◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/18(木) 21:57:41.66 ID:2kYsZ6Sv0<>
「前から言おォ言おォと思って言いそびれてたンだけどよォ、その入れ墨はねェわ」
「あ?」
「キモイわ。引くわ。顔の半分真っ黒とかどンだけなンだよ」
「あーあーあー、そういうのだったら俺も思ってたんだけどな、お前そのTシャツはねえよ」
「ンだとコラ」
「何なんだよそれ? ウルトラレータなの? 三分経過でシュワッチなの?」
「それこそオマエに言われたくないンですけどォ。アンブロの縦にしたみてェなの着てるくせによォ」
「あとお前、もうちょっと野菜食った方がいいんじゃねえの」
「トマト食えねェ野郎が何言ってンだ」
「それから所構わず寝っ転がる癖も直せよ。死体かと思うだろーが」
「俺は生きてるっつの。大きなお世話だっつの」
「いやいやマジで。俺にうっかり火葬されて愉快なオブジェになるぞ」
「大ォ〜〜〜きなお世話だっつゥのォー」
<>∞木原式∞ 第一位のつくりかた
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 21:58:41.59 ID:2kYsZ6Sv0<>
こんな感じで、木原数多と一方通行が仲良く一等賞を目指すお話です
ご覧の通りとても仲良しです
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 21:59:08.96 ID:2kYsZ6Sv0<>
■■■■■■■■■■ 第一位の つくりかた ■■■■■■■■■■
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 21:59:36.44 ID:2kYsZ6Sv0<>
→レシピ0:刷り込み
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:00:15.02 ID:2kYsZ6Sv0<>
「返す? 何を」
「あの子供だ。お前が直接開発した反射能力の」
上司の言葉に、木原は眉をひそめる。
「返すってのは、ウチがまた引き取るってことですか」
確かに、覚えがあった。かなり前の事だ。
小学校に上がったばかりといったような、まだあどけない少年の脳をいじくった。
結果かなりの高位能力者になったはずだが、すぐ他の機関に目を付けられて持って行かれた。
その後はたまに噂を聞く程度。
特力研、虚数研、etc……
よくもまあと感心するほど、悪質な施設ばかりたらい回しにされたらしい。
「で、そいつがどうして戻って来るんすか」
面倒臭い、どうでもいいと顔に書いてある。
上司と正面から顔を合わせていても、礼をわきまえるだとか媚びるだとかいう事に関心がないのがこの男の特徴であった。
そんな態度に、上司は多少渋い顔をする。
しかし文句は言わない。
この若き研究者・木原数多は、木原一族の一員であり、それなりの権力があり、何より多くの功績を持つ天才なのだ。
顔面の半分を黒く染める入れ墨といい凶悪な目つきといい、とてもまともな科学者には見えないが。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:00:53.19 ID:2kYsZ6Sv0<>
「……たらい回しの結果だよ。あの子供は確かにとんでもない能力者だが、とんでもなさ過ぎた」
「手に負えないって? ははっ! なっさけないねえ。ガキにビビって何が学園都市の裏の顔だか」
「ただのガキじゃない。この間の事件、聞いたか」
「たった一人で武装した警備隊壊滅させたってやつ?」
たった一人の少年を、大人たちは完全武装で取り囲み、寄ってたかって攻撃した。
結果は何と返り討ち。
『脳の開発』によって他の学生達と同じように『科学的な超能力』を与えられたその少年は、
学園都市に数多く存在する他の能力者たちを遥かに凌駕する実力を見せつけた。
それは、隠し事が大好きな学園都市の上層部でも流石に隠蔽し切れなかった、派手な事件。そして、失態だった。
「あれが決定打になったらしい。もうどこも引き取りたくないそうだ」
「だから親元に返しますってか。勝手に持ってっといて好き放題言ってくれるぜ」
木原は、芯を引っ込めたボールペンの先で鼻の上辺りをぽりぽりと掻いた。
一挙一動が不真面目さを引き立てている。
一応、そんなとんでもない化け物を生み出してしまった張本人であるにも拘わらず。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:01:25.58 ID:2kYsZ6Sv0<>
「あの子供を手放すのは惜しかったのか?」
「そりゃね。下手すりゃレベル5の逸材でしょ」
「実はまだ測定できてないそうだ。本人が嫌がってな。……そのワガママが通ってしまうというのが既に恐ろしいが」
「ふーん。で? その測定不能のガキが何だって?」
「……喜べ。その逸材をお前に任せる」
「はあ!? 今更興味ねえよ」
だらしなく腰かけていた木原は、ガタリと音を立てて立ち上がった。
今日に入って初めて木原を動揺させてやった。
それで上司は少し満足げになり、彼の元から離れて行く。
「親元に返しますって事だ」
そう言ってドアを開ける中年の研究員。
やなこった、と言い返す前に、ドアは閉まった。
木原は一人取り残されていた。
椅子を蹴り上げる。
派手に飛んだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:01:54.07 ID:2kYsZ6Sv0<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
真っ白な少年が黙って目の前に立っている。
異様な光景だ。
まず、子供のくせに白すぎる。
そして、子供のくせに黙りすぎる。
無表情なのにどこか不満げで、挑戦的で、寂しげだった。
十歳の子供にこんな表情を作らせるとは学園都市も相当病んでいるものだと、
思いやりの乏しい木原にまでそんな感慨を覚えさせるような子供だ。
前に見た時はもっと黒かったし、多少は可愛げがあった気がする。
あれは何年前だったか。
「俺を覚えてるか?」
木原が声を掛けると、地面を見つめていた少年は顔を上げ、じろりと彼の顔を眺めた。
「……キハラ」
髪と肌は真っ白なのに、瞳の色だけは真っ赤。
気味の悪いガキだ、と木原は思った。実際口に出して言ったが、少年は気に留めた様子も無かった。
昔は髪も瞳も真っ黒で、少しは日に焼けた子供だった。
なぜ今はこんなに白いのかと言うと、他でもない木原が与えた能力のせいで、無意識の内に紫外線を反射してしまうかららしい。
物だろうが音だろうが匂いだろうが核弾頭だろうが、向きのあるものなら全て跳ね返す能力。
軍隊を相手にしても平気な顔をしているだろうと言われるレベル5達と、本当に肩を並べてもおかしくない。
まさに化け物。
目の前の、無垢さを象徴するかのような色をした少年は、そういった存在なのだ。
手中にできれば、面白い。
だが手懐けられるか?
できる。
と、木原は判断した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:02:21.58 ID:2kYsZ6Sv0<>
この子供は現在、自分は他人に拒絶されていると思っている。
事実、多くの人間が彼を拒絶している。
手元に置きたくない。もういらない。
大勢で取り囲んで銃器で攻撃までされたくらいだ。
たった今が、ギリギリのライン。
人間不信になりかけの、絶望の底へ落ちかけの、最後の崖っぷちでフラフラ揺れているところ。
そこへ唯一、手を差し伸べる大人が現れたらどうなるか。
「わたしだけは信じていいんだよ」と言ってくれる人がいたら、どうするか。
その手にすがりついて、一生放せなくなるだろう。
そうなればもう言いなりだ。
人格丸ごと操ったも同然。レベル5の手綱を引ける。
(ガキ騙すなんざ簡単なもんだ)
木原は笑い、手を伸ばした。
誰からも、触れる事さえ拒まれてきた小さな少年の方へ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:02:58.94 ID:2kYsZ6Sv0<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
木原数多は非常に優秀だ。
頭がいい。器用である。格闘技のセンスも相当なものだ。
大抵の事は人並み以上にこなしてきたからこそ、知らなかった事がある。
自分にも苦手な分野がある、という事実だ。
「死ーねバァーカ。クソ木原」
それは、教育。
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◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:03:32.28 ID:2kYsZ6Sv0<>
一方通行(アクセラレータ)、十三歳。
木原に絶対服従になるはずだった少年は、たった三年で殺したくなるほど立派なクソガキに成長していた。
言われた事にはほぼ全部反抗する。
ちっとも年上を(というか木原を)敬わない。
よし、殺しちゃおうかな、と思った事は何度もあった。
「おい一方通行。今日初めて会って言う言葉がそれか……」
木原は少年の本名を知らない。能力名である『一方通行(アクセラレータ)』を呼称としている。
科学者は子供の能力開発をする際に簡単な健康診断書を渡される。
だから一度は氏名を確かめたはずである。
知らない事はないはずなのだが、思い出せない。
少年が他の施設に取られた瞬間、完全に忘れた。
改めて引き取ってからも興味が無いから聞かなかったし、少年も名乗ろうとはしなかった。
「オマエ、セーブデータ消しただろ。俺の四十二時間を返せ」
そしてこの子育てにおける木原の最大の誤算は、
「ゲームなんかしてる場合かクソガキ。この間のテストボロックソだったじゃねえか。なんだ10℃の水と5℃の水合わせたら15℃って」
「どォせ俺はバカですよォ」
一方通行は夢のレベル5どころか街を歩けばたまに見かけるレベル4ですらなく、ただのレベル3だったという事だった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:04:09.84 ID:2kYsZ6Sv0<>
レベル3といえば高位能力者に片足突っ込んではいるのだが、学者に言わせれば価値は低いと言わざるを得ない。
核弾頭を跳ね返すのは確かにすごい。
だが、彼に出来るのはそれだけだった。
真っすぐ飛んできたものを、そのまま同じ方向へ返す。
しかも、意識して相当集中しないと反射できない。
無意識で反射出来るのは紫外線が限度だ。
つまり、後ろから不意打ちで引っぱたかれたら、それだけで割とあっさり死ぬのだ。
レベル5と肩を並べるような化け物ではない。
バカ正直に真正面から攻撃すれば返り討ちにされるが、放っておけば何の害もなかったのである。
「ったく……何で俺がこんなバカの世話焼かなきゃなんねえんだ」
木原は口先でぶちぶちと呟く。
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◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:05:09.96 ID:2kYsZ6Sv0<>
一方通行はバカであった。
一応レベル3相当の頭脳があるはずなのに、勉強をしないので丸きり成績が上がらない。
やればできる子なのかもしれないが、これは確実にやらないで一生を終えるタイプだ。
本人より木原の方が気合を入れて勉強を見てやっているほどである。
何せ努力すればレベルが上がるかも知れないからだ。
やれることは何でもやるのが木原家の流儀なのだ。
しかし上がらない。何回言っても同じ所を間違える。
まさかと思うような勘違いをしている。
そして、出来ないのは全て教える側のせいだと思っている。
本当に、よし、殺しちゃおうかな、と何度思ったか分からない。
やろうと思えばやれた。子供の命を奪う事に抵抗を持つような人格者ではない。
いらないなら捨ててしまった方が、無駄な時間と出費も抑えられて得である。
それでも実行に移さなかったのは、わずかな可能性が頭から離れなかったせいだ。
『生意気でバカで何の取り柄もないレベル3』。
もしかしたらそれが、真実ではないかもしれないという予感。
予感というより、ある種確信に近かった。こいつは何かを隠している。
大した根拠もないのにそんな事を信じるのは、科学者にあるまじき考えだと理解しながら。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:05:39.30 ID:2kYsZ6Sv0<>
――――――――――――――――――――→
「――暗闇の五月計画ゥ?」
いかにも感心の無さげな顔つきで、一方通行は聞き返した。
手に持ったゲームのコントローラーは放さない。
カチカチやりながらついでに木原の話を聞いている感じだ。
この態度、話し掛ける木原側からすると非常に腹が立つ。
しかし思い返せば、自分も似たような事を他人にしまくってきた事に気が付く。
だから今度から反省するという思考回路は持ち合わせていないが。
「そうだ。学園都市第一位・垣根帝督の演算パターンを脳みそにブチ込んで、無理やりレベルを上げようってプロジェクトだ」
「フーン。お、あぶね」
話を聞きながら、一方通行は器用にカメのモンスターの攻撃を避けている。
「そいつを受けろ、一方通行」
「ヤでェーす」
即答・速攻・大否定。
むかついたので、木原は殴ることにした。
不意打ちなら普通に通るのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:06:05.24 ID:2kYsZ6Sv0<>
フローリングの床に人体のぶつかる大きな音が響いた。
「いってェなクソ原! ブチ殺すぞ!!」
「テメェにできるわきゃねえだろ、レベル3の雑魚が」
派手にやられてゴロゴロ転がった一方通行が悪態を吐くが、木原に敵わない事はよく分かっていた。
ブツブツ言いながら座り直す。
テレビの中では主人公がキノコに殺されていた。
「何をやってもどん底底辺のお前が、何とか上に行けるとしたらもうそれしかねえ」
「でもォ、俺バカなンでェ、レベル5の天才サンの演算パターンとか埋め込まれても使いこなせませェン」
「んなこた分かってんだよ」
「だったら何で」
「最後の賭けだ」
いやにきっぱりと、木原は告げる。
その鋭い眼光に、一方通行は一瞬言葉を詰まらせた。
「そこまでやってダメなら終わりだな。ウチにクズはいらねえよ」
終わり。
木原のこの言葉を聞いて、クズと呼ばれたレベル3は暗い顔になった。
「……そォかよ」
追い出される。
レベルが低いから。
最後に自分を一瞥して去っていく木原の背中を見つめて、一方通行は考えていた。
(次の測定、レベル上げるか……)
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:06:40.52 ID:2kYsZ6Sv0<>
実を言うと、一方通行に出来るのは反射だけではない。
彼の能力の本領はベクトル操作。
あらゆる力の向きをあらゆる方向へねじ曲げる。
そして、その対象は例え未知の物であっても例外にはならない。
初見の力を即座に解析し、そのベクトルを掌握する。
無意識に反射できるものも紫外線に限らない。一度セットしてしまえば何でも有効である。
はっきり言って、相当すごい。
と、彼は自覚している。
実際本気になって測定した事がないのでどの強度になるのか分からないが、「下手すりゃレベル5」は間違っていないだろうと思っている。
しかし、彼は順位に興味がなかった。
興味がないというより、あえて下にいようと考えていた。
レベル5。超能力者。一国の軍隊をも超越する化け物。
そんなものの一員になれば、周りの人間がどう接してくるか大体想像がつく。
腫れものに触るような。
恐ろしい物を見るような。
気持ち悪いモノを相手にしているような。
小学生のころに嫌というほど味わった気持ちを、もう一度経験したいとは思わなかった。
自分には今、気味悪がらずに接してくれる人がいる。
しかしレベル5になってしまえば、その人にとってただのモルモットになってしまう。
人としての居場所がなくなるのは恐ろしかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:07:09.84 ID:2kYsZ6Sv0<>
かといって、バカなままでいても追い出されるのは時間の問題である。
そのさじ加減が非常に面倒だった。
テストで毎回珍回答をして成績を下げるのは簡単だし、ちょっと面白いとさえ思っている。
だが、毎回のレベル測定で不自然にならない程度に測定器を騙すのは神経をすり減らす作業だ。
失敗するといきなりレベル1判定ということにもなりかねない。
(……いきなりレベル4になるのは早すぎるか……?)
コントローラーを手に取り、ゲームを再開する。
ノーミスでクリアするのは周りに人がいない時限定だ。
(学園都市第一位、垣根帝督……ねェ)
最強の座には興味がない。
ただ、どんな人物なのだろうとは思う。
やはり人から恐れられ、妬まれ、お門違いな感情をぶつけられながら、人格をねじ曲げられて生きているのだろうか。
もしかしたら一方通行が背負っていたかもしれない悲惨な立場。
同情はしない。
そういう育てられ方をしていないから。
(まァ、ご愁傷様、くれェは思っておこォか)
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:07:37.00 ID:2kYsZ6Sv0<>
三つ目のステージクリア。ここまでミス無し。
ゲームに飽きた一方通行は、コントローラーをその辺に投げ出して床に寝そべった。
(暗闇の五月計画か。そンな奴の思考パターンなンざもらいたくねェなァ……)
(……レベル4一歩手前くれェの成績出したら、許してもらえっかなァ)
考えていたら眠くなったので、
一方通行は寝た。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/18(木) 22:08:04.91 ID:2kYsZ6Sv0<>
初回はこのへんで
今更な気もするけど、一応注意点として以下のようなものがあります
→ 一方通行が能力者第一位じゃないです。腰抜けランキング一位です
→ 甘い展開はありません
→ 一応言っときますが、BLではありません
そういうアレですが良かったらお付き合いください
やっててよかった木原式!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 22:11:02.89 ID:Vfqx50jo0<> 一方通行が可愛いので期待
しかも文が読みやすい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 22:11:50.17 ID:Cq3FXP3bo<> 乙
前に総合に投下してたやつか
続きが読めるのを期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 22:12:39.23 ID:PViqxqkk0<> 総合ですごく楽しんで読んでたやつだ
超期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 22:13:41.66 ID:8VHrlj6DO<> キマシタワーー
総合に投下されたときから密かに待ってた…!
興奮して涙出たとマジレス
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 22:14:13.99 ID:eY5rXEPG0<> まさか続きが読めるとは思わなかった
好きなシリーズだったから期待している <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<>sage<>2011/08/18(木) 22:21:48.21 ID:yVQ4PHUu0<> 貼りつくスレが増えた
超期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/08/18(木) 22:37:03.71 ID:xSiMlmoAO<> あまりにもタイムリー過ぎて>>1はあのレスを見てたんじゃないかと
ともかく乙!
滅茶苦茶期待してるぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 23:17:57.32 ID:greAKegIO<> >>19
甘い展開は作ってくれよ
乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 01:43:20.56 ID:vBul9awto<> 乙乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/19(金) 03:54:37.49 ID:vyYLXueH0<> 総合の人きたー!ずっと楽しみにしてたって訳よ
まじ期待してる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 11:03:48.71 ID:YwXczfCAO<> やっててよかった木原式! <>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:13:45.98 ID:Ori7L7Wn0<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
「木原さん」
誰だっけ。
同じ研究室の、多分新人かそこらの研究員が後ろから走って来た。
コスト削減で電灯が少なく、薄暗い廊下。妙に足音が響くので耳障りだ。
「あーっ? 走るんじゃねえよ。うるせえから」
「す、すみません」
新人は小走りをやめたが、木原はゆっくり歩き出した後輩を止まって待つでもなくずかずか歩き続ける。
仕方ないので、若い研究員はすり足の早歩きで木原の隣まで追いついた。
「あの、一方通行の件ですが」
「めんどくせ。消えろ」
「え、あの……」
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:14:46.19 ID:Ori7L7Wn0<>
ここで、はい分かりましたと素直に消えない程度には、我の強い人間だったらしい。
新人研究員は多少申し訳なさそうにしながらも木原の横を歩き続ける。
「彼を暗闇の五月計画に渡すというのは本当ですか? 『未元物質』の演算パターンじゃ、『一方通行』には応用利かないと思うんですけど」
学園都市第一位の超能力者、垣根帝督の演算パターンを他の能力者に植えつけて能力の向上を図るプロジェクト。
それはつまり、他の能力者に垣根なりの『コツ』を分け与えるという事になる。
畑違いの能力者に施しても、あまり意味がないだろうというのが彼の意見だ。
将棋の棋士にマジックのテクニックを教えてやるようなもので、多少は視野が広がるかもしれないが、
その程度なら詰将棋でもしていた方が有意義である。
「相性が悪すぎます。それに、人格にも影響が出るって聞きましたよ。まあ、あれ以上性格が悪くなる事はなさそうですけど……でも、」
「あーあーあーもーうるっせえなあー」
歩きながらうんざりした声を吐き出す木原。声は廊下の向こう側まで届き、響き渡りながら耳に戻って来る。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:15:39.09 ID:Ori7L7Wn0<>
「その件はなあ、あいつが次の測定でいい線行ってたら取り下げてやるからいいんだよ」
「取り下げる?」
「あいつにはこれが最後のチャンスだと言ってある。次の測定か、暗闇の五月計画の後でもダメだったら追い出すぞってな」
「嫌なら頑張れって事ですか……根性論ですか? 木原さんらしくないです」
「ばぁーか。根性でレベルが上がるか、ばぁーか」
何故二回言った。
新人はむっとしたが、すぐにまた喋り出す。
「じゃあ、どういうつもりなんです?」
「俺のカンじゃ、あいつは次の測定でレベル4の一歩手前くらいの成績出してくるはずだ」
「無茶ですよ。この間測った時は『オマケで3』ってくらいの数値だったそうじゃないですか。頑張ったってレベル3の真ん中あたりでしょう」
「何をどう頑張るってんだバカ。さっきも言ったろ。根性でレベルは上がらねえよ」
「根性じゃないならどうやって上げてくるっていうんです? 測定日までに猛特訓っていうなら結局根性ですよね」
「はーっ、ここまで言って分からないかねえ」
木原は、改めて隣の若い男を眺めた。
本当に誰だっけ、こいつ。
「俺が相手するバカは一人で充分だ。本当にそろそろ消えろ」
「……」
新人はまだ何か言いたそうだったが、これ以上得るものはないと判断したらしい。
軽い会釈と挨拶の言葉を残して、薄暗い廊下を引き返して行った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:16:20.80 ID:Ori7L7Wn0<>
一人になった木原は考える。
先程言ったとおりただの勘だが、次回一方通行はレベルを上げてくると踏んでいる。
前々からそういったフシは見受けられたが、どうやら彼はわざと自分の評価を下げているらしいのだ。
つまり、その演技をやめればレベルは上がるという事。
(わざわざバカの振りをするとは、嫌味だねえ……)
何故彼がそんな事をするのかは、大体想像が付いている。
悪目立ちすると碌なことがないという事を十歳の時すでに学んでいるからだろう。
それでも、それを押してもレベルアップしなければならない事情が、今度の彼にはあるはずだ。
木原はそう確信している。
最初に測定した時、一方通行はレベル2だった。
そして、木原が「こんな役立たずはさっさと余所へ処分するか」とぽろっと口にした直後の測定で、彼はレベル3に上がった。
生意気に反抗して見せているが、結局のところ、少年は木原に見捨てられることを何より恐れている。
どん底に落ちるぎりぎりの所で彼を引き上げたのは、手を差しのべたのは、木原数多ただ一人だったのだから。
その手を離されたら落ちるしかない。もう戻って来られない。
他の誰に拾われようと、木原に捨てられたら生きては行けない。
三年掛けて木原が刷り込み、一方通行自身が信じ込んだ、強迫観念だった。
「さぁて。あいつは椅子に座れるのかね?」
木原は虚空へ呟いた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:17:13.00 ID:Ori7L7Wn0<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
実は椅子が一つ残っているらしいという噂をが流れたのは、五年以上前の事だ。
学園都市にはレベル5が六人いる。
というのが一般的な認識である。
噂ではあと一人、レベル5になれる素質を秘めた学生がいるらしい。
それは道端でふわふわ浮いている強能力者かもしれないし、
そこら辺でたむろしている無能力者かもしれない。
まだその本領を開花させていない『七人目』は、覚醒の時を待って眠っているのだという。
のだが、この噂には一つ穴がある。
能力者とは育ててみるまで限界がどこなのか分からないものなのである。
「レベル5になれる素質」などというものは無いし、例えあっても知りようがない。
科学の街でこんな表現をするのもおかしな話だが、こればかりは神のみぞ知る運命なのだ。
その事をよく知っている学生たちは、噂をくだらない都市伝説として一蹴した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:17:42.37 ID:Ori7L7Wn0<>
対して、研究者達はそれを聞いて一様に色めき立った。
学生達には絶対に認知されない『素養格付』という極秘データの存在があるからだ。
存在自体が極秘なので誰も知らない事になっているが、能力開発分野の研究者達の間では常識になっている。
ごく限られた者達だけが手にする事が出来るそれには、
開発を行う前からその学生が将来的にどのレベルまで到達できるか、事前に判定された情報が記されている。
そのデータの一部が何かの手違いで漏れて、断片的に「レベル5がもう一人いる」という噂が流れ出してしまったのだ。
「もしかしたらウチで飼っているあいつがそうかも……」
当時の研究者達は皆それを期待した。
だが、当時彼らが抱え込んでいた能力者達は誰もレベル4より上には上がらなかった。
となると、研究機関には属さないノーマークの学生がそれだという事になる。
大人達の間で壮絶な椅子取りゲームが始まった。
最後のレベル5の椅子を巡って。
実験や測定で少しでもイレギュラーな反応を見せた能力者は、様々な研究機関から引っ張りだこになったのである。
しかし最後のレベル5はいつまで経っても姿を現さなかった。
学園都市のどこかにいるはずなのに、その正体は誰にも見えない。
いつしか研究者達の間でも、その噂は廃れていった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:18:12.48 ID:Ori7L7Wn0<>
一方通行という子供を見る時、木原は時々その噂を思い出す。
もしかしたら……
その疑念、というよりも期待が、頭から離れない。
レベル5の価値は、学園都市にとって絶大である。
そして、その精神を掌握しているとなれば、彼自身の力も一気に跳ね上がる。
(あのガキが本当にレベル5の才能を秘めた化け物なら……面白い事になる)
彼は自信家だ。
子育て以外の事なら何でもほぼ完璧にこなせると自分で思っている。
そして、実際これまでの人生では思い通りの成果を遂げているのである。
(本性引きずり出してやるよ。何が何でもな)
薄暗い廊下は、彼の歪んだ笑みと野心を――少なくとも半分くらいは、包み隠していた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:18:39.03 ID:Ori7L7Wn0<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
次の測定で、一方通行は律義に上げてきた。
予想通り、レベル4のギリギリ手前。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:19:08.82 ID:Ori7L7Wn0<>
→レシピ0...おわり
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/19(金) 19:19:40.54 ID:Ori7L7Wn0<>
つづくゥン
やっててよかった木原式!
↓
やめときゃよかった木原式!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/08/19(金) 20:19:43.34 ID:IUOt6mKAO<> 乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 20:21:29.47 ID:E15pKLTDO<> 乙
前と展開違うのかな?
すごい楽しみ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 20:27:13.72 ID:HcYQu3NDO<> ここまでは一緒だから
総合からの続きがあるんじゃないだろうか
乙乙!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/08/19(金) 22:12:31.84 ID:db9SFe55o<> ああ……まさか本格的に続きが来るとは
期待してる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 22:34:22.83 ID:3oN66FGBo<> 乙ゥ!
来てたあああ待ってたああああああ!!
やっててよかった木原式! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 23:45:12.47 ID:+BC4FQwSO<> やべぇ木原式おもれぇ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/20(土) 00:35:05.51 ID:5VQ9h6vL0<> ああもうほんと続きが読めて嬉しい!
続き早く見たいな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/08/20(土) 06:08:14.73 ID:vsoHIcJt0<> 乙
木原式いいなww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国)<>sage<>2011/08/20(土) 12:06:42.06 ID:BC2T1XuAO<> 乙
木原式頼もしいwww <>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:29:27.29 ID:8hVhXUvc0<>
→レシピ1:レベルシフト計画
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:32:02.70 ID:8hVhXUvc0<>
とある年の八月の、とある日の蒸し暑い夕方。
木原数多は、申し訳程度に冷房の効いた廊下を、白衣のポケットに手を突っ込んでずかずか歩いていた。
彼の所属する研究所は、学園都市の研究機関のご他聞に漏れず巨大である。
広大な敷地にいくつもの研究棟が建っていて、初心者が案内なしで潜り込んでも絶対に目的地へはたどり着けない。
さすがに何年も通っているので木原が迷子になる事はなかった。
目的の廊下を淀みない足取りで突き進み、三一一号室の扉へ到着する。
ここは泊り込みで作業をする研究員達のための仮眠棟である。
その内の一室に、とある少年が住み着いている。
高校に上がって学生寮の一室が宛がわれたのだが、面倒臭がっていつまで経っても引っ越さないのだった。
ノックもせずに入り込むと、そこには上機嫌で食事をする一方通行の姿があった。
「木原くン木原くゥン、この明太子スパゲティ、海苔が偏ってオマエの顔の刺青みたいになってるンですけどォ」
「お前はバカだね〜〜〜〜〜、一方通行クン。食い物で遊んでる暇があったら勉強するか死ね」
「すっげェ、このパスタ木原そっくり」
「死ね」
ぎりぎりレベル4寄りのレベル3になってから二年。
一方通行は十五歳になっていた。
相変わらず色は白い。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:33:18.31 ID:8hVhXUvc0<>
あれ以来、彼の成績は上がっていない。
同じように脅しつければ上がっただろうが、この二年は木原の方にその余裕がなかった。
木原の行っていた「条例ギリギリアウト」の実験が内部告発されたのだ。
おかげでグレーゾーンで踏ん張って来た両足を、学園都市の暗部にどっぷり浸からせる羽目になった。
ばれてから堕ちるのは早かった。
その罪を握りつぶすため出された条件は、学園都市の暗部組織の一員となる事。
命懸けの汚い仕事を次々押し付けられ、あっという間に上から下まで泥まみれ。
もともと悪党の方面にも才覚があったらしい彼は、こちらの分野でも本職同様優秀な仕事ぶりを見せつけ、
気が付けば『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』という小組織のリーダーに抜擢されてしまっていたのだ。
元がただの科学者にしては異例の大出世である。
嬉しくないが。
ちなみに彼の罪を告発した同僚の研究者は、この間実験中に起きた不幸な事故で亡くなっていた。
あれは実に不幸な事故であった。
つくづく不幸な事故であった。
返す返すも残念でならない。
そして本日は、その真っ黒な世界に秘蔵っ子を巻き込もうという魂胆である。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:34:33.59 ID:8hVhXUvc0<>
テーブルに置かれた一皿のスパゲティをフォークでつつく(顔に例えるなら丁度鼻の穴あたりを執拗に狙っている)一方通行のそばへ、木原は近寄った。
「おいクソガキ。お前バカだし暇だろ。ちょっと働け」
「バカは全然関係ねェだろ。面倒くせェからパス」
「よぉし、説明すんぞー。この間『猟犬部隊』の下っ端が大勢死んじまって、新規クズの補充まで一週間かかる」
「そりゃ大変そォだが、俺は関係な」
「こっちだって好きでやってんじゃねぇってのにヤレヤレだ。で、その間にくだらねえ用事が来ちまった」
「俺はやンねェって……」
「『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』って知ってるか。知らねえよな、バカだから」
「いちいち再確認させンじゃねェよ。どォせバカですよ」
「そんな当たり前の事はどうでもいい。『絶対能力進化計画』ってのはつまり、能力者を前人未到のレベル6に引き上げる計画だ」
「……ハァ」
一方通行はあきらめたのか、フォークを置いて話を聞く姿勢に入る。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:35:41.73 ID:8hVhXUvc0<>
「レベル6だと? どォせ第一位様が頑張ってンだろ。レベル3の俺に何しろってンだ」
「後片付けだ」
「何の」
「死体」
当たり前のように吐き出される言葉に、少年は押し黙った。
それでこそクズのお仕事だ。
もしいくら死んでもいいような人間の死体なら。
「……随分物騒な実験じゃねェか。最初から誰か死ぬのが分かってンのか」
「殺すのが工程の一部だからな」
「そりゃヒドイ」
「今日の分は一体でいいはずだから、楽だぞ。テメェはラッキーだ」
「今日の分? 一体でイイ? 何日掛けて何体出す気なンだよ、死体」
「期間は知らね。出る死体は全部で十万体」
「じゅゥまン!?」
流石に驚いて椅子を鳴らす。
口を開けて見上げてくる一方通行へ、木原は事務的な調子で説明を続ける。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:36:56.82 ID:8hVhXUvc0<>
「十万通りの戦闘環境で能力者を十万回殺害すると、経験値が溜まってピロリロリン♪ って事なんだとよ」
「喜ンで殺されてくれる人間が十万人もいンのかよ。第一位のレベルアップのために? カルトの教祖様か」
「いいや、クローン人間だよ。感情なんかない。第二位の超電磁砲のDNAマップを使って、能力者を量産したんだ」
「またわざわざイカれた事してンだな……引くわァ」
生身の人間ですら、コンビニでワンコイン投入してボタンを押すような気軽さでコピーしてしまう。
その技術力もさることながら、実行に移してしまうイカれっぷりが、流石科学の街といったところか。
「そのクローンもな、もとはレベル5の大群を生み出す目的で作ったモンらしい」
「何にせよ引くわァ」
そして「引く」程度で済ませるあたり、この少年も大概学園都市の思想に毒されていると言える。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:39:18.74 ID:8hVhXUvc0<>
「だがまぁ、せいぜいレベル2か3どまりの能力者しか製造できなかったんで、量産計画は頓挫したとか何とか」
「何だそりゃ。十万人無駄に作って余ったってのか?」
「量産計画で余った奴はみんな死んだよ。垣根が実験に承諾してから追加製造中だ」
人間の創造主は神であると信じる宗教の人々が聞いたら卒倒しそうな話を、木原という科学者は表情も変えずに淡々と続ける。
一方通行も一方通行で、多少顔を歪めるものの、卒倒もしないし抗議もしない。
「第一位様がどんどん殺してくれるんで、製造の方が追っつかなくてヒーヒー言ってるらしい」
「……引くわァ」
「全くだ。天才の考える事は分からないねえ。で、天才でも何でもないクズの出番だ」
そこで、木原がだるそうな挙動で右腕を持ち上げて――
筋張った長い人差し指の先が、赤い視線を捕らえた。
「今日の予定は第一七学区の操車場で一体殺害。その死体を回収して処分するのがお前の役目だ」
「ヤでェーす」
「行け」
一方通行は首根っこを掴まれ、外へ蹴り出された。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:40:22.36 ID:8hVhXUvc0<>
――――――――――――――――――――→
勝てなくはない、と思った。
一番最初に第一位に出会った、悪夢のようなあの日。
特に何の感慨もなさそうに、まるで目覚まし時計でも止めるかのように当たり前の調子で、
自分と同じ顔の少女の頭を叩き潰した男。
垣根帝督。
学園都市最強の超能力者。
次点である第二位の御坂美琴は、その最強の座に君臨する男を見据えて立っていた。
第十七学区の操車場に人影は少なかった。
実験のために人払いされているのだろう。
そこに立っている人間は美琴と垣根の二人。
そして。
第一位の向こうには、力なく横たわる少女。
倒れる少女もまた、美琴のクローンだ。
肩が少し揺れている。
か細い息遣い。
今日殺される予定の少女がまだ生きている事を確認し、彼女はほんの少し安堵する。
まだ、助かる。
私が勝てれば。
<>
マダガスカル ◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:41:17.91 ID:8hVhXUvc0<>
「それで? このクローンの命を救うため、俺に勝負を挑みたいというわけか――第二位」
「そういう事」
彼女の決意を聞いて、垣根は鼻で笑った。
美琴は以前、第一位と第二位の間には実力的に大きな差があると言われた事がある。
学園都市にたった六人しかいないレベル5の頂点と、その次。
他の能力者たちからすればどちらも雲の上の存在だが、頂上同士の間にも確かに優劣は存在するのだ。
しかし、届かない相手ではない。
手も足も出ないなんて事はない。
絶望的過ぎる差ではない。
そう思ったからこそ、一人闘い抜く事に決めたのだ。
「手伝う」と言ってくれた、ある少年の手を振り切って。
出会ったその日に見た第一位の力の片鱗を思い出し、御坂美琴は小さく頷く。
「悪いけど、本気で行くから」
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:42:26.95 ID:8hVhXUvc0<>
そう、本気なら。全力なら、どうにかなるかも。
ではなく、どうにかしなければ、勝たなければならない。
これ以上妹達を殺されてたまるか。
そう、妹。
彼女にとって、殺されるために生み出されてきた大量のクローン達は、妹と呼べる存在だった。
兄弟のいなかった美琴にとっての。
彼女をどこか姉のように慕ってくれた、そしてその日の内に殺されてしまった、何万何千番目かの妹を思い出す。
止めるのだ。
この実験を。
ポケットの中のコインを握り締める。
ゲームセンターから勝手にかっぱらって来た薄い金属。
「食らいなさいッ! ――――超電磁砲ッ!!!」
「……好きにやってみればいいさ」
美琴の華奢な手から弾かれた何の変哲も無いメダルゲームのコインは、音速を飛び越えて宙を走った。
鋭い光が辺りを照らし、一歩遅れて爆音が響く。
直撃。
ビル1つ倒壊させる程の威力を持つ超音速の弾丸が、垣根帝督の胸元へ向かって撃ち抜かれた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:43:15.47 ID:8hVhXUvc0<>
ほんの数秒、御坂美琴は動きを止めていた。
辺りには砂煙が立ち込めていて、垣根がどうなったかはまだ分からない。
ただ、このくらいで死ぬ相手ではない。
それは確信を持って言える事だった。
そもそも、今のは彼女の全力ではない。すぐそばに妹がいたのだ。
それを巻き込まないで、人間一人戦闘不能にする程度。
『未元物質』がどんな能力であるにせよ、これで第一位が倒れるとは思わなかった。
美琴は油断無く煙の中を見据える。
反撃が来てもすぐ対応できるように。
次の瞬間。
「――!? ッぁあッ……」
白く輝く「何か」が、真っ直ぐ直線を描いて彼女の肩を貫いていた。
「痛ぅっ……!」
思わず膝から崩れ落ちる。
「成程。まあまあやるんじゃねえか?」
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:44:07.04 ID:8hVhXUvc0<>
曇った景色の向こう側から、余裕を感じさせる声が響いてきた。
続いて、垣根帝督が進み出る。スモークを演出にでも使っているかのように、悠然と。
「だが常識的過ぎる。科学でどうとでも説明がついてしまう。それじゃあ俺には適わない」
「あ、んた……一体……?」
第一位の背中からは、大きな白い翼が生えていた。
まるで、天使のような。
その翼で繭のように体を包み、彼は超電磁砲の衝撃から自分を守っていたのだ。
翼が広がり、整った顔が現れる。
「一つだけ教えてやる。俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ」
その様子を見て。
(引くわァ)
と、一方通行は思っていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/21(日) 20:44:59.55 ID:8hVhXUvc0<>
つづくわァ
話の展開は総合の時とほぼ一緒です
その後からがこのスレオリジナルになります
このSSは地の文が多いので、読み手側の負担を考えて小分けに投下することにしました
総合で既にオチを知ってる方にはイラつかせてしまうかもしれませんが、
あと2回で追いつくのでご容赦ください
というわけでつづくわァ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 20:48:06.31 ID:vbUxXl/DO<> 乙!
前にはなかった上条さんフラグが出てたな
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)<>sage<>2011/08/21(日) 20:51:52.63 ID:x65qjxPZ0<> 乙
スレオリジナルが楽しみで仕方ない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/21(日) 20:56:05.28 ID:n0ETs+Qp0<> 乙
待ってるわァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/08/21(日) 21:03:37.70 ID:YOZrMHUQo<> 待つわァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 21:17:36.38 ID:FwC1mEbDO<> 乙わァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/08/21(日) 21:38:33.03 ID:EVooQcoAO<> 五和ァ
1乙
引くわァに噴いた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 21:55:45.95 ID:dMMBBmySO<> 乙
楽しみだわァ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/08/21(日) 23:22:10.26 ID:bZMSTgeA0<> わたし待ーつわァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/21(日) 23:37:14.98 ID:P0Q3mDZTo<> いつまでも待ーつわァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/08/22(月) 01:18:56.96 ID:RRe5m6Bk0<> 乙
期待して待つわァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/08/22(月) 06:30:44.05 ID:vHx6H2BJo<> 一方さんかわいいっすわァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/22(月) 18:09:13.54 ID:GruVDe0J0<> おっしゃー続いたか
期待してるわァ <>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:20:28.91 ID:g2nhK56+0<>
――――――――――――――――――――→
死体があるから片付けて来いと言われて来てみれば、
死んでいるはずのクローンは生きているし、
学園都市最強とその次が殺し合いをしているし、
最強の人からは羽が生えているし、
常識は通じないらしい。
どうとも身動きが取れず、一方通行は頂点二人の闘いを物影に隠れて見守っていた。
正直なところ、死体が無かったのは少し嬉しかった。
死人を見るのは初めてではない。不可抗力とはいえ、彼自身が人を殺してしまった事もあるくらいだ。
しかし木原に引き取られてからは、そういった悲劇に直面する機会が無かった。
普通の学生よりは免疫があるし、それなりの覚悟はしていたが、実際に死んだ少女を目の前にしたら後味の悪い思いをしただろう。
とはいえ、恐らくこのまま放っておけばあのクローンは死ぬ。
そして彼は放っておくつもりである。
死ぬ瞬間を見るくらいなら死んだ後対面した方がましだったかもしれない。
複雑な気分だった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:21:40.38 ID:g2nhK56+0<>
覗き見している一方通行の前で、二人の闘いは激しさを増していた。
学園都市第二位の超能力者である御坂美琴は、暗部に関わらないいわゆる『表の世界』でも有名人で、
その能力『超電磁砲』の特徴も知れ渡っていた。
電流を操る能力者、『電撃使い』の最高位。
電撃使いというものを見た事が無かった一方通行は、それまで何となくお気に入りのゲームに出てくるある魔法を思い浮かべていた。
『イナヅマズドーン』というひどいネーミングで、敵の頭上に雷を落とす魔法である。消費MPは5。
だが、御坂美琴がやってのけたのはそれを遥かに超える芸当だった。
流石レベル5と言うべきか、『超電磁砲』は電流そのものばかりでなく電磁場やローレンツ力さえも操れるらしい。
電撃の槍を出したり電磁波を生み出して攻撃したりと、多種多様の技を見せていた。
よくそんなに色々出来るものだと驚くほどに。
しかしそれは裏を返せば、それだけ色々手の内を晒しても相手を倒すには至らないという事。
対する垣根帝督は、向けられる攻撃の全てを軽々と防いでいた。
ある時は背中から生やした妙にメルヘンな羽を使い、ある時は不自然に相手の攻撃の軌道を曲げて。
おちょくっているのか彼なりの気遣いなのか、最初に肩に当てた一撃以来、垣根の方からは美琴に何も仕掛けていなかった。
何もされていないのに、一人どんどん消耗していく。
第二位の表情に焦りといら立ちが見て取れた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:24:14.74 ID:g2nhK56+0<>
(窒素を操る能力者がいるってのを聞いた事があるが、それに近いのかもしれねェ)
一方通行は、怪物二人のぶつかり合いを見ながら、垣根の正体不明の能力を観察し、自分でも知らず知らず分析していた。
(何か対象の物質が決まっていて、それを自在に操作してるワケだ……見た事ねェけどな、あンな白くてメルヘンな物質は)
(ただ、そこにある物を操るンじゃなくて、無から有を生み出すってのがぶっ飛ンでやがる。流石はレベル5ってとこか)
その『見た事のない物質』が関わると、第二位の能力が捻じ曲げられたり打ち消されたりしてしまうのだ。
どういう理屈だか全く分からないが、真っ直ぐ発射されたはずの『超電磁砲』が垣根にぶつかる直前で奇妙に逸れていた。
正確には、『未元物質』が関わる場所で。
一方通行は美琴が攻撃を繰り出す度にそれがその場にどのような影響をもたらすか予測しながら見ていたが、その予想が悉く外されていたのだ。
「現象」が普通の動きをしない。
常識の中の物理法則が正常に機能しない。
異物。
それが、彼が『未元物質』に対して持ったイメージだった。
たった一滴で、カップの中の真っ黒なコーヒーを間抜けな茶色に変えてしまうミルクのような。
その異物が、レベル5の闘いの世界に一方通行の知らない物理法則を生み出している。
美琴は電気を操る能力者だ。その応用性は多岐に渡る。
だが、それはすべて科学の世界の枠組みの中で広がるものでしかない。
物理の常識に則って演算式を組み立てる御坂美琴を、垣根帝督というイレギュラーは完全に翻弄していた。
これが、『未元物質』。
これが、学園都市第一位・垣根帝督の実力。
―――― こ れ が ?
肩すかしを食った気分になった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:25:37.47 ID:g2nhK56+0<>
一方通行が二人の戦闘を眺めていたのは十分かそこらだったが、それだけで粗方の解析は済んでしまった。
知らない物理法則がそこにあるなら、今まで知っていたものが間違っていたというだけの事である。
もう一度、垣根が生み出す得体の知れない『何か』が世界に存在するものとして自分の中の物理法則を構築し直せばいい。
恐らくあの物質を反射する事は可能だろう。
垣根の『未元物質』があの変な物質を操る以外に能が無いなら、対処法は普通の銃器と変わらない。
突っ立っていれば終わりである。
これが、学園都市を代表するレベル5の、さらに一番頂上にいる能力者だというのか。
確かに一方通行は、自分が本気を出せばレベル5になってもおかしくないだろうとは思っている。
だが、それでもレベル5は六人もいるのだから、自分より上が三人くらいはいるはずだと考えていた。
しかし実際に頂上二人の闘いを見学してみれば、第二位はおろか第一位ですらこの体たらくである。
常識に沿って正々堂々と向かってくる相手にルール無視の反則技でぶっちぎるというやり方が、そもそもチャチな気がしてならない。
ルール違反はお互い様のような気もするが、それはそれで置いておくとして。
喧嘩の勝敗で順位が決まるわけではないという事はよく分かってる。
だが、それを抜きにして考えてもこの第一位には。
どうも負ける気がしない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:26:56.57 ID:g2nhK56+0<>
と、半ば馬鹿にするような事を考えていたその時だった。
守り続けるのに飽きたのか、垣根の方から美琴へ軽い攻撃が仕掛けられた。
白い翼の先が分解され、分かれた羽根が彼女の方へと襲いかかる。
「――ッ!!」
美琴はこれを間一髪のところで避けた。
避けられた羽根はそのまま直進し、障害物にぶつかる。
一方通行が姿を隠すコンテナへ。
(しまった……ッ!)
爆発。
起爆するような荷物など入っていないはずの鉄の箱が、弾けるように八方へ引きちぎれて飛んだ。
この不可解な現象も、『未元物質』の特徴によるものだろう。
一方通行は、咄嗟にその破片と衝撃波を反射した。
彼は自分の能力に「来たものを来た方向へそのまま返す」用途にのみ使用するという縛りを掛けている。
コンテナから彼へ飛んだ破片は、そのまま二倍の勢いを携えて真後ろへ軌道を変え――
「!?」
――背を向ける美琴の真横を通り過ぎ、垣根の顔面めがけて突進した。
それを、垣根は簡単に首を振って避ける。
「……誰だ」
破片の飛んできた方向へ、つまり弾け飛んだコンテナの方へ彼は視線を投げた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:29:04.44 ID:g2nhK56+0<>
そこには、肌も髪も真っ白な、異様な出で立ちの少年が立っていた。
もちろん知り合いではない。こんな白い人間に心当たりもない。
突然の第三者の介入に、垣根は驚くと言うよりも面倒そうな顔をした。
「やれやれ……実験に関わってしまった一般人は口封じに消しましょうなんてお決まりな展開になるのか?」
「なっ……」
垣根の言葉を聞き、美琴の顔色が変わる。
「やめてよ! 関係ない人まで殺す事ないでしょ! そこのあんた、ぼーっとしてないで逃げなさい!」
「ま、わざわざ俺がやらなくても誰か下っ端が殺るだろうよ。って事で目の前で一般人殺戮ショーが展開される事はないから安心しろ」
ほとんど関心のない様子で、垣根はぽりぽりと頭を掻いている。
鉄の破片が彼の方へ飛んだという事は、彼は突然現れた一般人から攻撃されたと認識しているはずだが、それすらどうでもいいらしい。
「おい、白髪。俺は今忙しいから一般人の相手をする気はねえ。巻き込まれて死にたくなかったら消えろ」
「いやァ、俺は一応無関係の人間じゃねェンだよ」
一方通行は観念して進み出た。
美琴が警戒心を顕にして彼を睨みつける。
「何ですって? 実験の関係者?」
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:31:51.09 ID:g2nhK56+0<>
「大層なモンじゃねェ。バイトだよ。俺はこの実験で出る死体の回収係」
殺気立って見詰めてくる美琴を宥めるように手を振り、一方通行は続ける。
「隠れてたコンテナがブチ壊れた時に破片が来たンで弾き飛ばしはしたが、もともと邪魔をする気はねェよ。
どっちが勝つンでもイイから、さっさと続けて終わらせろ」
「バイトだと? ……お前を雇ってる奴ってのはどこの誰だ」
「知らねェよ。実験の主導者だろ? オマエの方がよく知ってンじゃねェのか」
「そんなはずはねえな」
「……何?」
言いながら、垣根は白い翼の先端を一方通行へ向けた。
不穏な動きに白い少年は警戒するように眉をひそめる。
「この実験の死体回収と現場の隠蔽係は決まってんだ。いちいちバイトなんか雇わねえ。
まだ死んでないクローン達がやるんだよ」
「……成程ねェ、経済的だ」
第一位との会話を進めつつ、一方通行は考えていた。
(木原の野郎、ハメやがったか。だが一体何のために……)
「今もそこら辺で待機してるはずだ。何せ大勢いるからなあ、人手に困るなんて事もありえねえ。つまり」
バサッ!! と音を立てて、翼が大きく広がる。
「その死体を欲しがってる野郎ってのは、実験とは関わりのない外部の人間だ」
攻撃開始。
翼から離れた無数の白い羽根が、一方通行の方へと突進する。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:33:18.12 ID:g2nhK56+0<>
「やめてッ――!!」
美琴が叫んだ。
何かしらの手を使って彼を助けようとしたようだが、未元物質を止めるには至らなかった。
自らをただのバイトと称した男は、何をするでも無くその場に突っ立っている。
こんな真正面からの単純な攻撃にも対処できない程の素人なのだろうと垣根は思った。
だが次の瞬間、彼は自分の体を翼で守っていた。
バイトの方へ向けて撃った羽根が、真っすぐ自分の方へ返って来たからだ。
彼は未元物質を自在に操るが、彼自身も未元物質に貫かれれば死んでしまう。
咄嗟に自分の前に翼の壁を作ると、そこへドドドッ! と無数の羽根が突き刺さった。
彼本体に傷は無いものの、精神的には多少なりとも衝撃を受けていた。
未元物質が跳ね返される等という事は今まで一度も無かったのだから。
翼を広げ、バイトの方を見る。
少年は、相変わらずそこに立っていた。
その白い肌には傷ひとつ無い。
「おいおい、そこは死んでおかなきゃいけねえ所だろう」
「空気が読めなくてすンませンねェ、第一位サン」
「フン……」
薄笑いを浮かべてはいたが、垣根の脳内は十数メートル先に立つ人物の正体を探ろうと目まぐるしく動いていた。
そして、ある事件を思い出す。
「……お前、もしかして五年前に警備隊を壊滅させた反射能力者か」
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:34:33.07 ID:g2nhK56+0<>
学園都市第一位の頭脳を誇る垣根は、五年前に見た新聞の記事を覚えていた。
たった十歳の能力者が、完全武装した警備隊に攻撃されながらも生き残ったばかりか、返り討ちにしたという話。
当時はそれなりの規模のニュースになったが、五年の間に次々起こるニュースの波に流され、ほとんど人々の記憶には残っていない。
「確かその後の測定で、レベル2だか3判定されたはずだがな」
「お陰様でレベル3だよ」
「俺からすりゃ底辺って事に変わりはねえよ」
「そりゃどォも」
底辺呼ばわりされて、レベル3の少年は満足げに笑みを浮かべた。
「だが妙だな」
「何がァ?」
続けて投げられる言葉に、一方通行は面倒そうな調子で返答する。
垣根の方は、そして美琴の方も、彼がレベル3と聞いて解せない顔をしていた。
「俺の『未元物質』はこの世界には存在しない物質だ。
『まだ見つかっていない』だの『理論上は存在するはず』だのってチャチな話じゃない。
本当に、存在しないんだよ」
「……え」
たらり、と、一方通行の額から汗が流れる。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:36:12.22 ID:g2nhK56+0<>
「無い、てのはどォいう意味だ?」
一方通行の疑問に、美琴が緊張した面持ちで答えた。
「言葉の通りよ。どんな教科書にも、専門書にだって載ってない。本来ならあってはならないはずの物質」
「この世界の物理法則に当てはまらない異物……それが俺の『未元物質』だ」
垣根も続けて解説する。
「それをたかがレベル3の反射能力者が跳ね返せるはずがねえ。跳ね返す物質は既知の物でなければならないはずだからな」
「……跳ね返せるはずが、ない……」
垣根帝督と御坂美琴には分からなかった。
なぜこのタイミングで、このレベル3が滝汗状態になるのかが。
(やっべェェェェ! アレ反射できちゃまずかったのかよォ!?)
(教科書にも載ってねェ物質って何だ! そンなトンでもねェモン出すンじゃねェよ第一位!)
(クソォ、理科の勉強全然やってねェから知らなかった!!)
一方通行は焦っていた。
少なくともレベル3よりは上である事が、ばれた。
彼はあえてバカでいる事を選んだが、そのバカさが今裏目に出てしまった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:37:08.84 ID:g2nhK56+0<>
そんな彼の心情など知る由もなく、垣根はただ興味深そうに一方通行を眺めていた。
「……ハッ! おもしれえ。この第一位の『未元物質』どこまで反射し切れるか試してみるか」
「お断りしますゥ。実験はどォしたンだよ」
面倒事に巻き込まれるのは御免である。
第一位の申し出を、一方通行は必死で辞退する。
しかし、
「そうだな……無駄な戦闘をすると肝心の実験の方に支障を来すって話だが……」
垣根は再び、翼を広げる。
「ちょとレベル3の雑魚を殺すくらいなら、準備運動にもならねえよ」
一瞬で演算を終えた垣根が設定した数は、先程の十倍だ。
数え切れないほどの羽根の大群が、超電磁砲を越える速度で一方通行へ襲いかかった。
轟音が美琴のすぐ脇を通り過ぎる。
よろけた彼女が振り返ったその時、まったく同じ攻撃が、真逆の方向へ放たれていた。
反射。
来たものをそのまま同じ方向へ。
学園都市第一位の放ったものであろうと、この世に存在しない物質であろうと、数が十倍に増えようと、その反射能力者は跳ね返して見せた。
事もなげに。
第一位は、またしても自分で放った攻撃を自分で防ぐ羽目になる。
美琴は呆然とその様子を見守っていた。
恐らく翼に隠された第一位の顔も驚愕に染まっているだろうと思いながら。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:39:37.61 ID:g2nhK56+0<>
「……くっだらねェ」
ぽつり、と呟く声が聞こえた。
「あーあァ。終わるまで待っててやるつもりだったがよォ。話が逸れて全然進んでねェじゃねェか。
さっさと死体処分して帰ってゲームしよォと思ってたのによォ」
言いながら、倒れているクローンのもとへ歩いていく白い少年。
「っつかコイツほとンど死ンでるし、イイんじゃねェの? 俺が処分しとくわ。後は勝手にやってろ」
その細腕のどこにそんな力があるのかと思うほど軽々と瀕死の少女を抱え上げ、少年は操車場の出口へと歩き出した。
「ちょっと! その子をどこへ連れて行く気!?」
美琴は妹を守るためここまでやって来た。
それを目の前で掻っ攫っていく少年を見逃すわけにはいかない。
慌てて前へ立ちふさがると、彼は面倒そうに肩をすくめて彼女を避けて進み、すれ違いざまに小声で言った。
「……びょォいン」
「び……え?」
口調が砕け過ぎていて一瞬分からなかった。
そう、彼は「病院」と言ったのだ。
「どう、して……」
そして、何者なのか。あの白いのは。
後を追えなかった。
美琴はその得体の知れない白い生き物の後姿を、黙って見送る事しかできなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:40:53.51 ID:g2nhK56+0<>
「……おもしれえ……」
「!」
垣根は、自分の手を見つめて立っていた。
「跳ね返された。この俺の『未元物質』が。今までこんな事はただの一度もなかったのに。たかがレベル3の雑魚にだ」
「……あんたも大した事ないのかもね」
美琴の挑発を、垣根は完全に無視していた。
というよりも、目の前の事態に頭がいっぱいで、他の事は目に入らないようだ。
「奴を殺せば……クローンなんかをぷちぷち殺していくよりずっと高い経験値が得られるんじゃねえのか!?
クローン千人分くらいの経験値が! それこそ実験の目的そのものだ」
第一位の整った顔が凶悪に歪む。
彼は笑っていた。
しかし穏やかさは一切ない、他人に恐怖心と嫌悪感しか与えないような笑み。
「ハッ! よかったな、第二位」
「……何?」
垣根はゆっくりと歩き出し、美琴のもとへ近寄り、そのまま彼女の横を通り過ぎた。
「もし奴を殺す経験値がクローン千人分だったら、浮いた千人は俺に殺されずに済むって事だ」
「ッ……!! あんた……!」
「犠牲者が減るかも」
学園都市第一位の男は、ゆったりと散歩を楽しむかのように悠然と、操車場を出て行った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:43:28.76 ID:g2nhK56+0<>
――――――――――――――――――――→
「……クソッタレ。怪我人の治療くらい黙ってやりやがれ」
病院から出て来た一方通行は不機嫌だった。
夜中に血まみれの少女を抱えた白髪の少年が殴りこんできたら、
どんな修羅場をくぐって来た病院のスタッフだろうと何事かと思うだろう。
とにかく少女はすぐに手術室へ運ばれたが、それで少年が解放される事は無かった。
散々ねちっこい質問攻めにあい、警備員まで呼ばれる始末。
隙をついて逃げて来たが、この風貌では指名手配でもされたらすぐに見つかってしまうだろう。
特に罪に問われるような事はしていないので、指名手配までは心配していなかったが。
どのルートを使って帰ろうかと辺りを見回していると、ふいにポケットの中の携帯電話が震え出した。
発信元を確認せず通話ボタンを押す。
『元気かなーん、一方通行。ぎゃははははっ!!』
予想通り過ぎてため息が出た。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:44:38.27 ID:g2nhK56+0<>
「なァンの用かなァ、木ィ原くゥゥン?」
『おやおやご機嫌ナナメだねぇ。お仕事で問題でもあったかな?』
「別にィ? 誰かサンにハメられて第一位に殺されかけたくれェかなァ?
