そのことを知るのは私と王妃様だけであったが、いつかは国民にも和平の意志を述べ、聖十字連合にも停戦の会議を申し入れるつもりであった。
まだ姫君が王妃様の胎内にいるうちから『娘には争いのない平和な世界を生きて欲しい……それが親としての私の願いだ』とよく言っていた。
しかし魔王に即位してからと言うもの兄上はあまり和平についての話題を出さなくなった。
むしろ意図して避けているようにすら思えた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:20:15.61 ID:hr/uKPTi0<> 兄上「……いや、なんでもない。…………そうだな、魔族と人が争うことのない世界……やってくると良いな」
やや間を置いてそう言った兄上の顔は儚げで瞳は鈍く色を失っていた。
私「兄上……一体どうしたというのですか?」
私「この際言わせていただきますが……兄上は魔王の座に就いてからというもの和平に対し消極的になったように思われます」
私「以前は戦争の無い平和な世界を実現させてみせる、と瞳に確固たる意志を込めて語ってくれたではございませんか。それがどうして…………」
兄上「…………」
兄上は私の言葉を聞きしばらくの間ただ黙っていた。
目を閉じ頬杖をつき、何かを考えているようで言葉を発することはなかった。
重い沈黙が広々とした王の間を埋め尽くしていった。
沈黙に耐えきれず私が何か言おうとしたところで兄上はやっと口を開いた。
兄上「…………魔将軍よ、平和とはなんだろうな?」
私「…………はい?」
兄上「私は平和な世界を目指してきた。戦争によって無慈悲に命が失われることのない……そんな世界を夢見てな」
兄上「過去にもそんな平和な世界を目指した魔王もいただろう…………だが今も尚魔族と人間は悲しき争いを続けている」
私「…………何が言いたいのですか?」
兄上「魔族と人間は争う宿命にある、ということだ。そして魔族と人間が争い合うことで均衡の保たれた今の世界も見方によっては平和な世界なのかも知れない…………とな」
そう言って兄上は窓の外の黒の神樹を眺めた。
昼下がりの太陽が照らす大樹はそれを見つめる兄上の顔と相まってどこか悲しげな気がした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:22:03.20 ID:hr/uKPTi0<> 私「…………少なくとも私には今のこの世界が平和だとは思えません」
私「兄上も何度も見たでしょう!!戦場で命を落とす同胞、戦火で家や家族を失った国民を!!」
私「兄上の目指していた平和な世界とはこんな世界のことなのですか!?」
兄上「魔将軍…………」
私「将軍として戦地を駆け、仲間を、国民を助けるべく雄々しく戦っていた兄上はどこへ行ってしまわれたのですか!?」
私「魔王となり前線に立つ機会は減ったとは言え……戦う場所は違えど黒の国のために戦っているのは今も変わりない筈でしょう!?」
私「今の兄上からは昔のような覇気が感じられません……」ギリッ
兄上「………………そうだな、すまない」
兄上「私としたことが少し疲れていた様だ」フゥ…
兄上はため息をつくと目を固く閉じ、目頭を押さえた。
私「兄上……何かあったのなら私に相談して下さい。私ではお力になれないかもしれませんが……それでも私は兄上のために力を尽くします」
兄上「………………わかった」
兄上は私の目を真っ直ぐ見て静かに答えた。
兄上「今はまだ話せないが近い内にお前には必ず全てを話そう」
私「…………わかりました」
兄上「……時間をとらせてすまなかったな。準備が整い次第戦地へと向かってくれ」
兄上「此度の防衛戦には大規模な戦力を投入している……この意味は分かるな?」
私「……えぇ、今回の戦で赤の国に敗れれば我が国の領土に多大な被害が及びますから」
兄上「あぁ……和平を目指すとは言ってもすぐに戦いを止めるわけにはいかない……今回の戦でも活躍を期待しておるぞ、魔将軍よ」
私「…………ハッ」
深々と一礼し私は王の間を後にした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:23:21.55 ID:hr/uKPTi0<> その後、戦へと向かう兵士を鼓舞するために城の一角、広々とした更地に兵士達を集め兄上による演説が行われた。
舞台の上の兄上はいつもの様に凛々しく勇ましい99代目魔王そのものであった。
だが私にはそんな兄上の姿は何故か虚しいものに見えて仕方がなかった。
魔王となってから兄上は演説の最後には必ずこう言った。
兄上「戦場で最も大切なことは敵を殲滅することでも任務を果たすことでもない、生き抜くことだ!!」
兄上「再び諸君達にこうして会えることを祈っている」
士気の高まった兵士達の雄叫びによって演説は幕を閉じた。
演説の後、上位魔法使い達の転移魔法によって次々に兵士達が戦場へと向かっていった。
最後に残った私は兄上と王妃様、まだ幼かった姫君に会釈し赤月の荒野へと跳んだ。
去り際に兄上は「元気でな」と微笑みながら私の肩を軽く叩いて脇を通り過ぎて行った。
意味が分からず私は振り向いた。
兄上のその時の後ろ姿は一生忘れることはない。
私が見た生きた99代目魔王の最後の姿だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:24:22.30 ID:hr/uKPTi0<> 赤月の荒野とはその名の示す通り特定の時期になると月が赤く見えるという黒の国東の荒野だ。
赤の国の西側と国境をなす激戦区がその時の戦場であった。
私は本陣の砦で翌日の戦いに備えて休息をとる予定だったのだが寝つくことが出来ずに砦の司令官室の椅子に深くもたれかかっていた。
出陣の際の兄上の言葉がずっと気にかかってどうにも眠れなかったのだ。
それだけではない。
昼間のやり取りも気になっていた。
今日の兄上は何から何まで兄上らしくなかった。
魔将軍として白の国の勇者候補と激戦を繰り広げていたあの頃の兄上は一体どこへ行ってしまったのだろうか?
…………いや、その頃の兄上が"兄上らしい"とするなら兄上らしさが失われたのは今日ではない、ずっと前からだ。
そう、99代目の魔王となり魔剣と契約を交わしたあの時から…………。
そんなことを悶々と考えながら私は眠れぬ夜を過ごした。
ふと窓の外を上げると夜空には月は無く、瞬く星達だけが荒野の空に浮かんでいた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:25:58.50 ID:hr/uKPTi0<> 深い深い意識の底。
突然けたたましい音が私の耳に届いた。
音に気づいて私はハッと意識を取り戻した。
どうやらいつの間にか寝入ってしまっていたらしい。
窓の外の東の空は既に白んでいた。
「魔将軍様!!魔将軍様!!」ダンッダンッ!!
私を眠りから覚ましたのは当時の黒騎士が私を呼ぶ声と司令官室のドアを叩く音だった様だ。
昨日の侍女と言い私の眠りはノックの音に妨げられるものだな、と思いながらドアを開けた。
私「朝からどうしたというのだ?赤の国との戦は昼からだろう、何か問題でもあったのか?」
黒騎士「それが……!!ま、魔王様が…………!!」
私「!?」
私「兄上がどうかしたのか!?」
黒騎士「ま、魔王様が……99代目勇者に討たれ御隠れになられたと…………」
私「…………なんだと?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:27:47.41 ID:hr/uKPTi0<> 私は黒騎士の言葉の意味をすぐに理解することができなかった。
彼の声は耳から入って脳へと達していたのだが頭が理解できずにいたのだ。
恐らくその時の私は数瞬固まっていただろう。
我に返った私は額に汗を滲ませ息を切らせた黒騎士の胸ぐらを掴んで怒鳴るように問い詰めた。
私「どういうことだ!?兄上が……兄上が討たれただと……!?」ガシッ
黒騎士「ハッ……報告によりますと魔王城にて勇者と死闘を繰り広げた末、敗れたと……」
私「馬鹿な!!歴代最強の魔王と謳われたあの兄上が敗けるわけがない……!!お前も兄上の鬼神の如き強さはよく知っているだろう!?」
黒騎士「はい……しかし相手もまた歴代最強と言われる99代目勇者……その実力は魔王様とほぼ互角です……」
黒騎士「両者の凄まじい闘いにより魔王城は半壊、勇者も相当の深手を負ったと聞きます」
私「何故勇者が城に攻め入って来た時点で報告がなかった!?城の者達は何をやっていたのだ!?」ギュッ
黒騎士「っ……か、風鳴の大河、薄雲の岩山、そしてここ赤月の荒野……3ヶ所の戦に大規模な兵力を投入していたため魔王城には最小限の兵士しかおりませんでしたので……」
黒騎士「勇者一行の強襲によって連絡を取る間さえ無く兵士達は無力化され、ゆ、勇者の仲間の大賢者によって転移魔法で城から離れた丘陵に運ばれ睡眠魔法で眠らされていたとのこと……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:29:57.97 ID:hr/uKPTi0<> 黒騎士「勇者の侵入も、く、黒鉄の街まで逃げてきた召し使いからもたらされたものでして……」
私「戦に兵力を裂き魔王城が手薄になったところを狙うとは人間共め……なんと卑怯な!!」グググ…!!
黒騎士「…………ま、魔将軍様……苦し……!!」バタバタ
怒りに我を忘れて手に力を込めていた私は黒騎士の首を絞める形になっていた。
私「くっ……私は、私は信じられぬ!!あの兄上が勇者などに討たれたなど……!!」ドンッ
そう言って突き飛ばすように黒騎士を解放した。
力任せに上半身を押された黒騎士はよろめきながら呼吸を整えた。
黒騎士「がはっ!!……はぁ……はぁ……し、しかし……」ゼェゼェ
私「このことを知る者は!?」
黒騎士「しょ、将軍職の以上の者と現場の兵士と臣下達限られるかと。何分事が事ですので……」
私「ではまだ他の兵士達には伏せておけ!!誤報だとしても兄上が敗れたと知れば士気に多大な影響が出る」
黒騎士「!? まさかこのまま各国との戦をするおつもりですか!?」
私「当たり前だ!!魔王城への強襲が人間側の策略によるものだとしたら我々の動揺を誘い戦を優位に運ぶことが狙いなのは明白だ!!」
黒騎士「ハ、ハッ!!」
私「ではお前は今回の事件の口止めをしろ。それと転移魔法で各戦場の将軍をここに集めろ、至急だ!!」
黒騎士「了解です!!ま、魔将軍様は……?」
私「私は魔王城へ向かい事実の確認を行う」
そう言って私は転移魔法の術式を組んだ。
黒騎士「お待ち下さい!!魔……!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:31:02.98 ID:hr/uKPTi0<> カアアァァァ!!
黒騎士の言葉を最後まで聞かずに私は転移魔法を発動させた。
我が家とも言える魔王城への転移だ。
そう時間がかかるものではない。
しかしその時の私には転移空間での数十秒が途方もなく長く感じた。
不安定な精神状態に起因する魔力の乱れか、それともえも言われぬ焦りと不安によるものか、とにかく私の生涯において最も長く苦痛に感じた跳躍時間であった。
転移空間の中で私の脳内は稚児が玩具を散らかした部屋の様に無秩序に思考が行き交っていた。
あらゆることを考えてはいてもあらゆることが言葉にならない、そんな思考の奔流。
長い長い転移空間を抜け私はやっとのことで魔王城へとたどり着いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:32:26.86 ID:hr/uKPTi0<> 私「……なんだこれは……」
城を見て私は思わず呟いた。
そこには昨日私が発った城とはな似ても似つかぬ変わり果てた魔王城の光景が広がっていたからだ。
黒騎士の報告の通り、魔王城は『半壊』そのものだった。
城の東側半分は崩れ去り瓦礫の山となり、外壁が何ヵ所も剥がれところどころ壁に穴が空き階層が崩れている西側は辛うじて城としての体裁を保っているにすぎなかった。
戦神とすら語り継がれる99代目魔王。
その兄上が魔将軍だった頃から幾度となく激戦を繰り広げた相手が99代目の勇者だ。
実際私も何度か奴と剣を交えたことがあり、その強さが兄上と同等のものであるということは身をもって理解している。
私の目の前に広がる凄惨たる光景は両者が本気でぶつかり合ったことを何よりもはっきりと物語っていた。
私は城の……いや、城跡の東側へと駆けた。
宿命の死闘の地へと。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:33:15.16 ID:hr/uKPTi0<> 瓦礫だらけのその場所ではあったが中心地は人智を超えた闘いの影響によって更地と化していた。
その地にはぽつんと一人の女性が佇んでいた。
地面に座り込んだ彼女は、その黒く艶やかな髪により遠くからでも誰だかハッキリと分かった。
王妃様だ。
そして…………王妃様の前に横たわる人影が見えた。
鉛のようになった足を動かし、一歩一歩王妃様へと近づいていった。
鼓動の音がやけに大きく、ゆっくり聞こえた。
臓器全てを吐き出してしまいそうな吐き気に襲われた。
目の焦点がどこにもあわず、しかし目の前の光景は鮮明に脳内に流れ込んでいた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:34:12.23 ID:hr/uKPTi0<> 私「…………あ、兄上……」
王妃様の膝に頭を乗せて横たわっていたのは変わり果てた兄上であった。
美しい銀の髪は土と埃に薄汚く汚れ、身体中切り傷と打撲の後が見えた。
愛用の真紅の鎧は見るも無惨なものとなっていた。
勇者の最後の一撃は兄上の心臓を貫いたのだろう。
鎧の左胸は、そこに刻まれた黒の国の紋章ごと砕かれ、胸から溢れ出た血が辺りに大きな血だまりを作り出していた。
王妃様「魔将軍さん…………」
二人の前で呆然と立ち尽くす私に王妃様が声をかけてきた。
大きなその両の瞳は泣きはらしたことで赤く染まり、頬には涙の後が浮かんでいた。
王妃様「もうお聞きになったでしょう?……この人は……99代目魔王は勇者との死闘の末、命を落としました……」
王妃様「私達黒の国の民を守るために死んだのです。……本望でしょう……」
王妃様はそう言って兄上髪を優しく撫でた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:35:39.97 ID:hr/uKPTi0<> 私「…………」ドシャッ
その場に私は崩れ落ちた。
信じたくなかった現実、それが目の前に突きつけられ私は立っていることすら出来なかったのだ。
私「…………姫君は……?」
まとまらない思考の中で私はなんとか王妃様に姫君の安否を問うた。
王妃様「無事です。負傷した者もいますが私達を含め城にいたものは皆生きております」
私「そう……ですか……」
それきり私は脱け殻の様にそこにへたり込み、ただ兄上の顔を眺めていた。
昼には戦があるのだからその準備に取りかからねばならなかったのだがその時の私の精神状態では戦のことを考えるなど到底不可能であった。
ぼんやりと視界に映る兄上の亡骸。
私の頭の中では走馬灯の様に兄上との記憶が浮かんでは消えてを繰り返していた。
一体どれ程の時間が経ったのだろうか?
私にとっては丸一日にすら感じられた一時であったがおそらく実際には数分程であっただろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:37:17.82 ID:hr/uKPTi0<> 王妃様が口を開いた。
王妃様「魔将軍さん……これを……」スッ
私「…………」
力ない眼で見やると王妃様の手には一通の封筒が握られていた。
私「…………これは?」
王妃様「あの人から、自分にもしものことがあったら弟に渡して欲しい、と預かったものです」
私「兄上からの……!?」
王妃様「えぇ……おそらくその手紙には全ての真実が記されていることでしょう」
私「……真……実?」
王妃様「私がこの場に来てからここに兵士や臣下を近づかせなかったのは貴方にこれを渡すためでした」
私「…………」
私は黙って王妃様から手紙を受け取った。
黒の国の紋章による蝋での封は魔王の書簡であることを明示していた。
ゆっくりと震える手で封を開けた。
取り出した羊皮紙には漆黒のインクで見慣れた文字が几帳面に並んでいた。
紛うことなき兄上の字であった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:39:13.88 ID:hr/uKPTi0<> 【親愛なる我が弟へ】
【お前がこの手紙を読んでいるということは私は勇者に敗れ死んでしまったということなのだろうな。いやはや、『歴代最強の魔王』などと持て囃されているが情けないものだ】
【勇者との決闘において私は全身全霊、私の持てる全てを懸けて闘うだろう。それで負けたのならば武人としては何も悔いることはない。むしろ全力で闘えることが喜ばしいとすら言えよう】
【だが死して心残りがあるとすれば残された民衆と……妻と娘、お前という家族のことだ。父上と母上を早くに亡くし兄弟二人で生きてきたお前には迷惑をかけっぱなしだったが……最後の我が儘ということで妻と娘のことをよろしく頼む】
【……さて、そろそろ本題に入るとしよう。この戦争の真実についてだ。長きに亘る魔族と人間の戦、これには裏がある。私自身その事実を知ったのは約1年前……魔剣と契約を交わした時からだ】
【今から私がここに記すことは残酷な真実だ。今まで実の弟であるお前にすらこのことを伏せてきた。話し出せなくてすまなかったな】
【何から話そうか……。……そうだな、あれはおおよそ4年前、私がまだ魔将軍として戦場を駆けていた頃だ…………】
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:41:18.78 ID:hr/uKPTi0<> そこには運命という巨大な悲劇の渦に飲み込まれた兄上の話とこの世界の真実が記されていた。
あまりの内容に私は我が眼を疑い、三度その手紙を読み直した程だ。
私「これが……これが真実だと言うのか!?」グシャッ
怒りに震え私は手にしていた手紙を握り潰した。
私「これでやっと分かった……魔王となってから兄上が聖十字連合との和平に消極的となった訳が……!!」
私「それもその筈だ!!これは……この戦争は人間のエゴがもたらしたものではないか!!!!」
憤慨し理性の飛びかけた私へと王妃様が声をかけた。
王妃様「えぇ……そう言えなくもないでしょうね……」
私「……王妃様も知っていらしたのですね!?」ギリッ
王妃様「はい……あの人から聞かされていました」
私「何故……何故兄上は私にも話して下さらなかったのですか!?」
王妃様「話してどうなると言うのですか?」
私「事情を話してくれさえいれば私でも兄上のお力になれたかも知れないのに!!」
王妃様「あなたに事実を伏せてきたのはあなたを自分と同じように悩ませたくなかったからでしょう……この人の気持ちをどうか分かってあげて下さい……」
私「ぐっ……!!」
王妃様「私達はただこの世界の中で争い合うことしかできないのです……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 04:44:52.24 ID:hr/uKPTi0<> 私「くそっ…………くそおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
私は吠えた。
それで何かが変わる訳ではないと分かってはいても、やり場のないその思いを処理することが出来なかった。
私「変えてみせる……変えてみせるぞ!!この世界を!!この私の手で……!!!!」キッ
その後黒の国は三つの戦場での戦に無事勝利することに成功した。
戦の後に発表された99代目魔王死去の知らせは全国民に悲しみの涙を流させ国を挙げての盛大な弔いが行われた。
私は次の魔王になるように周囲から薦められたがそれを断った。
兄上の死からほどなくして姫君に魔王の素質があることが判明した。
流石は兄上の子、彼女の持つ黒の刻印は当時の魔王候補達の誰よりも黒く鮮明なものであった。
斯くして姫君は五歳になる頃には正式に100代目魔王になることが決まった。
軍部も民衆も『99代目魔王の娘』というサラブレッドである新たな魔王を支持した。
もっとも、王妃様は最後まで反対されていたが。
まだ幼い魔王に国事は任せられないので彼女がある程度大きくなるまでは臣下達が魔王の国事を手伝うこととなった。
そして私はあの日以来十七年間、魔将軍として前線に立つと共に軍部を率いている。
兄上の為し得なかった"平和な世界"を目指して。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/29(土) 05:57:30.52 ID:hr/uKPTi0<> 【Episode05】
――――緑の国・名も無き湖のほとり
勇者「…………」
僧侶「…………」
魔法使い「…………」
武闘家「…………」
勇者と魔王の秘密の湖。
勇者達はそこに魔王が来るのを待ち合わせの一時間前から待っていた。
昨日の青の国への奇襲攻撃、その真相を一刻でも早く魔王自身の口から聞きたい。
その思いにより居ても立ってもいられなくなった彼らは時間をもてあますだけだと分かってはいても待ち合わせの湖畔でこうして魔王を待ち続けていたのだ。
四人はあえて何も話さなかった。
何を話しても気持ちが紛れることはないと分かりきっていたからだ。
ただでさえ静かな湖畔は勇者達の沈黙によってより一層の静寂を作り出していた。
美しい小鳥の囀ずりすらこの場では雑音にすらなりかねない、痛々しいまでの静寂。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 05:59:34.05 ID:hr/uKPTi0<> 僧侶(……)
僧侶(『「イツカマタコノ神樹ノ前デ会オウ!!」「エェ!!……私、私ズットズット待ッテルカラ……!!」吹キ荒レル強風ニ負ケヌ様、二人ハ叫ンダ……』)
僧侶(…………)
僧侶(『「イツカマタコノ神樹ノ前デ会オウ!!」「エェ!!……私、私ズット……』)
僧侶(………………)
僧侶(『「イツカマタコノ……』)
僧侶(…………ダメ、全然頭に入ってこない)ハァ…
ベンチに腰かけていた僧侶はここに来てから27回目のため息を漏らすと、開いていた本を静かに閉じた。
僧侶(さっきから何度も同じところを読んでるし……何より文章が頭の中に入ってこない)
僧侶(魔王ちゃん……一体何があったんだろう……良くないことがあったのは確かなんだろうけど何があったのか私にはさっぱり分からないよ……)ハァ…
僧侶は28回目のため息をつき右側に座る魔法使いをちらりと見た。
彼女は何をするでもなくただ遠くの景色を眺めている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:00:40.50 ID:hr/uKPTi0<> 魔法使い(政治とか難しいことはよくわかんないけど……奇襲攻撃がよくないことだっていうのはあたしでも分かる)
魔法使い(人間と魔族を仲直りさせようとしてたのに奇襲攻撃なんてしたらまた喧嘩になっちゃうじゃん)
魔法使い(そんな命令をあの魔王がするワケないと思うけど……でも軍事の最終決定権は魔王が持ってるって聞いてるし……)
魔法使い(もー……わかんないことだらけだよ、早く魔王来ないかなぁ……)
無意味に足をばたつかせて魔法使いは背もたれに体を預けた。
何となく空を見上げる。
空は重たい雲により曇っていて青空は見えなかった。
彼女は帽子の中の耳の付け根が痒かったので「こりゃ一雨降るかな」と思った。
そんな彼女達の後ろ、少し離れたところで武闘家が難しい顔で腕組みをしながら立っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:03:36.51 ID:hr/uKPTi0<> 一本の木にもたれかかる体勢で昨日の一件を改めて考えてみた。
武闘家(考えられる中で一番可能性が高いのは……黒の国内部でのクーデター、と言ったところでしょうか)
武闘家(魔王さんの指揮に反感を抱く魔族達の独断による奇襲攻撃……和平を目指す魔王さんが態と人間側との関係を壊すとは考えにくい以上これが一番納得のいく答えですね)
武闘家(……ではもしも魔王さんが人間と魔族の停戦を望んでいなかったとしたら?)
武闘家(最初からそうではなかったしろ、何らかの理由でここ最近心変わりを起こしたのだとしたら?)
武闘家(もしそうだとしたらそれは最悪のケース。魔王さんが人間側との決戦を望んでいるとなれば必然的に僕達も魔王さんと闘うことになる)
武闘家(そうなったら僕はともかく勇者達は本気で魔王さんと闘うなんてできるハズがない……勿論僕も戦いたくはないですが)
武闘家(…………ま、推論はあくまで推論の域を出ませんね、彼女の口から真実が語られるのを待つとしますか……)
湖のほとりにしゃがんで拾った石を湖へと投げ込む勇者を見てから武闘家は静かに眼を閉じた。
そして勇者は……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:04:42.41 ID:hr/uKPTi0<> 勇者(…………)
何も考えていなかった。
……いや、"何も考えていなかった"と言うのは語弊があろう。
正確には"何も考えようとしていなかった"が正しい。
昨晩、一晩中今回の騒動について考えていた。
だが答えは出そうになかった。
ただ自分が自信を持って言えるのはあの魔王がこんなこと望んでするハズがないということだけだった。
だから難しく考えるのを止めて時間が来るのを待っていた。
勇者(…………)ポイッ
トプン……
投げた小石が湖に波紋を作った。
この一石が先の戦だとしたらこんな風に影響が世界全体に広がっていくのだろうか?
柄にもなくを情緒的にそんなことを考えていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:05:38.36 ID:hr/uKPTi0<> 魔法使い「魔王……来るかな……」
不意に魔法使いが呟いた。
武闘家「……たしかに、来ないということも十分考えられますね」
僧侶「え…………もし魔王ちゃんが来なかったら私達どうしたら……」
勇者「…………いや、アイツは来るよ」
勇者は何故か自信たっぷりにそう言った。
武闘家「魔王さんを信じたい気持ちは分かりますが根拠がありませんよ」
勇者「根拠ならある」スッ
勇者は懐から懐中時計を取り出して指差した。
勇者「アイツは俺と違って真面目だからな、待ち合わせをすっぽかすような事はしないし1秒だって遅刻したことはない」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:06:21.97 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家が「それは理論的な根拠とは言えませんよ」と言おうとしたところで勇者が言った。
勇者「5」
その眼は時計の針をじっと見つめている。
誰もがカウントダウンだと理解した。
勇者「4」
魔法使い「…………」
秒針が微かな音を立てて時を刻む。
勇者「3」
武闘家「…………」
自然と勇者達にも緊張感が走る。
勇者「2」
僧侶「…………」ゴクッ
勇者の声が若干強張る。
勇者「1」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:07:18.87 ID:hr/uKPTi0<> カアアァァァ……!!
その時青の魔法陣が地面に浮かび上がった。
勇者は武闘家に「な?」と目配せする。
武闘家は何も言わずに頷き返した。
転移魔法の青白い光の中から一人の女性が姿を現した。
長く伸びた黒髪に漆黒のローブ。
その女性は彼らのよく知る100代目魔王その人だった。
僧侶「魔王ちゃんっ!」
勇者(…………?) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:11:36.14 ID:hr/uKPTi0<> 勇者はそこに立つ魔王に違和感を覚えた。
姿形は魔王そのものなのに何故か魔王ではない気がした。
魔法使い「魔王っ!」
ベンチから勢い良く立ち上がり魔法使いは魔王へと駆けて行く。
魔法使い「一体何があったの?みんな心配してたんだから!!」
魔法使いの問いに魔王は静かに微笑み、抑揚の無い殺伐とした声で返した。
魔王「……そうか、それはすまなかったな」
まず勇者が魔王の違和感の正体に気付いた。
厳かな物言いに『魔王様口調』。
あれは魔族の王としての魔王の姿だ。
俺達の友人としての魔王の姿でじゃない。
それとほぼ同時に武闘家が魔王の異変を感じとる。
圧し殺した冷たい悪意ある気配。
戦場で何度も感じたことがある。
これは…………。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:12:01.94 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家が魔王に感じた気配の答えに行き着こうとした時、僧侶と魔法使いも脳内に疑問符が浮かんだところであった。
僧侶(…………?)
魔法使い「魔王……?」
武闘家「いけない!!離れて、魔法使いさん!!!!」
魔法使い「……へ?」
魔王「…………」ビュッ
ドゴッ!!!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:12:49.70 ID:hr/uKPTi0<> 魔王の左拳が無防備な魔法使いの鳩尾へと放たれた。
魔法使い「ぁ……う……」
魔法使いは自身の身に何が起こったのか分からなかった。
腹部への激痛。
それに伴う呼吸困難。
そして魔王の拳の感触。
消えかかる意識の中でどうにか状況を理解する。
魔法使い「魔王……ど、どう……して……?」ドサッ
瞳を潤ませそう言うと魔法使いは力無くその場に倒れた。
魔王「…………」
自らの足下に無惨に横たわる魔法使いを暗い瞳で一瞥する魔王。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:20:29.32 ID:hr/uKPTi0<> 僧侶「え……え?魔王ちゃん?魔法使いちゃん……?」
突然の出来事に僧侶は混乱していた。
目の前で友人がいきなりもう一人の友人を殴ったのだ。
冷静でいろと言う方が難しい。
魔王は魔法使いへと向けていた視線をゆっくりと僧侶へと移す。
魔王「…………」ギンッ
僧侶「!?」ビクッ
魔王の鋭い眼光に僧侶は後退る。
魔王「…………」ドンッ!!
魔王は地を蹴り僧侶との間合いを一気に詰めた。
ビュッ!!
指を伸ばした右手を振りかぶり、僧侶目がけて鋭い貫手を繰り出す。
僧侶「…………!!」ギュッ
魔王の速攻に防御姿勢をとることすらできなかった僧侶は思わず眼を瞑った。
ガッ!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:21:36.94 ID:hr/uKPTi0<> 閉ざされた視界において僧侶は自身を襲うであろう強烈な痛みに備えていた。
だが数瞬経っても何も起こらない。
恐る恐る眼を開ける。
武闘家「…………」ググッ
開けた視界に飛び込んで来た光景は魔王の貫手を受け止める武闘家の姿であった。
僧侶「ぶ、武闘家君!!」
魔王「ほぅ……やはり貴様が最初に動いたか」
魔王は表情一つ変えずに重々しい声で言った。
魔王「不意打ちをかければ2人ぐらいなら労することなく落とせると踏んでいたのだが……貴様の反応は私の想像以上だ」
武闘家「一体どういうつもりなんですか!?魔王さん!!」ギュッ
魔王の右手を掴んでいた彼の右手に力がこもる。
魔王「どうもこうもない。貴様が考えている通りだ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:22:24.75 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「私は人間達と闘うことに決めた。貴様達を襲うのはその宣戦布告の様なものだ」
僧侶「!?」
武闘家「…………それは何故かと聞いているんです!!」
僧侶は武闘家が怒鳴る様を久しぶりに見た。
彼がこんな風に声を荒げるのは彼女の記憶の中では二回目、初めて勇者達とパーティを組んだ時に遭難者を助けに吹雪の中へ飛び出そうとした勇者を止めようとした時以来だ。
武闘家は決して怒りによって感情的になる人間ではないと僧侶は理解している。
だからこの叫びも魔王への怒りではなく魔王を心配するが故のものだと分かった。
だが魔王は冷たく言い放つ。
魔王「何故……だと?」
魔王「貴様ら人間は私の父を殺した。多くの魔族達もだ」
魔王「99代目魔王の娘にして100代目の魔王たる私が人間達と闘う理由などそれで十分であろう」
武闘家「ふざけないで下さい!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:23:24.59 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「だったら今までどうし……ッ!?」サッ
ビュッ!!
魔王の下段蹴りを咄嗟に距離をとって躱す武闘家。
魔王の蹴りは空を切った。
武闘家「……もう僕達には何も話すことはないってことですか」
魔王「そうとってもらって構わん」
武闘家「貴女が何を考えているのかは分かりませんが僕達もただ黙ってやられるわけにはいきません」スッ…
武闘家が半身で構える。
それと同時に彼を中心に三つの魔法陣が地に浮かび黄色の光で彼を包む。
魔王「魔拳闘士……か。厄介な力だ」
魔王「私も少しだけ本気でやらせてもらうとするか」ガッ
バサッ
魔王はそう言って漆黒のローブを脱ぎ捨てた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:24:13.66 ID:hr/uKPTi0<> 真紅の鎧に身を包んだ魔王が姿を現す。
血の様に鮮やかな、それでいてどこか不気味な、吸い込まれそうな魅力すら感じさせるその真紅の鎧は魔王が戦場に立つ時に身につけるものである。
そして腰にはただならぬ気配を放つ剣が差されている。
武闘家「!!」
武闘家はその剣の正体を直感的に理解した。
武闘家「魔剣……!?」
魔王「その通りだ。魔剣と契約した私はもはやそこらの魔族など比べ物にならぬ力を手にした」
魔王「貴様がいくら人間の中でも指折りの実力者と言えど果たしてどれほどもつだろうな……?」
武闘家「くっ…………」
魔王「さぁ、"魔剣"と"魔拳"の闘いと行こうではないか!!」ドンッ!!
武闘家「その冗談……全く笑えませんよ!!」ドンッ!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:24:50.35 ID:hr/uKPTi0<> 両者は急速接近し互いの間合いへと入った。
先手は武闘家。
上段の廻し蹴りを魔王の側頭部へ向けて放つ。
魔王は身を屈め難なくそれをかわす。
だが武闘家は上段廻し蹴りを放つ前からその動きを読んでいる。
右足の蹴りの勢いをそのままに体を回転させると左足による踵からの胴廻し蹴りへと繋げた。
先程の上段蹴りを屈んで避けた魔王の重心は通常よりも下がっていたために、その状態から瞬時に回避行動に移ることは不可能。
ガッ!!
左手に付けた籠手によって武闘家の二撃目を受けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:25:41.70 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「ハァッ!!」
カアァッ!!
魔王「!!」
武闘家の左足、魔王の籠手と接した部分に赤の魔法陣が展開された。
武闘家『重撃魔法陣・れ……』
魔王『三連氷撃魔法陣・冷』!!
武闘家の魔力の流れをいち早く感じ取った魔王は、武闘家が重撃魔法を発動させるより速く、空いている右手で攻撃と防御を兼ねるべく氷撃魔法を放った。
カアァッ!!
武闘家「くっ!!」サッ
ヒュンヒュンヒュンッ!!
自身に向けて放たれた三本の氷の刃を武闘家は身を反らしてなんとか避けた。
回避に意識を向けたため、魔法発動のために行っていた魔力の集中はそこで一旦途切れる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:26:25.84 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家が氷の刃を避け切り次の行動のために体勢を整えようとした時、左半身への殺気を感じた。
無意識の内に左手を上げ頭部を防御する構えをとった直後、彼の左手に重たい衝撃が伝わり体ごと吹き飛ばされた。
武闘家「……ッ!!」バッ
クルクルッスタッ
攻撃を受け吹き飛ばされながらも驚異的なバランス感覚によりなんとか足から地面へと着地することに成功。
左手の痛みに耐えながら魔王を見やると、彼女は右足を上げ、片足で立っている状態だった。
その状況から先程の衝撃は氷撃魔法で隙を作ったところへ放たれた上段の蹴りによるものだったのだと理解した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:27:49.94 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「ほぅ……これは驚いた」
ゆっくりとした口調で魔王が言う。
魔王「本来魔法陣は術者を中心とする地面、術者の手先、或いはその延長である武器の先へ展開するもの。それを足先から展開するとは……器用なことをするものだ」
魔王「それに私の蹴りを防いだその反応速度。どうやら貴様は頭の切れだけでなく実力も私の予想の上を行くようだな」
武闘家「お褒めに与り光栄ですよ。…………でも貴女の実力も僕の想像の遥か上の様です」
大粒の汗が一粒頬を伝うのを感じつつ、武闘家は自身と魔王との間にある歴然とした力の差を分析していた。
武闘家(今の攻防での氷撃魔法陣の展開……僕の方が先に魔法陣の術式を組んでいたのに魔王さんの方が速く魔法の発動に成功している)
武闘家(ただの魔法ならともかく連撃魔法の展開をあの速度で行うなんて……魔王さんの持つ魔力の量と魔法的センスは桁違いということですね)
武闘家(それにさっきの蹴り……肉体強化魔法で防御力を上げてるのにまだこんなに痛む……)ジンジン
左手にいまだ残る鈍い痛みを感じながら武闘家は再び構えをとった。
左手を軽く握ったり開いたりしてみたが問題はなかったためどうやら骨は折れてはいないようだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:29:04.76 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「私もお褒めに与り光栄だよ、武闘家!!」ドンッ!!
ビュッ!!
バッ!!
武闘家「くっ……!!」バッ
サッ!!
ガッ!!
襲い来る魔王の猛攻。
鋭い突きを、重い蹴りを、武闘家はなんとか避け、防ぐのがやっとだった。
凄まじい速さによって繰り出されるその連続攻撃の最中ではとてもではないが攻撃に意識を割くことなどできない。
致命傷を受けないために全集中力を研ぎ澄まし躱し、防ぎ、いなした。
魔王「どうした武闘家、防戦一方ではないか!!」
ビュバッ!!
武闘家「生憎今週は『いのちだいじに』強化週間なので……っと!!」サッ
ピッ
魔王の裏拳が武闘家の鼻先をかすめた。
下らない冗談など言わなければ良かったと武闘家は本気で後悔した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:30:25.46 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「私を殺す気で全力かかってこい。でなければ死ぬのは貴様なのだぞ?」
武闘家「何を言ってるんですか!!僕は……」
魔王「『僕は全力で闘っています』か?」
魔王「だとしたら先程の重撃魔法……なぜ『礫』を放とうとしたのだ?」
武闘家「……!!」ハッ
魔王の言う通り先程の攻防で武闘家が左足から展開しようとした重撃魔法陣は『礫』、中級重撃魔法に属するものであった。
武闘家は上級重撃魔法陣『砕』だけでなく最上級重撃魔法陣『崩』をも習得している。
上位の魔法陣になるにつれ威力が大きくなるため発動に要する時間や魔力も必然的に大きくなる。
それを考慮すれば発動時間の比較的短い中級魔法陣を先の攻防において発動させたのは決して戦略的には間違いではない。
だが武闘家はそこまで考えず、ほぼ無意識の内に、迷い無く中級魔法を使うことを選択した。
魔王「発動時間こそやや遅くなるもののダメージを期待するのであれば『砕』を放つというのも手であった筈だ。もし私が貴様の立場ならば上級魔法で攻撃していただろうな」
魔王「だが貴様はそうしなかった。……聡明な貴様のことだ、この事実が意味するところを既に理解したであろう?」
武闘家「…………」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:31:59.90 ID:hr/uKPTi0<> 魔王の言葉を受け武闘家は冷静に事実を受け止めた。
『無意識の内に手加減してしまっている』
いや、"手加減"というものは実力が上の者が下の者に対し行うもの。
『本気で闘えていない』が正しい表現になるのだろう。
中級魔法による攻撃は必要以上に魔王を傷付けないため。
まるで勇者との組手の時のように自然に、武術大会に参加した時のように当たり前に、武闘家は相手を傷つけ過ぎない攻撃を選択していた。
もし相手が今まで任務で出会った魔物や極悪人ならばこんな攻撃はしない。
二撃目の蹴りは何の躊躇いもなく上級魔法陣を展開していたに違いない。
そもそも戦闘開始直後に発動させた三種の肉体強化魔法は単発魔法陣展開ではなく多重魔法陣展開をしていただろう。
魔王がこの場に現れる前、武闘家は魔王と闘うことになったならば自分はともかく勇者達は魔王と本気で闘うことなどできない、と考えていた。
これは裏を返せば魔王との闘いにおいて、本気で闘うことのできる自分が重要な役割を担うことになるだろう、ということだ。
だが実際魔王と対峙し、闘ってみて気づいた。
気づかされてしまった。
自分も魔王と本気で闘うことができないということに。
それがどんな理由であれ自分も心の奥深くでは魔王との争いなど望んでいない、と。
身体は精神より正直だ。
一連の攻防による自分自身の無意識の行動がそれを明白に語っていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:32:34.94 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「…………」
魔王「貴様にその気が無くとも私はお前達が相手だからと言って手加減などせぬぞ」
フッ!!
武闘家「!!」
突如武闘家の視界から消えた魔王。
背後に気配と殺気を感じた武闘家は考えるより先に振り向き、両腕を身体の前で交差させ防御の体勢をとる。
ドゴッ!!
そこへ放たれた魔王の右膝蹴り。
武闘家「ぐっ……!!」
一瞬でも反応が遅れていたならば背中にまともに攻撃を食らっていただろう。
カアアァァァッ!!
だが魔王の攻撃はそれで終わりではなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:33:26.38 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「これは……!?」
魔王『重撃魔法陣・砕』!!
ドガアッ!!
武闘家「ぐあっ!!」
ドッ!!
ゴロゴロゴロッ!!
魔王の"右膝"から放たれた重撃魔法により武闘家の身体はまたも吹き飛ばされた。
今度は先程の様に体勢を整えることは叶わず無惨に地面を何度も転がった。
武闘家「ぐ……ぅ……!!」ヨロッ
地面に打ちつけられた背中や転がった時に石にぶつけた頭や肩の痛みよりも両腕の痛みの方が遥かに強烈だった。
至近距離で上級魔法を食らったのだからその痛みは当然のものである。
武闘家(まさか魔拳闘士としての魔法陣展開の術を一度見ただけで使いこなすとは……)ハァ…ハァ…
荒い息使いで両腕の激しい痛みに耐えながらなんとか立ち上がる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:34:35.91 ID:hr/uKPTi0<> カアアァァァッ!!
が、魔王は既に武闘家との距離を詰め、前へと向けた両手の先に赤く輝く魔法陣を展開していた。
武闘家「!!」
武闘家(まずい!!急いで回避を……!!)グッ
魔王「……仲間を見捨てて避けるつもりか?」
武闘家「!?」バッ
魔王の言葉に振り向くと、魔王と武闘家を結ぶ丁度直線上、先刻魔王に倒され気絶した魔法使いが横たわっているのが見えた。
ここで武闘家が魔王の魔法を避ければ魔王が放つ魔法は彼女に直撃、確実に魔法使いが瀕死のダメージを受ける。
武闘家「…………汚いですよ…………」
魔王『爆撃魔法陣・滅』!!
ドガアアアアァァァァン!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:35:43.75 ID:hr/uKPTi0<> ただでさえ小さかった武闘家のその言葉は最上級爆撃魔法の轟音によってかき消された。
強烈な爆発は周囲の大気を震わせるだけにとどまらずかつて勇者がこの湖へと備え付けた質素なベンチと机をも破壊した。
いつもなら波一つない静かな湖面も大きく波打つ。
モクモクモクモク……
武闘家「う……ぐぅ……」ゼェ…ゼェ…
身を呈して魔法使いを爆撃魔法から守った武闘家であったが既に満身創痍、立っているのがやっとという状態であった。
先の爆撃魔法を防いだために両腕は完全に使い物にならなくなっている。
皮は焼け骨は砕けているがもはや痛みすら感じなかった。
周囲が曇ってよく見えないのは爆撃魔法による爆煙だけが原因ではなく武闘家自身の視界がぼやけているせいであろう。
武闘家(ま……魔王さんは……?)
ドッ!!
武闘家「がっ!!」
立ち込める爆煙の中、必死に魔王を探していた武闘家の首筋に衝撃が走った。
魔王「…………」
武闘家「」ドサッ
それが魔王による頸への手刀だと分かった時には既に武闘家は地に墜ちていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:36:41.14 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家の意識を断った魔王は悠々と爆煙の中から出てきた。
涙を流しながら地べたにへたり込む僧侶を魔王は冷ややかな眼で見つめる。
僧侶「ねぇ……嘘でしょ?」ポロポロ
真っ赤になった眼から涙を流して僧侶は魔王に訴えかける。
僧侶「きっとドッキリか何かなんでしょ?魔王ちゃん」グスッ
魔王「…………」
僧侶「魔法使いちゃんも武闘家君もスッと起き上がって『ドッキリでしたー』とか言って笑うんでしょ?」
魔王「…………」
僧侶「魔法使いちゃんあたりが企画立案担当の笑えないお芝居…………そうだよね?」
魔王「…………」
僧侶「そうだと言ってよ!!魔王ちゃん!!!!」
魔王「…………」
魔王は何も言わなかった。
その沈黙が何よりも答えになると魔王は分かっていた。
そしてその沈黙が魔王の答えなのだと僧侶は分かっていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:37:35.35 ID:hr/uKPTi0<> 僧侶「………………」グスヒッグ
僧侶「私……私やだよ!!」
僧侶「なんで私達が闘わなくちゃならないの!?私達友達でしょ!?」
僧侶「人間と魔族だけど……出会ってから時間はあんまり経ってないけど……私達仲良くなれたと思ってたのに!!」
僧侶「なのに……なんでなの……?」
僧侶「人間と魔族の垣根を超えて……私達なら手を取り合っていけるって……」
僧侶「私達なら平和への架け橋になれるって……」
僧侶「勇者君に紹介されて魔王ちゃんと出会った日からずっと……ずっとずっとそう思ってたのに!!」
僧侶は睨むような、悲しむような、言葉にし難い眼差しで魔王を見つめた。
その瞳には怒りと哀しみと困惑と優しさと……今の僧侶の複雑な感情の全てが写し出されている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:38:28.86 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「…………貴様はやはり優しいのだな、僧侶」
僧侶「…………」グスッ
魔王「だがな、これだけは覚えておけ」
魔王「優しさだけでは何一つ守ることはできない、と」スッ
魔王はゆっくりと右手を僧侶へ向けてかざした。
僧侶はそれだけで自身にこれから何が起こるのか、魔王がこれから何をするつもりなのか分かった。
だが僧侶は何もしなかった。
何もすることができなかった。
何をする気にもなれなかった。
『……裏切られた……?』
その言葉が何度も何度も彼女の脳裏に浮かんでは消える。
信じていたのに。
友達になれたと思っていたのに。
人間と魔族は分かり合えないの?
うぅん、そんなことないよ。
魔王ちゃん、一体どうしちゃったの?
何かあったなら相談してよ。
私達友達でしょ?
それとも友達になんて最初からなれてなかったの……?
僧侶「……魔王ちゃん……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:39:24.16 ID:hr/uKPTi0<> カアアァァァッ!!
魔王『……二重炎撃魔法陣・獄』
儚く柔らかい僧侶の声とは対照的に、鋭く固い声で魔王が言った。
ゴオオオオオォォォォォッ!!
魔法陣より灼熱の炎が僧侶目がけて放たれる。
防壁魔法を発動させるでもなく僧侶は赤熱の火炎に飲み込まれた。
膨大な魔力を持つ魔王の放った最上級炎撃魔法の火力は凄まじく、湖畔の周囲の木々をも焼き払った。
もはやこの場所は勇者と魔王が静かな時を過した湖畔ではなくなっていた。
パチパチ……
メラメラ……
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:40:04.79 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「……やっとか」
自らの放った炎撃魔法によって焼ける森を見ながら魔王は呟いた。
魔王「お前が一番反応が遅れるだろうとは思っていた……だがここまで長い時間動けないで固まっているとはな」
魔王「お前の心はそんなにも脆いものなのか?」
そして魔王は背後を振り向き僧侶を抱き抱える一人の少年を見て冷たい声で言った。
魔王「なぁ?……勇者よ」
勇者「………………」
僧侶「勇者君……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:40:46.03 ID:hr/uKPTi0<> 炎撃魔法の火炎に包まれたかに思われた僧侶であったが間一髪のところで勇者に救われていた。
瞬速の転移魔法によって僧侶を救出した勇者は魔王の後ろへと回り込んでいたのだ。
魔法使いが魔王に殴られた時も、僧侶が魔王に襲われた時も、武闘家が魔王と闘っていた時も、勇者はただ焦点の定まらない視界で魔王と仲間達をぼんやりと眺め固まっていることしかできなかった。
それほどまでに魔王の行動は勇者にとって信じられないものだったのだ。
目の前の光景を何度夢だと思ったことだろう。
何度幻だと思ったことだろう。
だがしかし現実感の無い現実を勇者は受け入れるしかなかった。
胸中を満たした疑問と怒りによって勇者はようやく身体を動かすに至ったのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:42:48.30 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「…………僧侶、武闘家と魔法使いの治療を頼む」チラッ
倒れている二人を一瞥して勇者は言った。
魔法使いは腹部への打撃により気を失っているがただの気絶にしては顔色が悪い。
もしかしたら内臓を痛めているのかもしれない。
武闘家は頸への手刀で気を失ったのだから身体の内部へのダメージはさほど大きくはない。
だがその両腕は傍目にも痛々しく焼け焦がれている。
勇者「…………頼んだぞ」
僧侶「……う、うん」
勇者のいつになく重たい声を聞き僧侶はその指示を承諾した。
仲間へ向けての言葉であったにもかかわらずその声色は威圧的で有無を言わさぬ感じがした。
僧侶(勇者君のこんな声初めて聞いた……)
勇者の腕から下ろされると僧侶はより重傷だと思われる武闘家の元へと駆けていく。
それを脇目に見送ると勇者は腰に差している愛剣を抜いた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:43:33.28 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「魔王……一体何のつもりだ?」チャキッ
魔王「"何のつもり"……とは?」
魔王「先程武闘家に言ったであろう。私は人間達と戦うことに決めたのだ、決別の意を表すためにこうして貴様達を襲っている」
魔王「何かおかしいところがあるか?」
勇者「大ありだ!!!!!!」
腹の底に溜まった憤りをぶちまけるように勇者は怒鳴った。
勇者「俺の知ってる100代目魔王は争いなんて好き好んでするような奴じゃなかった」
勇者「誰かが傷つけばそれが人間でも魔族でも心を痛めるような優しい奴なんだよ」
勇者「そんな奴が……どうして表情一つ変えずに躊躇いもしないで友達を傷つけることができるっていうんだよ!!」
勇者「お前僧侶と魔法使いと武闘家と友達になれてあんなに嬉しそうだったじゃねぇかよ!!」
勇者「魔王……どうしてこんなことするんだよ、何があったっていうんだよ……!!」
魔王「………………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:44:15.24 ID:hr/uKPTi0<> 魔王は黙って勇者を見つめていた。
勇者も黙って魔王を見つめていた。
今にも泣き出しそうな空の下、薄暗い緑の国のその地で勇者と魔王はこうして対峙している。
木々を燃やし赤々と燃える炎が二人を照らし、その顔の陰影をより際立たせていた。
そして魔王はここで初めて表情を変える。
魔王「……お前は何も知らないから……」ギリッ
勇者「……!?」
だが苦渋と怒りと悲しみの混ざり合ったその表情は一瞬魔王の顔に現れるとすぐに姿を消した。
勇者「どういうことだよ……!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:45:38.36 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「…………何も知らないから何も知らないと言ったまでだ」ドンッ!!
大地を蹴り爆発的な加速で勇者目掛けて魔王は跳んだ。
しかし魔王の拳が勇者に触れようとした時には勇者はその場所には既にいなかった。
壊れたベンチの隣へと転移魔法によって移動した後だったのだ。
魔王「"瞬天"の二つ名は伊達ではないな……!!」ズザー!!
勇者「魔王!!『何も知らない』ってなんだよ!!やっぱり何かあったんだよな!?」
魔王「……真実は自分で知るがいい……」チャキッ
魔王は腰に差す魔剣を抜いた。
勇者「どういう……」
カアアアァァァッ!!
勇者「!?」
魔王『裏魔法陣・亜音』!!
地面に展開された黒い魔法陣から発せられた光が魔王の身体を包み込んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:48:52.45 ID:hr/uKPTi0<> 『裏魔法陣』とは術者が魔法陣展開に改良・改善を加えて産み出した創作魔法の総称である。
通常の魔法は『大魔教典』と呼ばれる何編にも渡る分厚い本にその基礎理論や術式の組み方が記されている。
数百にも及ぶ魔法には型やある程度の威力が決まっている。
これは術者の実力によって魔法の規模こそ違えど発動する魔法の性質そのものが変化することはない。
例えば魔法使いが好んで使う上級炎撃魔法陣『灼』は火球を放つ魔法、先ほど魔王が武闘家に放っら上級氷撃魔法『冷』は氷でできた刃を飛ばす魔法、というようにである。
『裏魔法陣』と称される魔法達は術者の創作魔法陣であるが故に大魔教典にも載っていない。
自分自身の手により幾多の術式を組み合わせ新しい魔法陣の術式を造り出すことは相当難易度の高い所業である。
生涯で三つも裏魔法を産み出せば必ず教科書に名前が載る。
だがその難易度故に裏魔法陣は通常魔法とは一線を隠す威力か効果がある。
いわゆる奥の手や必殺技というものだろうか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:54:42.18 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「…………」ゴゴゴゴ…
勇者「お前……その魔法……」
勇者は裏魔法陣『亜音』の効果を知っていた。
肉体の感覚神経、運動神経を限界以上に強化することで神速の動きを可能にする魔法である。
『亜音』は代々の勇者と魔王のみが使える肉体強化の裏魔法として人々に知られている。
魔王「魔剣の加護を受けた今、この程度出来て当然だ」
勇者「本気で俺と闘うつもりってことかよ……!!」
魔王「その質問も今更だな……仲間達が襲われる姿を見てまだそんなことを言うのか?」
勇者「…………!!」
魔王「なによりこの魔法を使ったことが答えにはならんか?」
勇者「待てよ魔王!!まだ話しは終わって……!!」
魔王「ゆくぞ!!」フッ!!
勇者「チッ……!!」フッ!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:55:54.95 ID:hr/uKPTi0<> ガキィン!!
キィン!!
ガキン!!
キキィン!!
キーン!!
共に神速の移動術を体得した二人の闘いはもはや常人には音しか聞き取ることのできない別次元の攻防であった。
肉体強化魔法によって尋常ならざる速度の動きで勇者を襲う魔王。
彼女の攻撃を勇者は瞬天と称される速度により即座に、あらゆる場所へと空間転移を行い避け、受ける。
反応速度を極限以上に研ぎ澄ました魔王はその勇者の動きにすら反応し追撃を図る。
勇者はそれを防ぐ。
ただひたすらにその繰り返しであった。
僧侶(……なんて闘いなの……)ゴクッ
武闘家の傷を回復魔法で癒しながら勇者と魔王の闘いを見守る僧侶は息を呑んだ。
100代目勇者一行の一人である彼女は仲間と共に数々の戦場を駆け、任務で凶悪凶暴な魔物と幾度となく闘ったことがある。
戦闘担当ではないにせよそれなりに死線をくぐってきたと言える。
だがその僧侶にとってすら目の前で繰り広げられる闘いはまるでついていけないものだった。
時折魔王の攻撃を受ける勇者の姿が微かに見えるだけでその攻防のほとんどを捉えることができない。
それでも勇者が攻めにいってないことだけは理解できた。
この後に及んでもやはり勇者は魔王を傷つける気はなく、闘うことを拒否しているのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:57:14.85 ID:hr/uKPTi0<> キィン!!
ガキィン!!
勇者「どんな理由があるのか知らねぇけど俺はお前と闘うつもりなんてない!!」フッ!!
魔王「…………」フッ!!
キン!!
キキン!!
ガキィーーーン!!
勇者「ぐっ……!!」グググッ
魔王「……貴様は……いや、私達は甘かったのだ、勇者」グググッ
勇者「……何?」
魔王「魔族と人間の和平……そんなものは最初から実現できる筈もなかったのだよ」
魔王「魔族と人間が争うことのない平和な世界など夢見がちな子供の馬鹿な妄想に過ぎなかったのだ」
魔王「私達は未来永劫争い続けることしかできない哀れな生き物だということだ」
勇者「何言ってんだよ!!俺達が友達になれたんだ!!だから他の人間と魔族だって分かり合えるハズだろ……!?」
魔王「……その考えが甘いと言っているのだ!!」ビュッ!!
勇者「ッ!!」サッ
ガキィン!!!!
ヒュンヒュンヒュン……
魔王の横薙ぎを剣で受けた勇者であったがその凄まじい剣圧に耐えきれずに剣を弾き飛ばされてしまった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:58:40.42 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「ッ……この!!」サッ
魔王「!?」
勇者に手をかざされた瞬間魔王の視界には木々に縁取られた灰色の空が映った。
続いて背中に衝撃が走ったかと思うと目の前に勇者が現れ胸ぐらを掴んでいた。
魔王「……転移魔法の応用でこんな芸当までしてみせるとはな」
魔王は瞬時に自分の身に起きたことを察した。
勇者の転移魔法によって仰向けになる形で空中へと空間転移され、次いで勇者が転移して胸ぐらを掴んできたということだ。
勇者「魔王!!もういい加減にしろよ!!」グッ
勇者は魔王を地面に押し倒し、両の手に力を込めて叫んだ。
堅く握った両手は込められた力により小刻みに震えている。
魔王「……あの時に似ているな」
勇者「……!!……そうだな」
魔王の言う"あの時"がいつのどの出来事を指すものなのか勇者にはすぐに分かった。
緑の国で魔王と初めてあった時のことだ。
あの時勇者は魔王に馬乗りになって彼女を殴ろうとしていた。
魔王「結局お前はあの時私に手を出さなかったな」
勇者「それはお前だって同じじゃねぇかよ」
魔王「……そうだったな」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 06:59:16.25 ID:hr/uKPTi0<> ドスッ……
魔王「……だがあの時とはもう違うのだ……もう戻れない……」
勇者「…………!?」
勇者の左脇腹に焼ける様な強烈な激痛が走った。
その痛みを感じても勇者は自身の身に何が起きたのか分からなかった。
ゆっくりと視線を痛みの先へと向ける。
魔王の右手に握られた魔剣が勇者の腹部を貫き、傷口からは噴き出す様に血が流れ出ていた。
その鮮血を見て尚、それが自分の血なのだと理解するのに数秒かかったほどだ。
勇者「がふっ…………!!」ビチャッ
僧侶「勇者君ーーーー!!!!」
そう遠くにいるわけではない僧侶の声が遥か遠くから聞こえる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:00:58.38 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「…………邪魔だ」
ドガッ!!
勇者「ぐあああぁぁぁぁ!!」ドサッ
魔王は勇者を蹴り飛ばし立ち上がった。
美しい顔も鎧も勇者の返り血で紅く汚れている。
勇者「ま……魔王…………」
既に勇者は痛みを感じていなかった。
感じられる痛みの許容量を超え、脳が痛覚を遮断していたのだ。
だが流れ出る血に比例する様に自分の力が抜けていくことは感じていた。
今にも消えてしまいそうな意識をなんとか意思の力でつなぎ止める。
魔王「まだ喋れるだけの力があったか」
勇者「どうしても…………どうしても戦うってのかよ……」
魔王「だから何度もそう言っておるだろう……理解力に欠けるなどという話ではないな」フゥ…
魔王「……ならば私も何度でも言おう」
魔王「魔族と人の和解、和平の実現など不可能だ。幼き日に私達が夢見た世界は所詮夢の世界でしかない」
魔王「私は100代目魔王として民の前に立ち人間達と戦う。例えお前達が立ちはだかろうともその意志は変わらない」
勇者「…………」ギリッ
勇者はもはやこの現実を受け入れるしかなかった。
……悪い夢なんかじゃない、魔王は本気で人間と戦うつもりなんだ……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:01:36.39 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「これだけは……聞かせてくれ……」
魔王「……なんだ?」
勇者「俺は……俺達はお前と友達になれたって……分かり合えたって思ってた……」
勇者「俺は勿論……僧侶……魔法使い……武闘家……みんなお前のことを……大事な……大事な友達だと思ってる……」
勇者「……お前に何が……あったのか……知らねぇけど……」
勇者「人間と戦うって決めた今じゃ……俺達は……お前にとってもう友達じゃないのか……?」
勇者「……ただの倒すべき敵なのかよ……?」
魔王「…………」
血溜まりにうつ伏せで倒れる勇者へと魔王はゆっくりと近づいていった。
魔王は勇者の目の前まで来ると左手の人差し指に長い黒髪を絡め、右手に握った剣の切っ先で勇者の顎を軽く上げ、冷酷な眼差しで勇者を見下し言った
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:03:19.31 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「あぁ、お前達はもはや私にとってただの敵、数ある障害の1つにすぎない」
勇者「…………!!」
魔王「お前と過ごした10年も、お前の仲間達と過ごした3ヶ月も、私の人生にとっては無価値な唾棄すべき時でしかなかったよ」
魔王「だからお前達と違って私はお前達と闘うことになんの躊躇いもなければ迷いもない」
魔王「……いや、むしろこの私に下らん馴れ合いをさせたことに憤りすら感じているからな、喜んで闘い首をはねたいくらいだ」フフッ
勇者「お……お前…………」
魔王「1週間後だ」
勇者「…………?」
魔王「1週間後、黒の国は緑の国に対し大規模な侵攻作戦を行う」
勇者「…………!!!!」
緑の国への侵攻、これが何を意味するか勇者は十分分かっている。
人間と魔族の戦争が始まって以来、中立を貫いてきた緑の国。
戦場とすることを禁じられているその国へ攻め入れば国際批判は免れない。
何より聖十字連合と黒の国――――人と魔族の間には計り知れない溝ができることになるだろう。
そうなっては両種族の関係の修復はできず和平の実現は到底不可能になる。
魔王「分かったら大勇者に伝えろ、『止めたければ魔王城まで来い、父の仇は私がこの手でとる』と」
勇者「ぐ…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:05:06.21 ID:hr/uKPTi0<> 魔王「…………そうだな、お前達にもチャンスをやろう」スッ
トスッ
魔王は懐から円盤状の魔法具を取り出し勇者の目の前に落とした。
地面に刺さった魔法具は鈍く光っている。
勇者「……これ……は……?」
魔王「……その魔法具には黒の国の魔王城の魔力座標が記録されている」
魔王「魔法具に記録された魔力座標を元に転移すれば魔王城に来たことがなくとも跳躍が可能だ」
魔王「もしお前が私を止めようと思うのならその魔法具で魔王城に来い。そして私と闘え、100代目勇者よ」
勇者「…………」
魔王「……もっとも聖剣の加護を受けていない今のお前などでは話にならん」
魔王「次に会う時、私は全力でお前達と闘う。覚悟ができたならお前も聖剣をその手に携え真の勇者として魔王城を訪れるが良い」ザッ
カアアァァッ!!
それだけ言うと魔王は勇者に背を向け足元に転移魔法陣を展開した。
青白い光が彼女を包んでいく。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:05:52.38 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「ま……まおう…………」
薄れゆく意識の中、勇者は最後の力を振り絞り魔王の名を叫んだ。
しかし彼の口から出た声は叫びとは言い難いかすれた小さな声でしかなかった。
それでも勇者の声はたしかに魔王には聞こえていた筈である。
魔王「…………」
だが魔王は振り向くことなく転移魔法の光の中に消えたていった。
勇者「……ま……お…………」ガクッ
既に魔王の去った誰もいない空間を見たのを最後に勇者は意識を失った。
降りだした雨粒の最初の一粒が手の甲に当たった感覚を勇者は感じることはなかった。
次第に強くなる雨音も彼の耳には届かない……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:06:42.30 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――
―――――
――
―
――――青の国・とある病院の一室
勇者「…………はっ!」ガバッ
意識を取り戻した勇者ベッドから跳ね起きた。
内容は覚えていないが酷く嫌な夢を見ていたらしい。
身体中汗まみれで気持ちが悪い。
勇者「…………ここは…………?」
辺りを見回す。
見たこともない部屋だった。
白を基調とした質素な部屋には家具と言った家具は置かれておらず、あるのはやけにシーツの整ったベッドが三つ。
いや、自分が今使っているものを含めれば四つか。
そういえば右腕に管が繋がっている。
管の先はスタンドに取り付けられた透明の袋に繋がっており、袋の中身が赤い液体で満たされているところを見るとどうやら自分は今輸血か何かをされている最中なのだろう。
それらの状況から自身の今居る場所がどこかの病室なのだとようやく理解する。
勇者(でもなんで俺輸血なんか……)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:08:18.93 ID:hr/uKPTi0<> ギイィ……
不意に開いた病室のドアからはよく見知った顔が三つ入ってきた。
魔法使い「おー、勇者起きてるじゃん」
武闘家「やっと目が覚めましたか」
勇者「お前ら…………ッ!?」クラッ
僧侶「傷は治したけどまだ血が足りないんだから無理はしないで、勇者君」
勇者「…………傷?」
武闘家「…………」
僧侶「…………」
魔法使い「…………」
現在の自分の状況。
僧侶の言葉。
そして何より押し黙った仲間達の暗く重い顔を見れば答えは自ずと見えてくる。
勇者「…………夢じゃなかったのか…………」
たしかに勇者は悪夢にうなされていた。
だがその悪夢は単なる夢ではなく現実のものであった。
冷徹な眼で自分を、仲間達を襲う魔王の姿が勇者の脳裏に焼き付いていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:09:51.87 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「あの魔王が……俺達を…………か」
僧侶「………………」
勇者「お前らは大丈夫なのか……?」
魔法使い「うん、まぁ……一応ね」
武闘家「僧侶さんのお陰で傷の方はすっかり癒えていますから」
勇者「そっか……」
魔王による強襲の後、僧侶の必死の治療もあって勇者は一命をとりとめた。
魔法使い、武闘家も同様僧侶の回復魔法によりまだ全快とまではいかずとも健康体と言えるまで回復したと言える。
勇者達三人が無事でいられたのは一重に僧侶の判断が的確だったためである。
普通ならば一番の重体である勇者を真っ先に治してしまいそうだが僧侶はあえて最初に魔法使いの手当てを優先した。
あの森の中では十分な治療が見込めないため早急に医者や回復系魔法の使い手のいる病院へと三人を搬送しなければならない。
そのための足として転移魔法が必要と考え、失血によって意識を失った勇者ではなく比較的軽傷の魔法使いを優先的に治療し、彼女の転移魔法によって病院への移動をしようと考えたのだ。
僧侶、医者、回復系魔法の使い手達の手当てにより三人の傷はすっかり癒えたのだが勇者の場合は出血が多かったためまだ安静が必要であった。
回復魔法はあくまで対象の自己治癒能力を活性化させ傷を癒すというもの。
無から有を造り出す魔法ではないため体外へ流れた血を生成することはできない。
勇者の右腕に細長い管が繋がれ輸血がなされているのはそのためだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:10:30.74 ID:hr/uKPTi0<> 病室へ帰ってきた武闘家達三人は自然と一人一つのベッドに腰掛けることになった。
窓際にある勇者のベッドから見て向かいには僧侶、隣には武闘家、斜向かいに魔法使いという形である。
勇者「…………」
武闘家「…………」
僧侶「…………」
魔法使い「…………」
昼前に魔王と会うまでとはまた違った重々しい沈黙が病室を包む。
空気の色は変わりやすい。
小さな病室はすぐに押し潰されそうな息苦しい空気でいっぱいになった。
勇者はそんな空気に耐えきれずに窓の外へと目を移した。
曇っていて太陽の正確な位置はわからなかったが西の空の雲に赤みがかかっていたので夕暮れ時だとわかった。
この時初めて気付いたが病室は二階にある様だ。
病院前の通りを見下ろすと人通りは既にまばらであった。
兄弟だろうか?
