◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/16(火) 20:59:50.55 ID:tfq4outUo<>
母「ちょっと、あんたに話があるんだけどいい?」

俺「おう。……急にあらたまったりして、話ってなんだよ」

母「お母さん、再婚することに決めたわ」

俺「……そっか、……やっと決心したってわけか。よかったじゃねえか」

母「息子のあんたにそう言ってもらえると、お母さんもひと安心よ」

俺「俺は、前から母さんに再婚しろって言ってたじゃねえか」

母「……」

俺「俺が小学生んときに父さんが死んじまって以来、母さんは女手ひとつで俺を育ててくれたんだし」

母「……」

俺「それに、俺はこうして高校にも通わせてもらって、感謝してんだからさ」

母「……」

俺「母さんが再婚する相手ってのに俺はまだ会ったことねえけど、……いい人なんだろ?」

母「どことなく、昔のお父さんに似てるとこがあるのよね」

俺「息子の前で惚気やがって……まあいいけど」

母「……それでなんだけど、あんたはこの先どうする?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1350388790
<>母「お母さん、再婚することに決めたわ」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/10/16(火) 21:00:32.41 ID:tfq4outUo<>
俺「……? この先どうするって、意味わかんねえんだけど?」

母「アルバイトをもっと増やして独り暮しするとか、……いっそのこと旅に出るとか」

俺「独り暮しとか旅に出るとかって、なおさら意味がわかんねーよ!」

母「だって、ほら、……母親が再婚するとかいうと、こういうとき男の子って反発するもんなんでしょ?」

俺「だから反発なんかしてねーっての。俺の話まったく聞いてなかったろ!」

母「思春期っていうのかしら? それとも……巣立ち?」

俺「母さん、俺の話をよく聞いてくれ。……俺は、母さんの再婚には賛成だ」

母「……賛成!? あんたは、お母さんが再婚することに賛成だっていうの!?」

俺「内心、遅かったと思うくらいさ」

母「……」

俺「へんなドラマの見過ぎで、ドロドロの展開を期待してたんじゃねえだろうな?」

母「……」

俺「そこで黙るんじゃねえよ」

母「……はぁ〜、出来のいい息子を持つとこれだから……」

俺「やっぱ期待してやがったのか……」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/16(火) 21:01:23.31 ID:tfq4outUo<>
母「期待してたわけじゃないけど、あんたはお父さんのことが大好きだったし……」

俺「父さんは、今でも俺の心の中に生きてるさ」

母「お母さんだってお父さんを忘れたわけじゃないのよ。……でもね……やっぱり……」

俺「その先は言わないことにしようぜ」

母「そうね……そうかもしれないわね」

俺「ところで、俺にはいつ会わせてくれるんだ?」

母「今度の日曜日なんかどうかしら? 日曜日なら娘さんも学校お休みだろうし」

俺「……向こうも子供がいるのか」

母「お母さんも一度しか会ったことないんだけど、美人でとっても気さくなお嬢さんよ」

俺「娘ってことは、俺に妹か姉貴ができるってわけか。……なんか複雑だけど……ま、いっか」

母「……あんたは昔っから、弟を欲しがってたもんね」

俺「このさい贅沢なことは言わねーよ、家族が増えるってだけで俺は十分さ」

母「じゃあ、今度の日曜日ってことでいいわよね」

俺「普段着でいいんだろ? 結婚式じゃあるまいし、高校の制服じゃおかしいもんな」

母「お互い再婚同士だし、普段着の方が堅苦しくなくていいんじゃない?」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/16(火) 21:02:13.62 ID:tfq4outUo<>
月曜日、放課後の教室――

女生徒「――ねえ、ちょっといい?」

俺「……」

女生徒「無視すんなっつーの!」

俺「……なんだよいきなり、俺は帰るとこなんだよ」

女生徒「そんなの見りゃわかるって、あたしだって帰るとこなんだから」

俺「……なにが美人でとっても気さくなお嬢さんだよ」

女生徒「なんか文句でもあるわけ!?」

俺「ファミレスなのになんなんだよ、あのひらひらの服は、……ご丁寧に頭にリボンまで着けやがって」

女生徒「……あんた、そんなに死に急ぎたいの? お望みなら、今すぐにでもいいけど」

俺「あーあーあー、確かにおまえは美人だよ! おまえのファンっていうか信者も多いしな」

女生徒「それはどうも。それに、性格だってとっても気さくでしょ?」

俺「凶作の間違いだろ」

女生徒「……あんたの人生は、高校二年生の今日をもって終わりを告げた。……享年十七歳……な〜む〜」

俺「勝手に俺を殺すな!」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/16(火) 21:02:46.64 ID:tfq4outUo<>
女生徒「殺したくもなるでしょ! なんでお父さんの再婚相手があんたのお母さんなのよ!」

俺「日本語は正しく使え。正確には、おまえのお父さんの再婚相手の連れ子が俺だった」

女生徒「どっちだって同じことよ。……よりによって、なんで……どうして……最悪じゃん!」

俺「おう、……気が合うじゃねえか。それについては俺も同意見だ」

女生徒「あたしはね、ずっと年の離れた兄貴が欲しかったの。頼れるっていうか、妹思いっていうか」

俺「悪かったな、同級生で。……俺だって本音をいやあ弟が欲しかったんだよ」

女生徒「それは悪いことをしたわね、同級生で! それより、今ここで決めておこうじゃないの」

俺「……決めるって、なにを決めるんだよ?」

女生徒「あんたがあたしの弟になるのか、あたしがあんたの姉になるのかに決まってるでしょ」

俺「だから、日本語は正しく使えって言ってんだろうが!」

女生徒「……」

俺「聞こえないフリすんなっつーの」

女生徒「なんで勝負つける? 殴り合って最後まで立っていた方が勝ちとか?」

俺「女の口から出る台詞とは思えねーな。……常識的にいやあこういう場合、誕生日が早いほうが上だろ」

女生徒「……」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/16(火) 21:03:32.06 ID:tfq4outUo<>
俺「おまえの誕生日っていつよ?」

女生徒「……」

俺「俺は九月だけど、おまえの方が早いのか?」

女生徒「……十二月、……二十四日」

俺「十二月二十四日……って、クリスマス・イブかよ!?」

女生徒「……悪かったわね、クリスマス・イブで」

俺「べつに悪いとか一言もいってねえだろうが、……まあ、でもこれで決まりだな」

女生徒「……」

俺「これからは、俺のことは『お兄ちゃん』と呼びなさい」

女生徒「ねえ、そんなことはこのさいどうでもいいんだけど、……再婚するっていうことは、一緒に暮らすっていうことよね」

俺「……まあ、そういうことになるんだろうな」

女生徒「……当然、あんたたちがあたしんちへ来るってことよね」

俺「俺んちはアパートだし、四人で暮らすとなると狭すぎるからな」

女生徒「ふーん、……あんたがそれでいいって言うんなら、あ・た・し・は、べつに構わないけど」

俺「俺はなにも好き好んでおまえんちに行くわけじゃねえよ」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/16(火) 21:04:12.74 ID:tfq4outUo<>
引越し当日、女生徒の家――

俺「おまえんちってマンションだったのかよ」

女生徒「まあね、そんなに広いってわけじゃないけど」

俺「いや、俺が住んでたアパートに比べりゃ天と地だって」

女生徒「そんなことないと思うけど、……だって、今日からあんたには地獄の日々が待ってるんだもん」

俺「……そりゃ、どういう意味だよ」

女生徒「はっきり言ってあげる。……あんたの部屋はない!」

俺「3LDKって聞いてたけど。だったら、おまえんとこの親父さんと俺の母さんで一部屋、おまえが一部屋、……でもって俺が一部屋?」

女生徒「リビング以外に確かに部屋は三つあるけど、一つはお父さんの仕事部屋みたくなってるのよ」

俺「じゃあ俺はどこで寝起きしろっつーんだよ!」

女生徒「リビングで寝られたら迷惑だし、……廊下? ……もしかして玄関とか?」

俺「そんな待遇を受けるくらいなら、いっそのことトイレを俺の部屋にすっぞ!」

女生徒「冗談に決まってんじゃん。あたしも詳しいことは知らないんだけど、お父さんの仕事部屋を開放するんじゃないの」

母「あら、まだ荷物の整理終わらないの?」

俺「なあ、母さんに聞きたいんだけど、俺の部屋ってあんの?」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/16(火) 21:05:11.89 ID:tfq4outUo<>
母「あんた専用の部屋っていうのはないのよ。今日から兄妹仲良く一つの部屋を使ってね」

俺「ちょっと待ってくれ!」

母「ほら、サザエさんのカツオとワカメちゃんだって、一緒の部屋で仲良く寝起きしてるじゃない」

俺「カツオとワカメちゃんは小学生だろうが! 俺もコイツも高校生なんだよ!」

母「……なにか問題でもあるの?」

俺「問題が起こってからじゃ遅いんじゃねえのか?」

母「それはあんたたち次第でしょ? 高校生といえば心も身体ももう大人なんだし、そのあたりは自制心でなんとかしてね」

俺「おい! おまえも黙ってねえでなんとか言えよ……って、気絶してんじゃねえよ!」

女生徒「……」

母「……小柄だけど美人でスタイルはいいし、ほんとに可愛い顔してるわよね。学校でもモテるんじゃない?」

俺「コイツの隠れファンクラブがあるよ」

母「そうなの? ……それはともかく、兄妹になったんだから、間違っても問題だけは起こさないでね」

俺「だったら俺の部屋をなんとかしてくれよ」

母「あの人……、今日からあんたのお父さんでもあるんだけど、帰って来たら一応相談してみるわ」

俺「頼むよ。……俺の命が無事なうちに」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/10/16(火) 21:06:16.94 ID:4CuWN0H4o<> これって結婚できるん? <> ◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/16(火) 21:07:25.07 ID:tfq4outUo<>
台本形式は初めてなんで、読みづらかったら申し訳ありません
こんな感じでマイペースで更新していくつもりです <> 以下、VIPにかわってパー速民がお送りします<>sage<>2012/10/16(火) 21:10:22.52 ID:7qRjhVh40<> 期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2012/10/16(火) 22:20:20.11 ID:ecS+0+Ac0<> ほう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/18(木) 21:08:57.80 ID:wqDrdzvl0<> 1:提案どおり兄妹同室→悶々とするが隣からイヤンアハンが聞こえてきて逆に居たたまれなくなる
2:「義父さんと俺」、「母と女生徒」で部屋割り→アッー!√、あるいは母「これじゃエッチができないから駄目」
3:「俺と母」、「義父と女生徒」で部屋割り→同じ家になった意味が……
4:女生徒の提案通り、廊下あるいはソファーで寝る→正直そういうのは長くは続けられない
5:最初の母提案通り、俺が旅に出る→放浪編開始、俺の空(ぇ
6:最初の〜    、俺が一人暮らし→少し寂しいが普通に日常が続く、と見せかけてバイト先で……
さてどうなることかww

というか>>1、もう家族になるなら、そろそろ「女生徒」のままはかわいそうに <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/18(木) 22:39:40.98 ID:gSNN/Hqto<> >>13
なにが言いたいの?
帰れよ <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/10/19(金) 21:57:17.36 ID:o8dwrGHpo<>
夕食後、妹(仮)の部屋――

妹「あー、お腹いっぱい!」

俺「……なんだか、おまえって、見た目と現実のギャップがすげえな」

妹「なんか文句あんの!? だって、あんなおいしい晩ごはん久しぶりなんだもん」

俺「久しぶりってなあ……今までどんなもん食ってたんだよ」

妹「……」

俺「まさか、いつもスーパーの惣菜とかコンビニ弁当ばっかっていうんじゃ……」

妹「……一応、あたしが作ってたんだけどさ……」

俺「もしかして、料理苦手なのか?」

妹「苦手っていうわけじゃないけど……」

俺「じゃあなんなんだよ」

妹「別にいいじゃん、そんなこと。ていうか、あんたのお母さん、ほんと料理が上手だよね」

俺「俺は、昔っからずっとだからわかんねえけど」

妹「贅沢なこと言ってるよまったく。……あんな料理上手なお母さんがいて」

俺「おまえの親父さんだっていい人じゃねえか。母さんが選んだだけのことはあるかもな」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/19(金) 21:57:57.65 ID:o8dwrGHpo<>
妹「……もしかして、あんたってマザコン?」

俺「まっ、マザコンなんかじゃねえよ!」

妹「だって、あんたがお母さんの話をするときって、なんだか楽しそうなんだもん」

俺「そう見えるか? 只、あんな楽しそうに料理してる母さん見んの、久しぶりっつーか」

妹「……そっか」

俺「なに妙に納得した顔で笑ってんだよ」

妹「あたしもね、あんなに楽しそうに笑ってるお父さん見るの久しぶりかなって」

俺「母さんの再婚には初めっから賛成だったんだ。……だけど、正直いって不安もあった」

妹「それはあたしも同じ。……でも、連れ子がいるって聞いて、それも男だっていうじゃん……」

俺「悪かったな俺で」

妹「あら、あたしの心が読めるの!? さすが兄妹!」

俺「……」

妹「なんか、まだ実感がないっていうか……、……ほんとに上手くやっていけるのかなあ」

俺「……なんで、……その……、いいとか言ったんだ?」

妹「……お父さんのね、夢だったの」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/19(金) 21:58:28.50 ID:o8dwrGHpo<>
俺「……夢?」

妹「そう、夢。……どんなに小さくてもいいから、いつか自分の書斎を持ってみたいって」

俺「そういうことか。なんとなくわかる気がする」

妹「どういうこと?」

俺「男にとって、っていうか親父さんくらいの年代になると、書斎って秘密基地みたいなもんなんだよ」

妹「あんな取って付けたような狭い部屋が? 日当たりだって悪いのに」

俺「それはそうと……どうすっかな……」

妹「ここでもいいんじゃない? それともあんた、あたしと同じ部屋じゃ不満でもあるわけ?」

俺「マジかよ!?」

妹「仕方ないじゃん。それに、親がいるんだし、あんただって馬鹿な真似はできないでしょ」

俺「結局、カツオとワカメちゃんってわけか」

妹「それを言わないで」

俺「まだ正式に婚姻届は出してないみたいだし、俺たちもまだ学校の連中には言わない方がいいかもな」

妹「そうよね。こんなことがもし友だちに知れたら、もうあたし学校へ行けないかも」

俺「俺なんか、おまえの隠れファンクラブの連中に抹殺されるんじゃね」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/19(金) 21:59:09.32 ID:o8dwrGHpo<>
妹「そうなれば、またあたしだけの部屋になるわけね」

俺「……」

妹「そうだ、クローゼットとかも使うよね」

俺「クローゼットって、その壁のとこにあるやつのことか?」

妹「実はこれ、そんなに広くはないけど、一応はウォークインクローゼットでさ」

俺「こんなのテレビなんかでしか見たことねえけど……さすがマンションって感じだな」

妹「ほら、これならあんたの持って来た服なんかも余裕で入るでしょ」

俺「おっ、この服、この前ファミレスに着てきたヤツじゃんか」

妹「これ着てるとこあんたに見られたのは一生の恥だわ」

俺「そういうなって、結構似合ってたぜ、マジで」

妹「本当はこういう服、あたしの趣味じゃないんだけどさ。……でも、やっぱ一着くらいは持ってないと」

俺「……確かに、他の服とは感じが全然違うんだな」

妹「まあ、あのときファミレスに来るのがあんただって知ってたら、学校のジャージで十分だったんだけどね」

俺「なんだか……」

妹「どうしたの?」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/19(金) 21:59:53.52 ID:o8dwrGHpo<>
俺「いや、なんでもない」

妹「着替えもこの中でできるでしょ。着替えのたび、どっちかが廊下に出るわけにもいかないし」

俺「これだけスペースがあれば十分だけど、おまえはそれでいいのか?」

妹「なにが? まさか、あんたの見てる前であたしに着替えろっていうんじゃないでしょうね」

俺「そんなこと一言もいってねえし、……そうじゃなくて、おまえはいやじゃねえのかなって……」

妹「ふ〜ん。……優しいんだ」

俺「ほんとに俺たち、こんなんで上手くやっていけんのかね」

妹「カツオとワカメちゃんは、長年上手くやってるじゃん」

俺「あれは漫画だし、それにおまえ、カツオとワカメちゃんが高校生になっても同じ部屋にいるとこ想像してみろよ」

妹「……うわ、鳥肌立ってきそう」

俺「向こうはそれでもまだマシだよ」

妹「どういうこと?」

俺「こっちはお互い高校二年生、それも同じクラス……で、血の繋がりなんかこれっぽっちもねえし」

妹「……なんだか、妊娠しそうだよね……ハハ」

俺「こういうときにそういう冗談は笑えない」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/19(金) 22:00:42.73 ID:o8dwrGHpo<>
妹「でもさ、こうなったら仕方ないじゃん。誰だって好き好んでリビングや廊下なんかで寝たくないでしょ?」

俺「廊下はともかく、リビングなら俺は平気だけど」

妹「そうじゃなくて、……なんか、あたしがあんたを無理に追い出すみたいで……それがどうもね」

俺「もともとおまえの部屋なんだし、……でもさ、なんだかんだいって、おまえって意外と優しいんだな」

妹「意外っていうのは余計だよ」

俺「なあ、俺、クローゼットの中で寝ようか?」

妹「ドラえもんのつもり?」

俺「ドラえもんは押入れだろ、クローゼットとは違うよ」

妹「さっき見たでしょ? 中に防虫剤が吊るしてあったの。……それでもいいの?」

俺「……」

妹「あたしがいいって言ってるんだからいいじゃん。それに、夜中に中からハアハアとか聞こえて来たらやだし」

俺「おまえなあ……」

妹「あたしはベッドだし、あんたは布団でしょ。あんたがよじのぼってさえ来なければそれでいいよ」

俺「そんな真似はしねえけど、取り敢えず荷物の整理は明日やるとして、今日は風呂入ってもう寝るか」

妹「そだね。先に入っちゃってよ、あたしってお風呂、結構長い方だから」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/19(金) 22:01:32.15 ID:o8dwrGHpo<>
そして就寝のときがきた――

妹「さて、それじゃあ電気消してそろそろ寝ますか……って、……なんだもう寝てるの?」

俺「いや、目を瞑ってただけ。……なんか、いろいろと考えちまってさ」

妹「そっか……。電気、消すね」

俺「おう」

妹「同じ部屋で男と寝てるかと思うと、なんだか違和感ありまくりなんですけど」

俺「それは俺だって同じだよ」

妹「まあ、クローゼットの中で寝られるよりはマシだけどね」

俺「……なあ、一年生のときの野外研修覚えてるか?」

妹「えーと、確か河口湖のキャンプ場だったっけ、テントで寝るの生まれて初めてだったから覚えてるけど」

俺「それと同じようなもんなんだろうな」

妹「……どういう意味?」

俺「ほら、同じテントの中で、みんなで雑魚寝したじゃねえか」

妹「しっかりと男女別だったけどね」

俺「……」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/19(金) 22:02:54.87 ID:o8dwrGHpo<>
妹「意識し過ぎるのがよくないんだろうね。……だってさ、あたしたち兄妹になるんだもん」

俺「兄妹か……、なんだか人生なんてわからねえもんだよな」

妹「……ねえ、ドラえもん」

俺「俺はドラえもんじゃねえよ」

妹「冗談だってば、……でもさ、ほんとにドラえもんがいたらいいなとか思ったことない?」

俺「……ないこともねえけど。……小学生の頃なんか、本気でそう思ってたしな」

妹「なんで? ドラえもんになにを頼もうとしたの?」

俺「早く寝ちまえよ、明日は、朝から荷物の整理しなくちゃいけないんだから」

妹「そうだった」

俺「おやすみ」

妹「……ねえ、ポケットからなんか出してよ」

俺「……」

妹「タケコプターでベランダから飛び降りて見せて」

俺「……」

妹「……ドラミちゃん寂しい……プッ! ……おやすみ」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/19(金) 22:04:29.75 ID:o8dwrGHpo<>
というわけで本日はここまで。……エロとギャグは苦手なんだ、すまん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/10/19(金) 22:38:06.34 ID:/CQkHDydo<> 乙
期待してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/20(土) 03:42:22.42 ID:frpLeci1o<> 支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/10/20(土) 16:36:35.23 ID:Qrlgl43AO<> 「家族が増えるよ」「やったねt(ry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/10/21(日) 20:16:31.24 ID:YLOK0kcHo<> 俺ってなんだよきしょくわりー <> ◆Neko./AmS6<>sage<>2012/10/21(日) 21:16:47.92 ID:bM5Frmw7o<> 俺「 っていう表記が気色悪いのであれば、 男「 でもいいが……
いくらでも柔軟に対応してしまう書き手なのであった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/10/22(月) 00:18:17.86 ID:Yh5HxbRuo<> 好きな方でいいよ <> ◆Neko./AmS6<>saga<>2012/10/25(木) 22:26:07.25 ID:TBL+cybLo<>
今日から、俺は男になる <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/25(木) 22:26:48.36 ID:TBL+cybLo<>
一夜明けて、午前中の子供部屋――

妹「あー、朝から食べ過ぎたー。……なんだか、お腹が重いんですけど」

男「そりゃあ、三杯もお代わりすりゃあ重くもなるだろうよ。……ていうか、なんなんだよその食欲は!」

妹「秋だから?」

男「いくら食欲の秋っていっても限度ってもんがあるだろうが。おまえみたいな大食いな女みたことねえよ」

妹「見たことないって、あんた他の女知ってんの?」

男「……」

妹「それ見なさいよ。勝手な想像で適当なこと言うんじゃないの」

男「――とにかく! 今日中に荷物の整理しなくちゃなんねえんだからよ」

妹「ごめん。……あたし、どうも戦力になりそうにないわ」

男「別に、初めっからおまえのことは当てにしてねえし、そもそも俺のもんばっかだしな」

妹「……」

男「おまえは、ベッドにでも転がって牛になってればいいよ」

妹「……ドラミちゃん、放牧状態」

男「なあ、机どうする?」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/25(木) 22:27:18.16 ID:TBL+cybLo<>
妹「……あんたの好きなように置けば」

男「そうはいっても、置き方によっちゃ邪魔になるだろうし……」

妹「いっそのこと、あたしの机と並べる?」

男「ばーか。……あっ、でもそれ、いいかもしんねえな」

妹「マジ!?」

男「横に並べるわけじゃねえよ」

妹「じゃあどうするの?」

男「……どうよ、これで」

妹「……向かい合わせって、……なに考えてるのよ!?」

男「なんかこうすっと、『タッチ』みてえだろ」

妹「なにそれ?」

男「アニメであるんだよ。……知らねえか? 今も東京MXで再放送やってんだけどさ」

妹「あんた、アニメなんか見るんだ」

男「まあな。……あ、っていっても、俺は別にアニメが大好きってわけじゃねえからな!」

妹「やっぱ、あたしの心が読めるんだ」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/25(木) 22:27:48.41 ID:TBL+cybLo<>
男「昔っから有名なやつだし、男なら大抵のヤツは知ってんじゃねえのか」