あと帰りに野良猫に睨まれたンで蹴っ飛ばそォとしたら逃げられたくれェかなァ?」
『おいおい。お前バカのくせに何野良猫さんにご迷惑掛けてんだよ何様のつもりだ? 今から戻って謝って来い』
「あ、やっべェマジだ。木原オマエ代わりに行って野良猫サンに土下座しといて」
『特に理由はねぇけどお前今すぐ俺に土下座しろ』
「野良猫サン待たすンじゃねェよォ。行けよ早くゥ」
『このクッソガキ……』
電話越しに木原と軽口を叩き合う内に、どこか日常へ帰って来たような安心感を覚える。
自分で思っていたより緊張していたようだと彼は自覚した。
そこへ、木原から思いもよらぬ事実が告げられる。
『っつか、そこに第一位とか向かってねえ? まだだったら探してみろって。そろそろ追いつくころだからよぉ』
「はァ?」
そこへ。
背後から伸びた白い光線が、一方通行の首を掠めて病院の塀を貫いた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:45:17.70 ID:g2nhK56+0<>
「よぉ。ちょっと殺させろ、レベル3」
振り返ると、垣根帝督が立っていた。
「な……?」
『ぎゃははははッ!! 来たみてえだな! モテちゃって妬かせるねえ、一方通行!』
「な、なンであの野郎が俺の後を……」
『お前と遊びたいみたいよ? 付き合ってやれって。
……それにあたって一個だけアドバイスしてやるよ、クソガキ』
「……?」
『普通の反射だけじゃ死ぬぞ』
通話が切れた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:47:31.43 ID:g2nhK56+0<>
事態は再び非日常へ。
第一位が、どうやら自分を殺すために追って来た。
殺すために。
「……ってオイオイ。何だ今の? まともに当たってたら死ンでたぞ」
一方通行が不機嫌に睨みつける。
垣根はというと、平然としていた。むしろ何を質問する必要があるのかという顔だ。
「そりゃそうだろ。殺すつもりで撃ったんだから」
「……は?」
本気で。
今更だが。
今の今まで、一方通行は相手が本気だとは認識していなかった。
何せ、態度があまりにフランクだ。普通すぎる。
第一位にしろ第二位にしろ、人が死ぬか死なないかのやり取りをするには表情が「まとも」過ぎたのだ。
だが背後からの攻撃で首筋を狙われて、やっと事態の深刻さを思い知った。
目の前に立っているのは、本気で十万人の人間を殺す事にためらいを持たない殺人鬼なのだ。
急に、全身からどっと汗が流れて来た。
「…………ッッ!!」
気が付くと、一方通行は逃げ出していた。
強大な力を持つ第一位に背を向けて。
叫び出さないのが精一杯。
普段運動しない体に無理を強いて、全速力で病院沿いの夜道を掛け出していた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:48:52.89 ID:g2nhK56+0<>
その様子を見て垣根は考える。
(やっぱり戦闘の経験はほとんど無い素人か……だがそれでも『未元物質』を反射して見せたってのは事実)
(むしろズブの素人状態で俺に攻撃されて生き延びているってのがとんでもねえんじゃねえか?)
おもしろい。
再びそう呟き、垣根は追跡を開始した。
羽を広げ、地面を蹴る。
『未元物質』の翼は、彼に乗用車を軽々越える速度を与える。
『一方通行』と『未元物質』。
この二つの能力のどちらがより優れているにせよ、二人の人間にはそれとは無関係に大きな差があった。
それは、精神的な経験値。
垣根はとっくに慣れており、他人の死にいちいち驚いたり怯えたりしない。
しかし一方通行は、小学生の頃攻撃してきた人間をやむを得ず返り討ちにしてしまった時以来、
人の死に関わった事がなかった。
彼は五年間ぬるま湯につかって来た。
優しい温度に包まれて呑気に生きる事は、努力によって手に入れたレベル3の特権なのだ。
高位能力者の過酷な運命など願い下げだった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:50:03.23 ID:g2nhK56+0<>
(何だ? 何だよ? 何なンだよ!? 何でわざわざ殺すって方向に頭が行くンだよ!?)
(動けなくすりゃ勝ちとかでいいだろォが! 怪我すンのも嫌だけどよォ!)
(闘って工夫して降参させましたってンじゃ何でダメなンだ!?)
(分っかンねェ!! 分っかンねェ!!!)
彼はレベル3の判定を受けてから、相応の生活をしてきた。
無茶な事には巻き込まれず。
低レベルだとバカにされて道を踏み外すような事も無く。
多少特殊な扱いをされながらも、レベルに見合った平和な人生を送って来た。
学園都市に大きな闇がある事はずっと前に学んでいる。
十歳まではまさにその闇のど真ん中に立ちつくしていたのだし、現在一番近しい人間である木原は暗部のリーダーだ。
一方通行自身に関わりがなくとも、木原の周囲で人がバタバタ死んでいるのは知っていた。
知識としては。
実感を持った事は無かった。
五年間、保護者の庇護のもとでまともに生きて来たのである。
どんな特別な才能を秘めていようが、急に都市の裏の顔だの負けたら死ぬだのという現実を突き付けられてもピンと来ない。
ピンと来る前に、現象だけがじりじりと近寄って来る。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:50:48.36 ID:g2nhK56+0<>
彼には分からない。
今自分がどんな事に巻き込まれているのか。
誰に喧嘩を売られてしまったのか。
そして、彼は知らない。
それが絶対に返品不可であるという事を。
何も理解しないままとにかく逃げ出し、転げるように走り回る。
何が何だかわけが分からなかった。
大量殺人犯が、笑いながら追いかけてくる(※白い翼が生えています)。
正直言って、これは怖い。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/22(月) 19:51:26.65 ID:g2nhK56+0<>
つづく
なぜか頭の中に浮かんだやりとり↓
垣根「わたしメルヘンさん 今あなたのうしろにいるの」
一方「残像だ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 19:53:43.93 ID:s41Jc9Bko<> これは怖すぎるゥ
乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/22(月) 19:54:22.23 ID:ikl2nvyyo<> おつ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 19:56:21.56 ID:k60aWQODO<> 垣根クンが悪役で輝いてていいな乙
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 20:13:03.48 ID:NAZ8bFZ2o<> 乙!
>大量殺人犯が、笑いながら追いかけてくる(※白い翼が生えています)。
これで吹き出したわwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/08/22(月) 20:37:17.78 ID:vHx6H2BJo<> (※白い翼が生えています)
これが付くだけでかなりマイルドに <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/08/22(月) 20:40:46.14 ID:vWMiSmzE0<> 乙ゥゥうううううううう!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 21:04:34.34 ID:SYJrzItQo<> 乙ゥ
垣根がカッコいい悪役してるのにwww
(※白い翼が生えています)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 21:10:53.68 ID:rZ5AFxlSO<> 乙
ていとくんはやっぱりていとくんなのね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/08/22(月) 23:35:17.54 ID:FZQ+yFi40<> しろいつばさェ……
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/08/23(火) 03:57:41.35 ID:tAnXcSVp0<> 乙
(※白い翼が生えています)ww <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:33:08.51 ID:W+KohuJio<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
『実験を凍結させて欲しい。方法は任せる』
『上司』は言った。
二日前の事だ。
学園都市の全てを司る統括理事長、アレイスター=クロウリー。
『猟犬部隊』のリーダーを務める木原数多の直属の上司にあたる。
(学園都市の統括理事長が暗部の管理職とは、ますます病んでやがるぜ)
自室のコンピューターのディスプレイに映し出される人間の姿を見て、木原は冷めた気分になる。
この上司、どうやっているのか用事があるといつも勝手に人のコンピューターに侵入してくる。
セキュリティ設定を最高のさらに上にしても無駄であった。
研究の最中に邪魔をされる事もあるので、正直疎ましい。
「例の『絶対能力進化計画』ですかね」
『そのとおり』
「期限は?」
『遅くとも今月中』
「了解」
そこで、最高権力者からの通信は途絶えた。
モニターが元通り、実験動物の細胞の拡大画像を映し出す。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:34:38.76 ID:W+KohuJio<>
彼らの言葉のキャッチボールはいつも十往復もしなかった。
言葉などなくてもお互い分かり合えている微笑ましい仲だというわけではない。
理事長の指示が簡潔であり、木原の方にも理解力があるからだ。
そして木原は、アレイスターに対し質問を重ねる事の無意味さをよく知っている。
例えばこの指令に
「なぜそんな事をするのですか?」
「どうやって止めればいいですか?」
等と尋ねてみた所で、満足のいく回答は得られないだろう。
任務を遂行する上でその理由を知る必要はないし、
方法にしても「やり方は任せる」と言われているのだから自分で考えれば済む話だ。
そういう答えが返って来るだろう。
期限以外の質問は無意味なのである。
聞く事もなければ言う事ももうない。
とくれば会話は終了だ。
その点、彼らは分かり合っていると言えば言えた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:37:14.60 ID:W+KohuJio<>
一日、木原は考えた。
実験を止めると言っても、暗殺を得意分野とする部隊に簡単にできる仕事ではない。
何しろ一大プロジェクトである。
関係者も大勢いるし、頓挫したり邪魔されたりしないように様々な防衛策が実施されている。
そんな中まず思いついたのが垣根帝督の殺害だった。
これが一番シンプルである。
第一位とて所詮はただの高校生。
『未元物質』の弱点もある程度調べれば把握できるだろうし、
暗殺のプロにかかれば殺害も不可能ではない。
上手くやれればどう転んでも実験は終了になるはずだ。
当事者が永遠にこの世からいなくなるのだから。
第一位の超能力者を殺すとなると方々からバッシングが来そうだが、
最悪脳みそが残っていれば何とかなる。
ただしこの方法、コストパフォーマンスがやたら悪い。
彼を殺す過程で多くの人材と金が一気に吹き飛ぶだろう。
経費も人命も木原が負担するものではないのでどうでもいいのだが、丁度今は雑魚の数が足りていない。
景気良く無駄遣いしようにも元手がないのだ。
そういう意味であまり現実的な手段とは言えなかった。
かといって、その方が安上がりだからと研究者側を殺すのは意味がない。
それこそ替えはいくらでも利くのだし、仮に実験に携わっている研究機関を丸ごと潰したとしても、
実験そのものは次々と他の機関へ引き継がれてしまう。
研究機関の破壊といえば第二位の御坂美琴がそれに近い事を実践しているが、完全凍結には至らなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:40:17.81 ID:W+KohuJio<>
他に方法があるとすれば、実験そのものの意義を崩壊させる事だ。
これも無理がある、と木原は一度首を横に振った。
この計画は『樹形図の設計者』の演算結果をもとに行われている。
未来の天気を『予報』ではなく、正確に『予測』してしまうレベルの、超高性能並列演算コンピューターである。
そんな代物の演算結果を疑うほどの根拠は、中々示せるものではない。
それに、レベル6の誕生は研究者達の夢なのだ。
多少の疑問点が挙がった所で、「やってみれば分かる」で押し通されてしまうのがオチだろう。
(ただ、穴があるとすればここなんだがな)
確かに垣根帝督は、学園都市最強の第一位だ。
つまり世界で一番レベル6に近い存在。
しかしその彼ですら、『樹形図の設計者』によるシュミレーションの結果導き出された結論は、
十万人殺した時、「もしかしたら」、レベル6になれる「可能性がある」「かもしれない」
という何とも頼りないものだったらしい。
研究者たちはそのわずかな可能性にすがりついている。
そのために十万人のクローンの命が無意味に生まれて消えて行く事には微塵も目を向けずに。
(ま、それは別にいいとして)
木原は思考の中心を元へ戻す。
(もともと成功率が低いんだ。クローンは単価十八万って話だし、
食事だの寝場所だの与えつつ十万体ったら掛かる費用もバカにならない)
(ダメだとなりゃあっさり手を引くはずだ)
(この実験をする意味がないという見解を定着させるような出来事があればいい)
(どんな出来事だ?)
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:42:02.62 ID:W+KohuJio<>
ふと、ある事件を思い出す。
去る七月二十八日、衛星に格納されて宇宙に浮かぶ『樹形図の設計者』が、
謎の光線に攻撃されて木っ端微塵になったという。
今では残骸がバラバラになって衛星軌道上を彷徨っているだけなのだとか。
もちろん、もうあれで再計算はできない。
(もし演算結果が間違っていたって事になれば……)
実験に必要なクローンの数は、垣根帝督の戦闘における演算能力の高さから計算されている。
「このくらい強いから、このくらい殺せばいけますよ」という考え方である。
つまり、垣根が当初思われていたより弱かったら、計算をし直す必要が出てくるのだ。
そしてやり直そうにも、『樹形図の設計者』はもうない。
(それなら、思っていたより第一位が弱かったって証明ができりゃいい)
(「誤差」で片づけられないレベルの落差……例えば)
木原は立ち上がり、窓の方へ歩み寄る。
(そこら辺にいるただのレベル3に打ち負かされる、とかな)
その部屋の窓からは、仮眠棟がよく見えた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:43:20.41 ID:W+KohuJio<>
――――――――――――――――――――→
五十メートルで力尽きた。
そもそも運動など嫌いなのだ。彼は典型的なもやしっ子である。
飛んで追いかけてくる第一位から走って逃げて来た一方通行は、
病院のブロック塀に寄りかかってぜえぜえと息をついた。
十秒もしない内に垣根が追い付いてくる。
「流石にへばるの早過ぎんじゃねえの……追い詰めがいのねえキツネだな」
狩る側の気楽な態度。
「第二位のクローンですら、逃げに徹した時はもうちょっともったぜ」
垣根は腰に手を当てて過呼吸気味の一方通行を見物していた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:47:57.75 ID:W+KohuJio<>
「どっちかって言えば……オマエの方が……キツネっぽいだろォ……」
呼吸を整えながら一方通行は必死に考えを巡らせる。
(理屈で言やァ、俺がこいつに殺される事はねェはずだ。
こいつの『未元物質』を反射できるって事は実証済みなンだから)
それでも、足がすくむ。
先程見て来たものがすべてとは限らない。
相手は広い学園都市の中でも最強なのだ。
他にどんな隠し玉を持っていてもおかしくない。
人を殺すための手段など、両手の指で足りないほどあるに違いない。
そう思うと、途端に恐怖心が襲ってくる。
相手の余裕に満ちた顔がさらにそれを増幅させた。
(ちくしょォ……)
(帰りてェ……)
とはいえ、「帰りたいのですが」と頼んで喜んで帰してくれるほど、垣根帝督が親切な人間だとは思わない。
反射できる。
その気になれば勝てる。
一方通行はとにかくそれだけを考えようと努めた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:49:37.16 ID:W+KohuJio<>
垣根帝督は右の掌を上にして、『未元物質』を出現させた。
玉状に固めたそれを、ひょいとキャッチボールのように一方通行へパスする。
すると、放物線を描いて白い前頭部へ落ちていった未元のボールは、同じ起動を逆に辿って戻って来た。
一歩脇へ寄ってそれを避け、垣根帝督は考える。
(本当にきっちり返してきやがる。しかしこちらから何もしなければ無害、か)
かといって、何もせずに仲良くお別れ、などというつもりは毛頭無い。
殺してこそ意味がある。
(色々試してみればいいか)
翼を使って飛び上がり、標的めがけて『未元物質』の矢を降らせた。
放った瞬間にその場を離れて、跳ね返ってくる矢を回避すると、そのまま相手の後ろに回りこむ。
「チッ……!」
目の前の矢に注意を逸らされていた一方通行は、背後に降り立った垣根が放った白い羽根を、
ぎりぎりの所でなんとか反射した。
震える足でよく出来たものだと、第一位は心の内で賞賛してやった。
身構える一方通行を前に、垣根は追撃をするでもなく腕組をして立っている。
反撃される心配も逃げられる心配も、全くしていない。
暇つぶしのパズルを解いているような軽い調子で語り出す。
「成程。知覚できる物しか反射できないのか。不意打ちには弱いのか?」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:50:21.11 ID:W+KohuJio<>
(……正解だよ、クソッタレ)
レベル3であり続けるため、一方通行がわざわざ自分の能力に掛けている制限。
たった数分のやりとりで、垣根はその穴を的確に分析していた。
「だが意識して全方向へ反射を効かせていれば、どこからの攻撃にも対処できるだろうな。
……レベル3にそんな演算が可能なら」
「!」
何の音もしなかった。
気が付くと、一方通行は八方から白い羽根に囲まれていた。
「上、下、右、左、前、後。これからお前をあらゆる方向から切り刻む。いくつ反射できるかな?」
ザザ!! と、取り囲む『未元物質』が一斉に襲い掛かってきた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:51:53.10 ID:W+KohuJio<>
その最初の一枚が肌に触れるか触れないかまでの一瞬で、一方通行は思案する。
確かにレベル3の実力では、これをすべて反射するのは無理だろう。
一度解析はしてしまったものの、相手は未知の物質だし、数も速度も方向も無数である。
能力で反射できるのは三割程度、二割くらいは根性で避けるとして、残り五割は食らうしかない。
もしすべて反射し切ってしまったら、流石に「強能力者」では通らなくなる。
垣根以外に目撃者はいないだろうが、その第一位に実力が知れるのはまずいのだ。
彼はどうやら好敵手を求めているらしい。あくまで狩る目的でだが。
そしてそれは、能力が高ければ高いほど歓迎されるようだ。
これくらいの攻撃は彼本来の実力を持ってすれば楽に防げる。
しかしそれをすれば、さらなる面倒事が待っている。
受けるしかない。
五割。
(いや、痛ェのは無理だろ)
一方通行はすべて反射した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:52:23.90 ID:W+KohuJio<>
流石に垣根も目を見張った。
まさかすべて弾き飛ばすとは思っていなかったのだ。
ざっと七割は食らって血まみれになるはずだと。
自分の方へ返された羽根を自分の翼で防ぎ、再び広げてレベル3の方を見る。
逃げていた。
「また五十メートル走か? その身体であまり無理はしない方がいいと思うけどな」
「あァ?」
走りながら、掛けられた言葉に一方通行は首を傾げる。
――その身体で無理をしない方がいい。
まるで病人に向けるような言葉。
と、
「…………ッ!!!」
ドグンッ ……と。
突然、胸に締め付けられるような激痛を感じて、一方通行はその場に倒れこんだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:53:07.08 ID:W+KohuJio<>
「かっ……は……?」
「ハッ! やっぱ、知覚できる物しか反射できないってのは大きな弱点らしいな」
呼吸もままならない一方通行を愉快げに眺めて、学園都市最強の能力者は笑う。
「『未元物質』はどんな形状にも固められるもんだってのは、今まで見ていて何となくは分かっただろ?」
「集合させればいくらでも大きく出来るし――逆にどんな小さい状態でも操れる。
それこそ、素粒子レベルまでな」
平伏す一方通行に近寄るその足取りは、相変わらず優雅に、余裕に満ちている。
「お前が羽根の方に気を取られている内に、大量の『小さな未元物質』を体内に潜り込ませた」
「で、内臓のど真ん中で集合させてしこりに変える、と。これで重病人の完成だ」
「反射してみるか? どの向きにしろ身体にめり込む事に変わりは無いけどな」
勝ち誇った様子で種明かしする垣根に、一方通行は何も言い返せなかった。
「う、う……」
声が出ない。
痛い。
苦しい。
怖い。
「死ぬほど苦しい」というのは初めての経験だった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:54:22.80 ID:W+KohuJio<>
「……さて、ちょっとは驚かされたが、案外あっけないもんだったな。
こりゃクローン千人分はねえか。第二位に悪い事言っちまったかな?」
死。
生き物が動かなくなる事。
これ以上ないくらい恐ろしい事のはずなのに、それを目の前にしようとしている第一位は、驚くほど冷静で、冷徹だった。
(イカれてンのかよ……)
明滅する意識の中で、一方通行は思った。
(もォ帰りてェ……)
帰る。
帰りたい。
困難に突き当たった時に、「もう帰りたい」などという愚痴が頭に浮かんで来る事は、
一方通行の密かな喜びだった。
それは、つい「帰りたくなる」場所があるという事。
ただ「いやだ」ではなくて、「帰りたい」と思える事。
誰にも口が裂けても言えないが、それは彼にとって嬉しい事なのだ。
実は半年前から「とっとと引っ越せ」と言われ続けているのだがそれは取りあえず置いておこう。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:55:18.63 ID:W+KohuJio<>
激痛が体中を蝕んでいる。
そんな中で、一人の男の顔を思い出す。
すぐ殴るし貶すし、健康のためではなく嫌がらせのために野菜を食わせようとする憎たらしくて仕方のないクソ野郎。
(……帰ったらやっぱ殴られンのかな。あいつ特に意味なく俺の事殴ンだよな)
もちろん殴られたいわけではない。
そして、命からがら帰ったからといって、あの男が「おかえりなさい、あーくん」とか言って抱き締めてくれるわけでもない。
(つゥかやられたら俺が殴るわ)
それでも。
帰って、研究室を訪ねて、「よォ」くらいの挨拶をしたら。
「おー」くらいは返してくれるだろう。
(……充分だ)
自分をここまで追い込んだ張本人の元へ、彼は帰る決意をした。
帰る場所はそこしかないのだし、別にそれでもいいと思っている。
五年前まではそんな最低な居場所すら持っていなかったから。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:57:07.57 ID:W+KohuJio<>
体内の『未元物質』のベクトルを掌握する。
固体の形にまで集合している『未元物質』を体組織に害のないレベルまで強制的に分解。
各個の『未元物質』にばらばらのベクトルを与えて体外へ排出。
レベル3どころかレベル4ですら難しいほどの、超緻密なベクトル操作だ。
「な、何……だ……?」
自分の能力の制御を乗っ取られて、垣根の表情に初めて、じとりと焦りのような物がにじみ出た。
「テメェ、一体何した!?」
「ゲホ、はっ……反射ァ」
「嘘を吐くな!」
(俺の『未元物質』を操った!? レベル3の反射能力者にそんな真似が出来るわけねえだろ)
(やっぱり何か隠してやがった……こいつの能力はただの反射だけじゃない!)
(強制的に向かう方向を変えられた……向きの変換……ベクトル操作?)
じり、と、垣根は不気味なレベル3から一歩離れる。
(だとしたら、反撃しかできねえってのは大ボラだ)
垣根が見つめる前で、白い少年は、地面に這いつくばったまま路面に右手を叩き付けた。
バチン、と気の抜けた音を立てて。
(こいつは、能動的に攻撃ができる――?)
地割れが起きた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:57:56.98 ID:W+KohuJio<>
地面が、白い右手の当たった部分から裂け出したのだ。
裂け目は轟音と共に垣根へ向かってまっすぐ突き進んでくる。
「――ッ!」
垣根が横へ飛んでやり過ごすと、地割れはブロック塀まで突進し、外壁を倒壊させた。
四方へ派手に飛び散る破片。
夜の町にガラガラと大きな音を立てて、「突進」は終わった。
ただ手をついただけ。
それでこの圧倒的な破壊力。
知らず知らず、垣根は笑っていた。
それは、それまでのような余裕の笑みではなかった。
喉が渇いていた。
いつの間に?
その喉から絞り出す笑い声までからからと渇き切っている。
『未元物質』を操った。第一位の制御を振り切って。
地割れを起こした。手を振っただけで。
こいつは他に何ができる?
何をしてしまえる?
計り知れない。
まさか、学園都市の順位を一番上から塗り替えてしまうのではないか?
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 19:59:07.37 ID:W+KohuJio<>
いや、そんなはずはない。
ただのレベル3だ。
しかし……。
まだ片鱗しか見えていない謎の能力者を前にして、垣根は自分の体に振動のようなものを感じていた。
(……震えている? 俺が? そうか、これは――)
「ッ……テメェ、おもしれえよ」
(歓喜だ)
震えの正体にそう名付ける第一位。
求めていた「絶対への近道」が見つかった事に対する、これは喜びなのだと。
「本当に面白い。こりゃ本格的に殺」
ごん。
衝撃で上へ飛ばされたブロック塀の特大の破片が、学園都市第一位の後頭部にまともにぶち当たった。
「…………ぐ」
そのまま垣根帝督は、白目をむいて崩れ落ちた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:00:44.13 ID:W+KohuJio<>
どうやら気を失ってくれたらしい。
自らも地面に倒れたまま、一方通行は垣根の様子を観察する。
まさかまた動き出すのではないかとヒヤヒヤしたが、そうはならなかった。
――地割れの軌道、破片の飛ぶ方向、ターゲットの頭の位置。
すべて計算ずくだった。
地面を割るなどという体験は初めてだったが、やってみたら案外簡単だった。
間接的にブロック塀を壊すのも初体験だが、これも存外簡単だった。
さらに、手も触れずに壊した塀の破片を任意の位置へ飛ばすのも人生初だが、思っていたより簡単だった。
きっと、能力に制限を掛けなければ、彼の人生はもっとずっと簡単なのだろう。
「……ケッ」
口の中で血の味が広がっていた。
意識が朦朧とする。
ここは病院の目の前である。
恐らく、すぐに誰かが見つけて助けてくれるはずだ。
一方通行は、
最後に一言呟くと、
「底が浅ェンだよ、第一位」
気を失った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:01:31.55 ID:W+KohuJio<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
木原数多は爆笑していた。
「ぎゃはははははっ!! マジかよ本当に勝ちやがんの!」
一部始終を撮影していた部下からの報告を聞いて、彼は大笑いし始めた。
それからずっとその調子。
いつまでも笑い転げている上司にうんざりしているのを気取られないよう、『猟犬部隊』の隊員はこっそりと嘆息する。
「あ〜あ、面白かった。で、あのガキはそのまま入院だって?」
「はい。腕のいい医者がいまして、普通なら全治二ヶ月のところ一週間だそうです。……あの、木原さん」
「あーっ?」
「もしかして一方通行が勝つと分かっていたんですか?」
「いやぁ、全然。十中八九死ぬだろうと思ってたよ」
木原はまだ可笑しそうに口元に笑みを浮かべている。
「残り一、二割でうまい事逃げ延びられたらもう少し様子見てやろうと思ってたんだがよ、まさか勝っちまうとはねえ……」
「ま、あれじゃ大勝利とは言えねえけどな。痛み分けって感じか」
あっさり言ってのける木原に、隊員は質問を投げかける。
「殺す気だったんですか? 五年一緒だった子供を」
「ば〜か。五年も面倒見てやったのにちっとも成長しねえようなガキをいつまでも置いとけるか。
死ぬか強くなるかだろ。チャンスをやったんだよ」
「…………」
部下は、分からない、という顔をしていた。
木原としても彼に理解してもらいたいとは思っていない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:02:38.94 ID:W+KohuJio<>
報告を終えて下がっていく下っ端にひらひらと手を振り、彼は一人考える。
十中八九死ぬだろうと思っていたというのは本心ではない。
木原の予想はむしろ逆で、十中八九生き延びるだろうと思っていた。
第一位と対決して勝つかどうかは別として。
何はともあれ、実験の凍結は免れないだろう。
レベル3にあっさり負けるような男がレベル6に上がれるはずがない。
仮に一方通行がレベル3より上だっとしても、垣根帝督を使っての実験は再開されないだろう。
彼を負かす人間が実在するのだから、やるとすれば一方通行を使いたがるはずだ。
どちらにせよ『樹形図の設計者』が無い限り実験の続行は無理がある。
が、はっきり言って、木原にとって任務を無事遂行できたかどうかなど些末な問題だった。
もっと重大な発見があったのだ。
(あのガキ、やっぱり測定器騙してやがった。反射しか出来ませんだと? ナメた真似しやがって)
思っていたとおり、一方通行はレベル5相当の能力を隠し持っていた。
それどころか、学園都市第一位ですら凌駕し得る実力の持ち主であった。
つまらないトラウマに駆られてバカを演じているに過ぎなかったのである。
しかし、それももう終わり。
彼は自らの能力を示してしまった。
猟犬部隊のカメラの前で、その本領を発揮してしまったのだ。
(言い逃れはできねえぞ、自称レベル3のクソガキ君)
(次の測定が楽しみだねえ……)
カメラの向こうで気を失う白い頭に、木原はにやりと笑いかけた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:04:30.12 ID:W+KohuJio<>
――――――――――――――――――――→
一方通行が退院してすぐに、能力の再測定が決行された。
今回は特別仕様。
あの学園都市最強の超能力者、垣根帝督を破った謎のレベル3の再測定に、
多くの研究者達が興味津々で集まっていた。
測定器の精度も最高級だ。
一方通行が連れて来られたのは、研究所の西端にある建物の一室だった。
長ったらしい名前の付いた部屋だったはずだが、研究員達からは大幅に略して「測定室」と呼ばれている。
巨大なビルの吹き抜け二フロアを丸ごと使ったこの広々とした部屋は、それ自体が一つの測定器として機能する。
学校などに常備されている持ち運び可能な箱型の測定器とは違い、この「測定室」は大掛かりである。
学生の超能力をより正確に測定するためだ。
被験者にあらゆる場面を想定した環境を提供し、あらゆる方向から観察する。
全ての壁面に何らかの観測器が付いているので、好きな方を向いて自由に能力を行使させる事が出来る。
一方通行がここへ来るのは久しぶりだった。
この研究所へ来てすぐの頃は『一方通行』という能力には多大な期待が寄せられていたため、
一回の使用にやたら金の掛かるこの巨大測定器が惜しげもなく使われていたのだ。
しかしその最高級の精度で何回測っても、彼はレベル3だった。
測定器のグレードが旧式の箱型に落ちるまで大して時間は掛からなかった。
「測定室」が使われるのは、余程特別な場合だけなのである。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:05:36.32 ID:W+KohuJio<>
「……つまりアレはこォいう事かよ。木ィ原くン?」
死体回収のバイトの意味を理解し、赤い瞳で睨みつける一方通行。
普通の人間なら射すくめられて固まるか震えるかしてもおかしくない迫力だが、木原は全く動じない。
「もう後戻りはできねえぞ。お前は第一位に勝っちまったんだからな」
「…………」
どうやら。
白々しい無能演技などとうに看破されていたらしい。
いつごろから勘付かれていたのか。
最初からかもしれないし、つい最近かもしれない。
一方通行には、木原の考えている事が分かったためしがない。
(当然かもな。コイツだし)
一方通行は木原に敵わない事を、ずっと昔からよく分かっている。
そして、出来ればずっとそうありたいと思っている。
勝てないというより、本音ではこの男には勝ちたくないのだ。
あくまでも自分の上に立って、庇護してくれる立場であって貰わなければならないのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:06:10.43 ID:W+KohuJio<>
乱暴に背中を押されて、よろめきながら進み出る。
床に引かれたラインを越えると、電源の入った「部屋」が自動的に被験者を認識する仕組みだ。
『――測定準備中です … … … 』
機械の音声が白い壁に反響した。
『パラメータを初期化しています.――――完了.』
『被験者を特定しています.――――完了.』
『被験者のAIM拡散力場を認識しています.――――完了.』
『――測定準備が完了しました.被験者は定位置について下さい.』
女性を模した淡白な声が、試験の開始を告げた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:06:41.33 ID:W+KohuJio<>
大人たちが遠巻きに彼を囲んで見守っている。
カメラも、見て分かるだけで十数台。
測定室の中央に立ち、一方通行は目を閉じた。
ふいに、十歳までの記憶が蘇って来る。
遊んでくれるでもなく、ただ観察するために黙ってこちらを見つめる幾つもの目。
顔を上げる。
「――分かったよ」
目を開けて振り返ると、無機質な視線を送ってくる木原と目が合った。
まるで、これから死ぬ事で成果を上げようとしている実験動物を眺めるかのような冷淡さ。
「特別に見せてやる」
その腐った目でせいぜい観察してやがれ。
彼は、大勢の人間に見守られながら、その能力を発動した。
「これが、俺の実力だ」
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:07:12.13 ID:W+KohuJio<>
――――――――――――――――――――→
『只今の 反射角度 は正常に測定されました.』
『只今の 反応速度 は正常に測定されました.』
『只今の 反射誤差 は正常に測定されました.』
『試験は終了しました.被験者は能力の発動を停止して下さい.』
測定終了。
優秀な巨大測定器は、一分と待たせず被験者の力量を算出する。
判定結果はラインすぐ外のプリンターで印刷され、ゲスト達に配られた。
「し、信じられない」
「こんな事があり得るのか……」
「木原、貴様……」
彼が叩き出した数値に、研究員たちは唖然とする。
ある者は言葉を失い、ある者はため息をついた。
皆、一方通行と木原を交互に見つめている。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:07:44.60 ID:W+KohuJio<>
学園都市第一位の垣根すら退けた、日蔭の能力者の底力。
印刷されたプリントの一番下の行が、彼の強度を表す。
―――― 【 総合評価 : 2 】 ――――
青筋とともに刺青が浮き上がった。
木原は切れた。
「ゴルァァァァアアアアアアア!!!! なぁぁに手抜きしてんだクソガキィィィ!!!!」
「いやァ? 俺バカなんでェ、こンくらいが限界だわ」
レベル3からめでたくレベル2にシフトした一方通行は、ニヤニヤ笑いながらそう言った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:08:12.59 ID:W+KohuJio<>
帰所した途端、まず一発本気で顔をぶん殴られた。
そしてその後に、本気でぶん殴られた。
その次もまた、本気でぶん殴られた。
測定から木原の研究室へ帰って来た一方通行を待っていたのは、そんな感じの出来事だった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:08:52.42 ID:W+KohuJio<>
→レシピ1...おわり
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/23(火) 20:09:21.90 ID:W+KohuJio<>
つづく
おまけ↓
木原「やーい、お前の父ちゃんデーベソー」
一方「ンだとコラァ!! ……あれ?」
<>
>>1乙<>sage<>2011/08/23(火) 20:11:31.94 ID:NjkS+43Ho<> ちょwwwwwwwwwwwwww
下がってんじゃんwwwwwwwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 20:11:40.35 ID:PgUwky5DO<> 総合のときと結構違ったな
面白かったぜ乙!
期待期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 20:12:26.11 ID:4Ud6NbhZo<> 乙!
下げんのかよwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/08/23(火) 20:15:43.64 ID:tAnXcSVp0<> 乙
なんで下がるんだよwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)<>sage<>2011/08/23(火) 20:16:10.06 ID:JireoZgro<> 乙
レベル5二人に能力見られてるし興味本位でストーカーされそうだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/08/23(火) 20:20:37.72 ID:Kmq36w6AO<> 乙
現状維持ならともかくなんで下げるんだよwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 20:38:44.70 ID:KJux1RADO<> 乙
すごいおもしろかった
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 20:38:50.42 ID:qxmslJIho<> 一方通行がお茶目すぎて生きるのに希望がわいた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/08/23(火) 20:41:27.53 ID:8otLSPEB0<> 乙!
初めて読んだけど、このスレ面白いな
まさかあそこまで盛り上げておいて下げるとはww
そりゃフルボッコにされるだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/08/23(火) 20:48:46.97 ID:+lrPmQ/20<> お茶目な一通さんをぺろぺろしたい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/08/23(火) 20:53:30.62 ID:ulk9pMIUo<> GJ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/08/23(火) 21:53:07.08 ID:smYygygz0<> 素晴らしい そこでレベル2にした一方さんと>>1の話の見せ方が上手いわ
一方さんは木原のことが大好きなんだなww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 22:19:00.55 ID:YlpK20ZIO<> >>1乙
まとめに載ってた人? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2011/08/23(火) 23:45:24.45 ID:w/TLxA6Wo<> 下がってるのはかっきーはレベル2でもやりようによっては勝てるだろう(まあそんなことはないんだが)
っていう一方さんの皮肉だと解釈した
総合のときと微妙に展開が変わっていって面白い。この先どうなるのか気になる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 04:25:36.88 ID:e9EIIUGoo<> >>1乙
痛いのは嫌だって垣根の攻撃は反射したくせに
木原くンの鉄拳は甘んじて受けるのなwww
一方さんマジファザコン <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 09:51:27.94 ID:MIOPCWpJo<> >>148
むしろ強引に事を進めれば非協力的になるぞって脅しなのかと思った <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/08/24(水) 13:53:02.83 ID:pbSnUzkO0<> おまけワロタ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/08/25(木) 15:47:36.81 ID:xlt9W2sR0<> やらなきゃよかった木原式! <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:14:53.15 ID:WIl9w9gvo<>
→レシピ2:宿題
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:15:43.20 ID:WIl9w9gvo<>
第一位との死闘から十日あまり。
一方通行の最も恐れる日が、ついにやって来てしまった。
「やべェ……夏休みの宿題何もしてねェ……」
「マジで。ざまぁ(笑)」
八月三十一日。
学校の夏休みが終わる日である。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:16:44.62 ID:WIl9w9gvo<>
現在一方通行は、ごく一般的なバカ高に通っている。
夏休みにはごく一般的に大量の宿題が出て、
ごく一般的にこの日学生たちは苦しむのである。
一方通行もご他聞に漏れなかったというわけだ。
木原が野暮用を押しつけようとして一方通行の部屋へ乗り込んで来た時、少年の顔は白いというより青白かった。
「だからとっととやっとけっつったんだ間抜け」
「仕方ねェだろ。一週間も入院してたンだから」
「夏休みは五週間あるはずだぞ。前の四週はどうしたんだよバーカ」
「最後の一週間でラストスパート掛けようと思ってたンだよ」
「ラストスパートってのはなバカ、序盤から中盤までの積み重ねがあって初めて終盤に使える言葉なんだよバーカ」
「知ってますゥ。オマエあまりにもバカバカ言いすぎだろ。確かにバカだけどよォ」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:18:18.44 ID:WIl9w9gvo<>
当てが外れたらしい、と木原はため息を吐く。
この分では暗部の厄介事に巻き込んでいる場合ではないだろう。
基本的に、木原の中の優先順位は
木原 > 木原の研究 > 暗部の仕事 > その他 > 一方通行
という形態を取っており、一方通行の順位が「木原の研究」に付随する。
夏休みの宿題をしているという事は、一方通行は自主的に学習をしているのである。
学力と能力のレベルは直結しないが、学習による演算の応用力の向上は期待できない話ではない。
よって彼なりの優先順位に従うと、
一方通行に『猟犬部隊』の仕事を押し付けるのと夏休みの宿題をやらせるのでは、後者の方が重要になるのである。
「でェ? 木原オマエは何しに来たワケ? 追い込み掛けてる俺にあったけェ差し入れってンじゃねェンだろ?」
「明らかに追い込まれてるのはテメェだろうが。またお前に裏社会科見学でもさせてやろうと思ってよ」
「まァたバイトですかァ? この間みてェな目に遭うのはご免だし、俺は今忙しンだよ」
「そのようだな。せいぜい明日に間に合うように無駄な努力してろ」
「余計なお世話だ。ンで、どンなお鉢が俺に回ってくる所だったンだ?」
「やらねぇなら関係ねえだろ。宿題やってろっつーの」
「イイじゃン。ちょっと休憩」
「……テメェ、今宿題やり始めて何時間だ?」
「二十分ぐれェ」
木原は一方通行を一発殴った後、押し付ける予定だった仕事の詳細を説明してやる事にした。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:19:32.14 ID:WIl9w9gvo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
またしても木原の研究室のコンピューターが乗っ取られたのは、昨晩の事だった。
人様のコンピューターの中で好き勝手に喋るのは、またしても彼の上司、アレイスター=クロウリーである。
「助ける? 子供を?」
『そうだ』
暗部組織『猟犬部隊』へ、統括理事長直々に新しい指令が出された。
それは、今まさに生命の危機にある一人の少女を救う事。
そして同時に、学園都市の未来を救う事だった。
学園都市のある研究者がその少女を利用して、外部組織による破壊工作に加担しようとしているらしい。
「『猟犬部隊』が人助けとはねえ」
『君のポリシーに反するというのなら断ってくれても構わんよ』
「別に……やりがいの無さじゃ人殺しも人助けも似たようなもんだ」
『……一つ聞きたいのだがね』
「おや珍しい。どーぞ?」
『君がやりがいを見出すような仕事とはどんなものを指す?』
「ラボに籠って数字と睨めっこ」
『成程』
珍しく雑談に花が咲いた。
花開いたところでこの程度のやりとりなのだが。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:20:30.81 ID:WIl9w9gvo<>
『謀反者の画像を転送する』
画面が幼い少女の画像から切り替わり、若い科学者の顔が映し出された。
「……何か見た事ある顔だな」
『天井亜雄。クローン実験の研究者だ』
「あまい、天井……あーあー、多分昔会った事がある」
特に面白い人物では無かったのでうろ覚えだが、第二位のクローン実験の第一人者だったはずだ。
『彼のせいで少女は今非常に危険な状態にある。詳細は資料を参照してくれ』
「資料?」
『後ろを見てみろ』
木原が振り返ると、研究室のプリンターが勝手に何かを印刷していた。
『天井の生死は問わないが、彼女はその限りではない』
「そのカノジョだけど、どの程度無事なら合格ですかね」
どの程度というのは、心身共に健康であるべきか、五体満足ならいいのか、脳が無事なら何でもいいかといった段階の話である。
例えば五体不満足で構わないなら、手足を壁に繋がれて捕えられていたとしても切断して助け出すことが出来るというわけだ。
『とりあえず、無傷で。精神的にもショックが少ない方が望ましい。方法は任せる』
木原の希望とは裏腹に、一番面倒なオーダーが来た。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:22:31.40 ID:WIl9w9gvo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
「つーワケで、キャワイー女の子を助けてあげるヒーローを演じる事になったんだが」
「さすが木原くンキャッコイー(棒)」
「指令が出た後天井亜雄はすぐとっ捕まえた。ま、『猟犬部隊』にかかりゃ簡単なもんだな」
鼻がいいから"猟犬"部隊。木原が率いる暗部組織は、人捜しを得手としている。
逃げ回る学者一人捕まえるのは文字通り朝飯前だった。
一晩で天井を発見、
身柄を拘束し、
締め上げて少女の情報を絞り取り、
その一時間後に朝になったのでメロンパンとコーヒーの簡素な朝食を摂ったのである。
「奴がガキに何をしようとしていたのかは、受け取った資料とちょっとした"Q&A"のおかげで大体分かった」
「……天井って奴は無事なワケ?」
「生きてるよー? 前歯四本ねぇけど」
例えば、真正面から思い切り殴られたらそういう状態になるかもしれない。
一方通行のため息と何とも言えない表情を無視して、木原は説明を続ける。
天井の目的は、『妹達(シスターズ)』の暴走だった。
『妹達』というのは、学園都市第二位の超能力者・御坂美琴のクローンたちの事だ。
もともと大した人数はいなかったのだが、
第一位の垣根帝督をレベルアップさせる『絶対能力進化計画』で、殺されるために大量に追加生産された。
最終的には十万人殺害する予定だったものの、一度の製造では三万人生み出すのが限度だったらしい。
そこで、まず三万人のクローンを用意し、垣根が殺し尽す前に次の三万人を製造するという計画が立てられていた。
つい先日木原が一方通行を使ってその実験を凍結させたため、一万人ほど殺されずに生き残っている。
彼女たちクローンは、劣化が激しいとはいえ『超電磁砲』・御坂美琴の能力を受け継いでいる。
そしてそれを用いて脳波を電気的にリンクさせる事で、『ミサカネットワーク』という独自のネットワークを形成している。
寄り集まった個々のクローンの意識は『一つの大きな意思』を作り出す。
もし彼女達が何かの拍子に揃って反乱を起こしたら、実験に関わる十数人程度の研究者達はひとたまりもない。
そこで、第一位に殺害される目的とは別に、『ミサカネットワーク』に干渉し全個体を制御する役割を持つクローンが製造された。
検体番号三〇〇〇一、全個体の最終決定権を持つ者――『最終信号(ラストオーダー)』。
それが少女に与えられた識別名称だった。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:23:05.22 ID:WIl9w9gvo<>
「そのガキを介してネットワークに命令を出せば、一万人を同時に操れるというわけだ」
「操ってどォすンだ?」
「近くの人間に無差別攻撃させたいらしい」
「一万人が無差別攻撃? ちょっとした戦争だなオイ」
「一致団結ってわけじゃねけぇんだけどな。クローンたちは現在世界各国の研究所に預けられてる」
無理やり成長を早められ、きわめて短い期間で中学生程度の身体を作らされたクローンは、そのせいで寿命が短い。
その解消のためには特別な治療が必要だが、人数が多いので学園都市の中だけでは対処しきれない。
そこで、各国の研究所に協力を求めたのだ。
「つまり学園都市の外だな。そこで暴走が起きると……」
「内部で握り潰せない不祥事。成程ねェ……」
人間のクローンを作っていた事や、その暴走を止められなかった事が明るみに出れば、世界中からの信用が地に墜ちる。
学園都市の敵対組織に都合のいい展開になるというわけだ。
そして天井はその敵対組織に協力している。
彼には多額の借金があり、学園都市から逃亡したがっているらしい。
外で匿ってもらうための交換条件なのだろう。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:23:51.67 ID:WIl9w9gvo<>
ただ聞き役をしていた一方通行が、ふと疑問を口にする。
「司令塔のガキに命令を出させるってのは、具体的にどォすンだ? 脅かすとか?」
――『妹達に暴走しろって言わないとぶつぞ!』みたいな。
「バカ。こいつを使うんだよ」
木原は白衣のポケットから、小さなチップを取り出した。
デジタルカメラや携帯電話に装填して使う記録媒体のような物だ。
「『学習装置』っつー、クローンに短期間で最低限の知識と生活技術を覚えさせる機械があるんだが」
黒い薄板を指先でくるくる弄びながら、木原は続ける。
「要するに洗脳マシンだ。これはそのソフトだな」
「ソフト?」
「かわいい最終信号ちゃんに狂った命令を出させるための、ウイルスコードが書かれてる」
にやにや笑いながらチップを眺める木原。
「……なンだよ、気持ちわりィな」
「だってよ、クローンったって、身体的な構造は人間と同じだぜ?」
「だから?」
「その人間の脳に直接ウイルスぶち込めるんだ、イカれてやがると思わねえ?」
そもそもの発想が、常軌を逸している。
ここは「狂った科学」に戦慄すべき場面のはずだが、木原数多はそうではない。
――喜んでいる。
期待に胸を躍らせている。
実機で試す機会を待ち望んでいる。
(コイツも大概なンだよなァ……)
学校教育のおかげで比較的まともな倫理観を持っている一方通行は、呆れて黙りこんだ。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:24:34.01 ID:WIl9w9gvo<>
最終信号の脳には既に天井によってウイルスが刻み込まれている。
ただし、実際に暴走の命令が出されるのは九月一日午前〇時ジャスト。
それまでに少女の脳を元に戻して悲劇を回避するのが今回の彼の仕事だ。
チップをポケットに戻した木原は、そのままポケットに手を突っこんだ状態で手近な椅子に座った。
「捕えた天井に寝ないでワクチンスクリプトを作らせた。あとは最終信号をもう一度学習装置に掛ければいい」
「へェ、天井頑張ったじゃン」
「あいつはスキルだけ見りゃ優秀な学者だよ。奥歯六本ねぇけど」
「……天井の歯ってさァ、何本残ってンの?」
質問には答えず、木原はがりがりと後頭部を掻いた。
「問題は、その最終信号が捕まらねぇってトコなんだよなぁ」
「捕まらねェ? 犯人捕まえるより被害者保護する方が厄介なのかよ?」
「そう。捕獲じゃなくて保護なのが問題なんだ」
『猟犬部隊』は暗殺部隊である。
それも、生きる価値もないようなクズの寄せ集めだ。
繊細な女の子をソフトに扱うようには出来ていない。
一度、木原の部下が最終信号を発見し、車に乗せるまでは成功した。
だが少し目を離した隙に逃げ出してしまった。
手荒な事が出来ない事情があるため、気絶させたり脅したりといった手段が取れなかったのだ。
特に怖がらせるような言動はしなかったはずだが、それがなくても彼女は今大人を警戒しているらしい。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:25:09.43 ID:WIl9w9gvo<>
「天井の野郎が最終信号にウイルスをブチ込んだのは一週間前って話だ」
実験のスタッフたちが管理しやすいよう、わざと未熟な状態で成長をストップさせられた最終信号は、見た目十歳くらいである。
他の妹達に輪を掛けて体が弱い彼女は、体調を管理する培養器から出られない。
そうでなくても実験の主要スタッフである天井であれば、最終信号に規定外のプログラムを仕込む事は容易かっただろう。
その時、最終信号自身も異常に気がついたらしい。
天井という脅威から身を守るために、その場から逃げ出した。
それが結果的に、ウイルスを抱えたまま救済の手から離れる事になってしまった。
その上、出てはならない培養器を出てしまった。
命が危ういと言われているのはそのためだ。
「っつってもよォ、ガキが警戒したくれェで『猟犬部隊』から逃げられるモンなのか」
「言ったろ。ウチの役立たずどもは子供に優しくだのってのは苦手なんだよ。慣れないせいで手際が悪い」
ちなみに、失敗した部下は木原がうっかり狙撃してしまった。
偶然手に持っていた拳銃で。
「しかも、学習装置で与えられたプロ仕様の逃走技術がある。実験の証拠隠滅マニュアルだそうだ」
最終信号は無意識の内にそれを適用して、上手く自分の痕跡を消しながら逃げ回っているらしい。
見つけるのは簡単だが不用意には近づけない。また逃げられては面倒だ。
「そこで、ガキの相手はガキにやらせようと思ったんだが……」
そう言って、一方通行を見る木原。
「……そォいう事か」
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:25:56.19 ID:WIl9w9gvo<>
一方通行は齢十五の少年だ。さして大柄でもないし、顔つきが大人びているわけでもない。
つまり子供の範疇である。
最終信号が大人だけを恐れているなら、少年である一方通行にはある程度懐くかもしれない。
それが木原のアイディアだった。
しかしここで問題が一つ。
一方通行は夏休みの宿題をやらねばならないのである。
女の子の警戒を解きつつ優しく保護などしている場合ではないのだ。
一人の少女の命と一人の少年の宿題を秤に掛けて、しかも後者を取る神経。
どうもずれていると思いながらも、一方通行は関わりたくないので放っておいた。
話は終わった。
珍しく一方通行は勉強をしているし、他に話す事も無いので、木原は仮眠棟三一一号室を出る事にする。
「つーわけで他の方法を考えるわ。いざとなりゃ気付かない内に意識を奪えば何とかなるからな」
とはいえ混乱やトラウマを招きかねないので、なるべくやりたくない。
色々と思案しながら木原は椅子から立ち上がった。
「じゃあな、クソガキ。明日に向けて無駄なラストスパート掛けてろ」
「オマエこそ宿題頑張れよォ、木原クーン」
「俺のは宿題じゃねえ。指令だ」
「似たよォなモンだろ」
「パッとしねえ言い回しは嫌いなんだよ」
木原は忌々しそうに言った。
彼は割と形から入るタイプである。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:26:32.48 ID:WIl9w9gvo<>
最後に二言三言、汚い言葉で罵り合った後。
木原が室外へ出るドアに手を掛けたその時だった。
凄まじい爆音が部屋中に響き渡った。
「!? 何だ?」
木原と一方通行が同時に音のした方向へ振り返る。
音の正体は、窓側の壁だ。
出入り口の正面にあたるそれが破壊され、直径二メートル程の穴が開いている。
ガラガラと音を立てる瓦礫が、部屋の外から内側に向かって倒れ込んで来ていた。
「ゲホッ、ゴホッ……」
舞い上がる粉塵に咳き込む一方通行の向こう側。
三階の壁に空いた穴の先は、当然空中だ。
にもかかわらず。
「ぎゃはははは! 随分メルヘンな光景だなオイ! いや、これはシュールとも言うかなあ?」
この状況下で木原が笑い声を上げた理由。
それは、宙に浮かぶ人影を見たからだ。
背中に純白の翼をはためかせる、学園都市第一位の姿だった。
「よぉ。改めて殺しに来たぜ、レベル3」
その圧倒的な力で壁をぶち抜いた垣根帝督は、優雅に一方通行の部屋へ足を踏み入れた。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:27:05.57 ID:WIl9w9gvo<>
「ちなみに今はレベル2なんだけどな、そいつ」
親切にも木原が訂正してやる。
それに対していかにも興味なさそうに、垣根は吐き捨てた。
「どの道俺にしてみれば底辺って事に変わりはねえよ」
彼の狙いは木原ではない。
どうやって調べたのかは不明だが、この部屋に住みついている少年の命を狙ってやって来たのだ。
「――だがその底辺に負けた事にされちまった。レベル5のこの俺が」
土足で一歩踏み込む第一位。
『未元物質』の翼を消して、彼は言う。
「おかげで実験は凍結。絶対能力者への道が限りなく遠ざかっちまったわけだ」
「納得いかねえ。たまたまレベル2だか3だかを殺し損ねたくらいで計算違いだと?」
「その計算ミスって判断が致命的なミスだって事を分からせてやる」
レベル6への執念。
唯一その領域への可能性を持つ彼は、それを断ち切った張本人へ濁った感情を向ける。
何が何でも殺してやると。
少年の人差し指が真っすぐ指し示す先には――
「って、あいつはどこへ行った?」
「お前が現れたその瞬間に逃げたよ」
木原が冷めた視線を彼に送りつつ立っていた。
部屋の中に一方通行の姿は無かった。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:27:52.65 ID:WIl9w9gvo<>
「野郎! どこへどうやって……」
「そりゃ、常識のある人間は部屋に出入りする時は出入り口を使うんだよ」
木原は親指でぞんざいに三一一号室のドアを指し示した。
「壁ぶっ壊して登場するのなんかテメェくれーのもんだろ。あーあー、どうすんだコレ。俺は知らねーけどな」
言いながら、どう見ても面白がっている。
木原はぽっかり空いた穴から外の景色を眺めていた。
壊れた壁から、暑苦しい外気が部屋へ侵入してくる。
「逃がすかよ!」
垣根は掛け出し、ドアを蹴り開けて廊下へと出て行った。
バタバタと足音が響き、段々遠ざかって行く。
それを確かめるような間が開いた後。
「行ったかァ?」
無事だった窓のカーテンの陰から一方通行が顔を出した。
「すぐ戻ってくるだろうけどな」
そちらを見もせずに、木原は答える。
衣擦れの音と共に窓枠から床へ降りた少年は、垣根が出て行ったドアの方を窺いながらテーブルへと戻った。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:29:18.04 ID:WIl9w9gvo<>
「しっかし、わざわざ第一位様が訪ねて来て下さるとはねェ」
「今更お前を殺したところで実験の再開は見込めねぇんだがな」
それでも凍結の原因を作ったのは一方通行だ。
本当は木原の計略なのだが、垣根にそれを知る術は無い。
たまたまバイトでやって来た一方通行が、たまたま垣根に勝ってしまったというのが彼の中の真実だ。
「奴が戻って来たら、また暴れ出すンだろォなァ……」
部屋の惨状を眺めて、一方通行がため息を吐いた。
(何とか奴の注意を俺から逸らせねェか……)
と、思案して、彼はひらめいた。
「木原木原」
一方通行が木原のもとへ近付く。
「あと一センチ寄ったら五メートル飛ばすぞ。何だ」
「あのよォ……」
やたら近づこうとしていたのには理由があったようだ。
すなわち、いつ戻って来るか分からない垣根に聞かれないように、小声で話をしようとしているのだ。
「さっき言ってたガキ助けるってやつ、大人じゃダメなンだろ? あいつに押し付ければ良いンじゃね?」
「ハァ? バカかテメェは? いや、聞くまでもなかったか」
「今そォいうの良いから」
「あの第一位がガキに優しくなんて出来るかよ。既に同じDNA二万人殺ってんだぞ」
「アイツすっげェプライド高ェみてェだからさァ、上手く乗せりゃガキあやすくれェはこなすって」
「……」
一方通行の提案に、木原はしばし思案した。
木原が使える手駒は大人ばかりだ。一方通行を除くと、確かにあの第一位くらいしか任せられる子供がいない。
しかも垣根帝督は、性格はともかく優秀だ。それこそ学園都市で一、二を争う人材だろう。
言われた事を完璧にやるくらいは出来るはずである。
問題は上手く手懐けられるかだが、そういう方面に掛けては自信があった。
「……よし。じゃ、お前ムチ役な」
「うーわ、木原がアメとかマジ似合わねェ」
「黙りやがれバカガキ」
少年の提案を受け入れ、木原は垣根に仕事を押し付ける事にした。
木原と一方通行が手を組む事は滅多にないが、ひと度結託すれば、彼らは非常に息が合うのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/25(木) 19:30:10.02 ID:WIl9w9gvo<>
つづきマンモス
>>147 多分……?
>>146 一方通行には「さん」付けしたのに木原を呼び捨てにした理由を3行で
次回投下の前にちょっとしたご注意というか、言い訳があります
気に障る人がいたら申し訳ないと思いつつ
>>1の勝手な印象のせいで、このSSにおける垣根はやたらプライド高いです
原作15巻の表紙をめくって口絵を見た瞬間、
「あ、こいつナルシストだわ」
と思ったんです
顔がもうね、ナルシシズムで構成されてるねアレは
一応フォローしておくと、
プライドが低すぎるよりは高すぎる方がモテると思う
※ただしイケメルヘンに限る
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 19:35:18.63 ID:ygwqLV1Vo<> あっさり騙されるとかバ垣根すなあ
乙乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 19:37:06.05 ID:nqcXFP1+o<> 垣根ェ…
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)<>sage<>2011/08/25(木) 20:09:16.67 ID:goCEXqU0o<> 乙
これはもしかして未元止めになってしまうのか・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 20:14:04.35 ID:yqgtntlDO<> 乙!
