◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 19:50:52.42 ID:6lzsUPkC0<>





第一章『契約なんてまどろっこしい!』









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<>魔王がいなくなったと思ったら死神が侵略しに来ました
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 20:02:38.81 ID:6lzsUPkC0<>
〜〜小型トラックの中〜〜

一台のトラックが、街中を走っていた

街中、といっても辺りに人は見当たらず、走っている車もこのトラック一台だった

ビルは全て崩れ落ち、辛うじて二階、三階程度の高さしか保っていなかった。誰が見ても街は崩壊していた

まるで映画のような、世界が終わってしまったかのような光景だった

そんな光景はトラックを運手するマッチョな男と助手席の男には最早日常の風景である


マッチョ「うふふふ♪久しぶりの外ね♪」

相棒「そうね〜☆も〜疲れちゃったわ。調査に4日、外に出る準備に3日、”ガード”の奴らに見つかったら
   ただじゃすまないってのに、もうひやひやしたわよ〜」

マッチョ「でもまぁ、いいんじゃない?こうして無事に外に出れたし、”商品”も手に入ったしね♪」


ちらりと荷物入れの中を見る

そこには猿轡をされ、手足も縛られた女がいた。女は睡眠薬によって眠っている

この女は今しがたこの二人が攫ったのである。二人は”人攫い”を生業としていた


相棒「さて、この子いくらで売れるかしら☆」

マッチョ「そりゃ40万はかたいわね♪でも、今回は結構は苦労したし、60万くらいでもいいわね♪」

……ブロロロロ


女がいくらで売れるか考えていると、助手席の男の耳に別の車の音が入ってくる。おかしい、さっきまでは後ろに車なんて

なかったはず、そう思って男はバックミラーを見る


相棒「…ねぇ」

マッチョ「何?」

相棒「後ろ…」

マッチョ「?」


マッチョがバックミラーを見てみると、写っていたのは一台の装甲車だった
<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 20:07:26.27 ID:6lzsUPkC0<>
マッチョ「な、なによアレ!まさか”ガード”にばれたの!」

相棒「有り得ないわよ!だってあの装甲車、”魔王戦争”以前の旧式よ!!」

マッチョ「じゃ、じゃあまさか…横取り!?」


二人は慌て、再びバックミラーを見ると

装甲車の運転席側の窓から


マッチョ「…ロケット」

相棒「…ラン」


マ相「「チャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」


バシュウウウウ

ずどおおおおおおおおん!!

〜〜〜〜〜〜

ロケットランチャーの爆風によってトラックは横転していた

そのの近くに装甲車が停車し、二人の人物が降りてくる


男「下僕一号、どうだ、爆発しそうか?」

メイド「いいえ、ロケットランチャーは地面に命中したためトラックの損傷は軽度、燃料漏れもありませんので
    爆発の危険性は限りなく低いです」


一人はジャケットを羽織った三白眼の男、背中には男の身長ほどにもある大鎌を背負っていた

もう一人はメイド服に猫耳カチューシャを付けた無表情な幼女だった


男「そうか…なら中にいる”新しい下僕”も無事だな」

メイド「はい」


〜〜トラック・荷物入れの中〜〜

女(〜〜〜っ…いったぁ)

女(何なのよ…ってここどこ?)


眠らされていた女はトラックの横転で頭をぶつけ目を覚ましていた

見たところトラックの荷物入れの中だという事が分かった……今は横転しているみたいだが


女(なんで私………ってそうだ!確かコンビニの帰りに急に誰かに眠らされて……)

女(…え?もしかして私…人攫いに)


女ニュースで見た事があった、確か”壁の外”に連れ出されて奴隷として売られるとかなんとか


女(だったら早く出ないと……あ〜〜もうっ!何よこれ!口とか手とか縛られてるじゃない!!)

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 20:22:32.01 ID:6lzsUPkC0<>

バカン!


誰かが荷物入れの扉を開いた

まさかこのトラックの運転手だろうかと見てみると


男「おぉ〜やっぱ生きてんな。下僕一号!何か縛られてるっぽい!外せ!」


違った、目つきの悪いいかにも悪者っぽそうに大鎌を背負っていたが、言動を聞く限り


女(?…何こいつ…私を攫った奴じゃない?)

メイド「失礼します」

女「?」


荷物入れから下ろされると、メイド服に猫耳カチューシャの幼女に猿轡を外され、手足の縄も解かれる


女「え…えっと、ありが」



男「僕と契約して、下僕になってよ!」ニパー



女「は???」

男「え?」

女「え?」

男「……」

女「……」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 20:24:03.97 ID:6lzsUPkC0<> 訂正>>3
女はニュースで見た事があった


晩飯です <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 21:01:16.97 ID:6lzsUPkC0<>
再開します
<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 21:04:51.59 ID:6lzsUPkC0<>

男「そんじゃあいくぞ下僕一号、二号」

メイド「はいマスター」

女「ちょっと待った!!」

男「ちっ…なんだよ」

女「助けてくれてありがとう…でも、一応聞きたいんだけど、下僕って」

男「お前以外に誰がいんだよ?あ〜、言っとくけどこいつが一号だ。それは譲れねぇぞ」

メイド「…」

女「へーそっか〜、二号か〜」

女「何て言うと思ったか!!何勝手に人を下僕にしてんのよ!はい、なりますってなると思ってんの!?」

男「なる」

女「きっぱり言うな!まず私、契約なんかしてないじゃない!」

男「いや、あれは俺の意思次第だからお前の了承とか関係ないし」

女「白いほうの営業よりタチ悪いじゃない!」

男「え…何…俺に助けられといて下僕にならないとか…うわ〜最近の奴って恩を仇で返すのかよ」

女「違うっ!!アンタが恩着せがましいだけよ!」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 21:11:52.84 ID:6lzsUPkC0<>

男「じゃあどうしたいんだよお前」

女「家に帰りたいのよ!」

男「そーかそーか、じゃ帰れ。ただし住所教えろ、必要な時に呼び出すから」

女「待てい!アンタの中で私を下僕にしたままじゃない!」

男「うるせえな〜。俺がお前を下僕にした、つまり俺の所有物になった訳だ、これはもう決定事項だ。お前に拒否権はない
  つ〜か俺がここまで譲歩してんのにその態度は何だ?敬語使え敬語、主人だぞ俺は」

女→ユイ「嫌!だれがアンタの下僕になるもんですか!大体、私には”ユイ”っていう立派な名前が」

男「あ〜もうメンドくせぇな。おい下僕一号」

メイド「はい」

男「こいつ運べ」


こくり、と頷くとメイドはスプレー缶をスカートの下から取り出しユイに近づく


ユイ「…え?ちょ、ま」

メイド「…」

プシュー

ユイ「あ…」

ドサッ

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 21:15:35.04 ID:6lzsUPkC0<>

ユイ「…うっ」パチ


意識を取り戻すと、ユイは助手席に座っていて、隣ではメイドが運転していた


ユイ「え、ちょ!」ガバ

男「よう、やっと起きたか」


後ろを見ると、後部座席で腕を組んで偉そうに座っている男がいた


男「安心しろ、今から俺の秘密基地に向かうところだ」

ユイ「何をどう安心しろってのよ!今度はアンタが私を攫ってるじゃない!」

男「人聞きの悪いことを言うな。俺は、お前を、下僕にしたんだ…さっきも言ったぞ」


記憶力悪いな〜とこめかみをかきながら言う


ユイ「降ろしなさい!」

男「降ろしてもかまわんが、その後どうすんだ?眠ってたのに帰る道を覚えてるなんて言うわけねぇよな?
  まぁ、お前が家に帰ろうと健気に歩いている間に、今度は違う奴がお前を攫うか”魔物”にパックリだろうがな」

ユイ「くっ…」

男「諦めろ、お前一人じゃ家に帰れない。攫われて”壁の外(アウトウォール)”に来ちまった時点でそう決まってんだよ」

ユイ「………」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 21:23:15.43 ID:6lzsUPkC0<>

壁の外、通称アウトウォール

それはニホンの首都、トーキョーの以外の場所を意味する

5年前、魔法と科学が融合したこの世界でトップに君臨していたこの国は一人の人物によって崩壊した

その名は”魔王”

自らをそう称し、ニホンの全てのテレビ、パソコン、携帯電話を通じて宣戦布告したその人物は

当初はたちの悪いハッカーが己の技術を見せたさに電波ジャックしたのだとか、テロリストが動き始めた等と言われ、だれも恐れはしなかった

だが、それが大きな間違いだったと気づいたのはその一ヵ月後だった

魔王はわずか一ヶ月でニホンの68パーセントを占領したのだ

魔王が手を振るうととその土地は焦土と化し、魔王が叫ぶと大地が揺れ、魔王の影からは泉のごとく魔物が湧き出た

魔王を討伐せんと、軍隊が動き出したが、どんな魔法もどんな兵機も魔王を傷つけることは叶わなかった

宣戦布告から一年後、最後に残った首都であるトーキョーで最終決戦が行われようとしていたその時


魔王は突然姿を消した


これが魔王戦争と呼ばれる一人と一国の戦争の摩訶不思議な結末であった

何故消えたのか、その理由は今だ誰も知りえていない

ただ、魔王が消え5年たつ今となっても、ニホンは首都を再び正常に起動させただけで奪われた土地を取り戻そうとはしなかった

第一の理由としては”魔物”の存在

魔王の影より這い出た異形の怪物たちは魔王が消えても存在し続け、ニホン再興の妨げとなっているのだ


第二に”新たなる魔王”の存在

魔王に支配された土地には必ずしも人間がいなかった訳ではない。わずかに生き残った人間がいたのだ

魔王のによって家を、家族を、文化を破壊され、魔物の巣窟となっても生き残った人間がいた

その人間たちが、魔法でも科学でもない”異能の力”を手にし始めたのだ

首都にいる者たちは彼らを”新たな魔王”と呼び、首都を巨大な壁で囲い侵入を阻んでいる

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 21:34:39.84 ID:6lzsUPkC0<>

壁の外にいるものたちは無法地帯となった場所で暮らしている

しかし、魔王によって崩壊した土地には物資が不足していた。故にある者は土を耕し、ある者は略奪し、ある者は壁の中にいる者達と

繋がり、物資を調達し商売を始めた。電気もガスも水道も、首都にあるパイプラインから別のラインをつなぎ調達して(盗んで)いた

人攫いもまたその物資調達の手段の一つである。壁の外にいる者達が中にいるものを攫い奴隷として働かせたり、あるいは

中にいる者達が外にいる者たちに売りさばき、見返りに首都内の自らの権力を伸ばすために力を借りたり、金を手に入れるのだ


ユイもまた外の者達によってアウトウォールに連れ出されてしまった被害者の一人なのである


女(これじゃあ状況が何も変わってないじゃない)

男「つーかさ、何でそんなに帰りたがるわけ?」

女「家に帰りたいと思うなんて当たり前でしょ!」

男「でもお前、友達どころか…多分身内もいねぇだろ?」

女「……な」

男「お前を攫った奴らはこの辺じゃ結構名の知れた奴らでよ、壁の中に入るその腕だけじゃなく”商品”を
  選ぶのにも長けてたんだよ。壁の中にいる奴らを手当たりしだいテキトーにって訳じゃなく」

男「数日間身辺調査して、”消えても騒ぎになりにくい”もしくは”消えても誰も気づかない奴”を攫うんだよ」

女「………」

男「……図星だったみてーだな。だが、良かったじゃねぇか」

女「!」
<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 21:48:25.92 ID:6lzsUPkC0<>

女「……………何がよ」

男「家族も友達もいねー、まして心配する奴らもいないつまんない人生だったんだろ?だったら、俺と一緒にくればいい
  そうすりゃあこれからは面白い人生を」

ユイ「ふざけないでよ!!」


ユイは男の言葉を遮って睨みつける


ユイ「知った風な口きかないで!人を勝手に下僕呼ばわりするアンタにとっちゃそりゃアウトウォールは気楽でしょうけど
   私はアウトウォールが大っ嫌いなのよ!」

男「……ほう」

ユイ「私は首都にいるときに故郷が滅茶苦茶にされて家族も殺された!それを知った時私は親戚の家にいた
   私は家族の中で疎まれてた、邪魔者扱いされて、大好きだった場所を追い出されて
   私のことをなんとも思っちゃいない親戚の家に押し付けられて、ずっと寂しい想いをしてきた!!
   でも、いつか絶対に帰れるって信じてた、なのに…なのに魔王が全部ぶっ壊したのよ!!」

男「………」


ニュースで故郷の空撮映像を見たとき、何も残ってなかった

元々ビルだって建てられて無いような田舎だったが、それでも思い出が一杯詰まった場所だったのに

全てが壊れ果て、帰れる場所が無くなってしまったから

たった一人に全てを奪われたユイは涙を流すことは無かった

たった一人に壊れてしまう物なんかに期待した自分が悪いのだと、諦めた

だからあの場所で、首都で作ろうと考えた、絶対に壊れたりしない、裏切ることの無い場所を作り上げようとした

だというのに今度はそのチャンスすらも奪われた

今度は自分を攫ったあいつらに、そして今は、この男に!


ユイ「私を裏切った故郷なんて未練も無い…家族のことだってどうでもいい……」

ユイ「私は魔王が嫌い、魔王が踏み荒らした場所だって嫌い、そこに住んでるアンタたちだって、一人残らず大っ嫌い!!」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:01:28.14 ID:6lzsUPkC0<>

ユイ「ハァ……ハァ…」


そこまで言って、荒くなっていた息を整えようとする


男「……おい下僕一号、車止めろ」

メイド「はいマスター」


メイドはレバーを操作し、装甲車を停止させる


男「下僕二号…いや、”人間”、降りろ、今すぐに」

ユイ「…は?」

男「降りろっつてんだよ」

ゾワッ

ユイ「!」


男はユイを睨みつけていた。殺意の篭った目で

いままでこの男に反抗していた時だってこんな目は見せなかった。不本意だがこの男の中ではユイは既に下僕となっていて

いくら反抗しようが気にも留めず、女の言うことなんて戯言に過ぎないと言いたげだったのに

だからこそ反抗していた、だが今は違う

言うことを聞かなければ殺される

それが考えるまでも無く分かってしまった。だがユイは始めて感じた殺気に怯え、動けなかった

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:12:32.15 ID:6lzsUPkC0<>

ユイ「…あ」

男「ちっ」


動かないユイに舌打ちし、男は自分から装甲車を降りる

そして外から助手席のドアを開けユイの肩を掴む


ユイ「いたっ!」


男の力は今にも肩が変形しそうなほどの力だった

抵抗することも出来ずユイは男に引きずり降ろされた


ドサッ

ユイ「な、何すんっ!!」

ガッ


余りの痛みに恐怖心よりも勝ってしまったのか、男に怒鳴ろうとした瞬間、首を掴まれる


ユイ「…あっ…が」

男「そういえば言ってなかったな、俺が何者か」

ユイ「……なにっ…よ…きゅうにっ!」

男「俺はな”死神”なんだよ」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:17:47.53 ID:6lzsUPkC0<>

ユイ「はっ…あっ?」

男→死神「わかんねぇか?死神だよ。し、に、が、み。お前ら人間の認識じゃ、命を刈り取る存在ってやつだよ」

ユイ「なに……言って」

死神「お前が信じようと信じまいとどうでもいいから言わせてもらうが、俺は人間が好きでね」

死神「だから、俺は”人並みに誰かが傷つくのが嫌だ”し、”人並みに誰かが殺されんのも嫌”なんだよ」

死神「まして戦争なんざ見たくもねぇ」

死神「んで、そんな俺が何で今テメェの首を絞めてっかというとカチンときてっからだ。なんでカチンときってかというと」


死神「お前が余りにも自分を騙しすぎてるからだ」


ユイ「な、…に、言ってん…のよっ!!」

死神「お前は言ったな、テメェが信じていた故郷が無くなっちまった、家族が殺されちまったって」

死神「ならなんでお前は今泣いてねぇんだ?」

死神「そんだけつらい思いをしてんのに、俺に聞かせてた時だって涙一滴見せなかったぜ?」

死神「答えは簡単だ。お前は耐えてるわけでも、その時に大泣きした訳でも、ましてそいつらが泣く価値すらないからってわけじゃねぇ」


死神「お前が自分を許せないからだ」


ユイ「はっ……あ?」

死神「自分のものが全部ぶっ壊されちまって、自分の家族がぶっ殺されちまって、自分だけが残っちまったのに
   ”何もかも失っちまったのに平気な振りしてる”のが許せないんだよ、お前は」

ユイ「違う!…私はっ…私が許せないのは」

死神「魔王だっていう気持ちもそりゃああるだろうな、だが一番許せないのはやっぱり自分自身なんだろ?」

死神「お前は」

ユイ「違うって…言ってるでしょうがああ!!」

ゴウッ!!

死神「げっ!」

ユイ「火炎魔法:火撃(かげき)!」


ユイの叫びと同時に手から突如炎が発され、男の顔面にぶつける


死神「ブッぐう!!!」

ドサッ

ユイ「げほっげほっ」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:22:55.61 ID:6lzsUPkC0<>

ユイ(に、逃げないと)

死神「アチっ!あっつぁ!!」


ユイが逃げる中、男は地面を転げまわっていた


メイド「……マスターは汚物だったんですか?」

死神「消毒されてんじゃねえ!!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜崩れたビルの中〜〜〜

ユイ「はっ…はぁ…はぁ…何なのよ…アイツ」


全力で逃げだしたユイは休息をとるためにビルの二階に上った

一階ではすぐに見つかってしまうかもしれないのでわざわざ階段を上がったのだ

念のため、壁に背を預け、上ってきた階段を正面にするように休息をとる

だが、落ち着こうとするたびに男の言葉が蘇る


『ならなんでお前は今泣いてねぇんだ?』

『答えは簡単だ』

『お前が自分を許せないからだ』

『何もかも失っちまったのに平気な振りしてるのが許せないんだよ、お前は』


ユイ「…っ!うるさいっ!!」

ガンッ!!

ユイ「っ〜〜〜〜」


思わず自分の頭を本気で殴ってしまい地面をころげまわる


ユイ「あ〜もうっ!大体死神って何よ死神って!イタイ電波さんかっつーの!!」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:29:17.70 ID:6lzsUPkC0<>

プスプス

死神「いやぁ〜〜久しぶりにコゲたコゲた」

メイド「ご無事ですかマスター」

死神「てめぇ助けろよ」

メイド「申し訳ありません。では、2年と4ヶ月と2日と32秒前の『あのなぁ、そんなほいほい助けなくても
    ある程度の事は自分で何とかできっから一々助けようとすんな』という命令を実行するにはどうすれば」

死神「だぁ〜もう!相変わらず融通の効かねぇ奴だな、臨機応変に対応しろ!」

メイド「了解しました」

死神「あとついでに聞くけど”マスターは汚物だったんですか”って何で聞いた」

メイド「4年と1ヶ月前の『お前にはユーモアってもんがねぇんだよ。ピンチの時でもなんか空気が和みそうな冗談の一つでも
    言ってみろ』という命令を実行しました」

死神「…あっそ」

死神「にしても…あ〜あ、説教するつもりだったのに大分逃げられちまったなぁ」

メイド「追うんですか?」

死神「当たり前だ、あいつは俺のモンだぞ」

メイド「了解しました。…質問をよろしいですか」

死神「あ?」

メイド「ただ説教をするのに何故首を絞めたのですか?あのような行動は恐怖心が勝り
    意見を完全に伝わらせるには効率が悪いと思われますが」

死神「…いや、俺って本気でブチ切れちまったらそいつの事ぶっ殺しちまいそうになるからさ、そうなる前に先に手ぇ出しとけば
   そいつを殺す事なんてないし、逆に手ぇ出しちまった俺自身が情けなくなってくるからな」

メイド「ですが、今の彼女にはマスターは所謂悪人としか取られません。下僕にするには少々困難かと」


メイドの意見は最もだ、しかし、男はにやりと笑い


死神「心配するな、俺にいい考えがある」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:33:01.33 ID:6lzsUPkC0<>
〜〜〜

ユイ(そろそろ動かないと追いつかれるかもしれないわね)

コツッ

ユイ「誰!?」

ボウッ


自分以外誰もいないはずのビルに何者かの足音を聞いたユイはすぐに左手に炎を発生させる


コツ   コツ

ユイ「……」


徐々に足音は近くなる

上に上がるには正面にある階段だけだ、誰かが上がってくればすぐに分かるし、仮に魔物やあの男ならすぐに炎をぶつければいい

何とかならなければ、最悪左にある窓から飛び降りれば良い。………………怖いけど

そう決めている間に、足音が近くなる

階段から上がってきたのは


「みー」

ユイ「ね…猫?」


三毛猫である。それも子猫だった

警戒して損をした、と左手の炎を握りつぶす


ユイ「はぁ…もう、脅かさないでよ」

「み〜?」


子猫は首をかしげ、あそぼ!と言いたげに近寄ってくる

その愛くるしさに思わず抱っこしてなでてしまう


ユイ「あのねぇ猫ちゃん、私は今追われてるの、遊んでる暇なんて無いのよ〜」

「み〜」

ユイ「そんな顔してもだ〜め」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:38:29.50 ID:6lzsUPkC0<>

??「あらそ〜?せっかく最後に良い思い出作ってあげようと思ったのに♪」

ユイ「なっ!」


どこからか聞こえてきた声に女は辺りを見回す。…どこにもいない?

そんなはずは無いともう一度良く見渡す

左、割れた窓が三つ

右、壁だけだ

上は?蛍光灯が砕けているだけだった

下、あちこちにある蛍光灯の破片と砂利のみで何も無い

間違いなくここにいるのは自分と子猫だけだった


ユイ「…幻聴?」

??「現実(こっち)よ」

ジャキン

ユイ「なっ!?」


首元に突然ナイフが現れ、思わず抱っこしていた子猫を落としてしまう

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:40:27.81 ID:6lzsUPkC0<>

ありえない光景だった

子猫の左腕が人間の腕になっていた。肌黒く、ボディビルダーと比べても大差ないほどのマッチョな腕だった


ユイ「キモッ!!」

子猫?「まぁ!失礼しちゃうわねっ!この肉体美ってものが分かんないのかしら!」


子猫はそういうと二本足立ち上がる。いや、それだけではなかった


ごきっ ボギュウ! ビキビキっ ムクムクっ! 