妹「どんなストーリーなの?」

男「どんなって、上杉達也と上杉和也っていう高校生の双子の兄弟と、あとは南ちゃんが出てくるんだよ」

妹「南ちゃんて? なんか聞いたことあるけど」

男「浅倉南っていうのが、この物語のヒロインなんだよ。二人とは幼馴染で、家も隣同士でさ……」

妹「それから?」

男「兄貴の達也は、まったくやる気なしのダメ人間で、いつも弟と比較されて劣等感の塊……」

妹「弟の方は?」

男「弟の和也は真面目で成績も優秀……、野球部でさ、南ちゃんを甲子園に連れて行くのが目標なんだけど……」

妹「……その三人が織り成す三角関係、金と欲望、血で血を洗うドロドロの愛憎青春群像アニメとか?」

男「そうじゃねえよ。アニメん中でも青春ラブストーリーの名作……と、言われている」

妹「ふーん。結局、最後どうなんの?」

男「兄貴の達也が、弟の和也の遺志を受け継いで南ちゃんを甲子園に連れて行くんだよ」

妹「弟はどうしたの?」

男「死んだ」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/25(木) 22:28:18.00 ID:TBL+cybLo<>
妹「なにそれ!? ほんとに青春ラブストーリーなの?」

男「見たヤツにしかわかんねえんだよ、っていうか、説明してる途中で口を挟むんじゃんえよ」

妹「サボってないで、早く荷物の整理したほうがいいんじゃない?」

男「おまえが……、まあ、いいや。……じゃあ机は向かい合わせってことでいいよな」

妹「好きにすれば〜」

男「……」

妹「どうかしたの?」

男「なんか、自分のしようとしてることが恥ずかしくなってきた」

妹「いいじゃん、向かい合わせにしようよ。……プッ」

男「まあ確かにコンセントの位置からいっても、こうする以外、あとは横に並べるしかねえもんな」

妹「ねえ、このダンボール開けてもいい?」

男「あっ! そ、それは俺が開けるからいい! っていうか、おまえはそこで牛になってろよ!」

妹「なんでそんなに慌てるの? もしかしてー、あたしに見られたらヤバイもんが入ってるとか?」

男「そうじゃねえよ。……でも、その箱はほんとにいいから。手伝ってくれんなら、他の箱を開けてくれよ」

妹「ねえ、……男ってさあ、やっぱいろいろ大変なんでしょ?」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/25(木) 22:29:08.79 ID:TBL+cybLo<>
男「おまえは、一体なにが言いたいんだ?」

妹「そんときは遠慮なく言ってよ。あたし、廊下に出ててあげるから。……あっ、クローゼットの中に入っててもいいか」

男「……」

妹「えーと、オ・カ・ズとかいうんだっけ? なんかそんな言葉聞いたことがあるんですけど、違ったっけ?」

男「……」

妹「よかったら、今年の夏、海で撮ったあたしの水着写真でも提供しよっか?」

男「い・ら・ね・え・よ!」

妹「ふ〜ん。……あたしなんかじゃ、オ・カ・ズにならないってわけか」

男「おまえみたいな女子高生が、男の前でオ・カ・ズなんて言って恥ずかしくねえのか?」

妹「別に学校ん中で言ってるわけじゃないし」

男「なあ、前からおまえに訊きたいと思ってたんだけど、……おまえ、彼氏とかっているのか?」

妹「なっ、なんなのよ急に! そんなこと訊いてどうすんのよ」

男「純粋な興味っていうか、……おまえって、学校でも人気があるじゃん。だから、どうなのかなってな」

妹「い、いたらどうだっていうの?」

男「彼氏、いるのか!?」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/25(木) 22:30:09.95 ID:TBL+cybLo<>
妹「だから、もしあたしがいるって言ったらあんたはどうだってあたしが訊いてんの」

男「……いや、別におまえに彼氏がいたところで俺はどうもしねえけど」

妹「そうなんだ。……じゃあ、別にそんなことどうでもいいじゃん」

男「おまえ、ほんとは彼氏なんかいねえんだろ」

妹「なんでそう決め付けたような言い方をするわけ?」

男「もしだ、……もし、おまえに彼氏がいたとしたらだ」

妹「いたとしたら?」

男「こんな天気のいい日曜に、朝っぱらから家で牛になってるわけがねえよ」

妹「じゃあ、あんたはどうなのよ。あんたには彼女がいるの?」

男「俺はいない。自慢じゃねえけど、彼女いない暦イコール年齢だ」

妹「『彼女いない暦イコール年齢』とかって、……そういうセンスだから彼女ができないんだっての」

男「ほっとけ!」

妹「あたしはさー、彼氏はいないけど、好きな人ならいるよ。……正確には……いたって言うのかな」

男「なんだよ、過去形かよ」

妹「まあね。……世の中、そう自分の思いどおりにはなんないんだよ……」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/25(木) 22:32:36.19 ID:TBL+cybLo<>
短くて申し訳ありません。できるだけ更新の間隔を詰めようと思います <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/26(金) 01:00:53.34 ID:iCRZyy/DO<> >>1乙

頼んだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/10/26(金) 01:01:03.00 ID:nY0F8pe3o<> おつおつ <> ◆Neko./AmS6<>saga<>2012/10/27(土) 22:27:05.39 ID:lalXWFV4o<>
男「すでに彼女がいたとか?」

妹「いないって。……本人がそう言ってた」

男「もしかして、そいつに直に訊いたのか!?」

妹「まあね」

男「まさか、告ったのか?」

妹「そんな! 相手があたしのことどう思ってんのかもわかんないのに……できるわけないじゃん」

男「そいつって、学校のヤツ? もしかして、俺も知ってるヤツだったりして」

妹「あんたの交友関係なんて、あたしが知るわけないじゃん。……あんた、馬鹿なの?」

男「まあそう言われちまうとそうなんだけどさー、でもそいつも馬鹿だよな」

妹「だから馬鹿だって言ってんじゃん」

男「……まあでも、俺としたらおまえに彼氏がいなくて良かったのかもな」

妹「なんで? なんであたしに彼氏がいなかったのが良かったの?」

男「だってそうじゃねえか。もしおまえに彼氏がいたら、俺としては非常に気まずいだろうが」

妹「どうして気まずいの?」

男「なんだか、今日はやけに絡むなあ」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/27(土) 22:27:39.12 ID:lalXWFV4o<>
妹「あんたがはっきり言わないからでしょ。もう一度訊くけど、なんであんたが気まずいのよ」

男「それじゃ言うけどさ、俺たちの親は、まだ正式に再婚したわけじゃねえだろ」

妹「婚姻届がまだってことでしょ?」

男「ああ。……ってことはだよ、俺とおまえもまだ正式に兄妹になったわけじゃねえよな」

妹「あっ、そうか。……あたしたちって、まだ兄妹じゃないじゃん」

男「な、そうだろ。今はまだまったくの他人同士。……同級生であることには違いねえけどさ」

妹「高校生で、それも同級生の男女がひとつ屋根の下……どころか、同じ部屋で寝起きを共にしてるってわけね」

男「もしおまえに彼氏がいて、この状況がバレてみろよ。どう考えたって、ただじゃすまねえよな」

妹「そうだよね。机まで向かい合わせになってるし、……もしかして、これって同棲?」

男「それは違うと思うが、……まあでも、彼氏がどう思うかはわかんねえよな」

妹「多分それは心配ないと思うけど」

男「なんでそう言い切れるんだよ」

妹「馬鹿だからじゃない?」

男「意味わかんねーっつーの」

妹「……」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/27(土) 22:28:19.93 ID:lalXWFV4o<>
男「それよりさー、考えてみると不思議なもんだよな」

妹「なにが?」

男「俺とおまえは、二年生になってクラスが同じになるまで知らない同士だったわけじゃん」

妹「一年のときは別々だったもんね」

男「こう言っちゃなんだけど、クラスが同じになってもそれほど親しいわけじゃなかったし」

妹「あんたは、女の子とあんまり話すようなタイプじゃないしね」

男「まあな。なんか恥ずかしいっていうか……そんなことはどうでもいいんだよ」

妹「じゃあなによ?」

男「そんな俺とおまえが、今じゃ同じ部屋にいるんだから不思議じゃねえか」

妹「あたしのお父さんとあんたのお母さんが結婚することになったんだから、そう不思議でもないんじゃないの?」

男「そう言われたらそうなんだけど、もし親同士が再婚しなかったとしたらどうだったか」

妹「どうだったかって?」

男「俺たちがこんな風に気軽に話すことなんてなかったかもしれねえ」

妹「そうかなあ」

男「ま、同じクラスなんだから話す機会はあるかもしれねえけどさ……」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/27(土) 22:29:01.78 ID:lalXWFV4o<>
妹「……あたしさ、あんたのことは一年のときから知ってたよ」

男「は? 俺のこと知ってたって?」

妹「勘違いしないでね。あたしの友だちがさー……まあ、そんなわけよ」

男「はっきり言ってくれよ、おまえの友だちがどうしたって?」

妹「あんた、一年のとき、文化祭の実行委員やったでしょ。ほら、クラスから男女一人ずつ出てさ」

男「ああ、なんか無理矢理に押し付けられたっていうか、……それがどうしたんだよ」

妹「そのときの実行委員の中にね、あたしの友だちもいたのよ」

男「……?」

妹「その友だちが言うにはね、他のクラスの男子の中にちょっと格好いい人がいるって……っぷー!」

男「……それが俺だったっていうわけかよ」

妹「あら? 結構、察しがいいじゃん」

男「話の流れからいって、俺以外の誰がいるんだよ。顔真っ赤にして笑いやがって」

妹「ごめんごめん。……でもさ、あんたに目を付けるなんて、あたしの友だちも結構変わったやつだよね」

男「ほっとけっつーの! で、その友だちって誰よ?」

妹「教えて欲しい? ……もうそのこには決まった彼氏がいるけどいい?」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/27(土) 22:29:59.39 ID:lalXWFV4o<>
男「だったら教えなくていい、マジで。なまじっか知っちまうと、顔を合わせたとき変に意識しちまうからな」

妹「そうそう。……まあそんなわけで、あたしは以前からあんたのこと知ってたってわけ」

男「でもまさか、その俺といずれ兄妹になるとは思いもしなかったろうが」

妹「まあね……。……なんか、変な気分……」

男「俺は……、あ、そうだ」

妹「どうしたの?」

男「さっきおまえが開けようとした箱、見せてやるよ」

妹「えー、いいよ〜。どうせエッチな本とかDVDとかが入ってるんでしょ?」

男「そんなもん初めっから入ってねえよ」

妹「……じゃあ、なにが入ってるの?」

男「アルバムなんだ。……俺がまだ小さいときの写真」

妹「……。なんでそんなに厳重にガムテープが貼ってあるの?」

男「封印したんだ」

妹「なんで?」

男「……父さんが写ってるから」 <>
◆Neko./AmS6<>sage saga<>2012/10/27(土) 22:36:03.95 ID:lalXWFV4o<>
土曜日だというのに今日の更新はここまでです
初めての台本形式で不安だったけど、読んでくれる人がいるってことは嬉しいもんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/27(土) 22:40:49.63 ID:rZeHsQgL0<> 乙
少々ベタな感じがするがそれがいい! <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/03(土) 02:33:34.26 ID:VfkBcGnuo<>
妹「……お父さんが亡くなったのって、あんたが小学生のときだっけ?」

男「四年生のときだよ。三学期が始まってすぐだったけど」

妹「まだ子供だよね」

男「授業中いきなり他の先生に呼び出されてさ、……車で送るからすぐに家に帰れって言われて……」

妹「……事故?」

男「いいや、病気。……仕事中に倒れて、そのまま救急車で病院へ運ばれたんだってさ」

妹「……」

男「家に帰ると母さんが真っ蒼な顔で俺を待ってて、ランドセルだけ置いてすぐに病院へ駆け付けたんだ」

妹「それから?」

男「集中治療室っていうのか、……そこに父さんが寝かされてて……」

妹「お父さん、なんの病気だったの?」

男「脳卒中。正確には、脳溢血って言うらしいんだけど、脳内出血を起こしてて……」

妹「……」

男「意識が戻んなくてさ、……四日目の朝になって、そのまま呆気なく死んじまったんだ」

妹「……そうだったんだ……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/03(土) 02:34:17.56 ID:VfkBcGnuo<>
男「なんだか辛気臭い話になっちまってごめんな。もう、昔の話だからさ」

妹「ううん。……お父さんが亡くなったっていうのは聞いてたんだけど……あたしこそごめん」

男「俺は気にしてねえし、こういう話は早いうちに話しておいた方が俺も気が楽かもしんねえ」

妹「そう言ってもらえると、なんだかあたしも救われる感じがする」

男「おまえのお母さんは、死んじまったわけじゃねえんだろ?」

妹「うん。……多分、どっかで生きてるんじゃないのかな」

男「……離婚、したんだったよな?」

妹「そう。……お父さんに愛想が尽きたんだって」

男「俺が見たところ優しそうだし、いい親父さんだと思うけど、……違うのか?」

妹「ハハ、いいお父さんだよ、……今はね。……でもさ、以前は違ったんだよ」

男「おまえが言いたくなけりゃ無理に話す必要もねえけど……」

妹「別に隠すことでもないし、これからは一緒に暮らすんだもん、あんたには話しておかなくっちゃね」

男「……」

妹「お母さんと離婚する前のお父さんは、ひと言で言うと仕事人間だったんだよ。それも超が付くくらいの」

男「おまえのお母さんは、それがいやだったのか?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/03(土) 02:34:57.91 ID:VfkBcGnuo<>
妹「なんていうか、お母さんは……お嬢様育ちみたいなところがあってさ、とにかく我がままだったんだよね」

男「おまえを見てると、なんとなくわかるような気もすっけどな」

妹「ひっどーい! なにそれ。……まあいいか、あたしも自分のこと我がままだなって思うときがあるしね」

男「まあ、自分で自分を我がままだって思えるなら、本当は我がままじゃないってことさ」

妹「そうなのかなあ?」

男「本当に我がままなヤツは、自分が我がままだなんてこれっぽっちも思ってねえから」

妹「ま、それはともかくとして、あたしが中学生になったとき、お母さんの方から離婚を突き付けたの」

男「おまえは、お母さんについて行きたいとか思わなかったのか?」

妹「お母さんは、あたしと一緒に出て行きたかったみたいなんだけどさ、なんかね……」

男「なんかねって?」

妹「なんか、急にお父さんが可哀想に思えてきちゃったんだよね」

男「……」

妹「だってさ、お父さんは家族のために仕事頑張ってるわけじゃん。お母さんなんか、只の専業主婦のくせに」

男「専業主婦に対して、なにか偏見でもあるんじゃねえのか?」

妹「別にそういうわけじゃないの。専業主婦だって大変なひとは大変なわけだし」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/03(土) 02:35:34.86 ID:VfkBcGnuo<>
男「じゃあ、おまえのお母さんは大変じゃなかったってわけか」

妹「まあね。……だからさっき、お嬢様育ちみたいなとこがあるって言ったじゃん」

男「……要は、家に居ても家事とかまったくダメな人だったのか?」

妹「ダメなんて生易しいもんじゃないっての。ダメ専業主婦の見本だよあれは」

男「自分の親をそこまで言えるってのも凄いな」

妹「一日中テレビばっか見てるくせして、掃除は週一、晩ごはんのオカズはスーパーのお惣菜専門」

男「なんだか、聞いてるだけで凄まじいな」

妹「そんな人だから、あたしがお父さんのところに残るって言ったら大激怒しちゃって……」

男「結局、おまえはお父さんの方についたわけか」

妹「そう。……住んでた家も処分して、あたしとお父さんの二人だけでこのマンションに引越してきたってわけ」

男「まさか、それ以来会ってないのか?」

妹「会う必要もないし、それに二度と会いたくないっていうのもあるかも」

男「そうか……」

妹「今、あんたに話せるのはここまでかな」

男「お互いにさ、なんだかわかんねえけど大変だったよな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/03(土) 02:36:35.81 ID:VfkBcGnuo<>
妹「ほんと、親は親で大変だけど、子供だって大変だよね」

男「今も親父さんは仕事人間なのか?」

妹「ううん。お母さんと離婚してからは、かなり仕事をセーブするようになったみたい」

男「親父さんと暮らすようになってから、家事はずっとおまえがやってたのか?」

妹「初めのうちはお父さんがやってた。会社帰りにスーパーに寄って買物してさ……」

男「……おまえは、一体なにをやってたんだ?」

妹「あたしさ、なんにも出来なかったんだよ。料理なんかしたことなかったし、……女の子なのに恥ずかしいよね」

男「昨日の話じゃ、おまえが一応作ってたって言ってたはずだけど……」

妹「お父さんも料理なんか出来ないし、結局スーパーのお惣菜が連日のように続いて……」

男「それで仕方なく、おまえが作るようになったってわけか」

妹「まあそんなところ。ていうか、あんたはどうなのよ。あんただって料理なんかしたことないんでしょ?」

男「母子家庭の一人息子を甘く見たら罰が当たるぞ」

妹「もしかして出来るの!?」

男「母さんの料理の腕前にはかなわねえけど、俺だって一通りのもんは作れるぜ」

妹「はー、人は見掛けによらないってよく言うけど、ほんとだわ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/03(土) 02:37:15.50 ID:VfkBcGnuo<>
男「別に好きで出来るようになったわけじゃねえし、母さんの仕事の都合もあるから、自然とっていうか」

妹「そうか、看護師さんて、仕事の時間がなかり不規則だもんね」

男「まあな。……今までも週の半分くらいは俺が作ってたんだよ」

妹「……ということは、今後も週の半分はあんたが作ってくれるっていうこと?」

男「ふざけたこと言ってんじゃねーよ! おまえだって出来るだろうが」

妹「あたしの料理がどんなもんか、あんたも一度食べてみるといいわ、……ハハ」

男「よっぽど自信がねえんだな」

妹「まあ確かに、人に自慢出来るようなもんじゃないわね」

男「……まあいいさ、でも俺が作るときは、手伝いくらいはやってもらうからな」

妹「それは任せといてよ。あたし、野菜とか切るのは結構うまいんだから」

男「……それじゃあ、料理のなにが自信ねえんだよ?」

妹「はっきり言っちゃうけど、あたしが作ると味付けがイマイチっていうか……」

男「それでも、おまえのお父さんは食べてくれるんだろ?」

妹「そりゃあ、自分の娘が作った料理なんだから食べないわけにもいかないでしょ」

男「……まあ、どんなに盛り付けが良くたって、肝心の味が悪けりゃ料理としては致命的だもんな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/03(土) 02:38:30.54 ID:VfkBcGnuo<>
妹「あたしさ、正直に言っちゃうけど、家庭料理のほんとうの味付けなんて知らないんだよね」

男「スーパーで売ってるお惣菜なんて、なんでだかどれも味が濃くて甘めの味付けだしな」

妹「そうでしょ! 絶対あんなの家庭の味じゃないよね」

男「料理の味付けなんてもんは、包丁なんかの腕よりも作るやつのセンスの方が重要なんだよ」

妹「……なんか、その言い方って微妙にむかつくんですけど」

男「気にすんなって。これからは俺が教えてやっからさ、まあ気を落とさずにせいぜい精進しろよ」

妹「料理の出来る男って世間じゃもてはやされるようだけど、身近にいるとなるとなんか別って感じ……」

男「そういうなって。結構便利かもしれないぜ」

妹「あたしが風邪引いたときはよろしくね」

男「そんなことより、アルバムのことすっかり忘れてたけど……見るか?」

妹「……やっぱいいや。見ない」

男「なんでよ、おまえ、見たかったんじゃねえのか?」

妹「見たくないとか言ってるわけじゃないの。……今は見なくていいってこと」

男「おまえの言ってる意味がイマイチわかんねえ」

妹「わかんなくてもいいの。……でも、今度あたしが見せてって言ったときには、なにも言わずに見せて」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/03(土) 02:41:50.25 ID:VfkBcGnuo<>
今日の更新はここまでです。……それにしても、人がいなくなったな
誰もいなくても更新は続く(負け惜しみ) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/11/03(土) 02:53:06.64 ID:OqRVlQNW0<> 乙
いるよ、いるから更新はやめないで <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/03(土) 02:56:26.51 ID:yvsY1KaSO<> 見てるよー
この寂しがりやめ乙乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中国・四国)<>sage<>2012/11/03(土) 05:45:08.78 ID:OHW0YqcAO<> めっちゃ見てます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/03(土) 07:58:22.72 ID:CmBYasMpo<> 支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/03(土) 11:52:43.07 ID:Nd3RMoHq0<> 支援支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)<>sage<>2012/11/03(土) 18:41:56.82 ID:y0vyr2ezo<> 支援するやつはvipから来た新参か?