小さな男の子が二人、通りを西へと駆けて行く。
家で母親が夕飯を作って待っているのかもしれない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:11:21.53 ID:hr/uKPTi0<> 魔法使い「ねぇ…………あたし達魔王と闘わなきゃならないの……?」
沈黙を破り魔法使いが言った。
思えばこういう重苦しい雰囲気の時は決まって彼女が最初に口を開く。
「話しをしなければならないがどう話し始めればいいかわからない」
仲間達のそんな思いを感じとって自分が一番先に話を切り出そうという彼女の優しさなのかも知れない。
もっとも彼女の場合はただ旦に重い空気に耐えられずに口を開くということも否めない。
たがそれでも勇者達は魔法使いにこうして助けられているのは事実だった。
魔法使い「あたしはすぐに気絶しちゃったから後のことはさっき僧侶に聞いたよ、武闘家もそう」
と、これは勇者に向けての言葉である。
魔法使いも武闘家も自分が気を失ってからの魔王の行動、言動を把握していると勇者に告げたのだ。
僧侶「私は魔王ちゃんと闘うなんてできないよ……」
魔法使い「僧侶……」
武闘家「ですが……」
僧侶「……うん、わかってる。私達が100代目勇者一行でその使命が本来魔王を倒すことだって」
僧侶「でも……私にはできない。どんなに魔王ちゃんのこと敵だと思っても、仲間を傷つけられて憎いと思っても、魔王ちゃんと過ごした日々と魔王ちゃんの笑顔を思い出したら……私にはとても…………」
今にも泣きそうな僧侶を見ながら魔法使いが言う。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:11:54.77 ID:hr/uKPTi0<> 魔法使い「……あたしだってそうだよ。今朝まで友達だと思ってた魔王と闘うなんてことしたくない……」
魔法使い「でも僧侶や勇者や武闘家が傷つくのも嫌!でもでも、魔王と闘うのも嫌!!」
魔法使い「……一体……一体どうしたらいいの……?」
魔法使いの猫耳はだらしなく垂れていた。
彼女の喜怒哀楽は耳の動きで分かるが今の彼女の顔を見れば一目でそのやるせなさが分かった。
そんな二人を見て武闘家が静かに口を開いた。
武闘家「…………ならパーティ解散、ということになりますかね」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:13:38.58 ID:hr/uKPTi0<> 魔法使い「え……」
僧侶「ちょ、武闘家君!?」
突然彼の口から飛び出したあまりに衝撃的な言葉に僧侶の声が上ずる。
武闘家「魔王さんが人間達との戦いを望む今、100代目魔王と闘えない人間に100代目勇者一行の一員が務まるわけないじゃないですか」
武闘家「……これはお二人を非難しているわけではありません。お二人のことを思って言っているんです……」
僧侶「でも学校に通ってた頃から私達ずっとパーティ組んでたし……そんな……」
魔法使い「……そう言う武闘家はどうなのさ!!」
あくまで淡々と話す武闘家に苛立ちを覚えたのか魔法使いが声を荒らげる。
魔法使い「武闘家は魔王と……あの魔王と本気で闘えるって言うの!?」
武闘家「……それは本音を言えば僕も闘いたくありません」
武闘家「でも闘うしかないのなら……僕は闘いますよ」
僧侶「武闘家君……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:14:31.81 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「僕達は……人々の希望の象徴『勇者』の仲間なんですよ?」
武闘家「魔王さんが人間に仇なす存在となるなら……やはり闘うしかないです」
武闘家「今度は本気で、全身全霊で、命を奪うつもりで……」グッ
魔法使い「…………」
僧侶「…………」
ただ静かにそう言った武闘家に彼女達は何も言うことができなかった。
武闘家の言うことは正しい。
正しいし理解もしている。
しかしそれを心の奥深くから自分自身に納得させることはどうやら今の自分達にはできそうもない。
そうした彼女達の心の声がこの沈黙なのである。
武闘家「……勇者はどうなんですか?まさかこの期に及んでもまだ魔王さんと闘わないつもりですか?」
勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:14:57.69 ID:hr/uKPTi0<> 勇者は武闘家達のやり取りに口を挟むでもなく、ただ難しい顔で窓の外を眺めているだけだった。
まず間違いなく今回の一件に一番動揺し、心に大きな傷を負ったのは勇者だと三人は分かっている。
だからこそ勇者が今何を考え何を思うのか、それが今後の彼ら進むべき道を考えると最も重要なことだった。
勇者「俺は…………」
勇者は一言一言噛みしめるように静かにゆっくりと言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:15:59.30 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「…………魔王とは闘わない」
勇者「何があっても、絶対に」
武闘家「………………」
僧侶「……勇者君……」
魔法使い「………………」
三人は何故か内心ほっとしていた。
おそらく変わってしまった魔王に対して、変わらないままの勇者がいることが彼らを安堵させたのだろう。
だが今の勇者の言葉は"勇者"として相応しいものでないとも分かっていた。
人々のために魔王と、魔族と闘うのが勇者の在るべき姿なのだ。
むしろ今の状況こそが勇者と魔王の本来の関係である。
その状況下で魔王と闘わない者に100代目勇者が務まる筈がない。
魔王との闘いを拒否し続けるのならば勇者の命の剥奪ということすら有り得る。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:16:35.11 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「勇者……魔王さんと闘いたくないのは分かります。ですが個人の感情で魔王との闘いを拒否できるほど勇者という立場が軽いものでないのは分かっているでしょう?」
勇者「…………」
武闘家「まして僕達は魔王さんを友人だと信じていても……魔王さんにとっては僕達はもはやただの敵でしかない。そう魔王さんも言っていたというじゃありませんか」
勇者「…………」
黙って武闘家の話を聞いていた勇者が口を開く。
そして次の瞬間彼の口から飛び出した言葉に他の三人は唖然とするしかなかった。
勇者「あれは……嘘だ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:17:53.69 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「な…………」
僧侶「…………えっ」
魔法使い「へ…………?」
勇者の声は『嘘であって欲しい』という願望のこもったものなどでは決してなかった。
あまりにも勇者の声が確信に満ちていたので武闘家達は状況に驚き、混乱し、しばし硬直していたほどだ。
武闘家「ど、どういうことですか?」
勇者「…………俺にはどうしてもアイツがお前らと好き好んで闘ってるようには思えなかった」
勇者「昔から『魔族と人間が和解したら人間の友達をたくさんつくるんだ』って嬉しそうに言ってたからな。お前達と友達になれた時も本当に嬉しそうな顔してたし」
勇者「だから俺はアイツの本心が知りたくて最後にアイツに聞いた」
魔法使い「『お前にとっては俺達はもう友達じゃないのか?』ってやつ?」
勇者「あぁ」
武闘家「ですからその問いに魔王さんは……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:18:43.87 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「僧侶、俺がアイツにその質問をしたときアイツどんな仕草をしてた?」
僧侶「え?え〜っと…………」
突然話を振られて僧侶は驚いたようだったがその時の情景を思い出しながら答えた。
僧侶「こう、魔剣で勇者君の顔を持ち上げて……」
勇者「右手はな。左手は?」
僧侶「ひ、左手?ん〜……たしか髪の毛をいじってた気がする…………多分だけど」
魔法使い「髪の毛クルクル指に巻きつけるやつ?あたしも見たことあるよ。魔王の癖なんじゃないの?」
勇者「癖は癖だけどただの癖じゃない」
僧侶・魔法使い「?」
勇者「左手に髪の毛をクルクル巻きつけるのはアイツが嘘をつく時の癖なんだ」
僧侶「嘘をつく時の癖……?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:19:28.86 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「そう。嘘をつく時に100%その癖が出る訳じゃないけど……逆にその癖が出る時は100%嘘をついてる」
魔法使い「え、じゃあ勇者が最後の質問をした時に魔王がその癖を出したってことは……」
微かに輝きを取り戻した魔法使いの瞳を見つめ勇者は頷く。
勇者「魔王にとっては俺達は今でもやっぱり大切な友達ってことだよ」
僧侶「そっか……良かっ…………」
武闘家「ちょっと待って下さい」
ここで勇者の話を聞いていた武闘家が口を挟む。
魔法使い「武闘家?」
武闘家「そう言われて『あぁそうなんだ』ってすんなり納得すると思いますか?」
武闘家「現に僕達は魔王さんに襲われている。それなのに魔王さんを信じるなんて……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:21:15.96 ID:hr/uKPTi0<> 勇者「俺の事も信じられないか?」
武闘家の反論を遮るように勇者が言った。
勇者「お前らが今の魔王を信じられないのはわかる。だったら俺の事を信じてくれないか?」
勇者「頼む…………」
そして武闘家に頭を下げた。
武闘家「…………」
僧侶「勇者君……」
魔法使い「勇者……」
長い長い沈黙。
武闘家「………………」フゥ
武闘家は小さく息を吐くと少し困った様に笑った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:21:57.23 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「……まったく、それは卑怯ですよ」フフッ
僧侶「武闘家君……」
勇者「信じてくれるのか?」
武闘家「えぇ、と言うか最初から勇者の言ったことは信じてましたよ?」
勇者「は?」
武闘家「ただ勇者が魔王さんを庇って嘘を吐いている可能性も否定できなかったのでちょっとカマをかけてみただけです」
勇者「お前なぁ……」
武闘家「まぁ嘘じゃなさそうで安心しましたよ。何より勇者に頭を下げられるなんて貴重な体験ができましたし」クスクス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:22:32.56 ID:hr/uKPTi0<> 魔法使い「…………でもさ、やっぱおかしくない?」
場の雰囲気が緩みかけたところで魔法使いが彼女に似つかわしくないシリアスな声で言った。
僧侶「何が?」
魔法使い「だってさ、魔王があたし達のこと今でも友達だって思ってくれてるならなんで襲ってきたのさ?」
僧侶「たしかに……」
勇者「俺もそれがわからなかった。何かしらの事情があるのは確かなんだろうけど一体それが何なのか……」
僧侶「…………」
魔法使い「結局何もわかんないまんまじゃん」ムゥ…
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:23:11.86 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「いえ、そうでもありませんよ」
頭を抱える三人をよそに武闘家はそう言ってのけた。
魔法使い「えぇ!?武闘家は魔王に何があったのかわかったって言うの!?」
武闘家「流石に核心部分は分かりませんが……それでもこれだけ情報が揃っていれば理論的に分析することでぼんやりと大まかには状況が理解できます」
勇者「お前すごいな……」
魔法使い「こういう時武闘家はホント頼りになるね」
僧侶「うん」
武闘家「とは言え僕もついさっきまでどうにも引っ掛かることがあって結論を出せずにいたのですが……勇者のお陰で答えを絞ることができました」
勇者「引っ掛かること?」
武闘家「はい。……ではそのことも踏まえて順序立てて説明していきましょうか」
武闘家は他の三人を見渡し丁寧に説明を始めた。
勇者達は彼の説明に耳を傾けつつ話を理解しようと努めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:24:32.42 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「まず今回の魔王さんの強襲ですが結論だけ言えば魔王さんが僕達に与えたものは魔王さんに対する不信感のみ、ということになります」
武闘家「僕や勇者、魔法使いさんは攻撃を受け怪我をしましたがどれも回復魔法や治療でどうにかなるものばかりでしたよね?」
武闘家「僕はここにずっと引っ掛かっていたんです」
僧侶「どういうこと?」
武闘家「魔王さんは僕達を襲う理由を『人間達と戦うことを決めた宣戦布告のようなもの』と言っていました」
武闘家「そのために僕達を襲ったのだとしたら、僕達に魔王さんを敵だと認識させ今後魔王さんと闘わせる様に仕向けるための強襲だった、ということですよね?」
勇者「まぁそうだろうけど……」
武闘家「それなら僕達からもっと恨みや怒りを買う様に攻めた方がより自分のことを敵だとハッキリ認識させることができたハズです」
武闘家「例えば回復魔法でも治癒ができないように四肢を切り落とすとか臓器を潰すとか……もっと簡単に恨みを買うなら僕達の中の誰かを殺してみるとか」
武闘家「もし僕が魔王さんの立場で本気で勇者達に自分を敵視させたかったらそれぐらいやってのけます」
勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:25:19.87 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「でも魔王さんはそうしなかった。回復魔法で癒えてしまうような『中途半端な攻撃』しかしてきませんでした」
武闘家「だから僕はずっと僕達を生かしておくことに何かしらの意味があるのかと考えていたんですが……勇者の話を聞いて分かりました」
武闘家「魔王さんは僕達を『殺さなかった』のではなく『殺せなかった』のだと」
勇者「『殺せなかった』……」
魔法使い「その違いがそんなに重要なの?」
武闘家「えぇ。……と、ここまでは大丈夫ですか?」
勇者「あぁ」
僧侶「うん」
魔法使い「まぁなんとなく」
武闘家「若干一名の返答に不安を覚えますが話を続けるとしましょうか」
魔法使い「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:26:39.63 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「さて……ではここで魔王さんの身に何が起こったのかを考えてみます」
武闘家「前回魔王さんと会った時は特に魔王さんに変わりはありませんでしたよね?」
僧侶「うん、いつもの魔王ちゃんだった」
武闘家「ですから前回会ってから今回会うまでの数日間の内に魔王さんに人間と戦うことを決意させるような"何か"があった。そう考えるのが妥当でしょう」
魔法使い「ん〜……あのさ、その"何か"がいつ起こったのかによっては青の国への奇襲攻撃もやっぱり魔王の指示だってことになるのかな……?」
勇者「…………」
武闘家「そのことですが……僕はその可能性は低いと考えています」
勇者「!?」
魔法使い「なんで?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:29:47.04 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「聖十字連合側への宣戦布告無しの奇襲攻撃。100代目魔王が人間達と戦うということをアピールするには絶好の機会ですよね?」
武闘家「それならその戦場に100代目魔王自身が参戦した方が遥かに効果的にそのことをアピールできると思いませんか?」
勇者「……たしかに言われてみりゃそうだな……」
武闘家「それにいくら奇襲攻撃だった言えど黒の国側の戦力はあまりに少なかった。魔王さんが指揮を執っての奇襲攻撃の指示だったのだとしたらもっと大量の戦力を投入して風鳴の大河の青の国の拠点を完全に制圧することもできたハズ……いえ、そうするべきだった」
武闘家「ですから僕は昨日の奇襲攻撃については魔王さんの指示でなく反人間派の魔族による独断だと睨んでいます」
僧侶「反人間派……そういえば魔王ちゃんの叔父さんが反人間派の先頭に立ってるって言ってたね」
勇者「魔将軍か……じゃあ今回の奇襲は魔将軍の指示だったってことか?」
武闘家「その可能性が一番妥当だと僕は考えています。それが今回の一件とどう関係しているのかはわかりかねますがね」
武闘家「……正直に言うとそれが僕の希望であるということも否定できません。何らかの事情によって今言った『そうすべきだったこと』が実現できなかった可能性も否めませんし……」
勇者「……まぁ俺達もそう思っていた方が良さそうだしな」
魔法使い「そだね」
僧侶「うん」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:30:33.31 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「話を戻しましょう」
仕切り直す様にそう言った武闘家だったが少し何か考えて苦笑した。
武闘家「……えぇっと……どこまで話したんでしたっけ?」
僧侶「んと……魔王ちゃんに"何か"があったってところじゃなかったかな?」
武闘家「あぁ、そうでしたね。まったく、誰かさんが話の腰を折るから……」
魔法使い「ごめんごめん」ニャハハ
眉端を軽く上げて小さくため息をつき武闘家は話の続きを始めた。
武闘家「……では、さっき言った可能性の話をことを含めて話します」
武闘家「昨日の奇襲が魔王さんの指示でないとしたら、魔王さんが人間達と戦うことを決意するに至った"何か"は昨日から今日にかけて起こった、と考えられます」
僧侶「うーん……一体何があったのか私には見当もつかないけど……」
魔法使い「あっ」
僧侶「?」
何か閃いたのか魔法使いがは不意に声を上げた。
漫画か何かだったら頭の脇に豆電球が灯っていそうなものである。
魔法使い「洗脳魔法をかけられたとか考えられない?」
僧侶「洗脳魔法……?」
魔法使い「そう!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:32:08.98 ID:hr/uKPTi0<> 僧侶「たしかに催眠魔法の応用で心理を操作する裏魔法もあるみたいだけど……」
魔法使い「反人間派の魔族に魔王が洗脳魔法をかけられてさ、人間との闘いを望むように精神操作されちゃってるとか……」
勇者「いや、それはないな」
と、ここで魔法使いの案を否定したのは勇者だった。
魔法使い「? どうして?」
勇者「洗脳魔法をかけられたんなら精神っつーか自我っつーか……そういうもんが消えちまうハズだろ?」
勇者「でもさっき言ったろ、アイツは嘘を吐いてたって」
勇者「嘘を吐くってのは自分が心に思ってることとは別のことを意図的に言うことだ」
勇者「あの時アイツが嘘を吐けたってことはアイツは自我を持ってたってことになる。だから洗脳魔法をかけられてたってことは多分ないよ」
魔法使い「そんな…………勇者が頭良さげに解説してる」ガーン
勇者「おし、お前後でデコピンな」イラッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:33:13.55 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「まぁ実際勇者の言っていることは正しいですよ。それに僕がさっき言った『魔王さんは僕達を殺せなかった』ということがここで役立ってくるんです」
僧侶「もし洗脳魔法で魔王ちゃんが自我を失った状態になっていたなら手加減なんかしないで私達の誰かを殺していただろう、ってこと?」
武闘家「流石僧侶さん、話が早くて助かります。……そんな訳で洗脳の可能性は極めて低いです」
今度は勇者が自身の考えを述べた。
勇者「……人質を捕られたってことは考えられないか?」
魔法使い「誰が?」
勇者「誰でもいい、魔王の母さんでも側近さんでも……とにかくアイツにとって親しい人が反人間派の連中に人質にとられて、アイツは言うことを聞かされているとか」
勇者「それなら自我を持った状態のアイツが自分の意思に反して俺達を傷つけるってのも有り得る話じゃないか?」
魔法使い「ふむふむ……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:34:51.89 ID:hr/uKPTi0<> が、この案は武闘家によって否定された。
武闘家「洗脳よりは可能性は高いでしょうがそれもあまり現実的ではないですね」
武闘家「もしそうならやはり何故魔王さんが僕達を殺さなかったのか、で引っ掛かるんです」
武闘家「仮に僕達と魔王さんの関係が人質を捕った相手側に知られ、魔王さんは僕達を襲う様に仕向けられたとしましょう」
武闘家「それが魔王さんを精神的に追い詰めるための指示だとしたら……僕達の首を持ってこい、とでも言うのが普通じゃないですか?」
僧侶「たしかに……人質を捕るなんて卑怯な真似する人達はただ傷つけてこいなんて命令しないよね」
武闘家「それにそんな状況になったら僕達を傷つけるよりも僕達に助けを求めた方が賢明じゃありませんか?」
武闘家「勇者の転移魔法があれば人質の救出なんてワケないでしょう?」
勇者「…………」
武闘家「第一、魔族の王たる魔王さんなら自分の親しい人の命と魔族全体の平和を天秤にかけた時、どちらがより重いものと考えるのか……」
勇者「……そうか、そうだな。アイツは人質捕られたからって世界全体の平和を目指すことを止めちまうような半端な気持ちで今まで和平を目指してきたワケじゃないもんな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:35:17.79 ID:hr/uKPTi0<> 魔法使い「じゃあ結局何があったっていうの?」
勇者「……勿論、お前は分かってんだろ?武闘家」
武闘家「はい……あくまで予想、ですが」
勇者の問いに武闘家は何故か返答を躊躇っているようだった。
そんな彼の姿を見て僧侶はやや緊張しながらも言う。
僧侶「聞かせて、武闘家君。魔王ちゃんに何があったのか」
武闘家「えぇ…………わかりました」
武闘家は頷き話し始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:38:27.47 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「……今勇者に言った様に魔王さんは公私の区別をつけ、しかも『公』のためなら『私』を犠牲にすることもいとわない方です」
武闘家「今日魔王さんが僕達を襲った状況……これが正に『公』のために『私』を犠牲にしている状況じゃありませんか?」
僧侶「魔王ちゃんは私達と……うぅん、人間と戦いたくなんかないけど戦わなくちゃならない状況にあるってことでしょ?」
武闘家「はい。しかもその理由はかなり重いものだと推測できます」
魔法使い「重い……?」
武闘家「魔王さんにとって自身の想いを犠牲にしてでも果たさなければならない義務、それは……」
勇者「魔王としての義務……だな」
武闘家「えぇ。ですから魔王さんは100代目魔王として人間達と戦わなければならない立場にあるということ」
武闘家「そして勇者に言ったという『真実は自分で知れ』という言葉……この"真実"とは魔王さんが人間との戦いを決意した理由を指すことは間違いありません」
武闘家「『知れ』と言っていることから魔王さんのみが知ることのできる、或いは魔王さんだけしか知りえない情報でははないのでしょう」
武闘家「つまり魔王さんは何か重大な事実を知り、その上で自らの意思で、"魔王として"人間達と戦うことを決意したということになります」
勇者「……魔王として戦わなければならない理由…………」
魔法使い「武闘家は何だと思ってるの?」
武闘家「単刀直入に言いましょう……」
武闘家は次の発言に備えて唾を飲み込んだ。
聞こえる筈もないその音が勇者達にも確かに聞こえた気がした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:39:31.81 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「…………この戦争、何か裏があるのではないかと考えています」
勇者「!?」
魔法使い「は?」
僧侶「それってどういう……!?」
完全な不意打ちだった。
それも、とてつもない威力の。
魔王が戦う理由、それが何なのか勇者達は分かっていなかったが武闘家の答えは勇者達の思考の外から放たれたあまりにも強大な一撃だった。
――――何百年と続く人間と魔族のこの戦争に隠された闇がある――――。
それが意味することの重さを受け止め切れずに思考がまとまらない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:40:23.73 ID:hr/uKPTi0<> 他の三人の動揺を察しつつも武闘家が続ける。
武闘家「僕にも詳しいことは分かりません」
武闘家「ですが……もし何らかの理由で魔族は人間と戦わなければならないのだとしたら?そう仕組まれている、或いはそうせずにはいられない何かがあるのだとしたら?」
武闘家「そう考えると全て辻褄が合うんですよ……魔王さんの行動も、和平に対して消極的な王様達も、長く長く続くこの終わりのない人間と魔族の争いも……」
勇者「…………」
僧侶「…………」
魔法使い「…………」
病室の空気は勇者が目覚めた直後より何倍も重くなっていた。
誰一人として口を聞くことすらできずしばらくの間息苦しい沈黙だけが病室を満たしていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:41:17.60 ID:hr/uKPTi0<> 呼吸さえも困難なその沈黙を破ったのはやはり魔法使いであった。
魔法使い「……武闘家の考えが正しいなら人間と魔族の戦争には何か秘密があるってことだけど……その秘密をどうやったらあたし達は知ることができるのかな?」
勇者「…………」
魔法使い「やっぱり王様達なら何か知ってるハズだよね……?」
僧侶「それは……そうだろうけど…………多分王様達から聞き出そうって言うのは無理だよ」
僧侶「戦争の根底にあるような重大な秘密かもしれないんだよ?そんな話を教えてくれるわけないよ……」
魔法使い「……でも他にその"真実"って言うのを知ってそうな人なんて……」
武闘家「…………いますよ、1人。確実に全てを知っているであろう人が」
魔法使い「うそ!?」
僧侶「え、誰!?」
武闘家の言葉に僧侶達が身を乗り出す。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:42:19.76 ID:hr/uKPTi0<> 武闘家「……その"真実"を知る人物を僕は……いえ、僕達はよく知っています」
武闘家「………………」
そう言ってから武闘家はしばらく目を閉じて黙っていたが、何かを決心した様に目を開くと静かに言った。
武闘家「それは勇者にとって……最も近くて最も遠い人です……」
僧侶「…………!!」
魔法使い「…………?」
武闘家の言う人物が誰だか分かった僧侶と誰だかいまいち分からなかった魔法使いが勇者を見たのは同時だった。
勇者「………………」
ベッドの上で身を起こす勇者は彼女達の視線など気にする素振りすらなく眉間に皺を寄せ口を真一文字に結んでいた。
その視線の先には布団の皺があるがそこに焦点が合っていないのは誰が見ても明白であった。
勇者(…………向き合わなきゃならない、もう避けてはいられないんだ…………)
固く拳を握りそっと視線を窓の外に移した。
日が沈みかけ薄暗くなった通りには魔力灯に明かりが灯りチカチカと瞬いていた。
病室もすっかり暗くなっていたのだが誰も明かりをつけようとはせず、四人は静かに暗闇の中に佇むだけであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:43:30.83 ID:hr/uKPTi0<> 【Memories05】
――――白の国・王都・路地裏の酒場
カランコロン
馴染みの酒場のドアを引くと扉につけられた小さな鐘が軽やかに鳴った。
幾度となく聞いた音だ。
私が店に入るとカウンターでは白く長い髭をたくわえた白髪の老人が乾いた布でグラスを拭いていた。
これも幾度となく見た光景だった。
私「よう」
店主「ん、よく来たのぅ」
店主といつものやり取りをしてカウンターの一番奥の席――――私が普段座る席へと腰を降ろす。
店主も私がその席に座ることは分かりきっているので私が席に座るより早く手拭きをカウンターに置いた。
私「いつもの」
店主「むぅ……そう言えばお前さんのボトルは先週空けてしまったんじゃったな」
私「"いつもの"と言っただろ?新しいのを頼む」
店主「いつもいつも安い酒しか頼まないのぅ……たまには気前良く高いやつでも頼んで店の売り上げに貢献しようとは思わんのか?」
私「こんな寂れた酒場に来てやってるだけありがたく思うんだな」
店主「やれやれ、大勇者ともあろう男がケチ臭い」
私「ほっておけ」フンッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:46:46.38 ID:hr/uKPTi0<> 私「そもそもだな……」
私はそう言って私以外には客のいないこじんまりとした酒場を見渡した。
開店当初は小綺麗だった(と記憶している)店内も今や壁の塗装は何ヵ所も剥げ椅子やテーブルも傷だらけ、とてもお洒落で綺麗なバーなどと言えたものではない。
私「路地裏のこんなボロい酒場に客が来ると思うか?」
私「店主が美人のママだったり若くて可愛いウェイトレスがいたりするならまだしも老いぼれたの爺さん一人しかいないのでは尚更だ」
私が悪態をつくと店主はどこが嬉しそうに答えた。
店主「いいんじゃよ、ワシの店はこれで」
店主「この店はワシの余生の楽しみの様なものじゃ。馴染みの客が酒を飲みながらくつろいでいってくれれば儲けがなくてもそれでいいんじゃ」
私「だったら私が安酒を頼んでも一向に構わないだろう」
店主「それとこれとは話が別じゃ」フォッフォッフォ
店主は笑いながら新しいボトルを開け、氷の入ったグラスに酒を注ぐ。
店主「ほれ」
私「……」グイッ
差し出されたグラスを受け取り酒を一口飲んだ。
軽く焼ける様な感覚が喉を通って胃へと染み込んでいく。
店主「……まぁ安酒の割に味は良いんじゃよな」フフ
私「そうでなければ毎回頼まんさ」フッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:47:59.43 ID:hr/uKPTi0<> 二口目を飲もうとグラスを口に近付けた時に店主が話を切り出した。
店主「…………青の国が奇襲攻撃を受けたらしいのぅ」
カウンター奥の棚の方を向いていたので私からでは見えなかったが、白い眉の奥から見える鋭い眼光を放っていたに違いない。
私「……相変わらず耳が早いな」ピタッ
私は飲みかけのグラスを置いて話を続けた。
私「箝口令が出されていて青の国内でもあまり知られていない筈なんだがな」
店主「昔のツテがいくらでもあるわぃ、酒場の店主の情報収集力を舐めるもんじゃないのぅ」
私「本当に恐ろしい爺さんだ」
店主「そんなことはどうでもいいんじゃよ、お前さん今回の一件どう見る?」
私「……そうだな。敵の指揮官が魔王でも魔将軍でもなかったことが気になるが、今回の奇襲攻撃で聖十字連合に緊張が走ったのは事実だろう」
私「そもそも近年大きな戦が無かったことの方がおかしかったのだ。今回の奇襲を契機に大規模交戦に発展する可能性も低くはないだろうな」
店主「そうなればまた多くの命が失われることになるのぅ……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:49:11.50 ID:hr/uKPTi0<> 店主「お前さんの息子も頑張った様じゃが、それでも聖十字連合と黒の国の関係の悪化は免れんじゃろうな」
私「……あの馬鹿はまた戦場で敵を一人も殺さなかったらしい。甘すぎるのだ、そんなことではいつか自分が命を落とすことになると何度も言っているというのに」
私は息子の愚かしさに腹が立ち思わず顔をしかめた。
店主はそんな私を見て息子をフォローするように優しく言う。
店主「息子さんは優しいんじゃろ、お陰で青の国のフラストレーションは大分押さえられたじゃろうて」
私「それはそうかもしれん…………だがそれでも私達が生き延びるためには戦い、敵を殺さなければならない。その事実は変え様があるまい」
店主「………………」
店主「何にせよ今回の風鳴の大河への奇襲は確実に世界に波乱を呼ぶことになるじゃろうな」
私「…………風鳴の大河…………か」
その名は私にとって特別な響きを持っていた。
私がまだ駆け出しの頃から、99代目勇者に任命されてから、人々から大勇者と呼ばれるようになってから、何十回と風鳴の大河の戦場で戦ってきた。
そしてその名を聞く度に思い出すのは"アイツ"のことだ。
何故なら風鳴の戦場は私が"アイツ"と出会った最初の場所だからだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:50:05.31 ID:hr/uKPTi0<> 店主「お前さんの息子も頑張った様じゃが、それでも聖十字連合と黒の国の関係の悪化は免れんじゃろうな」
私「……あの馬鹿はまた戦場で敵を一人も殺さなかったらしい。甘すぎるのだ、そんなことではいつか自分が命を落とすことになると何度も言っているというのに」ギリッ
私は息子の愚かしさに腹が立ち思わず顔をしかめた。
店主はそんな私を見て息子をフォローするように優しく言う。
店主「息子さんは優しいんじゃろ、お陰で青の国のフラストレーションは大分押さえられたじゃろうて」
私「それはそうかもしれん…………だがそれでも私達が生き延びるためには戦い、敵を殺さなければならない。その事実は変え様があるまい」
店主「………………」
店主「何にせよ今回の風鳴きの大河への奇襲は確実に世界に波乱を呼ぶことになるじゃろうな」
私「…………風鳴きの大河…………か」
その名は私にとって特別な響きを持っていた。
私がまだ駆け出しの頃から、99代目勇者に任命されてから、人々から大勇者と呼ばれるようになってから、何十回と風鳴きの大河の戦場で戦ってきた。
そしてその名を聞く度に思い出すのは"アイツ"のことだ。
何故なら風鳴きの戦場は私が"アイツ"と出会った最初の場所だからだ。
数え切れない程に剣を交え、血を求め、骨肉を削り合い…………そして私が命を奪ったあの男との出会いの場所だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:51:25.13 ID:hr/uKPTi0<> ――――21年前・青の国・風鳴の大河
ウオォォォォ!!
キィン!!
ガキィン!!
剣士「『五月雨を、集めてはやし、風鳴きの』ねぇ……風情もクソもあったもんじゃねぇな」
私「お前なぁ、戦場に風情もクソもあるかよ」
剣士「だってよ、俳句で有名な風鳴きの大河だぜ?どんなとこかと思えば随分殺伐としてるじゃねぇか」
私「風流な戦場なんてこの世のどこにもありゃしないっつーの」
剣士がそう言ったのは戦士達の叫びと武器のぶつかり合う音で風鳴きの大河の川の音は完全にかき消されていたからだろう。
私と剣士はその日、青の国の戦力として白の国から援軍に来ていた。
当時の私はまだ正式に99代目勇者を襲名していなかったが、他の勇者候補達の中ではその実力は群を抜いており99代目勇者の座は私のものとなるだろうと自分でも思っていた。
私「つーか、今日爺さんはどうしたんだよ?見てねぇけど」
『爺さん』と言うのは当時私と剣士がパーティを組んでいた大賢者のことだ。
剣士「あぁ、なんでも今日は歯医者で来れないとかなんとか」
私「はぁ!?歯医者!?そんな理由で戦場に来ないって何考えてんだあの爺さんは!!」
剣士「まぁ普通その反応だよな」ガハハッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:52:30.86 ID:hr/uKPTi0<> 私「……ったく、俺達がこうして戦場に駆り出されてるってのによ」
……そう言えば若い頃の私の一人称は『俺』だったな。
言葉遣いも粗悪だったし……まぁ若さ故というものだろう。
剣士「まぁそう言うなって、なんせ95代目勇者とパーティを組んでたこともある大ベテランだからな。それくらいのワガママも許されるんだろ」
私「にしてもあの爺さんは戦を休みすぎだろ、そんなんじゃいつまで経っても世界を平和になんかできねぇっつの」
私が愚痴ると剣士が茶化すように笑いながら言った。
剣士「お〜、やっぱり99代目勇者候補殿は言うことが違うじゃねぇか」ガハハ
私「へっ、まぁな。俺がサクッと魔族供をぶっ殺して人間達を勝利に導いてやるぜ」ニッ
私「だから今回の戦もさっさと終わらせて帰るぜ」
剣士「……そう簡単に行きゃいいけどな」
私「あん?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:53:30.65 ID:hr/uKPTi0<> 突然剣士の顔色に陰りが差した。
不安げな声色で彼は話し始めた。
剣士「お前知ってるか?黒の国の軍にいる恐ろしく強い兄弟のこと」
私「いや?初耳だけど……」
剣士「最近魔将軍と黒騎士に任命された二人らしいんだけどよ、それがかなりの達人らしいんだ」
剣士「特に兄貴の魔将軍の方はとんでもない化物らしくてな、先月の銀の国での戦じゃ千人斬りをやってのけたらしい」
剣士「間違いなく99代目魔王はそいつになるだろうって噂だ」
私「んで、その魔将軍がこの戦場に来てるってワケか?」
剣士「あぁ」
私「……ったく、情けねぇなぁ。そんぐらいでビビんなよ」ハァ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:54:14.69 ID:hr/uKPTi0<> 剣士「別にビビッてるワケじゃねぇさ。ただ油断して死んじまったりしたら元も子もねぇって話だ」
剣士「俺はそういう部下達を何人も見てきたからな、だから……なんつーか不安でよ」
私「………………」
剣士は私とパーティを組む前は白の国の騎士団長を務めていた。
若くして騎士団長となった彼は多くの戦地へと赴き、戦い、勝利し、時には敗北し、そして多くの部下達を失ってきたのだろう。
だから私の慢心がいずれ私の命を奪うことになるのではないかと常から心配していたのだ。
そんな彼の不安を理解し私は努めて明るい声で言ってやった。
私「千人斬りなんて俺がしょっちゅうやってんだろ、驚くことでもなんでもねぇっての」
剣士「そりゃそうだけどよ……」
私「そ、れ、に、だ」
右手の人指し指を立てて剣士の鼻先へと突きつけた。
剣士「?」
私「歴代最強の勇者になれると謳われるこの俺がそう簡単にくたばると思うか?」
剣士「………………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:55:27.87 ID:hr/uKPTi0<> 剣士は呆れた様な困った様な、如何とも言い難い顔で私の顔を見ていたが、少しするといつものように豪快に笑って言った。
剣士「ハハッ、思わねぇな。少なくともお前は殺したくらいじゃ死ななそうだ」ガハハッ
私「おいおい、それじゃ俺がゾンビかなんかみたいだろうが、他に言い方なかったのか?」
剣士「悪ぃな、俺頭良くねぇから他の言い回しなんか思いつかねぇわ」
私「どの口が言うか、隠れ優等生め」チッ
剣士「俺の成績で優等生なら俺らの同輩の半分以上は優等生だぞ。お前が頭悪すぎるだけだ」
私「ぬぐ…………い、いいんだよ!!実技ができれば!!」
剣士「はいはい」ククッ
剣士の緊張も解れたところで私は背負っていた剣を抜いて言った。
私「……さて、んじゃあ行くか」
剣士「おう」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:56:30.59 ID:hr/uKPTi0<> 私が臨戦体勢に入ったのを察して剣士も担いでいた大剣の刃に巻き付けてあった厚手の革をほどいた。
身の丈よりも大きな剛剣を軽々と、しかも完璧に扱いこなせるのは彼くらいのものだ。
私「俺は北から、お前は南から敵の本陣を目指す。いいか?」
剣士「任せろ」
私「おっしゃ!!いくぜ!!」ダッ!!
剣士「あぁ!!」ダッ!!
叫ぶと同時に私達は二手に別れ地を蹴って戦場へと駆けていった。
この時、私が南へ向かっていたのならば物語はまた違った展開を迎えていたのかもしれない。
…………いや、やはりそれはなさそうだな。
早いか遅いかの違いはあれど私とあの男が出会うことになるのは必然であったのだから……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:57:28.60 ID:hr/uKPTi0<> ――――――――
剣士と別れ北側を行く私は正に一騎当千。
襲い来る魔族達を大火力の攻撃魔法で次々に蹴散らし爆進して行った。
……という訳ではなかった。
カアアァァァ!!
私「……っと」バッ
ゴオオォォォ!!
私の居た場所に展開された罠式魔方陣が発動すると私は難なく魔方陣から吹き出した炎を避けた。
私「…………まったく、どうなってやがんだ?」
十数個目の罠を避けたところで激しい疑念を抱きながら私は呟いた。
と言うのも私の行っていた北側は多くの罠式魔方陣が張り巡らされているだけで魔族の兵が一人もいなかったのだ。
それは言うまでもなく異様な状況であった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:58:09.46 ID:hr/uKPTi0<> 敵を罠に嵌めるためにトラップを仕掛け、敵を誘き寄せる戦術は存在するし、有効な手段として昔からよく使われている。
だがそれでも必要最低限の兵士は配置しておくものだし、何よりあからさまに兵の数が少なければ敵側に不信がられ罠に気付かれる可能性が大幅に増す。
それに私を襲った罠式魔方陣の威力は超高火力ということもなく、到底『罠に嵌めて一網打尽』ということができる威力では無かった。
だからその戦場は正しく"異様"な戦場であったという訳だ。
私(何が目的だ?意図して兵を出さないことに何の意味がある?)
私(あえて北側は手薄にしてその分南側の戦力を強化……南側から戦況を一気に巻き返すってか?)
私(……いや、そりゃなさそうだな。そんなことして北側が抜かれちまったら意味がねぇもんな)
私(…………じゃあもし北側が抜かれないっていう何かの理由があったらとしたら…………) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 07:59:19.68 ID:hr/uKPTi0<> 私「……!?」ピクッ
突如として辺り包んだを凍てつく殺気に私の動物的本能が最大級の警鐘を鳴らした。
考えるより先に体が生存のために防衛策をとっていた。
私『防壁魔法陣・断』!!バッ
ゴオオオオォォォォォ!!
咄嗟にその場に防壁魔法を展開すると私が立っていた一帯を焼き払う凄まじい業火が私を襲った。
間一髪であった。
少しでも防壁魔法の発動が遅れていたなら私の体は一瞬にして炭化していただろう。
それほどまでにその炎撃魔法の威力は驚異的であった。
実際私の展開した防壁魔法は完全に炎を遮断し切れずマントの裾は少し焦げていた。
私「なんて威力の炎撃魔法だよ、俺の魔法でも防ぎ切れねぇなんて……!!」
その場は防壁魔法陣を張った私の背後の放射状を除いて広範囲が焼け焦がれていた。
周囲は何者かの放った炎撃魔法の残り火が至るところで揺らめいていた。
そして正面、炎の揺らめきの奥に人影が見えた。
背丈は別段大きくはない、私と同じかそれより少し高い程度の男だった。
全身は真紅の鎧に包まれ、頭部も厳つい兜で覆われていたため顔すら見えなかった。
だが彼の鎧の左胸の部分には黒の国の紋章が刻まれていたので彼が魔族の兵だというのはすぐに分かった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:01:15.95 ID:hr/uKPTi0<> 私「……よぅ、今の炎撃魔法はアンタの仕業か?だとしたら随分と乱暴なご挨拶じゃねぇかよ」
思えばこれが私がアイツに掛けた最初の言葉だ。
皮肉と敵意たっぷりに言ってやったことをよく覚えている。
アイツ「……正直驚いた、まさか今のを耐えるとは……並の防壁魔法では防ぎ切れない筈なのだが」
淀みない口調に芯の通った声。
まるで王族や上流貴族のような気品ささえ携えたその声は彼が人の上に立つ器の持ち主であることを表しているかの様だった。
私「おいおい、舐めてもらっちゃ困るな」
アイツ「舐めてなどいない。むしろ褒めたつもりだったのだがな」
私「そうかい、そりゃどうも」
私「んじゃ今度は俺からの挨拶だ……『さようなら』のな!!」ドンッ!!
私は地を蹴りアイツとの距離を一瞬で詰めた。
アイツは私のスピードにも憶することなく瞬時に腰に差していた剣を抜き放ち防御体勢に入った。
私「……」ニッ
タンッ!!
アイツ「……!?」バッ
そこで私は跳んだ。
奴の頭上を弧を描く様に宙を舞ったのだ。
流石に私のその動きは予想外だった様でアイツは私を見上げ一瞬硬直した。
その一瞬は私にとっては十分すぎる一瞬だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:02:11.45 ID:hr/uKPTi0<> カアアアァァァッ!!
私『三重雷撃魔法陣・轟』!!
ズガガガーーーン!!
バリバリバリバリ!!
地上目掛けて放った多重最上級雷撃魔法陣は轟音と共に一帯をいかずちの海に沈めた。
数々の戦場で魔族の兵達を一網打尽にしてきたその雷撃を受けて立っていた者など一人もいなかった。
勝利を確信した私は空中で優雅に三回転すると華麗に着地を決めてみせた。
私「俺が上に跳んだことに反応できたのは誉めてやるよ」ヘヘッ
私「普通の奴には視界から消えた様にしか見えねぇハズだも…………!?」ゾクッ!!
ビュバッ!!
私「くっ!?」サッ
その日二度目の凍てつく殺気を感じ私は瞬時に身を屈めた。
頭部へ向けて背後から放たれた横薙ぎをギリギリでかわしそのまま前転、背後を振り向きつつ距離をとると奴がその手に剣を携え悠然と立っていた。
私「……おいおい、今ので生きてるだと……?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:03:12.09 ID:hr/uKPTi0<> アイツ「そう驚くことでもないだろう」
鎧についた砂埃を払いながらアイツは淡々と話し始めた。
アイツ「単純な話だ。貴様の放った雷撃魔法を私の雷撃魔法で相殺しただけのこと」
アイツ「まぁ数コンマ私の方が魔法陣を発動させるのが遅れたからな、魔力の集中が足りなかったため完全相殺することはできなかった」
そう言って先のボロボロになった漆黒のマントの裾をこちらに見せてきた。
アイツ「お陰でこの通り、一張羅が台無しだ」
私「……今まで防いだ奴は一人もいなかったんだがね」
アイツ「そうか、お褒めに与り光栄だよ」
私「褒めてねぇよ」チッ
私(簡単な様に言いやがったが今の芸当、そうそうできるもんじゃねぇぞ?)
私(あの一瞬で俺の雷撃魔法のダメージを十分軽減できるだけの魔力を集中させた反応速度と魔力量、俺の攻撃に対するベストな状況判断……)
私(多分大賢者の爺さんぐらいしかできない様な完璧な対応をしてくるとは……コイツとんでもなくデキるな……)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:04:26.36 ID:hr/uKPTi0<> 私「…………そうか」
アイツ「?」
私「お前が銀の国で千人斬りをしてのけたっていう魔将軍か」
アイツ「……なんだ、今頃気付いたのか?」
アイツ「いかにも、私が魔将軍だ」
私「その魔将軍サマともあろうもんが部下も引き連れずに一人で出陣か?相当人望がないみたいだな」
アイツ「そういう貴様も一人ではないか」
私「俺はわざと一人で来てるんだよ」
私「周りに仲間がいない方が気がねなく思う存分戦えるんでね」ニッ
アイツ「私も同じ理由さ」フッ
私「へぇ、随分な自信じゃねぇかよ」
アイツ「お互い様ではないか?」
私「…………フンッ、そうまで言うなら全力で相手してやるよ」
私「後悔するなら死ぬ前にしとけよ」
アイツ「ほぅ、面白い」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:05:11.52 ID:hr/uKPTi0<> 私「……ハァッ!!」チャキッ
カアァァ!!
私は剣を持つ両手の甲に拳大の魔法陣を展開した。
私「はあああぁぁぁぁ……!!」
バチバチ……バチバチバチバチ!!
そして両手の間に雷撃魔法を発動させ刀身へと魔力を集中させた。
バチバチバチバチ!!!!
高密度の魔力は次第に弾ける音を強くしていき、圧縮されていく雷撃は青から紫へそして白へと輝きを変えていった。
私「ハァッ!!!!」
ドンッ!!
最後の超圧縮を終えると魔力の波が周囲に強風を巻き起こした。
アイツ「な…………」
私「…………待たせたな」
カアアアアァァァ!!
アイツ「……それは!?」
さしものアイツも私の手に握られた光の剣を眼にしてド肝を抜かれた様だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:06:11.15 ID:hr/uKPTi0<> 私「『魔法剣』……って言ってな、超高密度に圧縮した攻撃魔法を剣に纏って扱う裏魔法だ」
私「極限まで圧縮された俺の雷撃魔法の剣は『絶対轟断の剣』。金属だろうが魔法だろうがあらゆる者を斬り伏せる」
私「攻撃魔法を一定の形で保ち続けることの難しさは言うまでもないだろうけどそれを継続させるためには膨大な魔力が必要になる」
私「昔から理論的には可能だとされてたみたいだけどその使い手は1人もいなかったらしい」
私「かく言う俺もこういう繊細な魔法は大の苦手でな、2年かけてやっと出来るようになった」
アイツ「…………」
私「ま、幻の秘剣に斬られてあの世へいけることを感謝するんだな」
アイツ「…………驚いた」
私「……?」
その時私は奴の声色に疑問を持った。
何故か嬉しそうにそう言ったからだ。
だがその疑問はすぐに解消されることになる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:06:45.69 ID:hr/uKPTi0<> アイツ「……まさか私以外に『魔法剣』を使う者がいるとはな」チャキッ
私「…………何?」
カアァァ!!
奴は先刻までの私と同じ様に両の拳に魔法陣を展開すると手にしていた剣へと炎撃系の魔力を集中させていった。
ボオオゥゥ!!
アイツ「はあああぁぁぁぁ!!」
メラメラメラメラ!!
ゴオオォォォ!!!!
高密度の魔力は次第に燃え盛る音を強くしていき、圧縮されていく炎撃は赤から青へ、そして黒へと色を変えていった。
アイツ「ハァッ!!!!」
ドンッ!!
奴を中心に熱風が巻き起こった。
ある程度距離を取っていた筈だが火山の火口にでもいるような熱気が感じられた。
私「な……まさか、そんな……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:07:46.20 ID:hr/uKPTi0<> 私は奴の手に握られた黒炎の剣を目にして驚愕のあまり言葉を失った。
紛れもない魔法剣だった。
見かけ倒しの魔法などでは無い、正真正銘の魔力を纏った剣が奴の手には握られていた。
と言うよりも見かけ倒しの魔法剣など存在しようがないのだからそれが魔法剣であると認めざるを得なかった。
アイツ「炎撃魔法を超圧縮したこの剣はあらゆるものをその灼熱の刃によって焼き切る……『絶対灼斬の剣』と言ったところか」
私「…………」
アイツ「貴様と私はよく似ている様だな」フフッ
私「やめろ。お前みたいなスカした野郎と一緒にされたら虫酸が走る」チッ
アイツ「フッ、そうか」
私「それに俺とお前が似てようが似てまいがんなこと関係ねぇんだよ」スッ…
アイツ「……?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:09:05.82 ID:hr/uKPTi0<> 私「俺とお前が敵同士で、殺し合うことに変わりはねぇんだからな」チャキ
アイツ「…………」
アイツ「……それもそうだな」チャキ
私と奴は構えをとり魔力を解放した。
二人の魔力が大気と大地を微かに揺らしていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
私「…………」バチ…バチチッ
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
アイツ「…………」ゴオォ…
ドドンッ!!
両者が地を蹴ったのは同時であった。
私「らぁ!!」ビュッ
アイツ「ハァッ!!」ビュッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:09:55.19 ID:hr/uKPTi0<> ガキィーーーン!!
バチバチバリバリ!!
上段から振り下ろした私のいかずちの太刀と左薙ぎで振り抜いた奴の焔の太刀が真正面からぶつかり合いけたたましい金属音と高密度の魔力のぶつかり合いによる異音を奏でた。
私「!!」
アイツ「!!」
達人同士ともなれば剣と剣を、拳と拳を、軽く交えただけで相手の力量をある程度推測することができる。
「こいつは明らかに自分より格下だ」とか「こいつには少しばかり苦戦しそうだ」だとか……そう言った具合にだ。
そして……私達もその第一撃によって互いに相手の力量を悟った。
『自分と全くの同レベルだ』と。
こいつを殺るには自分の全力を、全身全霊全てを懸けなければならないだろう。
そう悟った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:10:29.26 ID:hr/uKPTi0<> 私「う……おおおおおぉぉぉぉ!!」
アイツ「は……あああああぁぁぁぁ!!」
ギィン!!
ガキィン!!
ガガキィン!!
キキィン!!
キィン!!
ガキイィーーン!!!!
相手の力量を知り全力で闘うことを覚悟した私は傲りや慢心を捨て目の前の敵を殺すために剣を振るった。
だがそれでも奴を仕留めることは叶わなかった。
奴もまた本気で私を斬りにきていたからだ。
奴の魔法剣は炎撃魔法を超高密度に圧縮したもの。
接近戦では避けても防いでもその灼熱が私の身体を焼き焦がしてしまいそうであった。
太刀から噴き上がる業火が私の肌を、髪を、服を焦がしたた。
しかし私の魔法剣も雷撃魔法を超圧縮したもの。
一撃一撃を受ける度に迸る電流が奴の身を切り裂き、雷撃が奴の身体を蝕んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:11:13.94 ID:hr/uKPTi0<> キキィン!!
ガキィン!!
私「せいっ!!」ビュッ
アイツ「ハァッ!!」バッ
キン!!
キィン!!
アイツ「……くっ!!」
私(…………!!)
私「もらったぁ!!」ビュッ
私の猛攻を防ぎ切れなかったのか奴のガードに一瞬隙が出来た。
その隙を見逃すほど私は甘くはなかった。
勝負を決める一太刀を奴の頭部に向けて放った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:12:09.86 ID:hr/uKPTi0<> ドゴォッ!!
私「が…………っ!?」
が、私の手には確かな手応えは無く腹部に強烈な痛みが走っただけだった。
その衝撃と共に私の身体は吹き飛ばされた。
アイツ「剣を持った者同士の闘いだからといって相手が剣撃しか使ってこない、なんてことはない」
アイツ「決めの一撃に目を奪われ私の蹴りには対処出来なかったようだな」
私「……チッ、やるじゃねぇかよ」ムクッ…
アイツ「私の隙を見逃さなかったのは流石だが、貴様の太刀はあの体勢からでも十分避けることができた」
アイツ「あと一歩踏み込んで来てくれさえすればあばら骨の2、3本は折ってやれたのだが残念だ」フッ
私「…………」
私「……そいつはどうだろうな?」ニッ
アイツ「……何?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:13:12.64 ID:hr/uKPTi0<> ピシッ!!
アイツ「!?」
パカァン
奴の兜に一筋の線が入った直後、兜は音を立て綺麗に真っ二つに割れ地面へと落ちた。
私「へぇ……思った通りスカした野郎はスカした面してるもんだな」
露になった奴の素顔を見て私は言ってやった。
透き通る様な美しい銀髪と整った顔立ち、そして鋭い光を放つ二つの眼。
美青年、とでも言うのだろう。
とにかく奴の素顔は同性から見ても凛々しく見えたのは確かだ。
アイツ「まさか……先の一撃、かわし切れていなかったとは……」
私「残念だよ、あと一歩踏み込んでたらお前のその面ぶった斬ってやれたのによ」ヘヘッ
アイツ「……どうにも認めざるを得んな、貴様の実力がこの私と同等のものであると」
私「俺もだ。お前が全力で倒すに値する相手だって認めてやるよ」
アイツ「それは誉めているととって構わないか?」フッ
私「今回のは、な」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:14:03.00 ID:hr/uKPTi0<> 私が答えると奴は嬉しそうに不敵に笑ってみせた。
私も同じ様に笑っていたから奴の気持ちがなんとなく分かった。
「あぁ、コイツも同じなんだな」と。
勿論私がそう感じたのはただの勘にすぎない。
だがそれでも奴ならばこの感情を理解してくれるかもしれないとその時の私は思っていた。
本来なら戦場で敵と語り合うなど言語道断なのだが私は奴に語りかけた。
そうせずにはいられなかった。
私「なぁ……?」
アイツ「……?」
私「変なこと言ってると思うかもしれねぇけどさ」
私「俺今まで戦場で魔族と戦ったり、他の勇者候補と試合したりしたけど……上手く言えないけどずっと心のどっかにでっかい隙間があってよ」
私「『満たされない』……っつーのかな?」
私「俺が全力を出すまでもなく倒せる魔族、本気を出すまでもなく勝てちまう勇者候補達……闘いや勝利になんの満足感も達成感もなかった」
私「まるでひたすらぬるま湯に浸からされてるみたいな感覚だった」
アイツ「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:15:25.37 ID:hr/uKPTi0<> 私「でも今日お前に会えてこうして剣を交えて、俺はすげーわくわくしてる」
私「死ってやつを間近に感じながら自分の全力を出して戦える相手がいるってことが嬉しくて嬉しくてたまらねぇんだ」
アイツ「…………」
私「……ハハッ、いきなり意味わかんねー話して悪かったな」
私は自分でも何を言っているのか分からず苦笑混じりに詫びをいれた。
だが奴は私を笑うでも貶すでもなく、静かに言った。
アイツ「……いや」
私「?」
アイツ「わかるさ、私も同じことをずっと感じていたからな」フッ
私「…………そうか」
アイツ「しかしなんだな、やはり貴様と私はよくよく似ているようだ」
私「だから俺はお前みたいなスカした野郎じゃねぇっての」チッ
私「それにさっきも言っただろ、似ていようが似て……」
アイツ「『似ていまいが関係無い、私と貴様が敵同士で殺し合うことに変わりはない』……だな」
私の言葉を遮り奴は言った。
そしてその言葉を聞き……私達は自らの立場と自らの成すべきことを再認識した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:16:23.60 ID:hr/uKPTi0<> 私「そういうこった」チャキ
私は軽く剣を持ち直した。
アイツ「さて……些か名残惜しい気もするがここは戦場だ。そろそろ終わらせるとしよう」チャキ
奴は魔法剣に更に魔力を込めた。
私「それは俺のセリフだ。この勝負、勝たせてもらうぜ」
私も負けじと魔法剣に雷撃を込めた。
アイツ「私とて負けるつもりなど毛頭ない」
私達二人は構えをとった。
眼は真っ直ぐに相手の瞳を見つめていた。
相手の命をとろうという決死の闘いが始まろうというのに私達二人の瞳は沸き上がる高揚感を隠せずにいた。
そして二人同時に叫んだ。
私「行くぞ!!」ドンッ!!
アイツ「参る!!」ドンッ!!
繰り出した二人の剣撃がまたも交わ……。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:17:31.41 ID:hr/uKPTi0<> ――カカラァン
私「」ハッ
氷がグラスを打つ音で私は我に返った。
そう、今私がいるのは老いぼれ店主の経営する馴染みの酒場だ。
いつのまにか懐古の念にとらわれていたようだ。
……もう随分と昔のことなのに鮮明に覚えているものなのだな……。
私は感傷に浸りながら手にしていた酒を一口飲んだ。
店主「随分呆けていたようじゃがどうかしたかのぅ?」
店主は簡単なつまみが盛り付けられた小皿を私の席へと置いて言った。
私「……いや、なんでもないさ」
店主「大方昔のことを思い出していたんじゃろう?」
私「……何故分かった?」
店主「ほっほ、やっぱりそうか」ニヤリ
店主「なぁにただの勘じゃよ、勘」
私「勘で心の内が読まれたらたまったものではないな」
店主「誰も彼も分かるわけではないわい」
店主「長い付き合いじゃからのぅ……お前さんの考えてることぐらいは分かるつもりじゃよ」
私「……やれやれ、相変わらず恐ろしい爺さんだ」フゥ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:18:31.37 ID:hr/uKPTi0<> 小さく息をつきつまみに手を伸ばそうとした時だ。
カランコロン
軽やかな鐘の音が聞こえた。
酒場への来客を告げる音だ。
いくら客の来ないこの酒場と言えど私以外に客が来ることはそう珍しくはない。
店主「いらっしゃ……」
店主は客を見て何故か言葉を詰まらせた。
私「……?」
つまみから店主へと視線を移すと店主は驚き眼を丸くしていた。
よほど来客が意外な人物だったのだろうか?
私がそう考えたところで店主が言った。
店主「客は客でも……お主にお客さんのようじゃな」
私「何を言っているんだ……?」
私は振り向き酒場の入り口を見た。
私「酒場に来たからにはお前の客に決まって…………」
客を視界に捉えた私もまた言葉を詰まらせざるを得なかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:19:38.50 ID:hr/uKPTi0<> 私(あぁ……なるほどな)
そして店主の言葉の意味を理解した。
たしかにその客は酒場の客であって酒場の客ではなかった。
会うのは三ヶ月ぶりだろうか。
実にばつの悪そうなその顔でこちらを見る少年の瞳は困惑と苦悩の色が見てとれた。
若干やつれ気味の顔はまるで昔の自分を見ているような気さえした。
彼がなにも言えずにただ突っ立っているだけだったので仕方なく私から声をかけてやった。
私「…………どうした、そこにずっと立っているわけにもいかんだろう」
私「私に用があるのだろ?」
勇者「………………」
100代目勇者――――息子は何も言わずにそっと後ろ手に酒場の扉を閉めた。
<>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2012/12/29(土) 08:23:30.95 ID:hr/uKPTi0<> 今日はここまでにしときます
確認してるつもりなのに我ながら誤字脱字が目立つなぁ
読むときには脳内補完していただけると助かります; <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 08:29:19.61 ID:fBL6TNuno<> 一回の投下量ヤバいwwwwwwww
あとで見ようっと <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 09:53:26.09 ID:F4S+ec96o<> 面白い
でも、そろそら終わりそうか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 10:33:39.21 ID:JXqgvvlXo<> すごく面白いし
投入量が多いから嬉しい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 10:39:45.41 ID:zpacrSzGo<> 乙
普通に面白い、全部一気に読んでしまった…。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 10:40:14.32 ID:1gbVvoH2o<> がっつりしてるけどすごい読みやすい
やっぱ王道はええなぁ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/30(日) 01:40:27.06 ID:xaCuA3z50<> 面白い乙乙
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/30(日) 04:21:24.80 ID:Lmq1pt8Oo<> 支援
昨日からこの話を読むのが楽しくて仕方ない <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2012/12/30(日) 06:57:29.45 ID:OZHJJ8vm0<> 読んで下さっている方々、本当にありがとうございます!
「面白い」の一言が本当にうれしいです...
んじゃ、今日の分行ってみまーす!! <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2012/12/30(日) 06:58:29.06 ID:OZHJJ8vm0<> 【Episode06】
――――白の国・路地裏の酒場
勇者「…………」
大勇者「…………」
大勇者行きつけの質素な酒場は大勇者と勇者――――一組の父と子の貸し切りとなっていた。
どうせ今日はもう客は来そうにないから、と店主は本来の店じまいには二時間以上も早いのに酒場を閉め、店を親子のためだけの空間にした。
「親子で積もる話もあるじゃろう」
そう言って店主は気を利かせて奥の部屋へと入っていった。
だから今この酒場は本当に99代目勇者と100代目勇者二人だけの空間なのである。
勇者は店に入ると大勇者の隣の席へと静かに腰掛けた。
勇者は酒が飲めないので水の入ったグラスを手にしている。
しかしグラスにはまだ口をつけていない。
入店してからというものずっと思い詰めたように押し黙ったままだ。
そんな勇者を横目に見ながら大勇者は息子が口を開くのを待っていた。
喧嘩別れ同然に家を飛び出した息子がこうして自分の前にいる。
それだけで息子に何か重大な事件が起こり、自分に助けを求めているのだと察することはできた。
だが何が起こったのか、どんな形で自分の手を借りようと思っているかなど皆目検討がつかない。
だからただ酒を飲んでその時を待っていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 06:59:04.01 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者「…………」
大勇者「…………」
二人だけになってから一分が経った。
勇者「………………」
大勇者「………………」
三分経っても沈黙は破られない。
勇者「……………………」
大勇者「……………………」
五分が経過しても勇者は話を切り出せずにいた。
大勇者「はぁ…………」
しびれを切らした大勇者は長く深いため息をつくと勇者に話しかけた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 06:59:56.49 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「よくもまぁのこのこと帰ってこれたものだな。人間と魔族が共存できる世界を作るまで帰ってこないんじゃなかったのか?」
勇者「……うるさい。家に帰らないって言っただけで白の国に帰らないなんて一言も言ってねぇよ」
大勇者「たいした屁理屈だ」フンッ
勇者「十分な理窟だ」ムスッ
大勇者「それにしてもよく私がここに居ると分かったな」
勇者「家の灯りがついてなかったからな。家にいなきゃここしかないだろうと思って」
大勇者「なんだ、やっぱり家に帰ったんじゃないか」
勇者「玄関開けて家の中に入ってないから帰ったことにはならない」
大勇者「……たいした"理窟"だな」フンッ
勇者「……うるさい」ムスッ
ぶっきらぼうにそう答えると勇者はまた黙り込んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:00:34.20 ID:OZHJJ8vm0<> このままでは気まずい沈黙の中で夜明けを迎えてしまいそうだったので仕方なく大勇者が話を振った。
大勇者「……で、一体私に何の用なんだ?」
勇者「…………」
大勇者「わざわざ100代目勇者としての旅を中断してまで"この私に"会いに来たんだ。何か理由があるのだろう?」
大勇者「泣いてだだこねてろくに喋りもせずに親にあれこれしてもらえるのは赤ん坊だけだ」
大勇者「子供じゃあるまいし用件があるのなら自分の口で言え」
勇者「………………」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:01:55.11 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者は大勇者に対して複雑な想いを抱いていた。
勇者の任に就きおよそ20年もの間、前線で魔族達と戦い人々の希望となってきた99代目勇者。
勇者はそんな偉大な父を誇らしく思うのと同じくらい嫌っていた。
『魔族は絶対の敵』
そう言って自分の考えを息子に押し付け、勇者自身の夢である人と魔族の共存を絵空事と鼻で笑う。
魔族という異なる種族に、いや、勇者に対して理解を示そうとせず自分の考えが正しいのだと正義を振りかざす父が嫌いでたまらなかった。
憧憬と嫌悪。
相反する二つの想いが勇者の中には長い間共存していたのである。
だからいざ父に何かを頼まなければならないとなった時、その嫌悪の念が大きな障害となった。
勇者(……親父に頭を下げたくない……)
そんな風に思ってしまう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:02:50.10 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者(でも…………)
戦争の裏に隠されたという真実を知るためにはそうするしかないことは分かっていた。
自分の知らないその真実によって魔王は望まぬ戦いを強いられ、仲間達は傷つき涙を流したのだ。
そう思うと勇者は全てを知りたいと、知らなければならないと思った。
そのためなら自分の些細な逡巡など如何に下らないことだろうか。
勇者(…………よし)
勇者は決意すると手にしていたグラスの水を半分ほど飲み渇ききった口内を潤した。
グラスを勢い良くテーブルに奥と漸く話を切り出した。
勇者「親父……俺、親父に聞きたいことがあって白の国に戻ってきたんだ」
大勇者「ほぅ……?」
勇者が改まって話を始めたので大勇者は静かに心の中で身構えた。
勇者「率直に聞く……」
勇者「…………人間と魔族の戦争の裏にあるものってなんだ?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:03:24.51 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「…………」ピクッ
勇者の問いを受けても大勇者は動揺し顔色を変えたりはしなかった。
だが彼の眉が一瞬動いたことが勇者には十分すぎる答えとなっていた。
勇者(やっぱりそうだ……親父は俺達の知らない何かを知っている!!)
そう確信した勇者は大勇者へと続けざまに質問を浴びせた。
勇者「魔族には人間と闘わなくちゃならないような理由があるんだろ?」
勇者「その理由がなんなのか知らねぇけど……極一部の人間はその理由を知ってて……でもそれを隠してる!!」
勇者「俺王様達に会ったけどみんな和平には消極的だった」
勇者「それはその隠された闇が理由なんだろ!?」
勇者「親父ならホントのこと知ってるだろ!?なぁ、教えてくれよ!!」
大勇者「………………」
大勇者は勇者の詰問を黙って聞いていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:04:28.01 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者(……なるほど、そういう訳か)
息子がどうして自分の元を訪れたのか納得がいった。
そういう理由なら毛嫌いしている筈の父を勇者が頼ってきたのにも合点がいく。
グラスに向けていた視線を勇者の方へと向けた。
横目に見えた勇者は真剣な眼差しで大勇者のことをじっと見つめている。
大勇者「…………どうしてそう思った?」
二呼吸ほど間を置いて大勇者が訪ねた。
勇者「そ、それは…………」
正直に魔王が宣戦布告してきたことを話すわけにはいかなかった。
そのことを話せば自ずと魔王との関係も話さなければならなくなる。
魔族のことを憎悪している父に自分が魔王と友人だと知られれば憤慨した父は自分に戦争の真実を語ってなどくれないだろう。
勇者「…………武闘家だよ」
勇者「アイツが『理論的に考えてこの戦争はおかしい。何か裏があるはずだ』って」
大勇者「……そうか。聡明な彼のことだ、そのことに気付いてもなんらおかしくはあるまい……」
どうやら上手く誤魔化せたようだ。
勇者はホッと胸を撫で下ろした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:05:05.06 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「……たしかに武闘家君の言う通りこの戦争には知られざる闇が存在する」
大勇者「その闇の部分こそが人間と魔族の戦争の真実だと言っていい」
勇者「…………」ゴクッ
大勇者「だが……お前はまだ知る必要がない」
勇者「なっ!?」
大勇者「私が語らずともお前が100代目勇者である以上、いずれ必ず全てを知ることになる」
大勇者「だから私からはお前に何も言うことはない」
大勇者はそれだけ言うと再び口を閉じた。
話を打ち切られ勇者はしばし言葉もなく俯いていたがやがて微かな声が口から盛れた。
勇者「…………今じゃなきゃ」
大勇者「?」
勇者「今じゃなきゃダメなんだよ!!今すぐに知りたいんだ!!」
大勇者「なぜ今でなければならない?」
勇者「それは!!……その…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:05:59.44 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「…………お前、私に隠していることがあるだろう」
勇者「…………ッ」
鋭い眼光を勇者に向け大勇者が言う。
大勇者「バレていないとでも思ったのか?」
大勇者「お前はずっと昔から私になにか隠し事をしている節があった」
大勇者「その隠し事が何なのか知らんがこうして戦争の真実を知りたがるのもそのことに関係しているんじゃないか?」
勇者「…………」
大勇者「沈黙は肯定、だな」
大勇者「私に話を聞こうというならまずはお前が私に全てを話すんだな」
勇者「………………」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:06:39.47 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者は悩んだ。
自分と魔王の関係を本当に父に話しても良いのだろうか?
父のことだ、息子が魔族と、しかも魔王と友人なのだと知れば下手をすれば親子の縁を切りかねないほど怒り狂うかもしれない。
そうなっては戦争の真実を知ることは到底不可能になる。
それだけではない。
魔王が緑の国への大規模侵攻を考えていることを知れば父は躊躇うことなく魔王を殺そうとするだろう。
これまでのことを話すということは魔王の身を危険に晒すことにもなる。
だが……全てを知るためには全てを話し父が真実を語ってくれるという僅かな可能性に賭けなければならないことはどうしようもない事実だった。
勇者は意を決した。
勇者「…………わかった。今まで隠してたこと……今日あったこと……全部話すよ」
大勇者「…………」
勇者「下手したら親子の縁切られちまうかもしれないけど……最後まで聞いて欲しい」
大勇者「……話せ」
勇者「うん……実は俺…………」
唾を飲み込むと勇者は重い言葉を吐き出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:07:42.47 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者「…………ずっと前から100代目魔王と友達なんだ」
勇者の口から発せられた言葉を聞いた途端大勇者は驚愕し眼を見開いた。
大勇者「…………今……何と言った……?」
勇者「だから俺と100代目の魔王はずっと前から友達で……」
大勇者は最初その言葉の意味をすぐには理解できずにしばし硬直していたが、やがてわなわなと震えると勇者の勢いよく立ち上がって胸ぐらを掴み叫んだ。
大勇者「どういう……どういうことだ!?」ガタッ
大勇者「お前と100代目魔王が知り合いだっただと!?」ググッ
勇者「ぐっ……」
大勇者「全て話せ!!何一つ包み隠さずに全部だ!!!!」ドンッ
大勇者は勇者をなかば突き飛ばす形で解放した。
力無く椅子に腰を降ろすとそのまま頭を抱えてうなだれた。
勇者「ケホケホッ…………言われなくても全部話すさ」
呼吸を整えつつグラスの水を勇者は飲んで喉を潤した。
父の反応は予想通りだったがもう後には引き下がれない。
一度深呼吸して話し始めた。
勇者「あれは10年前、親父に連れられて……」
大勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:08:40.82 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者は父に全てを話した、
幼き日に父に連れられて緑の国を訪れた時に勇者は魔王の出会い、彼女と友人となったこと。
そこで彼女と人間と魔族の和平を互いに夢としたこと。
この10年周囲には内緒で二人で会っていたこと。
武闘家達に彼女を紹介したこと。
そして……今日魔王に襲われて宣戦布告を受けたこと……。
ありのまま全てを話した。
大勇者は勇者の話を終始黙って聞いていた。
眼を閉じ眉間に深い皺を寄せる様は怒りを抑えている様にも見えたし何かを思い悩んでいる様にも見えた。
勇者「…………それで……親父に戦争の真実ってやつを聞きに来たんだ」
大勇者「…………」
勇者「なぁ、魔王は一体何を知ったっていうんだよ?」
大勇者「…………」
勇者「頼む、親父!!俺にも戦争の裏ってやつを教えてくれよ!!」
大勇者「…………」
話を聞き終えた大勇者は静かにため息を吐くと忌々しそうに呟いた。
大勇者「……あの時お前を緑の国になど連れて行かなければ良かった……そうすればこんな……こんなことになどならなかったのに…………」
勇者「…………」
大勇者「…………悲劇は……繰り返すと言うのか…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:09:50.03 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者(…………?)
勇者は大勇者の言葉に違和感を感じた。
『悲劇は繰り返す……?』
どういう意味だろうか?
悲劇というのが自分と魔王のことを指すのは恐らく間違いないだろう。
では『繰り返す』ということは過去にも自分達のように戦争の真実とやらのせいで運命を狂わされた人間がいるということなのだろうか?
だとしたら一体誰がどんな風に…………。
勇者「親父、一体……」
大勇者「……案ずるな、これからお前には全てを話そう」
勇者「……!!」
それは勇者が待ちわびた一言であった。
しかし勇者は遂に知りたかったことを知ることができるという期待や興奮など蚊ほども感じてはいなかった。
話の内容が重いものになると分かっていたからというのもあるが、何より父の顔が今までに見たこともないほど暗かったからだ。
大勇者「お前には全てを知る権利が……いや、全てを知る義務がある」
大勇者「本当は私の口から真実を話すつもりなどなかったが……お前の話を聞いてはそうも言っていられんからな」
大勇者「だがその前に言っておこう。お前の知らない戦争の闇……真実は遥かに残酷なものだ。おそらくお前は『こんな真実なら知らない方が良かった』と思うだろう」
大勇者「それでもお前は全てを知りたいか?全てを知る覚悟があるか?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:10:33.01 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者「…………」
大勇者に鋭く睨まれ念を押された勇者は一瞬たじろいだ。
勇者(親父がこうまで言んだ、よっぽど重大な秘密が隠されてるみたいだな……)
勇者(だけどアイツもそれを知って苦しでるんなら……俺も同じように苦悩を分かち合いたい)
勇者(1人じゃ立ち向かえない困難だって2人ならきっと……!!)
勇者は決意を固め父の瞳を真っ直ぐ見返して言った。
勇者「あぁ、頼む親父。聞かせてくれ」
大勇者「そうか……まぁそう言うだろうとは思っていたがな」
大勇者「では全てを知って100代目勇者として、自分の意思で、進むべき道を決めるがいい」
勇者「…………」
大勇者「さて、何から話せばいいか…………順を追って私のつまらない昔話から話すのが妥当だろうな……」
大勇者はグラスの酒を一口飲んでからどこか遠くを眺めた。
その瞳は昔を懐かしんでいる様だった。
大勇者「もう随分昔のことだがな……私と99代目魔王は親友だった」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:11:18.06 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者「………………」
勇者(そうか……親父と99代目魔王……つまり魔王の父さんも俺達みたいに友達同士だったのか)
勇者「………………」
勇者「…………な!!はぁ!?」
大勇者「言っておくが紛れもない事実だぞ」
勇者「な……親父が先代の魔王と…………」
今度は勇者が驚かされる番だった。
歴代最強と言われる99代目勇者と99代目魔王が友人だった。
そんなこと今まで微塵も考えもしなかった。
魔族を憎むべき敵だと断言する父が魔族の友人を持っており、しかもその相手が魔族を束ねる存在の魔王となればなおのこと驚きは大きい。
勇者はしばらくの間、混乱のあまり金魚のように口をパクパクと開いたり閉じたりしていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:12:51.41 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「意外だったろ?」
大勇者は驚愕する息子に微かな笑みを含んだ声で言った。
勇者「あ、当たり前だろ!?勇者と魔王が友達だったなんてそんな……」
大勇者「お前と100代目の魔王も友人同士ではないか」
勇者「そりゃ、そうだけど……」
大勇者「若かったころの私もまさか魔王と友人になることになるとは夢にも思わなかったさ」
大勇者「しかし何が起こるか分からないのが人生というものだ」フッ
勇者「…………」
大勇者「……奴と初めて会ったのは20年以上前の風鳴の大河の戦場だ」
大勇者「当時私は勇者候補だったが、99代目勇者になるのは私だと自分も周りも思っていた」
大勇者「それくらい私は強かった。圧倒的に」
大勇者「聖剣と契約する前であっても人間にも魔族にも一度たりとも負けたことなどなかったし、どんな戦いも全力を出す必要すらなく勝利を手にすることができた」
大勇者「だが……それ故どんな戦いにもどんな勝利にも達成感も満足感もなかった」
大勇者「当時の私は『ぬるま湯に浸からされていう感覚』に似ていると思っていたが……なるほど、言い得て妙だな」
大勇者「戦いも勝利も私にとってはぬるま湯そのものだったワケだ」
大勇者「私の息子であるお前ならその気持ちも少しは分かるんじゃないか?」
勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:14:00.75 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者はかつての大勇者の悩みを絶対の強者だけが持つことを許された贅沢な悩みだと思いつつ、その気持ちを分かる気がした。
歴代最強の勇者と呼ばれる偉大な父の存在があったため勇者は自分の力に自惚れることなどなかったが、それでも勇者もまた、勝利は容易く手に入れることができるものであると感じていたことは否めない。
大勇者「私がアイツに……先代の魔王に出会ったのはそんな頃だった」
大勇者「当時魔将軍だったアイツと私は風鳴の大河で剣を交えた…………アイツは私が初めて勝てなかった相手だったよ」
そう言って大勇者は少し何かを考えて付け加えた。
大勇者「……言っておくが"勝てなかった"というのは負けたという意味じゃないぞ、あの時は引き分けてドローだったのだからな」
勇者(……負けず嫌いなんだな……)
大勇者「だが私にとってはそれが嬉しくてたまらなかった」
大勇者「自分が全力を出せる相手がいることが、自分が全力を出しても勝てない相手がいることが、嬉しくて嬉しくて仕方なかった」
大勇者「アイツと戦っていた時に感じた高揚感、緊張感、充実感、疲労感……どれもが新鮮でどれもが心地よかった」
大勇者「そして最強の魔族として生きてきたアイツもまた同じことを感じていたようだ」
大勇者「立場も境遇も私達はよく似ていたのだ」
勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:15:17.05 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「そうして何度も剣を交えていくうちに互いが互いを認め、尊敬すらするようになり……私達の間には奇妙な友情が芽生えていった」
大勇者「きっかけは……覚えていない。案外友達というものはいつどうやって友達になったかなど覚えていないものなのかも知れんな」フッ
大勇者「いつの間にか一緒に飯を食べる仲になっていたよ」
大勇者「奇妙な……実に奇妙な友情だったな」
大勇者「敵同士でありながら一緒に飯を食べ、食後に『今日こそは勝たせてもらう』と言って殺し合っていたのだから」
大勇者「今思い出してもなんとも可笑しな関係だ」フフッ
大勇者「まぁ出会って1年もする頃には相手を殺してやろうなんて気持ちはお互い欠片も持ってはいなかったがな」
大勇者「私にとって奴は、奴にとって私は、唯一無二の友となっていたのだよ」
勇者「…………」
勇者は何もかもが意外だった。
過去を話したがらなかった父が自身の過去をこうも饒舌に、懐かしそうに話す姿も意外だったし、何より魔族を嫌悪し憎んでいるのだとばかり思っていた父が先代魔王とそんなにも親しい仲であったとは。
自分と魔王とは形は違うが父と先代魔王の間には男同士の友情が確かに存在していたのだろう。
だがそれなら何故父は魔族を目の敵のように言うのだろうか?
それに魔族とも分かり合えるのだと分かっていたのなら何故父は魔族との和解の道を目指さず……。
勇者(ん?魔族との和解を目指さなかった…………!?)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:16:29.35 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者「ちょ、ちょっと待った!!親父にとって先代の魔王がそんなに大事な友達だったんならなんで殺したりなんかしたんだよ!?」
勇者「もしかして本当は親父が99代目の魔王を倒したってのは嘘なのか!?」
大勇者「……やれやれ、せっかちな奴だ。そういうところは残念ながら私に似てしまったのかな」フム
大勇者「ちゃんと全て話す、黙って聞いてろ」
勇者「う……」
大勇者「……お前の言う通り、私達は次第にこんな馬鹿げた戦争を終わらせようと考えるようになった」
大勇者「99代目勇者候補と99代目魔王候補がこうして分かり合えたのだ、必ず人間と魔族は分かり合える筈だ…………とな」
勇者「俺達とおんなじだ……」
大勇者「あぁ、そうだな」
大勇者「そして……私達が出会って1年余りが経ったある日の事だ」
大勇者「私は聖剣と契約を交わし正式に99代目の勇者となった。奇しくも奴も同じ日に魔剣と契約を交わし99代目の魔王へと即位した」
大勇者「そうして……私達は同じ日に全てを知ったよ。この戦争の……いや、この世界の全てをな……」
勇者「この世界の全て……?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:17:37.78 ID:OZHJJ8vm0<> 懐かしそうに昔語りをしていた先程までとは異なり、大勇者の顔色は暗く重く切ないものへと変わっていった。
そして不意に勇者に質問を投げ掛けた。
大勇者「さて、勇者。ここで問題だ」
勇者「え?」
大勇者「世界に10本存在する『神樹』。この存在が我々人間にどの様な関わりを持っているか答えよ」
勇者「な、なんだよいきなり……」
大勇者「いいから答えろ」
突然問題を出され狼狽えた勇者だったが記憶の片隅にあった旅立ちの日に武闘家が僧侶の弟に語り聞かせた神樹の説明を思い出しながら答えた。
勇者「え〜っと…………神樹から溢れる生命力が周囲にある種の結界を張ることで……土壌や水質、大気とかをよりよい状態に保つ環境改善の役割を果たしてる……だっけ?」
大勇者「ほぉ……私の息子だから勉強はからっきしだと思っていたがこの程度の問題には答えられるのか、正直驚いたぞ」
勇者「あのなぁ、こんな質問に一体何の意味が……」
大勇者「合格点だ。……世間一般では、な」
勇者「?……どういう……」
大勇者「それを今から話そう」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:19:12.02 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者はゆっくりと瞳を閉じると世界史について生徒に話す学校の講師の様に淡々と話を始めた。
大勇者「今から遥か昔の話だ……人間と魔族の戦争が始まるさらに数百年も前のこと」
大勇者「当時の人々は争うことなどなく何不自由無い生活をしていた。だが人々はその生活に満足はしていなかった」
大勇者「自分達の住む世界をよりよいものにできないかと考え始めたのだ」
大勇者「高位の魔法使いや魔法研究者達が日夜研究を重ねた結果、ある人工魔法植物を作り出すことに成功した」
大勇者「その魔法植物は成長するにつれて並々ならぬ生命力で周囲の環境を植物自身にとって適した環境へと変化させようとする性質を持っていた」
勇者「じゃあそれが……」
大勇者「そう、私達が今日『神樹』と呼ぶ存在だ」
勇者「知らなかった……神樹が人間の手で作られたものだったなんて……」
大勇者「人々の研究は大成功したと言える。人々は喜んで完成した幾つかの魔法植物の苗木を世界各地へと植え、その場所を中心に都市を造った。現在存在する国々の原型だな」
大勇者「長い時が流れ巨大に成長した魔法植物はいつしか人々に『神樹』と呼ばれるようになり信仰の対象にもなった」
大勇者「そうして人々は恵まれた環境でいつまでも幸せに暮らしました、めでたしめでたし」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:20:19.35 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者は皮肉めいた笑みを浮かべて酒を飲んだ。
そして目の前の何もない空間を睨むと忌々そうに息を吐いた。
大勇者「…………とはいかないのが現実というものだ」フゥ
勇者「…………」ゴクッ
大勇者「神樹が十分に成長したある時から世界中で災害が多発するようになった。集中豪雨に大雪、干ばつといった気候変動や地震に火山噴火……自然的な災害だ」
大勇者「自然災害が発生するのは当たり前のことだがその当時、災害は異常なまでに頻繁に発生した。神樹の加護に守られているから、と気にしていなかった人々も次第に不安がるようになっていった」
大勇者「その頃の魔法学者達が原因を調査したところ驚くべき事実が判明した」
大勇者「災害の原因は神樹にあったのだ」
勇者「……神樹に?だって神樹は環境を良くするもんだろ!?」
大勇者「……育ちきった神樹は寿命を迎えていたのだ」
勇者「寿命……!?」
大勇者「あぁ……どんな生き物にも寿命はある……考えてみれば当たり前のことだ」
大勇者「寿命が近づいた神樹は生命力が失われており、もはや環境改善装置としての役割を果たすことができなくなっていた」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:21:01.39 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「世界中の神樹はいつしか寿命で枯れ果てる……だが話はそんなに単純ではなかった」
大勇者「生命力の弱まった神樹は自身の生命力を維持しようと周囲の環境から膨大な魔力を吸収していたのだ」
勇者「な……」
大勇者「お前も知っているだろう?この世界には生きとし生けるもの、果てや大気や大地にまで魔力が宿っていることを」
大勇者「神樹はそれらの魔力を吸収し己の生命力に変えることで寿命を延ばそうとしていたのだ」
大勇者「世界中に満ちる魔力がバランスを崩せば天変地異が起きるのも当然だ」
大勇者「当時の魔法研究者達はどうにか神樹の延命をはかる方法がないかと探した……そして辿り着いた答え、それが……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:22:39.83 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「…………人間の命だ」
勇者「え…………?」
大勇者「『魔獣堕ち』というものがあるな。強い怨念を持つ動物が死んだ時に世界に満ちる魔力が負の力を動物に与え魔物としてしまう現象だ」
大勇者「原理はそれを応用したものだった。高等生命体である人間は死ぬ時に極めて大きな魔力を発する。その魔力を大量に、継続して神樹に吸収させれば神樹の寿命を延ばすことが可能になるというものだ」
バンッ!!
勇者は突如カウンターを力任せに殴った。
話の内容に堪えられなくなり青筋を立たせて父に吠える。
勇者「そんな……そんな非人道的な方法が許されるわけないだろうが!!」ギリッ
勇者「そんな方法を実行したっていうのかよ!?」
大勇者「いや……魔法研究者達の話を聞いた各国の王達もそんな方法は認められない、他の方法を探せと意見を突っぱねたそうだ」
大勇者「そんな中、金の国の王が立ち上がった」
勇者「金の国……?」
大勇者「あぁ、今は無き11番目の国だ。銀の国があるのだ、金の国があっても不思議ではあるまい?」
大勇者「『神樹に世界を滅ぼされるくらいなら神樹を滅ぼしてしまおう』。金の王はそう言った」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:23:43.16 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「他国の王達の反対を押し切り金の王は金の神樹への攻撃を決行した」
勇者「け、結果は…………?」
大勇者「……今の地図に金の国は存在するか?」
勇者「…………!!」
大勇者「……失敗だったよ」
大勇者「金の国の軍は金の神樹を消滅させるべく大規模な攻撃を仕掛けた。それによって生命の危機を感じた神樹は……爆発的に周囲のあらゆる魔力を吸収しようとした」
大勇者「その結果、金の神樹はたしかに消滅したが……金の国は王都を中心に国土の殆どが不毛の砂漠へと豹変した……国民も全滅したそうだ」
大勇者「黄の国東の大砂漠は金の国の成れの果てだ」
勇者「……そんな……」
大勇者「しかも金の神樹の消滅が世界の魔力バランスをさらに崩すという最悪のオマケが付いてきた」
大勇者「頻度と規模を増す天災……もはや一刻の猶予すら許されていなかった」
勇者「………………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:24:59.52 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「もう分かっただろ?各国の王達は人間の命を神樹への供物に捧げ世界を守ることを決断したんだ」
大勇者「一部の天才魔法研究者達の手によって死んだ人間の魔力を神樹に取り込む術式と裏魔法が完成した」
大勇者「各国の城の地下深くには神樹の根に直結する小部屋があってな、そこには壁、床、天井一面に術式が刻まれている」
大勇者「死した人間の魔力を各神樹にバランス良く供給する役割があるそうだ」
勇者「…………」
大勇者「だが通常の人間達の命の犠牲は低下していく神樹の生命力を抑制する程度にしかならない」
言って大勇者は指でカウンターに見えない図を書き始めた。
大勇者「グラフで説明するなら縦軸が神樹の生命力、横軸が時間……神樹の生命力は時が経つにつれ低下していき0になるとゲームオーバー、神樹の寿命が尽き世界が崩壊する」
人差し指を始点から右下の方へと動かしながら言う。
大勇者「人間の命により発生した魔力を供給することで神樹の延命をはかることは可能だが……それでもいつかは生命力が0になることに変わりはない。グラフの傾きが緩やかになるだけだ」
今度は同じ始点から先程よりやや右へ向けて指を動かす。
勇者は父の指の動きを見てなんとなくグラフを思い浮かべた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:26:18.99 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「グラフのY座標を……神樹の生命力を健康体まで回復させるのには瞬間的に爆発な魔力を注ぎ込む必要がある」
大勇者の指先のグラフは急上昇をし始点と同じ高さになった。
大勇者「これを可能にするには何千万という人間をほぼ同時に殺さなければならない……だがそんなことをすれば100年足らずで人類は絶滅することになる」
大勇者「そこで考え出されたのが魔力増幅装置だ」
大勇者「生命力を代償にその使用者の魔力を限界以上に、通常の何千何万倍にも高める装置」
大勇者「しかしその装置は誰でも使える代物ではなかった。適応できない人間が扱っては魔力の増幅に耐えきれず十分に魔力を増幅させる前に肉体が朽ちてしまうからだ」
大勇者「そして魔力増幅装置の適応者として選ばれた者が2人いた」
大勇者「1人は白の国で国最強の騎士団長を務めていた男。もう1人は黒の国でもその実力に並ぶものがいないと言われる黒の王だった」
勇者「……白の国と黒の国の2人……?」
瞬間勇者の脳内で歯車が音を立てて噛み合わさった。
続いてにび色の電流が駆け巡る。
切れ者の武闘家ならば話の冒頭で勘づいていたかも知れない。
いや、勇者も本来ならばもっと早い段階で気付いていたに違いない。
薄々答えに勘づいていたからこそ無意識の内にそれを知ることを拒んでいたのだろう。
じっとりとした汗を額に浮かべて震える声で言う。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:28:03.88 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者「まさか……!?」
大勇者「お前の考えている通りだ、彼らが初代勇者と初代魔王、そして魔力増幅装置というのが……聖剣と魔剣だ」
勇者「な……そんな……そんなの……」
大勇者「そしてここからは狂言戦争の始まりだ」
大勇者「まず金の国の消滅は黒の国が金の国に攻撃を仕掛けたからだと各国は国民に伝えた」
大勇者「当然黒の国の国民達はそんなのは出鱈目だと抗議した。しかし他の9ヵ国の国民達はその訴えを信じようとはしなかった」
大勇者「黒の国は当時から一国で他の9ヵ国全て合わせたくらいの軍事力を持つ国だったからな、黒の国は他の国々から恐れられていたのだ」
大勇者「王達はそこを利用して黒の国が金の国を攻め入ったと報じたのだ。勿論黒の国の王も同意の上だ」
大勇者「王達の思惑通り国民達は黒の国の脅威に怯え始めた……そこで白の国の王を中心に赤の国、青の国、黄の国の4国で黒の国を討つべく同盟が為された。これが今の聖十字連合の母体となる軍事同盟だ」
大勇者「そして黒の国と白の国を中心とした4ヵ国の戦争が始まった……全てが当時の王達のシナリオ通りだった」
大勇者「白の国側は魔力増幅装置の使い手を勇者として人々の希望の象徴とした、黒の国側は王自ら魔王と名乗り国民の象徴となり戦った」
大勇者「勇者か魔王、どちらかの命が失われた時に発生する魔力は魔力増幅装置の力により極限を超えて高められ神樹達の生命力を著しく回復させる」
大勇者「その他大勢の人間達の命はその時までに神樹が生命力を失ってしまわないための繋ぎにすぎんというワケだ」
勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:29:24.52 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「しかし勇者と魔王が死んだらまた次の勇者と魔王が必要になる……そのための人材を探す手段として普及したのが……これだ」スッ
大勇者はそう言って右腕の袖を捲った。
勇者に勝るとも劣らぬ暁の空よりも赤い朱の刻印が露になる。
大勇者「刻印によって勇者の適性が検査される。勇者の適性があると分かったら人々の希望の象徴たる存在たるべく教育がなされる……そして見事勇者になったなら聖剣と契約を交わす」
大勇者「聖剣には契約を交わすことで戦争の真実を知ることができるように術式が組まれている。めでたく聖剣の加護を受けた勇者は世界のために魔王と闘う……魔王も同じシステムだな」
勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:30:24.14 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「……まったく、憎らしいほどによくできたシステムだよ」
大勇者「人々のため戦おうと育ってきた勇者と魔王は責任感の塊だ。そんな人間に『世界のためにお前の命が必要なんだ』と言って断るワケないからな」
大勇者「自らの命が世界の崩壊を止めるために必要だと知った勇者と魔王は殺し合う……お互いに恨みも憎しみもなく、ただ虚しい義務によって相手を殺さなければならない」
大勇者「必要なのはお互いの命なのだと知り、殺し合うことに意味がないと分かって自ら命を絶とうとした者もいたそうだ」
大勇者「だが人々の希望の象徴である立場の者が自殺など出来るハズもない。…………いや、しようと思えば出来ないことはないかもしれん。しかしそんな脆弱な精神の持ち主は最初から勇者になど選ばれたりはしない」
大勇者「そして勇者と魔王は闘うのだ。世界が終わってしまわぬように、死の宿命を背負った者同士な……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:31:18.92 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者「…………んな……」
大勇者「…………」
勇者「ふっざけんな!!!!!!」
バァンッ!!!!