徐々に巨大化すると同時に”人間の姿へと変わっていく”のだ

そしてジーンズをはいた足が、タンクトップを着た胴体が、右腕が、ガチガチでムッキムキのマッチョな体形へと変身していく


ユイ「な…なな」


そうしてユイが見上げるほどに巨大となったボディビルダーは顔面だけは子猫のままだった


子猫??「あらいっけな〜い。あたしったら♪」

ポン!

子猫??→マッチョ「ふぅ」


子猫の顔がスキンヘッドの男の顔に変わる

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:45:04.47 ID:6lzsUPkC0<>

ユイ「うぉろぇえええええええええっ!!!」


同時にユイは猛烈な吐き気を催した

自分は今、さっきまで子猫を抱いていた、つまりは

今目の前にいるこのボディービルダーの如きマッチョな男を抱っこしていたのにも等しいのだ

しかも言動を聞く限り、オカマだっっっっっっっ!!!


マッチョ「まぁはしたない!レディの前でゲロッちゃうつもりっ!」

ユイ「話しかけないで喋らないで近づかないで!吐く!マジでは……うぉえっ」


こんなマッチョにレディがどうの言われたくは無かったが、幸いにも本当に吐く事は無かった


ユイ「あ…アンタ…一体」

マッチョ「うふふ♪覚えてなぁい?まぁ無理もないわね♪実は今朝あなたを誘拐したのは、あ・た・し♪」

ユイ「!!」

マッチョ「も〜まさかアウトウォールに出た瞬間どっかの誰かさんに車をぶっ飛ばされるなんて思っても
     見なかったけど今日は運が良いわ♪アジトの隣に偶然あなたが入ってく姿を見かけたんですもの♪」

ユイ「そんな…」


ユイは己の不運を呪う

よりにもよって自分を攫った者達のアジトが近くにあるなんて思ってもいなかった

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 22:57:28.14 ID:6lzsUPkC0<>

マッチョ「さぁ〜て♪出来れば商品は傷つけたくないの、大人しくついてきてちょ〜だい♪」

ユイ「くっ!」

ゴウッ!!


ユイは左手に炎を発生させる


マッチョ「あら?」

ユイ「お断りよ!火撃!」

ブォン

マッチョ「遅いわよん♪」


顔面に投げつけた炎をマッチョは首をひねってかわす


ユイ「な!」

マッチョ「もぅ!ビックリしたじゃな〜い。あなた魔術師だったのね♪」


魔術師

体の中を駆け巡る血管、神経などと同じように存在する”魔術点”と呼ばれる部分を生まれながらに持ち、そこから自然界に

存在する魔力を取り込み、魔法を使う者

基本的には魔術師は魔力を取り込んだ魔術点から魔法を使うことが出来るのだが、使える場所は才能しだいだ

たとえば、首の魔術点しか使えないものは首からしか魔法を発生させることが出来無い。だが魔術点は体中にあるため

訓練すれば好きな場所から魔力を吸収する事が出来るし、あるいは魔術点を中継地にするように魔力を運搬し好きな場所で魔法を発生させることが

出来る。

ユイの場合は両手首から上の魔術点しか使うことが出来無い、所謂下級魔術師である

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 23:05:38.53 ID:6lzsUPkC0<>
マッチョ「まさか相棒が調べ損ねるなんてねぇ〜。攫うときにクロロホルム使って一気に眠らせたのは正解だったって
     訳ね、つくづく運の良い日だわ♪」

ユイ「こっちは厄日よ!!」

ゴゴウッ


片手では威力が低すぎると判断してユイは両手を重ねる。魔術点同士を重ねれば発生させる魔法も強力となるのだ


ユイ「火炎魔法:炎撃(えんげき)!」


重ねた腕をハンマーのように左へ振るう

炎は弧を描き、マッチョへと襲い掛かる

見上げるほどの巨体、ならば、この攻撃は容易にはかわせるはずはない!


マッチョ→ちびマッチョ「ハイざ〜んねん♪」シュン


だが、見上げるほどの巨体だったマッチョはユイの腰ほどの身長にまで縮む


ユイ「そんな…」

ちびマッチョ→マッチョ「甘いわよ♪あたしは”変身”の魔王なの♪なんにでも変身できるしあたしが持てるものなら
            それごと変身もできるの♪」シュンッ

マッチョ「こぉんなに 大きくて 太くて 硬い ナイフもね♪」

ギラッ

ユイ「…っ」


後ろは壁、逃げ場は左の窓と前にある階段

階段はこのマッチョに遮られているため不意でもつくことが出来なければ不可能だ

左にある窓からは10メートル以上はあるため追いつかれるのは目に見えている

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 23:18:18.71 ID:6lzsUPkC0<>

マッチョ「諦めなさい、あなたはもう終わりなの」

ユイ「嫌よ…絶対いや…こんな……こんなところで私は終わりたくない!」

マッチョ「どうして?」

ユイ「どうしてって!」

マッチョ「どうせ誰も心配しないじゃない♪」

ユイ「……っ…なんでそんな事!」

マッチョ「当たり前じゃな〜い私達みたいな人攫いが何も調べないでさらうとでも思ってるの?相棒が徹底的に
     調べて、”問題なし”って子を攫わなきゃつかまっちゃうリスクが増えるじゃない♪」

マッチョ「あなたの名前は”伊寺(いでら)ユイ”
     住んでるところはB−4地区のボロアパート、年齢は16だけど学校には通わず
     一日中内職ばっかり、っていうかそれ以外何もしちゃいない。たまにハローワークやコンビニに行ってる程度ね」

マッチョ「こんな生活をしてるのにあなたを心配してくれそうな肝心の両親は5年前の魔王戦争で死亡
     親戚はみ〜んなあなたの事なんか知らんぷり、うふふ♪ここまで来ると同情しちゃうわね♪」

ユイ「アンタなんかの同情なんていらないわよ!」

マッチョ「あ〜かわいそう!こんな子が壁の外につれ出されるばかりか、たとえ奇跡が起こって壁の中に戻ったとしても
     だぁ〜れもあなたのことを想ってくれないんだもの!友達も!家族も!誰もいないから!」

ユイ「黙れ……黙れええええええ!!」

ボウ

マッチョ「だから遅いのよ♪」

ガシッ


ユイが投げるのではなく直接炎をぶつけようと伸ばした腕は呆気なく捕まる

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 23:25:45.13 ID:6lzsUPkC0<>
マッチョ「そぉ〜れっ♪」

ぐるん ドンッ

ユイ「ぐっ!」


ユイはそのまま地面に組み伏せれ、マッチョが上にまたがり両手首を捻る


ぎり

ユイ「っあああああ!!」


悲鳴と同時に炎は消え去る


マッチョ「魔術師が魔法を使うには集中力が必要、だったら痛みで集中させなければ良い。これくらい常識よ♪」

ユイ「つ…あ…」

マッチョ「悪あがきも出来無いなんてほ〜んとにかわいそう、つくづく泣けてくるわ♪」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 23:29:28.91 ID:6lzsUPkC0<>

ユイ「…泣…く…」

マッチョ「?」

ユイ「泣く……私は……」


全て失った

故郷も、家族も、全て

なのに自分は泣かなかった…なんで?


ユイ「なん、でっ……て?」


好きだったハズなのに、故郷が、故郷で共に過ごした家族が……


ユイ「え、なんで…私は…」


邪魔者扱いされていたはず……なのに

〜〜〜

〜〜



<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/02(水) 23:35:01.08 ID:6lzsUPkC0<>

今日はここまでにします

誤字脱字はないようにしてますが見落としがないか少々不安です。

ホントは世界観はドラクエみたいにしたかったはずなのにどうしてこうなったのか…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 23:39:47.52 ID:UWSBAr9Qo<> 超楽しみにしてます
乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/05/02(水) 23:46:15.50 ID:wgAttsgoo<> メンズビーム撃ちそうな超子猫(あにき)だな <> ◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 20:50:32.54 ID:EJSdHoo70<>

思ったより早く続きが出来そうなので、今日も投下します

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 21:02:07.91 ID:EJSdHoo70<>

ユイ「そう、やっぱり……私だけ、か」


あの時、私だけが首都に行くことになっていた。……なぜ?

邪魔だったから?……違う……確か


父「あぁ……まぁ、そう長い間って訳じゃない。父さんも母さんも後から行くから」

母「……」

ユイ「うん、大丈夫、仕方ないよね。ここも、もしかしたら危なくなっちゃうもんね」


そうだ、魔王があちこちを滅茶苦茶にしてて、色んな場所で皆が首都に避難し始めてたんだ

お父さんとお母さんは仕事や家の都合で色々準備が長くなるから私は先に避難しろって言われて、それで……じゃあ、邪魔者って?


ユイ「それじゃ、行ってくるね」

母「……ユイ!」

ユイ「……何?」

母「その、昨日はごめんなさい……私、あなたのこと」

ユイ「……いいよ、別に」

母「え?」

ユイ「魔王が色んなところで暴れまわってるんだもん、動揺しないって方が難しいよ。分かってるよ
   お母さんは私を邪魔者なんて思ってない、昨日のあれはパニクって言っちゃった出鱈目だってくらい」

母「女……」

ぎゅっ

ユイ「ちょっ!お母さん!?」

母「帰ったら、いつか家族全員ここに戻ったらパーティーでもしましょう。たとえ魔王がここを滅茶苦茶にしても
  家族がいたら何とかなるもの、絶対に戻りましょう」

ユイ「お母さん……」

母「ありがとうね、私ったらこれくらいのことで慌てちゃって、……お母さん失格ね」

ユイ「そんなことないよ。お母さんは私の自慢の母親だもん」

ユイ「あ!やばい電車間に合わなくなっちゃう!お父さんお母さん、先に行って待ってるね!」

母「えぇ」

父「ほら、さっさと行かないか」

ユイ「ハーイ!」


そうだ……そうだ!お父さんもお母さんも、私のことを邪魔者なんて思ってなかった

私はずっと二人に愛されていた!

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 21:16:11.75 ID:EJSdHoo70<>

首都の親戚の家では冷たく扱われた、それでも私は平気だった

もうすぐ二人が来るんだ、それならたとえ知らない土地でも暮らしていける。戦争が終わったら家に帰る事だって出来ると信じていたから


けれど、再会した二人は首都にある市民体育館に並べられている死体袋に入っていた


首都に向かう電車に乗っていた時に魔物に襲われたと聞いた

運転手は上級魔術師で、他にも10人の魔術師が乗っていたのに、車内にいた人を守れなかったとテレビでは謝罪していた


私は信じられなかった


目の前にある二つの袋が自分の両親だと、たとえ中を見せられても信じることが出来なかった

だから私は背を向けた

二人の遺体に背を向けて走った

認めたくない、二人が死ぬなんてありえない、だって、必ずまた会えるって信じてたんだ、だから、あんなの


”私の好きなお父さんとお母さんじゃない!!”


だから私は両親を嫌った

適当な理由をつけて嫌った、過去を思い返すこともせず、そう自分に言い聞かせて、嫌い続けた

魔王を理由に故郷も嫌った、両親との思い出が詰まった場所も嫌った

そうしなければ、自分は全てを失ってしまった事に耐えられないから

過去を嫌い、過去から目を背け、過去から逃げ続けてきた

けれど、そんなことがいつまでも続けられるわけが無かった


だって本当は、お父さんもお母さんも、大好きだったから

〜〜〜

〜〜


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 21:28:56.46 ID:EJSdHoo70<>

マッチョ(にしてもどうやって気絶させようかしら……下手に首を絞めてうっかり殺しちゃったら意味ないし)

マッチョ「あ!そういえばポケットにスタンガンがあったじゃない♪」


自分としたことがうっかりしていた

そう思いながらユイの両手を右手で握り、尻ポケットにあるスタンガンを取り出そうとするが座ったままでは取りにくい事に気づく

立ち上がったマッチョは左に上半身を捻る

ユイの両手を握ったのが右手でだったし、スタンガンがあるポケットが左のほうだったからだ

だがそのせいで


死神「不意打ちパァアアアアアンチ!!!」

ずがん!

マッチョ「ぶがっっっっ!!!!」


顔面、鼻を殴られ


死神「奇襲キィイイイイイイイイック!!!」

ドボォ!

マッチョ「げぇっっっっっ!!」


腹部、鳩尾を蹴り上げられ


死神「ダメ押しアタアアアアアアアアアアアック!!!」

マッチョ「ぐあああ!!」


脇腹を大鎌の柄で殴られて、吹き飛ばされた

マッチョは階段の入り口まで転がって、止まる

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 21:37:25.21 ID:EJSdHoo70<>

マッチョを吹っ飛ばした男はユイの方に首を捻って、にやりと笑う


死神「よう下僕二号」

ユイ「……何しに来たのよ」


ユイは男を睨む


死神「何しにってそりゃ」

ユイ「アンタが私のことをどう思ってるかなんて知らないけど、私はアンタの思ってるような人間じゃない!!」

死神「……」

ユイ「私は!……私は最低な人間なのよ!!本当なら泣くべきだったのに、二人のために、自分のために!!」
  
ユイ「みっともなくても!かっこ悪くても!理不尽でも!認めなきゃいけなかったのに!!」
  
ユイ「泣いて……受け止めなきゃいけなかったのに……」
  
ユイ「大好きだったお父さんもお母さんも……楽しかった思い出も汚して……」

ユイ「そうよ、アンタの言うとおりよ」


ユイ「私は、自分が許せないのよ」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 21:49:18.17 ID:EJSdHoo70<>

死神「……ほう、さすがだな。自ら己の過ちを認めるとはな、褒めてやる」


男はユイのほうに体ごと向ける


死神「俺は人間が好きだ、死んだ奴のために泣く事ができる人間が好きだ」


大切な人が死んで、悲しいならば泣けばいい

泣かずに耐える者もいる、それでもいい

涙を恥とするなら、どこか一人で泣けばいい、心の中で命一杯泣けばいい


死神「だが自らに嘘を吐き、泣く事をごまかそうとする奴は嫌いでね」

死神「生があるから死が常に付きまとうのはこの世の理だ。だから”死”は理不尽に、不意に、誰にでも訪れる」

死神「だから死んで一番悲しむのは他でもない、死んだ奴自身なんだ」

死神「残された奴もそりゃぁ悲しいだろうが、大切な奴を残して死んでいった奴のほうがずっと悲しい」


ちらっと背後を見る。先の攻撃がよほどこたえるのか、マッチョはいまだ悶えていた


死神「なのに泣くことも出来無い、だったら泣ける奴は幸せなんだよ」

死神「死んだ奴を思って、そいつの分まで泣けるからな」





死神「という訳で!特別にお前にはこの場で大泣きする権利をくれてやろう!その間に俺はあいつを
   ぶっ飛ばしといてやる」


くいっと後ろにいるマッチョを指差す


ユイ「……出来無いよ」

死神「あ?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 22:00:33.07 ID:EJSdHoo70<>

ユイ「だって……私にそんな事する権利なんて無い」


泣こうとしなかった自分が、二人を汚した自分が、思い出を塗りつぶした自分が

心の奥底でずっと許せなかったのに、それすらも認めようとしなかった

だから、泣けなくなってしまった

こんな自分が、自らの手で全てを汚した自分が、自分自身まで汚してしまった自分なんかが


ユイ「二人のために、泣いていいはずが無いじゃない」

ユイ「5年間ずっと泣かなかったのに、今更どの面下げて泣けって言うのよ」

ユイ「それに……それにもう分かんないんだよ」

ユイ「お父さんとお母さんの事……どんな風に想って泣けばいいかなんて……」






ユイ「分かんないよ!私……どうやって泣けばいいかなんて分かんないだよぉ!!」






死神「じゃぁ、お前のそれはなんだ」

ユイ「…………え?」



ポタッ

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 22:14:50.65 ID:EJSdHoo70<>

ユイの手の甲に何かが落ちてきた

水?

違う、これは


”涙”だ


ユイ「え……あ」

死神「……お前に一つ教えておこう」


男はしゃがんでユイと同じ目線にあわせる


死神「死神である俺は、意識すれば人の魂を見ることが出来る。だから俺しか知らない事を教えてやる」

死神「魂ってのはな、すげぇんだぜ。そいつがどれだけ良い奴ぶっても悪行ばっかしてるクソ野郎ならそいつの魂は穢れてやがるし
   どんなにそいつが自分を誤魔化すのが上手くても、魂までは絶対に誤魔化せねぇ」

死神「だからな」


死神「お前がどれだけ泣かないように誤魔化し続けても、お前の魂はずっと泣いてたんだ」


死神「お前が泣きたいって心の底から思ったなら、お前がどんなに泣き方を忘れちまってようと、ちゃんと泣けんだよ」

ユイ「あ…………」

ユイ「私、泣いてる……泣いてるんだ……」


あの時流せなかった、ずっと流さなかった涙は、零れ落ち、手の甲やコンクリートをぽたりぽたりと濡らしていた


ユイ「良かっ……た……私、ちゃんと、泣けるんだ……」


ユイは、涙を拭ったりなどしなかった


死神「……さて、そんじゃあ俺は」


すっ、と男は立ち上がり

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 22:25:17.58 ID:EJSdHoo70<>





どすっ












死神「……あ?」


背中を刺された

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 22:40:00.50 ID:EJSdHoo70<>

男の背中にはマッチョの持っていたナイフが刺さっていた、ちょうど、心臓の位置に


死神「なん……だと……」

カラン


男の持っていた大鎌は手から零れ落ち、膝が折れて地面につき、倒れた


ユイ「え、……嘘」

マッチョ「あ、はは、あはははははははははははは!!」

マッチョ「ざまぁみなさい!あたしのこの美しい肉体を傷つけようとするからよ!!」


マッチョの鼻と腹は人間の肌の色をしていなかった

光沢を放つそれは、つややかさと強固さを物語っていた

マッチョは肌を金属化したのだ

男の奇襲に反射的に体の一部を金属化し、わざと吹っ飛ばされたのだ

そして悶える振りをし、男の隙を窺っていたのだ


マッチョ「これで終わると思ったら大間違いよ」


マッチョは男に近づくと同時に拳を金属化する


マッチョ「ぶっ潰してあげるわ!あなたの筋肉が潰れたトマトみたいになるまで!骨が粉っごなになるまで!!
     潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰し尽くす!!!!!!!!」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 22:49:34.86 ID:EJSdHoo70<>

ユイ「嘘よ……嘘でしょ!なんで!?アイツぶっ飛ばすんでしょ!」

ユイ「死神なんでしょ!なのになんでアンタが死ぬのよ!おかしいじゃない!」

ユイ「私ずっと泣けなかったんだよ?けどアンタが教えてくれたのよ!お父さんとお母さんのために、私は泣けるんだって!」

ユイ「お願い……こんなところで死なないで!私…まだアンタにお礼もいってないのよ!」


どれだけ呼びかけても、どれだけ揺すっても、男は何も反応しなかった

背中に刺さった、心臓に刺さったナイフが、とめどなく流れ地面を汚す血が、男の死をいやおう無く認めさせられる


マッチョ「無駄よ、まだ生きているとしてもあたしが止めを刺す!」


マッチョが拳を振り上げる


マッチョ「……何のつもりかしら?」

ユイ「……させない」


そのマッチョの前に、男の背中からナイフを引き抜いたユイが刃先を向ける

両の手で持っているというのにナイフは震えていた


マッチョ「どきなさい」

ユイ「嫌よ」

マッチョ「どかないと殺すわよ」

ユイ「嫌よ!」

マッチョ「どきなさいって、言ってるでしょぉおがあああああああ!!!」

ユイ「絶対嫌だっていってんのよおおおおおお!!!!」


マッチョがユイに目掛けて拳を振り下ろす

既にユイが”商品”である事は忘れているのだろう。怒りに任せて目の前にいるユイすら殺す気なのは明らかだ


ユイ「っあああああああ!!」


どうしてこんな事をしているのだろうか、それはユイ自身にも分からなかった

こんなの意味なんて無い、自分が死ぬだけだ。自分はそんな事が分からなくなってしまったのだろうか?