支援いらんぞ、ここ <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:27:23.53 ID:uzFaew97o<>
月曜日の昼休み、理科準備室――

男「こんなとこに俺を引っ張り込んで、一体なんの用なんだよ!?」

妹「だってさ、教室ん中じゃ話しづらいし、……それに、昨日の夜約束したじゃん」

男「今はまだ、親同士が再婚することを他のやつらに知られちゃいけないってことだろ?」

妹「……それと、あたしたちがもう一緒に暮らしてるってこともね」

男「それはわかってる。だから、教室ん中でも今までどおりにしてるじゃねえか」

妹「あらためて思ったんだけどさ、あたしたちって、今まで教室ん中でおしゃべりすることなんかなかったんだね」

男「休み時間になると、おまえはいつも他の女子たちと一緒だしな」

妹「女の子って、すぐに仲良しグループ作っちゃうからね。トイレとか教室を移動するときなんかもいつも一緒だし」

男「そういう感覚って男にはイマイチわかんねえけど。……それにしても、よく抜け出して来れたじゃん」

妹「どこへ行くのってしつこく訊かれたんだけどさ、適当な言い訳して振り切って来た」

男「それって、余計にまずいんじゃねえのか?」

妹「仕方ないじゃん。あんたが教室を出て行くのが見えたんで、このチャンスを逃してなるものかって」

男「購買部に行こうと思ってたんだよ。まあいいけどさ……俺になんか用でもあったのか?」

妹「それが大有りなのよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:28:56.07 ID:uzFaew97o<>
男「それにしたって理科準備室だなんて、誰か来たらどうすんだよ」

妹「後ろの棚にある三角フラスコでも手に持ってればいいじゃん、なんとなくサマになるよ」

男「授業で使う準備でもしてるように見えるってわけか。……で、おまえは?」

妹「あたしは……そう、このアルコールランプを持ってればよくない?」

男「まあ確かに実験の準備してますって見えるけど……。それで、俺になんの用なんだよ」

妹「二時限目の授業中、生物の進化の話の中で先生が、鶏と卵どっちが先かっていう話をしてたじゃん」

男「ああ、あれな。結局のところ、突然変異がどうとかで卵が先っていうことだろ」

妹「そんな話はどうでもいいんだって」

男「どうでもいいのかよ!? じゃあ俺になんの用が――あっ、やべえ! 理科室の方に誰か入って来た!」

妹「えっ、うそ!? どうしよう!? あんたと二人きりでいるところなんか見られたらやばいもん」

男「しょうがねえな、取り敢えずそこの掃除用具が入ってるロッカーの中にでも……」

妹「あんたが先に入って!」

男「どっちが先だっていいじゃねえか!」

妹「……だって、ホウキとかで制服が汚れたらやだもん」

男「わかったよ、ったく」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:29:23.69 ID:uzFaew97o<>
妹「かなり狭そうだけど、二人も入れる?」

男「急げ! こっちの準備室に入って来るかもしれねえ」

妹「……」

男「……」

妹「ねえ、誰が入って来たか、その隙間から見える?」

男「よく見えねえけど、うちのクラスのヤツじゃねえな。……となりのクラスのヤツだ」

妹「理科準備室なんか、なにしに来たんだろ?」

男「生物部とか科学部とかじゃねえのか? なんだか、棚にあるファイルの整理をしてるみたいだし」

妹「だったら部活んときにでもやればいいのに。なにもこんなときにやらなくたっていいじゃん」

男「いや、それは向こうにだって都合ってもんがあるんだろうよ」

妹「だって昼休み中だよ」

男「でもよ、その昼休み中、理科準備室のロッカーの中に人が隠れてるなんて誰も思わねえよ」

妹「……それはそうなんだけどさ、……あんた、三角フラスコは?」

男「棚ん中に入ってたろ。俺だって慌てちまって、取り出す暇なんかなかったよ」

妹「ほんと、あんたって役に立たないんだから」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:29:54.46 ID:uzFaew97o<>
男「そういうおまえこそ、アルコールランプはどうしたんだよ」

妹「あたしはちゃんと持ってるわよ」

男「だったら隠れる必要なんかねえじゃねえか!」

妹「取り敢えずロッカーの中に隠れろって、あんたが言ったんでしょ」

男「……」

妹「無視すんな」

男「……確かに隠れろって言ったのは俺だ。それはいいとして、もう少し離れてくれねえか?」

妹「そんなこと言っても、狭いんだからしょうがないじゃん」

男「じゃあ、せめて正面を向いてくれねえか?」

妹「あたしだってそうしたいんだけど、狭くって方向転換で出来ないの」

男「おまえの背中と扉の間、少し余裕があるじゃねえか」

妹「扉んとに雑巾が掛けてあるんだもん。……それに、なんか少し濡れてるっぽいし」

男「……その、なんだ……さっきから微妙に当たってんだよ」

妹「緊急避難として、今回は我慢してあげる」

男「はー、この状況で誰かがこのロッカー開けたら、絶対に俺たち変態扱いだな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:30:45.42 ID:uzFaew97o<>
妹「ねえ、あんた、制服にいつもファブリーズとかかけてんの?」

男「ああ、そう頻繁にクリーニングへ出せるもんでもねえし……ていうか、なにやってんだよ!?」

妹「ロッカーの中、微妙にホコリ臭いでしょ。……そしたら、あれ? なんかいい匂いすると思って」

男「……まさか、この状況を楽しんでるわけじゃねえよな?」

妹「そんなことあるわけないじゃん。あたしだって、もし誰かに見られたらって気が気じゃないんだから」

男「だよな。この状況に至るまでをいくら説明したって、きっと誰も信じねえよな」

妹「あんたに無理矢理この中に引きずり込まれたんですってあたしが言ってもダメかな」

男「そして俺は、卒業するまで強姦魔の汚名を着せられるわけだ」

妹「やっぱそうなるよね。……あたし、強姦魔と同じ部屋で寝るなんてなんかやだ」

男「そういうことを言ってんじゃねえよ」

妹「出てってくれるの待つしかないか……。お昼休みが終わっちゃうかも」

男「いや、そう待たなくてもいいかもしれねえ」

妹「ほんと?」

男「どうやらファイルの整理、終わったみたいだ」

妹「はー、助かったあ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:31:50.31 ID:uzFaew97o<>
男「あのまま気付かず出てってくれてよかったよ」

妹「ねえ、あたしの制服にゴミとか付いてない?」

男「後ろ向いてみな。……大丈夫だ。それにしても、一時はどうなるかと思ったよ」

妹「こんなことがあるようじゃ、今後も理科準備室は要注意ってことよね」

男「まあな。ていうか、鶏と卵の話からどうしてこうなるんだよ」

妹「だからその話はいいんだって。それより、あんたのお母さん、今日は午後から出勤なんでしょ?」

男「ああ。今勤めてる病院は三交代制なんで、今日は準夜勤だから……夕方の四時半から夜中の……」

妹「じゃあ、四時頃にはもう出掛けちゃってるのか……」

男「そうだけど、それがどうかしたのか?」

妹「となると、今日の晩ごはんは、あんたが作るってことでいいの?」

男「おまえが作ったっていいんだぞ」

妹「ご冗談を。……で、そこでお願いがあるんだけど」

男「なんか食いたいもんでもあんのか?」

妹「あたし、オムライスが食べたいの! それも、玉子がふわっふわっのヤツ!」

男「俺をこんなとこに連れ込んで、言いたかったのはそのことか!?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:32:20.38 ID:uzFaew97o<>
妹「あたし、鶏と卵の話を聞いた途端、もうオムライスが頭に浮かんじゃってさ」

男「オムライスなんて簡単だからいくらでも作ってやるけど、それくらいおまえにだって作れんだろうが」

妹「あたしが言ってるオムライスって、ふわっふわっ、とろっとろっの玉子が乗ったやつのことだよ?」

男「ファミレスなんかで出て来るやつを言ってんだろ? デミグラスソースが掛かってるやつ」

妹「そう、それ」

男「簡単だろ? デミグラスソースまで作るっていうなら話は別だけどよ」

妹「……あたしが作るとさ、ケチャップご飯の上に只の玉子焼きが乗ったもんしか出来ないのよ」

男「それはさ、玉子に火を通し過ぎてんだよ」

妹「ふわっふわっ、とろっとろっに玉子を焼くって、口で言うほど簡単じゃないんだよね」

男「コツさえ掴めば簡単なんだけどな。ちょうどいいや、今日作るときに教えてやるよ」

妹「ほんと!? それと、アスパラをベーコンで巻いたのもお願い」

男「まさか、それも上手く出来ないとか言うわけじゃねえよな?」

妹「……あたしが作るとさ、なぜかアスパラがゴリゴリして美味しくないんだよね」

男「アスパラを下茹でしとけばそんなわけ……、まあいいや、それも一緒に教えてやる」

妹「……なんかさ、あたしって……もしかしたら女の子として失格?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:32:51.92 ID:uzFaew97o<>
キッチン、夕食の準備中――

男「火加減は中火な。そんで手早く、なおかつ菜箸を細かく動かせば……な、どうよ?」

妹「ほんとだ、とろとろのスクランブルエッグの一歩手前みたいな感じ」

男「これ以上火を通すと只の玉子焼きになっちまうから、もうこの段階でオムレツの形にしちまう」

妹「……でも、オムレツにしちゃったらまずいんじゃないの?」

男「まあ見てなって。ケッチャップで味付けしたご飯の上にこのオムレツを乗っけて……」

妹「……」

男「オムレツの表面だけ真ん中から割ってみな」

妹「へー、こうやってやるんだー」

男「左右に形よく開いて……ほら、ふわっふわっ、とろっとろっのオムライスになったろ?」

妹「火加減と菜箸の使い方がコツだったんだね」

男「まあな。今度は、おまえがやってみろよ」

妹「えー、でも……あたしがやるとまた……」

男「俺が作ったやつはおまえが食べればいいし、おまえが作ったやつは俺がもらう」

妹「……うん」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:33:34.18 ID:uzFaew97o<>
男「アスパラのベーコン巻きだけじゃなんだから、今のうちに、付け合せにサラダ作っちまうよ」

妹「……ありがと。あたし、アスパラのベーコン巻きって大好きなんだ」

男「アスパラは、下茹でしてからベーコンで巻くって忘れんなよ」

妹「ベーコン巻いたらどうせ焼くんだからいいのかと思ってた……」

男「オムレツの方はどうよ? おっ、結構ふっくらとしてるし、上手く出来てるんじゃねえのか?」

妹「ここからが問題なのよ。ケチャップご飯の上にこれを乗せて……真ん中で割る!」

男「……」

妹「ケチャップご飯&オムレツの完成です……」

男「……まあ、料理なんてもんは手順さえ覚えれば、あとは回数重ねるうちに上手くなるから」

妹「なんだか、ますます自信がなくなってきた……」

男「俺だって初めっから上手く出来たわけじゃねえしさ、おまえだってやってるうちに上手くなるって」

妹「そうだよね。あたしだっていつかは結婚するんだろうし、夫の方が料理上手じゃ惨めだもんね」

男「まだずっと先の話じゃねえか。それまでには上手くなってるって」

妹「そうだといいんだけどさ……」

男「デミグラスソースは缶詰だけど、エノキとシメジを入れてそれなりに手は加えてあっから」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:34:22.32 ID:uzFaew97o<>
妹「なんか本格的じゃん。ファミレスのオムライスなんか足元にも及ばないって感じ」

男「……そういや、親父さん、今日も遅いんだっけ?」

妹「十二時までには帰って来ると思うけど」

男「じゃあ、晩飯は外で食ってくるのかな」

妹「家で食べるときは、いつも夕方までにはメールしてくるし……」

男「そういうことなら俺たちだけで食っちまうか。母さんも準夜勤のときは、病院で食べちまうし」

妹「そだね、冷めないうちに食べちゃお」

男「では、いただきます」

妹「あ、そっか。……いただきます」

男「……」

妹「どうかしたの?」

男「……いや、なんでもない」

妹「あー、なんか凄っごくおいしいー! うん、これこそオムライスだよね」

男「……」

妹「……ねえ。……大丈夫? ……あたしの作ったのそんなに不味かった?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:35:11.57 ID:uzFaew97o<>
男「そうじゃなくてさ……」

妹「はっきり言ってもらえないかな。……不味かったんなら不味かったでもいいし」

男「おまえ、親父さんが休みじゃない日は、晩飯はいつも一人で食ってたんじゃねえのか?」

妹「……なんで急にそんなこと言い出すの?」

男「……ごめん。俺、自分のこと考えてたんだ」

妹「どういうこと?」

男「俺の母さんって看護師だろ」

妹「うん」

男「今日みたいな準夜勤のときは、晩飯の時間にいないのは当然なんだけどさ……」

妹「うん」

男「夜勤のときも、食い終わって、俺が片付けやってる間に病院へ行く支度すんだよ」

妹「うん」

男「おまえとこうして一緒に晩飯食ってるとさ、なんか妙に安心するっていうか……」

妹「……なんか、あんたが言いたいこと、あたしにもわかるような気がする」

男「食事中なのに、つまんねえこと言い始めちまってごめんな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:36:19.94 ID:uzFaew97o<>
妹「もしかすると、あたしは、あんたが感じてる以上に安心を感じてるのかもしれない」

男「なんか、いいもんだよな」

妹「やっぱさ、ひとりぼっちで食べる晩ごはんはさびしいもん。でも、それはお父さんには言えなかった」

男「俺なんか、おまえに比べりゃまだマシだったかもしれねえけどな」

妹「そうだよ、あんたは料理上手だからまだいいけど、あたしなんか下手だし、悲惨なもんだったよ」

男「不味いもんを自分で作って自分で食うのは確かに悲惨だよな」

妹「まあね。……今後は、晩ごはんはあんたにお願いするとしても、まだ問題があるんだよね」

男「問題ってなんだよ?」

妹「ほら、サザエさんとか見てても、晩ごはんのときって学校であったこととか話題にするじゃん」

男「ああ、カツオとかワカメちゃんが、今日は学校でこんなことがあったとか言ってるよな」

妹「そうそう、……でもさ、あたしたちって同級生でさ、それも同じクラス」

男「共通点がありすぎて、逆に晩飯の話題にはならねえってことか」

妹「たとえば、夫婦だって夫は会社のこと、妻は子供のこととかご近所のこととか違った話題があるじゃん」

男「俺たちにそう違った話題なんかねえもんな」

妹「そう。あたしたちって冷静に考えるとさ、ほぼ二十四時間ずっと一緒にいるんだよね」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/04(日) 15:37:10.70 ID:uzFaew97o<>
今日の更新はここまでです。……なんだか、砂漠で人に出会った気がします <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/04(日) 15:39:52.67 ID:aGbU2nR6o<> >>73
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/04(日) 17:31:57.01 ID:gtkk4RONo<> (´;ω;`)ほろり <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/11/08(木) 12:38:03.12 ID:6dJpTVbbo<> 続きが読みたいぜ <> ◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:23:05.90 ID:FZhoZUZ2o<>
男「……」

妹「なに? あたしとずっと一緒だと、あんたはいやだとでも言いたいわけ?」

男「そうじゃなくてさ、俺たちには、それくらいの時間なんかじゃ足りないと思うんだよ」

妹「なんなのその大胆発言!? そんなにあたしと一緒にいたいの!?」

男「勝手に変な方向へ話を持っていくなよ」

妹「……」

男「もし俺たちが本当の兄妹なら、二十四時間どころか、もう十なん年って一緒なわけだろ」

妹「まあ、そうなるだろうね」

男「なのにさ、俺たち、まだ三日やそこら一緒にいるだけじゃねえか」

妹「生後三日ってこと?」

男「それはちょっと違う気もするけど……、まあいいや、そういうことだよ」

妹「なんとなくわかるよ」

男「本当にわかってんのかよ」

妹「あたしたち、ほんとはお互いのこと、まだよく知らないんだよね」

男「まあな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:23:38.51 ID:FZhoZUZ2o<>
妹「でも、それじゃあどうすればいいの?」

男「もっと話す必要があるんじゃんねえかと思う」

妹「……たとえば、どんなこと?」

男「子供の頃どんなだったとか、昔こんなことがあったとか、そういったことをさ」

妹「そっか、お互いの小さいときの記憶なんか、まったくの白紙なんだよね」

男「白紙か……。なんか、妙にしっくりくる言葉だな」

妹「真っ白で、なにも書かれていない日記……。だけど、なにも書かれていないわけじゃない」

男「……」

妹「なにが書かれているのか、今はまだ、お互いに見えないだけ……」

男「どうしたんだ急に!? とうとう逝っちまったか!?」

妹「ちょっとだけポエムってみました」

男「ともかく、俺が言いたいのは……」

妹「さあ勇者よ! 今こそ心の扉を解き放ち、幼き日の恥を白日の下に晒すがいい!」

男「オムライス、冷めないうちに食っちまえよ」

妹「あんたのアスパラベーコン……一個ちょうだい」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:24:20.93 ID:FZhoZUZ2o<>
男「自分の分は……って、もうねえのか。……まあいいけどさ」

妹「……でも、あたしの子供の頃の話なんて、あんまいい話ないんだよね」

男「俺だって同じようなもんだよ。だけど、そういう想い出を共有するのも大切なんじゃないかな」

妹「わかった」

男「ほんとにわかったのか?」

妹「悲しかったり、さびしかったり……。でもそれだけじゃない、楽しかったことだってちゃんとあるもん」

男「親には言えないようなことでも、兄妹になら話したかもってことだってあるしな」

妹「あたしも一人っ子だから、その気持ちは凄くよくわかる」

男「そういうわけでさ、二十四時間くらいじゃ足りないって思ったわけさ」

妹「……」

男「どうかしたのか?」

妹「……でもさ、たとえ本当の兄妹でも、やっぱ言えないことってあるよね」

男「今はまだ、お互いに話せるところから始めればいいじゃねか」

妹「そだね」

男「俺たち、まだ生後三日目なんだろ?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:25:55.59 ID:FZhoZUZ2o<>
とある日の晩ごはん、キッチンにて――

妹「どうしてこうなるかなー。もう最悪なんですけど」

男「まあそう言うなって、決まっちまったもんは仕方ねえじゃねえか」

妹「なんでよ、なんであたしが文化祭実行委員なんてやんなきゃなんないのよ」

男「各クラスから男女一名ずつ選ぶ決まりなんだから、文句言ったってしょうがねえだろ」

妹「あんたはいいじゃん、一年生のときも実行委員だったんだから」

男「俺だって担任の指名がなけりゃ、まさか二年連続でやるとは思わなかったよ」

妹「こんなのさ、初めっから生徒会が仕切ればいいじゃん」

男「文化祭ともなると規模も大きいし、生徒会だけじゃ大変なんだろうよ」

妹「やっぱ、あんとき見られたのが失敗だったのよ」

男「見られたって、なにを?」

妹「ほら、この前、理科準備室に連れ込まれたじゃん」

男「俺がな。その言い方だと、俺がおまえを連れ込んだように聞こえる」

妹「細かいことはどうでもいいの」

男「それで、見られたって言うけど、なにか問題でもあったのか?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:26:36.85 ID:FZhoZUZ2o<>
妹「一緒にいるところを誰かに見られたらまずいからって、別々に出ようって言ったじゃん」

男「俺が先に出て様子を見て、しばらく待ってからおまえが出るってことだったろ」

妹「そうそう。でもさ、すぐに予鈴のチャイムが鳴っちゃったでしょ」

男「……ああ。そういやそうだったかな」

妹「授業に遅れたらまずいし、すぐにあたしもあんたについて出ちゃったんだよね」

男「それを見られたっていうわけか」

妹「あんたは気が付かなかった?」

男「なにを?」

妹「となりの美術室から、あたしの友だちがちょうど出て来たのよ」

男「美術室から? なんでまたそんなとこから?」

妹「だってそのこ、美術部だもん。なんか用でもあったんじゃないの」

男「で、問題っていうのは?」

妹「あたしびっくりしちゃってさ、つい俯いて顔を隠しちゃったんだよね」

男「それで?」

妹「今朝、あたし少し風邪気味だったでしょ。あんたにおかゆ作ってもらって大分良くなったけど」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:27:36.67 ID:FZhoZUZ2o<>
男「そっちへ話が飛ぶのかよ!?」

妹「ちゃんと、最後には話が繋がるのよ」

男「……」

妹「あのときの件と風邪気味で元気がなかったのが、どこでどうこんがらがっちゃったのか……」

男「どうこんがらがったんだよ?」

妹「あの日、あたしが理科準備室であんたにコクって……思いっきり振られた。……で、あたしは意気消沈……」

男「とんでもないこんがらかりようだな」

妹「でしょ! なんであたしが、あんたに振られなくちゃなんないのよ!?」

男「とにかく白菜食え。白菜は、気を落ち着かせる効果があるとかないとか」

妹「さっきから食べてますって」

男「その勘違いがもとで、おまえが文化祭実行委員に推されたってわけか?」

妹「そう。一緒にやればなにかと話す機会もあるし、あんたの気も変わるんじゃないかって」

男「そういう恋愛絡みの話って、女はほんと好きだよな」

妹「まあね。あたしも女だから、他人のことは言えないんだけどさ」

男「それにしても、話す機会が増えるか……。なんか、知らねえってことは怖いよな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:28:36.48 ID:FZhoZUZ2o<>
妹「まったく! 増えるどころじゃないっつーの、今だって一緒にお鍋つついてますっての」

男「銀鱈にしてやっぱ正解だったろ? これが普通の鱈だとさ、味がどうもイマイチなんだよ」

妹「……あたしにも銀鱈ちょうだい」

男「ほら、このへんに隠れてっから、好きなだけ持ってけよ」

妹「クラスのこは知らないんだよね。あたしたちが、こんな風に生活してるなんて」

男「知ったらびっくりだろうな。……特に、おまえのファンなんか悶絶して死ぬんじゃねえのか?」

妹「あたしのファンなんかいないって」

男「以前、告白されたじゃねえか。それも一人や二人じゃないことくらい知ってるぞ」

妹「なんであんたが知ってんのよ」

男「おまえに告白して返り討ちにあったヤツが、俺の知り合いの中にもいるんだよ」

妹「それはご愁傷様」

男「そいつが言うには、バッサリだったそうだな」

妹「『あたし、好きな人がいるんです』って言ったんだけど、いけなかったのかしら?」

男「確かにバッサリだ」

妹「……正直に言っちゃうと、男の子と付き合うとかって、ちょっと怖いんだよね」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:29:38.41 ID:FZhoZUZ2o<>
男「そういう言葉が、おまえの口から出るとは思わなかったよ」

妹「なにそれ。あんた、あたしが遊んでるようにでも見えるわけ!?」

男「そうじゃねえよ。だってさ、おまえ、クラスの男子とも平気で話してるじゃねえか」

妹「ああそういうこと? あたし、別に男性恐怖症っていうわけじゃないのよ」

男「じゃあどういうわけよ」

妹「なんていうか、……あたし、男の子と二人っきりになるのが怖いの」

男「おまえさ、自分で言ってておかしいとか思わない?」

妹「そうかなあ。……あーそういうこと? あんたはさ、なんでだか平気なんだよね」

男「……」

妹「別に、あんたを男として見てないとか、そういうわけじゃないの」

男「……」

妹「なんか気に障っちゃったかな?」

男「いや、……俺の方がおかしいのかなとか思ってさ」

妹「今頃気付いたの?」

男「おまえは女で、同級生で、学校でも人気があって、それでもって美人だし……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:31:13.75 ID:FZhoZUZ2o<>
妹「一緒に暮らしてて、それも同じ部屋で寝起きしてるのに、って?」

男「……なんで俺は、おまえに手を出したりしないんだろうな」

妹「どうしてなんだろうね」

男「もし俺がその気になれば、おまえはなす術がないんだよな」

妹「腕力じゃ、どうしたってかなわないもんね」

男「それでも、俺はおまえに手を出したりはしない。……この先も、きっと」

妹「ねえ。……あたしが真面目に話したら、あんたも真面目に聞いてくれる?」

男「もちろん」

妹「……あたしは、もしあんたにそういうことをされても、誰にも言わずに黙ってると思う」

男「……」

妹「お父さんにも黙ってるつもりだし、もちろん、あんたのお母さんにもね」

男「なんでだよ。そんなことされて、なんで黙ってるんだよ」

妹「あたしが言っちゃったら、あんたはここから追い出されちゃうでしょ?」

男「当然だろうな」

妹「そうなったらあたし、またひとりぼっちで晩ごはん食べなきゃなんないもん……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:32:25.94 ID:FZhoZUZ2o<>
男「自分の身体を汚されても、それでも、ひとりぼっちよりはマシだって言いたいのか?」

妹「……わかんない。だけど、もうひとりぼっちになるのは絶対にいやなの」

男「俺がそんな真似をするわけがない、初めっからそう思ってんじゃねえのか?」

妹「……かもしれない。でもこんな環境だし、もしそうなったとしても仕方がないって、覚悟はしてる」

男「ひとりぼっちはいや、か……」

妹「……」

男「俺がおまえに手を出さない理由が、なんとなくわかってきたよ」

妹「……どんな理由?」

男「きっと、俺は、おまえが悲しむ顔なんて見たくないんだと思う」

妹「……ありがとう」

男「鳥のつくね、美味いだろ? ショウガとニラを少し混ぜるのがミソなんだよ」

妹「うん。なんかさ、お鍋っていいよね。……心も身体もあったかくなるもん」

男「文化祭実行委員、やるからには頑張ろうな」

妹「……そだね」

男「ほら、つくね、もっと食えよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/11(日) 04:35:19.59 ID:FZhoZUZ2o<>
今日の更新はここまでです。
さあ、もう少し話を引っ張りながら、クリスマスへ向けて気合は十分……か? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中国・四国)<>sage<>2012/11/11(日) 04:51:22.64 ID:7ReqfyNAO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/11(日) 04:57:03.24 ID:TkdZH8Jd0<> ク、クリスマス?
ああ、知ってるぞ キリストの誕生日だろ

そ、それがどうかしたのか?(動揺) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/11(日) 05:29:01.23 ID:YBzHcDFdo<> 乙 これは良いスレだ 期待してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/11(日) 06:08:28.24 ID:9SvLEYBgo<> 面白い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/11/11(日) 06:18:45.49 ID:2LtAdqD20<> イスラムを信仰すればクリスマスなんてへっちゃらさ!