先程より力を込めて勇者はカウンターを殴りつけた。
衝撃で彼のグラスは倒れ溢れた水が床へと滴る。
勇者「じゃあ……じゃあ俺達はいつか殺し合うしかないってのに友達になったって言うのかよ!?」
大勇者「……そうだ」
勇者「できもしない人間と魔族の和平を夢見てこの10年ただ妄想にふけってきたってのか!?」
大勇者「……そうだ」
勇者「そんで……俺達は……世界の崩壊を阻止するためにこれから殺し合わなきゃならないってのかよ……!!!!」
大勇者「……そうだ」
激昂する勇者に大勇者はあくまで淡々と答えた。
父の対応がどうしようもない現実の刃を勇者へと突きつけた。
勇者「そんな……そんなの…………あんまりじゃないかよ…………俺達は……どうして……なんのために……」
虚ろな瞳でうなだれる勇者の姿はついさっきまでの大勇者の姿と重なって見えた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:33:38.31 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「……続けるぞ」
絶望にうちひしがれる息子を横目に大勇者は話を続ける。
勇者「……まだ……なんかあんのかよ……?」
大勇者「薄々気づいているかもしれんが……この世界にはな、『魔族』なんて種族は存在しないんだ」
勇者「…………は?」
父の口から飛び出したあまりに突拍子もない一言に勇者はまたも驚愕する。
しかしその突拍子もない一言を何故かすんなりと受け入れてしまっていた。
それほどまでに勇者の中で"常識"というものが無惨に崩れ去り形を成していなかったからだ。
大勇者「黒の国とその他の国が戦争を始めてから黒の国内では他国への苛立ちが爆発していた」
大勇者「そこで魔王は国民に言ったのだ、『我々と他の国の人間はそもそも別の種族だ。我々は人間などという下等な種族ではなく魔族という崇高な別の種族なのだ』とな」
勇者「…………」
大勇者「黒の国の民はその言葉を容易く信じ込んだ。種族が違うとした方が憎み、殺し易く都合が良いと判断した他の国の王達もまた『黒の国に住むのは魔族だ』と言い魔族に対する誤った知識を教育に取り入れた」
大勇者「各国の情報操作の甲斐もあって世代が2つ変わる頃には世界中のほぼ全ての人々が『黒の国に住むのは魔族だ』と思うようになったという」
勇者「じゃあ……」
大勇者「あぁ、私達は何百年もの間、人間同士でバカげた殺し合いをしてきたのだ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:34:21.05 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「私達は98人の勇者と99人の魔王、そして数えきれない何千万という人間達の犠牲の上に今日を生きているんだ」
勇者「………………」
もはや勇者は大勇者の語る真実に反応する言葉すら持ち合わせていなかった。
そして勇者の心情を大勇者は痛いほど分かっていた。
およそ20年前、自分が味わった衝撃と苦悩と絶望……それと同じものを息子もまた味わっているのだ。
かける言葉など見つかるはずもなかった。
他人のどんな言葉も意味を為さないと誰よりも分かっているからだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:35:50.69 ID:OZHJJ8vm0<> そしてまた父は子に静かに語り始めた。
大勇者「真実を知った時……お前と同じ様に私も愕然としたよ」
大勇者「人々のためにと魔族と戦ってきた私はただの大量殺人者で、親友を殺すか自分が死ぬかしなければ世界が滅んでしまうという笑えない冗談を聞かされたのだからな」
大勇者「白の国の王様には随分と謝られた……勇者に任命してしまい本当にすまないと何度も何度も頭を下げられたよ」
大勇者「全てを知る王達とその側近達を憎みもしたがすぐにそんな気持ちも失せたさ」
大勇者「全てを知ったからこそ分かった。王達もまた悩み苦しみながら王の座に就いているのだと。だから……お前も王様達を責めないでやってくれ」
勇者「…………」
大勇者「私達が世界の真実を知った時、まだお前は母さんのお腹の中にいてな。アイツが『最後の闘いはお前の子供が生まれてからにしよう』と言ってくれたから私達は正式に勇者と魔王になってから大体1年、最終決戦を先延ばしにした」
大勇者「アイツにも娘がいたから家族で過ごせる時間ができて丁度良かっただろう」
大勇者「そしてお前が生まれて少しして…………私達は最後の闘いを始めた……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:37:35.17 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「……酷い闘いだった……流した汗より、流した血より、流した涙の方が多い……そんな闘いだった。今でもたまにその時のことを夢に見る」
大勇者「一晩中闘い続け私は宿命の闘いに勝利した。……全身全霊を懸けて手にした勝利が人生で最も虚無感に溢れた勝利だったのはなんとも皮肉だったよ」フッ
大勇者は皮肉っぽく笑ってみせた。
勇者には父の顔が今まで見たことがないほど悲しみに溢れて見えた。
作り笑いでもしなければ涙を流してしまいそうで無理に笑ってみせたのかもしれない。
そんな笑みだった。
大勇者「アイツの命をこの手で奪ってから……私は勇者として前線に立ち数えきれない魔族達を殺してきた」
大勇者「友の命を奪った贖罪のために更に罪を重ねたのだ……矛盾しているように思うかもしれないが残された私にできることは血塗られたこの手でさらに業を重ねることぐらいしかなかった……」
大勇者「お前が5歳の時だったか、お前が勇者の刻印を持っていると分かりお前もまた勇者となるだろうとなんとなくだが分かった」
大勇者「お前が勇者となればいつしか真実を知ることになる。そうなれば魔族が同じ人間であり魔王が決して憎むべき敵などではないと分かってしまう」
大勇者「だが……私はどうすればいいのか分からなかった。世界の真実を勇者を軽々しく話すワケにはいかんからな。だからせめてお前が全てを知るまでは何も苦しまなくても良いように魔族を絶対の敵として教えてきた」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:38:24.96 ID:OZHJJ8vm0<> 大勇者「そんなある日だ、お前が『人間と魔族を仲直りさせたい』などと言い始めたのは」
大勇者「私は自分と同じ絶望と悲劇のドン底にお前が落ちるのだけはどうしても阻止したかった……そのつらさは誰よりも分かっているからな……」
大勇者「だからお前の考えを徹底的に否定し、人間と魔族の和平を目指すお前が勇者になることも頑なに認めなかった」
大勇者「だが……何の因果かやはりお前は勇者となった……そして私と同じ悲劇をまたも繰り返そうとしている」
大勇者「…………夢と希望がそのまま悪夢と絶望になるとはな……まったく、親子そろって大馬鹿だよ、私達は」
勇者「…………」
大勇者はグラスをあおると空になったグラスに酒を注いだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:39:22.51 ID:OZHJJ8vm0<> 褐色透明の液体に満たされていくグラスを見ながら勇者は頭の中を必死に整理しようとする。
人柱としての勇者と魔王。
世界のために犠牲となった数え切れない人間達。
真実を知らずに殺し合う人間。
悲劇としか言いようのない父の過去。
偉大な大勇者の知られざる葛藤の日々。
そして自分と魔王の先の無い未来……。
そのどれもについて考え、絶望し、考えるのをやめ、また考えをひたすら繰り返した。
しかし答えは出ずに考えもまとまらない。
次第に勇者の脳は考えることを止めた。
鉛色の沈黙が酒場を包んでいく。
古びた置時計の針が生真面目に時を刻む音だけが聞こえる。
一体どれほどの時間が経ったのだろうか。
実際には数分にも満たない時間であったのだろうが勇者にとってその沈黙は数時間も続いた様にさえ感じられた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:40:29.51 ID:OZHJJ8vm0<> 生気のない声でやがて勇者が言った。
勇者「…………親父……俺……どうしたらいいんだ……?」
余命幾日と告げられた患者の様な魂の抜けた勇者を叱咤するでも慰めるでもなく、大勇者はただ質問にだけ答えた。
大勇者「……お前の選択肢は2つだな」
大勇者「一つは勇者として荊の道を歩むことを決め聖剣を手に100代目魔王と闘う」
大勇者「もう一つは100代目勇者の座を降り、次の勇者に世界の人柱としての責任を託し自分は全ての現実から逃避する。その場合100代目魔王とは私が闘うことになるな」
勇者「な、そんなの……!!」
大勇者「ならばお前が魔王と闘うか?その手で彼女の命を奪う覚悟はあるのか?」
勇者「……くっ!!」ギリッ
勇者は何も言い返せなかった。
父の今言った二つの選択肢はどちらも正しくそのどちらかを選ぶしかない。
だがどちらの選択肢も選びたくなどなかった。
現実は少年が想像していたよりも遥かに残酷だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:41:18.95 ID:OZHJJ8vm0<> 勇者「…………親父」
大勇者「なんだ」
勇者「…………親父の言った通りだったよ」
勇者「こんな真実なら……知らない方が良かった……」
大勇者「…………」
それきり二人は何も話さなかった。
勇者は俯き頭を抱えてぴくりとも動かない。
大勇者はその隣で何も言わずに酒を飲むだけだった。
酒場に存在する音は時計の秒針の奏でる規則的な音と、時折聞こえる大勇者のグラスの氷がガラスを打つ音だけだ。
――カカラァン…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:42:27.98 ID:OZHJJ8vm0<> ――――黒の国・魔王の城・王の間
側近「魔王様……正気なのですか?」
魔王「当たり前だ」
側近「ですが……いかに魔王様のご命令と言えどこれは……」
側近は今しがた魔王より手渡された令書に目を通すと険しい顔で魔王に意見した。
内容があまりにも異常なものだったからだ。
側近「『以下に名を記す者達に3日以内に城内から完全退去することを言い渡す。また退去の後1週間、城への立ち入りを禁ず』」
側近「ここに名前を記された者は部下が192名と兵士が943名……城の者の大半が退城を命ぜられたことになります。城に残るのは魔将軍殿直属の一部の部下のみになってしまいます」
魔王「だろうな」
側近「……魔王様、一体何をなさるおつもりなのですか?」
側近「昨日王妃様とお会いになられてから人間側との和平に向けた国内会議を白紙に戻しただけでなくこの様な人払いとしか思えないご命令まで…………」
側近「何かあったのならば私に仰って下さい。私では魔王様のお力になれないかもしれませんが、それでも……」
魔王「お前は何も知らなくていい。ただ黙って私の命令に従っていればいいのだ」
側近「……!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:43:28.86 ID:OZHJJ8vm0<> 側近(これは私が知る魔王様ではない……)
冷たい目でそう言い放った魔王を見て側近は思った。
王として毅然とした態度である時も優しさと温かさを宿していた魔王の瞳はまるで別人の様に凍りついている。
そして何か重いものを背負い、その宿命を受け入れ覚悟している……そんな風に彼女には見えた。
魔王「分かったら直ちにその命を城内の者に伝えろ」
側近「…………できません」
魔王「……何?」
側近「できません、と申し上げたのです」
側近「私は魔王様の側近。場合によっては魔王様に意見することを許されています」
側近「今回のご命令は不可解な点があまりに多くきちんとしたご説明をいただけるまで私はこの件に関して異議を申し立てる所存です」
魔王「…………」
魔王「…………ならばその権利を奪うまでだ」
側近「な……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:44:39.08 ID:OZHJJ8vm0<> 魔王「100代目魔王の権限においてただ今をもってお前を軍事・国政における全ての任から解く。長い間ご苦労であったな」
側近「そ……そんな!!こんなの勝手すぎます!!あまりにも一方的な……!!」
魔王「…………」パチィン
魔王が指を鳴らすと王の間の扉が重々しい音をたてて開き幾つものきびきびとした足音が流れ込んできた。
黒騎士「お呼びでしょうか、魔王様」
整然と並ぶ何人かの兵士達の前に一歩進み出た黒騎士が言う。
魔王「うむ。たった今この者を軍事と国政の任から解いたところだ。引いては部外者故にこの場から速やかに連れ出せ」
黒騎士「ハッ……」
側近「魔王様……!!」
魔王にとって側近が姉の様な存在であることは城内の誰もが知るところである。
たった今下された命令に疑問を持ちながらも黒騎士は側近を取り囲むよう指示を出し部下達はそれに従う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:45:29.28 ID:OZHJJ8vm0<> 黒騎士「……側近殿。女性に手をあげるような真似を私はしたくありません。何があったのかは知りませぬが魔王様のご命令に従いこの場を速やかに去って下さるようお願い致します」
側近に歩み寄ると黒騎士は言う。
側近「…………」
魔王「…………」
王座に腰かける魔王を見つめる側近。
魔王の瞳はやはり彼女の知るそれとは異なり氷の様に凍てついていた。
側近「…………分かりました」
側近「今まで……お世話になりました。魔王様の下で働かせて頂いたこの数年……身に余る光栄でございました」
奥歯を強く噛み感情を押し殺して側近はいつもの様に淀み無い口調で魔王に別れの挨拶を述べた。
魔王「……うむ。では達者でな」
側近「……ハッ、魔王様もどうかお身体にはお気をつけて」ペコリ
深く頭を下げ黒騎士達に促される様に側近は王の間を後にした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:47:00.00 ID:OZHJJ8vm0<> 彼女達と入れ替わる様に魔将軍が王の間へと入ってくる。
魔将軍「何やら騒ぎがあった様だが……」
魔王「なに、何百といる部下の1人をクビにしただけのこと。たいしたことではない」
魔将軍「……実の姉同然の側近との別れが『たいしたことではない』……か」フンッ
魔王「……これからの戦いは今までのように生ぬるいものではないからな。同族の血が今までの比ではなく流れることは彼女には耐えられまい」
魔将軍「では姫君はそれに耐えられると?」
魔王「当たり前だ。この世界を守るためならば私は鬼にも修羅にもなろう」
魔将軍「頼もしい限りだな」フッ
魔王「それと私は今や正真正銘の100代目魔王だ。『姫君』はやめろ。言葉遣いも改めるのだな」
皮肉っぽく笑う魔将軍を鋭く魔王は睨みつけた。
魔将軍「これは失礼しました、魔王様」ペコリ
魔将軍は心にもない謝罪の意を述べると恭しく頭を下げた。
魔将軍「……して、今後側近の抜けた穴はいかがなさるおつもりで?」
魔王「国政に関しては別の部下を起用するとして軍事方面の指揮は魔将軍、貴様に一任する」
魔将軍「ハッ。御意のままに」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:47:56.06 ID:OZHJJ8vm0<> 魔将軍「しかし魔王様直々に宣戦布告をしてきたとは言え本当に勇者は来るのですかな?」
魔王「……あぁ、来るさ。絶対に」
魔王が勇者に宣戦布告をしてきたことを魔将軍は知っている。
とは言え勇者との関係について魔王は話してはいない。
あくまで100代目魔王が100代目勇者に闘いの意思を伝えてきたことだけを話していた。
魔王「さすればこの城は私と勇者の決戦の場になろう。その場合勇者以外の邪魔者は貴様と貴様の部下達に任せる」
魔将軍「お任せを。如何に人間達の中で指折りの強者と言えど我が私兵団には敵いますまい」
魔王「…………そうか。ならば良い」
魔王はゆっくりと瞳を閉じやがて来る決戦の時を思い浮かべた。
だが闘いの場を想像しようとしても瞳の裏に映し出されるのは勇者達と過ごしたなんてことのない平凡な思い出だけだった。
魔王(………………)
脳裏をよぎる勇者の、僧侶の、魔法使いの、武闘家の笑顔を魔王はその手で粉々に叩き割った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:49:10.54 ID:OZHJJ8vm0<> 【Memoris06】
――――白の国・王都・路地裏の酒場
私「…………」
トクトク……
私はグラスに新しいボトルの酒を注いだ。
そしてそれを一口飲むと顔をしかめた。
私「……お前これはなんだ?」オエッ
店主「ワシ特製の薬膳酒じゃよ。アルコールの分解を助け肝臓の負担を和らげる……」
私「そんなことを聞いたんじゃない。私が頼んだのはいつもの酒だぞ?なんでこんな苦い薬膳酒なんかが出てくるんだと聞いたんだ」
店主「自分で分かっておるじゃろ?今日開けたばかりのボトルをもう空けてしまうなんていくらなんでも飲みすぎじゃろう」
私「…………」チッ
店主「お前さんがそんな風にやけ酒するなんて……奥さんを亡くして以来かのぅ」
私「…………」
私「……そう、だな……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:51:07.89 ID:OZHJJ8vm0<> 息子に真実を告げてからおよそ一時間後、息子は何も喋らずに酒場を去っていった。
家の鍵の場所は知っているハズだし家に入れないということはないだろうが……まぁ意地張りな奴のことだ、どうせ家には帰らずどこぞの安宿にでも泊まっているのだろう。
喧嘩して家出した時はよく私の昔なじみの経営する宿屋に行っていたので今日もそうかもしれない。
その後奥の部屋の店主にもう店に戻っていいと伝えると店主は何も言わず何も聞かず、息子が割ったグラスを片付け床の掃除をしていた。
店主「ふぅ……よっこいせ」
片付けが終わると店主はカウンター奥のいつもの椅子へと腰を降ろした。
私「……まさか息子も私と同じ悲劇に見舞われるとは……何故こうも世界は残酷なのか……」
この老いぼれ店主は私の生まれる前から全ての事情を知っている。
それ故こうして他人にはとても言えないことを話すことができた。
私「私達が一体何をしたというのだろうな?この世に神がいるのなら……きっとひどく性格が悪いに違いない」
私「雲の上で私達のことを見て『人間は滑稽だ』と馬鹿にして笑っているのさ。神などではなく悪魔だな」フンッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:51:53.66 ID:OZHJJ8vm0<> 店主「…………その台詞、前にも聞いたのぅ」
私「…………」
店主にそう言われてぼんやりと思い出した。
かつて私が全てを知った時もここで似たような台詞を吐いたような気がする。
店主「…………その日はお前さんと彼が最後にここで飲んだ日じゃったな」
店主「ペースも考えずに夜通し飲んだもんじゃから明け方にはお前さんはぐでんぐでんになっておったわ」フォッフォッ
私「……あぁ、あの日か」
言われてどの日のことかすぐにピンときた。
私「……後にも先にもあの日だけだな。何も考えずに馬鹿みたいに飲んだのは……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:54:13.75 ID:OZHJJ8vm0<> ――――17年前・緑の国
その日、私は待ち合わせ場所の緑の国の小高い山の上に来ていた。
そこは私たちが好んで密会に使っていた場所だ。
天気は良く空気は澄んでいたので山頂からは美しい緑の生い茂る緑の国の大自然が一望できた。
私「よっ」
アイツが既に来ていたのでいつものように声をかけた。
アイツ「遅い、遅刻だ!!」
するといつもの返事が返ってきた。
もはや私達にとってこのやりとりは恒例行事だった。
アイツ「まったく、お前という奴は毎度待ち合わせには遅れてきおって……」
私「まぁまぁ、待ち合わせに来ないより遅れてでもちゃんと来る方がよっぽどいい、ってね」ナハハ
アイツ「いい加減まともに転移魔法を使えるようになればいいものを」ハァ
私「あぁ無理無理、あーいう小難しい魔法は覚えたくねーもん。魔法剣で俺の頭の容量はいっぱいいっぱいだ」
とそこでアイツの影に隠れ私を見る小さな女の子に目がいった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:56:17.58 ID:OZHJJ8vm0<> 私「お!大きくなったな〜!!」
アイツの娘「…………」ギュッ
幼き日の100代目魔王はアイツのズボンの裾を掴みその大きな瞳で私をじっと見つめ返していた。
アイツ「そうだろ?もうじき2歳になるがやんちゃが過ぎて困っているよ。今日はお前の前だから大人しいみたいだな」フッ
私「そっかそっか」
少し怯えている彼女の顔をアイツと見比べて私は言った。
私「しっかし……見れば見るほどお前に似てねぇなぁ」
アイツ「う……」グサッ
私「髪だってお前と違って綺麗な黒髪だし眼だってお前みたいに鋭くなくて大きくて綺麗だし……ホントにお前の子なのか?」ハハッ
アイツ「この子は妻に似たのだ!!正真正銘私の子だぞ!!」
私「あぁ、はいはい、わかってるって。まぁでもあれだな、鼻筋とか口元はお前に似てるかもな〜」
アイツ「そうか!?そう思うか!?」
私「や、やけに嬉しそうだな」
アイツ「そう言ってくれたのはお前と弟だけでな……皆この子は私に似てないと……」ウゥ
私「そりゃ誰がどう見ても奥さん似だもんな」アハハ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:58:10.50 ID:OZHJJ8vm0<> アイツ「それに比べて……お前の息子は本当にお前そっくりだな」
アイツは私が抱き抱えている息子を見て言った。
私「俺の赤ん坊のころ見たこともないクセにそっくりとか言うなよ」
アイツ「いや、きっとこんな赤子だったのだろうと誰もが想像つく。それぐらいよく似た子だよ」
私「そっかぁ?」
息子「ダー?」
私は息子を抱き上げて顔をまじまじと見た。
間抜け顔の息子の二つの黒い瞳にはそれ以上に間抜けな私の顔が映っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:58:53.56 ID:OZHJJ8vm0<> アイツ「…………」
アイツは私と息子を見て少し悲しそうな眼をすると口を開いた。
アイツ「なぁ……勇者」
さっきまでのくだけ気味の声色ではなく真面目なトーンでアイツが話しかけてきたから私もアイツが何を言いたいのか分かった。
私「…………いよいよ、か」
アイツ「うむ……黒の国の学者達の調査によるともう神樹の生命力はレッドゾーン間近だそうだ」
アイツ「これからは徐々に各地で災害が発生していくことになるだろう、と」
私「…………」
アイツ「息子が生まれたばかりのお前には言いにくいが……」
私「……分かってる。てかそれを言うなら娘がいるお前も同じだろ?」
私「泣いても笑っても、生き残れるのは俺達のどっちかだけってな……」
アイツ「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 07:59:42.87 ID:OZHJJ8vm0<> 家族を持つようになり、私は自身の命で家族の住む世界を守れるのならそれでもいいと考えるようになっていた。
だが決して死を望んでいたワケではなかった。
妻を持ち、子を授かったからこそ前より一層生きたいと思うようになった。
息子が健やかに育っていく様子を妻と温かく見守り続けたい……親にとってのごく平凡な幸せ、それを何よりも望んでいたのだ。
そしてそれはアイツにとっても同じことだった。
妻と娘を持つようになり以前と比べてアイツは随分と丸くなった。
まだ幼い頃に両親を亡くしたアイツは家族の温かみを知らずに育ってきたという。
アイツにとって家族と過ごせた二年余りの日々は人生で最も幸福な日々だったろう。
もはや私達は明日この命が尽きても惜しくはないと考え……。
…………いや、真逆か。
もっと幸せな日々を噛みしめていたかったからこそ私達は最後の決戦を始めることを決意したのだ。
闘いに生き残り家族とのなんてことない日々を少しでも長く過ごすために。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:00:30.91 ID:OZHJJ8vm0<> アイツ「10日後、赤月の荒野と薄雲の岩山で戦があるのは知っているな?」
私「あぁ」
アイツ「さらにもう1ヵ所……つまり3ヶ所で戦をするとなれば黒の国側は大規模な戦力を割くことになろう。そうなれば城の守りは必然的に薄くなる」
アイツ「そこでお前は剣士達と共に城に攻め入ってくれ、その際は……」
私「分かってる、なるべく殺さないようにうまくやるさ」
アイツ「……すまない」
私「気にすんな、どうせ俺かお前が死ねば神樹の生命力は十分すぎるくらい回復するだろ」
アイツ「…………」
私「ところで赤月と薄雲と……もう1ヵ所ってのはどこにするつもりなんだ?」
アイツ「うむ。青の国とはここ数ヵ月戦をしていなかったからな、風鳴の大河への侵攻戦を行うつもりだ」
私「風鳴の大河……か」
アイツ「どうかしたか?」
私「……いや、俺とお前が初めて会ったのってあそこだよな〜って思ってさ」
アイツ「…………そうだな」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:01:13.46 ID:OZHJJ8vm0<> 私達は出会ってからのことを思い出しながらしばらく景色を眺めていた。
アイツの娘はずっとアイツのズボンにしがみついたままじっと私を見ていた。
息子は退屈だったのかすっかり寝入ってしまっていた。
寝かしつけようとしてもなかなか寝ないクセにこういう時にはすぐに寝るなんて赤ん坊は気まぐれな生き物だな、などと考えたものだ。
アイツ「……お前と出会ってもう4年になるのか。……早いものだな」
私「ホントだよな〜……4年なんてあっという間だ」
アイツ「まったくだ。……覚えているか?たしか私とお前が3度目に食事をした時……」
私「ストップッ!!!!」バッ
私はアイツの顔の前に手をかざして話を遮った。
アイツ「?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:02:38.34 ID:OZHJJ8vm0<> 私「そういう積もる話は酒でも飲みながら話そうぜ。最後の飲み会には最高の酒の肴になるだろ」ニッ
アイツ「おいおい、勘弁してくれ。私はこのあと仕事があるのだぞ?」
私「んなもん知るか!次に会うのはどうせ10日後なんだろ?今日飲まなくていつ飲むんだよ!!仕事なんか適当に部下に押し付けりゃいいじゃねぇか」
アイツ「そういう訳にもいくまい……」ハァ
ため息をつきそう言いながらもアイツは私が何か言い始めたら聞きはしないと諦めている様だった。
事実その通り、私は何を言われてもその日の飲み会を中止する気など毛頭無かった。
私「とにかく今日飲むのは決定だからな。いつもの酒場で待ってるから!」
私「あ、そうだ、剣士も呼ばなきゃな〜。まぁ俺が伝えとくから任せとけ!!」
私「んじゃな〜」タンッ
アイツ「あ、おい!!」
アイツの声を背に聞きながら私は山頂の断崖から飛び降りた。
風に吹かれて目を覚ました息子は泣きもせず、澄んだ緑の国の空気を肌に感じて笑って楽しんでいるようだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:03:42.72 ID:OZHJJ8vm0<> そして夜。
私は一人で先に酒を飲んでアイツが来るのを待っていた。
剣士も誘ったのだが「お前と魔王が二人で酒を飲める最後の時間なんだ。俺はいいから二人で楽しんでこいよ」と言って遠慮して来なかった。
日が沈んで随分経ってからアイツがやってきたので
「遅い、遅刻だ!!」
と私が言ってやると
「待ち合わせの時間も決めていないのに遅刻とは随分な言い草だな」
と苦笑まじりに返された。
真面目なアイツはその日の仕事を全力で片付けてからこちらに来たらしい。
律儀な男なのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:04:24.19 ID:OZHJJ8vm0<> それからは私達は昔語りをしながら店主の料理をつまみに酒を浴びるほど飲んだ……と思う。
と言うのもさっきも言ったが記憶が飛ぶほど飲んだのでその時のことをほとんど覚えていないのだ。
そうは言っても空気というか雰囲気というか……そういう曖昧な記憶は残っている。
私は何も考えずに馬鹿話をしながら酒を飲み、アイツはその隣で迷惑そうに、しかしまんざらでもない顔で杯をあおいでいた気がする。
私の人生でも指折りの楽しい時間だった。
惜しむらくはその時の記憶がこうして曖昧なことだが……最後にアイツと飲んだ酒の味だけは忘れることはないだろう。
最後の飲み会の後半の記憶は皆無に近く、私の記憶は一端途切れて店主のしわがれた声からまた始まる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:05:14.34 ID:OZHJJ8vm0<> 店主「……い、おい」
店主「おい、いい加減起きんか」
私「んぁ……?朝か……」
店主「何が朝か、じゃ。もう昼前じゃよ」
私「昼前は俺にとっては朝なの」フワァ〜
二日酔いの痛みを頭に感じつつ寝ぼけ眼を擦った。
酒場を見回すと食い散らかした皿と飲み散らかしたボトルだけが目に入った。
朝日……とはもう呼べない窓から射し込む日の光は薄暗い店内と相まって寝起きの私にはひどく眩しく感じられた。
私「アイツは……?」
店主「明け方近くに帰って行ったわぃ。酔い潰れとるお前さんを見て笑っておったのぅ」
私「チッ、あの野郎最後に一声かけてから行けよ……」
店主「そんなこと言ってもお前さん爆睡しとったじゃろう。ワシもずいぶん前から起こしとったんじゃが起きたのは今の今じゃ」
私「でもさぁ……。伝言とか書き置きとかないのか?」
店主「いんや、何も」
私「ったく、つくづくつれねぇ奴だ」
私が不満を露にしつつ頬杖をつくと店主はアイツが昨日座っていた席を切なげに見ながら言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:06:38.71 ID:OZHJJ8vm0<> 店主「…………のぅ、勇者よ」
私「あん?」
店主「たしかにお前さんの言う通り書き置きなり伝言なりすれば彼はお前さんに別れの挨拶をできたじゃろう」
店主「じゃが……彼はそうしなかった。しようと思えば出来たのに、じゃ」
店主「この意味がお前さんには分かるじゃろ……?」
店主に言われて分かった。
アイツにとってその日の飲み会は私とアイツが友人でいられる最後の一時だったのだ。
だから私に何も言わずに去ったのはアイツの覚悟の表れ――――勇者と魔王の決別の表れだった。
私「…………」
そう感じて私はひどく寂しい気持ちになった。
……大切な友人を一人失ってしまった……。
私の胸にぽっかりと穴が空いた様だった。
そしてその穴はあまりに大きかった。
アイツと過ごした日々が自分にとってどれだけ大きなものであったか知るとともに、アイツと闘わなければならないという残酷な現実をようやく実感し始めていた。
私「…………そっか、とうとう決戦ってワケか」
店主「…………」
私「もう1年も前に分かってはいたつもりだったけど……なんつーか、やっぱ本当の意味で俺は分かってなかったのかもな……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:07:37.10 ID:OZHJJ8vm0<> 店主「何十回と繰り返されてきた勇者と魔王の闘いがまた始るんじゃな……宿命の闘い、じゃのぅ」
私「宿命の闘い……ねぇ」
店主「…………」
私「…………」
私「…………酒」
店主「ほれ」スッ
私「ん」
店主から差し出されたグラスの酒を一口飲んだ。
私「ッ!?」ゴホッ
二日酔いが一気に醒めるほど苦かった。
……そうか、今思い出した。
今日飲んだ店主特製の薬膳酒、どこかで飲んだことがあると思っていたがこの時酒だと騙されて飲んだあれがそうだったのか。
正直もう二度と飲みたくはないものだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:08:13.45 ID:OZHJJ8vm0<> それから十日間の日々を私はよく覚えていない。
アイツとの闘いで命を落とすことになるかもしれないと思っていたので知り合いの顔を見て回ったり思い出の場所を巡ったりしていたのだが、誰と会ってもどこへ行ってもふとしたことで私はアイツとの日々を思い出していた。
一日の大半をぼーっとして過ごし、気がつけば次の日だった。
さすがにこれではマズいと思って軽く鍛練したりもした気がする。
そんなこんなで私には案外早く決戦の日がやって来たように感じられた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:09:36.09 ID:OZHJJ8vm0<> そして……私にとって忘れられないあの日、その夜更け。
私は念入りに装備の確認をしてから部屋を出た。
まぁ装備と言っても鎧と一振りの聖剣のみなのでチェックすることもなかった。
私はガサツなので装備のチェックなど普段はしない。
まるで時間稼ぎのように私は装備の確認をしたのだ。
部屋を出てから無駄としか言い様のない自身の愚かしい行動に気付き、一人失笑した。
家を出る前、今生の別れになるかもしれぬと息子の顔を見に寝室へ戻った。
ベビーベッドで眠る息子はなんとも安らかな寝顔をしていた。
妻「勇者?」
声に振り向くと寝間着の妻がベッドから身を起こしていた。
妻には私と魔王の関係を話していたがその日が最後の闘いになることは話していなかった。
私「あ……悪いな、起こしちゃったかな?」
妻「ぅうん、気にしないで。」
私「そっか」
妻「……行くのね?」
その「行くのね?」は全てを悟った言葉に思われた。
私「……あぁ」
私は短くそう返した。
妻もそれで全てを察した様だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:10:31.16 ID:OZHJJ8vm0<> 私「……というか何で分かったんだよ?」
妻「さぁ?」
私「女の勘、ってやつか?」ハハッ
妻「女の勘、ってやつかな」フフッ
妻「まぁ妻に内緒で夫が夜中に闘いの準備をしてたら誰でもわかるよ」
私「それもそうだな」ナハハ
妻「……勇者、わたしには何も言わずに出ていくつもりだったんでしょ?」
私「う……それは……」
妻「いいの、勇者不器用だからどんな顔してなんて言ったらいいか分からなかったんでしょ」
私「…………なんでもお見通しってワケだ」
妻「そうだよ、わたしはあなたの奥さんなんだから」フフッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:11:46.84 ID:OZHJJ8vm0<> 妻は起き上がると私へと歩み寄り優しく私を抱きしめた。
私「お前……」
妻「最後かもしれないでしょ?だから少しだけ……ね?」
私「…………」
妻「……つらいね」
妻「魔王さんすごく良い人だもんね……不器用だけど優しくて信念があって……何から何まで勇者そっくり。……勇者と魔王さんが友達になったのは運命だったんじゃないかな、ってわたしは思うな」
私「……だとしたら運命なんてクソくらえだ」
妻「あら?じゃあこうしてわたしに出会えたこともクソくらえ?」
私「いや、それは…………ったく、からかうなよな」フッ
妻「えへへ」
顔は見えなかったが声が震えていたので妻は泣いているのだと分かった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:12:40.41 ID:OZHJJ8vm0<> 妻「勇者、今日の闘いはきっとあなたにとって人生で一番つらい闘いになるよね」
私「……そうだな」
妻「魔王さんがすっごく強くて、それでいてあなたにとって魔王さんがとっても大事な友達だってわたしは知ってる」
妻「でも……負けないで」
私「…………」
妻「あなたの奥さんのわたしに言えることはそれだけです」ギュッ
私「…………ありがとう」ギュッ
少しの間私達は何も言わず抱き合っていた。
それだけでお互いの心が通じ合っている様な気がした。
願わくはずっとこうしていたいと思った。
だがそうも言っていられない。
私は妻を抱きしめる手をそっと放した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:13:46.03 ID:OZHJJ8vm0<> 私「……そろそろ、行くな」
妻「……うん」
妻も私に応えてそっと離れた。
私「なぁ、最後に1つ聞いてもいいか?」
妻「なに?」
私「……明日の朝飯はなんだ?」
妻「ん〜、卵が悪くなっちゃいそうだからベーコンエッグにしようかな。あとは一晩寝かせた今日のクリームシチュー」
私「お、いいな。やっぱシチューは一晩寝かせてからが本番だよな」
私「よしよし、こりゃ朝飯が楽しみだ」
妻「勇者シチュー大好きだもんね」フフッ
私「じゃあ……行ってくるな」
妻「うん、いってらっしゃい」ニコッ
涙を流しながら微笑む妻に見送られ私は我が家を後にした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:15:53.49 ID:OZHJJ8vm0<> 家の前で剣士達と合流したが軽く挨拶を交わしただけで剣士も爺さんも何も話さなかった。
そして爺さんの転移魔法で黒の国の魔王の城へと跳んだ。
魔王が言っていた通り、城の守りはかなり手薄になっていた。
私と剣士が城の人間達を気絶させて回り、意識を失った者には爺さんが強力な睡眠魔法をかけた。
途中で逃げ出した者もいたが私と魔王の闘いに他の者を巻き込まないことが目的だったので放っておいた。
最後に眠らせた城の人間達をまとめて爺さんが遠くに転移魔法で飛ばした。
時計の長針が半周もする頃には全ての舞台が整った。
私「さて……面倒なこと手伝わせちまって悪かったな」
大広間の扉の前で私は剣士に言った。
剣士「いや、気にすんな。俺も殺しはしたくなかったからな」
剣士は世界の真実を知ってからと言うもの黒の国の兵を殺すことに抵抗を感じていたようだ。
それもそうだろう。
同じ人間をその手で殺すのだ、根の優しい剣士にはとても堪えられることではなかったと思う。
事実私とアイツの決着が着いた後に彼は前線を退いている。
それは爺さんも同じことだった。
95代目勇者とパーティを組んだ時に全てを知った爺さんはそれ以降の勇者とパーティを組むことを拒否し続けてきた。
どうしてもと王達に頼み込まれて渋々私のパーティに加わったのだ。
戦争を休みがちだったのは彼もまた同じ人間を殺したくなどなかったからだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:16:28.49 ID:OZHJJ8vm0<> 私「ここからは俺とアイツの闘いだ。お前は早く爺さんとアイツの嫁さんと向こうの山に行ってろ、城の入り口で待ってんだろ?」
剣士「あぁ、そうだな……」
私「…………」
剣士「…………」
私「……なんだよ、早く行けって」
剣士「でもよ……お前はすげーつらいってのに俺はお前に何もしてやれなくて……待ってることしかできなくて……ずっとお前とつるんできたのに……」
私「…………」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:17:16.16 ID:OZHJJ8vm0<> 私「……ぶっ!」
剣士「?」
私「ぶはははは!なんでお前が泣きそうな顔してんだよ!!」
普段豪快な剣士が弱々しく今にも涙を流しそうな顔をしていたのでなんだか可笑しくなって私は笑ってしまった。
剣士「な……笑うことねぇだろ!?俺はだなぁ!!」
私「はいはい、気持ちだけ受け取っとくよ」クスクス
私「お前は99代目勇者の仲間として、俺が帰ってくるのを信じてただ待っててくれりゃいいんだよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:17:50.12 ID:OZHJJ8vm0<> 私「帰りを待っててくれる奴がいる。それだけで十分なんだよ」
剣士「勇者……」
私「ほら、分かったらさっさと行けよ。巻き添え食らっても知らねぇぞ?」
剣士「………………わかった」
剣士「勇者」
私「?」
剣士「またな」
私「あぁ、またなっ」
それだけ言うと剣士は去っていった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:18:36.88 ID:OZHJJ8vm0<> 扉の前で私は一人になると精神統一を始めた。
この扉の向こうにアイツがいる。
この扉を開いた時から最後の闘いが始まる。
おそらく自分の持つ全てを賭けなければアイツには勝てないだろう。
勇者候補として、勇者として、培ってきた全てを出し切るのが今なのだ。
……そう自分に言い聞かせた。
そして大広間の扉に手をかけた時だ。
一瞬脳裏をアイツの笑った顔がよぎった。
私の右の頬を温かい何かが伝った。
その何かが自分の眼から溢れ出た涙なのだと気付くのには数秒かかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:20:15.86 ID:OZHJJ8vm0<> 私「…………ハハッ、格好悪ぃ。剣士じゃあるまいし何泣いてんだ俺は」
苦笑しながら涙を拭った。
だがまたすぐに次の一滴が頬を流れた。
私「……くっそ、最後の最後にきてこれかよ……ホント格好悪いな……ったく」ハハッ
それから何度も涙を拭った。
何度も。
何度も。
涙が止まるようになるまで私は扉の前にずっと突っ立っていた。
しばらくしてようやく流れ出る涙が止まった。
決戦開始と決めていた時間からはもう随分経っていた。
私(やれやれ……こりゃ最後の最後もアイツにどやされることになりそうだな)ハァ
私「よし、行くか!!」
バァンッ!!
両の扉を勢いよく開けると大広間の奥にはアイツが居た。
悪びれた様子もなく、努めて明るく、いつもの様に私はアイツに声をかけた。
案の定、アイツはいつもの台詞を私に返してきた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:21:01.10 ID:OZHJJ8vm0<> 斯くして99代目勇者と99代目魔王の最後の決戦が幕を開けた。
お互い顔を会わせてすぐに感情を抑え切れなくなり、私達は涙を流しながら剣を振るうこととなった。
私の剣がアイツの剣とぶつかる度に、アイツの身を傷つける度に、私はアイツとの思い出を一つ、また一つと鮮明に思い出した。
最初につばぜり合いになった時は薄雲の岩山での闘いを思い出した。
一瞬の隙を突かれて足場を崩された私は崖へと真っ逆さまに落ちていった。
落ちる直前に放った雷撃魔法でアイツの足場も崩してやったのでアイツも崖へと落ちた。
崖下をさ迷い歩いていてアイツと出くわしたので第二ラウンドを始めたのだが私達の闘いの影響で崩れてきた岩に二人とも生き埋めになってその日の勝負はドローという形になった。
連撃雷撃魔法の一つがアイツの右腕をかすった時は白雪の丘で飯を食べた時のことを思い出した。
弁当を忘れた剣士が食料探しをしてくると雪山に入って冬眠中の熊を怒らせて襲いかかられた。
見事に素手で撃退したまでは良かったのだが、その熊の肉を昼飯にするなどと言い始め、火が中まで通る前に食べてしまったものだから腹痛で悶え苦しみだした。
自分の弁当を食べながら私とアイツはそんな剣士を見て馬鹿笑いした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:21:56.42 ID:OZHJJ8vm0<> 白雷の魔法剣がアイツの左腕の籠手を破壊した時にはアイツに王妃様を紹介された時のことを思い出した。
普段冷静にスカしているアイツが顔を赤くしながら「私の許嫁だ」と彼女を紹介してきた。
アイツのらしくない顔と態度がおかしくて腹を抱えて笑ってやった。
後日私が結婚前の妻を紹介した時は仕返しと言わんばかりにからかわれたものだ。
アイツの多重炎撃魔法陣と私の多重雷撃魔法陣がぶつかり合った時にはアイツの結婚式のことを思い出した。
国を上げた盛大な結婚式は言うまでもなく私が経験した結婚式の中で最大のものだった。
変装して剣士と爺さんと結婚式に参加した私達は国民に祝福されるアイツと王妃様を式場の隅で温かく見守っていた。
王妃様の投げたブーケは大変な争奪戦を起こし、最終的に何故か私のところに飛んできた。
その2ヶ月後に開かれた私の結婚式には勿論アイツも呼んでやった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:22:55.73 ID:OZHJJ8vm0<> アイツの魔法剣を紙一重でかわし肩の肉を鎧ごと斬った時はアイツが生まれたばかりの娘を私に見せに来た時のことを思い出した。
珠のように可愛らしいその娘を見て世界で一番幸せそうな顔をするアイツを親バカと馬鹿にしたが幸せ絶頂のアイツはてんで気にしなかった。
アイツとその娘を見ながら自分もいつか親になるのだろうなと考えたりもした。
王妃様によく似たその娘の寝顔を見ながらアイツと「俺達の子供達が戦争で争い合うことのない平和な世界を作りたいな」と話したりした。
そうしてアイツとの日々を思い出しながら私は闘った。
確信はないがきっとアイツもそうだったんじゃないかと思っている。
私にとってその闘いは生涯で最も密度の濃い時間だろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:24:16.36 ID:OZHJJ8vm0<> そして…………決着の時はやってきた。
私達は体中切り傷と打撲だらけで鎧はボロボロ、呼吸は乱れ肩を大きく上下させて肺に空気を取り込んでいた。
もはや魔力もそこを尽き魔法剣はおろか下級魔法陣すら発動させることはできないほどだった。
私達は残された僅かな体力を振り絞り、限界を超えて剣を振っていたのだ。
激しい闘いの影響で城は半壊していたため大広間の屋根は吹き飛び空が見えていた。
夜中に闘い始めた時は星しか見えなかった空は東の方が白み始めていた。
私「うおおぉおぉおおお!!」ゼェゼェ
アイツ「せやぁぁああぁぁああ!!」ハァハァ
キィン!!
ガギィン!!
キキン!!
キーン!!
聖剣と魔剣とがぶつかり合う衝撃に手が耐えきれず剣を落としてしまいそうになった。
完全に気力のみで剣を振っている状態だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:25:25.67 ID:OZHJJ8vm0<> 私は残された全身全霊を込めた最後の一撃を決めにかかった。
私(これで……勝負を決める……!!!!)
私「でりゃぁぁぁあああああ!!!!」ドンッ!!
私は持てる力の全てを使い地を蹴った。
脚の筋肉が悲鳴を上げた。
全身の骨が軋む音がした。
アイツ「もらった!!!!」ビュッ!!
私「ッ!!!!」
アイツの正確無比な突きが私の顔面目掛けて繰り出された。
避けようのない一撃だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:26:33.64 ID:OZHJJ8vm0<> 私(あぁ……こりゃ終わったな)
魔剣が私の眉間から頭の貫き頭蓋を砕き脳と血をを飛散させる光景が見える気がした。
そう思うと走馬灯が頭の中を駆け巡った。
私(おぉ、これが走馬灯ってやつか。ホントに死ぬ間際に見えるもんなんだな)
生まれてから今までに体験した色々なことが一度に幾つも浮かんではすぐに消えていった。
私(色んなことあったなぁ……勇者なんかやったせいで酷い目にあったけどこれはこれでいい人生だったのかもな)
最後に頭の中に浮かんだのは……妻と息子の顔だった。
そして二人の顔が浮かぶと思った。
私(…………生きてぇなぁ)
私(…………まだ死にたくねぇな)
私(まだ……死ぬわけにはいかねぇ……!!!!)ギンッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:27:37.34 ID:OZHJJ8vm0<> 私「ぅあああああぁぁぁああぁぁあああ!!!!!!」ミシミシッ
私は無我夢中で無理矢理体の軸をずらした。
アイツ「ッ!?」
私「くっ!!」スパッ
眉間に突き刺さる筈だったアイツの魔剣は、私が身体を捻ったことで私の右の頬からを耳までを切り裂くかたちとなった。
頬と耳に痛みを感じつつ、私も突進の勢いをそのままにアイツの左胸目がけて突きを放った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:28:44.42 ID:OZHJJ8vm0<> カッ
聖剣がアイツの鎧に触れた。
剣を通して手にその固さが伝わった。
ピシッ
鎧が砕け剣がアイツの胸へと触れる。
ドズッ
アイツの胸の筋肉を切っ先が切り裂いた。
ベキン
バキン
アバラ骨を剣が断つ音が聞こえる気がした。
ズプッ
柔らかい何かを聖剣が貫いた。
おそらく心臓だったのだろう。
溢れる血の奔流を剣伝いに感じた。
ボキン
バキン
アバラ骨を断つ音が再び聞こえた。
背中側のアバラ骨だったのだろう。
ピシッ
再び鎧を砕く感覚を味わった。
ズズズズ……!!
勢いは止まることなく聖剣は刃の半ばまで奴の胸を貫いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:29:41.38 ID:OZHJJ8vm0<> ブファッ!!
胸の傷から鮮血が勢い良く吹き出した。
剣を伝ってきた血が私の両手を真赤に染めた。
その生温かさが例えようもないほどに気持ち悪かった。
アイツ「……ガフッ」ゴポッ
カシャァン……
アイツは血を吐き出すと両手をだらしなく垂らし魔剣を落とした。
私に寄りかかるように倒れこんだ。
私は自分の足で立ちつつなんとか聖剣に突き刺さるアイツの身体を支えた。
アイツ「…………」ボソッ
その時アイツは何か言ったようだったがあまりに小さい声だったので私にはなんと言ったかは聞き取れなかった。
アイツの最後の言葉を知ることは未来永劫ないだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:30:37.17 ID:OZHJJ8vm0<> 私「くっ……がはっ……はぁ……!!はぁ……!!」ヒュゥ…ヒュゥ…
アイツ「」
私「ぜぇ……!!はぁ……!!」ハァハァ
アイツ「」
私「はぁ……はぁ……」
アイツ「」
私「…………」
アイツ「」
私「…………へ、へへっ、どうした、もう終わりかよ」
アイツ「」
私「最強の、魔王ともあろうもんが、情けねぇな」
アイツ「」
私「どうした?反撃して、こないなら、俺の勝ちって、ことになるぜ?」
アイツ「」
私「…………」
アイツ「」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:31:33.01 ID:OZHJJ8vm0<> 私「…………なんとか……なんとか言えよ」ポロッ
アイツ「」
私「なんとか言えよバカ野郎!!!!」ポロポロ
アイツ「」
私「ぅ……ぅぁぁぁぁああああ!!」ポロポロ
私「チクショウ……ちくしょうチクショウ!!なんだよこれ!!こんなの……こんなの……!!」ボロボロ
私「くっそぉぉぉおおおぉおぉおおおお!!!!!!」ボロボロ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:32:18.94 ID:OZHJJ8vm0<> その時だ。
カアアアァァァァッ!!!!
私「!?」
地面に無惨に転がる魔剣が目映く輝き出した。
神々しいその白い光は次第に強さを増していき、やがて辺り一面を光の海が包み込んだ。
真っ白な光は何故か少し温かく感じられた。
その光は元はアイツの魔力だったのだと思えばその温かさも当たり前だったのかもしれない。
カアアァァァ……
シィン……
ものの数分で魔剣の輝きは収まり、その場はさっきまでの殺伐とした城跡へと戻った。
ドサッ
私は立っていることすら出来ずその場に膝をついた。
人形の様になったアイツは胸に聖剣を刺したまま地面へと倒れた。
アイツの胸から溢れる血が大きな血だまりを作っていった。
私はその血だまりの中で泣き、わめき、叫んだ。
声が渇れ喉が潰れても嗚咽し続けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:33:16.27 ID:OZHJJ8vm0<> ……その後のことはよく覚えていない。
気づいた時には私は城の国で一番大きい病院の病室にいたからだ。
後で知ったことだが魔剣の光に闘いの終焉を知った爺さんが私を迎えに来てくれたのだそうだ。
ベッドの隣では妻が椅子に座って私のベッドに突っ伏して静かに寝息を立てていた。
必死に私の看病をしてくれていたのだろう、そのまま疲れて眠っていたのだった。
ふと気付くと窓の外からは喧しいほどの騒ぎ声が聞こえた。
何事かと思って外を見ると城の前の大通りで祭りか何かをやっているようだった。
妻「ん……」
こんな時期に祭りなどあっただろうかと考えていると妻が目を覚ました。
私「よ、おはよう」
妻「ゆ、勇者!!良かった目が覚めたんだ!!このまま起きなかったらどうしようかと……」ウルッ
私「大袈裟だな……」
妻「だって3日もずっと寝てたんだよ!?それは心配もするよ!!」
私「3日もか……心配かけたな」
妻「うぅん、平気だよ……」グスッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:34:04.59 ID:OZHJJ8vm0<> 私「……なぁ、あの祭りって何の祭りだ?」
妻「あぁ、あれはね、勇者が帰ってきたお祝いのお祭りだよ。『99代目勇者、魔王討伐凱旋祭』だって」
私「…………」
妻「……勇者?」
私「……魔王討伐凱旋祭か…………魔王を殺してもこの戦争は終わりはしないってのに……」
妻「…………」
その時の私にはその祭りがひどく下らないもので、魔王討伐に騒ぐ国民達がどうしようもなく滑稽に思われた。
未来には破滅しかないこの世界の絶望の渦の中で、錯覚にすぎない幸せに心踊らせることのなんと虚しいことだろう。
そう考えると私が魔王をこの手にかけたことすらも意味のないことの様にすら思えてきた。
私「何が勇者だ……俺は親友をこの手で殺したただの殺人者だ……」ワナワナ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:35:12.79 ID:OZHJJ8vm0<> 妻「……それは違うよ、勇者」ギュッ
自責の念にかられ震えていると妻が優しく私の手を握って言った。
妻「世界のことはどうあれ、あなたはこうして今を生きる人達に希望を与えたんだよ」
妻「魔王さんは魔王さんで文字通り命を懸けてこの世界に生きる人達を救ったんだよ」
勇者「でも……俺は魔王を殺したんだ。アイツにだって家族がいたのに……」
妻「じゃああの魔王さんが勇者のこと恨んだりすると思う?」
私「…………」
妻「しないよ、絶対。……って勇者の方がわたしより魔王さんのこと分かってるよね」フフ
妻「胸を張って。……あなたは立派な勇者なんだよ」
私「…………ありがとう」
この人が私の妻で本当に良かったとその時心から思った。
彼女がそう言ってくれなかったら今の私はなかっただろう。
妻「……そうだ、まだ言ってなかったね」
私「?」
妻「おかえりなさい、勇者」ニコ
私「……あぁ、ただいま」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:36:54.35 ID:OZHJJ8vm0<> それから私は史上最強の魔王である99代目魔王を討伐した英雄として人々から讃えられることになった。
魔王討伐の後、99代目勇者パーティはと言うと解散という体になった。
戦うべき魔族が同じ人間だと知った時から剣士は戦いに抵抗を感じていたので、アイツとの最後の戦いが終わったらパーティを解散することは以前から私が決めていたことだった。
「すまない」と謝りながら剣士は戦線を退き中立国である緑の国で一人ひっそりと暮らし始めた。
爺さんも同様に戦線復帰以前の隠居生活へと戻った。
私はというと……その後も第一線での戦いに身を投じ続けた。
親友の命を奪った罪を、さらに罪を重ねることであがなおうとした。
私が魔族を殺すことで他の勇者や人間達が魔族を殺す数を少しでも減らそうとしたのだ。
もっともそんなのただの自己満足に過ぎないと自分でも分かってる。
だが残された私に他に何ができようか?
魔王討伐後十年が過ぎた頃からだろうか、長年に亘り前線で戦う私をいつしか人々は『大勇者』と呼ぶようになった。
一人の勇者が勇者でいられる期間は聖剣による肉体的負荷の問題から平均で五年程度なので十年は長い方である。
今日まで十八年余り私が勇者を続けてこれたのは、歴代の勇者の中でも聖剣の加護に長期間耐えうる肉体を私が持っていたこととアイツが神樹へと供給した魔力が並外れて大きかったことだというのは言うまでもないだろう。
そして私は今日まで戦場を駆け続けてきた。
亡き友への贖罪と亡き妻の言葉を胸に……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:38:25.36 ID:OZHJJ8vm0<> ――――――――
店主「……また昔のことを思い出しておったようじゃな」
店主に声をかけられ私は現実の世界へと意識を戻された。
私「…………あぁ」
店主「昔を思い出して懐かしむのは歳をとった証拠じゃな」
私「ほっておけ」フンッ
私「……私とお前が初めて会ったのは20年以上も前だぞ?それは歳もとるさ」
私「おかしいのはお前だ。昔と容姿が何一つ変わっていないのはどういうことだ?」
店主「ホッホ、じじいは無駄に長生きなもんじゃからな、秘密の1つや2つあるもんなんじゃよ」ニヤッ
私「そういうものか」フッ
店主「そういうもんじゃ」フォッフォッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/30(日) 08:39:12.78 ID:OZHJJ8vm0<> 店主は先程片付けた息子が割ったグラスをぼーっと眺めながら呟いた。
店主「息子さんは……どうするつもりかのぅ?」
私「…………」
店主「友と血で血を争う決闘をするのか、勇者としての役目を全て放棄するのか……」
私「…………実際には二択ではないんだよ」
私「全てから逃げてしまうという選択肢は本当のところ虚像にすぎない……勇者に選ばれた者はいくら悩んでも最終的には魔王と闘う決断をすることになるのさ」
私「…………私がそうであったようにな」
店主「…………」
これから待ち受ける悲劇は息子にとって間違いなく人生最大の悲劇となるだろう。
だが……その悲劇を乗り越えさらに強く生きて欲しいと思ってしまうのはやはり私が親だからだろうか?
そんなことを考えながらグラスの酒を一口飲んだ。
若き日のあの日の出来事の様に苦々しさが口の中いっぱいに広がり私はまたも顔をしかめるのだった。 <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2012/12/30(日) 08:44:09.37 ID:OZHJJ8vm0<> キリがいいので今日はここまでにしときます
お暇なときにでも読んでやってください <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/30(日) 11:19:38.42 ID:lCwt0btH0<> 面白い!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/30(日) 16:51:56.80 ID:Lmq1pt8Oo<> 続きが気になる
楽しみにしてます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/30(日) 20:52:21.94 ID:A8nkWxmz0<> これはおもひろい
ひさびさに気になるSS発見した
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2012/12/31(月) 01:48:56.56 ID:KhP6hFHj0<> レス下さっている皆さんありがとうございます
皆さんのレスが励みに本当になってます! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 01:52:55.48 ID:KhP6hFHj0<> 【Episode07】
鼻につく血の匂い。
眼前に広がるのは暗闇。
しかしその暗闇は完全な闇ではなく自分の周囲だけ薄明かりに照らされぼんやりと目の前の光景を視認できた。
血の海だ。
そこに倒れる三人の男女はぴくりとも動かない。
死んでいるのだろうか?
一番近くに倒れているどこかで見たことのある大きな黒帽子の少女に声をかけようとした時、背後から声がした。
「さぁ、始めよう」
振り向くと長い黒髪の美しい少女が無機質な瞳でこちらを見ていた。
その手に構えた血の滴る剣の切っ先は真っ直ぐにこちらの心臓に向かっている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 01:54:00.50 ID:KhP6hFHj0<> 『やめろ』
黒髪の少女「何を今さら」
『俺はお前と闘いたくなんてない』
黒髪の少女「そうも言っていられないのだ……本当はお前も分かっているのだろう?」
『嫌だ』
黒髪の少女「駄々をこねるな。世界の命運が私達にかかっているのだぞ?」
『こんなの絶対おかしい』
黒髪の少女「あぁ、おかしい、狂っている。だが私達は運命に対しあまりに無力だ」
『…………』
何も言えない。
それは彼女の言うように本当は自分自身頭では分かっているからだ。
黒髪の少女「私もお前と闘いたくなどはないさ……だがこれが運命ならば受け入れるしかあるまい」
『でも……それでも俺は……』
黒髪の少女「やれやれ……まるで話しにならない」チャキッ
そう言って彼女は構え直した。
『ま、待て』
黒髪の少女「来ないのならこちらから行くぞ」ドンッ!!
少女は剣を振りかぶり襲いかかって来る。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 01:54:52.24 ID:KhP6hFHj0<> 『来るな!!』ブンッ
わめき声を上げ腕を振った。
何故か自分の手には剣が握られていた。
ドッ……
肉を断つ不気味な感触の後に少女の首が宙を舞った。
彼女の首からとめどなく噴き出す鮮血が身体中を濡らした。
頬を伝う生暖かい返り血を撫でる。
地に転がる彼女の顔は瞳を潤ませてこちらを見て呟く。
黒髪の少女「勇者…………」
夢だ。
ありえない。
こんなの夢だ。
俺がアイツを?
夢だ。
夢だ。
夢だ夢だ夢だ。
夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ。
夢だ夢だゆゆだ夢だ夢夢ゆだだゆめめユメユメ夢夢だだだだユゆメユだダ夢ユメゆめだ夢だメダめダユ夢。
『うああああああぁぁぁぁぁあぁぁああぁぁああぁあ!!!!!!』 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 01:56:04.85 ID:KhP6hFHj0<> ――――白の国・王都・とある宿屋
勇者「かはっ!!」ガバッ
勇者はベッドから跳ね起きると溺れかけた人間の様に思いきり空気を吸った。
乱れる呼吸を落ち着かせながら辺りを見回し現状を理解する。
勇者「……なんだよ夢オチか……」ハァハァ
質素なベッドから起き上がると勇者は部屋に備え付けられた小さな洗面台で顔を洗った。
パシャッ……
勇者「…………」
鏡に映る自分の顔はひどくやつれていた。
勇者(……最近まともに寝れてないし当たり前と言えば当たり前、か……)
父に世界の真実を聞いてから勇者は下町の安宿に滞在していた。
あの後、勇者は父から聞いた話を包み隠すことなく仲間達に話した。
仲間達の反応は概ね勇者の予想通りであった。
武闘家は何も言わず、
魔法使いは唇を噛み、
僧侶は涙を瞳に浮かべていた。
その日は勇者も仲間達も何も話し合うことなどできそうになく、解散というかたちになった。
それから三日。
各々一人になって考える時間が必要だろうと合うことはおろか連絡すらとっていない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 01:56:53.92 ID:KhP6hFHj0<> 勇者(……みんなどうしてるかな……)
カーテンを開け朝日に目を細めながらそう考えているとドアをノックする音が聞こえてきた。
コンコンッ
勇者「はい」
宿屋の妻「おはよう。……大丈夫かい?なんだかうなされてたみたいだけ……」
勇者「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと悪い夢を見てさ」
宿屋の妻「そう……朝ごはん、ここに置いとくからね?」コトッ
勇者「はいはーい」
ドア越しの彼女の足音が聞こえなくなってから勇者はドアをそっと開いた。
ドア横の小さな棚には盆に乗った朝食が置かれている。
メニューは焼きたてのパンとマーガリン、サラダにスープだ。
盆を部屋のテーブルに移すと椅子にもたれかかりながらパンを一口かじった。
近所のパン屋が朝一で焼いたそのパンは芳ばしくも柔らかく地元では人気のパンだ。
しかし今の勇者には何の味も感じられないただの小麦粉の固まりにしか感じられなかった。
一口かじっただけのパンを盆に戻すと今度はスープをすすった。
こちらも味がしない。
三日前から何を食べても美味いと感じることはできなかった。
食欲もてんで沸かない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 01:57:35.93 ID:KhP6hFHj0<> 部屋で魔王との闘いについて考えてはいつの間にか日が沈んでいて夜になり寝て悪夢にうなされ次の日の朝になる。
三日間ただそれだけを繰り返していた。
しかし魔王の言っていた緑の国への侵攻作戦までもう日がない。
勇者「…………もう決断しなきゃな」
ポケットの中にある魔王の城へと跳べる魔法具を握ると勇者は一人つぶやいた。
そして仲間達のことを考えた。
今皆は何を考え、何をして過ごしているのだろうか?
急に会いたくて仕方がなくなった。
魔法使いに会えば自然に笑える気がした。
武闘家に会えば折れかけた心を支えてもらえる気がした。
僧侶に会えば荒みきった心が励まされる気がした。
勇者「…………よし、みんなに会ってくるかな」
決意すると部屋を出て階段を降りる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 01:58:39.91 ID:KhP6hFHj0<> 宿のカウンターでは亭主がパイプ片手に新聞を広げていた。
宿屋の亭主「おぅ、おはよう」
勇者「おはよう」
宿屋の亭主「朝っぱらからお出掛けかい?」
勇者「うん」
宿屋の亭主「ははーん、さては女だな?」ニヤニヤ
勇者「馬鹿、違うよ。武闘家達に会ってくるだけ」ハァ
宿屋の亭主「なんでぇつまんねぇなぁ。昼飯はどうする?」
勇者「んー、どっかで食ってくるよ」
宿屋の亭主「あいよ、じゃあ晩飯は作って待ってるぜ。気をつけて行ってきな」
勇者「あーい」ヒラヒラ
後ろ手に手を振りながら勇者は宿屋を後にした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 01:59:35.77 ID:KhP6hFHj0<> 宿屋の亭主「ふぅむ……どうしたもんかね」
新聞を畳んで心配そうな顔で亭主は勇者の背中を見ている。
そこに勇者の朝食を片付ける妻がやってきた。
宿屋の妻「勇者、元気ないわね」
宿屋の亭主「まったくだ。旅立つ前とはまるで別人だな、ありゃ」
宿屋の亭主「飯は?」
宿屋の妻「うぅん。ちょっと口をつけた程度だよ。勇者の好きな卵スープにしたんだけどねぇ」
宿屋の亭主「……今のアイツを見てるとアイツの親父のことを思い出すね」
宿屋の妻「大勇者さんのことかい?」
宿屋の亭主「あぁ。アイツとは昔のダチなんだがアイツも一時期あんな風にまるで生気のねぇ顔してたっけなぁ」
宿屋の妻「へぇ、あの大勇者さんがね」
宿屋の亭主「……たしか先代の魔王との決戦の少し前だったかな……」
宿屋の妻「!!…………じゃあ……」
宿屋の亭主「さぁね、単なる偶然かもしれねぇ。好きな女にフラれたとかよ」ハハッ
宿屋の妻「…………」
宿屋の亭主「ま、俺達がアイツにしてやれることはいつもと変わらずもてなしてやることぐらいだ。晩飯はまたアイツの好きなもん作って待っててやろうぜ」
宿屋の妻「……えぇ、そうだね」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:01:37.92 ID:KhP6hFHj0<> ――――王都・東の住宅街
住宅街にある比較的大きな家の前に勇者はいた。
その大きさであっても家賃が安いのは家が建つ前は墓場だったからだとか前の家主が自殺したからだとか魔法使いに聞いたことがある。
一般人なら願い下げのその物件に住めるのは変わり者くらいだろう。
勇者「さて……」スッ
ドアのベルに手を掛けると勇者はベルを叩き鳴らした。
リンリン!!リリリリリン!!
普通一、二回鳴らせば事は済むところを七回も鳴らしたのには勿論理由がある。
五回以上鳴らさないと返事が来ないからだ。
やがて面倒臭そうな女性の声が聞こえてきた。
「は〜い、鍵開いてるから勝手に入って〜」
勇者「お邪魔します」
ガチャッ
勇者「う……相変わらず散らかってるな……」
ゴミの散乱する廊下を足の踏み場を見つけながら奥へと進む。
リビングへ入ると女性がテーブルで何やら原稿用紙を広げて悩んでいるところだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:02:34.93 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「ども」
魔法使いの母「お!勇者君じゃん!久しぶり〜」
勇者「相変わらず元気そうっすね」
魔法使いの母「まーね〜、元気すぎて困ることはないからね」アッハッハ
煙草をくわえながら朗らかに笑うこの女性こそ魔法使いの母親である。
『自由奔放』『明朗快活』『破天荒』……魔法使いを表す言葉は大抵母親にも当てはまる。
勇者はよく父親に似ていると言われるが、魔法使いとその母ほど似ている親子は見たことがなかった。
魔法使いの母「悪いね〜、散らかってて、まぁ適当に座ってよ」
ゴミの散乱するソファーをタバコで指すと彼女は再び原稿用紙へと眼を移した。
ボサボサの栗色の髪に赤縁眼鏡、ラフな格好で物の散らかった部屋に座るこの人が良家の出身だとは勇者は未だに信じられない。
勇者「今は何の仕事してるんすか?」
魔法使いの母「さて、なんだと思う?」フフッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:03:42.11 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「画家の仕事を続けてるワケじゃないのは分かりますがね」
魔法使いの母「あー、画家はやめたよ。なんかご大層な賞とってからどんな適当な絵描いてもベタ褒めされるようになってさー」
魔法使いの母「真っ白いキャンパスに赤と黄色の点と青い線があるだけの絵が『前衛的だ!!』だってさ、笑っちゃうよねぇ〜」ヤレヤレ
勇者「はぁ……」
魔法使いの母「今はね、小説家やってんの」
魔法使いの母「『いつか神樹の下で』って言う恋愛小説、知ってる?」
勇者「いや、俺小説とか全然読まないんで」
魔法使いの母「あれ?そっかー、白の国じゃ結構売れてるんだけどな〜」
勇者「へぇ〜……」
魔法使いの母「『戦争によって引き裂かれた2人の愛し合う男女、運命に翻弄され離ればなれになった2人は果たしてまた会うことはできるのか……!?』って言う触れ込みでね、思いがけず大ヒットさ」
魔法使いの母「今はその下巻を執筆中でね、3ヶ月後に発行予定なもんだから原稿の進み具合考えると今から結構ヤバいんだよね〜」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:05:19.80 ID:KhP6hFHj0<> 魔法使いの母「……おっと」
タバコが根元近くまで燃え尽きていたので彼女は慌ててタバコの亡骸達が山をつくる灰皿へとくわえいたタバコを投げ捨てた。
テーブルの上に置いてあった箱から新しいタバコを取り出してくわえると人差し指の先に極小の炎撃魔法陣を展開して火をつけた。
魔法使いの母「さて……」フゥ〜…
魔法使いの母「用があるのに話に付き合ってもらっちゃって悪かったね」
勇者「いや……っつーか俺はただ話聞いてただけですし」
魔法使いの母「それもそっか」アハハ
勇者「その……魔法使いは元気ですか?」
魔法使いの母「……いや、それがサッパリさ」
魔法使いの母「ちょっと前に帰ってきてからってものあの子てんで元気がなくってさ、一日中部屋にこもりっぱなし」
勇者「…………」
魔法使いの母「食欲も全然ないのよねぇ」
勇者(……魔法使いもか……)
魔法使いの母「いつもならおかわり5回はするのに3回しかしないんだもん」ハァ
勇者(…………とりあえず飯は食えてるみたいだな、うん)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:06:17.87 ID:KhP6hFHj0<> 魔法使いの母「『何かあったの?』って聞いても教えてくれなくってね……勇者君何か知ってる?」
勇者「………………」
魔法使いの母「……フフッ」
勇者が魔法使いの母の質問に答えられずに黙っていると彼女は静かに笑った。
勇者「?」
魔法使いの母「あの子とおんなじ顔してる、何か知ってるんだね」
勇者「……はい」
魔法使いの母「やっばり勇者君も言えない?」
勇者「…………」
魔法使いの母「言えないようなことなら私は無理には聞かない……でもこれだけは聞かせてくれない?」
魔法使いの母「あの子が塞ぎ込んでる理由はあの子が誰かに酷いことされたりしたからなの?」
魔法使いの母「もしそうだとしたら……私はそいつを許さないよ。あの子を悲しませる奴は貴族だろうが魔族だろうが魔王だろうが泣くまでひっぱたいて土下座させてやる」
普段のふざけた雰囲気からは想像もつかない真面目な顔で彼女は勇者を見つめてきた。
射る様なその眼差しは彼女が娘のことを心から愛していることの表れなのだろう。
勇者は何故か魔法使いのことを少しだけ羨ましく思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:07:33.27 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「おっかないなぁ、そういうんじゃないから安心していいですよ」
魔法使いの母「……そっか、ならこれ以上詮索するのは止めとくよ」
勇者の言葉を聞くと彼女はまたいつものおちゃらけた感じに戻ってタバコをふかした。
魔法使いの母「きっとあの子が自分で乗り越えなきゃならない問題なんだね」フゥ〜…
勇者「そう……っすね、俺も武闘家も僧侶も……みんなが乗り越えなきゃならない問題ですね……」
魔法使いの母「あの子に会いに来てくれたんだろ?部屋にいるから顔見せてやってよ」
勇者はリビングを後にし魔法使いの部屋へと向かった。
魔法使いの家は仲間達でよく集まっていたので構造を熟知している。
綺麗好きの僧侶に手伝わされて部屋の片付けもしたのでどの棚にどの食器が入っているかも覚えているほどだ。
コンコンッ
魔法使い「開いてるよ」
ドアをノックすると魔法使いの声が聞こえてきた。
たかだか三日ぶりの筈なのにすごく懐かしい気がした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:09:01.67 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「俺だ、入るぞ」ガチャッ
久しぶりに入った魔法使いの部屋は旅立つ前に掃除した時と何一つ変わっていなかった。
ピンクのカーテンやテーブルクロスなどいかにも女の子らしい部屋だ。
ベッドにパジャマ姿でブタのぬいぐるみを抱き抱えて腰かける少女の猫の耳はペタンと垂れていた。
ここまで元気のない魔法使いは勇者も見たことがない。
魔法使い「あれ?勇者?……そっか、さっきのお客さん勇者だったんだ」
勇者「あぁ」
勇者「その……どうだ?元気か?」
魔法使い「まぁまぁ。勇者よりは元気かな」
勇者「今の俺より元気がないのは死人ぐらいだよ」
魔法使い「……そうだね」
勇者「ここは笑うとこだぞ?」
魔法使い「笑わせたいならそれなりに面白いこと言いなよ」
勇者「チッ、俺の冗談は笑えないってか?」
魔法使い「そう聞こえなかったんなら耳鼻科に行った方がいいかな」
勇者「ハハハ、面白れー」
魔法使い「でしょ?冗談ってのはこう言うんだよ」
勇者「今の笑い声が本気で笑ってるように聞こえたならお前も耳鼻科に行くべきだな」
魔法使い「今の冗談で本気で笑えないなら勇者は精神科に行くべきかな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:10:02.56 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「……ったく、そんだけ軽口叩けるなら大丈夫そうだな」ハハッ
魔法使い「うん、まぁね」エヘヘ
勇者はそっとベッドの端に腰を降ろした。
勇者(…………やっぱり仲間っていいもんだな)
ふとそんなことを考えた。
魔法使いとこうして下らない会話をしただけなのに随分と気持ちが楽になった。
てっきり会話に困ってギクシャクしてしまうと思って会わずにいたがこんなことならもっと早く会っておけば良かった。
魔法使いも同じようなことを考えていたようで猫耳が少しだけ起き上がっていた。
魔法使い「ねぇ、勇者?」
勇者「ん?」
魔法使い「勇者はやっぱり魔王と闘うんだよね?」
勇者「…………いきなり核心突いた質問してくるな」
魔法使い「まどろっこしいのは好きじゃないからね」ニャハ
魔法使い「まぁ……あたしが質問しといてなんだけど言わなくても分かるよ。魔王と闘いたくなんてないよね……」
勇者「…………」
勇者「…………そうだな、闘いたくなんてないよ。でも考えれば考えるほど『闘うしかない』って答えしか見つからないんだ……」
魔法使い「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:10:55.28 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「……なぁ、お前ならどうする?」
魔法使い「ん?」
勇者「お前がもし俺の立場で魔王と闘わなくちゃならないってなったら……魔法使いならどうする?」
自分で考えても同じ結論しか出ないのなら別の誰かの考えも聞いてみようと思ってそう質問した。
もしかしたら他の選択肢が見つかるかもしれない。
砂粒のような期待を込めて魔法使いの考えを聞いてみた。
魔法使い「あたし?あたしは…………」
魔法使い「ん〜〜…………」
いきなりそんなことを聞かれてウンウン唸りながら答えを考えていた魔法使いだが、しばらくしてようやく質問に答えた。
魔法使い「あたしはね、やっぱり魔王と闘うのは嫌」
魔法使い「だから……」
勇者「だから?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:12:06.38 ID:KhP6hFHj0<> 魔法使い「いっそ神樹を壊しちゃおうかな」
勇者「…………はぁ?」
あまりに突拍子もない答えが返ってきたので勇者は唖然としてしまった。
あまりに間抜けな声が出て自分でも驚いたほどだ。
魔法使い「神樹に世界が壊されちゃうならいっそ神樹をドカーンと……」
勇者「お前この前の俺の話聞いてた? それやったら俺らがドカーンといっちまうの」
魔法使い「そうだけどさー、たかが植物にあたし達の世界が支配されてるってのもなんか嫌じゃん?」
魔法使い「だったら神樹をドカーンとやっちゃってあたし達もドカーンと潔く散るってゆーのもアリだと思わない?」
勇者「……ったく、相変わらずお前は無茶苦茶なことしか考えないのな。お前に助言を求めた俺がバカだったよ」ハァ…
魔法使い「えー、絶対その方がすっきりするよ」ブー
勇者「はいはい」
まるで相手にならないと膨れる魔法使いを勇者は軽くあしらった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:12:59.24 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「…………ま、でも」
魔法使い「?」
勇者「お前とこうして下らない話ができて良かったよ、なんか久しぶりに笑った気がする」ハハッ
魔法使い「……うん、あたしも」ニャハ
勇者「さてと……じゃあ俺はそろそろ行くな」
魔法使い「わかった。…………あ、勇者」
立ち上がり部屋を出ようとする勇者を魔法使いが引き止める。
勇者「あん?」
魔法使い「これだけは覚えておいてね」
魔法使い「勇者がどんな選択をして何をするにしても、いつだってあたしは勇者の味方だから」
魔法使い「勇者は一人じゃないってこと、忘れないでね」
勇者「…………あぁ、ありがとう。魔法使い」
勇者「それじゃ、また」
魔法使い「うん」ニコ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:14:10.36 ID:KhP6hFHj0<> ――――王都・中心街・魔法研究局
局長「いやー、散らかっていてすまないね。来るなら来るって前もって言ってくれれば良かったのに」
勇者「いえ、お構い無く。どっかの誰かの家と比べたら百倍綺麗ですから」
王都の中心街にある魔法研究局。
幾つもの施設が建つ無駄に広いその敷地内は研究局の局長とその家族のみが住むことを許された局長館という豪華な屋敷がある。
勇者が今居る屋敷がそれだ。
勇者は魔法研究局の現局長と以前から知り合いである。
その理由は二つ。
一つは局長が大勇者の学生時代の友人であり予てから交流があったこと。
もう一つは彼が武闘家の父親だからだ。
身なりの整った眼鏡のよく似合う長身の彼は大勇者と同い歳だというのに随分若く見える。
局長「はい、お待たせ。紅茶は嫌いじゃないよね?」
勇者「あ、ども。いただきます」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:14:58.07 ID:KhP6hFHj0<> 局長「なんだか勇者君が家に来るのが久しぶりにな気がするよ」
勇者「実際3ヶ月ぶりですから……」
局長「確かにそうだけど昔は大勇者に連れられてよく遊びに来ていたじゃないか」
局長「大きくなってからはあんまり来なくなったからそんな風に感じてしまうんだよ」
勇者「そう言われるとそうかもしれないなぁ……」
差し出された紅茶を飲まないのも悪いと思い、一応一口だけ飲んだ。
勇者(…………あれ?)