でも、分かることだってあった

この男が死んで、自分は悲しいのだと

そして、もし生きていればで男のために泣けるかもしれないということ

それを教えてくれたのは、他でもないこの男だったから

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 22:57:32.66 ID:EJSdHoo70<>

「どけ」

ユイ「え?」

ぐいっ


マッチョに突っ込んだユイは後ろから引っ張られる


マッチョ「ぶっ!!!」


そしてマッチョの顔に拳が叩き込まれた

マッチョはまたしても吹っ飛ぶ


ユイ「……あ」


ユイの目の前にいたのは

ユイを引っ張り、マッチョに拳を叩き込んだのは


死神「あぁ〜あ、久しぶりに死ぬかと思った」


首を回しながら手をぶらぶらさせる、死神だった


ユイ「あ、アンタ……」

死神「下僕二号よくやった、褒めてやる」


ユイはぽかんっとした表情で男を見る

確かに、刺されて倒れた時は生きていてほしいと思った。だがまさか、本当に生き返るとは思っていなかった


ユイ「平気……なの?」

死神「あぁ、お前が心臓からナイフ抜き取ってくれたおかげで全部再生した」

ユイ「さ、再生って……アンタってもしかしてお菓子好きのピンクの魔人?」

死神「”堕天”する前はそんな感じだったけど、今は心臓を完全に破壊されちまったら死んじまうから
   どっちかと言うと楽器の名前の緑の大魔王の方だな」



死神「……さて」






マッチョ「ぶるるるあああああああああああ!!!」






死神「ちょっとあいつを黙らせるか」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:03:31.77 ID:EJSdHoo70<>
マッチョは叫ぶ


マッチョ「あなた!何で生きてんのよ!!心臓を刺したのよ!!死になさいよ!!!」

マッチョ「いいえ!そんなことどうでもいいわ!!」


マッチョ「あなた何で、”何で私を傷つけられるのよ!!”」


マッチョから鼻から血が流れていた

金属化した鼻から

ただ殴っただけで


死神「てめぇの”美しい肉体”とやらの硬さがその程度ってだけだろ」

マッチョ「ふっざけないでよおおおおお!!」


自慢の肉体を傷つけた男を今度こそ殺さんと金属化した拳を振るう


死神「ふざけるなはこっちの台詞だ」


それを男は片手で止める


マッチョ「な!?」

死神「軽いんだよ」


男は”地面に落ちていた大鎌を手に引き寄せ”マッチョの腹部に切りつけた

だが、マッチョの腹部は既に金属化している

しかもその硬度は自身の最硬の金属だ

これで男の大鎌は砕け散った


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:08:20.07 ID:EJSdHoo70<>

そのなるはずだったなのに


ブシュッ

マッチョ「ぎゃああああああああ!!!」


砕けたのはマッチョの腹部の方だった

自身の最強の硬度を持った腹部には浅いが大鎌によって裂かれた傷があり、血が流れていた

マッチョは腹部の表面を硬化させたため、表面が破壊される事は肌を傷つけられるのと同じなのだ


マッチョ「な、なんで……」


有り得ない、確実に硬化は成功したはずなのに


死神「当たり前だ、俺は、死神だぞ。人間の常識で収まると思うな」

マッチョ「そ、そんなの答えになってないじゃない!ふざけるのいい加減にしなさい!!」

死神「はぁ……理解しようとしない人間ほど会話がめんどくさいものは無いな」

死神「じゃぁ何で俺は生きてんだ?」

マッチョ「……っ!」


答えられない

確実にマッチョは男の心臓を狙った。狙って、当たったのだ。だというのにこの男は心臓からナイフが抜けた途端

生き返ったのだ

まさかこの男も新たな魔王なのか?

いや、だとしたらおかしい。この男は自分を切りつける前に大鎌をまるで磁石のように引き寄せたのだ

それでは能力が再生する力と引き寄せる力の二つ持っている事になる

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:11:36.75 ID:EJSdHoo70<>

マッチョ「ぐっ、ううううう」

死神「まぁいいや、信じようと信じまいと」

死神「死神(おれ)を敵に回した以上、お前の死は確定だ」

ひゅるん ひゅるん


大鎌を片手で回しながら、マッチョに近づく


死神「死神である俺の大鎌は”刃に触れたモノを死なせる事ができる”」

死神「どんな生物でも、無生物でもこいつで切りつけられちまったら”死ぬ”」

死神「いくら硬くっても”錆びちまった金属”が硬いままなわけがねぇよなぁ?」

マッチョ「!」

死神「つってもお前は運がいいほうだ、なんせ本来ならかすっただけでお前は即死してんだ
   だが、お前は死んでいない。なぜなら、コイツは”斬り付けた部分しか死なせることしか”出来無いからだ」

死神「ハハッ!チートっぽく見えっけど、その実ただ刃がやたら鋭い鎌となんら変わんねぇってこった」

死神「だがまぁすげぇ事ができねぇってわけじゃねぇ」

ずずずず


男の持つ大鎌の刃が黒く染り、影のように伸び始める


死神「下僕二号、伏せとけ」

ずずずず


そして、伸びた影が次に刃を形作り始め


死神「頭吹っ飛ぶぞおおお!!」

ぐおん!

ユイ「ちょっ!」


刃が完全に形作られる前に男は大鎌を振るう

突然危険を知らされたユイは地面に倒れこむ形で伏せる


ザグンッ!


マッチョ「……え」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:16:12.06 ID:EJSdHoo70<>

マッチョは上を見上げる

天井に隙間が出来ていたのだ。自分のいる位置は丁度窓側の壁際、そこにある隙間から空が見えていたのだ


ずず…… ずず……


空はどんどん広がる。青い空から降り注ぐ光が室内を照らす


マッチョ「な、なぁ!」


そこでようやっとマッチョは気づく


ビルが輪切りされたことに


ずずずず     ズゥゥゥウウウウン!!


斜めに輪切りにされたビルはずり落ちて落下する

天井は無くなり、階段側の壁もその反対の壁も斜めに裂かれ、男の背後の壁は天井と同じく完全に無くなっていた


死神「こんなサイズ、普通は大型の魔物にしか使わねぇんだが、まぁサービスって事で」


二階を最上階に変えた男は最早人が持てるとは到底思えないほど巨大な大鎌を振り上げる


マッチョ「あ……あぁ……」


マッチョは今となっては遅すぎるが、理解した

この男は普通じゃないと <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:22:09.11 ID:EJSdHoo70<>

死神「さぁ〜てそれじゃぁ、とどめといきますかぁ!」

ザッ

マッチョ「ま、待ちなさい!!あたしの後ろ!見えるでしょあのビルが!!あそこはあたしのアジト、あそこには4人の仲間がいるわ!!
     一人はあたしと同じ魔王、後の3人も魔術師よ!!助けを呼べば」


マッチョが後ろにある崩れた建物を指差しながら言う

仲間を呼んでどうにかなるような男では無いのかもしれないが、たった一人でこんな男を相手にするのはごめんだ


死神「それって俺がこのビルに入る前に出会って下僕一号にボコボコにされた奴らの事か?」

マッチョ「……え?な、なに言って」

死神「嘘だと思うなら、下、覗いてみろよ」

マッチョ「そんな……そんな事あるわけが!!」


マッチョは窓の外、下を覗く。あるのは一台の装甲車と


『サイテー!ニドトチカヅカナイデ!!』

メイド「……フられました」


携帯ゲーム機をしているメイド服に猫耳カチューシャをつけた幼女がいた

そして


ボコボコの相棒「」 ボコボコの魔術師「」×3


その幼女の下に布団のように敷かれている仲間がいた

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:26:16.46 ID:EJSdHoo70<>

マッチョ「なっ……」

死神「ふん、間違いねぇみてーだな」

マッチョ「ちょ、ちょっと待って!」

死神「待たん」

マッチョ「お願い待って!ななな何でもするから!!」

死神「結構」

マッチョ「お金!アジトにあるお金全部あげるわ!」

死神「いらねぇ」

マッチョ「じゃ……じゃあどうすりゃいいってのよ!!」

死神「死ね」

マッチョ「そ、そんなの理不尽よ!!あたしが一体あなたに何したっていうのよ!!」


その言葉は、これまで自分が攫ってきた者達が等しく思っていたことだっただろう

たとえその被害者達がマッチョ達がそう聞かれても、ただ運が悪かっただの、或いは答えすらしなかっただろう


死神「………別に、俺が何をされたからって訳じゃねぇ」


男は、答えた


死神「人間に”殺され”ちまったのはまぁいい。これは俺の過失だからな……だが」

死神「テメェ、俺の物に手ぇだしたな」

マッチョ「は、はぁ!?」

死神「下僕は全て俺の所有物だ、よって下僕の持っている物は俺の物だ。そいつは何物にも変えがたい」

死神「それは命だって例外じゃない」

死神「テメェは下僕の命を奪おうとした、つまり俺の命を奪おうとしたって事と同じだよなぁ?」

死神「なら……」


死神「テメェの命が奪われても、文句はねぇよなぁ!」


マッチョ「な」

死神「死ね」




ぐおん!





ずがぁああああああああああああん






<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:31:39.21 ID:EJSdHoo70<>
パラ  パラ



『アンタナンカ、シンジャエバイインダー!』『ザクッ!』

メイド「……死んでしまいました」

死神「お前は何やってんだ?」


メイドがBADエンドを迎えると、男が”辛うじて二階と呼べる部分があるビル”から飛び降りてくる


メイド「暇を潰せ、とのことでしたのでPSP(プレイしようぜポータブル)のギャルゲーをしていました」

死神「あっそう」

ぽい  ドサッ


そう言って男は、泡を吹いて気絶しているマッチョを地べたに投げ捨てた


ユイ「と、とと」


そして、ユイも何とか降りることができた


ユイ「ねぇ……なんでそいつ、殺さなかったの?」

死神「なんだよ、殺して欲しいのか?」

ユイ「違うわよ!ただ、気になって……」

死神「言っただろ」

ユイ「え?」

死神「俺は、人間が好きなんだよ」


傷つけるのも、殺すのも、嫌なくらいに


ユイ「……」

ユイ「…………ありがとう」
<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:36:09.37 ID:EJSdHoo70<>

死神「あ?」

ユイ「その、ありがとう。アンタのおかげで私、また助けられたし……」

死神「何を勘違いしている?お前は俺の下僕、所有物だ、俺は自分の物を自分の手で守った。そんだけだ」

ユイ「え?……で、でも私、アンタの下僕になるなんて一度も」

死神「俺が決めた、お前に逆らう権利は無い、決定事項だ。ずっとそう言ってるだろーが」

ユイ「……じゃ、じゃあ何で」

死神「ん?」

ユイ「なんで私が最初に攫われた時、私を助けたのよ」

ユイ「私とアンタは今日始めて会ったのよ。なのに、なんでアンタは私のこと……」

死神「ふむ……なるほど。最もな疑問だ」



死神「簡単に言っちまうと――――勘だ」

ユイ「………………はぁ??」



死神「実はというと今日俺と下僕一号は訳あって壁の中にいてな、帰りに偶然お前が誘拐されるのを見ちまったんだよ」

死神「本来なら別に気にするような事じゃなかったんだが、攫われるお前を見たときピ〜ンときたんだよ」

死神「『あぁなんかあいつ、俺の下僕にしたら役立ちそうだな〜、面白そうだな〜。よし、下僕にしよう』ってな」

死神「そうと決まった時は色々焦ったんだぜ?」

死神「俺があのマッチョとお前を見失わないように慣れねぇ尾行して、下僕一号に俺達の侵入ルートから戻って車取りに行かせて」

死神「んで、あいつらがお前をトラックに積み込んだのを確認して、下僕一号に俺を迎えに来させて」

死神「ある程度首都から離れて誰にも邪魔されなさそうな時に急接近!」

死神「ロケランぶち込んで横転させた、って訳だ」

死神「あ、ちなみに撃ったのは下僕一号だからな?地面に当てて爆風で横転させるなんて器用なマネ俺にはできねぇから」

死神「以上だ、何か質問があれば答えてやろう」


男はそう早口で言い切った

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:39:44.35 ID:EJSdHoo70<>

ユイ「……一つだけ聞いていい?」

死神「かまわん」

ユイ「なんで攫われた時に助けなかったの?」

死神「俺達が見たときは丁度眠らされたときだったからな、あそこであのマッチョぶっ飛ばしちまったら目ぇ覚ましたお前には
   俺達がお前を攫おうとしてたみてーになるじゃん?」

死神「だったらあそこでわざと誘拐させておいて、そこで助けちまえば俺に恩を感じて下僕になりやすくなると思ってな」

ユイ「……アンタって人は」

死神「俺は死神だ」

ユイ「揚げ足をとるな!」



この男は人を何だと思ってるのだろう

死神だからといって人間というものを下に見ているところはあるのだろうが

と、ずっと気になっていた事を思い出す


ユイ「そういえばアンタ、何で私の居場所が分かったのよ」


確かあの場所から逃げた時、体力的に遠くに逃げるには無理があったので

ビルに入って、休憩ついでに上手くいけば隠れてやり過ごそうと思ったのだ


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:44:39.65 ID:EJSdHoo70<>

死神「ん〜?そりゃお前、俺は死神だからな。一度見た魂の居場所くらい分かって当たり前だろ?」

ユイ「へ、へぇ〜」


そんな事もできるのかと思ったとき、ふと、頭の中であることが思い浮かぶ

それは何だかすごく”ありえそうな”ことで、もしそれが自分の思っている通りなら……

いや、そんな事は聞く事は無いんじゃないだろうか?

もし聞いて、全く違った時なんかには馬鹿にされるか、もしくは大笑いされるだろうから


ユイ「……ねぇ」


だが、聞かざるおえなかった

はっきりさせておかないと、自分はこの男に対して間違った解釈をしたままになりそうだったから


ユイ「もしかしたらだけど、アンタが私を攫ったあの男を尾行するときに、魂見たりしたの?」

死神「あ?まぁそうだな。じゃねぇと離れすぎて見失っちまった時困るし」

ユイ「へ〜、アンタって意外と考えてるのね」

死神「ハッ!あたりまえだろ!」


当然だ、と言いたげに胸を張る男


ユイ「じゃあさ、私があの男に襲われるっていうのも私よりもすぐに分かったって訳よね?」

死神「あぁもちろん」

ユイ「それ気づいたのっていつ?」

死神「んなもん、お前がビルに隠れた時一緒に猫に化けてやっがったあいつが
   ビルに入ったときに決まって…………………………あ」


男は自分の失態に気づく


ユイ「へぇ〜、そーなのかー」

ユイ「それってつまり、アンタがあの男をぶん殴たのってタイミング見計らってやったってことで良いのよね」 <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:47:36.17 ID:EJSdHoo70<>

死神「え?何言ってんだお前?なわけねぇじゃん」


ユイから目をそらし始める男


ユイ「じゃぁ何ですぐに入って来なかったわけ?」

死神「そりゃお前あれだよ、入ろうとした瞬間にあいつの仲間が襲ってきてそれどころじゃ」

ユイ「おかしいわね?私の記憶が正しければそいつらは”そこのメイド服を着た子がやった”って言ったわよね?」


『ドウシテホントノコトイッテクレナカッタノ!』

選択肢

    A『……ゴメン』  B『キミヲマモリタカッタンダ!』  C『カッコツケタクテヤッタンダヨイワセンナハズカシイ』

メイド「C」カチ

『サイテー!ニドトチカヅカナイデ!』

メイド「……またフられた」


死神「……」

ユイ「……ねぇ、今からすっごく失礼なことかもしれない事言うけど」



ユイ「アンタ、”カッコつけたくて”わざと遅れて入ってきたの?」

死神「あぁ」

ユイ「即答!?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:52:47.65 ID:EJSdHoo70<>

ユイ「ちょ、おま……潔く認めたつもり!?それ開き直りって言うのよ!!」

死神「ふっ、俺の真意を見抜くとは……下僕二号、中々どうして鋭いな〜お前。やはり俺の勘は間違いなかったというわけだ」


ユイの言葉など聞こえていないかのように、男は語り始める


死神「俺の顔面を焼いたからわざとっていうのもあるが、まぁ一番の理由としてはお前から俺の下僕にするよう頼み込ませるためだ」

ユイ「……はぁ?」

死神「命を脅かす存在に抵抗むなしくもうだめかと思われたその時!颯爽と現れる俺!」

死神「スかした台詞によって好印象を与える俺!」

死神「圧倒的、完膚なきまでに敵を叩きのめす俺!」

死神「お前の目にはさながら読み切りマンガに出てくる主人公に見えていただろう」

死神「お前くらいの年頃ならそんな体験しちまったら俺という存在に心動かされないわけが無い!」



死神「これによりお前は自ら俺の下僕になりたがる!これぞまさしく『つり橋効果』というやつだ!!」



ユイ「」

死神「どうだ下僕二号、俺のすごさが良く分かっただろう」

ユイ「……ふ」

死神「ふ?」

ユイ「ふざけんなあああああ!!」

ゴウッ びゅん!


怒りを込めて炎を投げつけた


死神「おっと危ない」


しかし男はひらりとかわす

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/04(金) 23:59:19.91 ID:EJSdHoo70<>

死神「何をする下僕二号」

ユイ「うるさい避けるな!!あぁもう自分が恥ずかしい!!最悪っ!最悪よアンタ!」

ブォン ブォン ブォン

死神「おいやめろ馬鹿、当たったら危ないだろ。まぁ当たらないがな」


顔を真っ赤にしながらユイは真っ赤な炎を投げまくる


ユイ「あぁもう!ちょっとでもいい奴だと思った私の馬鹿!少しでもこんな奴の言葉を真面目に聞いた私の馬鹿!」

ブォン ブォン

死神「はっはっは!やはりそう思っていたか。まぁそう思ってくれ無けりゃ、あんな”無駄にカッコ良くした台詞”
   恥ずかしくって頼まれても言いたかねぇしな」

ユイ「この野郎ーーー!!」

ブォン

死神「だから当たんねぇって」

ユイ「〜〜〜〜っこの詐欺師!嘘つき!思ってもいない事言って人が泣いてるの見て楽しんでたんでしょう!!」

ブォン

死神「あ?」

バシュ


男はユイの投げた炎を避けるのをやめ、手で払いかき消した


ユイ「な!」

死神「心外だな。俺は”無駄にカッコ良くした”とは言ったが、”嘘だ”と言った覚えはねぇぞ」

ユイ「……あ」

死神「まぁ、一時的にとはいえ命の危機にさらされたお前の怒りは最もだろうな」

死神「だが怒りをぶつける前に聞け、”伊寺ユイ”」



男は飛び上がり、装甲車の上に着地する

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/05(土) 00:03:57.46 ID:chun0tur0<>

死神「俺には野望がある。だがそれは俺一人じゃ到底成し遂げられない」 


死神「だから俺は、多くの下僕を必要としている」


死神「だが、ただ数を必要としてるんじゃない」


死神「俺の手足となる者、俺には出来無いことが出来る者、俺の後ろに付いてくる者が必要なんだ」


死神「俺は一人で成し遂げるんじゃなく、そいつらと共に成し遂げたい」


死神「だから、俺の下僕にしたいと思った奴には生半可な気持ちで選んでんじゃねぇんだ」


死神「俺の下僕になれば、そいつは俺に人生の全てを捧げることになる」


死神「だが変わりに後悔だけはさせねぇ」


死神「そいつにはそれだけの価値があったと絶対に認める事を約束してやる」


死神「伊寺ユイ」


死神「俺はお前を下僕にする」


死神「お前は俺のために全てを捧げろ」



死神「代わりに、俺がお前に最高の幸せを味合わせてやる!」



<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/05(土) 00:07:15.71 ID:chun0tur0<>





              死神「俺と一緒に、世界征服しようぜ!」





<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/05(土) 00:11:26.60 ID:chun0tur0<>


ユイ「…………は」














ユイ「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」












それが、世界征服を目指す死神への、ユイの最初の答えだった


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/05(土) 00:14:13.66 ID:chun0tur0<>

本日はここまで、次回には第一章終わって二章行くかもです。

乙してくださる方、レスしてくれる皆様に感謝します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 00:18:31.05 ID:j/Vj7Nqpo<> 結構好きだよこういうの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 00:43:00.31 ID:KGyb/AM5o<> 乙でした <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 16:33:41.67 ID:2hd6HV4L0<>
本日投下予定です

>>59>>60

ありがとうございます
<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 21:11:41.87 ID:2hd6HV4L0<>
そろそろ投下開始します
<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 21:45:19.98 ID:2hd6HV4L0<>

トーキョーでは緑豊かな場所が幾つか存在する

たとえニホンが科学を発展させようと、土地を失い壁に囲われようと、人間が自然を捨てる事は無かったのだ

そう感じさせるのは、ここD地区である

この地区には二階建て以上の建物は存在しない、どころか建物が存在するのかも怪しいほどに大自然が広がっている

この地区ではほとんどの魔法に使用禁止令が敷かれている

そのためD地区は魔法使用の感知と結界の役割を兼ねた黒く高い柵で囲われており、中に出入りするには10ほどしか無い出入り口からしか入れない


その理由はこのD地区の全ての土地が墓地であるからだ


首都で人生を終えた者だけでなく、魔王戦争によって命を落とした者達がこの地区で眠っている

伊寺ユイの父と母、伊寺グン、伊寺トウコも例外ではない


ユイ「……」


ユイは今、そのD地区の第三出入り口の前に立っていた

隣には今朝知り合い、二度も人攫いから助けた人……いや、死神とメイド服に猫耳カチューシャを付けた幼女がいた


ユイ「それじゃ、行って来るね」

死神「さっさと行け」

メイド「……」


黒い門を手で押し開け、ユイ一人が入っていく

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 22:06:02.44 ID:2hd6HV4L0<>

門をくぐると辺りを木々に囲まれた一本道をユイはゆっくり歩いていく


死神「…………」


男はユイの姿が十分に離れたところで大きくため息をつく


死神「だあ〜疲れた〜。一日に二度も壁の中に侵入するなんて思ってもいなかった〜」

メイド「お茶がありますがいかがですか?」


メイドがスカートの下からお茶を取り出す


死神「サンキュ〜」

パキッ ゴキュ ゴキュ

死神「っぷはぁ〜〜生き返る!死神なのに……」


柵にもたれてペットボトルを開けて一気に半分も飲んでゆく

今までユイには見られまいと普段通りを保ってきたが、男の疲労は尋常じゃなかったのだ

というのも、首都トーキョーに侵入するために、国の最大の防御力を誇る”壁”を”潜り抜けてきた”ためである


死神「侵入者を感知、迎撃する結界を24層も潜り抜け!監視カメラ30台の死角を通って!飼いならされた魔物
   共に気取られないように遠回りして!異界に誘い閉じ込めるトラップを解除!」

死神「これが壁の防衛機能の中でも最も弱い部分とはいえ……」

死神「しんどすぎて死ぬっての!!」

メイド「…………」


男が愚痴をこぼしていると、メイドはスカートの下からPSPを取り出して電源を入れる


なぜユイ達が壁の中、トーキョーにいるかというと、それは2時間ほど前に遡る


〜〜〜


世界征服を目指す、死神である男に下僕にすると言われたユイはある条件を出したのだ


死神「……墓参り?」

ユイ「うん、どうしても行きたくってさ」

死神「ふ〜ん……それがすんだら俺の下僕になる事を認めるっつー事か?」

ユイ「いや、そういうんじゃないの」

死神「はぁ?」

ユイ「……考えたいの、お父さんとお母さんのお墓に行ってさ」

ユイ「アンタに付いて行くか、どうかさ」

死神「…………」

〜〜〜

死神「今日中に済ませようとした俺の馬鹿!こんなにしんどい思いするなら明日にしときゃよかった……」


おかげでもうすぐ夕方になろうという時間である

帰る頃には夜になっているだろう

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 22:15:37.11 ID:2hd6HV4L0<>

ユイ「え〜っと……」


D地区には多くのお墓が存在する

そのため、遺族にはどこに自分の家のお墓があるのか詳しい場所を明記した封書がD地区の管理者から送られる

ユイにも、当然その封書は届いた


ユイ「……こっちか」


だが、両親を”嫌い続けていた”ユイは一度たりともその場所に行くどころか、封を切った事すら無かった

タンスの引き出しの奥にしまってあったそれを見つけたとき、今までよく破り捨てなかったなと、ユイは自分に苦笑いを浮かべた

同時に、やはり自分が両親を嫌い続けるなんて無理な事だったんだという証拠でもあるのだとも思ったが


ユイ「思ってたより遠いな〜……」


背中にリュックを背負い、手には水の入った桶と柄杓、つい先ほど買った線香と花束があった

二束で2000円というのはぼったくりではないかと思ったが、まぁ気にしない事にした


ユイ「…………」


ユイは坂道を登っている

健康のために一応体は鍛えていたつもりであったが、たった30分で疲れが出てきた

外出しても近所のコンビニやハローワークに行く程度では、衰えるのも当たり前かと思う

D地区は広大な墓地である

そのため移動手段として自転車の貸し出しを行っているのだが、ユイは断った

今まで墓参りに行かなかった自分が楽をして良いはずが無いと思ったからであったが、けれど、本当にそうだろうか


ユイ「怖い、のかな……私」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 22:29:33.63 ID:2hd6HV4L0<>

『ドウシテホントノコトイッテクレナカッタノ!』

選択肢

    A『……ゴメン』  B『キミヲマモリタカッタンダ!』  C『カッコツケタクテヤッタンダヨイワセンナハズカシイ』

メイド「C」カチ

『サイテー!ニドトチカヅカナイデ!』

メイド「……またフられた」

死神「なぁ」


BADエンドを迎えたメイドに男が画面を覗き込みながら言う


死神「俺が知る限りお前のそれ二回目だぞ、何で別の選択肢選ばねぇの?」

メイド「……『たとえ何度失敗しても、自ら信じた道を進み続ける人間は美しい』とマスター
    がおっしゃっていたので」

死神「『失敗から何も学ばずただ繰り返すだけならそれはただの馬鹿だ』とも言ったが?」

メイド「…………」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 22:47:12.51 ID:2hd6HV4L0<>

ユイ「……ついた」


坂道ばかりだったので疲れも中々のものだったが、振り返ってみると景色が良い場所だったことに気づく


ユイ「……」


その方角が、偶然にも自分の住んでいるアパートがある方向だったのは嬉しくもあり、悲しくもあった

二人はずっと自分の成長を見守ってくれていたのだろうか?