一方さんが学校の宿題ってシュールだな
あと木原くンの優先順位ワロタ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 20:38:24.12 ID:xnSIBMnB0<> 奥歯六本で腹筋崩壊した
乙乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 21:15:04.27 ID:trYXMQ0DO<> 未元止めかあ………ちょっと嫌だな……
一方通行が主人公の話だから打ち止めともし番外個体が出るんならそっちには行って欲しくないな…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/08/25(木) 22:01:13.72 ID:+eUJ+17AO<> 自分の希望を書いても意味ねーよwwwwと言いたいが
このまま通行止めが未元止めに安直に代わるだけってのは実際無さそうな気がする
そんな根拠のない予想 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 22:01:56.02 ID:ZAccAEVDO<> >>175
作者の好きなように書かせてやれよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/08/25(木) 22:11:30.72 ID:83Ph7W71o<> そんなことよりあまいくンの歯の本数でも考えろよ
おつー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/08/25(木) 22:13:47.28 ID:hYTIZZYH0<> 乙
未元止め…………新しいジャンルだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 22:36:36.75 ID:HCj94i6+o<> ていうか10032~20000号ェ‥‥‥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 22:43:32.61 ID:Ir4QYJpDO<> おもしろいからどっちでもアリだろ
心理定規と話しているシーンをみる限りはモテそうだ>原作
乙!
垣根カワイソスwwwwプギャー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 22:44:10.23 ID:BTxnc07IO<> 乙
天井本当に生きてんの? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/08/25(木) 23:06:31.11 ID:83Ph7W71o<> >>182
生きてるよ
犬歯が4本ないけど <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 23:21:12.86 ID:EDzo1QrSO<> 乙
天井くん歯だけですんだで良かったな
脚とか無くなるかと思ってた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/08/25(木) 23:40:22.62 ID:Ij54Yg8X0<> 乙
歯が確定なだけで五体満足とは言ってなくね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/08/26(金) 00:22:52.23 ID:B9yu8C8I0<> 一体満足……だと… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 01:39:03.66 ID:nRY7cBbSO<> >>186
一体も満足じゃねぇよ。だって歯がないんだぜ?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/08/26(金) 03:38:19.05 ID:EYXyUiX2o<> 入れ歯をつけてフガフガしてる天井を想像してしまった
ちょっと逝ってくる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/08/26(金) 10:28:44.95 ID:+c9nv5jAO<> 乙
シュールすぎるぜ面白い
天井くンはきっと総入れ歯だな <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:11:04.66 ID:KP4Oa+x5o<>
悪だくみを終えた二人の背に、声を掛ける人物がいた。
「何をコソコソやってんだ。葬式の相談か?」
見ると、垣根が腕組をして立っている。
仮眠棟の捜索をして、一回りして戻って来たのだろう。
一方通行と木原は小さく頷き合うと、揃って第一位の方へ向き直った。
「葬式じゃねえ。晩飯の相談だ。ところで第一位……お前第一位でいいんだよな?」
「……ああ。最強やらせてもらってる、垣根帝督様だ」
当然のように大それた自己紹介をする垣根。
それを聞いた木原は特に萎縮する事もなく、さらりと告げた。
「ちょっと頼みたい事があるんだが」
そこで、一方通行の顔が驚愕の色に染まる。
「なっ……木原! こ、こンな奴にやらせるつもりかよ!」
完璧なまでの動揺っぷり。
彼は五年間、木原の傍らで人を騙す姿を見てきた。
そのためか他人を誑かすのが非常に上手い。
(しっかし、こいつは……自然に驚いて見せやがるな)
その洗練された演技力を見て、木原は呆れ半分、関心半分だった。
(バカのくせにくだらねえ事はしっかり覚えやがって)
(まったく親の顔が見てえわ)
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:12:51.27 ID:KP4Oa+x5o<>
「俺が行くって言ってンだろ! 何で俺がダメでコイツがオッケーなンだよ」
掴み掛らんばかりの勢いで、一方通行が木原に詰め寄る。
「力不足だっつってんだ。その点第一位なら何の問題もねえよ」
「クソ! ふざけやがって……」
垣根はその様子を見て、取り敢えず興味を持ったようだった。
「一体何の話をしている?」
「知りてェか? じゃァちょっと、さっきオマエが壁に空けた穴に近寄ってみろ」
「あ? ……こんなとこに何かあるのか?」
てくてくと風穴の空いた壁に歩み寄り、垣根は一方通行を振り返った。
周囲をよく観察するが、無残に破壊されている以外に変わった所はない。
「もっとだよ」
「……何のつもりだ。床板の淵に立ったって外しか見えねえよ」
「よし、あと一歩!」
「それはここから落ちろって事か」
「正解。さすが第一位」
垣根の背に光る物が形成され始めた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:15:31.72 ID:KP4Oa+x5o<>
木原は慌てて一方通行の頭を引っぱたくと、取り成すように言った。
「まあまあ。ちょっと聞くだけ聞いてくれよ」
「ハン。聞かせるだけ無駄だっつの。こンな奴には出来やしねェよ」
叩かれた後頭部をさすりつつ、一方通行が垣根の介入を阻もうとする。
そこまで言われると気になってくる。
こいつらは一体自分に何をさせようと、あるいはさせまいとしているのか。
「この俺に出来ねぇ事があるとでも?」
垣根は、敢えて挑発に乗ってやる事にした。
「色々あると思うぜェ? 例えば、かわいそォなクローン達の命を返してやるとかなァ」
ありったけの敵意を込めて、一方通行は相手を睨みつけた。
もちろん本気ではないのだが、それなりの迫力はある。
が、その刺すような視線を受けても、垣根は平然としていた。
「可哀想、ねえ……。言っとくが、奴らには感情なんかない。同情されても喜びはしねえよ」
「そォいう理屈はいらねェンだよ。自分が何やったか分かれっつってンだ」
「ハッ。俺がやった事? ただの実験だ……"絶対"になるための、な」
「なっ……」
二万人もの人を殺しておいてあっさりと言ってのける垣根に、一方通行は絶句した。
「オマエ……芯から腐ってやがンな……」
軽蔑の眼差しを送り、一歩後ずさる。
「オマエが死ねばよかったンだ。この殺人鬼!」
垣根はその一方通行の様子を、馬鹿にしたような目つきで眺めていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:16:15.54 ID:KP4Oa+x5o<>
そこへ。
「いい加減にしろ、一方通行」
やれやれ、と肩をすくめながら、木原が口を挟む。
「確かに実験は非人道的だ。だがな、垣根ばかりが責められるべきじゃない」
「……何?」
突然肩を持つような台詞を吐かれて、垣根は訝しがった。
木原は腕を組んで、喚く一方通行をたしなめている。
ムチ役である一方通行とは違い、彼は垣根をフォローする役どころだ。
罪を糾弾する少年のすぐ横で、救いの道として最終信号の救助という使命を指し示す算段である。
甘く優しいアメ役なのだ。
「ハァ? 何言ってンだ。喜ンで殺しまくったのはコイツ自身だろ」
「喜んでたなんて何でテメェに分かる?」
「それは……」
「あんなイカれた実験、一人の意思で踏み切れるわけがない」
「でも! やっちまったのは事実じゃねェか!」
「周囲の大人がそうさせたんだ。垣根だって、追い込まれて、駆り立てられて、無理やりやらされてたんだろ」
「そンな事、信じられるかよ……」
納得いかない、という顔で木原と垣根を見比べる一方通行。
それなのに、次に何を言い返せば良いのか分からず、黙り込んでしまう。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:16:55.34 ID:KP4Oa+x5o<>
そんなやりとりを聞いた後でも、垣根の表情は変わらなかった。
「残念だが」
「?」
彼は、それまで全く興味を持っていなかった木原の方へ顔を向けて、言った。
「俺は無理やりやらされた覚えはない。自分の意思で、喜んで人形どもを殺した」
言って、にやりと笑って見せる。
衝撃的な一言、だった。
一方通行は息を呑み、木原はぴくりと眉を動かした。
しかし木原は冷静だった。
まだ何か喚きたてようとする少年を手で制し、垣根に諭すように語りかける。
「俺にはさぁ……。お前が、ただの力に溺れた殺人狂には見えねえんだよな」
「ご覧のとおりの殺人狂だが」
「死ねよクズが」
「一方通行、黙ってろ」
「チッ……」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:18:57.73 ID:KP4Oa+x5o<>
「知り合いの研究者に聞いたんだがよ。お前は実験でクローンを殺す時、不気味なほど無表情になるんだってな」
木原のこの言葉を聴いて、
(その知り合いってのは前歯が四本無かったりすンだろォな)
などと一方通行は思ったのだが、黙っていた。
そんな彼の胸中など知る由もない垣根は、ただ言われた言葉に返答をする。
「ま、わざわざ特別な感情を覚えるような作業じゃねえからな」
「違ぇだろ。感情を殺さざるを得なかったんだ。でなきゃ耐えられなかった。違うか?」
「…………、」
真剣な、しかし気遣うような目でじっと見つめられて、垣根は一瞬言葉に詰まった。
「もしかして」と思いながら、自分でも押し殺して来た感情。
人間らしい、「人を殺すのは悪いことだ」と感じる倫理観。
それを見透かされたような気がして。
「お前がよ、本当に根っこからのクズなのかどうか、試してみるいい機会だ」
「……何をさせようってんだ?」
垣根のこの問い掛けに。
「人助け」
大胆不敵に木原は笑って、告げた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:19:28.06 ID:KP4Oa+x5o<>
聞いて、垣根は鼻で笑って見せた。
少なくとも、本人はそうしてやったつもりである。
その出来栄えについては木原も一方通行も何とも言わなかった。
憎々しげに鼻を鳴らし、一方通行が言う。
「お前が散々殺してきたクローン。その最後に製造された一人を救うのが仕事なンだよ」
「はっ……は? 殺すための道具を助けろって?」
「一応、その個体は実験用じゃない。他のクローンと違って、生き続けて役割を果たす事になってる」
「大体、実験は凍結してンだ。他のクローンだって今となっちゃオマエに殺される筋合いはねェンだからな」
「……フン」
そもそもここへ来た目的は、実験の邪魔をした一方通行への報復であったはずだ。
それなのに、一方通行の口から「実験の凍結」という言葉が出ても、垣根は彼への敵意を蒸し返したりはしなかった。
人助けの仕事の方へ興味が行っている証だ。
作戦が上手くいっている事を確認し、一方通行と木原は説得を続ける。
「人助けっつーからには、そのクローンは助けてやらなきゃならねえ状態にあるわけだが……」
木原は、既に一方通行にもしてある状況説明を、垣根に対しても丁寧にしてやった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:20:07.14 ID:KP4Oa+x5o<>
絶対能力進化計画の当事者であった垣根は、大体の事情をすんなり呑みこんだ。
初めて知った少女の存在。
その話を聞き、垣根は多少興味深げな顔をしていた。
「最終信号、妹達の司令塔か。そんな便利な人形がいたとはな」
「天井っつー悪党は、そこを利用したわけだ」
(どの口が「悪党」だのほざくンだか)
一方通行は思ったが、口には出さなかった。
出さなかったのに蹴られた。
「やはり気は乗らねえな。ガキのお守りのお使いとは」
「だとよ。だったら俺が……」
「お前には無理だっつってんだろ。すっこんでろガキ」
木原に冷たくあしらわれ、一方通行は不満げに口を閉じる。
そう、彼には無理なのだ。
レベル2に出来なくて、自分には出来る。
そんな事は長年第一位をやっていれば当たり前のはずなのに、垣根は自分が気を良くしている事に気が付いた。
「なるほど、レベル2の雑魚の手には余る仕事か」
垣根の挑発に、一方通行はすぐさま反応。
「ンだとォ? 垣根、オマエ後で屋上な」
「いいだろう。やっとその気になったか」
「ちげェよ。一人で屋上行って一人で降りて来いっつってンだ。ただし帰りは階段を使わずに」
「それは屋上から飛び降りろって事か、あ?」
「正解。さすが第一位」
ぱちぱちとやる気のない拍手を贈られ、第一位の背中で白い物が輝きだした。
(おいおい、地が出てるぞクソガキ……)
(しまった、木原相手の時と同じノリで馬鹿にしちまった。木原クーンだったらいくら煽ってもいいのに)
(お前後で屋上から落とすからな)
結局この場は、木原が一方通行を小突いて話の軌道を戻した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:20:49.09 ID:KP4Oa+x5o<>
「垣根。お前が今ここに来たのは、単なる偶然じゃねえのかも知れねえな」
「テメェとの出会いが運命ってか? 冗談だろ」
翼を消しながら、呼びかけられた垣根は皮肉に笑う。
(俺も木原と運命の出会いはノーサンキューだわ)
(死ね)
(オマエとディスティニー感じちゃったりしたくねェという点においては第一位に同意だわ)
(宿題やって風呂入ってクソして死ね)
木原と一方通行は水面下で器用に罵り合いつつ、垣根を誑かす作業を続行。
「もちろん俺とお前の話じゃないさ。最終信号とお前、だ」
「ガキと出会って俺の人生が一ミクロンでも変わるって?」
「俺はそう思う。お前、実験に後悔があるんじゃねえのか」
「後悔、だと?」
そんなものは欠片も無い、と言いかけて口を閉じる。
垣根の脳裏に、押し込めて来た迷いが沸き上がって来た。
何故今こんなことを考えなければならないのかと思いつつも、それは彼の意に反して脳に、心に広がって行く。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:21:29.09 ID:KP4Oa+x5o<>
ただひたすら、がむしゃらに殺し続けた。
何かを感じたり立ち止まって考えたりする余裕は無かった。
しかし、突然実験が凍結になってから、垣根には分からなくなってしまった。
あの実験は、一体何だったのか。
終わってよかったのだろうか。
まだ続けたいのだろうか。
自分はどう思っていたのか。
どう思うのか。
どう思えばいいのか。
これからどう動けばいいのか。
自分は何をしていたのか。
そこへ、アメ役の木原が都合のいい答えを指し示す。
「……本当は、何か違うと思ってたんだよな?」
残虐非道な実験を続けていたのは、本心からでは無かった。
本当は、あんな事はしたくなかった。
止まれなくなっていただけ。
「分かっててやってたンなら救いよォのねェクソッタレじゃねェか」
「違う。やっと滑り止まった今が最後のチャンスなんだ」
「もォ遅ェよ」
「遅くはねぇはずだ。今日、この瞬間にやり遂げられれば、まだ……!」
まだ救いはある。
光り輝いて見えるその「最終信号を助ける」という答え。
ムチ役の一方通行が正反対の言葉を喚く度、垣根の耳は木原の方へ傾いて行く。
どうせならこっちの言う事を聞きたいと。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:22:07.46 ID:KP4Oa+x5o<>
だが、問題が一つ。
ここで標された道を歩み出したら、まるで救いを求めているように見えるではないか。
少女を助ければ救われると言われたから、それに飛び付いたように見えるではないか。
この、学園都市第一位の垣根帝督が?
許されたくて必死?
あってはならない事だった。
そしてその感情ですら、木原の計算の内に入っている。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:22:54.06 ID:KP4Oa+x5o<>
垣根の心が限りなく承諾の方へ傾きつつも、プライドが邪魔をして踏みきれずにいる事を木原はすぐに見て取った。
即座に彼は「救い」というキャッチコピーを引っ込める。
必死だと思われたくないから二の足を踏むのであれば、別の理由を与えてやればいい。
例えば、一方通行という分かりやすい充て馬など。
「それに、だ。残念ながら、この一方通行のバカにはとてもじゃねえが任せられねぇ」
「俺はやれるっつってンだろ。最終信号は俺が守る!」
守る! ってお前……。
木原は吹き出しそうになって、一瞬黙り込んだ。
しかし、垣根が不審がる前にすぐ顔を上げた。
「レベル2に……レベル2に何が出来るって? あのな、言っとくけど相手は子供でもレベル3だぞ」
「戦争しに行くンじゃねェンだ。いきなり攻撃されたりなンかしねェだろ」
「間違えるとか怯えて思わずとか、攻撃のきっかけは敵対心だけじゃねぇんだよ。それでお前がその電撃食らったらどうなる?」
「……」
レベル3の電撃にたじろいで言葉を詰まらせる一方通行を見て、垣根は少なからず愉快な思いをしていた。
やーい、低レベル。
という感じの感想が、垣根なりにもう少し上品な形で彼の胸中に浮かんで消えた。
「テメェが真っ黒焦げになるんならまだいいぜ? むしろ大歓迎だ。最終信号さまさまだな」
「なンだとコラおい」
「だがもっと最悪なシナリオがある。テメェの能力くらいはテメェで記憶してるよな? そう、反射だよ」
「そ、それが何の……」
関係がある、と、一方通行は最後まで言い切れなかった。
それは、大いに関係がある事を自身で理解してしまったからだ。
怯えて放たれた電流が、まっすぐそのまま反射されてしまったら。
果たして最終信号は無事でいられるだろうか?
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:23:30.48 ID:KP4Oa+x5o<>
「だからテメェじゃダメなんだ。一方通行、テメェはな、自分の身を守る事に関しちゃ天才的だが、それだけなんだよ」
「でも、俺にだって、俺以外を守る事くらい……」
「できねぇな。お前に出来るのは自衛だけだ。そして、今回はそれじゃ足りねえ」
「っ……」
「その点、第一位様はオールマイティだ。
お前も闘ったから分かってんだろ。攻撃、防御、守護。どれでも完璧にこなしやがる」
ぐうの音も出ない。
ついに、一方通行は黙り込んでしまう。
そして。
「……ッ! 俺は認めねェからな! そいつだって今までは人殺ししかして来なかったンだ! 大層な能力があるくせに!」
「あ、おい! コラ! 待て一方通行!」
覚えてやがれとばかり、一方通行は憤慨して部屋を飛び出して行った。
正確には、そういう振りをした。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:24:24.31 ID:KP4Oa+x5o<>
残された木原は、肩をすくめてため息をついた。
「……ったく、しょうがねえ奴。まあ、気にすんな」
「俺が何を気にするって?」
「ん? 少しは効いたかと思ったんだがな」
「今のやりとりのどこに俺を落ち込ませる要素があるっていうんだ?」
一方通行に比べて随分持ち上げられて、垣根は木原の言葉に素直に疑問を返す気になっていた。
ここへ来てすぐの時は視界にすら映っていなかった男であるにも拘わらず。
その、眼中になかったはずの入れ墨の科学者が、またしても垣根の心を大きく揺さぶる言葉を放つ。
「お前は今まで人を殺してばかりいた。救う力なんかない」
「それがどうした」
「そりゃ、あんまり名誉な評価じゃねえよな」
「別に」
今更レベル2にどう評価されようと気にもならない。
それは本当だった。
そして、今のところ自分には人を救った経験が無いという所も。
自分が他者を殺すかどうか迷った上で見逃してやった事なら多々あるが。
「俺の手は殺すためにあるんだろうさ。今になって人を救うだのなんだの、俺には勿体なすぎる仕事だ」
やはり、そこに行きつく。
助けるだとか救うだとか、そういう所謂「いいこと」をするには、自分の手は汚れ過ぎている。
善行そのものに失礼だ。
踏み入れてはいけない領分。
彼はこっち側。
ソレはあっち側。
今更どの面下げて。と、思わずにはいられない。
誰かにそう思われてしまうような気がしてならない。
それが誰なのかはよく分からないが。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:27:20.65 ID:KP4Oa+x5o<>
なのに。
「ほーう? 自分で自分の限界を悟っちまってるとは、思ったよりも気弱だな」
悪人面のアメ役が、その諦めにブレーキを掛ける。
「……何だと?」
カチリと、垣根帝督のプライドが音を立てて反応した。
「お前は無理と言われた先へ突き進む事で、絶対能力を手に入れようとしていたんだよな?」
「おっしゃる通り、"無理"ってのは、俺の嫌いな言葉ランキングの上位だよ」
「レベルシフトと人助け、どっちが簡単だ? どう考えても後者だと思うんだが、お前はそこにすら辿り着けねぇってわけか」
「……あまり俺をなめるなよ。その気になりゃ俺はテメェ一人くらいここで捻り潰しても明日から何事もなく生きていける立場だ」
「じゃ、その立派な立場が泣かないように試してみるか?」
「試す、だと?」
「そう」
黒い刺青が歪む。
木原が笑った。
いかにも性格の悪そうな男なのに、その笑みがどこか優しげだった。
「学園都市最強の第一位は、人を殺すだけでなく救う事も出来るのか」
「……」
少しだけ考えて、垣根は顔を上げた。
「フン、おもしれえ」
「ここが限界か?」などと問われれば。
そんなわけはないと答えないわけにはいかないではないか。
「おもしれえ」
垣根は、不敵に笑って見せた。
「救ってやろうじゃねえか、その人形のガキを」
これで、彼の面目は保たれる。
そして、救いを手に入れる事が出来るかもしれない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/26(金) 20:27:48.86 ID:KP4Oa+x5o<>
垣根が出て行ってすぐに、一方通行はすたすたと部屋に戻って来た。
「ウェーィ」
「一丁あがりぃー」
ハイターッチ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga <>2011/08/26(金) 20:28:57.87 ID:KP4Oa+x50<>
つづきまうぇーい
おまけ↓
一方通行(俺にも演技でイイからあれくれェ優しくしてくンねェかな……)
木原(ガキ慰めるなんつー寒ぃ事してすげーストレス溜まったわ。一方通行殴って解消すっか)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/08/26(金) 20:34:17.66 ID:jmiJCqOAO<> ウェーィwww
1乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/08/26(金) 20:35:55.47 ID:4AjtW6EAO<> くそわろたwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 20:37:40.18 ID:glAm6mQUo<> 乙うぇーい
この親子かわいいww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 20:43:25.58 ID:/JV6PvEDO<> 原作一方さんよりなんか器用だなww
木原くンの影響のせいか
あと親の顔で腹筋がww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/08/26(金) 20:43:55.35 ID:B9yu8C8I0<> うぇーい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/08/26(金) 20:51:16.09 ID:uu7Le0XAO<> ウェーィやめろwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/08/26(金) 20:52:42.97 ID:9glhvyzWo<> おつェーィ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 21:07:33.84 ID:xy713JyDO<> うぇいうぇーい
乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 21:07:50.59 ID:XkyjeTTRo<> 乙ぇーい
ていとくんチンピラっぽいし打ち止めに逃げられそう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/08/26(金) 21:16:30.07 ID:GaGJ9ydAO<> 仲いいなコイツラ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/08/26(金) 21:21:56.53 ID:wtZwFz9L0<> しウェ―ィン <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/08/26(金) 21:37:35.89 ID:qu7eRM7o0<> 乙ェーイ乙ェーイ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/08/26(金) 21:42:34.56 ID:+c9nv5jAO<> 乙うぇーい
だめだ腹痛いwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 22:06:54.29 ID:mBf3tnxJo<> 垣根チョロすぎwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/08/26(金) 22:07:12.85 ID:nnqIccXT0<> おつかウェーィ
やばいこいつらかわいすぎるwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/26(金) 23:07:03.50 ID:gCBMrUBjo<> ウェーイ
乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)<>sage<>2011/08/26(金) 23:14:53.44 ID:H3lQVl8io<> 文句たらたらの癖にこの親子ノリノリじゃねーかwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 23:29:03.15 ID:93h1kv6DO<> 乙
ていとくんが掌の上で転がされすぎでワロタww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/26(金) 23:30:18.68 ID:5UfuK8ag0<> まじ乙うぇーい
うまいことていとくんを乗せたなww
おまけもわらたww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 23:34:11.53 ID:kfPd8xAb0<> 垣根ちょろいww
原作における一方通行と芳川のシリアスなやり取りに相当するはずなのに、なんだこの寸劇感。
これ、垣根の内面ではすっごい真剣な葛藤があるんだろうな。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/26(金) 23:42:25.24 ID:xy713JyDO<> >>226
それ考えると垣根チョロすぎうぇーいwwwwww
とか言ってるのが可哀想に思えてくるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 00:12:00.41 ID:nC2kuuAvo<> 乙うぇーい
一方さんの演技力すげぇwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/08/27(土) 10:36:09.47 ID:LuLntM5J0<> 乙ウェーイ
おまけの一方通行と木原くンの考えの温度差に泣いた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 11:17:11.43 ID:rTdDJVPPo<> >1おつうぇーい
垣根が手のひらの上すぎて笑いがとまんねえwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/08/27(土) 12:37:11.57 ID:MvUQlNx5o<> 乙うぇーい
∞木原式∞ 垣根君のあやつりかただなwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 16:00:56.31 ID:811VOl+IO<> 乙ェーイ☆
垣根マジちょろェーイ☆ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/08/27(土) 21:38:13.02 ID:5KAFW+LAO<> まあ戦闘中に自分の能力をベラベラ喋るぐらい馬鹿だから仕方ない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 23:24:41.89 ID:+6BWQlIwo<> 乙うぇーい
垣根マジちょろいwww
親子の以心伝心ぷりパネェなwww
モノローグにツッコミいれんなwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 01:24:17.69 ID:OEU4AwwDO<> まてよ?つまり原作で木原くンが一方通行にアメとムチ使ったらていとくんみたくなるのかな?
たとえば一方通行に俺だけはお前の味方だ(キリッとか
そのあとに妹達の9968人の死に方のムチを入れに入れまくって最後に特大なアメをやれば……… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/08/28(日) 01:50:16.97 ID:O+2zAatF0<> >>235
木原「俺だけはお前の味方だ」(キリッ
一方通行「うわっキモ」プラズマ
で終わりだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 09:55:44.21 ID:Fqh4tzem0<> 実際一方さんは情緒面では割と普通に子供なので、こんな感じの手管で操ろうと思えば操れたんじゃねえかなぁ、と思う。
能力は怪物、心は人間というのが一方さんのキャラクター像な気がするな。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 11:00:32.76 ID:fBzOFIVDO<> ここの木原クンも一方さん上手く手懐けてるよなぁ
態度でそう感じさせないが死にそうな目にあっても帰りたいって思っちゃうし <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:28:13.55 ID:0aRmWhoHo<>
――――――――――――――――――――→
指定された場所へ出向くと、黒い戦闘服の人間が一人立っていた。
垣根が近寄ったところで、向こうも気付いて声を掛けてくる。
「垣根帝督?」
「ああ」
「木原さんから話は聞いている。俺は――」
「いいっていいって。雑魚の名前なんか興味ねえし」
名乗ろうとする『猟犬部隊』の隊員を手で制し、
「それより、最終信号は?」
と問いかける。
少しはむっとしただろうが、黒服の男の顔はマスクの下に隠れて表情までは読み取れない。
「こっちだ」
さっさと向きを変えると、ただえさえ薄暗い裏道を、さらに細く狭い方へ歩き出した。
明るい大通りの一本裏側。
大勢の人がすぐそこにいるのに、彼らは学園都市の裏側というものを全く知らずに平和に過ごしている。
とはいっても、今日という日はそんなに沢山の人は出歩いていない。
学園都市の人口の大部分は学生であり、その大部分はこの日宿題に追われているからだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:28:43.03 ID:0aRmWhoHo<>
三分程歩いた所で、『猟犬部隊』の男は止まった。
ビルと飲食店の建物の隙間を指差し、男は言う。
「読みが当たっていれば、最終信号はあの路地にいるはずだ」
「路地? そんな何もなさそうな所で何をしてるっつーんだ?」
「何もないって事はない。あそこはファミレスの裏手だからな」
だから何だ、と目で問いかけると、表情の見えない男は、淡々と答えた。
「残飯漁ってるんだよ」
「残飯だ? 何でわざわざそんな事を……」
「親も金も無いんじゃ仕方ないさ。じゃあ、よろしく頼む」
路地を見つめて立つ垣根を置いて、『猟犬部隊』のメンバーはもと来た道を引き返して行った。
待ち合わせ場所に停めてあった黒のワゴンに戻ったのだろう。
後の仕事は垣根に任せて、報告があるまで待機。
話相手のいなくなった第一位は、黙って一歩踏み出した。
暗い、狭い道。
自らを生み出した研究者に危険を感じて逃げ出した少女は、こんな所をうろついて、残飯を漁って暮らしているという。
垣根はそっと角へ歩み寄り、路地裏を覗き見た。
そこには、お化けがいた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:29:12.92 ID:0aRmWhoHo<>
もちろん、本当に出たわけではない。
ファミリーレストランの壁で日蔭になっている場所に、処理前の生ごみを溜めておくダストボックスがある。
その薄暗い場所に、こぢんまりした、もこもこした何かが蠢いている。
よく目を凝らして見ると、それは青い毛布を頭から被った子供だった。
身体に対して大きな毛布で顔と足以外をすっぽり覆っていて、シルエットが何ともいえずお化けである。
怪人チビ毛布。
顔も身体も垣根のいる位置からはほとんど見えなかったが、あれが最終信号だと考えて間違いないだろう。
彼の観察するその先で、小さなお化けはごそごそと自分より大きなゴミ箱の中を覗き込んでいる。
「あー! 一口しか減ってないリンゴ発見! ってミサカはミサカは幸先のいいトレジャーハンティングの未来に希望を抱いてみたり」
嬉しそうな声を上げる最終信号。
不格好に欠けている上、黒ずみの目立つ果実を両手で掲げて、少女は小躍りしていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:30:56.65 ID:0aRmWhoHo<>
これ以上隠れて見ている意味もないし、大して面白くない。
垣根は角を曲がり、踊る最終信号の前までずかずかと歩み寄る。
「最終信号」
「え?」
突然後ろから名前を呼ばれ、少女はびくりと肩を震わせた。
「ええっと? 暗くてお顔がよく見えないけど、あなたは誰?」
振り返った最終信号は、毛布の端をぱたぱたとはためかせながら、首を傾げて布に覆われた顔を傾ける。
「ミサカの名前を知ってるって事は、研究所の人なのかなってミサカはミサカは尋ねてみる」
彼女は気が付いていないようだ。
目の前に立つ人物が何者なのか。
「お前を保護しに来た。簡単に言うぞ。今お前の頭ん中にはウイルスが入ってる。
それを取り除いてお前を培養器にぶち込むのが俺の仕事だ」
「助けに来てくれたの!? それは嬉しいなってミサカはミサカは小躍りを続行しちゃう!」
先程リンゴを発見した際に踊っていたステップの続きらしきものを、最終信号は上機嫌に踏み始めた。
ばかばかしい。
垣根は布を被ってまんまるになっている少女の頭部をむんずと掴み、舞踏を強制停止させた。
「テメェは今、自分で思ってるよりずっと危険な状態なんだよ。ちょろちょろ動き回って体力を消耗するな」
「うーん、でもこの喜びを他にどうやって表現すればいいのかなってミサカはミサカは芸術家のような悩みに頭を抱えてみたり」
「バカか……」
垣根は息を吐きながら、最終信号の頭から手を離した。
拍子に、少女の頭に掛かっていた毛布がずれて、その顔が顕になった。
御坂美琴と同じDNAの、クローンの顔が。
似ている。
当たり前だが、かなり幼いものの、第二位の顔に。
そして、垣根が二万人殺して来た、クローン達の顔に。
「……」
少女の表情は、その高いテンションとは裏腹に、妙に感情が薄いように見えた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:31:26.26 ID:0aRmWhoHo<>
垣根の方から少女の顔が見えると言う事は、彼女の方からも垣根の顔がよく見えている。
最終信号は、垣根の人相を見て何事か思い出そうとするように首をひねっていた。
「あなたの顔は、どこかで見た事があるような気がするって、ミサカはミサカは思い出データベースに検索を掛けてみるんだけど、一向にヒットしないなあ?」
お前らにとっては、忘れられないけど忘れたい顔なんだろうさ。
と、垣根は自らの正体を告げてやろうかとも思ったが、保護する上でそれは得策ではないだろうという結論に至った。
「ま、いいか。ってミサカはミサカは簡単に断念アンド思考停止してみたり!」
最終信号は傾げた首を正面に戻し、こげ茶色の瞳を垣根に向けた。
「あなたについて行けば万事オッケーなんだよね、ヒーローさん? ってミサカはミサカは確認を取ってみる」
「……ああ」
本当に、大人相手でなければ簡単に人を信じてしまうようだ。
いきなり目の前に現れた知らない少年に、彼女は疑いもせずついて来ようとしている。
最終信号の脳には、緊急時に危険を回避するマニュアルが仕込まれている。
無意識の内に敵対者から距離を取ろうとするはずなのだ。
垣根を怪しいと思わないのだろうか。
と、彼自身少し疑問に思ったが、考え直した。
彼女は今「大人」を危険因子として設定しているのだろう。成人以下は警戒の適用外なのだ。
機械で詰め込まれたマニュアルでは、こういう点に応用が利かないのかもしれない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:32:59.45 ID:0aRmWhoHo<>
「こっちだ。うろちょろすんなよ」
「うん!」
前を歩き出す垣根に、最終信号は素直に従った。
ゴミ箱から離れて、足を踏み出して、一歩。
「――――ッッ!!?」
突然、最終信号の頭の中に、大量の意識が滝のように流れ込んで来た。
ミサカネットワークを通じて一斉に送られた、一万の妹達からのメッセージだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:33:32.26 ID:0aRmWhoHo<>
――いけない。
――『それ』から離れろ。
――私達は知っている。
――そいつを知っている。
――私達全員が知っている。
「え……やっ……みんな、どうし……っ!?」
一人の少女の頭脳では処理しきれないほどの、叫び声にも似た同胞たちの意思が、感情が、無理やりに叩き込まれる。
「おい? 最終信号?」
立ったまま頭を抱える少女は、垣根の問いかけに答えなかった。
頭の中にいくつもいくつも侵入してくる声のせいで、他に構う余裕が全くない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:33:57.94 ID:0aRmWhoHo<>
――そいつは
――逃げろ
――早く
――その男は
――今すぐ走れ
――逃げろ
――逃げろ
――逃げろ
――怖い
――早く離れないと
「ま、待って! ミサカ、分かっ、……ちょっと待って――ッ!」
「おい!? どうした? クソッ、こうなったらさっさと……」
―― 殺 さ れ る
少女の身体は前のめりに倒れた。
ばたりと音を立てて。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:35:02.10 ID:0aRmWhoHo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
第一位の立ち去った部屋で、木原は部下の連絡を待っていた。
携帯電話のストラップを掴んでぶらぶらと振る。
わざと、一方通行の顔の横で。
「……気が散るンですけどォ」
「いやー、第一位をただ待ってんのも暇だなー。一方通行、お前ちょっと首だけ右回転させてこっち見ろ」
「何で左側に立ってる奴を右回りで見なきゃなンねェンだよ。それ首の骨折れって事だろ」
「正解」
「やだよ」
木原は、明らかに一方通行の勉強の邪魔になっていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:36:00.47 ID:0aRmWhoHo<>
「垣根が出てってどンくらい経ったっけェ?」
虚偽と想像と妄想と願望の入り混じった夏休みの日記帳から顔を上げ、一方通行は壁掛け時計に目をやる。
「二時間。一度も逃げられずに上手い事とっ捕まえられれば、ウイルスの駆除くれぇは終わってるかもしれねえな」
「俺二時間も勉強してたのか。マジ奇跡」
「妄想日記書き連ねてただけだろーが。何で一文節も事実を書かねぇんだよ」
「何ページ目で先生が気付くか実験すンだよ」
日記の中の彼は、夏休みが始まって五日目には日記を除くすべての宿題を終わらせていた。
よくもまあぬけぬけと。
「日記以外には何が残ってんだ」
「国数英理社」
「全部か」
「全部だねェ」
そろそろ昼時である。
日記に二時間掛けているようでは、明日の夜明けまでに他の宿題にどれだけ時間が割けるか怪しいものだ。
夜になれば眠気とモチベーションの低下でさらに速度は落ちるだろう。
それくらいの計算は一方通行にもできているはずである。
だが、少年の顔に焦りの色は見られなかった。
単に諦めているだけなのかもしれない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:37:09.10 ID:0aRmWhoHo<>
「――にしてもよォ、やっぱ妙だよなァ」
カリカリと無意味な夢日記を書き記しながら、一方通行は何気ない調子で言った。
「何が」
「アレイスター、だっけ? 何で『猟犬部隊』に人助けなンかさせンだよ。どォ考えても向いてねェじゃン」
「……」
木原としても、そこは解せないところだった。
一方通行に指摘されずとも、リーダー自身が誰よりも分かっているとおり、『猟犬部隊』は暗殺のための組織なのだ。
暗部組織などどれも似たり寄ったりなのかもしれないが、それにしたってもう少しふさわしい連中がいたはずだ。
例えば、正規メンバー四人が全員十代の少女だという組織の噂を、木原は聞いた事がある。
そういう適性を無視して、わざわざ彼らがこの仕事にあてられた理由は何なのか。
――とはいうものの。
統括理事会の犬である彼には、任務に対しての「なぜ」は必要ない。やれと言われればやるまでである。
「……さあな。ただの気まぐれだろ」
「気まぐれで命かけさせられちゃたまンねェよなァ」
今回の事もそうだ。どんな思惑が隠されていようと木原には関係ない。
関係ないから、全く興味がない……といえば、嘘になる。
むしろ、大いに気になる所だ。
彼には、アレイスターの言動にいちいち懐疑するだけの理由があるのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:37:42.77 ID:0aRmWhoHo<>
いつだったか、よほど暇だったのだろう、アレイスターが彼の進める『プラン』の一部を木原に聞かせた事があった。
『君は第一位の覚醒のために必要な人材なのだ』
「垣根帝督の? 何の関わりもねぇはずだが」
『……君の屍を乗り越えて、第一位はその能力の真髄を見せるはずだったのだが……』
「屍だって?」
『心配しなくていい。今そのプランは中止している。ちょっとしたイレギュラーがあってね。スペアプランを走らせている所だ』
「中止……ね」
つまり、再開の可能性があるというわけだ。
木原の屍を越えて第一位が一段階成長する、というプランに。
しかし、木原を殺す事で垣根の『未元物質』が成長するとは思えなかった。
クローン達ならともかく、彼は能力者ではない。生身の人間だ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:38:24.66 ID:0aRmWhoHo<>
そもそも、何度考えても分からないことがある。
何故自分が暗部組織のリーダーに選ばれたのか。
適性はあると思う。
特に人格。
彼自身自覚しているとおり、木原数多の性格は最悪だ。
人間として根本的な部分がねじ曲がっている。
人の死や不幸に何の同情も沸かないというのは、一般的な観点から言えば立派な欠陥である。
しかし、罪もない人を殺したり人格を貶めたりといった事を平気でできるという点は、この仕事においては長所になる。
ただ、そういった悪い人間の手本のような人物は木原の他にもいくらでもいるのだ。
多少は武術やら武器の扱いに心得があるとはいえ、彼の本業は科学者である。
他にもっとふさわしい人間がいたはずだ。
性格の悪さだけで彼が選ばれるのはどう考えても不自然だった。
(一体何を狙ってやがる? ……アレイスター)
指令がある度、彼の腹の底にあるものの正体を、無駄と知りつつ木原は考えていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:39:23.76 ID:0aRmWhoHo<>
――――――――――――――――――――→
かついだ少女ごと黒のワゴン車に乗り込んで、一言。
「連れて来た。出せ」
後部座席の垣根と最終信号を、猟犬部隊の男は振り返った。
ぐったりともたげられた小さな頭を見て、彼は呆れたような声を出した。
「何だ、結局気絶させちまったのか。手荒な真似はするなと言われてるはずだぞ」
「俺は何もしなかったさ。コイツが勝手に俺の顔見てショートしやがったんだよ」
「あ、成程」
運転席の黒服は、得心がいったようで、ふむふむと頷いていた。
その様子から見るに、実験と妹達の事情は知らされているらしい。
垣根はフン、と鼻を鳴らした。
「コイツの体力も限界に近いらしい。それに、早いとこウイルスを取り除かねえとやばいんだろ?」
「ああ。これから妹達を製造していた研究所に向かう。例の実験の現場だから知ってるよな?
来週取り壊し予定だが、機類はまだ使えるようなんで、そこで最終信号の治療だ」
「……さっさと出せ、カスが」
「了解了解」
車は、静かな町並みを静かに走り出した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:40:16.52 ID:0aRmWhoHo<>
ワゴンが停まった時、目の前には良く知った研究施設があった。
垣根もあの「実験」のために、何度か足を踏み入れた事のある場所だ。
実験が行われた建物とクローンが製造された建物は別なのだが、敷地は同じだったのだ。
その「人形工場」の方へは、垣根は入った事がない。
「着いたぞ。それじゃ、頼む」
ハンドブレーキを引きながら腰を捻り、猟犬部隊が垣根に何かを手渡した。
天井のウイルスのアンチプログラムだった。
「あ?」
第一位のこの一言には、
「そりゃ最終信号の治療を頼むってことか?」
「俺にやらせる気か?」
「何でこの俺が?」
という不満と疑問の意味が込められていた。
黒マスクの男はそれを読み取り、応える。
「俺は下っ端だからな。空気を読んで大事な場面ではすっこんでるように言われてる」
「誰に」
「ウチのリーダー。木原さんだよ」
「……奴か」
ほんの今朝まで、丸っきり興味のなかった男だ。
今はというと、ほんの少しだけ頭の片隅にとどめておいてもいいかと思っている。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:41:08.50 ID:0aRmWhoHo<>
「あんたはきっと最後までそのクローンの面倒を見たがるだろうから、俺は送迎だけ頑張ってろとさ」
「何で俺がこのチビの面倒を喜んで見る事になってんだよ」
「見たくないのか?」
「当たり前だ。めんどくせえ」
「と、あんたは言うかもしれないから、もしそうなら無理に引き止めずにお帰り頂くよう木原さんに言われてる。帰るか?」
「……」
垣根は無言で最終信号の身体を引っつかみ、乱暴にかついで車外へ出た。
車に残された猟犬部隊の隊員は、小さな身体を背に負って「人形工場」へ向かう第一位の後姿を、じっと眺めていた。
「すげえ。本当に『帰れ』っつったら働いたぞ……木原さんの言ったとおりだ」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/29(月) 22:41:38.99 ID:0aRmWhoHo<>
つづく
って木原さんが言ってました
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/08/29(月) 22:43:30.67 ID:wJ5UWgBAO<> 乙
って木原さんが言ってました
木原通行が親子すぎるwww
読んでてよかった木原式 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 22:48:56.23 ID:z405ymzSO<> 乙
って>>256も言ってました
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/29(月) 22:57:36.86 ID:Bukw1vqYo<> 乙乙
て>>257が <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 23:03:03.76 ID:ZcaqWakko<> 超乙
って>>258が言ってました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 23:07:36.99 ID:2yAiHsFS0<> 超うぇーい って木原さんが言ってました。
って木原さんが言ってました。って木原さんが言ってました。って木原さんが言ってました。って木原さんg (ry <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 23:08:14.35 ID:ayK7kEwqo<> 乙っす
と>>259と>>260が <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/29(月) 23:23:28.09 ID:E7dNwouZ0<> 乙ウェーィ
このスレでは木原くン最強だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/29(月) 23:31:19.22 ID:5Pn0XwRto<> 乙
って>>262がいってました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/08/30(火) 00:10:12.08 ID:yOBY7WxAO<> 乙なんだよ!
って>>263が言ってました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/08/30(火) 00:48:14.18 ID:cPVw8VSj0<> 乙
って>>264が言ってました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/08/30(火) 00:53:51.82 ID:S4yD2Oy5o<> 乙である
って>>265が言ってました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/08/30(火) 01:00:22.43 ID:NcGumVVO0<> お前らときたら…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)<>sage<>2011/08/30(火) 02:01:29.89 ID:Isc44nrAO<> >>267
って木原さんが言っていました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/30(火) 07:02:32.91 ID:bzCW+I7N0<> 超乙です
って>>266と>>267と>>268が言ってました
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/08/30(火) 07:12:36.20 ID:hr0/5X4Xo<> 乙
って>>269が言ってました
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/08/30(火) 08:16:22.13 ID:LdlEuVmAO<> 乙って訳よ
って>>270が言ってました
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sagee<>2011/08/30(火) 10:55:50.50 ID:Pn2m6BBs0<> 乙ですの!
って>>271が言ってました
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/30(火) 18:49:07.73 ID:Xsr+ly88o<> 超乙です
て>>272が超言ってました
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/08/30(火) 20:30:18.35 ID:stNbp1/m0<> 乙ェーイ
と>>273が言ってました
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/08/30(火) 22:27:27.66 ID:PVFaZTEAO<> 木原くんなにしてんの…?
って>>274が言ってました
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/31(水) 00:10:51.66 ID:L1XofREu0<> こんばんは。投下しに来ました
>>1です
って>>275が言ってました
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:11:20.27 ID:L1XofREuo<>
――――――――――――――――――――→
ALL COMPLETED.
学習装置のモニタに淡白な一文が表示された。
どうやら成功したようだ。最終信号に感染したウイルスは消滅したのだろう。
垣根にはクローンの脳作りに関する知識などほとんど無かったが、
機械がエラーを訴えない事と、最終信号の顔色が目に見えて良くなった事から、一応無事だと判断した。
あとは、少女の身体を専用の調整器に入れてスイッチを押すだけ。
学習装置のある場所からはすぐ近くだった。
軽い体を抱え上げ、隣の部屋へと移動する。
巨大なビーカーのような、円筒状のガラスの容器が、クローン達の寝床であった。
培養液で満たされていない一機を選び、カツカツと靴音を立てて近寄った。
蓋を開け、最終信号を入れようとしてふと気付く。
彼女が身体に巻き付けている毛布。これは一緒に入れるわけにはいかないだろう。
女性の体を隠す布をはぎ取る行為には少し躊躇したが、以下の理由から実行に移すことに決めた。
1.相手はまだ子供だ
2.相手は寝ている
3.俺は第一位だ
特に3番は重要である。かなり。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:11:54.49 ID:L1XofREuo<>
毛布を取り上げようと手を掛けた。
すると、最終信号の小さな手がそれを阻んだ。
もしや目覚めたのかとヒヤリとしたが、どうやらそうではないらしい。寝たまま毛布を手放そうとしないのだ。
「くっ……こ、このガキ……!」
意識を失いながらもすごい執念である。
この汚い毛布の何にそこまで執着すると言うのか。
第一位とクローン少女は、毛布をめぐる熾烈な争いを繰り広げた。
そして無言の格闘をしている内に、彼女は眼を覚ましてしまった。
「う……ん……」
少女が微かにうめき声をあげる。
瞼の内側で眼球が動いているのを垣根が確認した直後、最終信号はその目を開いた。
「ふぁ……?」
覗き込む垣根の顔を見て、しばしぼんやりする。
突然意識を失ったのだ。自分の身に何が起こっていたのかなど理解していないだろうし、
今もまた自分がどのような状況下に置かれているか分からないだろう。
じっと、垣根の顔を見詰めた後。
「あ……あなたは……」
少女の目が見開かれた。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:12:23.14 ID:L1XofREuo<>
「お、まともに喋れるみたいだな」
「触らないで!!」
ほとんど悲鳴に近いような声を上げ、最終信号は垣根から離れようと身をよじった。
「あなたはミサカたちを……ミサカたちの……」
恐怖に身体を震わせ、空色の毛布をぎゅっと掴み、力の入らない足で必死で立ち上がって逃げようとする。
「……」
怯える最終信号の様子を見て、垣根は特にこれといった感想を抱かなかった。
強いて言えば「ま、そりゃそうか」くらいのものだった。
立ち上がろうとして転がった最終信号を眺めながら、彼は黙って考える。
さて、これからどうしようか。
と。そこへ。
どこか遠くで甲高い女の声が聞こえた。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:12:59.21 ID:L1XofREuo<>
「警備員さん、こっちです!」
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:13:27.31 ID:L1XofREuo<>
――――――――――――――――――――→
まかり間違えば自分が押し付けられる事になっていたかもしれない事件の結末が、気にならないといえば嘘になる。
一方通行が木原の研究室を訪ねて行くと、丁度無線で部下からの報告を受けている彼の姿があった。
受話器を耳に当てながら、片手に持ったよれよれのノートを眺めている。
(なンかどっかで見たノートだな……?)
事件とは関係の無さそうなそのノートが何だったかと考えているところへ、無線を切った木原が言った。
「作戦は成功。流石は第一位、最終信号は無事だ」
「そりゃよかった」
「学習装置のログを見た限りでは後遺症も心配ナシ、本人は警備員に保護された後病院行き、誘拐されるような危険もない、と」
「完璧だねェ」
「あと、垣根帝督は少女誘拐の疑いで警備員に連行されたってよ」
「はっ?」
女性からの通報を受けた警備員が閉鎖中の研究所へ踏み込むと、
そこには少女を裸にひん剥いて怪しげなビーカーに閉じ込める第一位の姿が。
二人の間に、三秒ほど沈黙が流れた。
彼等はしばし押し黙り、
「ぎゃはははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
「ヒャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
物凄く笑った。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:14:42.80 ID:L1XofREuo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
学園都市の第七学区には、『窓の無いビル』と呼ばれる建造物がある。
文字通り窓や扉といった人の出入り口となるものが一切ないビルで、
立ち入りには空間移動系能力を持つ案内人の同行が必須である。
その内部には、巨大なガラスの容器が設置されていた。
中身は人間で、何かの液体で満たされた円筒状のガラスの中で、逆さまに浮いている。
その人物こそ、学園都市の全てを管理する統括理事長、アレイスター=クロウリーだ。
男にも女にも老人にも若者にも見えるその人間は、病院に運び込まれて静かに眠る最終信号の様子を、
すぐそばにあるコンピューターのモニター越しに眺めていた。
「大人を危険因子に設定すれば、上手くいくと思ったが……」
統括理事長は、誰にでもなくぽつりと呟いた。
「木原は最終信号の救助に一方通行を使わなかったか」
「わざとこちらの狙いをはずしたわけではないだろうが……あの男はあれで勘のいいところがある」
こぽり、と、ガラスの中の液体に気泡が出来た。
「本当はこのタイミングで一方通行―最終信号のラインを結んでしまいたかったのだが……」
「まあいい。今後の宿題、という事にしておこう」
逆さ吊りの統括理事長は、静かに笑った。
怒っているような泣いているような笑っているような笑いだった。
「ぎゃはははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
「ヒャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
物凄く笑った。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:16:14.77 ID:L1XofREuo<>
――――――――――――――――――――→
よれよれのノートを持った木原が言う。
「ところでクソガキ。宿題は終わったか?」
「駄目だねェ。今夜は徹夜かもしンねェわ」
腹を曲げて笑っていた姿勢から立ち直り、うんざりした顔で自室に向かう一方通行。
とはいったものの。
実は宿題はとっくに終わっている。
今朝木原が訪ねて来た時は、丁度鞄の中に準備している所だったのだ。
なぜ宿題がまるで終わっていないなどと嘘を吐いたのかというと、他でもない木原が訪ねて来たからだ。
彼がわざわざ一方通行に会いに来る時は大抵ろくでもない用事を抱えている。
入って来た木原の顔を見た瞬間に「あ、これはやべェ」と思った。
また暗部のゴタゴタに巻き込まれてはたまらないと、咄嗟の判断でひと芝居打ったのである。
結果的に予想は当たっていた。
(本当は七月中に終わってたなンて言ったら、またブン殴られンだろォな)
「――なんて言わなくてもバレてんだよクズが」
一方通行がこっそり考えていたその時、木原が右手のノートを持ち上げてこう言った。
妙に見覚えのある。
夏休みの宿題用の。
「望みどおり今から殴るから歯ぁくいしばれ」
「 」
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:16:46.68 ID:L1XofREuo<>
→レシピ2...おわり
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/08/31(水) 00:17:20.50 ID:L1XofREuo<>
「ごっ、がァァああああああああッ!?」みたいなこと言いながらすごいノーバウンドで飛んで行った。
つづく
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/08/31(水) 00:19:05.20 ID:L1XofREu0<> うわあああああものすごいミスしてたああああああ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/08/31(水) 00:24:40.56 ID:2FYNPvNo0<> 乙ェーイ!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/08/31(水) 00:26:00.61 ID:2FYNPvNo0<> ミスではない、新ネタだ。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/08/31(水) 00:27:36.88 ID:UB1i9ZSAO<> 乙wwwwww
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/31(水) 00:27:41.78 ID:7FEygXaU0<> 演出かと思ったんだぜ!
おつェーい
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/31(水) 00:28:08.65 ID:rBTFWxdSO<> ん?>>275が>>1?
しかし今颯爽と投下していったのは…
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/08/31(水) 00:46:25.19 ID:okQSGsgpo<> 「おっ、つゥゥううううううううッ!?」みたいなこと言いながらすごいノーバウンドで乙していった。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/08/31(水) 00:50:10.86 ID:2KW8sBVz0<> >>1乙ごっ、がァァああああああああッ!?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/31(水) 01:51:44.76 ID:woJb2zfIO<> おっつん
ミスってどれだ?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/08/31(水) 02:00:20.32 ID:okQSGsgpo<> >「まあいい。今後の宿題、という事にしておこう」
>逆さ吊りの統括理事長は、静かに笑った。
>怒っているような泣いているような笑っているような笑いだった。
>「ぎゃはははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
>「ヒャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
>物凄く笑った。
この件かな?
思わず三度読み返したし
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/08/31(水) 03:07:48.10 ID:epj7raOwo<> 乙
☆が壊れたのかと思ったわwwww
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/31(水) 03:55:14.34 ID:Kxk9I7WDO<> あ、それのことか
俺はてっきり☆がモニターを見ていてそこに笑っている二人が映ったのかと
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/08/31(水) 07:05:05.58 ID:zh4f3DjAO<> 俺も一瞬アレイスターが爆笑してんのかと思ったわwww
ところで木原クンまじ策士
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/08/31(水) 13:33:06.09 ID:UB1i9ZSAO<> 誰かていとクンに触れてあげて
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>saga<>2011/08/31(水) 16:04:04.06 ID:Vk/jmyN30<> おつおつ
ミスの仕方まで面白すぐるwww
>>1のセンス最高だwww
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/08/31(水) 20:02:53.24 ID:ar3XBybS0<> おっつうん
面白すぐる
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http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/31(水) 20:19:21.56 ID:q2URt74to<> 乙ゥ
ていとくン可哀想だなwwwww
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/08/31(水) 21:04:41.00 ID:zbSbwlb50<> 乙
ていとくンは泣いていい
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http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/31(水) 21:34:08.92 ID:bHQ2ByVj0<> 乙です。
未元止めでていとくん救済な感じになるのかと思ったら、そう単純でもないのか。
というかていとくん哀れ。原作一方さんがこんなことになってたら絶対ぐれちゃうよ。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/09/01(木) 02:30:21.88 ID:z13dg0ax0<> あれ、よく考えたら打ち止めの誤解(?)解けてないwwww
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/09/01(木) 13:16:49.64 ID:HnDsmg7F0<> >>305
ていとくン「ふ、不幸だァァァァァぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/09/01(木) 13:18:42.20 ID:TmDX35uAo<> ガチの不幸なのがまたなんとも言えない……wwww
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/01(木) 14:11:25.03 ID:QAKOw5e40<> 乙
乙
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/02(金) 13:31:20.76 ID:nvdMiQ+SO<> まさかのシリアル展開とな
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆goBPihY4/o<>sage<>2011/09/04(日) 20:41:09.22 ID:B/rRgXv50<> http://wktk.vip2ch.com/vipper15749.jpg <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/05(月) 00:36:34.64 ID:sYDgwjmd0<> >>310
!? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/09/05(月) 00:54:28.37 ID:JLFVkLj50<> >>310
NANI☆KORE <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/09/05(月) 01:08:46.26 ID:uo0LbsQA0<> 一方さんの絵日記キタコレ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:05:54.90 ID:A4h7viP4o<>
→レシピ3:騎馬戦
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:06:39.44 ID:A4h7viP4o<>
「一方通行。お前、洗脳とか興味ねぇ?」
「ねェよ。他人操ってまでしてェ事もねェし」
「違う違う。洗脳される方に興味ねぇ?」
「ねェよ。全力でノーだわ」
もちろん、冗談だろう。
そう信じたいが信じきれない一方通行の揺れる心。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:07:38.60 ID:A4h7viP4o<>
九月に入ってからというもの、木原のおもちゃは専ら学習装置だった。
天井から奪った学習装置のソフトをいじり回し、その技術を隅々まで盗み取っている。
学習装置とは、脳に直接知識を刻み込む、言ってみれば洗脳装置のようなものである。
刻み込めるのは勉学の知識だけではないのだ。
スクリプトさえ作ってしまえば、嘘の記憶だとか体術だとかも覚えさせる事が出来る。
木原の言う「洗脳」とは、これのことだろう。
「それって、クローンに短期間で最低限の生活を送れるだけの知識を持たせるために掛ける奴だろ」
ブーンと低い音で唸るコンピューターを遠巻きに見ながら尋ねる。
「何で俺が洗脳される事になってンだよ」
「別にコレはクローン専用じゃねぇぞ。脳の構造はクローンも人間も一緒なんだからよ」
唸るコンピュータを操っているのは、木原の長い指である。
彼は天井から絞り取った知識と技術を駆使して、すでにいくつか自分で学習装置用のプログラムを組んでしまったようだ。
「救いようのないバカをただのバカにする事も可能ってわけだ」
「……オマエが今作ってるのって……」
「喜べ。テメェをただのバカにするプログラムだ」
「や、ヤでェーす!!」
怪しげな機械に掛けられて脳をいじくられる。
しかも、テスト無しで。
一方通行は、その場から全速力で逃げるためのウォーミングアップを始めた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:08:15.45 ID:A4h7viP4o<>
「まあ待て一方通行。お前、本当にレベル上げる気はねえのか?」
「上げる気になりましたで上がったら苦労しませェン。バカだから上がらないだけですゥ」
「じゃあこの学習装置で……」
「嫌だっつの」
身構える一方通行を宥めるように、ひらひらと手を振る木原。
がっかりしたようなため息を一つ。
「そうか、残念だ。レベル5になれば物凄くいい事があるんだが……」
「イイ事ォ? ロクな事ァなさそォだけどなァ? クカカ」
「いやぁ〜興味ないかぁ〜。バカには関係ない話だしなぁ? 本当に残念だよ一方通行〜」
「……しつけェな……レベル5になったら何がそンなにイイっつンだよ?」
「ほう、食いついたな」
「無理やり食いつかせたンだろ」
「仕方ないから教えてやるよ。レベル5になった暁にはなあ……」
「……おォ」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:08:45.95 ID:A4h7viP4o<>
「 モ テ る 」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:09:15.00 ID:A4h7viP4o<>
「 バ カ か 」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:09:40.63 ID:A4h7viP4o<>
血反吐のように言葉を吐き捨てた一方通行に、木原は心底意外そうな顔をした。
「お前モテたくねえの?」
ホモなの?