温かさと共にほのかな甘みが口の中に広がった。
自分でも不思議だった。
今朝の今朝まで何を食べても何を飲んでも味がさっぱりしなかったのにこの紅茶は素直に美味しいと思えた。
勇者(…………きっとさっき魔法使いに会ったからだな…………)
そう思いながら紅茶の味を確かめるように二口目を飲んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:16:19.15 ID:KhP6hFHj0<> 局長「さて……武闘家君から話は聞いたよ、君達も世界の真実を知ったそうだね」
勇者「……はい」
勇者「あの……やっぱり局長さんは知ってたんですね」
局長「あぁ、僕ら魔法研究局の研究・調査の対象には神樹も含まれているからね」
局長「もっとも戦争と神樹の真実について知っているのは代々の局長だけで他の局員はデータの採取ぐらいしかしてないけれどね」
勇者「もしかして親父がよくここに来てたのって……」
局長「君の考えている通りだよ。彼は僕に神樹をどうにか改善する術はないものか、って相談に来ていたんだ」
局長「だけど僕の知識じゃどうにもできなかった。人間と魔族の戦争が始まってから何百年もの間、その答えは見つからないままなのさ」
勇者「…………」
局長「結局君と100代目魔王にこの世界を託すしかない……情けない話だよ」
勇者「いや、そんな、謝らないで下さい」
勇者「きっと俺が勇者になったのも今の魔王が100代目魔王になったのも……運命だったんですよ」
局長「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:17:23.83 ID:KhP6hFHj0<> 勇者はゆっくりとカップの紅茶を飲み干した。
口の中に広がる独特の甘さが心地好い。
局長「……あ、そうだ」
勇者「?」
局長「武闘家君に会いに来たんだろ?これ、軽い食事とコーヒー。ついでに持って行ってあげてくれないかな」
局長が勇者に渡した盆には薫り立つコーヒーと瑞々しい野菜の挟まったサンドウィッチが乗っている。
勇者「……やっぱり武闘家も食欲ないんですか?」
心配してそう尋ねたが局長は微笑んで答えた。
局長「いや、食欲は多分いつもと同じくらいあると思うよ。ただ食事をとるのを忘れているだけさ」フフッ
武闘家は自室ではなく第八書庫にいると聞き勇者は客間を出たがすぐに屋敷の中で迷子になった。
武闘家の家へは何度も来ているがよく考えたら書庫へなど行ったことはないし、書庫が最低でも八部屋あるということすら今の今まで知らなかった。
迷いながらもどうにか目当ての書庫へたどり着くと扉を開けた。
勇者「武とう…………」
武闘家の名を呼ぼうとしたが視界に彼を捉えると口をつぐんだ。
勇者「……なるほどな」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:18:27.32 ID:KhP6hFHj0<> 書庫に入ると局長が『食事をとるのを忘れている』と言った理由がすぐにわかった。
無造作に積み上げられた本の山に囲まれ武闘家は椅子の背もたれに体を預けて静かに寝息を立てていた。
開いた本を顔の上に乗せアイマスクの代わりにしている。
勇者(……起こしちゃ悪いな、とりあえず飯だけ置いとくとするか)
ガッ
勇者「あ……」
バサバサドサドサッ
物音を立てないように武闘家の机に近づいていった勇者だったが床に積んである本に足がぶつかり倒してしまった。
武闘家「ん…………ふぁ〜〜」
本の崩れた音に気づいて武闘家が目を覚ました。
武闘家「……おや?勇者じゃないですか」
勇者「おう、お邪魔してるぜ。起こしちゃって悪かったな」
武闘家「いえ、構いませんよ。どうせ仮眠のつもりでしたから」
勇者「これ、局長さんから」コトッ
武闘家「あぁ、わざわざありがとうございます。そう言えば昨日の昼から何も食べてませんでした」
サンドウィッチを頬張りながら武闘家はさっきまで顔に乗せていた本を読み始めた。
ページの古めかしく黄ばんでいる様が本に刻まれた歴史を物語っている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:19:28.29 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「……お前すごいクマだぞ? 寝てないんじゃないか?」
武闘家「勇者も人のこと言えませんけどね」
勇者「う、そりゃそうだけど……」
武闘家「大丈夫ですよ、適度に仮眠をとってますから」
勇者「そんなに一生懸命一体何を調べてんだよ」
武闘家「……やれやれ、せっかく人が寝る間も惜しんで古書とにらめっこしてるというのにそれはないでしょう」
勇者「む……なんだよ」
武闘家「神樹について、ですよ」
勇者「……神樹について……?」
武闘家「えぇ……どうにか勇者と魔王さんが闘わなくて済む方法はないかと思いましてね」
武闘家「何百年も前から魔法学者達が探していた打開策をほんの数日で見つけられるとは到底思えませんが……それでも僕が勇者のためにできることなんてこれくらいですから」
勇者「武闘家……」
武闘家「事情を話したら父が魔法研究局局長だけが閲覧できる神樹関係の極秘資料の閲覧を許してくれましてね、今それに目を通している最中です」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:21:29.85 ID:KhP6hFHj0<> 武闘家「とりあえず神樹の魔法学的特徴と魔力供給のための魔法方程式の基礎理論は一日で叩き込みました。……話だけでも聞きますか?」
勇者「……いや、いいや。気持ちは嬉しいけど難しい話はよくわかんねぇし」
武闘家「まぁまぁ、そう言わずに。現状のおさらいだけで難しい話はしませんし、僕の頭の中の整理にもなりますし」
勇者はまだ何か言おうとしていたが武闘家はそれを無視するように話始めた。
勇者も観念して話を聞くことにした。
武闘家「えーっとですね。まず神樹を消滅させるか延命させるかという問題が最初の二択なんですがこれは実質延命の一択です」
勇者「神樹に攻撃加えると生命の危険を感じて周りの環境から魔力を吸収しちまうからだろ?」
武闘家「はい、もしそうなったら大地と大気、そして周囲の動植物は魔力を強制的に吸収され神樹を中心に死の大地が形成されることになります」
勇者「ちょっと思ったんだけどさ、神樹を一本ずつ破壊して回るってのはどうだ?」
勇者「例えば白の神樹を破壊する時は白の国の人達をみんな避難させてさ、白の神樹の破壊が終わったらそこに戻って……おんなじことを全部の国でやれば神樹は全部消滅させられるだろ」
武闘家「ん〜……それができない理由は2つですかね」
武闘家は手にしていたコーヒーカップを置き二本の指を立てる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:22:26.15 ID:KhP6hFHj0<> 武闘家「1つ目は神樹消滅後の世界のことです。あらゆる魔力を失った環境は不毛の地へと変わり果てます」
武闘家「人間と魔族の戦いが始まってから何百年も経っているというのに金の国跡の大砂漠は草木の生えることのない熱砂地獄のままです」
武闘家「1本の神樹の消滅に伴う環境の変化範囲を考えると現存する10本の神樹を全て消滅させた場合、最低でもこの大陸の97%が緑のない荒廃した土地に成り果てることになりますね」
勇者「そうなったら世界崩壊と同じってか」
武闘家「えぇ」
武闘家「そしてもう1つの理由ですが……こっちが本命の理由ですね」
武闘家「実は神樹は1本でも生命力が尽きた時点で世界崩壊がおきるんです」
勇者「……どういうことだ?」
世界の真実を全て知ったとばかり思っていた勇者はここにきて新事実を告げられ動揺した。
ここでさらに悪い知らせがあると言うのだろうか?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:23:31.35 ID:KhP6hFHj0<> 武闘家「神樹の根はこの大陸全土、その隅々まで広がっています。今から200年ほど前の調査で分かったことなんですが各々の神樹の根が絡み合い、結びついて巨大な1つの植物へと変貌しているみたいなんです」
勇者「……元は10本のバラバラだった神樹が今は1つに合体したってことか?」
武闘家「大分ざっくり言うとそういうことですね」
武闘家「ですから1本の神樹が破壊されただけで神樹全体にその影響が広がり連鎖的に魔力吸収が起こり……」
勇者「世界は終わる……か」
武闘家「……はい。まぁ神樹が結び付いて1つになったことでプラスになった面もありますよ、神樹の生命力が共有されるようになったことで供給しなければならない魔力量がかなり減ったりとか……」
勇者「どのみち神樹延命のための新しい方法を探すしかないってことか」
事態をこれ以上悪化させる内容ではなかった、それだけで勇者は少し安堵した。
もっとも絶望的な現状になんら変わりはないのだが。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:24:58.19 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「……んで、なんかいい考えはあんのか?」
武闘家「それが見つからないから困ってるところじゃないですか」
武闘家「悔しいですけど……今のシステムは最低限の犠牲で最も効率良く神樹に魔力を供給できる理想的なシステムですね」
武闘家「これ以外の方法を何パターンか考えてみましたけど……効率の悪さや犠牲の多さがどうしても問題になってしまいますから」
勇者「局長さんも言ってたけど何百年と見つかってない答えだもんな……」
武闘家「…………」
勇者「……俺より遥かに頭いいお前が考えてもわからないんだ、俺にはお手上げだよ」
勇者は肩をすくめてため息をついた。
そんな勇者を見て武闘家は言う。
武闘家「……いえ、そうでもないですよ」
勇者「?」
武闘家「難解な問題と言うものは、たった1つの閃きで簡単に解けてしまうものなんです」
武闘家「勇者はたしかに勉強はまるでできませんがそういう閃きができる柔軟な発想を持っている人ですからね」
武闘家「だからもしかしたら勇者ならこの世界の因果を断ち切る答えを閃いてくれるかもしれない……そう思って話をしてみたんですよ」
勇者「買いかぶりすぎじゃね?」ハハッ
武闘家「そうかもしれませんね」フフッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:25:45.29 ID:KhP6hFHj0<> 武闘家「さて……僕は引き続き神樹への新しい魔力供給法を考えてみるとしますよ」
そう言って武闘家は机に積まれた新しい本に手を伸ばした。
勇者が来たときに読むのを再開した本は未読のページが半分近く残っていたのにどうやらこの短時間で読み終えてしまったらしい。
武闘家「次は魔法使いさんか僧侶さんに会いに行くんですか?」
勇者「うん、魔法使いにはさっき会ってきたから最後に僧侶だな」
武闘家「…………僧侶さんかなり精神的に参っているでしょうから心配ですね……」
勇者「…………あぁ」
勇者「……ま、行ってみるよ。邪魔して悪かったな」
武闘家「いえいえ、お気になさらず」
勇者「じゃ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:26:42.40 ID:KhP6hFHj0<> 書庫を立ち去ろうとする勇者に武闘家が声をかける。
武闘家「……勇者、分かってると思いますが魔王さんの言っていた緑の国への侵攻の日までもう日がありません」
勇者「…………」
武闘家「こうして2人が闘わずに済む道を探してはいますがあと2、3日でその答えが見つかるのは神様がこっそり答えを教えてくれでもしない限り無理でしょう」
武闘家「ですから……」
勇者「……わかってる、覚悟はしてるつもりだ」
武闘家「なら……いいです。引き止めてすみませんでした」
武闘家「……でも勇者」
勇者「ん?なんだ?」
武闘家「あなたがどんな選択をして何をするにしても、僕は常に勇者の味方です」
武闘家「あなたは一人じゃないってこと、決して忘れないで下さいね」
勇者「………………」
武闘家にそう言われてきょとんとしていた勇者だが少しして笑いだした。
武闘家「? どうかしましたか?」
勇者「…………いや、なんでもない」ククッ
武闘家「気になるじゃないですか」
勇者「なんでもないったらなんでもないのさ」
勇者「ただ……俺は良い仲間に恵まれたって話さ」ニッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:27:43.53 ID:KhP6hFHj0<> ――――王都・西の住宅街
王都の大通りの西側にある住宅街の外れに位置する庭付きの小さな一戸建ての家。
その家は決して豪華とも立派とも言えないながらも一つの家族の幸せが詰まった、平凡な、それでいて理想的な家だ。
リビングの椅子に座る勇者はエプロンを巻いてキッチンに立つ僧侶の後ろ姿を見つめていた。
その姿がどうにもよく似合っている。
きっと将来は良いお嫁さんになるだろう、なんて考えていた。
勇者「ごめんな、急に来ちゃって」
僧侶「うぅん、気にしないで。ただたいしたおもてなしできないけど……」
勇者「別にいいってそんなの」
僧侶「良くないよ、せっかくのお客様なんだし。…………はい、お待たせしました」コトッ
勇者「ん、ありがとう」
テーブルの勇者に前に菓子と淹れたてのお茶とを差し出すと、僧侶は自分の席にもお茶のカップを置いてエプロンを脱ぎ椅子に腰を降ろした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:28:40.70 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「今日は一人なのか?」
家の中を見渡しながら勇者が訊ねた。
何度か来たことのある僧侶の家は他に誰かがいるにしては静かすぎた。
僧侶「私と妹ちゃんがいるだけだよ。妹ちゃんは今寝ててお父さんとお母さんは仕事で夜まで帰ってこないし弟君はまだ学校」
勇者「そっか学校があるよな。弟元気か?」
僧侶「うん。あ、でもちょっと落ち込んでるかも」
勇者「なんで?」
僧侶「ほら、旅立ちの前に私が弟君にサボテンの世話を頼んでたでしょ? そのサボテンを枯らしちゃって」
勇者「へぇ〜、なんか意外だな、真面目に世話してそうなイメージだったのに」
僧侶「うん、ちゃんと世話してくれてたみたいなんだけどはりきって毎日たくさん水をあげてくれたから根腐れしちゃったみたいなの」
勇者「なるほど」
僧侶「水をあげないと枯れちゃうけど水のあげすぎでも枯れちゃうから難しいね」フフッ
僧侶は小さく笑うと先ほど自分で淹れたお茶を一口飲んで喉を潤す。
笑顔を見せた僧侶を見て勇者は少しだけ安心した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:29:29.17 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「……思ったより元気そうで良かったよ」
僧侶「私のこと心配で来てくれたんだ、ありがとう」
勇者「俺に他人の心配する余裕なんかあるのか、って話だけどな」
僧侶「でもこうして来てくれたんだもん、勇者君はやっぱり優しいね」ニコッ
カップを戻すと僧侶は窓の外へと視線を移した。
庭の緑を見ながら話始める。
僧侶「私ね……勇者君から世界の真実って言うのを聞かされた時、悲しくて哀しくてしかたなかった」
僧侶「私達と魔王ちゃんのこと……人間と魔族のこと……今までの犠牲になった勇者と魔王と数えきれないたくさんの人達のこと……考えると悲しくてすぐに涙が出てきちゃったの」
僧侶「何も知らずに憎しみあって、生きるために殺しあう人達……真実を知りつつも苦悩しながら戦争を続ける人達……そして自分の命を世界のために捧げる人達……」
僧侶「この世界はなんてたくさんの悲劇で満ち溢れているんだろう、って。そう思って何回も何回も泣いた」
勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:31:13.68 ID:KhP6hFHj0<> 僧侶「そんなある時ね、魔王ちゃんのこと考えたの」
僧侶「残酷な自分の運命を知っても私みたいに泣きじゃくるんじゃなくて、世界中の人達のために自分の成すべきことのために毅然として運命に向かい合っている……魔王ちゃんはなんて強くて、なんて優しいんだろうな、って」
勇者「…………そうだな」
僧侶「だから私もいつまでも泣いていられないなって、本当につらくて一番悲しいのは勇者君と魔王ちゃんだもん。2人のために笑えるようにならなきゃなって思ったの」
そう言ってぎこちなく笑う僧侶の瞳は潤んでいる。
僧侶「……って言っても私は泣き虫だからホントは今にも泣いちゃいそうなんだけどね」エヘヘ
勇者「…………ありがとう、僧侶。俺なんかよりお前の方がずっと優しいよ」
僧侶「そんなことないよ。それにこの前魔王ちゃんにも言われたけど優しいだけじゃ何もできないもの」
勇者「たしかにそうかもしれない…………そうかもしれないけど、少なくともお前の優しさで俺は随分と励まされてるよ」
勇者「もし僧侶が塞ぎ込んでたら俺が励ましてやろうって思ってたのに俺が僧侶に励まされちゃったか」ハハッ
僧侶「勇者君……」
そう言って笑ってみせる勇者と魔王の笑顔が僧侶の中で重なって見えた。
救いのない現実を、悲劇の運命を、変えることができるのなら……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:32:08.80 ID:KhP6hFHj0<> 僧侶「……ねぇ、やっぱり2人が闘わずに済むならそれが……」
勇者「…………」
僧侶「……ごめん、そうだよね。そんなこと分かりきってるしそれができるならそうしてるよね……」
勇者「……まぁな」
気まずい沈黙が二人を包む。
いつまで続くのかと思われたその沈黙だったがそう長く続くこともなく不意に破られた。
「びえぇぇぇぇん!!うわあぁぁぁぁぁん!!」
勇者「お?」
僧侶「あ……」
天井から聞こえてくる泣き声は二階にいる僧侶の妹のものだった。
まだ言葉を話せないほど幼い彼女は起きた時に周りに誰もいなくて怖くなって泣き出したのだろう。
勇者「妹、起きちゃったみたいだな」
僧侶「えっと……ごめん、勇者君。私妹ちゃんあやしてこないと……」
勇者「あぁ、そうしてやれよ。俺もそろそろ帰ろうと思ってたしさ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:33:03.96 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「今日はなんかありがとな、僧侶」
僧侶「お礼を言われるようなことは私はなんにもしてないけどね」
勇者「それでもありがとう」
勇者「時間はあんまりないけど、またちょっと1人で色々考えてみるよ」
僧侶「……うん」
勇者「それじゃ、また」
僧侶「あ、あのね、勇者君」
椅子から立ち上がった勇者を僧侶は引き止める。
僧侶「その……」
勇者「待った」
僧侶「?」
勇者「『勇者君がどんな選択をしても私は勇者君の味方だから。勇者君は1人じゃないってこと忘れないでね』だろ?」
僧侶「へ?……な、なんで私が言おうとしたこと分かったの?」キョトン
勇者「やっぱりそっか」
心底驚いた顔で不思議そうにこちらを見ている僧侶に勇者は笑って答える。
勇者「やっぱお前らが仲間で良かったわ」ヘヘッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:35:18.25 ID:KhP6hFHj0<> ――――緑の国・名も無き湖のほとり
カアアァァ!!
勇者「よっと」
スタッ
僧侶の家を後にした勇者は白の国をブラブラとあるいてみたりして、最後に緑の国の例の湖畔を訪れていた。
特に何かの理由があってここに来たわけではない。
ただなんとなく、ここに来れば何かがつかめるような、何かに気付けるような、何か忘れていた大切なことを思い出せるような……そんな気がしたのだ。
勇者「……ひっでぇな、こりゃ」
すっかり夜の闇に包まれた周囲をぐるりと見渡して勇者は呟いた。
たしかにその場所は少し前まで勇者と魔王が穏やかな時間を過ごしていた静かな美しい湖畔とはまるでかけ離れた景色となっていた。
先日の戦闘で地面は何ヵ所も吹き飛び、崩れ、森の一部は焼けて黒々とした炭と化した木々が立ち並んでいる。
いつだったか勇者と魔王が苦労して置いたベンチとテーブルは無惨に壊れて休憩所としての体を成してはいなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:36:35.13 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「…………」
悲惨な風景を見て先日の闘いを思い出す。
血を流し倒れる仲間の姿が、魔剣を手に襲い来る魔王の姿が、鮮明に脳裏に焼きついている。
勇者「……おいしょ、っと」
転がっていたベンチの残骸を適当に拾ってきて椅子にした。
椅子といっても地面に直接座らないために置いただけなので腰かけと背もたれがあるのみの座椅子に近い状態のものだ。
あぐらをかいて腕を組み背もたれに体を預けると空を見上げた。
湖の静かな波の音を聞きつつ満天の星空を眺める。
こうして一人でいる今も、仲間達と笑っていた一週間前も、魔王と初めて会った十年間前も、もしかしたら戦争が始まる何百年も前から、瞬く星達は何一つとして変わっていないのかもしれない。
勇者「……そういやアイツとこうして星を見たこともあったな……」
勇者「流星群が見られるとかなんとかで冬の寒い日に2人で毛布にくるまって夜通し空見てたっけ……」
忘れていた遠い昔の記憶がよみがえってきた。
冬の寒空の下、ココアを飲みながら流れ星を待ったあの夜のことを。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:37:19.92 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「…………」
ふと隣に魔王がいないことが寂しくなった。
ここで隣に座って、自分をからかい、とりとめもない話をして笑ってくれて、輝く未来を夢見て語り合った大切な人が、今ここにはいない。
そして数日前、氷の様な瞳でこちらを無表情に見つめていた彼女の姿が思い浮かんできた。
勇者(……そういやアイツのあんな冷たい眼……初めて見たな……)
勇者(……いや、違うな。俺は前にもアイツのあんな眼見たことがあるな……)
勇者(いつだったかなぁ……あれはたしか…………)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:38:19.86 ID:KhP6hFHj0<> 【Memories07】
いつだったかなぁ……。
あれはたしか…………。
そうそう、アイツの十四歳の誕生日の頃だからだいたい五年前くらい前か。
小遣いはたいてでっかい熊のぬいぐるみをアイツの誕生日プレゼントに買ったんだった。
ホントは小遣いほとんど使うような高いプレゼントを用意するつもりなんて全然なかった。
けど魔王の喜ぶ顔が見たくて泣く泣く貯金箱を叩き割った。
と言うのもその頃魔王はてんで笑わなくなってたからだ。
何を話しても何を見せても淡白なリアクションが返ってくるだけ。
そういや"魔王様口調"で話すようになったのもあの頃だったかな。
会う度にアイツは無表情になっていって、瞳の輝きは失せていった。
だからそんな魔王を喜ばせてやりたくてガキながらに無理してプレゼントを用意したんだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:39:03.40 ID:KhP6hFHj0<> ――――5年前・緑の国・名も無き湖のほとり
カアアァァ!!
ドサッ!!
俺「いててて……」
いつもは一人でたいした荷物も持たずに転移しているけどその日は例の熊のぬいぐるみを抱えての転移だったから着地でバランスを崩して地面に尻餅をついた。
俺「あ、やべ、プレゼントは!?」ガバッ
着地のミスで地面に転がっているプレゼントの包みに慌てて駆け寄った。
俺「せ、セーフかな」
包装が少し汚れていたくらいだったからあんまり気にならないだろうと勝手に思った。
プレゼントを抱えると前がよく見えなかったからフラつきながらいつもの待ち合わせ場所に向かった。
俺「んしょんしょ…………お、やっぱり来てた」
ベンチに腰かけるアイツに声をかけた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:40:24.90 ID:KhP6hFHj0<> 俺「よっ」
魔王「遅い、遅刻だ」ギロッ
刺す様な鋭い視線で睨まれた。
そういやこの頃は遅刻に対してメチャクチャ厳しかった。
俺「悪い悪い、これ運びながらだったから遅くなっちゃってさ。転移魔法も上手くできなくて時間かかっちゃったよ」
魔王「……なんだそれは?」
俺「なんだって……お前の誕生日プレゼントだよ!ホラ、この前14歳になったんだろ?」
俺「当日は会えなかったから今になっちゃったけどさ」
魔王「あぁ、そういえばそうだったな」
まるで昨日の夕食のメニューを思い出したみたいに魔王が言った。
「わぁ!!覚えててくれたんだね!?ありがとうっ♪」
なんてリアクションを求めていたワケじゃないけど(まぁそんなリアクションを全く期待していなかったと言えば嘘になるけど)あんまり素っ気ない反応だったから俺はガッカリした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:41:02.78 ID:KhP6hFHj0<> 俺「そういえばそうってお前な……自分の誕生日くらい覚えてんだろ?」
魔王「一応はな。城の皆が祝ってくれたので当日は思い出した」
魔王「だが今お前に言われるまで1つ歳をとったことなどすっかり忘れていたよ」
俺「おいおい……」
魔王「そんな下らないことを覚えるのに遊ばせておけるほど私の脳は暇ではないのだ」
魔王「まぁお前の気持ちとプレゼントは受け取っておこう。感謝する」
俺「…………」
抑揚の無い声でそう言ってアイツは手にしていた紙の束をめくった。
よくわからなかったがきっと仕事に必要な資料だったのだろう。
この頃の魔王は俺と会っても仕事片手の会話がほとんどだった。
資料に眼を通しながら「ほぅ」「うむ」とか相槌を打つだけ。
つまらないから魔王に話題を求めると仕事の話しかしないから結局は俺が話す羽目になった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:42:11.49 ID:KhP6hFHj0<> 俺「……でな、剣士のオッチャンはやっぱり強くってさー」
魔王「うむ」ペラッ
俺「でもこの前戦闘中に転移魔法使ってみたら偶然成功してさ、一本取れたんだよ」
魔王「ほぅ」ペラッ
俺「でも魔法なんか使わずに勝てるようになりたいなぁ」
魔王「そうだな」ペラッ
俺「…………」
魔王「…………」ペラッ
俺「……ちゃんと聞いてるか?」
魔王「あぁ聞いているとも」ペラッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:43:08.88 ID:KhP6hFHj0<> 俺「お前さ、仕事しながら話聞くのやめろよな。なんか俺ばっか1人で話してるみたいでつまんねぇんだよ」
魔王「そうもいくまい。私には魔王としてやらねばならない仕事が山ほどあるのだ」
魔王「こうして会いに来ているだけでも我ながら随分律儀だと思うがな」ペラッ
俺が抗議してもアイツは書類をめくる手を止めなかった。
俺の言葉なんてどこ吹く風という感じでムッとした。
勇者「……あと前から思ってたんだけどその話し方も嫌だ」
魔王「嫌だと言うと?」
勇者「なんか堅っ苦しくてお前と話してる気がしないんだよ」
魔王「ふむ。だが民衆を導く立場である私はそれなりに威厳のある話し方をしなければならないのでな、側近に指導されてこうして魔王らしい口調へと矯正していると言ったであろう?」
俺「聞いたけどさ……」
魔王「分かっているならそういうものだと諦めてくれ」ペラッ
俺「…………」
アイツは冷たい眼をしていた。
何も感じていない、心の温度を下げきった眼。
ちょうどこの前見たのと同じような眼だった。
俺は折角用意してきたプレゼントが喜んで貰えなかったこととアイツが俺に全然構ってくれないことで完全にふて腐れていた。
俺「……チッ、魔王サマは忙しい身の上で俺なんかに構ってる時間も余裕もないってことか」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:44:09.16 ID:KhP6hFHj0<> 吐き捨てるように悪態をついた。
何の気なしに言った俺のその言葉は思いがけずアイツの逆鱗に触れることになった。
魔王「…………」ピクッ
書類をめくる手を止め魔王は俺を睨んできた。
その眼はさっきまでの冷たい眼じゃなくて怒りとかつらさとか、俺が今まで見たことないようなアイツの感情が込められた眼だった。
魔王「……お前に何がわかる?」
俺「な、なんだよ」
魔王「お前に私の背負わされているものが……魔王というものの重さが分かるか!?」
魔王「私には個人の自由なんてものは存在ないのだぞ!?私の全ては国民のためにあるのだ、分かっているのか!?」バサッ!!
俺「お、おい」
魔王は立ち上がると手にしていた書類を地面に叩きつけて俺に向かって怒鳴りちらした。
留め具の外れた書類が風に吹かれて飛んでいってしまってもお構い無しだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:45:19.09 ID:KhP6hFHj0<> 魔王「勇者"候補"のお前には分かるまい……いや、正式に勇者になったとて私の気持ちなど分かり得る筈もない」
魔王「物心ついた頃から王となるために軍事、経済、政治、帝王学……ありとあらゆる学問を否応なしに叩き込まれ年頃の女の子らしいことなんて何一つすることを許されない」
魔王「地方の視察に赴いた時に街中で友達と談笑しながら歩く少女達の姿を見て何度羨ましいと思ったことか、何度私もこうだったら良かったのにと思ったことか!!」
魔王「だがそんなことはできない……何故なら私は魔王だからな」
魔王「同年代の子供が友人と笑って過ごす時間を私はただ山のような書類を見て、判を押し、サインを書いて過ごすのだ。『今日はどこで何人死んだ』『どこの拠点が突破された』などという血生臭い報告を部下から聞いては将軍達と会議をして過ごすのだ」
俺「…………」
魔王「誕生日を友人と祝うこともできない……いや、友人なんてものがそもそも存在しない。私には"部下"しかいないのだからな」
魔王「挙げ句の果てには普通の女の子らしい言葉遣いすら許されない。……わかるか? 私は"魔王"という存在、その役割を演じることを強いられているのだ」
魔王「……それだけならまだ耐えられる。本当に耐えがたいのは魔王という立場の重さだ……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:46:49.20 ID:KhP6hFHj0<> 魔王「勇者、先日赤の国と黒の国が赤土の丘陵で戦をしたのは知っているか?」
俺「…………いや」
魔王「そうだろうな。魔族と人間が戦争をしているとは言え自分の国以外の戦となれば実感も関心も薄れるだろう」
俺「…………」
魔王「2207人……その戦で死んだ黒の国の兵士達の数だ」
魔王「赤土の丘陵への侵攻作戦に対し私が『YES』と答えた結果がその数字だ」
魔王「2000人余り……数字で言われてもピンと来ないか? 私の命令で小さな街が丸々1つ全滅したと思えば分かりやすいだろう」
魔王「その2207人には皆家族がいただろうな、両親、妻、子供それに友人……それら全部合わせたら1万人以上の魔族達を私の判断で悲しませたことになる」
魔王「そう、たかだか14歳の小娘が、だ」
俺「…………」
魔王「臣下の中には私が魔王であることを快く思わない者もいる。そういう者は『やはりあの方に魔王の務めは重すぎる』『魔王としたのは間違いだったか』など陰口を叩く……親切に私に聞こえるようにな」
魔王「私だって……わたしだって好きで魔王になったワケじゃないのに……!!」ギリッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:48:43.14 ID:KhP6hFHj0<> 歯をくいしばって涙を堪えていた魔王だったけどとうとう泣き出した。
言葉遣いも"魔王様口調"ではなくなっていた。
魔王「……自由を奪われて!!重すぎる責任だけ背負わされて!!出来て当たり前って誰にも誉めてすら貰えない!!」ポロッ
魔王「なんでわたしは魔王なの!?なんでわたしは魔王に生まれてきたの!?」ポロポロ
魔王「こんなに……こんなにつらい生活もう嫌だよ……わたしはお父さんみたいになんでもできるすごい魔王になんてなれっこないよ……」グスッ
魔王「もぅ……やだよ……」ヒッグエッグ
その場に座り込むと魔王は膝を抱えてうずくまりわんわん泣き始めた。
俺はそんな魔王をただ見ていることしかできなかった。
情けないことに俺はその時まで魔王が魔族の王としてどんな大変な生活をしていてどれだけつらい思いをしているのか考えたこともなかった。
考えてみればいくらしっかりしてるとは言え魔王は俺と二つしか歳の違わない子供だ。
いっぱい友達が欲しいだろうしいっぱいオシャレがしたいだろうしいっぱい遊びたいだろう。
でも魔王はそんな自分の想いを全部圧し殺して魔王としての自分の務めを果たしている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:50:06.57 ID:KhP6hFHj0<> 俺も勇者になるために努力したり色々と大変な思いをしてきた。
でもこうして今勇者になって思うのは、勇者って言っても一般市民にすぎないってことだ。
人の上に立ち、大勢の人を導いていかなければならない魔王が背負う重圧は、正直俺には検討もつかない。
当時本格的に魔王としての仕事に関わるようになった魔王はそれまで以上にストレスが溜まるようになって限界寸前だったんだろう。
俺の一言ではりつめていた糸がとうとう切れてしまって、抑えていた感情が一気に溢れ出した結果がその叫びと涙だった。
泣いている魔王をただ見ていることしかできない時間が続いた。
初めは堰を切ったように泣いていたアイツも時間が経つにつれて段々と落ち着いていった。
しばらく経ってようやく泣き止んだのか魔王は動かなくなった。
俺にはどうしたらアイツの気持ちを楽にしてやれるかなんてわからなかったけどとにかく謝ろうと思った。
俺「魔王……その…………ごめんな、俺お前のこと何にも分かってなかったみたいだ」
魔王「…………」
俺「お前がそんなにつらい思いをしてるってのに何も考えずに傷つけるようなこと言って悪かった。本当にごめん」
顔を伏せている魔王には見えないと分かっていても頭を下げずにはいられなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:50:56.10 ID:KhP6hFHj0<> 魔王「…………私こそすまなかった。感情に押し流されて喚き散らすなど一国の王にあるまじき行為だ」
魔王「できれば今日のことは忘れてもらえると助かる……」
顔を伏せたまま魔王が言った。
多分我に返って「合わせる顔がない」とか考えていたんだろう。
魔王「今日は見苦しいところを見せてすまなかったな……私はもう戻るとするよ」
そう言って魔王はゆっくりと立ち上がった。
前髪が垂れて顔はよく見えなかったけど頬が涙で濡れているのは分かった。
そんなアイツを見て俺は思った。
魔王のために俺にできることは何かないのか?
魔王って立場に悩んで苦しんでいる目の前の女の子に、ほんの少しでもいい、何かしてあげられることはないのか?
魔王「…………では」
何を言ったらいいのか全然まとまってなかったけど、俺は叫んだ。
俺「魔王!!」
魔王「……?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:52:06.80 ID:KhP6hFHj0<> 俺「その……前に父さんが言ってたんだ、『自分が自分であることには必ず意味がある』ってさ」
俺「魔王が魔王なのもきっと意味があることなんだ。魔王って立場がつらくて苦しいかもしれないけど……お前にしかできない何かがあるから、だから、お前が魔王なんだと俺は思う」
俺「周りの奴らの言うことなんか気にすることないし、お前の父さんのことも気にすることない」
俺「100代目魔王は誰がなんと言おうとお前なんだ、もっと自信持て!!」
魔王「…………」
俺「それと……」
俺「世界中の誰もがお前を魔族の王様として見ても、俺だけはお前のこと1人の女の子として見てやる。だからそんな顔すんな」ニッ
……今思い出してもグダグダでなんにも言いたいことがまとまってないな……。
とにかくあの時の俺は泣いてるアイツを励ましてやりたくて必死だった。
だから言いたいこと、伝えたいことをあれこれ考えるよりも思い浮かんだことを口に出したって感じだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:53:52.23 ID:KhP6hFHj0<> 魔王「勇者…………」
俺「あぅ……なんか悪いな、全然かっこいいこと言えなくて、その……」
魔王「……うぅん。そんなことない……そんなことないよ……」グスッ
俺「えぇ!? な、なんでまた泣くんだよ!?」アセアセ
魔王「バカ勇者、嬉しくて泣いてるんだよ」フフッ
久しぶりに見たアイツの笑顔は瞳に涙がいっぱいに浮かんでいて、頬を伝う雫が輝いて見えた。
魔王「勇者……ありがとうね、勇者のおかげでわたしまた頑張れそうだよ」
俺「そ、そうか? なんかお前を泣かせただけの気がしないでもないけど……」
魔王「ふふっ、そうかもね。女の子を泣かせるなんてサイテーだね」
俺「うぅ……だから悪かったって、勘弁してくれよ……」
魔王「なんてね、わたしはなんにも気にしてないよ」クスクス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:54:52.15 ID:KhP6hFHj0<> 俺「お前なぁ……俺は結構気にし…………」
魔王「……? どうかした?」
俺「……口調、元に戻ってるな」
魔王「あ…………」
俺「やっぱこっちの方がお前と話してるって感じがするよ」
俺「……よし、俺と2人でいる時は堅苦しい"魔王様口調"は禁止な!」
魔王「え、でも……」
俺「俺達だけの秘密なんだ、誰に気がねすることがあるんだよ?」
魔王「……そうだね。うん、わかった!」
なんだか久しぶりに魔王と会話をした気がした。
そんで「やっぱコイツと一緒にいると楽しいな」とか思ったりした。
魔王「じゃあ……わたしそろそろ行くね」
俺「泣いて赤くなった目がちゃんと戻ってから人前に出ろよな」
魔王「わかってるよ、もう」ムスッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 02:56:07.01 ID:KhP6hFHj0<> 俺「あぁ、そうだ」
魔王「ん?」
俺「まだちゃんと言ってなかったな」
俺はアイツへの誕生日プレゼントを差し出して言った。
俺「少し遅れちゃったけど……誕生日おめでとう、魔王」
魔王「…………」
魔王「ありがとう、勇者♪」ニコッ
その時、アイツの笑顔を見て胸の中がやたらとあったかくなった。
ドキッとしたと言うか心臓がギュッとしたと言うかなんとも言えない感じだ。
身体中熱くなって鼓動がやけに早くなったような気がして、そんでもってそれが何故だか心地良くて…………。
…………あぁ、そっか。
なんで今まで気づかなかったんだろ。
人間と魔族の和平とか、世界の平和とか、そんなことホントは俺にとってどうでもいいことだったのかも知れない。
俺は…………。
俺はずっと…………。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 02:57:02.46 ID:KhP6hFHj0<> 【Episode07.5】
――――緑の国・名も無き湖のほとり
勇者(そっか…………)
星空を眺めながら勇者は思う。
勇者(俺にとって一番大切なこと……俺がしたいこと……)
勇者(俺は…………)
カアアァァッ!!
勇者「!?」
突如背後の暗闇に青白い魔法陣が浮かび上がる。
紛れもない転移魔法陣だ。
勇者「な……一体誰だ!?」
勇者の脳内に真っ先に浮かんだ人物は魔王であった。
だが勇者達に宣戦布告した彼女が今更この場所に何をしに訪れるというのだろうか?
魔王も勇者同様気持ちの整理をつけるためにここへ?
……いや、それはなさそうだ。
魔王もう既に勇者との闘いを覚悟している。
ならば魔法使いだろうか?
もし彼女だとして一体どうして……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 02:58:32.04 ID:KhP6hFHj0<> パッ
ドサッ……
「う……く……」
勇者「…………!?」
勇者の目の前に横たわる人物は魔王でも魔法使いでもなかった。
暗くてよく見えないものの赤毛の髪を二つに結ったその女性が誰だかはすぐに分かった。
勇者「側近さん!?」
側近「ゆ……勇者さん……? まさか転移してすぐに貴方に会えるとは幸運でした…………ぐ……」ヨロ
勇者「なんでまたこんなところに……って酷い怪我じゃないか!!」
衣服は乱れ身体中の無数の裂傷から血を流し、荒々しく呼吸をする彼女は一目見て重傷だと分かった。
手当てをしなければこのままでは失血により命に関わりかねない。
側近「私のことはどうでもいいのです……それより…………」フラッ
ガシッ
勇者「いいから喋るな!!自力で立ってすらいられないじゃないかよ!!」
側近「う…………」ハァハァ
勇者「どうするかな……俺も回復魔法は使えるけどそこまで得意じゃないから応急処置ぐらいしかできないし……」
側近「…………」グッタリ
勇者「…………えぇい!!すまん、僧侶!!」
謝りながら転移魔法陣を展開すると勇者は側近を抱きかかえて白の国へと跳んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 02:59:38.47 ID:KhP6hFHj0<> ――――白の国・王都・僧侶の家
キィ……
僧侶「勇者君、もう治療終わったよ」
自室のドアの隙間から顔を覗かせた僧侶は廊下で待つ勇者を小声で呼んだ。
勇者も僧侶に合わせて小声で返事をする。
勇者「そうか。大丈夫そうか?」
僧侶「うん。身体中怪我してるけど骨も臓器も傷ついてないしすぐに良くなるよ」
勇者「悪かったな、いきなり押しかけちゃって」
僧侶「ホントだよ、晩御飯の支度してたらいきなり血まみれの側近さんをかかえて来るんだもんビックリしちゃったよ」
両親の帰りが遅くなると聞いていたので僧侶が弟達のために夕飯を作っていると玄関の呼び鈴が鳴った。
隣のおばさんが夕飯のおすそわけにでも来たのかと思ってドアを開けると血まみれの勇者と側近がいたものだから状況が全く理解できずしばし呆気にとられていた。
勇者から事情を聞くと、側近を自室に運び今まで看病をしてくれていたのだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 03:00:58.12 ID:KhP6hFHj0<> 僧侶「落ち着いたし様子見ていく……?」
勇者「そうだな、じゃあ……」
勇者は物音を立てないように気を付けて僧侶の部屋へと入っていった。
思えば僧侶の部屋には今まで入ったことがない。
魔法使いの様にいかにも女の子らしい部屋を想像していたが僧侶の部屋は至ってシンプルだった。
あるべき家具がきちんと並べられている綺麗な部屋は、そうであるが故に彼女の部屋らしく感じられた。
シンプルな部屋だとは言っても飾り気が全くない訳ではない。
戸棚の上には小物が置いてあったり、壁には絵が飾られていたりする。
魔法使いの部屋が『女の子らしい部屋』だとするなら僧侶の部屋は『女性らしい部屋』だな、と勇者は思った。
勇者「へぇ……綺麗な部屋だな。俺の部屋とは大違いだ」
僧侶「…………あれ?勇者君もしかして私の部屋入ったのって初めて……?」ハッツ
勇者「もしかしてって言うかそうだけど」
僧侶「…………」
勇者「何度か遊びに行こうとしたけどなんでか毎回断ってじゃん。だから今日が初めてで……」
僧侶「…………」
勇者「僧侶?」
僧侶「………………」
勇者「おーい、僧侶さーん」
僧侶「……ハッ、ご、ごめん。初めて勇者君を呼ぶ時はもってこうロマンチックな展開になることを期待してたから自分のあまりの迂闊さに……」
勇者「……? なんでロマンチック?」
僧侶「え!?あ、う、えっと、なな、なんでもないよ!?///」カァ
勇者「??」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 03:01:47.89 ID:KhP6hFHj0<> 僧侶「そ、それより側近さんでしょ!?」アセアセ
赤面する僧侶に言われてベッドを見た。
側近は静かに寝息を立てている。
血で汚れていた顔はすっかり綺麗になり色白の肌には傷一つない。
僧侶の治療あってのことだろう。
僧侶「……側近さんどうしてこんな怪我してたんだろうね」
勇者「俺もそこが気になってる……転移魔法で緑の国に来たのもよくわかんないし……」
僧侶「う〜ん、緑の国に来たのは私達に会いたかったからじゃないかな」
僧侶「怪我の治療もせずに来たのはよっぽど急いで伝えなくちゃならないことがあったからとか……」
勇者「……まぁ側近さんが目を覚ましたら聞いてみるとするか」
僧侶「……うん、そうだね」
勇者「でもこのままここに側近さん置いとくワケにもいかないよなぁ」
僧侶「お、置いとくって……その、私は平気だよ」
勇者「でもそろそろ親父さん達帰ってくるんじゃないか?」
僧侶「そうだけど……『友達が泊まりに来てる』って言えばなんとかごまかせると思う」
勇者「ホント何から何まで悪いな」
僧侶「気にしなくていいってば」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:03:12.46 ID:KhP6hFHj0<> 側近「……ん…………」ピクッ
勇者・僧侶「!!」
身動きもせずに寝ていた側近が微かな声をあげる。
瞼がぴくりと動いたかと思うとゆっくり眼を覚ましたら。
側近「…………?」パチ
側近「ここは……?」キョロキョロ
眼だけ動かして周囲を確認する。
側近にしてみれば森の中で意識を失ったと思ったら、部屋のベッドの上に居たのだ、現状を理解できないのも当たり前だろう。
勇者「気がついたか!!」
僧侶「良かった……どこか痛いところはありませんか?」
視界の端に勇者と僧侶を捉えて側近はようやく状況を理解したようだ。
側近「……そうですか、お二人が私の手当てを……ありがとうございます」ペコ
頭を下げるために身を起こした。
彼女の着ている僧侶の普段着は胸の辺りが少しきつそうだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:04:00.68 ID:KhP6hFHj0<> 僧侶「傷は治しましたがまだ体調は万全ではないと思います。無理はしないで下さいね」
側近「私は攻撃系の魔法の使い手ですから回復魔法が使えないので本当に助かりました。勇者さんにすぐに会えたのは運が良かったとしか……」
勇者「それだ、側近さん。なんでまた傷だらけで俺達に会いに来たんだ?」
僧侶「勇者君、気になるのは分かるけど側近さんもまだ起きたばっかりで気分がすぐれないと思うし……」
勇者「あ、悪ぃ」
側近「いえ、私なら大丈夫です。それにその理由を伝えるために私は勇者さん達に会いに来たのですから」
側近は枕元の上にあったコップの水を一口飲み喉を潤すした。
一呼吸して落ち着いてから話始める。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:05:20.29 ID:KhP6hFHj0<> 側近「……まず私はもう『側近』ではありません」
勇者「どういうことだ?」
側近「正確には『元・側近』です。先日魔王様に側近の任を解かれました……事実上のクビです」
勇者・側近「……!!」
側近「ここ数日前から魔王様は人が変わったようになってしまわれて……威厳のある凛々しい王、と言うよりも……なんと言うのでしょうか、冷酷で冷淡な王とでも言いましょうか……」
側近「とにかく私の知る魔王様ではなくなってしまわれたのです」
僧侶「…………」チラッ
勇者「…………」コクン
側近の話を聞いて二人は目配せする。
魔剣と契約を交わし全てを知った魔王は世界を守るために非情な王であろうとしているのだろう。
側近「……お二人は魔王様がどうしてあの様になってしまわれたのか知っておられるのですね?」
側近「……何故なのですか!?一体魔王様に何があったと言うのですか!?」ガバッ
僧侶「そ、側近さん、落ち着いて下さい!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:06:18.04 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「……その理由については必ず後で話す」
僧侶「勇者君……」
勇者「その内容は俺達の住むこの世界についての重大な秘密であまりにも残酷なものだ……多分それを知ったら側近さんも魔王が豹変してしまった理由に納得してくれると思う」
側近「世界の秘密……? それは一体…………」
勇者「ただその前にアンタの身に何があったのか詳しく教えてくれないか?」
側近「…………わかりました。では先ほど私の身に起こったこと、それを先に話すことにしましょう」
側近「ですが私が話終えたら必ず貴方方の知る全てを話して下さいね」
勇者「あぁ、それは約束する」
側近は倒れる前のことを思い出しながら淡々と話し始めた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:08:18.35 ID:KhP6hFHj0<> 側近「…………数時間前のことになります」
側近「先日に側近の任を解かれた私は荷物をまとめて城から出ていくように魔王様から言われていました」
側近「……申し上げておりませんでしたが城の者は私を含めそのほとんどが退城を言い渡されています」
側近「3日以内に退城し、その後もしばらくの間は城への立ち入りを禁止する。それが魔王様が先日出した命なのです」
勇者「…………」
命令の内容を聞いただけで魔王の考えていることが大方勇者には推測できた。
おそらく勇者との決戦に城内の人々を巻き込まないための処置なのだろう。
強引すぎるとも思うが臣下を傷つけないための配慮をするところが魔王らしいと思えた。
側近「私はこの命に異議を申し立てたことでクビになったのですが……それは今はいいでしょう」
側近「先ほど城の者の"ほとんど"が退城を命ぜられたと申し上げましたが、城に残ることを許された者達もいました」
側近「魔将軍殿とその直属の部下達です」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:09:39.40 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「魔将軍……?」ピク
側近「はい。勇者さんもご存知の通り魔将軍殿は反人間派の中心人物……魔王様の目指す魔族と人間の和平にとって最大の障害であると言っても過言ではないでしょう」
側近「しかしその魔将軍殿とその私兵を魔王様は手元に置いている。それだけでなく私の抜けた軍事参謀の穴に魔将軍殿を起用している」
側近「言うまでもなくこれはどう考えても不自然なことでしょう」
側近「私は確信しました。『魔王様と魔将軍殿のみが知る"何か"がある。そのために魔王様は魔将軍殿と手を組んで何かをするつもりなのだ』と」
勇者(……魔将軍も世界の真実を知っている……そう考えるのが妥当か)
側近「二人の知る秘密を知れば魔王様が何を知って何をしようとしているのか、そしてどうして人が変わったようになってしまわれたのかがわかると、そう考えました」
側近「そして今日。私は荷物をまとめると退城を命ぜられた者達の中で最後に城を出ました。こうすることで『城には魔将軍殿の息のかかった人間しかいない』と思わせるためです」
側近「黒鉄の街にある実家に荷物を置くと転移魔法ですぐに城へと引き返し、透化魔法で姿を消して隠密魔法で気配を完全に消して城に侵入しました」
側近「私は隠密魔法は得意ですし城務めは長いので見張りに気付かれずに侵入することなど造作もないことでした」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:11:11.75 ID:KhP6hFHj0<> 側近「……魔王様の様子を伺うべきか魔将軍殿の同行を探るべきか……柱の影に隠れて息を殺し思案していると廊下を歩いてくる足音が聞こえてきました」
私「透化魔法で視認できない状態であるとはいえ油断はできません。柱から顔だけ出してその足音の主が誰なのかを確認しました」
勇者「……誰だったんだ? 話の流れからしてまさかただの見回りの兵士じゃないだろ」
側近「えぇ、本命の1人、魔将軍殿でした」
側近「彼は地下へと繋がる階段の方へと向かっていきました」
僧侶「地下に何かあるんですか……?」
側近「それが地下には食料庫と倉庫があるだけなのです」
勇者「将軍サマの用がある場所があるとはとても思えないな」
側近「はい。怪しげな臭いを感じた私は気配を圧し殺しながら彼をつけることにしました」
側近「地下へと降りると魔将軍殿は食料庫へも倉庫へも目もくれずに廊下を進んで行きました。途中背後に人の気配がないかを何度も確認する様でいよいよもって怪しさに拍車がかかってきました」
側近「そして複雑な造りの地下を進んで行き一番奥までやって来ました。その場所は第13番地下倉庫……今では使われていない倉庫です」
勇者・僧侶「…………」
側近の話を黙って聞いていた勇者と僧侶は黒の国……正確には魔王の回りで自分達の知らない何が確実に起こっているのだと思い始めた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:12:35.21 ID:KhP6hFHj0<> 側近「しかし彼は第13番倉庫には入りませんでした。代わりに倉庫の向かいの壁の一部を押したのです」
僧侶「壁を押した……?」
側近「驚きましたよ、『ガコン』という不自然な音がしたかと思うと壁の一部が開き、さらに地下へと続く階段が現れたのですから」
勇者「それって……」
側近「えぇ、私も知らない地下室が存在していたのです。役職の関係で城の造りについては熟知している筈だったのですが私でさえ知らない部屋があったようです」
側近「城の造りは何百年も前からほとんど変わっていませんから私の目を通した資料は古いものでした」
側近「これはあくまで憶測ですが20年ほど前に大勇者と先代の魔王様の闘いで城が半壊したことがありました。その時の改修工事の時にでも魔将軍殿が秘密裏に地下室を建造したのではないかと思います」
勇者「……そんなに前から……」
側近「……話を戻しますね」
側近「隠し扉が閉じぬ内にすぐに私も後を追いました。壁に手をつき暗闇の中の階段を降りていくとやがて小さな部屋にたどり着きました」
側近「部屋には魔将軍はおらず机の上に無造作に書類の束が散乱しているだけでした」
側近「私の先を歩いていた魔将軍殿が部屋にいなかったのは警戒すべきことでしたが私にはどうしてもその書類の内容が気になりました。……嫌な予感がしたのです」
話を聞いていて勇者も僧侶も嫌な予感がしてきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:14:02.63 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「その書類……何が書いてあったんだ?」
僧侶「…………」ゴクッ
側近「人体の強制的強化方法です」
思い出すのもおぞましい、という声で側近が答えた。
側近「外的要因によって魔族の肉体を強靭なものへと変化させる方法……その研究資料がそれだったのです」
側近「その方法を使えば魔族を本来の肉体の限界を遥かに超えた狂戦士へと変貌させることが可能です」
勇者「つまり…………」
僧侶「黒の国の戦力を今までと比べ物にならないくらい強化できるってことだね」
現在の状態では黒の国と聖十字連合の軍事力は拮抗している。
一国で聖十字連合の全ての兵力を合わせただけの兵力を持つ黒の国はそれだけ強大な軍事力を誇るということがわかる。
側近「……資料を見て私もそう思いました。魔将軍殿の思惑はおそらく黒の国の兵達を狂戦士化させることで戦力を増強させ聖十字連合との戦力の均衡を崩すことなのでしょう」
勇者「人間を根絶やしにでもするつもりってか……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:15:04.69 ID:KhP6hFHj0<> 側近「……その時、背後から低い声がしました。『ようこそ、側近殿。いや、元・側近殿かな』……と」
勇者「魔将軍か……」
側近「はい……情けない話ですが研究のあまりに衝撃的な内容に私は気配を消すのを忘れ見入ってしまっていたのでした……」
側近「勇者さんもご存知だと思いますが……」
勇者「あぁ。透化魔法なんてある程度の使い手にとっては子供騙しみたいなもんだ」
勇者「細心の注意を払って気配を消して初めて効果がある……そうでないならすぐバレちまうよ」
側近「えぇ……。その後、魔将軍殿の攻撃を受け傷ついた私はその場から逃亡し、この事実を勇者さんへお伝えするために転移魔法で緑の地へと跳んだ、という訳です」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:16:14.25 ID:KhP6hFHj0<> 僧侶「そんなことがあったなんて……」
僧侶「勇者君……」
勇者「わかってる。状況は俺達が思っていたより複雑みたいだな……魔将軍の目的はまだ完全にはわからないけど好きにさせといたら事態は必ず悪い方へ転がるだろうな」
僧侶「魔王ちゃんの言っていた日までもうあんまり日がないって言うのにこれ以上問題が増えたら……」
勇者「…………」
側近「……まさか魔王様は魔将軍殿と手を組み人間達との全面戦争をなさるおつもりなのですか?」
勇者「…………」
側近「勇者さんと魔族と人間が争うことのない平和な世界をつくると仰られていたあの魔王様がそんなことを望む筈ありません……!!」
側近「私には何がなんだかわからないことだらけです、お願いします、勇者さん!!魔王様の身に何があったのか知っているのなら教えて下さい!!」
勇者は正直に言えば世界の真実を側近へ話していいものか悩んでいるところがあった。
魔王が事実を側近に伝えなかったのは、自分を取り巻く悲劇に彼女を巻き込みたくなかったからだろう。
ここで勇者が側近に真実を伝えてしまえば魔王の想いを無下にすることになる。
だが魔王の身を案じ、必死に訴える側近を見て勇者彼女に全てを話すことを決心した。
彼女にはその権利があると思ったからだ。
勇者「……わかった。今度は俺達が側近さんに知ってることを話す番だ」
勇者「……長くなるけど我慢して聞いてくれ。聞き終わったら変わっちまった魔王のことにも納得がいくハズだ」
側近「…………」ゴクッ
勇者「話は人間と魔族の戦争が起こるもっとずっと前のことから始まる……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:17:27.61 ID:KhP6hFHj0<> ――――――――
――――
――
―
側近「そん……な……。魔王様が世界のための人柱だなんて……」
勇者「…………」
僧侶「…………」
真実を知った時の勇者達と同様、側近も驚愕のあまり言葉を失っていた。
しばらくたってようやく口を開く。
側近「……ですが全て合点がいきました……何故魔王様が和平を目指すのを止めたのか、何故冷たくなられてしまったのか、何故城の人払いをしたのか……何故私を遠ざけたのか……」
勇者「…………」
側近「……魔王様が魔将軍殿を新たな右腕になさったのはおそらく魔将軍殿もこの世界の真実を知っているからですね……」
僧侶「私もそう思います。でも魔王ちゃんの目的はあくまで勇者君と闘うこと……そのことに他の人を巻き込みたくないっていうのが行動からわかります」
僧侶「魔将軍さんが何をしようとしているのかわからないけど……魔王ちゃんとは見ているものが違うと思います」
側近「それには私も同意です。昔から魔将軍殿は何かを企んでいる節がありました」
側近「一体何を謀っているのかは分かりませんが……魔王様が世界に絶望し、勇者さんとの決闘のみを考えている今を好機として行動を起こす可能性は高いと思います」
勇者「そうだな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:18:45.75 ID:KhP6hFHj0<> 側近「それと…………勇者さん、よろしいでしょうか」
勇者「なんだ?」
側近は勇者へと向き直ると勇者の顔を真っ直ぐに見つめた。
勇者もそれに応える様に彼女の顔を見つめる。
彼女の瞳には苦悩と悲しみが見てとれた。
側近「全てを知った今、魔王様のお考えが私にも多少理解できます」
側近「魔王様があれほど懇意になさっていた勇者様と闘うということはどれほどつらいことなのか、どれほど苦しい決断なのか、わかるつもりです」
側近「ですから私は貴方には正々堂々、全身全霊をもって魔王様と闘い、その覚悟と決意に応えていただきたい……そう思うのです」
勇者「…………」
僧侶「側近さん……」
側近「本来なら主君の敵に頭を下げて『闘ってくれ』だなどと家来が懇願するのは甚だおかしいことだとは分かっています」
側近「ですが……魔王様のお気持ちを酌むためにも、お願いいたします……」
側近はそう言って頭を深々と下げた。
固く握られた拳が震えているのは己の無力さを嘆き、憤っているためなのだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:19:30.19 ID:KhP6hFHj0<> そんな彼女に対し勇者はどこか間の抜けた声で返事をする。
勇者「あの〜、そのことなんだけどさ」
側近「……はい」
勇者「俺……アイツと闘うのは止めようと思うんだよね」
僧侶・側近「……!?」
勇者の口から飛び出した言葉に僧侶と側近は唖然とする。
側近はもとより僧侶でさえ勇者は魔王と闘うものだとばかり思っていた。
側近「ゆ、勇者さん?今なんと……」
勇者「だから、俺は魔王とは闘わないって」
僧侶「じゃあ大勇者様が代わりに闘うってこと……?」
側近「そんな!!魔王様は貴方と闘うことを望んでおられるのですよ!?」
側近「それは多分貴方になら殺されてもいいという魔王様の複雑な想いがあるからで……それを……!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:20:23.57 ID:KhP6hFHj0<> 勇者「まぁまぁ落ち着けって」
声を荒らげる側近をなだめながら勇者は言う。
勇者「一人でよく考えてみたんだけどさ、やっぱり俺はアイツと殺し合うなんてことしたくないんだ」
勇者「だから他の方法がないか脳みそひねって考えてみようかなって思ってさ」
勇者「なんつーか……その方が俺らしいかなって」
側近「…………魔王様の仰っていたという緑の国への侵攻作戦はいかがなさるおつもりですか?」
勇者「まぁなんとか止めてみせるさ」
側近「今回の侵攻作戦を止められたとしても人間側との和平が不可能と分かった以上、魔王様はまた本格的な侵攻作戦を開始するでしょう」
勇者「ならそれも止めてみせる。次もその次も、そのまた次もだ」
勇者「きっと出来るさ。俺にはいつもどんな時も俺についてきてくれる最高の仲間達がいるからな」ニッ
僧侶「勇者君……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:23:29.23 ID:KhP6hFHj0<> 側近「……2人が闘うことなく世界を崩壊から守る方法……それが出来ればたしかに理想ではあります。しかし何か考えがあるのですか?」
勇者「いや、それがサッパリ」
側近「アテもないならそんなもの現実逃避のただの妄想にすぎません!!魔王様がなんのために……!!」
勇者「でも側近さんだって俺も魔王も死なずにすむならそれが一番だって思うだろ?」
側近「それはそうですが……!!」
勇者「それにさ、やっぱりアイツは人間と魔族……っていうか人間同士が争うことのない平和な世界を心の底では望んでると思うんだよな」
側近「ですがそれができないから魔王様は……!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:24:09.16 ID:KhP6hFHj0<> パァンッ!!!!
「!?」
突然の破裂音。
「びえぇぇぇん!!うわあぁぁぁぁん!!」
続いて僧侶の妹の泣き声が一階から聞こえてきた。。
勇者「な、なんだ……?」
僧侶「ちょっと私様子を見てくるね」
勇者「あぁ」
二人に断ると僧侶は急ぎ足で部屋から出ていった。
しばらくすると下の階から聞こえていた泣き声は静まり、僧侶が帰ってきた。
勇者「なんだったんだ?いったい?」
側近「妹さんにお怪我はありませんでしたか?」
僧侶「そんな心配するようなことじゃなかったです」
苦笑しながら僧侶が事情を説明する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:25:42.38 ID:KhP6hFHj0<> 僧侶「弟君が妹ちゃんと遊ぼうと思って風船を膨らませてたんです」
勇者「風船?」
僧侶「うん。できるだけ大きくしようと思って頑張って空気を入れたから割れちゃったみたいで」
側近「なるほど。先ほどの破裂音はそれでしたか」
勇者「そりゃいっぱい入りゃいいってもんじゃないからなぁ。ほどほどにしなきゃ耐えられなくなって破裂して……」
勇者「……………………」ピク
勇者「耐えられなくなって…………」
勇者「破裂して…………」
僧侶「勇者君……?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:28:46.69 ID:KhP6hFHj0<> 勇者の脳内に閃光が走る。
続いて電流と共に目まぐるしく頭の中を記憶が駆け巡る。
魔法使い『いっそこの神樹を壊しちゃおうかな』
武闘家『難解な問題と言うものは、たった1つの閃きで簡単に解けてしまうものなんです』
僧侶『水をあげないと枯れちゃうけど水のあげすぎでも枯れちゃうから難しいね』
バラバラに散らばっていたパズルのピース達がひとりでに揃っていき一つの形を作り上げていく。
今までどんよりと曇っていた脳内が突然澄み渡る青空へと変わる。
辺り一面の草原には爽やかな風が吹いている。
勇者「………………」
僧侶「勇者君?勇者君ってば」
側近「どうしてしまわれたのでしょう?」
僧侶「さ、さぁ……?」
勇者「それだ…………」
僧侶「へ?」
勇者「それだよ僧侶!!」
勇者「そうか、そういうことか!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/31(月) 03:29:52.60 ID:KhP6hFHj0<> いきなり大声で叫び出した勇者に僧侶も側近も呆然としている。
僧侶「ど、どうしたのいきなり?」
勇者「もしかしたら……もしかしたら魔王と闘わずに世界を救えるかもしれない……!!」
僧侶・側近「!!??」
側近「な……それは本当ですか!?」
僧侶「い、一体どうやって!?」
二人を見て勇者は不敵に笑うと言ってのけた。
勇者「俺が……」
勇者「俺がこの世界をぶっ壊す……!!」グッ
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2012/12/31(月) 03:33:42.00 ID:KhP6hFHj0<> 今日はここまでです
最初の頃より投下量が少ないのは区切りのいいところまで投下しようとして最初頑張っただけでここ二日手を抜いているワケではありませんw
最後までお付き合いくださるとうれしいです <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 04:41:23.93 ID:RC2yIwYZ0<> ほう… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 10:07:14.56 ID:5NOuDSgn0<> クライマックスか!? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 10:37:34.91 ID:zJtds8tjo<> これぐらいの分量の方が読みやすいから個人的には助かる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 11:34:55.45 ID:H2Q0s5tyo<> 今年じゃ終わらなかったか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 14:15:18.90 ID:e6LQb5mPo<> サボテンの伏線に感動した
乙乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 04:46:26.93 ID:dLbqpo2Ro<> 今年初更新も楽しみに待ってます <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/01(火) 05:10:50.58 ID:jgUG0irn0<> 皆さんあけましておめでとうございます
2012年のうちに完結させたくて投下しはじめたんですが予想外に投下に時間がかかってしまいあえなく目標は達成できませんでした……残念;
年をまたいでの投下となってしまいましたが2013もよろしくお願いいたしますw
ってことで今日の分いきますよ!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:13:31.66 ID:jgUG0irn0<> 【Episode08】
――――白の国・王都・魔法研究局局長邸
勇者「……ど、どうですか!?」ゼェゼェ
あの後僧侶の家をから転移魔法で武闘家の家へとやって来るなり勇者は局長の私室へと駆け込んだ。
魔王と闘わずに世界を救えるかもしれないという自分の閃きを一息に局長に話してみせた。
局長「…………」
勇者「局長さん?」
局長「あ、いや、すまないね。すっかり呆気にとられていたよ」
局長「……なるほど、逆転の発想か……今まで神樹に魔力を供給する手段ばかりを盲目的に考えていたからね……そういう着眼点は持ち合わせていなかったよ」
局長は机を人差し指で叩き、ブツブツと言いながら何か考えているようだ。
局長「……厳密な計算をしてみないと何も言えないけど成功の可能性は十分あると思うよ」
勇者「じゃあ……!!」
局長「ただし、君の考えを実現するためには言うまでもなく聖剣と魔剣の力が必要になる」
勇者「それは俺がなんとかしてみせます」
局長「そうか。……なら後は計算の結果が出るまで待っていてくれないかな。全速で計算してはみるけれどなにぶん複雑な計算法だし資料も少ない、精密な計算結果が出るまで時間がかかってしまうと思うけれど……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:14:22.30 ID:jgUG0irn0<> 勇者「わかりました、よろしくお願いします」ペコ
局長「あぁ。計算が終わったらすぐ連絡するね」
グウウゥゥゥ〜〜
その時勇者の胃が空腹を訴える音を立てた。
勇者「あ…………」
局長「フフッ、ご飯まだなのかい?」
勇者「そういや夕飯どころか昼飯すら食ってないや……」ハハッ
朝起きてから胃に入れた物は一かじりのパンと一口のスープ、それと紅茶が一杯。
腹の虫が鳴るのも仕方ないだろう。
局長「良ければ召し使いに何か作らせようか?」
勇者「じゃあお願いしま…………いや、やっぱりいいです」
局長「おや、そうかい?」
カアアァァッ
展開した転移魔法の青白い光に包まれながら勇者は言った。
勇者「宿屋のオッチャンが晩飯作って待ってますから」ニッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:15:12.68 ID:jgUG0irn0<> ――――王都・とある宿屋
バァン!!
勇者「ただいまっ!」
宿屋の入り口の扉を勢い良く開けると既に宿屋夫妻がそこで勇者の帰りを待っていた。
宿屋の亭主「おぅ、遅かったじゃねぇか」
勇者「悪ぃ悪ぃ」ナハハ
宿屋の妻「……今朝までとは別人だね」フフッ
勇者「ハハッ、やっぱり心配かけちゃってたか……」
宿屋の妻「そりゃあね、ここのところまるで生気の無い顔してたんだから当たり前さね」
勇者「色々とごめんな……」
宿屋の妻「いいんだよ、アンタが元気ならそれで」
勇者「おばさん……」
宿屋の亭主「そんなことより、だ」
勇者「?」
口にくわえていたパイプを勇者に向けて亭主が言う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:16:04.35 ID:jgUG0irn0<> 宿屋の亭主「冷めたら飯が不味くなっちまうだろ、さっさと食っちまえ」ニッ
宿屋の妻「そうだね、今日はビーフシチューと蜜鳥の唐揚げと熊貝のパスタだよ」
勇者「おぉ!!今日は俺の好物ばっかりじゃん!!」
宿屋の妻「ふふっ」
歓声を上げる勇者を見て彼女は笑い出した。
何故笑われたのか勇者が不思議に思っていると、勇者の疑問に気付いたのか彼女は答えを教えてくれた。
宿屋の妻「勇者が泊まりに来た日からアンタの好きなもんしか作ってないんだよ」
勇者「え!?そうだったの!?」
宿屋の亭主「なんだ、気付いてなかったのかよ」
勇者「まともに飯食ってなかったしメニューなんて全然気にしてなかったからなぁ……」
勇者「……って言うか全部俺好みのメニューって宿屋としてそれは大丈夫なのかよ?」ハハッ
宿屋の亭主「心配いらねぇさ」
パイプに新しい煙草を詰めながら亭主は笑って言う。
宿屋の亭主「なんせお前しか客がいなかったからな」ニッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:17:06.38 ID:jgUG0irn0<> ――――翌日・王都・路地裏の酒場
大勇者「いただきます」
手を合わせて挨拶すると大勇者は器に口をつけ味噌汁をすすった。
店主「…………」
大勇者「ふむ……少し味噌を入れすぎたんじゃないか?いつもよりしょっぱい気がするぞ」
店主「…………」
大勇者「まぁ私はこれくらいの方が好きだがな」ズズ…
店主「…………」
大勇者「ん?なんだ?そのもの言いたげな顔は」
店主「……ワシの店は酒場でのぅ、開店は夜からなんじゃ」
大勇者「そうだな、私もいくら酒場だからと言って昼間から酒を出すのはどうかと思う」
店主「昼間は準備時間でな、ランチサービスはしておらんのじゃ。ましてやモーニングサービスもしておらん」
大勇者「ほぅ。昔と変わらんな」
店主「ではどうしてお前さんは今ここでこうして朝飯を食っておるんじゃ?」
大勇者「私が腹を空かせてお前に朝食を要求したからだな」
悪びれた様子もなくそう言うと大勇者は魚の煮付けをおかずに白米を食べた。
口をモグモグと動かしながらウンウンと頷いている。
どうやら煮魚の味は高評価だったらしい。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:19:18.93 ID:jgUG0irn0<> 大勇者「常連客にはサービスするものだぞ、それに飯代はちゃんと払っているだろ?」
店主「そういう問題じゃないわい」
店主「朝っぱらからここに来てはただ朝飯を要求するだけ……なんじゃ、大勇者殿は暇なのか?」
大勇者「戦がなければ勇者の仕事なんてほとんどないからな、暇なのは否定しない」
大勇者「何より……私が家に居たのでは会いに来づらいだろう」
店主「……?」
大勇者「なに、すぐにここを出ていくことになるさ」
店主「今回ばっかりはお前さんが何を考えてるのかわからんわい」
大勇者「……うむ、ごちそうさま。美味かったよ」フキフキ
手拭きで口の汚れを拭き取りながら大勇者は食器をきちんと揃えて置いた。
店主が食器を片付け厨房に持って行くと不意に来客を告げる鐘の音が響いた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:20:17.09 ID:jgUG0irn0<> カランコロン
「うぃーっす」
無精髭の大男が来店した。
大勇者よりも遥かにガタイの良いその男こそが剣士。
かつて大勇者とパーティを組んでいた元白の国騎士団長の男だ。
髪の毛には白髪が混じっているものの健康的に焼けた顔でそう年老いては見えなかった。
大勇者「よっ」
剣士「あれ?大勇者じゃねぇか」
剣士は酒場に大勇者が居ることに驚いていた。
待ち合わせをしていた訳ではないようだ。
そのまま大勇者の隣の席へと腰かける。
店主「こりゃまた、久しぶりじゃのぅ」
剣士「よぅ爺さん、元気にやってるか?」
店主「まぁボチボチじゃな」
大勇者「そいうお前は白髪が増えたな」
剣士「うるせーよ。結構気にしてんだぞ」フンッ
店主「しかし緑の国に住んどるお前さんがなんでまた?城にでも何の用があるんじゃ?」コトッ
水の入ったグラスを剣士に渡しながら店主が尋ねた。
すると剣士の顔はみるみる曇り出した。
何か悪いことでもあったのかと思った店主だったがそれは要らぬ心配だった。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:21:37.68 ID:jgUG0irn0<> 剣士「そんなの俺が知りてぇよ」
店主「?」
剣士「コイツに呼び出されたから来たんだよ。朝っぱらから白の国の城勤めの魔法使いが来て『大勇者様がお呼びですので至急いらっしゃって下さい』ときたもんだ」
剣士「何事かと思って白の国に跳んできたら城にコイツいねぇんだもんよぉ。勘弁してくれって話だぜ」
剣士「んで特にすることもねぇんならと思って時間潰しに爺さんにでも会いに来たらコイツがいたってワケ。まぁ探す手間が省けて助かったけどな」
店主「大勇者に振り回されるのは今も昔も変わらんのぅ」フォッフォッ
剣士「まったくだ」ハァ
そこで剣士は何かを思い出したようだ。
剣士「あぁ、そうだ」
店主「なんじゃ?」
剣士「そんなワケで俺飯も食わずに飛び出してきたもんで腹減ってんだよな。爺さん、なんか適当に朝飯頼むわ」
店主「残念じゃがワシの店はモーニングサービスはやってないんじゃ」
剣士「なんでぇ固いこと言うなよ、昔の常連だろ?馴染みの客にはサービスするもんだぜ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:23:05.21 ID:jgUG0irn0<> 店主「やれやれ……ちゃんと代金は払ってもらうからのぅ」
剣士「んじゃ、コイツにツケで」
大勇者「おい、大した額じゃないのだから飯代くらい自分で払え」
剣士「俺はお前に呼び出されて来たんだぜ?大した額じゃないんなら奢ってくれてもいいだろ」
大勇者「……ったく、しょうがない奴だ」フンッ
剣士「お前にゃ言われたかねぇよ」フンッ
二人がそんな下らないやりとりをしている内に店主が盆に朝食を乗せて持ってきた。
店主「ほれ」カチャッ
剣士「お、アサリの味噌汁に煮魚か、いいねぇ」
剣士「いただきまーす、っと……」ズズ…
剣士「ん……ちょっとしょっぱいな、味噌入れすぎじゃね?」
店主「…………」
剣士「まぁ俺は味濃い方が好きだからいいけどよ……」ズズズ…
店主「やれやれ、まったくお前さんらはそろいもそろって……」ハァ
剣士「?」モグモグ
大勇者「なんでもない、気にするな」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:24:44.69 ID:jgUG0irn0<> 飯を頬張りながら剣士は腑に落ちない顔で二人の顔を見比べていた。
それを飲み込むと大勇者に尋ねた。
剣士「……んで、結局お前俺に何の用なんだよ、今日なんかあんのか?」
大勇者「用が無ければ呼ぶわけないだろ」
剣士「そりゃそうだけどよ」
大勇者「多分そろそろ来ると思うのだが…………」ピクッ
そこで大勇者の顔つきが変わった。
その顔は剣士が過去に何度も見た、大勇者が戦に臨む時の顔そのものであった。
大勇者「…………来たか」
店主「?」
カランコロン
剣士「!?」
店主「……!!」
大勇者「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:25:37.72 ID:jgUG0irn0<> 本日三人目の酒場の客は大勇者の実の息子――――100代目勇者だった。
勇者「……あれ?剣士のオッチャンがなんでここに?」
剣士「あぁ、俺は……」
大勇者「よぅ、よく来たな」
剣士「って喋らせろよ!!」
大勇者「……来る頃だと思っていた」
勇者「親父、俺……」
大勇者「お前が来た理由は察しがつく」
大勇者「……ついてこい」
勇者「え?えっと……」
大勇者「お前もだ、剣士」
剣士「俺も?」
それだけ言うと大勇者は立ち上がり早足で店を出ていってしまった。
しばし茫然としていた勇者達だったが直ぐ様我に返る。
勇者「ま、待てよ、親父!!」タタタッ
剣士「あ、まだ飯食い終わって……ったく、アイツどこ行くつもりだぁ?」
店主「さぁのぅ……ふむ、ワシもついて行ってみようかのぅ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 05:26:57.08 ID:jgUG0irn0<> ――――王都・郊外・練兵場
王都の北の外れ。
高く厚い石造りの壁に囲まれたその敷地は、白の国の兵士達が国のために日夜己を鍛えるための練兵場である。
毎日朝から模擬戦や練習試合、トレーニングに汗を流す若き兵士達の気合いの入った声が絶え間なく聞こえている。
その中でも一際広い第一練兵場では騎士団長が直々に新兵達に模擬戦の指導をしているところだった。
騎士団長「そこ!!隊列を組むのが遅いぞ!!」
若い白の兵士「ハッ!!」
騎士団長「戦場において一瞬の遅れは即刻死に直結する!!貴様のミス1つで仲間全員の命が失われることになるやも知れんのだぞ!!」
若い白の兵士「サー!!イェッサー!!」
書類にメモをとりながら騎士団長は彼らに指示を出す。
今回の模擬戦での反省点や改善点を事細かにチェックしているのだろう。
ギギィ……ゴォン
と、そこで第一練兵場の重たい扉が開き一人の男が入ってきた。
いや、正確には一人ではない。
少年が一人、大男が一人、それと老人が一人、先頭の中年の男に続いて入ってくる。
大勇者「よぅ」
騎士団長「だ、大勇者様!?」
勇者「おい、親父。いい加減説明しろよな!!」
騎士団長「勇者様!?」
剣士「お?おぉー!!久しぶりだなぁ!!」
騎士団長「それに先輩!?」
店主「なんじゃ、知り合いか?」
剣士「あぁ、昔の俺が騎士団長やってた頃の後輩だよ」
騎士団長(……誰だこの老人は?……あれ、でもどこかで見たことあるような気が……)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 05:27:53.32 ID:jgUG0irn0<> 突如の現れた四人に困惑を隠せない騎士団長。
大勇者に勇者、元騎士団長に謎の老人という取り合わせ自体も疑問であったが一体彼らは何の用があってここに来たというのだろうか?