それとも、無理をして自分の娘が両親を嫌うのを見せ続けられて、傷つけてたんじゃないんだろうか


ユイ「…………」


横を見てみる

いくつものお墓が並んでいた

この列の16番目にあると書かれていた

始めてきた墓参りが16歳、なんだか自分はこの年で墓参りに来る事を運命付けられていたかのようだ


ユイ「……」


もし、両親の事を大事に思っていた人がいて、私のことも知っている人がいたらどうしようか

それが、ユイの感じていた恐怖だった

今まで誰も自分を責めるものはいなかった、自分自身で責めてはいたが、それすらも目を背けていた

だからもし、その人が私を責めたら、自分はどうなってしまうのだろう

そんな不安があったのだ

けれど、辺りを見ても、今この辺りにいるのは自分ひとりのようだった


ユイ「……ふぅ」


胸の中にあった不安を吐き出し、進み始めた

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 22:55:31.55 ID:2hd6HV4L0<>

『ド、ドウカナ?ニ、ニアウ…?』

選択肢

    A『ナンカハデダネ』  B『ウン、ニアッテルヨ!』  C『ナンカジミダネ』


死神「あ〜そこはBだな」

メイド「しかし時期的にこの格好は少々薄着では?普段の格好とは違い胸元もやや露出が多いと判断します。よってここはAだと思われます」

死神「そりゃあれだろ、初デートだし気合入れてお洒落したんだろ」

メイド「しかし恥じらいの強いミカコがこれほどの露出をするは恐らくつらい事でしょう、何か訳があってこのような格好をしているとも取れます」

メイド「よってここは無理をしなくても良いという意味合いを込めてAだと思われます」

死神「いいからB選んどけ、こういうときは大抵褒めとくといいんだよ」

メイド「了解しました」カチ


『B』ピロン


『ホ、ホント?…エヘヘ』  『ピロ〜ン』


メイド「好感度が上がりました」

死神「それみろ」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:06:09.58 ID:2hd6HV4L0<>

ユイ「……うわ」


ユイは唖然とする

確かに両親の墓はあった


ユイ「これは、ひどい」


とてつもなく汚れた状態で

表面は苔や泥が付着しており、雑草も生えていた。全く手入れされていなかったとしか考えられない

それは、つまり


ユイ「ここに来たのは、私が最初って事か……」


五年間、自分以外に、誰も来なかったのだ

二人を大切に思っていたのはユイだけだったのだ

そんな自分が今まで二人を”嫌い続けてきた”事に、本当に呆れてしまう


ユイ「そっか……そういえば、お父さんもお母さんも家の反対押し切って結婚したんだっけ」


二人には元々決められた婚約者がいたらしい

けれど、二人ともその婚約者とは上手くいかず、家の都合だけで好きでもない相手と結婚させらる事に反発していたらしい

そんな二人が出会ったのは本当に運命的だったと語っていた


ユイ「もしかしてと思って持ってきたけど、まさかホントに使う事になるとはね……」


背中にしょっていたリュックを下ろし、チャックを開ける

中にあるのは、軍手と古い歯ブラシ、タオル、ビニール袋が何枚か入っていた


ユイ「手早く掃除しちゃいますか」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:18:28.85 ID:2hd6HV4L0<>

『アンタナンカ、シンジャエバイインダー!』 『ザクッ!』


死神「えぇ〜……なんで脈絡も無く別の奴に刺されてんの……」

メイド「……」

死神「つーかまたかよ!好感度は結構上がってたのにまたBAD(これ)だぞ」

メイド「……恐らく、一人にばかり構っていたり一度でも選択を間違えるとBADエンドになるようですね」

死神「ギャルゲーにあるまじきムズさだな……コレ」

メイド「どこで間違えたのでしょう」

死神「最初っからやってみない事にはわかんねぇな……次は慎重に行くぞ」

メイド「了解」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:20:28.74 ID:2hd6HV4L0<>

ユイ「よっと」

ブチブチッ


慣れた手つきでユイは雑草を抜いていき、ビニール袋に捨てていく


ユイ「そういえばさ」


掃除をしながら、ユイは話始める

誰もいないところで話しかけるなど、誰かが見ていようものなら……いや自分にとっても余りいい気分ではないが

お墓に向かって話しかけるとなると、まぁ、多少許されるところがあるのは、ここにその人物が眠っているからであろう


ユイ「私ね、死神にさ『一緒に世界征服しようぜ』って誘われちゃったんだ」

ユイ「世界征服よ?世界征服……馬鹿馬鹿しいでしょ?」

ユイ「って言うか、死神に誘われたってところでもうおかしいか……」


雑草も抜ききったので、墓石にこびり付いた苔を歯ブラシで軽く磨いて落としていく


ユイ「でもさ、私そいつに二回も……うん、二回……だと、思うんだ」

ユイ「まぁとにかくさ、助けてもらったの」

ユイ「見た目は最悪だし、性格も最悪なんだけど良い死神みたいで……あれ?見た目も性格も最悪でしかも世界征服しようとしてるって」

ユイ「実は結構悪い奴なんじゃ……ん〜いやでも悪い奴って言い切れないのかなぁ〜」


いつの間にか腕を組んでいたため掃除が止まっているのに気づいて、腕を動かす

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:24:48.74 ID:2hd6HV4L0<>

ユイ「まぁ、多分良い死神だと思うの」

ユイ「……でさ、私、どうすればいいかなって思ってさ」


今まで、ただひたすら生きてきただけだった

5年前から、小学生の頃は親戚の家にい続けたが、中学生になってから一人で暮らし始めたのだ

本当に自分の事などどうでもいいようで、”出て行ってくれるなら何でも良い”と面と向かって言われたほどだ


ユイ「ずっと一人で生きてきててさ、幸せになるためにお金貯めようと必死で内職とかしててさ、夢とか、目標とか持ってなかったんだ」

ユイ「その日を生きるのに精一杯で、明日の事なんて不安しかなかった」

ユイ「当たり前か……」


ユイ「私はお父さんとお母さんを嫌ってるフリなんかしてたんだもんね」


ユイ「二人の事一生懸命思い出さないようにして、私は二人のことが嫌いだって言い聞かせてさ……」

ユイ「ははっ、過去から逃げてるつもりで、結局過去にしがみついたまんまなんだもん」

ユイ「先の事なんか……考えられるわけなんか無いか」


墓石に刻まれた文字にあった苔も取り終わり、タオルを水で濡らして拭いていく

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:28:46.49 ID:2hd6HV4L0<>

ユイ「お父さん、夜遅くまで働いて養ってくれてありがとう。暇な時に一緒に遊んでくれてありがとう」


ユイ「お母さん、勉強教えてくれてありがとう。料理もいつもおいしかったよ」


ユイ「お父さん、お母さん、私を生んでくれてありがとう」


ユイ「お父さん、お母さん、私のこと、愛してくれてありがとう」


ユイ「今までお墓参りに行かなくてごめんなさい」


ユイ「今まで二人の事、嫌な両親だったなんて言ってごめんなさい」


ポタッ  ポタッ


ユイ「今まで、二人の事……私のお父さんと……お母さんじゃないって、言って……ごめんなさい」


ユイ「本当に、ごめんね……もう、嫌いになんて……ならないから」


ユイ「お父さんもお母さんも……私の、自慢の両親だから……」




ユイ「二人とも、大好きだよ」



<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:34:59.61 ID:2hd6HV4L0<>

『ソッカ…ソレジャ、イチゴウクン……コレカラモ、ヨロシクネ!』

『♪〜♪〜〜♪♪〜』


死神「っしゃあああ!!」

メイド「無事エンディングを向かえましたね」

死神「いやぁ、ここまでくるのにまさか23回もBAD行くとかマジで鬼畜だなこのギャルゲー」

死神「っていうかお前……主人公の名前”下僕一号”って……」


普通は適当に名前を決めるか自分の名前を入れるべきだというのに、なぜ人の名前ですらないこの名前にしたのだろう

好感度が一定以上上がらないうちは苗字で呼ばれるため”下僕君”とか”下僕”とか、ヒロイン達がそう呼ぶたびに悲しくなって来るのだ


死神「お前さぁ、いくらなんでもこれはないぞ」

メイド「しかしマスターにそう呼ばれている以上、これが私の名前です」

死神「馬鹿野郎」


こつん

とメイドの頭をペットボトルの底でつつく


死神「俺がやった”名前”を忘れたってのか?確かにお前の事はそっちの”名前”で呼ぶ事も少ないが」

死神「あれが”お前の名前”って事くらい忘れる俺じゃねぇんだぞ」

メイド「……承知しました。次からはそのように」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:41:27.74 ID:2hd6HV4L0<>

男とメイドが会話を終えると同時に、ユイが門を開けて出てくる


ユイ「ごめん、遅くなっちゃった」

死神「……なんだ、やっと終わったのか」


遅いぞと言わんばかりにユイの顔を見る


死神「……お前」

ユイ「何?」

死神「……いや、別に良い」


ユイは帰り際に近くの水道で顔を洗っていたが、赤く腫れたそれを誤魔化しきれていなかった、男はすぐにユイが泣いていた事が分かった

だが、そこで泣いていた事を一々聞くことも無いだろうと判断した男は、あえて触れずに本題に入る


死神「さて、それじゃあ聞かせてもらおうか」

死神「決心はついたか?」

ユイ「……うん、でも、その前にさ、アンタに聞きたいことがあるんだけど」

死神「あ?」

ユイ「正直に答えて。アンタ、約束は守ってくれるの?」

死神「……内容次第だが、一度約束した以上俺は絶対に約束は守る」

死神「神様だからってより、これは俺自身で決めている事だ。だから、安心して言え」

死神「お前は俺に何を望もうってんだ?」

ユイ「…………」

ユイ「私は……アンタがなんで世界征服って目的を掲げているのか、それを知りたい」

ユイ「どんなつもりで世界征服なんていってるのか知らないけど、私は正気の沙汰じゃないと思ってる」

ユイ「でもまぁ、アンタの考え次第じゃ付いていってやってもいいかなって思ってる」

ユイ「最高の幸せっていうのも、興味あるしね」

ユイ「でもその代わり―――――」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:47:06.44 ID:2hd6HV4L0<>

死神「いいだろう。約束してやるよ、伊寺ユイ」

ユイ「……そ、じゃあこれからしばらくよろしくね」

死神「ふん、精々期待を裏切らない程度に頑張るんだな。言っとくが、アウトウォールじゃ今までどうりの生活を送れると思うなよ」

ユイ「分かってるわよ、それくらい」

死神「ならば良い、行くぞ、下僕一号、二号」


男はユイの肩を叩き、歩き出す

その後ろをメイドはPSPの電源を切ってスカートにしまってついて行く


死神「?」


がユイはその場から動かず、じっと立ったままだった

ユイが付いてこない事に気づいて男が振り返ると、まるで男とメイドを見送っているかのようにこちらを見ている


死神「おい何やってんだ、ついて来い。お前の家に行って、着替えとか持って行きたい物とかさっさとカバンにでもつめて外に出るぞ」

メイド「荷物は私が持ちましょう」

ユイ「…………」

ユイ「ねぇ」

死神「あ?」

メイド「……」



ユイ「下僕二号って、誰のこと?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:49:44.70 ID:2hd6HV4L0<>

死神「は?」


男はその一言に虚を突かれたのか、自分でも普段なら絶対にしないであろう間抜けな顔でユイを見る


死神「いや、お前何言って」

ユイ「え?私アンタの下僕になるなんて一言も言ってないわよ?」

死神「え?……え?」


益々混乱し始める男の肩をポンっと叩き、ユイは歩いて男を追い越す


ユイ「私はアンタに”付いて行く”って言っただけで”下僕になる”なんて一言も言ってないでしょ?」

死神「……」

死神「な」

死神「なにいいいいいい!!」


振り返った男は走ってユイの前に回りこむ


死神「ちょ、ちょっと待て!なんだソレは!」

ユイ「何って、言葉通りの意味よ」


しれっ、と真顔で答える


ユイ「アンタは世界征服をするってことは人類の敵になるって事でしょ?」

ユイ「だったら、いざって時に私がアンタの野望を打ち砕くためにそばにいた方が人類のためじゃない」

ユイ「アンタの世界征服って目的がアタシの納得できるようなものじゃなかったら、私は迷わず人類の味方に付くつもりよ」

ユイ「”心臓を完全に破壊される”って弱点は、征服される人類にとってはありがたい情報でしょうね」

死神「な、なな」


人間で無い男にとって心臓を破壊されない限り再生するというのは初見の敵にとっては不死身にも見えるだろう

その弱点を知っているのは他でもないこの男とメイド、そしてユイである

しかし、ユイはソレをリークするかもしれないといった

つまり男は今、もしかしたら最大の敵を抱え込んでしまったのかもしれないのだ


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/13(日) 23:54:31.33 ID:2hd6HV4L0<>

死神「て、てめぇ!」

ユイ「あれ〜?何その顔。今にも私をどうにかしたいって感じね」

死神「ぐっ」

ユイ「無理よね、アンタは約束の都合上私を殺せないものね」

ユイ「いえ、この場合は契約って方が状況としては合ってるのかもね、まぁ約束には変わりないけど」

死神「ぐぬぬぬぬ」

ユイ「それじゃさっさと行きましょ、死神さん。荷物はそんなに多く無いからすぐに帰れるわよ」


ユイは再び男を前を通り過ぎて行く


死神「お……おのれぇ」ギリギリ

メイド「マスター」


ユイの後姿をみながら歯軋りする男の横にメイドが並んで小声で問う


メイド「あの女、殺しましょうか?」

死神「………………大馬鹿野郎」

ゴンッ


男はメイドの頭に拳骨を振り下ろす


死神「くくっ……ふはは!ふっはっはっはっはっはっは!!」


さきほどまでの焦りを吹き飛ばすように男は笑い


死神「いい度胸だ!下僕二号!!」


走り出し再びユイの前に立ちはだかる


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/14(月) 00:00:45.04 ID:GXVylMO20<>

ユイ「だれが下僕よ」

死神「つまり!俺がお前から進んで”下僕にさせてください”と言わせればいい!そういう訳だ!!」

ユイ「…………うん、まぁそうなるわね」


ユイが笑うと、男もにやりと笑みを浮かべ



死神「ならばしかとその目に焼きつかせてやる!!この俺の生き様を!!世界征服という目的の真意をな!!」


死神「精々土下座して頼み込むシュミレーションでもしておくんだな!!!」


ユイ「上等よ!!」



ユイが男に望んだ事は唯一つ



月に一度でもいい


必ずユイを両親の墓参りに連れて行かせてほしい


男はそのための協力を惜しまない



ただ、それだけだった



<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/14(月) 00:02:40.72 ID:GXVylMO20<>









第一章『契約なんてまどろっこしい!』   終了









<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/14(月) 00:06:27.35 ID:GXVylMO20<>
第一章登場人物




【普通じゃない主人公】 死神


本名:不明

年齢:(自称)一万年と二千年前から存在している

目標:世界征服

容姿:ジャケットを羽織っっている。三白眼が特徴的


【ヒロイン】 ユイ


本名:伊寺ユイ

年齢:16

好きなもの:両親


W 何でそんな事教えなきゃならない訳?



【ロリは正義】 メイド


本名:(自称下僕一号)あるにはあるが今のところ不明

趣味:ギャルゲー

容姿:メイド服に猫耳カチューシャの無表情の幼女

B:貧乳です
W:ほどほどです
H:そこそこです

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/14(月) 00:06:58.03 ID:GXVylMO20<>
投下終了です。 <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/14(月) 00:12:46.87 ID:GXVylMO20<>
次回より二章です。

読み返してみて誤字脱字の多さにがっかりです、ちゃんと確認はしてるのに……

とにかく完結まで程遠いですが頑張ります。

ネタバレにならないていどの質問、感想などありましたらヨロシクお願いします

乙してくださる方、レスいてくださる方々に感謝します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/14(月) 00:17:37.83 ID:cr/UUiijo<> 乙
期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2012/05/14(月) 00:26:44.29 ID:u8eoJVjeo<> 乙 <> ◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/05/14(月) 08:01:04.09 ID:GXVylMO20<>

追記です。

第一章登場人物


【筋!肉!超!美!】マッチョ


本名:ロミオ

職業:人攫い

最も美しいと思うもの:自分の肉体


【AIBO】相棒

本名:ジュリエット(だが男)

職業:人攫い

ひそかに鬱陶しいと思うもの:マッチョの肉体自慢


二人の共通点:ぶっちゃけかませ犬である事 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/11(月) 00:38:51.79 ID:fgfb42pIO<> はよ <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/11(月) 08:14:17.69 ID:2ipt0nJy0<>
ばばんと生存報告

二章の書き溜めが思いのほか長くなりそう(?)なので全部書き溜めるより小分けしたほうがいいと気づきました

一週間以内に投下します。

>>87
お待たせしてすいません
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福島県)<>saga sage<>2012/06/11(月) 10:24:13.89 ID:y2mhLn8N0<> 乙です!
こういう異能系のお話、嫌いじゃないわ!嫌いじゃないわ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/12(火) 15:58:48.28 ID:ZvMiPmqIO<>      ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
  ||::/ <ヽ∞/>\   |::::::;;;;::/  |::::::;;;;::/
  ||::|   <ヽ/>.- |  |:と),__」   |:と),__」
_..||::|   o  o ...|_ξ|:::::::::|    .|::::::::|
\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
.||.i\        、__ノフ \|    |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜 <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 14:25:00.74 ID:QZ4WU7cN0<>
はい、お待たせしました。短いと思いますが本日投下します!