「えェー? あァ、あれですゥ。悪ィけど俺ェ、心に決めた人がいるンでェ」
「あーあー、アレだろ。恥ずかしがり屋過ぎて画面から出て来ない系の」
「死ね」
これ以上この場にいたら、ストレスで死ぬか洗脳されるかのどちらかだ。
一方通行はまだ未練のありそうな木原を研究室に残し、ゲームをしに仮眠棟へと帰って行った。
(……もしかして垣根ってモテてンのかァ?)
という、ちょっとした疑問を頭に浮かべながら。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:10:36.65 ID:A4h7viP4o<>
「…………ふーっ……」
去っていく一方通行の背を眺めながら、木原は小さく息を吐いた。
レベル5を手元に置きたい。
常々そう思っていた。
しかし欲しいと言ってすぐ回して貰えるほど豊富な人材ではない。
何せたった六人。そう簡単に手出しは出来ない。
なかなか手に入る実験台ではないのだ。
能力開発を専門とする研究者なら、誰でも喉から手が出るほど欲しがるサンプルである。
木原自身、色々とコネを使って手を回してみたが、第一位から第六位まで、一人も確保する事はできなかった。
そう、レベル5はモテるのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:11:43.33 ID:A4h7viP4o<>
そもそもレベル4とレベル5を分ける基準とは何か。
実力的にはレベル5と互角に戦えるような化けものはレベル4にも存在するのに。
両者を分ける一本の線。
能力開発のエキスパートである彼は、一方通行を開発したあたりからある疑問を持ち始めていた。
この世の理には、科学では説明しきれない何かがあるのではないか。
実験中、何かの拍子に、どうしても単なる誤差で片付けられない数値のズレを見つける事がある。
一方通行を使った実験の時にそれが特に顕著だったのだ。
この正体不明のズレは一体何だ?
その裏に何がいる?
一言で言ってしまえば、オカルト。
科学で説明し切れない何か。
レベル5とは、そのオカルトの域まで到達する可能性を秘めた者だけに与えられる称号なのではないか。
彼は知りたかった。
もっと先を。
一線の向こう側を。
レベル5の実験台が欲しくて仕方がなかたった。
そのためなら何だってしてやる、と思えるほどに。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:14:07.06 ID:A4h7viP4o<>
――――――――――――――――――――→
ここを訪れるのは通算何度目になるのだろうか。
思い出して数えようと思えば簡単だろうが、やりたくないので曖昧なままにしておいた。
垣根帝督がやって来たのは、最終信号の病室だ。
初めて最終信号の様子を見に来た時、垣根は自分で自分が分からなかった。
一体こんな所まで何をしに来たというのだろうか。
二万人も殺しておいて。
その生き残りをたまたま一人助けたからといって、何故見舞いになど来なければならないのか。
怯えさせるだけだろうに。
しかし、もう一度。
会ってみたいと思った。
震えながら、目に涙を浮かべて自分を見つめていた少女に。
何を言えばいいのか。
どうすればいいのか。
第一位の頭脳を誇るくせに見当もつかなかった。
そして、分からないまま病室の戸を叩いた。
すると、明るい返事が返って来た。
「はぁーい? ってミサカはミサカはノックにお返事をするけどベッドから降りられないのでロクな対応ができないよ」
そのノックに続いて部屋に入って来た男の顔を見て、最終信号は固まった。
目を見開いて、口は半分開けたまま。
そして、その瞳からあらゆる感情が消え失せて、五秒。
信じられない事に、少女は微笑んだのだ。
「――お見舞いに来てくれたの? ってミサカはミサカは嬉しさを顔一杯の笑顔で表現してみる!」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:15:15.45 ID:A4h7viP4o<>
それ以来である。
一人で病室にいるのがよほど詰まらないのか、最終信号は垣根が訪ねて行くととても喜んだ。
そして、帰ろうとすると非常に寂しそうにする。
頭から伸びる立派なアホ毛すらしょげこんでいるように見えるほどだ。
いつしか、何となく、彼女の見舞いをするのが日課になってしまった。
今日も彼が行けば彼女は大喜びするだろう。
最終信号は待ちわびているのだ。
垣根の到着を。
ノックを二つ。
固い音が耳を打って。
何秒も待たずに返事が聞こえて。
垣根はその部屋へと吸い込まれて行った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:16:54.03 ID:A4h7viP4o<>
入って来た人物を見て、最終信号は彼の予想通り目を輝かせた。
「もうそろそろかなって時計とにらめっこしながら待ってたんだからってミサカはミサカは」
「うるせぇよ、ガキ」
にこにこと出迎える最終信号の挨拶を適当に一蹴して、垣根は個室の奥へと入って行く。
「あんまりうろちょろしねぇでベッドで寝てろっつってんだろ」
「ふっふっふー。そろそろ動き回ってもいいよって言われてるのだ! ってミサカはミサカの自己治癒力をくるくる回って胸を張って誇示してみたり!」
言いながら本当に回る最終信号。
垣根はその頭を掴んで回転を止め、そのままベッドの方へ放り投げた。
少女の体は、ぽすんと音を立ててベッドへ転がる。
「いてて! ミサカをベッドに押し倒してどうするつもりなのってミサカはミサカは貞操の危機に震えてみるんだけどどこ見てるの?」
ベッドの上で衣服を胸元へかき集める仕草をする最終信号を完全に無視して、垣根は窓から外を眺めていた。
「あ、飛行船通ってる! 今日のニュースはなになに? ってミサカはミサカはあなたのいる窓際まで駆け寄ってみる!」
彼らが見ているのは、巨大モニター付きの飛行船だ。
ニュースと天気予報を映し出しながら、学園都市の空を一定のルートとスケジュールで飛んでいる。
「また大覇星祭の話題、か。ここ最近はずっとだな」
「都市全体でやる戦争みたいな運動会なんでしょ? ってミサカはミサカは秘密のルートから得た情報の裏を取ってみる」
垣根は何とも答えなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:17:38.60 ID:A4h7viP4o<>
否定されない時は大体当たっているという事を最終信号は知っている。
彼女は満足そうに微笑み、垣根の隣で空を眺めている。
「ミサカも大覇星祭に行きたいけど、誰か保護者がいないと外に出ちゃダメって言われちゃったの」
くるり、と下から彼を覗き込むように見上げて、ふいに最終信号は言った。
「そうか。残念だな」
「当日は、病院の人は怪我人の処置で忙しいし、警備員さん達は警備だし」
「ふーん。残念だな」
大きな瞳でじっと垣根を見つめる最終信号。
整った目元を空へ向ける垣根。
「どこかにミサカを優しくエスコートしてお祭りを楽しませてくれるジェントルマンはいないのかなって、
ミサカはミサカは期待のこもった眼差しをあなたに向けてみるんだけどガン無視かよ」
「……」
「ねー! ねー! ジェントルマンはどこにいるのかな!!」
「紳士(ジェントルマン)が相手にするのは洗練された淑女(レディ)だけだ。レディはどこにいるのかな?」
「ううっ……ってミサカはミサカは唸る事しかできなかったり……」
最終信号はアホ毛を垂れ下げてしょげかえった。
「すっごく面白そうなのに……ってミサカは……」
肩を落としたまま、すとんとベッドへ座り込む。
垣根は大きくため息を吐いた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:18:35.52 ID:A4h7viP4o<>
冗談じゃない。
なぜ自分が、この学園都市第一位の垣根帝督が、
ガキのお守りで運動会のお祭り騒ぎの中をうろうろしなければならないというのだ。
(大体、俺はこいつと同じクローン達を二万人ほどぶっ殺した張本人だ)
(どの面下げて連れ回せってんだ?)
(――どう考えても柄じゃねえし……)
ちらり。
と、ベッドの方へ目を向ける。
最終信号はうなだれたまま座り込んでいた。
頼れる知り合いの少ない少女にとって、
保護者同伴でなければ出歩けないという条件はかなりネックになるのだろう。
垣根が最後の希望だったのだ。
楽しそうなイベントに参加するための。
しかし、垣根は突き放した。
第一位だから。
二万人殺したから。
柄じゃないから。
(……くっだらねぇ)
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/06(火) 23:19:41.77 ID:A4h7viP4o<>
つかつかと歩み寄り、元気の無いアホ毛をがっしり掴む。
「むひゃ!? な、何なの何なのってミサカはミサカはっ……」
「あんまりうろちょろすんなよ」
「へ?」
「当日。迷子にでもなられたら面倒だ。ちょっとでも勝手に離れたらすぐ病院に連れ戻すからな」
「え……」
それだけ言うと、垣根は手を離し、出口の方へ向きを変えた。
「それって、もしやもしやもしかしてって、ミサカはミサカはパアっと明るい顔になってみたり……?」
本当に、打って変って明るくなった最終信号の声を耳で確認して、しかし垣根は振り向かずに歩く。
廊下へ出るドアの前まで進み、取っ手に手を掛けて、一言。
「……連れてってやるっつってんだ、大覇星祭」
そのままカラカラと引き戸を開けて、出ようとする。
が、しそこねた。
小さな少女が背中に思い切り飛びついて来たからだ。
「な、何しやがるクソガキ!」
「大好き! ってミサカはミサカは照れるあなたにを全身で喜びを伝えちゃうんだから!!」
「照れてねえし、やめろ! コケる!! ――うおっ」
第一位はコケた。
<>
つづきま ◆goBPihY4/o<>sage saga <>2011/09/06(火) 23:21:17.54 ID:A4h7viP4o<>
す <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/06(火) 23:22:33.63 ID:yv/kc8VDO<> 乙
複雑だな…打ち止めの態度をそのまま信じていいのか怖い <>
乙って木原さんが言ってま<>sage<>2011/09/06(火) 23:22:57.50 ID:D1JjJmx40<> す <>
乙って>>331が言ってま<>sage<>2011/09/06(火) 23:30:49.83 ID:A3wMaL3SO<> す <>
乙って>>332が言ってま<>sage<>2011/09/06(火) 23:32:08.83 ID:FKPvvLeAO<> す <>
乙って>>333が言ってま<>sage<>2011/09/06(火) 23:33:44.93 ID:8D/mG6JKo<> す <>
乙って>>334が言ってま<>sage<>2011/09/06(火) 23:42:34.98 ID:elteUyA1o<> せん <>
乙って>>334が言ってま<>sage<>2011/09/06(火) 23:42:48.56 ID:8RpMVM940<> す <>
乙打ち止めペロペロって>>334が言ってま<>sage<>2011/09/06(火) 23:43:11.73 ID:wAqbJFtAO<> す <>
乙って木原くンに洗脳された>>334が言ってま<>sage<>2011/09/06(火) 23:44:16.10 ID:WPGbZ8BAO<> すゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/07(水) 01:02:46.77 ID:pVCGqQ7DO<> なんか垣根の性格が一方さんみたいなツンデレになってるな <>
乙ウェー<>sage<>2011/09/07(水) 01:09:49.29 ID:hETggOepo<> イ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/07(水) 01:41:13.51 ID:gW9nf5ADO<> 乙
一方さん主人公とられてますよw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/07(水) 07:22:47.34 ID:XPeCl3i8o<> 乙
通行止めだと微笑ましいのに未元止めは犯罪っぽい・・・身長の差か <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)<>sage<>2011/09/07(水) 09:24:51.14 ID:zDOcRrcF0<> 乙
自分はビジュアル的に兄妹に見えるなあ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/07(水) 10:08:15.68 ID:kRJ+j4QIO<> 名前欄を見る癖がないと一瞬ビビるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>scpbd621<>2011/09/07(水) 13:21:10.83 ID:CWjeGxFl0<> 第一位がツンデレなのは定着してんのな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/09/07(水) 16:01:33.19 ID:xE4LBFO10<> 一方さんもっと頑張ろうぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/09/07(水) 16:18:09.98 ID:NcXFZ4ZF0<> ぼくたちは、なかよく>>1乙してるよ
∧_∧
===,=(´・ω・ ) >>1乙
||___|_゚し-J゚||_
∧_∧/ //.___|^∧_∧
>>1乙 (´・ω・ ) /|| |口|(´・ω・ ) >>1乙
./(^(^//|| || |口|⊂ _)
>>1乙 ∧_∧ /./ || || |口| || ∧_∧
∧_∧ (´・ω・ ).>>1乙..|| || |口| || (´・ω・ ) >>1乙
(´・ω・ ) /(^(^/./ || || |口| || ゚し-J゚
"" ゚し-J゚:::'' |/ |/ '' " :: ":::::⌒ :: ⌒⌒⌒ :: "" `
:: ,, ::::: ,, " ̄ ̄ "、 :::: " ,, , ::: " :: " ::::
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/07(水) 19:23:24.09 ID:g7cn06ec0<> >>1乙
セロリが思っているのは誰?
show down、楽しみ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/07(水) 21:03:19.08 ID:wXrl1J4so<>
/ ̄/\/\ ____ _| ̄□__
\ .\ \. \ /. .| | |_ _|へ ̄\
∧∧.\. \. \ .  ̄|. |. . | | |_ ゝ__)__) | ̄ ̄ ̄ ̄ヽ ̄ヽ
(゚听,,)/ ./ ./ .|. |(,,゚听) / .\(,,゚听)  ̄ ̄ ヽ ,|(,,゚听)
/ /ヽ) / ./ _|. (ノ|__|) ( o | ̄丶.(ノ| .|) _.ノ (ノノ ノ)
\_\/\/ |.___.|__| .ヽ_ノ_ノ_ノ__ノ |__ノ__ノ
し`J し`J し`J し`J <>
乙って皆が言ってま<>sage<>2011/09/07(水) 23:29:16.50 ID:jVtcmbB60<> す
>>335->>338
なんだこれwwwwそんなに皆>>334好きなのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/08(木) 21:11:03.70 ID:xppKz+9E0<> >>350
さんをつけろよでこすけ野郎 <>
乙って愉快なオブジェが言ってま<>sage<>2011/09/09(金) 18:47:56.59 ID:m+IFxH6no<> す <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:18:50.97 ID:rGWUnTxIo<>
――――――――――――――――――――→
「おーい、木原ー」
「あァー?」
呼ばれて振り返ると、クラスメイトが二人向かって来る所だった。
一方通行は、学校内では木原姓を名乗っている。
保護者が木原数多という事になっているからだ。
「お前、大覇星祭なに出るよ?」
何も鳴らしていないのにヘッドフォンを装着している男子が言った。
鳴っていないヘッドフォンをわざわざ付ける無意味さは、
暗いところでもサングラスを取らない奴のそれにちょっと似ていると、一方通行はこっそり思っている。
それはもはや耳あてではないのかと。
「なンも出たくねェ」
「それ無理。一人最低一種目出ろってセンセーが言ってた」
一方通行が不参加希望の旨を伝えると、面倒臭そうな調子の即答が返って来た。
彼も出来る事ならさぼりたいのだろう。
同じ事を考えている学生は、この高校に沢山いる。
全校生徒の半数くらいの人数いる。
だから強制にしないと、選手不足で五割の競技が失格になってしまうのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:19:24.55 ID:rGWUnTxIo<>
一方通行の通う高校は、生徒の大多数がレベル0か1だ。
レベル2なら少し威張れる。
最高でもレベル3で、一学年に一人ずつしかいない。
正確には、一学年に一人ずつ「だった」。
夏休み中に一人減ったのだ。
誰あろう、レベル3から2へシフトした一方通行である。
とはいえ一方通行は、数少ないレベル2の中ではトップであり、学年トップだった。
大覇星祭では希望の星である。
どんな希望を抱いたところで、
最低でもレベル3でなければ入学出来ないなどという超エリート校にはまるで歯が立たないのだが。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:20:18.26 ID:rGWUnTxIo<>
「お前の反射能力を存分に活かせる種目がいいよな」
耳あての右隣りで、赤い髪の、たくさん指輪をした同級生が言った。
「ま、大抵の種目は妨害アリアリだし、反射しちゃえばそれなりに効果があるんだけど」
耳あても耳あてで、赤髪リングに続いた。
「俺に期待されても困るンですけどォ」
「あんましてねーよ? 他が輪を掛けて期待できないだけ」
ヘッドフォンの同級生は、耳元からミュージックプレイヤーに繋がるコードをくるくるといじりながらにやける。
赤髪リングもこくりと頷いた。
二人が勝手にあれこれ相談するのを、一方通行は黙って聞く事になった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:20:45.71 ID:rGWUnTxIo<>
「綱引きは?」
「引っ張る力反射したらどうなるわけ?」
「縄向こうに行っちゃうんじゃね?」
「足手まといだし」
「あらー。却下だなー」
勝手に足手まとい扱いされた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:21:22.55 ID:rGWUnTxIo<>
「じゃー玉入れ」
「どうやって反射使うん?」
「あれだよ、相手のカゴの前に立ってさ、玉が飛んできたら反射するわけ」
「カゴって、すっげ高くね?」
「まてよ、木原空飛ぶ必要があるんじゃね?」
「やっべ。飛んでもらわなきゃいけねーわ」
五分後、一方通行は飛べない。という結論に至った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:21:49.58 ID:rGWUnTxIo<>
「大玉転がしは?」
「弾いてどうする」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:22:15.38 ID:rGWUnTxIo<>
「あ、これは? 棒倒し」
「反射活躍するかねー?」
「あの、あれだし……棒が倒れてきたら反射すんの」
「それ、反対側に倒れるだけじゃね?」
結局負けるので却下。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:22:44.58 ID:rGWUnTxIo<>
「リレーは?」
「木原走んの超おっせーよ?」
「障害物走」
「木原走んの超おっせーよ?」
「借り物競走は?」
「木原走んの超おっせーよ?」
一方通行の舌打ちと共に却下。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:23:15.18 ID:rGWUnTxIo<>
「あとはじゃあ……パン食い競争とか?」
「反射しちゃったらさー、パンが離れて行くばかりなんじゃないの?」
「じゃ、飴探し」
「飴が離れて行くばかりなんじゃないの?」
おいしい思いは出来そうにないので却下。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:24:37.59 ID:rGWUnTxIo<>
クラスメイトコンビはああでもないこうでもないと議論を続け、
帰るタイミングを失った一方通行は、結論が出るまでそれに耳を傾けていた。
「もう、しょうがないから騎馬戦で」
「異議なし」
「反射絶対関係ねェよ……」
もう、決まるなら何でもいいか、という気分になっていた一方通行は、
不思議な議論の結論を受け入れた。
そこへ、男子が集合している場所に集まりたがるタイプの女子が、数人寄って来た。
「えー、木原くん騎馬戦出るのー?」
「超応援するしぃー」
「がんばってしぃー」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:25:03.51 ID:rGWUnTxIo<>
「いやァ無理だわ。俺当日熱出す予定だから」
「その日に熱出したら留年だってせんせぇが言ってたしぃー」
読まれている。流石バカ高でバカ相手に日夜手綱を取る教師。
あまり頑張って活躍したくない一方通行としては、是非とも手を抜く口実を見つけたいところだ。
「あ、俺体操服無くしたわ。指定の着てねェと出らンねェンじゃなかったっけ」
「俺のジャージでいいべ。貸すし」
「ジャージってあれだろ、うちのかーちゃんが寝巻にしてるやつだし」
「お前かーちゃんにジャージ取られたのかよ!? ギャハハハッ」
甲高い笑いが起こる。
やれやれ、と一方通行はため息を吐いた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:25:46.54 ID:rGWUnTxIo<>
「俺レベル2だし。3とかじゃねェから弱ェし」
「お前この間まで3だったじゃん!」
「どうやったら下がるんだよ!」
「ギャハハハハ!!」
またも、笑い声。
平和な。
バカで。
みんな楽しそうで。
こういう輪の中にいると、たまに思う事がある。
(こォいうのを『日常』っつーンだろォな)
――と。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:26:12.83 ID:rGWUnTxIo<>
教室の掲示板に、参加種目リストのプリントが貼ってある。
『騎馬戦』の参加者欄に自分の苗字を――
「……あーァあ。クソだりィ」
――『木原』と書き込んで、
一方通行は騎馬戦への参加を決めた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/09(金) 22:27:03.52 ID:rGWUnTxIo<>
つづくだしぃー
クラスメイトはオリキャラになっちゃいますかね
苦手な方いたらごめんなさい
ただの喋るモブですので気にしないで下さい
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/09(金) 22:28:03.60 ID:5XMi+z0uo<> 木原走んの超おっせーよの無限ループwwwwwwwwwwww
乙だしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/09(金) 22:33:04.41 ID:mFky9ypDO<> まじ>>1乙だしぃー
DQNばっかだなwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/09/09(金) 22:33:54.93 ID:ZgHck/yAO<> 赤髪リング…
まさか…青髪ピアスの親戚か <>
乙って>>366と>>367が言ってまし<>sage<>2011/09/09(金) 22:33:56.26 ID:79ZV1ZE/o<> た <>
>>368が1乙っていってた<>sage<>2011/09/09(金) 22:35:44.28 ID:IeLftz4ho<> しぃーー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/09(金) 22:36:03.07 ID:tkcS7crE0<> 赤髪リングって一瞬ステイルを想像してしまったしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/09(金) 22:49:15.63 ID:2TmuMpPOo<> なんだかんだで良いクラスだな。超楽しぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/09/09(金) 22:50:13.12 ID:FyS9MBNAO<> 騎馬戦で反射使ってたら一方通行無敵じゃね。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/09(金) 22:55:14.67 ID:L9S2aMDDO<> >>374
味方が持てないんじゃね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/09(金) 22:55:33.17 ID:zYpHpySSO<> 騎馬戦の馬役反射するしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/09(金) 23:08:29.20 ID:62lqLiJIo<> 一方通行の癖にリア充学校生活送ってんのかよ…一方通行の癖に……
あ、乙だしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/09/09(金) 23:19:59.63 ID:GrZ81z1z0<> ここから先は一方通行だしィー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/09(金) 23:26:23.80 ID:9mqjBnbAO<> 乙だしぃー
アホばっかだけどみんないい奴そうだな
後リア充くさい一方通行はもげろしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/09(金) 23:38:44.90 ID:ysU8s/hAO<> 乙だしィー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/09(金) 23:48:31.16 ID:FqrKeDzDO<> 乙
自分も赤髪リングでステイル連想したしぃー <>
乙って>>370-381が言ってま<>sage<>2011/09/10(土) 02:24:30.84 ID:szSiajG8o<> せんしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/10(土) 03:12:20.70 ID:9Bzx6YIDO<> せくしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/10(土) 04:59:31.92 ID:UAdDXD+Y0<> >>1乙だしぃー
続けて欲しぃしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<><>2011/09/10(土) 06:10:34.74 ID:2gdwNffJ0<> >>1乙
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/09/10(土) 06:12:03.95 ID:2gdwNffJ0<> あげちっまたすまん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/10(土) 08:39:35.37 ID:d/dS1RSDO<> おつおつ
ほんと面白いなコレ
本家一方さんもこれ位器用だったら色々悩まなくて済んだろうに <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/09/10(土) 13:02:05.93 ID:hhm4kLA40<> このスレの住人ノリ 良すぎワロタw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/10(土) 14:12:52.37 ID:juazxnik0<> >>388
別にノリノリじゃねーしぃー
勘違いしてんじゃねーしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/10(土) 17:00:09.42 ID:UAdDXD+Y0<> >>388
お、俺も、別にノリノリじゃねーしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/09/10(土) 17:20:43.52 ID:eaiKKvIh0<> これが「つンでれ」ですね、分かります。 <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:49:06.30 ID:wEopdnk/o<>
――――――――――――――――――――→
学校ばかりが集まる学園都市で、すべての学校が一斉に競い合う。
大覇星祭の規模は非常に大きいため、全プログラムを執り行うのに一週間掛かる。
初日である今日は、街のどこかのスタジアムで、どこかの学校が騎馬戦をする予定であった。
手元のパンフレットを適当に流し読みしながら、垣根は出店の立ち並ぶ道を歩いていた。
小さな少女とともに。
「ええと、次は……パン食い競争! 観てみたいかも! って、ミサカはミサカは希望を言ってみる!」
彼女の言う希望は、今日はすべて叶っていた。
垣根は別に観たい種目も学校も無かったから、最終信号の行きたい場所へてくてくと着いて行くだけだったのだ。
アイスが食べたいと言われれば買ってやるし、メイド弁当が気になると言われたら食べさせてやった。
もうどうにでもしてくれ状態である。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:51:00.64 ID:wEopdnk/o<>
自分のパンフレットを熱心に見つめる最終信号を、垣根は眺めた。
楽しそうであった。
心から、本当に。
ふと思った。――「何故だ?」
「……最終信号」
「ん? なあに?」
「テメェ、何で平気な顔してんだ?」
「何でって言われても……心配しなくても体はもう割と元気なんだよってミサカはミサカは」
「そうじゃねえよ」
言葉を遮られて、不安そうになる最終信号の目。
垣根の胸に、重たいものが圧し掛かる。
これを訊ねても、大丈夫なのだろうか。
「そうじゃなくて、俺と一緒にいる事が、だ」
……大丈夫なのかって、何が?
「俺は『妹達』を殺した。二万人も。大した感慨も抱かずに。そんな人間が隣にいて、何で笑ってられんだよ」
不思議だった。
どう考えても分からない。
泣き喚いて逃げ出してもおかしくないのに。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:51:59.55 ID:wEopdnk/o<>
垣根の真剣な目つきに、何かを感じ取ったのだろう。
最終信号は手にしたパンフレットを顔から離し、彼の方へ向き直った。
その顔には、相変わらずかわいらしい微笑を浮かべている。
怖くなんかないと、言い聞かせるように。
「ミサカにも何故だか良く分からないんだけど――」
焼きそばを売る屋台の店員が声を掛けてきた。
普段なら飛びついていきそうな最終信号は、そちらに目をくれなかった。
「ミサカは、あなたのこと、もっと分からなくちゃいけないような気がするの」
そう言って、小さくうつむく。
顔を上げた時、やはり、少女は笑っていた。
「もっと、あなたと仲良くなりたいな! ってミサカはミサカは希望を言ってみる」
「……分かんねえ……」
ぽつり、と、そう言って。
垣根はさっさと歩き出した。
最終信号はあわててその背中を追いかける。
彼女の言う希望は、今日はすべて叶っている。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:53:20.59 ID:wEopdnk/o<>
――――――――――――――――――――→
「大ニュースだし」
これから体育祭の競技に出ようというのに、相変わらず大量の指輪を付けた同級生が、青い顔をして言った。
「何がよ?」
大ニュースだなどと言われれば、当然聞き返さないわけにはいかない。
一方通行は買ってきたフライドチキンにかぶりつきながら訊ねた。
「全校男子・騎馬戦予選B組。ウチのブロックはエリート校ばっかみてえ」
高位能力者揃いの強豪に囲まれた、一校のバカ校。
それはもはや、ライオンの群れの中に子ウサギを一羽放すようなものである。
「子ウサギとかかわいらしい存在じゃねェだろウチは。せいぜいアルマジロか何かじゃねェ?」
「お前、自分達のことアルマジロだと思ってたの?」
「割とそれに近ェ」
アルマジロ校のエースは鳥肉を食いちぎった。
赤髪リングがコンビニのパンをかじり、大きな欠片を頬張る。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:54:52.59 ID:wEopdnk/o<>
教室に人影は少なかった。
大覇星祭といえば、普段親元を離れて生活する学生達が家族と昼食を取る数少ないチャンスなのだ。
ほとんどの生徒が、父母や兄弟と共に外へ出ている。
(親が来ねェのはコイツと俺だけか)
寂しい教室を見渡して、一方通行はさしたる感傷も覚えずに思う。
(ま、木原の野郎が応援なンか来るわけねェしなァ……)
ちょっと想像してみた。
頭に鉢巻を巻き、『がんばれ一方通行!』と書いた幕を客席から垂らし、メガホンで必死に応援する木原数多を。
(いや、それやられたら殴るわ)
「木原? 何眉間にしわ寄せてんの」
不気味な想像をして一人勝手にドン引きしている一方通行を、赤髪リングが怪訝そうに見つめていた。
「あ、イヤ、何でもねェよ。で、初戦も相手は強そォだって?」
「? おう。普通にレベル3と4しかいねーんだって」
「じゃ、負けンじゃン。ウチレベル2以下しかいねェじゃン」
「やる前からあきらめんなって。あれだし、超ファイト」
「オマエ、三回戦負けに五百円賭けてンだっけ?」
今はやる気を燃やしているが、三回戦目にはわざとにでも負けようとするはずだ。
そんな男の激励などまるで当てにならなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:56:20.03 ID:wEopdnk/o<>
――――――――――――――――――――→
昼休みが終わり、いよいよ騎馬戦予選の開始時間が近付いて来た。
本日一方通行は、開会式の校長先生のお話ラッシュ以外、一切の種目に参加していない。
気力・体力ともに有り余っているかというとそうでもないが、とにかく元気である。
競技場へ向かうと、すでにほとんどの選手が待機していた。
全校男子・騎馬戦予選B組。
彼の学校の選手達は、やる気がありそうなのとふざけ半分なのが半々だった。
一方通行は後者にあたる。
赤髪リングの五百円をドブに捨てさせるために、適当に手を抜いて準備運動していると、建物の影から誰かの話声が聞こえて来た。
隠れて覗いてみると、大人が二人話し込んでいる。
相手チームの教員が、一方通行の担任の先生に挨拶に来ているらしい。
相手校は去年の大覇星祭で総合十五位を取った強豪だ。
その担任教師も、バカ校教師を前に抑えきれない優越感を漂わせていた。
「設備の不足を敗戦の言い訳にして貰っては困りますよ。それはお宅の生徒の質が低いせいでしょう?
結果を残せば統括理事会から追加資金が下りるはずなのですから。くっくっ。
もっとも、落ちこぼればかりを排出する学校では申請も通らないでしょうが。
ああ、聞きましたよ先生。あなたの所は一学期の期末能力測定もひどかったそうじゃないですか。
まったく、失敗作を抱え込むと色々と苦労しますねえ」
この長い嫌味に、一方通行達の担任教師は一言で返した。
「確かに」
(いや先生、そこは庇ってくれよ)
そして、全校男子・騎馬戦予選B組、開戦となった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:56:47.06 ID:wEopdnk/o<>
――――で。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:57:17.81 ID:wEopdnk/o<>
「……まさか本当に勝つとは思ってなかったし」
「俺も……」
気が付くと初戦突破していた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/10(土) 23:59:31.92 ID:wEopdnk/o<>
開戦十五秒で、一方通行のチームは一騎を残して全滅した。
勝負の最中に相手の高校の生徒が
「これ最短タイムボーナスいけるな」
「今年こそわが校が大覇星祭を制する時が来たか」
と語り合っていたのを、一方通行は聞いた。
おめでとうと思った。
が、現実はそう甘くは無かったのだ。
開始早々に孤立無援の四面楚歌になってしまった一方通行の騎馬は、
涙目でスタジアムをぐるぐる逃げ回る羽目になった。
この騎馬戦のルールでは、制限時間内にどちらのチームがより多く相手チームの騎手のハチマキを奪えるかを競う。
加えて、どちらかのチームの『大将』のハチマキが奪われた時点で終了し、奪ったチームの勝利となる。
一方通行の騎馬がたった一騎残ったのは、彼が大将だったからである。
相手チームが演出のためにわざと残したのだ。
タイムボーナスを狙う以上あまり引っ張るつもりもなかっただろうが。
そこで、ただ走って追いかけて手でハチマキをもぎ取る戦法を取っていれば、相手の勝ちだった。
しかし、エリートなりのプライドなのか観客へのサービスのつもりなのか、
相手校はレベル3〜4の能力を使用して高度な妨害を仕掛けて来てしまったのだ。
にやり。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/11(日) 00:00:56.34 ID:3pO3qlmSo<>
一方通行の反射は相手が強い程強力な反撃になる。
レベル3の移動系能力者の攻撃を跳ね返してどこかへ飛ばし、
レベル3の火炎系能力者の攻撃を跳ね返して火だるまにし、
レベル3の念動系能力者の攻撃を跳ね返して地面に叩きつけ、
レベル4の大気系能力者の攻撃を跳ね返して吹き飛ばし、
レベル4の精神系能力者の攻撃を跳ね返してメロメロにし、
結果的に、襲ってきた敵騎のほとんどを再起不能にしてしまった。
残る敵は大将の乗る一騎のみ。
敵の大将は、呆然としていた。
一方通行のクラスメイト達はバカなので気が付かなかったが、
彼のやってのけた反撃は、レベル2だか3の反射能力者には不可能な芸当だったのだ。
自分より高位の能力を同時に多方向から仕掛けられて、全て正確に返せるはずがない。
優秀なエリート学生は当然そこに気が付いた。
詳しくは分からないが、これは単純な反射能力者ではないと考えた。
レベル2判定されている以上、何らかの制約はあるはずだが、
来たものをそのまま返すよりほかの機能を、あの白い反射能力者は持っているに違いない。
レベル4の大将は、レベル2の反射くらいなら突き抜けて当てるくらいの実力を自覚している。
怯える必要は無いかもしれないが、事実味方はばたばたとやられている。
(よし、ここは様子を見ながら少し慎重に――)
と、相手が色々考えている隙に一方通行の騎馬が接近して、
審判に見えない位置でヘッドフォンの男子がエリートの馬の足を引っ掛けて転倒させて勝った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/11(日) 00:01:55.99 ID:3pO3qlmSo<>
つづく
『全校男子・騎馬戦』ですので、
メロメロになった「レベル4の精神系能力者」は男子ですね
何のつもりでそんな攻撃仕掛けてきたんでしょうね
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 00:02:59.53 ID:6sEQHv83o<> レベル4の精神系能力者はおホモさんですか
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/11(日) 00:07:11.07 ID:IYWxlyejo<> 乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/09/11(日) 00:08:57.89 ID:Yw3j9/7AO<> 「確かに」ワロタ
乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/09/11(日) 00:09:05.68 ID:X+fgpzwfo<> 乙と思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 00:13:14.44 ID:Deeec8wf0<> 乙。
一方さんのやる気ない日常っぷりがたまらん。そのうち上条さん率いるとある高校とニアピンしたりするんかな。
しかし、垣根・打ち止めコンビはどう受け取ったらいいのか分からん。
打ち止めの言葉に裏があったりしたら怖いなぁ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/11(日) 00:16:51.81 ID:G5/39DmAO<> 乙
先生庇わねえのかよww
オリキャラ苦手だけどこの愉快なクラスメイト達はなんか好きだ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 00:21:42.81 ID:6qo3DPRHo<> おめでとうと思った。
こう言うのに弱いのやられたの <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 00:25:28.79 ID:RVH7KdHBo<> 見返してやろうぜな熱血も良いが、駄目な奴らの駄目な感じも悪くないな
おつー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/09/11(日) 00:38:15.11 ID:q6qbgM9AO<> 乙ゥ
遠くからアッー!って声が聞こえた気がした <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 00:42:31.11 ID:9zaNN5D7o<> メロメロになった「レベル4の精神系能力者」さんが
一方さんのストーカーにならなきゃいいんだがw
乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 00:48:20.47 ID:bUceaPcF0<> 乙。何か好きだこの空気
ダウナー系一方さんとおバカでユカイな仲間たちの日常超楽しい
鈴科じゃなく木原名乗る一方さんは初めて見たわ。それも有りだな
騎馬戦のルールでクィディッチ思い出した。大将のハチマキ≒スニッチ的な
それとも普通そんな感じなのか。やった事ないから分からん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/11(日) 01:18:26.57 ID:vX5g1m50o<> 長点でも「とある高校」でもない高校に一通さんが通うのも珍しいよな
騎馬戦はこういうルールが基本形だと思われ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/11(日) 01:29:21.45 ID:TswusCp/o<> >>402
きっと一方さんのケツの金鉱脈を掘・・・・アバババ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/11(日) 05:11:47.29 ID:8BIapUxa0<> >>1乙
>>401これって、リア充フラグだしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 09:18:52.88 ID:enW/F5HDO<> 確かに乙
庇わない先生まじかっけぇーしぃ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 11:46:58.24 ID:/qTJmkJDO<> >>1乙と思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/11(日) 11:56:19.93 ID:Mv5H2v5yo<> 散々反射した挙げ句に決まり手は蹴返しかよww
ユルくていいなあ おつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/11(日) 14:07:12.26 ID:Y4OHRRVl0<> 特別扱いされてないで、普通に学生をやってる一方さんはいいなぁ
垣根と打ち止めはどうなんだこれ…
裏があったらと考えると怖いんだが <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 17:27:49.66 ID:Ix1qKN5j0<> レベル4の精神系能力者さんwwwwwwww
ホモはないだろwwwwwwwwwwww
BLもいいな・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/09/11(日) 19:31:09.10 ID:oHlQaIqeo<> 精神系能力者はなにがしたかったんだよwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 20:32:00.70 ID:F69WtVdvo<> >>422
一方たんをメロメロにしたかったんだよ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/11(日) 20:45:18.61 ID:M/cYhaJbo<> ジャージ姿だよね?
一方さんをまな板アルビノ美少女と勘違いしたんだよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/11(日) 21:08:33.98 ID:kUmibLR0o<> >>424
“男子”騎馬戦 だぞ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/11(日) 23:51:19.51 ID:H9CAa7aAO<> 一方さんを好きになる(ナルシストになる)攻撃を放ったんじゃね?
その隙に倒そうとしたが反射されて自分が好きになってしまったと
…それじゃつまらんな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/12(月) 00:34:55.73 ID:OWrNs5NDO<> 誰にメロメロになるかは別に書いてなくね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/12(月) 02:19:48.64 ID:R/Ph3YIV0<> 変態レズのレベル4空間移動能力者がいるんだ
ガチホモのレベル4精神系能力者がいてもおかしくはないな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/12(月) 12:07:56.54 ID:greeLF/K0<> 精神系能力者って言葉がすでに変態っぽい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/09/12(月) 23:00:19.39 ID:E6a6bB0No<> 赤いドレスの女「」
食蜂「」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/12(月) 23:31:56.83 ID:b3Rj0D8Jo<> >>1乙
これはストーカーフラグですね、分かります
>>430
赤いドレスの女「ていとくんかわゆすマジ天使ハァハァ」
食蜂「みこっちゃんペロペロしたいおっおっおっハァハァ」
こういうことですか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/13(火) 01:40:56.70 ID:fuyhQDwAO<> やめなさい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/09/13(火) 03:01:21.40 ID:UMNdEn8ro<> ワロタwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>scpbd621<>2011/09/13(火) 18:56:08.26 ID:DP7uCkhE0<> >>431
ちげぇだろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/09/13(火) 19:58:46.78 ID:bKEHrKDJo<> Googleで食蜂で画像検索かけたらこんなん出てきた・・・
ttp://www.youtube.com/watch?v=4zzYJrbpWaU <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/13(火) 21:03:30.91 ID:xJZtl1zE0<> >>435
ファーブル昆虫記でもよんでろwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/09/13(火) 22:07:49.03 ID:ui01yZiE0<> >庇わなかった教師
そもそも碌に話を聞く気がなかったようにも見える
>メロメロを仕掛けてきたレベル4のエリート男子生徒
相手が掛かったら「気持ち悪いんだよてめえ!」とか言って合法的(かつ理不尽)に殴ろうとしてたのでは
>>435
何故画像検索で動画が出てくるのか
というか若干怖かったぞ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/13(火) 23:59:42.73 ID:AXt2Jus+o<>
――――――――――――――――――――→
学園都市第二位の実力者・御坂美琴は、祭りに浮かれる街を不機嫌に歩いていた。
「出るって言ってたくせに……何でいないのよ」
しかめっ面の原因は、知り合いのとある高校生だ。
昼休み、久しぶりに会った母親と一緒に入ったファミリーレストランに、偶然その男子生徒がいた。
彼の一家と共にする事になった昼食の席で、さりげなく探りを入れた美琴は、
彼が午後にどの競技に出場するのかばっちりチェックしておいたのだ。
(知り合いだからね。一応、私の出場時間と被らなければ、
応援くらいしてあげなくもないかなって気になっただけ)
それなのにである。
美琴が自分の競技の直後、全速力で駆けつけた騎馬戦の会場に、開始時間を過ぎても彼は現れなかった。
丸っきり、走り損である。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:01:50.06 ID:8cvtlr/Jo<>
「折角張り切って応援してやろうと思ったのになー」
「そうそう、こっちがあんなに気合入れて……って違う違う!!」
隣から聞こえて来た愚痴につい同調しかけて、美琴は慌てて否定した。
「私は張り切ってなんかいないってば!」
「? みさかみさかー? 何をきょどってるんだー?」
頬を赤くしてぶんぶんと首を振る美琴を、隣にいる友人がきょとんと見守っていた。
この友人の兄が美琴の知り合いと同じ学校の生徒だったので、応援席でたまたま会ったのだ。
そして、どういうわけか彼女の兄も騎馬戦には出場しなかった。
それで、無駄足を運ばされた二人は、揃って愚痴を言い合いながらぶらついているのだが……
「私が張り切って兄貴を応援してると、何か問題ー?」
「いや。その。そうじゃなくて……」
つい、騎馬戦で闘う彼の姿が見られるとわくわくウキウキしていた事を暴露しそうになった美琴は、
何とか冷静さを取り繕おうとして余計にあたふたしてしまった。
「何か変だぞー? 気分でも悪いのかー?」
「だ、大丈夫大丈夫!」
「ならいいけどー」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:03:01.14 ID:8cvtlr/Jo<>
話しながら歩くうち、彼女達はあるスタジアムの裏側を通りかかった。
そこは、本日午後は『全校男子・騎馬戦予選B組』の試合会場となっており、裏側は出場選手の控え場所として使われていた。
騎馬戦に限らない話だが、大覇星祭のプログラムは参加校が多すぎるので、
まず予選と本戦に分かれた上、予選のブロックもAブロック、Bブロックなどに分けられている。
「まさか私達、こっちと間違えてたなんて事は……」
「ないと思うけど、一応確認してみるー?」
二人はちらりと、準備運動中の選手たちの方を覗き見た。
しかし、やはり彼はいない。
あのツンツン頭の憧れの高校生は、影も形も見当たらない。
(――って誰が憧れだ! 誰がっ!!)
気を取り直して、美琴は隣の少女に尋ねる。
「どう? お兄さんとか、お兄さんの友達っぽいのとか、見覚えある人いる?」
「……やっぱり、違うと思うぞー」
「そうよねー」
そう言って、もう一度控え選手たちをざっと眺める。
知り合いは見当たらない。
が、別のものを発見した。
髪も肌も真っ白の、お化けのような高校生を。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:04:18.55 ID:8cvtlr/Jo<>
「――――ッ!!」
「みさかみさかー? 急に固まって、どうしたー?」
表情の一変した美琴を心配し、友人が肩をぽんぽんと叩いてくる。
彼女に向かって一言、「ごめん! 急用!」と言い放つと、
美琴はそのバカ校の控え場所へと走り出した。
「え? え? みさかー? 何かあったの……って、相変わらず足速いなー……」
友人は肩をすくめて、小さくなっていく美琴の背中を見送った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:06:21.24 ID:8cvtlr/Jo<>
――――――――――――――――――――→
「あの! 今この辺で白い人見かけたんですけど!」
決戦を前にした男子高校生達の群れに、一人の少女が飛び込んできた。
「う、あれは……」
一方通行は
(多分だけどあれはやべェ)
と思い、咄嗟に物影に隠れた。
しかし一歩でも動けば見つかってしまう位置だ。
彼女が立ち去るまで身動きが取れない。
一方通行は彼女に見覚えがあった。
あれは八月の終わりごろ。木原にハメられてひどい目にあった、実験の凍結事件だ。
そして、一方通行以外の選手達も、彼女に見覚えがあった。
「うおーっ!? 御坂美琴じゃん!」
「第二位じゃん!!」
「何してんだこんな所で!?」
突如として現れた超VIPに、低レベルのバカ高の生徒達は、沸いた。
対して彼女は、誰にも聞こえない声でポツリと言った。
「見世物じゃないってば……」
名門中の名門、常盤台中学のエース。
学園都市第二位にして最強の電撃使い。
競技開始直前に乱入してきた御坂美琴は、誰かを探しているのか、周囲をきょろきょろと見回していた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:07:13.09 ID:8cvtlr/Jo<>
本年度の大覇星祭における彼女の活躍ぶりは、初日にしてすでに凄まじかった。
団体種目はすべて勝ち星、個人種目はすべて表彰台行き。
借り物競争の後では、一緒に走った高校生を気遣ってタオルやドリンクを渡す姿が中継され、
高レベルなのに優しく気が利くと女の子として好感度を上げていた。
その有名人が、バカ高の生徒のたまり場にのこのこやって来て、きょろきょろやっているのである。
どう考えても場違いだ。
一体何の用だ。
いじめに来たのか。
僕らのことを食べるのか。
高校生達の好奇と疑惑の視線が一斉に向けられていても、美琴は平然と探し物をしていたが、
結局見つからなかったようで、諦めてうつむいた。
「な、何だ……絶対見たと思ったのに、いないじゃない……」
「あ、あのー、御坂美琴サン? 誰かお探しっすか?」
項垂れる超能力者に、一方通行のクラスメイトの一人が恐る恐る声を掛けた。
美琴はハッと気が付いたように顔を上げ、その男子高校生にあわてて笑顔を向ける。
「あ、いや、その、知り合いがこの中にいるかなーって……思っただけなんです」
「ウチに知り合いいんの!? ここにいる奴全員漏れなくバカだけど間違いない!?」
「お、驚き過ぎなんじゃないですか?」
「へえ、超能力者って、低能力者とも喋るんだ?」
どうやら捕って食う気はないらしい。
第二位がお化けではない事が分かると、めずらし物好きのバカ高の生徒達は、一斉にわらわらと美琴の方へ集まって行った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:08:15.30 ID:8cvtlr/Jo<>
「よく見るとかわいいじゃん」
「よく見なくてもかわいいわ」
「全然アリ」
「俺は年上の方がいい」
「ちょっと俺のことビリビリしてくれませんか!?」
「え、ちょっと……」
相手は電撃持ちの超能力者なのに、見ようによってはいい度胸である。
(あれかも。私何か間違えたかも……)
いかにもバカっぽい高校生に囲まれて、御坂美琴は困り顔になった。
「えーっと、すいません。ここじゃないみたいなので、私はこの辺で……」
早々に立ち去ろうとする美琴。
振り向いた彼女の目が、物影の不思議な色合いを捕らえた。
紅白。
の、髪の毛。
よく見ると、赤い髪をした高校生の後ろに、隠れるようにして白い髪の高校生が立っていた。
白い髪。白い肌。うつむいていてよく見えないが、赤い瞳――――
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:09:25.80 ID:8cvtlr/Jo<>
「あ――――ッ!! いた!! アンタ、あの時のッ!!」
美琴は、こそこそと逃げ隠れしようとする一方通行を指差して、あらん限りの大声で叫んだ。
彼女の動きに合わせて隠れる場所を変えるつもりだったのだが、白い髪は隠密行動には不向きであった。
「チッ……見つかった」
「き、木原!? 『あの時の』って何だ!?」
「お前、美琴ちゃんに何したんだ!!」
もう「美琴ちゃん」呼ばわりしている者もいる。
調子のいい奴が多いのがこの高校の校風である。
「いや、人違いっす、俺生き別れの弟とかいるンで、多分そっちっす」
一方通行が下手な言い訳をすると、周りから総ツッコミが入った。
「そんな話聞いた事ねえよ!」
「お前だろどう考えても!」
「弟がいたとして髪は黒いはずだろ!」
「じゃァ妹」
「同じだし!!!」
「ギャハハハハハ!!」
お嬢様校出身の第二位は、このバカっぽいノリに心なしか呆れているように見えた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:11:54.15 ID:8cvtlr/Jo<>
うだうだと適当に喋る高校生をかきわけて、美琴はずんずんと一方通行の前へと歩み寄る。
そして、有無を言わさぬ態度で告げた。
「ちょっと、話があるんだけど」
「あ? 話だァ?」
この会話だけで、何が面白いのか周囲の高校生達は大喜びで騒いでいた。
強気なお嬢様は意に介さず続ける。
「正確には『聞きたい事がある』、かな。もちろん、夏休みの件だけど」
「俺は特にねェよ」
「私にはあんの。ねえ、時間作ってくれない?」
バカ校生達が勝手に盛り上がる。
一方通行は考えた。
(めんどくせェ。多分話始めたら終わンねェ。コイツそォいうタイプだ)
なので、こう答えた。
「いや、これから試合だから無理だわ」
「え!? ちょ、待っ……」
じゃ、と言い残し、一方通行は騎馬戦の会場へと逃げた。
クラスメイトが「修羅場イエーイ」などと言いながら大笑いしている。
彼らは確実に何かを勘違いしている。
「ああもう、ちょっと待ちなさいってば……っ!!」
そして、全校男子・騎馬戦予選B組、第二回戦開戦となった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:13:09.55 ID:8cvtlr/Jo<>
一方通行は、試合終了と同時に姿をくらませるつもりだった。
もたもたしていては必ずあの第二位に捕まる。
彼は頭の良い人間がそばにいると色々と不利になる事をよく知っている。
なるべくならば御坂美琴には関わりたくないのだ。
負けと同時に怪我を偽って保健室へ。
そこから彼女がやって来る前に街へ逃走。
わざと大袈裟に馬を崩して倒れる作戦だ。
これはもちろん、負ける事が前提のプランである。
二回戦も相手はエリート校だったので、これは妥当というより当たり前であった。
しかし、試合は誰もが予想もしなかった展開を迎える。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:14:29.58 ID:8cvtlr/Jo<>
全員が準備完了、大勢の騎馬が一列に並び、騎手は上に乗り込んだ。
相手方も同様。
緊張の一瞬が過ぎ、競技開始のホイッスルがスタジアムに鳴り響いたその瞬間だった。
凄まじい雷鳴がその場を支配した。
そして、轟く雷鳴と同時に鋭い閃光が空気を引き裂き、遅れて特大の振動が周囲に襲いかかったのだ。
「え……!?」
「な、何だ?」
「うわぁあああ!?」
目が眩んでその場に崩れる者、振動に足を取られて倒れる者、雷撃を直に食らって痺れる者……
場内は一瞬にして、ただの騎馬戦の戦場ではなくなった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:15:13.64 ID:8cvtlr/Jo<>
しばらくは舞う粉塵に遮られて、周囲の様子は全く分からなかった。
しかしそれが晴れてくると、恐ろしい光景が広がっているのが見えた。
地面に倒れる幾多の人間の姿。
ある者はプスプスと体から煙を立ち昇らせ、
またある者は目をやられて苦悶の声を上げて、
敵も味方も壊滅的であった。
何しろ、無事なのは自分の騎馬だけだったのだ。
咄嗟に電撃と音と閃光を反射した一方通行は、周囲の惨状に戦慄した。
「な……なンだこりゃ……」
呟いた直後、彼は悟る。
この地獄絵図の制作者の正体を。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:15:47.38 ID:8cvtlr/Jo<>
仲間達に担がれたまま、一方通行は後ろを振り返った。
そして見つけた。
選手の入場口の外で仁王立ちする、学園都市第二位の超能力者の姿を。
彼女は言った。
「逃げんな」
彼は答えた。
「……はい」
見晴らしのいいグラウンドでは、どこへ逃げ隠れしようと無駄のようだった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:16:31.21 ID:8cvtlr/Jo<>
全校男子・騎馬戦予選B組、第二回戦
不慮の事故により一騎を残して選手全員棄権。
一騎残った高校の勝利で試合は幕を閉じた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:18:25.17 ID:8cvtlr/Jo<>
――――――――――――――――――――→
「あんた、山田っていうんだ」
美琴は、一方通行が借りて着ているジャージの名前を読んで言った。
「……おォ。山田……一太郎だ」
一方通行は、ごく普通に嘘をついた。
「頑張れ一太郎!」
「カッコいいぜ山田!」
「ここが正念場だ一太郎!」
彼のクラスメイトはノリがいいので、全員この嘘に乗った。
というわけで、美琴は先月妹を助けた男の名を「山田一太郎」であると誤解することになった。
場所は先ほどと同じ、スタジアムの裏の選手控え。
一方通行と御坂美琴は、興味津々のクラスメイト達に囲まれながら、穏便な話し合いをしていた。
「単刀直入に聞くけど、あんた一体何者?」
「レベル2の普通の学生」
「あれ? この間はレベル3だって言ってなかった?」
美琴の発した疑問に、クラスメイト達が笑いながら茶々を入れる。
「こいつ下がってやんの」
「普通さがんねーだろ。超バカ」
「うるせェよ。オマエら邪魔だからあっち行ってろ」
「きゃー、一太郎が怒ったー」
「ギャハハハハハ!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/09/14(水) 00:18:40.81 ID:WMxI4KL/0<> オイお嬢様学校の第二位様www <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:20:08.61 ID:8cvtlr/Jo<>
邪魔者を追い払い、二人になった一方通行と美琴は続けた。
「あの後、急に実験が凍結になったらしいの」
「例の、クローン十万体のやつか」
「やっぱそこまで知ってんのね」
(あ、やべ……)
一方通行のばつの悪そうな表情を無視し、美琴が質問を重ねた。
「私があの夜の事で知ってるのは、操車場にあんたが現れて、第一位が追いかけてったところまで。
あの後どうなったの?」
「飛んで追いかけ回されたから、走って逃げた」
五十メートルで力尽きた事はわざわざ教えなくてもいいだろう。
「逃げ切ったの?」
「結局追いつかれたから、ブロック塀壊して頭に当てたら、アイツたンこぶ作って倒れたよ」
「……どうやって?」
猜疑心のこもった瞳で見つめてくる第二位の少女。
一方通行は当時の状況を思い出しつつ応える。
「えっとォ……バチン、ドゴドゴドゴ、ガコッ、ポーン、ごん。
っつー感じかなァ?」
「は……? バチン? ごめん、一個ずつ説明してくれない?」
「だからァ、『バチン』が手ェ叩く音でェ……」
「え? 第一位に命狙われてるのに手を叩く? 何遊んでんのよ?」
「違う違う、そォじゃなくて……いやもォめんどくせェよ……」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:21:50.14 ID:8cvtlr/Jo<>
どこまでもだらけた態度のレベル2に、美琴は不満顔になった。
「面倒臭いって……私にとってはすごく大事な話なの」
「つってもなァ。てきとォにやってたら何か勝ったンだよ」
「そんな格ゲー初心者のビギナーズラックみたいなノリで勝てる相手じゃないでしょ?
第一位に殺されかけてどうして生きてるのよ? 何で第一位にたんこぶ作れるのよ?
一体あんた何やった……」
「あーあーあーもォーうるっせェなァー」
あからさまにうんざりした声を吐き出す一方通行。
突然の声に、美琴はむっとして押し黙る。
「俺が生き残ったのはただのラッキーだし、そのせいで実験が止まったンならオマエもラッキーだろ。
俺を追及してどォすンだよ。ラッキーで済ましときゃイイだろォが」
「私は……っ」
少女が言葉を詰まらせた。
言われた事は、良く分かる。
美琴には良く分かっていたのだ。
彼女はむしろ目の前の人物に感謝すべきなのだろうという事が。
場合によっては命も賭けなければならないような相手との勝負を肩代わりしてくれて、しかも勝ってくれた人物なのだ。
「ラッキーだった」で済ませてくれるのならむしろありがたいくらいである。
しかし、それでハイおしまい、という気にはとてもなれなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:23:01.06 ID:8cvtlr/Jo<>
必死だったのに。
どんなに差があろうと、第一位という高い壁に立ち向かって行こうと、決死の思いで挑んだのに。
何もかも覚悟して、大事な人とも二度と会えないかもしれないとこっそり泣いて、
それでも妹を守り抜こうと誓って、決めて、本当に、死ぬほどの覚悟をしてその夜に臨んだのに。
そして、思った以上に強すぎた第一位を、自らの命と引き換えに止めようと決意したその瞬間。
どこからともなく現れた、言ってみればポッと出のレベル3に、横からすべて掻っ攫われてしまった。
美琴が命を投げ出しても、第一位は止まらなかったかもしれない。
結局他の誰かの手が必要だったのかもしれない。
でもその意志は本物だった。
本気だったし、必死だった。
それなのに、美琴が死ぬほどの思いをしてまで成し遂げたかった事をいとも簡単にやってのけた男は、
面倒臭いだとかだるいだとかいう態度でいる。
もののついでで、ただのバイトで、片づけてしまったという。
だったらあの思いは一体何だったのだろう。
「私は……せめて、何があったか知りたくて……」
消え入りそうな声を出す美琴に、得体の知れない白い高校生は、心底面倒そうな調子で言った。
「だったらさっき言った通り、適当だよ。てきとォ」
本当に何だったのだろう。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/14(水) 00:24:25.23 ID:8cvtlr/Jo<>
つづきます。
次の投下でこのレシピが終わります
それでクラスメイトの出番は終わりです
オリキャラで調子こきすぎましたごめんなさい
もう出ません <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/09/14(水) 00:25:08.04 ID:RpkjIQ1Go<> おつ
木原クンの口癖移ってるww
って>>453が言ってた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/14(水) 00:26:24.52 ID:PJrRc6TWo<> 乙
オリキャラつっても背景の雑音程度の登場だしこのくらい別に問題ないんじゃない?