剣士「お前が騎士団長やってるってのは大勇者から聞いてたぜ。しっかりやれてるみたいじゃねぇか」
騎士団長「いえ、俺なんて先輩の足元にも及ばないですよ」
剣士「真面目で謙虚なところも相変わらずだな」ガハハ
騎士団長「あの……先輩達はどうしてここに?」
剣士「コイツに聞いてくれ」ハァ
騎士団長「?」
剣士がため息をつき大勇者を指差したところで大勇者が騎士団長へと話しかける。
大勇者「騎士団長」
騎士団長「ハッ!!なんでありましょうか」
大勇者「突然だがここをしばらく借りるぞ」
騎士団長「はい!!…………はい?」
つい一度返事をしてしまったものの慌てて聞き返した。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:28:42.37 ID:jgUG0irn0<> 騎士団長「ええと……この第一練兵場をお使いになりたい……ということでしょうか?」
大勇者「あぁ」
騎士団長「しかし今新兵に模擬戦の訓練をしている最中でして……確か今日は第三練兵場が昼まで空いていたハズです。そちらはいかがでしょうか?」
大勇者「一番広くて頑丈なここが良いのだ。どうか譲ってはくれないか?」
騎士団長「はぁ……しかし……」
剣士「あー、なんかよくわかんねぇけど俺からも頼めねぇかな」
剣士「なんなら今度騎士団の連中に稽古つけてやるからさ、な?」
騎士団長「……わかりました。憧れのお2人に頼み込まれたのでは断れるハズもありません」
大勇者「すまないな」
騎士団長「いえいえ。ただ先輩、自分も含め騎士団員への稽古、お願いしますね」
剣士「あぁ、わかったよ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:29:37.86 ID:jgUG0irn0<> 大きく息を吸うと騎士団長は練兵場全体へ響くような大声で言った。
騎士団長「新兵諸君!!突然だが今から第三練兵場へ移動しそこで続きを行うことになった!!荷物をまとめて速やかに移動を始めよ!!」
当たり前だが突然下された命令に新兵達は不満たっぷりだ。
ざわざわ
「……なんでだまた?」
「おい、あれ大勇者様と勇者様じゃないか!?」
「うお!!本物か!?」
「どうでもいいよ、それよりも移動が面倒くせぇ〜」
ざわざわ
騎士団長「つべこべ言うな!!騎士団を目指すなら下された命令には不満を言わず迅速に完遂してみせよ!!」
新兵達「サー!!イェッサー!!」バッ
ザザザザザッ!!
しかしそれでも兵士は兵士。
上官の一声に声を揃えて返事をするとテキパキと準備を済ませ第一練兵場は瞬く間に空になった。
剣士「ほー、なんだかんだ言ってすぐ動くじゃねぇか。お前の指導がいいのかもな」
騎士団長「よして下さいよ。どうせ大勇者様がいるから張り切っただけですって」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:30:34.65 ID:jgUG0irn0<> 大勇者「あぁ。……そうだ、騎士団長、木刀はないか?」
騎士団長「木刀……ですか?ならそこの倉庫の中にあると思いますが……」
大勇者「わかった。ありがとう」
騎士団長に礼を言うと大勇者は大股で倉庫へ向かって言った。
勇者「何するつもりなんだよあの親父……」
剣士「俺にはアイツが何考えてんだかサッパリわかんねぇよ」
店主「そうかのぅ?ワシにはなんとなく分かったよ」フォッフォッ
剣士「ホントかよ爺さん」
店主「……ま、すぐに分かるじゃろ。……ほれ、戻ってきたぞぃ」
倉庫から戻ってきた大勇者はその手に二本の木刀を握っていた。
一本は至って普通の木刀。
もう一本はやや短めの木刀だ。
大勇者「使え」
大勇者は短い方の木刀を勇者に投げると言った。
勇者はそれを片手で受けとる。
父が何をしたいのか、なんとなく勇者にも分かってきた。
勇者「親父……まさかとは思うけど」
大勇者「そのまさかだ」
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:31:40.99 ID:jgUG0irn0<> 大勇者「今から私と試合をしろ。100代目勇者」
剣士・騎士団長「!?」
勇者「……やっぱりそうか」ニッ
大勇者の発言に剣士と騎士団長は目を見開いて驚いている。
勇者は真剣な眼差しで大勇者を見つめているが口元だけは笑っていた。
大勇者「私が負けたら聖剣はお前にくれてやる」
勇者「俺が負けたら?」
大勇者「聖剣は渡せない。聖剣に魔法をかけて未来永劫お前と契約ができないようにする」
勇者「…………」
大勇者「どうした、怖じ気づいたか?」
勇者「……いや、随分と簡単な条件だと思ってさ」ニヤッ
大勇者「口ばかりは一人前だな」フンッ
勇者「俺が勝ったら聖剣はもらう。約束は守れよ」
大勇者「私は待ち合わせの時間は守らないが約束は守るさ」
自嘲気味に大勇者はそう言ったが、父の一言は自分にも当てはまると気付き勇者もまた苦笑した。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:32:42.16 ID:jgUG0irn0<> 大勇者「剣士!!」
剣士「?」
大勇者「お前が審判だ!!」
大勇者「制限時間は無制限、実戦形式のなんでもありの試合だ!!」
大勇者「最後まで立っていられた方を勝者とする!!」
剣士「……もしかして俺が緑の国から呼び出されたのって……」
大勇者「勿論このためだ」
剣士「審判なんて俺じゃなくてもできんだろうが!!わざわざ俺にやらせる必要あんのか!?」
大勇者「じゃあやめて帰るか?」
剣士「そういうことじゃ…………あ〜〜、くそっ」ハァ
剣士「……ったく、お前のそういうとこ、呆れて何も言えねぇよ」ガシガシ
剣士は頭をかきむしると観念したように深いため息をついた。
剣士「わかったよ、俺が審判やってやるからとっととおっぱじめやがれ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:33:26.28 ID:jgUG0irn0<> 店主「じゃがお前さんには聖剣の加護があるじゃろ?勝負にならんのではないか?」
大勇者「安心しろ、私は聖剣の力は使わない。それではフェアでないからな」
大勇者はそれだけ言うと練兵場の中心へ向かって歩いて行った。
剣士「おい、勇者」
勇者「ん?」
剣士はズボンのポケットから銀貨を一枚取り出すとそれを勇者に渡した。
勇者「なんだよこれ?」
剣士「代行料金」
剣士「それであのクソ野郎に一発ぶちかましてくれ」ニヤッ
勇者「ブハッ!!くくくっ、あぁ任せとけ!!」ニッ
笑いながら剣士に向けて親指を立てると勇者は大勇者の後に続いた。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:34:51.35 ID:jgUG0irn0<> 騎士団長「まさか99代目勇者と100代目勇者の闘いが見られるだなんて……!!」
剣士「あれ? お前まだいたの? 新兵の訓練とやらにゃ行かなくていいのかよ」
騎士団長「カタいことは言いっこなしです、白の国の人間なら誰もが一度見たいと思っていた闘いが今から始まるんですよ!!」ワクワク
騎士団長「歴代最強の99代目勇者vs歴代最速の100代目勇者……これを見ずにいられますか!!」キラキラ
剣士「変なスイッチ入ると大分キャラ変わるのも相変わらずだな……」
剣士の言葉など意にも介せず騎士団長はこれから始まる親子対決に興奮を押さえられないようだ。
騎士団長「先輩はどっちが勝つと思いますか?」
剣士「俺か? う〜ん……勇者にはガキの頃から剣の指導しててな、今じゃ俺よりも強いくらいだ」
剣士「でもやっぱ大勇者が負けるところは想像できねぇからなぁ」
騎士団長「俺は勇者様だと思いますね、『13秒完全試合』のこともありますし」
剣士「爺さんは?」
店主「ワシは……そうじゃな、聖剣の加護がなくとも本気で闘えばやはり大勇者が勝つかのぅ」
店主「まぁワシらはここで決着がつくのを見届けようではないか」フフッ
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:35:45.90 ID:jgUG0irn0<> 広い練兵場の真ん中まで来ると大勇者は軽くストレッチしながら勇者に尋ねた。
大勇者「さて……準備はいいか?」
勇者「あぁ。でも、親父ももういい歳なんだから無理すんなよ」ヘヘッ
大勇者「馬鹿言え、私はまだまだ現役だ。息子相手でも手加減なぞしないからな」
勇者「あったりまえだ。いつか本気で全力の親父と闘ってみたかったんだ、手を抜いたら許さねえからな」
大勇者「それで負けてもいいのか?」
勇者「いいや、俺が勝つね。絶対」
自信に満ちた勇者の声と真っ直ぐな瞳。
大勇者は「まだまだ若いな」などと思いつつも、目の前の息子と若き日の自分自身の姿が重なり不思議な気分になった。
大勇者「……フッ、いいだろう。後は剣で語るとしよう」
入り口付近にいる剣士に大声で呼びかける。
大勇者「剣士!!合図を頼む!!」
剣士「あいよー!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:36:34.47 ID:jgUG0irn0<> 剣士は返事をすると軽く咳払いをし、腹の底から大声で叫んだ。
剣士「これより元白の国騎士団長の立ち会いにより、第99代目勇者と第100代目勇者の試合を始めるものとする!!」
剣士「制限時間は無制限!!勝利条件は最後まで己の足で立っていること!!」
剣士「双方異議は!?」
大勇者「ない!!」
勇者「ねぇ!!」
剣士「では…………」スッ
ゆっくりと片手を高く上げる。
それと同時に練兵場全体の空気が緊張する。
剣士の開始の合図を待ち皆が息を呑む。
騎士団長「…………」ゴクリ
店主「…………」
大勇者「…………」
勇者「…………」
剣士「はじめぇえ!!!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:37:41.60 ID:jgUG0irn0<> ヒュンッ!!
剣士の声が練兵場に響くやいなや勇者は得意の転移魔法で大勇者の背後をとる。
勇者(先手必勝!!)ビュッ!!
首筋目がけて木刀ひ振り抜く。
大勇者「甘いな」サッ
ガッ!!
だが大勇者は勇者の動きを完全に読んでいた。
背後を振り向くことすらせずに木刀で首筋への攻撃を防いだ。
勇者「チッ!!」
大勇者「お前の考えなどお見通しだ。私が何年戦場を駆けていると思っている」
勇者「んなろ!!」
ヒュンッ!!
またも神速の転移魔法で空間移動をする勇者。
今度は大勇者の左側面へと一瞬で移動し脇腹へ突きを放とうとする。
大勇者「甘いと言っただろ」サッ
勇者「!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:38:51.27 ID:jgUG0irn0<> しかしこの動きも大勇者には読まれていた。
空間転移をし終えると目の前には赤く輝く魔法陣が展開されていた。
カアアアァァァッ!!!!
大勇者『五重雷撃魔法陣・閃』!!!!
ドオォッ!!
大勇者の左手から一本に収束された巨大な雷撃が放たれた。
ズガガーーーン!!
ガラガラガラガラ……!!
練兵場を取り囲む石壁へと命中すると、石壁は派手な音をたてながら崩壊した。
空から見たら第一練兵場の石壁は今『C』の時になっているだろう。
騎士団長「な、なぁ……!?」
剣士「うへぇ、聖剣の加護も無しに五重雷撃魔法陣かよ。ホント規格外な野郎だぜ」
騎士団長「ま、魔力で強度を何十倍にも強化した特殊な石材で作られた分厚い石壁がこうも容易く……」ゴクッ
店主「そんなもの大勇者にとってはただの石と変わらんじゃろ」
騎士団長「歴代最強の勇者は伊達ではありませんね……」
騎士団長「……って勇者様は!?直撃を受けていたら死んでいるかもしれませんよ!?」ハッ
剣士「アイツに限ってそりゃねぇって、ホラ」
慌てる騎士団長をよそに剣士も店主も平然としている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:39:40.45 ID:jgUG0irn0<> ヒュンッ!!
大勇者の背後、やや距離のある場所へ勇者は空間転移し攻撃を避けていた。
勇者「おいおい、いくらなんでも子供相手にあんなのぶっぱなすか……?」タラー
大勇者「すまんな、昔から手加減は苦手でな」
勇者「……どっかの猫耳みたいなこと言いやがって」
大勇者「なんだったらやはり手加減してやろうか?」
勇者「調子に乗んなよ」フンッ
カアアアァァァ!!
左手を大勇者へ向けてとかざすと空中に無数の魔法陣が展開されていく。
勇者「こっからが俺の本気だ」
大勇者「ほぅ……」
勇者『二十連炎撃魔法陣・灼』!!!!
ドドドドドドドッ!!
ヒュン!!ヒュヒュン!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:40:50.36 ID:jgUG0irn0<> 灼熱の火球達が大勇者へと高速で襲いかかる。
大勇者「……下手な鉄砲など数撃っても私には当たらんぞ」サッ
だが大勇者は狼狽えることもなく難なくそれらを避けてみせた。
ヒュンッ!!
火球の影から勇者が空間転移で現れ大勇者へと攻撃を仕掛ける。
勇者「おらぁ!!」ビュッ!!
ガッ!!
しかしその攻撃も防がれてしまった。
大勇者「これが本気か? 下らんな」
勇者「……いいこと教えてやるよ」
大勇者「?」
勇者「俺の鉄砲の弾はただの弾じゃないぜ」ニッ
勇者は空いている左手を体の横へと伸ばした。
丁度左手の前を先ほど放った上級炎撃魔法の一つが通りすぎる。
フッ!!
大勇者「!?」
次の瞬間、火球が突如として消えた。
あのままの進路であれば勇者の横を通りすぎ二人の背後へと飛んでいく筈だった炎撃魔法が忽然とその場から消えたのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:41:49.92 ID:jgUG0irn0<> 大勇者「ッ!!」サッ
考えるより先に一歩後ろへと大勇者が下がったのは歴戦の勇士が持つ勘故であった。
「このままここにいてはマズい」と直感したのだ。
ヒュンッ!!
大勇者が退いた直後、さっきまでいた位置に"真横から"火球が飛んできた。
炎撃魔法は前方にいた勇者が放ったものである。
直進する性質を考えればその一発は明らかに弾道がおかしかった。
大勇者「……転移魔法による炎撃魔法の空間転移か!!」
勇者「ご名答ッ!!」
勇者の声が背後から聞こえたかと思うと今度は後方から熱気を感じた。
瞬時に身を翻して後方から迫り来る二発の火球を打ち払う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:42:45.30 ID:jgUG0irn0<> と、続いて右側面に勇者の気配。
勇者「おらぁ!!」ビュッ
大勇者「くっ!!」サッ
グルン!!
大勇者「……!?」
この攻撃をギリギリで回避すると今度は視界が上下反転。
これは相手を強制的に空間転移させ体勢を崩す勇者の得意技だ。
大勇者「チッ!!」バッ
クルッ
スタッ
頭から地面へと落下する直前に片手を地に着き、後転飛びの要領で体を起こした。
すると今度は四方から火球が向かってきていた。
大勇者「次から次からへと……まったく目が回りそうだな!!」ビュッ!!
ボボボボンッ!!
大勇者は文句を言いながら襲いかかる炎撃魔法を全て薙ぎ払った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:44:09.99 ID:jgUG0irn0<> 騎士団長「…………」
剣士「なんだ、さっきまであんなにやかましかったのに急に静かになったな」ククッ
騎士団長「あの……正直俺何が起こってるのか良くわからないんですが……」
剣士「俺もなんとか目で追える程度だからなぁ」
店主「簡単に言うと勇者は転移魔法で『自分自身』『大勇者』『炎撃魔法』を超高速で空間転移させることで予測不可能な全方位攻撃をかけて大勇者を翻弄しとるんじゃな」
店長「あらかじめ放っておいた炎撃魔法を空間転移させることで軌道を変える、大勇者に転移魔法をかけて体勢を崩す、その隙に自分も空間転移し攻撃をはかる……」
店主「あんな複雑でトリッキーな攻撃は瞬天の勇者にしかできないじゃろうな」フォッフォッ
騎士団長「さ、流石は神速の勇者ですね……!!」ゴクッ
剣士「その神速の全方位攻撃に対応してる大勇者も化け物だけどな」ガハハッ
と、ここで騎士団長はどうにも気になって仕方ないことがあるので店主に聞いてみた。
騎士団長「……あ、あの……ご老人?」
店主「なんじゃ?」
騎士団長「あなたは一体何者なのですか? どうもどこかで見たことがあるような気がしてならないのですが……」
店主「ワシか? フフ、ワシは寂れた酒場の老いぼれ店主じゃよ」ニコ
店主はどこにでもいるような老人の優しい笑みで答えた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:45:17.34 ID:jgUG0irn0<> ヒュッ!!
勇者は火球をさばききったばかりの大勇者のすぐ目の前へと空間転移すると勇者は赤の魔法陣を展開した。
カアアアァァァッ!!
勇者『三重雷撃魔法陣・轟』!!!!
ズガアアァァァン!!!!
放たれた強力な雷撃が前方をいかずちの海に沈めた。
もうもうと立ちこめる砂煙を見ながら勇者は確かな手応えを感じた。
勇者「へへ、いくら親父でも今のタイミングなら……」
ブワァッ!!
が、砂煙が一瞬で吹き飛ぶと中から高速で大勇者が突進してきた。
大勇者「今のタイミングならどうしたって?」ビュッ!!
勇者「んなっ!?」
サッ!!
身を屈めて横薙ぎをかわすと軽く距離をとる。
勇者「マジかよ……三重最上位雷撃魔法陣だぜ? それ食らって無傷って……ホントに人間か?」
大勇者「命中の直前に私も雷撃魔法陣を展開して威力を相殺しただけだ、昔アイツもやっていたことだ」
勇者「アイツ……?」
大勇者「……いや、なんでもない」フッ
大勇者の言う『アイツ』が誰だか勇者には分からず首を傾げた。
大勇者はもっともだ、と小さく笑った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:46:18.62 ID:jgUG0irn0<> 大勇者は構え直すと勇者に話しかけた。
大勇者「……局長から聞いたぞ、魔王と闘うことなく世界を救うというお前の考えをな」
勇者「……!!……知ってたのか!!」
大勇者「あぁ、今朝早くに彼が家を訪ねて来てな。全てを聞いた」
勇者「だったらこんな回りくどい真似しなくても……!!」
大勇者「ハッキリ言おう。お前の考えは甘い」
事情が分かっているなら聖剣を譲ってくれても良いではないか。
そう言おうとした勇者を大勇者はバッサリと斬り伏せた。
勇者「なんだと!?」
大勇者「もしお前の考えた方法が失敗した時どうなる」
大勇者「どんなことが起こるかは分からんが、最悪の場合神樹が暴走し世界も崩壊するのではないか?」
大勇者「私は神樹については詳しくわからんがそれくらいなら分かるぞ」
勇者「…………でも!!」
大勇者「このまま戦争を続けていれば勇者と魔王と一部の人間の犠牲はあれど世界は安定を保つだろう」
大勇者「お前の考えは全世界の人間の命を巻き込んだ自分勝手な賭博にすぎん」
大勇者「私は世界を守る99代目勇者として、100代目勇者のそんなわがままを許すワケにはいかない」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:47:30.51 ID:jgUG0irn0<> 勇者「何ふざけたこと言ってんだよ!?この世界の悲劇の繰り返しを断ち切れるかもしれねぇんだぞ!?」
勇者「だったら十分やってみる価値あるじゃねぇかよ!!」
大勇者「『やってみる価値がある』などと言うにはあまりにもリスクが高すぎると言っているのだ」
大勇者の言葉に勇者の中では熱い想いが沸き上がってきた。
怒りを込めた声でその想いを叫ぶ。
勇者「親父は……親父は昔からそうだ!!」
勇者「俺が何かをしようとしても頭ごなしに否定するだけだった!!」
勇者「過去のことを引きずってばっかりでてんで未来を見ようとしない……そういうところがずっとずっと大っ嫌いだった!!!!」
大勇者「フンッ、実の親に対し随分言ってくれるじゃないか」
大勇者「だが私に勝たねば聖剣は手に入らんのだぞ?どうする?」
勇者「決まってんだろ、親父に勝って聖剣は俺がもらう!!」
勇者「んでもって魔王と闘わずに世界を救って親父に俺を認めさせてやる……!!」
勇者は決意を込めた瞳で大勇者を睨みつけると構えをとった。
大勇者はそんな勇者に応えるように構え直す。
大勇者「フッ……いいだろう」ザッ
大勇者「ならばかかってこい!!馬鹿息子ォ!!」
勇者「行くぜぇ!!クソ親父ぃ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:48:40.65 ID:jgUG0irn0<> カアアアァァァッ!!
二人は巨大な魔法陣を展開すると同時に叫んだ。
勇者『四重炎撃魔法陣・獄』!!!!!!!!
大勇者『四重氷撃魔法陣・絶』!!!!!!!!
ゴオオオオォォォォ!!
ビュオオオォォォォ!!
カッ!!!!
ズガアアァァァン!!
紅蓮に燃え盛る煉獄の火炎と空気すら凍らせる巨大な凍てつく氷の剣とがぶつかり合う。
相反する巨大な二属性の魔法がぶつかったことによる爆音は空気だけでなく練兵場全体を揺らした。
勇者「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」ビュッ!!
大勇者「はああああぁぁぁぁ!!!!」ビュッ!!
ガァン!!
ガガッ!!
カカァン!!
ガン!!
ガガーン!!
勇者と大勇者は雄叫びをあげながら木刀を振るう。
樫の木を削って作られた丈夫な木刀は二人の剣圧に耐えきれず今にも折れてしまいそうだ。
それほどまでに二人の闘いは激しいものとなっていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:49:54.26 ID:jgUG0irn0<> 騎士団長「…………」ボーゼン
店主「フォッフォッ、どっちも火がついてしまったようじゃな」
剣士「大勇者がなんで俺を審判に指名したか分かったぜ……こりゃ普通の奴には審判なんてできねぇな」
騎士団長「せ、先輩はこの闘いがわかるのですか……?」ゴクッ
剣士「言ったろ、『普通の奴には審判なんてできねぇ』って。俺はアイツらみたいな化け物じゃねぇから流石にここまで闘いが激しくなったら何やってるかほとんどわかんねぇよ」
騎士団長「先輩でさえ……」
店主「『制限時間は無制限、最後まで立っていた方が勝ち』とはよく言ったもんじゃな」フフッ
剣士「まったくだぜ、それ以外の方法で決着がつくわきゃねぇよ、この闘いは」クククッ
闘いにまるでついていけず立ち上がる火柱と崩れゆく練兵場を眺めている騎士団長をよそに剣士と店主の二人はおかしそうに笑っていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:51:19.70 ID:jgUG0irn0<> 勇者「おらああああぁぁぁぁ!!!!」バッ!!
大勇者「せやああああぁぁぁぁ!!!!」バッ!!
ガガッ!!
ドガァン!!
ガァン!!
ゴオォォ!!
剣士「…………」フッ
熾烈な二人の闘いを見て剣士はほくそ笑んだ。
店主「……どうかしたのか?」
剣士「見ろよ、爺さん。アイツのあの嬉しそうな顔」
剣士「まるで若いころ魔王と闘ってた頃みてぇだぜ」
剣士に言われて店主も大勇者の顔を見た。
激しい闘いのため一瞬しか見えなかったが、あんなに生き生きとしている大勇者の顔を見るのは本当に久し振りのことであった。
店主「フフッ、本当じゃな。息子の成長が喜ばしい気持ち、全力で闘えることが嬉しい気持ち、全力で闘うことで昔を思い出し懐かしむ気持ち……あの眼が全てを語っておるな」フォッフォッフォッ
剣士「……ったく、相も変わらず不器用な馬鹿野郎だ」ククッ
僅かに瞳を潤ませがら剣士は笑って二人の勇者の闘いの行く末を見届けていた。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:52:25.33 ID:jgUG0irn0<> ――――――――
――――
――
―
勇者と大勇者の闘いは予想通り長時間に及んだ。
いつしか太陽は沈みかけ、西の空が綺麗な茜色に染まっていた。
ドサッ!!
勇者「はぁ……!!はぁ……!!」ハァハァ
ドサッ!!
大勇者「ぜぇ……!!ぜぇ……!!」ゼェゼェ
親子の闘いにより変わり果てた第一練兵場の中心で勇者と大勇者は同時に大の字に倒れこんだ。
手にしている木刀は折れ、魔力もすっかり空になり、立っている体力すらお互い残っていない。
大勇者「……フッ、なかなかやるじゃないか」ハァハァ
勇者「親父こそ、ここまでやるとは正直思ってなかったぜ」ハァハァ
大勇者「それは私の台詞だ」ハァハァ
荒々しく呼吸をしながら横目でお互いの顔を見た。
傷だらけで泥だらけの相手の顔がおかしくて笑い出しそうになる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:53:49.00 ID:jgUG0irn0<> 剣士「はいはい、お疲れさん」パチパチ
剣士がゆっくりと拍手をしながら二人の顔を覗きこむ。
店主「まったく2人とも酷い有り様じゃな」フォッフォッ
店主は地べたに寝転がるボロボロの二人の勇者の姿がおかしくて笑っている。
騎士団長は途中で新兵達の集団抗議に合い渋々練兵場を去っていったのでこの場には既にいなかった。
剣士「こりゃあ今回の試合は引き分けだな」
勇者「な、親父の方が先に倒れたぞ!?」
大勇者「馬鹿言え!!お前の方が先だ!!」
勇者「大体親父は途中で木刀を杖代わりにしてたじゃねぇかよ!!」
大勇者「それはお前も同じだろう!!それこそお前の方が先だろうが!!」
ぎゃーきゃー!!
剣士の審判に納得がいかない二人は不満爆発とばかりに言い争いを始めた。
剣士「2人とも負けず嫌いだからな」ガハハッ
店主「まったく、ボロボロの身体でようやるわぃ」フフッ
剣士「とにかく!!審判の俺が引き分けって言ってんだ。この試合はドローだ、分かったか!?」
勇者「う……はぁい……」
大勇者「チッ……仕方あるまい……」
渋々とジャッジの結果を了承すると二人はどうにか身体を起こした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:55:54.95 ID:jgUG0irn0<> 店主「ときに大勇者よ、引き分けの時は聖剣はどうするつもりなんじゃ?」
剣士「ん? そういや勝ち負けついたときのことしか決めてなかったな」
勇者「……なんなら明日またもう一回闘うか?」ハンッ
勇者はそう言ったが息子の挑発なぞ全く気にもせず大勇者は静かに言った。
大勇者「…………いや、その必要はない」
勇者「?」
大勇者「今日闘ってみてお前の実力が聖剣を継ぐに相応しいものだと分かったからな、聖剣は少しの間お前に貸しておいてやる」
勇者「……親父」
大勇者「だが勘違いするなよ。あくまで『貸す』だけだからな」
大勇者「事が済んだら私に返してもらうぞ。私はまだまだ現役の99代目勇者なのだからな」フッ
勇者「……あぁ。分かった!!」
息子の返事を聞くと大勇者は遠くの山をぼんやりと眺めた。
太陽の沈みゆく山の端は赤々としており夕暮れの空はえも言われぬほど美しい。
その場にいる四人の影は長く長く伸びている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:58:26.27 ID:jgUG0irn0<> 夕日に目を細めながら大勇者が言う。
大勇者「……なぁ、勇者」
勇者「……?」
大勇者「もし……私が先代魔王と闘う前にお前の言う魔王と闘わずにこの世界を救う方法にたどり着いていたなら、迷わず私はそれを実行していただろう」
大勇者「だが私はその方法に気付くことすらできなかった…………何故だかわかるか?」
勇者「さぁ……」
大勇者「私にとって世界で一番大切なものはお前と母さんだったからだよ」
勇者「…………」
大勇者「家族が一番大事というのはアイツにとっても同じことだったろう」
大勇者「だから私達は『家族が暮らすこの世界を守りたい』と切に願った」
大勇者「その想いが強すぎて他の方法を探す執念というか熱意というか……そういうものがお前に比べて少しばかり足りなかったのかもな」
大勇者「お前が今の魔王のことを本気で、心から、何よりも、大切に思っているからこそ、その考えが閃いたのだろう」
大勇者「当時の私達にはできなかったことだ」
勇者「…………」
勇者は黙って父の言葉に耳を傾けていた。
オレンジ色の夕日に照された父の顔は深い陰影をつくりながらもどこか満足気であった。
大勇者「だから……お前はお前の信じるもののため、お前の大切なもののため、お前の望む世界のために突き進め」
大勇者「この私をクソ親父と言うのなら私にできなかったことをやってみせろ」ニッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 05:59:25.38 ID:jgUG0irn0<> 大勇者はそう言って軽く握った拳を勇者へと向けた。
勇者「…………親父、ありがとう。絶対……絶対俺やってみせるよ!!」ニッ
勇者も拳を握ると自身の拳を父の拳に軽くぶつけた。
コツン、という音もない音が勇者にとってこの上なく心地好かった。
皮肉や悲しみの込もっていない父の笑みを久し振りに見た気がした。
大勇者「さて……今朝局長が私を訪ねて来たときに『計算の結果が出たと勇者君に伝えてくれ』と言っていたぞ。行ってみるといい」
勇者「なぁ!?……ったく、そういうことはもっと早く言えよな!!」
大勇者の言葉を聞くと力を振り絞って勇者は立ち上がった。
大勇者「彼に会いに行くならせめてシャワーぐらい浴びて行けよ、そんな汚ない格好じゃ失礼だからな」
勇者「分かってるって」
父に返事をすると早足で、だがおぼつかない足取りで勇者は練兵場を去っていった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:01:24.58 ID:jgUG0irn0<> 剣士「…………」グスッ
剣士は目頭を押さえて必死に涙を堪えている。
大勇者「……で、なんでお前は泣いているんだ?気持ち悪いな……」
剣士「だってよぉ、良い話じゃあねぇか、普段いがみあってた親子が互いに認め合うなんてよぉ」クゥ…
大勇者「泣くほどのことでもあるまい……相変わらず涙脆い奴だ」ハァ
剣士「でもよ、さっきの話で気になってたんだけど『勇者にとって魔王が大切』ってなんのことだ……?」
大勇者「あぁ、どうやら息子と100代目魔王は友人なのだそうだ」
剣士「なぁ!?そ、それじゃあ……!!」
大勇者「心配するな、魔王と闘わなくて済むかもしれん方法を息子が見つけ出したところだ」
剣士「マ、マジかよ!?」
店主は優しく微笑みながら大勇者に言う。
店主「……お前さん、勝負の結果はどうあれ最初から聖剣を息子さんに託すつもりじゃったな?」フフッ
大勇者「なんのことやら……」シレッ
剣士「で、どうなんだ?その方法ってのは上手くいきそうなのか?」
大勇者「さぁな、局長の話を聞く限りでは幾つか不安要素と問題点もあるようだ」
剣士「そうか……そりゃそうだよな、そんな簡単にいくわけねぇよな」
目をこすって涙を拭うと剣士は大勇者に言った。
剣士「なぁ、大勇者。勇者のために俺達にできることってなんかねぇかな……?」
店主「"達"ってなんじゃ、酒場の店主をカウントに入れるな阿呆」
剣士の言葉を聞き大勇者はイタズラをする子供の様にニヤリと笑ってみせた。
大勇者「フッ、私がただ審判をさせるためだけにお前を呼んだと思うか?」ニッ
二人にはその顔が若き日の勇者と重なって懐かしく感じられた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:02:22.73 ID:jgUG0irn0<> ――――王都・魔法研究局局長邸
バァンッ!!
局長が本棚から研究書を取り出そうとしていたところで局長室の扉が盛大な音を立てて開いた。
その音にびっくりして思わず研究書を床に落としそうになる。
おそらく彼の私室の扉がここまで激しい音で開いたことはない。
勇者「局長さん!!」ハァハァ
局長「おっとっと……!!」フゥ
落としそうになった研究書をなんとか受け止めて局長は息をついた。
局長「やぁ、勇者君。朝にはお父さんに事情を伝えたハズだが随分遅かったね」フフッ
局長は爽やかに笑ってみせた。
その笑顔は武闘家のものと良く似ている。
勇者「すみません、色々あって遅くなっちゃって……」
局長「……? どうしたんだい、よく見たら顔に何ヵ所も痣があるじゃないか、手当てしないと……」
彼は救急箱を取りだそうとしたが彼の心配などお構い無しに彼に言う。
勇者「そんなことより!!計算の結果が出たってホントなんですか!?」
局長「あぁ、本当だ。」
局長「君が中々来ないものだから何回も計算を繰り返して精度をより確実なものにしたから予測結果に関しては信用してくれて構わない」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:03:05.56 ID:jgUG0irn0<> 勇者「……で、どうなんですか……?」ゴクッ
自分の仮説が正しいのか。
本当に魔王と闘うことなく世界を救うことができるのか。
それとも自分の希望はただのぬか喜びにすぎないのか。
はやる気持ちを押さえるように勇者はゆっくりと唾を飲み込んだ。
局長「そのことだが……」
話を切り出すと局長の顔に暗い影が差した。
いつものにこやかな彼の姿と相まってその影はとても暗いものに感じられた。
局長「残念だが君には悪い知らせも伝えなければならない……」
勇者「……?」
机の上の資料を手にとると局長は静かに計算の結果を語り始めた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:03:52.54 ID:jgUG0irn0<> ―――――――――
―――――
――
―
局長「…………と、言う訳だ」
勇者「………………」
局長の説明を聞き終えた勇者はしばらく口をきくことができなかった。
局長「正直な話、ありのままの事実を君に伝えることが心苦しくて仕方がない……」
勇者「……いえ、そんなこと気にしないで下さい」
局長も話をするのがつらかったのだろう。
その顔はやりきれないという想いでいっぱいだ。
勇者「後は……俺と魔王の問題です」
局長「…………結果を知っても……それでもやはり実行するのかい?」
勇者「……はい、多分魔王も分かってくれると思います」
勇者「俺達の手で世界を悲しみの連鎖から解き放てるならこれ以上幸せなことはありませんよ」フフッ
局長「…………そうか」
勇者の浮かべた静かな笑みは何かを悟っているように思われた。
局長は勇者に覚悟を問うのは無駄なことだと思いそうすることはやめた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:04:35.14 ID:jgUG0irn0<> 局長「やはり最後は君達頼みになってしまうね……」
勇者「なぁに、上手くやってみせますよ。きっと大丈夫ですって」
局長「…………」
勇者「じゃあ俺は武闘家達にこのことを伝えに行きますね」
部屋の扉に手をかけた勇者だったが何かを思い出して立ち止まる。
勇者「あ……でも……」
局長「分かっているよ、彼らには肝心の部分は伏せておくんだね。私も言わないようにする」
勇者「…………何から何までありがとうございます」
局長「いや、気にしないでくれ。世界を救う偉大な勇者の力になれるのならそれで構わないさ」
勇者「そうなれるように祈っていて下さい」フフッ
勇者「……じゃ、またいつか会いましょう」ニコッ
局長「あぁ、またね」
勇者は来たときとは対照的に至って静かに扉を閉めて局長室を後にした。
おそらく彼の私室の扉がここまで静かな音で閉じたことはない……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:05:46.50 ID:jgUG0irn0<> ――――王都・とある宿屋
魔法使い「お待たせー!」
大きな黒帽子を手で押さえながら魔法使いが勇者の宿泊する部屋へと入ってきた。
彼女が部屋の中を見回すと勇者、武闘家、僧侶が既にテーブルをとり囲んで座っていた。
勇者「遅ぇぞ、魔法使い」
魔法使い「ごめんごめん、ちょいと道に迷っちゃってね」ニャハハ
僧侶「なんだかみんなで集まるのは随分と久し振りな気がするね」フフッ
武闘家「そうですね、勇者が定刻通りに待ち合わせ場所にいるのがちょっと残念ですけどね」クスクス
勇者「ったく、一言余計だよ」
魔法使いは勢い良く席に座ると大きな瞳で勇者を覗きこんだ。
魔法使い「んでんで!!早速聞かせてよ、魔王と闘わずに世界を救う方法ってやつをさ!!」ガバッ
彼女はいてもたってもいられないとばかりに足をブラブラさせている。
帽子の中の猫耳は感度良好と言ったところだろうか。
前日勇者が会った時とは比べ物にならないほど顔色が良い。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:06:44.86 ID:jgUG0irn0<> 勇者は局長から計算の結果を聞いてから仲間達の元を訪ずれ、『魔王と闘わずに世界を救う方法を話すから自分の泊まっている宿屋に集合』と伝えて回った。
すぐにその場で話しても良かったのだがいちいち三人に話すのは面倒だったので集まってもらうことにした。
ちなみに僧侶に会いに行った時に大勇者との闘いの傷を癒してもらったので今の勇者ははかすり傷一つない健康体だ。
勇者「まぁ待てって、その前に1つ分かったことがあるんだ」
魔法使い「?」
武闘家「さっき僧侶さんから聞いたのですが黒の国の青の国への奇襲攻撃はやはり魔王さんの指示ではなかったようです」
魔法使い「おぉ!!でもなんで僧侶がそんなこと知ってるの?」
僧侶「今家に側近さんが来てて側近さんから直接聞いたの。奇襲攻撃は魔将軍の独断によるものだって」
魔法使い「へぇ〜……って、あれ?どうして側近さんが……??」
僧侶「えっと……そのことは後で詳しく話すね」アハハ
少し困ったように僧侶は笑って言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:07:49.75 ID:jgUG0irn0<> 武闘家が判明した事実について補足説明をする。
武闘家「このことは有益な事実です……何故なら和平の希望が潰えていないということですから」
魔法使い「!!……そっか、魔王が奇襲攻撃を指示したんじゃないってことはまた和平に向けて頑張れるってことだね!!」
勇者「そういうことだ」ニッ
魔法使い「おぉ〜!!なんか燃えてきたよ!!」
魔法使いはいよいよ上機嫌になってきた。
つい昨日まで塞ぎ込んでいたのが嘘のようだ。
魔法使い「勇者、もったいぶらずに早くその方法っての教えてよ!!」
勇者「あぁ、そのつもりだ。……だけどその前にみんなにお礼を言っておく」
勇者は机を囲む仲間達を改めて見て軽く頭を下げた。
勇者「俺がこの方法を閃くことができたのはみんながいたからだ。本当にありがとう」ペコッ
魔法使い「うんうん、どういたしまして♪」
武闘家「僕は身に覚えがありませんけどね」クスッ
僧侶「私も」アハハ
勇者「さて、んでその肝心の方法だけど……」
武闘家達に手の甲を見せるようにして右の手を広げると力強く握って力強い声で言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:08:55.98 ID:jgUG0irn0<> 勇者「神樹をぶっ壊してこの世界から神樹を消し去る!!」
魔法使い「……へ?」
僧侶「え?で、でも神樹を破壊しちゃったら世界は崩壊しちゃうんじゃ……」
自信に満ちた勇者の声とは対照的に魔法使いの声は間が抜けていた。
僧侶の声は不安気だった。
『神樹を破壊すると広範囲の土地が死滅する』と聞かされていたのだからその反応ももっともだろう。
呆気にとられる二人をよそに武闘家が静かに言う。
武闘家「…………つまり世界崩壊を起こさずに神樹の破壊をする方法を思いついた、と」
勇者「流石武闘家、その通りだ」
勇者「僧侶の家で風船について考えて思ったんだ」
勇者「風船ってのは空気が足りなくなるとしぼんじまうし、外からつついたら破裂しちまう……これって神樹によく似てるんじゃないかなってな」
武闘家「なるほど、面白い発想ですね……神樹の魔力が尽きたら神樹は寿命を迎える、外からの攻撃によって魔力吸収を起こしながら崩壊する……そう見立てたんですね」
勇者「あぁ、だから風船が空気の入れすぎで破裂するように神樹に限界以上の魔力を注いでやれば神樹自体の魔力の許容量をオーバーした時に神樹は崩壊するんじゃねぇかなって考えたんだ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:09:57.58 ID:jgUG0irn0<> 武闘家「外から攻撃して神樹の生命力を低下させる訳ではないから周囲への魔力吸収は起こらない……」
勇者「そうそう。僧侶の家でサボテンの話聞いて閃いたんだけど神樹も植物なことに変わりはないんだ、魔力っていう水をやりすぎれば根腐れして枯れるだろう」
勇者「しかも武闘家に聞いた話じゃ神樹は10本全部繋がってるらしい」
勇者「だから1本でも神樹を魔力の膨脹によって破壊させればその"穴"から他の神樹の魔力も漏れていって連鎖的に全部を破壊できるってワケだ」
ここで武闘家は勇者の説明を聞いていて感じた疑問を素直に質問した。
武闘家「魔力を直接送り込む神樹についてはそうでしょうが……他の神樹は果たして本当にすんなり破壊できるのでしょうか?」
勇者「それについては武闘家の親父さんこと魔法研究局局長さんに計算してもらった」
勇者「計算だと他の神樹が周囲から魔力の吸収をしようとするより早く神樹達の魔力が"穴"から抜け出て枯れちまうだろうってさ」
勇者「魔力吸収による被害が出る可能性も少しはあるけど金の国の時みたいな酷いことにはならないだろうってさ」
武闘家「なるほど、父が昨日から書斎に込もっていたのはその計算のためでしたか」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:11:03.98 ID:jgUG0irn0<> 勇者の話を聞いて魔法使いはすっかり希望を取り戻したようだ。
その眼にはかつての輝きが戻っている。
魔法使い「……すごい……すごいよ!!ホントになんとかなるかもしれないよ!!」
僧侶「でもなんだか話を聞くととっても簡単な方法じゃない……? それこそどうして今まで誰も気づかなかったんだろうってくらいに……」
武闘家「僧侶さんがそう思うのも無理はありませんね……ですが今まで多くの研究者達は神樹の寿命を伸ばすために魔力を供給する新しい方法を探し続けてきました」
武闘家「その念頭には『神樹の破壊は絶対不可能』という思いがあったからです。実際僕もそうですが研究者と言うものは一度絶対にこうだ、と思い込んでしまったものはなかなか拭いされないものなんですよ」
武闘家「ですから固定観念に囚われず柔軟な発想ができた勇者だからこそ思いつけた方法ですね」
勇者「まぁそのへんは魔法使いが馬鹿みたいなこと言ったおかげでもあるけどな」ハハッ
魔法使い「えへへ〜」
魔法使いは嬉しそうに笑ってみせた。
まるで勇者の考えは自分が一から考えたのだと言わんばかりに誇らしげだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:12:09.91 ID:jgUG0irn0<> そんな魔法使いをよそに武闘家は勇者に話の最も重要な部分を尋ねた。
武闘家「で、勇者。神樹に魔力の膨脹を起こさせるほど膨大な魔力をどうやって注ぎ込むつもりなんですか?」
勇者「そのことなんだけどな、局長さんの話によると一瞬で爆発的な魔力を注ぎ込まなきゃならないらしい」
武闘家「でしょうね……そうでなければ1本の神樹に注いでいた魔力が他の神樹へと拡散して1本だけを破壊するというのは難しいでしょう」
勇者「あぁ、だから神樹に魔力を注ぎ込むのは俺と魔王がやる」
僧侶「勇者君と魔王ちゃんが……?」
勇者「あぁ、聖剣と契約した勇者と魔剣と契約した魔王の全力全開ありったけの魔力をブチ込んでやる」
勇者「勇者か魔王どっちかが死んだ時に発生する魔力だけで神樹全部の生命力を健康体まで回復させられるんだ、俺と魔王が全力で魔力を1本の神樹に注ぎ込めば破壊なんて訳ないさ!!」
魔法使い「なるほどね!確かにそれならいけそうだねも!!」
僧侶「うん、私も勇者君と魔王ちゃんが力を合わせたらきっとできる気がするよ」
武闘家「………………」
明るくそう言う魔法使いと僧侶をよそに武闘家の顔は曇っていた。
何かを考えているようだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:13:40.16 ID:jgUG0irn0<> 勇者「つーワケで明日の夜、魔王の城に行って魔王に事情を話して説得しようと思うんだ」
魔法使い「勇者の話を聞いたらきっと魔王も分かってくれるって☆」
勇者「んでお前らには陽動をやって欲しいんだよな」
僧侶「陽動?」
勇者「あぁ、側近さんの話を聞くと魔王の城の守りについてるのは魔将軍直属の部下達らしい」
勇者「数はそう多くないみたいだけど精鋭揃いだ、しかも……」
僧侶「肉体強化で狂戦士化している可能性がある……」
勇者「あぁ」
側近の話によると狂戦士化の術は既に完成しているらしい。
魔将軍がその術で私兵を強化していないとは考えられなかった。
魔法使い「狂戦士……?」
勇者「詳しいことは後で僧侶に聞いてくれ。とにかくいくら俺でも1人じゃそうすんなりとは魔王には会えないだろうってことだ」
武闘家「そのための陽動を僕達に頼みたい……と」
勇者「そういうこと。具体的には魔王の城に一番近い砦で思いっきり暴れてくれればいい」
勇者「敵襲ってことで城の兵達が砦に向かって守りが手薄になったところで俺が魔王に会って説得してくる……これで行こうと思う」
魔法使い「暴れるだけなら任せといて、派手にやっちゃうよ」ニャハハ
僧侶「私には回復ぐらいしかできないけどそれでも頑張るね!!」
武闘家「…………分かりました。引き受けましょう」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:14:58.74 ID:jgUG0irn0<> 勇者と魔王が闘うという悲劇的な未来を変えることができるかもしれない。
しかも作戦が上手くいけば魔王と夢見た戦争のない世界を本当に作り出せるかもしれない。
希望と期待に仲間達は胸を膨らませていた。
…………ただ一人、武闘家を除いて。
勇者の説明が終わったので武闘家は軽く手を鳴らして言った。
武闘家「では今日はこれで解散にしましょうか。明日に備えて各自今日はゆっくり体を休めましょう」
魔法使い「りょーかい!」
僧侶「うん、分かった」
魔法使いと僧侶は椅子から立ち上がり帰り支度をしていたが武闘家は一向に帰宅する素振りを見せない。
不思議に思った魔法使いが彼に尋ねる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:16:26.44 ID:jgUG0irn0<> 魔法使い「……あれ?武闘家は帰らないの?」
武闘家「僕は勇者と明日のことについてきちんと段取りを考えておくとしますよ、いくらなんでも大雑把な説明だけでしたからね」ハハッ
僧侶「そっか……なら私も……」
武闘家「いえ、すぐ済みますし明日改めてお2人には話しますから僕だけで十分ですよ」フフッ
僧侶「そ、そう……?」
武闘家「えぇ。ではまた明日会いましょう」ニコッ
いつものように爽やかに笑って武闘家は二人に別れを告げた。
魔法使い「おやすみ〜☆」
僧侶「おやすみ、勇者君、武闘家君」
勇者「おう、おやすみ〜」
別れの挨拶をしてから二人は去っていった。
扉が閉まってしばらくしてから武闘家は話を切り出した。
その眼はいつになく真剣だ。
武闘家「さて…………勇者、僕が1人でここに残ったのは明日の段取りの確認をするためだけではありません」
勇者「ん?」
武闘家の顔からは先ほどまでの笑顔がすっかり消えている。
勇者の瞳を真っ直ぐに見つめると低い声で言った。
武闘家「神樹を膨張させ破壊させるほどの魔力の注入…………果たして本当に勇者と魔王さんは無事で済むのですか?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:17:46.68 ID:jgUG0irn0<> 武闘家にそう問われ勇者は椅子に腰かけたままゆっくりと背伸びをした。
そのまま小さく息を吐くと悲しそうに笑って武闘家を見た。
勇者「……やっぱり、お前にはバレちまったか……」ハハッ
武闘家「やはりそうでしたか……」
武闘家も悲しそうに返す。
勇者「もしかして局長さんに何か聞いてたのか?」
武闘家「いえ、父には何も」
勇者「よく分かったな……上手くごまかしたつもりだったんだけどな」
ポリポリと頭を掻きながら勇者は困ったように言う。
武闘家「僕も自分で神樹について調べていましたからね。人間が死ぬときの魔力は人間が一生のうちに使える量の何倍にもなると知っています」
武闘家「勇者と魔王……魔力増幅装置の力を得た彼らが"死んだ時"に発生する魔力だからこそ神樹達の生命力を回復させることができるのです」
武闘家「生きたままの彼らの魔力を全て注ぎ込んだとしても全ての神樹の生命力を回復させることは到底不可能ですからね」
武闘家「勇者の話を聞いた時にここだけがどうにも疑問でした」
勇者「…………流石だな」
武闘家「それに……」
勇者「?」
武闘家は勇者を見ると優しい笑顔で言った。
武闘家「勇者の嘘はすぐ分かりますよ、何年の付き合いだと思ってるんですか」
武闘家「付き合いの長さでは魔王さんには及びませんが勇者と一緒にいた時間は僕の方が長いですからね」フフッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:19:43.36 ID:jgUG0irn0<> 勇者「そういやそうだなぁ……お前が俺のことなんでも知ってるように俺もお前のことなんでも知ってるもんなぁ……」
武闘家「おや?勇者が知らない僕のことなんていくらでもありますよ?」
勇者「ふーん……例えば?」
武闘家「そうですねぇ…………」
武闘家はやや考えるとなんてことない声色でしれっと言った。
武闘家「僕と魔法使いさんが2年前から付き合っているとか」
勇者「ブフォアッ!!」
全く予想もしていなかった台詞が飛び出してきたものだから勇者は驚愕のあまり吹き出した。
武闘家「どうです?知らなかったでしょう?」
勇者「は!?えぇ!?魔法使いとお前が!?え、だってそんな……ぇえ!?」
武闘家「彼女の自由奔放なところが一緒にいて楽しくてですね、僕から告白しました」
武闘家「とは言え勇者達に知られるのは照れくさかったのでずっと内緒にしてましたが」
勇者「そ、そんな……ぶ、武闘家とあの魔法使いが……」
武闘家「…………フフッ」
と、そこで武闘家は肩を揺らして笑いだした。
勇者「?」
武闘家「フフフッ、冗談ですよ、冗談。何本気にしてるんですか」クスクス
武闘家「まったく、ちょっと考えればすぐ嘘だと分かるじゃないですか。面白いな〜」クスクス
勇者「な……なんだよ、嘘かよ……」
勇者は疲れて肩をガックリと落とした。
勇者「……ったく、かなわねぇな。お前には昔からからかわれてばっかりだ」ハハッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:21:02.50 ID:jgUG0irn0<> 勇者は苦笑すると椅子の背もたれに身体を預けた。
そのまま頭を後ろに倒し天井を見つめた。
魔力灯の明かりに眼を細めながら天井の木目をぼんやりと眺める。
勇者「……いつからの付き合いだっけ、俺ら」
武闘家「僕らが9歳の時ですから8年くらいでしょうかね、大勇者様に連れられて勇者が家に遊びに来たのが僕達の出会いですよ」
勇者「あ〜、思い出したよ。そういやお前の部屋にあった漫画が面白くて借りてったんだっけ」
武闘家「ちなみにその時の漫画はまだ返してもらってません」
勇者「えぇ!?嘘ぉ!?」ガバッ
武闘家の言葉が信じられなかったのか勇者は突然身を起こした。
武闘家「ホントもホントです。いつ返してくれるのかとずっと待っていたんですがね」
勇者「あちゃ〜、言ってくれれば良かったのに……悪かったな、じゃあ今度返すわ」
武闘家「8年分の利子は大きいですよ」
勇者「お前に借りをつくると怖いな」ハハッ
武闘家「勇者への貸しなんて両手両足の指を使っても数え切れないのでとっくの昔に数えるのを止めましたよ」フフッ
二人はお互いを見つめ合い無邪気に笑いあった。
学校に入る前から、学生時代から、卒業してから……こうしていつも二人で下らないことで笑いあっていた気がする。
『親友』というものはなんとことない冗談で笑いあうことのできるこういう関係を言うのかもしれない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:22:14.89 ID:jgUG0irn0<> 武闘家「…………で、どうなんですか?本当のところは」
ひとしきり笑った後、武闘家が本題に入った。
勇者は何も隠し立てすることなく事実を彼に打ち明けた。
勇者「あぁ…………局長さんの計算によると俺と魔王の全魔力を注ぎ込めば9割方は成功するだろうってさ」
勇者「でも正直ギリギリらしい。悪くすれば俺達は死ぬし、生き残っても廃人になるか身体のいくつかの機能が停止するかもしれない……良くて一生魔法が使えない身体になるらしい」
武闘家「そうですか…………」
悲し気な武闘家をよそに勇者は普段と変わらぬ明るい声で言った。
勇者「でもな、俺はそれでもいいと思ってる」
勇者「俺のこの命で世界を悲しみの渦から解き放てるなら……それで満足さ」
勇者「魔王もきっと同じことを言ってくれると思うんだ」
武闘家「……フフッ、なんとも勇者らしいですね」
そんな勇者を見て武闘家は笑みをもらした。
勇者「なぁ武闘家、僧侶達にはこのこと……」
武闘家「分かってますよ、僕達には伏せておきたいと思ったから話さなかったのでしょう?」
武闘家「なら僕は勇者の意志を尊重するだけです」
勇者「ありがとな、武闘家」
武闘家「いいえ、勇者のわがままに振り回されるのは慣れてますから」フフッ
勇者「お前がダチで良かったよ」ハハッ
武闘家「……さてと、じゃあそろそろ明日の段取りを決めるとしましょうか。まずは魔王さんに会って彼女を説得しないことにはお話になりませんからね」ニコッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:24:02.37 ID:jgUG0irn0<> ――――黒の国・魔王の城・地下研究室
勇者と武闘家が明日の作戦の段取りについて話し合っている頃、黒騎士は魔将軍に秘密の地下研究室へと招かれていた。
黒騎士「驚きましたな……まさか城の地下にこのような部屋があったとは……」
魔将軍「姫君にすらここのことは伏せてあるからな」
黒騎士「ま、魔王様にもですか? 魔将軍殿はここで一体何を……」
魔将軍「なに、すぐに分かる」
魔将軍が壁のボタンを押すと歯車の動く不快な音が聞こえ奥の部屋へと続く隠し扉が開いた。
魔将軍「ついてこい」
黒騎士「は、はぁ……」
魔将軍に続き異臭のする薄暗い小部屋へと黒騎士は足を踏み入れた。
黒騎士「な、これは……!?」
小部屋に入った目の前の光景に黒騎士は言葉を失った。
今にもはち切れそうな筋肉の鎧を身に纏い、身体中から血管の浮き出た何人もの魔族達が鎖につながれていたからである。
不気味な赤い眼は鋭い眼光を放ち、血に飢えた野獣を彷彿とさせた。
「フゥー!!フゥー!!」
「クカカ……クク……!!」
「グルルルル……!!」
言葉とは言い難い唸り声がいくつも発せられる。
まるで動物園の檻の中にでもいる気分だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:25:15.37 ID:jgUG0irn0<> 魔将軍「私の直属の部下達だ」
魔将軍が事もなげに説明した。
黒騎士「ぶ、部下……ですか!?彼らは一体……」
魔将軍「肉体を限界以上に強化する実験の成功体が彼らだ。理性と自我が飛んでしまっているが心配することはない、私の命令には絶対服従するようになっている」
黒騎士「…………」ゴクッ
目の前の魔族とも魔物とも言い難い生物達のおぞましさに黒騎士は息を呑んだ。
黒騎士「魔将軍殿はずっとここでこの研究を……?」
魔将軍「まぁそんなところだ。無論これだけの研究をしていた訳ではないがな……」フッ
他にどんな研究が?
そう聞きたかった黒騎士だがその前にどうしても聞いておきたいことがあった。
もしもの事態にそなえて右手を軽く下げた。
この位置からなら一秒かからずに抜刀できる。
黒騎士「ま、魔将軍殿?」
魔将軍「なんだ?」
黒騎士「魔王様にも隠している極秘の研究……どうして私にこうして見せているのでしょうか……?」
魔将軍「……ふむ、思った通りだな」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:26:17.49 ID:jgUG0irn0<> 魔将軍は冷徹な笑みを浮かべて言った。
魔将軍「やはり貴様は勘が良い」ニヤリ
黒騎士「くっ!!」バッ
後方へ飛び退きながら抜刀する。
剣を構えつつ魔将軍に注意を払った。
黒騎士「やはり私も彼らのようにするおつもりなのですね!?」
魔将軍「あぁ、そうだ。だが貴様には彼らを率いる役目についてもらうつもりだ、光栄に思え」
黒騎士「下らない!!私も武人の端くれ、肉体の鍛練も無しに手にした力になど何の魅力も感じはしません!!まして精神を代償にするなどもっての他!!」
魔将軍「そうか……できれば素直に私に付き従って欲しかったが残念だよ」スッ
魔将軍は腰に差していた広刃の大剣を抜いた。
黒騎士「?」
見たこともない剣だった。
魔将軍が今まで使っていた剣ではない。
血の様な赤い刀身にはところどころグロテスクな目玉模様がついている。
いや、模様ではない。
ギョロギョロと気味悪く動く様はどうやら本物の眼のようだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:27:23.76 ID:jgUG0irn0<> 魔将軍『裏魔法陣・亜音』
カアアアァァァッ!!
黒騎士「なっ!?」
黒々とした光が魔将軍の身体を包みこんだ。
次の瞬間、黒騎士の視界から魔将軍が消えたかと思うと自身の腹からは気味の悪い眼球を動かす赤い刀身の剣が"生えていた"。
黒騎士「がっ……!?」ガフッ
ブシャアァァ!!
溢れ出す血とともに急激に意識が遠退いていく。
自身の血でできた血だまりに黒騎士は倒れこんだ。
魔将軍「…………」ヒュッ!!
ピシャッ!!
彼の背後で魔将軍が無表情で剣を振って刀身についた血を払った。
魔将軍「さて……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:28:50.45 ID:jgUG0irn0<> カアアアァァァ!!
黒騎士の遺体を紫色の妖しげな魔法陣の光が包んでいく。
魔将軍『裏魔法陣・狂魔転生』
ゴゴゴゴゴゴ……!!!!
魔法陣から発生した赤黒いもやのようなものが黒騎士の身体へと入り込んでいく。
黒騎士「」ドクンッ!!
止まっていた筈の黒騎士の心臓が再び動き出す。
黒騎士「」ドクンッドクンッ!!
メキメキ……!!
メリメリ……!!
筋肉が盛り上がり血管が浮き出てくる。
黒騎士「コフー……!!コフー……!!」ギンッ!!
黒騎士……いや、黒騎士だった"何か"の瞳は赤く輝き小部屋にいる生物達と同じ野獣と化した。
魔将軍「こんなところか」キンッ
魔将軍は剣を鞘に納めると小部屋の奥の何もない暗闇を見て呟いた。
魔将軍「……ようやく下準備は整った。後は時が来るのを待つのみ……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 06:30:11.74 ID:jgUG0irn0<> ――――翌日・白の国・王都・路地裏の酒場
夜が更けていた。
今宵は新月。
月明かりは無く、空には星達が瞬いているのみである。
老いぼれ店主の経営する寂れた酒場には一組の親子の姿があった。
大勇者と勇者である。
店主は例によって気を効かせて奥の部屋へ行っている。
勇者「…………」ゴクッ
勇者はひどく緊張していた。
目の前にいる父の手には聖剣が握られているからだ。
大勇者「何をそんなに固くなっている」フッ
勇者「いや、なんかいざ聖剣と契約するってなったらなんかさ……」
大勇者「そう身構えることはない、ただ聖剣を鞘から抜けばそれで契約完了だ」スッ
勇者「わ、わかった……」チャッ
大勇者から聖剣を受け取ると勇者は柄を静かに握った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 06:31:08.36 ID:jgUG0irn0<> 勇者「…………」
眼を閉じて心を落ち着けようとする。
勇者「…………せやぁ!!」カッ
眼を見開くと一気に聖剣を抜き放ってみせた。
カアアァァァ!!!!
勇者「なんだ!?」
聖剣を鞘から引き抜くと勇者の足元には白く輝く魔法陣が形成された。
白く輝く眩しい光が勇者を包む。
『聖剣と契約を交わす者よ……』キイィン
勇者「!?」
脳に直接響く重々しい声。
『今こそ汝に全ての真実を……!!』キイィン
ドドドドドドドドドドドド!!!!
勇者「ぐっ……く……がぁああ!!!!」
脳に聖剣に刻まれた膨大な量の記憶が刻まれていく。
極限まで引き延ばされた一瞬は勇者の時間を停止させた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 06:32:24.86 ID:jgUG0irn0<> ――――――――
さっき聞こえた重々しい声とは別の若い青年の声が勇者に語りかけてきた。
『君が100代目勇者か……はじめまして、だね』
『……誰だ?』
『僕は最初の……つまり初代勇者さ。生前に意識の一部を聖剣に移したことで、こうして聖剣と新しく契約を交わした勇者に戦争の真実と世界の全てを語る役割をしているんだ』
『へぇ……』
『君の記憶を少しだけ覗かせてもらったよ。どうやら99代目の勇者から世界の真実については既に聞いているようだね』
『あぁ、だからアンタは特に話さなくてもいいぜ』
『ハハッ、仕事がなくなってしまったよ。だいたい20年ぶりの仕事だから少し張り切っていたんだけどね』フフッ
『なんだそれ』ハハッ
『記憶を覗かせてもらうついでに君のやろうとしていることも知ったよ』
『そっか』
『もし君の願いが実現できたなら世界は神樹の支配から逃れることができる……これは何百年もの間、成しえることのなかった人間の悲願が遂に達成されるということだ』
『なんか大袈裟だな……』
『いや、決して大袈裟などではないさ。僕が生きていた頃のように世界中の人間達が争い合うことのない平和な世界がまたやってくるかもしれないのだからね……』
『…………』
『頑張って、100代目勇者。意識しかない僕も聖剣の中で応援しているよ』
『……あぁ、ありがとう。必ずやってやるさ!!』
『フフ……何百年もの間、こんなに希望に満ち溢れた勇者に出会ったことはないよ……君は誰よりも『勇者』なのかも知れないね…………』
次第に青年の声は小さくなっていき、遂には完全に聞こえなくなった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:33:48.40 ID:jgUG0irn0<> 続いて数多の思い出が勇者の頭の中に入ってくる。
それが過去の勇者達の記憶なのだと理解するのにそう時間はかからなかった。
ある勇者は魔王との決戦を前に二人で酒を飲み交わしていた。
お互いの不幸な運命を酒の肴にして苦笑しながら杯を進めていたようだ。
また別の勇者は仲間達と共に魔王に挑んでいた。
仲間達と力を合わせて魔王を倒すために剣を振るう勇者達の姿は昔話でよく聞く『悪の魔王を倒すために闘う勇者とその仲間達』の姿そのものであった。
また別の勇者は聖剣の力に耐えられず、反動で身体が衰弱していながらも魔王に挑んでいた。
敵である魔王からもその身体について心配されていたようだが『死ぬ最後の瞬間まで勇者でありたい』と血を吐きながら魔王と闘っていた。
そんな風に各代の勇者の記憶が一人ずつ勇者に刻まれていった。
最後に勇者が見た勇者の思い出は若き日の父の姿だ。
先代魔王と思われる人物の心臓を聖剣で突き貫いた父の顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
先代魔王も涙を流しながら息絶えていたがその顔はどこか安らかでもあった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:35:03.33 ID:jgUG0irn0<> ――――――――
勇者「くっ……がはっ……つぅ……」ハァハァ
勇者の意識が現実に戻ってきた。
とてつもない量の情報を一瞬で脳内に刻まれたせいで頭が割れそうに痛い。
勇者「うぅ……頭痛ぇ……」ズキズキ
大勇者「ハハッ、そう言えば私も同じ思いをしたよ、懐かしいな」
頭を押さえる息子を大勇者は笑いながら見ていた。
大勇者「さて、これで契約完了だ」
勇者「……すごいな、力を込めてもいないのに身体の奥から魔力が溢れてくるみたいだ……」
勇者は意味もなく手を開いたり閉じたりしてみた。
生まれ変わって自分が自分でなくなったかの様な不思議な感覚だ。
それほど今の自分の身体は力に満ちていた。
大勇者「分かっていると思うがその力はお前の生命力を削って手にしているものだ、聖剣と長く契約していればそれだけ寿命が削られて肉体は朽ちていく」
大勇者「……もし私の身体に神樹に魔力を注ぐのに耐えられるだけの体力が残っていたなら、その役目はお前にやらせずに私がやっていたのだが……」
大勇者は悔しそうに拳を握った。
勇者「いいってそんなの。俺が考えた方法だ、俺が自分でやらなくてどうすんだよ」
大勇者「……そうか」
勇者「……よし、聖剣との契約も済んだし俺ももう行くな」
聖剣を背負い酒場から出ようと出口へと一歩踏み出した勇者を大勇者は引き留めた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:37:15.86 ID:jgUG0irn0<> 大勇者「…………待ってくれ、勇者」
勇者「?」
大勇者「私はお前に一つ謝らなければならないことがあるんだ」
大勇者は神妙な面持ちで、顔一面に罪悪感をあらわにして今まで隠していた事実を打ち明けた。
大勇者「お前の母さんが魔族に殺されたと言うのは……実は嘘なのだ」
大勇者「お前が魔族を憎みやすくするためにそんな嘘をついていた……すまなかった」
勇者「…………」
勇者は父の告白を聞いて少しの間何もしゃべらなかったが、やがて口を開くと怒りも悲しみも込もってはいない、至って普通の声で言った。
勇者「…………知ってた。流行り病だったんだろ?」
大勇者「なっ……」
大勇者は驚き目を丸くした。
今までずっと勇者には秘密にしてきたというのに何故彼は本当のことを知っていると言うのだろうか?
勇者「母さんが入院してた病院さ、医者にも看護師にも入院してた人達にも口止めしてたみたいだけど……母さんが入院した日に退院してった同じ病室の人は流石に盲点だったみたいだな」
勇者「何年か前にたまたまその人に会ってさ、『お母さん元気になったかしら?』なんて聞かれたもんだからその時に全部知ったよ」
勇者「病気で死んだ母さんを魔族に殺されたことにしてまで親父は俺に魔族を憎ませたいのかとずっと思ってたけど……ホントのこと知って親父の気持ちも分かったら今はそんなこと気にしてないよ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:38:28.64 ID:jgUG0irn0<> 大勇者「……すまなかったな、勇者」
大勇者は改めて息子に頭を下げた。
深い謝罪の念が見てとれた。
勇者「謝んなくていいって。ただ……そのさ、母さんってどんな人だった?」
大勇者「そうだな……一緒に居るだけで不思議と周りの人々を笑顔にさせてくれるような……そんな女性だったよ」
勇者「へぇ……」
大勇者「母さんとの出会いは青の国でな、先代魔王との闘いで気を失い河に流されていた私を母さんが助けてくれたんだ」
勇者「ほ〜、そん時は流石の親父も99代目の魔王に負けたのか」
大勇者「馬鹿言え、あれもドローだ」フンッ
勇者「ハハッ、そりゃ失礼。それでそれで?」
大勇者「それでその……母さんが私を看護してくれてな、その姿に私は一目惚れしてしまったのだよ」
勇者「ブハッ!!いい歳したオッサンが何が一目惚れだよ」ケタケタ
大勇者「えぇい、うるさいな、話している私だって恥ずかしいのだ」ムカッ
それからしばらく親子は時間も忘れて談笑していた。
思えば父と子で笑いながら話し合ったことなど今まで長いことなかった。
長らく感じることのなかった『家族』というものの温かさと結びつきを、ほんの束の間ではあるが二人は心地よく感じていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:39:21.83 ID:jgUG0irn0<> 大勇者「……ところでお前、行かなくていいのか?」
大勇者が時計を見て言った。
勇者が先ほど酒場を出ていこうとしてからもう随分経っている。
勇者「んなっ!!やっべぇ!!完全に遅刻じゃねぇかよ!!」
勇者「……ったく親父の話が長いから……」ブツクサ
大勇者「お前だってすっかり聞き入っていただろうが」
勇者「…………」
扉の前で立ち止まると勇者は振り返り、父の顔を見て笑って言った。
勇者「んじゃ、行ってくるぜ、クソ親父」ニッ
大勇者「あぁ、行ってこい、馬鹿息子」ニッ
大勇者に見送られ勇者は酒場を後にした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:40:46.58 ID:jgUG0irn0<> 勇者が酒場を発って少ししてから、様子をうかがうように店主が奥の部屋から出てきた。
店主「行ったようじゃな」
大勇者「あぁ」
大勇者はグラスに入ったいつもの酒で喉を潤す。
店主「……気になる情報が入っていてな」
店主の瞳は穏やかな老人の優しい瞳ではなく尖った刃物の様に鋭かった。
大勇者「なんだ?」
店主「魔将軍が何やら不穏な動きをしているようじゃな」
大勇者「やはりか……」
大勇者「アイツが死んでからというもの魔将軍は何かを企んでいるようだったからな」
大勇者「100代目魔王が勇者と闘おうとするこの機に乗じて何か仕掛けてくるだろうとは思っていたさ」
店主「……どうするつもりじゃ?」
そう尋ねる店主に大勇者は笑って返した。
大勇者「私の考えていることなど分かってるのだろう?」フッ
店主「フォッフォッ、そうじゃな、顔を見れば分かるわい」フフッ
グラスに入っていた酒を一気に飲みほすと椅子から立ち上がり低い声で大勇者は店主に言った。
大勇者「宿屋にいる剣士を呼んでこい。準備が整い次第、私達も行くぞ、"爺さん"」
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 06:42:10.94 ID:jgUG0irn0<> ――――王都・白の神樹前広場
酒場を出た勇者が待ち合わせの場所へと駆けていくと既に仲間達が一堂に会していた。
魔法使いがいち早く勇者に気付き声をかけた。
魔法使い「おっそいよ勇者〜、待ちくたびれたよ〜。まったく遅刻ジョーシューハンには呆れるよ」
勇者「うるせぇ、お前だって昨日遅刻してきただろうが」
魔法使い「あたしは2、3分でしょ。勇者は15分だもん罪の重さが違うってもんだよ」
勇者「はいはい……と、側近さん、身体は大丈夫か?」
勇者は仲間達と共にいる側近に身体の調子を尋ねた。
魔王の城近くの砦まで転移魔法で跳ぶため、今回の作戦には側近の協力が必要不可欠だった。
側近「えぇ、まだ本調子ではありませんがそれでも十分体力は回復しました。これも僧侶さんのお加減です」
僧侶「いえいえ、私はそんな……」
勇者「とにかく今日はよろしく頼むな」スッ
勇者は側近へと向き直ると右手を差し伸べた。
側近「こちらこそ」スッ
それに応えて側近も手を差し伸べ、か細い指で勇者の手を握った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 06:43:04.34 ID:jgUG0irn0<> 武闘家「その背に背負っているのが聖剣ですね」
勇者「あぁ」
勇者が背負う鮮やかな装飾の施された剣を見て武闘家が言う。
美しい白銀の鞘は思わず見入ってしまうほどに美しかった。
魔法使い「お〜、あたしこんな近くで見るの初めてだよ!」
僧侶「私も初めて……」
魔法使い「ねぇねぇ、抜いてみせてよ!」
勇者「別に今見なくたっていいだろ、後でいくらでも見れるんだからさ……」
魔法使い「え〜、ケチぃ」
勇者「……ったく、わかったよ、ほら」
面倒臭そうに勇者は背中の聖剣をゆっくりと抜いた。
スラァ……
曇り一つすらないその刀身は星明かりしかない闇夜の中でさえ輝いて見えた。
刀身を走る蒼の紋様のえも言われぬ美しさは、もはや武器の細工ではなく一級の芸術品だ。
魔法使い「お〜〜!!」
僧侶「綺麗……」
勇者「もういいだろ」
ヒュンッ
キィン!!
満足した魔法使いを見て勇者が聖剣を鞘に戻すと武闘家が話始めた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:45:03.75 ID:jgUG0irn0<> 武闘家「では皆さんそろったところで今日の作戦の説明と行きましょうか」
武闘家「まず側近さんの転移魔法で魔王の城に最も近い『魔巌の砦』へと転移します」
魔王の城を取り囲む三つの巨大な砦の中で南の平原にそびえ立つのが魔巌の砦である。
城からの距離が比較的短いことと、地形の関係上、城から増援を送りやすいことからこの砦を攻めることになった。
武闘家「そこで砦に奇襲攻撃を仕掛けてできるだけ騒ぎを大きくします」
武闘家「騒ぎの知らせが城へと届けば、砦の防衛のために城の兵達が魔巌の砦へと向かってくる筈です」
武闘家「城の兵がゼロになるとは思えませんし、兵士達は警戒して城の守りを固めようとするかもしれませんが、それでも騒ぎを起こす前よりは兵力が確実に減っているでしょう」
武闘家「砦への奇襲攻撃を開始して十分時間が経ったら勇者は魔王さんが残していった魔法具を使い城へと向かって下さい」
勇者「わかった」
武闘家「僕と魔法使いさん、僧侶さん、側近さんはその間砦で兵士達と戦って勇者が魔王さんに会って説得する時間を稼ぎます」
武闘家「勇者が魔王さんの説得に成功したら恐らく兵が退くでしょう。僕らの役目は時間稼ぎであるということを忘れずに」
魔法使い「おっけー!」
僧侶「傷の手当ては任せてね」
側近「皆さんに遅れをとらぬよう私も全力を尽くします」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:46:01.13 ID:jgUG0irn0<> 武闘家の説明が終わったところで側近が少し悲しそうな顔で勇者に話しかけた。
側近「……勇者さん」
勇者「ん?」
側近「本当は私も魔王様の元へ向かいお会いしたいのでのですが……おそらく私が行っても何の役にも立てないでしょう」
側近「世界に絶望し冷えきってしまわれた魔王様の心を溶かすことができるのは勇者さんだけです」
側近「魔王様のこと、よろしくお願いいたします」
勇者「……あぁ、任せろ」ニッ
勇者は力強く微笑んでみせた。
自身の無力を悔やむ側近を励ますとともに自分自身を鼓舞するためだ。
勇者「……じゃ、行くぜ!!」
魔法使い「いつでもいいよっ!」
僧侶「私も!」
武闘家「では、側近さん」
側近「はい、参ります!!」
カアアアァァァッ!!!!