はぁ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2012/11/12(月) 13:21:18.01 ID:zy1VG4tZ0<> 楽しみ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/11/12(月) 17:41:18.66 ID:8wI7AZQ6o<> よきものを見つけたぞ <> ◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:31:50.43 ID:Z3o8h42Ao<>
台風接近――

男「親父さん、なんだって?」

妹「……電車が停まっちゃったから、今日はビジネスホテルに泊まるって」

男「こんな台風じゃ、無理して帰る方がかえって危ねえもんな」

妹「それはそうだけど……。ねえ、あんたのお母さんはなんだって?」

男「もしかしたら、今日は帰れないかもって」

妹「でも、今日は準夜勤の日でしょ。……まさか、このまま夜勤もやるつもり?」

男「夜勤のシフトに入ってた看護師さんの中に、やっぱ台風の影響で病院まで来れない人もいるらしい」

妹「そんなのタクシーで来ればいいじゃん!」

男「タクシーだってつかまるかどうかわかんねえよ」

妹「じゃあ、今夜はあたしたちだけか……」

男「……」

妹「なんかさ、あんたのお母さん、最近は準夜勤ばっかじゃない?」

男「準夜勤って、勤務時間が中途半端だろ。特に若い看護師さんとか、どうしても敬遠するらしいんだ」

妹「そっか、夕方から仕事初めて、終わるのが深夜だもんね」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:32:32.49 ID:Z3o8h42Ao<>
男「なあ、さっきからイライラして落ち着かねえみてえだけど、どうかしたのか?」

妹「別にどうもしないよ。あたし、そんなにイライラしてる?」

男「もしかして、体調でも悪いのか?」

妹「別に、女の子の日じゃないから」

男「そんなこと訊いてねえよ!」

妹「そう? あたしに女の子の日が来なかったら、あんた大変だもんね。……プッ!」

男「……平常運転じゃねえか。なんか、心配してやって損した」

妹「心配してくれるんならさ、後片付けお願い」

男「なんだよ、俺が晩飯作ってやって後片付けまで俺かよ。じゃあ、おまえはなにやるんだよ」

妹「あたし、お風呂の支度するから」

男「もう風呂に入んのかよ」

妹「お風呂入ったら、今日はもう寝るつもりなの」

男「……やっぱ、どっか体調でも悪いんじゃねえのか?」

妹「ほんと、身体の具合が悪いわけじゃないから、それは大丈夫」

男「それならいいんだけどよ。……まあ、こんな日は起きててもしょうがねえか」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:33:03.61 ID:Z3o8h42Ao<>
嵐の夜の出来事――

男「なんだ、もうベッドに入ってんのかよ」

妹「お風呂の電気はちゃんと消した?」

男「風呂の電気はもちろん、リビングの照明もキッチンの蛍光灯も消したよ」

妹「ガスの元栓は?」

男「ガスの元栓も玄関の鍵もバッチリ閉めた」

妹「懐中電灯は?」

男「懐中電灯も消し……。あ、そうか、やっとわかった。もしかしておまえ、台風が怖いんだろ」

妹「……」

男「なんだ、そうならそうとはっきり言えばいいじゃねえか」

妹「別に台風が怖いわけじゃないのよ。こういう悪天候が怖いの」

男「おまえの言ってる意味わかんねえよ」

妹「誰にだってさ、怖いものの一つや二つくらいあったっていいじゃん」

男「まあな。俺はまんじゅうが怖い……なんてな」

妹「今なんか言った?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:33:37.37 ID:Z3o8h42Ao<>
男「ほら、もう寝るんだろ。電気消すぞ」

妹「うん。それと、あたしのことなんかからかってないで、あんたも早く寝ちゃいなさいよね」

男「はいはい。……ったく、高校生が八時前に寝るなんて、どう考えても信じらんねえ」

妹「……おやすみ」

男「ああ、おやすみ」

妹「ねえ。……もう寝た?」

男「今電気消したばっかだろうが、布団に入ってから一分も経ってねえよ」

妹「それにしてもさ、十一月なのに台風なんて、あんま聞いたことないよね」

男「かなりめずらしいって、テレビでも言ってたよ」

妹「……台風、今どの辺りにいるのかなあ」

男「さあな。上陸はしないようだし、今頃は太平洋のどっかをうろついてんじゃねえのか」

妹「でもさ、雨も風もさっきより強くなって来たよ」

男「そんなに心配なら、リビングでテレビつけて台風情報でも見てろよ」

妹「……もしかして、なんか怒ってない?」

男「別に怒っちゃねえけど、なんで俺はこんな時間に布団に入ってんだろうなとは思うよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:34:24.81 ID:Z3o8h42Ao<>
妹「ねえ。……そっちへ行ってもいい?」

男「俺をからかってんのか?」

妹「からかうつもりなんてまったくないって」

男「……」

妹「……そっちへ行ってもいいかな? いいともー……なんちゃって……」

男「おまえって、そんなに怖がりだったのか?」

妹「いいともー……」

男「おまえがいいって言うなら俺は構わねえけど、どうなっても知らねえぞ」

妹「それは大丈夫。あたしが保証する」

男「なんで大丈夫だなんて断言出来るんだよ」

妹「あんたの理性がたとえ砂の器で出来ていようと、大丈夫なんだってば」

男「だからなんで」

妹「こういうときに備えてね、女の子だけが使える魔法の呪文があるの」

男「魔法の呪文? どんな?」

妹「『あたし、あんたのこと信じてるからね』っていうやつ。一度も試したことはないんだけど」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:35:04.97 ID:Z3o8h42Ao<>
男「呪文が効かないときはどうすんだよ」

妹「そのときは、第二の呪文。……『あたし、結婚するまではキレイな身体でいたいの』」

男「じゃあそれも効かな――って、おい! 呪文唱えながら俺の布団に入って来んじゃねえよ!?」

妹「いちいちうるさいのよあんたは! 怖いんだからしょうがないでしょ! 非常事態なのよ!」

男「……」

妹「……ごめん、ちょっと言い過ぎたかも」

男「別にいいって」

妹「呪文がまったく効かなかったときは……。そうね、嘘でもいいから泣く!」

男「ほう、究極の奥義。男だったら絶対に勝てねえ」

妹「まあね」

男「心配しなくても俺の理性は鉄壁の要塞だから、そう簡単には崩れねえよ」

妹「……手、つないでもいい?」

男「まあでも、そろそろ補強しねえといけねえかもな」

妹「なんかあんたの手、あったかくていいね」

男「そうか? なんだか、ちょっと体温が上昇したかもしれない」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:36:21.60 ID:Z3o8h42Ao<>
妹「もしあたしたちが、血の繋がった本当の兄妹ならさ、こうして同じ布団で寝てたっておかしくないよね?」

男「ああ、兄妹ならおかしくねえだろ。ただし、俺たちがまだ小学生とかだったらな」

妹「でもさ、あたしとあんたが兄妹になったの、つい最近だもん。といっても、まだ仮の兄妹だけど」

男「あるところに血の繋がった兄妹がいました。二人とも高校生です。その二人が、同じ布団で寝ると思うか?」

妹「やっぱ、寝たりしないかなあ」

男「中には兄妹で寝てる奴等もいるかもな。でも、それを世間じゃ近親相姦と呼ぶんじゃないだろうか」

妹「いつだったかあんた言ったよね。……想い出を共有するのも大切だってさ」

男「ああ、言ったけど……」

妹「だったらさ、今みたいに同じ布団で寝るとか、あたしたちにはそんな想い出なんか初めっからないじゃん」

男「そりゃ俺もおまえも一人っ子なんだから、したくたって出来なかったろ」

妹「だからだよ。だからこそ、今やるしかないんだって」

男「……」

妹「あたしの言ってること、やっぱ変かな?」

男「いや、おまえの言いたいことは俺にもよくわかるよ」

妹「想い出をどんなに語り合ったって、本当の意味での想い出の共有なんて出来ないんじゃないかな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:37:07.95 ID:Z3o8h42Ao<>
男「俺の想い出の中におまえはいないわけだし、おまえの想い出の中に俺はいないってわけか」

妹「うん。実際に二人でやってみないと作れない想い出だって、たくさんあるってことだよ」

男「よし、それじゃあ明日から、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろうか?」

妹「死ねよ」

男「冗談に決まってんだろ」

妹「わかってるわよ、そんなことくらい」

男「でもさ、おまえとこうして手を繋いで寝てるとさ、なんだか……」

妹「なに?」

男「なんだか子供の頃から、おまえのことを知ってるような気分になるよ」

妹「……この前あたしが言ったこと、覚えてる?」

男「どんなことだ?」

妹「もしあんたが、その……はっきり言っちゃうけど、あたしにエッチなことしようと思えば出来るわけでしょ?」

男「まあな。特に今夜なんか親は二人ともいねえし、すでに俺たちは同じ布団の中だし」

妹「でもあんたは、決してあたしに手を出そうとはしない」

男「……手は繋いでるけどな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:37:55.37 ID:Z3o8h42Ao<>
妹「男から見たらさ、あたしみたいな、こんな都合のいい女なんかいないよね」

男「俺も、はっきり言ってもいいか?」

妹「うん」

男「おまえはスタイルだっていいし、誰が見たって美人だし、それに笑うと可愛くてさ……」

妹「なんだか、ちょっと照れちゃうけど、それで?」

男「おまえとエッチしたくない男なんていないと思うんだよ」

妹「……それで?」

男「俺がおまえと……っていうか、おまえの意に反して無理矢理したら、それはもう立派な犯罪だけど……」

妹「レイプとか強姦って、はっきりと言ったら? なんか、ごまかされてるみたいにな気がする」

男「わかった。俺がおまえをレイプしたとしても、おまえは誰にも言わずに黙ってんだったな」

妹「うん。……でも、間違えないでね。あたしは、あんたにされても黙ってるって言ったんだからね」

男「それはよくわかってる」

妹「レイプされて傷付くのは身体だけじゃない。心までズタズタにされるって、あんたならわかるよね」

男「ああ。それでも、おまえは黙ってるって言うんだろ?」

妹「うん」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:38:44.12 ID:Z3o8h42Ao<>
男「俺がおまえに手を出さない理由、この前も言ったよな」

妹「あたしが悲しむ顔は見たくないんでしょ?」

男「それは確かにそうなんだ。だけど、もっと他にも理由があるような気がするんだ」

妹「他の理由? どんな?」

男「……家族だから、なのかもしれない。たとえ今は、仮の家族だとしても」

妹「それが理由?」

男「俺にもわかんねえんだけど、只なんとなく、これは壊しちゃいけない、そんな気がするんだ」

妹「あんたは小さい頃にお父さんが死んじゃって、あたしのお母さんは、お父さんと離婚して家を出ちゃった」

男「俺の家族もおまえの家族も、途中で壊れちゃったんだよな」

妹「なんか、壊れちゃった家族の欠片同士がさ、お互いに引き寄せられたみたいだよね」

男「おまえが黙ってるって言ったのは、ひとりぼっちになりたくない、それだけじゃないよな」

妹「……わかるんだ?」

男「俺、父さんが死んでからさ、ときどき家族ってなんなんだろうって思うことがあるんだ……」

妹「結局さ、あんたもあたしと同じで、さびしがりやなんだよ」

男「そうなのかなあ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:39:33.98 ID:Z3o8h42Ao<>
妹「……なんだか、外が静かになってない?」

男「風の音もあんま聞こえないし、雨も小降りになって来たんじゃねえのか」

妹「朝までに止んでくれるといいんだけどね」

男「予報じゃ未明までには止むって言ってたし、学校へ行く頃には大丈夫だと思うけど」

妹「なんだか恥ずかしい話、いっぱいしちゃった気がする」

男「教室ん中じゃ絶対に話せねえような話だもんな」

妹「まあね。……あ、そうだ。あんた、文化祭の代休の日、なんか予定でもある?」

俺「……特に予定はねえけど、どうして?」

妹「ほら、実践する想い出作り。どっか行かない? 近くでいいんだ。出来れば紅葉が見られるとこ」

男「近くでもいいなら……じゃあさ、県民の森なんてどうよ。あそこならもう紅葉してるだろうし」

妹「なんか懐かしい。以前はさ、秋になるとよく行ってたんだ。じゃあ、そこで決まりだね」

男「……ベッドに戻るか?」

妹「……このままじゃ、だめ?」

男「俺の鉄壁の理性を信じるっていうなら、別に構わねえけど」

妹「じゃあ、今日だけは、信じてみよっかな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/13(火) 21:41:03.21 ID:Z3o8h42Ao<>
本日の更新はここまでです。あー、ちょっとノリノリで書いてしまいました(反省)
次回は、土曜日か日曜日頃に更新できるかと思います <> !ninja<><>2012/11/13(火) 21:52:43.22 ID:jOi+fvM60<> いいねー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/11/13(火) 21:53:16.93 ID:q5B/RIono<> おつんたれ <> ◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:05:42.53 ID:V3Tl3DP7o<>
○○県 県民の森――

妹「ねえ! ちょっと待ってよ!」

男「……」

妹「あんたがお弁当持ってんだからさ、先に行かれたら困るっつーの」

男「俺が作った弁当じゃねえか」

妹「お弁当箱に詰めたのはあたしだもん」

男「……」

妹「それにしても、ほんっと久しぶり。もうなん年くらい来てなかったんだろう」

男「……」

妹「なんか懐かしいなあ。紅葉もバッチリだし。ねえ見てよ、あれなんか……」

男「……」

妹「ねえ。……もしかして、なんか怒ってる?」

男「なんも怒ってねえし、俺はいつもどおりだって」

妹「でもさ、あたしとあんましゃべってくれないよね?」

男「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:06:22.56 ID:V3Tl3DP7o<>
妹「……本当は、あたしなんかと出掛けたくなかったとか?」

男「思ってねえよ、そんなこと……只、なんでそんなにスカートが短いんだろうなって」

妹「ああ、これ? ティアードミニスカートっていうんだけど、可愛いでしょ」

男「可愛いとは思うよ。けどさ……」

妹「かわいい系でまとめようかと思ってね、ニーソと組み合わせてみたの」

男「……」

妹「このニット帽も……。なーんだ、そうだったのか」

男「……」

妹「へーんだ、あたし、わかっちゃったもんね」

男「わかったって、なにがだよ」

妹「あんた、目のやり場に困ってんでしょ? 図星だったりして」

男「今日ここへ来たのは、共通の想い出を作るためじゃねえのかよ」

妹「だから、只今実践中なんでしょ。現にあたしたち、こうして二人っきりで出掛けて来たじゃん」

男「世間から見たら俺たちどう映るよ。高校生がデートしてるだけにしか見えねえだろ」

妹「他人からどう見えようと関係ないもん。あたしたちに大切なのはね、気持ちなの」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:06:55.09 ID:V3Tl3DP7o<>
男「そりゃそうだろうけど……」

妹「あたしたちが想い出作りだって思えば、これはれっきとした想い出作りなのよ」

男「俺は、なんていうか……、ちょっとだけセピアカラー? そんな感じを想像してたんだよ」

妹「なんでそんな古ぼけた写真みたいなこと言ってんのよ」

男「おまえの服装がいかにも今風っていうか、そんな服持ってたっけか?」

妹「この前、お友だちにお願いしてさ、駅前のデパートに付き合ってもらって買って来たの」

男「わざわざ、この日のためにかよ」

妹「まあね」

男「なんのために」

妹「だって、パッとしない服なんか着て来たら、あんたの記憶にもパッとしないまま残っちゃうじゃん」

男「とにかく言っとくけど、今日は、やたらとしゃがむとか屈むとかしないようにな」

妹「なんで? あ、そうか、パンツが見えちゃうから?」

男「わかってんならわざわざ訊くなよ」

妹「はーい。……でもさ、やっぱあんたも男だったんだね」

男「どういう意味だよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:07:30.25 ID:V3Tl3DP7o<>
妹「あたしがあんたの連れじゃなくてさ、まったく関係ない女だったらそんなこと言わないでしょ?」

男「……」

妹「無視すんな」

男「いつまでも馬鹿なこと言ってんなら、俺は先に行くぞ」

妹「もしもあんたが、あたしの本当のお兄ちゃんだったら……」

男「今度はなんなんだよ」

妹「幼いときのあんたは、幼いあたしの手を引いてくれたはず」

男「また妄想の時間かよ」

妹「あたしが転ばないよう、迷子にならないよう、……あんたなら、きっとそうしたと思う」

男「要は、手を繋げってことか?」

妹「いいじゃん。今日は誰がなんと言おうと、徹底的に想い出を作って帰るって決めたんだもん」

男「ほら、手……」

妹「ありがと。ご協力に感謝します」

男「もしおまえが躓いて転びそうになったら、迷わず俺の手を離すんだぞ」

妹「死んでもあたし一人じゃ転んであげない」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:08:01.52 ID:V3Tl3DP7o<>
小春日和――

男「昨日はかなり寒かったし、雨も降ったから心配だったんだ。ほんと晴れて良かったよ」

妹「なんだか、今日は暖かいよね」

男「俺が最後にここへ来たのはいつだったかなあ」

妹「あたしは、中学生になってからまったく来なくなっちゃった」

男「俺も同じようなもんかな」

妹「だとすると、不思議な気がしない?」

男「なにがさ」

妹「だってさ、あたしもあんたも小学生のとき以来ってことでしょ?」

男「まあな」

妹「ということは、逆に言うと、二人とも小学生のときはここへ遊びに来てたわけじゃん」

男「それがどうかしたのか?」

妹「もしかするとさ、その頃にあたしたち、この場所のどこかですれ違ってたかもしれないじゃん」

男「共通の想い出だとしても、それはちょっと無理があるような気が……」

妹「あたしが言いたいのは、そういうことじゃないの」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:08:38.29 ID:V3Tl3DP7o<>
男「じゃあどんなことよ」

妹「その頃すれ違ったかもしれないあたしとあんたが、この場所に今こうして一緒にいるってこと」

男「……」

妹「なんだかそう思うとね、不思議だなって思ったわけよ」

男「俺にはイマイチわかんねえけど、おまえが不思議だって思うならそれでいいよ」

妹「ま、あんたに言ったところで、あたしの考えてることなんかわかんないよね」

男「……」

妹「あたしなんか、あんたから見たらさ、やっとオムレツがまともに焼けるようになった程度でしょ?」

男「いつかも言ったけど、料理なんてもんは繰り返しやってれば、そのうちに上手くなるって」

妹「お母さんがまだいたときに、もっと教わっとけばよかった……」

男「……」

妹「でもだめか、お母さんも家事とかって、あたしなんかよりも嫌いな人だったし」

男「俺が教えてやるって。俺がダメなら母さんだっているわけだし、な」

妹「うん。……そう、だよね……」

男「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:09:15.15 ID:V3Tl3DP7o<>
夕焼け小焼けで日が暮れて――

妹「この前の夜のことなんだけどさ、なんかごめんね」

男「……この前の夜って、いつのこと?」

妹「ほら、あたしがさ、あんたと寝た日のこと。あんたも覚えてるでしょ?」

男「ちょっと待て、その言い方はかなり誤解を与えるだろうが」

妹「そうかなあ。事実を言ったまでだけど」

男「台風が来た日のことを言ってんだろ? おまえが言ってるこの前の夜って」

妹「そう。……あたしさ、あのときイライラしてたのもあるんだけど、それよりも怖かったんだよね」

男「まあ、台風が好きだっていう女もいねえだろうし、俺はなんも気にしてねえよ」

妹「そういうことじゃなくて……」

男「言ってみろよ。……あのとき、言えなかったことがあるんだろ?」

妹「……あんたさ、二年前の大地震のとき、どうだった?」

男「あの大震災の日か?」

妹「うん」

男「もうすぐ中学の卒業式ってときだったんだよな……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:10:17.80 ID:V3Tl3DP7o<>
妹「あたしのところは十五日が卒業式だったから、四日前だった」

男「俺は家にいてさ、母さんが、ちょうど病院へ出勤しようとしてたとこだったんだよ」

妹「うん」

男「揺れは凄かったけど、部屋の中で特に倒れたものとかはなくてさ……」

妹「あんたのお母さんは?」

男「患者さんが心配だし、救患が増えるかもしれないからって、急いで病院へ向かったんだ」

妹「そうだったんだ」

男「おまえの方はどうだったんだよ?」

妹「あたしんとこは、お父さんが前日から出張しててさ、それもあっち方面に……」

男「連絡とかつかなかったんじゃないのか? 電話も携帯もまったくだめになっちまったし」

妹「うん。なんど携帯にかけても全然だめだった。……回線が込んでるっていうメッセージばっかで」

男「じゃあ、あの日はおまえ、ずっと一人だったのかよ」

妹「うん。どうしようどうしよう、もしお父さんの身になにかあったらって、そればっか考えてて……」

男「停電は? 俺んちは夜中には復旧したけど、友だちんとこなんかかなり長い間停電してたって」

妹「あたしんとこもずっと停電だった。次の日のお昼頃になって、ようやく電気がついたって感じ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:11:14.44 ID:V3Tl3DP7o<>
男「そうだったのか……」

妹「あたしさ、お父さんから連絡があるまで一睡も出来なくて、ずっとリビングのソファーに座ってた」

男「親父さんと連絡がついたのっていつ?」

妹「朝、八時頃だったかな、お父さんから携帯にかかって来たの。公衆電話からかけてるって」

男「……」

妹「真っ暗な部屋で一人でいるとさ、どうしても悪い方へばっか考えちゃうんだよね」

男「あんな経験なんか誰もしたことねえし、仕方がねえよ」

妹「でもさ、お父さんには言えないんだけど、あの日以来、ときどき考えるようになったんだよね」

男「どんなことを?」

妹「もしもお父さんの身に万が一のことがあったら、あたしはどうやって生きて行こうかって」

男「……」

妹「今はね、あんたのお母さんもいてくれるし、前ほどは不安じゃないんだけど……」

男「なんか、まだ言い足りないみたいな感じだな。はっきりと、思ったことを言ってみなよ」

妹「こんなこと言ったら不謹慎だっていうのはわかってんだけどさ、……言っても、いい?」

男「構わねえよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:13:00.62 ID:V3Tl3DP7o<>
妹「……」

男「無理に言えとは言わない。けどさ、俺はおまえのことなら、どんなことでも知っておきたい」

妹「……もしもあたしたちの親にさ、ある日突然、なにかあったら……、あんたはどうするのかなって」

男「おまえが言ってんのは、おまえの親父さんと俺の母さんと、二人ともってことだよな?」

妹「うん」

男「まあ、ああいう経験をしたんだから、そういうこと考えるのもわからないでもねえけど……」

妹「やっぱ、言わなかった方が良かった? でも、もう言っちゃったし」

男「いや、そんなことはねえよ。只、俺が今までそういうことを考えたことがなかっただけの話でさ」

妹「あたしさ、この前の台風の日の夜も、あの日のこと思い出しちゃって、考えてたんだよね」

男「だから不安そうっていうか、少しイライラしてるように見えたのか?」

妹「そうだと思う。あんたが平気な顔してたのが、余計にムカついたっていうのもあるけど」

男「どんなこと考えてたんだ?」

妹「もしなにかあったとしても、あんたがいればどうにかなるんじゃないかって」

男「おまえの親父さんと、俺の母さんが最悪の事態になったとしても、っていう前提だよな」

妹「うん」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:14:00.70 ID:V3Tl3DP7o<>
男「俺とおまえで、この先も生きて行けるって考えたのか?」

妹「うん。取り敢えず二人してバイトしてさ、なんとか高校だけは卒業出来るかもって」

男「それで、卒業した後はどうするつもりなんだ?」

妹「卒業した後のことは、あたし一人で考えてもしょうがないんだって、わかった」

男「なんで?」

妹「だってさ、あたしとあんたは、血の繋がった本当の兄妹でもないわけだし……」

男「……」

妹「あたしと一緒にいる理由がなければ、その後どうするかなんてあんたの自由なわけじゃん」

男「おまえとしては、どうしたいんだ?」

妹「あたしとしては、卒業してからも一緒にいて欲しい」

男「その理由は?」

妹「一人じゃさびしいし、ご飯も作って欲しいし、それに……やっぱ……」

男「俺は、いつまでもおまえの傍にいるって」

妹「本当!? 嘘じゃないよね!? 本当にあたしと一緒にいてくれる?」

男「だってさ、俺だってあのマンションを出ちまったら、他に行くとこなんかねえもん」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:15:03.97 ID:V3Tl3DP7o<>
妹「あっ、そうか……。あたし、そこまでは考えなかった」