木原クン手伝いのモブ研究員とかもいるし <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/14(水) 00:26:49.93 ID:cMJC6cmEo<> 乙
あの一方さんの姿で山田一太郎って偽名名乗ってるの想像したら面白すぎた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/14(水) 00:29:44.81 ID:v4GiR0ZE0<> 乙
超能力者はやはり残念の集まりなんだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/09/14(水) 00:29:52.55 ID:WMxI4KL/0<> そういえば名字が二文字に名前が三文字ww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/09/14(水) 00:31:43.67 ID:kVCGDvkq0<> >>1太郎乙 てか、一方さん頭悪いからボロ出しまくりだし <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/09/14(水) 00:38:52.46 ID:KiconZ3AO<> 乙
クラスメイト達もうでないのか・・・残念 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/14(水) 00:39:39.42 ID:Mi/kHWLDO<> むしろここのオリキャラ好きだからまた出てほしいww
ノリいいし <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/14(水) 00:52:54.12 ID:JTS59GZJ0<> あの顔で山田はないwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/14(水) 01:00:12.43 ID:XX/SyNlDO<> 強いて言うなら高橋だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/09/14(水) 01:01:54.88 ID:EEuTEgcS0<> 御坂、自分の私用で競技妨害とか自己中過ぎんだろww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/14(水) 01:06:28.67 ID:CVswdUJ+0<> 乙。
御坂さん超暴挙。勝敗まで成立して、相手チーム涙目必至だぜ可哀想に ホロリ
……そういや次で負けたら赤髪リング賭けに勝っちゃうんじゃね? ハッ
ぶっちゃけ木原少年とユカイな仲間たちの馬鹿日常も滅茶苦茶楽しいがな。ノリ良過ぎワロタwww
おバカな学校生活の垣間を小噺程度に書いてくれてもいいのよ? チラッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/14(水) 01:07:33.51 ID:E1IdBJXq0<> >>僕らのことを食べるのか。
ここなんで誰も触れないのww
カニバヤミコっちゃん乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/14(水) 02:49:27.95 ID:4FLvkUnIO<> いちおつ!このクラスメイトたちのガヤ好きだぜwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/14(水) 08:11:33.50 ID:K1AhIabJ0<> >>456乙
そういや操車場、バイトで行ったのだな。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)<>sage<>2011/09/14(水) 08:59:21.05 ID:/2/8PQZTo<> 乙
威圧感に負けて、言う事を聞かされてしまう一方さんとか見て―超見てーww
文章で面白さ分かるのに、原作が原作だけに全く想像できない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/14(水) 09:53:39.68 ID:EncxsBiA0<> オリキャラのクラスメイトこのまま出してくれよ!
一方通行が日常に溶け込んでる感じがして好きだww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/14(水) 11:23:04.63 ID:T85XVI1AO<> 乙
オリキャラクラスメイト一行は大変面白いので今回だけなんて水臭いこと言わずその後もなんやかやで出してくれよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/14(水) 11:23:08.18 ID:Ens/C8WNo<> 一太郎乙
原作キャラを圧倒したりするオリキャラが煙たがられるだけで
日常の一コマででるモブは問題ないんじゃない? たぶん
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/09/14(水) 14:18:56.58 ID:cu0iTbIso<> ここのオリキャラは禁書目録の扉絵の背景に出てくるサテンさんみたいなもんだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/14(水) 20:22:51.49 ID:GRsELojlo<> 美琴手段選ばなすぎだろww
オリキャラ面白かったから今後もちょいちょい出してくれたら嬉しいな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/15(木) 22:00:10.18 ID:6RwBjyDJ0<> オリキャラは出しゃばらなければこのままでいい <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:17:51.81 ID:lo2TPZ5+o<>
――――――――――――――――――――→
アレでも二回戦は勝ち越しだったらしい。
相手高校が全員戦闘不能で、こちらは一騎残ったからだ。
御坂美琴さまさまである。
「次勝ったら本戦進出じゃん」
「うちの高校、伝統的に初戦敗退がデフォなのに」
「ヤバイな」
「マジヤバイ」
第三回戦を前に、普段は緊張感の欠片も無いバカ高の生徒達は、いつになくまじめな顔をしていた。
おちこぼれでも、やればできるのだ。
運とコネがあればやれるのだ。
どん底で這いつくばっていた底辺生徒達の夢が今、開いた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:18:26.23 ID:lo2TPZ5+o<>
――――――――――――――――――――→
「ねえねえ! 次はきばせんっていうのを見てみたいな! ってミサカはミサカはおねだりしてみる!」
袖口を引っ張る最終信号の手を振り払い、垣根は少女のほうを見た。
歩いて食べて笑って、それでも彼女はまだまだ元気である。
「騎馬戦? 今日はまだ予選のはずだし、今から行っても途中だろ」
「じゃあ今日も観て明日本戦も観る! ってミサカはミサカは大張り切り!」
「分かった分かった……ってお前、明日も連れ回す気かよ」
学園都市最強の高校生のほうが、小さな女の子よりよっぽど疲れている。
このエネルギーは一体どこから来るのか。
アホ毛から受信でもしてるんじゃないだろうか。
「ふっふー。一週間付き合ってもらうんだからねってミサカはミサカは逃げ腰のあなたを捕まえてしまったり」
「放せ」
しがみ付かれた腕を適当に振り回して振りほどきながら、垣根はため息をついた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:19:12.26 ID:lo2TPZ5+o<>
一番近くの騎馬戦の会場はBブロックだった。
よって、向かう先をそこに決定し、少女を掴んで飛んで運ぶ。
体育祭で盛り上がる学園都市は混雑していたが、流石に空路は空いていた。
広告用のラジコンが飛び回っているくらいで、普段より目立った傷害はない。
天井を開け放ったスタジアムに、入り口を使わずに勝手に上から入り込み、二席空いていた場所に着地。
空の旅に大喜びする最終信号を降ろして着席すると、ちょうど第三回戦が始まるところだった。
「ちょうどいいタイミングだねーってミサカはミサカは競技場を凝視! んー、なんとなく青いチームを応援しようかな?」
対決する二つのチームは、それぞれ赤のゼッケンと青のゼッケンを着用している。
どちらを応援するか色で決めるという最終信号の言葉につられて、垣根が選手のほうを眺めると――
「!? なっ! あの野郎…………!」
「え? え? なになに何なの? もしかしてお友達? ってミサ」
「黙れ」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:19:53.67 ID:lo2TPZ5+o<>
垣根は発見した。
全校男子・騎馬戦予選B、第三回戦の試合会場で、
学校指定のジャージの上に青ゼッケンを着用、
他の選手と並んでだらんと立っている一方通行の姿を。
(野郎……!)
(この俺に勝って実験の邪魔しておいて!)
(妙なガキに関わらせておいて!!)
(騎馬戦出てやがる!!!)
彼が騎馬戦に出たくらいで、別に垣根の人生に少しでも損害があるわけではないのだが、
何だか納得いかなかった。
(パン食い競争だったらもっとむかついたがな……)
「……黙って選手達を睨みつけてるとこわいよってミサカはミサカはニコヤカなあなたに戻ってほしかったり」
「俺がいつテメェにニコヤカに接したってんだよ」
「あ、戻った戻った! ってミサカはミサカはその照れ隠しの不機嫌顔がこっち向いてる事に大満足!」
「おいコラ色々勝手に決めんな」
試合開始、一分前。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:20:57.42 ID:lo2TPZ5+o<>
――――――――――――――――――――→
すごい事に気が付いてしまった。
「どうしよう、みんな保健室行きだし」
同級生がぼそりと言った。
一方通行の青ゼッケンチームはメンバー総入れ替えだった。
彼の乗る騎馬以外、二回戦目で全滅していたからだ。
騎馬の組み方からして一回も練習していない連中が、
一発勝負でエリート校に立ち向かうのだ。
負け犬ムードが漂っている。
三回戦負けに五百円賭けていた赤髪リングだけがほくそ笑んでいた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/16(金) 00:21:26.83 ID:znHWTTF4o<> うん、話に深くくいこまない程度でならそこまでナイーブになる必要ないと思う
一方通行とオリキャラとの学校生活とか新鮮でおもしろいから時々でも書いてほしい <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:22:38.74 ID:lo2TPZ5+o<>
「しょうがない。大将を狙い打ちだ。当たって砕けろだ」
「もう他に目をくれるな。どうせ誰とやったって勝てねーんだ」
一応、どれだけハチマキを奪われても、時間内に大将を倒せば勝ちというルールがある。
一方通行の馬を中心に固まり、大将に向けて突進する作戦を取ることになった。
やる事が決まれば、モチベーションも上がって来る。
ここまで来たのだ。勝ってやろうという気になった。
「以上、作戦会議おわり!」
ホイッスルが鳴り響き、第三回戦が始まった。
「行くぞ!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
少年たちは走り出す。
力の限り。
精一杯。
ダメ高校生でも、やる時はやるのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:24:06.19 ID:lo2TPZ5+o<>
――――――――――――――――――――→
観客席の垣根は、高いところから試合の様子を眺めていた。
「あーあ。何やってんだか。あんなんじゃ囲まれて終わりだ」
「何だか捨て身っぽいねってミサカはミサカは素人なりの印象を述べてみる」
最終信号に頷きながら、垣根も同じように考えていた。
一方通行は負けるだろう。
レベル3、4揃いのエリート校相手に、レベル0か1が大多数のバカ高が捨て身で突っ込んで行ったところで通用しない。
アルマジロがアフリカゾウに体当たりするようなものである。
大将に辿り着く前に踏みつぶされるだけだ。
「青ゼッケンのチームはろくに練習もしてない感じだし、もしかしてやる気ないのかな? ってミサカはミサカは欲求不満に陥ってみたり。
アツい勝負が観たかったよー」
「そりゃ明日の決勝戦で見られるだろうさ」
「うーん……」
アホ毛を垂れ下げ、最終信号は観戦に戻った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:25:02.12 ID:lo2TPZ5+o<>
ところで、あのレベル2だ。
今まさに大将の方へ突っ込んで行って、そこへ到達する前に袋叩きにされようとしている一方通行だ。
彼を守る形で先陣を切っていた青ゼッケンの三騎が、瞬く間に倒された。
彼の後ろを守っていた二騎が抵抗むなしく倒された。
左右を守っていた四騎が続けざまに倒された。
あっという間に残機・一。
敵大将まではまだ遠い。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:25:45.19 ID:lo2TPZ5+o<>
「あ、囲まれちゃったね。もう終わり? ってミサカはミサカはあっけない幕引きに呆然としてみたり」
「………………」
負ける。
垣根に勝った一方通行が、負ける。
ただのレベル3だか4だかの集団に負ける。
つまりどういう事だ。
エリート校学生 > 一方通行 > 垣根帝督
こういう事か。
(あの野郎、この第一位にタンコブ作っておきながら、あんな雑魚共にあっさり負けやがるつもりか……?)
カチリと、垣根帝督のプライドが音を立てて反応した。
「ふざけんじゃ……ねえぞ…………ッ!」
「あ、あなた……? どうしたの? ってミサカはミサカはすごい形相に怯えてみる……」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:26:39.68 ID:lo2TPZ5+o<>
――――――――――――――――――――→
「やっぱり囲まれた……」
「こォなるンだろォと思ってたンだよなァ……」
一方通行の騎馬は、騎手含め諦めムードだった。
最初だけはやる気であったが、こうも味方がばたばたとやられると、一時的に高まった士気もがくんと落ちる。
大将は遥か向こう。
こちらは残り一騎で、周囲には高位能力者の騎馬が五騎。
なんというか絶体絶命というか、
「ギャグだよな」
「大爆笑」
「座布団十枚だわ」
「大盤振る舞いにも程があるだろ。すぐさまハワイ行けるわ」
もう全くやる気がない。
バカ高の生徒たちは単純である。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:27:46.83 ID:lo2TPZ5+o<>
結局のところ、彼らは一回戦、二回戦とほぼ運とコネだけで勝っている。
その両方から見放されれば、残るのは低レベルで馬鹿な面々だけである。
エリート校の皆さまに騎馬戦で遊んでもらっているというだけで、
土下座してお礼を申し上げなければならない立場なのだ。
「ま、ここらが潮時かなァ……」
一騎、一方通行のハチマキを奪おうと近寄って来る敵の騎馬を眺めて、呟いた直後だった。
「うぐッ……!?」
敵の騎手が、突然胸を押さえて苦しみ出した。
「ぐぁ、がっ……き、さま、一体何を……ッ!?」
「え? 俺?」
苦しみながら、敵が一方通行を睨み付ける。
しかし、彼は何もしていない。
反撃しかできない身で、敵を不意打ちで苦しめる事など不可能である。
<>
つづきま ◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:28:27.08 ID:lo2TPZ5+o<>
赤ゼッケンの相手チームが、苦しむ味方の様子に気が付いて動揺している。
「おい!? どうした? くそ! バカ高相手だと油断してた!」
「毒物を出す能力者か!?」
そして、最初の騎手が気を失って倒れ、その馬が崩れたと同時に。
ばたり、ばたりと、敵チームの他の選手まで、苦しんで倒れ出した。
「は?」
「え?」
「何現象?」
一番驚いたのは青ゼッケンのチームである。
自分達からは何もしていないのに、敵が勝手に倒れていくのだ。
不気味である。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:28:57.89 ID:lo2TPZ5+o<>
「な、何だよ? 伝染病か何か?」
「本当に近くに毒ガス能力者がいるとか? 俺違うよ」
「俺も違うよ」
「俺も違ェ」
一方通行達の学校側にも動揺が広がる中、相手チームの騎馬は次々と棄権していく。
謎の奇病で意識不明。
ついに、赤ゼッケンの騎馬も、青ゼッケンと同じく残り一騎になってしまった。
(いや、待てよ。あの苦しみ方には何か見覚えが……)
あったのだが、
はっきり思い出すととても怖い思いをしそうなので、一方通行はそっと心のアルバムを閉じた。
<>
なぜか>>492で昔の名前が ◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:30:24.16 ID:lo2TPZ5+o<>
「と、とにかく残り一騎だ!」
「よォし! 何か気合が戻って来た!」
「やってやれない事はない!」
バカ高の生徒たちは単純である。
風邪がぶり返すような要領でやる気を取り戻した。
「行くぞ! つっこめえええええ!」
「おおおおおおおおおおお!!」
正真正銘、一騎討ちだ。
一方通行達が敵の大将にまともにぶつかろうとした、その時だった。
「ぐえっ……」
赤ゼッケンの大将が、苦しんで倒れた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:30:53.79 ID:lo2TPZ5+o<>
試合終了のホイッスルが鳴った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:31:38.42 ID:lo2TPZ5+o<>
相手が倒れて、こっちは立っている。
原因は不明だが、これは紛れもない事実である。だから試合終了の笛が鳴った。
つまり、勝ったのだ。
「う、うおおおおおおおおおおおおお!!?」
「やった――――――――――――――!?」
「か、勝った……? ああああああああああ!!!」
「スゲ――――――――――――――!!!?」
語尾に疑問符を付けながら、少年たちは勝利の雄叫びを上げた。
(いいのかァ? これで……)
(っつかあの奇病、もしかしなくても学園都市第一位様の……)
知った顔を探して観客席を見渡してみたが、一方通行はそれらしい人物を見つけることはできなかった。
気のせいだといい。
そう思う。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:32:14.37 ID:lo2TPZ5+o<>
――――――――――――――――――――→
「ずっとムキになって応援してたように見えたけど、
あなたはあの青ゼッケンの高校に思い入れでもあったの? ってミサカはミサカは尋ねてみる」
「別に」
垣根は今日一番不機嫌になって、ずかずかと観客席を後にしていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:33:02.59 ID:lo2TPZ5+o<>
――――――――――――――――――――→
エリート校三校と連戦して、バカ高が予選を勝ち抜いた。
これは大覇星祭初日にして大波乱の予感である。
運とコネの底力を見せつけた少年たちは、バカ笑いして互いの健闘をたたえ合った。
勝っても負けてもバカ笑いである。
そういうノリのバカ高なのだ。
一方通行は、そういったごく一般的なバカ高に、現在所属している。
そして翌日行われた本戦で、彼等はとある高校に割とあっさり負けた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:33:28.23 ID:lo2TPZ5+o<>
→レシピ3...おわり
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/16(金) 00:33:59.05 ID:lo2TPZ5+o<>
つづく
おまけ↓
一方「昨日、騎馬戦の予選勝ち抜いたンだけどさァ」
木原「へぇ〜〜〜〜〜。死ね」
一方「今日いきなり本戦でボロ負けしてよォ」
木原「ふ〜〜〜〜〜ん。死ね」
一方「…………………………数多ちゃン、最近キレイになったね」
木原「あそぉ〜〜〜〜。死ね」
一方「あー、これは完全に聞いてねェわ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/16(金) 00:43:52.91 ID:t4cMmDPU0<> 乙 待ってた!
心のアルバムを閉じれる一方さんのおちゃめっぷりが良いな
そして最後に木原クンが見れてうれしい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/16(金) 00:48:33.86 ID:mzh5Btuxo<> 乙!!木原くンはお弁当用意したり競技見に来たりはしないけど
試合結果とか成績だけはひっそりチェックしてそうな感じ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/09/16(金) 00:49:26.51 ID:FZzFIkJAO<>
乙!
>>一方「…………………………数多ちゃン、最近キレイになったね」
じわじわきたww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/16(金) 01:03:32.04 ID:aLib+cwAO<> 乙ゥ
運と謎の襲来者のお陰で勝ち進んだバカ高校もここまでかwwww
何となく、甲子園の空に笑え!を思い出した <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/16(金) 08:59:37.53 ID:d5qvUk/IO<> 乙ゥ!
バカ高いいなぁ一方さん幸せそうだなぁ
ていとくんが可愛いどうしようwww
そして数多ちゃン……聞いてあげて数多ちゃン
>>504
また懐かしいものを <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/16(金) 09:20:17.79 ID:Q9A5iRSX0<> なにこのていとくんかわいい
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/16(金) 11:07:15.93 ID:/vIuFZn/o<> 一方通行はもう一生留年してこの高校にいるといいとおもうww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/09/16(金) 21:55:35.50 ID:czcZSuZu0<> 乙でした!
数多ちゃンがじわじわくるww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/16(金) 22:05:07.59 ID:z/3looqf0<> >>498 納得の敗戦 乙
こりゃ-、ていと君怒るわな… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/16(金) 22:46:03.59 ID:YJ/v/EMP0<> 相手がとある高校ならしかたな……いや、エリート校に負けるよりも怒るか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/17(土) 08:47:07.47 ID:Qc0GgP4io<> ていとくんとある高校にも負けちゃうの? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/17(土) 12:32:23.64 ID:MXvL1cRK0<> 445
今更だがこの時に一方さんが木原と呼ばれてたり。第二位のお嬢様(笑)はこれを覚えていなかったのだろうか?
山田一太郎という偽名には笑いましたが、少し無理があるかなと思いました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)<>sage<>2011/09/17(土) 12:43:04.78 ID:47pnsVqfo<> >>512
えっほんと今更
「キハラ」って渾名だと思ったとかでいいだろ
名前と全く関係無いのに「タナカ」って渾名だった友人がいた
そんなもんだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/17(土) 12:48:03.71 ID:YD0sYVi2o<> どの位置にいたやつのセリフかしらんが、彼我の距離や騒がしさで美琴には聞こえてないんじゃね?
聞こえてたなら渾名だと思うのはさすがに無理…いや中学生だしなあ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)<>sage<>2011/09/17(土) 18:21:25.39 ID:mOM9Ry0AO<> 美琴は案外周りが見えない子だから聞き逃すのはあり得るかなって自分はオモタ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/17(土) 21:17:30.74 ID:fajtRoESo<> 俺らと一緒で気づいてないやつは気づいていなかったし、美琴も気づいていないかもなー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県)<>sage<>2011/09/18(日) 02:20:45.71 ID:YLjno+X7o<> >>513
何者だよタナカ……
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)<>sage<>2011/09/18(日) 10:32:20.77 ID:2u5EIDVCo<> クロ高でなんか別人の名前をあだ名としてつけられるってネタあったな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/18(日) 10:53:20.55 ID:W6xSx9TRo<> >>513
知り合いに渾名が「タナカ」の奴居るから焦った <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/09/18(日) 11:43:36.40 ID:tb7theU7o<> 俺の周りには苗字田中で渾名が「ジャガイモ」だった奴がいたぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/09/18(日) 11:58:25.16 ID:CB21BO6So<> 俺はタナカって名前の友人が五人いるぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/09/18(日) 15:10:47.34 ID:qDie9ZKAO<> お前らの話は聞いてない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/09/18(日) 15:50:59.02 ID:4gZrLC8No<> >>520
想像したら野球部っぽかった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/09/18(日) 18:07:00.37 ID:tb7theU7o<> >>523
なぜわかった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/18(日) 18:12:40.10 ID:GvEc1NqEo<> 心底どうでもいい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/18(日) 18:20:21.05 ID:vXN3j1+G0<> お前らの勝手なイメージを押し付けるな! <>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/09/18(日) 20:15:50.67 ID:gGB57Wa8o<>
>>512
でへへバレちゃった
今日のタナカスレはここですか?
しかしここで空気の読めない>>1が木原式SSを投下
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/09/18(日) 20:16:23.49 ID:gGB57Wa8o<>
→レシピ4:まるで天使のような
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:17:05.01 ID:gGB57Wa8o<>
嫌な予感がした。
もしかして、自分には予知能力があるのかも。
などという幻想は抱かない。
彼の能力は未来予知ではなく、ベクトル操作だからだ。
しかし、どうも胸騒ぎがする。
とても悪い事が起こるような気がする。
科学万能主義の学園都市においても、ジンクスは否定し切れないのである。
九月三十日、朝。
いつも寝坊する一方通行が、午前六時という驚異的な時間に目を覚ました。
胸に言いようのない不安を抱いて。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:18:27.16 ID:gGB57Wa8o<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
朝早くに相手の迷惑も顧みず研究室を訪ねると、いつもの事なのかたまたまなのか、木原がそこにいた。
早起きして元気に出勤、という健康的なタイプとはかけ離れた男なので、恐らく前日から徹夜だろう。
「そンなに気に入ったのか、そのオモチャ」
固い椅子の一つに腰かけた一方通行の目線の先には、学習装置があった。
正確にはその一部分が、である。
壊してしまったのではなくて、学習装置は分解して部分的に持ち運ぶ事が可能だからである。
木原は相変わらずこの大型洗脳機にご執心だ。
「ああ。天井からぶん奪った学習プログラムの中に、面白ぇのが見つかってな」
学習装置用のチップに書かれたスクリプトを眺めながら、木原は楽しげに答えた。
木原の近くをウロウロしている内に、学習装置の動かし方や基礎知識をある程度覚えていた一方通行は、
それを覗き込んで一緒に文字の羅列を目で追った。
勉学や学習のためのプログラムではなく、生活一般の技術を覚えさせるもののようだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:20:07.19 ID:gGB57Wa8o<>
流れる文字から目を離さずに、独り言のように木原が呟いた。
「お前、何で赤ん坊がかわいいか知ってるか?」
突然の場違いな質問に、一方通行はたじろいだ。
「え……目がデケェからとか?」
「そっちじゃねえよ。何でわざわざ可愛い顔して生まれてくるのか、その理由だよ」
「理由ったってな。好きでかわいく生まれてくるわけじゃねェだろ」
「まあ、赤ん坊個人の意志ではないだろうな」
どうにも相手の真意が掴めないまま、少年は雑談に付き合う事になる。
一方通行の困惑など気にも留めずに、木原は続けて語った。
「だが、こういう仮説がある。赤ん坊があのような愛くるしい外見をしているのは、親の庇護を得るためである、と」
「あン? どォいう事だ?」
「ベイビーがあんな可愛い顔してるから、周りの大人たちは『守ってやらなきゃ』と感じるわけだ」
木原の目と右手はコンピューターを動かすために働いている。
会話は片手間のようだ。
「あれが皺々のジジイみたいな顔してたら、自分の子供でもあんまり熱心に世話してやりたくねえだろ」
「親の愛情が顔のかわいさで与えられるモンかどォかは知ンねェけど、赤ン坊がジジイみてェだったら確かに嫌だなァ」
一方通行の方も、スクリプトを眺めながらの受け答えだ。
複雑極まりないプログラムコードをしっかり理解しながら、会話の方も成り立たせている。
こういう事が簡単に出来るあたり二人とも常人離れしているのだが、本人たちはそこには気が付いていない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:21:16.45 ID:gGB57Wa8o<>
「人間の幼体ってのは他の動物に比べて異様に弱い。一人じゃ何もできない」
「何から何まで世話してもらわねェとすぐ死ンじまうもンなァ」
「体を動かすことすらままならない以上、情に訴えるしかねぇわけだ。そこで、あのプリティフェイスが役に立つ」
「プリティフェイスがねェ」
「わざとなんだよ。生まれたての何もできない自分を親に守らせるために、知らない内に媚び売ってんだ」
最下行に辿り着いた。
これで、学習プログラムを構成する文字列を、全行確認した事になる。
一方通行は途中から見始めたので半分も理解していないが、木原はすべて読み解いている。
満足げに頷くと、やっとちらりとだけ少年の方を向いた。
「人間は誰でも、物心付く前からそういう世渡りを経験してんだよ」
片手でチップを取り出してケースに仕舞う。
「……夢のねェ話だな」
「ま、信じるに足るデータがあるわけじゃねえ。ただの仮説だ」
「フーン」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:21:53.78 ID:gGB57Wa8o<>
「だが、その仮説からヒントを得てこいつが開発されたんだ」
「学習プログラムが?」
ケースを掲げ、木原は笑った。
何というか、とても悪い事を考えていそうな顔だ。
「そう。その名も――」
『BABY_FACE』。
それが、彼が徹夜で観察していたプログラム。
「まるで天使のようなカワイラシイ人間を人工的に作り上げる、悪魔のようなプログラムだ」
木原はそう言って、にやにやと笑った。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:22:26.32 ID:gGB57Wa8o<>
「もしかして木原くン、それで俺をカワイラシくするつもり? で、かわいくなった俺をどォするつもり?」
「ちげーよバーカ死ね」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:22:54.19 ID:gGB57Wa8o<>
――――――――――――――――――――→
その日は至って普通の一日だった。
学校へ行って寝て帰って来る。
特に悪い事は起こらなかった。
普通、平穏、安定。
当たり前の物がそこら辺に転がっている現状に、一方通行は安心した。
彼の人生の目標は現状維持である。
余計なイベントはいらない。
放課後、一方通行は、今朝の不安を振り切るように、
何事もないであろう木原の研究室へと足早に向かった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:23:32.98 ID:gGB57Wa8o<>
――――――――――――――――――――→
最終信号が退院した。
未完了だった体の調整を終えて、普通の十歳くらいの女の子として生活できるようになったのだ。
もう病室を訪ねて行っても少女はいない。
どこかの誰かに引き取られて、末永く幸せに暮らしていくのだろう。
垣根は彼女がどこに引き取られたのか知らないし、聞こうとも思わなかった。
退屈で味気ない第一位としての生活が、また始まるのだ。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:24:18.96 ID:gGB57Wa8o<>
――――――――――――――――――――→
学園都市は、日本という国の中でほとんど治外法権と言ってもいいほどの自治権を持つ都市だ。
その中で、警察に代わる役割を担うのが警備員(アンチスキル)である。
本職は能力開発も受けていない教師で、己の体力と学園都市製の武器と子供たちへの愛だけで、
自由奔放に超常現象を巻き起こす学生達と渡り合っている。
退院した最終信号を引き取る事になったのは、そんな警備員の一人だった。
きっかけは単純。
その少女を誘拐犯の手から保護した事である。
ちなみにその誘拐犯とは学園都市第一位の超能力者だったのだが、これは後に誤解であった事が判明した。
少女は定期的に特殊な治療を必要とする体質であったらしく、
保護された時には既に体力を消耗し切っており、一時は命さえ危ぶまれた。
だが、本人の気力と優秀な医師の力で一命を取り留めたのである。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:25:07.49 ID:gGB57Wa8o<>
その事情を知っているせいで、警備員は少女のその後の経過が気になって仕方がなかった。
暇があれば見舞いに行き、話をして、お互いを知り、元気になって行く姿を見守った。
自らを「最終信号(ラストオーダー)」と名乗った少女は、健気であった。
まともな名前が無い時点で、彼女を取り巻く環境は普通ではなかっただろう。
しかし、少女は笑っていた。
警備員が見舞いに行く度に顔を輝かせて、嬉しそうにおしゃべりをする。
いつだって辛い顔を見せまいとしていた。
この子は、幸せにならなければならない。
この子を守ってやらなければならない。
この子には沢山の愛情が必要だ。
それはきっと、私の役目だ。
身寄りがないという最終信号の話を聞いて、警備員は自然に、自分が引き取ろうという気になっていた。
そして、一ヶ月の入院を経て、退院の時がやって来た。
少女を連れた警備員が向かうのは、彼女の自宅だ。
最終信号は喜んで付いて来た。
これでいい。
本当に良かった。
彼女はそう思った。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:25:34.33 ID:gGB57Wa8o<>
が、最終信号はすぐ迷子になった。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:26:15.18 ID:gGB57Wa8o<>
――――――――――――――――――――→
退院初日は晴れやかな一日だった。
引き取り手の家に到着して一息ついた最終信号は、元気にマンションの中を探検していた。
そして、オートロックのエントランスから閉め出された。
電子ロックであれば、電気を操る能力者である最終信号も、型によっては外す事が出来る。
しかし、このマンションは貧乏学生の寮とは違い、
研究者が試験のために常に最新のセキュリティロックを施工しているのだ。
能力者対策もばっちりである。
何度試してもだめだった。
携帯電話なども持っていない。
こうなると、誰か他の住人が通りかかるまで外で待つしかない。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:28:37.77 ID:gGB57Wa8o<>
諦めて座り込んだ少女の前に、人影が現れた。
「二〇〇三二号……」
かつて垣根に殺されかけ、木原の画策で生き延びたクローンだった。
「ミサカネットワークに閉め出されるまでの経緯をすべて垂れ流していましたね
と、ミサカは間抜けな上位個体に笑いをこらえている事を悟られまいと真面目な顔をして語りかけます」
「う! オープンすぎるのも考えものかもってミサカはミサカは世渡りのコツをまた一つ学んでしまったり」
「たまたま近くにいたので来てみましたが……」
ふうヤレヤレこんなのが上司とは困ったものだと、二〇〇三二号は肩をすくめた。
最終信号はうぐぐ……と下唇をかみしめ、そして気が付いたように顔を上げた。
「近所まで来てたのは、やっぱりあの"人捜し"?」
「そうです、とミサカは肯定します」
頭に大きな軍用ゴーグルを付けている事以外は、第二位と全く見分けの付かないクローンが、
こくりと頷いた。
「ミサカ達を助けてくれた謎のヒーロー……だね」
「お姉様のお陰でかなり特徴を絞れましたが、
やはり広い学園都市で人一人見つけ出すのは難しいです、とミサカは苦渋に満ちた顔をします」
とはいうものの、二〇〇三二号の顔色には先程からまったく変化が無い。
傍から見ればそうなのだが、最終信号にはその違いが分かるようで、
熱心に頷いていた。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:30:03.19 ID:gGB57Wa8o<>
「ええと、二〇〇三二号が実験で殺されそうになって気を失ってるところにお姉様が来て、
お姉様が苦戦してるところにそのヒーローさんが現れて、
あの人を倒してくれたんだっけ?
ってミサカはミサカは散々ネットワークで整理されてる経緯を再確認してみたり」
「ミサカは気を失っていたので何も覚えていませんが、
お姉様の話ではそういう事のようです、とミサカは首肯します」
「でも、お姉様も直接決着の場を見た訳じゃないんでしょってミサカはミサカは指摘してみる」
「お姉様が大覇星祭の時に会ったそうなのですが、その人は事実を認めたらしいです」
「うむむ……あの人はいくら聞いても教えてくれないし……
ってミサカはミサカは敗北の瞬間を語りたがらないあの人のプライドの高さを呪っちゃう……」
「……」
呪うと言いつつも、頭に浮かぶ人物をそう悪くは思っていない様子の最終信号を見て、
二〇〇三二号が無表情なりに真顔になった。
「上位個体。あなたはまだ、あの第一位と親しくしているのですね、とミサカは問いかけます」
「え? うん、そうだよ! ってミサカはミサカはうきうき……って、別にあの人の事を思い出してうきうきしてるわけでは」
「ミサカは」
「?」
二〇〇三二号の抑揚のない声は、静かな決意を滲ませていた。
「ミサカ達は、実験で殺される事に疑問を持ちませんでした」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:32:29.49 ID:gGB57Wa8o<>
「殺されるために生まれた、殺される以外に価値のない命。
ミサカは自分の事をそんな風に思っていました。いくら殺されても、いくらでも同じ形の代わりがいると」
「……そうだね。皆の記憶はミサカにもバックアップされてるよ。
殺されていったみんなの考え方は、ぴったり一緒だった」
ふわふわとアホ毛を揺らしながら、最終信号は頷いた。
二〇〇三二号はなおも続ける。
「けれど、お姉様はミサカに教えてくれました。死に向かって歩いて行くミサカに必死に語りかけてくれました。
ミサカ単体の命にも一人前の価値があるという事。
個体一人一人にも、死んだら涙を流してくれる人がいるという事」
「うん。会った事はないけど、ミサカも、お姉様には感謝してる……」
「だからミサカ達はもう、一人だって死んでやる事はできないと、ミサカは主張します」
「そうだね……」
最終信号は表情を曇らせた。
二〇〇三二号は暗に、もう垣根と関わるのはやめろと言いたいのだろう。
二万人もの妹達を平気な顔をして殺して来た危険人物。
そんな男と喜んで遊んでいたら、姉や死んでいった同胞たちを侮辱する事になるのではないか。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:34:58.08 ID:gGB57Wa8o<>
オリジナルの言葉に目覚めさせられて命の価値を自覚したのは、最終信号も同じである。
しかし、クローン達に死を与え続けた男を、最終信号は憎み切れずにいた。
「あのね、二〇〇三二号。あの人はきっと、あなたが思ってるよりは、ほんの少しだけましな人だよ」
無感情な瞳が、最終信号を捉えた。
「あの実験の後だって、物凄く反省して――っていうのはちょっと嘘だけど、
ミサカの身体も気遣ってくれたし、ミサカの命を助けてくれた事もあるし……」
最終信号は、垣根の良いところをどうにか思い出しながら、言葉を紡いでいく。
必死に同胞殺しの男を擁護する上位個体を前に、二〇〇三二号の態度は肯定的でも否定的でもなかった。
彼女の顔色から最終信号が読み取った感情は、困惑だった。
「上位個体」
「なあに? ってミサカはミサカは聞き返してみる」
「あなたは『BABY_FACE』を知っていますか? とミサカは尋ねます」
二〇〇三二号の言葉に、最終信号は一瞬ぽかんと口を開けて黙った。
そして、応える。
「赤ちゃん顔? 童顔の人をそういう風に言ったりするよね
ってミサカはミサカは学習装置で得た知識を自慢げにひけらかしてみる」
間違った解答ではなかった。
だが二〇〇三二号の真意とはずれていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:35:58.71 ID:gGB57Wa8o<>
制服姿のクローンはそれを確かめるように頷くと、静かに言った。
「オートロックですが、例の新しい保護者をインターホンで呼び出せば開けてもらえると思いますよ、
とミサカは超当たり前のアドバイスをしてこの場を去ります」
「あっ!その手があったかッ!! ってミサカはミサカは……待って待って! 二〇〇三二号!」
人捜しを続けるため立ち去ろうとする下位個体を、小さな上位個体が呼び止めた。
「何ですか? とミサカは呆れ顔をして暗に最終信号との会話に飽き始めている事を示唆しつつ立ち止まります」
「ミサカも一緒に探す! 謎のヒーローさんに会ってお礼が言いたいのってミサカはミサカは猛烈アピール!」
「ですが、保護者の方は……」
「いいから! しゅっぱーつ! ってミサカはミサカは強引に話と歩みを進めてみたり!」
「……はい」
二〇〇三二号は折れた。
元気いっぱいの最終信号の面倒を見ながらの人捜し。
先の苦労が目に浮かぶようだったが、一人でうろうろするよりは楽しいかもしれない。
(やはり知らないようですね。教えた方がいいのでしょうか?
とミサカはネットワーク上の不特定多数の個体達に尋ねます)
(――意見が分かれるのもいつもどおり。つまり様子見ですね)
二人は歩き出した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/18(日) 20:36:26.88 ID:gGB57Wa8o<>
「で、お姉様情報によると、ヒーローさんは高校生で、
美白の白髪で、凶悪で真っ赤な目つきのモヤシなんだよねって
ミサカはミサカは確認を取ってみる」
「はい。名前は山田一太郎ですとミサカは補足します」
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/09/18(日) 20:37:02.97 ID:gGB57Wa8o<>
つづくわよ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/18(日) 20:39:48.72 ID:lqTf1nfxo<> だれかかわいらしくなった一方通行うp <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/18(日) 20:39:57.74 ID:q7+l0E+Do<> おつだわよ
これは第一位にBABY_FACEをかぶせるフラグか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/18(日) 20:40:41.61 ID:Rl9cghsq0<> 乙
>>546の会話でン?ってなるww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/18(日) 20:42:52.45 ID:qwOOOcJQo<> 山田wwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/09/18(日) 20:56:07.41 ID:Gy525Lhk0<> 乙、まだ山田一太郎なのかwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/09/18(日) 21:02:37.07 ID:etUIqPiY0<> 山田とかw
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/09/18(日) 22:05:29.97 ID:/h+utdh+o<> 乙だわよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/18(日) 22:07:50.27 ID:2WC9BpvAo<> 今夜が…山田 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/18(日) 22:34:19.95 ID:H0durIyDO<> ジョジョを考えてしまった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/09/18(日) 22:59:28.38 ID:QbU05zsAO<> 乙!
山田の名が一気に一万人近くに知れ渡ったなww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/09/18(日) 23:29:54.84 ID:uSs7EsLAO<> 乙
うおおプログラムだと・・・
なんか未元止めを応援したくなってきた気もするが俺には通行止めが。ぐぬぬ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/19(月) 00:55:33.17 ID:+AuLdBgGo<> 乙
やァまァだァくゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/19(月) 00:57:46.05 ID:TSGm/mWPo<> 座布団一枚 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/19(月) 05:32:28.68 ID:l3xD5wfc0<> >>1乙
山田(笑)とバカ高校友達の話はまだかな… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/19(月) 09:25:57.31 ID:K8aegysjo<> >>560
かしこまりましたァ〜 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/09/19(月) 13:24:45.37 ID:atzA7Mado<> 雲行きが怪しくてそわそわする <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/19(月) 15:12:51.61 ID:X5f3oHaR0<> あれ?
俺の同級生に山田ってのがいるぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/09/19(月) 17:00:31.45 ID:W4cCyZEAO<> ここの一方さん割と平和に暮らしてるのに目つき悪いんだね・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/09/20(火) 00:41:27.42 ID:etdDzVyk0<> おつだわよ
ここまで知ってたら、名前知らなくても顔だけでわかるなwwww <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:33:26.92 ID:XOKLck0zo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
唐突だが、この世界には"魔術"なるものが存在する。
大抵の人間が気付いていないし信じてもいないが、それは確かに存在する。
何かの暗喩だとか暗示ではなくて、本当に呪文を唱えたり魔法陣を描いたりして奇跡を起こすのだ。
何もないところから水を出す、空高く飛び上がるなど、
脳の開発もしていないのにまるで能力者のような物理法則の無視っぷりである。
魔術師側からすれば、能力者の方こそ碌に修行もしていないのに
まるで魔術師のような振る舞いをしているように見えるのかもしれない。
古今東西にその片鱗は見られるが、それらは概して宗教と強く結び付いている事が多い。
何せ魔術の代表格はキリスト教の教会なのだ。
成り立ちがどうあれ、科学の力で全てが構成されている学園都市とは無縁の世界である。
だが、その学園都市の中にも、魔術の存在を知る者はごく少数だがいた。
両者はあまり深くかかわらない方がいい、というのが暗黙の了解であった。
どちらも、なるべく相手を避けようとする。
良くは思わないが取り敢えず争う理由が無い。
その何となくで交わした不可侵条約のような、ふらふらした状態に水を差す事態が今夜、起ころうとしていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:34:56.56 ID:XOKLck0zo<>
「侵入者、か」
何かの液体の中を逆さに浮遊する統括理事長、アレイスター=クロウリーは、静かに微笑んだ。
彼の浮かぶ円筒状のガラス、巨大なビーカーのようにも見えるそれの周りは、無数のモニターに取り囲まれている。
その中の一つが、一人の女の姿を映し出していた。
上から下まで真っ黄色である。
学芸会でもしているのかと思うほど派手な衣装だが、これでも外部から「忍んで」学園都市に侵入して来た身だ。
つまり、最新技術をつぎ込んだ学園都市のセキュリティーをかいくぐったのだ。
彼女は魔術師だった。
それも、相当な腕の持ち主だった。
科学を忌み嫌っているらしい女の魔術師は、ある目的のためと、ついでに学園都市を丸ごと潰すため、身体一つで乗り込んで来た。
「まさか本当に一人でやって来るとはな」
想定外だったがこれはこれでプランに応用できる。
木原数多の死を代償に引き起こされる第一位の覚醒。
魔術師は一人また一人と、静かに学園都市の戦力を削いでいく。
その危険人物をむしろ歓迎するように、水中の理事長はふわふわと手を動かした。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:36:15.28 ID:XOKLck0zo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
秋の初めの過ごしやすい一日だった。
平穏無事な日常が暮れる。
外が死ぬほど平和だろうが殺人事件が起ころうが、
基本的に無視して研究を続けるというスタンスの男、木原は、
この平和な一日を相変わらず能力開発の研究と学習装置の調整に没頭して過ごしていた。
彼の研究の成果を用いた最新式のツールの試作品が届けられた日だった。
その性能を確かめる彼の元へ、新たなる小包が届けられる事になる。
コン、コン。
軽いノックに続いて、事務の女性が研究室に入って来た。
「木原さん〜、お届け物ですよ」
「あん? 俺は何も頼んでねえぞ」
「通販じゃないみたいですよ。個人的な贈り物? はい、どうぞ」
訝しがりながらも受け取ると、事務員はあくびをしながら去って行った。
掌に乗るくらい小さな小包み。
包装紙を解いて中を見ると、小さなチップが転がり出て来た。ラベルには「ANGEL」と書いてある。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:36:48.57 ID:XOKLck0zo<>
適当にいじり回す彼の口が、ぽつりと呟いた。
「仕事ですか」
突如としてコンピューターに現れた統括理事長は、当然「そうだ」と答えた。
『最終信号を覚えているか』
「クローンのガキですかね」
『その通り。至急彼女を確保し、学習装置に掛けろ』
学習装置。
突然届いた小包の正体は、そのプログラムソフトだったようだ。
「ANGEL……」
『届いていたか。そのチップを使え。手段は問うな。ただし、死亡させることと脳を破壊することは禁止』
「……りょーかい」
通信が切れた。
木原は手に持っていた「最新式のツール」を眺め、しばし考えて
白衣のポケットに入れて部屋を後にした。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:37:59.16 ID:XOKLck0zo<>
――――――――――――――――――――→
「――木原?」
一方通行が木原の研究室を訪ねた時、彼は既に出掛けた後だった。
「っかしィな、さっきまでいたのに」
学校から帰って来てすぐ、特に何の用事もないがここを訪れた。
木原は相変わらずで、一方通行が現れてもこれといった感想は漏らさなかった。
邪魔だから出て行けと言われて、また殴られる前にと退散したのが三時間前。
どうしても胸騒ぎが治まらなかった彼は、またしてもこうして木原の元へやって来た。
こんな事は初めてだった。
何がこんなに不安なのか自分でも分からない。
しかも、来てみたら目当ての人物はいないではないか。
ますますストレスが溜まる。
「おォーい? ゴミ原くーン?」
返事を期待せず、一方通行はもう一度呼びかけてみた。
「……殴りに来ねェな。本当にいねェらしい」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:40:17.32 ID:XOKLck0zo<>
諦めて部屋を出ようとしたその時だった。
木原のデスクの電話が鳴った。
ポポポ、と無機質な電子音を部屋中に響かせて、不在の主へ着信を告げている。
「ンだよ……内線じゃねェのか」
研究所の外からの着信を意味する緑のランプが、受話器のすぐ横で光っていた。
一方通行が木原の外部の知り合いや仕事の相手と話をしても何の意味もないのだが、
何となく鳴りやまない電話がうるさくなって、受話器を上げた。
「――もしもォし」
『! アンタ、一方通行?』
「ン? 俺が分かンのか。オマエは誰なンだよ」
『猟犬部隊の隊員よ。木原さん、そっちにいる?』
「あー、確かヴァーラ、とかだっけェ?」
『ナンシーよ。それとアンタが言ってるのは多分ヴァーラじゃなくてヴェーラよ』
ナンシー、ヴェーラというのは猟犬部隊の隊員に与えられるコードネームだ。
彼ら猟犬部隊は、リーダー含め世間様に顔向けできないような下衆な犯罪を犯して来たクズの集まりである。
大声で名乗れるような名はもうない。木原数多だけは本名だが。
よって、まともな人間だったころの名前を捨てさせられて、コードネームで呼び合うのである。
木原が独断で決めるらしい。
このナンシーも、素顔を見ればどこからどう見ても日本人だが、ナンシーである。
単純に趣味の世界だ。
ガイジンの名前の方がカッコいいのだろう。
彼は割と形から入るタイプである。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:40:59.12 ID:XOKLck0zo<>
「どォでもイイけどな。木原は研究所にはいねェよ。もしかして猟犬部隊の仕事に出たのか?」
『そうよ。戻ってはいないのね?』
「お弁当忘れて取りに来るって気配はねェな」
『バカじゃないの。……木原さんと連絡が取れないの。どうしたのかしら』
「携帯忘れて取りに来るって気配もねェけど」
『忘れ物から頭を離しなさいよ。いないならいいわ。じゃあね』
「……おォ」
ォ、まで言い切るまえに通話を切られた。
どうやら、木原はまた暗部の仕事に出ているらしい。
場合によっては命さえ危険にさらされる、クズ専用のお仕事に。
木原が今まで死んで帰って来た事は一度もない。
彼は優秀なのだ。
だが胸騒ぎがする。
連絡が付かないらしい。
多分ただの行き違いか何かだ。
よりによって、今夜死ぬって事はないだろう。
だが胸騒ぎがする。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:41:52.92 ID:XOKLck0zo<>
――――――――――――――――――――→
雨が降り出した。
暇な一日の最後にトドメを刺すかのごとく退屈なオチ。
第一位、ずぶ濡れである。
水も滴るイイ男、という形容が似合う姿だったが、当の垣根の機嫌は最悪だった。
気を紛らわせるために一日街をぶらついていたのだが、
ちょっと気を抜くとすぐあの少女の事を考えている。
すれ違う人ごみに背の低い人影を見ると、目で追ってしまう。
そんな自分に納得がいかなかった。
本当に退院などさせて大丈夫なのか
まだ身体は不完全ではないのか
そもそも何故気を紛らわせる必要があるのだ。
一体何に気を取られまいとしているのか。
ばかばかしい。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:42:35.48 ID:XOKLck0zo<>
濡れながら住宅街を歩く。
ぱしゃぱしゃと水溜まりを踏みつけながら走る足音が、後方から近付いて来た。
遠さからして車道を挟んだ反対側の歩道だろう。
何ともなしに振り向いた。
振り向いた瞬間、足音の主が良く知った顔だという事に気が付いた。
そして同時に、相手も自分の正体に気が付いたようだった。
「あ、あなたは――……」
「……生き残り、か」
検体番号二〇〇三二のクローンが、垣根帝督の前に現れた。
そして垣根を確認した途端、彼女の顔に「緊急事態発生」の文字が躍った。
「第、一位……」
「よう、人形」
実は動揺しているのは垣根も同じだった。
顔には出さなかったが。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:43:43.00 ID:XOKLck0zo<>
「そんなに警戒しなくても、俺はお前を殺す気はねえよ。実験は凍結したんだからな」
「……そうですか。逆恨みで襲いかかって来るかと思いましたが、とミサカは警戒心を顕に後ずさります」
「俺を信用できないのも無理はないか」
「当たり前です、とミサカは強調します」
以前殺していた時のまま、無理やり成長させられたクローンの顔には相変わらず表情が乏しかった。
しかし、確実に変化している。
少なくとも、お前が嫌いだ、という気持ちはその瞳からひしひしと伝わって来たからだ。
彼女は最終信号とは違うのだ。
垣根に命を救われてもいないし、何万回と殺されて来た記憶しかない。
最終信号が笑ってくれるから、不思議とどこか許された気がしていたが、そんなのは幻想だった。
妹達を殺した垣根は、彼女たちにとって敵なのだ。
「久々に会ったっつっても、思い出話なんかする仲じゃねえしな。俺は帰る。じゃあな」
そう言って、垣根は踵を返した。
きっと、さっさと離れてやった方がいい。
謝罪だとか償いだとかは、少女は求めていないだろう。
それより早く立ち去って彼女の視界から消えてやるのが、せめてもの気遣いになるはずだ。
そういうのがただの逃げであると、少年にはまだ分からない。
雨の中一歩踏み出したその時だった。
「待って下さい」
何も言わず彼から離れて行くと思っていたクローンが、垣根に声を掛けた。
「――と、ミサカはあなたを呼び止めます」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:45:27.04 ID:XOKLck0zo<>
意外だった。
もしかして気のせいかと思いながら後ろを見ると、確かに少女はその場にとどまり、
垣根が立ち止まるのを見つめていた。
「何だ」
尋ねると、彼女は一瞬黙りこみ、そして口を開いた。
「始めに言っておきますが、ミサカはあなたに頼みごとをしたり借りを作ったりする気は全くありません。
そんな屈辱的な事はしたくありませんので。とミサカは前置きします」
「あ? ケンカ売ってんのか」
「……ただ、あなたは一度最終信号の命を救いました。あなたには知る権利があり、義務もあるとミサカは考えます。
きっと知りたいでしょうから教えてあげます」
「何だ、早く言え」
「――最終信号が誘拐されました。ミサカの目の前で。
現在ミサカ達は全力で捜索にあたっているところです」
平坦な声で、少女は言った。
しかし、どこか焦燥感を纏った声だった。
その声色で、彼女はつづけた。
「あなたにどうしろと言うつもりはありません、とミサカは補足します。
知っておくべきだろうというミサカの独断です。放っておきたければそれでも――」
言い切る前に、少女の言葉は遮られた。
目の前の男に胸倉を掴まれ、喉が詰まったのだ。
「うぐっ……? は、な、……」
「全部話せ」
服を掴む手に力を込めて、垣根は低く唸るように少女を脅しつけた。
脅す気など毛頭ないが、少女にはそう感じられた。それくらいの気迫だった。
「知ってる事を全部話せ。いつだ? どんな奴だった? 攫った奴の顔は見たか?
一言も漏らさずに情報を渡せ」
「っ第一位……」
「嘘があったら捻り潰してやる。洗いざらい話せ」
雨の中、第一位は怯える少女を睨みつけた。
かつてこの男のここまで感情的な表情を、見た事があっただろうか。
ひたすら冷淡に殺され続けた記憶しかない二〇〇三二号は、頭の片隅で場違いな事を考えていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/21(水) 01:45:55.49 ID:XOKLck0zo<>
つづきはウェブで!
あ、ここもウェブだ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/09/21(水) 01:49:15.42 ID:Hd3jNzeyo<> 乙ゥ
ウェブみてくる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/21(水) 02:01:13.05 ID:T1a3cJ7Lo<> 乙でェす
さてちょいとウェブに浸ってくるか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国)<>sage<>2011/09/21(水) 02:16:09.56 ID:jKPcBKTAO<> ちょww
携帯からウェブとか無理なんですけどww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/21(水) 03:53:59.27 ID:xcNfDund0<> ざまぁwwwwww
ウェブってあれだろ、網のことだろ
ちょっと網に絡まってくる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/21(水) 04:25:45.36 ID:i3Hq9j3to<> おまえら知らねーの?