>>84>>85>>89
そういってもらえるだけでなによりです。

>>87>>90

お待たせしました <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 20:45:19.72 ID:QZ4WU7cN0<> 投下します
<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 20:53:04.14 ID:QZ4WU7cN0<>








第二章『名状しがたき秘境の住人達』







<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 21:02:12.73 ID:QZ4WU7cN0<>

〜〜〜〜〜アウトウォール・チバエリア〜〜〜〜〜


帰りに結界24層(中略)を潜り抜け、外に止めてあった装甲車に揺られる事1時間、男曰くの秘密基地に到着する

すっかい日も落ちきってしまい、街頭も無い辺りでは暗闇に包まれていたため付近の様子は良く分からなかったが

秘密基地、というのが一体どれを指しているのかは分かったのは暗闇に目がようやっと慣れてきた頃だった


死神「着いたぞ、ここから俺たちの秘密基地だ」

メイド「……」

ユイ「……」


装甲車から降り、”それ”を見て、ユイは正直に言う


ユイ「ただのアパートね」


バッサリと言ったが、ユイの住んでいたオンボロアパートよりかはマシなレベルのアパートであった

暗くてよく分からないが、階段は外付けの二階建て、部屋は10ほどあるように見える


死神「はっ!なんだその期待が外れたような言い方は?まるでもっと豪華なものだと思ってたようじゃないか」

ユイ「まぁアンタが秘密基地って言うくらいだから、外観とかあからさまに(趣味悪そうでイタイかんじの)すごそうなのをね」


今日会ったばかりのお前に男の趣味が分かるのかと言われればユイも返答に困るが

少なくとも、地味を好まない派手好きな性格っぽそうとは思えたのだ。屋根の上にしゃちほことか、普通に付けそうなくらい派手好きな


死神「はは!まぁ確かに俺もそれっぽく改造してみたかったんだが、大家が許さなくってな」

ユイ「え?アンタが大家じゃないの?」


”俺たちの”などというくらいだからてっきり、というか、この男が他人に”借りる”という行為をするような男にはユイには思えなかった

というか、大家がいる事自体にも驚きだが


死神「ふん、その辺の話は後だ、今日はもう寝るぞ。下僕一号、車停めとけ」

メイド「了解」


メイドは装甲車に乗り込み、装甲車をアパートの傍に停めに行く



<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 21:10:07.14 ID:QZ4WU7cN0<>

死神「ほらよ、お前の部屋の鍵だ」


鍵を放り投げ、アパートの一番右側を指差す


死神「あそこがお前の部屋。布団とかは寝袋があるからそれ使え」

ユイ「ね、ねぇ」


鍵を受け取ったユイが腹をなでながら


ユイ「その、晩御飯は?」


昼間のことがあってユイは昼食が食べられず、夕食も食べていなかった。それは男もメイドも同じだったのだが


死神「あ?ねぇよそんなもん」

ユイ「そ、そうよね……」


まぁ、アウトウォールではその日の食事も満足に取れないといわれているらしいし、その辺りの期待は余りしてはいなかったが

一日に二食も抜いていてはさすがにキツイ。がっかりした様子のユイに男は


死神「安心しろ。明日からは絶対に食べられるぞ」

ユイ「……どういうこと?」

死神「明日になれば分かる。それとホラ」


ポッケから飴を取り出して放り投げる


死神「今日のところはそれで我慢しろ」

ユイ「あ、ありがとう」


ちなみに味はイチゴ味だった

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 21:27:13.71 ID:QZ4WU7cN0<>
〜〜〜

ガチャ バタン

ユイ「あ、広い」


部屋の広さは10畳

トイレと水道があり、部屋の隅に布団の変わりに寝袋があった


ユイ「……」


ここが今日から自分の部屋、これからこの部屋で毎日暮らすことになる

荷物を適当置いて、やる事なんてないのでさっさと寝巻きに着替えて寝袋に入る。寝袋で寝るのは初めてではあったが


ユイ(……意外と寝心地いいわね)

ユイ「…………」

ユイ「……」






ユイ「……zzzZZZ」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 21:39:02.01 ID:QZ4WU7cN0<>

―朝―












ぐぎゅぅ〜〜〜


ユイ「!」パチ

ユイ「…………」


目覚めて早々ユイは自分の腹の虫によって起きてしまったことに恥ずかしく思う


ユイ(……落ち着け、お腹がすいてるのは確かだけどそれは昨日昼と夜のご飯を食べていないだけで私がハラペコキャラな訳じゃないうん!)

ユイ「……」

ユイ「さっさと起きよう……」


言い訳じみた事を言っていると余計恥ずかしくなるのでやめたユイだった


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 21:50:01.18 ID:QZ4WU7cN0<>

寝巻きから着替えて外に出る

昨日は辺りの景色が全く分からなかったが、アパート付近は瓦礫や廃材の山に囲まれていた

地面にも砂利のようにコンクリート片が敷き詰められており、元の地面がアスファルトなのか土の地面なのかも分からない


ユイ「すぅ〜〜〜はぁ〜〜〜〜〜」


深呼吸をして大きく体を伸ばして眠気を飛ばす。緑に囲まれた森のように清らかな空気とは行かないが、悪くないかんじはした


ユイ「ふぅ……そういえば、私以外にも誰かいるのかな?」


と、左に顔を向ける。扉は自分の部屋のを含めて5つ。残りの部屋にはもしかしたら人が住んでいるのではないだろうか

もしかしたらあのメイドの子ように下僕にされている人もいるんじゃないだろうかと考えても見たが、あの男は自分を”二号”と呼んでいた

ということは、今のところあの男の下僕は他にはいないという事だ

ならば、これから同じアパートで住むのだから挨拶くらいはしておくのが礼儀だろう

そう思ってとりあえず隣の部屋の扉をノックしようと足を向けようとした時


バァアアアン!

ユイ「!?」


扉が吹っ飛んだかと錯覚させるほどに勢い良く扉が開いた



??「オッハヨオオオオオオオオオォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!」


そして、上下ジャージを来た女が飛び出してくる


ジャージ女「おはよう朝日っ!!今日も元気に働きませんっ!勝つまではあああああ!!」

ダダダダダダダダダダダダダダ


ジャージの女は意味の分からない事を叫びながら階段を踏み抜く勢いで駆け上がり二階へとあがる


ユイ「……え?」


今のは何だ?

隣の部屋に住人がいたのは確認できたが訳の分からない事を言いながら上へと駆け上がってしまった


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 21:58:32.61 ID:QZ4WU7cN0<>

がちゃ


呆然としていると、一番奥の部屋から男が欠伸をしながら出てくる。片手にアタッシュケースを持っていた


死神「ふあ、あぁ〜〜〜あ……ん?」

死神「よう、下僕二号」

ユイ「……誰が下僕よ」


思考が戻ったユイはこの男ならさっきのジャージ姿の女について何か知っているだろうと思い


ユイ「あのさ」

死神「あ〜質問とか後にしてくれ、朝飯食った後ならいくらでも答えてやるから。とりあえずお前も上がれ」


そういうと男は階段を上がっていき、ユイもそれに続く


ユイ「うわっ!」

死神「あ〜腹減った」


階段を上がるとそこには扉があった。一階にあるような金属でペンキを塗られた重々しい扉ではなく、木製のガラスのはめ込まれた扉だった

他に扉は無く、中に入るにはこの扉からしか部屋に入れない。いや、部屋というよりは


ユイ「き、喫茶店!?」


壁はガラス張りで、中の様子が透けて見えるようになっており。中はユイの部屋のような畳や押入れなどが無く、奥にはカウンターがあり

すぐ傍にはまさしく喫茶店にあるような机や椅子もある。まるでアパートの上に喫茶店をそのまま乗っけたかのような奇妙な光景だった


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 22:05:34.87 ID:QZ4WU7cN0<>

ユイ「なにこれ」

死神「見たとおり喫茶店だ。ほら、お前も入れ」

カランカラン


扉を押して男が入る

カウンター席には先ほどユイがみたジャージ姿の女と、隣に包帯だらけで黒い半そでのパジャマを来た少年がいた

そしてその二人を前になにやら料理をしている20そこそこの女がいた。恐らく店主だろう

短めの金髪、蒼い目、首にはスカーフ、バッチのついたベストを羽織り、肩には空のホルスターをぶら下げた

ウェスタンファッションのカウガールという言葉が合いそうな服装だった


女店主「やあ、おはよう。昨日は随分遅かったんだね」

死神「ほっとけ、それとメシ」

女店主「はいはい」


男は子供の隣に座ってケースを足元に置き、ユイも隣に座る


女店主「ん?」

ジャージ女「ぬぬ!?」

包帯少年「……」


そして、ユイの存在にようやく三人が気づく


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 22:31:43.61 ID:QZ4WU7cN0<>

女店主「やあ、いらっしゃい。ごめんね気づかなくって」


にっこり笑って店主が牛乳の入ったコップを差し出す


ユイ「あ、いえこちらこそ(?)」

ジャージ女「……ねぇ」

死神「あ?」


ジャージの女が男を呼び、男が振り向くと女は軽蔑したような目で


ジャージ女「君、最低だね」

包帯少年「……ふん」

死神「あぁ?」

ジャージ女「いやさ、いくら下僕が出来無いからって誘拐はちょっと」

死神「してねぇよ!コイツはれっきとした下僕だ」

ユイ「いや、下僕じゃないし」

ジャージ女「ほら見なさい!大丈夫だよ、この朝ごはん食べたらすぐに家に返してあげるからね!」

包帯少年「今すぐ助ける気はないんだ」

死神「まてコラ俺の下僕に何をする」

ジャージ女「黙れこの寂しんぼめ!!」

死神「誰が寂しんぼだ引きこもりとニートを足して2で割った引きニートには言われたくねぇ」

ジャージ女「私は引きこもりじゃない!働かない限り負けない”ニート戦士”よ!!」

包帯少年「うるさいよ頭の上で低レベルな喧嘩すんなよ耳が腐る」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 22:39:43.37 ID:QZ4WU7cN0<>

女店主「はいはいそこまで。朝ごはんだよ」

女店主「はい、フレンチトーストと目玉焼き」

ジャージ女「ワオ!いただきま〜す!!」

女店主「はい、サンドイッチ」

包帯少年「ん」

女店主「はい、ご飯と味噌汁」

死神「おう」


ひとまずその場を収めた店主が今度はユイの方を向き


女店主「それで、君はどちら様?見たところアウトウォール暮らしに馴染めているようにも見えないけど」


ちらっ、と男の方を見て


女店主「まさか本当に誘拐されたのかい?」

死神「違うつってんだろ」

ユイ「え〜と……まぁ色々事情がありまして――――」


ユイはこれまでの事を話した

今まで自分が自分がどんな風に過ごし、生きてきたのかを。そして男と出会いと、ここに来るまでの全てを


女店主「……知り合い以上下僕未満の関係ってことでOK?」

ユイ「…………間違ってはいないかと」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 22:47:33.83 ID:QZ4WU7cN0<>

女店主「なるほど、ん、分かった。君が今いる部屋は自由に使っていいよ。今日から君もこのアパートの住人だ」

ユイ「ありがとうございます」

女店主→アリス「私はこの店のオーナー兼このアパートの大家の”鍵原アリス”。毎日の食事は私がタダで振舞ってるから気兼ねなく注文してね」

死神「ちなみに家賃は気にするな。俺が払うから」

ユイ「え、いいの?」


男の言葉に信じられないといった表情をする


死神「はっ!下僕の一人や二人の家賃くらい払えなくて主人が務まるか!」


ふん、と自慢げに鼻を鳴らす


ジャージ女「マジで!?じゃぁあたしも下僕になるから家賃払って!」

死神「ヒモはいらん」

ジャージ女「ヒモじゃない!ニートよ!」

包帯少年「うるさい。食事の時くらい喧嘩はやめてよ」

ジャージ女「……ぐぬぬ」

死神「ふっ」


男は勝ったとでも言いたげに笑みをこぼす。どうやらこの二人は日ごろから些細な喧嘩をしているようだった


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 22:54:03.39 ID:QZ4WU7cN0<>

アリス「それで、そこにいるは自称”ニート戦士”の”浮和(ふわ)ユウカ”と同部屋の”十枷(とがせ)キリ”」

ジャージ女→ユウカ「よろすくに〜☆」

包帯少年→キリ「…………ふんっ」


ユウカは手にトーストを持ちながら手を振り、キリはユイの方を見もせずにサンドイッチを黙々と食べ続けている


アリス「で、君は何食べる?ご飯派?それともパン派?」

ユイ「あぁ、それじゃトースト3枚お願いします」


了解、と頷くとカウンターの下から食パンを取り出し背後にあったトースターに入れる


死神「ごちそうさん。……さて、大家、”アレ”の支払い今日だったよな」


お椀と茶碗を重ねて箸をおき、確認を取る


アリス「あぁ、そうだよ。もしかしたら忘れてるんじゃないかと思ったんだけど」

死神「なわけねーだろ、ホラよ」


足元においてあったケースをカウンターに置き、ダイヤル式のロックを外して中を見せる。中にはぎっしりと札束が詰まっていた


ユウカ「うわ!なにそれすごい!!」

死神「全部で130万ある」

ユウカ「すごっ!」

キリ「お前はさっさと食いなよ」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 23:02:58.59 ID:QZ4WU7cN0<>

アリス「ほほう、どれどれ」


す、とケースの中に詰まった札束をなでると次々と札束が宙へと浮かび上がる。そして、パラパラパラパラ!と、素早くめくれていく


ユイ(物体操作の魔法……この人も魔術師なんだ……)

アリス「ふむ……ふむ……ふむ」

パラッ!


最後の札束が全てめくれると宙に浮いていた札束は次々とケースの元の位置へと戻っていく


アリス「確かに130万あるね」

死神「だから言っただろ」

アリス「けど」

バタン


ケースを閉じカウンターの下へと下ろす。同時にトースターがチーンとなり、パンが焼けたことを知らせる


アリス「残念ながらあと70万足り無いね」


トースターからパンを取り出し、マーガリンを塗りながらそう言う


アリス「はいトースト」

ユイ「ありがとうございます」

アリス「で、どうするつもりだい?期日に間に合わなかったら倍にして払うって約束だけど」

死神「ふん、今はとりあえずあるだけ払っておくのさ。今日中にきっちり残りの70万払ってやるさ」


そう言うと男は席を立ち喫茶店から外に出ようとする


アリス「どこ行く気だい」

死神「心配しなくても踏み倒すつもりはねぇよ、部屋に戻るだけだ。下僕二号!30分後に俺の部屋の前に来い」

ユイ「だれが下僕よ。……っていうか何で?」

死神「いいから」


振り向く事もせず、そのまま扉を押して階段を下りていった


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 23:12:14.46 ID:QZ4WU7cN0<>

アリス「ふ〜ん……まぁ、アテはあるみたいだから大丈夫っぽいかな」

キリ「ご馳走様」

ユウリ「ゴチ〜」


二人が皿をカウンターに乗せる


ユイ「あ、私もご馳走様です」


そしてユイも皿をカウンターに乗せる


アリス「え」

ユウカ「え」

キリ「……」

ユイ「え?」


ぴた、と店の中が静まりかえる


アリス「えっと、ユイちゃん?」

ユイ「は、はい?」

アリス「いつ食べ終わったの?」

ユイ「へ?いや、さっきですけど」

(((早っ)))


思わず口に出そうだったところを皆が押しとどまる。そんな三人の様子に一人意味が分からないといった顔をするユイ

そして、突然ユイは服を引っ張られる


ユイ「え?」


振り向くと、黒髪蒼目の幼女がじっとこちらを見上げていた


幼女「…………あそべ」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 23:18:42.40 ID:QZ4WU7cN0<>

ユイ「え?」

アリス「こ〜ら、”遊んでください”でしょ」


突然現れた可愛いげのある幼女に混乱していると、アリスがカウンターを上半身を軽く乗り出して言う

幼女がアリスの方をちらっと見るとペコリと頭を下げる


幼女「あそんでください」

ユイ「あ、……うん。いいけど……あのすいませんこの子は」

アリス「可愛いでしょ」

ユイ「はぁ、まあ確かに」


何故だか誇らしげに胸を張ってニコニコしだしたアリスにユイは首をかしげて、ハッ!と、気づく


ユイ「もしかし」

アリス「そうウチの子なの!!名前はナナカ!」


質問が終わる前に言われてしまった


アリス「いや〜ごめんね、ウチの子は遊び盛りでさ〜」

ユイ「」

アリス「?」

ユイ「え」

ユイ「えええええええええ!!」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 23:31:46.92 ID:QZ4WU7cN0<>

頭の中が驚きで埋め尽くされながら、幼女、ナナカとアリスを交互に見比べる


ユイ「え、あのすいません、アリスさんっていくつですか?」

アリス「ん?24だよ」

ユイ「な、ナナカちゃんは?」

ナナカ「……みっつ」


つまり逆算してアリスは21で子供を生んだという事だ


ユイ「…………ええぇ」

アリス「そんなに驚く事かい?」

ユイ「え、だって」


ここは首都の壁の外、アウトウォールである。秩序も法もなく”魔物”や”新たな魔王”達が住処とするこの場所では国の保護も保障も行き届かない

力を持たない者、持つ者からの加護が無いない者は、力ある者に搾取と理不尽が与えられ続ける場所だ

そんな場所に、まだ物も知らないような幼い子と共に母親がいるという事にユイは信じられなかった


ユイ「……なんで、こんな場所に」

アリス「……ふむ、君みたいな子に言われるのは初めてだけど、その疑問は最もだね」

アリス「詳しくは話せないけど、まぁ……私には首都暮らしは少々息が詰まるっていうかね、性に合わないんだよ」


食器を洗いながら、肩をすくめてなんでもないようにそう言う


ユイ「でも」

ユウカ「心配いなくてもいいよ〜ユイちゃん」


そう言いながらユウカはナナカを抱っこしようとして後ずさりされたので諦める


ユウカ「こう見えてアリスは結構強いしね」


確かに、先ほどの魔法を見る限りアリスも魔術師だということは分かる。だがそれでもユイの不安は拭いきれない


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 23:48:53.77 ID:QZ4WU7cN0<>

アリス「それほどでもないよ。むしろウチの旦那のほうがよっぽど強いしね」

ユイ「……え?」

アリス「ん?子供がいるんだから夫がいて当然でしょ?」

ユイ「いや、そうじゃなくて……その旦那さんって……どこにいるんですか?」

アリス「う〜ん……月に一度手紙は送ってくるけど、どこにいるのかまでは分かんないんね」


まぁ、どこにでもいるんだけどね。と、ぼそりと呟いたがユイには聞こえなかったようで


ユイ「そんな!家族を置き去りにするなんて!」

アリス「ユイちゃん」


アリスはユイを止める。


アリス「私もそこは余りいい事じゃないとは思うけどね、あの人もあの人なりにちゃんと私達の事を思ってしてる事なの」

アリス「あの人は私達をただ置いてけぼりにしたんじゃない。そこは私が一番良く分かってる」

アリス「だからまぁ、あの人をひどい人だなんて思ってほしくないな」

ユイ「!」


ユイは自分を恥じる


ユイ「……ごめんなさい。……今日会ったばかりなのに余計な事」


”家族”という事においてはユイにも思うところがあるとはいえ、これから一緒に暮らしていく住人の事情にずけずけと突っ込みすぎた

アリスの家にはアリスの家の事情があるのだ


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/16(土) 23:55:57.58 ID:QZ4WU7cN0<>

ナナカ「あそべないのか?」


下を見てみると、ナナカが小首をかしげてユイを見ていた


ユイ「……ん、ごめんね。さ、何して遊ぼっか?」

ナナカ「おせろ」


手に持っていた携帯式のオセロ盤を見せ、机の上に乗せる


ユウカ「ユイちゃんユイちゃん」

ユイ「はい?」


ユウカに呼ばれて振り向くとにやにやしながらユウカは


ユウカ「子供だからって遠慮せずにやりなよ」

ユイ「え?いや、でもさすがにそれは……」


3歳の子供を相手に本気を出すなど大人げ無い(大人ではないが)にもほどがある。そんなユイの気持ちを読み取ったかのように


ユウカ「うんうん。始めは皆そう言うんだよ。あたしもそうだったしね」

ユイ「……?」


〜〜〜〜〜〜


ユイ「…………はい」パチ パチ、パチ

ナナカ「うり」パチ パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ

ユイ「あ、あれ?」


オセロを始めてから十分

ユイはすでに追い詰められていた。おかしい、こんなはずじゃなかったのに。最初は自分が有利だったはずなのに、すでに角を取られつくされている

ユイが長考してコマをおいてもナナカは間を空けず置いてくる。そのたびにどんどんボードが黒く染まっていく


ユイ「こ、こんなはずは!」


〜〜〜〜〜〜〜〜

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/17(日) 00:04:22.91 ID:iuW49GIz0<>

ユイ「なんなの……何なの……」

ナナカ「かち……ぶいっ」


勝者ナナカ

ユイは机に突っ伏してまま未だに負けたことに信じられなかった。一方ナナカはアリスに勝利のVサインを出していた


アリス(ピースするナナカ可愛い〜)


アリスはその仕草にうっとりしながら頭を撫でている


ユウカ「ね?言ったでしょ」

ユイ「なんで、なんでこんなに強いんですか?途中から本気出しましたよ?」

ユウカ「まぁ、予想は出来てたんだけどね……なんせナナカちゃんの頭よさは父親譲りだから」

ユイ「……その人って、どんな人だったんですか?」


顔だけユウカを見ながらユイは聞いてみる。ユウカはう〜んと少し悩むようにして


ユウカ「もし敵にしたら一族郎党根絶やしにして心も体も徹底的にへし折っておきながら正体が絶対にばれない完全犯罪が出来る人で」

ユウカ「もし味方にしたらこれ以上なく頼りになるけど否が応でも命を掛けさせられてピンチじゃなくても絶体絶命の戦いを強制させる人で」

ユウカ「もし無関係でもその場に偶然居合わせただけで利用するだけ利用しておいて巻き込んだくせに無関係だからという理由で何の説明しない人?」

ユイ「何その人怖い」


顔も知らない男にユイは恐怖しか感じなかった


アリス(人の夫をそんな風に言わないでよ…………って言えたら良いのに)ホロリ

ナナカ「……どした?」


涙をふきながら、アリスはナナカの頭を撫でていた

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/17(日) 00:14:19.38 ID:iuW49GIz0<>

キリ「おい」


ユイに元に全身包帯まみれの少年、キリが近づいて壁の時計を指差す


キリ「いいのかよ。行かなくて」

ユイ「え?」


振り返って見て見ると、時計の針は既に男が指定していた時間に迫っていた


ユイ「わ!やば!」

ガタン


慌てて立ち上がり扉の方へ走ってノブを掴もうとしたところでアリスが呼び止める


アリス「ユイちゃん」

ユイ「何ですか!?」


はやる気持ちを抑えてアリスの言葉を待つ。アリスはこれまでとは違ってその表情は真剣そのものだった


アリス「彼、死神君を”良い人”だなんて思っちゃだめだよ」

ユイ「……え?」

アリス「彼は”神”だ、本当なら私達のような”人間”なんか相手にしないはずの神なんだ」

アリス「だが彼はまるで私達のように平然と同じように暮らしている。けど、彼を決して”人”として見ちゃいけないよ」

〜〜〜

ユイ「……何だったんだろ」


喫茶店をでたユイは階段を下りながら先ほどの言葉の意味を考える

あの男が死神、死を司る神だというのはあの男から聞いた。聞いて”ソレらしき力”も見た

再生する肉体、魂とやらを見る目があること、死神らしい”死なせる”大鎌

死神はこうだという確定出来る物をユイは知ら無いが、魔法でも”魔王”としての力では説明出来無い以上、あの男が死神ではないと否定は出来無い

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/17(日) 00:20:26.72 ID:iuW49GIz0<>

ユイ「人間じゃないってことくらい、分かってるけど……」


だが、そんな分かりきった答えを出せるようなこと言う必要も無いだろう。もっと別の意味のはず……


ユイ「う〜〜〜ん」


あれこれ考えているうちに、階段を下りきって男の部屋、アパートの左端にある部屋の扉の前に立っていた


ユイ(まぁ、あとで考えるか)

ユイ「おーい!来たわよ〜」


扉をノックしながら大声で呼ぶ。が、しばらく待っても返事も近づく音も聞こえない

一応ぎりぎり間に合ったはずだ。文句も言われる事もないはず。というか、来いと言ったのにまさか本人がいないなんて事は無いはずだ


ユイ「…………まさか本当にいないとか?」


そう思ってユイがドアノブに手を伸ばして捻ってみると


ユイ「あれ?……開いてる」


不思議に思って扉を開けると


死神「確保ーーーーー!!」

メイド「了解」


大声を出して自分に指を刺す男と飛び掛ってくるメイドが目に入った。メイドの手には白い帯状の布が握られており、それを使ってユイの顔を覆う


ユイ「え!?えぇ!?」


あっという間に視界を防がれ、混乱しているユイをまるで流れるようにメイドが手足を縛っていく。手馴れているなんてものじゃなかった

乱暴さも、荒さも無い、迷いも無かった


死神「悪いな、下僕二号」


視界と手足の自由を奪われ、思考がまとまらないユイの耳に聞こえてきた男の言葉は、混乱を取り除くには十分すぎるものだった



死神「俺、お前を売る事にしたから」


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/06/17(日) 00:23:41.87 ID:iuW49GIz0<>

今回はここまでです。なんでこんなに書き溜めがすぐに出来無いんですかね?