青白い転移魔法の光が彼らを黒の国へと誘った。
彼らがその場から消えた後、一陣の冷たい風が吹いた。
その夜の風に吹かれて白の神樹は静かに枝葉を揺らしていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:47:10.66 ID:jgUG0irn0<> ――――黒の国・魔王の城・王の間
ギイイィィ……
魔王の城、王の間の扉が重々しく開いた。
カッカッカッカッ
続いて規則的な足音が聞こえてくる。
薄暗い王の間、その玉座に深々と座る魔王の前へと魔将軍が跪く。
魔王「……何用だ?」
魔将軍「ハッ、只今魔巌の砦から連絡が入りました。恐ろしく強い少数の人間達の奇襲にあっている……と」
報告の内容を聞いた瞬間、魔王は全てを悟った。
魔王「…………ようやく来たか、待ちわびたぞ」
魔将軍「やはり100代目勇者とその仲間達でしょうかな」
魔王「まず間違いあるまい」
魔王は重々しい声で魔将軍に指示を出す。
魔王「魔将軍よ、貴様は城に残る貴様の私兵を全て率いて魔巌の砦へ向かえ」
魔将軍「全て……ですかな?」
魔将軍「しかしそうなっては城の守りが……」
魔王「構わん。この城は私と100代目勇者との決戦の場だ。誰一人巻き込みたくはないし何人たりとも邪魔はさせん」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:48:07.04 ID:jgUG0irn0<> 魔将軍「…………ハッ、それが魔王様のお望みとあらば」
深く一礼すると魔将軍はやって来たときと同じ様に規則的な足音を立てて王の間を後にした。
ギイイィィ……
バタン……
扉の閉まる音が聞こえてからしばらく経った。
魔王(………………)
魔王は目を閉じて静かに呼吸している。
今彼女が何を考え、何を想っているのかなど彼女にしかわからない。
やがて魔王はおもむろに立ち上がると玉座に立て掛けてあった魔剣を腰に差した。
そう重くなどないはずの魔剣のズシリとした重みが彼女の腰に伝わる。
軽く鎧のチェックをしてから彼女は歩き出した。
勇者との決戦の場――――かつて父と大勇者が死闘を繰り広げたという大広間へと向かうために。
決意に満ちた彼女の眼差しには魔族の王だけが持つ威厳と何者にも揺るがされない強固な意志とが深く刻まれていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:49:25.19 ID:jgUG0irn0<> ――――黒の国・魔巌の砦
ドカァン!!
ボゴォン!!
魔巌の砦はあちこちから火柱と爆音を立てて絶え間なく揺れ続けている。
勇者達による奇襲攻撃によって砦を守っていた魔族達はあらかた片付いていた。
魔法使い・側近『三重風撃魔法陣・暴』!!!!
ビュォワアアァァァッ!!
ズバズバズババババ!!
「ぎゃあっ!!」
「ぐげぇっ!!」
「うがぁっ!!」
魔法使いと側近の放った多重最上級風撃魔法陣はさながら竜巻の様に砦の外を守る多くの黒の兵士達を巻き込んだ。
真空の刃によって全身を切り裂かれた彼らは息はあるものの戦闘続行は不可能だろう。
側近「ごめんなさいね、貴方達……しかしこれも魔王様のため、許して下さい」
魔法使い「ひゅ〜、側近さんやるねぇ♪」
側近「魔法使いさんこそ。私は黒薔薇学園の魔法課を首席で卒業した身ですがその私と比べてもなんら遜色ない腕前とは」
魔法使い「まーねっ、でもあたしの本気はまだまだこんなもんじゃないよ」ニャハハ
側近「ふふっ、そうですか。それは頼もしいですね」クスッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:50:37.01 ID:jgUG0irn0<> 魔法使いの言葉を側近が微笑ましく思っていると勇者と武闘家、それに僧侶が砦の中から転移魔法で帰ってきた。
ヒュンッ!!
スタタタッ
勇者「砦の中は大体とりあえず片付けたぜ」
武闘家「思っていたより数が多くなかったのでそんなに時間はかかりませんでしたね」
魔法使い「外もあたし達がやっつけといたよ」
僧侶「え、もぅ!?」
魔法使い「まぁね♪側近さんが頑張ってくれたからね」ニャハ
僧侶「側近さん、あまり無理はなさらないで下さいね?」
側近「この程度なんてことありません」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:51:29.53 ID:jgUG0irn0<> 勇者「さてと……」
勇者は今さっき陥落させた魔巌の砦を背に魔王の城を睨んだ。
広大な平原の向こうには黒の神樹を背に厳かで巨大な造りの城が小さく見えた。
その手前には巻き上がる土煙が見える。
おそらくは城からの砦への援軍だろう。
武闘家「……どうやら上手く釣られてくれたみたいですね」
武闘家もその土煙を視認して言った。
勇者「あぁ……これで準備OKだ」
勇者はポケットから魔王が残していった円盤状の魔法具を取り出した。
その姿を僧侶が心配そうに見つめる。
僧侶「……行くんだね、勇者君」
勇者「任せろ、必ずアイツを説得してみせるさ」
武闘家「くれぐれもお気をつけて」
勇者「あぁ、じゃ行ってく……」
魔法使い「勇者っ!!」
勇者が魔法具を発動させようとしたところで魔法使いが叫ぶように勇者の名を呼んだ。
勇者「な、なんだよ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:54:08.03 ID:jgUG0irn0<> 魔法使い「あたしね、魔王に伝言があるの!!」
勇者「……わかった、なんて伝えればいい?」
魔法使い「『あたしはいつだって魔王の友達だけどみんなで遊びに行く約束破ったら絶交だかんね!』って伝えて!!」
勇者「わかった」フフッ
側近「では私もよろしいでしょうか?」
勇者「いいぜ」
側近「『私を巻き込まないための魔王様のお心遣い、嬉しく思いますが私は不満でいっぱいです。帰ったらこの件につきまして"友人として"抗議いたしますので覚悟なさって下さい』と」
勇者「おう!!」
僧侶「じゃあ勇者君、私もいいかな?」
勇者「もちろん!!」
僧侶「『魔王ちゃんが試合放棄するなら私が先にアタックしちゃうよ、不戦敗なんて私は絶対許さないからね』って」
勇者「よくわかんねぇが任せろ!!」
武闘家「僕も……って勇者こんなにたくさんの伝言覚えていられますか?」
勇者「余計な心配はいらねぇんだよ、さっさと言え!!」
武闘家「ふふっ、ごめんなさい」クスクス
武闘家「では……『貴女の行動を責める人など僕らの中には誰もいませんよ。たまにはぶつかり合って傷つけ合うこともあるでしょう、ですが最後には仲直りできる……それが友達というものです』と、お願いします」ニコッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:55:42.65 ID:jgUG0irn0<> 勇者「わかった!!お前らの想い確かに受け取ったぜ!!」ニッ
勇者は仲間達に微笑んでみせた。
側近「では勇者さん」
側近が真っ直ぐに勇者を見て言う。
魔法使い「後は任せるよ♪」ニャハ
魔法使いは握った拳の親指を立てて勇者にウィンクする。
僧侶「頑張って!!」ニコッ
僧侶は優しい笑顔で勇者を励ます。
武闘家「また、後ほど」フフッ
武闘家もいつもの爽やかな笑顔で勇者を見送る。
勇者「おぅっ!!!!行ってくるぜ!!!!」
勇者は力いっぱい叫んで魔法具を発動させた。
紫色の光が勇者を覆ったかと思うと勇者はもう仲間達の前からは消えていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 06:56:36.21 ID:jgUG0irn0<> 僧侶「勇者君……行っちゃったね」
側近「後は彼に全てを託すとしましょう」
魔法使い「大丈夫だよ、勇者ならきっと上手くやってくれるって」
武闘家「フフッ、そうですね」
ドドドドドッ!!
ウオオオォォォッ!!
大地を激しく揺さぶる幾つもの足音と大気を激しく揺らす雄叫びが聞こえてきた。
先ほどは大分遠くにいるように思えた黒の国の援軍達は予想より遥かに速いスピードでこちらへやってきたようだ。
武闘家「……と、そうこうしている間にお客さんが来たみたいですね」
僧侶「こっちは私達の仕事だね」
側近「えぇ」
魔法使い「…………」
僧侶「魔法使いちゃん?」
こういう時に真っ先にはしゃぎ出しそうな魔法使いが何も言わないので僧侶が不思議そうに彼女を呼んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:58:20.81 ID:jgUG0irn0<> 魔法使い「……ねぇ、なんか兵士さん達、変じゃない?」
魔法使いに言われて他の三人は改めて向かってくる黒の国の軍勢を見た。
膨れ上がった全身の筋肉と身体中に浮き出た血管、長く鋭く伸びた歯と爪……そして赤く不気味に光る瞳。
暗い夜の闇の中でも一目で彼らが異常なのが分かった。
「グガアアァァッ!!」
「コフー!!コフー!!」
「ゲルグァアアア!!」
荒々しい息づかいも狂った叫び声もまるで人のものとはかけ離れている。
魔法使い「……ね?」アハハ…
苦笑する魔法使いの隣で僧侶は額に嫌な汗を浮かべて側近に尋ねる。
僧侶「側近さん、まさかあれが……?」ゴクッ
側近「えぇ、おそらくそうでしょう……魔将軍殿の手によって狂戦士と化した黒の兵士達の姿……」ギリッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 06:59:40.11 ID:jgUG0irn0<> 彼らをじっと見据えながら武闘家が淡々と語る。
武闘家「側近さんから研究資料の断片的な内容を聞いて幾つか推論を立てていましたが……本物を見て確信しました」
武闘家「……彼ら、魔獣堕ちしている……」
僧侶「え!?でも魔獣堕ちって動物しかしないんじゃないの!?人間が魔獣堕ちするなんて聞いたことないよ!?」
武闘家の一言が信じられないと僧侶が驚きの声を上げた。
武闘家も彼女の反応は予想していたようで直ぐ様説明をする。
武闘家「……僧侶さんの言う通り自我や精神のある人間は理性が働くことで本来は死しても魔獣堕ちすることはありません」
武闘家「ですから……詳しくは分かりませんがなんらかの方法で人間の理性を吹き飛ばし強制的に魔獣堕ちさせたのでしょう」
僧侶「そんな……あの人達を助けることはできないの……?」
武闘家「僧侶さんも知っているでしょう、魔獣堕ちは死んだ動物に負の魔力がはたらいて起きる現象……つまり、彼らはもう…………」
僧侶「…………」
哀れな黒の兵士達を救う術が無いと知り落胆する僧侶。
そんな彼女の横で側近が冷静に状況を分析していた。
側近「ざっと見たところ魔獣堕ちにより狂戦士と化した兵士達が百名余り……これでは…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:00:46.35 ID:jgUG0irn0<> だが武闘家は不敵に言う。
武闘家「……いえ、そうでもありませんよ」
側近「……?」
側近が武闘家の自信ありげな返答について尋ねようとした時、魔法使いが口を開いた。
魔法使い「……ねぇ、武闘家。この兵士さん達、魔獣堕ちしちゃってるってことはもう死んでるってことだよね?」
武闘家「はい。ちなみに全員を戦闘不能にして魂の浄化をしているような余裕はありませんよ」
魔法使い「じゃあこの兵士さん達を倒すには……」
武闘家「再起不能なまでにバラバラの粉々の木っ端微塵にするしかないでしょうね」
魔法使い「……ってことは……」
武闘家「はい、本気でやっていいですよ。勇者に代わって僕が許します」ニコッ
魔法使い「その一言を待ってたよ!!」ニッ
魔法使いは嬉しそうに笑ってかぶっていた黒帽子を投げ捨てた。
バッ
彼女の栗色の髪からは彼女の可愛らしい猫耳が生えている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:02:34.52 ID:jgUG0irn0<> 魔法使い「はあぁっ!!!!!!」
ドウッ!!
魔法使いが力を込めると凄まじい量の魔力が彼女から溢れ出した。
ブワアァッ!!
その影響で彼女を中心に突風が巻き起こる。
側近「な……こ、これは……!?」
武闘家「驚きましたか?」フフッ
側近「な、なんて魔力……!!聖剣や魔剣の加護も無しに……こんなの人間の魔力ではないです……!!」
規格外の巨大な魔力に驚きを隠せない側近。
彼女の疑問に武闘家は笑いながら答える。
武闘家「魔法使いさんは昔魔物の魂の浄化に失敗してしまいましてね、その時に猫耳が生えてしまったんですがどうやら失敗の副作用はそれだけではなかったみたいなんです」
武闘家「魔物の持っていた魔力が魔法使いさんの身体に宿ってしまって……魔法使いさんが元々持っていた魔力と合わさり相乗作用を起こし膨大な量の魔力をその身に宿すことになったんです」
武闘家「彼女が普段かぶっている大きな黒帽子は猫耳を隠すだけが目的じゃなく、有り余る魔力を抑制する役割もしているんです」フフッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:04:04.76 ID:jgUG0irn0<> 前方から迫り来る狂戦士の大軍を見て空に両手を突き上げると魔法使いは叫ぶ。
魔法使い「久しぶりに手加減しなくていいとなったらこれがあたしも全力全開ってくらいに思いっきりやっちゃうよ!!」バッ
キィン!!
キキィン!!
キキキキキィン!!
魔法使いの頭上、紺碧の夜空が無数の赤く輝く魔法陣によって埋め尽くされる。
魔法使い『九十九連炎撃魔法陣・灼』!!!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!
戦場に灼熱火球の豪雨が降り注ぐ。
至るところで火柱が立ち上り魔巌の砦の内側の平原は今や火の海だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:05:32.94 ID:jgUG0irn0<> シャッ!!
トサカ髪の狂戦士「ガアアァァッ!!」バッ!!
側近「ハッ!!しまっ……!!」
魔法使いの炎撃魔法の弾幕を俊敏な動きで躱しながら一人の狂戦士が側近に襲いかかってきた。
完全に虚を突かれたので致命傷は免れない。
ガキィンッ!!
咄嗟に目を瞑った側近だったが不自然な音に眼を開けると狂戦士の爪は彼女に届くことなく光輝く魔法陣の盾によって遮られていた。
側近「これは……光の盾!?」
僧侶「危ないところでしたね、側近さん。でも護りは私に任せて下さい!」
側近の後方で僧侶が手をこちらにかざしているのが見えた。
その手がぼんやりと淡く光っている。
僧侶「みんなへの攻撃は私が防壁魔法陣を張って防ぎます!!もし怪我しても直ぐに治します!!」
僧侶「だから攻撃に全神経を注いで下さい!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:06:45.77 ID:jgUG0irn0<> 叫ぶ僧侶を見て武闘家もゆっくりと構えをとる。
武闘家「さて……じゃあ僕も久々に本気でやらせてもらいますかね」
カアアァァァ!!
武闘家『裏魔法陣・亜音』
ゴウゥッ!!
武闘家の足元の魔法陣から発せられた黄色く輝く光が彼の身体を包む。
側近「あ、亜音!?亜音は勇者と魔王しか使えぬ裏魔法の筈では……」
武闘家「勿論その通りですよ。でも術式と魔法方程式さえ解析できていれば本物と同じ効果とまではいかなくても擬似的にそれを再現することならできます」
武闘家「と言っても僕の肉体では亜音に耐えられませんから身体にかかる負荷を最小限まで減らしたのがこれです……その分効果も大分本家には劣りますがね」
武闘家「ですから僕のは本当は『劣化版亜音』が正しいですね」フフッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:07:45.30 ID:jgUG0irn0<> 鼻のない狂戦士「ガルルアァ!!」バッ!!
片眼の腐った狂戦士「フーーッ!!フーーッ!!」バッ!!
二人の狂戦士が武闘家へと襲いかかる。
武闘家「……止まって見えますよ!!」ヒュッ!!
狂戦士達「ガゥッ!?」
武闘家『二重重撃魔法陣・砕』!!!!
ドゴォッ!!
バキィッ!!
眼にも止まらぬ超スピードで彼らの攻撃を避けると両手に重撃魔法陣を展開して彼らの顔面を思い切り殴りつけた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:10:14.40 ID:jgUG0irn0<> 100代目勇者の仲間達の超人的な強さにしばし呆然としていた側近だがすぐに我に返ると笑って攻撃魔法陣を展開した。
ガアアァァッ!!
側近「……まったく、100代目魔王様の側近を務めていた私ともあろうものが皆さんに圧倒されっぱなしでは立場がありませんね!!」フフッ
魔法使い「そうそう、側近さんも思いっきり!!」
側近「えぇ、そのつもりです!!」
魔法使い『六重炎撃魔法陣・獄』!!!!
ゴオオオオォォォォォッッ!!!!
側近『四十連爆撃魔法陣・烈』!!!!
ドカガガガガガガガガガガァァァン!!!!
武闘家(……勇者、ここは僕達がなんとかこらえてみせます)
武闘家(ですから勇者は勇者の為すべきことを全力でやってきて下さい)
武闘家(そしてちゃんと僕達のところへ帰ってきて下さいね、100代目勇者……!!!!)
襲いかかる狂戦士達に武闘家は最上級重撃魔法陣を放つ。
武闘家『重撃魔法陣・崩』!!!!
ドガアアァァァンッ!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:13:06.69 ID:jgUG0irn0<> ――――魔王の城・大広間前
ドガーン……
ドゴォーン……
激しさを増す魔巌の砦での戦いの音はは魔王の城まで届いていた。
勇者「……無事でいてくれよ、みんな」
予想とは異なり城には一人の兵士もいなかった。
おそらく自分と勇者の戦いに巻き込まれぬように魔王が指示したのだろうと勇者にはすぐに分かった。
そんな勇者は今大広間の扉の前にいる。
よく考えると魔王は城まで来いと言っただけでどこで待っているとは一言も言っていなかった。
だが勇者はきっと魔王なら大広間で自分を待ち受けているだろうと直感的に分かっていた。
大広間は99代目勇者と99代目魔王、彼らの父親達が最後の死闘を繰り広げた場所だからだ。
魔王ならここを闘いの舞台に選ぶと思ったし、自分が魔王だったとしたらきっとここを闘いの舞台に選ぶ。
だから他の場所になど目もくれずにここにやってきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:15:37.04 ID:jgUG0irn0<> 扉の前に立って思った。
……やはりこの扉の向こうに魔王がいる。
理由はと問われれば勘だと答える。
証拠はと聞かれれば無いと答える。
だが間違いない。
扉一枚隔てたこの先に魔王がいる。
勇者「…………」フゥ〜…
緊張をほぐそうと大きく息を吐いた。
それだけで気持ちが随分と楽になった。
眼を閉じると瞼の裏には今まで勇者を支えてくれたたくさんの人々の姿が代わる代わる映った。
そして最後に映ったのは……やはり魔王であった。
勇者「…………」フフッ
何が面白かったのかは分からない、ただなんとなく笑ってしまった。
勇者(待ってろ、魔王。俺がお前を絶望の底から引き上げてやるからさ……!!)
勇者「……よし!!」
決意を込めた声でそう言うと勇者は両手で扉に触れた。
勇者「行くか!!」
叫ぶと同時に大広間の扉を勢い良く開け放った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/01(火) 07:17:34.74 ID:jgUG0irn0<> ――――――――
一人の少年がその部屋に入ってきた。
一人の少女がその部屋で待っていた。
少年の瞳の奥には強い光が宿っている。
希望の光だ。
少女の瞳の奥には暗い闇が広がっている。
絶望の闇だ。
少年は真っ直ぐに少女の瞳を見つめる。
少女も真っ直ぐに少年の瞳を見つめる。
少年は少女に最初になんと言うか決めていた。
少女も少年に最初になんと言うか決めていた。
その言葉を少年が言う。
その言葉を少女が言う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/01(火) 07:20:05.54 ID:jgUG0irn0<>
勇者「よっ」
魔王「遅い、遅刻だ!!」
―
――
――――
――――――――To Be Continued
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/01(火) 07:23:19.07 ID:jgUG0irn0<> ……はい、と言うワケでですね、今回はここまでです
自分で言うのもなんですがかなり盛り上がってきましたねw
物語はクライマックスへ!!
次回ついに最終回です!!!! <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/01(火) 07:27:13.12 ID:jgUG0irn0<> ……で、毎日投稿を待っていてくれて
この物語を楽しみにしてくださっている方々には
大変申し訳ないのですが、
ちょっとスケジュールの関係で次回の投稿まで間が空いてしまうんです……
本当にすみませんorz
今週末には来れるように頑張りますので続きを楽しみに待っていて下さるとありがたいです
最後までよろしくお願いいたします <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 08:49:35.75 ID:Hu7P0CLlo<> そっか、終わっちゃうのか
寂しいが楽しみだな
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 09:16:12.35 ID:fUZnazRIO<> 絶対来てくれよ!
楽しみに待ってるからな!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 13:55:38.42 ID:dLbqpo2Ro<> 乙
最終回が楽しみで仕方ない
それにしても質が全く落ちないな凄い <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 01:49:45.22 ID:EIMkGm/po<> 一気に読んだぜ!!
ここでお預けなんて。。。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 22:07:16.06 ID:9bbj8G3uo<> 乙!
やばいもう泣いた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 12:16:04.67 ID:DqGkIJepo<> つ、つづきはよ…気になってお雑煮が喉を通らない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 17:53:20.51 ID:LXF/DUNDO<> それ喉に詰まってんじゃね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 20:20:47.28 ID:+gMmZ0oQo<> 投下から最低2週間以上
平均1ヶ月以上投下がない時
それのみにしか貼らない
その運用ポリシーを例外的に曲げて
あえて言おう
...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
/:::| ___| ∧∧ ∧∧
/::::_|___|_ ( 。_。). ( 。_。)
||:::::::( ・∀・) /<▽> /<▽>
||::/ <ヽ∞/>\ |::::::;;;;::/ |::::::;;;;::/
||::| <ヽ/>.- | |:と),__」 |:と),__」
_..||::| o o ...|_ξ|:::::::::| .|::::::::|
\ \__(久)__/_\::::::| |:::::::|
.||.i\ 、__ノフ \| |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\ |::::::|
.|| ゙ヽ i ハ i ハ i ハ i ハ | し'_つ
.|| ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/05(土) 00:58:27.83 ID:rLvaq4qfo<> ようやくここまで読めた
乙 <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/05(土) 15:01:36.04 ID:jiDuKURu0<> 長らくお待たせしました、
レス下さった皆さんありがとうございます♪
明日朝に最終章投下しますのでもうすこしだけお待ちください <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/05(土) 15:02:13.91 ID:joXb0xqFo<> 待ってた 楽しみにしてる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/05(土) 15:28:29.96 ID:nnXuEU0IO<> >>705
あくしろよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/05(土) 15:46:23.60 ID:BgzFciBIO<> これは全裸待機だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 08:15:31.48 ID:4RdQQfNIO<> バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バン バンバンバン゙ン バンバン
バン(∩`・ω・) バンバンバンバン゙ン
_/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
\/___/ ̄ <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/06(日) 10:30:53.59 ID:OfcM5hZm0<> ヤバイもう朝じゃないw
すみません、今から行きます!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:41:36.91 ID:OfcM5hZm0<> 【Episode:Final】
――――黒の国・魔王の城・大広間
勇者「よっ」
魔王の城の大広間へと足を踏み入れた勇者は、その奥に魔王がいるのを見つけるといつものように声をかけた。
数日ぶりにみた彼女は勇者の知る彼女とは随分印象が違って見えた。
容姿はそう変わっていない筈だがそのように感じてしまうのは彼女の瞳が虚ろで輝きを失っているからだろう。
魔王「遅い、遅刻だ!!」
大広間で勇者が来るのを待ち受けていた魔王はいつもよりも重々しい声でそう言った。
彼女は勇者の顔を見て少し驚いた。
決戦を前にもっと悲壮な面構えをしていると思ったのだが普段とたいして変わらぬ顔をしている。
おそらく全てにおいて吹っ切れたからなのだろうと納得する。
彼女に『遅刻だ』と咎められ勇者は苦笑しながら言う。
勇者「おいおい、待ち合わせの時間を決めてたワケでもないのに遅刻ってのはないんじゃないか?」
勇者「お前が言ってた緑の国への侵攻作戦まであと2日あるし、むしろ早いくらいだろ」
魔王「時間など関係ない、私を待たせた時点でお前は来るのが遅いということだ」
勇者「なんだよその理窟」ハァ
理不尽な仕打ちにため息をつく。
勇者もよく屁理屈を言う方だが自分で言うのと人に言われるのとは話が別だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:42:44.37 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「……ともかくよくぞ来たな、100代目勇者よ」
魔王はゆっくりと勇者に歩み寄りながら話しかけた。
魔王「貴様がこうしてここに来たということは100代目勇者として私と闘う覚悟をしてきたのだと見受ける」
勇者「…………」
勇者は何も言わない。
魔王「…………フッ、言葉は不要、ということか」
魔王はその沈黙を肯定と解釈する。
勇者の背負う剣に目がいった。
彼は長年愛用している短めの剣を腰に差す他に、もう一本剣を背負っていた。
魔王「……私が言った通り聖剣と契約を交わしてきたようだな」
魔王は満足したように言って立ち止まると腰に差す魔剣に手をかけた。
魔王「ならば相手にとって不足はない」
スラァ……
チャキッ
抜刀すると構えをとった。
魔王「無駄話はここまでだ。抜け、勇者」
勇者「…………」チャキッ
勇者は何も言わずに背中の聖剣を抜いた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:43:43.24 ID:OfcM5hZm0<> 魔王は構えた魔剣の切っ先を勇者に向けて彼を鋭く睨んでいる。
勇者は聖剣を身体の前で構えて微動だにしない。
静かに時が流れていく。
やがて魔王が吠えた。
魔王「…………参る!!」ドンッ!!
石畳の床を蹴ると勇者目がけて超高速で急接近する。
そのまま魔剣を大きく振りかぶると勇者へと一閃する。
だが勇者は回避をしようとも防御の構えをとろうともしなかった。
代わりに…………。
勇者「…………」フッ
代わりに静かに微笑んでみせた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:44:45.85 ID:OfcM5hZm0<> ヒュンッ!!
魔王「!?」
目の前から消えた勇者に魔王は完全に虚を突かれた。
勇者の神速の転移魔法をもってすれば今のタイミングで魔王の攻撃を避けることなど造作もない。
魔王が驚いたのはそこではなかった。
勇者は"聖剣をその場に残して"空間転移したのだ。
フォンッ!!
魔王の太刀が空気を切り裂く音がする。
カシャァンッ
勇者の残していった聖剣が床に落ちて音を立てる。
トンッ
次の瞬間、魔王の背中には温かな感触が伝わった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:45:39.72 ID:OfcM5hZm0<> 自分の身体の前で優しく組まれる勇者の腕。
最初は何が起きたのかよくわからなかったがすぐに状況を理解した。
……今、魔王は勇者に抱きしめられている。
鎧越しでも勇者の体温の温もりが伝わってくる気がした。
鎧を隔てていても勇者の鼓動が伝わってくる気がした。
右耳からは彼の静かな吐息が聞こえる。
魔王「…………どういうつもりだ?」
背後にいる勇者に冷たい声で言い放つ。
だが勇者は彼女の声とは対照的に、おだやかな優しい声で言った。
勇者「……ばぁーか、お前の考えてることなんか俺には全部お見通しなんだよ」
勇者「お前……俺と闘ってわざと死ぬつもりだろ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:46:50.63 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「…………」ピクッ
勇者の一言を受け一瞬魔王の顔がこわばった。
勇者「『わたしには勇者を殺すことなんてできない。わたしか勇者の命がこの世界のために必要ならわたしが死ねばいい』……とか考えてたんじゃねぇか?」
勇者「お前が争いごとを好まない優しい奴だってよくわかってるからさ、きっとお前ならそう考えてるだろうってずっと思ってたんだ」
魔王「…………」
魔王は何も答えなかった。
答えられなかった。
動揺して次の言葉がすぐに出なかったのだ。
なんとか胸中を落ち着けると意識して冷徹な声色を作り勇者に言う。
魔王「…………下らんな」
魔王「もしお前の言う通り私が死ぬつもりなのだとしたら、わざわざお前の仲間達を襲い宣戦布告するなんて茶番をしたりしないだろう。ただお前と闘って殺されればいいだけだ」
勇者「……お前が武闘家達を傷つけたのは自分に罪を負わせるためだろ?」
魔王「…………ッ」
勇者「大切な友達を傷つけてしまった自分はその罪を死ぬことで償わなければならない……そう自分に言い聞かせて逃げ場をなくすためってとこかな」
勇者「言ったろ、お前の考えてることなんか俺には全部お見通しなんだよ」ハハッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:49:35.67 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「…………」
魔王はもはや何も言い返せなかった。
押し黙る魔王に勇者は語りかける。
勇者「……なぁ、魔王」
勇者「俺さ……ようやく気づいたんだ」
勇者「俺にとっては人間と魔族の和平とか、世界の平和とか、神樹のこととか……実はどうでもいいんだ」
勇者「俺は……お前が笑っていてくれればそれでいいんだよ」
勇者「人間と魔族の和平を目指してきたのもさ、お前にいっぱい笑って欲しかったからだったんだ」
魔王「…………」
勇者「……ずっと前にお前に言ったこと、覚えてるか?」
魔王「…………?」
勇者「覚えてないなら何度でも言ってやるよ」
勇者は微笑みながら、ゆっくりと優しい声で魔王に言った。
勇者「世界中の誰もがお前を魔族の王様として見ても、俺だけはお前のこと1人の女の子として見てやる。だからそんな顔すんな」
魔王「…………ゆうしゃ……」
勇者「だからいつもみたいにさ、また笑ってくれよ。魔王」フフッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:51:26.85 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「…………ばか……」
魔王の金色の瞳から大粒の涙が一粒こぼれ落ちた。
魔王「…………ずるいよ、勇者」ポロッ
魔王「今そんなこと言うなんて……ずるすぎるよ……」グスッ
勇者の言葉に抑えていた魔王の感情が涙とともに一気に溢れ出す。
カシャァンッ
魔剣を手放して流れ出る涙を拭おうとする。
しかし輝く雫は彼女の瞳から止めどなく溢れてくる。
魔王「勇者と闘わなくちゃならないってわかった時から……わたしが勇者の代わりに死のうって決めてたのに……そんなこと言われたら……覚悟が揺らいじゃうじゃん……」ポロポロ
魔王「わたしは……わたしは勇者を殺して生きるくらいなら死んだ方がいい……」グスッ
魔王「……お願い、勇者。わたしを殺して…………どうせいつか他の勇者に殺されるんなら勇者の手でわたしを殺してよ……」ポロポロ
泣きじゃくる魔王に勇者は笑いながら言う。
勇者「バカ、話聞いてたのか? 俺がそんなことするわけないだろ?」
魔王「でも…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:52:36.92 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「それに命懸ける覚悟があるなら……俺と一緒に世界を救ってくれないか?」
魔王「…………?」グスッ
勇者「実はさ、世界を崩壊させずに神樹を全部ぶっ壊す方法を考えついたんだ」
魔王「え……!?」
勇者の言葉に魔王は耳を疑った。
勇者の顔を見ようと眼だけ彼の方を向ける。
勇者「白の国の学者さんに計算してもらったらほぼ確実に成功するだろうって」
魔王「じゃ、じゃあ…………」
魔王の声は震えながらも心底嬉しそうだ。
勇者「あぁ、俺達はもう闘う必要はないし、世界の悲しみの連鎖を断ち切ることができるかもしれない」
勇者「でも俺だけじゃ出来ない……お前の力が必要なんだ」
勇者「その……下手したら死んじゃうかもしれないらしいんだけど……付き合ってくれるか?」
不安そうに勇者は魔王に尋ねた。
だが魔王はそんな勇者の心配をよそに希望を宿した声で言った。
魔王「……そんなの当たり前だよ。勇者となら地獄の果てだって、どこまでも一緒に行くよ」
勇者「……そっか、ありがとう」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:53:52.09 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「それに……」
魔王は静かに勇者の手に触れた。
そしてどこにでもいるような普通の女の子のように愛らしく笑う。
魔王「わたしと勇者が力を合わせてできないことなんて何一つないよ」フフッ
勇者「…………そうだな、お前の言う通りだよ」ハハッ
彼女の笑顔こそ見れなかったがこうして彼女がまた笑ってくれただけで勇者は満足だった。
勇者「とりあえず俺はそのことをお前に伝えに来たんだ。武闘家達と側近さんが砦で暴れて陽動をかけてくれてる、早くアイツらのとこに行こうぜ」
魔王「え?何で側近も?」
勇者「まぁそこらへんは後でゆっくり話すさ、これから片付けなきゃならない問題もあるしな」
魔王「……でも……」
さっきまでとはうって変わって魔王は急に元気がなくなった。
勇者「?」
魔王「……わたしみんなに酷いことしちゃった……どんな顔して会えばいいかわからないないよ……」シュン
勇者「なんだそんなことか、みんな気にしてないって」
魔王「でもさ……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:55:29.20 ID:OfcM5hZm0<> 落ち込み不安がる勇者をどうやって励まそうかと勇者は思案していたが大事なことを思い出した。
勇者「そうだ、みんなから伝言がある」
魔王「伝言?」
勇者「そう、魔王に会ったら伝えて欲しいって頼まれてたんだ」
勇者「魔法使いが『あたしはいつだって魔王の友達だけどみんなで遊びに行く約束破ったら絶交だかんね!』ってさ」
魔王「……魔法使いらしいね」クスッ
勇者「絶交されたくなかったらちゃんと約束守らなきゃな」
魔王「そうだね」フフッ
魔王は屈託なく笑う魔法使いを思い浮かべた。
耳は彼女の弱点なので会ったら思いっきりなでまわしてやろうなどと思う。
勇者「側近さんは『私を巻き込まないための魔王様のお心遣い、嬉しく思いますが私は不満でいっぱいです。帰ったらこの件につきまして"友人として"抗議いたしますので覚悟なさって下さい』だってさ」
魔王「"友人として"……か。側近わたしのことそんな風に思っててくれたんだ……」
勇者「側近としてじゃなくてお前の1人の友達として不満たっぷりってことだな」
魔王「……ちゃんと謝らなきゃね」
眼鏡を光らせて魔王に不満をぶつける側近の姿が思い浮かんだ。
謝ったら文句を言いながらも許してくれるような気がした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:57:08.19 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「僧侶は『魔王ちゃんが試合放棄するなら私が先にアタックしちゃうよ、不戦敗なんて私絶対許さないからね』だとさ」
魔王「それは困るな……」
勇者「もしかして温泉行った時に言ってた勝負の話か? 一体何の勝負なんだよ?」
魔王「ふふっ、まだ内緒だよ」クスクス
良き友であり恋のライバルの僧侶とは恨みっこなしで正々堂々と勇者争奪戦に決着をつけたいと思った。
役得ということでこうして勇者に抱きしめられていることは内緒にしておこうと決めた。
勇者「んで最後は武闘家…………」
魔王「……?」
勇者「あー、くそっ、アイツが余計なこと言うから覚えてられなかったじゃねぇか」
魔王「え〜、それはないんじゃない?」ハァ
唸る勇者に魔王が呆れ果てる。
勇者「いや、ちょっと待て、喉まで……あぁ!そうそう!」
勇者「『貴女の行動を責める人など僕らの中には誰もいませんよ。たまにはぶつかり合って傷つけ合うこともあるでしょう、ですが最後には仲直りできる……それが友達というものです』だ」
魔王「……いかにも武闘家らしい言葉だね」
勇者「こういうときでもなんか真面目だよな、アイツは」
魔王「……そっか、友達なら仲直りできるんだよね……」
武闘家の言葉は今の魔王の心に深く響いた。
おそらく武闘家もそれが魔王が一番欲しい言葉だと思って言伝てを頼んだのだろう。
勇者「……な?心配することなんて何もないだろ?」ハッ
魔王「……うんっ!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 10:59:04.36 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「……って言うか勇者いつまでわたしに抱きついてるつもりなの?」
勇者「!!」ハッ
魔王に言われて勇者は気づいた。
そういえばさっきからずっと魔王を抱きしめたままだ。
魔王「セクハラで訴えるよ?」フフッ
勇者「わ、悪ぃ」バッ!!
彼女から離れると焦りながらなんとか弁解をしようとする。
勇者「なんかこう……この方が気持ちが伝わるかなって思ってつい……いや、やましい気持ちとかは決してなく、だな」アセアセ
魔王「フフッ、分かってるよ、今日だけは許してあげる」クスクス
慌てふためく勇者がおかしくて魔王はいつものように笑った。
勇者にとってはひさしぶりに見た彼女の笑顔だった。
勇者「……さて、そろそろ武闘家達のところに行くか」
勇者は陽動として砦で戦っている武闘家達のところに戻ろうとした。
今回の作戦はあくまで魔王の説得が目的であり神樹の破壊は今日である必要はない。
魔王が再び和平への希望を持ったなら緑の国への侵攻作戦は中止になり時間的に猶予ができる。
その時間でさらに良い方法がないか考えたり周囲に被害が出ないようにしたりと十分に準備をした上で決行すれば良い。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:00:02.90 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「黒の国の兵士達の攻撃はお前が止めてくれよ」チャッ
勇者は聖剣を拾いながら言う。
魔王も魔剣を拾いながら返す。
魔王「うん、任せて」チャッ
勇者「よし、んじゃ……」
勇者は転移魔法発動の合図に指を軽く鳴らした。
勇者「ほっ」パチィン
し〜ん……
勇者「……あれ?」
しかし何も起きない。
魔王「どうしたの?」
勇者「…………?」バッ
今度は指を鳴らすのではなく左手を広げて転移魔法陣を展開しようとした。
しかし魔法陣は現れない。
勇者「……転移魔法が使えない……」
『瞬天の勇者』と称される転移魔法の使い手である勇者が転移魔法の術式を組み間違えるとはどうにも考えられない。
勇者は胸騒ぎがしてきた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:01:01.23 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「もぅ、しょうがないからわたしがやるよ」バッ
し〜ん……
手を高く掲げて転移魔法を発動させようとした魔王だったが彼女も魔法陣の展開に失敗した。
魔王「あれ?」
勇者「さっきは使えたのに……」
魔王「どうしてだろ?」
勇者と魔王、その両者が術式を組むのを間違えたとは考えにくいことだった。
ともすれば考えられるのは『術式を組むのに成功しているのに魔法陣が展開できない』という状況だろう。
『不思議な力にかき消された』とでも言うのだろうか。
勇者が自分達の置かれた状況について考えていると、禍々しい殺気が周囲を覆った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:01:56.60 ID:OfcM5hZm0<> 勇者・魔王「!!」ゾクッ!!
バッ!!
ドガアアァァァンッ!!!!
殺気を感じてその場から離れるとさっきまで二人がいた場所が爆撃によって消しとんでいた。
入り口付近の石造りの壁がガラガラと音を立てて崩れていく。
魔王「な、何なの!?」サッ
勇者「誰だ!!」サッ
剣を構えて周囲を警戒する。
「やはりそう簡単には殺されてはくれんか」ククッ
薄暗い大広間の奥から低い男の声が聞こえてきた。
魔王「……!!」
魔王は男の声に聞き覚えがあった。
幼いころから何度も聞いてきた声だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:02:42.57 ID:OfcM5hZm0<> コッコッコッ……
足音を響かせ男が悠然と勇者達に近づいてくる。
徐々にその姿が明らかになっていく。
漆黒の鎧に全身を包んだ中年の男が二人の前に現れた。
逞しい肉体と勇ましい顔つきは一目見ただけで彼が歴戦の強者であると誰もが理解できるだろう。
魔王「叔父上……!!」
勇者「!!」
魔王が彼をそう呼んだことで勇者も彼が誰なのか分かった。
先代魔王の弟にして魔王の叔父――――魔将軍だ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:03:51.50 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「何故叔父上がここに!?私は魔巌の砦への向かえと指示した筈だが」
魔王「……いや、そんなことはどうでもいい。何故私達を狙った!?」
吠える魔王をあしらうように魔将軍が言う。
魔将軍「……なに、姫君を狙ったのはついでだ」
魔王「ついで……!?」
魔将軍「私が用があるのは小僧、貴様だ」スッ
魔将軍はそう言って勇者を指差した。
勇者「……へぇ、アンタに会うのは初めてのハズなんだけどな……なんか恨みを買うようなことしたかな?」
魔将軍「恨みは無い。だが聖剣と契約を交わした100代目勇者……貴様は私がこの手で殺す。最後の勇者として散りゆくがよい」
勇者「はいそうですか、って殺されてやるほど俺は優しくないぜ。それに俺にはやることがある」
魔王「待て、魔将軍!!無益な闘いはやめろ!!」
殺気立つ二人の間に割って入るように魔王が会話に口を挟む。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:05:54.75 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「私は……いや、黒の国は人間側との和平に向けて歩み出す。これ以上無駄な血を流すことは100代目魔王である私が許さんぞ!!」
魔将軍「和平……? フンッ、世界に神樹がある限りそんなものは不可能だと分かっているだろう」
魔王「その神樹を破壊する方法が判明したのだ!!神樹が無くなれば戦争を続ける意味は無くなる!!」
魔王「父上の夢見た平和な世界がやってくるかもしれんのだ!!」
そう語る魔王を冷ややかな眼で見ると魔将軍は無関心に言った。
魔将軍「それがどうした?そんな世界私には興味がない」
魔王「なっ……」
魔将軍「兄上……そうだ、兄上は甘かったのだ。同じ人間同士とは言え黒の国以外の人間など虫以下の価値しかない」
魔将軍「我々は魔族、奴らは人間……この違いは絶対的なものだ」
魔将軍「そうだと言うのに手を取り合って平和を目指そうなどと……そうやって人間などに心を許すから大勇者に裏切られて兄上は奴に殺された」
魔王「それは違うぞ!!大勇者殿は正々堂々父上と闘い、そして……」
魔将軍「我が身惜しさに親友を殺したのだろう」
魔王「違う!!」
魔将軍「違わないさ。大勇者が兄上を殺したという変えようのない事実がある以上な」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:07:08.51 ID:OfcM5hZm0<> 異議を唱える魔王をまるで相手にもせずに魔将軍は言う。
魔将軍「私は兄上のように甘くはない……完全な世界をこの手で作ってみせる」キッ
勇者「…………アンタ一体何企んでやがる?」
勇者は醜く濁った魔将軍の瞳に嫌悪感を抱きながら尋ねる。
魔将軍「……フッ、いいだろう。計画は最終段階に入っている、冥土の土産に教えてやろう」
勇者と魔王を前に魔将軍はありとあらゆる負の感情をその眼に浮かべながら話し始めた。
魔将軍「20年近く前……世界の真実について知った私は世界に憤り、絶望した」
魔将軍「戦場で散っていった数々の仲間達、そして兄上は世界の崩壊を阻止するための生け贄にすぎなかったと知ったのだからな」
魔将軍「しかもこれから先も未来永劫、滅びの時までそうして同胞達は死んでいく……」
魔将軍「私は世界が憎かった、人間が憎かった、何より運命に対しあまりに無力な自分自身が憎かった!!」
魔将軍「……そしてある時気付いたのだ……魔族が完全に世界を支配することで世界は平和になると」ニィ
魔将軍の顔が狂気に歪む。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:08:46.11 ID:OfcM5hZm0<> 魔将軍「強大な軍事力によってこの世界を完全に黒の国の、魔族の支配下に置く」
魔将軍「そして人間達をその世界の安定を守るために"使えば"よいのだ!!」
魔将軍「人間達を交配させ、生ませ、増やし、毎年一定量殺して神樹への供物とする」
魔将軍「勇者の刻印を持つものは聖剣の加護に耐えうるだけ鍛えて聖剣と契約を交わさせた後に殺す」
魔将軍「そうすれば魔族の完全に支配する世界には争いは起こらず、我々にとって永遠に安泰な新世界が創れるとな」クククッ
魔将軍は狂ったように笑いはじめた。
彼が抱いていた強大な世界への恨みはいつしか人間への恨みへとすり変わっていた。
魔将軍のおぞましい計画を聞き、話の内容に堪えられなくなった魔王は怒りの叫びをあげる。
魔王「ふざけるな……ふざけるな!!!!」
魔王「貴様……何を言っているのか分かっているのか!?」
魔王「貴様は同じ人間を家畜以下の存在として扱おうというのだぞ!?」
魔将軍「黙れ!!我々は魔族だ!!人間などという薄汚く卑しい下等な生物と同じではない!!」
魔王「……貴様のそんな狂った野望、100代目魔王として、父上の意志を継ぐ者として、何よりこの私自身が断じて許さん!!!!」
魔将軍「私が王となる新世界では姫君にも政治を任せても良いと思っておったのだが……残念だ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:10:23.90 ID:OfcM5hZm0<> 魔王にそう言うと魔将軍は今度は勇者の方を見た。
魔将軍「……分かったか、100代目勇者。私の創る新世界において勇者などという下らぬ存在は不要なのだ。魔力増幅装置の聖剣さえあればそれでいい」
魔将軍「貴様を殺してその聖剣貰い受けるぞ」
黙って話を聞いていた勇者はようやく口を開いた。
勇者「…………俺の言いたいことは1つだ」
勇者「テメェみたいな憎しみに狂ったクソ野郎に俺達の未来は好きなようにはさせねぇ、絶対に!!」ギリッ
魔将軍「クククッ、威勢が良いのは結構だが得意の転移魔法が使えぬことには気付いているだろう?」
魔将軍は皮肉を込めた笑みで勇者を見る。
勇者「……!!……じゃあテメェが!?」
魔将軍「そうだ。瞬天の勇者が転移魔法を応用して闘うことは知っていたからな、いつか魔王の城へ姫君と闘いに訪れた時のために転移魔法を無効化する結界を準備していた」
魔将軍「私がそれを先ほど発動させたところだ……今やこの城では私を除いて誰一人として転移魔法は使えぬぞ」
勇者「転移魔法が使えなくたって俺には聖剣がある!!」
勇者は聖剣を強く握り締め魔王に叫ぶ。
勇者「魔王!!アイツの思い通りになんか絶対させねぇぞ!!」チャッ
魔王「うん!!わたし達の手であんな狂った野望を止めよう!!」チャッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:11:48.12 ID:OfcM5hZm0<> 勇者・魔王「はあぁっ!!!!!!」
ドンッ!!!!!!
ゴウッ!!!!!!
聖剣と魔剣の力によって極限を超えて高められた二人の魔力が一気に開放された。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
膨大な魔力が大広間を激しく揺らす。
魔将軍「ほぅ……やはり勇者と魔王か。素晴らしい魔力だな……」チャキッ
スラアァ……
二人の魔力を肌に感じつつ魔将軍は腰の大剣を抜いた。
不気味な紅い刀身についた気味の悪い目玉がギョロギョロと動いている。
魔王「何?あの剣……気持ち悪い……」ゴクッ
勇者「随分とまぁ悪趣味な剣だってのは見ただけでわかるけど……それだけじゃなさそうだな」ゴクッ
スッ……
魔将軍は右手に持った剣を身体の前で横一文字にする。
それに左手を軽く添えると足を肩幅に開き大きく息を吸った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:14:32.28 ID:OfcM5hZm0<> 魔将軍「かあっっ!!!!!!」
ドンッッッ!!!!!!!!
ゴウゥッッッ!!!!!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!!!
魔王「な……!?」ビリビリ
勇者「にぃ……!?」ビリビリ
魔将軍の開放した魔力は尋常ならざる量の魔力だった。
明らかに人の限界を超えている。
先ほど勇者と魔王が開放した凄まじい魔力も今の彼の魔力には及ばない。
その人知を超えた魔力は大広間はおろか魔王の城全体を揺らしているかの様だった。
空気を伝わる魔力が二人にとっては痛みとして感じられるほどだ。
勇者「その気味悪い剣、まさか……」
魔将軍「あぁ、貴様の考えている通りこれは特注の魔力増幅装置だ」
魔王「やっぱり……!!」
魔将軍「数少ない聖剣と魔剣の資料を元に現在の最新の魔法科学により作り出された妖剣……魔力増幅装置としての力は聖剣と魔剣を凌ぐ」
魔将軍「私はこの妖剣を手に、王として新たなる世界の頂点に君臨する……」
魔将軍「魔族の中の魔族……いや、魔王の中の魔王、『大魔王』としてな!!!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:15:21.57 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「今!!この時より!!私は自らを大魔王と名乗ろう!!」
魔将軍……いや、大魔王は妖剣を高々と掲げて叫んだ。
勇者「ハンッ、『大魔王』とは随分とご大層な名前だなおい」
魔王「だけど勇者……」
勇者「わかってる、あの力は本物だ」ゴクリッ
大魔王が妖剣を構えると彼を取り巻く魔力が急激に張りつめた。
重々しい声で大魔王が勇者達に叫ぶ。
大魔王「さぁこいガキども!!魔族のための新世界の礎となれぇ!!!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:16:31.15 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「勇者!!」バッ
勇者「任せろ!!」バッ
カアアアァァッッ!!!!
手をかざした二人の前方に巨大な魔法陣が展開される。
勇者・魔王『七重炎撃魔法陣・獄』!!!!!!!!
ゴオオオオオオォォォォォォッッッッ!!!!!!!!
大魔王「!!」
ドッガアアアアァァァァーーーン!!!!!!
七重最上級炎撃魔法が同時に二発。
考えられる二人の最大火力の一撃である。
煉獄の大火炎が大広間の半分以上を焼き払い、吹き飛ばした。
常人ならば防壁魔法陣を展開していたとしても耐えきれずに一瞬のうちに骨すら残さず焼き尽くされてしまうだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:17:23.24 ID:OfcM5hZm0<> だが勇者達はその一撃で大魔王を倒せているとは思ってはいなかった。
この一撃は自分達と大魔王の力量の差を測るのが目的だ。
勇者「…………」
魔王「…………」
剣を手に揺らめく炎をじっと見つめる。
ブワッ!!!!
突如として炎撃魔法の残り火が吹き飛んだ。
大魔王は先ほどと同じ位置に悠然と立っていた。
驚くべきことに無傷で。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:18:40.18 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「な、嘘だろ!?あれで無傷って……!!」
魔王「よ、よく見て、勇者!!」
勇者「!?」
魔王に言われて勇者は大魔王を凝視した。
彼の身体のは禍々しく黒く輝く魔力の霧のようなもので覆われている。
勇者「なんだあれ……」
驚愕する勇者達を見て大魔王はいやらしい笑みを浮かべて口を開いた。
大魔王「……"これ"は妖剣の力を開放した私のみが使うことのできる裏魔法……名前すらまだない」
大魔王「術式に高速魔力相殺の魔法方程式を組み込んだ超高密度の魔力の衣だ」
大魔王「私への魔法攻撃を瞬時に無効化する闇の衣、と言ったところか」フフフッ
大魔王の闇の衣の説明を聞き勇者が喚く。
勇者「あんな桁外れの魔力持ってるクセにこっちの魔法は全部効かないとか……どう考えてもこんなの反則じゃねぇかよ!!」
魔王「泣き言言わない!!わたし達はわたし達にできることをやるだけ!!」
魔王はそんな勇者を叱咤する。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:19:47.15 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「魔力の衣ってことは物理的攻撃には基本無力ってことでしょ、なら剣撃と体術なら通るハズだよ!!」
勇者「そりゃそうだろうけど……」
魔王「それに!」
勇者「?」
魔王「わたしと勇者が力を合わせてできないことがあるの?」ニコッ
勇者「…………」
そう言われてじっと魔王の顔を見ていた勇者だったが少しすると笑って言った。
勇者「…………ねぇな、何一つねぇ」ニッ
大魔王「……?」
大魔王(なんだ?先ほどまでと空気が変わった……?)
長い間戦場を駆けてきた大魔王は戦場の空気と言うものを敏感に感じとることができる。
ついさっきまで自分との力の差に絶望しかけていた彼らの周りの空気が今は何故か温かな希望を取り戻している。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:21:12.26 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「足、引っ張んじゃねぇぞ」
魔王「それはこっちの台詞」
勇者「よく言うぜ、さっきまで泣いてたくせによ」
魔王「今は関係ないでしょ、もう!」
勇者「眼、まだ赤いけどな」
魔王「うそっ!?」
勇者「嘘」ククッ
魔王「むぅ〜……後で覚えててよね」ムスッ
勇者「はいはい」フッ
勇者「……んじゃ、行ってみっか!!」チャッ
魔王「オッケー!!」チャッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:22:31.85 ID:OfcM5hZm0<> トンッ
二人は互いに背中を預けるようにして立った。
勇者は右手に持った聖剣を、魔王は左手に持った魔剣を真っ直ぐに大魔王へと向ける。
絶望的とも言える状況で、彼らの瞳には希望の光が宿っている。
互いが何を考えているのか、合わせた背中から想いが伝わってくる。
声を合わせて叫んだ。
勇者・魔王『裏魔法陣・亜音』!!!!
カアアアァァァッ!!
地面に展開された魔法陣から放たれた白い光が勇者の身体の包む。
同じ様に魔王の身体を黒い光が包む。
大魔王「フンッ、小僧一人と小娘一人などまとめて葬り去ってくれる!!」チャッ
大魔王『裏魔法陣・亜音』!!!!
カアアアァァァッ!!
黒の光が勇者達同様に大魔王の身体を包み込んだ。
勇者「だぁっ!!」ドンッ!!
魔王「はぁっ!!」ドンッ!!
勇者達は同時に地を蹴って大魔王へと向かっていった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:23:48.26 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「おら!!」ビュッ
初手、左手側面から勇者が横薙ぎを放つ。
ギンッ!!
しかし大魔王はそれを難なく受け止める。
魔王「はっ!!」ヒュッ
大魔王「フン」サッ
間髪を入れずに魔王が突きを放ったが大魔王は身体を捻って避けてみせる。
しかも攻撃のための予備動作は既に終えている。
このタイミングならば一振りで魔王の首を胴体から切り離すことが可能だ。
大魔王「まずは1人!!!!」ビュッ!!
広刃の大剣を魔王目がけて振り抜く。
魔王「…………」
しかし魔王は防御しようとも回避しようともしない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:25:01.38 ID:OfcM5hZm0<> ギィンッ!!
大魔王「……!?」
魔王への攻撃を防いだのは彼女自身ではなく勇者だった。
魔王「やぁっ!!」ビュッ!!
勇者が大魔王の太刀を受け止めた隙に魔王が魔剣を振るう。
大魔王「チッ!!」サッ
大魔王は一歩退き彼女の剣を避けてみせた。
キュキュッ
クルッ
魔王が軽くステップを踏み身を翻す。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:26:11.18 ID:OfcM5hZm0<> すると彼女と入れ替わるように勇者が大魔王へ攻撃を仕掛ける。
勇者「せいやぁっ!!」バッ!!
ビュバッ!!
ガキィン!!
大魔王「ぐ……ぬ!?」
二人がつばぜり合いになったところで勇者を飛び越えるように魔王が大魔王へと飛びかかる。
魔王「はぁっ!!」ビュッ!!
大魔王「ぬぅ!?」サッ
ギィンッ!!
その攻撃を大魔王はなんとか受けきったが勇者と魔王の猛攻は止まらない。
キィンッ!!
ガキィンッ!!
キキィンッ!!
キィーンッ!!
カガキィンッ!!
勇者・魔王「おおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:26:59.35 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王(……なんだ!?……なんだこの流れるような連携は……!?)
大魔王(打ち合わせも無しにこんな複雑な攻撃……有り得ない!!)
大魔王は動揺していた。
純粋な剣の腕前なら恐らく自分の方が上。
勇者と魔王を二人同時に相手にしていてもおそらくそれは変わらないだろう。
まして自分には妖剣の加護がある。
身体能力は彼らを遥かに凌駕していると言って過言ではない。
いくら二人がかりとは言え彼らをあしらうことなど造作もない筈。
なのに。
どうして。
何故。
何故こうも自分が圧倒されている……!?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:27:46.45 ID:OfcM5hZm0<> 息もつかせぬ連携攻撃を大魔王へと仕掛けながら二人は思った。
勇者・魔王(…………わかる!!)
勇者(次に魔王がどう動くのか……!!)
魔王(次に勇者が何をするのか……!!)
勇者(言葉を交わさなくても……!!)
魔王(動きを見なくても……!!)
勇者(魔王のことが)
魔王(勇者のことが)
勇者・魔王(自分自身のようにようにわかる!!!!)
剣撃の合間にお互いの顔をちらりと一瞬だけ見た。
瞳を見て相手も同じことを思っているのだと確信すると自然と笑みがこぼれた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:29:05.52 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「えぇい!!いい気になるなよ、ガキ共がぁ!!」バッ
大魔王は勇者達の猛攻の最中、地を蹴って飛び退くと彼らと距離をとった。
大魔王「2人仲良く消し飛べ!!」サッ
カアアアアァァァァッッ!!!!!!
大魔王が手をかざすと勇者達を中心に大広間の床に巨大な魔法陣が形成される。
勇者・魔王「!!!!」
大魔王『七重爆撃魔法陣・滅』!!!!!!!!
ドッガアアアアァァァァンッッ!!!!!!
鼓膜が破れてしまいそうな轟音が響いた。
最上級爆撃魔法陣による凄まじい大爆発は大広間の屋根を消し飛ばし城全体を激しく揺らした。
モクモクモクモク……
大魔王「…………」
大魔王は妖剣を構えて未だ消えやらぬ爆煙を注意深く見ていた。
直撃していればいくら勇者と魔王とは言え跡形もなく消しとんでいるだろうが恐らく防壁魔法陣で防いでいることだろう。
致命傷は与えられたかもしれないが安心はできない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:30:35.88 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「…………」チャッ
大魔王が軽く妖剣を握り直した瞬間、黒煙の中から高速の突きが繰り出された。
ブワッ!!!!
大魔王「!!」サッ
身体を左に動かしその突きを避けると、黒刃の剣が彼に向かって振り下ろされた。
魔王「せやっ!!」ビュッ!!
大魔王「くっ!!」サッ
ガキイィン!!!!
魔剣と妖剣とがぶつかり合い激しい金属音を立てた。
魔王と剣を交えつつ、次に来るであろう勇者の攻撃に注意を払う。
先ほど突きが放たれたことを考えれば前方の黒煙の中から追撃が来る筈。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:31:37.13 ID:OfcM5hZm0<> パシィッ!!
大魔王「!?」ピクッ
背後から音が聞こえた。
何かを掴む音だ。
大魔王「ッ!?」バッ
思わず振り返ると彼の後ろで勇者が右手に聖剣を、左手に小振りの剣を持ち振りかぶっているところだった。
大魔王「まさかさっきの突きは……!!」
大魔王の言う通り、先ほど彼が避けたのは突きではなかった。
勇者が長年愛用している短めの剣、それを魔王が大魔王目がけて投げたものだったのだ。
魔王が魔剣による攻撃を仕掛けた時には既に勇者は大魔王の背後に回り、投げられた愛剣を掴み取っていたのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:32:50.71 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「はあぁっ!!!!」ビュバッ!!!!
ザザンッ!!!!
大魔王「ぐあっ!!」
手にしていた二本の剣を振り抜き大魔王の背を十字に斬りつけた。
魔王「てやっ!!!!」バッ!!
ドゴォッ!!
大魔王「があぁっ!!」
魔王は身体を回転させることで破壊力を上げた蹴りを大魔王の右脇腹へと放った。
蹴りの衝撃により大魔王の体が吹き飛ばされる。
勇者「…………」ハァハァ
魔王「…………」ハァハァ
二人は荒く息をすると、すすだらけの互いの顔を見た。
拳を軽く握るとそれをぶつける。
コツン!
勇者・魔王「……よしっ!!!!」グッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:34:13.05 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「ぐっ……」ヨロッ
背中の傷と脇腹の痛みに耐えながら大魔王はゆっくりと起き上がった。
先ほどまで彼を覆っていた黒の衣は今の一撃により消え去ったようだ。
勇者「どうした、大魔王サマともあろうもんがこの程度が!?」
魔王「今ならまだ間に合う、馬鹿げた真似は止めろ!!」
大魔王「……フフッ、貴様らの力がこれほどまでとはな……」
大魔王は薄ら笑いを浮かべながら二人を見る。
大魔王「力や条件では圧倒的に私が有利であるにも関わらず2人で力を合わせることでその差を埋め、あまつさえこの私に傷を負わせるとは……いやはや恐れいった」ククッ
勇者「ならさっさと妖剣を捨てて投降するんだな!!」チャッ
魔王「いくら貴様の力が強大であろうとも私達がこうして力を合わせれば必ず勝てる……!!」チャッ
聖剣と魔剣を大魔王へと向け二人は言う。
先ほど傷を負ったことで大魔王と勇者達の力の差は大幅に縮まっている。
いや、むしろ今や勇者達に分があると言える。
大魔王「……フフフッ」
しかしそんな状況にもかかわらず大魔王は不気味に笑い出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:35:20.01 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「どうした?何がそんなにおかしい?」
大魔王「いや、すまんな…………もしもの時のために保険をかけておいて正解だったと思ってな」ニヤッ
魔王「保険……?」
大魔王「…………」パチィン
カアアァァッ!!
大魔王が指を鳴らすと彼の足元に転移魔法陣が展開された。
パッ
ドサッ……
「うっ……」
青白い光の中からこの場へと空間転移された女性はその場へ倒れこんだ。
黒髪の美しい気品ある女性だ。
魔王「な…………」
女性を見るなり魔王は驚愕のあまり言葉を失った。
やがて怒りにわなわなと震え始める。
勇者「だ、誰だよ?知り合いか?」
その女性が誰なのか分からない勇者は魔王に尋ねる。
沸き上がる怒りを必死に押さえながら魔王は答えた。
魔王「……黒の国の王妃……私の母上だ…………」ギリッ
勇者「なんだと!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:37:08.27 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王は呻き声をあげて倒れる黒の王妃の襟首を掴んで無理矢理立たせるとその首筋に妖剣をあてがう。
黒の王妃「う……」
魔王「……どういうことだ……何故母上がここにいる!!私と勇者との闘いに巻き込まぬよう母上にも城から退避してもらっていた筈!!」
大魔王「言ったろ、保険だとな。貴様が新世界で私に反逆を企てた時のために数日前から私が幽閉していたのだが……まさかこんなかたちで彼女を人質として使うことになるとは私も思わなかったよ」クククッ
勇者「テメェ……何から何まで歪んでやがる……!!!!」キッ
黒の王妃「う……」ピク
そこで黒の王妃が意識を取り戻した。
ゆっくりと瞼を開ける。
黒の王妃「……ま、魔王?」
魔王「母上!!」
黒の王妃「そして……隣にいるのは……勇者君ね、若い頃の大勇者さんそっくりだわ……」
魔王「待っていて下さい!!母上、すぐ私達が……!!」
大魔王「おっと、私がそう簡単に彼女を解放すると思うか?」
勇者「ぐっ……!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:38:14.51 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王は醜い笑みを浮かべて勇者達に指示を出す。
大魔王「聖剣と魔剣を鞘に納めてこちらに投げ捨てろ。さすれば彼女を解放してやる」
魔王「…………」ギリッ
勇者(ふざけんな……そんなことしたら5秒とかからずに俺達は殺される……!!)
黒の王妃「私には状況はよく分かりませんが……私が魔王の枷となってしまっているということは分かります……」
黒の王妃「魔王……私に構うことはありません」
魔王「しかし!!」
黒の王妃「言ったでしょう? あなたがどんな選択をしても私はあなたの味方だと」
大魔王「……余計なことは言わなくてよいのだ」
ドスッ
反抗的な王妃の態度に苛立った大魔王は表情を変えずに妖剣を彼女の大腿部に突き刺した。
黒の王妃「うぅっ!!」
勇者「テメェ!!!!」
激痛に王妃は顔を歪め呻き声を上げた。
足から流れ出る血が彼女の服に赤い染みを作る。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:39:33.39 ID:OfcM5hZm0<> 黒の王妃「……魔王……」
痛みに耐えながら王妃は魔王の瞳をじっと見つめた。
その目は芯の強い女性のものであり、優しく温かい母親のものであり、気高く高貴な王族のものであった。
魔王「…………」
そんな彼女の眼を黙って見つめていた魔王はやがて口を開いた。
魔王「……分かりました、母上」
勇者「魔王!?」
大魔王「貴様……正気か!?」
魔王の一言に勇者だけでなく大魔王もが驚きの声を上げる。
魔王「……100代目魔王として私はこの黒の国の民を、世界に住む全ての人々を守らなければなりません」
魔王「そのために実の母の犠牲が必要とあれば……私は……」
勇者「でも!!」
黒の王妃「良いのです、勇者君……」
勇者「王妃様……」
黒の王妃「親はいつだって子の幸せを願うものよ」フフッ
魔王「……私の……私と勇者の目指す平和な世界を是非母上にも見ていただきたかったです……」チャキッ
魔王は魔剣を構え直した。
その手に力を込める。
勇者「やめろ!!魔王ぉ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:41:36.67 ID:OfcM5hZm0<> ――――魔巌の砦
魔法使い「まったく、キリがないね…………」ハァハァ
側近「くっ……!!」ハァハァ
僧侶「が、頑張って、みんな……」ハァハァ
武闘家「参りましたね、どうも」ハァハァ
「コフー!!コフー!!」
「グルルルル……!!」
勇者と別れてから武闘家達は襲い来る狂戦士達を全力で迎え撃っていた。
肉体を限界を超えて強化された彼らの強さは驚異的ではあったが戦闘力に関しては武闘家達の方が上回っていた。
だが彼らの真に恐ろしいところはその戦闘力ではなかった。
並外れた生命力……タフネスだ。
一度死してその肉体を魔力によって動かしている彼らは疲れを感じなければ痛みも感じない。
戦闘前に武闘家が魔法使いに言ったように『バラバラの粉々の木っ端微塵』になるまで襲いかかってくるのだ。
腕が吹き飛ぼうと脚がもげようとお構い無し、ひどい者では頭だけで噛みついてこようとした者までいた。
対して武闘家達は徐々にその身に疲労が溜まりつつあった。
狂戦士の軍勢に魔力とスタミナを温存して闘う余裕など無く、このままではじり貧は免れない。
圧倒的な強さでたった四人で狂戦士達をおよそ半数倒した武闘家達だったが、このままでは狂戦士達を倒すよりも先に彼らの肉体が限界を迎えてしまうだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:42:40.47 ID:OfcM5hZm0<> 魔法使い「勇者はまだなの? 魔王を説得するだけにしては遅すぎるんじゃない?」ババッ!!
魔法陣の術式を組みながら魔法使いが不満を言う。
片腕の狂戦士「ガアアッ!!」バッ
顎の無い狂戦士「コォー!!」バッ
両足の無い狂戦士「ゲギャギャギャ!!」バッ
魔法使い「んもう、しつっこい!!!!」
カアアアァァァァッ!!!!
魔法使い『五重風撃魔法陣・真』!!!!
ビュォォォォオオオオ!!!!
ザザザザザザンッ!!!!
狂戦士達「ギャア!?」
発動させた風撃魔法が飛びかかってきた狂戦士達の身体を切り刻んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:43:48.53 ID:OfcM5hZm0<> 肩で大きく息をする魔法使いと背中合わせに立ち武闘家が言う。
武闘家「……よくは見えませんでしたが先ほど城の方で爆発があったみたいです」
僧侶「え……まさか……説得に失敗して……!?」
驚き焦る僧侶を側近が冷静に諭す。
側近「……魔王様が勇者さんと闘わずに世界を救う方法があると知ってその考えを受け入れないとは私にはとても思えません」
武闘家「えぇ、僕もそう思います……ですからなんらかの事情で不測の戦闘に巻き込まれたと考えるのが妥当でしょう」
僧侶「……だ、大丈夫かな……勇者君……」
武闘家「何があったにせよ僕達は勇者を信じて待つことしかできません……」
僧侶だけでなく武闘家も顔に不安が見てとれる。
それは魔法使いも側近も同じだった。
武闘家「とにかくここはなんとかして僕達だけで切り抜けるしかなさそうですね」
魔法使い「やっぱりそうなるよねぇ……」
側近「ですが正直厳しいですね……彼らと違って私達には魔力にも体力にも限界があります。このままでは……」
武闘家「…………」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:45:40.98 ID:OfcM5hZm0<> 現状を冷静に分析した結果、側近と武闘家は絶望的な状況と、いずれは破滅が待ち受けていることを理解した。
顔を曇らせていく二人に僧侶が言う。
僧侶「それでも……それでも勇者君が頑張ってるのに私達が根を上げる訳にはいかないよ!!」
力強く彼女はそう言った。
眼には強い光が宿っている。
そんな僧侶を見て仲間達の瞳にも輝きが蘇る。
側近「……失礼しました。私としたことが少々悲観的になっていたようです……」
魔法使い「……そだね。大丈夫、あたしはまだまだやれるよ!」ニコッ
武闘家「ふふっ、僧侶さんの言う通りですね」
武闘家「最後の最後まで僕達は自分達にできることをやるだけです、力尽きるまで目いっぱい暴れてやりましょう!!」
魔法使い「おー!!」
僧侶「うん!!」
側近「えぇ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:46:55.18 ID:OfcM5hZm0<> 彼らが再び構えをとった時、重々しい男の声が聞こえた。
『裏魔法陣・暴龍』!!!!
ゴオオオオォォォォォッッ!!!!
「グギャッ!?」
「ギャーッ!?」
その声が響いたかと思うや風撃魔法により形作られた巨大な竜巻の龍が戦場を駆け抜けた。
十人以上の狂戦士達が風の龍に飲み込まれ吹き飛ばされる。
武闘家「!?」
僧侶「今のは一体!?」
武闘家達の背後から鎧に身を包んだ中年の男が現れた。
顔にある幾つもの傷は彼が戦に生きてきた年月の長さを物語っているかのようだ。
傷の男「よく言った、それでこそ100代目勇者の仲間達だ」ニッ
魔法使い「だれ?」
傷の男「おいおい、お嬢ちゃん、誰は酷いんじゃないか?」
僧侶「あ、あなたは……!!」
武闘家「裂空の勇者さん……!?」
側近「!?」
武闘家達は突如としてこの場に現れた一人の勇者に驚きのあまり言葉を失った。
黄の国の裂空の勇者と言えば99代目勇者の座を大勇者と争った実力者だ。
鍛え抜かれた肉体と風撃魔法で勇者達の生まれる前から戦場を駆け抜けてきた猛者である。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:47:49.33 ID:OfcM5hZm0<> 裂空の勇者「おうよ、思い出したかい?」ニッ
魔法使い「……誰だっけ?」
武闘家「ほら、去年の勇者候補達の試合で会ったじゃないですか」
魔法使い「あー、6勝してたのに最後の試合に勇者に開始2秒で負けたあの人か!!」
裂空の勇者「うっ……そりゃ間違いじゃないけどよ、ありゃ瞬天の坊主が反則じみてただけだ」ポリポリ
彼はばつの悪そうな顔で頭を掻いている。
そんな裂空の勇者に武闘家が不思議そうに尋ねる。
武闘家「でもあなたがどうしてここに……?」
「裂空の勇者さんだけじゃありませんよっ!!」
武闘家「!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:49:09.63 ID:OfcM5hZm0<> 『裏魔法陣・星空』!!!!
カアアアァァァァッ!!
夜の空に鮮やかな幾つもの光の玉が現れた。
それが目映く青く輝いたかと思うとまるで流星群の様に大地に降り注ぐ。
ドドドドドドドドドドッッ!!!!
「ガ……ア……!?」ピキピキ
「!?!?!?」パキパキ
光に撃ち抜かれた狂戦士達は一瞬の内に美しい氷の彫刻となってしまった。
戦場にはいくつもの氷像が芸術的に立ち並んでいる。
武闘家「この氷撃魔法は……!!」
美しいまでに洗練された氷撃魔法を見て武闘家はその魔法を放ったのが誰なのかすぐに分かった。
彼がその名を呼ぶよりも早く少年の声が聞こえた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:50:23.37 ID:OfcM5hZm0<> 星氷の勇者「はいっ、僕ですよ、武闘家さん!!」
弓術士「やっほー僧侶ちゃんっ!」ヒラヒラ
聖騎士「よく持ちこたえたな」
賢者「皆さん大丈夫ですか!?」
青の国の100代目勇者候補、星氷の勇者一行がその場に現れた。
先の青の国への奇襲攻撃では彼らを助けた武闘家達だったが、今こうして彼らに助けられることになろうとは夢にも思わなかった。
側近「彼らは……?」
魔法使い「青君だよ!!」
側近「あ、青さん……ですか?」
僧侶「100代目勇者候補の星氷の勇者とそのお仲間さん達です!!」
「まだまだいるぜっ!!」
気合いのこもった女性の声が聞こえた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:51:32.21 ID:OfcM5hZm0<> 『裏魔法陣・獄炎大火葬』!!!!
カアアアァァァァッ!!!!
ドドドドドドドドドドッッ!!!!
ゴオオオォォォォ!!!!
「ギャウッ!?」ボゥッ
「ギャアァァ!!」ジュワッ
戦場に多数の魔法陣が展開されると、そこから巨大なマグマの柱が吹き出してきた。
氷の彫刻達は一瞬にして溶け、火柱の直撃を受けた狂戦士は灰すら残さず消し飛んだ。
鋭い眼の女性「アタシを忘れてもらっちゃ困るね!!」
武闘家「煉撃の勇者さんまで……!!」
大火力の炎撃魔法の使い手である彼女は煉撃の勇者、赤の国の100代目勇者候補である。
去年の勇者候補達の試合では星氷の勇者と激戦を繰り広げ、会場をおおいに沸かせた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:52:43.19 ID:OfcM5hZm0<> 戦場の氷が彼女の手によって蒸発してしまったので星氷の勇者はすぐに不満を漏らした。
星氷の勇者「あぁ!!せっかく凍らせたのに溶けちゃったじゃないですか!!」
煉撃の勇者「アタシがいるのに氷撃魔法なんて使うアンタが悪いんだよ」ハンッ
星氷の勇者「だったら僕がいるのに炎撃魔法を使うあなたも悪いですよ!!」
煉撃の勇者「なんだい、文句があんならやるかい?」
星氷の勇者「いいですよ、1年前の試合の時みたいにまた僕が勝たせてもらいますよ」
煉撃の勇者「ほほーぅ、いい度胸だ……魔族より先にアンタを炭にしてやるよ」ピクピク
勇者達の闘いが始まりそうになったところで仲間達が止めに入る。
聖騎士「そこまでにしておけ」グイッ
星氷の勇者「あう、すみません……」
弓術士「ね、煉撃ちゃんもそこらへんにして」ムニッ
煉撃の勇者「アンタはどこ触ってんだ!!」
ゴンッ!!
弓術士「ふがっ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 11:53:44.26 ID:OfcM5hZm0<> 頭を押さえて痛みを堪える弓術士をよそに武闘家がこの場に現れた勇者達に尋ねる。
武闘家「しかし皆さんが一体どうしてここに……」
星氷の勇者「勇者さん達が世界を救うために黒の国に戦いに行っているから力を貸してくれって頼まれたんですよ」
裂空の勇者「ったく、こっちの都合なんてまるでお構い無しだもんなぁ」ハァ
煉撃の勇者「いくらなんでもあの人に頭下げて頼まれたら断れないって」アハハ
裂空の勇者も煉撃の勇者もそう言って苦笑している。
魔法使い「え、誰?」
僧侶「勇者候補達みんなにお願いできるようなすごい人なんて……」
武闘家「…………僕は1人しか知りませんね」フフッ
三人の勇者達をこの場へ援軍として向かわせたのが誰だか分かり武闘家は静かに笑った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/06(日) 11:57:57.76 ID:OfcM5hZm0<> ――――魔王の城・大広間
魔王「…………」ググッ
勇者「やめろ!!魔王ぉ!!」
母もろとも大魔王へ斬りかかろうと魔王が足先へ力を込めた。
勇者は彼女を止めようと叫んだ。
その瞬間、大広間に男の低い声が響いた。
『八重雷撃魔法陣・轟』!!!!
勇者・魔王・大魔王「!?」
バリバリバリバリッッ!!!!!!
耳をつんざく轟音と共に凄まじい雷撃が大魔王へと襲いかかる。
大魔王「くっ!!」バッ
大魔王『七重防壁魔法陣・断』!!!!
ズガアアァァァーーンッッ!!!!
大魔王「ぐ……ぬぅ!!」ググッ
多重防壁魔法陣と言えどその大規模な雷撃魔法を完全には無力化することができず大魔王は魔力を防壁へと集中して必死にその雷撃に耐えている。
シャッ!!
大魔王「!?」
突如黒い影が大魔王の前へと踊り出た。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:00:08.65 ID:OfcM5hZm0<> 「はあっ!!」ビュッ!!
ドゴッ!!
大魔王「がっ!!」ヨロ
雷撃魔法への防御に意識を集中させていた大魔王はその影の奇襲に対応できず、蹴りをもろに腹部に食らってよろけた。
痛みにより王妃の襟首を掴む力が弱まり王妃が解放される。
ガシ
タンッ!!
スタッ
倒れる黒の王妃を両手で抱き抱えるとその影は大魔王の懐を一瞬で離れ、瓦礫の上へと着地した。
魔王「な、なんだ……?何者だ……!?」
勇者「…………」
突然の出来事に唖然とする魔王。
だが勇者は瓦礫の上へに悠然と立つその男が誰なのかよく知っている。
嬉しそうに、しかし皮肉を込めて、勇者は彼へと言った。
勇者「遅いぜ、『白雷の勇者』……!!」
大勇者「待たせたな、馬鹿息子」フッ
魔王「まさか……大勇者さん……!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:01:24.97 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者に抱えられたまま黒の王妃は彼の顔を見た。
歳はとっているが昔と変わらず凛々しいままだ。
黒の王妃「大勇者さん……」
大勇者「すみません王妃様、少々手荒な真似になってしまいました」
黒の王妃「いえ、助けていただいてありがとうございます」
大勇者「お久しぶりです……10年ぶりでしょうか?」
黒の王妃「……そうですね、緑の国で剣士さんの家でお会いして以来ですね」
黒の王妃「……お髭、似合っていますわ」フフッ
大勇者「あなたは変わらず美しいままですな」フフッ
黒の王妃「あら、ありがとうございます」ウフフ
嬉しそうに笑ってから王妃はちらと勇者を見て言う。
黒の王妃「息子さん、若い頃のあなたにそっくりですね」
そう言われて大勇者は魔王を見た。
不思議そうにこちらを見ていたのでその顔がよく見えた。
大勇者「娘さんはやはりあなたにそっくりだ。……いや、今こうして見るとアイツにも似ていますな」フッ
黒の王妃「私もそう思っています」フフッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:02:59.91 ID:OfcM5hZm0<> 談笑している父に勇者が話しかける。
勇者「ったく、助けに来るならもっと早く来いよ」チッ
大勇者「何故か転移魔法で城に跳べなくてな、近くの山に跳んでそこから走ってきたのだから仕方ないだろう」
大勇者がそう言うと背後から二つの影が現れた。
一つは巨大な剣を担いだ筋骨隆々の大男、もう一つは小柄な老人のものだ。
店主「やれやれ、やっと追いついたわぃ」
剣士「1人で勝手に行っちまいやがって……」フゥ
勇者「剣士のオッチャン!!……ってなんで酒場の爺ちゃんがいんだよ!?」
店主「おぉ、勇者、どうやら無事なようじゃな」フォッフォッ
勇者「見物に来たならさっさと帰れ!!危ねぇぞ!!」
勇者が店主に叫んでいると大魔王が怒りを露にしながら立ち上がった。
大魔王「くっ……人質を救出されるとは不覚……!!」ギリッ
大魔王「こうなれば王妃共々消し飛んでもらうぞ!!」バッ
勇者「やべぇ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:04:29.22 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王『七重炎撃魔法陣・獄』!!!!