男「高校卒業してどうにか就職出来たとしても、給料なんて大したことねえだろ」

妹「そうだよね。アパートかなんか借りようと思ったら大変だもんね」

男「おまえの前提じゃ、親が二人ともいなくなっちまった、ってことだったよな」

妹「うん」

男「そうなると、借りるときの保証人も親戚とか誰かに頼まねえとなんねえし、面倒なんだよ」

妹「そっかそっか、そうだよね。……なんか、心配しちゃって損した感じ」

男「俺がおまえの傍にいるって言った理由は、他にもあるんだ」

妹「どんな理由?」

男「そういう状況にあってさ、おまえを見捨てて、俺一人が出て行くわけにもいかねえだろ」

妹「あたしのことが心配? 大切だと思う? もしかしてあんた、あたしのことが好きだったりして?」

男「どうとでも勝手に思ってろよ」

妹「……なんかさ、想い出作りとか言ってここへ来たのに、変な話になっちゃってごめんね」

男「いいや、そんなことねえよ。こういう話をしたのだって、俺たちには想い出のひとつになるんだよ」

妹「そう言ってもらえると、なんか嬉しいかも」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:16:12.91 ID:V3Tl3DP7o<>
男「本当の兄妹ならさ、親になにかあったときは、お互いに助け合うのが当然なんだろうけど……」

妹「だよね。……『火垂るの墓』でもそうだったもん」

男「でも俺たちは、別々の親から生まれて、別々の場所で育ったわけでさ……」

妹「うん」

男「そんな俺たちが兄妹になるんだから、いろいろと通過しなきゃいけないこともあるんだよ」

妹「お互いに言いづらいことでも、思ったことを正直に言う必要があるってこと?」

男「まあな。俺たちは相手がイヤだって言ったら、どうすることも出来ねえんだもん」

妹「そうなんだよね。なんかさ、あたしたちって脆いっていうか、とっても危なっかしい関係なんだよね」

男「俺の鉄壁の理性が健在なうちは、まあなんとかなるんじゃねえかな」

妹「それが一番危ないんじゃないの?」

男「この前、おまえと寝たときだって、俺はなんもしなかっただろうが」

妹「ちょっと待ってよ。その言い方だと、誰かが聞いたら凄く誤解されそう」

男「おまえが先に言ったんじゃねえか」

妹「……」

男「無視すんなよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:17:44.71 ID:V3Tl3DP7o<>
妹「……やっぱ、ここへ来てほんと良かったと思う」

男「俺たち、これからももっといろんなとこに出掛けてみないとな」

妹「それに、もっといろんな話もしないとね」

男「なんかさ、紅葉を見るにはちょうど良かったかも。今まで見た中で、一番綺麗な気がする」

妹「他にも言うことがあるんじゃないの?」

男「なんて?」

妹「紅葉も綺麗だけど、おまえの方がもっと綺麗だとかなんとか……」

男「それはドラマとかでさ、こういうシーンで男が女に言いそうな定番の台詞じゃねえかよ」

妹「だからあんたは男だし、あたしは女なんだから、別に言ったっていいじゃん」

男「俺にそんな臭い台詞が言えるかっつーの!」

妹「まあ今回は勘弁してあげる。あたしも、あんたからそんなこと言われたら恥ずかしいしね」

男「近いうちに、次の計画も立てねえとな」

妹「そうだよ、あたしたちは即席の兄妹なんだもん。少しくらい早回しなのがちょうどいいんだってば」

男「親だってまだ婚姻届を出してねえわけだし、なにもそこまで急ぐ必要はねえと思うけど」

妹「いいじゃん。あたしが出掛けたいって言ってんのよ!」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/18(日) 18:19:46.81 ID:V3Tl3DP7o<>
本日の更新はここまでです。あと二、三回更新したらこの話も完結です
次回の更新もまた日曜日くらいにはなんとか……
そんなわけで、一度くらい出席でも取ってみようかなと(代返禁止) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/11/18(日) 19:16:50.99 ID:xcpTqgsKo<> おつーい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/11/18(日) 19:29:03.98 ID:OIirubzbo<> オッツ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/18(日) 20:05:32.96 ID:xGUl/3l+0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/11/18(日) 23:16:36.32 ID:42tsiCCXo<> もう終わりか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 00:00:58.31 ID:qdLwqnqno<> 期待してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<><>2012/11/19(月) 01:21:14.95 ID:mriK1nCbo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 02:44:07.96 ID:dOUAszDIO<> 乙
なんてママレードボーイだよ!面白い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 02:54:27.60 ID:U3KaxxaDO<> おっつん

いい関係だなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山陽)<>sage<>2012/11/19(月) 11:01:12.57 ID:zSiVRcFAO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/11/19(月) 13:07:01.88 ID:DLYNKEjB0<> 乙 <> ◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:18:52.75 ID:9XORPwIFo<>
勤労感謝の日――

妹「おとーふ、買って来たよー」

男「外は寒かっただろうに、すまなかったな」

妹「ううん、いいんだってば」

男「まさか、豆腐を買い忘れてたなんて思わなかったんでさ」

妹「おとうふ、冷蔵庫に入れとくけど、いい?」

男「サンキュ。水炊きなのに豆腐が入らないんじゃ、シャレになんねえもんな」

妹「おなべ、おなべー♪ 今日は、おなべー♪」

男「……」

妹「どうかした?」

男「いや、おまえの方がどうかしちまったのかと思って……」

妹「あたし、なんかおかしかった?」

男「なんだか、やけに浮かれてるように見えたけど」

妹「だって、お鍋大好きなんだもん。それにさ、今日みたく寒い日には最高じゃん」

男「おまえって、そんなに鍋が好きだったのか?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:19:32.94 ID:9XORPwIFo<>
妹「まあね。お鍋はあたしの好きな食べ物ランキングだと、堂々のベストテンには入るかも」

男「何位くらいなんだよ?」

妹「そうだなあ……、6位か7位くらい」

男「微妙っつーか、俺としてはコメントのしようがねえよ」

妹「ねえ、鶏のつくねは? 作ってくれた?」

男「冷蔵庫に入ってただろ。……ラップが掛かってんのがそうだよ」

妹「あ、これか。もうこれがないとお鍋じゃない! なんてね」

男「この前の鶏のつくね、気に入ったみたいだな」

妹「まあね」

男「……」

妹「どうしたの? 急に黙っちゃって」

男「いや、鍋なんかさ、ガスレンジで一気に作った方が早いんだけど……」

妹「それじゃいけないの?」

男「カセットコンロもあることだし、なんかその方が雰囲気も出ていいかなとか思ってな」

妹「あ、それいいかも! あたし、カセットコンロがあることすっかり忘れてた!」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:20:18.19 ID:9XORPwIFo<>
男「カセットコンロを使うような料理を、今までしてこなかったんじゃねえのか?」

妹「まあね。……ボンベにガス、残ってた?」

男「今日使うくらいの分なら十分にあるよ。この前に見たとき、ちゃんと確認してある」

妹「今頃は、お父さんたちも旅館で晩ごはん食べてるかもね」

男「旅館といえば鍋が付きもんだもんな」

妹「小さな一人用のお鍋でさ、チマチマ煮えるの待ってたりしてね」

男「もう昆布で出汁は取ってあるし、さっそく始めるとすっか」

妹「ちょっと待って!」

男「なんだよ急に、大きな声出したりして」

妹「あたしが指示します。……先ずは、鶏のつくねから入れてちょうだい」

男「……おまえまさか、鍋奉行じゃねえだろうな」

妹「テレビでしか見たことないんだけど、一度でいいから鍋奉行っていうのやってみたかったの」

男「鍋奉行って言うときはさ、あんまりいい意味で使われてねえけど……」

妹「わかってる。お鍋になると、やたらと仕切りたがる人のことを言うんでしょ?」

男「まあ、簡単に言うとそんなようなもんなんだけど」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:21:00.51 ID:9XORPwIFo<>
妹「だから、今日はあたしが仕切る!」

男「ほう。随分と張り切ってんじゃねえか」

妹「先ずは、鶏のつくねから入れてちょうだい」

男「なるほどね。鶏のつくねからは、いい出汁が出るからな」

妹「鶏のつくねに火が通ったら、後はおとうふでもなんでもじゃんじゃん入れて」

男「随分といい加減な鍋奉行だな。……ま、俺はアク代官に徹するからいいけど」

妹「悪代官? ってなんのこと?」

男「鍋に灰汁(アク)が浮いて来るだろ? それを取るヤツのことをアク代官」

妹「ふーん。なんか、お鍋って奥が深いよね」

男「そうか?」

妹「時代劇でさ、縁側みたいなのがあって、お奉行さまが悪人を裁く場所があるじゃん」

男「もしかして、お白洲のことを言ってんのか?」

妹「お白洲って言うんだ? あんたは、お白洲の白い砂利みたいなとこに土下座してる悪人」

男「ほら、おまえの好きな鶏のつくね、もういいんじゃねえか?」

妹「あ、ほんとだ。……よし、あたしがあんたに取り分けてあげる」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:21:42.38 ID:9XORPwIFo<>
男「お奉行さまが取り分けてくれるってか」

妹「ありがたく思いなさいよね」

男「サンキュ」

妹「あんたには、おとうふと白菜をいっぱい入れてあげる」

男「鶏のつくねは? 入れてくれねえのかよ」

妹「悪人には入れてあげない。あ、でもその代わりにエノキは入れてあげる」

男「おまえは鍋奉行っつーよりも、民衆を苦しめる本当の悪代官だな」

妹「なんとでも言うがいい。……ねえ、お父さんたち、温泉楽しんでくれてるかなあ」

男「おまえの親父さん、ほんと仕事人間だもんな。いつ寝てるんだって、ときどき不思議に思うよ」

妹「あんたのお母さんだってそうじゃん。人のこと言えないっての」

男「母さんなんて勤務時間も休日も不定期だし、おまえの親父さんとは擦れ違いも多いのにな」

妹「それでも顔を合わせると仲がいいって、そう言いたいんじゃないの?」

男「不思議といえば不思議なんだけど」

妹「結局は、似たもの同士っていうことなんだろうね」

男「まあな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:22:37.03 ID:9XORPwIFo<>
妹「温泉かあ……」

男「本当は、おまえも行きたかったんじゃねえのか?」

妹「ま、本音を言っちゃうとそうなんだけど」

男「せっかく親父さんがみんなで行こうって言ってくれたのに、なんで断わったんだよ」

妹「そんなこと言うけどさ、あんただって断わったじゃん」

男「……」

妹「わかってる。二人にはさ、あたしたちのことは一先ず忘れて、ゆっくりして欲しかったんでしょ?」

男「まあな。なんたって勤労感謝の日っていうくらいだから」

妹「あんたもさ、家のことはよくやってくれてるよね。あたし、いつも感謝してるんだよ」

男「だろうな。よくやらないヤツが約一名いるもんだからさ、俺も仕方なしに」

妹「なにそれ。それって、あたしのことだとでも言いたいわけ?」

男「別に誰のことだなんて言ってねえだろ。それとも、おまえには心当たりでもあるのか?」

妹「そうやってあたしのことからかってるとね、きっと後悔することになるよ」

男「俺がどうして後悔するんだよ」

妹「今日のあたしは、鍋奉行だってこと忘れてない? もうあんたは、白菜以外は食べちゃダメ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:23:39.08 ID:9XORPwIFo<>
男「おまえもよくやってると思うよ。今日だって、俺が買い忘れた豆腐を買いに行ってくれたし」

妹「よし。あんたにも、鶏のつくねを分けてあげよう」

男「サンキュ」

妹「お父さんたちが帰って来るのって、明日の夜だったよね」

男「あさっても休みなんだし、のんびりと帰って来るんじゃねえかな」

妹「じゃあさ、明日はあたしたちも、どっか出掛けない?」

男「また想い出作りかよ」

妹「そういうわけじゃなくて、せっかくの連休なんだし」

男「ま、それもそうだな」

妹「というわけで、あたしはお風呂に入ったらもう寝るから、後片付けはよろしく」

男「鍋の残りで雑炊でも作ってやろうかと思ったんだが……」

妹「……雑炊!? 今、雑炊って言った!? 仕上げに溶き卵をツツーってヤツ!?」

男「あ、おまえは風呂入ってもう寝るんだったな。いやあ、それは残念」

妹「あたし、鍋奉行だったことすっかり忘れてたわ。お鍋の後片付けもあたしがやります!」

男「じゃあ俺は、雑炊食ったらのんびり風呂にでも入るか……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:24:57.45 ID:9XORPwIFo<>
妹「あたしは、あんたが自発的に明日のお弁当の準備をすることを妨げない」

男「……は?」

妹「……妨げない」

男「……」

妹「あたしも手伝うから……。お願いします」

男「冷蔵庫にあるもんじゃ大したもんは出来ねえけど、それでもいいんだな?」

妹「やったー!」

男「鶏のつくねがまだ多少残ってるし、それは和風ハンバーグにするとして……」

妹「それと、厚焼き玉子も! あんたがイヤじゃなかったら、お砂糖入れてうんと甘くして」

男「了解。……ほうれん草はバターでソテーして、あとはサラダでも作ればいっか」

妹「それだけあれば十分」

男「で、どこへ行くつもりなんだよ」

妹「それは、明日のお楽しみ。……あたし、あんたに見せたいところがあるんだ」

男「そういうことなら行き先はおまえに任せるとして、俺は雑炊でも作るか」

妹「あたしは、卵を用意します」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:25:56.08 ID:9XORPwIFo<>
二人だけの夜、ふたたび――

妹「なんだ、もう寝てるの?」

男「誰かさんのせいでさ、休みだっていうのに、明日の朝は早く起きなきゃなんねえからな」

妹「あたしもちゃんと手伝うっての」

男「オニギリは、おまえの唯一の得意分野だって言ってたもんな」

妹「まあね。なぜかオニギリだけは失敗したことがないのよね」

男「じゃあオニギリは任せるとして、おまえも早くベッドに入って寝ちまえよ」

妹「……」

男「……」

妹「……寒いんですけど」

男「おまえ、風呂入って出て来たばっかじゃねえか!?」

妹「そうじゃなくて、……心が寒いんですけど」

男「……」

妹「沈黙は、了解の意ということで……」

男「おまえな、こんなことしてたらいつか間違いを犯す――って、遅かったか……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:26:55.68 ID:9XORPwIFo<>
妹「心配しなくても大丈夫。あたしとあんたの間で、絶対に間違いなんて起きないから」

男「わかんねえだろ、そんなこと」

妹「大丈夫なんだって。あんたはそんなことするヤツじゃないって、あたしが一番よく知ってるもん」

男「おまえってさ、見かけによらず、結構甘えん坊だろ」

妹「今頃気付いたの? 遅いっての」

男「親父さんがこんなこと知ったら、きっと泣くぞ」

妹「こんなことって?」

男「可愛い娘が、自分のいないときに男の布団に潜り込んでるってことだよ」

妹「あんたのお母さんがいるときならいいの?」

男「俺が困るわ!」

妹「まあ、こうなったら潔く観念することね。……はい、お手!」

男「俺は犬じゃねえし」

妹「鍋奉行の言うことは聞きなさい」

男「……なあ、俺はおまえの親父さんに、どこまで信用されてんのかなあ」

妹「なんで?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:29:25.83 ID:9XORPwIFo<>
男「俺がいくら再婚相手の連れ子とはいえ男なんだし、それも思春期真っ盛りの高校生なわけだ」

妹「うん。どう見てもあんたは女には見えない。それに、あんたみたいな女子高生がいたらキモイ」

男「茶化すなっての。……それにさ、おまえは親父さんにとって、大切な一人娘なわけじゃん」

妹「まあね」

男「今回の旅行だって、おまえを家に残して行くことに、特に心配してる様子もなかったしさ」

妹「なんだ、そんなこと?」

男「そんなことって言うけど、もし俺が高校生の娘を持つ父親だったら、やっぱ心配だと思うんだよ」

妹「あんたのことは信用してると思うよ。……でも、それよりももっと重要なことがあるの……」

男「もっと重要なことってなんなんだよ」

妹「お父さんは、あんたのことを心から信頼してるんだと思う」

男「信用も信頼も、どっちも似たようなもんじゃねえか」

妹「ううん。誰かを信用することと、誰かを信頼することとは、全然違うんだってあたしは思うの」

男「……」

妹「信用ってさ、真面目だとか、人に嘘をつかないとか、突き詰めればそういうことでしょ?」

男「まあ、そういうことになるんだろうな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:30:26.45 ID:9XORPwIFo<>
妹「でもさ、人から信用を得るなんて、案外簡単なもんなのかもよ」

男「言うほどそう簡単なもんでもねえだろ」

妹「じゃあ訊くけど、あんたは、嘘をつく人は信用出来ない?」

男「嘘をつくヤツなんか、信用出来ないに決まってるじゃねえか」

妹「もしその嘘が、相手を傷つけないためについた、やむを得ない嘘だったとしても?」

男「あ、そうか……。そういう嘘だってあるかもしれねえ……」

妹「そうでしょ。重病な人に向かって、必ず治るから頑張れって言うこともあるよね」

男「……でもさ、そういう嘘をつくっていうときは、なにか特別な事情があるときだけだろ」

妹「まあね。人はさ、簡単に人を信用しちゃう。だから簡単に人に騙されちゃう」

男「それはわかるよ。だけど、俺はおまえにはもちろん、親父さんにだって嘘なんかつかねえ」

妹「誰かを信頼するっていうのはさ、誰かを信用するようには簡単なことじゃないんだよ」

男「……具体的に言うと?」

妹「この人になら自分の大切なものを託してもいい、そう思えるかどうかじゃないかな」

男「なんとなく、俺にもわかるような……感じがしないでもねえけど」

妹「信用されることも大切なんだけど、人から信頼されるっていうのは、もっと大切で難しいことなんだよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:31:46.19 ID:9XORPwIFo<>
男「おまえは、親父さんが俺のことを信頼してるんだって、さっきそう言ったよな」

妹「うん」

男「なんでそんなことが言えるんだよ」

妹「あたしのことは、あんたに任せておけば大丈夫だって、お父さんは思ってるから」

男「それは、おまえの想像だろ?」

妹「あたしにはわかるの。だって、あたしはお父さんの娘なんだもん」

男「おまえが俺を信じてくれてるのはわかってるし、俺もおまえのことは信じてるけど……」

妹「あたしのことなんか、信用しない方がいいよ。ましてや信頼するなんてとんでもないから」

男「急になにを言い出すんだよ。……意味がわかんねえよ」

妹「だってあたし、嘘つきなんだもん」

男「おまえが嘘つきだなんて、そんなわけねえじゃねえか」

妹「あたしは、あたし自身に嘘をついてる。……今までも、これからも、ずっと……そうなんだよ」

男「それってどういう……」

妹「ほら、明日は早いんでしょ。……もう寝よ」

男「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/11/25(日) 05:34:20.93 ID:9XORPwIFo<>
本日の更新はここまでです。勤労感謝の日に更新しようと思ったのに間に合わなかった
それにしても、話を広げるだけ広げて、回収できなかったりして……

次回も日曜日頃の更新ということで勘弁してください <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/11/25(日) 08:44:29.86 ID:wKWTJ6Z+o<> おっつーい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<><>2012/11/25(日) 21:05:46.24 ID:1SlQq+me0<> 次も期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/26(月) 01:17:44.57 ID:Arf00I7IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽)<>sage<>2012/11/26(月) 07:38:29.36 ID:/c2CoPGAO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/26(月) 14:12:36.51 ID:Waf8aiBo0<> 乙。楽しみ。
もうすぐ終わりなのか。 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:06:31.95 ID:B5+UcIQUo<>
ふたたび二人でお出掛け――

妹「大丈夫だった? なんだか、捉まってたみたいだけど」

男「おう。自分たちはもうすぐ帰るからって、薪まで分けてくれたよ。あとこれ、使い捨てライターも」

妹「河川敷でバーベキューやってる人たちがいて、ちょうどよかったよね」

男「ほんと、助かったよ。火種だけでもと思ったんだけど、一か八か頼んでみるもんだな」

妹「あたしも、向こうの陸橋の下にダンボールとか雑誌がいっぱい捨ててあったから拾って来た」

男「……拾って、来た?」

妹「うん」

男「それって、本当に捨ててあったのか? 誰かに分けてもらったとかじゃねえだろうな」

妹「どういうこと?」

男「いや、捨ててあったんなら問題はねえけど、……つーか、あまり深く考えない方がいいな」

妹「ねえ、そんなことよりさ、早く焚き火しようよ。寒いじゃん」

男「そ、そうだよな。証拠さえ燃やして隠滅しちまえば、あとで文句を言われることもねえだろうし」

妹「あんたがなに言ってんのかわかんない」

男「気にすんなって。先に雑誌を燃やして、それからダンボール、薪って順番だろうな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:07:21.86 ID:B5+UcIQUo<>
妹「なんかさ、キャンプしてるみたいだよね」

男「まあな。それにしても、河川敷がこんなに寒いなんて思わなかったぜ」

妹「でもさ、初めに行った神社の参道のイチョウ並木、とっても綺麗だったでしょ?」

男「ああ。なんかこう、参道いっぱいに黄色い絨毯を敷き詰めたみたいで凄かったよ」

妹「春になると、ここの堤防の桜並木もすっごく綺麗なんだけど……、この時期は寒いだけだね」

男「ここもおまえのお気に入りの場所なんだろ? 寒いけど」

妹「そんなに寒い寒いって言わないでよ。あんたなんか、さっき向こうで暖っかそうにしてたじゃん」

男「ちょっとだけ焚き火にあたらせてもらってただけじゃねえか」

妹「へーえ、それだけなんでしょうか? あたしは見ていた! はっきりとこの目で」

男「なにを見てたって言うんだよ」

妹「あのこ、あたしたちと同い年くらいみたいだけど……何年生だって?」

男「高一だってさ。こっちに親戚がいるらしくて、長野から家族と一緒に遊びに来たんだって言ってた」

妹「ほう。あたしが訊いてもないことまで、よくもまあペラペラと得意になって話してくれちゃって」

男「おまえが訊きたそうな顔してるから、先に話してやったんだよ」

妹「あたしのことも訊かれた?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:08:10.95 ID:B5+UcIQUo<>
男「……」

妹「ねえ、なんて訊かれたの? 正直に言いなさいよ」

男「……おまえのこと、彼女さんなんですかって」

妹「彼女さん!? へーえ。それで、あんたはなんて答えたのよ」

男「まあ、そんなようなもんだって……」

妹「ふーん」

男「他にどう答えろって言うんだよ」

妹「あたしは、そんなようなもん……か」

男「親同士が近いうちに再婚するから、俺たちも兄妹になる予定なんだ、って言った方がよかったか?」

妹「まあね。そんな複雑な事情を説明したところで、聞かされた方も困るだろうしね」

男「初めて会ったヤツにそんなこと言えるかよ」

妹「あ、なんかあのこ、あんたの方見て手を振ってるけど……、小石でも投げてやろうか?」

男「やめとけって! なんでそうなるんだよ」

妹「女同士、心と心のキャッチボール。……じゃなくて、小石を介したコミュニケーション」

男「それよりさ、もし訊かれたのがおまえなら、なんて答えるつもりなんだよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:09:08.34 ID:B5+UcIQUo<>
妹「あたしがもし訊かれたら、あんたのことは……、そうだ、あたしの専属料理人なんてどう?」