ウェブって蜘蛛の巣のことだしぃー
おれちょっと蜘蛛の巣探してくるしぃー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/21(水) 06:00:27.85 ID:n0nX/FIro<> まじかよウェブ見てくる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/09/21(水) 06:53:49.68 ID:o5R0OmJAO<> 乙
庭がウェブだらけの俺は勝ち組 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/09/21(水) 07:13:35.91 ID:29UxaaIAO<> ちょっくらテリーに頼んでパワーウェブ喰らってくる
乙ェーイ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/21(水) 08:28:26.24 ID:k4fcCse2o<> 馬鹿かお前ら
ちょっとサーフィンしてくる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/21(水) 08:33:20.81 ID:5ov4+juIO<> 世界的ですもんね
乗るしかない!このビッグウェブに! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage <>2011/09/21(水) 08:37:39.21 ID:+deknCrd0<> 寧ろ絡まるしかない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/21(水) 15:00:40.09 ID:w/WPOCMoo<> うェぶってどこにあんだァ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/21(水) 16:24:15.01 ID:f73OLCS2o<> うぇ↑ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/21(水) 17:57:10.11 ID:1gAiy33Yo<> ちょっとSERN行ってくる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/09/21(水) 19:59:56.93 ID:HqJMqEZAo<> お前らwwwwww
俺にもウェブ見せてくれよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/09/21(水) 21:14:54.82 ID:kLa7O2vAO<> ウェブって美味いのかァ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/09/21(水) 21:49:24.73 ID:u7TQ3ssT0<> ウェブは俺の嫁 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/22(木) 00:31:56.94 ID:y22y8hVAO<> ちょっとコンビニでウェブ買ってくるわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/22(木) 11:22:57.55 ID:ojRp21jDO<> ヤベッ、ウェブにまだご飯あげてなかった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/22(木) 14:17:50.28 ID:q4+9db2b0<> 気になったんだがこのまま行くと木原と垣根が衝突しそうだけど
>木原数多の死を代償に引き起こされる第一位の覚醒。
このいう“第一位”って垣根のことなの?アレイスターは第一位を一方さんのことを指しているように見えるんだが
後に第一位となるという意味合いで言ってんのかね、スレタイがそれを言っているように見えるし
理解力乏しくてすまん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/22(木) 14:29:26.08 ID:+AaOTI3IO<> あまたちゃン死ンじゃだめー! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/22(木) 14:36:20.03 ID:LfC8tPk5o<> >>598
予想すんなって、そう思っても書くな
多分それ含めてこれからの展開だろう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/22(木) 16:56:35.02 ID:+s+eq/GTo<> もうウェブがなんなのかわかんねぇwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/09/22(木) 20:23:34.71 ID:i9eHkB/mo<> >>598
理解力乏しいなら黙って死ねばいいよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/22(木) 20:48:36.19 ID:LTk+geqao<> >>602
いろんな人がいるのさ
とりあえず大きく息を吸ってから
トライアスロンしてきたほうがいいぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/23(金) 01:23:50.45 ID:7JNNkDcFo<> >>601
理解力乏しいなら氏ねばいいしー
って、それ俺もしぬしぃーーーーwwwwwwwwwwwwww
で、次のウェブはまだかし?wwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/23(金) 01:57:11.29 ID:FXZAKiuDO<> 除草剤撒きに来ましたよー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/23(金) 05:27:52.96 ID:YfjBjPwIO<> ウェブって何処ですかァ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>scpbd621<>2011/09/23(金) 14:09:45.44 ID:rpNQxReb0<> 乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/23(金) 14:25:46.19 ID:Z+ZDiZHro<> 乙ゥ
乙ェ
乙ブ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/09/23(金) 15:24:48.82 ID:k6uj/6eAO<> なんだよおまえらwwwwww
更新きたのかと思ったじゃねーか
このスレ愛されすぎワロタ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/23(金) 16:52:45.92 ID:Ho65/VAAO<> ここの読者のノリの良さはガチ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/23(金) 17:07:09.14 ID:atapMIsro<> 臭いだけだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/09/23(金) 17:12:32.28 ID:tfLr4/wAO<> 最近は馴れ合い厨が市民権得て我が物顔でのさばってて迷惑極まりない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)<>sage<>2011/09/23(金) 17:17:14.62 ID:mclkpi4Zo<> もしもしと同じ意見になるとは思わなかったが>>1が許容してるならほっとくしかないっていう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/23(金) 17:43:21.98 ID:qMk/VJjXo<> しょうがないっていう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/09/23(金) 18:32:06.46 ID:0c8B+bQz0<> >>611~>>614
お前らの意見(笑)とかどうでもいいよ
見苦しいだけだしぃぃぃーーーwwwwwwwwwww
もう何も書き込むなよゴミwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)<>sage<>2011/09/23(金) 18:58:59.45 ID:mclkpi4Zo<> 草は半角
範囲安価の仕方もわからない
半年ROMってろよwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/09/23(金) 19:15:01.05 ID:6C1DEwBso<> >>616
お前のやつが全角になってね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/09/23(金) 19:15:03.86 ID:U571+fCCo<> これはヒドい北海道だ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>saga sage<>2011/09/23(金) 19:56:20.36 ID:065ertcAO<> ウェブとは一方通行のTシャツのことである <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/23(金) 20:52:44.20 ID:ZsaHU6Dro<> >>617
? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/23(金) 21:07:17.49 ID:mMeyIPBHo<> ていうかなんでおまいら揉めとるんですかww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/23(金) 21:14:46.13 ID:AfXVsGOYo<> 喧嘩続けたいなら、ウェブで頼む <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/09/23(金) 21:27:26.74 ID:3V7hxXlqo<> お前らが不毛な罵りあいするからウェブさん怒ってたぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/23(金) 22:03:58.91 ID:ETE6IYyco<> 伸びてるから更新来たと思ったのに……
ウェブ見て頭冷やしてこい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/23(金) 22:54:56.92 ID:qCEqrQxDO<> お前らウェブの事は一旦忘れて落ち着け <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)<>sage<>2011/09/24(土) 15:41:52.49 ID:ABDqX/Zlo<> え?ウェブなら俺の隣で寝てるけど^^ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/24(土) 15:43:08.01 ID:TMEasSVmo<> さすがに伸ばしすぎだろう…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)<>sage<>2011/09/24(土) 17:14:51.70 ID:vHJ1U7Lgo<> おもしろいと思ってやってるんだろうな
気の毒に <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/24(土) 18:07:28.80 ID:R/lPPgkso<> どんなに気持ち悪くても水を差されないのが良スレなんだがな
もうだめか <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:06:14.19 ID:bVxhRllno<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
さっきから電話が鳴っている。
隊員からの定期連絡だろう。
部下は気が付いている。
リーダーも気が付いている。
しかし彼は無視していた。
上司に与えられた指令が、あまりにも面白かったからだ。
「ぎゃははははははははッ!! 何だコレ! カエルの死体に電気流す実験みてえ」
木原数多は、捕えた最終信号を、アレイスターの指示どおり学習装置に掛けていた。
脳に無理やり侵入する悪質な情報の嵐が神経にどう影響しているのか、
少女は苦悶の表情を浮かべながら手足をバタバタと痙攣させている。
場所は、どこかの会社が潰れて逃げたあとの廃ビルだ。
誰もいないなら丁度いいと、猟犬部隊が勝手にアジトのひとつにしている。
本来は据え置きの大型機械を、部分的に取り出して持ち運び可能にし、こうしてアジトへ持ち込んでいる。
検体の安全を確保するための設備を取っ払っているので、通常の使用法より数段危険で荒っぽい。
小さな女の子を拉致してカエル扱いするだけの簡単なお仕事をこなすリーダーは、
ばたつく小さな手足を見て大喜びしていた。
最終信号を攫うのは簡単だった。
八月三十一日は少女の逃走マニュアルに苦労させられたが、
それは彼女を傷つけてはいけないという制約があったからこその足かせだった。
あの日「少女を大切に扱え」と言った上司から出た今日の指令は、
よりにもよって「手段は問うな」である。
(ぶん殴って掻っ攫えば終わりなんだからよ、楽勝もいいとこだぜ)
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:08:54.43 ID:bVxhRllno<>
ダンスパーティーを眺めて悦に入る木原に、声を掛ける人物がいた。
「木原さん。コレ、何の意味があるんですか?」
おずおずと尋ねて来たのは、ヴェーラというコードネームの女性隊員である。
他の部下と同じように黒ずくめの装甲服に身を包んでいるので、見た目で性別は分からない。
女性的なのは声だけだ。
狂ったように踊る少女を見て、彼女はその声にわずかな嫌悪感のようなものを滲ませていた。
ヴェーラの良心は、木原のよりは多少上質らしい。
木原よりちょっと良い人なくらいでは何の自慢にもならないのだが。
「さぁー……何か侵入者対策らしいけどな」
上機嫌な木原は、部下のくだらない質問にも快く答えた。
普段であれば、無駄に話しかけられたらその瞬間に蹴り飛ばしているところである。
「侵入者ってのは、何者なんでしょうね?」
言葉を交わす二人の横から、別の部下が加わって来た。
この状況で雑談をしようというのだから、この男も大した人格破綻者である。
「警備員の無線を傍受したとこじゃ、たった一人で乗り込んできて、
主要な警備網はあらかた潰しちまったらしいですよ。
何でも、手も触れずに相手を叩き伏せるとか」
学園都市の現在の被害状況は、猟犬部隊もそれなりに把握していた。
ある日突然ひょっこり現れた女に、科学の街は手も足も出ず、一方的にやられっぱなし。
その内自衛機能は全停止するだろう。
今のところ攻撃されているのは人間のみだが、
機械を制御する人間まで抑えられたら、完全に屈するのも時間の問題だ。
その対策として、彼ら猟犬部隊はいたいけな女の子をいじめている……らしい。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:10:47.57 ID:bVxhRllno<>
『侵入者』に襲われた人間の症状は、学園都市が持ついかなる兵器がもたらすものとも合致しない。
謎の現象だ。
健康そのものだった人間が突然倒れ、意識不明の重体になってしまう。
簡単に調べたところ、被害者は、体内の酸素が極端に減じているらしい。
人工的な仮死の誘発、という事のようだ。
しかも酸素ボンベなどで酸素を供給してやっても、症状は改善しない。
何らかの力でその状態が強制的に維持され続けてしまうのだ。
「いくら学園都市といえど、ここまでの事を一晩でやってのけるのは今の技術力では無理でしょうね」
兵器マニアの隊員が言った。
手を触れずに攻撃するとすれば、毒物かナノテク、電磁波あたりが『目に見えない物理現象』に当たる。
しかし、いくらそういった先端技術を使ったところで、酸素ボンベまで無視する仮死状態を作れるかというと、
ちょっとそれは無理だろうというのは木原もよく分かっていた。
「かといって能力者じゃねぇのは確かだろうな」
「むしろ能力者くらいじゃないんですか、こんな意味不明な事ができるのは」
「俺だから言うけどな」
超能力開発の専門家として、木原はこう切り出した。
「バラバラの位置にいる複数の人間に対してだ、
体内の酸素を一定に保ってさらに攻撃し続けるなんつー芸当ができたら
そいつはレベル5判定どころじゃねぇよ」
侵入者が仮に千人くらいいたとして、しかも全員が同じ能力を持っていて、さらに皆レベル4以上なら、
能力者だけでも可能だろう。
だがいくら何でもそれはない。
侵入者が一人、という情報を信じるなら、それは能力者以外の何かである。
もしくはレベル5。
「で、今学園都市に存在する六人のレベル5は、全員そういった能力には該当しねえ。
つまり侵入者は学園都市の能力者じゃねぇよ」
「……じゃあ、何なんです?」
部下の呟きのような問い掛けを、木原は無視した。
彼らのレベルに合わせて話をしてやるより、自分で考えた方が能率的だからだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:14:07.77 ID:bVxhRllno<>
そう、考えれば考えるほど楽しくなってくる。
彼の機嫌が良い理由は、実はそこにもあった。
単純にクローンの苦悶のダンスも滑稽だが、
今学園都市に巻き起こっている事態の意味が分からないのが一番面白い。
触れもせずに大量の人間を無作為に意識不明にできるか?
毒物らしきものも検出されていないのに。
こんな事が出来るのは能力者くらい。
しかし能力者ではありえない。
なら何だ。
何がやって来た?
何をされている?
さっぱり分からない。
能力者以外の超常現象を操る存在の影を、木原は今垣間見ているのだ。
オカルト。起こり得ない事。しかし実際に起こってしまっている現実。
無視された物理法則。
覆された大前提。
科学への冒涜だ。
これで興奮するなという方が無理がある。
そして、彼をさらに喜ばせる事態が、起こった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:14:44.47 ID:bVxhRllno<>
プログラムのインストールが終了したらしい。
『ANGEL』とかいうふざけた名前のチップだった。
踊り狂っていた最終信号が、ピタリと動きを止めた。
「ん? 何だもう終わりかよ……って、すげーぐったりしてるじゃねぇか。 こりゃ生きてんのか?」
死んだら俺のせいかよ冗談じゃねえぞ、と小さな顔を覗き込んだ直後だった。
部屋が明るくなった。
「……は?」
まるで昼間のように。
部屋に昼が訪れたのは一瞬で、すぐに宵闇が廃オフィスのフロアに戻って来る。
何事かと窓を顧みると、遠方に光る物があった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:16:38.80 ID:bVxhRllno<>
「――何だ、ありゃ」
数百メートル先で、薄く広がる巨大な膜のようなものが、一点から大量に放出し、雨空へ突き抜けた。
羽のような形の――というより、あれは羽だ。
「ははっ、スゲーなオイ! ありゃあ一体何なんだ!?」
まるで天使のような、神々しくも戦慄するような冷たさを持った翼が、
何十枚も重なりながら空に広がっていた。
窓からは『羽』しか見えないのに、木原の頭に真っ先に浮かんだのは『天使』という言葉だった。
何しろ与えられたウイルスの名前は『ANGEL』なのだから。
本体の姿は良く見えないものの、『天使』の放った一度の攻撃が凄まじいものだった事は、
窓からでもよく分かった。
雷撃のような、それでいて何とも言えないような、とにかく破壊力だけは物凄い光のうねりが、
恐らく侵入者のいるあたり目がけて地面から突き上げられていた。
――非科学。オカルト。あってはならないもの。
予感はあった。
否定する気は無かった。
だが、学園都市が、科学を代表する側が、そんな馬鹿げた領域に手足を突っ込むような真似をするとは、
あまりに予想外で呆れ果てた。
呆れ過ぎて歓声を上げてしまうほどに。
学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリー。
つまり科学の街の代表。
科学者の頂点だ。
(あの野郎、ビーカーん中でプカプカ浮いてるだけかと思ってたが、俺よかよっぽどイカれてやがった!
クソ、馬鹿にしやがって)
窓の無いビルの方を見る。
ビーカーの中でぷかぷか浮かびながら一人ほくそ笑んでいるであろう、統括者の方を。
これは、科学への冒涜だ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:20:07.50 ID:bVxhRllno<>
「ちくしょう、悔しい! 飛んでやがるなぁアレイスターッ!! 理論のりの字も分かんねーぞ!?
科学者のくせに科学を否定するたぁ、何たる科学者だよオイ!!」
大興奮のリーダーをよそに、そこまで科学に精通していない社会のクズの部下たちは、
困惑気味に視線を送り合っていた。
彼らの生活は科学に根ざしている。
オカルトなどというモノは、マンガか映画の中だけで楽しむものだと思い込んでいる。
天使はいるんだ! と心の底から信じている変態か、木原のように突き抜け過ぎた科学者でないと、
その目の前の現象をそのまま受け入れるのは難しいのだろう。
かといって、否定しようにも実際に見てしまっている。
一体何を信じれば良いのか、夢でも見ているのではないか……
そんな雰囲気が場を支配していた。
木原は気にしない。
もっと面白い事がある。
あの『科学兵器』で、侵入者を潰すのが理事長の狙いだったのだ。
面白くて仕方が無い。
木原はこの現象を受け入れるか?
もちろんイエスだ。こんなものを否定してたまるか。
それを自分の脳に迎え入れるのに今までの常識が邪魔になるなら、丸ごと叩き壊したって構わない。
実はこの、
『新しい理論を受け入れるために、一旦自分の信じてきたものを否定する』
というのは、科学者を名乗る身なら相当な覚悟がいる行為である。
それまで築き上げて来た研究の成果を、ごっそりドブに捨てる事になりかねないからだ。
しかし彼は即決した。一度捨ててしまおうと。古い物への未練ははっきり言ってゼロだった。
現に、彼の頭の中では既に新しい理論と仮説と課題が次々浮かび上がって飛び回っていた。
(これが現実だってんなら――スゲーよ、何でもアリじゃねぇか!)
やりたい事が山ほど出来た。
仕事どころではない。
ないのだが、仕事は仕事できちんとこなさないと殺されてしまうので、ここは我慢である。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:23:28.41 ID:bVxhRllno<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
その魔術師は特別だった。
世界中にたった四人しかいない、大役を担う重要人物の一人なのだ。
その特性上、通常の魔術が使えない代わりに、彼女は尋常ではない特別仕様の術式を使いこなした。
それが、天罰術式である。
彼女に悪意を向ける者は、その正体を知らずとも例外なく罰せられるという、反則的な魔術だった。
学園都市の治安を乱す『何者か』に敵意を向けただけの警備員でさえ、その術中に嵌っていた。
急に意識を失い、ばたばたと倒れて行く。
なす術もなかった。
治安維持機能の麻痺した街で、特別仕様の女はターゲットを追って、雨の夜を歩いていた。
身体に異常を感じたのは、ターゲットを追い詰め、いよいよこれから、という時だった。
耳の奥に重低音が大きく響き、思わず胸と耳を押さえた。
心臓が破裂するかのように、強く脈打ったのだ。
直後、彼女は血を吐いた。
身に覚えのない感覚が全身を包んでいた。
包まれるというより、浸食されたという方が近い。
どこか内側の方から、うぞうぞと蠢く何かに蝕まれているような、ひたすら不快な痛みだった。
身に覚えがない以上、これは何者かからの攻撃だ。
しかし、彼女の術式は悪意をもって加えられた危害をすべて迎え撃つ。
学園都市製の機械ならば感情など持たないかもしれないが、
機械を操って彼女を攻撃しようとした人物がいたとすれば、そう考え付いた時点で術式は発動しているはずである。
渡り歩いていた鉄橋の手すりに捕まって、原因と対策を探ろうと頭を働かせる。
息を詰め、歯を食いしばり、自分を奮い立たせる『魔法の呪文』を唱えたすぐ後だった。
凄まじい轟音が耳を貫いた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:25:21.81 ID:bVxhRllno<>
音の方を見て、その正体を見て、彼女は逆上した。
天使だ。
あれはまるで天使の翼ではないか。
なぜそんな物が科学の都市なんかに舞い降りる?
――あれは偽物だ。
わざわざ天使に似せて作られた、人工の何か。
彼ら魔術師が崇拝する天使のまがい物を、人工的に作り出す『科学技術』。
それは魔術師の立場からすれば、神聖なものに対する侮辱と捉えられる行為であった。
魔術への冒涜だ。
もともと科学を憎み抜いていた魔術師である。
こんな物を見せつけられて、激怒するなという方が無理な話だ。
彼女は怒りにまかせて飛んだ。
殺してやる、ぶっ壊してやる。
そう思いながら、まがい物の方へ飛び出した。
すると、それまで彼女がいた場所に、まがい物の雷撃のようなものが襲いかかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:26:15.27 ID:bVxhRllno<>
――――――――――――――――――――→
何となくだ、何となくである。
一方通行はまだ木原の研究室にいた。
手近な椅子に座って考え事をしている内に時間が経っていたのである。
彼は外で起きている異常を全く知らない。
学園都市に魔術師が遊びに来ている事も、
木原がそれを迎え撃つのに一役買っている事も、
最終信号がそのために大変な目にあっている事も、
それを助けるために垣根が街中駆け回っている事も。
彼は何一つ知らない。
だが、何か予感めいたものがあった。
木原はまだ帰って来ない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:27:54.82 ID:bVxhRllno<>
電話が鳴った。外線。本日二回目。先程からどのくらい時間が経ったのか。
自分宛ではないという事もほとんど意識しないまま、彼は反射的に受話器を取った。
発信元は、先程と同じで木原の部下の女だった。
『また一方通行ね』
「またヴォーラか」
『ナンシーよ。あと、ヴォーラじゃなくてヴェーラだからね』
「どォでも良い。で、何だ。木原はいねェぞ」
『やっぱりか……そうだろうとは思ってたけど』
「連絡が付かないのは相変わらずか」
『それだけだったらよかったんだけどね』
ヴォーラ改めナンシーが、不安そうに声を低めた。
『今回の任務はある子供と関係があるんだけど、その子がちょっと厄介なのよ』
「厄介って何が」
『垣根帝督。あのナンバーワン坊やの関係者だったの。それで彼キレちゃったらしくてね』
「……あ? 垣根の関係者の、子供?」
あのメルヘン野郎、実は病気の弟がいて――とかいうオチだったのか
と、一方通行が変な妄想をしていると、電話の向こうのナンシーが忌々しそうな声を出した。
『今猟犬部隊の分隊が次々襲われてるの。お陰で大損害よ。
冗談じゃないわよ。なんでクローンのガキなんか……』
彼女がぺろりと口走った言葉に、一方通行が反応した。
「クローンのガキ……最終信号?」
『あ、やだバレちゃった? まあ別にいいけどね。
八月にあの子の救助を押し付けたでしょ。その後仲良くなったらしいわ。
それで猟犬部隊が手出したもんだから、取り戻すのに必死よ、必死』
「えェーっ、第一位様ってロリコンなのォ? きもォーい」
『あんたのソレも大概だからね』
ナンシーはにべもなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:28:48.24 ID:bVxhRllno<>
『こんな時にリーダーは捉まらないし……どうしちゃったっていうの……
まさかもう垣根に殺されちゃったなんて事にはなってないでしょうね……』
「……まさか」
ナンシーの心配に、まさかと言い切れる根拠は特にない。
あるのはただ、あの男がそう簡単には死なないだろうという希望的観測と経験則だけだ。
木原が猟犬部隊の仕事に出たまま帰って来ない。
部下からの連絡にも応答しない。
しかも、あの垣根帝督を敵に回しているような匂いさえする。
ますます嫌な予感が募る。
「まさかだろ」
通話相手というよりはむしろ自分に言い聞かせるように、彼はもう一度言った。
当然ナンシーが返答して来る。
『そうだと、いいんだけど……』
心細げな女の声に、こっちの気まで落ち込んで来た。
「――そォだ。木原は死ンでねェし、こっちには戻ってねェ。切ンぞ」
今度はこちらから一方的に切った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/25(日) 01:32:13.65 ID:bVxhRllno<>
つづくつづく
原作木原の何が良いって、あの追い詰められてからの凄まじいまでの小者臭ですよね
あれだけ強敵だったくせに、あの無様な敗北っぷりは何なのwww
己の信念を貫いてカッコよく散るタイプの悪役より理想的だと思います
このスレでは敵じゃないから、無様に死んだりはしないけども <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/25(日) 01:39:40.33 ID:talkEBQAO<> 乙乙
華々しく散ってくれるだろうと思ったら急にあの小物感、いやあ面食らった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/09/25(日) 01:48:50.94 ID:6XDyuTpAO<> 乙。
確かに木原くん死ぬのは呆気なかったけど命ごいとかがなかったのはよかったと思うよ。
天井みたいな小物結構好きだけど。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/09/25(日) 01:59:43.67 ID:fdG9SL3I0<> 無様にはってことは‥‥アレイスターめ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>scpbd621<>2011/09/25(日) 02:42:59.86 ID:7iqrIU5B0<> 天井と並べるほどの小物だったなwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/25(日) 04:13:41.39 ID:PhhJu0RW0<> >>642乙
木原君無茶しやがって… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/25(日) 10:59:31.18 ID:v2GImHbLo<> ☆「垣根を倒したから木原君がメインプランだ」
木原「」
こうか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/09/25(日) 12:32:42.84 ID:R2ATrGCu0<> >>648 そういうレスすんなと <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)<>sage<>2011/09/25(日) 12:34:03.48 ID:b+cILLE/o<> 神経質すぎ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/09/25(日) 12:44:25.89 ID:xf0AoWtUo<> いや展開予想は書き手さんに嫌われる傾向にあるからやめといた方がいいよ
最悪の場合、萎えて書くのやめちゃう人だっているし……
妄想するのは勝手だけどチラシの裏に書いてろってこと。節度は守ろうな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/25(日) 12:47:31.51 ID:fBHxVmzeo<> まあ予想されて喜ぶ人はごく少数だしな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/09/25(日) 13:05:44.32 ID:C9U4HQvW0<> 展開予想みたいな痛いレスはスルー推奨 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/09/25(日) 13:24:11.59 ID:ewKnf5CJo<> 俺ごく少数派だったのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/25(日) 15:17:13.22 ID:3QVGZ/yRo<> はたしてそれは展開予想の範疇に入るのかと小一時間ウェブで調べてみたいわ
なにはともあれ乙
予想外のシリアス展開の予感に開くスレを間違えたんじゃないかと思ってびっくりした俺ガイル
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/09/25(日) 15:22:26.93 ID:v2GImHbLo<> あーわるい 正直こんなもんまで展開予想扱いされるとは思わすに書いたわ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/25(日) 16:34:13.02 ID:0LND4tG10<> 木原くンが主人公なンだから死ンじゃ駄目だろォ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/09/25(日) 16:47:55.59 ID:p65zO6AAO<> ばーか、木原君はヒロインだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/25(日) 19:30:17.40 ID:tIBDsxQbo<> >>648は予想なんかじゃなかろうて
だが>>598は[ピーーー]、氏ねじゃなくて[ピーーー]むしろ[ピーーー] <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/25(日) 21:38:27.38 ID:UXMB2Ol1o<> >>648
この程度はネタだろう… <>
◆goBPihY4/o<>sage<>2011/09/25(日) 21:51:15.29 ID:bVxhRlln0<> むしろ>>658の方が的確に展開予想してくれちゃってるんですけど(怒) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/09/25(日) 21:53:51.65 ID:tNkHfX0Zo<> お前、ホモかよぉ!?(驚愕) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/25(日) 21:56:53.79 ID:0DyeAabDO<> な、なんだってー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/25(日) 22:23:21.55 ID:YlN4Jt8mo<> 浮かせる程度は威圧感があるのに変な自治厨が湧くよね
最初の悪乗りがまずかったのかなぁ。だったらすぐに消える筈だけどさ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/25(日) 22:49:26.71 ID:talkEBQAO<> 木原くン女だったのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/26(月) 01:02:29.81 ID:Tf0CAj3Xo<> 木原ちゃン・・・・ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:06:53.21 ID:8uAP4Ydjo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「あの、木原さ」
メコ。
可哀想に、部下は顔面を殴られてしまった。
欲求不満なリーダーによって。
「話し掛けんじゃねぇよ〜〜〜今イライラしてんだからよぉ〜〜〜〜
あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:08:01.42 ID:8uAP4Ydjo<>
先程とは打って変わって不機嫌になってしまった木原は、焦れた目で窓の外を眺めていた。
「クソ、もっと近くで見てぇ。何で俺がここで待機なんだよ」
彼の虫の居所が悪いのは、現れた天使を間近で見物できないせいだ。
最終信号はもう放っておいても問題ない。
後は下僕(部下)に任せてさっさと野次馬に出掛けようと思ったのだが、
その矢先に上司から電話が掛かって来た。
不測の事態に備えてそこを動くなと釘を刺されてしまったのだ。
埃っぽいオフィスに釘付けにされてしまった木原は、途端にイライラし出した。
部下たちは戦々恐々である。
(たった今、あの天使様と侵入者の野郎がガチンコやってるだろーってのによ、
何でここでガキのお守りになるかね)
窓の外では神々しい光が瞬いたり消えたりしている。
今まさに大乱闘の途中、といった雰囲気だ。
こちらからでは雰囲気程度しか窺えないが。
「クソ〜〜〜クソ〜〜〜〜〜アレが終わるまでは動けねーんだろーな〜〜〜〜
でも終わってからじゃ意味がねーんだよクソ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
猟犬部隊のメンバーは悟っていた。
今喋ったら前歯四本折られると。
ここはなるべく目立たないように、じっとしているしかない。
「あーあーあーあーっ! もう誰でもいいからブン殴りてぇ気分だわ」
勘弁してくれ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:09:06.03 ID:8uAP4Ydjo<>
もしここに一方通行がいれば、真っ先に余計な口を出してサンドバッグになってくれただろう。
だが、残念ながら彼はいない。
誰が次の犠牲者になるか。
自分でない事を隊員たちが祈り始めたその時だった。
「いた! あの子だ!」
人間のクズのたまり場に、あまりにも不似合いな澄んだ声が響き渡った。
そこにいた人間の視線が、一斉に一点へ集中する。
彼らが睨み付ける先、フロアの入り口には、声以上に不似合いな姿の人物が立っていた。
修道服のような服、というより修道服らしい。
しかし真っ白で、高級なティーカップのように金の縁のついた服を着た、十四歳程度の少女であった。
フードの下から垂れる長い髪は、綺麗な銀色。
深い碧眼、白い肌の、一見して外国人だと分かる美しい少女がそこにいた。
全員あっけにとられた。
誰だこいつ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:09:54.50 ID:8uAP4Ydjo<>
突如としてその場に現れた白いシスターは、最終信号の元へ駆け寄ろうとした。
だが、当然猟犬部隊の隊員に捕えられて阻まれてしまう。
「放して! 私は友達を助けなくちゃならないんだから!」
「あ? そのガキのダチか?」
暴れるシスターを抑えつけながら、猟犬部隊の一員が尋ねた。
「違うけど、その子がカギなの! その子に何かが起こってる」
もがきながら、銀髪の娘が隊員に向かって怒鳴っている。
「外の天使が見える? あれを生み出した核はその子かもしれないんだよ!」
木原は、改めてそのシスターを見た。
間抜け面した純朴そうな少女である。
しかし知っていた。
最終信号とあの天使に関わりがあると。
そして、どういうわけだかここまでたどり着いた。
彼はゆっくりと椅子から降りて、少女の手元を指差した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:10:55.57 ID:8uAP4Ydjo<>
「おい」
一言で部下は理解したようだ。
一人歩み出た猟犬部隊の男が、シスターの手に握られていた携帯電話を引っ手繰ると、踏みつぶして破壊した。
「ああっ! ――」
通話中だったらしい通信機器を壊されて、彼女の顔が青ざめる。
「ひどい! 何するの!」
「いや、当たり前の処置だろ」
「うう……これじゃ肝心の核を見つけても、外郭が解けない……」
「あ? 外郭? 一体何をする気だ?」
そう、このシスターは何かする気なのだ。
最終信号に。
あの天使をどうにかする気なのだ。
出来る気でいるのだ。
「つーかよ、テメェはどうやってここを嗅ぎつけた?」
猟犬部隊の待機ポイントは、学園都市上層部でも一部しか把握していない機密事項である。
それをいかにも一般人の少女が見つけ出せるはずがないし、
そもそも最終信号をあの天使と結びつけられる根拠を知っているはずがない。
あの現象については、木原ですらほとんど意味が分からないのだ。
「どうやってって、気配を追って来たんだよ」
「気配?」
「そう、天使を構築する魔術の気配」
「だって、私は魔術師だから」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:11:56.87 ID:8uAP4Ydjo<>
「………………」
「………………」
「…………はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ?」
木原は大きな声で聞き返した。
これは、何だかまずい。
明らかにバカげた妄想なのに、今魔術だの何だの言われたら、そのまま信じてしまいそうな心境なのだ。
現に、普段ならすぐ乱入者の眉間にぶっ放しているような状況で、木原は彼女に続きを促すような視線を送っている。
「説明しても多分あなた達には分からないし、説明してる暇もないの!
とにかく放して! あの子を見せて! 早くしないと、ひょうかが危ないんだよ!」
「何を言ってんだこいつは」
シスターの腕を掴む隊員が、呆れたような声を出しながら拳銃を抜いた。
伺うように木原の方を見て来る。
消しますか? という意味だ。
腕を組んで眺めていた木原は、首を横に振って言った。
「面白いじゃねえか。やらせてみろよ。放してやれ」
「え、ですが――」
「おら、レディを待たすんじゃねぇよ」
木原にローキックをかまされ、隊員の腕が弛んだ。
隙間をすり抜けて、少女は最終信号の元へ駆け寄る。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:12:59.88 ID:8uAP4Ydjo<>
この意味不明の喋るティーカップが何をしようとしているかは知らないが、
学習装置など触った事もないような子供に、最終信号をどうにかできるとは思えなかった。
だが、やらせてみても別に損はない。
もし彼女が失敗したら、それはそのままでいい。まずいところを目撃してしまった彼女を殺して任務完了だ。
そして、もし、彼女が『解いて』しまったら?
――面白い事になるが、任務の方も問題ない。
彼女を殺して、最終信号をもう一度学習装置に掛ければいいのだ。
どちらにしても少女二人の命運は尽きている。
大分可哀想な話である。
クローンのそばへ辿り着いたシスターは、彼女を優しく床へ横たえて、観察するようにじっと黙って見詰めた。
「やっぱり。この子がすべての核……!」
こぼれるように少女の口から出た言葉に、木原は反応した。
「核?」
ほとんど自分への確認のような調子で、シスターは答えた。
「うん。基本は天使の構築。形のないチカラを人のイメージに押し込めて、シルエットを作り出す」
形のないチカラというのは、AIM拡散力場を指すのだろうか。
学園都市の能力者たちが無意識に発散にしている力の領域の事だ。
ミサカネットワークで網を掛けて、最終信号が束ねる。
少女の言う推察は、そう解釈する事ができた。
驚いた。この見解は木原と一致している。
科学のかの字も分かっていなさそうな子供と、彼の意見が合ったのだ。
しかし、彼女のアプローチは、木原の辿ったルートとはまるで方向が違うらしい。
この少女には、木原には見えない何かが見えているのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:14:27.50 ID:8uAP4Ydjo<>
木原がふと口にした「AIM拡散力場」という言葉を聞いて、ただ最終信号を見つめていたシスターが彼を振り返った。
「あなたは科学者? チカラの正体が分かるの? 教えて! "脳波を応用した電子的ネットワーク"って何!?」
「それを聞いてどうする?」
「……この現象は、おおまかな所では私の知ってる魔術とよく似ているの。
でも使っている部品や構造がメチャクチャで、魔術の知識だけじゃ手に負えない」
「科学側の専門知識が理解できれば、その問題がクリアできるってのか」
「できる! 難しくてもやらなきゃ! お願い、教えて!
ケータイデンワーが壊れちゃったから、短髪にも教えてもらえないし……」
「短髪?」
先程まで通話していた相手のあだ名らしい。
ひどいネーミングだ。
木原に言われたくはないだろうが。
木原は、彼女の要求に応じる事にした。
漏れて困るほどの秘密ではないし、科学の知識を得た彼女がどのようにして理論を組み立て、
「魔術的に」この問題を解決するのか、是非見てみたかったのだ。
少女から矢次早に投げ掛けられる質問に、木原は的確に答えていった。
ほとんどが彼の専門分野か、それに準ずる範囲の事項だった。
やがて、彼女は大きく頷いた。
「この街には特殊な力が充満しているんだね。それを束ねるのがこの女の子で、
その精神を誰かが無理やり制御して、力をねじ曲げた――」
「誰か」というのはもちろん木原達の事なのだが、彼は知らんぷりして「そうだ」と答えた。
「なら、この子の頭の中の『結び目』を解けばいいんだ!」
木原をはじめ、科学側に立つ人間はそれを『ウイルス』と呼んでいる。
彼女は辿り着いた。
シスターの顔に、希望の光が差し込んだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:15:36.90 ID:8uAP4Ydjo<>
何故もう解決したも同然のような顔をしているのだ。
原因が分かった所で、ここからが問題ではないのか。
それとも、魔術師からしてみればここから先は簡単なのか。
木原は疑問を口にせずにはいられなかった。
「ホドくったってよ、学習装置で刻み込まれた意識はそう簡単に元には戻らねえぞ」
「そう、頭の中にあるしがらみを取るには……『言葉』だね」
「言葉ぁ? 説得するってのかよ?」
急にカウンセラーじみてきた。
チチンプイプイだのやるのかとちょっと期待していた木原は、肩すかしを食らった。
「ちょっと違うけど、近いかな。特別な魔術を使う必要はないかも。
『結び目』に適合する言葉を選んで、聞かせてあげればそれでいい」
まさにその「特別な魔術」とやらを見たかったのだが、出し惜しみされてしまった。
思わず舌打ちしそうになって、木原は何とかそれを呑みむ。
「一番効率がいいのは、『歌』だね。リズムと音程を使って、多重に感情をやり取りできる」
「おいおい。人間の精神をいじくろうってなら、反復学習がまず基本だぞ。
ネットワークに介入するには対応するコードの入力が必須だし、
その場でにゃーにゃー歌った程度でどうにかなるわきゃ――」
「できるよ」
シスターの落ち着いた、澄んだ声に、木原は一瞬言葉を失った。
黙らせられた。そんな気がした。
「祈りは届く。人はそれで救われる。私みたいな修道女は、そうやって教えを広めたんだから!」
魔術師は力強く言った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:16:22.10 ID:8uAP4Ydjo<>
やれるものならやってみて貰おうではないか。
最終信号の正面に膝をつき、歌う準備をするシスターを、木原は邪魔しなかった。
学習装置による洗脳を、何と歌で解除しようというのだ。
ふざけた話である。
一台いくらすると思っているのだ。
歌で無効にされたら、コストに見合わなすぎる。
疑いながらも見守る彼の前で、少女の詠唱が始まった。
さっと風が吹き抜けたような感覚があった。
木原だけではないらしい。
猟犬部隊の隊員たちも、きょろきょろとあたりを見回している。
暖かな空気が、場に広がっていた。
それは、優しいメロディだった。
小さな少女を包み込むように、宥めるように、滑らかに彼女は歌っている。
まるで神聖なものがそばにいるかのような、澄み渡った歌声だった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:16:50.89 ID:8uAP4Ydjo<>
場にそぐわない美しすぎる歌声に、木原は顔をしかめた。
「――胸ックソ悪ぃなおい」
「一番胸糞悪いのはテメェだがな」
戸口から、低い声が侵入して来た。
ぴくり、と木原の肩が動く。
彼はそちらへ振り返った。
学園都市第一位。
最終信号を追ってやって来た、垣根帝督がそこにいた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/26(月) 01:18:26.64 ID:8uAP4Ydjo<>
つづきます
踏みつぶされたケータイデンワーは、誰かさんの私物です
かわいそうに(笑) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/26(月) 01:23:21.92 ID:BnDi2a3Zo<> >>678
上条はどんなIFでも不幸なのなwwwwww
乙です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/09/26(月) 01:33:20.57 ID:Tf0CAj3Xo<> 乙
上条さんの携帯は犠牲になったのか・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<><>2011/09/26(月) 01:38:05.58 ID:6CR73FXAO<> ていとくん逃げてー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 03:12:40.88 ID:dcH4m5pro<> 乙ー
一応ていとくん対策はしてるんだろうけど、どう圧倒するのかが気になるところですな
次も期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/26(月) 04:03:49.57 ID:3ZQgbK59o<> タイトルの第一位っていうのはていとくんのことだったんだよ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 04:59:25.27 ID:47QRXGHPo<> なん…だと…? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/09/26(月) 07:18:27.62 ID:b1LMAcX2o<> 一方通行「えっ」
乙なんだよ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 08:40:02.49 ID:+SLNaf6IO<> >>683
そこに気付くとは・・・大した奴だ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/09/26(月) 09:03:48.25 ID:JUDnufdW0<> インデックスさんきた!
これで勝つる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/09/26(月) 10:15:50.39 ID:caxSUM6N0<> インさんまじインさん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 16:16:18.48 ID:FNkM9rrDO<> インデックスさんマジ聖女 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 18:48:34.06 ID:OwNNeGOeo<> これ木原くんが殺されたら一方さん原作以上のダークサイドに落ちそうだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/26(月) 20:58:43.46 ID:olaFKKLAO<> 上条さんェ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/09/26(月) 22:41:34.34 ID:mEFxNNe50<> 木原くンが科学者みょうりにつきて、一方さんもダラダラ出来て、他の皆も幸せになるには、、、
ていとくんをLV6にするしかないんじゃね? >>2-3ってけっこう奥が深いな よく考え込んだSSだな・・・ <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:33:53.92 ID:s6seuxzCo<>
――――――――――――――――――――→
近所のコンビニに、缶コーヒーを買いに行くのだ。
という大義名分を自分に与えて、一方通行は外へ出た。
研究所には売店がある。
だからわざわざ外へ出掛ける必要は無い。
が、好きな銘柄を扱っているのは、ここを出て少し東へ行った所にあるコンビニだけなのだ。
心配で居ても立っても居られないから外に出てみたわけではないのだ。
缶コーヒーを買うという大いなる使命を果たさんがため、彼は夜道を行くのである。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:34:24.57 ID:s6seuxzCo<>
門を出た。
さてどこへ行こう。
コンビニの方へ歩けばいいのだ。当然だ。
コンビニでコーヒーを買った後はどうしよう。
決まっている。帰って飲めばいいのだ。
やる事は決まり切っているし、単純だ。全部済んだら寝ればいい。
小雨の降る道を足早に進む。
もうすぐコンビニだ。コーヒーだ。
「コーヒー、コーヒー、なぜ黒いィ〜♪
それはおかかの……」
「一方通行……」
後ろから、消え入りそうな声で、誰かが彼を呼んだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:36:05.22 ID:s6seuxzCo<>
首を曲げて声のした方を見ると、黒い装甲服の人間が立っていた。
そのごつい服装には見覚えがあった。猟犬部隊の配給品だ。
声の高さからして女性のようである。
「まァたヴェーロかよ」
「いい加減にしてよ。ナンシーだって言ってるでしょ。
あとヴェーロじゃなくてヴェーラよ」
「俺になンか用か」
ナンシーは頷くと、一方通行に向かって一歩近寄った。
「木原さんはまだ戻ってないのよね?」
「おォ。なンだよ、わざわざ確かめに来たのか?」
「一応ね。あとはもう、探してない場所は一か所だけ。第七学区の廃ビルよ」
できれば研究所に帰って来ていてほしかった。
そういう願いを込めて、彼女はここまで様子を見に来たのだろう。
結果、木原は戻っていなかった。
ならばその廃ビルに向かうしかない。
「あーやだやだ。絶対第一位もいるのよね。いるわよね。あ〜〜〜、やだ」
全身で拒絶の意思を表現するナンシー。
一方通行は彼女をじろりと睨みつけて言った。
「オマエの任務は何なンだよ。別にそこまで行く必要がねェならほっときゃいいだろ」
「放っておけるわけないでしょ。木原さんが殺されるかもしれないのよ?」
また一歩、ナンシーが寄って来た。
一方通行の腹の底に、ズシリと重たいものが沈み込んで来る。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:37:35.87 ID:s6seuxzCo<>
「……」
「でも私がのこのこ出てった所でまとめて潰されるのは目に見えてるし。
もう、どうしたらいいのよ……」
「……」
「ちょっとでも戦力をかき集めて行きたいところだけど、味方はみんな垣根と侵入者にやられちゃってて……」
「……」
「早くなんとかしないと、うちのリーダーが愉快なオブジェに……」
「あァーもォー分かったよォ! 行きゃイインだろ?」
彼女のとめどない愚痴を断ち切るように、一方通行が口を挟んだ。
ナンシーはホ、と息を吐く。
「ただし、俺は巻き込まれそォになったら逃げるからな」
「いいのよ。そこまでアンタに期待してるわけじゃないから」
だったら呼ぶなと言いたかったが、口から出てきたのはため息だった。
「向こうに車があるわ。第七学区まで乗っけてくから」
「はいはい……あァー、めんどくせェ」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:38:16.37 ID:s6seuxzCo<>
すたすたと前を歩くナンシーの少し後を、数歩遅れて付いて行く。
「木原の野郎がそォ簡単に死ぬわきゃねェっつの」
ぶつぶつと不平を垂れる。
前方の女には無視された。
そして、離れた場所で、口先だけでぽつりと呟いた。
だからナンシーには聞こえなかった。
「数多が死ンじまったら……どォしよォ……」
雨はしぶとい。
まだ止まない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:39:00.69 ID:s6seuxzCo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
破壊したドアを蹴ってどかせ、垣根は部屋へ踏み入った。
猟犬部隊の隊員たちは動かない。
警戒しているのか、予想外のゲストの登場に驚いているのか。
そして、ぐったりと床に倒れる最終信号の前には……
歌う修道女。
なんだありゃ?
まあいい。
棒立ちの男達の中心でただ一人、余裕のある笑みを浮かべる白衣の男に、彼は言った。
「ガキを返してもらおう」
「ぎゃははははっ! 何が『返せ』だよ! いつからそのガキはテメェの所有物になったんだ?」
下衆な嘲笑が返って来た。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:40:16.86 ID:s6seuxzCo<>
取り合わず、垣根はもう一度呼びかけた。
「帰せ。そのガキを……日常に」
「ハッ。今更何を善人ぶってんだか」
「俺がどんな大罪人であろうと、そのガキが普通に安全に暮らしていく事とは関係ねえ」
垣根の言葉に、顔面の半分を刺青に染めた科学者は、つまらなそうに息を吐いた。
初めて会った時とまるで印象が違う。
暗部に関わっている時点で碌な人間ではない事は分かり切っていたのだが。
「なるほど、それが本性か」
垣根は静かに言った。
「クローンを殺した罪を償えだとか何だとか言っておきながら、
テメェの今の行動は結構な外道っぷりじゃねぇか」
小さな、何の罪のない少女を洗脳装置に掛け、むりやり脳にウイルスをブチ込む。
かつて同じ事をされそうになっていた彼女を、助け出そうとしていた張本人のはずなのに。
そうすれば垣根も救われると炊きつけた男のくせに。
「俺は一応、学園都市を守るためにこの任務を遂行してるだけなんだけどなあ」
そんな崇高な事をしているという自覚も自意識も全くない様子で、木原はぽりぽりと後頭部を掻いていた。
垣根の心中に、得体の知れない黒い感情が沸き上がる。
「なら、そのためにガキはどうなってもいいってのか」
「まさか。そいつ死なせたらこっちが始末書だよ」
「死ななくてもだ。最終信号の脳は? 人格は?
そんな狂った機械に掛けやがって、元に戻らなかったらどうすんだよ?」
「別にどうも? 『殺すな』以外の注文は出てねぇな」
「テメェ……」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:41:49.62 ID:s6seuxzCo<>
ここまで手を出さずに聞いてやったなら、垣根にしてはよく我慢した方だろう。
彼の手から未元の刃が発生し、しっかりと木原の方へ向けられた。
「流石はあのレベル2の育ての親。大したムカつきっぷりだ」
垣根と最終信号を引き合わせた、黒幕。
原因。
発端。
落ちて行くばかりだった少年に光を指し示した男は、
どうやら彼を利用していただけらしい。
少しは見どころのある大人がいるのかもと思っていたが、残念だ。
「決めた。雑魚の命なんざ興味はねえが、テメェは潰すぞ」
まず、最終信号と、ついでに傍で歌うシスターらしき少女も一緒に、
未元物質の壁を作って巻き込まれないように守る。
突然厚い壁に覆われても、銀髪の少女は驚いた様子もなかった。
壁の向こうから変わらず歌声が漏れ出てくる。
一種のトランス状態にあるのか、状況の目まぐるしい変化にも揺るぐ様子はない。
ただの直感だが、彼はあの歌が最終信号にとって悪いものではないと判断していた。
そして垣根は、自ら生み出した刃を標的めがけて発射させた。
宙を走る未元物質は真っすぐ木原の喉元へ飛び――
「――駄目なんだよなぁ」
――逸れた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:43:21.44 ID:s6seuxzCo<>
「ぐえええぇっ!?」
間抜けな悲鳴を上げて、敵が倒れた。
木原ではない。そのすぐ隣の隊員だ。
確かに当たった。敵を倒した。
だが垣根が狙いを定めていた男ではない。
「……?」
一瞬、自分が演算を間違えたのかと思った。
しかし、能力を行使する上で垣根がミスをした事など今まで一度もなかった。
違う。間違えてなどいない。それなら――
「テメェ、何した……」
動揺する彼を口元に笑みを浮かべて観察する木原に、唸るような声で尋ねる。
「なんだ、結局味方に当たっちまったよ。こりゃ調整に時間がかかるな」
木原は答えず、ぶつぶつと独りごちた。
「調整?」
「あーあー、なんでもねえよ。おいテメェら、その死体ちょっとどけとけ。邪魔だ」
「まだ生きてますが」
「ほっときゃその内死体になるだろ」
白衣のポケットに手を突っこんだまま、木原は隊員を顎で使っていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:44:17.08 ID:s6seuxzCo<>
その彼に、隊員の一人が語りかける。
「第一位の方は……どうします?」
「邪魔すんなら殺すしかねえだろ」
「こ、殺せますかね?」
「お前から死ぬか?」
リーダーのひと睨みで、隊員はすごすごと引き下がった。
「っつかよ、この手の努力しちゃってる人見るとイライラすんだよねえ」
ふーっと息を吐きながら、木原が垣根の方へ向き直った。
「この子を守れば善人の仲間入りでーすってか? 何でテメェがヒーロー役なんだよ。
今まで何人殺したか自分で分かってんのか? クズが」
「二万三十一人。ま、どうでもいいクズもカウントすりゃもっとだな」
「その人殺しが罪のない少女を守るために立ち上がる、と。虫唾が走るぜ」
「どうとでも言えよ」
確かに彼は、二万人を超える何の罪もない少女たちを殺した。
死に向かう彼女たちを止める事も考えずに、
ただの人形だと決めつけて、ただの実験動物として扱って、
何の感情も抱かずに殺しまくった。
だが、そんな事は関係ないのだ。
今また理不尽に傷つけられる少女をそこから救い出すことと、
救おうとする人間がどれだけ汚れているかは関係ない。
もしあったとしても後で考えればいい。
今は関係ない。
何故なら最終信号は……
「同胞を殺した自分に、臆さず笑いかけてくれたまるで天使のような女の子だから。
テメェがガキを守りたい理由はそんなとこかな?」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:45:26.32 ID:s6seuxzCo<>
木原の問いに、垣根は答えなかった。
垣根は自分も大概クズだと最近自覚してきているが、
だからと言ってこんな輪を掛けたようなクズ男に語って聞かせるほど、彼の今の心境は薄汚れてはいない。
木原に告げたいのはただ一言。
「最終信号をかえせ」
「やれやれ、夢中だな。もしかしてお前、最終信号が本気で懐いてくれてるとでも思ってんの?」
「――何?」
「そんなわけねぇだろ。っつか、テメェで疑問だっただろ? 何であのガキがテメェから泣いて逃げねぇのか。
何だったら教えてやろうか」
「テメェが……あいつの何を知ってるって?」
攻撃の準備をしかけていた垣根の腕が、止まった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:47:01.31 ID:s6seuxzCo<>
トラウマ、罪悪感、絶対に失いたくない心の支え等々。
木原は人の心の一番弱い所を突いて隙を作る戦法を得意としている。
また、戦法とは別にして、そういうのを趣味としている。
彼は今、ある目的のために時間稼ぎをしようとしていた。
(そもそもよ、どいつもこいつも高位能力者を見るとそれだけでビビりやがるからダメなんだよなぁ)
(こいつらだって薄皮三枚くらい剥いでやりゃー、ただの小便臭ぇガキだって事に何で気付かないかねえ)
垣根帝督の実力は本物だが、「相手が第一位だ」と認識した時点で戦意喪失した敵が少なからずいた事も確かである。
対して木原は超能力開発のエキスパートなので、能力者の扱い方を良く分かっている。
落ち着いて対処すれば、できない事はないはずだ。
頭の中であらかたの方針を決め、木原は彼の言葉の先を待つ垣根を見た。
親指で最終信号の方を指し示す。
「あの最終信号ってガキには、もともと学習装置で特殊なプログラムが埋め込まれてる。
自己防衛のための本能に近いものだ」
「危険を察知するとマニュアルに従って逃げるってやつか? そいつに限らず妹達は全員叩き込まれてるはずだ」
「それも当然あるんだが、もっとえげつねえのがあったんだよ。
他人の庇護欲を刺激する仕草、言動を無意識的に選び取って実行するってやつだ」
「庇護欲……」
じっと聞き入る垣根の姿を見て、木原は吹き出しそうになった。
(そんな気真面目に聞き返してねえで、とっとと掛かってくりゃお前の勝ちなんだぞ? バカな奴)
だが、表面上はあくまで「余裕を持った」、「勝ち目の見えたような」、「嘲笑」でなければならない。
気付かれないようにこちらの優位性を刷りこむ。
相手が手を出して来ない今の内に立場を確立させるのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:48:42.66 ID:s6seuxzCo<>
「言ってみればまあ、人工ぶりっ子って感じだな。『BABY_FACE』っつーんだけどよ」
ターゲットの嗜好を分析し、愛おしさを感じる言動を選出する。
触れ合いを求める者にはスキンシップ。
そこそこの距離感を求める者には、一歩離れた場所で笑いかける。
無意識に他人の心を内側から握り取るそのプロセスは、かわいらしい顔で親を魅了する赤子を思わせるものだ。
関わった人間に「守りたい」と思わせる行動を取る。
一緒にいればいるほど手放せなくなる。
「しかもガキにその自意識はない」
だから一緒にいる人間にもそれが伝わる事もない。
ただただ、自分達の心が寄り添って絆が生まれているのだと思い込む。
「奇妙な依存関係の出来上がりだ」
垣根は、ただ、黙って聞いていた。
納得がいくような、いかないような。
変な気持で聞いていた。
「それが、最終信号に植え付けられた、自衛プログラム……」
「『自衛』っつーくらいだからなあ。発動するタイミングは最終信号が身の危険を察知した時なんだろうな?」
つまり。
少女が笑いながら垣根に語りかけて来たのは。
会いに行く度に喜んで飛びついて来たのは。
実は『BABY_FACE』プログラムに従い、妹達にとって一番の危険人物である垣根を怒らせたりしないよう、
自動的に媚びを売っている状態だったのだ。
「テメェとの絆も人工物ってわけだ」
垣根の表情が愕然と崩れる。
堪え切れず、木原が大笑いした。
「ギャハハハ! かわいくてかわいくて仕方なかっただろぉなあ?
きゃっきゃ言いながら後ろ付いてきてくれたんだろ?」
「残念ながらそのかわいさはわざとだ。しかも下心がねぇから見破れねえ」
「ガキがテメェに懐いていればいるほど、それは警戒心の強さの証明になるんだよ」
「あのガキにとってテメェの存在がトラウマそのものってワケだ! 生きてるだけで障害だな! ヒヒ」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:50:34.16 ID:s6seuxzCo<>
下卑た笑いをぶちまけるようにして、木原は垣根をなじった。
「もしかして忘れちまったんなら思い出させてやろうか」
彼が一番言われたくない言葉を、しかし抗えない事実を、わざわざ選んで口に出す。
『テメェはかつてゴミでも見るような目で、妹達を虐殺したんだよ』
「誰がそんな人間に懐くかってんだよ、バ〜〜カ!」
「――――」
垣根の顔から感情が消えた。
多分、人生の中で一番素早く正確に、彼は未元物質発現の演算を行った。
有無を言わさず、相手を引きちぎり、叩きつぶし、引き裂く攻撃。
バラバラになりながら鋭く固まって渦巻いて、大量の未元物質が笑う木原の方へ飛んだ。
「遅えよ。時間切れ」
それなのに。
垣の渾身の一撃は、木原に届かなかった。
未元物質はいきなり軌道を逸らし、最終信号の方へ向きを変えた。
立ててやった壁に守られない方向から、未元物質が彼女へ襲いかかる。
「なっ――!?」
咄嗟に自分の体を突き出して、歌う少女と倒れる少女を庇う垣根。
生身に叩きこまれる衝撃に、彼の足ががくりと崩れた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:52:35.06 ID:s6seuxzCo<>
「ナ〜〜〜イスブロックぅ〜〜〜〜〜」
ぱちぱちと、不良科学者が拍手をしている。
「はあっ……ぐ……未元物質……が……ッ?」
何とかその場に立って、垣根は混乱する頭で考えた。
直前に聞いた話をどうにか頭の中から追い出そうとする。
「わかんね―だろうな。じゃあまぁ、ついでだから説明してやろうか」
木原には傷一つ無かった。
痛みに耐える垣根を眺めて、悠然と語る。
「こうして白衣着てねぇとどういうわけだか誰も信じてくれねぇんだけど、俺って実は研究者なわけ。
専門分野は能力開発な」
彼は白衣のポケットから右手を出し、その手で掴んでいる小さな装置を見せつけるように持ち上げた。
「だから、こういうチートグッズを偶然持ってたりするんだよ」
木原の手に握られたそれは、『AIMジャマー』と呼ばれる対能力者用の演算妨害装置の試作品だった。
大まかな仕組みは、周辺で使用された能力を関知し、その演算プロセスを解析して、
能力に適合した妨害音波を編成する、というものだ。
能力開発分野の専門家だから持ち歩いていた、能力者に対抗し得る秘密兵器である。
「さっきテメェは、ガキのために壁を作ってやったし、その後俺の部下を一人肉塊に変えたりしてただろ。
その時に発動した未元物質のパターンをコイツに読ませたんだよ。
んで、ありがたーい『BABY_FACE』のお話を聞かせてやってる間に、解析処理が走ってたって訳だ」
「クソが、そんなオモチャで……」
「何が出来るかって? さっきみてぇにテメェの能力を利用して、最終信号を殺してみるとか、そんなもんだな」
鼻歌でも歌いだしそうな調子で、彼は答えた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:53:19.93 ID:s6seuxzCo<>
嘘である。
本当は、この試作品で未元物質を操る事など出来ない。
確かに木原の方へ飛んできた攻撃を退けはしたが、それが最終信号の方へ向かって行ったのは偶然である。
素知らぬ顔をして狙ってやったような事を言っているだけなのだ。
そもそもこの小型ラジオのようなちゃちな代物で、レベル5の演算にそこまでの影響を与える音の波長など計算できないし、
その音波を出力するだけのスペックもない。
そして、「周辺で発動された能力の解析」と言っても、一回や二回のサンプルパターンでは足りない。
せいぜいが、ちょっと軌道をずらせるかも、程度の抵抗である。
普通なら少し頭を働かせれば分かる事だった。
木原の部下たちも何かに気づいたように顔を見合わせている。
大体、こんなちっぽけな電子機器で、学園都市第一位の能力を乗っ取るなど、
何だか無理そうだと素人でも勘で考え付きそうな話である。
だが、今の垣根は普通ではなかった。
混乱していた。
動揺していた。
そのために、木原が彼の傷口をほじくり返しておいたのだから。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:54:21.48 ID:s6seuxzCo<>
垣根の精神は慣れない攻撃に揺れに揺れていた。
まともに判断力が働いていない。
考えているつもりでも、思考がまとまっていない。
本人は冷静な気でいたが、実態はまるで駄目。
目の前の事態を、ただ目で追うだけで精一杯だった。
だから、眼前の男の言う事を鵜呑みにしてしまう。
つい先ほどろくでもない嘘つきだと知ったばかりだというのに。
その気になれば、未元物質を操って最終信号に当てられるという。
彼の力で少女を殺せるという。
もう未元物質は使えない。
迂闊に能力を使うと自分に帰って来るかもしれない。
もっと最悪な事に、最終信号を傷つけられるかもしれない。
その状況で、垣根は初めて自分の体だけで闘う事になる。
邪魔をしてくる無能力者と闘う事など初めてだ。
回らない頭でどうにか考え付いたのは、「あのAIMジャマーをどうにかしなければならない」という曖昧な指針だけだった。
「う、おぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!」
垣根はジャマーを奪おうと、とにかく突っ走り、木原へ飛びかかった。
だが、突進してくる少年を見ても、木原の余裕に変化はない。
手に持ったAIMジャマーを上へ放り投げると、
垣根の拳をいとも簡単にひらりと避けて、カウンターのパンチを叩き込んだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:55:15.70 ID:s6seuxzCo<>
垣根は、とてつもない超能力を持つ事を除けば、ただの頭のいい高校生でしかない。
能力の使用が制限された今、身体能力で見れば彼は普通の男子高校生だ。
生身での戦闘に慣れている木原には、手も足も出ない。
毎日のように彼に殴られている一方通行の方が、まだ受け身が上手いかもしれない。
顔面を思い切り殴られてよろけた垣根は、背後にあったスチールラックに突っ込んで派手な音を立てた。
落ちて来たジャマーを片手で受け取り、倒れるラックと垣根の方へ、木原がにやにやと語りかける。
「おいおい痛そうだな。大丈夫かぁ?」
「……っ今のはノックか? 痒みすら感じねえな」
「棚に言ったんだよ」
右手を握って、開いて、木原は拳の調子を確かめる。
大きく振りかぶって、やっと立ちあがった垣根を沈めた。
一方的な虐待が始まった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/09/27(火) 01:56:05.50 ID:s6seuxzCo<>
つづくぜホイ
木原が垣根をいじめるシーンだけで10レス超えか…
こういうのばっかり熱心に書く
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/09/27(火) 01:57:31.91 ID:cUcPscIPo<> 乙ホイ
これはなんとも斬新なヒロインですね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/09/27(火) 01:58:35.48 ID:U1NHbpDW0<> >>1乙 木原くン、おっとな〜 マジかっけーぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 01:59:34.66 ID:HVxBtohDO<> 乙!
ミサワも凌駕する木原くンの精神攻撃すげえ
一方さんが心配してるシーン見てたせいか落差で目から汗が…
垣根くんマジ頑張れ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/09/27(火) 06:50:48.01 ID:RYfphwZO0<> 乙
一方さんマジツンデレ
木原くンは相変わらずえぐいことするなあ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 07:05:39.56 ID:J4o1OhLDO<> 乙!
>「数多が死ンじまったら……どォしよォ……」
思わず動揺する位キュンときた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 07:31:12.97 ID:KLAe7gkIO<> 一方さんマジ天使 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 08:14:08.50 ID:aHDVMa5Qo<> なんだろう垣根のほうがヒロインに見えてきた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/09/27(火) 08:58:07.30 ID:xtsmEU9AO<> 乙
こんなヒロインがいるかい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 11:25:32.69 ID:B06d0mjFo<> サドっ子な木原くンに萌えた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/09/27(火) 16:33:51.66 ID:QWJHjBaAO<> やっぱ外道な木原クンは輝いてんのな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 16:52:27.20 ID:jnZzgwYDO<> 乙
ていとくんにも負けてほしくないし、木原くんも死んでほしくないなぁ…
一方さん助けて <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)<>sage<>2011/09/27(火) 18:52:26.58 ID:LsGlg63Ko<> なんか途中から福本絵で情景が浮かび始めた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 23:27:57.32 ID:zsqlyYKUo<> 俺にはショタセラレータしか見えない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/28(水) 22:33:42.76 ID:nCzbHpZ50<> おおお 何という続き気になる展開!!!