ゴオオオオォォォォッッ!!!!
店主「七重炎撃魔法とは……こりゃこっちも本気じゃなきゃ相殺できんな」
店主はそう言うと両の手を迫り来る業火へと向けた。
カアアアアアァァァァァッ!!!!
勇者「!?」
店主の目の前に巨大な六つの赤く輝く魔法陣が展開される。
しわがれていて、だが力強い声で店主が叫ぶ。
店主『四重炎撃魔法陣・獄』!!
店主『四重氷撃魔法陣・絶』!!
店主『四重爆撃魔法陣・滅』!!
店主『四重風撃魔法陣・真』!!
店主『四重雷撃魔法陣・轟』!!
店主『四重重撃魔法陣・崩』!!
ドドドドドドッッッ!!!!!!
カッ!!!!!!
ドッガアアアアアァァァァァン!!!!
大魔王「ぬぅ……!!」ビリビリ
店主の放った六種の四重最上級魔法と大魔王の炎撃魔法とがぶつかり閃光とともに凄まじい爆音を響かせた。
高密度の魔力がぶつかり合ったことで生じた大爆発が周囲の大気を揺らす。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:05:47.50 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「な……えぇ……!?」
勇者は酒場の店主が最上級魔法陣を多重展開してみせたものだから呆然として言葉も出ない。
そんな勇者に店主は笑って言う。
店主「フォッフォッ、驚いたかの?」
店主「爺は無駄に長生きなもんじゃから秘密の1つや2つあるもんなんじゃよ」フォッフォッフォ
大勇者「異なる属性の攻撃魔法は同時に多数展開できないハズなのだが……」
店主「なぁに、ちょっとしたコツの問題じゃよ」
大勇者「……まったく、相変わらず恐ろしい爺さんだ」フッ
剣士「ホントだぜ、現役退いて20年近いってのによ」
大勇者「それはお前も同じだろう。お前は大丈夫なのか?」
剣士「まぁな、田舎暮らししてても鍛練は一日たりとも欠かしてねぇからな!!」ドンッ!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:07:30.01 ID:OfcM5hZm0<> 剣士は背負っていた大剣を構えて大魔王へと飛びかかった。
重厚な鈍い輝きを放つその黒刃の大剣を振りかぶり思いきり大魔王目がけて振り下ろす。
剣士「オラアァッ!!」ブンッ!!
大魔王「チッ」サッ
ドガアアァァンッ!!
剣士の太刀により大広間の床が広範囲に亘り吹き飛んだ。
そのまま身体全体を使って大剣を繰ると横薙ぎへと繋げ大魔王を狙う。
剣士「せいやぁ!!」ブンッ!!
大魔王「くっ!!」バッ
ガキイィィーーーン!!!!
剣士「んぁ!?」ズザー!!
大魔王「ぬっ!!」ズザー!!
大剣と妖剣とかぶつかり合い両者はその衝撃により吹き飛ばされる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:10:06.40 ID:OfcM5hZm0<> 店主「世界で最も重い金属『黒山鋼』……それで造られたあの大きさの剣を振り回すとは剣士も昔と変わらぬ剛腕じゃな」フフッ
大勇者「まったくだ……だが魔将軍の奴は私達の知る魔将軍ではないようだな」
店主「……うむ、昔の奴なら最上級魔法陣の多重展開は五つがやっとだったハズじゃ」
大勇者「剣士の剛剣を受け止めれば私でも一方的に吹き飛ばされるぞ……一体あの力は……」
考えられない程に力を増している魔将軍に疑問を持つ大勇者達に勇者が言う。
勇者「妖剣の加護だ!!」
大勇者「妖剣?」
魔王「新型の魔力増幅装置です!!」
魔王「妖剣の加護により圧倒的な力を得た叔父上は自らを大魔王と名乗り世界を完全に黒の国の支配下に置くつもりなのです!!」
大勇者「何? だが戦争が無くなれば神樹への魔力供給が……そのことは奴も知っている筈だ」
勇者「アイツは黒の国以外に住む人間のことを家畜みたいに扱うつもりなんだ!!魔族だけが生き残るために支配下に置いた人間を生ませては殺していくって!!」
店主「なんと……」
大勇者「歪みきっているな……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:12:47.06 ID:OfcM5hZm0<> トンッ!!
ザザッ!!
大魔王と剣を交えていた剣士が飛び退いて大勇者達のところへやってきた。
剣士「おい、どうなってやがる!?アイツ昔と比べ物にならねぇくらい強いじゃねぇか!!」
大勇者「あぁ、なんでも大魔王とか言うらしい」
剣士「魔王の中の魔王ってか? チッ、実力が伴ってなけりゃ鼻で笑ってやったのにありゃマジでそんぐらい強ぇぜ……」
勇者「だけど……」
魔王「うん!」
大勇者「我々が力を合わせれば相手が何者であろうとも勝てぬ筈がない!!」チャキッ
王妃をその場に下ろすと大勇者は背負っていた剣を抜いて構えた。
剣士達もそれに続く。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:31:50.08 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「王妃様、ここからはさらに戦いの激しさを増すでしょう、どうか安全なところへ」
王妃「えぇ、ですが先ほどから転移魔法が使えず……」
困惑する王妃に勇者が言う。
勇者「大魔王のせいだ。アイツが転移魔法を無効化する結界を城全体に張ってるって言ってた」
店主「なら走って城からある程度離れれば転移魔法が使えるようになるじゃろう」
話しながら店主は回復魔法陣を展開していた。
王妃の足の傷はもうすっかり塞がっている。
大勇者「おそらく店主の言う通りだろう。ここからうんと離れた安全なところへ避難していて下さい」
黒の王妃「……分かりました、私がいても足手まといですし私は皆さんの勝利を願うことにします」
そう言ってこの場を去ろうとする王妃に自己嫌悪でいっぱいの顔で魔王が話しかける。
魔王「母上、先ほどはすみませんでした……私は母上を……」
黒の王妃「いいのよ、あなたの決断は魔王として当然の決断。むしろその決断をできたこと、私は黒の王妃として誇らしく思うわ」
魔王「…………その言葉、深く胸に刻みます……」
黒の王妃「……ではみなさん、後はお願いします。彼の狂った野望を止めて下さい」
勇者「おう!!」
魔王「……はい!!」
黒の王妃「では、みなさんにご武運があらんことを……」
王妃は頭を深く下げてその場を去って行った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:34:51.25 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「さて…………」
大勇者は大魔王へと向き直った。
彼は剣を構えて忌々しそうにこちらを睨んでいる。
大魔王「勇者と魔王、大勇者、剣士、そして大賢者が相手か…………これではいくら私と言えども分が悪いな」
大勇者「分かっているのなら大人しく剣を納めろ。新しい世界は我々ではなく新しい世代が作っていくものだ」
大勇者の言葉に耳を貸すこともせずに大魔王はブツブツと独り言を言っている。
大魔王「……出来ればこの手は使いたくはなかった……何が起こるか分からないからな……だがこうなればそうも言ってはいられまい……」
魔王「何か始める気か……?」
勇者「また新しい人質とかか?」ハンッ
大勇者「その程度ならまだいいがな……」チャッ
大魔王「願わくは私の理性の欠片が残っていることを……」チャキッ
大魔王はそう言うと妖剣を持ち変えその剣先を自身へと向けた。
勇者「!?」
大魔王「ふんっ!!」ビュッ!!
ドスッ!!
ビシャァ!!
魔王「なっ……!!」
そして妖剣を自身の胸へと突き刺した。
彼の胸からはおびただしい量の血が止めどなく噴き出している。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:35:48.58 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「……がふっ!!」ビチャッ
剣士「なんだなんだ、勝てないと分かって自害か!?」
大勇者「……いや、違う……!!」
カアアアアァァァァ!!!!
大魔王を中心に紫色の魔法陣が展開される。
店主「な、なんじゃあの魔法陣は……今まで見たこともないほど禍々しい魔力で溢れておる……!!」
大魔王は血を吐きながら狂気を孕んだ笑みで勇者達を見て言った。
大魔王「…………死して私に歯向かったことを後悔するのだな……」ニタァ
大魔王『裏……魔法陣・狂魔……転成』!!!!!!
ドウッ!!!!!!
魔法陣からおぞましい魔力が噴き出してくる。
赤黒いその魔力は怨み、妬み、憎しみ、悲しみ……あらゆる負の感情を表しているかのようだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:37:17.10 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「がっ……!!……ぐぅ……がが……がああ……!!!!」ドドドド!!
負の魔力が大魔王の身体を包み込み彼の体内へと入り込んでいく。
ドクンッ!!ドクンッ!!
心臓と一体化した妖剣が不気味な鳴動を始める。
メキメキ……!!
ビキビキビキ……!!
大魔王の身体は何倍にも膨れ上がり、筋肉は隆起し血管が身体中に浮き出ている。
ギョロッ
ギョロロッ
身体中のあちこちに気味の悪い目玉が現れる。
大魔王「う…………がああぁぁあぁあぁぁあああぁ!!!!!!」
ドンッッッ!!!!!!!!
ゴウッッッ!!!!!!!!
勇者「ぐっ……!!」ビリビリ
魔王「つぅ……!!」ビリビリ
開放された膨大な魔力が城全体を激しく揺さぶった。
大魔王「グアアアアァアァアァァァァァ!!!!!!」フー!!フー!!
赤く輝く不気味な眼で荒々しい呼吸をする大魔王はもはや人と言うよりは巨大な魔獣だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:39:23.58 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「クハはハハ……素晴ラしイ……素晴ラしい気分ダ……今ナラ容易くコノ世界ヲ滅ぼセる気ガする……!!」フー!!フー!!
勇者「なんだこれ……悪い冗談だろ……?」
剣士「……こいつは洒落になってねぇな……文字通り化け物だ……」ゴクッ
魔王「叔父上…………」
大勇者「……爺さん、今の奴をどう見る?」
店主「尋常ではない魔力に膨れ上がった筋肉と浮き出た血管……そしてあの赤い眼……信じがたいことじゃが魔獣堕ちしているとワシは思う」
大勇者「そうか……残念だよ。私も同じ意見だ」
狂戦士と化すことで圧倒的な力を得た大魔王に一気に絶望する勇者達。
そんな彼らを見て満足げに笑うと大魔王は四つん這いになり大きく口を開けた。
大魔王「消え去レ人間共ヨ!!!!」カパッ
キイイィィィン!!!!
彼の持つ膨大な魔力が一点に集中して圧縮されてゆく。
その魔力の球体が持つ破壊力を直感的に理解した大勇者が叫ぶ。
大勇者「不味い、避けろ!!」バッ!!
勇者「チッ!!」バッ!!
魔王「くっ!!」バッ!!
キュバッ!!!!!!
勇者達がその場を避けた直後、黒い閃光が一筋走った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:40:38.62 ID:OfcM5hZm0<> ズオッッッ!!!!
ドッガアアアアアアァァァァァンッッ!!!!
閃光の先、魔王の城の西にあった小さな山が爆音とともに消し飛んだ。
信じられない眼前の光景に勇者達は言葉を失っている。
魔王「な…………」
勇者「おいおい…………マジかよ」
剣士「山一つ吹っ飛んでるぜ……」
間髪を入れずに大勇者が動いた。
大勇者「爺さん、合わせろ!!」
店主「了解じゃ!!」
二人は大魔王へと手をかざし叫ぶ。
大勇者『九重雷撃魔法陣・閃』!!!!
店主『十連三重雷撃魔法陣・閃』!!!!
ズガガガガーーーーーン!!
バリバリバリバリバリバリッッ!!!!
一本に収束された魔力のいかずちが大魔王の身体を撃ち抜かんとする。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:41:23.15 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「……コザかしイ」ギンッ
ブワッ!!!!
シュウゥゥゥ……
フッ……
大魔王が怪しくその瞳を光らせた。
彼の身体を包むように黒い霧のようなものが現れたかと思うと大勇者達の放った雷撃を消し去った。
大勇者「何!?」
店主「なんじゃあの黒い衣は!?」
驚く大勇者達。
勇者と魔王は再び現れた闇の衣を見てじっとりと汗をかく。
勇者「あれは……!!」
魔王「高密度の魔力によって魔法を無力化する衣です……あれがある限り大魔王には魔法は一切効きません……!!」
剣士「いよいよもって反則だな、おい……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:42:51.88 ID:OfcM5hZm0<> 絶望する彼らをよそに大勇者は何かを考えているようだった。
やがて決意したように大魔王を睨むと静かに口を開いた。
大勇者「…………剣士、爺さん」
剣士「あん?」
店主「なんじゃ?」
大勇者「奴は私達だけでなんとかするぞ」
剣士「はぁ!?」
勇者「何言ってんだ親父!?俺達も闘う!!」
魔王「そうです!!5人で力を合わせれば……!!」
異議を唱える勇者達に大勇者は言う。
大勇者「勘違いするな、勿論お前達にも闘ってもらう」
大勇者「お前達には奴の魔力の衣を打ち破ってもらいたい」
勇者・魔王「!?」
大勇者「あの黒い衣……高密度の魔力によって形成されているらしいな」
魔王「は、はい。叔父上がそう言っていました」
大勇者「ならそれを超える超高密度の魔力ならばあの衣を破れるハズだ。その一撃で奴の魔力の源となっている妖剣を破壊しろ」
勇者「ちょ、ちょっと待てよ!!さっき俺と魔王の七重炎撃魔法二発でも破れなかったんだぜ!?親父と店主の爺ちゃんの一点集中の雷撃魔法でも破れなかったしそんな超高密度の魔法なんてねぇよ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:44:21.83 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「いや、ある」
勇者「!?」
魔王「……まさか……!!」
大勇者に断言されて魔王はある一つの魔法を閃いた。
少し遅れて勇者も同様にその魔法を思い浮かべる。
大勇者「今のお前達にならできるハズだ……何より勇者は私の、魔王ちゃんはアイツの子だ。きっとできるさ」
勇者「……でも俺達が魔法を発動させる間親父は……」
心配そうに自分を見る息子に父は笑って答えた。
大勇者「なに、私は大丈夫だ。お前も見たろ?今の私は八重最上級魔法陣の展開ができる」
大勇者「長く聖剣と契約し続けてきたことでこの身体にまだ聖剣の加護の効力が残っているいるようだ、心配はするな」フッ
勇者「…………」
大勇者「だが……それでもあまり時間は稼げん。……上手くやれよ」
勇者「……わかった!!」
魔王「必ず成功させてみせます……!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:46:19.35 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「良い返事だ。よし、やるぞ。剣士、爺さん」
二人の返事を聞いて大勇者は魔獣と化した大魔王へと歩き出した。
剣士「やれやれ、ホント損な役回りだぜ」ハァ
店主「まったくじゃな、安酒代じゃ割りに合わんよ」フォッフォッ
大勇者「文句を言うならお前達を私の仲間にした運命に言うんだな……行くぞ!!」ドンッ
剣士・店主「あぁ!!」ドドンッ
大勇者『裏魔法陣・亜音』!!!!
剣士「チェストオオォォォ!!!!」
店主『四重爆撃魔法陣・滅』!!!!
大魔王「クハハハははハハ!!私ノ圧倒的な力の前でハ貴様ラナど虫ニ等しイ!!貴様ラヲ消し去リ世界を魔族のもノニシてクレようゾ!!!!」
ドガアアァァン!!!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:48:27.87 ID:OfcM5hZm0<> 激しさを増す父達の戦いを見ながら勇者は父に不満をたれた。
勇者「……ったく、簡単に言ってくれるよな、あの親父……」
魔王はそんな勇者を励ますように明るく言う。
魔王「でもわたし達のこと信じてくれてるってことでしょ」
勇者「……そうだな」
魔王「きっとできるよ。なんだか……父上が力を貸してくれる気がする」フフッ
勇者「俺も、親父にできることぐらいやってみせねぇとな」ヘヘッ
笑い合うと二人は剣を身体の前に構え両手で持った。
勇者「…………」チャッ
魔王「…………」チャッ
目を閉じ精神統一を始める。
魔力を深く深く研ぎ澄まし、その両手へと集中させていく。
勇者「…………よしっ!!!!」カッ
魔王「…………いくよ!!!!」カッ
十分に魔力の収束が済むと目を見開き思い切り魔力をスパークさせる。
勇者・魔王「はああああぁぁぁぁっ!!!!」
バリバリバリ!!!!
メラメラメラ!!!!
両の手の甲に拳大の魔法陣が展開される。
魔法陣から魔力が溢れ手にした剣へと伝っていく。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:50:06.87 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「もっと……もっと強く……!!!!」
勇者は聖剣に伝う魔力をさらに強めようとする。
こんなものでは大魔王の闇の衣を切り裂くには魔力が足りない。
魔王「もっと……もっと細く……!!!!」
魔王は魔剣に伝う魔力をさらに圧縮しようとする。
これではただの攻撃魔法と同じ、もっと薄く細く剣の形に魔力をとどめなければならない
勇者「もっと激しく……!!」
バチバチバチ……!!!!
勇者の勇気に呼応するように聖剣を取り巻く雷撃がその激しさを増していく。
魔王「もっと熱く……!!」
ゴオオオォォ……!!!!
魔王の想いに応えるように魔剣を取り巻く火炎がその火力を増していく。
勇者「もっと……!!!!」
バチバチ……バチチチチ!!!!
聖剣を覆う高密度の魔力は次第に弾ける音を強くしていき、圧縮されていく雷撃は青から紫へそして白へと輝きを変えていく。
魔王「もっと……!!!!」
ゴオオオ……ォォオオオ!!
魔剣を覆う高密度の魔力は次第に燃え盛る音を強くしていき、圧縮されていく炎撃は赤から青へ、そして黒へと色を変えていく。
勇者・魔王「もっと!!!!!!!!」
カッ!!!!
ドンッッ!!!!
二人が叫ぶと聖剣と魔剣が光輝いた。
続いて彼らを中心に凄まじい魔力の奔流が吹き荒れる。
今、二人の手には光輝く魔力の剣が握られていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:51:35.60 ID:OfcM5hZm0<> 剣士「うらぁっ!!!!」ブンッ!!
剣士は大剣自身の重さを利用し全力で大魔王の足へと剣を振り抜いた。
ガキィーーン!!!!
が、彼の足を切り落とすことは敵わず剣を鈍い衝撃が伝わる。
剣士「かってぇ!!なんだこいつの皮膚!?」
大魔王「効かヌ!!」ビュッ
剣士「っと!!」サッ
ドゴオッ!!
繰り出された大魔王の拳を間一髪で避ける剣士。
地面が吹き飛ぶほどの一撃だ、直撃しては全身複雑骨折だろう。
カアアアァァァッ!!
大魔王を中心に赤く光を放つ巨大な魔法陣が展開される。
店主『四重重撃魔法陣・崩』!!!!
ズンッッッ!!!!!!
その場に通常の何百倍もの重力がかかる。
大広間の石畳は亀裂が入り粉々に砕け、重撃魔法が作用した場所が円形に凹んでいる。
しかし闇の衣に覆われた大魔王は店主の重撃魔法を全く苦にもしていない。
店主「む……これでも駄目か」
大魔王「効カぬ効かヌ!!!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:52:50.20 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王が店主へと攻撃をしようとした時、大勇者が爆撃魔法を放った。
大勇者『八重爆撃魔法陣・滅』!!!!!!
カッ!!!!
ドガアアアアァァァァンッッ!!!!!!
大気と大地を激しく揺さぶる大爆発。
この爆発をまともに受けては普通の人間ならば身体がバラバラに吹き飛んでしまうだろうし、まともに立っていられる者すらいないだろう。
ブワッ!!
大魔王「効カヌと言っテイいる!!」ビュワッ!!
大勇者「くっ!!」
しかし、もうもうと立ち込める爆煙の中から現れた大魔王は無傷であった。
その手のひらで大勇者を押し潰そうと攻撃を仕掛ける。
ガキィーーン!!!!
大勇者「……ぐ……うぅ!!」グググッ
大勇者は両手で剣を抑えるようにしてなんとか大魔王の攻撃に耐えている。
肉体強化魔法で身体を強化しているとはいえ身体中の骨が軋み筋肉が悲鳴を上げている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:54:58.68 ID:OfcM5hZm0<> 大魔王「無駄だ……無駄なノだ!!」
大魔王「私は今ヤコの世界ノ頂点、全テの生物を超越シた存在トナったノだ」
大魔王「たカダカ貴様ら数匹の人間ごトキが敵ウ訳ガナいのだ、ソれが何故分かラん!!!!」グッ
大勇者「ぐっ……!!」ミシミシ
大魔王は大勇者を押しつける右手にさらに力を込める。
大勇者の周りの地面はその圧力に陥没し始める。
大勇者自身ももう限界だろう。
だが彼は笑って言った。
大勇者「……フッ、分かっていないのは貴様の方だ、"魔将軍"」
大魔王「何……?」ピクッ
大勇者「言ったろ、新しい世界を作るのは新しい世代だと」
大勇者「未来を想う力は何よりも強い、希望を信じる心は何よりも強い!!」ググッ
大勇者「絶望的な闇が目の前を覆い尽くそうとも!!心に信じる希望があれば、人はいかなる時も光を目指して真っ直ぐに歩いていけるのだ!!!!」グググッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:56:15.82 ID:OfcM5hZm0<> ドンッッッ!!!!
大勇者が叫ぶのと同時に彼の背後では魔力が弾ける音が聞こえた。
音の中心には光輝く剣を手にした勇者と魔王が立っている。
大魔王「!? ナンダ!?」
大勇者「ようやくか……待たせおって」フッ
そう言って笑うと大勇者は勇者達に叫んだ。
大勇者「ブチかませえぇ!!!!!!」
大勇者の声を聞き二人は静かに構えをとった。
真っ直ぐに大魔王を見据えるとその手にさらに力を込める。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:57:27.92 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「やるぞ、魔王!!」
魔王「うん、勇者!!」
勇者・魔王『裏魔法奥義……』スッ
声を合わせて、父の編み出した秘剣の名を叫んだ。
勇者『白雷の太刀』!!!!!!!!
魔王『黒焔の太刀』!!!!!!!!
勇者・魔王「ぅぉぉぉおおおぉおぉぉおぉおおお!!!!!!」ドドンッ!!
大魔王「オオオォォォ!?」
雄叫びを上げながら高速で大魔王へと切りかかる。
勇者・魔王「でやああああああぁぁぁぁ!!!!!!」
ザザンッ!!!!!!
繰り出された二人の太刀が斜めに交差した。
あらゆる魔法を斬り伏せる絶対轟断の剣と絶対灼斬の剣が大魔王の闇の衣を引き裂き彼の骨肉を断った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 12:58:42.75 ID:OfcM5hZm0<> ピシッ……パキィン!!
二人の太刀筋の交わるところにあった妖剣は粉々に砕け散った。
大魔王「ぐ……ぐああああああぁぁぁぁあぁああぁあ!!!!!!!!」
身体から血を吹き出して大魔王が断末魔の叫びを上げる。
そのまま胸を押さえて倒れ込んだ。
勇者「……よっしゃあ!!!!」グッ
魔王「やったね、勇者!!!!」グッ
二人は笑顔で握った拳を軽くぶつけ合う。
大勇者「よくやった、2人とも」
剣士「まるで若い頃の大勇者達みたいだったぜ」
店主「うむ、まったくじゃな」フォッフォッ
大勇者達が勇者達の元へと駆け寄ってくる。
五人はくたびれた顔で笑い合う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:00:33.22 ID:OfcM5hZm0<> 剣士「大魔王の野郎も倒したしこれで一件落着……か?」
魔王「そうですね、反人間派の中心人物であった叔父上が死したとなれば国内部での反人間派の勢いは弱まり和平の実現が一気に近づきましょう」
勇者「そっか……ついに俺達の夢見た世界が……」
魔王「うん……」
店主「人間と魔族…………いや、人間同士が争うことのない世界か……まさか生きている内にそんな世界がやってくるとはのぅ。長生きはするもんじゃな」フォッフォッフォ
大勇者「何が長生きだ、ほっておいてもお前ならあと2、300年は生きられるんじゃないか」
店主「あと200年も生きたら1000歳を超えてしまうわぃ」
勇者・剣士「え!?マ、マジかよ!?」
店主「嘘じゃよ、嘘」フフフッ
大勇者「そんな訳あるか阿呆」ヤレヤレ
魔王「普通騙されないよ」クスクス
最後の闘いを終え五人の戦士は大いに笑いあった。
肩の力を抜いて、屈託のない笑顔で。
これからは皆でこうして笑い合える世界が来るのだ。
そう信じて笑っていた。
…………だが、闘いはまだ終わってはいなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:01:33.14 ID:OfcM5hZm0<> ズズンッ!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
「!?」
突如鳴り響く地鳴りの音。
大地が激しく揺れている。
勇者「な、なんだ!?」
魔王「じ、地震!?」
慌てる勇者達の背後で重々しい声が聞こえた。
「まダダ……まダ終わラん……!!」
その声に振り向くと大魔王が赤い瞳を光らせて再び立ち上がっていた。
勇者「あの野郎まだ……!!」
剣士「昔からしつこい野郎だったからな」チッ
大勇者「だがさっきの一撃は明らかに致命傷だった……一体どこにそんな力が……?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:02:27.42 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者の疑問に答えるように大魔王の身体が怪しげに光り出した。
いくつもの光の筋が彼に向かって伸びてくる。
激しい戦闘により屋根の吹き飛んだ大広間からはどこからその光の筋が伸びているのか分かった。
あろうことかそれは黒の神樹からであった。
その光に包まれて大魔王の傷が癒えていく。
大勇者「ま、まさかアイツ……!!」
魔王「神樹から魔力を吸いとっているの……!?」
五人は一瞬にして状況を理解した。
この大地を揺さぶる地鳴りは大魔王が黒の神樹から魔力を吸収したことで、神樹の生命力が低下して起こったもの……世界崩壊の序章だ。
放っておけば黒の神樹は周囲のあらゆる魔力を吸収し黒の国は一夜にして不毛の地に変わる。
いや、黒の国だけではない。
黒の神樹崩壊の影響は世界各地の神樹に広がりこの世界全体が滅びることになる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:05:15.47 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「やめろ!!貴様自分が何をしているのか分かっているのか!?」
こめかみに青筋を立てて大勇者が叫ぶ。
大魔王「分かっテイルとも……神樹かラ魔力を吸収すルコとで神樹ノ生命力が低下スレば世界がドウナルのかもな」
大勇者「だったら今すぐこんな馬鹿げた真似はよせ!!神樹が崩壊すれば貴様も死ぬことになるのだぞ!?」
大魔王「いイや……神樹は崩壊しナイ……」
大魔王「ソウなる前に勇者ト姫君を殺せバ良いダケノこト……!!」
大魔王は立ち上がると血を吐きながら空に向かって吠えた。
大魔王「憎い……憎イ憎い憎イ憎イ憎い!!世界ガ憎い!!人間ガ憎い!!勇者が憎イ!!」
大魔王「コの世界は魔族マゾががあ!!しは、支配すれれバ永遠にへ平和ナノダアアァァ!!!!」
言葉にならない叫び声を響かせる大魔王を見て勇者達が身構える。
勇者「……ダメだ、あの野郎完全に憎しみだけで動いてやがる……理性の欠片も残っちゃいない」チャッ
魔王「なら……今度こそ私達の手で完全に叔父上を……!!」チャッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:07:14.10 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「待て、ここは私達に任せろ」バッ
剣を構え直した勇者達を制止するように手を差しのべて大勇者が言う。
勇者「親父!?」
大勇者「状況は思っているより深刻だ。お前と魔王ちゃんは神樹の根と直結する城の地下深くの小部屋へと向かい神樹に魔力を注いで破壊しろ」
勇者「!!」
魔王「魔王を注いで……?」
勇者「詳しいことは後で話す」
神樹の破壊法を詳しく聞いていなかった魔王は疑問符を浮かべる。
勇者はそんな彼女に後で説明することを約束する。
大勇者「完全に奴の息の根を止めても神樹が魔力吸収を起こした時点で世界は崩壊するのだ。それだけはなんとしても食い止めねばならん」
勇者「だけど親父達だけじゃ……!!」
大勇者「いや……先ほどの魔法剣による一撃は間違いなく致命傷だ、ああして神樹の魔力で傷を癒してはいるが奴も立っているのがやっとの筈だ。おまけに理性も吹き飛んでいる……おそらく私達だけでもなんとかなる」
勇者「…………」
話を聞いてもまだ迷っている勇者に大勇者は99代目勇者として、父として、後押しをする。
大勇者「お前はお前にできることを、お前がすべきことを全力でやれ。私は私にできること、すべきことを全力でやる」
大勇者「世界を平和にして私に自分のことを認めさせてやるのだろ?」
父の言葉を聞き勇者は決意したように拳を強く握った。
勇者「…………わかった、行ってくる」グッ
大勇者「よし、それでこそ私の息子だ」フッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:08:44.47 ID:OfcM5hZm0<> そう言うと大勇者は魔王へと向き直った。
先ほどまで共闘してはいたもののまともに話したことすらなかった。
近くで改めて見ると黒の王妃にそっくりの美しい少女だった。
だが先代魔王の面影もどことなくある。
大勇者「魔王ちゃん」
魔王「は、はい!!」
大勇者「君の父上を殺したのは他ならぬこの私だ、本当にすまなかった」
魔王「い、いえ、父も母も、勿論私もあなたのことを恨んでなどいません」
大勇者「……そうか。そう言ってくれてありがとう」
大勇者「アイツによく似て優しくて強い娘に育ったな」フフッ
魔王「…………」
大勇者「出来の悪い息子のこと、よろしく頼むよ」
魔王「…………はい!!!!」
本当はもっと彼女と話していたかったがそれだけ言って大勇者は息子達を見送った。
勇者「魔王、神樹の小部屋ってどこにあるんだ!?」
魔王「魔剣と契約した時に初代の魔王さんに教えてもらったけど地下にある13番倉庫の隠し階段みたい!!」
魔王「ついてきて、こっち!!」タタタッ
勇者「わかった!!」タタタッ
その姿が見えなくなるまで大勇者は彼らの背を眺めていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:09:44.23 ID:OfcM5hZm0<> 店主「……行ったか」
大勇者「あぁ」
剣士「……神樹の方はアイツらに任せるとすっか」
大勇者「私達はこの化け物の後始末だ」チャキッ
大魔王「ぐガアああぁぁぁぁ!!憎い人間ゲンががぁ!!ゆゆユウシャあああ!!!!」ブンッ!!
ドガァ!!
ドゴォ!!
大勇者「…………」
叫びながら辺り構わず破壊衝動に身を任せる大魔王を見て大勇者はつらそうな顔をした。
店主「どうした?そんな顔をして」
大勇者「……いや、もしかしたらこの怪物は私が産み出してしまったのかもしれんと思ってな……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:13:17.29 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「奴が人間を憎むようになったのは私がアイツを殺したからだ、なら……」
剣士「ばぁか、お前がそんなこと気にするなんざ気持ち悪ぃだけなんだよ」
大勇者の沈んだ声をかき消すように剣士がいつもの力強い声で言った。
剣士「コイツが歪んじまったのは紛れもなくコイツ自身のせいだ。お前にゃ非はない」
大勇者「剣士……」
店主「……そうじゃな、悪いのはお前さんではなく悲劇を産み出してしまったこの戦争じゃよ」
大勇者「爺さん……」
二十年来の二人の仲間に励まされ大勇者は剣を構え直した。
大勇者「……そうだな、ありがとう、2人とも」
剣士「んじゃ、ラスボスを討伐としゃれこむか!!」チャキッ
店主「この大仕事を終えたらワシも本当に引退じゃな」バッ
大勇者「99代目勇者一行最後の闘いだ……行くぞ!!!!」チャッ
ドンッ!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
世界崩壊のカウントダウンが始まる中、99代目勇者と仲間達は憎しみの化身と化した哀れな魔族へと立ち向かって行った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:14:26.85 ID:OfcM5hZm0<> ――――魔王の城・地下深く
カッカッカッカッ!!
コッコッコッコッ!!
勇者と魔王は神樹の根と直結する小部屋を目指して暗闇の中ひたすら螺旋階段を降りていた。
13番倉庫のどこに地下へと続く階段があるのは分からなかったので勇者は石畳を全て吹き飛ばしてそれを見つけた。
長く深く続く階段は何段も階段を飛ばして降りてもまだまだ目的の小部屋にはたどり着かなかった。
おかげで魔王に神樹の破壊方法とその問題点を説明する時間は十分にあった。
しかし説明が終わっても階段は終わることはなかった。
次第に二人は本当にこの階段に終わりがあるのか不安になってきた。
もし終わりがあったとして目的の小部屋がなかったらこの大幅なタイムロスは致命的だ。
勇者がいっそ下まで魔法で大穴を空けてやろうかと考えていた時、ついに長い長い下り階段は終わりを告げた。
古めかしい石の扉が現れたのだ。
勇者「ここが……!!」
魔王「神樹の部屋……!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:15:22.63 ID:OfcM5hZm0<> 勇者と魔王は緊張しつつも扉に手を掛けた。
二人同時に、ゆっくりと扉を押す。
ゴゴゴゴゴ……
ゴォン……
石と石とのすれる重々しい音を聞きながらその石扉を開けた。
中の小部屋は神聖さを漂わせつつもどこか気味の悪い、不思議な空間だった。
天井、壁、床その一面にびっしりと魔法方程式の術式が書かれている。
部屋の中央には見たこともない魔法陣が描かれており、紫色の怪しい光を放っている。
そしてその魔法陣の中央には太い柱が一本立っている。
……いや、柱ではない。
一面に術式の刻まれた柱は近くでよく見ると植物のように見える。
それこそが神樹の根であった。
魔王「これが神樹の根……」スッ
魔王はその根に触れた。
聞こえる筈もない神樹の鼓動が伝わってくる気がした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:16:52.87 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「後はコイツにありったけの魔力をブチ込んでぶっ壊すだけだ」
魔王「そうだね」
勇者「万全の状態で成功率9割って話だったからな……魔力満タンじゃない今の俺たちが魔力の減ってる黒の神樹に一生分の魔力をブチ込んだとして成功率はどれくらいなのか……」
魔王「…………」
勇者「……ホントに死んじまうかもな……」ハハッ
勇者は苦笑してみせた。
正直なところ成功率は五割を切っていると言ってもいい。
もし勇者達の一生分の魔力が黒の神樹を膨張させ破壊するに足りなかった場合、神樹の魔力吸引力に耐えきれず彼らは生命力を吸われて死に至る。
勇者も魔王も死を覚悟しているつもりだったが、いざこうしてみると唇が少し震えてきた。
魔王「いいよ、勇者となら」キュッ
魔王は不安を押さえるように唇を強く噛むと言った。
魔王「ずっと前から夢見てきた人間と魔族の争うことのない世界……それを目指して一緒に頑張ってきた勇者となら……わたし死んでもいい」
勇者「魔王…………」
魔王「わたし達2人の命でこの世界を悲しみの連鎖から断ち切ることができるなら安いもんでしょ」
勇者「…………」
魔王「…………ホントはそんな世界を勇者と一緒にこの目で見てみたいけど……ね」フフッ
そう言って笑う魔王の顔は今にも泣き出しそうだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:18:01.53 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「…………いや、きっと大丈夫だ」
勇者は握った拳を自分の胸に当てた。
さっきまであんなに早かった鼓動が少しずつ、少しずつ静かになっていくのがわかる。
勇者「生きて神樹をぶっ壊して、みんなのところに帰ろう」
勇者「そんで俺たちの作る平和な世界を胸張って生きてこうぜ」
魔王「…………」
勇者「それにお前は魔法使いとの約束があるだろ、アイツ約束破るとメチャクチャすねるからな」ハハッ
魔王「……フフッ、そうだね、絶交されたら困っちゃうよ」クスクス
魔王「後は僧侶との勝負の事もあるしね」
勇者「あ、それいい加減教えろよな。なんの勝負なんだよ?」
魔王「生き残れたらそのうち教えてあげる」
勇者「じゃあ何が何でも生き残らねぇとな」チッ
魔王「そういうこと」ニコッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:19:18.06 ID:OfcM5hZm0<> ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!
ビシビシッ
ガラガラ
大地の鳴動が激しさを増す。
小部屋の床や壁にひびが入り天井の一部が落ちてくる。
勇者「……時間もないみたいだな」
魔王「……いこっか」
勇者「あぁ」
勇者は背負っていた聖剣を抜き放った。
魔王も腰に差していた魔剣を抜いた。
二人は刃を下に向け両手で剣を持つとそれを高々と掲げた。
魔王「3、2、1でいく?」
勇者「よし、分かった」
魔王「……やっぱり『せーの』の方がいいかな」
勇者「ったく、どっちでもいいよ」
魔王「じゃあ、『せーの』で」
勇者「あいよ」
魔王「せーのっ!!!!」ビュッ!!
勇者「らあっ!!!!」ビュッ!!
ドドスッ!!!!
神樹の根へと思い切り剣をを刺した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:21:05.41 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「魔王!!」
魔王「うんっ!!」
勇者・魔王「はああああぁぁぁぁっ!!!!!!」ドドンッ!!
ズオッ!!!!
開放した二人の全魔力が神樹へと流れ込んでいくのが分かる。
神樹の根が光輝き生命力に溢れていく。
勇者「まだまだぁ!!」グッ
魔王「はあぁぁっ!!」グッ
剣を握る力を強めてさらに魔力を神樹へと送り続ける。
今や彼らと神樹は聖剣と魔剣を介して一つになっている。
神樹を破壊するのにはまだまだ魔力が必要なことがなんとなく分かる。
ドンッ!!
勇者・魔王「!?」
急に神樹に魔力を送るのに抵抗が発生するようになった。
今までは魔力を放出すれば放出しただけすんなりと流れ込んでいったのに今は自分でさらに魔力を押し込もうとしなければこちらに魔力が押し返されてしまいそうだ。
勇者「ぐぐぐっ……!!」ブシュッ
魔王「くうぅっ……!!」ブシュッ
肉体の限界を超えて無理に魔力を放出していることに身体が耐えられなくなってきた。
あちこちから血が吹き出し身体中が悲鳴をあげている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:22:50.45 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「ま、まだまだぁ……!!!!」ガフッ
魔王「もう少し……もう少し……!!!!」ブシャッ
ドンッ!!!!
またさらに抵抗が強くなった。
身体的負荷も限界に達し膝をつきそうになる。
だが彼らは諦めなかった。
血を吐きながらも剣を握っる力は決して緩めない。
強い光を宿した眼で神樹の根を見つめている。
……いや、根を見ているわけではない。
どこかずっと遠く。
遠い遠い未来をその瞳は見つめているのだ。
人々が互いに手を取り合い、笑い合って過ごす日々を。
消えかかる意識の中、二人は叫んだ。
勇者「うおおおおぁぉぉぉぉぉっ!!!!」ブシュシュッ
魔王「はああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」ブファッ
勇者「こ……!!」
魔王「の……!!」
勇者・魔王「ばっかやろおぉぉおおぉおぉおぉおおお!!!!!!!!!!」
その瞬間、白い光が彼らの身体を包んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/06(日) 13:24:28.40 ID:OfcM5hZm0<> ――――魔王の城・大広間跡
剣士「おらああああぁぁぁっ!!!!」ブンッ!!
ザクッ!!
大魔王「ぐうぅっ!?」
剣士は大魔王へと飛びかかり大剣を全力で振り下ろした。
大魔王の脳天に刺さった大剣は頭蓋骨に阻まれ剣士の怪力をもってしてもそれ以上は彼の身体を切り裂くことはできない。
剣士「爺さん!!」
店主「分かっておるわい!!!!」ババッ!!
剣士が店主の名を呼ぶよりも早く、店主は魔法陣を展開していた。
店主『四重重撃魔法陣・崩』!!!!!!
カアアアァァァッ!!!!
ズズンッ!!!!
大魔王の周囲に凄まじい重力場が形成される。
剣士「ぐぅ……待ってましたぁ!!!!」
重力に必死に耐えながら剣士は剣を持つ手に力を込める。
黒山鋼という特別重い金属で作られた剣士の剣は重力魔法の作用によりさらにその重さを増す。
剣士「どっせいぃっ!!!!」ブンッ!!
ズバァンッ!!!!
大魔王「が……ぁ……!?」
重撃魔法を利用した一太刀で剣士は大魔王を両断した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/06(日) 13:26:49.14 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「はあああぁぁぁっ!!!!」ドンッ!!
剣士の一撃により真っ二つになった大魔王へと大勇者が突進していく。
裏魔法・亜音により肉体の反応速度を極限以上に強化した彼の手には伝家の宝刀である白雷の魔法剣が握られている。
大勇者「これで……!!!!」ヒュババババ!!
ザザザザザザンッ!!!!!!
雷撃魔法を超圧縮したその剣に切れぬものはない。
眼にもとまらぬ速さで魔法剣を振るうと一瞬で大魔王の身体は細切れになった。
大勇者「終わりだ……!!!!」バッ
カアアアアアアァァァァッッ!!!!
剣を投げ捨て両手を大魔王目がけてかざすと特大の魔法陣を展開した。
大勇者『九重雷撃魔法陣・轟』!!!!!!!!
ズガアアァァァァーーーンッ!!!!
バリバリバリバリバリバリバリッ!!!!!!
轟音と共に放たれた最上級雷撃魔法はあまりの魔力に攻撃範囲にある全てのものを跡形もなく消し去った。
雷の中に消えゆく大魔王の肉体。
大魔王「あに……う…………わた………は……」フッ…
彼の最期の言葉は雷の轟きに書き消された。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/06(日) 13:28:02.25 ID:OfcM5hZm0<> 大勇者「…………」ハァハァ
前方の城跡、何もない空間を大勇者は注意深く見つめている。
大勇者「…………」フゥ
大魔王の気配が完全に消え去ったことを確認すると大きく息をつきその場に座り込んだ。
剣士「……ふぅ、なんとかなったな」
大勇者「あぁ……つつっ……」
店主「まったく、九重最上級魔法陣展開なんて無茶をするからじゃ。ほれ」
店主が手をかざすと大勇者の足元に緑色の魔法陣が形成された。
回復魔法特有の緑色の優しい光が彼の傷を癒していく。
大勇者「ありがとう爺さん、大分楽になった」シュウゥ…
店主「ほれ、お前さんも」
剣士「おぅ、よろしく頼むぜ」
同様に剣士の傷も癒す。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:29:41.63 ID:OfcM5hZm0<> 回復魔法の光に包まれながら大勇者は黒の神樹を凝視していた。
その顔つきが次第に険しくなっていく。
大勇者「……気づいたか?爺さん」
店主「うむ。先ほどまで周囲の魔力を吸収しようとしていた黒の神樹が今は魔力に溢れておる」
剣士「お!?ってぇことは勇者達は神樹の破壊に成功したってことか!?」
大勇者「一応は……な」
剣士「なんだよ、浮かない顔して……嬉しくねぇのかよ?」
店主「神樹に供給された魔力が多すぎるんじゃ。このままでは膨らんだ神樹が爆発を起こしてここら一帯は消し飛ぶじゃろぅ」
剣士「なんだって!?」
店主の口から飛び出た話の内容に剣士は狼狽えた。
魔力を注ぎ込んで神樹を破壊したら何事もなく世界が神樹の支配から解放されると思っていた彼にとってその話はあまりに衝撃的だった。
驚く剣士をよそに大勇者は至って冷静に状況を分析していた。
大勇者「……おそらく魔将軍を倒したせいだ。勇者達の魔力と奴が死んだ時に発生した魔力とが一気に神樹に注ぎ込まれた結果、局長の予測を遥かに超える魔力が黒の神樹にブチ込まれることになったのだろうな……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:30:52.76 ID:OfcM5hZm0<> 少し何かを考えてから大勇者は店主に指示を出した。
大勇者「この爆発で他の神樹に影響が出ないとも限らん。爺さん、アンタは今から各国を巡って王都の人間に避難命令を出すように王様達に伝えてくれないか?」
店主「…………お前さんはどうするつもりじゃ?」
大勇者「私はここで命を懸けて神樹の爆発を最小限に留める」
剣士「な……!!馬鹿言ってんじゃねぇぞ!?」
大勇者の言葉に剣士が声を荒らげる。
大勇者「聖剣の力に長く肉体を蝕まれていた私はどのみちもう長くない。自分の身体だ、自分が一番分かっているさ……もって1年というところだ」
剣士「だからって!!」
大勇者「勇者達が世界のためにその命を懸けたのだ、大人の私が命を懸けなくてどうする」
大勇者「聖剣の効力がまだ持続している私なら黒の神樹の爆発を最小限に抑えられるだろう」
大勇者「逆に私が抑えなければ神樹の爆発は近くの街まで及ぶ……そうなれば何万という人々の命が失われることになる」
剣士「…………」
大勇者「私の最後のわがままだ、許してくれ。剣士」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:32:34.04 ID:OfcM5hZm0<> 剣士は何も言わずに地面に座り俯いていた。
大勇者の意思が固いことを分かっている店主は共に戦場を駆けた旧友の顔をただじっと見つめていた。
黒の神樹の起こすやかましい地鳴りの音だけが聞こえる。
やがて剣士は立ち上がると大勇者に背を向けて言う。
剣士「へっ、これでやっとお前のわがままから解放されるのかと思うとせいせいすらぁ」
剣士「学生時代からお前には散々振り回されっぱなしだったからよ、最後のわがままくらい聞いてやるぜ」グスッ
大勇者「……ありがとう、剣士」フフッ
せっかく大勇者に背を向けているのに鼻をすする音で泣いているのがバレバレだ。
大勇者はそんな剣士がおかしくて笑った。
店主「……時間もなさそうじゃ、名残惜しいがワシはもう行くぞ」
大勇者「あぁ、そうしてくれ」
剣士「生きてたらまた会おうぜ、馬鹿野郎」ヒッグ
大勇者「そうだな」フッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:37:05.66 ID:OfcM5hZm0<> 店主「……そうじゃ」パチィン
大勇者「?」
店主が軽く指を鳴らすと小さな青い魔法陣が空中に現れた。
魔法陣が光ったかと思うと店主の手には酒瓶が握られていた。
店主「ほれ、いつものじゃ」ポイッ
大勇者「お、気が利くな」パシッ
店主「代金は……またウチに来た時にでもツケと一緒に払ってくれれば良い」フォッフォッ
大勇者「そうか、恩に着るよ」
大勇者はボトルの栓を開けて一口酒を飲んだ。
いつもの軽く焼けるような感覚が喉を通り胃へと染み込んでいく。
店主「……では、達者でな大勇者」
剣士「……あばよ」グスッ
大勇者「あぁ、2人とも元気でな」
カアアァァ
フッ……
店主は転移魔法を発動させその場から去っていった。
大勇者「…………お前達と過ごした時間、楽しかったよ」
あちこち崩れてもはや広間とは呼べなくなった大広間で大勇者は一人、夜空を眺めていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/06(日) 13:37:43.34 ID:OiTmqMyE0<> 続けてええああ!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:38:09.10 ID:OfcM5hZm0<> ――――――――
――――
――
―
気がつくと真っ暗闇の中にいた。
何もない無限の闇の中で魔王は悟った。
魔王(あぁ、わたし死んじゃったんだ……)
死後の世界というものには前から興味があったので正直がっかりした。
綺麗な一面の花畑と澄みわたる青空、そこにいる人々は皆が笑顔を絶やすことなくニコニコと笑い一日中歌って踊って過ごす。
そんな世界を想像していたらなんだこの世界は。
つまらない暗闇が広がるだけとは死後の世界とやらは味も素っ気もない世界なのか。
魔王(しかもうるさい)
そう、死後の世界はうるさかった。
何か地鳴りのような「ゴゴゴゴ……」という音が止むことなく聞こえている。
これでは安心して寝つくこともできない。
魔王(あと冷たくて固い)
さらに死後の世界は冷たくて固かった。
と言うのも彼女の頬にはさっきから冷たくて固い何かが触れている。
おまけにそれが小刻みに揺れているからタチが悪い。
その振動で起きてしまいそうだ。
魔王(まったく、まるで石の床で寝てるみたい……)
魔王(……石の床……?)
魔王(…………!!)
魔王(まさか……)
魔王(まさか…………!!)
瞬間、彼女の意識が覚醒した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:39:25.79 ID:OfcM5hZm0<> ――――魔王の城・神樹の小部屋
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
魔王「ハッ!!」ガバッ
鳴り響く地鳴りに魔王は飛び起きた。
彼女は死んでなどいなかった。
魔力を放出し尽くして気を失って倒れていたのだ。
魔王「生き……てる……」
声は出る。
目も見える。
耳も聞こえる。
生きていることを確かめながら五体を確認する。
全身傷だらけではあるものの魔力が全く無い不思議な感覚を除いては特に身体に異常はないようだ。
魔王「……ゆ、勇者!!」ハッ
慌てて周りを見渡すと隣に勇者がうつ伏せに倒れていた。
魔王「勇者!!大丈夫!?勇者!!」ユサユサ
必死で勇者の身体を揺すって起こそうとする魔王。
脈拍も呼吸もあるので命に別状はないと思うが意識がないのは心配だった。
勇者「ん……」ピクッ
魔王「勇者!!」
彼女の呼びかけのおかげか、乱暴とも言える揺さぶりのおかげが、勇者は意識を取り戻した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:40:27.32 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「ま、魔王?」ウゥ…
魔王「良かった!」ガバッ
勇者が意識を取り戻すなり魔王は勇者に抱きついた。
勇者は顔を赤くして抵抗する。
勇者「わわっ、なんだよ、抱きつくなよ!!」カァ
魔王「良かった、無事で……」ギュッ
勇者「…………お前もな」ポンッ
勇者は抵抗するのを止めて軽く魔王の頭に手を置いた。
勇者「…………でもどうやら俺達はここで死ぬみたいだな……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:41:38.40 ID:OfcM5hZm0<> 何かを悟ったような勇者の声に魔王は我に返って勇者から離れると彼の視線の先を追った。
小部屋の入り口は神樹崩壊に伴う地震によって崩れてしまっていた。
手作業で瓦礫をどかしている時間などないし、仮に神樹が崩壊する前に人が通れるだけの隙間を作って走って逃げたとしても神樹の崩壊に巻き込まれて死んでしまうだろう。
勇者「せっかく生き残れたってのに万事休すってやつだな……」
魔王「うん……さっき一生分の魔力使っちゃったからもう魔法も使えないもんね」
勇者「………………」
魔王のその言葉を聞いて何かに気付いたようで勇者は自分の手のひらをじっと見つめている。
魔王「? 勇者?」
勇者「あ、いや、ごめん、ボーっとしてた」アハハ
魔王「……よくこんな状況でボーっとできるね」ハァ
勇者「へいへい……っと」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:42:33.60 ID:OfcM5hZm0<> トン……
魔王(…………)
勇者(…………)
勇者は魔王に背中を預けるようにして座った。
背中から相手の息づかいが伝わってくる。
二人はしばらくそのまま何も話さなかった。
その沈黙が心地よかった。
幼い頃からよく二人で会ってはいたが、二人でいる一時がこんなに名残惜しいと感じたことは多分ない。
目を瞑れば相手の呼吸だけでなく心音まで伝わってくる。
そして魔王は思った。
魔王(これで最後なら……ちゃんと勇者に伝えなきゃ……)
魔王(わたしの勇者への素直な気持ち……きちんと勇者に聞いてもらいたい)
そう思うと急に口の中が渇いて手が汗ばんできた。
心臓の鼓動がやけに早くなってくる。
気のせいかもしれなかったが勇者もまた鼓動が早くなっているように感じた。
魔王は決心すると勇者に声をかけた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:43:35.52 ID:OfcM5hZm0<> 勇者・魔王「あのさ」
勇者「ん……」
魔王「あ……」
なんと同じタイミングで勇者も話しかけてきた。
相手にも言いたいこと、聞きたいことがあるのだろうと思ってお互い譲り合いが始まる。
勇者「お前先にいいよ」
魔王「勇者こそ、先に言いなよ」
勇者「いや、お前からだ」
魔王「ダーメ、勇者から」
勇者「お前が先に話さなかったら俺なんも話さないからな」
魔王「あ、それずるいよ!」
勇者「つーワケでお前からな」
魔王「……もぅしょうがないなぁ……」ハァ
譲り合いに敗けた魔王は渋々先に話すことを承諾した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:44:44.17 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「んで?」
魔王「え?え〜っとね……」
魔王(うわ〜ん、勇者のバカバカ〜!こんな状況で言えるワケないよ〜!!)ウゥ…
いざ勇者に想いを告げようと決意したのに勇者とのなんてことない会話で魔王のその決意を挫かれてしまった。
こういう決意というものは心に決めるまでにはやたら時間と覚悟を要するのにいとも簡単に崩れ去ってしまう儚く脆いものなのだ。
100代目魔王と言えども一人の少女だ。
彼女も例外ではなかった。
魔王「え、え〜っとね」
勇者「うん」
魔王「そ……」
勇者「そ?」
魔王「僧侶って可愛いよね!」
勇者「はぁ?」
魔王「いや、僧侶って可愛くて優しくて家庭的ですごく良い娘じゃない? だから勇者はどう思ってるのかな〜って」
魔王(ご、ごめん僧侶……もし僧侶が死んじゃってあの世で会ったら土下座で謝るね……)
魔王は咄嗟に彼女の名前を出してしまったことを誠心誠意心の中で詫びた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:47:30.72 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「変なこと聞くな……俺はてっきり……」
魔王「?」
勇者「あ、いや、なんでもない」
勇者は何か言いかけて口をつぐんだ。
勇者「僧侶ね〜、たしかに可愛くて良い娘だと思うぜ」
魔王「ほぅほぅ」
勇者「下に兄弟がいるから面倒見もいいしさ、頭もいいし優しいし」
魔王「うんうん」
勇者「どっかの誰かと違って料理も上手いしな」
魔王「う……」グサッ
勇者「学校行ってた頃はファンクラブとかあったな〜」
魔王「そう言えば勇者に前聞いたことあったなぁ……僧侶すごくモテるんだね」
勇者「まぁな、白薔薇学園ミス・ミスターコンテストは俺らが入学してから卒業するまで僧侶と武闘家が優勝してたよ」
魔王「えぇ!?そうなの!?」
勇者「あれ、話してなかったっけ?」
魔王「優勝したって話は聞いたことあったけど在学期間中ずっとだったなんて……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:49:04.04 ID:OfcM5hZm0<> 勇者「僧侶みたいな才色兼備な女の子に好きになってもらえたら幸せだろうなぁ……なんてな」ハハッ
魔王(……この鈍チンめ……)ハァ
勇者の鈍感さに呆れて魔王はため息をついた。
その学園のアイドル、才色兼備な可愛い女の子に恋されているというのにてんで気づかないとは……なんとも勿体無い。
……では僧侶が勇者のことを好きなのだと知ったら勇者はどうするのだろうか?
顔を真っ赤にしながらしどろもどろになりつつも彼女の想いに応えるのだろうか?
正直魔王から見て勇者と僧侶はお似合いに見える。
だらしない勇者を僧侶が優しく包み込んで支えてくれそうだしとても上手くいきそうだ。
二人が仲睦まじくしているところを想像すると胸が苦しくなった。
締めつけられるような、針でチクチクと刺されるような、そんな痛みだ。
魔王はしばらく何も言わずに勇者のことを想ってぼーっとしていた。
不快な神樹の鳴動だけが聞こえてくる。
……と、そこで勇者が言いかけたことをまだ聞いていないことに気がついた。
自分の勇者への想いは勇者にそのことを聞いてから伝えれば良い。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:51:10.88 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「そうだ、勇者はわたしに何を言おうとしたの?」
勇者「え?お、俺か?」
急にそう言われて勇者はビクンと体をこわばらせた。
魔王「そうだよ、わたしまだ聞いてないよ」
勇者「う……そうだよな……」
魔王「ほら、最後なんだしちゃんと言ってよね」
勇者「…………そうだな」
勇者は唾を飲み込んで口を潤すと静かに魔王に聞いた。
勇者「その……さ、魔王って魔力どれぐらい残ってるんだ?」
魔王「へ?そんなの0に決まってるじゃん、一生分の魔力使い切っちゃったよ」
勇者の質問に答えながらも魔王は思う。
何故勇者はそんなことを聞くのだろうか?
魔王の心の引っ掛かりを取り除くように、勇者が言った。
勇者「実は俺さ、ちょっとだけ魔力が残ってるだよな」
勇者「…………ギリギリ女の子一人転移魔法で飛ばせるくらいは……さ」
魔王「……………………え?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:56:41.77 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「そうだ、勇者はわたしに何を言おうとしたの?」
勇者「え?お、俺か?」
急にそう言われて勇者はビクンと体をこわばらせた。
魔王「そうだよ、わたしまだ聞いてないよ」
勇者「う……そうだよな……」
魔王「ほら、最後なんだしちゃんと言ってよね」
勇者「…………そうだな」
勇者は唾を飲み込んで口を潤すと静かに魔王に聞いた。
勇者「その……さ、魔王って魔力どれぐらい残ってるんだ?」
魔王「へ?そんなの0に決まってるじゃん、一生分の魔力使い切っちゃったよ」
勇者の質問に答えながらも魔王は思う。
何故勇者はそんなことを聞くのだろうか?
魔王の心の引っ掛かりを取り除くように、勇者が言った。
勇者「実は俺さ、ちょっとだけ魔力が残ってるんだよな」
勇者「…………ギリギリ女の子一人転移魔法で飛ばせるくらいには……さ」
魔王「……………………え?」
勇者の言葉を聞いて魔王は振り返った。
勇者の優しい微笑みで魔王は全てを理解した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:57:47.57 ID:OfcM5hZm0<> カアアァァ……!!
魔王の足元に転移魔法陣が展開された。
優しく微笑みかける勇者に魔王は怒りと悲しみの混じった声で怒鳴りつける。
魔王「……ふざけないでよ勇者!!」
勇者「ふざけてなんかないって」
魔王「こんな……こんなのってないよ!!」
勇者「悪いな、つらい思いさせてさ」
魔王「魔力が残ってたなら二人で転移魔法で跳ぶとか、入り口塞いでる瓦礫を吹き飛ばすとか他に方法あったでしょ!?」
勇者「二人で跳んだら安全なとこまでは転移できそうにないし、入り口通れるようにしたとして走って逃げても神樹の崩壊に巻き込まれる……お前だって分かってるだろ?」
勇者「こうすればお前だけは確実に生き残れる……」
魔王「だったら……だったら勇者が生きればいいじゃない!!なんでわたしなの……!?」
勇者「うーん……100代目勇者って言ってもただの一般人だしさ、これから来る新しい世界にはお前の方が必要かなって」ハハッ
魔王「でも……!!」
勇者「それにさ、お前が俺の立場なら……きっと同じことしたろ?」
勇者「武闘家達には……よろしく言っといてくれ」ナハハ
魔王「勇者…………」ポロポロ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 13:59:05.38 ID:OfcM5hZm0<> 魔王はとうとう泣き出した。
綺麗な金の瞳はすぐに涙でいっぱいになり光輝く雫がとめどなく溢れてくる。
勇者「俺達が夢見た平和な世界を俺は見ることはできないけどさ、お前は新しい世界で笑って生きて欲しいんだよ」
勇者「言ったろ? 俺はお前に笑っていて欲しいんだよ」
勇者「死んじゃったらお前もう笑えないだろ? まぁ……俺が死んだらお前の笑った顔がもう見られないってのが残念だけどな」ハハッ
魔王「勇者……」ヒッグエッグ
勇者「だからさ、最後は笑ってさよならしようぜ、魔王」ニッ
魔王「…………」グスッ
そう言って笑ってみせた勇者だったが、彼の瞳も涙で潤んでいた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:00:25.89 ID:OfcM5hZm0<> 魔法陣の光が次第に強くなっていく。
青白い光に包まれて魔王はもうすぐ転移空間へと飛ばされてしまうだろう。
時間がない。
この残された時間で自分の勇者への想いを伝えなければ。
脳をフル回転させて彼への想いを的確に表す言葉を探した。
しかしどんな言葉も物足りない。
勇者へのこの想いを、真っ直ぐに、全て、余すことなく伝える方法……。
魔王「…………」
青白い光に包まれながら魔王は勇者を抱きしめた。
勇者「え……まお………………!?」
そして……唇を重ねた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:01:34.57 ID:OfcM5hZm0<> 甘くて酸っぱくてそれでいてしょっぱい、悲しいキスだった。
ほんの一瞬が永遠に感じられた。
唇を離して勇者を見ると、勇者は突然の出来事に戸惑っていた。
勇者「……お前……」
今起きたことが信じられないと、自分の唇にそっと触れた。
そんな勇者を見て魔王は涙で顔をぐしゃぐしゃに歪めながら目いっぱい笑ってみせた。
魔王「ばか勇者……」ニコッ
転移魔法の青い光が二人を無慈悲に引き離した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:04:27.95 ID:OfcM5hZm0<> ――――魔巌の砦
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!
黒の神樹の地鳴りは武闘家達が戦う魔巌の砦まで響いていた。
城で何かがあったのだと感じつつも彼らは目の前の敵を片付けるのに全力を注いでいた。
星氷の勇者『四重氷撃魔法陣・絶』!!!!
ビュオオオォォォォ!!
煉撃の勇者『四重炎撃魔法陣・獄』!!!!
ゴオオオオォォォォ!!
凍てつく氷の剣と燃え盛る紅蓮の炎が最後の狂戦士の四肢を撃ち抜いた。
黒甲冑の狂戦士「グガァ……!?」
右半身を氷漬けにされ、左半身を焼かれて狂戦士が一瞬ひるむ。
裂空の勇者「一気にたたみかけるぞ!!」
魔法使い「うん!!」
側近「えぇっ!!」
裂空の勇者・魔法使い・側近『四重風撃魔法陣・真』!!!!!!
ゴウッッッッ!!!!!!!!
ズバズバズバババババン!!!!!!
黒甲冑の狂戦士「グ……ガガァ……!?」
三人の放った真空の刃が狂戦士の身体を切り刻む。
全身を切り裂かれた狂戦士はかろうじて動いているにすぎないほどダメージが蓄積されている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:06:02.06 ID:OfcM5hZm0<> 武闘家がとどめの一撃を放つ。
武闘家「……これで終わりです……!!」
右拳にありったけの魔力を集中させて自身の持つ最大の技を放つ。
武闘家『三重重撃魔法陣・崩』!!!!!!
ドッゴォォオオオン!!!!!!
黒甲冑の狂戦士「ガア……ァァ…………!!」
最上級重撃魔法陣をその拳に纏った渾身の一撃は黒い甲冑を着た狂戦士の身体をバラバラに破壊した。
彼の肉塊が周囲に散らばっていく。
武闘家「はぁ……はぁ……」ゼェゼェ
弓術士「……うっし!!今ので最後っすね」
賢者「つ、疲れました〜」ペタン
聖騎士「恐ろしくタフな奴らだったな……あんな奴らと戦っていたとはまったく、お前達はたいしたものだ」
魔法使い「えへへ〜、それほどでもあるかなぁ、なんて」ニャハハ
煉撃の勇者「……ったく、調子がいいやつだよ、アンタは」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:07:10.10 ID:OfcM5hZm0<> 狂戦士の軍勢を全て倒した勝利の余韻に浸る弓術士達。
しかし冷静な武闘家達は黒の神樹から不気味に響く地鳴りがまだ全てが終わっていないことを表していると分かっていた。
側近「……城で何があったのか気になりますね……」
星氷の勇者「さっきなんて山が吹き飛んでましたもんね……」ゴクッ
裂空の勇者「それにこの大地の鳴動……これはただ事じゃない」
武闘家「恐らく勇者達が神樹の破壊に成功したのでしょうが……膨張した神樹の魔力では城の周辺が吹き飛びそうですね……ここも危ない」
僧侶「勇者君……魔王ちゃん……無事でいて…………」ギュッ
勇者の無事を祈る武闘家達に裂空の勇者が尋ねる。
裂空の勇者「武闘家の坊主よ、神樹の破壊ってのは一体……」
武闘家「それについては後で話します。まずは勇者と合流し次第ここから離れるのが先決です」
星氷の勇者「……わかりました、武闘家さんがそう言うなら一刻の猶予も許されてないってことですね」
星氷の勇者がそう言い終えた瞬間、彼らの前に青く輝く魔法陣が現れた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:08:23.39 ID:OfcM5hZm0<> カアアァァッ!!
僧侶「これは……!!」
側近「転移魔法陣……!!」
魔法使い「勇者が帰ってきたの!?」
勇者の帰還を首を長くして待っていた仲間達が転移魔法陣を取り囲む。
ドサッ……
青い光の中から現れたのは美しい黒髪の女性が一人……それだけだった。
魔王「う…………」
側近「魔王様!?」
聖騎士「この女性がか……?」
弓術士「むっちゃ美人じゃないっすか!!」
この場に魔王が現れたと聞き煉撃の勇者は手にしていた剣を倒れている魔王へと向ける。
煉撃の勇者「おいおい、なんで魔王がこんなとこに出てくるんだよ」チャキッ
今にも切りかかりそうな煉撃の勇者を止めようと魔法使いが両手を広げて彼女の前に立ちはだかる。
魔法使い「魔王は敵じゃないよ!!あたし達の友達だよ!!」
煉撃の勇者「は、はぁ?」
突然「魔王が友達」などと言われたものだから流石の彼女も面食らってしまった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:09:39.49 ID:OfcM5hZm0<> 武闘家「大丈夫ですか!?魔王さん!!」
魔王「ぶ、武闘家……? それにみんな……」
僧侶「魔王ちゃん!!勇者君は!?」
魔王「……勇者……勇者はまだ城に……!!」グスッ
「!!!!」
魔王の言葉に場が凍りつく。
神樹による爆発の中心地となるであろう魔王の城に勇者がまだとり残されている。
その場にいる大半が勇者の身に何が起こったのか、どうして魔王がこの場に一人で空間転移してきたのか分からなかったが、唯一武闘家だけは大筋の状況を把握していた。
魔王「武闘家!!城に行って!!勇者が……勇者が……!!」ポロポロ
涙を流しながら魔王は武闘家に必死に懇願する。
武闘家は唇を強く噛むと魔法使いに指示を出した。
武闘家「……魔法使いさん、転移魔法を。……ここから撤退します」
魔法使い「へ……」
僧侶「そんな!!勇者君がまだお城にいるっていうのに!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:10:53.45 ID:OfcM5hZm0<> 武闘家の指示が信じられないと僧侶は叫んだ。
武闘家は拳強く握りしめながら勉めて冷静に話し出した。
爪の食い込んだ彼の手は血が滲んでいる。
武闘家「今から僕達が勇者を救出に行っても神樹の崩壊によって全員が死ぬことになります……勇者はそんなこと望んでいません……」
僧侶「だけど!!」
魔法使い「だったらあたし達だけで行くよ……!!」
ドドッ!!
魔法使い「な……!?」
僧侶「あっ……」
いきなり二人の首筋に衝撃が走った。
急速に意識が遠退いていく。
ドサドサ……
彼女達の後ろでは裂空の勇者が指を真っ直ぐに伸ばして立っていた。
彼女達の頸に手刀を叩き込み気絶させたのだろう。
裂空の勇者「悪いな嬢ちゃん達」
武闘家「裂空の勇者さん……」
裂空の勇者「気にすんな、憎まれ役も年長者の役目だ」
武闘家「……すみません」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:12:09.68 ID:OfcM5hZm0<> 裂空の勇者「おら、わかったらさっさとずらかるぞ、ガキ共!!」
星氷の勇者「…………はい」ギリッ
煉撃の勇者「……あいよ」チッ
やりきれない思いを露にしながら他の勇者達もしぶしぶと撤退に同意する。
三人の勇者達が展開した転移魔法陣がその場にいる者達を青白い光で照らし出していく。
魔王「待って……まだ……まだ勇者が……!!」
側近「魔王様……」
武闘家「…………」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!
ガラガラガラ……!!!!
ビキビキビキビキ……!!!!
大地の鳴動がさらに激しさを増す。
黒の神樹を中心に大地が裂け、そこから魔力の光が溢れ出していく。
魔王「勇者……勇者ぁ!!」
カッッ!!!!!!!!