次はもっと早く更新したいです。誤字脱字には気をつけておりますがもしあったらすいません。

感想、質問などありましたらお願いします。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2012/06/17(日) 01:25:32.06 ID:SM5FiorJo<> 乙

どうしたらナナカたんをぺろぺろできますか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/17(日) 01:38:23.20 ID:Me11WcKIO<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/17(日) 15:52:35.86 ID:juTyUN+Fo<> 乙
ナナカたんペロペロ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/18(月) 12:28:58.35 ID:hRm++NcIO<> 乙
厨二病っぽくて大変良いぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/18(月) 18:41:59.17 ID:s1gLrn4DO<> 乙

台詞や言い回しが厨だけど面白いよ
更新期待してます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/12(木) 23:44:24.54 ID:Pjb3x/zIO<> そろそろクルー? <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/26(木) 22:09:43.42 ID:5qVAFKax0<>
生存報告っす。

どういうわけか話の流れは決まっているのに文章にするのに苦戦してます

しかし、今月中には投下予定です。

乙してくださる方、更新を期待してくださる皆様に感謝を。

メイドさんから一言です↓

>>115>>117

メイド「同じ幼女な私をペロペロしたがらないとはこれ如何に」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2012/07/27(金) 01:29:36.23 ID:14ZaOhvVo<> >>121
メイドペロペロペロペロペロペロペロ <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 21:42:24.78 ID:o4tkyoEV0<>

セーフ!?

予定どうり投下します!                                       





                                                ・・・短いけど <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 22:00:41.99 ID:o4tkyoEV0<>


         

                                          どれだけ邪魔でも破壊せず



            「死んでしまえ」と言えども手を下さず

                                

                                   法と倫理と理性で縛り
                                     



         破れば罪となって罰を背負い




                                                平和を願えど戦をやめず



                                のっぴきならない事で、或いは憎悪を持って
                         


                         矛盾



   

どうして?                                        なぜ?



             理解不能



  

                                   教えてください




どうして
 
                                  


                                          
            

                         人を殺してはいけないのですか?




<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 22:06:17.89 ID:o4tkyoEV0<>

死神「お前さぁ……何なの?」

メイド「マスターの下僕です」

ユイ「……」


メイド、下僕一号は男の目を見ながら間髪いれずに答える。だが、男はその答えでは満足しない、呆れたような目でメイドを見ている

その様子をユイは”見ていた”


死神「そうだな、模範解答だ……が、今聞きてぇのはそこじゃねぇんだわ。……お前さぁ何で空気読めないの?」

メイド「……現在の酸素濃度は」

死神「そういう事聞いてんじゃないんだよこの馬鹿!小学生みてーな答えだそうとしてんじゃねぇよ!」

メイド「申し訳ありません」

ユイ「何もそんなに怒鳴らなくっても……」


ユイの手足には何も無かった

一瞬にして足首を縛り上げたロープも、視界を覆った布も無く、手首を縛った魔法によって焼き切らせないように可燃物質を染み込ませていた布も無い

ユイはまさに自由の身だった

男はユイの声など耳に入っていないようで、メイドに怒鳴るのをやめない


死神「申し訳ありませんじゃねぇよ、申し訳ありませんじゃ物事は解決しないんだよ」

死神「なんで!あのタイミングで!”マスター、ドッキリ終了は何時でしょうか”なんて聞くんだよ!!バレちまったじゃねぇかよあぁん!!」

メイド「……申し訳ありません」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 22:14:20.67 ID:o4tkyoEV0<>

ユイが自由のみになっていたのは”そういうこと”である。男は初めからユイを売るつもりなんて無かったのだ

昨日の夜から既に思いついていた男はどうやったら信用させたと思わせて裏切ったっぽくなるかと考え

ユイの反応を予想して100パターンくらい悪者台詞を考えてきたのだ、なのに


死神「何で縛り上げた直後に言うんだよ!ドッキリを三秒でネタバレするとか何考えてんだよ!」

メイド「……申し訳ありません」

死神「さっきも言ったよなぁ、それで済んだら俺の”わくわく”は帰ってこねぇんだよ!無限の彼方へフライアウェイしちまってんだよ!!」

メイド「……」

死神「何か言えよコラァ!!」

ユイ「どこにでもいるようなチンピラみたいに怒鳴らない。って言うかアンタそろそろ落ち着きなさい」


メイドと男の間に割って入り男をなだめる


死神「けっ、お前もだ、何で気づくんだよ……もう少し馬鹿だったらばれなかったのによ」

ユイ「あんな台詞聞いてドッキリって気づかない人なんて相当の馬鹿よ」

〜〜〜

ユウカ「きゅっぷいっ!!」

キリ「唾を飛ばすなよ汚いな」

〜〜〜


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 22:21:58.28 ID:o4tkyoEV0<>

ユイ「それで、私を呼んだ理由は何なのよ?まさかドッキリ仕掛けたかったからだなんて言わないでよ」

死神「……まぁ、無いというわけじゃない。車に乗れ、中で話すから。下僕一号!運転しろ」

メイド「了解」


〜〜〜


ユイ「取引?」


男曰く、昨日会った人攫いの二人は壁を出る前からある人物に取引を持ちかけていたらしい。つまりユイはその人物に売られる予定だったのだ

そこで男は自分達を攫い屋に成りすましてその人物に接近し、取引をしようというのだ


死神「運が良かったというべきか、あの攫い屋は相手と顔を合わせてねぇみてぇでな、手紙とか、そんな感じで取引の話を持ちかけてたんだよ」

死神「俺も丁度金に困ってたからな、向こうは本物の攫い屋がボコられてるなんてまだ知らねぇだろうし、成りすますのも容易い」

ユイ「ふ〜ん……」

死神「何だその含みのある”ふ〜ん”は」

ユイ「いや、だってさ」


ユイは所謂ジト目で男を見ながら


ユイ「その取引相手に私を売ろうとしてたんでしょ」

死神「本当に売る気は全く無かったぞ?ただまぁ丁度いい具合にドッキリが思いついたから途中まで騙したまま連れて行こうとはしてたな」

ユイ「……本当にそうなのかしらね?とか何とか言って、実はドッキリがバレた振りして私が抵抗しないようにしてるのかも」

死神「失敬な。信用しろ」

ユイ「昨日出会った男の僅かに積もった信用は吹き消されました」

死神「……なんだお前、怒ってんのか?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 22:32:43.02 ID:o4tkyoEV0<>

ユイ「怒ってない」

死神「……はは〜ん」ニヤリ

ユイ「何よ」

死神「お前あれか、仕掛けるのは構わないけど仕掛けられるのはイヤとか、そういう奴か」

ユイ「別に。冗談でもやっていい冗談と悪い冗談の区別くらいつけてほしいってだけよ」


命を助けてもらった恩人(?)が次の日には人攫い……ドッキリとはいえ人の気持ちを弄ぶようなことをされていい気分ではない


死神「……そっか」

死神「ドッキリ仕掛けるような友達もいないぼっちだったな……お前」

ユイ「失礼ね!!小学校の頃は人気者だったわよ!!」

死神「下僕一号www今の聞いたかwwww小wwwwww学wwwwww校wwwwwwの頃wwwwwwwwwだとよwwwwww」

ユイ「このっ!」

メイド「到着しました」


どうせ心臓を破壊されなければいいのだから顔面を焼いてやろうかと手に魔力を吸収し始めたとき、メイドが装甲車を停止させる


死神「お!着いたか」


男は振り返ってユイが座っているシートを指差し


死神「下僕二号、シート持ち上げてその中にある物出してくれ」

ユイ「誰が下僕よ…………って、何、これ鎖?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 22:49:01.10 ID:o4tkyoEV0<>

男「ようこそ”ロミオ”さん。こうして顔を合わせるのは初めてですが、本日はお互い良い商売が出来るようにしましょう」


薄暗いビルの中、壁際に枯れた観葉植物のあるエントランスホールに入ると白いスーツを着た男がいた

手には小さな宝石が輝く高級感あふれる腕時計をはめ、靴は新品のように磨きあがっり、髪はきっちり整えられており

スーツには埃の一つもついていない


死神「はいよろしく。あんたがヤシマさん?」

男→ヤシマ「えぇ、そうです」

死神「あっそ、んじゃ分かってると思うけど、こっちが”ジュリエット”な」


首を軽く動かしてメイド方を見せる

ロミオ、ジュリエット、というのは先日ユイを攫った攫い屋二人組みの仕事上の名前である


ヤシマ「……ほう、これはまた随分と可愛らしい」

メイド「ありがとうございます」

ヤシマ「ですが」


ヤシマは男に視線を戻す


ヤシマ「たしかジュリエットさんは”男”では?」

死神「……なぁに、アウトウォールじゃ個人情報を晒すのは危険を伴うんでな、たとえ取引先でも用心はしておこうと思ったまでさ」

ヤシマ「そうでしたか。いや失礼しました」

死神「(……あっぶね)」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 23:03:40.68 ID:o4tkyoEV0<>

ヤシマ「それで、そちらが今回の?」

死神「あぁ、そうだ」

ユイ「……」

〜〜〜

ユイ「嫌!絶対嫌!!」

死神「ええぇい我侭言うな!じゃあだれが”商品役”やるんだよ!お前がやらないなら下僕一号がやるしかないんだぞ!」

メイド「……」

ユイ「うっ……」

〜〜〜

ヤシマ「ほう、傷一つ無いとは見事ですね」

死神「当たり前だ、客はどこを見てるか分かんねーからな。顔はもちろん体中のどこを探しても傷なんて無い」


ユイには手首に鎖が巻かれ、そこから伸びた鎖を男が握っていたていた。最初の時と違って目隠しもなく、足にも拘束するものはない

理由は仮に正体がばれた時、戦闘能力が一番低いユイが来た道を戻らせて逃げられるようにするためである


死神「苦労したんだぜ?壁の中に入るのはもちろん傷つけねーように捕まえるのもさ」

ヤシマ「なるほど。喜んでください、見た目も若いし、高値で取引が出来そうですよ」

死神「そいつはありがたい。これまでの苦労が報われるような金額を期待していいってことだな?」

ヤシマ「えぇ、もちろん。こちらへどうぞ」


ヤシマは左側にあった階段へと歩いて行く。どうやらココで取引をするつもりはなく場所を変えるようだ。男達もそれについていく


死神「行くぞ」

メイド「はい」

ユイ(腕重い……)


〜〜〜〜

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 23:15:49.43 ID:o4tkyoEV0<>

ナナカ「えた〜なるふぉ〜すぶりざぁ〜ど!」

ユウカ「ぎゃ〜〜〜〜〜!やられた〜〜〜〜〜〜!!」バタリ

キリ「くっははははははははははははははははは!!!一先ずは見事と言っておこうか勇者ナナカよ!!だが、しかぁあし!!
   我が側近を倒した程度でいい気になるなよ!!我が身は煉獄の炎をこの身に封じておる!!この肉体に巻かれし聖女の毛を織り込まれた
   包帯を剥げば、貴様の十八番のエターナルフォースブリザードはこの身に届く前に蒸発する!!加えて我は堕天使を母に!
   悪魔を父に持つ!既存の物体では我を傷つけるなど不可能だ!!それでも尚我に挑むか!!!!」

ナナカ「むむ……まおーかくごー!」

キリ「ふははははははははははははは!!!こぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおいいい!!小童ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!」

どた ばた どし ばた

ユウカ「いやぁ〜ノリノリだね〜キリ君」


”勇者ごっこ”から一先ず離脱したユウカは、参加する前は子供っぽくて嫌だ等と言っていたキリを横目で見ながらカウンター席に座る


アリス「そりゃ彼もなんだかんだ言ってまだ子供だしね。一人より二人で遊んでいた方が楽しいだろうさ、なんか違う気がするけど」

ユウカ「……ところでさ」


洗ったコップや皿を乾燥機の中に次々入れていくアリスにユウカが問う


ユウカ「なんであんな事言ったの?」

アリス「ん〜?あんな事って〜?」

ユウカ「とぼけないの、あの死神を人としてみない事〜とかどうとか、ユイちゃんに言ったじゃない」

アリス「……あぁ、あれね、ただの嫌がらせよ」

ユウカ「は?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 23:39:35.03 ID:o4tkyoEV0<>

アリス「あ、勘違いしないでね。ユイちゃんじゃなくてあの死神君の方ね」

ユウカ「な〜んだ〜……ってなぜによ?」

アリス「あぁ言っておけば、あの死神君の下から離れやすくなるからさ。ユイちゃんはどうも死神君に対して間違った解釈をしてるみたいだからね」

ユウカ「あ〜なんとなく分かる。一応”恩人”みたいに思ってるとこ有りそうだしね……で、何でわざわざそんな事?」

アリス「ユウカは知らないだろうけど、私はあの死神君が余り好きじゃないんだよ。彼とは少し因縁があってね」

ユウカ「kwsk」

アリス「断る。なんでそんな気分でもないのにあんなムカムカすること話さなきゃならないのさ」

ユウカ(じゃぁ気になるような事言わないでよ……)

アリス「でもまぁ……」

アリス「ユイちゃんをアウトウォールにいさせたくないっていうのが一番かな」

アリス「あの子にはアウトウォールがどういう場所か分かっていない。ここの日常を過ごすことがどれだけ覚悟のいる事なのか分かっていない
    というか、あの子にそんな覚悟が出来るようには到底思えない」

アリス「それはユイちゃんよりも年下のキリ君にも言えることだし、当然ナナカにだって言えることだけど、ナナカには私が、キリ君には”アレ”と
    ユウカがいる。」

ユウカ「……」

アリス「じゃあユイちゃんには誰がいる?死神君?いや、あの死神君はそんな事しない、いや出来無い」

アリス「彼は善なる神じゃないしましてや救世主でもない、死神だ。彼には人間を救う事は出来無いと”あらかじめ”決まってるんだからさ」


〜〜〜〜

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 23:49:45.91 ID:o4tkyoEV0<>

ユイ「ねぇ」ボソ

死神「あ?」

ユイ「アンタ、この後どうすんの?まさかあのヤシマって奴に私のこと渡す気?」ボソボソ


階段を上がる途中、ヤシマに聞こえないようにユイが男に話しかける。男は少し考えた後


死神「心配すんな。目標の金額までもらえたら俺が暴れて下僕一号に金持たせっから、お前はそんときに一緒に逃がす」ボソボソ

ヤシマ「こちらです」


階段を上がるとヤシマが奥の扉を指差す


死神「?……なんかあんのか?」

ヤシマ「あの部屋を掃除させていただきました」

死神「……なんでそんなめんどくさい事してんだよ」

ヤシマ「商人の取引とは清潔な空間で行われるべきというのが私の信条なんですよ、不潔な空間は知らないうちに冷静な判断力や精神を鈍らせる
    そんな状態では公平かつ対等な取引は出来ませんから」

死神「へー」

ヤシマ「……おや、時計がずれてますね」


ヤシマの言葉に男は特に興味も無く返事をする。ヤシマはチラリと腕にはめた時計を見て針を動かす


ヤシマ「……行きましょうか」

死神「おう」

ユイ「……」

メイド「……」


幾つかの扉の前を通り過ぎ、目的の扉の前に立つとヤシマがドアノブに手を掛け、捻る。そして、扉を開ける直前にヤシマが後ろを振り向く


<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/07/31(火) 23:58:49.19 ID:o4tkyoEV0<>

ヤシマ「……私ね、思うんですよ金は全てだと」

死神「あ?」

ヤシマ「いえね、私こう見えても元はどこにでもいるサラリーマンだったんですよ。薄給で働かされて、家庭ももてるような収入も無く
    自分一人で生きていくので精一杯だったんですよ。いつかは独立して会社を建ててやろうと思っていたんですが、中々チャンスに
    恵まれませんでした。そんな時、あの戦争が起きたんです」


あの戦争というのは、誰もが思い浮かべるのは”魔王戦争”の事だろう

魔王戦争によりニホンの経済は大きく低下した。ほとんどの企業は倒産、或いは会社そのものがなくなる等、戦争が終わってすぐのニホンは停止

していたとも言われるほどであった


ヤシマ「私は住んでいた場所が幸いにも首都に近かったためにすぐに避難できました。しかし勤め先は倒産し、私の収入はゼロになりました」

ヤシマ「しかし私にとっては大きなチャンスでした、この無法地帯となったアウトウォールではありとあらゆる商売が出来るからです。例えば
    人身売買とかね」


ヤシマがこの仕事を始めてから、彼の元にはコレまでにはないほどの大金が入ってきた。首都ではアウトウォールで生まれる”新たな魔王”に関する
人体実験の”材料”に、アウトウォールでは首都から攫ってきた人間は労働用や、あるいは魔物から逃れるための”生贄”として必要とされていたために


ヤシマ「ほんの少し前まではこんな商売はニホンでは成り立たなかった、人の命は金では買えないだとか、そんな言葉をまともに信じる
    人たちがほとんどでしたからね」

ヤシマ「結局のところ、人間とはやはり利益を求める生き物なのですよ。己の利益を満たすためならば手段等選ばない、では最も簡単な手段とは何か」


ヤシマ「答えは金ですよ」


ヤシマ「病に侵された体を治すには薬が必要ですそのためには金が必要です。敵を直接手を下さずに殺すには武器と兵が必要ですそのためには金が
    必要です。空腹の腹を満たすには食べ物が必要ですそのためには金が必要です。娯楽に興じるには道具が必要ですそのためには金が必要で
    す。旅をするにはチケットが必要ですそのためには金が必要です。家電を動かすには電気が必要ですそのためには金が必要です。料理を作
    るにはガスが必要ですそのためには金が必要です。喉の渇きを潤すには水が必要ですそのためには金が必要です。建物を建築するには人手
    が必要ですそのためには金が必要です。薬を開発するには施設と知識と人員が必要ですそのためは金が必要です。衣服を手に入れるのも勉
    強するのも遊ぶにも施設を利用するにも女を抱くにも誰かと結ばれ家庭を持つためにも何をするにしても金なくしては全て妄想で終わります」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/08/01(水) 00:04:08.41 ID:tqEp3abW0<>

ヤシマ「つまるところ、金を持つものは全てを満たすことが出来るのです」


ヤシマ「金を持つ者はどんなものでも手に入れる事が出来るのです」


ヤシマ「金を持つ者は誰よりも強者なのです」


ヤシマ「金を持つ者は誰よりも勝ち組なのです」


ヤシマ「金を持つ者は誰よりも高貴なのです」


ヤシマ「逆に金を持たないものは何も満たされず」


ヤシマ「ありとあらゆる物を手に入れることは不可能で」


ヤシマ「圧倒的な弱者であり」


ヤシマ「惨めな負け組みで」


ヤシマ「低俗なのです」





死神「……」

ユイ「……」

メイド「……」



死神(コイツいきなり何言ってんだ?)

ユイ(え、急に何?だから何?)

メイド「……」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/08/01(水) 00:08:01.85 ID:tqEp3abW0<>

急に語り始めたヤシマに気持ち悪いと喉まででかかるが男は何とか押さえ込む


死神「えっと……あのよ、アンタの自論は良く分かったからさっさと中に入らねーか?」

ヤシマ「失礼、商売をする相手にはつい己の自論を語ってしまう癖がありまして」


なんて面倒くさい癖なんだ

この言葉もなんとか喉元で押し留める


ヤシマ「どうぞ、茶菓子も用意してありますので」

死神「マジ?ラッキ〜」


扉を開け、中に入ったヤシマの後に男が入る。中に入るとヤシマの言っていた通り中は清掃されていた、それどころか机や絨毯、ティーカップなど

恐らくはこの部屋にヤシマのもと思われるものが持ち込まれていた


死神「ほー、こう言っちゃあなんだが、たかが取引場所に随分凝ってるな。掃除どころか私物持ち込んでるだろ?」

ヤシマ「私物?とんでもない、今日のために用意した使い捨てですよ」

死神「使い捨て、ねぇ……」


ちらりと足元の絨毯を見る。男の知る限りではペルシャ絨毯は少なくとも使い捨て程度の価値しかない無いわけがないはずなのだが


死神「……それじゃあまぁさっそくだが」


男に続きユイやメイドが部屋に入り、そろそろ”取引”を始めようとした時


??「……ニッヒヒ」

死神「!!?」

ずがんっ!!