木原くんが木原くんらしくてイイ…!そんで一方さんがすげーかわいいなーー
でも垣根も頑張れと思います <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/28(水) 22:41:33.60 ID:Uwbe2tyDO<> どっちを応援すればいいのやら <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/09/29(木) 03:01:17.82 ID:5qzl0reAO<> 木原くんが死ぬのは嫌だし一方さんが間に合えば安心だけど
ていとくんがまた一方さんにやられるのもな… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/29(木) 20:55:17.60 ID:G/iRheono<> まだ方向性が分からないから怖い
伏線がどう生きるのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/30(金) 00:50:39.52 ID:P1iA9oxho<> 一方通行間に合ったら間に合ったでどうすべきか混乱しそう <>
◆goBPihY4/o<>sage saga<>2011/09/30(金) 07:44:44.53 ID:29Whbkz+o<>
今日って原作木原の命日ではありませんか
投下はできないけど記念パピコ
あれは日付が変わって10月1日だったんじゃないかって気もするけど <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/30(金) 08:10:59.79 ID:ypygWWTvo<> 南無南無 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/30(金) 12:05:33.15 ID:0le+jwbDo<> はせがわ〜 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/30(金) 19:43:47.04 ID:A5j2mORIO<> 大気圏突破中に日付変わってたら命日が二日になるかな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/30(金) 20:08:05.79 ID:zBHxG5Oa0<> 「おいおい痛そうだな。大丈夫かぁ?」
「……っ今のはノックか? 痒みすら感じねえな」
「棚に言ったんだよ」
話のストーリーからこういう会話までおもしろすぎる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/09/30(金) 21:34:23.38 ID:oehgaqyw0<> 木原くんは死んでなんかないよ 考えるのをやめただけだよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/01(土) 07:17:40.93 ID:CDROJ70Ho<> つまり宇宙ゴミとして再来するのか木原くン、胸熱 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/01(土) 17:19:56.96 ID:bW/KsZiPo<> >>734
センスあるよな
裏山鹿 <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:35:09.65 ID:dMPKH2EJo<>
――――――――――――――――――――→
決着がつこうとしていた。
科学の天使の出現は、あらゆる魔術的な要素の拒絶を意味している。
そういう機能がついているのだ。
侵入者は苦しんでいた。
邪魔ものが多い。
ターゲットは目の前なのに、その間に立つ壁を打ち砕けない。
体力は限界だった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:36:05.92 ID:dMPKH2EJo<>
女性的な姿をした、その顔にどこか純粋さを持つ天使は、
ただ機械的に打ちこまれた命令に従って敵を粛清しようとしていた。
その過程で街が、人が壊されていくとしても。
彼女はもともと、平凡な性格の少女である。
が、身体は平凡ではない。
AIM拡散力場の集合によって形成された、擬似的な人間のようなものだった。
性格は温厚で、少し臆病。
スタイルのいい、眼鏡の似合う美少女だ。
現在はプログラム『ANGEL』の発動によって、ただコマンドどおりに動くロボット及び天使に成り果てている。
だが人が死ぬような命令を、天使は拒否していた。
彼女の中の人間的な意思が、絶対的な強制力をもつはずの命令を退けたのだ。
学園都市はまだ天使の完全な制御に成功していない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:36:34.60 ID:dMPKH2EJo<>
天使となる前の少女と、猟犬部隊のアジトで歌うシスターは、友達だった。
だから、天使を元に戻そうとしていた。
歌は静かに最終信号の脳内を解きほぐしていく。
侵入者が倒れるのと、天使が戻るのは、ほぼ同時になるだろう。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:37:29.67 ID:dMPKH2EJo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
外の輝きが揺れている。
暗い夜が戻りかけている。
何とあの自称魔術師、本当に最終信号の『ANGEL』を無効にしつつあるらしい。
あの『歌』は本物だったのだ。
特別なものではないと彼女は言っていたが、それでも魔術の力で学習装置を攻略してしまった。
今すぐとっ捕まえて色々聞き出してやりたい。
しかも、さっさと学習プログラムを掛け直さないと、任務失敗になりかねない。
木原が大変な事になる。
だがすぐにというわけにはいかなかった。
垣根が邪魔だ。
「流石にうざってぇな。いーつまで生きてんだぁ?」
相手の予想外のしぶとさに、木原はいらついていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:38:12.65 ID:dMPKH2EJo<>
まるでゾンビだった。
ほとんど考えられないから、考え付く行動を愚直に取り続けるしかない。
殴られても蹴られても、何度も何度も立ち上がる。
それはきっと、たった一人の少女のためだった。
心の底から彼を慕い、しかし脳の底では憎んでいた少女のためだった。
自分を嫌う人間を庇うなど、おかしな話だ。
垣根帝督という人間自身は最終信号をどう思っているのだろう。
笑いかけられて救われた気がした。
大切な少女だった。
しかし彼を支配するその感情は、
少女がプログラムに従って行っていた「守らせる」という洗脳の結果であるという可能性も否定しきれない。
考えたって分からない。
だからただ守る。
最大の、そしてほとんど唯一と言ってもいいほどの武器を奪われても尚。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:38:51.41 ID:dMPKH2EJo<>
それは以前の彼なら決して出来なかった行為であり、以前の彼には必要のなかった行為でもある。
倒れる訳にはいかない。負ける訳にはいかない。
止まった瞬間、最終信号の命運は尽きるのだから。
そんな結末は許さない。
「流石にうざってぇな。いーつまで生きてんだぁ?」
垣根の倒すべき敵は、後回しにして来た雑務を片づけるような、面倒そうな顔をしている。
人を蹂躙している最中にしては非常識なほど「普通の顔」だ。
そう、自分もそうだった。
こんな顔をして、少女たちを殺して来たのだ。
今更背筋が寒くなった。
こんな人間に懐く子供などいるわけがない。
でも、その子供は笑いかけてくれた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:41:21.67 ID:dMPKH2EJo<>
何度もぶっ飛ばされる内に、時間のせいかどこかスイッチが切り替わったのか、逆に冷静になってきた。
垣根は殴られる衝撃に耐えながら、脳をフル回転させていた。
彼にはもう、学園都市第一位の頭脳しか残されていないのだ。
肉弾戦で木原に勝つ事は考えなかった。
だが、生身で最強の座にいた彼には、武器や凶器の類の持ち合わせがない。
未元物質なしでは木原には勝てない。
AIMジャマー。
ただの、小さな、踏みつければ壊れるようなオモチャだ。
あれをどうにかできれば。
汚い靴底で踏みつけられる屈辱に、込み上げてくる感情を無理やり押さえつける。
そして、能力開発も受けていない無能力者に未元物質をかわされた瞬間を、あえて思い出す。
最初に演算を狂わされた時だった。
未元物質の刃を生み出した時には、何も起きなかった。
彼が木原に攻撃しようとした際に、軌道を少し横へとずらされた。
当てようとした攻撃が当たらないのは驚異だが、考えてみれば起こった現象はそれだけである。
未元物質を精製した瞬間に、ミクロサイズに散らばって誰かの体内に侵入
などといったとんでもない事態は起こらない。
あのAIMジャマーには未元物質のデータが足りていないのだろう。
動きの軌道を逸らさせるくらいが関の山で、「動かす事そのもの」「生み出す事」など高位の行動には干渉できない。
まだ完全に狂わせるには至らない。
垣根が能力を行使すればするほどデータを集められてしまうだろうが、解析が完了するまでなら使用は可能だ。
最終信号や、彼女を助けようとする修道女を傷つける心配のない行動なら、時間制限付きで行えるのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:41:59.12 ID:dMPKH2EJo<>
垣根は、小さな丸い未元物質の『玉』を、木原との間の空中に出現させた。
上手く密閉した球体を作る事ができるか?
これは賭けだった。
そして、彼はこの賭けに勝った事になる。
木原はこの球体に気が付いていたが、生み出す事が出来ても彼に向けて飛ばす事は不可能だと踏んで、それを無視した。
ただのボールについてあれこれ考えるよりも、生み出した本人を叩いてしまった方が早い。
その判断は正しかった。
「それ」が起こる前に、垣根を完全叩きつぶす事が出来たなら、の話だが。
「オラオラ、その小っせぇ玉をこっちにぶつけてみろよ! 間違えて壁の中のシスターちゃんに大当たりしちまうかもしれねえけどな!」
垣根の顔面を踏みつけていた足が、彼の肩を蹴り飛ばした。
「……動かす必要は、ねえんだよ……」
もうどこが痛いのかも分からない。
だが、垣根は確信した。
勝利を。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:42:53.65 ID:dMPKH2EJo<>
「あ?」
『猟犬部隊』は鼻が利く。
木原は場の空気を、その異様さを敏感に感じ取っていた。
勝っているのは、優位に立っているのは彼のはずだった。
だが何かがおかしい。
「未元物質は……世界の物理法則をねじ曲げる」
「太陽光を殺人光線に変えるような……」
「存在するだけで何が起こるか分からない危険な物質」
言いながら、やはり立ち上がる。
足の骨の一本二本くらいならへし折ってやったつもりでいた木原は、それでもその両足で立ち上がった垣根の姿を見て舌打ちした。
「動かさなくても、飛ばさなくても」
「!」
未元物質の『玉』が、宙に浮いたままガクガクと震えていた。
「ただ『在る』だけで何かが起こる」
木原は間に合わなかった。
「テメェ、何を……」
完全に垣根の意識を奪っていれば、この未元物質は消えていたはずだ。
そして、次に起こる爆発も未然に防ぐ事が出来たはずだ。
だが、間に合わなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:44:00.55 ID:dMPKH2EJo<>
垣根は未元物質が世界に与える影響を研究する中で、とある現象を発見した。
未元物質は、特定の条件下において、窒素を集め、固める事がある。
整った環境で、中が空洞の密閉された球体を作る。
その時の未元物質の壁は、外から内へ窒素を通すが、内から外へは逃がさない。
そして……
その実験をしていた時、垣根は大変な目にあった。
彼自身は傷一つ無かったが、研究所が丸ごと吹き飛んでしまったのだ。
説教を食らうわ愚痴を言われるわ色々と弁償させられるわで大変だった。
『窒素爆弾』という架空の爆弾がある。
その昔、ソビエトに「ある」と噂されながら、実在しなかった兵器だ。
その威力は原子爆弾を遥かに上回るという。
実際には存在しなかったので理論は不明だが、窒素を圧縮する事で作るのだという。
垣根はその空想科学にちなんで、この現象を『窒素爆弾』と名付けた。
彼がここで生み出したのは、廃ビル一フロアの窒素で完成できるほどの、とても小さな『窒素爆弾』。
しかし、その威力はかわいらしいものではなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:46:32.82 ID:dMPKH2EJo<>
フロア中に爆発音が鳴り響いた。
木原に耳を塞いだり鼓膜の調子を確かめたりするような余裕はなかった。
体ごと吹き飛ばされ、壁に打ち付けられたからだ。
同様に彼の部下もゴミのように宙を舞い、ゴミのように床に転がっていた。
まだ使える人間が一人でもいるかどうか。
立ち上がろうとした時に気が付いた。
動かない。
意識はあるが重傷だ。
「がっ……は……テメェ……バカか!?」
見れば、垣根自身も先程の爆発で体中血だらけになっている。
最終信号たちは壁のお陰で無事の用だが。
ただ、彼の場合は衝撃波をもろに受けた訳では無く、飛び交う破片のために全身に無数の傷が付いたのだ。
AIMジャマーの影響を掻い潜り、自らも巻き込まれながら、能力を行使した。
狭い室内で爆発を起こすなど自殺行為である。
一歩間違えば、自分が死んでもおかしくない。
それでも、第一位は構わなかったのだ。
砕け散った机や棚の欠片が身体に突き刺さっても。
質の良い服をボロボロにしながら。
立っているのもやっとの状態で。
垣根帝督は言った。
「テメェにゃ一生分かんねえよ」
口の端を流れる物があった。
コレは血か、と、頭の片隅で思う。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:47:14.52 ID:dMPKH2EJo<>
ふらふらと危なげな足取りで、垣根は床に倒れる木原へと近づいた。
彼の横腹ごと、ポケットの中のAIMジャマーを踏み砕く。
「ッッ…………!! ァァアアア……ッ!」
壊れた機械の破片が身体に刺さったようだ。
苦しむ木原を見つめる垣根の瞳に、同情の色は無い。
一切。
「テメェには無ぇんだろうが……裏切られても、騙されても、それでも命がけで守りたいと思うものが!!」
「特にねぇぇぇぇぇよッ! クッソガキが……ッ!」
痛む腹を抑えようとする手すら動かせずに、切れ切れに声を出す木原。
形勢逆転、したらしい。
木原が床で、垣根が上位だ。
(クズが……命がけで守りたいなら望みどおり死んどけっつーんだよ)
(クソッ! クソッ!! 俺が床を這いずる理由が分からねえ)
恐らく、木原には死ぬまで分からないだろう。
人は、誰かを守るために他のすべてをねじ曲げられるという事が。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:48:24.55 ID:dMPKH2EJo<>
垣根を縛る物はもう何もない。
最終信号の身の安全を守るためにすべき事は、あと一つ。
彼の背に、再び六枚の翼が輝いた。
瞬間、ビルの一フロアを覆いつくしてしまうかと思うほど強く速く広がった。
この人物こそが第一位なのだと、見る者に嫌でも思い出させるような、圧倒的な存在感。
見ただけで震えあがって、戦意を失ってしまうような。
これが垣根帝督なのだ。
「ガキがよ……嫌がるんだよな」
「……あ?」
バサバサと確かめるように翼をはためかせながら、彼はため息を吐いた。
「何度も言われてんだ。人を殺すのはやめてって。だから……」
軋む腕を持ち上げて構え、言った。
「あいつには内緒な」
「…………!!」
唇に人差し指を当てる仕草が気障ったらしくて物凄くむかつく。
というような感想を、普段の木原なら抱いただろう。
だが幸か不幸か、そこに注目している場合ではなかった。
木原が見ていたのは、垣根の口に触れている方の手とは逆の手。
彼の左手に集まっている、白くぼやけて光る何かだった。
人の命を奪い得るにしては美しすぎる凶器。
その照準を木原に合わせて、学園都市最強の少年が、一言。
「死ね」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:49:00.09 ID:dMPKH2EJo<>
――――その一言で、木原の脳裏に、ある言葉が強烈に浮かび上がって来た。
木原数多の死によって成立する、第一位の覚醒。
"メインプラン"。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:50:26.20 ID:dMPKH2EJo<>
次の瞬間、けたたましい音が鳴り響いた。
『窒素爆弾』の爆風にあっても無事だった強化ガラスが、粉々に砕け散った音だ。
そして、同時に室内を埋め尽くす別の音があった。
絶叫だ。
木原のではない。
垣根でもない。
気を失っている最終信号でも、歌っている最中の修道女でもなくて――
「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
白く、白く、白い印象の。
「……レべル2……!」
一方通行が、窓を破ってそこへ侵入していた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:51:09.06 ID:dMPKH2EJo<>
人と闘う事を、実力を曝け出すことを散々拒み続けて来た少年が、戦場へと姿を現した。
ガラスをぶち破って登場というエキサイティングな演出付きで。
「カッコイーッ!! 一皮剥けやがって、惚れちゃいそーだぜ一方通行!」
その雄姿に、心にもない惜しみない声援を贈る木原。
それを無視して、彼は廃ビルの床に降り立った。
「下手すりゃレベル5」の頭脳を持つ一方通行は、五感から得た情報を即座に整理・分析する。
@ 幼女失神
A シスター熱唱
B 木原くン血まみれ
C 第一位ガン切れ
(意味分っかンねェ……俺がバカだからか?)
出来ない事もある。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:51:36.78 ID:dMPKH2EJo<>
垣根帝督は、目の前の光景を見て考えた。
もう意識が途切れ掛けていて、考えるなどという事をするだけで億劫なのだが、考えた。
一方通行が、どうやって、何のためにここへ飛び込んできたのかは、知った事ではない。
しかし、分かる事が一つ。
彼は木原の味方だという事だ。
垣根の絶望は終わらない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/01(土) 22:52:19.18 ID:dMPKH2EJo<>
つづくゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
はいはいねぼしねぼし
木原まさかのヒロインポジ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/01(土) 22:53:48.00 ID:FO2lrprQo<> 心にもない惜しみない声援にワロタ
乙!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/10/01(土) 22:54:04.29 ID:Euf58fLWo<> 乙
おもしれーな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/01(土) 22:54:33.64 ID:Wq9CQKYb0<> 乙ゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/01(土) 22:55:15.65 ID:VdB0ZTroo<> 乙
超テンションアガッテキターーーー!!!
って所なのに続きはまた次回かよー!
楽しみにしてる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/10/01(土) 22:56:37.86 ID:hn9B6hdAO<> 乙ゥン
木原くンが予想以上にヒロインだった
後あれじゃ一方通行も状況把握できんわwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/10/01(土) 23:00:32.94 ID:4Nba3IgI0<> 乙ですの
みんなが笑って暮らせるハッピーエンドが来るといいな
垣根視点を見てると垣根を応援したくなるけど一方さん視点を見ると木原君にも助かって欲しいぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/01(土) 23:04:33.13 ID:RhxJxWHDO<> 乙!
垣根がかっこいいssは久々にみた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/01(土) 23:19:57.88 ID:2MUJTbvk0<> A シスター熱唱>
これが一番の疑問点ですよね。状況が分からない奴が見たら、なに歌ってんだこいつとしか思えない。
乙です。垣根かっこいい、がんばれ。でも一方さんもがんばれ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/10/01(土) 23:20:07.12 ID:wVWLNNiAO<> 乙。
ホントこのスレの一方通行はシリアスブレイカーだなwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/10/01(土) 23:20:43.38 ID:0E+Aos8R0<> >>762まんまと言いくるめられた第一位(笑) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/10/01(土) 23:56:36.89 ID:maW4t0hio<> 乙ゥゥゥゥゥゥゥゥン!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 00:05:15.06 ID:QAUsrLIeo<> この作者のセンスやべぇな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/10/02(日) 00:09:34.07 ID:tjI6ozOAO<> 乙
すげえ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/10/02(日) 01:31:38.77 ID:qwQoej730<> おおおおお
すごい超おもしろい!!垣根も木原くんも死んでほしくないからすごいハラハラする
一方さんどうするんだろう…
続きすごい気になるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/02(日) 02:34:14.82 ID:rOMfplcMo<> >幼女失神
木原くンロリコンだったのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 03:54:23.43 ID:ZomntDrDO<> >>761 なぜか
みんなが鼻で笑ってって見えた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/02(日) 04:44:16.34 ID:gMAAW1/Po<> 窒素…だと……?
まさかこんなかたちで「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」 と「惚れちゃいそーだぜ」が回収されるとは
みんながお互いを鼻先で嘲笑いあうハッピーエンドも近いな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/02(日) 04:54:17.59 ID:O7+4Vp8b0<> ここで、窓を壊して田中一太郎乱入…
血まみれの男が二人、
横たわる幼女を前に謡うシスタ−
確かに、意味不明を描く>>1に乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 09:03:20.24 ID:fiDod4iFo<> なんだかんだであまたンも一通さんの事気にかけてるんだな
>>750でぐっときた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/02(日) 10:14:39.39 ID:m3RmOlWco<> 頑張れ一太郎 この状況が判らんのはお前が馬鹿だからじゃないぞ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 10:59:51.44 ID:xjUMUobDO<> >>774
あれは木原くンではなくて垣根が打ち止めのこと思って言ってる台詞なんだお…
一方さんと木原クンの温度差に笑うけど切なくもある <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 11:27:30.84 ID:fiDod4iFo<> >>776
教えてくれたお前の優しさに泣いた
そして俺の理解力の乏しさにまた泣いた
もう寝よう… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 13:21:01.29 ID:QAUsrLIeo<> 木原「人頃した」
一方通行「へェー」
ってなるだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 15:06:04.38 ID:g2hCe0eS0<> ドタバタコメディーかと思いきや、シリアスかつ考え込んでるなぁ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)<>sage<>2011/10/02(日) 16:26:22.83 ID:ysKgPvWeo<> >>739
>女性的な姿をした、その顔にどこか純粋さを持つ天使は、
それって大天使ミーシャ・クロイツェフの容姿じゃないの? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/02(日) 18:36:15.58 ID:m3RmOlWco<> >>780
ミーシャは「中途半端な女性的フォルムなのに艶めかしい」的だた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 20:29:34.81 ID:Ep9++Ir10<> 乙ゥ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)<>sage<>2011/10/03(月) 01:58:41.99 ID:u1fvXnPAO<> 垣根のかっこよさがヤバイな
でも皆死なないで欲しいわー不幸になるのはプランめちゃめちゃになっちゃったアレイスターさんだけでいいわー
ホントに面白くて毎回楽しみにしてます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/10/03(月) 21:03:48.17 ID:B7d4Zm4a0<> 窒素の話が出たところでそろそろ最愛ちゃんをだな…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/03(月) 22:49:43.82 ID:zqqrw89DO<> そういや最愛ちゃんってキレたら人格垣根くンになってしまうのかな
原作だと一方さん口調になるけどこのスレだと暗闇の五月計画に垣根くンが使われてるし
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/10/03(月) 22:58:31.06 ID:eifE86s6o<> 常識の通用しない最愛ちゃん・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/03(月) 23:08:59.01 ID:9ojv8trdo<> つまりキレるとナルシストに <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/04(火) 00:51:31.70 ID:OLUVTnqDO<> メルヘンなモアイ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/10/04(火) 00:55:43.56 ID:zSaYcwddo<> よっぽど超愉快な死体になりたいそうですね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/10/04(火) 13:12:59.29 ID:BltRB662o<> よっぽど超愉快な超死体に超なりたいそうですね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<><>2011/10/04(火) 18:04:59.10 ID:5mNm2m/AO<> ウゼェwww <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:05:22.53 ID:RhjH7vgho<>
無駄に風通しの良くなった室内を、新たな役者がゆっくりと歩いた。
ぼろぼろになりながらもこちらを睨みつける第一位の正面に、一方通行は立ちはだかる。
ちょうど、ボロ雑巾のように床に平伏す木原を守るような形で。
静かに睨み合って、数秒。
先に口を開いたのは垣根だった。
「お前、空飛べたのか。ここは確か七階くらいだったと思ったがな」
どんな力を反射したところで、特殊な装置でも無い限り下から上に飛ぶ事など出来ない。
もはやこの場にいる全員が知っていた。
だが彼は飛んで来た。
そして、爆発にさえ耐えるガラスを体で叩き割ってけろりとしている。
これでボクはレベル2ですなどと言っても誰も信じてはくれないだろう。
だが仕方ない。言い訳はあとで考えよう。
一方通行は、この期に及んでまだ言い訳さえすれば自分のレベルをごまかせるつもりでいた。
「うるせェな。妖精さンにフケ掛けてもらったンだよ」
「ピーターパンの妖精の粉の事か? フケじゃねぇだろあれは」
「じゃなンだありゃ」
「何ってそりゃ……粉」
不毛な口論になりそうなので、垣根の方からこの話題は打ち切った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:06:19.85 ID:RhjH7vgho<>
「テメェ、状況はどのくらい把握してんだよ? そもそも何しに来た?」
血まみれで息も切れ切れのくせに迫力だけはありすぎる第一位の質問に、一方通行は少し考えた。
「何しにって……」
何と答えればいいのか。
木原が心配で飛んじゃいましたとでも言えばいいのか。
(何だそりゃ。バカじゃねェのか)
一方通行がどうとも答えられずにいると、垣根が重ねて尋ねて来た。
「テメェは、レベル2なんだよな?」
「あ? そォだがそれがどォした」
「俺は5だ」
「ここへ来て自慢かよ。その発想は無かったわ」
「違う」
苦しげな顔つきで、崩れ落ちそうになりながら、彼は言った。
「お前が2で俺が5なら、それが絶対本当だってんなら、俺の方が強いって事だよな?」
「……」
「そうなんだろ? だったら……俺の一撃で負けてくれ」
なぜか強い方が弱い方に懇願している。
今にも倒れそうになりながら。
とても苦しそうに。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:07:22.62 ID:RhjH7vgho<>
垣根は、ぐらぐらと揺れる腕を伸ばして、未元物質の不格好な塊を、一方通行の方へ飛ばした。
やっとの事で、という調子だった。
これくらいなら食らってやるのが優しさかもしれない、と思えてしまうほど、心許ない攻撃。
向かって来るそれを見て、一方通行は考えた。
はっきり言って、一番悪いのは木原だ。
状況を見れば何となく分かる。
最終信号も、なぜか歌っている修道女も、未元物質の壁によって守られている。
つまり、垣根が守る側なのだ。
木原が彼女たちに何か悪い事をしようとしているのである。
しかしそれでも、この悪役のボスのような男を切り捨てるという選択は、一方通行にしてみれば論外であった。
垣根の攻撃を反射して、一方通行は言う。
「悪ィけどよ」
「……」
「却下だ」
拒まれて、垣根は小さく頷いた。
そして、顔を上げた時、垣根の瞳は新たな決意に満ちていた。
「そうか。残念だ」
「――なら死ね」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:08:04.10 ID:RhjH7vgho<>
瞬間、垣根の体中から、大量の未元物質が放出された。
まるで台風のように、渦を巻いて部屋に広がる。
荒れ狂いながらまとまりを得た未元物質の嵐は、真っすぐ一方通行を目指して突き進んで来た。
一方通行は動かなかった。
動かないまま頭の中だけフル稼働。
能力行使の演算だ。
反射にしか能力を使わないという縛りを、今だけは解く事にした。
瞬く間に、恐ろしい量の計算式と解が、頭の中に広がっていく。
得た計算結果をもとに、自分だけの現実を世界の現実へ。
彼は空気のベクトルを完璧に掌握し、風を巻き起こして操った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:09:18.22 ID:RhjH7vgho<>
空気の流れと、未元物質。
風は未元物質を弾き、未元物質は風を押し留めた。
力関係は互角だった。
衝撃音が部屋に鳴り響き、数秒して余韻も治まる。
舞い上がった埃が再び床へ落ちた時、争う二人のどちらも倒れなかった。
だが、二つの力のぶつかり合いは大きな衝撃波を生んでいた。
その衝撃が自らを襲うのを、一方通行と垣根はそれぞれの方法で防いでいる。
互いに自分の身だけを守っていたわけではない。
彼らなりの守るべき人を、それぞれの方法で守りながら闘っている。
垣根の白い壁に保護された少女二人を見て、一方通行はため息を吐いた。
(あっちはかわいいオンナノコ二人で、こっちは小汚ェアラサーかよ。やってらンねェな)
(っつか、なンでコイツは死に掛けてンだ)
(ぶっ潰されるくれェなら超能力者にちょっかいなンか出すンじゃねェっつの。スゲェ迷惑)
守っておいてこの言い草である。
一方通行と木原の距離感は、一言で言えば微妙だった。
この二人、実はお互いの事があまり好きではない。
助け合っているように見える場面もあるのだが、心から相手を思って行動している事はほぼないと言っていい。
二人とも自分にとって必要だからそうしているだけだ。
特に一方通行の場合、年季の入った刷り込みのお陰で木原がいないと生きていけない事になっている。
嫌いでも守るしかないのだ。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:10:20.97 ID:RhjH7vgho<>
突然、ドサッと何かが倒れる音が前方から聞こえた。
見ると、垣根が片膝をついて息を荒げている。
「なンか勝手に死にそォだな。大丈夫かァ?」
「うるせぇよ……」
未だ鈍らない眼光が一方通行を射抜いた。
「なんで……」
大きすぎる呼吸音とともに、小さな声が訴えかけて来る。
「何で邪魔をするんだよっ……!」
「えェー……っつってもなァ……」
邪魔をしないと木原は殺されてしまうのだから、一方通行の立場からすれば当然だ。
しかし垣根にしてみれば知った事ではない。
「俺は、俺はただ……」
最終信号に、日常に帰ってほしいだけ。
違う。そうではなくて。
彼女と、朗らかな、ほのぼのとした生活を、もう少し一緒に過ごしてみたかった。
身に余る望みだと分かっていながら。
なのに全部ぶち壊しだ。
「何で……邪魔を……」
ただ騙されていた。
悪気のない洗脳に踊らされていただけだった。
そんな事は知りたくなかった。
知らなくてよかったのに。
邪魔をされた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:10:48.71 ID:RhjH7vgho<>
少女が苦しんでいる。
垣根も苦しんでいる。
(畜生……痛ぇ……何で俺がこんな目にあってんだよ……)
何が起きてこうなった。
何のせいだ。
誰のせいだ。
「あいつさえいなければ――」
「あァ?」
決まってる。
「あの――クソ野郎のせいで――!」
歯を食いしばる垣根の目線は、立ちはだかる一方通行を通り越して、床に転がる木原をねめつけていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:11:32.61 ID:RhjH7vgho<>
羽が広がった。
純白の、美しい翼。
一方通行が気付くと同時に、それは物凄い勢いで彼に襲い掛かって来ていた。
一方通行は、咄嗟に反射してその翼の攻撃を防いだ。
だが垣根の本命はそれではない。
翼を一方通行の方へ叩きつけると同時に、小さな羽根を飛ばしていた。
ほとんど動けない木原数多の方へと。
「…………ッ!!」
それは、ターゲットの胸を正確に突き刺していた。
「……は……?」
一方通行が事態に気が付いたのは、それが起こって八秒遅れてからだった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:12:02.31 ID:RhjH7vgho<>
胸に羽根を突き立てたまま、木原は動かない。
仰向けに倒れて指一本動かさなかった。
「き……は、ら?」
返事もしない。
ぴくりとも動かない。
あの、白い羽が埋まっている辺りは。
(おい……何だよクソ……意味分かンねェよ……)
あれは、心臓の辺りじゃなかったか。
「はあっ……! ざまぁ見ろ……!!」
垣根が呻くように呟いている。
どうでもいい。
そんな事はどうでもいい。
それよりも。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:12:29.40 ID:RhjH7vgho<>
一方通行は床を蹴り、反発する力の向きを操作して文字通り一足飛びに木原の元へ駆け寄った。
「木原っ……」
垣根が何かする様子はない。
それだけ確認し、その場に跪いて木原の体を抱え起こすと、彼の喉の奥からわずかにだが呻き声が漏れ出て来た。
「……ゥ……」
「! 木原! 良かった、生きて……」
ゴポリ。
不快な音を立てて
木原が大量の血を吐いた。
腹の底の邪心がそのまま滲み出したかのような、ドス黒い色の血の塊が、
木原の口から這い出て一方通行の手にへばりついた。
「――ひッ!」
思わず手を引っ込めると、支えを失った木原の体が重力に従って床に落ちる。
木原は動かない。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:12:57.31 ID:RhjH7vgho<>
「――――ッッ!!!」
無事というにはあまりに過多な血液が、白衣をグロテスクなデザインに一新させている。
木原は動かない。
ピクリとも動かない。
「……き、……」
「ははっ……そりゃもう死ぬだろ」
遠くから垣根が何か言っているような声が聞こえた。
どうでもいい。
それどころじゃない。
「……ァ……あ……?」
木原が動いてくれない。
一方通行に明確な意識があったのはそこまでだった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:14:00.24 ID:RhjH7vgho<>
崩れる木原と頭を抱えて動かなくなった一方通行を眺めながら、垣根はなおも考えていた。
木原を殺しても、垣根の問題はまだ山積みだ。
これからが大変なのだ。
あの自称レベル2が暴れ出すかもしれない。
それを何とか大人しくさせて、最終信号も元に戻して……
そのためには、ウイルスのオリジナルスクリプトを解析しなければならない。
解析もだが、まずチップを探す所から始めなければ。
正直、今の状態でそこまでの事が出来るかどうか自信がなかったが、ここまで来て諦めるのも馬鹿らしい。
とことんやってやる。
(――たとえ死んでもだ)
そこまで頭の中で可決した時だった。
前方の自称レベル2の様子がおかしい事に気が付いた。
こちらに背を向けて、死に損ないの正面で頭を抱えてうずくまっている一方通行。
ぶるぶると震える背中。
その肩胛骨のあたりから、何かが。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:14:37.69 ID:RhjH7vgho<>
――――ビキッ――――
――――――ビキビキビキビキビキビキビキビキ――――――
――――――バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ――――――
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:16:25.96 ID:RhjH7vgho<>
垣根は、目の前の光景に、ぽつりと呟いた。
「……何だよ、それ……」
白い少年は、こちらに背を向けたままのそりと立ち上がった。
項垂れて、その場に立ち尽くしている。
その背には、たった今発生した、大きな翼がはためいていた。
はためくというより、噴射に近い。濃い霧のようなものが翼の形状を取って、彼の背後に形成されている。
垣根の未元物質で作ったようなものとは明らかに質が違った。
どちらかというと、窓の外で見え隠れする例の化け物のものに近い。
部屋を埋め尽くさんばかりに広がるそれは、形だけ見れば、まるで天使のように神々しかった。
しかし、色が禍々しすぎる。
まだらで濃いグレー。
中途半端で醜い翼。
「テメェは何者なんだよ……」
一方通行が振り向いた。
木原を傷つけた垣根の方へ。
(な、ん、だ……奴の能力はベクトル操作のはず。何で背中からあんなもんが生える?)
(それに、何か、俺のよりも…………)
「――テメェが何者で、どんな才能に恵まれていようと! 選ばれた人間だろうと! ここで俺が負けてやるつもりはねぇよ!!」
垣根は立ち上がった。
膝が、足が悲鳴を上げた。
しかしありったけの力を込めて、脳のすべてを使って演算を開始する。
彼の純白の翼も、大きく広がった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:16:58.43 ID:RhjH7vgho<>
覚醒。
という表現がしっくり来る。この突然の変化。
大切な家族を奪われた事に対する怒りが、彼の中の何かを目覚めさせた。
……と、いう事情であったなら、少しは恰好がついたかも知れない。
だが現実はそれほどスマートではない。
木原が崩れた瞬間、一方通行の脳内を支配したのは怒りとは別の感情だったのだ。
――困る。
木原がいなくなってしまう。
唯一、絶対の庇護者が。
彼がいなくなったら一体誰が一方通行を守ってくれるというのか。
散々言って聞かされてきた悲劇が現実のものとなってしまう事に、一方通行は心の底から恐怖していた。
木原以外は、誰も盾になってはくれない。
木原以外の人間は、皆一方通行を憎んでいる。
木原がいないと、生きていけない。
木原数多という居場所を失ったその瞬間、彼は人間としての全ての権利を剥奪されてしまうのだ。
実際にそうなるかはどうあれ、一方通行の中ではそれが絶対的な事実である。
恐怖、不安、焦燥、孤独感、寂寥感、絶望感。
あらゆる情けない感情がないまぜになって、彼の全身を駆け巡っていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:18:37.07 ID:RhjH7vgho<>
虚ろな表情のまま、自ら制御し切れない感情の流れに突き動かされて、一方通行は一歩前へ出た。
「来いよ……クソが……」
迎え撃つように、垣根は胸を張って立っている。
一方通行が小さく口を開けた。
「――ihbf嫌wq――」
その意味の通らない呟きの直後。
爆発的に噴射が広がった。
まだらのグレーが垣根に襲い掛かる。
「うおあああああああああああああッ!!!」
垣根も、全力で増幅させた自らの翼を、さらに全力でそこへぶつける。
単純で原始的な、力のぶつかり合い。
ここまでの争いで一番大きな轟音が、捨てられたビルの七階に響き渡った。
衝撃波がオフィスの家具を巻き上げて吹き飛ばす。
衝突の余波はビリビリと部屋を覆いつくし、何秒も治まらなかった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:19:11.71 ID:RhjH7vgho<>
それが治まった時、立っていたのは一方通行だった。
一方通行だけだった。
垣根帝督は、今度こそ叩きのめされた。
言い訳のしようもないほど明確に、垣根の負けだった。
あちこち潰れて、もう這いずる事さえ出来ない。
そして、未だ意識の定まらない一方通行が、その垣根の方へ踏み出した。
「……う……あ……」
勝手に歩く足に逆らわず、一方通行は垣根へと近寄って行く。
その意思はほとんど無いが、恐らく彼の息の根を止めるために。
垣根はもう何も考えていない。脳が覚醒していないからだ。
だから迫り来る死の気配に恐怖する事もなかった。
だが、それは確実に近付いていた。
おぼつかない足取りで、一方通行が倒れる垣根の前までたどり着く。
「……う?……」
わけの分からないまま、彼の首筋に手を当てた。
力を込め始めた、その時だった。
「や、めて……その人を殺さないで……って、ミサカは……ミサカは……」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:20:10.05 ID:RhjH7vgho<>
まるで宥めるかのような
まるであやすかのような
それでいて弱々しくて、
つい守ってやらなきゃいけないと思ってしまうような
か細い、優しい声が、部屋の空気を一瞬にして支配した。
魔術師の歌で意識を取り戻した最終信号が、床に倒れながら必死に手を伸ばしている。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:21:23.98 ID:RhjH7vgho<>
「――あァ?」
いきなりである。
いきなり、一方通行に意識が戻った。
(ってオイオイ! 何を呑気に第一位虐待なンかしてンだ俺は!?)
「木原!」
慌てて木原の方へ駆け寄ると、相変わらず彼の白衣は赤黒い奇抜なデザインで、相変わらずピクリとも動かない。
「クソ! 生きてンだろォなコレ!? 木原クーン?」
相当危ないが、一応心臓が動いている事だけは確認できた。
後はもう、うだうだ考えている時間はない。
木原を担ぎ、大急ぎで病院へ駆け込むのだ。
ぐったりとしていて全く生気のない体を担ぎ上げると、一方通行は窓へ歩き出した。
風のベクトルを操れば、ナンシーの車より早く病院へ着けるだろう。
窓へ向かう途中、歌い終えたらしい白い修道服の少女とすれ違った。
「大丈夫なの!?」
白いシスターは垣根の方へ駆け寄って行った。
彼女達を必死に守ろうとした、ヒーローの方へ。
きっと、この場では俺たちが「ワルモノ」ってやつなんだろう。
悪の親玉を背負って、悪者のくせに勝ってしまった小悪党は、静かに舞台を去った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:22:14.96 ID:RhjH7vgho<>
――――――――――――――――――――→
翌日。
一方通行のもとにある通知が届いた。
それは、彼を"推定"レベル4に認定する知らせだった。
(見られてたか……研究所の奴らか誰か、か?)
いくら測定しても彼自身の意思で判定結果はレベル2になってしまう。
だから測定結果ではなく能力使用時の映像か何かで「推定」したのだ。
自称レベル2、元レベル3、推定レベル4、下手すりゃレベル5。
彼の立場はただのレベル2という呑気なものではなくなった。
そして今、木原は研究所にはいない。全身ボロボロで入院中である。
現状維持が人生の目標であった一方通行にとって良くない変化が、このところ立て続けに起こっている。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/05(水) 02:22:43.38 ID:RhjH7vgho<>
→レシピ4...おわり
<>
◆goBPihY4/o<>sage<>2011/10/05(水) 02:24:17.49 ID:RhjH7vgho<>
つづく
んですが、しばらく投下を休みます
理由は書き溜めが尽きたからとか納期ヤバイとか
そんなです
忘れたころに戻ってきますので、また上がってたら思い出して下さい
ではいずれまたー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/10/05(水) 02:29:59.04 ID:obGYhsVbo<> 来てたか乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 02:31:11.99 ID:c0NzJIG8o<> 乙でした。待ってるよ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/10/05(水) 02:36:24.51 ID:v4ps92Ez0<> な 何て面白いんだすごい面白い
マジ面白いすごい面白かった!燃えた!
一方さん切ないな… でも皆死ななくてよかった…!!
いつまでも待っているよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/05(水) 02:42:23.36 ID:5qOXEOr+o<> 乙。ゆっくり待ってるよ。
しかし困るという感情で黒翼さん出現とかわろた
木原生存か。魔術という概念の科学サイドでの解析が進みそうだ。どうなってくか楽しみすぎる。
なんか未元止めが許せないのはあれか、本編の一方さんと比較しちゃうからか。
こっちはあんまり垣根にスポットライトがあたってないから仕方ないのに…ぐぬぬ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 03:11:45.86 ID:3R1+a2MDO<> 乙です。
木原くンと一方さんの関係性が興味深い。
これからも楽しみにしてます。
気長に待ってる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 04:51:18.35 ID:Q1FnLPu80<> 乙ン
俺は未限止めオーケーです
もっとやれ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/05(水) 06:41:08.28 ID:QcqK5DnTo<> よかった…木原くン生きてた
乙!続き舞ってるぜい! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/10/05(水) 07:29:15.12 ID:/0HH7GIAO<> 息もつかせぬ素晴らしい展開運びだな、惚れちゃいそーだぜぇ、>>1!
乙です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/10/05(水) 07:51:48.94 ID:Ear3qtEAO<> 乙
理由が"困る"だから翼の色もグレーなのかww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 08:03:59.47 ID:upewENISO<> 乙
よかった…冷蔵庫にされたていとくんはいないんだね… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 09:12:09.41 ID:ARdWIdtIO<> 灰翼展開しちまったか…
なにより木原くン無事でよかったほンとによかったァ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 15:30:56.68 ID:pbDRCBUAO<> うむ、乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/05(水) 15:54:53.36 ID:kI4RyJlZ0<> シリアスで笑ったの初めてだわwwwwwwww
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/10/05(水) 15:56:10.62 ID:Ml+BLsIX0<> 乙ー
理由はどうであれ、一方通行は「家族」として木原を守ろうとしたんだよな……
次回でいよいよレベル5か、それとも4.5的な閑話が入るのか
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/10/05(水) 16:33:11.42 ID:LNXbubGOo<> どうせまたレベル3に戻すんだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/05(水) 17:13:06.14 ID:RZEvREoGo<> なんという「その時不思議なことが起こった!」状態ww
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 20:10:10.74 ID:b/TTYfW50<> 乙
てか第一位フルボッコ過ぎんだろww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 20:11:20.11 ID:SafvDKbb0<> じゃあちょっとエロイ気分になったらピンク翼さんが出現するのか胸厚 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/06(木) 01:04:45.57 ID:NnfZ/2XDO<> でもここのといと君かなり格好いいぜ
一方さんがあっちは可愛い女の子2人でこっちが守ってるのおっさんかよって思ってるのが凄いツボだわ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/10/06(木) 02:54:07.52 ID:2Y8e6XSi0<> 一方通行っていつのまにボロボロになったんだろ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/10/06(木) 03:06:06.03 ID:rxJN/wqAO<> 一方さンと木原くンの2人を敵にまわして生きてるのがすごい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/10/06(木) 22:49:18.28 ID:/dkjYIpY0<> >>831
吹いたwww新ネタだなwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)<><>2011/10/07(金) 01:07:59.05 ID:y8fFVfXz0<> ww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/07(金) 06:16:27.05 ID:hYlWeDIV0<> 翼の色で思考が駄々漏れな一方通行さん…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/07(金) 12:32:05.64 ID:68WSItEIO<> 最高のおかずを手に入れた時……桃翼は顕現する <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/07(金) 15:10:46.47 ID:MkqPbbTko<> >>838
かっこよく表現してるけど内容が最低だなwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/10/07(金) 20:07:19.65 ID:8CFW4BdAO<> >>838
そうだな…俺はずっと一発抜きたかった
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/07(金) 20:09:41.68 ID:YhHOfZe/o<> >>839
安心しろ。自覚はある <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/07(金) 20:33:26.80 ID:L7g8h5wS0<> >>831
一方通行改め 「心理表翼」…
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/07(金) 21:19:20.04 ID:pcrZ9P0wo<> 桃翼出したらどうなるんだ?
圧倒的な力による自慰を見せ付けるのか?
やっぱそれを止めるのは打ち止め?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/10/07(金) 21:25:27.28 ID:0RyguDeAO<> >>843
どんな自慰だよwww <>
◆goBPihY4/o<>sage saga<>2011/10/07(金) 22:54:37.11 ID:O4kTLSr5o<>
男の子はみんな、心にピンクの翼を持っているんだね
きもいね
小ネタ投下します
適当に書いたら意味不明な感じになったので、期待せず読み飛ばして下さい <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/07(金) 22:56:33.33 ID:O4kTLSr5o<>
∞つまみ:手を空けておく習慣
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/07(金) 22:58:37.88 ID:O4kTLSr5o<>
以前は喫煙の習慣があった。
今でも誰かから煙草の匂いがすると、ふとまた吸ってみようかと思う事がある。
煙草を辞めるのは非常に難しいという話はよく聞くのだが、それを実感した事は無かった。
辞めようとした事がないからだ。
喫煙を続けると寿命が縮むだの自分や周りの人の健康が損なわれるだの言われるが、
本当に寿命が縮んだとして、せいぜい十年かそこらだろう。
年老いてからの十年にそこまでこだわるほどの価値は見出せなかった。
交通事故で若くして死ぬ心配でもしていた方がましだ。
そして、もとより他人の健康には興味がない。
そういうわけで、今吸っていないのは、辞めようと努力してそれが実った結果ではない。
放っておいたら吸わなくなっていたのだ。
放っておいたらと言っても、喫煙者を放っておけばバカスカ吸いまくるのは目に見えている。
勝手に体中のニコチンが消えてくれたわけではないのだ。
それには、事情というにも下らな過ぎる理由があった。
簡単な論理式で、
タバコ吸いたい + でも手がふさがっている = 吸えない
という状態が続くうち、段々抜けていったのだ。
ならばなぜそこまで手がふさがっていたのかという話だが、
ガキがさぁ、すげーウロチョロすんだよ。
何なんだガキのあの無駄なアクティブさは。
動いてないと死ぬ系の魚類か。
大事な研究機材がわんさか置いてある研究室までやって来て、
あちこちベタベタ触ったり走り回ったりしようとするのだ。
放置したら大惨事である。
さらに、個室で大人しくしていればいいのに、広い研究所をうろうろするからすぐ迷う。
頭か胸倉か首根っこか手を捕まえておかないと、
ちょっと目を離した隙にどこかふらついて迷子になるのだ。
迷子にならなくても何かしら問題を起こす。
殴ったって聞きゃしねえ。
でも殴るけど。
以前は研究室にいる時は、右手で作業して左手で煙草を持って、というスタイルでやっていたのだが、
ガキのせいで片手を常にフリーにしておく必要が出て来た。
右手は作業をしているのだから、ガキに使う余裕があるのは左手だ。
よって、煙草を持つ機会が減って、その内全く吸わなくなっていた。
ガキを捕まえておくために、片手を空にしておく習慣がついた。
ガキの頭か胸倉か首根っこか手で、常に左手がふさがっている。
忌々しいにもほどがある話だが、それが煙草を辞めたきっかけだった。
五年経って、そのガキもちっこいガキからデカいガキにクラスチェンジしたわけで、
いくら何でもそこまで手がかかるような事はなくなった。
もう左手は自由だ。
昔は好きで吸っていたのだし、煙草が嫌いになったわけではない。
今でも誰かから煙草の匂いがすると、ふとまた吸ってみようかと思う事があるのだが、
何となくまだやめておく事にしている。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/07(金) 22:59:03.74 ID:O4kTLSr5o<>
∞つまみ...おわり
<>
◆goBPihY4/o<>sage saga<>2011/10/07(金) 23:00:22.61 ID:O4kTLSr5o<>
以上です
あ……
sageようと思ってたのに…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/07(金) 23:15:28.16 ID:DVNnaW5C0<> おつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/10/07(金) 23:22:48.95 ID:INaCurG7o<> きたああああああああああああ
なんか良い <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/07(金) 23:25:09.33 ID:0Zt3tpAv0<> 木原は右手でキーボードをカタカタ動かして左手はショタ一方さんの襟元を掴んで仕事をこなしてたのか…
一方さんは成すがままで携帯ゲームをやってたりと妄想してたらニヤニヤしちゃったわw
きっと一人くらい研究員の誰かがその光景を撮ってるに違いない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/07(金) 23:47:50.69 ID:w9OKX5dyo<> 乙ゥ!
木原くンにやにやキュン <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/10/07(金) 23:56:19.59 ID:OJZqZrBM0<> 右手は仕事、左手は息子に…か
ふぅ‥‥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/08(土) 01:02:38.82 ID:7fIglD6ro<> 乙乙
いいなー、こういうの
>>854
お前の手は木原くンとは逆なんだな <>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/08(土) 01:06:21.65 ID:sTX50Q/yo<>
すいません、>>845はレスをくれた方への暴言ではないです
誤解を生む表現だったかもなーと思ったので、一応
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/10/08(土) 01:41:27.92 ID:ig9+deIxo<> 乙
大丈夫だ紳士にはご褒美みたいなものさ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/08(土) 04:08:45.48 ID:AeI+4Lqg0<> >>856いえ、いえ
でも、この翼だとメンタルアウトには完勝出来そうwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/10/08(土) 04:13:04.14 ID:ig9+deIxo<> 思春期を殺した少年の翼 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/10/08(土) 09:25:57.45 ID:3d6zCH7AO<> スペルマに酷似しながらも実質的に異なる力
性人にも扱いきれるか、わからない量 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/08(土) 14:14:44.47 ID:l/tyhpbvo<> そして白濁翼に・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/08(土) 20:02:46.23 ID:XBt3oXkS0<> 左手は、やんちゃなガキを捕まえとく手で、
眠ってしまったガキの頭を撫で続けるための手でもあるんだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/10/08(土) 20:08:51.66 ID:IOZS1/Ivo<> くせぇ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/10/08(土) 20:27:45.83 ID:/f8Hdu9/0<> 確かにイカ臭いが <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/09(日) 10:56:16.94 ID:7wx5piDDO<> 科学中年きはら☆アマタいいな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/09(日) 14:17:02.26 ID:sGbdBlm10<> 女神あまたンとか胸熱 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/09(日) 15:19:10.68 ID:yoOL8CBIO<> 木原は概念 <>
◆goBPihY4/o<>sage saga<>2011/10/10(月) 01:11:11.24 ID:SC+wy0fVo<> >>865
アラサーは中年じゃないわよ!!!!!!!!まだ
そしてまたどうでもいい小ネタが
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/10(月) 01:11:39.10 ID:kzAu6Gu2o<> まってました <>
◆goBPihY4/o<>sage saga<>2011/10/10(月) 01:13:27.05 ID:SC+wy0fVo<>
∞つまみ2:昔数多って呼んでた
一方「数多数多! 今日理科で実験した!」
木原「だぁからよ、木原さんと呼べっつってんだろ」
一方「すっげェの数多! 石灰水がよォ、息掛けたらさァ、白くなンの!!」
木原「木原さんだクソガキ」
一方「えェー……木原?」
木原「何でたった二文字略しやがったクソガキ。『さん』を付けろ」
一方「あ、ゥ……木原……ゲホッ……さン」
木原「咳き込むほど嫌かこの野郎」
一方「木原は石灰水知ってた?」
木原「あーあーあーあークソォーッ!」
∞つまみ2...おわり
<>
◆goBPihY4/o<>sage saga<>2011/10/10(月) 01:14:10.80 ID:SC+wy0fVo<>
おわり
本編はなかなか進まないけど
こういう軽いのはいろいろ浮かんでくるんです
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/10/10(月) 02:23:46.23 ID:7AxHZP1i0<> じゃあ鬱展開行ってみようか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/10/10(月) 03:11:29.70 ID:E1Z+pOOao<> 鬱だけはやめて <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/10(月) 04:22:20.73 ID:rQnnomLG0<> >>871乙
一太郎と楽しい仲間、続きまだ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/10(月) 07:13:41.95 ID:TBhBqpsHo<> なにこれかわいい
よつば的な可愛さがある <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/10/10(月) 10:15:27.46 ID:R6gPdoZU0<> >>871
おつおつ
その気持ちは激しく分かるわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/10/10(月) 11:20:58.42 ID:VmuESvQDo<> あっくんがかわいすぎて生きるのが辛いわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/10(月) 11:21:02.78 ID:46oC4u9N0<> おつ
鬱でもほのぼのでも何でも来い来いなの <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/10/10(月) 16:40:43.44 ID:25aZ5FQG0<> うおおお
めちゃくちゃ面知れえwwwwww
>>1
乙ですぅー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/10/12(水) 08:29:41.99 ID:8gHPn17co<> 乙 <>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 19:54:21.05 ID:icgzUffao<>
→レシピ4.5:仕込み
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 19:56:57.10 ID:icgzUffao<>
五日間ほど生死の間を彷徨った後、木原は病院のベッドの上で目覚めた。
まず頭にあったのは「垣根スゲームカツク」という事と、「魔術スゲーオモシレー」という事だった。
聞けば垣根は未だ意識不明の重体らしい。
何と同じ病院に入院していた。
ならば奴の人工呼吸器の管をうっかり引っこ抜きにでも行こうかと思ったが、
生憎木原の体も動かなかった。
彼が担ぎ込まれた時、体中の骨がバラバラだったそうだ。
今まさに体内でくっつけている最中なのだそうで、腕くらいしか自由にできない。
垣根の呼吸を止めるのとは別に、どうしてもやりたい事があった木原は、
部下を一人選んで連絡を取った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 19:57:51.55 ID:icgzUffao<>
三十分で来いと告げたら十分で来た。
逆に何か嫌だ。
「木原さん……お加減は」
「何一般的な挨拶してんだよ、クズのくせに。いいから来い」
折角大急ぎでやって来たのに罵倒されたヴェーラは何か言いたげだったが、
もちろん何も言わずにベッドに近寄った。
「九月三十日に出た天使と、歌で最終信号を治療したシスターと、ついでにあの日来た侵入者について
何でもいいからとにかく情報を集めろ」
「ああ、それならお話できる事があります。木原さん」
木原の要求に頷き、ヴェーラが背筋を伸ばして話題をシフトさせる。
「何だ」
「木原さんがいない間の動向をお伝えしておきたいのですが。例の侵入者の件についても含めて」
「あー……そいつがどうなったとかは興味ねえんだがな。めんどくせぇ、手短にしろ」
「ではざっと簡単に。まず、猟犬部隊は何も動いていません」
「そりゃ、俺が寝てたんだからな」
「ええ。それから……」
ヴェーラの話を聞きながら、よほどつまらないのだろう、木原は点滴のチューブを指で弾いて手遊びしていた。
揺れるチューブを見ながら、ヴェーラは口を動かす。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 19:59:47.53 ID:icgzUffao<>
「学園都市が『魔術』の存在を世界に発表しました」
「は!? マジかよ?」
侵入者の所属はローマ正教であった。派閥の分かれるキリスト教の中でも最大勢力だ。
九月三十日の騒動の直後、学園都市はローマ正教の『魔術集団』から攻撃を受けたという報告を正式に出したらしい。
科学の都市がオカルトの存在を肯定するなどあり得ないと考えていた木原は、
このニュースに身を乗り出した。
「ちょっと見直したぜー、上層部」
だが、彼の反応を見たヴェーラは困惑気味に言った。
「ええと……『魔術』っていうのは、ローマ正教が抱える科学的超能力開発機関のコードネームなんです」
「は?」
「まさか本当に魔法とか妖術とかが存在するはずないですし。
ヨーロッパでも超能力開発の研究ってしてたんですね。侵入者もそれだったようです」
「科学的……開発?」
「世界中で大ニュースになってますよ。
でも向こうは否定していて、むしろ先日出した天使が冒涜的だと言って非難してきてます」
話を聞いていると、ヴェーラも『魔術』なるものがオカルトとは無関係だと信じているようだ。
馬鹿馬鹿しい、と木原は思った。
侵入者のやってのけたあの現象が、学園都市とは別の能力開発の結果だというのなら、
学園都市より向こうの方が遥かに上だという事になる。
そんな技術がいきなりポンと現れるはずがないし、
もしあったなら今までその存在を匂わせる噂すらなかったのが不自然すぎる。
大体、ヴェーラにしても歌で学習装置をどうにかした少女をその目で見ているのだ。
それで「あれは実は科学の力でした」という発表を鵜呑みにするのだから呆れたものである。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 20:02:03.93 ID:icgzUffao<>
かといってヴェーラを説得する気もなかった。
本来の意味で『魔術』が存在するであろうという事は、木原が理解していれば充分だ。
「ローマ正教とケンカね。統括理事会は何考えてんだか」
「何やら不穏な空気ですが、まあ今すぐ戦争が起こるという程の事でもないでしょう」
「さあな。起こる時は起こるだろ。報告は終わりか?」
「いえ、まだいくつか」
またチューブが揺れ始める。
ヴェーラはそれを見ながら、特に感想は言わない。
「十月三日、理事会が外にかまけている隙を利用して、スキルアウトの一グループが割と派手に暴れました」
「グレたレべル0のガキ共か。イキった所で大したこたねーだろと思ってたんだがな」
「中心人物がかなり頭の切れる部類で、ついでに人望もあったものですから、半端に目立ってしまったんですね」
この街には『スキルアウト』と呼ばれる人種が存在する。
簡単に言えば不良の集まりだが、グレた原因が学園都市ならではで、
レベル0を恥とする風習と、そのレベル0に自分が当てはまってしまう事、そしてそれを隠すのが難しい事から、
周囲の視線に耐えられず反発してしまうのだ。
ただ暴れ回る者、集団を作って迷惑行為を行う者、黙って学校を休むものなど、反抗の現れ方はそれぞれだが、
レベル0であり、きちんと学校生活を送っていない生徒は、一様に『スキルアウト』と呼ばれている。
今回問題になったのは、その数多くいるスキルアウトの中の一団であった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 20:03:14.97 ID:icgzUffao<>
「リーダーの名前は駒場利徳。荒っぽい若者を大勢まとめ上げるカリスマ性と、
その周りから一歩抜き出た頭脳から、一応マークされていました」
「で、そいつ何したの」
「よくある話です。仲間と大ハシャギ。
わざと警報を出させて、混乱に乗じて高位能力者を襲おうとしていたようですね」
「ガキがちょっと頭使っちまったんで、おおごとになった訳か」
「ええ。対処には『スクール』があたったそうです」
「それ何だっけ」
「暗部組織の一つです。例の、第一位の……」
「あー、あれか。で、高位能力者のみんなでレベル0の坊やたちをいじめてあげたって事ね」
「そういう構図のはずだったのですが、『スクール』のメンバーも一人減りました。油断でしょうか」
「ヒュー。レベル0やるぅ」
点滴のチューブから、木原の指が離れた。
ヴェーラも気が付いたが、その事には触れずに話し続ける。
「リーダーを含めた『スキルアウト』が半分と、『スクール』が一人潰れて、その件は落ち着きました」
「大した大掃除じゃねーか」
「ええ」
ここで、ヴェーラは一度言葉を区切り、ふうと息を吐いた。
まだ話す事があるらしい。
木原はげんなりしてきたが、止めるのも面倒だったのでそのまま話させた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 20:05:05.92 ID:icgzUffao<>
「続いて、そのスキルアウトの生き残りですが、
一部統括理事会に雇われて女性を一人殺そうとして失敗しました」
「ふーん。次」
「後は……そうですね、『人材派遣(マネジメント)』が最近大口の取引をしたらしいという噂です。
近々大きな動きがあるかも知れません」
「勝手にさせとけ。他は」
「ありません。以上です」
「へいへい」
木原はまるで興味のなさそうな顔で頭を掻き、ヴェーラはぺこりと頭を下げた。
「では、私はこれで」
「おー。調査の件、忘れんな」
「はい」
ヴェーラはただ去っていった。
基本的に、ヴェーラは従順だ。
クズの集まりの一部のくせに、頭一つ抜き出たまともさを持っている。
今なら、彼女の力でも動けない木原を殺すことが出来ただろう。
その気になればの話だが。
だが、彼女はそういった反乱を起こさない人間だ。
信頼というより、仕事上の付き合いの中で分析した結果、病室に呼ぶなら彼女が良いだろうと判断したのだ。
学園都市の暗部には色々ある。猟犬部隊の内も外も色々大変なのである。
寝ている間に何やかやと情勢が変わっていた。
目が覚めてしまったからには、これから忙しくなるだろう。
先の事を考えるとうんざりして来た。
だがやりたい事もある。
この先楽しみにする事もある。
窓の外を眺めて、気づくと木原は笑っていた。
あまり爽やかではない方の笑い方で。
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 20:05:33.70 ID:icgzUffao<>
→レシピ4.5...おわり
<>
◆goBPihY4/o<>saga sage<>2011/10/15(土) 20:06:16.84 ID:icgzUffao<>
仕込んでおります
レシピ5につづく
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/10/15(土) 20:13:22.37 ID:yDY9IomAO<> 乙ゥ
来てたー! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/10/15(土) 21:12:50.21 ID:bibQPIiA0<> 来てたーーーーー つうか、さっきか。乙。
ヴェーラやばいな。一方さん、木原くンがヴェーラに取られるぞ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/10/15(土) 21:41:29.94 ID:6iZut0fNo<> 別にとられても大丈夫だろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<><>2011/10/15(土) 21:43:21.26 ID:meQ0xJ4mo<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/15(土) 21:49:47.70 ID:avPWqzXD0<> 乙
大戦時の一太郎の動向が楽しみです <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/10/16(日) 00:09:30.46 ID:asmydEge0<> >>1
仕込みお疲れさまでした
・・・グループでは一体誰が死んだんだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/10/16(日) 00:19:53.06 ID:9Nvgh311o<> >>895
スクールだ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/16(日) 00:25:16.35 ID:AfoblIVGo<> 乙
人材派遣の大口取引とかきになってしょうがない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/16(日) 02:29:59.03 ID:iqLLy1zDO<> 死んだのは砂皿の前のスナイパーで大口の取引ってのは砂皿だろ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/16(日) 05:19:24.57 ID:QFTtFgAn0<> >>1乙そして一太郎の弁当は当分無いな。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:24:20.37 ID:I4T6FeVvo<>
ぼちぼち再開いたします <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:24:46.38 ID:I4T6FeVvo<>
→レシピ5:ボードゲーム
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:25:40.67 ID:I4T6FeVvo<>
「布団を圧縮、圧縮、圧縮ねェ……イイねイイね最っ高だねェ!」
一方通行は愉快に素敵に引越しの準備をしていた。
荷物整理を楽しんでいるわけではない。
むしろ逆で、あまりに退屈なので無理やりテンションを上げているだけである。
レベルアップを受けて、彼は新しい高校へ編入する事が決まっていた。
流石にレベル4にまでなってしまうと、それまでの学校では周りと差がありすぎるのだ。
ついでに、半年間先送りにしていた引っ越しを決行し、新しい学校の寮に入る事になった。
突然の決定だったが、クラスメイト達は張り切って送別会を開いてくれた。
どこかよそよそしい表情を携えて、彼等は一方通行を送り出した。
それで、お別れ。
もうほとんど連絡する事はないのだろう。
科学最先端の街である学園都市製の布団圧縮袋の実力は半端ではない。
鈍い音を立ててミリ単位の薄さになった布団を乱暴に四つ折りにしてダンボール箱に叩き込む。
丁度すべての荷物を詰め終わったところで電話が鳴った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:26:46.12 ID:I4T6FeVvo<>
机の上の携帯電話が震えている。
「あ、電話だ……まァほっとくか」
「……ブーブー震えてやがンな。まァほっとくか」
「……切れた」
「…………」
「……圧縮、圧しゅ」
ブ―――――ン
「チッ、またか。しつけェな」
「まァほっとくか」
「…………」
「しつけェな」
「あ、切れた」
「……またきやがった。しつけェな」
振動する電話を手に取り、表示を確認すると、発信者の名前は「ブタ」となっていた。
「うわ、木原だ。やべェ、無視しまくってた」
「……まァほっとくか」
その後一時間、計三十六回着信が来続けたので、とうとう一方通行は応答した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:27:25.79 ID:I4T6FeVvo<>
『一方通行! あんたさっさと出なさいよ!』
「おォ、ヴェーラ」
『ヴェーラは合ってるけど違う! 私はナンシーだって言ってるでしょ』
「惜しいな」
『全然』
一方通行が電話に出るまで掛け続けろと命令されていたらしい。
一時間無視されっぱなしだったナンシーは、噛み付かんばかりのヒステリーっぷりだった。
『――もう。とにかく用件。すぐに病院に来て』
「あ? 何でだよ」
『知らない。木原さんが呼べって』
端的にそれだけ告げて、通話が切れた。
これだけのために一時間無視されたナンシー。
いつまでもヴェーラと間違えられるナンシー。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:28:50.20 ID:I4T6FeVvo<>
――――――――――――――――――――→
病室に着いてまず最初にした事は、爆笑だった。
「ギャハハハハ!! キハラくんよォ、ンだァその包帯まみれのザマはァ!?