黒の神樹が光輝いた。
巨大な一筋の光の柱が天高く伸びていく。
光の柱は次第に太くなっていき周囲のあらゆるものを飲み込み始める。
どこまでもどこまでも高く伸びる光の柱に、魔王は大粒の涙を流しながら喉が潰れるほど叫んだ。
魔王「勇者ぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:13:57.64 ID:OfcM5hZm0<> ――――――――
――――
――
―
――――3ヶ月後
魔王の城と魔巌の砦での100代目勇者達の激闘、そして黒の神樹が消え去ってから三ヶ月の月日が流れた。
100代目勇者と100代目魔王の手によって黒の神樹は破壊され、彼らの思惑通り他の神樹達も消え去ることとなった。
他の神樹達が消滅する時に発生した地震によって各国の王都では多少なりとも被害は出たが、少数の怪我人が出ただけで死者は出ていない。
黒の国では魔王の城を中心に広範囲で地形が変化するほどの魔力の大爆発が起きた。
だが幸いにして被害は城の周辺だけで済み、近くの街までは爆発は及ばなかったようである。
そんなわけで今やこの世界には神樹は一本たりとも生えてはいない。
この神樹の消滅は人々に大きな不安を与えた。
今まで信仰の対象としてきた御神木が消え去ったのだ、世界が終わるのかもしれないなどと騒ぐ人間達もいた。
各地の神樹の消滅してからおよそ一週間後、黒の国では100代目魔王が中心となって人間達との和平を目指す大規模な国内会議が行われた。
会議の終了後、100代目魔王は黒の国の総意として聖十字連合に正式に和平を提案。
聖十字連合はその申し出を受け入れた。
100代目勇者と100代目魔王の悲願であった聖十字連合と黒の国との和平は驚くほど簡単に実現したのだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/06(日) 14:16:04.15 ID:OfcM5hZm0<> 和平の実現にともない国際会議の場で100代目魔王はこの世界の真実と神樹が消滅した経緯を全世界の人々に話した。
長い間憎しみ戦い合っていた人間と魔族は実は同じ種族であり、勇者と魔王は神樹による世界崩壊を阻止するための人柱だった。
この告白は言うまでもなく世界中に大きな衝撃を与えた。
本来ならこんな荒唐無稽な話を皆が鵜呑みにする筈はないが黒の神樹の崩壊に伴う大爆発と各地の地震はそれを信じさせるに十分な説得力を持っていた。
国際会議を受けて各国の王と側近達は今まで真実を国民に語らなかったこと、神樹の寿命を延ばすために戦争をしてきたことの責任を取り、皆が王や側近の座を降りることとなった。
その程度では甘いという世論の声もあったが、一方で黒の神樹の崩壊による爆発の凄まじさを目の当たりにした人々は、王達はこれを食い止めるためにに悩みながらも戦争をしていたのではないかという声も上がり王や側近達にはそれ以上の罰は下されていない。
また世界を救った英雄として100代目魔王は魔族からだけでなく人間からも絶大な人気を得た。
十ヶ国全てが加盟した全人類和平条約の調印式では彼女が議長を務め話題を呼んだ。
世界中の人々が互いに手を取り合うこの新しい世界は100代目魔王を中心に新しい道を一歩、また一歩と歩み始めている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:18:14.61 ID:OfcM5hZm0<> ――――緑の国・小高い山の上
店主「やれやれ……歳よりには山登りは堪えるわい」
雑草と木々の生い茂る道無き道を歩きながら店主はぼやいた。
剣士「なぁに、丁度良い運動になるだろ」ガハハ
剣士はその隣で豪快に笑う。
彼にとってはこの程度の山道などなんてことない。
店主「運動にはちぃとばかりキツすぎるわぃ」ハァ
剣士「ん、着いたぜ……ってあれ?」
森を抜け開けた山頂に着くと既に一人の女性がそこにいた。
艶やかな黒髪の女性は山頂からの景色に目を細めている。
剣士達に気付き声をかける。
黒の王妃「あら、こんにちは。お久しぶりですね」
剣士「なんでぇ、もう来てたんですか」
黒の王妃「えぇ、少しだけ早く着いてしまったみたいですね」
黒の王妃「あら、お花とお水なら私も持って来ましたのに」
彼女は手にしていた手提げ袋を軽く持ち上げた。
袋からは綺麗な花が顔を覗かせている。
店主「おぉ、こりゃすみませんな」
黒の王妃「いえいえ、これぐらいしかできませんから」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:20:03.21 ID:OfcM5hZm0<> そう言って袋から水筒を取り出すと山頂に立つ十字架にその水をかけた。
十字架はやや古びていてこの場所に立ってから何年か経っているのが分かった。
店主も彼女に続いて十字架に持ってきていた水を浴びせる。
それが終わると二人は十字架の前にそっと花を供えた。
王妃の持ってきた白い花と店主の持ってきた黄色の花が太陽の光に映えている。
店主はちらと剣士を見た。
彼もまた水筒を手にしているが何もせずじっと十字架を見つめている。
剣士「…………」
店主「なんじゃ、どうかしたのか?」
剣士「…………ここにはアイツは眠ってねぇってのにこんなもんに意味があんのかなぁって思ってよ」
店主「なんじゃ今更じゃな」
剣士「ふと思ったんだよ」
店主「ふむ……言い方は変かもしれんがこの墓はワシらの単なる自己満足じゃろう」
剣士「だろ?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:20:48.81 ID:OfcM5hZm0<> 黒の王妃「でも……私はこの人と大勇者さんとが2人で良く会っていたこの場所にお墓を作ってあげたかったのです」
黒の王妃「亡骸はここになくともあの人の本当のお墓はここだと私は思っていますよ」
剣士「…………そういうもんかな」
剣士は水筒の水をバシャバシャと十字架にかけた。
飛沫が飛び散り雫がしたたる。
王妃はそれを見ながら少し言いにくそうに切り出した。
黒の王妃「その…………」
剣士「?」
黒の王妃「……良ければ大勇者さんのお墓もここに立ててはいかがでしょうか? その方が2人も……」
そこで剣士と店主は声を揃えて言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:22:50.72 ID:OfcM5hZm0<> 剣士「大勇者の墓はいらないですよ」
店主「大勇者の墓はいらんですわぃ」
剣士・店主「ん?」
剣士・店主「…………」ククッ
二人は顔を見合わせて笑い出した。
そして王妃へと言う。
剣士「いいですか、王妃様。大勇者の奴は殺しても死ぬ奴じゃないんです」
剣士「多分死んじまってもアイツは自分が死んだことを認めたりしないからな」
店主「そうそう、勝手に墓なんぞ立てたら怒られてしまうわぃ」フフッ
黒の王妃「は、はぁ……」
王妃は二人が何が言いたいのかよく分からない。
大勇者は黒の神樹の爆発を抑えるためにその命を捧げた。
彼らもその事を知っている筈なのに彼らは大勇者の死を悲しんではいないようだ。
むしろ今も生きているかのように話している。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:24:12.45 ID:OfcM5hZm0<> 剣士「ま、アイツが枕元にでも出てきて墓を作ってくれって頼んできたらその時考えますよ」
店主「その時は酒場のツケを払ってもらおうかのぅ」フォッフォッ
黒の王妃「……私にはよく分かりませんでしたが……良いものですね、仲間というものは」
剣士「ただの腐れ縁ですよ、腐れ縁」ハハッ
剣士はそう言ったがまんざらでもなさそうだ。
店主は持ってきた酒瓶を十字架に見せるように左右に振ってみせた。
店主「……ほれ、お前さんと大勇者が好きだった酒じゃ、持ってきてやったぞぃ」
栓を開けると墓前に供えた。
店主「もし大勇者と飲むことがあってもあんまり飲みすぎるんじゃないぞぃ」フォッフォッ
緑の国の美しい自然を一望できる小高い山の上。
三人は今は亡き二人の偉大な男のことを思いながら風に吹かれて景色を眺めていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:26:46.79 ID:OfcM5hZm0<> ――――白の国・僧侶の家・僧侶の部屋
机に向かう魔法使いは器用に唇と鼻の間に鉛筆を挟んで唸っている。
だがそうしていたのは二、三秒ほどで、すぐに隣で編み物をしている僧侶に鉛筆片手に尋ねた。
魔法使い「ねーねー僧侶、これどうやるの?」
僧侶「えっと……これは33ページの例題2と38ページの例題4の応用だよ、必要な値が全部出ないうちから無理に公式に当てはめて解こうとすると式が足りなくて解けないから気をつけてね」
魔法使い「う……めんどくさいなぁ……」
僧侶「先生目指してるならこのぐらいの問題できなくてどうするの」
魔法使い「は〜い」
魔法使いはぐったりした返事をすると問題を解き始めた。
なんだかんだと言いながら教えられたことはそつなくこなしてみせる。
彼女は勉強ができないのではなく勉強をしないのだけなのだと僧侶は学生時代から知っている。
僧侶「でも驚いちゃったよ、急に学校の先生になりたいだなんて言うんだもん。何かあったの?」
魔法使い「うぅん、なんとなく学校の先生もいいかなって思って」
僧侶「学校の先生"も"……?」
魔法使いの言葉が引っかかり僧侶は聞き返した。
魔法使い「うん、他には彫刻家と歌手のマネージャーと新聞記者と……そうそう、お城の大魔導師っていうのもいいね」
僧侶「ひょっとしてそれ全部やるつもり……?」
魔法使い「もちろんだよ!ま、飽きたらすぐやめるけどね」
僧侶「それは大変だね」ウフフ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:27:58.43 ID:OfcM5hZm0<> 僧侶は魔法使いの馬鹿らしいとも言える人生計画に苦笑する。
しかし魔法使いは至って真面目なようだ。
魔法使い「何言ってるのさ、僧侶。人生は短いんだよ」
魔法使い「人間が一生でやれることは『自分のやりたいこと』と『自分のできること』のどっちかしかないの」
魔法使い「だからあたしは自分のしたいことをやって生きるの、その方が楽しそうじゃん?」ニャハ
僧侶「……ふふっ、魔法使いちゃんらしいね」
魔法使い「えへへ、ありがと」
僧侶「褒めて……るのかな?」
魔法使いの話を聞いて僧侶は自分自身のことについて考えてみようと思った。
戦いが終わってから三ヶ月、色々な取材や公演で大忙しだったのでこうしてゆっくりした時間がとれるようになったのはつい最近だ。
これからどうするか、どうしたいかなんて考えてもいなかった。
そう思うと魔法使いの方がよほど先を見つめて今を生きていると思えてきた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:29:47.93 ID:OfcM5hZm0<> 魔法使い「僧侶は何かしたいことあるの?」
僧侶「私は……まだ何も決まってないや」
魔法使い「ふ〜ん、じゃあさ、歌手とかやったら?」
僧侶「…………それ魔法使いちゃんがマネージャーやりたいだけでしょ」
魔法使い「バレちゃったか」ニャハハ
僧侶「無理だよ、無理無理。私が歌手だなんて」
魔法使い「え〜、僧侶歌うまいしきっとできるよ、何より可愛いからファンが山ほどできるよ?」
僧侶「もぅ、からかわないでよ」
魔法使い「大勢の人達を感動させて笑顔にさせる仕事。やりがいあると思うけどなぁ〜……」
僧侶「笑顔……か」
僧侶はそう言われて魔王のことを思い浮かべた。
魔法使いも同様に彼女のことを考えていた。
黒の神樹の暴走に勇者が巻き込まれてから魔王は一度たりとも笑ってはいない。
国事など大衆の前に立つ時は笑顔を見せてはいるが彼女の本当の笑顔を知っている僧侶達はその笑顔が作り笑いだと分かっていた。
心の底から彼女が笑顔になったところをこの三ヶ月見ていない。
彼女の心はあの日から凍ってしまったままだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:32:06.75 ID:OfcM5hZm0<> 僧侶「魔王ちゃんをどうにか笑顔にしてあげたいね……」
魔法使い「うん……」
魔法使い「魔王と約束してた色んなところ行ったけどなんか笑顔がぎこちなかったもんね」
僧侶「あの日以来、魔王ちゃん私達にも『魔王様口調』のままだしね……」
僧侶の言う通り魔王は僧侶達に対しても魔王様口調で話すようになっていた。
どうしてそうなってしまったのか、その理由が痛いほど分かる僧侶達は言葉遣いを改めるように彼女に言ってはいない。
僧侶「……でも魔王ちゃんは強いよね、いつまでも泣いてたりしないで新しい世界を引っ張っていってるんだもの」
魔法使い「あたしには……魔族の王様として振る舞ってないと心が崩れちゃうからそうしてるように見えるなぁ……」
僧侶「…………」
魔法使い「そういう僧侶はもう大丈夫なの?」
僧侶「……うん、もういっぱい泣いたからね、涙も枯れちゃったかな」フフッ
僧侶は魔法使いに笑ってみせた。
僧侶自身気づいてはいないだろうがその笑顔は以前の彼女のものとは別物である。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:33:46.12 ID:OfcM5hZm0<> 僧侶「…………心の傷はどんな回復魔法でも癒せないもの……時間が治してくれるのを待つしかないかな……」
魔法使い「……そうだね」
魔王のことを考えながら僧侶はそうこぼした。
魔法使い「……新しいことを始めるってのもいい刺激になるかもよ?」
魔法使いが思いついたように言う。
僧侶「例えば?」
魔法使い「僧侶だったら歌……」
僧侶「ここ、間違えてるよ」
魔法使いのノートをすかさず指差す僧侶。
魔法使い「う……」
僧侶「先生への道は長く険しいね」フフッ
鉛筆で頭を掻きながら間違いを探す魔法使い。
穏やかな日の光が窓際にある新品のサボテンの鉢を照らしていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:34:59.97 ID:OfcM5hZm0<> ――――白の国・王都・勇者の家
武闘家「……おや?」
勇者の家を訪れた武闘家は思わず呟いた。
勇者の家は荷物はそのままなれど今は空き家だ。
にもかかわらず人の気配がする。
武闘家「…………」
キイィ……
泥棒かもしれないので身構えながら扉を開けた。
「誰じゃ?」
家の中からは老人の声がした。
聞き覚えのあるその声に武闘家は警戒を解く。
武闘家「あれ?王様……?」
白の前王「おぉ、武闘家か。久しぶりじゃのぅ」
居間で椅子に腰かけていたのは白の国の王……いや、前王だ。
年老いてはいながらも威厳のあるその顔に長い髭をたくわえている。
武闘家を見ると孫に会った老人のように人懐っこく笑ってみせた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:37:30.46 ID:OfcM5hZm0<> 武闘家「えぇ、お久しぶりです。あの……王様はどうしてここにいらっしゃるのですか?」
白の前王「わしはもう王ではない、ただの老人じゃ、そう畏まることはないぞ」フフッ
武闘家「……そうは言ってもこの国の政治を裏で上手く支えているのは前王様でしょう? 失礼ですがご子息はまだ王としての務めに不慣れで至らぬところがあると思いますから」
白の王が王の座を降りてからは彼の長男である王子がが新たな王となった。
しかしいきなり大国の王に即位した彼はまだまだ政治を上手くこなせているとは言い難い。
実際は影で白の前王が引き続き政治をしているようなものだった。
白の前王「ホッホ、こりゃ手厳しいのぅ。まぁ否定できんのが少しばかり痛いとこじゃな」
白の前王「なに、わしはちょいと助言をしているに過ぎんよ」
武闘家「そういうことにしておきます」フフッ
白の前王「……と、質問に答えていなかったのぅ。何故わしがここにいるか、じゃな」
武闘家「はい」
白の前王は長い髭をそっと撫でると武闘家に微笑んだ。
白の前王「おそらくお主と同じ理由じゃよ」ニコ
武闘家「……そうですか」クスクス
武闘家にとっては十分な答えだった。
むしろそれ以上の答えはないくらいだ。
笑い終えると武闘家は老人に小さく会釈した。
武闘家「……では僕は勇者の部屋に行ってみますね」
白の前王「うむ。暇だったら紅茶を煎れてくれても構わんよ」
間延びした声でそう言う老人に笑顔を返し武闘家は二階にある勇者の部屋へと向かっていった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:38:33.05 ID:OfcM5hZm0<> 鍵がかかっていたら帰ろうと思っていたが幸いなことに鍵はかかっていなかった。
ドアを開くとおよそ半年ぶりに入る勇者の部屋がそこにはあった。
武闘家の知る勇者の部屋の状態の中では比較的片付ている。
白の国から旅立ってから半年間もの間、誰にも使われなかったため埃がうっすら積もっている。
武闘家は勇者のベッドへとゆっくりと腰を下ろした。
彼が何故ここに来たかと言うと、その理由は『なんとなく』だ。
言葉にし難いなんらかの思いがはたらいてここに足を運びたくなったのだ。
だから先ほど白の前王が「お主と同じ理由」と言った時も「なんとなくなら仕方ない」と妙に納得してしまった。
武闘家「…………」
部屋全体をぐるりと見渡す。
何度も遊びに来たこの部屋は言わば武闘家にとって第二の自分の部屋だ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:41:35.45 ID:OfcM5hZm0<> 武闘家「…………ん?」
机の上に無造作に置かれた本に目が止まる。
勇者の部屋には似つかわしくない分厚い本だ。
立ち上がるとその本を手にとった。
武闘家「これ父が書いた魔法研究の論文じゃないですか……僕でもよくわからないところがあるのになんでこんな難しい本を勇者が?」
武闘家はしばらくその本を手に考えこんでいたが突然吹き出した。
武闘家「ふふっ、大方魔王さんあたりに『漫画しか読まない』って言われて見返してやろうと思って買ったんですかね」フフフッ
探偵顔負けの名推理だ。
もしこの場に勇者がいたら目を丸くして驚いただろう。
そっと論文を机の上に戻した。
なんの気なしに見た本棚の最上段、一番角に見覚えのある本が数冊ある。
武闘家「よっと」
軽く背伸びしてその本を一冊手にとる。
武闘家「やっぱり勇者に貸しっぱなしでしたか」ハァ
その本こそ勇者と武闘家が友人となるきっかけとなった漫画だ。
持ち主である武闘家の手に触れることなく八年もの歳月を勇者の家で過ごしていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:43:23.94 ID:OfcM5hZm0<> 武闘家「続きが気になるからとか言って終わりの頃の巻全部借りて行くんだものなぁ……僕が家で読み始めると必ず途中で止まってしまって……」ヤレヤレ
武闘家「…………」パラパラ
保存状態のあまり良くはないその漫画を久しぶりにめくってみた。
武闘家「あ〜……懐かしいなぁ……やっぱり良いものは何度見ても良いですね」
武闘家「この脇役の魔法使いが大魔王に啖呵切るところなんて今読んでも胸が熱くなりますよ」フフッ
しばらく思い出の漫画を読みふけっていた武闘家だが最後の巻を読み終えたところで静かに息を吐いた。
武闘家「さて……じゃあこの漫画は僕のですから返してもらいますね」
数冊の漫画を手にして、部屋を出ようとドアノブに手をかける。
武闘家「………………」
何を思ったのか武闘家は引き返すと漫画を本棚のもとあった位置に綺麗に戻した。
代わりに机の上の分厚い論文を手にする。
武闘家「……やっぱりまだ貸しておいてあげます」
武闘家「8年分の利息としてこの本は貰っていきますね。どうせ勇者が持ってても枕の代わりにもならないでしょうから」フフッ
武闘家「……漫画は今度会った時に自分で返して下さいね。……じゃ、また来ます」ニコッ
誰もいない部屋に静かに微笑んで武闘家は勇者の部屋を後にした。
勇者の机には本によってできた埃のあとがくっきりと四角く残っていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:44:31.21 ID:OfcM5hZm0<> ================
「……遅くなってごめん」
背後から懐かしい声が聞こえた。
はやる気持ちを抑えてゆっくりと振り向く。
涙を浮かべながら私に優しく微笑む彼を見て私も涙を流した。
彼は突然泣き出した私を昔のようにからかう。
「おいおい、泣くことないだろ? 相変わらず泣き虫だな」
「……馬鹿、どれだけ待ったと思ってるの?」
「う……だからごめんって……」
焦る彼を私は優しく抱きしめた。
「いいよ、こうしてちゃんと会いにきてくれたんだもの、許してあげる」
「……ありがとう」
「でも許すのには条件があるわ」
「……?」
不思議そうな顔で私を見つめる彼の耳元に囁いた。
「……ずっと、ずっと一緒にいてね」
彼は何も言わなかった。
その代わり私を強く抱き返してくれた。
この上ない返事だった。
広場を行き交う人々の視線など気にもせず、私達は神樹の前でいつまでも抱き合っていた。
――――――――完
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:45:57.71 ID:OfcM5hZm0<> ――――緑の国・名も無き湖のほとり
魔王「ふむ………………」フゥ…
魔王は読み終えた本を閉じて揺れる水面を眺めた。
今しがた彼女が読み終えた本は白の国で流行りの恋愛小説だ。
以前上巻を読んでいた魔王は続きがずっと気になっていた。
先日ついに心待ちにしていた下巻が発売されたのでこうして読んでいたところだった。
魔王「……良い話だ。どこが素晴らしいかと言うと待ち合わせの相手がちゃんと現れるところだな」
一人で感想を呟く。
カアアァァッ
その時、背後に魔法陣が展開された。
視界の端から見えた光は青白い……どうやら転移魔法陣のようだ。
スタッ
着地の気配を感じ取ると魔王は厳しい口調で言った。
魔王「遅い、遅刻だ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 14:46:24.32 ID:yuszXYxuo<> 乙
すげーよかった
ただ、もうこの話読めないと思うと残念だわ
prologはifの話?
それとも、勇者や大勇者の他にも魔王と友達になった奴がいてそいつらの最終決戦? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:48:29.56 ID:OfcM5hZm0<> 魔王に突然そう言われて転移魔法でその場にやってきた側近は狼狽える。
側近「も、申し訳ありません。遅かったでしょうか? 時間通りに来たつもりだったのですが……」
魔王「何、気にするな。言ってみたかっただけだ」
側近「は、はぁ……」
側近の困惑を察した魔王は自分から話題を振ってやった。
魔王「何か報告はあるか?」
側近「ハッ、今後のスケジュールに変更はありませんが伝えておきたいお話が2つほど」
あの戦いの後、彼女は再び100代目魔王の側近の役目を任されていた。
前よりも多忙となった魔王には今や側近が三人ほどついているが彼女はその中でも別格、公私共に魔王を支えている。
側近「逃亡中だった元魔将軍の部下の研究者が星氷の勇者と仲間達によって捕らえられました」
魔王「そうか」
側近「彼は自分はただ研究をしていただけで何も悪くないなどと言っておりますが……」
魔王「まぁそれは事実だろう。私も昔彼に会ったことがあるがあれは根っからの研究者だ、野心や野望なんて持ち合わせてはおらん」
側近「では処分の方は……」
魔王「任せる。ただあまり厳しくせんでもよかろう」
側近「ハッ、かしこまりました」
魔王「して、もう1つの方は?」
側近「それは…………」
側近はつらそうに眼を伏せた。
よほど言いづらいことなのだろう。
魔王「構わん、申せ」
側近「…………つい先ほど99代目勇者と100代目勇者の捜索が打ち切られました…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 14:48:58.33 ID:W0qSw+ZAO<> >>858
いいから黙って続きを待て <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:49:54.97 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「…………そうか」
魔王は報告を聞いて静かにただそう言った。
側近「爆心地である黒の神樹跡を中心に考えられ得るありとあらゆる場所をくまなく捜索させたのですが手がかりすら掴めず…………」
魔王「…………」
側近「第二陣を結成し引き続き捜索に当たらせようと思いますが……」
魔王「いや、もう良い」
側近「魔王様……」
魔王「3ヶ月もの間大量の人員を投入し草の根を分けて探させたのだ。それで見つからないということは……そういうことだろう」
側近「…………」
魔王「……事実は小説よりも事実、だな」ボソッ
側近「はい?」
魔王「いや、なんでもない」
魔王の言葉がよく聞き取れず気になった側近だったが魔王がそう言うのでそれ以上は聞かなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:52:03.23 ID:OfcM5hZm0<> 魔王「…………なぁ、側近」
側近「はい」
魔王は遠くの山をぼんやりと眺めながら側近に話しかける。
魔王「勇者という男はな、待ち合わせにはことごとく遅刻してくる男なのだ」
側近「……そう聞いています」
魔王「私が遅刻を咎めると決まってこう言うのだ」
魔王「『待ち合わせに来ないよりは遅刻してでも来た方が良いだろ』とな」フフッ
魔王「私は勇者がそんな屁理屈を言う度に少なからず苛立ちを覚えたものだが……今は本当に勇者の言う通りだと思うよ」
側近「…………」
魔王「だからと言って遅刻は許されんがな」フッ
小さく笑った魔王の笑みは儚げで消えてしまいそうであった。
それだけ言うと「よっ」と言って魔王は勢い良くベンチから立ち上がった。
魔王「さぁ、戻るぞ、側近」
魔王「私達は今に生きる人間としてできることを全力でやらなければならん」
魔王「それがこの世界の犠牲となった数え切れない人々のために私達ができる唯一のことなのだからな」
側近「……そうですね」
魔法の使えない魔王に代わり側近が転移魔法を展開する。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 14:56:27.85 ID:tBZq4YBlo<> ヤバいこんなに更新押しまくるの久々だ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/06(日) 14:58:44.57 ID:OfcM5hZm0<> 青白い光に包まれながら側近は魔王に尋ねた。
側近「魔王様、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
魔王「なんだ?」
側近「今でも……勇者さんのことを想っていらっしゃいますか?」
魔王「……フフッ」
魔王は側近が真顔で色恋沙汰の質問を聞いてきたのがおかしくて笑ってしまった。
側近の瞳を見て魔王は静かに微笑む。
魔王「待ち合わせに毎度遅れて来るような男にはとうの昔に愛想をつかしているよ」フッ
長く美しい黒髪を左手の人差し指にくるくると絡めながら魔王はそう答えた。
―
――
――――
―――――――― E N D <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 14:59:56.38 ID:tBZq4YBlo<> 魔王…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 15:03:06.48 ID:vx4lMyy40<> 乙
勇者が生きてたらなぁ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 15:07:22.18 ID:tBZq4YBlo<> てか終わりか?
店主が「まだ続くんじゃ」とか言い出すんだよな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 15:09:05.97 ID:XlzuCWuho<> やっぱり最後って難しいよなー <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/06(日) 15:13:23.67 ID:OfcM5hZm0<> はい、長々とお付き合い下さりありがとうございました。
ちなみにここまでで283000文字あるみたいです、原稿用紙700枚ちょいですねw
終盤リアルタイムでレスもらってマジでびびってました
「うお、今読んでくれてる人いる!」みたいなw
それと>>826-827は本当に申し訳ありませんでした
826で誤字とミスに気付いて827で直したので827が正しい文章なのですがいい感じの流れだったのにぶったぎることになってしまい本当に残念です
そしてここまでお付き合いくださった皆さんに一言。
プロローグがあるんですからもちろん…………
でばまだお会いしましょう☆ <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/06(日) 15:16:44.38 ID:OfcM5hZm0<> >>858
色々解説というか補足を後でまとめて書き込む予定なのでその時まで待っててくれると助かります^^; <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 15:16:55.61 ID:tBZq4YBlo<> これは期待せざるを得ない
>>858
俺は大勇者と先代魔王の会話に感じたがな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 15:17:25.77 ID:tBZq4YBlo<> おっとすまない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 15:20:40.06 ID:KMm14jeAo<> よっしゃ待ってる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/06(日) 16:12:06.43 ID:n54iqikE0<> 頼む早くしてくれ <>
右衛門 ◆migiemon/o.n<>sage<>2013/01/06(日) 16:13:11.76 ID:NaS6i1Abo<> 勇者が生きてればな…
ちょい胸糞エンドだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 17:41:30.99 ID:uxTs7/dho<> 乙
エピローグが楽しみだなぁ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 17:46:48.97 ID:lf8AWS2to<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 18:40:57.47 ID:jZmahv0Co<> とりあえず乙!
期待して待ってる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 19:04:29.72 ID:gbVZqw6ao<> 魔王の笑顔に期待乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 19:47:55.23 ID:5aWdMG8co<> >>858
早漏乙
プロローグの魔王の瞳の色は「真紅」
100代目魔王が転送されるときに流した涙の瞳の色は? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 21:06:13.34 ID:jaYOgE+IO<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 21:06:59.12 ID:jaYOgE+IO<> >>864
>魔王「待ち合わせに毎度遅れて来るような男にはとうの昔に愛想をつかしているよ」フッ
どういうこと?
魔王は勇者が嫌いってこと? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 21:09:03.46 ID:8lbtHroIO<> >>882
もう一度読み返してこいks
魔王が髪クルクルしてるだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 21:14:13.12 ID:tBZq4YBlo<> >勇者「左手に髪の毛をクルクル巻きつけるのはアイツが嘘をつく時の癖なんだ」
>勇者「そう。嘘をつく時に100%その癖が出る訳じゃないけど……逆にその癖が出る時は100%嘘をついてる」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 21:32:08.41 ID:jaYOgE+IO<> うおおおおお本当だあああああああ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 21:37:01.62 ID:cfYHsaN3o<> 今日丸一日かけて一気に全部よみました!
とりあえず乙です!
本当に楽しませてもらいました
話の展開とか伏線とかすごくつくりこまれててワクワクがとまりませんでした
もう最後の方とか涙なしではよめませんでした
ここ最近読んだ中で一番よかったです
私的にハッピーエンドが好きなのでエピローグ楽しみにしてます! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/06(日) 22:00:59.87 ID:GZ1cx8gw0<> すごい楽しかったです!
エピローグも楽しみにしてます! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 00:15:54.86 ID:GLqS7j7AO<> >>880
金色であります! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 01:49:57.76 ID:MoFZUX6Ro<> 理窟じゃなくて理屈だぞ
中二病の妄想全開でなんか見ていてむず痒かった
ドドンガドン!!!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 05:19:12.08 ID:RwE7nzDuo<> 乙
投下中の他の人のレスは控えて欲しかったかな
エピローグにも期待してます <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/07(月) 11:26:03.45 ID:ps62FN7C0<> 今日の夜が最終投下です
最後までお付き合い下さるとうれしいです <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2013/01/07(月) 11:32:01.22 ID:ps62FN7C0<> >>889
ご指摘ありがとうございます
調べてみましたが『理窟』は『理屈』の旧字のようですね
『理窟』もあながち間違いではないようですが『理屈』と『理窟』が文章中でどちらかに定まっていないのは配慮が足りなかったと思います、申し訳ありません
他にも誤字や脱字が多々ありますが大目に見てやってください^^; <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 13:05:06.89 ID:JUt0VQTho<> 今夜とかわくわくがとまらない! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 13:37:10.11 ID:kXB35Cz2o<> はよはよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 13:41:09.77 ID:qyrUIesBo<> また全裸待機だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/07(月) 19:29:25.85 ID:quFJKdCy0<> はよ <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/07(月) 23:10:42.21 ID:ATnZACU80<> お待たせしました
今から投下します!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 23:10:53.92 ID:MdxCaIXWo<> キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 23:13:00.20 ID:eZDNwP1IO<> キタ━━(゚∀゚)━━!! <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/07(月) 23:13:21.68 ID:ATnZACU80<> 【Extra Episode】
この世界には物語が溢れている。
世界を救った少年の物語。
新たな世界を導く少女の物語。
親友との死闘の果てに死した男の物語。
路地裏でひっそりと酒場を営む老人の物語。
はてや客のいない宿屋で欠伸をかみ殺すおやじの物語。
一人の人間がいれば必ずそこに物語が生まれる。
世界には人の数だけ物語が存在するのだ。
勿論、誰にも知られることのない物語も存在する。
これは黒の神樹が崩壊するほんの少しだけ前の出来事。
ある一人の男の最期の一時を綴った物語である。
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/07(月) 23:14:36.38 ID:ATnZACU80<> ――――――――
―――――
――
―
――――世界で一番深い場所
『よぅ、久しぶりだな』
「…………」
『どうした?』
「いやいや、待て待て、おかしいだろう」
『何がだ?』
「何故お前がここにいるんだ?」
「私は夢でも見ているのか? それともひょっとしてもう死んでいるのか?」
『少なくとも死んではいないだろう。夢かどうかは頬でもつねって確めてみたらどうだ?』
「……夢ではなさそうだな」ギュウ〜
「……じゃあなにか、私は幽霊でも見ているのか?」
『残念だが少し違うな、思念体というやつだ』
「思念体……?」
『初代勇者が聖剣に、初代魔王が魔剣にその意識の一部を移しただろ? あの応用で私も魔剣を依り代に私自身の記憶にある肉体を映像で映し出しているのさ』
「……何が思念体だ、よく見たら透けてるし幽霊とたいして変わらんではないか」
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/07(月) 23:16:32.46 ID:ATnZACU80<> 『まぁそうだが……しかしお前は老けたな』ククッ
「当たり前だろ馬鹿、あれから17年も経ったのだぞ?」
『髭など生やしおって……なかなか似合っているぞ』クスクス
「からかうな」フンッ
「そもそもお前は死んでいるのだから卑怯だ」
『卑怯とは?』
「自分ばかり若い頃の姿で化けて出てきおって……」
『仕方ないだろう、死んでいるのだから』
「……と言うかこんなどうでもいい話をするためにお前は出てきたのか!?」
『まぁまぁそう言うな、久しぶりに会ったのだから積もる話もあるだろう』
「……お前死んで性格が大分軽くなったのではないか?」
『ふむ……そうかも知れんな。実際肩の荷が下りたからな、清々しい気分ではあるよ』
「まぁ私は今のお前の方が話し易いが……」
『私は逆だがな』
「ん?」
『一人称は『私』だし言葉遣いはなんだか固くなっているし……お前と話している気がしないよ』
「もう随分と前からこの話し方だよ、私は」
『前みたいには話せんのか?』
「む? う〜む……どうだろうな。すっかりこの話し方に慣れきってしまったからな……」
『昔のお前を知っている私にしてみれば無理に大人びた話し方をしているように見えて面白いが……』フフッ
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/07(月) 23:17:43.91 ID:ATnZACU80<> 「あーー〜〜、もう!!わかったわかった!!」
「おら、こんでいいんだろ?」
『おぉ、そうそう、それだよ』
「……ったく、今度は俺が違和感ありまくりだっての」
『だが昔に戻った気がするんじゃないか?』
「……まぁちょっとだけな」
「そういやお前の娘、王妃様に似てすげー美人になったな」
『うむ。若い頃の妻と瓜二つだよ』
「でも空気と言うか雰囲気と言うか……そういうもんはやっぱお前によく似てるよ」
『ほぅ……』
「あれで瞳が赤かったらもっとお前に似てたんだろうけどな」
『そう言うお前の息子は何から何までお前そっくりだな』フフッ
「よく言われる」
『自由なところも、不思議な温かさも、何より後先考えずに無茶やらかすところがな』ククッ
「……あぁ、俺の自慢の馬鹿息子だよ」フフッ
『……親バカめ』フフッ
「へいへい」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:19:05.61 ID:ATnZACU80<> 『……魔剣を通して全てを知ったよ。娘達は全てを……私達にはできなかったことをやってのけたようだな』
「あぁ。そうみたいだな」
『人間と魔族が争うことなく手を取り合って暮らす平和な世界か……』
「……俺達が昔夢見ていた世界そのものだな」
『……あぁ』
「子供達には争いの無い平和な世界を生きて欲しい……俺達の夢は息子達がその手で叶えることになったな」
『そうだな』
「もし俺達がこの方法に気付いてたら……」
『よせ、"もし"の話をし出したらキリがないぞ』
「だけどさ……」
『それに私はこれで良かったと思っているよ』
「?」
『親の悲願をその子供達が叶える……なかなかオツな話ではないか』
「そういうもんかね」
『そういうものだよ』
「まぁ……なんにせよこれで俺は人生になんの未練もないさ」
『…………そうか』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:20:26.11 ID:ATnZACU80<> 「さて、最後の仕事を片付けたら俺もゆっくり寝るとするか」
「そっちに行ったらまた一緒に酒でも飲もうぜ」
『あぁ、喜んで付き合おう』
「…………あ」
『どうした?』
「……そういや俺ずっと気になってたことがあってさ」
『ほぅ?』
「最後の決戦で俺がお前を倒した時、お前死に際になんか言ったろ」
「あれ何て言ってたのかよく聞き取れなくてさ、ずっと気になってたんだよな」
『…………あぁ、あれか。あれは……』
「あ〜いやいや、言わなくていい」
『? どうしてだ?』
「今なら……なんとなくお前が言いたかったことが分かるよ」
『……そうか』フッ
「俺も同じ気持ちだ」
「お前に出会えて、本当に良かった!!」ニッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:22:10.63 ID:ATnZACU80<> 【Epilogue】
全人類和平条約の調印式から一年。
白の国の王都では和平実現一周年を記念する大規模な宴が開催されていた。
世界中から多くの人々が訪れ歌い躍り酒を飲んだ祭りも今日で終わり。
開会式同様、白の神樹跡地に立つ大きく立派な式場を利用して閉会式が行われる。
屋根の無い式場は言うよりは広場に近い。
実際白の神樹前広場と繋がる造りになっており、それ故式場には何万もの人が一度に入場できる。
式には各国の代表者だけでなく世界を救った100代目勇者の仲間達も参加するとあって最終日だというのに式場は超満員だ。
今回の宴で今日が最も人が多いだろう。
おそらく人類史上、一ヶ所にこれほど多くの人間が集まったことは未だかつてないに違いない。
会場の人々が式の始まりを今か今かと心待ちにしている。
そしてここは控え室。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:23:19.77 ID:ATnZACU80<> 魔法使い「ヘアメイクさんは!?」
若い男「なんでも急用で来れなくなったそうです」
魔法使い「じゃあ衣装さんは!?」
若い男「どうしても抜けられない用事ができたとかで……」
魔法使い「あぁん、もう!!式が始まっちゃうって言うのにー!!」
魔法使いは頭をかきむしった。
栗色の髪の毛がボサボサになる。
僧侶「ねぇ、魔法使いちゃん。やっぱりやめようよ」
鏡の前で美しくメイクを済ませた僧侶が魔法使いに言う。
メイクと言っても彼女の素肌は元々十分美しいので軽くめかした程度にすぎない。
魔法使い「何言ってるの!!僧侶がせっかく歌手デビューしてくれるって言ってくれたのにそのデビューライヴを中止にするだなんて!!」
魔法使いが眼鏡を光らせて叫ぶ。
ちなみにこの眼鏡は伊達眼鏡だ。
「マネージャーっぽいから」というよくわからない理由で彼女はその眼鏡をかけている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:24:54.21 ID:ATnZACU80<> 僧侶「それなんだけどさ、私歌手デビューするなんて一言も言ってないよ?」
魔法使い「でも歌ってくれるって言ったじゃん!!」
僧侶「だって魔法使いが何回も何回も土下座で頼んでくるんだもん……仕方なく1回だけって」
僧侶「しかもこんな大舞台でだなんて聞いてないよ……」
魔法使い「そりゃどこでやるかなんて言ってないもん。でもこれは絶好の機会だよ、ここで僧侶の魅力を全世界にアピールすれば一気にトップアイドルになれるよ……!!」ピコピコ
魔法使いは全くノリ気でない僧侶とは対照的に猫耳を動かしながら何やら燃えている。
僧侶「そもそもヘアメイクさんも衣装さんもいないんじゃ……」
と、そこで側近が控え室を訪れた。
側近「魔法使いさん、代わりのヘアメイクと衣装が見つかりました!」
魔法使い「側近さんナイス!!」グッ
側近「大至急こちらに向かわせておりますので式までにはなんとか間に合いそうです!」
魔法使い「やった!!」ピコピコ
僧侶「……うぅ、やっぱり逃げられないんだね……」
魔法使い「あったりまえじゃん!!約束破ったら絶交だよ!!」ニャハハ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:26:45.37 ID:ATnZACU80<> がくりと肩を落とす僧侶。
魔法使いはそんな彼女を見て楽しそうに笑っている。
側近は控え室の中を見渡して心配そうに言った。
側近「武闘家さんはまだいらっしゃっていないのですか……?」
魔法使い「まだ来てないよ」
僧侶「武闘家君、魔法研究局の副局長になってから研究で忙しいみたいだもんね」
魔法使い「うんうん、なんだか研究のためにここ2、3ヶ月は白の国にも帰って来てないらしいよ」
僧侶「連絡はいってるハズだから来てくれるとは思うけど……」
バンッ!!
僧侶が不安そうにそう言った時、控え室の扉が音を立てて開いた。
武闘家「遅くなりました!!」ハァハァ
僧侶「武闘家君!」
魔法使い「武闘家!!」
側近「武闘家さん!」
スーツに身を包んだ武闘家は息を乱しながら控え室へと入ってきた。
全力で走ってきたのだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:28:14.84 ID:ATnZACU80<> 武闘家「なんとか間に合ったみたいですね」フゥ…
魔法使い「遅いよもぅ〜」
武闘家「フフッ、まさか魔法使いさんに遅刻を咎められるとは思ってもいませんでしたよ」
僧侶「久しぶり、武闘家君。研究大変なんでしょ?」
武闘家「えぇまぁ、でもこの上ない成果が出ましたよ」ニコッ
武闘家は爽やかに微笑む。
彼が笑顔を絶さぬのはいつものことだが今日の笑顔は特別嬉しそうな笑顔だ。
長い付き合いの僧侶と魔法使いにはそれが分かる。
魔法使い「武闘家も来たしあとはヘアメイクさんと衣装さんが来るのを待つだけだね」
武闘家「あ、すみません」
魔法使い「なんで武闘家が謝るの?」
武闘家「おっと、それもそうですね」フフッ
武闘家はおかしそうに笑う。
ドタドタドタドタ!!
廊下を駆ける足音が聞こえてきた。
側近「どうやらヘアメイクと衣装が到着したようですね」
武闘家「おっと、では僕は邪魔になるでしょうから失礼しますね。式でまたお会いしましょう」
僧侶「うん、またすぐ後に」
魔法使い「じゃーねー」
代理のヘアメイクと衣装担当と入れ替わるように武闘家は控え室を出ていった。
その手には読み込まれた分厚い本が一冊握られている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:30:24.42 ID:ATnZACU80<> いくつかのトラブルがあったものの閉会式は開催の時を向かえた。
夜空の下、魔力灯の淡い灯りによってライトアップされた舞台と会場はどこか幻想的でもある。
司会は側近が務めた。
開会の挨拶を彼女が述べると会場は割れんばかりの拍手に包まれる。
お調子者や酔っぱらいは口笛を吹いたりクラッカーを鳴らしたりして警備兵に怒られている。
舞台の端に設けられた席に座る各国の代表者達を紹介していく。
紹介が終わると音声増幅の役割をする魔法具を手に軽く咳払いした。
側近「では、ここで世界を平和へと導いた100代目勇者一行にご登場していただきましょう」
うおおおおぉぉぉぉ!!
会場からは大きな歓声が上がる。
まずは武闘家が舞台に上がる。
側近「100代目勇者一行の頭脳こと武闘家さんです。聡明な彼は若干18歳にして魔法研究局の副局長を務めていらっしゃいます」
武闘家「どうも」ニコッ
「キャーー!!」
「武闘家様ーー!!」
「こっち向いてぇーー!!」
黄色い歓声が会場のところどころで上がる。
僧侶「相変わらずすごい人気だね」アハハ
魔法使い「昔から武闘家はモテモテだもんね」ニャハハ
舞台袖で僧侶達が笑い合う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:33:01.17 ID:ATnZACU80<> 魔法使い「ほら、次は僧侶でしょ?」
僧侶「う……やっぱりこんな格好恥ずかしいよ……」
きらびやかな衣装が恥ずかしくて僧侶はモジモジしている。
おそらく彼女は人生でここまで短いスカートははいたことがない。
魔法使い「いいから行くっ」ドン!!
僧侶「わわっ!!」
魔法使いに背中を押されて僧侶はよろけながら舞台へと上る。
側近「続いては僧侶さんです。可憐な彼女は100代目勇者の仲間として数々の戦場で数え切れない人々の命を救ってきました。今宵彼女はこの場で生ライヴを披露して下さるそうです」
僧侶「よ、よろしくお願いします」ペコッ
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
「僧侶さーーん!!!!」
「戦場の天使ーー!!!!」
野太い歓声が沸き上がる。
心なしか開会の歓声よりも大きい。
僧侶への歓声が冷めやらぬ中、魔法使いも舞台へと上がってきた。
魔法「ほっ!」
側近「そして魔法使いさんです。彼女は僧侶さんのマネージャーであると共に城の大魔導師も務めていて、さらに学校の先生も目指しているそうです。今日は私達にサプライズを用意してくれているようです」
魔法使い「イェーイ!みんな楽しんでいってねー!!」ピョン
「大魔導師様ーー!!」
「可愛い〜〜!!」
「も、萌えーー!!」
武闘家達に負けないような歓声が会場に溢れる。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:35:52.71 ID:ATnZACU80<> 舞台に上がった三人は各国の代表者達が座る席とは反対側の席へと腰を下ろす。
そこには四つの椅子が並べられている。
その最後の一つに座る者は決まっている。
武闘家達が席についたのを見計らい側近が言う。
側近「では、最後のゲストに登場していただきましょう……」
彼女の一言に会場は静まりかえる。
側近「…………」パチィン
カアアァァッ!!
側近が指を鳴らすとステージの中央に青く光る魔法陣が展開された。
青白い光りに包まれながら一人の少女がその場に現れた。
長く伸びた艶やかな黒髪と透き通った黄金の瞳は息を飲むほど美しい。
側近「100代目魔王にして世界連合の議長を務める魔王様です」
魔王「…………」ペコッ
彼女は見に纏った上品な漆黒のドレスのスカートの端を指で軽く摘むと大衆へ向かってうやうやしく頭を下げた。
「………………」
パチパチパチパチ
彼女の静かな物腰と高貴な姿に会場の人々は歓声ではなく拍手で魔王に応えた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:37:32.13 ID:ATnZACU80<> 魔王「…………」
ゆっくりと頭を上げると魔王は会場を眺めた。
元は同じ種族と言えど長い間争いを続けてきた人間と魔族がこうして同じ場所で平和を祝う式典に参加している。
魔王はそれだけで感慨深かった。
そして不意にこの光景を勇者にも見て欲しいと思ってしまった。
魔王(……いかんな)
心の中でそう呟くと自分の席へ向かおうと歩き出した。
そこで突然武闘家が立ち上がる。
武闘家「あ、すみません」
「???」
会場の皆が武闘家の行動に疑問を持つ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:38:22.89 ID:ATnZACU80<> 武闘家「側近さん、僕のスピーチの時間、今からにしてくれませんか?」
側近「え? えぇと……武闘家さんのスピーチの時間は式の後半、休憩を挟んだすぐ後ですが……」
武闘家「そこをなんとか。あとその魔法具も貸して欲しいのですが……」
側近「は、はぁ……」
何がなんだかわからないが何か理由があるのだろうと側近は武闘家に拡声魔法具を手渡す。
武闘家「あーあー、テステス」
魔法具を握ると武闘家は軽くテストしてみた。
問題がないことを確かめると話し始める。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:39:58.06 ID:ATnZACU80<> 武闘家「こんばんは、皆さん。武闘家です」
武闘家「今日は式にお集まりいただき有り難うございます」ペコ
武闘家「え〜、突然ですがこの本、見たことありますか?」
武闘家は手にしていた分厚い本を片手で掲げてみせた。
本には至るところに付箋が貼ってあり、彼によって使い込まれたことがよくわかる。
武闘家「大半の方が見たことはないでしょうから軽く説明しようと思います。あ、読んだことのある方はいびきをかかない程度に寝ていて下さって構いません」フフッ
武闘家「これは『新説魔法学〜魔力痕研究学〜』という僕の父が書いた論文です」
武闘家「言うまでもなく魔力痕研究についての研究内容とその考察がびっしり書かれています。興味のある方は読んでみても良いかもしれませんがあまりオススメはしませんね」フッ
武闘家が何を話し始めるのかと思っていたらいきなり本の説明が始まったので皆が呆然としている。
席につこうとしていた魔王も舞台の真ん中ほどで突っ立ったままだ。
そんな人々をよそに武闘家は続ける。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:41:14.07 ID:ATnZACU80<> 武闘家「特殊な製法によって調合した薬品に魔力を加えることで『魔力痕』と呼ばれる魔力の足跡を確認することができます」
武闘家「さらに薬品の調合の仕方によって対象とする魔法の種類やその魔法が使われた年代を限定することも可能です」
武闘家「これは魔法考古学の分野で大いに役立つ技術でしてね、いつの時代にどんな魔法が使われていたのかなどを知る重要な手がかりになるんです」
わけのわからない魔法考古学の話など始まったものだから会場はさらに疑問符で埋め尽くされている。
あまりの意味不明なスピーチの内容に側近が武闘家を止めようとした時、武闘家が言う。
武闘家「……さて、ここからが本題です」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:43:18.15 ID:ATnZACU80<> 武闘家「黒の神樹の崩壊が起こった魔王の城跡、3ヶ月ほど前にそこで僕はある実験を行いました」
武闘家「黒の神樹崩壊の当日、城周辺で転移魔法によってできた魔力痕を調べてみたのです」
武闘家「厳密に薬品の調合をして反応する時間帯をその日の夜だけに絞りました」
武闘家「結果、7つの転移魔法痕を確認することができました」
武闘家は持っていた本を目の前の机に置くと両手を胸の前に持ってきて七本の指を立てる。
武闘家「まず勇者が魔王の城を訪れた時のものと黒の王妃様が魔将軍によって転移させられてきたもので2つ」
左手の親指と人差し指を折る。
武闘家「さらに王妃様と大賢者さん達が城を離れたもので2つ」
続いて中指と薬指も折る。
武闘家「勇者が魔王さんを助けるために使ったもので1つ」
小指を折ると左手を下げた。
武闘家「そして極めて短距離の魔法痕が1つ……これは瞬天の勇者が得意とする高速空間転移によるものでしょう」
そう言って右手の中指を折る。
武闘家「…………ここまでで6つ」
武闘家「魔王の城での激闘について魔王さん達から聞いた話にもこの転移魔法の数は合致します」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:44:47.26 ID:ATnZACU80<> 武闘家「…………では最後の1つは?」ニコッ
彼は微笑みながら右手の人差し指をピンと立てている。
そんな武闘家を見て魔王達の脈拍はどんどんと早くなっていく。
会場がざわめき出す。
僧侶「…………」
そんな。
魔法使い「…………」
まさか。
魔王「…………」
もしかして。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:46:21.58 ID:ATnZACU80<> 武闘家「不安定な転移魔法痕だったため正確な座標は掴めませんでしたが転移魔法によって誰かが跳んだ大雑把な方角だけはなんとか知ることができました」
武闘家「それから僕はめぼしい場所をしらみ潰しに探して回りました」
武闘家「そして昨日。遂に黒の国の遥か北東にある断崖絶壁に囲まれた無人島で……いや、ここから先は多くを語ることもないでしょう」フフッ
武闘家はポケットから通信魔法具を取り出した。
武闘家「もしもし、大賢者さんですか? はい、ではよろしくお願いします」
武闘家「え? 注文? そうですね……では、できるだけ派手にお願いします♪」フフフッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:47:36.32 ID:ATnZACU80<> カアアアアアァァァァァッ!!!!!!!!
武闘家がそう言った直後、会場の舞台のど真ん中に青く輝く魔法陣が展開された。
眩しいほど強いその青白い光は舞台だけでなく会場全体をまばゆく照らし出した。
会場の人々はその光に目を細める。
フッ……
スタッ
やがて転移魔法の光の中から一人の少年が現れた。
少しクセのある黒髪。
凛々しくも少しだけ子供っぽい顔つき。
そして光溢れる真っ直ぐな瞳。
会場にいた誰もが少年を見て言葉を失った。
ただ黙って彼を見つめている。
少年は舞台に立ちこちらを見る魔王に気付くと彼女に声をかけようとした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:48:25.48 ID:ATnZACU80<> この時の100代目魔王の表情の変化は長らく人々に語り継がれることになる。
まずその場に現れた彼を見て彼女は驚き目を見開いた。
続いて安堵と喜びに顔をゆるめ優しい笑顔になる。
笑顔になったかと思うと修羅か般若のような恐ろしい怒りの表情になった。
そして最後には……ぼろぼろと泣き出した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:49:48.01 ID:ATnZACU80<> 「!?」
少年は泣き出す魔王に戸惑った。
こうして帰ってきた時に魔王がどんな反応をするか予想していた彼は魔王の反応に応じて何と言うか考えていた。
本命は怒り。
「生きてたなら連絡ぐらいしてよ!!」
「いや、俺もそうしたかったんだけど……」
腰を低くしてやり過ごそうと思っていた。
次が喜び。
「嬉しい!!帰ってきてくれたんだね!!」
「ハハッ、待たせてごめんな!」
格好良く笑って再会を喜び合おうと思っていた。
大穴でツンデレ。
「べ、別に帰ってきてくれても嬉しくなんかないんだからね!」
「可愛くねーやつ」ハァ
呆れながらも笑ってやろうと思っていた。
しかし泣き出すと言うのは少年にとって予想外だった。
あれこれ考えあぐねた結果、少年は目の前で泣きじゃくる少女に言った。
いつもの一言を。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:50:46.90 ID:ATnZACU80<>
勇者「よっ」
魔王「遅い……遅刻だ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:53:11.22 ID:ATnZACU80<> できるだけ明るく垢抜けた声を出すよう意識して勇者はそう声をかけた。
できるだけ重々しく威厳のある声を出すよう意識して魔王はそう答えた。
しかし魔王の声は震えており、顔は涙でぐしゃぐしゃに歪んでいる。
魔王「遅刻も遅刻……大遅刻だ!!」グスッヒッグ
魔王は泣きながらそう言うと勇者に駆けていき思い切り抱きついた。
うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
パチパチパチパチ!!!!
ヒューヒューー!!!!
魔王に突然抱きつかれたことと、割れんばかりの歓声を送るギャラリー達に勇者は慌てている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:55:03.01 ID:ATnZACU80<> 魔王は周りの声など気にせず勇者の胸をうずめてわめきちらす。
もはやこの場にいるのは100代目魔王ではなく一人の少女だった。
魔王「ばかばか!!ばかばかばか!!」ポロポロ
魔王「どれだけ……どれだけ心配したと思ってるの!?」ヒグッ
魔王「勝手なことしていなくなって……わたしずっとずっと待ってたんだからね!!」エグッ
勇者「いや、その……悪かったな」
魔王「うぅ…………」ギュッ
勇者の身体を強く抱きしめる。
勇者はそれに応えて優しく彼女の頭を撫でた。
サラサラとした彼女の髪の感触が懐かしく感じられた。
魔王「でもどうして……? どうして勇者は無事だったの……?」グスッ
勇者「……親父がな、助けてくれたんだ」
魔王「大勇者さんが……?」
勇者「…………あぁ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:56:08.18 ID:ATnZACU80<> ――――約1年前・黒の国・神樹の小部屋
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
勇者「…………ふぅ」
神樹の崩壊に伴う地鳴りがその激しさを増す中、魔王を転移魔法で送った勇者は息をついた。
勇者「さて……俺にできることは全部やったし魔力もカラだし……あとは死を待つだけってか」バタッ
床に寝転がってぼーっと天井を眺めてみた。
魔王や仲間達、今まで出会った人達のことを一人ずつ思い浮かべた。
もう彼らに会えないのかと思うと目頭が急に熱くなってきた。
勇者「…………ダメだダメだ」ガシガシ
死への覚悟が揺らいでいる自分が情けなくて勇者は頭を掻いた。
ドゴオオオオッ!!
ズオッ!!
ガラガラガラガラ!!
勇者「!?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:57:04.92 ID:ATnZACU80<> 突然小部屋の入り口から爆音が聞こえたので思わずそちらを振り返る。
見ると入り口を塞いでいた瓦礫は吹き飛んでいた。
立ち込める煙りの中から口髭を生やした中年の男が現れた。
勇者「お、親父!?」
大勇者「なんだ生きていたのか、試しに来てみて正解だったな」
息子にそう言うと大勇者は小部屋の中を見回した。
大勇者「魔王ちゃんはどうした?」
勇者「魔王は無事だ。俺が転移魔法で武闘家達のところまで飛ばした」
大勇者「……そしてお前は魔力が尽きた、と」
勇者「そういうこと」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:58:31.51 ID:ATnZACU80<> そこで、状況を理解した大勇者に勇者は焦りながら言った。
勇者「……いや、そんなことより親父はなんでこんなとこに来たんだよ!?」
勇者「神樹の崩壊に巻き込まれて死んじまうぞ!?」
大勇者「私はこの身に宿る全ての魔力を使って神樹の爆発を抑えるためにここに残ったのだ。この規模の爆発だと恐らく近くの街まで吹き飛んでしまうだろうからな」
勇者「な……じゃあ親父は死ぬつもりだってのか!?」
大勇者「まぁそうなるな」
息子の叫びにも大勇者は淡々とそう答えた。
大勇者「聖剣と長く契約を交わしていた私はもはや肉体が限界に近い、ここで命が尽きてもなんら惜しくはないさ」
勇者「でも……!!」
大勇者「この世界に住む全ての人々のためにその命を懸ける……それが勇者の役目だろ?」フッ
勇者「…………」
そう言って微笑む父に勇者は何も言い返せなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 23:59:34.39 ID:ATnZACU80<> 大勇者「剣士と爺さんはもう城を離れている。お前もさっさと行け」スッ…
カアアァァッ!!
勇者「!?」
大勇者が勇者に手をかざすと勇者の足元に転移魔法陣が展開された。
大勇者「……お前まで私に付き合って死ぬことはないからな」
勇者「な……だからって!!」
大勇者「勇者。私がやろうとしていることとお前が魔王ちゃんを生かそうとしたこと、何が違うと言うんだ?」
勇者「…………」
大勇者「同じだろ?」フフッ
勇者「…………」
これが恐らく父との最後の別れになるだろう。
青白い光にその身を包まれながら、消えゆく前に勇者は叫んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:00:31.56 ID:zXBsh7co0<> 勇者「……親父!!」
大勇者「?」
勇者「俺、親父のこと大嫌いだった!!」
勇者「戦場に出てばっかりで家には全然いねぇしさ」
勇者「俺のやることは全否定で耳貸そうともしない」
勇者「頭ごなしに怒鳴りつけてきやがって……」
勇者「ハッキリ言って最低の父親だったと思う」
大勇者「…………」
勇者「でも……」
勇者「でも俺は同じ勇者として99代目勇者を本当に尊敬してる!!」
勇者「勇者っていうつらい運命を背負っても絶望して逃げることなくずっと一人で運命に立ち向かっていた親父のことを誇りに思う!!」
大勇者「……そうか」フッ <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:04:04.04 ID:zXBsh7co0<> 瞳を潤ませてそう言う勇者に大勇者も言った。
大勇者「生憎だが私はお前を勇者とは認めんな」
勇者「んなっ……!!」
大勇者「戦場ではただの1人も魔族を殺さずに戦いおって……神樹への貢献度は歴代の勇者の中で最下位だろう」
大勇者「しかも友人を救うために全世界を巻き込む賭けをすることもいとわないときた」
大勇者「世界の人々のために私を滅するのが勇者の務めだろう」
大勇者「ハッキリ言って最低の勇者だな」フンッ
勇者「ぬぐぐ……」
大勇者「だが……私はお前のような息子を持てて本当に幸せだ」
大勇者「自分の大切なもののために真っ直ぐに生きるというのは誰にでもできることではない」
大勇者「しかしお前は自分が信じるもののために最後まで駆け抜けた」
大勇者「本当に優しく強く育ったな、勇者」
勇者「…………」
大勇者「私は父親としてお前のことを誇りに思うよ」ニコッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:05:40.40 ID:zXBsh7co0<> 勇者「……親父……」グスッ
父の優しい笑顔に勇者は思わず涙を流した。
顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた父がこんなにも偉大で温かい存在だとは今まで知らなかった。
もっと父と一緒にいたい。
今まで過ごせなかった時間を一緒に過ごしたい。
そう思った。
大勇者「……まったく、まだ17のガキだものな、仕方ないか」フフッ
ポンッ
大勇者は勇者の頭に手を置いた。
そのまま息子の頭を撫でながら語りかける。
大勇者「私はいつでもお前と一緒だ。忘れるな」
勇者「…………うん」グスッ
大勇者「じゃあな、馬鹿息子」フッ
パアアァァ……
フッ……
転移魔法に誘われ勇者はその場を去っていった。
……こうして勇者は偉大な父にその命を救われたのであった。
勇者が知るのはここまでで、大勇者の物語にはまだ少しだけ続きがあるのだが…………それはまた別の話である。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:06:54.95 ID:zXBsh7co0<> ――――――――
――――
――
―
勇者「……ってワケで俺は親父の転移魔法でなんとか脱出できたんだ」
魔王「そうだったんだ……」
勇者「でも親父が転移魔法苦手なのすっかり忘れててさ、飛ばされた先は絶海の無人島ときたもんだ」
勇者「幸い食料はあったから今日までなんとか生きてこれたよ」
勇者「それにしてもガキの頃も親父が転移魔法に失敗したせいで無人島に飛ばされたことがあったけど……最後の最後くらいちゃんとやってくれって話だぜ」ハァ
魔王「でも……勇者が無事で本当に良かった」ギュッ
勇者「心配かけたな、魔王」
魔王「…………もういいよ、ばか」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:08:45.28 ID:zXBsh7co0<> 少し離れたところで武闘家達はそんな二人を温かく見守っている。
側近「魔王様……本当に良かったですね」ウフフ
武闘家「僕も彼女の嬉しそうな顔が久しぶりに見れて良かったです」フフッ
魔法使い「でも武闘家も酷いよね、勇者が生きてるかもしれないって分かってたんなら教えてくれても良かったじゃんか」グスッ
魔法使いが涙を浮かべながら武闘家に文句を言う。
武闘家「可能性だけでぬか喜びさせるわけにもいきませんでしたからね。何よりこの方がロマンチックでしょ?」クスッ
魔法使い「そういう気遣いはいらないの〜」フフ
魔法使いはそう言って僧侶を見た。
彼女も勇者を見ながら静かに涙を流している。
魔法使い「行かなくていいの?」
僧侶「……うん。今だけは魔王ちゃんに譲ってあげる」グス
魔法使い「もしかして……身を引くとか?」
僧侶「そんなんじゃないよ、ただ私もあんな嬉しそうな魔王ちゃんをもう少し見ていたいだけ」フフッ
昔のように優しく魔法使いに微笑むと僧侶は彼女に目配せしてみせた。
僧侶「もう少ししたら試合再開だよ」ニコ
魔法使い「そっか♪」ニコッ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:10:04.06 ID:zXBsh7co0<> 側近「しかしどうしましょうか……」
僧侶「?」
側近が困ったように考え込む。
側近「その……こんな状態では閉会式など……」
武闘家「アハハ、すみません」
魔法使い「……よしっ!あたしに任せて!!」
魔法使いが意気揚々と言った。
彼女の猫耳は嬉しそうにリズムを刻んでいる。
側近「魔法使いさんにですか?」
武闘家「これまた嫌な予感しかしないですね」クスクス
魔法使い「ほら、僧侶、出番だよっ!」
僧侶「って、え!?私!?」
いきなりの出撃命令に戸惑う僧侶。
だが魔法使いはそんなのお構い無しだ。
魔法使い「ホラホラ、歌って踊ってみんなを盛り上げる!」
僧侶「そんな無茶だよ〜……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:11:34.03 ID:zXBsh7co0<> 僧侶を無理矢理舞台の前に押して行くと今度は舞台裏に待機している城の魔法使い達に指示を出す。
魔法使い「おーい、みんな、今からあれやるよ!」
「えぇ!?」
「打ち合わせと違いますよ!?」
「まだ時間じゃ……」
彼らも突然の指示に慌てている。
魔法使い「何言ってるの!こういうのは一番盛り上がる場面でやってこそでしょ!!」
「は、はぁ……」
大魔導師である魔法使いの命令には逆らえない。
責任は彼女がとってくれるだろうと了解する。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:12:39.26 ID:zXBsh7co0<> 魔法使い「んじゃ、準備はいいね?」バッ
バババッ!!
魔法使いに続いて皆が空に手を高々と掲げる。
魔法使い「せーのっ!!!!」
カアアアアァァァァ!!
何十という魔法陣が展開され空へと火の球を飛ばす。
ヒュルルルル……
ドーン!!
ババーン!!
ドォー……ン
鮮やかな花火が夜空を彩った。
美しい光の芸術に人々は心を奪われる。
何万という人々が今、夜空に咲き誇る花火の美しさに感動しているのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:14:14.73 ID:zXBsh7co0<> 勇者「……な、なぁ魔王。いい加減離れてくれないか……?」
魔王「あ、ご、ごめん」サッ
魔王はようやく少し平静を取り戻すと勇者から離れた。
まだ赤みの残る瞳で会場の人々を眺める。
僧侶の歌と踊りに、色鮮やかな花火に、人々は酔いしれ笑っている。
魔王「……ねぇ、勇者見て」
勇者「ん?」
魔王「人間も魔族も関係なしにみんなが笑い合う世界……わたし達の夢がやっと叶ったんだよ」
勇者「……そっか」
勇者も群衆を見た。
誰もが笑顔でこの一時を楽しんでいるようだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:17:13.45 ID:zXBsh7co0<> そんな勇者を見て魔王が言う。
魔王「まぁでも実は問題はまだまだあるんだけどね、反人間派とか反魔族派は今でもいるし地方では差別や偏見も完全には消えてないし……」
勇者「なぁに、問題があるなら俺達で力を合わせて一個ずつ解決していけばいいだろ?」
魔王「そうだね」フフッ
勇者「それにお前がこうして笑っていられるなら俺はどんな世界でも大歓迎さ」ハハッ
温かな笑顔で勇者はそう言った。
魔王「な…………////」カァ
魔王は勇者に面と向かってそう言われて顔を赤らめる。
さらに最後の闘いの時に別れ際に勇者にキスしたことも思い出してますます顔が火照ってくる。
どんな顔をして勇者を見たら良いか分からず顔を押さえていると勇者がなんてことない声で話しかけてきた。
勇者「……? どうした?」
魔王「………………」
その一言で魔王は我に返った。
そうだ、よりにもよって相手は唐変木の勇者だ。
何も考えずにそう言ったのだろう。
そう思うとさっきまで心臓をバクバクいわせていた自分が滑稽にすら思えてきた。
魔王「…………うぅん、何でもないよ」ハァ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:20:00.58 ID:zXBsh7co0<> 魔王「勇者の鈍感っぷりはわたしがよく知ってるからね、変な期待はしないようにする」
勇者「…………」
落胆している魔王を勇者はじっと見つめていた。
勇者「ふっ」
が、やがて吹き出した。
魔王「?」
勇者「くくっ、あははははは」
何がおかしいのか腹を抱えて笑い出す。
魔王は何がそんなに面白いのか全く分からずに狼狽えている。
魔王「な、何?」
勇者「……いや、悪ぃ悪ぃ」クククッ
ようやく勇者の笑いがおさまってきた。
プニ
魔王「???」
勇者は右手の人差し指を立てると魔王の頬をつついた。
涙で濡れた彼女の柔らかい頬の感触が伝わる。
そして少しだけ困ったように微笑んでこう言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:21:34.04 ID:zXBsh7co0<> 勇者「その……なんて言うかさ」
勇者「俺も鈍いとは思うけど、お前も相当鈍いと思うぜ?」ニッ
―
――
――――
―――――――― T R U E E N D
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:22:21.51 ID:8zqmNp5Fo<> 乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:22:37.48 ID:+q+SVFX9o<> 乙でした! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:23:10.24 ID:MSQZBpIUo<> 乙!!!面白かった!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/08(火) 00:24:55.81 ID:omoizLOw0<> 乙でした!
おもしろかった!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:26:12.36 ID:ng7eZFNfo<> 分厚い本の伏線回収素晴らしい
武闘家マジ乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:32:29.23 ID:Z1xdCZ8So<> 乙です!
ハッピーエンドでよかった! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:33:10.35 ID:Uv8R9ybDO<> さて、失恋した僧侶ちゃんはもらっていくとしよう
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:35:14.38 ID:7vwvWkVZo<> 乙!
おもしろかったー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:36:09.70 ID:ng7eZFNfo<> >>949
いや渡さん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:38:39.88 ID:gEEoL/Pro<> 乙!!
リアルタイムで見れたSSのなかでは文句なしで一番面白かった! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:38:52.60 ID:8zqmNp5Fo<> >>951
いや俺が <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:42:38.69 ID:6wOYc2VUo<> イイハナシダナー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:43:45.17 ID:zXBsh7co0<> 【あとがき】
やたらと長いSSに付き合っていただきありがとうございました。
語彙力ってものが全然ないので同じような言い回し、表現が何度も出てきてしまい申し訳ないです。
この物語を読んで皆さんに少しでも楽しかった、面白かったと思っていただければ幸いです。
「幼馴染の勇者と魔王」というところからスタートして紆余曲折を経て現在の形に至りました。
もっとこうしていればとか、こうならもっとよかったのではないか、なんてことも考えてしまいますが、なかなか良いかたちにまとめられたのではないかと自分では思っています。
最終話の魔王エンドの方がビターでよかったと思う方はエピローグが気に入らないかもしれませんがご了承下さい。
もしまたSS書くことがありましたらこの名前で書きますので「あぁ、アイツか」くらいに思ってくれたらうれしいです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 00:44:45.35 ID:zXBsh7co0<> >>955
名前入れるの忘れたw <>
蝦蟇の油売り ◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:45:52.84 ID:zXBsh7co0<> 【あとがき】
やたらと長いSSに付き合っていただきありがとうございました。
語彙力ってものが全然ないので同じような言い回し、表現が何度も出てきてしまい申し訳ないです。
この物語を読んで皆さんに少しでも楽しかった、面白かったと思っていただければ幸いです。
「幼馴染の勇者と魔王」というところからスタートして紆余曲折を経て現在の形に至りました。
もっとこうしていればとか、こうならもっとよかったのではないか、なんてことも考えてしまいますが、なかなか良いかたちにまとめられたのではないかと自分では思っています。
最終話の魔王エンドの方がビターでよかったと思う方はエピローグが気に入らないかもしれませんがご了承下さい。
もしまたSS書くことがありましたらこの名前で書きますので「あぁ、アイツか」くらいに思ってくれたらうれしいです。 <>
蝦蟇の油売り ◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:46:47.20 ID:zXBsh7co0<> 以下、蛇足かと思いますが解説等
【スレタイについて】
最後まで読んだ方はお気づきかと思いますが魔王が「遅い……遅刻だ!!」と言ったのはエピローグのみです
スレタイがエピローグへの伏線でした
それに気づいてしまうと物語がどういう形で終わるのかだいたい分かってしまったと思います
そんなワケでスレタイは決してミスってるワケではありません <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:47:34.74 ID:ng7eZFNfo<> 他になんか書いてるか? <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:47:46.47 ID:zXBsh7co0<> 【プロローグについて】
勘の良い方は分かってくれたみたいですがこれは99代目勇者と99代目魔王の決戦の描写です。
決戦当時は大勇者も『勇者』ですからね。
流れとしては>>483と>>484の間に入れるとしっくりくると思います。
(過去編第6話であえて二人が相対した描写を書かなかったのはそのためです)
『魔王の真紅の瞳』という描写がありますがエクストラスートリーで書いたように瞳の色が赤いのは99代目魔王で100代目魔王は金の瞳をしています。
実は100代目魔王の瞳の色についての描写は最終話の冒頭まで登場していません。
読み始めで「ん?勇者と魔王が闘うのは当たり前なのにどうしてつらそうなんだ?」と思ってもらい、
序盤で「こんなに仲の良い勇者と魔王がどうして闘うんだ?」と思ってもらい、
中盤で「やっぱり勇者と魔王は闘うのか……?」と思ってもらうためのミスリードです。
魔王の瞳が赤いと思って読んいてくれていたらしてやったりって感じです
まぁ普通に読んでて終盤まできたら『IF』、『100代目勇者と魔王の戦いではない』の二択だと気付いてしまうでしょうが。
そんなワケで終盤の魔王の瞳が金色という描写も別にミスってるワケではありません <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:48:41.14 ID:ng7eZFNfo<> スレタイは確かに気になってた
魔王父も言ってないし、魔王も言ってなかったし
なるホロ <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:48:42.35 ID:zXBsh7co0<> 【表記について】
魔王の一人称
『わたし』…女の子として話すとき
『私』…魔族の王として、あるいは立場を意識して話すとき
たたかう
『闘う』…特定の個人との戦闘
『戦う』…不特定多数との戦闘
とぶ
『跳ぶ』…自動詞
『飛ぶ』…他動詞
意識して書き分けたつもりですがこの通りになってなかったらごめんなさい
他、
『はず(筈、ハズ)』『きづく(気付く、気づく)』等はその時の気分なので統一されてません、ごめんなさい
数の表記については例外を除き、地の文では漢数字を、会話文中ではローマ数字を意識したつもりですがその通りになってないところが多々あります、気にしないでください <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:49:24.71 ID:zXBsh7co0<> 【武闘家と魔法使いは実は付き合ってるの?】
わかりません。
秘密なんじゃなくて>>1もわかってません。
発言や二人の性格から付き合っててもおかしくはないですし、かといって付き合ってなくてもなんらおかしくないので……
もし付き合ってるなら武闘家はネコミミ貧乳娘を落としたことになりますね、
うらやまけしからん
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:50:28.75 ID:zXBsh7co0<> 【戦争何年やったの?】
最強の99代目勇者と99代目魔王。その子供の100代目勇者と魔王という響きがかっこよかったので99代目、100代目にしました、適当です、すいません
だから戦争何年やってたのかは厳密に決めてません
そんなに長く戦争してたのによく簡単に和平できたなとかどっか一国ぐらい潰れなかったのかとか国力もつのかとか誰か一人くらい神樹の破壊方法閃くだろとかツッコミどころは多々あると思いますがここは深く追求してはいけないところです <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/08(火) 00:51:14.28 ID:zXBsh7co0<> 【1話で魔王が読んでた本】
一応それっぽいこと書いておきましたがあれは『いつか神樹の下で』の上巻です
「恋愛小説なんて勇者にはわからない難しい本だよ」という意味で魔王は勇者をからかっていたのですね
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:51:40.59 ID:qWaN3mMoo<> おつ!
これで寝れる <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:52:52.87 ID:zXBsh7co0<> 【武闘家の強さ】
大活躍の武闘家ですが学生時代は「実技B 」と語っています
これは設定の話になってしまいますが、武闘家は黄色の刻印と蒼の刻印が混ざり合った複雑な刻印のため純粋な肉体の強さでいったら一流の戦士たちには負けてしまいます
肉体強化魔法を使ってはじめて超一流の戦士たちにも引けをとらないくらいに強くなります
武闘家が魔拳闘士としての戦い方を身に着けたのは在学期間中でも最後の方なので、それまでは実技はB でした
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:53:53.63 ID:zXBsh7co0<> 【作中のそれとない伏線】
>>193
母さんのことだって……。
勇者は母親が魔族に殺されたのではないと知っている伏線
「母さんが死んだことを魔族のせいにしてまで俺に魔族を憎ませたいのかあの糞親父」って意思が込められてます
>>209
勇者「魔法使い、帽子は」
魔法使い「大丈夫、ちゃんと被ってるよ」
魔法使いの帽子が魔力制御アイテムであることの伏線
帽子をかぶってないとやりすぎちゃうので
>>910
魔法使い「武闘家も来たしあとはヘアメイクさんと衣装さんが来るのを待つだけだね」
武闘家「あ、すみません」
ヘアメイクさんと衣装さんは武闘家が勇者の身なりを整えるために借りていきました
だから会場にやってきた勇者はちゃんと綺麗な身なりをしてます
<>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:55:27.04 ID:zXBsh7co0<> 【誤字や訂正】
>>3
解放された両者の魔力が大気を震わせ地鳴りを起こす。
>>5
大魔導師「はい、彼の魔力、魔法のセンスはこのわしすら遥かに凌ぐほど。なんら異論はありませんな」
>>23
魔王は左手の人差し指をピンと伸ばすと勇者の右の頬をつついた。
>>25
腰まで伸びる髪を人差し指にクルクルと巻きつけて魔王は笑って答えた。
>>31
剣士のオッチャン「ガハハ、親父さん似なだけあって好奇心旺盛なところまでそっくりだな」
>>62
魔法使い「あー!君が僧侶の弟君か!あたしは魔法使いだよ、はじめまして♪」
>>77
勇者君「げ……1位と4位がいんのかよ……」
>>80
武闘家君「先生の太刀を5分間ひたすら避け続けて、……
勇者君「……ま、とりあえずみんなしばらくよろしくな!!明日からの演習も頑張ろうぜ!!」
>>87
武闘家君「はいはい……それよりそろそろご飯にしませんか?お腹空いたでしょ?」フフッ
>>89
勇者君「悲鳴が聞こえたんだよ!!多分俺達みたいに遭難した奴らが助けを求めてるんだ!!」
>>96
勇者君「!?」バッ
>>107
魔王「すまんな、たまにはくだけた言葉遣いをしてみるのも良いかと思ってなぁ」アセアセ
>>119-120の重複
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:57:25.92 ID:ng7eZFNfo<> 瞳の色は色々条件つけて検索したわ
赤、紅、真紅、瞳……
魔王は金だけど、真紅にヒットすんのは鎧だけだったし
瞳でヒットすんのは泣いてるシーンばっかだし <>
◆tV89AItQQM<>saga<>2013/01/08(火) 00:59:00.83 ID:zXBsh7co0<> >>136
【Memories03】
>>いろいろ
○風鳴の大河 ×風鳴きの大河
>>210
星氷の勇者「でも僕は勇者さんも負けないくらい強いと思う」
>>217 ×
>>218 ○
>>228
そばかすの青の兵士「…………」ハァ…ハァ…
>>237
若い黒の兵士「おぉ!!全方位攻撃!!あれならいくら速く動けようが関係ありませんな!!」グッ
>>255
黒の王妃「あら、魔王。どうしたのこんな時間に……お仕事の方はもういいのかしら?」
>>300
彼がこんな風に声を荒らげるのは彼女の記憶の中では二回目、……
>>324
魔王が武闘家に放った上級氷撃魔法『冷』は氷でできた刃を飛ばす魔法、
>>334
だが魔王は振り向くことなく転移魔法の光の中に消えていった。
>>683
彼女の栗色の髪からは可愛らしい猫耳が生えている。
>>690
激しさを増す魔巌の砦での戦いの音は魔王の城まで届いていた
>>826 ×
>>827 ○
>>826
魔王は側近が真顔で色恋沙汰の質問をしてきたのがおかしくて笑ってしまった。
>>919
いくつかのトラブルがあったものの閉会式は開催の時を迎えた。
前半と終盤ざっと見ただけですがこれだけありました……ごめんなさいorz
初期設定が修正されずにそのまま残ってたりとか言い回しがおかしかったりとか……
全部は確認できなかったのでもっとあると思います。脳内補完してくださると助かります <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 00:59:09.77 ID:6wOYc2VUo<> ここまで凝った設定だったのか
気づけなかったのが悔しい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:01:21.31 ID:8zqmNp5Fo<> スレタイは気づかなかった
また書いてくれ
乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:05:03.84 ID:ng7eZFNfo<> 結構細かく、そこそこ大雑把に設定作ってたのかwwwwww <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2013/01/08(火) 01:13:37.69 ID:zXBsh7co0<> >>949
>>951
>>953
僧侶なら俺のベッドで寝てるよ
>>959
これは2作目です。
処女作はSS深夜VIPさんで書かせていただいた
長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」
です。
ドラクエの二次創作で超がつくほどの王道
結構長いですがドラクエファンならそこそこ楽しめるのではないかと思います
もし読むなら、初投稿だったので>>1が痛いことと、こっちの話の存在と比べないことに注意してどうぞw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:17:34.19 ID:ng7eZFNfo<> なるホロ
全部書いてからスレ立てしたのか? <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2013/01/08(火) 01:23:27.18 ID:zXBsh7co0<> 書き忘れ
【魔王の二人称】
魔王様口調のときの魔王は目下の人間への二人称に『お前』と『貴様』の二つを使っていますがこれは
『お前』…心を許した人(勇者、側近)
『貴様』…ある一定以上の距離のある人(他)
で使い分けられています
なってないとこあったらミスです、ごめんなさい <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2013/01/08(火) 01:33:08.42 ID:zXBsh7co0<> >>976
う……正直に白状しますと
ちゃんと全部終わってもいないのに2012年中に完結させたくて見切り発車で投下し始めたので
投下開始時ではEpisode08が途中な状態でした
でもスケジュールの関係で投稿できなかった期間があったのは本当でその間に必死こいて書いてました
だから後半はちょっと粗が目立つかも……
すいません
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:34:24.56 ID:Qw1qQ26Io<> 凄く面白かった!2回も泣かされた
次回作も楽しみに待ってます 乙! <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2013/01/08(火) 01:37:07.23 ID:zXBsh7co0<> さて、じゃあ無事終わりましたからHTML化依頼してきま〜す
スレ落ちる前に質問あったら可能ならば答えますね
最初から見てくれていた方々
リアルタイムで見てくれていた方々
それと『sage』の存在を教えてくれた>>18
本当にありがとうございました♪
ではまたどこかで〜 <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2013/01/08(火) 01:38:30.06 ID:zXBsh7co0<> >>980
『sage』じゃない『saga』だw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:40:36.24 ID:ng7eZFNfo<> いやむしろ全部書き上げてからスレたて擦るやつのほうが少ないと思うぞ
気になったことと言えば、一回の投下量がとんでもなかった所かな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:42:51.94 ID:BU9hXj5Eo<> 乙。
勇者と魔王に惹かれたよー <>
右衛門 ◆MIGIEMON.2<>sage<>2013/01/08(火) 01:43:32.74 ID:BDAG5tx9o<> 乙!!
これで2作目とかレベル高杉だろ
勇者がちゃんと生きてて良かったわ
処女作も読んで来る <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:49:39.76 ID:v3FMt6vvo<> ...| ̄ ̄ | < お疲れ様でした とても面白かったです
/:::| ___| ∧∧ ∧∧ ありがとうございました
/::::_|___|_ ( 。_。). ( 。_。)
||:::::::( ・∀・) /<▽> /<▽>
||::/ <ヽ∞/>\ |::::::;;;;::/ |::::::;;;;::/
||::| <ヽ/>.- | |:と),__」 |:と),__」
_..||::| o o ...|_ξ|:::::::::| .|::::::::|
\ \__(久)__/_\::::::| |:::::::|
.||.i\ 、__ノフ \| |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\ |::::::|
.|| ゙ヽ i ハ i ハ i ハ i ハ | し'_つ
.|| ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜 <>
◆tV89AItQQM<>sage saga<>2013/01/08(火) 01:54:34.64 ID:zXBsh7co0<> なんかほっといたら1000いきそうだから依頼しなくてもいいかな…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:55:48.33 ID:8zqmNp5Fo<> うめるか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:56:35.32 ID:8zqmNp5Fo<> うめ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:58:38.19 ID:8zqmNp5Fo<> うめ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:59:10.49 ID:8zqmNp5Fo<> 無理してうめなくてもいいか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 06:48:49.19 ID:GLkkKLwDO<> しっかり作られていてとても面白かった
おつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 09:27:33.49 ID:kCQcmIIxo<> おつです <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 10:24:24.52 ID:DrCQSRXL0<> お疲れ様でした!
こんなに楽しみだったSSは久しぶりだな。次回作も期待。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/08(火) 10:33:01.36 ID:IhZoABhro<> おつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 10:42:35.35 ID:TDMhKuNro<> おつ
ありがとう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/08(火) 10:52:38.48 ID:1ugL9nnDo<> 極上の時間が過ごせました
ありがとうございます
次回作も楽しみにしています <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 12:59:23.71 ID:nTkYxawyo<> おつつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 14:18:54.64 ID:RdmppLHAO<> すごく面白かったです
お疲れ様でした! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 14:49:27.66 ID:ImdmrOZMo<> おつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/08(火) 16:07:57.18 ID:GvKpYhq90<> 1000なら魔王は俺の嫁
<>
1001<><>Over 1000 Thread<> ☆.。 .:* ゜☆. 。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: * ・゜☆ =:☆.。 .:*・゜☆. 。
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::::::::::::::::: *=@☆.。::::::::::::::::::::::::::::::.:*・゜☆ =磨K☆.。
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: =: : * ゜☆.。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
☆.。 .:* ゜☆. 。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
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最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>【vipperと猫が日本縦断】ピピの旅スレ避難所 @ 2013/01/08(火) 15:23:31.78 ID:hH9iPmWFo
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魔法少女まどか☆マギカSS談義スレその54 @ 2013/01/08(火) 14:44:41.27 ID:FPE9hji80
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なすくじ @ 2013/01/08(火) 13:47:12.51
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唯「目指せ!ポケモンチャンピオン!」 @ 2013/01/08(火) 12:30:24.16 ID:r8oLviwz0
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核の受入表明をした売国奴安倍下痢三 @ 2013/01/08(火) 08:18:03.88
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駄目人間の話を聞いてほしい @ 2013/01/08(火) 03:48:34.29 ID:y8Rsge7+o
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くそくらえ→うんこ召し上がれ @ 2013/01/08(火) 02:38:40.89
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ここだけ能力者の集まる高校 さらにコンマゾロ目で異能の力に覚醒250 @ 2013/01/08(火) 01:23:29.19 ID:uqaBo+ygo
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