男は床に叩き付けられた

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/08/01(水) 00:14:39.13 ID:tqEp3abW0<>
はい、本日はここまでです。短いですし内容がうっすいですねすいません

早く厚く、おもしろく目指して頑張ります。

乙してくださる方、楽しみにしてくださる皆様に感謝を



ところでペロリストとマニフェストって似てません?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2012/08/01(水) 01:00:58.59 ID:YHtDk2w4o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/01(水) 06:49:26.36 ID:2sLxxpyIO<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/01(水) 09:34:41.30 ID:rv24PISIO<> 乙
厨二病全開だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/02(木) 01:32:37.74 ID:MCg4/2Gto<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/02(木) 12:40:29.13 ID:G+yFa/4DO<> >>137

テロリストやレイシストならまだ解るけどマニフェストって… <>
◆HTlu27uC.s<>saga sage<>2012/09/28(金) 23:20:36.72 ID:MPZKHAIo0<> 生存報告!

やった、9月乗り切った!文化祭も体育祭も終わった!就職内定も貰えた!安心して投稿できるぜヒャッハー!





書き溜めしてへんやん!(←今ココ) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/09/28(金) 23:28:04.59 ID:AD87sc+yo<>      ...| ̄ ̄ | < 黙れクソ野郎 クソ続きはまだかね?かね?
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.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/29(土) 00:31:59.95 ID:keZeeklIO<> キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 20:28:06.64 ID:9v2lXuFA0<> 大分待たせてしまいましたし短くてもここは連休中に投下しておこうと思いまして、

そんな訳で今日投下します。短めにですが

長らくお待たせしましたorz <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 20:50:02.46 ID:9v2lXuFA0<>

〜〜〜〜

死神「……っは!……なぜだか俺の頭が踏まれると言う屈辱的な目にあった気がするが別にそんな事は無かったぜ!」


がばっと男は顔を上げる


ユイ「そんな事無かった事も無かったわよ」


”隣に座っている手足を鎖で縛られた”ユイが即座に突っ込んだ


死神「あ?何言って……なんじゃこりゃあ!」

ユイ「気づくの遅い」


男がふと体の違和感に気がつき体を動かそうとすると全く動かなかったので顔だけ動かしてみると、男は拘束されていた
鎖を足首から首の付け根まで一本の鎖でぐるぐると巻かれていたのだ

それだけではない、よく見れば部屋の景色も変わっている

さっきまでいた部屋と違って埃っぽく、掃除が一切されていないコンクリートの壁に囲まれた小さな窓が一つの小さな部屋だった


死神「あ、ありのまま起こった事を(略)」

ユイ「……」

死神「……ふぅ、落ち着いた。下僕二号、状況を説明しろ」

ユイ「誰が下僕よ……交渉に入ろうとした瞬間、アンタ、踏み潰されたのよ」

死神「ほう……」


ユイが言うには、突如、上から男が降ってきて男の頭を足で踏み潰したのだと言う。床に踏みつけられた男はそのまま気絶、同時にヤシマが
スタンガンを取り出しユイを気絶させたらしい。すぐ傍にはドアがあったが外に何か置いてあるのか、ノブを捻ってもドアを開ける事が出来無い
らしい


死神「……ん?おい、下僕一号はどうした?」

ユイ「わかんない……私も気がついたらこの部屋だったし、窓を見る限りそう時間は経ってないみたい」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 21:36:13.66 ID:9v2lXuFA0<>

死神「……ふ〜ん」


男は自分の計画は失敗したと見ていた。交渉相手のヤシマには一度も会ったことは無かったが、どこかで顔を見られて覚えられていたのか
もしくは、昨日ユイを攫った二人組みを倒したところでも見られていたのか、いずれにせよ、成りすましはバレていたようだと思っていた


死神「となると、ここはさっさと逃げた方がベストだよなぁ……」

ユイ「それはそうだけど……メイドちゃんはどうするのよ?今どこにいるのかも分からないし、アンタだって簀巻き状態じゃない」

死神「その辺は心配するな、下僕一号は優秀だから捕まる事なんてまず無い。今頃俺達の事を探してるはずだ」

ユイ「……でもアンタが気絶した時メイドちゃん全く動かなかったわよ?」

死神「は?」

ユイ「いや、だから、アンタが気絶して次に私が気絶させられる前にメイドちゃんに逃げてって言ったんだけど、メイドちゃん微動だにしなかった
   のよ。まるで傍観者みたいにじ〜っとしててさ……」


ユイがスタンガンによって気絶する瞬間少しだけメイドと目が合ったが、助けるようなそぶりも無なかったらしい


死神「……マジで?」

ユイ「マジで」

死神「……」


男はしばらく何かを思い出すように唸ると、ハッ、としたと思えば何かを後悔するように溜め息をつく


ユイ「え?何?どうしたのいきなり」

死神「あ〜……なんつーか……下僕一号の助けは期待しないほうがいいかも」

ユイ「はぁ?」

―――ずずずずず


男の言った意味がイマイチ分からず尋ねようとするとドアの外で何かが床をこする音が聞こえた。扉の外で置いてあるものをどかしているのだろう


がちゃ


扉が開かれ、男が入ってくる


ユイ「あ」

死神「そんな……馬鹿な……お前はあの時殺したはずじゃ!?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 22:25:50.13 ID:9v2lXuFA0<>

マッチョ「失礼ね!!生きてるわよ!!」

ユイ「アンタが殺さなかったんでしょうが!」

死神「あ?……あぁ、昨日の雑魚か!悪い悪い!俺あんまり印象ないと忘れっぽくってさw」


入ってきたのは筋肉モリモリマッチョマン、今日死神である男がヤシマと交渉するために成りすまそうとした人物、ロミオである


マッチョ→ロミオ「雑魚って……まぁいいわよ……そうよ、昨日振りね死神さん、それと商品ちゃん♪」

ユイ「……っ」

死神「……はっはぁ〜ん読めたぞ」


男は自信満々な顔で


死神「お前、俺の下僕になりに「「絶対違う」」……じゃあ何の用だよ?」

ロミオ「ふん、随分と余裕そうじゃない、けどそれも今のうちよ。今日、貴方達のアパートを襲撃するわ」

ユイ「……え」

死神「…………」


ロミオの言葉にユイは一瞬耳を疑った。アパート、と言う事は恐らく昨日から自分が住む事になったあのアパートのことだろう言う事はすぐに分かった
だが、そのアパートを襲う理由がユイには分からなかったのだ。昨日戦い、結果的にはユイを奪っていった男を襲うのなら分かる、ユイを取り返し
に来たのなら分かる

しかし、何故だ?

あそこにいるのは自分とは今日知り合ったばかりの人たちしかいない、あそこには昨日の出来事とは全く関係無い人しかいないじゃないか

あのアパートにはいきなり住む事になった自分を受け入れてくれたアリスやユウカ、まだ自分よりも小さな、キリやたった3歳のナナカだっている

関係ない――――あの人たちは何も関係ない!


ロミオ「何よ?何かおかしい事言ったかしら?」

ユイ「何で、なんでよ!?」

ロミオ「当然、復讐よ」

ユイ「復讐って……別に復讐するほど何かされた訳じゃないじゃない!!」

ロミオ「されたわよ?あたし達を襲って商品を奪ったじゃない」

ユイ「なっ!……たかがそれだけのことじゃない!別に家族や仲間が殺されたわけじゃない!」

ロミオ「それだけ?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 22:43:02.22 ID:9v2lXuFA0<>

ロミオ「あなた、アウトウォールを舐めてるの?」


ロミオはしゃがんで、ユイと視線を合わせる


ユイ「な、何よ……」

ロミオ「貴方は知らないだろうけど、あたし達これでもチバの方じゃ攫い屋のロミオとジュリエットって名前を知らない奴らの方が少ない
    位名が知られてるのよ。けどねそれって実は余りいい事じゃないのよ」

ロミオ「ココは弱肉強食、弱者は淘汰、搾取されても何の文句も言えずただ殺されて死体になるか、飢えて死体になるかしかないの
    だからあたし達は常に強者である事を求められる。弱者を殺して生きるか、弱者から奪って食って生きるしかない」

ロミオ「けど同時にそれは自分の存在を大きく知らしめる事になるの」


自らが他を寄せ付けないほど圧倒的な強者なら構わない。弱者は当然挑もう等と愚かなことは考えないし、こちらが近づけばそれだけで
萎縮して自ら持っているものを差し出しす者もいる。だが、そんなものはほんの一握り、生まれ持った才能や新たな魔王としての能力次第だ


ロミオ「このアウトウォールで最も生きずらいのは中途半端な強者よ」

ロミオ「常に自分よりも強い者達に怯えながら自分よりも弱い奴らから殺し、奪って生きていかなきゃならないからね。けど、それは
    ほんの一時的に自分の寿命を僅かに伸ばす延命行為と同じなのよ。結局はいつか、数年後か、数ヶ月後、もしかしたら明日
    自分よりも強い奴らに殺されて、奪われるかもしれないからね」


自分の存在が知れるということは弱者からの無駄な抵抗を受けずにすむ事もあるが、自分以外の強者への牽制にもなる。だが、それは
どこにいるかも分からない猟師に自ら居場所をさらす様に吼える動物のようなもの。それが分かっていても自分は強くあらねばならない
多くを殺し、多くを奪い、弱者からも、強者からも恐れられるような存在に成らねばならない。たとえ誰かが作り出したありもしない
強さだったとしても、過大評価だったとしても、それが生きるためには必要なのだから


ロミオ「たとえ数日しか伸ばせない命だとしても、一秒にも満たないほどしか伸ばせなくとも、あたし達は生きていたいの。生きて
    おいしいものを食べたいし、生きて楽しく過ごしたいし、生きて幸せになりたいのよ」

ロミオ「だから」

ガッ!  どん

ユイ「!……あ、かっ!」


ロミオが伸ばした手はユイの服の襟を掴み壁に押し付け持ち上げる

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 22:55:35.31 ID:9v2lXuFA0<>

ロミオ「何日も掛けてやっと手に入れた商品を無名の奴らにあっさり奪われた。そんな事が他の奴らに知られしまったら、あたし達が
    築いてきた”強さ”が全て崩れ去ってしまう。そんな事になったら、今まで襲ってこなかった奴らがあたし達を襲うようになる
    だからあたし達は取り戻さなきゃならない、あたし達の”強さ”をね。……ま、勝ち目の無い相手に戦ってもまた負けるだけだし
    知人を襲って私達の”恐ろしさ”というのを知らしめるって事なんだけどね」


ユイ「そん……なのっ……卑怯よ!!それに、そんなやり方!」

ロミオ「うるせぇんだよ!!」


ユイの叫びを真っ向から打ち消すようにロミオが怒鳴る。怒りに染まったその顔はユイの口を止めるには十分すぎるものだった

生きるため

そのためなら何も厭わないロミオにとってユイの言葉など上から目線の言葉でしかなかった


ロミオ「そこらじゅうにいるただの下級魔術師が!!あたしらのやり方に偉そうに口出しすんじゃねぇよ!!」

どん!!

ユイ「……ぅっ!!」


乱暴に腕を振るい、ユイは地面に叩きつけられる。半身を襲う鈍い痛みはユイに悲鳴を上げる事すら許さなかった


死神「オイ、俺の下僕に乱暴すんじゃねぇよ」

ユイ「だ……れがっ!下僕……よぉ……」

死神「つーかまず、何でテメェがこんなところにいやがる」

ロミオ「……こうすれば分かるかしら?」

ぐにゃり


ロミオの顔が歪む。次第に顔は縮み、油の乗った肌から清潔感ある肌に変わり、髪も整ったものになる。そして、完全にロミオの
面影をなくした顔は少し前まで男が交渉しようとしていた人物に変わった


死神「……はっ!なるほど、俺がお前に成りすましてたように、テメェも成りすましてたって訳か!」


ロミオの顔は、ヤシマの顔に変身していた


ロミオ「まぁ、そういう事です。目が覚めた後アジトを見てみれば交渉相手との手紙が無かったので行動は容易に予測できましたよ」

死神「……そうかい、それじゃあついでに俺を踏みやがった不届き者と下僕一号の行方を教えてくれるとありがたいんだか?」

ロミオ「それは「ロミオ」……あら?ジュリエットじゃない」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 23:09:05.20 ID:9v2lXuFA0<>

ドアの外に昨日メイドによって倒された人物、ロミオの相棒ジュリエット(でも男)がいた。ロミオは顔を元に戻し手招きしている
ジュリエットに近づく


ロミオ「どうしたのよ?」

ジュリエット「準備が出来たわ、けどアイツが――――」

ロミオ「えぇ……そうね、もう好きにさせさせちゃいましょ、潰しあってくれるならそれで構わないわ」

ジュリエット「そう、じゃあ伝えとくわ」


そう言うとジュリエットはユイにも男にも目を向けることなく去っていく


ロミオ「おまたせ♪それであのメイドちゃんの事なんだけど」

死神「おう」

ロミオ「なんだかバトル展開になっちゃったみたいよ?」

死神「は?」

〜〜〜数分前〜〜〜

???「ひー、ふー、みー、……わお!アレだけしか仕事してないのにこんなにくれんの?太っ腹だねお前ら」


ユイと死神が別室に閉じ込められまだ目覚めていなかった頃、交渉する予定だった部屋のソファーに座り男が報酬を受け取っていた

袖の短い鎖帷子(くさりかたびら)をまるでTシャツのように素肌の上に着、所々傷の付いたジーパンをはき、前髪を後ろに流した若い男だった


ジュリエット「いいのよ。本当ならもう一人相手取ってもらう予定だったし……それに、ロミオが言うようにあの男が不死身ならいくら貴方でも
       どうしようもないでしょう?それを気絶させて無力化したんだから、一瞬ですんだとは言え貴方は相当の働きをしたのよ?」

???「へ〜不死身…………なんかあっさりやられたし、それほど強いようにも見えなかったけどねぇ」

ジュリエット「それはそうでしょう、不死身かどうかなんて殺してみないと分かんないじゃない」


かく言うジュリエットもまだ完全には信じられない。実際に戦ったロミオが言うのだから少し信用しているだけであり、見知らぬ――たとえば
今目の前にいる男がそう言っても信じる事は出来無いだろう

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 23:15:25.34 ID:9v2lXuFA0<>

???「いや、そうでもないぜ?」


じゃらり、と鎖帷子を揺らし、男が立ち上がる。は20そこそこといった若さで全体的にほっそりした印象を受ける。だが、細身ながらも
その腕は鍛え上げられており、無駄な肉が一切無い。ロミオが派手に鍛え上げられた太マッチョと形容するなら、この男は細マッチョと言える


???「おれの師匠が言ってたんだけどよ、不死身って呼ばれる奴には3種類あるんだと」

???「1つは”嘘をついている奴”。幻術とか超回復とかクローンとか双子でした〜とか、小細工大細工労して不死身と思わせるような奴ら
    だな。こういうタイプは弱い奴が多いだからバレまいと必死で隠すばかりで、看破されればもうおしまいって感じだな」

???「2つめは”ガチで不死身な奴”。人外なのか、そういう能力なのか、まぁとにかく本当に不死身な奴らだな。こういうタイプは厄介だ
    不死身であるが故に死を恐れないから、どんな攻撃も構わず突っ込んできたりする。だがそういう時は殺すより封印、封殺。身動きを
    取れなくしちまえば脅威じゃないって言ってたな」

???「3つめ、ぶっちゃけ一番厄介で一番脅威で一番強い――――”余りに強すぎるが故に死ぬ可能性が想像できない奴”―――だ」

???「説明不要そのまんま、なんだけど……なぁ、おれはさぁ、お前はこの”三番目”だと思うんだが、どうだよ?」


男は、死神やユイが目の前で捕まった時もその後もその場から一歩も動いていない――メイドに聞いた


メイド「…………」カチカチ


メイドは男の話を無視し、ゲーム(ギャルゲー)を続けていた


???「なぁ」

メイド「……」カチカチ

???「おい」

メイド「……」カチカチ

???「ニホンゴォウ、ワカリマァシュカァ?」

メイド「……」

???「……渾身のギャグも無視ですか、ふ〜ん」

ザッ ザッ ザッ ザッ


無反応なメイドに何かを言うわけでもなく、男はメイドの周りを片足を引きずって長方形を描く様に歩く。靴の裏に何かを仕込んでいる
わけでもないようで、コンクリートがむき出しとなった床には何かが残るわけでもなく、ただ擦っているだけのように見える


???「それじゃあ仕方ない。やる気出してもらいますか……なぁジュリエットさんよ」

ジュリエット「?……何かしら?」

???「報酬はもう貰っちまったけど――――別にこいつとバトっちまっても構わねぇんだよなあ」

ジュリエット「え?はっ?」

???「そんじゃ、行ってきまーす♪」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 23:50:03.91 ID:9v2lXuFA0<>

男はメイドを囲む長方形の中に入ると


たんっ


と、軽く地面を鳴らした。そこにたいした力は込められていない、にもかかわらず


ピシッ――――ぼごん!


男が描いた部分をなぞるように線が現れ地面が沈み下へと落ちていった


メイド「?」

???「下へ参りま〜す♪」

ジュリエット「なっ!?」


〜〜〜ビル・一階:エントランスホール〜〜〜


ずぅううううん

???「狭っ苦しいとこは好きじゃなくってね、場所を広くさせてもらったぜ」

メイド「……」スッ


くり貫かれた地面と共に下へ降りたメイドはゲームの電源を切りスカートの中へ仕舞う。上を見上げ先ほどまで地面があった場所を眺め、足元にある
地面を見る


メイド「……質問しますが」


メイドはようやっと死神とユイが捕まってから初めて他人に声を掛けた

メイドは主人である死神の命令に忠実である。しかし、主人である男が捕らえられたにも関わらずメイドが行動を起こさなかったのは”命令”に忠実
過ぎるあまり、”命令以外”の行動を起こさないからであった

主人である男はメイド自身が捕獲、拉致などの状態に陥った場合の行動は既に”命令”されていた。しかし、主人が捕獲、拉致などの状況に陥った場合の
行動は”命令”されていなかったからである

彼女が今、今日始めて出会ったこの男に対し口を開いたのも、彼女が先ほどまでこの男に口を開かなかったのも、彼女が命令に従ってるためである

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/07(日) 23:53:48.36 ID:9v2lXuFA0<> ×:主人である男はメイド自身が捕獲、拉致などの状態に陥った場合の行動は既に”命令”されていた。しかし、主人が捕獲、拉致などの状況に陥った場合の
  行動は”命令”されていなかったからである

○:主人である男はメイド自身が捕獲、拉致などの状態に陥った場合の行動は既に”命令”していた。しかし、主人が捕獲、拉致などの状況に陥った場合の
  行動は”命令”していなかったからである <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/08(月) 00:02:05.25 ID:XawpE7SW0<>

メイド「先ほどの、貴方の一連の行動ではこのような結果は通常では起きる筈がありません。魔法、或いは魔王の能力を使用したと考えられますが
    貴方からは魔力の反応を感知できません。そのため、貴方を新たな魔王と予想しますが正しいでしょうか」

???「いんや、正しくありません」


間髪いれず男はにやにや笑いながら否定する


???「おれはただの人間だよ。純度百パーセント混じりけの無い人間だ。ただ、普通じゃないってだけさ」


男はその笑みを崩さぬまま、腰を軽く落とし、左右の拳を腰の辺りで地面と平行に構えた

徒手空拳

自分の肉体こそが武器というわけらしい。男はすぅ、と息を吸って


???→シンザ「受動流:第六番弟子!梁ヶ屋(はりがや)シンザ――――敵は微塵も残さず打ち砕く男だ!本気でやんねぇと死ぬぞ!!」


鎖帷子の青年、シンザは獣が吼えるように、しかしこれから始まるであろう戦いに胸躍らせながらそう言って


シンザ「まずは小手調べに…………イキナリ必殺技だぁ!!」

だん!


頭が天井に引っ付くギリギリの高さまで跳躍し、落下する前に天井を殴り落下の速度を速める。足を振り上げメイドの頭部に狙いを定めた


シンザ「おらぁあああああ!!」


シンザの踵落としがメイドの体を真っ二つに切り裂かんとする大斧のように振るわれた


メイド「…………」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/10/08(月) 00:05:52.44 ID:XawpE7SW0<> そんな訳で終了です。

え?メイドが何も言ってないのにシンザがバトル展開にしてるって?