男「ふざけんなっつーの。ほら、焚き火も薪の方に火が回って来たようだし、弁当食おうぜ」

妹「はー、やっとお弁当の時間だ」

男「食う場所の当てもねえのに、やたらと弁当なんか作るもんじゃねえな」

妹「あたしはそうは思わない。この河川敷で食べたらいいかもって、あたしは、初めっから思ってたもん」

男「嘘つきやがれ。おまえだって、ここがこんなに寒いとは思ってなかっただろうが」

妹「まあね。そこまでは、ちょっと計算してなかったかも」

男「こんな風に焚き火しながら弁当食うなんてそうあるもんじゃねえし。……ま、これはこれでいっか」

妹「うん、そうだよ。……あ、この玉子焼き、すっごくおいしい」

男「おまえのリクエストどおり、砂糖いっぱい入れて甘くしてやったから」

妹「ありがと。ねえ、あのバーベキューやってる人たち、かなりの大家族だよね」

男「ああ。爺ちゃんや婆ちゃんもいるみたいだけど、親戚の人たちも混じってんじゃねえのかな」

妹「かもね。……なんかさ、ああやって家族でバーベキューなんて、なんかいいよね」

男「羨ましいのか? 俺たちだって、母さんや親父さんの休みが合うとき、やろうと思えば出来るんだぜ」

妹「だよね。でも、まだ実感がないっていうか、あんたと二人だけでいる方が長いっていうか……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:10:07.77 ID:B5+UcIQUo<>
男「お互いに仕事人間の親を持っちまった悲劇かもな」

妹「悲劇といえば、悲劇なのかも……。ううん、ここまで来ると、なんだか喜劇じゃないかとも思う」

男「ところでさ、もう話してくれてもいいんじゃねえのか?」

妹「話すって、なにを?」

男「おまえが惚けるつもりなら、俺はそれでも構わない。俺の勘違いかもしれねえし」

妹「……」

男「おまえと一緒に暮らすようになってまだ日は浅いけど、それでも俺は、おまえのことを見てたつもりだ」

妹「……見てたから、なんだって言うの?」

男「あのイチョウ並木もここの堤防の桜並木も、おまえが本当に俺に見せたかったものじゃないよな?」

妹「なんで? 今は秋だから桜は咲いてないけど、イチョウは黄色く色付いてて綺麗だったじゃん」

男「……ここへ来る途中、おまえ、何気に道を変えたよな? なんでだろうって、不思議に思ったんだよ」

妹「あたし、道なんか変えたかなあ」

男「わざわざ遠回りしてさ、住宅街の中を通り抜けたじゃねえか」

妹「……」

男「おまえが通り抜けた住宅街の外れに、鉄筋コンクリートの大きな建物があった」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:11:10.20 ID:B5+UcIQUo<>
妹「……」

男「あれってさ、随分と古い建物だけど、小学校の校舎だろ?」

妹「それから?」

男「それから、この河川敷まで来る途中、坂を上がったところにあったのは中学校だ」

妹「それであんたは結局、どう思ったの?」

男「どれも、おまえが通ってたところなんだって気付いたんだよ」

妹「……そっか、バレちゃったんだ」

男「ここへ来るのにあれだけ遠回りすりゃ、誰だって変だって思うさ」

妹「そっか、さり気なくやったつもりだったんだけどね」

男「どういうことなのか、聞かせてもらってもいいよな?」

妹「今日、あんたと一緒に歩いたあの道は、通学路なの。毎日あの道を通って、あたしは学校へ行ってたの」

男「通学路……」

妹「いつだったか、あんたが自分で言ったこと、憶えてるかなあ」

男「俺が言ったこと?」

妹「そう。あんたは、『俺たちは、別々の親から生まれて、別々の場所で育った』って言ったの」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:12:24.37 ID:B5+UcIQUo<>
男「ああ、それは憶えてるよ。でも、それとどういう関係があるって……」

妹「あたしは、あんたの前に急に現れたんじゃない。空からいきなり降って来たわけじゃないの」

男「……」

妹「あたしは、あんたよりも少しだけ遅れて生まれて来ただけで、ずっといたの」

男「……」

妹「あたしもあんたのことは知らなかったけど、あたしは、いつもあの道を歩いてた」

男「……実を言うと、俺さ、あの中学校のことはよく知ってるんだ」

妹「そうなの!?」

男「俺、中学んとき、ずっとバレー部でさ、練習試合なんかでたまに行ってたんだよ」

妹「部活入ってたんだ!?」

男「結局、最後までレギュラーにはなれなかったけど……三年の夏までやってた」

妹「それなら、なんであたしと会わなかったの?」

男「え!? もしかして、おまえもバレー部だったのかよ!?」

妹「ううん。あたしは、ずっと帰宅部だったけど」

男「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:15:04.83 ID:B5+UcIQUo<>
妹「でも、うちの学校に来てたんなら、一度くらい顔を合わせたっておかしくないじゃん」

男「部活の練習試合って、大抵日曜日とか祝日とかだから。あと夏休みとか」

妹「あ、そうか……。日曜日はあたし家にいたし、夏休みは登校日しか学校へ行かなかったか……」

男「家にいて会えるわけねえじゃねえか」

妹「そうだけど……」

男「空き教室で着替えもしたし、体育館や校舎の中の雰囲気も、今でもなんとなく憶えてる」

妹「でもさ……、でもあんたなら、あたしが家にいたら見つけてくれたっていいじゃん」

男「いや、そんな無茶なこと言われても……」

妹「無茶なことだってわかってる。それでも、あたしは見つけて欲しかった」

男「……」

妹「お父さんが、あんたのお母さんに出会う前に……あたしは、あんたに見つけて欲しかった」

男「……」

妹「ごめん。……あたし、自分でもなに言ってんのか、わかんなくなっちゃった」

男「俺の方こそ、ごめんな」

妹「あたしってさ、家族……失格かもね」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/02(日) 06:16:18.19 ID:B5+UcIQUo<>
本日の更新はここまでです。今回は短くてすみません
このSSを書いてると、どうしてか体が痒くなってくるような気がします
ではまた、来週の日曜日頃に…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 09:18:46.59 ID:pyXaOC0ao<> >>161
その痒さは不快な痒さか?
俺も痒くなってるけど不快じゃないよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 10:04:06.16 ID:7gicnoxDO<> こそばゆい、ってやつかな?良い作品を読んでるとそうなるよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/03(月) 01:58:25.58 ID:AV5s6p0IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/03(月) 02:06:07.07 ID:H/va+L2t0<> 書いてて恥ずかしい
読んでて恥ずかしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/03(月) 07:12:08.48 ID:YF3MCmWLo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/04(火) 20:29:34.31 ID:U/XVed1F0<> 何か凄くドキドキする展開。
これって実話なんですか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/04(火) 22:08:13.12 ID:JcMzjNWy0<> 乙
やっと追いついた。こういう雰囲気はなんかいいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 22:09:06.36 ID:gnhHkDSIO<> いやいや、糞スレだろ <>
◆Neko./AmS6<>sage<>2012/12/04(火) 22:13:48.15 ID:Cp3+pYero<> >>167
>これって実話なんですか?

じつは、○○なんです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 23:49:38.53 ID:aObg2vQ2o<> いつのまにか人が増えててワロタ <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:39:56.98 ID:esJ9fU+6o<>
河川敷の告白?――

男「おまえが家族失格っていうなら、俺なんかどうなるんだよ」

妹「どうして? あんたはお父さんとも話が合うみたいだし、上手くやってるじゃん」

男「確かに親父さんとは話が合うけど……」

妹「それだけじゃない。あんたは、あたしの面倒だってよく見てくれてる」

男「俺が晩飯作ってやってんのを言ってんのか? そんなの、面倒を見てる内に入らねえよ」

妹「ううん、あたしが言いたいのは、そういうことじゃないの」

男「じゃあどういう……」

妹「あんたは、あたしの兄貴になろうとして頑張ってるっていうこと」

男「おまえには、俺がそう見えるのか? 眼科へ行った方がいいかもな」

妹「ふざけないで!」

男「ふざけてなんかねえよ。おまえ、自分のことを家族失格って言ったけど……」

妹「だってあたし、本当にそう思うもん」

男「俺なんか……、俺なんかさ、家族になる覚悟すらまだ出来てねえんだよ」

妹「どういうこと?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:40:35.66 ID:esJ9fU+6o<>
男「俺たち、マンションで一緒に暮らすようになってかなり経つじゃん」

妹「うん」

男「婚姻届、出さないつもりなのかなって。……おまえ、親父さんからなんか聞いてるか?」

妹「お父さんからは、なにも聞いてないけど。婚姻届がどうかしたの?」

男「再婚するんだから、やっぱ婚姻届を出すのは当然だよな」

妹「うん。そうじゃないと、正式な夫婦にはなれないもん」

男「そうなるとさ、俺は、おまえの親父さんと養子縁組するのが自然の流れだよな」

妹「あ、そうか。……もしかして、苗字が変わっちゃうのがイヤだとか」

男「それも確かに、あるにはある……」

妹「いきなりあたしと同じ苗字になっちゃったら、あたしたち結婚したのかと思われちゃうかもね」

男「それはねえよ。俺はまだ十七だし、結婚しようにも法律上出来ないから安心しろ」

妹「……」

男「でも、クラスの奴らはどうしたって変な目で見るだろうな」

妹「同じ部屋で寝起きしてて、ときどき同じ布団で寝てるなんて知られちゃったらどうなるんだろう」

男「なんでそんなことまでクラスの奴にわかるんだよ!?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:41:47.64 ID:esJ9fU+6o<>
妹「あたしさ、身持ちは固いんだけど口は軽かったりして。それに、あたしって嘘つくの下手だし」

男「わざわざ自分から言いふらす必要なんかねえから」

妹「あたしさえ、あんたの不埒な悪行三昧に耐えてればいいんだもんね」

男「俺はなんにもしてねえだろ。ていうか、おまえが勝手に俺の布団に入って来るんじゃねえかよ」

妹「あんた、この前さ、あたしの胸に触ったじゃん」

男「俺が寝てて寝返りを打ったら、おまえがいつの間にか俺の布団に潜り込んでたのな」

妹「だってさ、あんたの布団で一緒に寝ると、暖っかくてよく眠れるんだもん」

男「おまえに今度、電気毛布買ってやるよ。スイッチ入れた途端に感電するようなヤツ」

妹「……ねえ。あたしには、話せないようなこと?」

男「そういうわけじゃねえけど……」

妹「無理しなくていいよ。あんたにだって、あたしに話したくないことくらいあるだろうし」

男「いや、おまえだけには話しておかないと、って俺は思ってる」

妹「じゃあ聞いてあげる。ていうかあたしには、聞く権利があるような気がする」

男「……俺には父さんが、ひとりぼっちになっちまうような気がするんだ」

妹「父さんって、あんたの本当のお父さんのことだよね?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:42:23.35 ID:esJ9fU+6o<>
男「ああ。……俺が親父さんと養子縁組したらさ、俺は、親父さんの戸籍に入るわけだろ」

妹「そうか、当然そうなるよね」

男「苗字も変わった上に戸籍まで変わっちまうなんて、なんか……な」

妹「……」

男「父さんはとっくの昔に死んじまったわけだし、そうした方がいいってこともわかるんだけどさ」

妹「苗字も変わって戸籍も変わる……。うん、そうなるだろうね」

男「俺にはなんだか、父さんを見捨てるような気がしてしょうがねえんだよ」

妹「馬鹿みたい」

男「ばっ、馬鹿って言い方はねえだろうが。……俺だって、真剣に悩んでんだよ」

妹「やっぱさ、あんたって男だよね」

男「どういう意味だよ。こんなことで悩むなんて、おかしいってのかよ」

妹「じゃあ訊くけどさ、ていうか、あくまでも仮定の話だからそのつもりで聞いてくれる?」

男「……わかった」

妹「あたしたちの親が再婚するとか、そういう話がまったくなかったとしての話なんだけど……」

男「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:43:05.83 ID:esJ9fU+6o<>
妹「あんたはあたしのことが好き過ぎて、いつの日か、あたしにプロポーズするとするじゃん」

男「なんだか、聞いてるだけで目眩がするような話だな」

妹「あんたにもわかるように話してあげてんだから我慢しなさいよ」

男「それで?」

妹「あんたは土下座までしてプロポーズするんだけど、あたしにはまったくその気がないの」

男「なんなんだよそりゃ」

妹「マンションまで毎日やって来てさ、前の道路に座り込んじゃって、あたしんちの窓を見上げるわけよ」

男「……」

妹「雨が降って来ても、あんたは傘も差さずに、あたしんちの窓をじっと見上げてんの」

男「俺は、ストーカーか捨てられた仔犬かよ」

妹「そんなあんたを見てたら可哀想になっちゃって、あたしも仕方なくあんたのプロポーズを受け入れるの」

男「さっきから黙っておまえの狂言を聞いてんだが……、なにが言いたい?」

妹「あんたさ、あたしがお父さんと二人暮らしの一人娘だってこと忘れてるでしょ」

男「はあ? そんなこと今さら言われなくたって……」

妹「あたしがプロポーズを受け入れると、あんたは笑ってあたしにきっとこう言うんだろうね」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:43:49.19 ID:esJ9fU+6o<>
男「俺がなんて言うんだよ」

妹「おまえ、親父さんを見捨てるんだな、って。あんたは、あたしにお父さんを捨てさせるんだよね」

男「俺がそんなこと言うわけ……」

妹「あたしは、お父さんを絶対に見捨てたりしない」

男「……」

妹「あたし、お父さんのこと大好きだもん。苗字がどうとか戸籍がどうとか、そんなの関係ないの」

男「おまえがさっき、俺のことをやっぱり男だって言った意味がわかったよ」

妹「結婚すると女は、夫になる人の籍に入るのが当然だと思われてる」

男「本当は新しく戸籍が作られて、どっちの苗字にしてもいいっていうのにな。俺、ネットで調べたんだ」

妹「うん。好きになった人同士が結婚して、対等の立場で新しく家庭を築くんだもん」

男「俺は、自分の苗字が途中で変るなんて考えたこともなかったんだ」

妹「あんたは男なんだし、普通はそうなんじゃない?」

男「まあな。苗字が変わっても俺は今までどおり俺なんだし、それでいいんだよな」

妹「あたしもそう思う。でもさ、あんたのお母さんに、今みたいなこと絶対に言っちゃダメだよ」

男「わかってる。母さんだって、死んだ父さんを見捨てたわけじゃねえもんな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:44:24.83 ID:esJ9fU+6o<>
妹「うん。だってさ、あんたのお母さんじゃん」

男「なんか、おまえって普段なんにも考えてないようだけど、結構考えてんだな」

妹「……今の言葉、ちょっと引っ掛かるんですけど。褒めてくれたんだよね?」

男「本当に褒めてんだよ」

妹「あんたが死んであたしが再婚することになっても、あんたを見捨てるわけじゃないから」

男「ケッ! 言わせておけば勝手なこと言いやがって。……ま、いいけどさ」

妹「あたしも少しは役に立ったかな?」

男「まあな。だけど、もう一つクリアしなきゃいけねえ問題が残ってる」

妹「まだなにか問題があるの?」

男「いや、こればっかは相手のある話だし、俺一人じゃどうすることも出来ねえか……」

妹「なんなの? あたしには言えないことなの?」

男「今はまだ言えない」

妹「じゃあ、いつかは話してくれる?」

男「ま、いいじゃねえか。もう焚き火の火も消えそうだし、暗くなる前に帰ろうぜ」

妹「……うん」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:45:20.92 ID:esJ9fU+6o<>
十二月のとある日の夕方――

妹「あたしさ、さっき黒いタイツ脱いで、ベッドのここら辺に置いといたんだけど、知らない?」

男「今日、学校で穿いてたやつか?」

妹「うん。今日みたいに寒くちゃ、みっともないなんて言ってらんないじゃん」

男「そのタイツなら、俺が今穿いてるけど」

妹「なんだ、あんたが穿いてたんだ。……じゃ、いっか」

男「いいのかよ!? そんなわけねえだろ! 俺がちゃんと洗濯カゴに入れといてやったよ!」

妹「そうだったんだ。ありがと」

男「おまえも女なんだからさ、少しは恥じらいみたいなもんがあってもいいんじゃねえのか?」

妹「恥じらいなんて、あんたと同じ部屋になって三日目で捨てたわよ」

男「おまえ、着替えるときはクローゼットの中でって約束も、すぐ破っちまったもんな」

妹「別にまっぱになるわけじゃないし、でもあんたは、今でもクローゼットの中で着替えてるけどね」

男「なんだよ、そんなに俺の裸が見たいのかよ」

妹「あんたのパンツ姿なんか見慣れてるわよ」

男「おまえが俺のパンツ洗ってるなんてクラスの男連中が知ったら、全員即死だろうな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:46:06.87 ID:esJ9fU+6o<>
妹「そんなこと言っていいの?」

男「どういう意味だよ」

妹「あんたがあたしのパンツ洗ってるなんて知れたらさ、あんた、女子全員に殺されるかもよ」

男「俺は好きでおまえのパンツ洗ってるわけじゃねえよ」

妹「初めに約束したじゃん。洗濯は、あたしたち二人で毎日交代でやるって」

男「おまえさ、同級生の男子に自分のパンツ洗わせてなんとも思わないのか?」

妹「そりゃ最初は恥ずかしかったけど、そんなこと言ったらあんたのお母さん、看護師さんじゃん」

男「母さんが看護師だからって、なんなんだよ」

妹「看護師さんって、男の患者さんの身体を拭いてもなんとも思わないでしょ」

男「患者の身体を拭いてやるのだって仕事だし、恥ずかしいとか言ってらんねえだろ」

妹「あたしさ、あんたのお母さんに聞いたんだけど、盲腸とかの手術のときってさ……剃るんでしょ?」

男「剃毛のことか?」

妹「そうそう。なんかスッゴイことするんだってね」

男「母さん、おまえになんて言ってた?」

妹「若い男の人なんかだと、剃ってる間に、その……大きくなっちゃう人もいて……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:46:44.14 ID:esJ9fU+6o<>
男「それで?」

妹「大きくなっちゃうと大変だから、手術の前の晩に、エッチな本を患者さんに渡しておくんだって」

男「ふーん」

妹「でもね、高校生とか大学生だとそんなもんじゃ全然効果がなくて、やっぱり大きくなっちゃうんだって」

男「それじゃ困るだろうな」

妹「うん。だからそういうときはね、内緒らしいんだけど、若くて美人の看護師さんが……」

男「若くて美人の看護師さんが、どうした?」

妹「ねえ、これって本当の話?」

男「そんな病院が本当にあったら凄いよな。ていうか、それはもう病院じゃねえだろ」

妹「……もしかして、あたし、あんたのお母さんにからかわれたの?」

男「おまえが興味津々で聞いてたんじゃねえのか? 母さん、冗談が好きだから」

妹「やっぱり。あたしもね、途中からなんか変だとは思ったのよ」

男「すっかり騙されてるじゃねえか」

妹「あんたのお母さん、ときどき口を押さえちゃってさ、なんか必死に堪えてるみたいだったもん」

男「母さん、笑いを堪えてたんだよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:47:49.31 ID:esJ9fU+6o<>
妹「あたしさ、真剣に聞いちゃってたよ。思い出すだけで顔から火が出そう」

男「それで、俺がおまえのパンツ洗うことと、一体どう繋がるんだ?」

妹「あれ? 繋がってないか。ていうか、そんなにあたしのパンツ洗うのがイヤなの?」

男「勘違いすんなよ。俺がいやとかじゃなくて、おまえがいやなんじゃねえかと思ったんだよ」

妹「さっきも言ったけど、恥ずかしいと思ったことはあるけど、いやだって思ったことはない」

男「……だったらいいんだ」

妹「あんた、そんなこと気にしてたの?」

男「俺から見れば、おまえはまだ同級生の女の子だし、それくらいの気は遣うって」

妹「あたしがそんなこと気にするんだったらさ、初めっから自分で洗うとか思わなかった?」

男「だよな。それじゃあ明日からはおまえのパンツ、俺が素手で手洗いしてやる!」

妹「そんなことしたら、あんたのお母さんに言うもん。あ、そうだ、あんたのお母さんで思い出した」

男「母さんがどうかしたのか?」

妹「もうすぐクリスマスでしょ」

男「いつだったかおまえ、クリスマスなんて興味ないとか言ってなかったっけか」

妹「あたしのことはいいの。そうじゃなくて、お父さんたちにクリスマスプレゼントを贈りたいのよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:49:11.08 ID:esJ9fU+6o<>
男「そういうことか。俺も親父さんには、なにか贈りたいと思ってたんだよ」

妹「あたしも、あんたのお母さんには可愛がってもらってるし。……でも、今回は騙されたけどね」

男「なにを贈ったらいいかだよな。親父さん、あんまり酒は飲まないし……マフラーくらいが定番か?」

妹「あたしに考えがあるんだけど」

男「なんだ、あるんなら早く言ってくれよ」

妹「あんたのお母さんってさ、演歌が大好きじゃん」

男「好きっていうか、あれは病気だよ。演歌歌手になるのが夢だったとか今でも言ってんだから」

妹「実はね、お父さんも大の演歌ファンなのよ」

男「俺にはフォークが好きだとか言ってたけど、学生時代にはライブにも行ったことがあるって」

妹「それは昔の話。きっと、あんたにカッコ良く見られたかったんじゃないの。今は、演歌一筋なんだってば」

男「で、おまえの考えっていうのは?」

妹「クリスマス・イブに合わせてさ、演歌歌手のディナーショーを二人にプレゼントしたいの」

男「いいんじゃねえのかな。……でもさ、今から申し込んで間に合うのかよ」

妹「ネットで捜したんだけど、あんたのお母さんが好きな演歌歌手なら、この時期でも残ってるのよ」

男「今年はいろいろとあったし、紅白にも落選しちまったからその影響が出たんだろうな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:50:34.40 ID:esJ9fU+6o<>
妹「それでね、ディナーショーのオプションでさ、同じホテルに一泊っていうのがあるの」

男「今年のクリスマス・イブは祝日だからいいけど、親父さん、次の日は仕事じゃねえのか?」

妹「ホテルは都内なんだし、お父さんにはそのまま出勤してもらう」

男「親父さんがそれでもいいって言うならいいけど、あとは母さんか……」

妹「あんたのお母さんには、すでに了解は得てるから大丈夫」

男「まさか、ディナーショーも宿泊の申し込みも済んでんじゃねえだろうな」

妹「……あんたって、もしかして超能力者?」

男「マジかよ!? だったら今さら俺に相談なんかしなくても、なんの問題もねえじゃねえか」

妹「それがね、問題大有りなのよ」

男「なんか、いやな予感がする」

妹「超能力者のあんたならわかるでしょ。あたし、自分が金欠病だったことすっかり忘れてたの」

男「折半する金もねえのかよ」

妹「今のあたしには、アイスも買えない……」

男「小遣いもらって、まだそれほど経ってねえだろうが」

妹「今だから言っちゃうけど、あたし今月分のお小遣い、実は前借りしてたの」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:51:34.27 ID:esJ9fU+6o<>
男「小遣い前借りしてまで、一体なんに使ったんだよ」