スクラップの時間ですかっつの」
「いやぁ殺したいわ。メチャクチャ殺したいわー」
一方通行の言うとおり、ベッドに上体だけ起こして納まっている木原は、
頭のてっぺんから足の先まで全身包帯まみれの痛々しい姿だった。
先の垣根との対決で調子に乗って爆破されてしまった彼は、
五日間昏睡した後意識を取り戻したものの、ほとんど身動きの取れない状態になっている。
いくら殺したがっていても、流石にこの状態では襲いかかる事もできない。
だから安心して大笑い出来るのである。
ひとしきり笑い、不機嫌さが最高潮に達している木原に向かって、一方通行は尋ねた。
「でェ? 何の用事で呼び出したンだよ」
「あー、お前は後でいいや。座ってろ」
「はっ?」
バスを乗り継いでやっとここまで来た一方通行を差し置いて、犬の会議が始まった。
個室で取られている木原の病室には、九月三十日の事件で生き残った猟犬部隊の面々が、一堂に集められていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:29:40.96 ID:I4T6FeVvo<>
「よーしテメェら。呼ばれたからには分かってんだろうが、仕事だ」
木原が告げると、隊員達は頷いて了解の意を表した。
「つっても今回のはそんなに危なくねぇし、難しくもねえ。ちょっとしたウォッチングだ」
「それなら、我々全員集める必要はないのでは?」
「文句言うと"我々"の人数が一人減るぞ。具体的にはテメェが死んで」
(ひでェチーム……)
一方通行は猟犬部隊の関係者ではない。
なのでメンバーの顔もほとんど知らないし、ミーティングに加わった事もない。
木原の近くにいるせいで多少は顔見知りがいる程度である。
そのため、このような場に同席するのは初めてだった。
しかし先程の木原の言い分を聞く限り、作戦に参加しろという訳でもないらしい。
ここに呼ばれた意図が分からなかった。
一方通行の内なる疑問をよそに、木原の業務連絡は続く。
「ウォッチャーっていうと、何か別の機関の監視でしょうか?」
「特に審判役をする必要もねぇな。成り行きを見守れとのお達しだ」
「?」
猟犬部隊の隊員達の顔に、腑に落ちない色が広がった。
それに答えるように、木原は無断で持ち込んであったホワイトボードを指差した。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:30:34.31 ID:I4T6FeVvo<>
「何ですかこれ」
ボードに貼り出された数枚の写真を見て、部下の一人がリーダーに尋ねた。
「こいつらは皆、学園都市の暗部の小組織だ」
一枚一枚に、一人ずつ人間の顔が映っている。
多少の事情を知っているらしい部下が一人進み出て、各チームごとに水性ペンで丸で囲み、ホワイトボードから一歩離れた。
「これから暗部で大規模な抗争が起こる。もちろん一般人にゃ知る由もないがな。偉い人の話じゃこれはもう決定らしい」
「決定ですか……」
「ったく、ガキのケンカなんか構ってられるかよ。『スクール』だの『メンバー』だの、オママゴトかっつの」
(『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』だって大概だと思うけどな)
(やめとけよ、聞こえるぜ)
ズドドン。
笑った部下二名死亡。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:31:30.91 ID:I4T6FeVvo<>
何事もなかったかのように木原は続ける。
「アレイスターは小組織を減らしたいと考えているらしい」
「成程。それで組織同士の抗争ですか」
「今回のゴタゴタで生き残るのはこの、『グループ』って奴等のみだ。後は潰れる」
「あ、聞いた事あります」
「地味にいい仕事してるが、華は無いとこですよね。特別目立つエースがいないせいか」
「しかし、五個もあって他全部壊滅ですか」
ホワイトボードには、四枚ずつの写真を囲む赤い丸が五つ描かれている。
『スクール』
『ブロック』
『アイテム』
『メンバー』
そして『グループ』。
総勢二十名の若き悪党たち。
この少年少女(たまに老人)たちは、『グループ』を残して何らかの形で再起不能になるのだろう。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:32:33.09 ID:I4T6FeVvo<>
「あくまで自然な形でそうなるのが理想だが、風向き次第ではちょっかいを出す事になる」
「あの、『グループ』だけ生き残るって事は『猟犬部隊』も壊滅ですか?」
「今のところ解散しろとは言われてねえけどな」
部下からの質問に、木原は面倒そうに答える。
「『猟犬部隊』は抗争には加わらない。わざわざ他の組織と争う必要はねえよ」
だからといって、自分が聞いた指令だけがこのプランのすべてとは限らない。
そこは木原も理解していた。
例えば他の暗部組織が「ついでに『猟犬部隊』も潰してしまえ」と指示されているかもしれない。
正直、木原個人としては『猟犬部隊』が潰れても困らない。
なのでその点について部下の前で触れる事はしなかった。
「潰れる」というのが構成員の死によって成立するなら話は別だが。
「今回のミッションは二つ。まず『グループ』以外の壊滅を見届ける事」
「あと一つは?」
「その『グループ』の構成員を一人殺す事。席を一つ空けたいんだそうだ」
ちらと、木原はホワイトボードの『グループ』のあたりを見た。
「俺も動けねー事だしな、今回は楽でよかったぜ」
ここまで聞いていて一方通行は一人、また嫌な予感がするのを禁じ得なかった。
九月三十日の任務だって、最初は楽勝だと思っていたのではなかったのか。
今回だって何が起こるか分からないではないか。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:33:31.62 ID:I4T6FeVvo<>
一方通行の表情の変化など誰も気づかない。
会議は粛々と進められる。
「つーわけで、ご機嫌なメンバー紹介ね。……『メンバー』って名前のグループがあるのってややこしいな」
「『グループ』という名前のグループもありますね」
「わけわかんねぇな」
潰される予定の組織の構成員が順に紹介されていく。
まずは『スクール』。
「リーダー、垣根帝督」
「第一位ですか」
「これは有名ですね」
隊員達が口々に感想を漏らす。
『スクール』のリーダーは学園都市第一位の垣根帝督。
これは暗部では有名な話だった。
通常、こういった組織の情報は隠されるものである。
だが垣根の場合、そのネームバリューを使った方が都合がよかったのだ。
『スクール』ってところにはあの第一位がいる。
だから敵に回す前に降参した方がいい。
敵対組織に早めにそう判断させられるのが大きな利点だった。
ただし、リーダーの名前以外の情報は、他の組織と同じく徹底的に隠されている。
「つっても、こいつは名誉会長みたいなもんで、名ばかりの構成員だったらしいけどな」
「例の実験で忙しかったでしょうからね。仕事は他の構成員が回してたんでしょう」
「名前だけでも相当役に立ったと思いますよ」
今も同じ病院のどこかで眠る垣根について、彼らは適当に噂をして、次の話題に移った。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:34:11.89 ID:I4T6FeVvo<>
「謎に包まれてたリーダー以外の構成員、一人目。名前は分からんが、女だな」
ホワイトボードに貼られた写真に視線が集まる。
金髪をアップにし、派手なドレスを着た少女であった。
写真の横に、名前の代わりに『心理定規』と書き添えてある。
「『心理定規(メジャーハート)っつー能力の女だ。精神系。
戦闘向きの能力じゃねぇけど、銃器はそれなりに扱えるらしい」
「か、かわ……何でもありません」
次。
「あー、その写真バッテンつけとけ。そいつもう死んでるから」
「はい」
作戦が始まる前に×印を付けられてしまった人物は、
先の争いでスキルアウトに殺されたスナイパーだった。
つまり、『スクール』は現在一人欠けている。
「しかも垣根はあの状態ですから、実質残り二名ですか」
「ここが一番先に潰れそうですね」
そして、『スクール』最後の一人。
特徴的なヘッドギアを付けた少年の写真に、全員が注目する。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:34:49.67 ID:I4T6FeVvo<>
『スクール』の最後の一人を確認しようとしたその時だった。
今まさに『スクール』の監視のために別行動を取っていた部下から、木原に連絡が入った。
「何だ?」
『スクール、一人死にました。頭にでかい輪っかつけてる奴』
「えっ?!」
『スクール』、残り一名。
何もせずに一仕事終えてしまった。
「……後で改めて連絡しろ。詳細はその時聞く」
『はい。では後ほど……』
通信を切り、木原は『心理定規』の写真を眺めて言った。
「風前の灯だな」
「やっぱり一番最初は『スクール』で決まりでしょうか」
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:35:37.43 ID:I4T6FeVvo<>
何とも言えない空気が流れて、話題は『スクール』から『ブロック』へ。
「リーダー、佐久辰彦。でかい。以上」
熊のような大男の紹介が終了。
続いて、となりの筋肉質の女に注目。
「こいつがサブリーダーかね。手塩恵未。現役の警備員としての顔もあるらしい。
つー事は教師で、もちろん能力はないんだが、見た目どおりの力仕事だな」
「筋肉質っていうか、もう、彫刻みたいですね」
筋肉に感嘆しつつ、下の写真へ。
「山手。こいつは戦闘向きの能力者じゃねぇが、ある一点において役に立つとかいう話だったな」
「つまり襲いかかられたら弱いわけですか」
これは楽そうだ、と皆が口々に言う中、木原はその隣の写真を指す。
陰気そうな少女の写真だった。
「鉄網。精神系。握手する事で相手の経歴を読み取るらしい」
「これも戦闘要員じゃなさそうですね」
でかいの二人から引き離す事ができれば、かなり楽に倒せるというわけだ。
通常ならそこが難しいところだ。
だが今回の場合、成り行きに任せていれば勝手に減っていく要員なのだろう。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:37:23.20 ID:I4T6FeVvo<>
「次は――『アイテム』か。リーダー、麦野沈利」
「暗部のレベル5、二人目ですね」
写真に写る『アイテム』のリーダーは、気の強そうな美人であった。
これが学園都市第三位の能力者、麦野沈利である。
彼女にも、第一位に劣らず派手な噂がいくつもあった。
綺麗な顔をして笑いながら敵を追い詰める姿は、まさに鬼なのだとか。
そして、『アイテム』の他三名も十代の少女だった。
リーダーの隣の十二、三歳くらいの少女の名は、絹旗最愛というらしい。
「窒素を操る能力者だ。使い勝手は悪いらしいが、パワーは相当ある」
「レベル5とか4とか、とんでもないのばっかりですね」
「ここは学園都市の不穏因子の抹消だとか上層部暴走の阻止だとかが主な任務らしい。
ごり押しで攻める事もあるんだろうよ」
その次の少女が、フレンダ=セイヴェルン。
「この年なら開発は受けてるはずだが、能力は不明。レべルは低いのかもな。
だが爆発物の扱いに異様に長けてるそうだ」
「かわ……何でもありません」
次の構成員もレベル4。
名前は滝壺理后。
「『能力追跡(AIMストーカー)』。
一度覚えた能力者のAIM力場は絶対に忘れない。どこまでも追い続けるらしい。
ただし、能力の使用には『体晶』っつー体ぶっ壊しながら効く薬が必要なんだけどな」
「無能力者相手には何の力もないんですか?」
「開発を受けてない俺たちはセーフ。開発を受けたけどレベル0認定された学生はアウトだ」
「俺はァ?」
「死ね」
一方通行はなぜか死ぬ羽目になった。
「『体晶』を使い続けてるくらいだから、こいつは勝手に自滅すんだろうな。誰かが手を出すまでもねえよ」
『アイテム』は、最初から不安要素を抱えている。
彼女達はここから崩れていくのだろうか。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:38:31.88 ID:I4T6FeVvo<>
続いて注目されるのが、『メンバー』。
彼らは上層部との繋がりが強いらしく、今の猟犬部隊と同じように他の組織の動きを正確に把握しており、
学園都市に害をなす動きがあれば止める役割があるらしい。
それですら潰そうというのだから、今度の人事異動はかなり大掛かりだ。
「リーダーは、本名不明のジジイ。通称『博士』だ。白衣着てるからってまんまだな」
「一応なんらかの博士号は取ってるんでしょうね」
白衣の老人についての紹介は以上。
続いて、セーラー服姿の色白の少女の写真が指差される。
「こいつは……なんつーか、普通の学生だ。後ろ暗いところが何もない。
なのになぜか『メンバー』と接触している節がある」
「上の方でも洗い切れてないんですか?」
「博士がいつの間にか仲間に入れてたらしい。現在調査中。ま、消せりゃ何でもいいんだけど」
博士と少女の下の二枚が、冴えない顔の高校生二人である。
「査楽。レベル3の移動系。隣が馬場芳郎。機械オタクで博士のサポート役」
「移動系は少し厄介そうですが、サポートとか言うのは単体ではそれ程の脅威でもなさそうですね」
「つか、移動系も大した事なさそうだぜ。顔からして」
冴えない。
人員の五十パーセントが冴えない。
そんな『メンバー』の紹介を終了し、話題は最後の組織『グループ』へ。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:39:31.10 ID:I4T6FeVvo<>
『グループ』は激しい抗争の中で四人中三人生き残らせなければならない、重要な組織である。
むしろ大事なのはこの面々だけで、後は再起不能に出来ればそれでいいだけの話だ。
猟犬部隊の顔にもやっと本気の色が見えてくる。
「リーダーってのはいないらしいんだがな、一応のまとめ役が土御門元春」
アロハシャツにサングラスの、一見ただのチンピラのような高校生の写真が、
ぴらぴらと木原の指で弄ばれた。
「能力のレベルは0だか1だか……ま、役に立つレベルじゃない。
ただ、身体能力と頭の切れが半端じゃねえらしい」
「放っておいても生き残るタイプでしょうね」
「スカしたガキは嫌いなんだがな。潰せねえのが残念だ。次」
土御門の隣に貼られた写真は、長い髪を二つに結んだ女子高生だった。
「結標淡希。条件付きでレベル4。多分、学園都市の移動系で最強だ」
「条件付きって事は、その条件がなければレベル3なんですか?」
「逆だ。5でもおかしくないが、外的要因のせいでレベル4どまり」
「上にギリギリ4で、しかも移動系ですか。潰す対象じゃなくてよかったですね」
「何でこんなヒョロいガキに弱気になってんだよ。殺すぞ」
殺伐とした雰囲気の中、『グループ』の紹介は続行される。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:40:10.65 ID:I4T6FeVvo<>
「不自然なのはこいつだな。海原光貴」
「いっ……」
「イケメンですね……」
「余計な事はいいんだよ」
何が不自然なのかというと、彼が暗部にいるというその事自体であった。
彼はかの名門、常盤台中学の理事長の孫である。そして、レベル4の念動力能力者だ。
家柄もいいし、ざっと調べたところ能力使用によるカンニングくらいしか後ろ暗いところがない。
わざわざ高いところから落ちて来る理由がないのだ。
「カンニングばらすぞって脅されて暗部入りしたってのか?」
もしくはよほど大事な人間を人質にでも取られたか。
「どっちにしろ何か引っかかるな……」
さらなる調査を部下に命じて、次の構成員へ。
『グループ』最後の一人、そしてこの長いメンバー紹介の最後の一人の名は――
「鉄網。あれ?」
ざっ、と、隊員達の視線が『ブロック』の構成員の写真へと移った。
陰気な顔の少女。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:41:18.41 ID:I4T6FeVvo<>
「こいつ、『ブロック』にもいますね」
「おー。何だかな、『グループ』の新メンバーを決める時に『ブロック』側が送り込んだらしい」
「つまりスパイですか」
「そのようだな。で、こいつが『グループ』で生き残らない、椅子を空けるための捨て駒って訳だ」
『ブロック』には、そこまでして『グループ』と接触したがる理由があるらしい。
その他にも、この『ブロック』には色々と怪しい動きがある。
先の『人材派遣』の大口の取引も、どうやら『ブロック』が絡んでいるらしいと聞かされている。
「つーかぶっちゃけた話、今回の騒動の原因を作るのはこの『ブロック』って奴らなんだよな」
べし、と木原が佐久の写真を叩く。
「乱暴に言うと『一番悪いやつら』ですかね」
一方通行はよっぽど「そりゃオマエらだろ」と言ってやろうかと思ったが、口を挟むのはやめておいた。
鉄網を除いた『グループ』の構成員。
つまり土御門、結標、海原を守りながら、他が崩壊していくのを見届ければ、今回の任務は終了である。
「以上、紹介終わり。何か質問は?」
一応木原は一同にそう尋ねたが、誰も手を上げなかった。
上げたら撃たれるだろうと思っているからだ。
普段の木原は無駄に質問されたからといっていきなり撃ったりはしない。
せいぜい殴るか蹴るかである。
しかし、今の彼は手も足も満足に動かせないのだ。
殴るのも蹴るのも難しいとなれば、手っ取り早く撃つしかない。
そういう訳で、僅かなミスで死にかねない状況が、今の隊員達の身に降りかかっているのである。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:41:58.16 ID:I4T6FeVvo<>
「んで、一方通行君。キミの出番だ」
突然、木原が一方通行へ顔を向けた。
「……何だよ」
「重要な任務がある。頼めるか」
木原に見つめられて、一瞬一方通行は、嫌だといったらどうなるかと考えた。
どうせ殴りかかっては来ないのだし、面倒なら断ったって構わない。
いくらなんでも一方通行が撃たれる事はないだろう。
下手をすれば反射されるのだから。
だが一方通行の口から出たのは「おォ」という承諾の言葉だった。
「よし。俺動けねぇから代わりにパンとコーヒー買って来い」
「!?」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/16(日) 19:42:26.35 ID:I4T6FeVvo<>
つづく!?
すごいおおごとになりそうな雰囲気ですが、基本的にはさくさく進めるつもりです
さくさくっと潰してしまいます
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/10/16(日) 20:07:24.44 ID:PQeC5y/AO<> 乙!
>>904のナンシーを最初御坂かと思ったw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2011/10/16(日) 20:09:51.08 ID:/rN0zRrAO<> おつです <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/10/16(日) 20:16:18.97 ID:IZPypvGAO<> 乙
かわ…なんでもありませんの人は金髪萌えなのかな
フレンダや心理定規に反応してたあたり
それか実は>>1の本音か <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/10/16(日) 21:50:47.03 ID:asmydEge0<> >>1
おつ!?
さくさくと潰すんかいwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/10/16(日) 21:55:49.79 ID:WFq+T+A6o<> おつおつっ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/16(日) 22:34:12.76 ID:K1cJrAXIO<> 猟犬部隊のメンバーはサクサク死んでいきますね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/16(日) 22:34:59.13 ID:oSbufsJSO<> 乙
アステカンズの正体は木原クンも知らないか…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/16(日) 22:35:56.12 ID:rcFxVlADO<> 乙!
スクールなんか不憫だな… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/10/16(日) 22:42:37.82 ID:XrjQ6P1I0<> >>1乙 一方さん 俺のパンとコーヒーもお願いします <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/17(月) 00:49:36.69 ID:/SMn+SXVo<> OSR値が機能していないスレでつね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/17(月) 01:05:27.14 ID:RlD1AlTO0<> 灰色の翼をコーヒーが黒く染め上げる!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/17(月) 03:44:16.02 ID:ibaJOjG8o<> >「無能力者相手には何の力もないんですか?」
>「開発を受けてない俺たちはセーフ。開発を受けたけどレベル0認定された学生はアウトだ」
>「俺はァ?」
>「[ピーーー]」
>一方通行はなぜか死ぬ羽目になった。
このやり取りクッソわろたwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/17(月) 05:17:57.00 ID:86vsss6n0<> >>1乙
転校先は、どこかな? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/17(月) 07:07:50.72 ID:NFHFHKzJo<> 乙
絶対に笑ってはいけない猟犬部隊24時か <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/10/17(月) 08:47:30.35 ID:C6EK4loAO<> \ズドドーン/
〇〇、アウトー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/17(月) 23:10:42.33 ID:i150ND0d0<> 乙
エツァリの恋心ははかないなぁ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/10/18(火) 20:57:18.18 ID:OkQkyS19o<> まさに命がけのゲームだな
アウトになったら銃殺とか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)<>sage<>2011/10/18(火) 22:08:10.44 ID:hpbkrglbo<> 追いついた!
オッスオッス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/19(水) 20:57:19.31 ID:0kK1/qAqo<> ☆視点な>>1とか斬新だけど怖い
展開が読めないのにさらっと怖い事を言わないでくださいお願いします <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage saga<>2011/10/19(水) 21:03:52.98 ID:bQRvxY9R0<> 乙!
病室で人殺すんじゃねぇwww
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:03:35.58 ID:MRvS0dfYo<>
――――――――――――――――――――→
第七学区界隈の路地裏で、それなりに名を馳せるスキルアウトがいた。
名前は駒場利徳。
図体は大きく顔つきもごつい。
見た目通りの怪力だが、見かけによらず冷静沈着で、頭も良い。
そして、大勢の不良たちを統括する人望もあった。
十月三日、彼を中心としてある事件が起こった。
綿密に準備した布石を使い、学園都市の警報機能にエラーを生じさせ、
連絡網が混乱した隙を突いて能力者たちを襲おうとしたのだ。
ただ暴れられればいいと思っていたわけではない。
それには大切な目的があった。
一部の能力者達の間で、「できるだけ多くの無能力者を狩る」というゲームが流行していたのだ。
理不尽に虐げられる無能力者たちを守るため、彼らはゲームに興じる能力者を襲撃する予定だった。
結果、計画は失敗。
スキルアウトの一団は頭と主力の半分を失った。
原因は、『スクール』という学園都市の犬だった。
統括理事会の言いなりになって動く少数精鋭の暗部組織で、
今回の騒動の鎮圧に駆り出されていた。
激闘の末、駒場が『スクール』の一員を撃破したが、相打ちの形で彼も倒れてしまった。
相手は一人、こちらは半分。
割に合わない痛み分けである。
道を外したスキルアウト達は血の気が多い。
ましてリーダーを再起不能にされたのだ。冷静でいられるわけがない。
少年達は互いの熱に影響され合い、どんどん熱くなっていった。
よく言えば、仲間のためになりふり構わない若者達。
悪く言えば、暴走すると見境がない子供。
リーダー不在の不良集団は、復讐のため、新たな戦いを巻き起こそうとしていた。
そしてこれが、暗部組織を解体するための重要なステップのひとつとなる。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:06:00.44 ID:MRvS0dfYo<>
――――――――――――――――――――→
頼まれた用事は、ザ・パシリである。
一方通行はきっぱりとこう答えた、「嫌なこった」。
すると、木原は言った。
「釣りで好きなもん買っていいからよぉ」
そして、五十円玉を投げて寄越してきた。
「釣りどころか足りてねェよ。明らかに」
それではパシリどころかタカリではないか。
押し問答の最中に、『スクール』を追跡している部下から再び木原へ連絡があった。
『先程の、ヘッドギアの少年が死んだ件について報告したいのですが』
機械を介した部下の声に、木原は「ん」と短く応じる。
承諾されたと受け取り、猟犬部隊の隊員は先を続けた。
『十月三日にスキルアウトが暴れた事件を御存知でしょうか?』
「まあ、簡単には聞いてる。リーダーとガキ共半分が減って、『スクール』も一人死んだらしいな」
『それで、スキルアウトが復讐だとかいってまた暴れ出しまして。
"打倒スクール"が合言葉だそうです』
「おやおや。若いねえ」
その結果、『スクール』の隠れ家の一つを根性で見つけ出したスキルアウトが、襲撃を決行。
心理定規は逃げたが、大勢に囲まれたヘッドギアの少年はひとたまりも無かったらしい。
『集団でリンチ。勢い余って殺してしまったようですね。
本当は生かしておいて他のメンバーの情報を吐かせる予定だったらしいですが』
「そうしてくれりゃ助かったんだけどな。リーダー不在じゃまとまらねぇのも仕方ねぇか」
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:07:44.66 ID:MRvS0dfYo<>
二言三言、事務的な連絡をし合ったあと、木原は部下との通信を切った。
入れ替わるように病室のドアからノックが聞こえ、ヴェーラが背筋を伸ばして入って来た。
「天使の情報でも分かったか?」
「はい。ほんの少しですが、どうにかかすめ取ってきました」
「そりゃー良かった。違う用事だったらガッカリして思わず撃っちまったかもしれねーからな」
良かったのはヴェーラの方である。
差し出された書類の束をひったくり、パラパラと目を通す木原。
最初は新聞の三面記事でも読むかのように半分上の空だったが、
ページを捲るうちに段々目の色が変わってきた。
「ヒューズ=カザキリ……っはは、すげえ。ヒューズ=カザキリか。気に入った!」
件の天使は、そういう名前が付いているらしい。
「あン? 何だそれ?」
一方通行が口を挟むと、木原は紙の束を持ち上げて彼の方を見た。
「三十日に天使みてえな化け物が出たのは知ってるか。あれの正体は科学技術だ。ここにゃ概説レベルしか書いてないようだが……」
「あれが学園都市製だって?」
あの日一方通行は他の事で頭が一杯だったので、天使の事はあまり覚えていない。
だがあの廃オフィスに向かう道中で、遠くで輝く翼は目撃していた。
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◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:10:01.84 ID:MRvS0dfYo<>
対して、その様子を克明に覚えているらしい木原は、興味津々でヒューズ=カザキリのプロフィールを読み漁る。
「ミサカネットワークで強制転換させたAIMの集合体……大体は予想どおりか」
「日本語使ってもらえませンかね?」
「え? お前日本語分かんの?」
バカなのに? と目で尋ねられ、さてここで何と切り返せばこいつを挑発できるだろうかと一方通行は考えたのだが、
木原の方はほとんど一方通行の方には意識が向いていないようだった。
ヴェーラの報告書に夢中になっている。
「ローマ正教の科学的開発機関『魔術』の技術を応用し……って嘘つけ。自分で考えたんだろうが」
文字を追いかけながら突っ込みを入れる。
ただ、学園都市の科学者がゼロからこの理論を構築したのではなさそうだ。
書いてあるとおり、『魔術』の応用だ。
アレイスターは、魔術的な考え方を科学の方に転用して、あの天使を作り出したのだ。
「デフォルトでは風斬氷華という名前で、高校生くらいの女子生徒の形態を取っている、と」
「アレで普段は女子高生なのか」
「最終信号にウイルスをブチ込むとそれが天使に早変わりってわけだ」
九月三十日は、強力な侵入者が現れて、緊急事態だった。
それで最終信号に手を出して垣根の逆鱗に触れたのだ。
一方通行は、今やっとあの日の顛末を理解した。
そして彼は、木原が『ANGEL』のスクリプトを自分のコンピューターに隠し持っている事を知っている。
最終信号を拉致する前にコピーしたらしい。
抜け目がない男である。
あれでまた何か遊ぶ気なのだろう。
考えている一方通行の横で、ヴェーラが身動きをする気配があった。
「喜んでもらえました? 良かったです。では、私は調査の続きに行きます」
「……」
木原は、退室するヴェーラに手だけ振って答えていた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:12:37.81 ID:MRvS0dfYo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
一方、『グループ』の下部組織として潜り込んでいる猟犬部隊の一員が、正規メンバーの動向を追っていた。
彼の運転する車に乗るのは、『グループ』まとめ役の土御門と、条件付きレベル4の結標だ。
「つまり何もかも全部粉々、という事? あの男も含めて」
広々とした車内で優雅に足を組む結標が、携帯電話越しの鉄網に向けて言った。
『そう。情報が隠されていそうな物資は、丸ごとロケット砲の爆発で消し炭になった。
中にいた海原は、死体の断片も見つからないから、回収された可能性が高い』
淀んだ声が返って来る。
鉄網は海原と組んで、『人材派遣(マネジメント)』と呼ばれる人物の住居を調査していた。
『人材派遣』は犯罪組織のために人員を紹介するのを生業としている、年恰好は大学生くらいの男だ。
ここ最近で大口の契約をしたという情報があった事から、『グループ』に調査命令が出ていたのだ。
だが、鉄網達が彼のマンションに到着した途端、その一室へ爆発物が投げ込まれ、
直後に武装した謎の男達が突入して来た。
鉄網は咄嗟に逃げたが、海原はどうなったか分からない。
というより、多分死んだだろうというのが鉄網の報告だった。
結標のはす向かいに座る土御門が、小さく鼻を鳴らした。
「店舗の方は収穫なし。色々ありそうな住処の方は爆破か。こりゃ『人材派遣』に直接聞くしかないな」
「簡単に口を割ってくれれば楽なのだけれどね。鉄網さん、ポイントDで落ち合いましょう」
『分かった』
『人材派遣』本人は、既に土御門が捕獲している。
現在は護送車で運ばれているはずだ。
消息不明の海原は取り敢えず置いておいて、『グループ』を乗せた車は走る。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:15:47.94 ID:MRvS0dfYo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
報告を受けて、病室が静まり返る。
待機中の部下の一人が木原に尋ねた。
「海原、死んでしまったんでしょうか?」
だとすると、守るべき対象がいきなり一人脱落である。
これはまずい。
が、木原はまだ冷静だった。
「死体は見つかってねーんだろ? まだ△だな」
よって、海原の写真の横には×印ではなく△印が記された。
端正な顔の横に三角形が出現した直後、またも通信が来た。
応答すると、『ブロック』の動向を探っている隊員だった。
『マンションを爆破したのは『ブロック』です。リーダーの佐久が指示を出していました』
「だと思った」
最近『人材派遣』と取引したのは『ブロック』なのだ。
マンションに残った情報はすべて隠蔽したいのだろう。
それで手っ取り早く爆発させたのだ。
「マンションから、逃げ遅れた海原の死体なんか発見されてないだろうな?」
『海原どころか焦げたネズミ一匹見つかってないらしいです』
「じゃ、逃げたな。取り合えず生きててくれて助かったぜ」
木原は一応安堵したが、姿が見えないのが気にかかるし、第一守れない。
全力で海原の行方を捜すよう別の部下に指示し、一息ついたその時だった。
続けざまに、『アイテム』を監視していた隊員から通信が入った。
書類に目を通す暇もない。
木原が舌打ちをしながら応答すると、焦燥に駆られた隊員の声が飛び出して来る。
『木原さん、大変です!』
「何が」
『アイテムが、アイテムの女性陣が……』
隊員は、『アイテム』が現在待機しているファミリーレストランの様子の報告を始めた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:17:27.92 ID:MRvS0dfYo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
朝っぱらから。
とあるファミレスで、野球拳パーティーが開催されていた。
「ちょっとも〜、勘弁してほしい訳よ……」
「はい、文句言わなーい。次行くよ」
「超弱いですねフレンダ。私なんかこのワンピースの下は超いきなりパンツですが、ご覧のとおり超余裕の鉄壁ですよ」
「きぬはた、まだブラしてないの?」
彼女達は、仲の良いエロサークル。
ではない。
十代の少女四人を中心とする暗部組織『アイテム』である。
ふんわりとした長い茶髪と抜群のスタイルが魅力的なセクシー系リーダー、麦野沈利。
最年少ながらも悩ましいボディラインと大人しそうな顔のギャップが男心をくすぐる絹旗最愛。
フランス人形のように美しい金髪と碧眼の、スレンダーな女子高生フレンダ=セイヴェルン。
ピンクのジャージに化粧気もなく、飾らない自然体の魅力を纏う滝壺理后。
歩いているだけで人目を引く美少女集団である彼女達が、
日中のファミレスで堂々と野球拳をしている理由はただ一つ。
本日のドリンクバー往復係を決定するためである。
開催してから負けっぱなしなのがフレンダ。
重ね着と帽子でかなり有利な服装だったのにもかかわらず、
下着以外の衣類は残すところスカートとブラウスだけになってしまった。
その醜態を見ながら、際どい丈のワンピースを着た絹旗がフフンと鼻を鳴らした。
「いつでも超OKです。ちなみに滝壺さん、私はブラしてますよ。三年前には超デビューしてました」
「……南南東から信号が来てる」
「ちょっと待ってみんな! 気付いたんだけど、結局私がパシリを買って出れば野球拳を続ける必要はない訳よ!」
「ドリンクバー? なんだっけソレ?」
すでに当初の目的を忘れているリーダーが、無慈悲にも再開の合図を出す。
店内の他の客や窓の外に張り付いている野次馬に注目されながら、
フレンダのスカートを剥ぐべくジャンケンが行われる。
「はい、や〜きゅ〜う〜すーるならっ?」
「こういう具合にしやしゃんせー」
「超アウト♪ 超セーフ♪」
「……結局、不幸って訳よ……」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:18:31.73 ID:MRvS0dfYo<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
『アイテムが! 野球拳してます!!』
「死ね」
木原は通話を切った。
そして、顔を上げた。
そして、猟犬部隊の面々が非常に残念そうな顔をして彼を見つめているのに気が付いた。
「……」
「……」
男性陣は皆、『アイテム』の追跡班がよかったなあと思っているのだろう。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:20:11.19 ID:MRvS0dfYo<>
部下の報告が途切れ、暇な時間になった。
再び木原が一方通行にパンとコーヒーを買わせようとする。
「あーくん、売店でごはん買って来てぇん」
「あまたンが自分で買ってくればァン?」
「何があまたんだ気持ち悪いんだよ死ね」
「……この理不尽さが大怪我すれば良かったのに」
いくら一方通行が愚痴ろうが、木原は一生このままだろう。
ふと、さきほどの『アイテム』のことを思い出し、彼は提案する。
「じゃァ、ジャンケンで決めよォぜ。負けた方がパシリな」
一方通行は膝の上に投げ出された木原の右手を見て言った。
包帯でぐるぐる巻きにされ、パーしか出せない状態になっている。
流石に男二人で服を剥ぎあってもちっとも面白くないので、
ジャンケンのアイディアだけ拝借させてもらう事にした。
パーしか出せない木原に。
「パシリだと? 俺は動けねえよ。だからテメェに買って来いっつってんだろうが」
「動けるよォになったらこき使ってやンよ。ほら、受けンのかやめンのか?」
一方通行の挑発に、木原は少し考えて、答えた。
「…………いいだろう。人間の探究心に限界なんざねぇって事を教えてやる」
「関係ねェけどな。探究の心は」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:20:44.21 ID:MRvS0dfYo<>
ただのジャンケンでも手を抜かないのが、大人気ない大人の大人たるゆえんである。
コーヒーのパシリを決定する熱き戦いが始まる。
地元のローカルルールに則り、最初の手は互いに『グー』だ。
「さァイしょォは、グゥゥゥ!!」
気合の入った『グー』。ここから先が本番である。
「じゃァンけェーン――――」
ここで、一方通行の頭脳は高速に回転を始めた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:21:38.86 ID:MRvS0dfYo<>
木原の右手はパーしか出せないが、左手の方はフリーである事には気が付いていた。
そんな事は億尾にも出さないが、木原自身ももちろん右手は囮で左手を使う腹だろう。
ここで問題になるのは、お互いがその事に気が付いている事に気が付いているのか? という事だ。
一方通行が気付いている事に木原が気付いているかどうか。
九割方分かっていてとぼけている。
つまり、パーしか出せない木原の右手を狙って一方通行がチョキを出すのを見越して木原が左手でグーを出すのを一方通行が読んでパーを出す所まで、木原は見当が付いているはずなのだ。
(なら、コレで勝負……!)
アイコで様子見などせず、勝ちにいく一方通行。
運命の手が場に出された。
一方通行、グー。
対する木原は――
動かしかけていた右手を左手に切り替えて、グーを繰り出した。
そして、握った拳でそのまま一方通行の顔面を殴り抜いた。
どういう理屈でそうなるのか一方通行にはサッパリ分からなかったが、それで木原が勝った事になった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/20(木) 02:22:06.77 ID:MRvS0dfYo<>
つづく
すいません深夜のテンションで書きました
さくさくとか言っておきながら減ったのは守るべき海原だけとは
次はちゃんと話が進むはず
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/20(木) 02:51:46.89 ID:gQL0g+Co0<> 乙!
最後wwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<><>2011/10/20(木) 04:31:02.22 ID:Ablv5pW50<> >>1乙!!wwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/20(木) 04:31:39.65 ID:aiooKiseo<> 木原くン歪みねェな!乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/20(木) 04:52:35.46 ID:pa55yNw0o<> 本当にどういう理屈だよwwwwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/10/20(木) 05:23:27.03 ID:zV98h5iAO<> 木原くン流石外道wwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/10/20(木) 08:21:21.44 ID:SeaM2ljAO<> 乙!!
安定の木原くンwwww
ところで報告書に貼ってあるアイテム野球拳の参考画像だれか持ってませnバァン!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/10/20(木) 12:46:44.70 ID:3vub3qNDO<> 乙
木原くん酷いなW <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/20(木) 19:04:11.83 ID:5C/czPfuo<> 乙乙
スレンダーな女子高生フレンダ=セイヴェルン
がフレンダーな女子高生=フレンダ=セイヴェルン
に見えて焦ったよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)<>sage<>2011/10/20(木) 19:37:38.95 ID:1NfBaFKi0<> >>958
爆死したか……無茶しやがって
ところで、他の三人はどんな状態なんだろうか
それともフレンダの独り負け? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/20(木) 21:14:08.66 ID:ACPUETOvo<> 範馬さん親子かっ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/20(木) 21:21:53.64 ID:GYRH1sHXo<> 相変わらず仲良しこよしでおいちゃん嬉しいよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/20(木) 23:43:00.43 ID:BjZVHSVO0<> 大けがしている状態で木原真拳使えるのかよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/10/21(金) 00:06:28.91 ID:rAv7oynMo<> >>964
このSSの一方さんは反射してないぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/21(金) 05:52:42.57 ID:7USctJiJo<> 木原神拳 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<>sage<>2011/10/21(金) 15:50:54.84 ID:pzi/qIFAO<> 次スレになったらスレタイどうなるんだろう…
「第一位のつくりかた 第二過程」
とか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/10/21(金) 16:05:24.28 ID:x/A/jtCso<> >>967
「第一位のつくりかた 第二次製造計画(セカンドシフト)」の方がいい感じがするゥ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/10/21(金) 16:25:24.72 ID:NG53/A+g0<> >>968
それを言うならセカンドシーズンだろ
あと、sageろやks <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/10/22(土) 00:08:43.25 ID:1n8Wu2yb0<> 第一位のつくりかた 〜山田二太郎〜 に決まりだろ?
それにしても、こんなに面白いSSになるなんて思いもしなかったな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/22(土) 14:07:30.51 ID:IosfvLJt0<> そのままの第一位のつくりかた2でよくね?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/22(土) 15:46:22.88 ID:4VU2yF+fo<> じゃあ第二位のつくりかたで <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/22(土) 15:50:35.15 ID:/tl8ZmdYo<> 別人!別人! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/22(土) 16:45:15.67 ID:bFEPLNeIO<> 第一位のそだてかた
第一位のあそびかた
第一位のまもりかた
第一位のねがいかた
こんな風に変えればいいんじゃね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/10/22(土) 16:51:40.44 ID:hjwDZsc+o<> エロ展開になるだろそれ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/22(土) 16:54:11.31 ID:FvLv97q8o<> 続・第一位の でもいいんじゃない? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/22(土) 17:18:01.70 ID:q/NJTMe+0<> 第一位のあそびかた
とか
第一位のなぐりかた
とか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/23(日) 00:16:25.04 ID:V+xIE/8do<> もう第一位の2くりかたでいいよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/10/23(日) 00:36:32.78 ID:06a436cAO<> やっぱ“第二位のつくりかた”だろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/23(日) 06:55:54.05 ID:i5szJ1J70<> スレタイなんてどうでもいいじゃないですか。内容は面白いですし、自分はこのスレタイ気に入ってます。
そもそもスレタイなんて作者が決めることなんですから俺達がどうこう言う問題じゃないと思います。
それから残りスレ数も少なくなってきたので、そろそろ書き込みを自重した方がいいかと…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/23(日) 18:12:48.95 ID:1CzhTN/Oo<> >>976
3スレ目は「∞木原式∞ 第一位のつくりかた 参」ですね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/10/23(日) 18:14:59.00 ID:QqmPx2O7o<> >>981
夏目かよwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/23(日) 20:15:17.64 ID:bbaxgwIqo<> 真型の第1位とか胸熱 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/23(日) 23:00:08.48 ID:rybn5EV8o<> まさかのつくりかたた <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/23(日) 23:00:08.63 ID:GCXIYf8do<>
――――――――――――――――――――→
いなくなった人間は、そっとしておく。
『グループ』は薄情だった。
行方不明の海原を放置し、『人材派遣』を詰問すべく車を走らせる。
別行動を取っていた鉄網を途中で拾いつつ、護送車とはすぐに落ち合えた。
この護送車は『グループ』がいくつか持っているアジトの一つに『人材派遣』を移す事になっていた。
「んじゃ、行きますか。楽しい拷問タイムだ」
「私パスしていいかしら。年上の男って興味ないのよね」
「……」
土御門は気だるそうで、結標は退屈そうで、鉄網は陰気であった。
「グダグダ言うな。とっとと行くぞ――」
土御門が腰を浮かせたその時だった。
運転席に付いている通信機に着信があった。
運転手に化けた猟犬部隊の隊員は、すぐに車内スピーカーを使って土御門達に連絡する。
『緊急事態です。第五学区のウイルス保管センターがクラッキングを受けています』
「あ?」
ドアに手を掛けていた土御門の動きが止まる。
学園都市の情報ネットワークにも、コンピューターウイルスは潜んでいる。
そのワクチンソフトを作るためにウイルスを収集しているのがこのウイルス保管センターで、
ここのウイルスが外部に流れ出ると、科学の街のみならず、学園都市の外まで大変な事になってしまう。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/23(日) 23:04:34.77 ID:GCXIYf8do<>
「でも、それって私達に関係あるのかしら?」
結標が足を組み直しながら言った。
クラッキングされているからといって、第五学区まで行って悪い奴をやっつける、というわけにはいかない。
犯人は別の場所で攻撃しているはずだからだ。
となれば、ハッカーを抱えているわけでもない『グループ』には対処のしようがないわけだ。
「殴る蹴るって問題でもないようだし、出番はないんじゃない?」
そこへ、運転手が留まらせるように告げる。
『ウイルスの学園都市外への流出を防ぐために外部接続ターミナルを遮断しているのですが、
四つのターミナルの内、第十三学区の西部ターミナルのみ応答がありません』
「確かにそちらなら、物理的に解決できる可能性が高い。現場へ行ってケーブルを引き抜けば済む話」
ぼそり、と鉄網が私見を述べた。
「つーか、どっかの誰かが俺たちみたいな組織を誘ってやがるのかもな」
土御門も続ける。
つまり、ターミナルの方は殴る蹴るの問題かもしれない。
そこで『グループ』にお呼びがかかるなら、断るわけにもいかないだろう。
「ったく……次から次へと面倒だな」
「『人材派遣』は私一人でも充分。私の『意見解析』なら欲しい情報は全部引き出せる」
鉄網の申し出に、土御門は頷いた。
「そりゃそうだな。じゃあ鉄網をここで降ろして、俺たちは十三学区だ」
「了解した。私の価値は、人の心を読むことしかないから」
こくりと頭を傾けて、鉄網は車を降りた。
発車して行くキャンピングカーを見送って、数秒。
彼女は携帯端末を取り出し、『ブロック』へと連絡を取った。
「土御門と結標は引き離した。『人材派遣』は殺して構わない」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/23(日) 23:09:47.58 ID:GCXIYf8do<>
――――――――――――――――――――→
『グループ』を乗せた車が第十三学区へ向かってから、数十分後。
『アイテム』はまだファミレスにいた。
ドリンクバーだけで午後まで粘っている。
「……超驚きました。まさかフレンダがあんな下着をつけているなんて……」
何かの衝撃から立ち直れない様子の絹旗が、アイスティーを啜りながら言った。
それに対してフレンダが何かを言おうとした瞬間、麦野の携帯端末が甲高い音を立てて邪魔をした。
麦野はしばらく放置していたが、いつまで経っても鳴りやまないので、仕方なく応答する。
「めんどくさ……はー」
『ちょ、めんどくさいとは何よー! こいつときたらーっ!』
異様に元気な女の声だった。
麦野はそれに慣れているらしく、最初から数センチ耳から電話を離している。
「何か用? 私ら忙しいんだけど」
『何が忙しいって? ファミレスで堂々と野球拳してるくせに』
行動をすべて把握されている事に、麦野は舌打ちする。
下部組織の連中も連れているのだから定期報告が行っているのは当然なのだが、やはりあまりいい気はしない。
電話の相手は、『アイテム』の指示役だった。
声以外は何も知らされていない。
ただ仕事用の電話にいきなり連絡を入れて来る。
平たく言えば上司だ。
<>
◆goBPihY4/o<>sage<>2011/10/23(日) 23:17:03.55 ID:GCXIYf8d0<>
「なんもないなら切るわよ」
『だー! ちょっと待ちなさい! こいつときたら、全然上司の話を聞かないんだから』
「だからさっさと言えっての」
『ぐぬぬ……あのね、第二十三学区で衛星管理センターが電子攻撃を受けてるから、アンタらちょっと行って解決してきて』
「えーやだ」
『やだじゃないわよこいつときたらーっ!』
学園都市はこれまで、いくつか衛星を打ち上げている。
現役で有名なのが『ひこぼしII号』で、建前は気象衛星である。
だが、本命の目的は学園都市周辺の地域の監視であり、さらには大口径レーザーまで搭載されている。
『ひこぼしちゃんが乗っ取られてレーザーぶっ放されたら、戦争の一回や二回、簡単に引き起こしちゃうのよ!?』
「そんなの私らのせいじゃないし」
フレンダなどは、世界大戦などより先程のジャンケン戦争の方がよほど心にこたえている。
『他の部署はみんな手一杯なの! やれっつったらやんなさい!』
「分かったわよ。もー」
不平・不満・愚痴たらたらといった感じで、麦野は了承した。
彼女達の今度の仕事は、乗っ取られそうになっている衛星兵器を「なんとかすること」。
実力を信用されているのか上が考えるのが面倒なだけなのか、大雑把な指令である。
『あ、あとついでにね』
「やだ」
『スキルアウトが暴れてるから鎮圧して。以上』
ガチョン、と思い切り受話器を叩きつけたような音が聞こえて、通信が切れた。
「……ったく……」
麦野の舌打ちを合図に、『アイテム』のメンバーの顔が、仕事用のそれに切り替わる。
<>
◆goBPihY4/o<>!status<>2011/10/23(日) 23:18:44.86 ID:GCXIYf8do<>
重すぎワロリーヌ
ちょっと時間置いて再開します
現在のサーバのご機嫌:さよ・・・う・・な・・ら・・(LA:15.9453125) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/10/23(日) 23:23:38.55 ID:QqmPx2O7o<> >>989
そろそろ新スレ立てろ
埋まるぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/23(日) 23:34:34.00 ID:anvNqSj40<> 1 0 0 0 !! <>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/23(日) 23:35:13.07 ID:GCXIYf8do<>
「えーっと、結構聞こえてたと思うけど、仕事」
冷めたコーヒーを一気に飲み干して、リーダーが仲間の顔を見回した。
「結局、衛星管理センターへのクラッキング問題の解決って訳ね」
「それと、スキルアウトの暴動の超鎮圧ですね」
「二手に分かれないとね」
話し合いの中で、フレンダがそわそわと身じろぎした。
「何フレンダ? なんか問題でもあんの?」
「え、いや、結局……スキルアウトなんて、ほっといても良いんじゃないかなって思った訳よ」
「雑魚には超構ってられないって気持ちは超分かりますけど、仕事は仕事ですし」
「そう、だよね〜……」
あははと、どこか渇いた笑いを漏らし、フレンダは俯いた。
そして、顔を上げて言う。
「あのさ、結局、私は衛星管理センターの方に行きたい訳よ。そっちの方が歯ごたえありそうだし」
「別にいいけど。んー……じゃ、私とフレンダが第二十三学区。絹旗と滝壺はスキルアウトぶっ潰して来て」
「超了解です」
「分かった」
特に揉めもせず、『アイテム』の作戦会議は終了した。
やっとの事で席を立ち、彼女達は二手に分かれてファミリーレストランを後にする。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/23(日) 23:35:47.41 ID:GCXIYf8do<>
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
『グループ』と『アイテム』が動き出した。
そして、『ブロック』としての鉄網も怪しい行動をしている。
先は見えないが、事態は進行しているようだ。
部下からの報告でそれを確認した木原は――
「A太君とB郎君は仲の良い兄弟です。
A太君の歩く速さは、B郎君のちょうど二倍です。
A太君は西向きに歩き出しました。
B郎君は、A太君が歩き出してから三分後に歩き出しました。
さて、B郎君はどこへ向かって歩き出したでしょう?」
「……はァ?」
――一方通行になぞなぞを出していた。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/23(日) 23:36:13.18 ID:GCXIYf8do<>
ただ他の組織を監視しているだけでは暇なのだ。
何しろ成り行きに任せていれば仕事は終わるのである。
やる事がないからなぞなぞでもするか、という話に、なぜかなった。
「方角のヒントなンか何もねェじゃねェか。どォやって当てろってンだよ?」
五分考えて音を上げた一方通行が、木原を睨みつけながらヒントを乞う。
それに対し、木原はバカにしたような笑みを浮かべるだけだった。
「西?」
「理由も言えよ。そこまで聞いてから当たりか外れか教えてやる」
「特にねェよ。勘だ」
「じゃー外れ」
ずっとこの調子である。
一方通行はストレスが溜まりっぱなしだった。
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/23(日) 23:36:42.89 ID:GCXIYf8do<>
一方通行は自分をバカだという事にしている。
今さらなぞなぞくらい当てられなくても、誰も不自然には思わない。
それどころか納得してくれるだろう。
だが、彼はバカの振りをしているだけで、実態はバカではないのだ。
そうなると、他の誰が納得しようとも自分が納得いかない。
どうしても答えが気になる。
だが木原に頭は下げたくない。
「……」
「ほーら一方通行。教えて下さいお願いしますって言ってごらん?」
にやにや笑いながら手招きする木原。
「……くそォ……」
「……あァ〜畜生!」
ついに、一方通行はギブアップした。
「教えて下さいお願いしますうゥーっ」
忌々しさ全開で頭を下げる。
すると、木原は大笑いしながら言った。
「よぉーし、いいだろう。答えはなぁ――」
<>
◆goBPihY4/o<>saga<>2011/10/23(日) 23:37:19.72 ID:GCXIYf8do<>
はい次スレ(あざとい)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319377705/
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/23(日) 23:38:02.46 ID:anvNqSj40<> あと少しだから埋め始めると思ってやった。反省している
すいませんでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/23(日) 23:38:40.39 ID:KcKW6+NPo<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/10/23(日) 23:43:20.04 ID:VtzIfhmAO<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/10/23(日) 23:43:32.55 ID:QqmPx2O7o<> 産め <>
1001<><>Over 1000 Thread<> /|\
|::::0::::|
|`::i、;;|
|;;(ヽ)|
//゙"ヘヘ
// ヾ、
! ! l |
| | .! !
.| | ノ:,! SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
ヽ! !ノ http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
<>
最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>嫁宣言して60分以内に嫁AAにお断りされなければ結婚避難所 @ 2011/10/23(日) 23:12:43.13 ID:Ro3cY4re0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1319379160/
元ニートを好きになってしまったww @ 2011/10/23(日) 23:07:44.80 ID:zpDdLjQyo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1319378857/
∞木原式∞第一位のつくりかたた @ 2011/10/23(日) 22:48:25.59 ID:GCXIYf8do
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319377705/
【密教世界を】釣塔大学【体系化】 @ 2011/10/23(日) 22:27:47.33 ID:y1++/oNZo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1319376467/
【乾いた風】ここだけファンタジー世界part157【冬近い?】 @ 2011/10/23(日) 22:24:36.88 ID:0J5Sn+PIO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1319376268/
俺がオナ禁するスレ @ 2011/10/23(日) 22:24:00.64 ID:OKTgluBSO
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俺がオナ禁するスレ @ 2011/10/23(日) 22:23:56.95 ID:OKTgluBSO
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俺がオナ禁するスレ @ 2011/10/23(日) 22:23:39.98 ID:OKTgluBSO
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