                                                    ゲームのボス戦ってそんな感じじゃないですか……

それでは本日も、乙してくださる方、こんなスレの投下を待ってってくださった方々に感謝を <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/08(月) 00:10:30.15 ID:RoytUZUno<> 乙
オカマ達が出てくるとは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/10/08(月) 09:02:43.80 ID:DNebwQdC0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/08(月) 14:54:01.03 ID:gPGrm8U7o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/11(木) 02:08:40.95 ID:xn3mqfqDO<> 待った甲斐があった乙 <> ◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 21:46:08.21 ID:jlL2Gb5t0<> |ω・)チラ

お久しぶりですb

今回も短めです

>>158
本当は再登場する予定は無かったんですがねw

>>159>>160>>161
ありがとうございます <>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 21:53:34.80 ID:jlL2Gb5t0<>

梁ヶ屋シンザ、拳法家、流派は受動流

好戦的で負けず嫌い、強者には見境無く挑むが力量を弁えないと言うわけではなく、圧倒的に力の差があるものには挑まない
アウトウォールにおいては少々命知らずと思われる性格ではあるが、ロミオやジュリエットよりは確実に強い部類に入る人間

それが、”秘密の魔王”であるジュリエットが知り、独自に考察した結果であった

四角く切り取られた床から階下の戦いを覗きながらジュリエットは思う


ジュリエット(出来ればもう少し触れてみたいと思ったたけど……まぁそこまで深く知る必要も無いか)


ジュリエットは秘密の魔王という新たな魔王である

人は自分の持っている情報を他人に伝える時、ある程度分別をつけて話す。他人、といってもこの場合は自分以外の人間と言う意味である
血のつながった家族であろうと、固い絆で結ばれた親友であろうと、人は話す情報と話さない情報がある。初対面の人間に名前を教えることはあっても
好きな人物や自分の銀行の口座番号を教える事はないだろう。秘密とはつまり、その人物に対して明かさなかった本人の情報を指している

ジュリエットはその明かさなかった情報を強制的に知る事ができる能力を持っている

といっても条件はある。秘密は相手の信頼の積み重ねによって徐々にその数を減らしていく。信頼を得るには相手と時間を共有するところから始まる
ジュリエットの場合その”時間を相手と共有した”という過程を無視し、”秘密を明かした”という結果を”相手に触れる”だけで得る事が出来るのだ

しかし、この世に全く同じ思考を持った人間がいないように、個々によって信頼を得られる時間は違う。他人から友に認識が代わるのに一日必要と
するものがいれば、一週間もの時間を必要とするものもいるだろう。加えて、いかに友と言えどもやはり秘密にするものが無くなるというわけではない
親友のみ明かす秘密、師と仰ぐものにのみ明かす秘密、家族のみに明かす秘密、それらを知るにはやはり時間を掛けて信頼を得るのが必要だ

そのためジュリエットはその分の触れる時間を必要とする

しかしこの触れた時間というのは何度も触れた分の時間を総合したものであるため、肩と肩が触れた時間といえど、その時間の積み重ねた合計が
相手を友と認識をする事ができる時間ならばその人物が友に明かす秘密を知る事ができるのだ

攫い屋を稼業するなら安全であり、まさにうってつけではあるのだが、その分攫うのには長期間掛かってしまうというのが欠点ではある

しかし、なにも仕事のみにこの力を使うと言うわけでない

相手と深く関わらず、気づかれずに、一方的に相手の情報を得られるというのはどのような状況でも大きなアドバンテージとなる。今日始めて出会った
シンザの情報も、握手を交わし、さりげなく肩に触れるなどして情報を得たのだ


ジュリエット「さて……私も準備しなくっちゃね」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/11(日) 21:57:51.99 ID:QN9Fnda0o<> キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! <> ◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 22:04:25.95 ID:jlL2Gb5t0<>

〜〜〜

ロミオ「それじゃぁね♪次に会わない事を祈ってるわ」

がちゃ   ばたん   ずずずずず


ロミオが部屋から出て行き、ドアを閉め、重しか何かを再びドアの前に置いたのだろう、その場を去る音が遠ざかり聞こえなくなった瞬間


死神「さて、どうしたものかね……下僕一号の助けはあんまり期待できないし、俺はこのざま……下僕二号は元から期待してないし……
   完全に手詰まり、って訳じゃないけど」

ユイ「だれが下僕よ!……って、脱出できるの?だったら早くしないと!アリスさん達が!!」

死神「ほっとけ、どうせ無駄だ」

ユイ「無駄って何が!」

死神「あんな雑魚相手にどうこうされるような奴らじゃねぇよ。そんな奴らならとっくに死んでるって」


アリスは魔術師である事はユイも知っている。実力も確かにあるようだがそれでもユイは不安を拭いきれなかった


ユイ「でも、アイツ等がたった二人で襲いに行くとは限らないのよ!アンタを踏んだ奴みたいに他にも仲間がいるかもしれないじゃない!」

死神「って言われてもなぁ〜……特殊部隊が来ようが、軍隊が来ようがあいつら助けなんて元からいらねぇだろうしなぁ」

ユイ「でも!」

死神「でもでも、でもでも、デモデモうるさいぞ下僕二号、少しはあいつらを信用しろよ」

死神「お前は今日始めてあいつらと会ったから不安になるのは分かる。人間ってのは不安になると嫌なことばっかり考えちまうからな」

ユイ「っ…………誰が下僕よ……」


確かに、アリスたちのことは男の方が良く知っているだろう。ユイが思うほど深刻な問題ではないのかもしれない

焦った自分の落ち着かせ、ここから出る方法を考える


ユイ「……脱出できる方法はあるんでしょ?じゃあなんでアンタは何もしないのよ」

死神「いや〜脱出出来無い状況なら今日中に借金返せなくなっても仕方ないから見逃してくれるかなぁ〜ってね?」

ユイ「借金?……アンタ借金なんてあったの?」

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 22:12:42.85 ID:jlL2Gb5t0<>

死神「何言ってんだ、今朝お前も見ただろ?俺が大家に130万払ったの」

ユイ「あれってアンタの借金の一部だったの?」

死神「そーだよ、そして後70万返さねぇとあいつの怒りが有頂天になって借金がマッハでヤバイことになる」

ユイ「……興味本意で聞くけど、200万も何に使ったの?」

死神「欲しかった装甲車を買った」

ユイ「(あれか……)で、その残り70万返すアテが無くなったからズルして期日を引き伸ばしてもらおうとしてるわけね」

死神「まぁそうだな。大家は俺のことを嫌ってるが話の分からない奴じゃない」

ユイ「騙そうとしてるだけじゃない」

死神「失敬な、ヤシマが本物だったら今頃70万手に入れてトンズラしてたところだったんだ。こんな事態にでもならなきゃな」

死神「まっ、こうなっちまった以上仕方ない。しばらく寝てから脱出だ。というわけでお休み〜〜」

ユイ「え、ちょっ!寝る事ないでしょ!?今脱出してもいいじゃない!!」

死神「…………zzzZZZ」

ユイ「早い……」


いくらアリス達の心配をしていないからといって、安心させるような事を何一つ言わず、ただ言う事を聞かされたように思えて仕方ない
やはり自分だけでも脱出するべきかとも考えたが、脱出できてもあの二人組みを相手に出来るわけも無い。加えてアパートに戻ろうにも
ユイには車の運転なんて出来無い。結局、男が行動を起こさない限りどうしようもない


ユイ(っていうか、私がアリスさんにバラすって考え無いのかしら…………)

<>
◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 22:24:44.00 ID:jlL2Gb5t0<>

〜〜〜

シンザ「オリャァァァアアアア!!」

メイド「……」ヒョイ

ずがん!

シンザ「タァァァァアアアアア!!」

メイド「……」ヒョイ

ドカン!

シンザ「ダァァァァアアアアア!!」

メイド「……」ヒョイ

ズゴン!

シンザ「ヤァァァァアアアアア!!」

メイド「……」ヒョイ

ズドン!

シンザ「ウェェェェエエエエイ!!」

メイド「……」ヒョイ

ドォン!

シンザ「いい加減にしろよお前!!!」


メイドと戦闘を始めて数分、攻め続けていたシンザはようやく止まる

攻め続けていた、と言ってもメイドは一切防御をしていないし、反撃をしようともしていない。メイドはシンザに全く攻撃を仕掛けてこないのだ


シンザ「何で何もしてこねぇんだよ!!さっきから避けてばっかじゃねぇか!!」


シンザがメイドの行動を”逃げ続けている”と言わず、”避け続けている”と言ったのは理由がある

戦闘において回避行動は自分の命を守る手段である。しかし、それは攻勢に転じるためにも用いる事が出来る。対して、逃げ、とは戦闘行為を一切
とるつもりがない故に生じる行動だからだ。メイドはシンザの攻撃に一切目をそらさず、体を反らす、数歩下がる等ほんの少しその場を動く
というものだった。明らかに逃亡を意識してはいないというのに、攻撃に転じようともしない。そんな事を数分も続けてシンザの体力をそぐようにも
見えない。ためしに反撃を誘うような隙が生じる一撃を放ってもやはり攻撃しては来ない

期待はずれも程がある。これならいっそ逃げてくれたほうが良かった。中途半端に戦う姿勢を見せているのがシンザには腹立たしくてしょうがないのだ


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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 22:33:59.46 ID:jlL2Gb5t0<>

だが、幸運にもシンザの望みは叶う結果になる


メイド「10分経過」

シンザ「あ?」

メイド「10分間、マスターから今回の戦闘に関する命令を受け付けなかったため、独自に戦闘行為を開始します」


メイドは主人の命令に忠実である。このシンザの半分ほどの年しかないであろうこの幼女は、自身の危険すらも自分の意思では動かないのだ。


シンザ(ははぁん……逃げてたわけでもなく、時間稼ぎでもなく、ただ戦えと言われなかったから……か、なるほどね)


そして、シンザは目の前にいる幼女の正体がようやく分かった


シンザ(いまいち掴みどころがねぇと思ったら、掴むところがそもそもねぇんだな……こいつは―――――)

メイド「戦闘開始」

シンザ(―――――こいつはただの、人形だ)

ひゅん!! 


前へと跳躍しその勢いで放ってきた幼女の拳をシンザは体ごと横へ移動し容易く避ける。同時に、跳躍の勢いをそのままに先ほどまで自分が立って
いた場所を通り過ぎるメイドを目を凝らして観察する

恐らくは胸部を狙った一撃であっただろう拳、それを形作る指、手首から肩まで伸びる幾つも
の筋肉がついているであろう腕、外れた事を即座に認識したのか避けた自分の姿を追いかけ映し出している目、既に跳躍に必要な動作を終えた足
を、一瞬ながらも、じっくりと見る(断っておくが、シンザは幼女を視姦する趣味などない)

そして、世界で見れば一瞬ので取るに足らない、シンザにとっては貴重な時間を終える

再び地に足をつけたメイドは、もう一方の足を地に着けると同時に体を前に折り曲げ手を地面にある三つばかりのコンクリートの
小さな欠片を掴み取って反転し、二撃目を待っているのであろうシンザの顔面へと反転した勢いと腕力で投げつける


メイド「……」

ヒュン

シンザ「はずれ」


これも、シンザは首を捻って避ける

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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 22:46:41.40 ID:jlL2Gb5t0<>

シンザ「受動流:金槌(かなづち)殺し」


お返しとばかりに、今度はシンザが足元にある小石を大して振りかぶりもせずに、軽く蹴り飛ばした

ただしその速度と威力は、メイドの投げたそれを遥かに超えていた


ぱぁん!!!

メイド「…………」


シンザと同じように、大きく動くことなく右へと避けたメイドの耳に破裂音が聞こえた

音のした方を、背後を振り返ると壁があった。メイドと壁の距離はそう遠くない、今避けた小石もその壁に当たっただろう


メイド「…………」

シンザ「へへっ、どんなもんよ♪」


ただ、当たっただけではなかった

小石は余りあるそのエネルギーを壁に衝突する事で消費しきらず、壁にヒビを作り、その身を砕いていた

魔法を使わず、新たな魔王の能力もなしに、大した力も加えられていないはずのただ小石は、人間を容易く傷つける威力を持っていたということになる


シンザ「なんのリアクションも無し?質問があるなら答えてやるぜ?」

メイド「……重力操作ではないですね」

シンザ「あ?」

メイド「いえ、小石の速度、壁の損傷具合から重力を操作する能力を疑いました。が、先ほどの貴方の発言を真実とするならば貴方にはそもそもその
    ような能力は無いと思いましたので貴方の持つその拳術、受動流は、自分や触れたものを”重く”する事ができると予測してみましたが
    正しいですか?」

シンザ「半分正解」


拍手してやる。と言いながら手を叩くシンザは、避けられてばかりだった先ほどの戦闘とは思えない状況で薄れていた興奮が再び湧き上がる

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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 22:53:56.97 ID:jlL2Gb5t0<>

シンザ「なるほどなるほど、すげぇなお前」

メイド「……何が、でしょうか」

シンザ「いやさ、自慢じゃねぇがおれ、ガキの頃から体鍛えてたんだよ。勉強なんかクソ食らえって感じで毎日鍛えまくってたんだよ。その甲斐
    あって、おれの体は師匠に褒められるほどには結構強い体してんだけどよ、お前の体、明らかに普通じゃねぇ」

メイド「…………」

シンザ「おれの受動流ってのは実は師匠から教わったモンをアレンジした物なんだけど、師匠からは同時に”相手の骨格、筋肉量を
    見透かせる術(すべ)”ってのを教わったんだよ。……っで、師匠ゆずりの観察方法と、俺の目が間違ってなけりゃあ」


シンザ「お前、人間の中でも最も理想的で綺麗な肉体をしてやがる」


メイド「…………」

シンザ「さっきの、というかお前が俺の蹴りを避け続けてた動き、普通の幼女じゃまず無理だ。避けさせるさせるつもりなんて無かったし
    ただのガキなら普通に蹴られて一発で死んでるし、お前の攻撃の一連の動作も普通の幼女じゃあんなこと出来ねぇよ」

シンザ「ついで言うなら蹴っ飛ばした小石にしたってそうだ。銃弾ほど速くはねぇが、ただの幼女が避って出せる速度でもねぇ」

シンザ「お前何なんだ?人間の癖に人間離れしすぎだろ?」

メイド「…………」

シンザ「はい、安定の無視……そんなに話したくのかよ」

シンザ「……まぁ、おれの目に狂いは無かったんだ、お前みたいなとんでもねー奴を相手に出来るってんだ。うれしくてたまんねぇよ」

シンザ「その礼としちゃなんだが、おれの受動流の正体を教えてやるよ」

〜〜〜〜

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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 23:01:25.00 ID:jlL2Gb5t0<>

〜〜〜ビルの外〜〜〜


ジュリエット「ねぇ、ロミオ」

ロミオ「何?」


上の階ではユイが状況の打開を必死に考え、下の階ではメイドが戦闘を開始した頃。ロミオとジュリエット(だが男)はビルの外にいた裏口の方にいた
裏口には一台の車が止められており、そこにロミオはアパート襲撃のための必要な荷物を積み込んでいた


ジュリエット「本当にやる気なの?」

ロミオ「当たり前よ。私達が生きるには”負けた”なんて事が万が一にでも他の奴らに知られたらマズイでしょ?」

ジュリエット「それはそうだけど……」

ロミオ「何?どうしたのよ」


秘密の魔王であるジュリエットはユイに触れることでアパートの居場所を突き止めていた

その際、名前まで知る時間は無かったため分からなかったが、複数の女と子供の顔が見えたのだ。(ジュリエットの能力は情報を知る時文字として頭の中に
入ってくるだけではなく分かりやすく映像として入ってくる事もある)その中の女の一人がどこかで見た気がしたらしい


ロミオ「……で?どこで見たかも分からない女一人を警戒してやめろって言うの?」

ジュリエット「……まぁ、そういうことになるかもね。攫い屋やってるだけに色んな商売相手から触れて秘密を見てきたけど、私もさすがにそれ全部を
       覚えてる訳じゃない……でもその私が名前が出てこなくとも覚えていたってことはよほど警戒してたってことよ
       嫌な予感がするのは間違いないわ」


ロミオはジュリエットの話を聞きながら車の荷台に荷物を積み込んでいた


ロミオ「それでも都合がいいじゃない。その女只者じゃないって事でしょ?けどこっちには昨日雇ってた魔術師達よりも核上の上級魔術師5人よ?」

ジュリエット「それを聞いてもなんだか不安が尽きないのよ、なんていうか……」


ジュリエットはただ不安だった

どちらかと言えばロミオはジュリエットより頭が良くない

商売の交渉は上手いのだが、それ以外はというと、いつもどこかで失敗することが多い

今回、自称死神の男を封じるために雇ったシンザという拳法家にしても、捕らえる方法はシンザに考えさせ、雇い主の指示を待たずに独断行動したことを
許している。あのメイドが強いとは言っても、もしそれがシンザの満足のいくものでなかったら、最悪自称死神といったあの男に挑みかねない
シンザの性格上、拘束された相手に挑むわけも無い。結果、あの男の拘束を解く事にもなりかねないのだ

人を雇うなら、もう少し相手の性格に考慮してもいいだろうに

というか、金さえ払えば完全に味方に付けたとでも思っているのだろうか?


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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 23:07:27.02 ID:jlL2Gb5t0<>

そういう抜けたところがあるが故に余計に不安にさせるのだろう


ロミオ「ぐだぐだ言ってないで行くわよ。顔しか覚えてないなら大して覚えとく必要が無かったことかもしれないじゃない」

ジュリエット「…………まぁ、そうかもしれないけど」


荷物を詰め終わったロミオが車に乗り込むところを見ながら道中で思い出すことを願って、ジュリエットも車に乗り込んだ


ジュリエット(考えすぎかしらねぇ?)


〜〜〜〜


窓の外から車のエンジン音が聞こえる

恐らく近くにた車が止めてあったのだろうとユイは判断する。エンジン音が聞こえる前に内容は分からなかったが会話らしきものも聞こえた


ユイ(この状況で考えるならあのオカマ達の車が出て行ったことかしら?コイツは確かあのオカマの魂の位置が分かるらしいし、聞けば確証は得られる
   もし私の考えどおりもういないとしたら……)

ユイ「……今が脱出のチャンスってわけね」

ユイ「ねぇ、ちょっと起きて!今めっちゃ脱出のチャンスかもしれないわよ!」


腕は縛られているので近づいて膝でつついて男を揺すって起こそうとする


死神「……くくく、既に余の腹は満たされておるわ……zzzZZZ」

ユイ「なんでテンプレートな寝言にアレンジ加えてんのよ!」

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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 23:11:04.97 ID:jlL2Gb5t0<>


こいつさては起きてるんじゃないのかと思ったのか、鎖が巻かれているから多少乱暴にしてもいいと思ったのか、ユイは縛られた両足を
背中に叩きつける


ユイ「起きろ!」

どすっ

死神「……おい、もう少し優しく起こせないのか」

ユイ「アンタに優しくする理由が無いわね。それよりアンタ、確か魂の位置が分かるのよね?今すぐあのオカマ達の魂探してみて
   私の予想が正しければあいつらここから離れていったかもしれないの」

死神「あ?…………あ、あぁ〜はいはい。あぁ、確かにもういねぇな」

ユイ「ほっ……だったらさぁほら、脱出しましょ!今なら外に出ても問題ないし!」

死神「……もう少し寝かせろ」

ユイ「何でよ!大体なんで死神が寝る必要があるのよ!」

死神「何だと!お前、神様はロボットみてーに年中無休で働けって言うのか!」

ユイ「そもそも寝る意味が分からないって言ってんのよ!」

死神「ここ最近ずっと寝てねぇんだよ!昨日だってお前がアパートに入った後にあいつ等のアジト散策してヤシマとの交渉思いついて
   その後にお前のドッキリのために何かそれっぽいアイテム揃えようとどっかで深夜営業してる市場でもないかなぁ〜とか
   思ってたけど別にそんな事は無くって軽く凹んでやっとアパートに帰ってきたのがお前が部屋から出る10分前だったんだぞ!」

ユイ「ただの夜更かしじゃない!」


というか、人のドッキリになぜそこまでするのかと問い詰めたかったが、話が大きく脱線しそうなのでやめておく


ユイ「……とにかく、脱出しましょうよ。」

死神「え〜、あと15分くらい寝かせろよ」

ユイ「だから寝るな!」

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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 23:20:59.32 ID:jlL2Gb5t0<>

シンザ「受動流ってのは師匠に教わった”力を伝導させる”っつー師匠の拳法の基礎となるものを使ってんだ
    んで、それを元に作り上げたのが”自分の力、そして自分に受ける力を好きなところに集中させる”っつーもんだ」

シンザ「腕のパワーを足に持っていったり、逆に足のパワーを腕に持って行ったり。手足に限らず背中や首や腹の”力”でさえ
    自由自在。重力ですら俺の力に変えられる。さっきは観察するために避けちまったが、打撃なんて、足元に逃がせば
    ダメージなんて全く無い」


どんな修行を積もうとも、どんなに武に秀でていようとも、武芸者には共通の弱点がある

疲労、である

鍛え抜かれた技も繰り返し続けていればいずれは鈍っていく。故に技を磨くだけでなく技を出し続けるための体力もつけなくてはならない

しかし、それでもいずれ疲労はやってくる

力量が互角な戦いにおいては、先に疲労が多く蓄積した方が敗北すると言えるだろう


シンザ「拳法家に必要なのは腕力(パワー)でもなく体力(エネルギー)でもない、技術(テクニック)だ」

シンザ「おれは疲労なんて一度もした事なんて無い。おれより強い奴と戦った時も、おれは息切れさせられた事なんてない」

シンザ「なぜなら、おれにはパワーを出すためのエネルギーがテクニックによって最小限で済むからだ」

シンザ「ついで言っておくなら、おれの師匠の流派は最初に見せたアレがヒントだ。もし会うことがあったら参考にしな」

メイド「…………」

シンザ「さて、ネタバレも済んだし、今度もこっちからいくぞ!」

ばぁん!


叫ぶと同時にシンザは足元に腕力や脚力のみならず、重力も加わえ床を爆発させ大きく前に吹き飛び、飛び膝蹴りを放つ

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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 23:22:00.81 ID:jlL2Gb5t0<>









そして、後にシンザはこれまでに聞いた事のない悲鳴を聞く事になる










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◆HTlu27uC.s<>saga<>2012/11/11(日) 23:24:55.90 ID:jlL2Gb5t0<> (こんな終わり方で大丈夫かなぁ?)


今回はこれで終了です
待っていてくださった方、乙してくださる方々に感謝を。それでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/11(日) 23:57:41.25 ID:Z8ojXjzWo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/12(月) 18:42:34.33 ID:TcpvVqHDO<> 乙乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/12(月) 19:57:41.28 ID:CrlyGDEO0<> 乙
オカマ達は安定の噛ませ犬でした <>
◆HTlu27uC.s<>saga sage<>2012/12/23(日) 21:31:18.92 ID:AWHVoPwe0<> 念のため生存報告

元気に生きてますよ。仮面ライダーウィザードにハマりながら。近いうち更新です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 23:52:48.45 ID:bp3pTpjCo<> 報告乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/25(火) 06:15:34.05 ID:o79UCUjIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/11(金) 01:16:54.95 ID:0jbdIlcDO<> おいまだか <>