妹「あんたと一緒に県民の森へ行ったじゃん。あのとき着てた服に……全部化けた」

男「……」

妹「あ、でも、お正月にお年玉もらったら必ず払うから」

男「いいよ、お年玉はお祝いなんだし、おまえが好きなように使えばいい。今回は、俺が払うから」

妹「でも、それじゃあんたに悪いもん。あたし、なんとかするから」

男「おまえが企画を立ててくれたんだし、ほんとにいいよ。俺なんかじゃ思いつかねえもん」

妹「そう言ってもらえると嬉しい。……ねえ、今度の日曜日って、なんか予定ある?」

男「今度の日曜日はちょっと用があって、朝から出掛けるつもりだけど」

妹「用があるんだ……。あたしも一緒について行っていい?」

男「なんでだよ!? なんでついて来るんだよ」

妹「あたし一文無しじゃん。あんたがいないと、あたし、家で水飲んで息してるだけなんだもん」

男「親父さんだっているんだし、テレビでも見てりゃいいじゃねえか」

妹「……あたし、フルーツパフェが食べたい」

男「俺も午前中には用が済むと思うから、帰って来たらファミレスでも一緒に行ってやるよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:52:43.24 ID:esJ9fU+6o<>
妹「ほんと!? あたし、お昼ごはん抜きで我慢して待ってる。だから、ランチも追加で……」

男「親父さんの昼飯はどうすんだよ」

妹「お父さんの分は、あたしが冷蔵庫の残りもんで適当に作るから大丈夫だって」

男「可哀想な親父さんだよ。こんな薄情な娘を持っちまってさ」

妹「いいの。お父さんには、クリスマスプレゼントでお返しするんだから」

男「あ、そうだ、いいこと思いついた」

妹「なに?」

男「今回のディナーショーの件は、俺からおまえへの貸しにしといてやる」

妹「貸しってことはつまり、あたしにとっては借りってことよね」

男「そういうこと。貸しなんだから、あとで返してもらうさ」

妹「だから、お年玉もらったら返すって」

男「お年玉はお祝いだってさっきも言ったろ。それに、おまえから金を受け取るつもりはない」

妹「じゃあ、どうやってあんたに借りを返せばいいの?」

男「簡単なことさ。クリスマス・イブ、おまえの身体で返してもらう」

妹「あたしの身体でって……えっ!?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/09(日) 06:53:34.20 ID:esJ9fU+6o<>
本日の更新はここまでです
少し引っ張ってしまいましたが、次回とその次で完結の予定です
それにしても、早朝の更新は本当に辛いわ。ではまた、来週の日曜日に…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 07:22:17.02 ID:EEtIdbIEo<> おつらー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 08:04:58.66 ID:LWNtUw/Wo<> このむず痒さは気持ち良い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 14:33:46.44 ID:OEho9s1w0<> 乙乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/09(日) 22:08:57.94 ID:ji5nZi+H0<>
>>170
気になります…

更新お疲れ様です!!!
頑張って下さいねっ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/11(火) 00:33:06.51 ID:39Q0OJ/IO<> 乙
そういえばもうすぐクリスマスか <>
◆Neko./AmS6<>sage<>2012/12/17(月) 18:54:17.85 ID:cvnlDnkho<> 何だかいろいろあって、まだ書きあがってないんです
クリスマスイブに投下をぶつけようなんて意図はサラサラなくて……
数日のうちにはなんとか投下できると思います <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:52:39.03 ID:/jkM0a5uo<>
聖夜!――

妹「ただいまー」

男「おう、ご苦労さん」

妹「ケーキ屋さんであんたに言われたとおり、ケーキ受け取って来た」

男「あの店、わかりづらいから大変だったろ」

妹「クリスマスケーキなんて、どこで買ってもいいような気がするんですけど」

男「まあそう言うなって。ああ見えて、結構いい店なんだから」

妹「ふーん。それと、フライドチキンも買って来た」

男「サンキュ」

妹「あたし、あんたがケンタッキーで予約までしてたなんて知らなかったわ」

男「今日みたいな日は前もって予約しとかねえと、時間ばっか食っちまうからな」

妹「コンビニでノンアルコールのシャンパンも買った。これも、あんたに言われたとおり」

男「……もしかして、ご機嫌斜めだったりして?」

妹「ケーキ屋さん、ケンタッキー、コンビニ……。あたしの足、棒になっちゃったんじゃないかしら」

男「ほんとご苦労さん。料理の方はあらかた出来てるし、おまえは休んでていいからさ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:53:09.27 ID:/jkM0a5uo<>
妹「あたしの身体で返せって、こういうことだったのね」

男「金欠病のおまえに、他にどんな返し方があるんだよ」

妹「なんか女の子として屈辱っていうか……。あたしって一体なんなの、みたいな」

男「馬鹿なこと言ってねえで、早く着替えて来いよ。それと、ケーキは冷蔵庫な」

妹「今食べるんじゃないの?」

男「ケーキは風呂入ってから、部屋へ戻ってゆっくり食ったっていいじゃねえか」

妹「あんたがそうしたいならそれでもいいけど……。じゃあ、開けて見るだけならいい?」

男「……」

妹「わかったわよ。ケーキ、冷蔵庫に入れておけばいいんでしょ」

男「それでよし」

妹「ふん。サンタさんの飾りがついてても、あんたにはあげない。あたしが全部もらっちゃうもんね」

男「ところでさ、母さんと親父さん、なんか言ってたか? 駅まで一緒だったんだろ?」

妹「二人ともすっごく喜んでた。あたしがいることなんか忘れてるみたいに」

男「クリスマスのディナーショーなんて滅多に行けるもんじゃねえし、それもしょうがねえだろうな」

妹「そのことなんだけどさ……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:53:44.76 ID:/jkM0a5uo<>
男「どうしたよ」

妹「ディナーショーを思いついたのはあたしでも、お金を出したのはあんたじゃん……」

男「だからおまえは身体をフルに使って、俺に返してんだろうが」

妹「そうなんだけど……」

男「だったらいいじゃねえか。早く着替えて来いっての。おまえが来たら始めっから」

妹「あたしさ、今日のこと、あんたのお母さんには正直に話したのよ」

男「……」

妹「あんたがお金を出してくれたって。その代わりに、あたしは身体で払うことになったんだって」

男「おまえ、馬鹿じゃねえの」

妹「まあね。今考えてみるとさ、ほんと馬鹿だったかも」

男「それで母さん、なんか言ってたか?」

妹「笑ってた。あんたは馬鹿な真似をするような子じゃないからって」

男「ま、そうだろうな。俺、信用されてっから」

妹「でもね、こうも言ってた」

男「なんて?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:54:39.87 ID:/jkM0a5uo<>
妹「そうは言っても年頃の男の子だし、万が一のときには、この御守りをあんたに渡せって」

男「御守り?」

妹「そう。わざわざ途中でコンビニに寄って買ってくれたの」

男「母さんが?」

妹「うん。あんたのお母さんが言うにはさ、御守りがあたしを守ってくれるらしい」

男「なんなんだよ、その御守りって」

妹「はいこれ。あんたのお母さんから渡された御守り」

男「今どきのコンビニはそんなもんまで売ってんのか……って、これって――!?」

妹「あんたのお母さんも冗談キツイよね。あんたさ、全然信用されてないじゃん」

男「……」

妹「あたしがそんなもん持ってても意味ないし、あんたにあげるわ」

男「一つでも使ったらバレるか……」

妹「あんたのお母さん、帰って来てから数を確認するんじゃないの?」

男「確かに、御守りには違いねえよな」

妹「さてと、着替えて来よっと」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:55:26.91 ID:/jkM0a5uo<>
聖夜! 聖夜!――

妹「なんだ、言ってくれれば後片付けくらいあたしがやったのに」

男「いいんだって。ほら、ケーキ持って来てやったぞ」

妹「でもさ、今日の買物くらいじゃ、全然あんたに借りを返したことにならないよね」

男「本当にいいんだって。今日は、おまえが主役なんだからさ」

妹「どういうこと?」

男「ケーキの箱は、おまえが開ける約束だったよな」

妹「うん。ケーキってさ、食べるのも楽しみなんだけど、箱を開ける瞬間がまたいいんだよね」

男「俺、紅茶いれてやるから」

妹「ありがと。……じゃあ開けちゃうよ。せーの! メリークリスマス……イブ!」

男「……」

妹「えっ!? なにこれ!? ……どういうこと?」

男「どうかしたのか?」

妹「え、だって……ハッピーバースデイ……って。えっ!? なんで!?」

男「今日はおまえの誕生日なんだから、当たり前じゃねえか」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:56:04.46 ID:/jkM0a5uo<>
妹「……」

男「今日でおまえも十七歳。俺とおまえは同い年ってわけだ」

妹「なんか、まんまとあんたにしてやられたって感じ。……ちょっと悔しいんですけど」

男「そう言うなって。別に、俺はおまえを騙すつもりなんかなかったんだから」

妹「ううん。あたし、こういうサプライズなら、なんどでも騙されてあげる」

男「おまえがケーキ見たいって言ったときには、正直言って俺もかなり焦ったけどな」

妹「あたしもさ、なんか変だとは思ったのよ」

男「と言うと?」

妹「ケーキ屋さんでケーキ受け取ったときにね、包装紙になんとなく違和感があったの」

男「ああ、そういうことか」

妹「クリスマスケーキならさ、普通は赤とか緑とか、いかにもクリスマスって感じの包装紙じゃん」

男「バースデイケーキなのに、クリスマス用の包装紙を使うわけにもいかねえもんな」

妹「それに、あんたがなんでわざわざケーキ屋さんで注文したのかもわかった」

男「あの店、母さんの知り合いがやってる店でさ、かなりの我がままも聞いてくれるんだよ」

妹「やっぱりね。フルーツがこんなに載ったバースデイケーキなんて、普通のお店じゃ売ってないもん」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:57:03.34 ID:/jkM0a5uo<>
男「おまえ、フルーツ大好きだし。……それと、今日はもう一つサプライズを用意してあるんだ」

妹「ケーキ以外にもなにかあるの? あんたがあたしに告白するとかなら要らないけど」

男「ばーか、誰が告白なんかするかよ」

妹「だって、今日はあたしの誕生日でもあるけど、世間一般的にはクリスマス・イブなわけじゃん」

男「世の中の男が揃いも揃って、クリスマス・イブに告白するわけじゃねえんだよ」

妹「まあね。……じゃあ、サプライズってなんなの?」

男「ちょっと待ってな。クローゼットの中に隠しておいたんだ」

妹「……」

男「ほら、これやるよ。俺からおまえに、誕生日のプレゼント」

妹「えっ!? 嘘でしょ!? 本当に?」

男「なんだかわかるのか? ……そっか、手提げ袋のロゴを見ればわかっちまうか」

妹「あたしも雑誌とかネットでしか見たことない。本物は初めて見た」

男「開けてみな」

妹「……いいの?」

男「いいに決まってんじゃねえか。おまえへのプレゼントなんだから」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:58:28.97 ID:/jkM0a5uo<>
妹「なんか、すっごく緊張するんですけど」

男「俺、こういうの選ぶのってほんと苦手でさ、気に入ってもらえるといいんだけど」

妹「あ……。オープン ハート ペンダント……。なんだか、夢でも見てるみたい」

男「……どうやら、俺の選択は間違ってなかったみたいだな」

妹「ティファニーの18金イエローゴールド……。それもなんと、イエローダイヤモンドのセット!」

男「なんかおまえ、やけに詳しいじゃねえか。もしかして、知ってたのか?」

妹「ネットで見たの。あたしなんかに買えるようなものじゃないし、だから見てただけ」

男「俺も初めはネットで見つけたんだ。でもやっぱ買うんなら、専門店でちゃんと見て買おうと思って」

妹「いつだったか、あたしを置き去りにして、あんた一人で出掛けたことがあったもんね」

男「おまえと一緒に行っても良かったんだけど、なんか照れくさくて」

妹「あたし、あんたがずっと貯金してたの知ってる。……バイク、買おうとしてたんでしょ?」

男「自転車にしたからいいんだよ。自転車なら、おまえも乗れるし」

妹「あんたって、ほんと馬鹿だよね。……あたしなんかのために無理しちゃって」

男「たまにはいいもんだぜ。ちょっと背伸びしてみるのもな」

妹「なんか、もったいなくて着けられないよ……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 15:59:34.20 ID:/jkM0a5uo<>
男「おまえが着けてくれないと、俺が贈った意味がねえじゃねえか」

妹「じゃあこうしようよ。あんたがあたしに着けてよ」

男「お、俺がかよ!?」

妹「こういうのは、贈ってくれた人に着けてもらった方が、なんかいいような気がする」

男「わかった。おまえがそこまで言うなら、俺が着けてやる」

妹「なんだか、ドキドキして来ちゃった」

男「……」

妹「……」

男「こんなもんでいいのか?」

妹「かなり恥ずかしいんですけど」

男「俺も買うときは、メチャクチャ恥ずかしかったよ」

妹「どう? 似合ってる?」

男「いいんじゃねえのかな。……買うときの恥ずかしさも、なんか報われるよ」

妹「もう一つだけ、あんたにお願いしてもいい?」

男「こうなったらなんでも聞いてやるよ。写メでも撮れってか?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:00:36.85 ID:/jkM0a5uo<>
妹「……あたしにキスして」

男「いっ、いくらなんでもそういうのは、冗談としてもどうかと……」

妹「なんでも聞いてやるって言ったもん」

男「そんなこと言って、うっそぴょ〜んとか……」

妹「クリスマス・イヴなのにさ、あたし一文無しだから、あんたへのプレゼントが用意出来なかった」

男「今日はおまえの誕生日なんだし、俺へのプレゼントなんか本当にいいんだって」

妹「ううん。あたしのファーストキスは、どうしてもあんたに受け取って欲しいの」

男「ファーストキス……」

妹「あんたも有りがたいと思って受け取りなさいよね」

男「あとになって返せって言われても、返せるような代物じゃねえぞ」

妹「ちょっと待って。あたしにキスする前に、一つだけ教えて」

男「なにを?」

妹「あんたのファーストキスって、いつだったの?」

男「これからだよ」

妹「……お願い。あたしにキスして」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:02:09.91 ID:/jkM0a5uo<>
聖夜! 聖夜! 聖夜!――

男「流しに置いといてくれりゃ、ケーキの皿くらい俺が朝飯作る前に洗ってやったのに」

妹「お手洗いにも行きたかったし、ついでだからいいの」

男「エアコン消しちまったし、寒かったろ?」

妹「ううん、あんまり感じなかった。……なんでなんだろ」

男「なんでなんだろうな」

妹「あんたのせいだったりしてね」

男「ばーか」

妹「もう少しだけ、話しててもいい? 眠くなったらいつでも寝ちゃってもいいから」

男「ああ。俺は構わねえけど」

妹「ありがと」

男「――って、なんで当然のように俺の布団に潜り込んで来んだよ!?」

妹「あれ? なんでって、あたしのために布団を温めておいてくれたんじゃないの?」

男「……もういいよ。おまえには負けた」

妹「あたしさ、冬の間はベッドで寝るのやめて、この布団でずっと寝ようかしら」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:02:50.93 ID:/jkM0a5uo<>
男「……で、話ってなんなんだよ?」

妹「そっか、話しててもいいかって、あたしが言ったんだもんね」

男「……」

妹「あたしさ、ほんとのこと言うとね、ずっと前にもペンダントを着けたことがあるの」

男「やっぱ、誰かにプレゼントでもされたのか?」

妹「ううん、そうじゃなくて、もちろん自分で買ったの。……あれ? 気になるの?」

男「なんだよ」

妹「なんでもない。中一の夏休みにね、原宿へ遊びに行ったんだけど、そのとき買ったの」

男「原宿っておまえ、……まあ、いいけどさ」

妹「お父さんとお母さんが離婚したときの話は、前にもあんたにしたでしょ」

男「離婚したのって、おまえが中学生になってすぐだったんだよな」

妹「うん。あの頃のあたしってさ、自分で言うのもなんだけど、子供だったんだよね」

男「今でもな」

妹「ふん。……お父さんもお母さんも自分勝手、だったらあたしだって自分勝手にしてやる、みたいな」

男「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:03:44.27 ID:/jkM0a5uo<>
妹「お父さんとの二人暮らしが始まっても、あたし掃除も洗濯も、家事は全部お父さんに押し付けてたの」

男「そうだったみたいだな」

妹「まあね」

男「親父さん、怒ったりしなかったのか?」

妹「うん。あたしは気にしてなかったけど、お母さんと離婚したっていう負い目みたいなのがあったのかも」

男「親父さんと暮らすことは、おまえ自身が決めたんだろ?」

妹「うん。でもさ、やっぱお父さんとしては、いろいろと思うところがあったんじゃないのかな」

男「かもな」

妹「夏休みになってさ、一人で家にいても退屈でしょうがなくてさ」

男「宿題だってあるし、他にも家のこととか、やることならいっぱいあったろうが」

妹「ほんとはそうなんだけど、あのときはそうは思わなかったのよね」

男「みんな自分勝手……か」

妹「友だち誘って遊びに行こうと思ったんだけど、なんか誘うのも面倒になっちゃって……」

男「それで結局、一人で原宿まで行ったわけか」

妹「まあね。怖いもの知らず、みたいな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:04:27.00 ID:/jkM0a5uo<>
男「おまえみたいなのが一人で原宿なんか行ったら、ろくなことになんねえだろうが」

妹「そう、あんたの言うとおり、ろくなことになんなかった」

男「……」

妹「原宿駅で降りたのはいいんだけど、有名な竹下通りがどこなのかわからないのよ」

男「竹下口で降りて目の前の道路を渡れば、そこが竹下通りだよ」

妹「え!? あんた知ってるんだ?」

男「俺が知ってちゃ悪いかよ」

妹「あたしなんか駅にあった案内図見て、なんだこんなに近かったんだって初めて知ったの」

男「……」

妹「でも竹下通りに行ったのはいいんだけど、なんとなくつまんなくてさ、それから表参道へ行ったの」

男「なんか、ほとんど田舎もん丸出しだな」

妹「今考えるとほんとそうだよね。それで、表参道を歩いてたらファンシーショップがあって……」

男「その店で買ったのか?」

妹「うん。とっても可愛い金色のペンダントがワゴンで売っててさ、思わず買っちゃった」

男「女って、そういうの好きだもんな」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:05:20.03 ID:/jkM0a5uo<>
妹「まあね。お店の人が着けてみたらって言うから、あたし、その場で着けてみたの」

男「……」

妹「そのあとブラブラしながら洋服屋さんとか見てたりしたんだけどさ、やっぱ一人じゃね……」

男「……」

妹「でね、ゲーセンに行ってみたの。別にゲームがしたかったわけじゃないんだけど、そのときはなんとなく」

男「……」

妹「UFOキャッチャーがいっぱいあってさ、ていうかあたし、それくらいしか出来ないし」

男「俺もおまえがゲームやってるとこなんか、見たことねえもんな」

妹「まあね。それでね、一人で遊んでたら、二人組みの男の子があたしに声を掛けて来たの」

男「ナンパかよ」

妹「うん。あたしがなかなか取れないの見てたらしくてさ、どれが欲しいの? とか訊いて来たのよ」

男「……なんか、ありがちなパターンだな」

妹「ほんと。あたしもちょっと背伸びしてみたくて、あれが欲しいとか気軽に言っちゃってさ」

男「……」

妹「なんか慣れたもんでさ、あたしが指差したのを次から次へと簡単に取ってくれたの」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:06:40.92 ID:/jkM0a5uo<>
男「……」

妹「そのうちの一人がカラオケ行こうとか言い出してさ、あたしも暇だったし……」

男「行ったのか?」

妹「うん。渋谷駅の近くに大きなカラオケ屋さんがあって、あたしも誘われるまま付いて行ったの」

男「……」

妹「部屋に入って、なに歌おうかなんて曲選んでたらさ、店員さんが飲み物を運んで来て」

男「……」

妹「あたし頼んでないよって言ったんだけど、男の子がおごりだからって言って」

男「飲んだのか?」

妹「うん。……あたし、初めはジュースかなって思って飲んだんだけど、途中でお酒だってわかった」

男「……だろうな」

妹「ナンパされて、カラオケ屋さんまでノコノコ付いてっちゃってさ、お酒まで飲まされて……」

男「……」

妹「男の子たちがなに考えてるかなんて、あたしにだってわかったもん」

男「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:08:01.15 ID:/jkM0a5uo<>
妹「あたし、このままじゃ絶対にヤバイって思ったの。こっから早く逃げなきゃって」

男「……」

妹「男の子たちに疑われないように、お手洗い行って来るとか適当なこと言いながら部屋を出たら……」

男「……」

妹「ちょうど帰ろうとしてた女の子のグループがいたんで、あたしも紛れて一緒にお店を出たの」

男「……」

妹「振り向いたら捕まっちゃうみたいな気がしてさ、怖くて怖くて仕方がなかった」

男「……」

妹「渋谷駅から電車に飛び乗ってさ……。乗換えだってあったのに、よく無事に家まで帰って来れたよね」

男「……」

妹「家に着いたときにはもう真っ暗でさ、マンションを見上げたら、あたしんちの窓に明かりがついてて……」

男「……」

妹「別に門限があったわけじゃないんだけど、やっぱ、なんとなく気まずいじゃん」

男「まあな」

妹「玄関のドアを開けてもさ、なんとなく空気が重いような気がして……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:09:27.27 ID:/jkM0a5uo<>
男「……」

妹「そうだ、このまま自分の部屋へ行っちゃおうって思ったの。……でも、そのときにね」

男「……」

妹「キッチンからお父さんの声がして、……『晩ごはん出来てるから、手を洗っておいで』って」

男「……」

妹「絶対に怒られるって思ったの。それでも手を洗ってキッチンへ行ったら、お父さん……」

男「怒られたのか?」

妹「ううん。……『いつもスーパーのお惣菜ばっかりでごめんな』って言ったの」

男「……」

妹「『おまえの好きなもんが作れるように、お父さんも頑張るから』って……」

男「……」

妹「あたしってさ、馬鹿なんだよ。お父さんがどんなに大変な思いしてたかなんて、考えもしなかったもん」

男「……」

妹「なんにも言えなかった……。泣いちゃいけないって思ったんだけど、やっぱ泣いちゃった」

男「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:13:04.74 ID:/jkM0a5uo<>
妹「それでね、次の日からは、あたしが晩ごはんの仕度をすることにしたの。もちろん掃除も洗濯もね」

男「おまえが晩飯を作るようになった切っ掛けは、そういうことだったんだ」

妹「まあね。でもさ、そうは言ってもあたしだって料理は苦手だし、お惣菜ばっかなんだけどね」

男「……なんかおまえの親父さん、おまえにはもったいねえ気がしてきた」

妹「だから前にもあんたに言ったじゃん。あたし、お父さんのことが大好きなんだって」

男「俺がもし、おまえの親父さんだったら……どうしてたかな」

妹「もしあんたがお父さんだったら、あんたはあたしの我がままにいつも泣いてると思う」

男「今だって、俺はおまえに毎日泣かされてんじゃねえか」

妹「ふーん。でもね、あたしが本気で我がまま言ったら、こんなもんじゃ済まないから」

男「どういう意味だよ」

妹「あんたも覚悟しておきなさいってこと」

男「ところでさ、そのときのペンダント、今も持ってるのか?」

妹「ハサミで切り刻んで、おもいっきり捨ててやったわよ。おかげでハサミも捨てることになったけど」

男「おまえらしいっていうか、でもそれで良かったんだろうな」

妹「もし、あのとき……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:14:37.86 ID:/jkM0a5uo<>
男「どうしたよ?」

妹「もしあのとき、あたしが馬鹿な真似しちゃってたら……」

男「……」

妹「あんたから今日ペンダントを贈られても……あたしには、受け取る資格がなかった、ってね」

男「本当にそう思うのか?」

妹「だってそうじゃん。そんな軽薄な女の子に、あんたもあんな高価な物を贈ったりしたくないでしょ?」

男「それでも俺は、今日のこの日に、おまえにあのペンダントを贈ったと思う」

妹「なんで? どうしてそう思うの?」

男「なんでって、俺がそうしたいと思うからに決まってるじゃねえか」

妹「……ふーん。なんだ、そういうことなのね」

男「なんだよ。急に態度がでかくなったじゃねえか」

妹「別に……。ま、こういう場合、先に口に出して言った方が負けってことよね」

男「おまえがなに言ってんのか、俺には全然わかんねえよ」

妹「意地の張り合いなら、あたしだって負けないもん」

男「わけのわかんねえこと言ってねえで、そろそろ寝た方がいいんじゃねえのか」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:15:45.07 ID:/jkM0a5uo<>
妹「ねえ、クラスの中にさ、彼氏とか彼女がいる人ってどのくらいいるのかなあ」

男「急に話を変えやがって、なんなんだよ」

妹「別にいいじゃん。その人たちってさ、もうキスとかしちゃってんのかなあ」

男「そのくらいはしてんじゃねえのか。早いヤツなんか、中学生のうちに経験済みだろうし」

妹「でもさ、ファーストキスって、なんか特別な感じがするじゃん。なんたって一生に一度だもん」

男「まあ……特別といえば、特別かもな」

妹「キスしちゃった後って、みんなどんなこと思うんだろ」

男「好きなヤツとしたんなら、やっぱ、普通は嬉しいとか思うんじゃねえのかな」

妹「思うのかなあ」

男「多分、そうじゃねえかと……」

妹「だったら、あたしは普通なんだね。……あんたは?」

男「俺は……。俺も普通だよ」

妹「そうなんだ。……なんか、安心した」

男「……」

妹「お父さんたち、もう寝ちゃったかなあ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:17:38.02 ID:/jkM0a5uo<>
男「明日は仕事なんだし、もう寝てんじゃねえのかな」

妹「……なんか、肩のあたりがスースーするんですけど。寒くない?」

男「一つの布団に無理やり二人で寝てんだし、隙間が出来ちまうのはしょうがねえよ」

妹「じゃあさ、あたしのことは抱き枕かなんかだと思って……。ね、お願い」

男「そういうことなら御守りを……ってわけにもいかねえな」

妹「……」

男「なんだよ、なんでそこで黙り込むんだよ。冗談に決まってんだろうが」

妹「あたし、あんたとキスしたからって、それで身体まで許したわけじゃないもん」

男「そんなことわかってるって。でもな……」

妹「なによ」

男「そういう台詞は、俺の身体にしがみ付いたまま言う台詞じゃねえだろっての」

妹「寒いんだから仕方ないじゃん」

男「おまえ、さっき自分から抱き枕になるって言わなかったか?」

妹「あたしが抱き枕になるのは、やっぱどう考えても危険だからやめたの」

男「じゃあ、俺が抱き枕ってことかよ……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2012/12/23(日) 16:19:17.70 ID:/jkM0a5uo<>
本日の更新はここまでです。二週間も間を空けてしまい申し訳ありません
次回で完結となりますが、ここまでお付き合いくださってありがとうございました

最終回で二人の関係に進展はあるのか、親父さんは結局登場しないまま終わるのか
それとも、すべては母の夢オチだったというしょうもない終わり方をするのか……
期待せずにお待ちください(年内に更新……できますように) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 16:19:56.90 ID:i4Ua0yWao<> 乙
次で終わりか <> アセロラ<>sage<>2012/12/23(日) 17:02:27.82 ID:Ohz70n/Q0<> おい・・・
まさか開通式終わってるとか言わないよな?
あと>>1がんばれ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 17:10:05.50 ID:TKZGFWs1o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 20:34:18.54 ID:qzZw70m60<> 乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 22:00:30.41 ID:9S5Aum7Xo<> おつったー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/01(火) 01:31:50.78 ID:a5QEfLHr0<> なお無理だったもよう
<>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:17:56.16 ID:nqbxkIWZo<>
大晦日――

妹「なんだ、部屋に戻ってたんだ。あたし、全然知らなかった」

男「もうすぐ日付も変わるし、テレビで除夜の鐘を聞いても仕方がねえっていうか」

妹「それは言えるかも」

男「そんなことより、おせち料理の方はどうよ」

妹「うん、なんとかね」

男「母さんが手作りにこだわるもんだから、おまえも大変だったろ」

妹「ううん、そんなことない。あたしも手伝ってて楽しかったもん」

男「死んだ婆ちゃんの言い付けでさ、おせち料理は手作りじゃなきゃだめなんだってよ」

妹「お婆ちゃん?」

男「母さんのお母さんだよ。亡くなったのは二年前だから、まだそんな経っちゃいねえけど」

妹「あんたのお母さんも、ずっとそれを守ってるっていうこと?」

男「まあな。おせち料理は特別なんだって、いつだったか、母さんがそう言ってたよ」

妹「おせち料理が特別っていうのは、あたしにもわかるような気がする」

男「そっか」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:18:38.35 ID:nqbxkIWZo<>
妹「でもなんで……。あんたが手伝った方が良かったんじゃないの?」

男「なんで母さんが、おまえに手伝わせたのか不思議なのか?」

妹「だってさ、あんただって知ってるじゃん。あたしが料理苦手だってこと」

男「おせち料理だからだよ」

妹「おせち料理だから……ってどういう意味?」

男「それよりさ、味見もしたんだろ? なんか気付かなかったか?」

妹「あ、うん。なんていうか、あんたのお母さんがいつも作るものより、味がちょっとだけ……」

男「煮物は少し味が濃い目で、全体的にいつもより甘く感じたんじゃねえのか?」

妹「そ、そうなの。やっぱそうだったんだ」

男「母さん、婆ちゃんから教わった味を今でもずっと守ってるんだよ」

妹「お婆ちゃんの味……」

男「そういうこと。だから俺が手伝おうとすると、母さんマジで怒るんだ」

妹「でもさ、そんな特別なものをなんであたしなんかに……」

男「母さんは、おまえに受け継いで欲しいんじゃねえかな。娘として、おまえに」

妹「……」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:19:10.37 ID:nqbxkIWZo<>
男「どうした? いやなのか?」

妹「ううん、そうじゃないの。なんかさ、家族って、やっぱいいなあとか思ってね」

男「……もうすぐ年が明けるな。ここでもちゃんと除夜の鐘が聞こえるじゃねえか」

妹「ねえ、あんたがここへ来たときにあたしとした約束、憶えてる?」

男「約束?」

妹「ほら、あんたが封印しちゃったアルバム。あんたのお父さんが写ってるんでしょ」

男「ああ、あのアルバムか……」

妹「今度あたしが見せてって言ったら、なにも言わずに見せてくれるって約束したじゃん」

男「別に構わねえけどさ、父さんの写真なんか見たって面白くもなんともねえだろ」

妹「あんたのお父さんにね、ご挨拶しておこうかと思って」

男「写真に向かって、『あけましておめでとうございます』とでも?」

妹「もちろんそれもあるんだけど、でもそれだけじゃないの」

男「父さんに、なんて言うつもりなんだよ」

妹「『初めまして、わたしが妹です』って、あんたのお父さんに伝えておきたいの」

男「……そっか」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:19:53.22 ID:nqbxkIWZo<>
元日の朝――

妹「なんだ、まだ寝てたの?」

男「もう起きるって。……ていうか、ついさっき寝たばっかなんだよ」

妹「お父さんと同じこと言っちゃって。ねえ、お父さんと夜中になにを話してたの?」

男「なんだ、気付いてたのか」

妹「初めはお手洗いに行ったのかと思ったんだけど、なかなか戻って来ないんだもん」

男「今年の日本経済の動向について……」

妹「ウソばっか。男同士でどうでもいいようなことで盛り上がってたんでしょ」

男「まあな。……さてと、そろそろ起きるとすっか」

妹「お母さんが、お雑煮に入れるお餅はいくつにするのかって」

男「俺は二つでいいよ。おせち料理もあるし、餅で腹いっぱいになっても……」

妹「どうかしたの?」

男「今おまえさ、……いや、なんでもない」

妹「さっさと顔洗って、みんな待ってるんだから早くしなさいよね」

男「わかってるって。そう急かさなくても今行くから」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:20:42.73 ID:nqbxkIWZo<>
妹「ほんと、うちの男どもときたら……」

男「なんかおまえさ、年が明けた途端に口うるさくなったな」

妹「馬鹿なこと言ってると、お雑煮食べさせないからね。それでもいいの?」

男「俺も顔洗ってすぐに行くから、先に行っててくれよ」

妹「二度寝なんかしないでよね。……それとさ」

男「それと?」

妹「……まだあんたのことは、兄貴って呼べない。……ごめん」

男「いいさ別に」

妹「ねえ、お雑煮食べたら、一緒に初詣に行こうよ」

男「俺は構わねえけど、でもどこに?」

妹「ほら、いつだったか一緒に行った神社があるじゃん」

男「あの神社ってさ、なにを祭ってあるのか知らねえけど、ご利益はあるのか?」

妹「それはどうなんだか。でもさ、神様に違いはないでしょ」

男「安産の神様でした、なんてことはねえんだろうな」

妹「それでもいいんじゃない」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:21:17.30 ID:nqbxkIWZo<>
初詣――

男「どうした? なんか、浮かない顔してっけど」

妹「別に……」

男「親父さんが今朝言ったこと、気にしてるんだろ?」

妹「まあね。……いつかそういう日が来るって、あたしも覚悟はしてたんだけど」

男「再婚するって決めたんだし、今まで婚姻届を出さなかった方が不自然だったんだよ」

妹「そうなんだけど……。なんかさ、このままでもいいんじゃないかって、思ったりもしたのよ」

男「正月休みが終わる前に、市役所に出しに行くって言ってたな」

妹「うん……」

男「これでやっと、二人は正式な夫婦ってわけだ」

妹「でもさ、初めから婚姻届を出す気があったんなら、なんで今まで出さなかったのかしら」

男「ま、いいじゃねえか。結局、出すことに変わりねえんだから」

妹「まさか、あんた知ってるの?」

男「なにを?」

妹「お父さんたちが、婚姻届を出すのを今まで引き延ばしてた理由」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:21:54.84 ID:nqbxkIWZo<>
男「……」

妹「やっぱ知ってるんだ」

男「そんなことよりさ、初詣って、本当にあの神社でいいのか?」

妹「え、だって近いし、地元じゃ結構有名なんだけど」

男「そういうことじゃなくて、もし知り合いにでも会ったらどうするつもりなんだよ」

妹「どうするつもりって、別にどうもしないよ」

男「俺たちが一緒のところを見られても、おまえは平気なんだな」

妹「あたしは平気。ていうか、あたしたちが一緒にいるとこなんか、もうとっくに見られてるって」

男「そうなのか?」

妹「知らないのはあんただけ。あたしの友だちなんか、あたしたちが付き合ってると思ってるもん」

男「そうか、そういうわけだったのか」

妹「なにが?」

男「いや、クラスの女子がさ、俺を見てなんかニヤニヤしてたのはそういうわけなのかって」

妹「あんたも嬉しいでしょ。天にも昇りたい気分なんじゃないの?」

男「なんで俺が天にも昇る気分になるんだよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:22:45.65 ID:nqbxkIWZo<>
妹「だってこのあたしが、選りにもよってあんたの彼女だなんて思われてんだもん」

男「それで俺が天に昇っちまうのか」

妹「あたしの言ってること、なんか間違ってる?」

男「その言い方だと、俺が一方的におまえに想いを寄せてるように聞こえるじゃねえか」

妹「だってそうじゃん。クリスマスイブのときだって、あたしにプレゼントくれたし、それに……」

男「どうもさっきから変だと思ってたんだけどさ、なんかおまえ、苛立ってんだろ」

妹「別に苛立ってるわけじゃないけど、なんとなく……世の中って思いどおりにはいかないなって」

男「案外思いどおりになるもんさ。信念を持って、ぶち当たってみるんだよ」

妹「その勇気があたしにはね……。さっき、知り合いにあったらどうするって訊いたよね」

男「おまえは、平気なんだろ」

妹「うん。……あたし、正直に言おうと思うんだ」

男「なにを?」

妹「あたしとあんたは付き合ってなんかない。親同士が再婚するんで、兄妹になるんだって」

男「そのことなんだけどさ、俺、おまえと兄妹になるのやめたんだ」

妹「なんだ、やめたんだ――って、えっ!? どういうこと!?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:24:00.79 ID:nqbxkIWZo<>
男「親父さんとも話し合って、養子縁組はしないってことに決めたんだよ」

妹「だから、それってどういうことなの? ちゃんと説明してよ!」

男「俺が夜中に部屋を抜け出したの、おまえも気付いてたんだろ?」

妹「うん。あたし、てっきりお手洗いでも行ったのかと思ったんだけど……」

男「昨日の晩、親父さんと一緒にテレビ見てたときに言われたんだよ」

妹「養子縁組のこと?」

男「もちろんそれもある。でもさ、親父さんが、もうケリを付けてもいいんじゃないかって」

妹「ケリを付けるって、決めろっていうことだよね」

男「まあそういうことだな。だから結論として、養子縁組はしない」

妹「お父さん、怒ったりしなかった?」

男「大笑いしてたよ。俺がきっとそう言うだろうと思ってたって。その代わりに条件は出されたけどな」

妹「……それじゃあ、あんたはこれからどうするの? 家から出て行くつもり?」

男「なんでそうなるんだよ」

妹「だって養子縁組しなかったら、あんたは……あれ? 別に問題ないのか」

男「母さんが親父さんの籍に入っても、俺は今までどおりだよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:24:56.29 ID:nqbxkIWZo<>
妹「じゃあ、これからも一緒に暮らせるの?」

男「まあな。それが親父さんの出した一つ目の条件でもあるんだ」

妹「一つ目っていうことは、他にも条件があるっていうことよね」

男「二つ目の条件は、ちゃんと進学すること。学費は心配するなって言われた」

妹「なんかあんたに都合のいい条件ばっかだけど、良かったよね」

男「そうとばかりも言ってらんねえんだよ」

妹「他にもまだ条件があるの?」

男「おまえさ、キッチンの食器棚の中に、ウイスキーのボトルが入ってるの知ってるだろ?」

妹「お父さんがずっと前に買って来て、入れっぱなしになってるやつでしょ」

男「なんで親父さんがあのウイスキー買って来たのか、おまえ知ってるのか?」

妹「その頃やってたウイスキーのCMが気に入っちゃってさ、それで買って来たと思ったけど」

男「どんなCMだったか、憶えてるか?」

妹「娘が彼氏を家に連れて来て、初めてお父さんに会わせるっていう内容だったと思う」

男「それから?」

妹「お父さん役の俳優さんがとっても渋くって」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:26:38.35 ID:nqbxkIWZo<>
男「そういうことじゃなくてさ」

妹「彼氏が結婚の了承をもらおうとすると、お父さんがすっと立ち上がって、部屋を出て行っちゃうの」

男「そのあとは?」

妹「娘が慌てて追いかけると、お父さんは台所いて、ウイスキーのグラスを手にして娘に言うのよ」

男「なんて?」

妹「『残念だな。やなヤツなら一発殴れたのにな』だったかな」

男「そのCMなら俺も見たことあるけど、おまえもよく憶えてるじゃねえか」

妹「だってさ、あのCMが流れてた頃、お父さんよく言ってたもん」

男「親父さん、なんて言ってた?」

妹「いつかあたしが彼氏を連れて来たら、絶対に自分も同じことするんだって」

男「親父さんも案外可愛いとこあるよな」

妹「そういうの可愛いって言うより、単なるミーハーって言うんじゃない?」

男「でもさ、親父さんの気持ちもわからないでもないよ」

妹「あんた、その年でさ、娘のいる父親の気持ちがわかるの?」

男「そういう意味で言ったんじゃねえよ。昨日、ていうか今日だけど、親父さんが俺に言ったんだよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:27:29.90 ID:nqbxkIWZo<>
妹「お父さん、なんて言ったの?」

男「娘の父親なんて寂しいもんだって。娘が結婚したら、父親としての自分の役目も終わるって」

妹「なんでそうなるの? あたしが結婚したって、お父さんはお父さんじゃん」

男「親父さんにしてみれば、大切に育てた娘を奪われるような気がするんじゃねえかな」

妹「ふーん。娘の父親ってさ、そんなふうに思うもんなのかなあ」

男「俺にもなんとなくわかるよ」

妹「やっぱ男同士だから?」

男「かもな。……ところでさ、おまえ、酒の肴って作ったことあるか?」

妹「お酒のおつまみのこと?」

男「親父さん、たまにだけど晩酌するじゃん。今は、母さんか俺が作ってるけどさ」

妹「今まではお父さんが自分で冷蔵庫を漁って、あるもんで済ませてたけど」

男「ということは、おまえは作ったことがないってことだな」

妹「まあね。ていうか、お酒に合うおつまみなんてわかんないし」

男「じゃあ、俺が作ることになるってわけか……」

妹「なんの話してんの?」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:30:32.20 ID:nqbxkIWZo<>
男「さっき話してたウイスキーのCM。あれがさ、親父さんが出した最後の条件なんだよ」

妹「……どういうこと?」

男「おまえもさ、親父さんに彼氏を紹介する日が来るわけだろ」

妹「そりゃあ、あたしにも彼氏が出来ればの話だけど。でも、いつになるかわかんないもん」

男「いや、まだ予定なんだけどさ、取り敢えず決まってんだ」

妹「なんでよ!? なんで決まってんのよ!?」

男「だから、取り敢えずって言ってるじゃねえか」

妹「いつ誰が決めたのよ!?」

男「おまえが寝てる間に、俺と親父さんで決めたんだよ」

妹「あんたがなに言ってんだか、あたし、全然わかんないんですけど」

男「俺が大学を卒業して、ちゃんと就職出来たら、親父さんに挨拶に行くことになったんだ」

妹「それってさ、話の流れからいって、就職出来たっていう挨拶なんかじゃないよね」

男「とにかく、親父さんの出した条件はこの三つなんだよ」

妹「それで、あんたは三つとも条件を飲んだの?」

男「一つ目と二つ目の条件は俺にとって願ってもないことだし、文句の付けようがねえ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:31:53.28 ID:nqbxkIWZo<>
妹「問題は、三つ目の条件っていうわけね」

男「まあな。こればっかは、俺の独断で決めるわけにもいかねえし……」

妹「そうでしょうとも。あたしだって、寝てる間に勝手に決められて堪るもんですかって」

男「だよな。……俺もそう言ったんだけどさ、男なら当たって砕けろって、親父さんが言うんだよ」

妹「それで、あんたはどうするつもりなの? ていうか、あたしにどうして欲しいわけ?」

男「俺としてはその日が来たら、おまえに酒の肴をだな……」

妹「あんたってさ、はっきり言って馬鹿でしょ」

男「なんでだよ、俺は真面目に言ってるつもりなんだが」

妹「お酒の肴がどうとかじゃなくて、もっとその前に言うべきことがあるんじゃないの?」

男「なにを?」

妹「たとえばだけど、……『おまえが好きだ』とか、『俺と付き合ってくれ』とか、いろいろあるでしょ」

男「ごめん、よく聞こえなかった。もう一度言ってもらえねえかな」

妹「こんな大事なときに聞こえなかったって……」

男「すまんな」

妹「ちゃんと聞いてなさいよね。『わたしと付き合ってください……』、こんな感じよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:33:28.03 ID:nqbxkIWZo<>
男「おまえ、今なんて言った? 『わたしと付き合ってください』って、確かに言ったよな」

妹「え? なに!?」

男「こういうのは、先に口に出した方が負けなんだろ」

妹「……」

男「クリスマスイブのとき、おまえがそう言ったんだぞ」

妹「あたし、そんなこと言った憶えはないんですけど。ていうか、それがどうかしたの?」

男「確かに言ったよ。俺はちゃんと憶えてる」

妹「わかったわよ! 作ればいいんでしょ。……お酒の肴くらい、あたしが作ってあげるわよ」

男「そっか、これで親父さんの出した条件が三つともクリアになるわけだ」

妹「でもなんでお父さんは、あんたにそんな条件を出したのかしら」

男「親父さんはわかってたんだよ。俺がおまえのことを好きだってこと」

妹「今なんて言ったの? あたしのことが好きだって、今はっきり口に出して言ったよね」

男「そうさ、同じクラスになったときから、俺はずっとおまえのことが好きだった」

妹「なんで今まで言ってくれなかったの?」

男「母さんの再婚相手の連れ子がおまえだって知って、言えなくなっちまったんだよ」 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:35:10.23 ID:nqbxkIWZo<>
妹「あんたってさ、結構ドジっていうか、早とちりのとこあるよね」

男「どういう意味だよ」

妹「本当はあたし、こう言おうとしたのよ。……『わたしと付き合ってください、初詣に』ってね」

男「そんなの後出しジャンケンじゃねえかよ」

妹「いいんだって、そんなことどうでも。結局は、あんたの負けってことなんだから」

男「なにがいいんだよ。どっちが先に告白したかが重要なんだろうが」

妹「だって、どんな手を使ってでも、あんたに先に告白させなさいって言われたんだもん」

男「そんなこと、一体誰に言われたんだよ」

妹「お母さんに決まってるじゃん」


おしまい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 03:35:48.26 ID:vacqfIPFo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 03:36:03.10 ID:J4FJFvvro<> 乙 <>
◆Neko./AmS6<>saga<>2013/01/07(月) 03:37:20.12 ID:nqbxkIWZo<>
今日は七草。一応、お正月のうちに完結したということでご勘弁を
長い間お付き合い頂きましてありがとうございました。ていうか、もう誰もいなかったりして…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/07(月) 04:30:20.02 ID:l8wM0befP<> >>241

個人的には延長欲しいなー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/07(月) 05:30:25.20 ID:K1/ozI4I0<> 乙!
続編期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/07(月) 06:56:53.48 ID:q8edXntz0<> 1ちゃんおつやで〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 07:27:33.59 ID:wW+Ojakdo<> む!
クライマックスの途中で終わった(゚Д゚)
乙様です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 07:53:12.71 ID:WtBdZ7oIO<> ありがちだな
設定も過去に散々使われてるし終わり方もありきたりで評価出来るとこがない
これなら俺が代筆した方が面白くかけるわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 08:42:22.27 ID:9L63DCuLo<> おつ
ちょっと尻すぼみ感 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 08:47:21.89 ID:QGMb6GZ5o<> 乙!
続きも書いてくれると嬉しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 12:31:05.20 ID:QBvCmCbAO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 13:37:05.84 ID:Bjwoc2hXo<> すげー楽しかった。乙です。
プロローグ的なものが読みたいな(チラッチラッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 13:44:58.28 ID:Bjwoc2hXo<> エピローグだったon_ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 19:35:00.79 ID:Fynbbd0oo<> 面白かったよ〜 乙乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 20:12:03.00 ID:Gw9ZaH0K0<> 乙
続編期待
父親も母親も策士やったんか! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 19:10:22.63 ID:D39zh+wAO<> 乙。
てか、言う程酷いか?
ま、この流れなら、細かい描写とか
もうちょい欲しかった気はしなくもないけど。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/09(水) 00:01:22.76 ID:FKlidgjHo<> 乙
面白かった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/09(水) 01:00:31.08 ID:pYvM5N+v0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/09(水) 06:22:09.61 ID:Db64awkQo<> 乙
クラスメイトにからかわれる外伝とかもあると嬉しいな <>