VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/06/30(木) 20:26:42.16 ID:pd9i2CU5o<> 魔法なんてどこにもなくて、変態がいて、働いて、時には笑い、時には泣く。そんなどこにでもある日常。
株式会社サークル杏クウカイ社長、佐倉杏子は、
秘書見習いである美樹さやかとすれ違いばかりの切ない同棲生活をしながら、そんな日常を多忙に過ごす一人。
今回、彼女はレズ友達の暁美ほむらに誘われ、休暇を利用して、海の見えるプール付きのホテルでバカンスを楽しんでいる真っ最中。
そこで語られる、ほむらの過去とは…。
それは、彼女の想像を絶するハードな恋――
そして、新たな変態物語の始まり――
※これは架空の物語である。
過去、あるいは現在において、たまたま実在する団体、アニメキャラ、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎない。
※この作品はクズ変態系ドス黒SS、さやか「さやかちゃんイージーモード」
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1303/13030/1303026463.html
と併せてお楽しみください。
※18さいみまんのおきゃくさまはほごしゃのかたといっしょにおよみください。<>杏子「あたしの恋はベリーハード」
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:27:35.12 ID:pd9i2CU5o<> プロローグ プールサイド
「不満そうね。 怖い顔だわ」
隣にいる暁美ほむらから発せられたその声に、
今まで遠ざかっていたすべての音が、形を持った知覚として佐倉杏子の神経を一斉に震わせた。
水音とはしゃぎ声が絡みあい、屋内プールの中で反響している。
視線の先でその音を生み出しているのは、ほむらの恋人、鹿目まどかと、杏子の想い人、美樹さやかだ。 二人は親友同士だった。
「別に不満なんか感じてねえよ」
言い訳じみていると、自分でも思う。
杏子はそれを誤魔化すように、目の前で水をかけ合い遊んでいる二人から目を逸らし、
プールサイドのビーチチェアに寝そべったままテーブルに手を伸ばし、
冷たく汗をかいたグラスからソフトドリンクをすすり始めた。
「じゃあまどかをそんな嫉妬に満ちた眼で睨まないで頂戴」
そんな杏子のすべてを見透かしているほむらは、自分が求める事だけを言葉にし、ピシャリと杏子に浴びせかけた。
その態度には、余裕が感じられる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:28:15.65 ID:pd9i2CU5o<> 今まで胸に鬱積してきたもろもろに、それをほむらに気取られているという事実が沁み渡り、
胸のつかえが震え出すのを感じた杏子は、それを何とか沈めようと冷えたソフトドリンクを胃袋に流し込み続けた。
「あなた、まだ美樹さやかを自分の掌握下に置くことが出来ていないのね」
図星を指された杏子が思わず視界に入れてしまった隣の顔は、恋人が他の女とはしゃぎ合っているというのに、
眼前のガラス越しに広がる澄んだ空の青か、凪いだ翡翠の海か…そのどちらで例えようかというほど穏やかである。
杏子にとっては恨めしいまでの境地に、ほむらは達していたのである。
「あんたはあの娘が他の女と楽しそうにしていても平気なのかよ?」
追い詰められて直球のような質問しか出来ない杏子を一瞥し、ほむらはグラスを手に取り、
その淵をなぞるように、液面から突き出たストローを一周させ、ドリンクの中の氷を鳴らしながら言った。
「当たり前じゃない」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/06/30(木) 20:28:29.78 ID:npPmvqqY0<> ふぇぇ・・・ままといっちょにみるのぉ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:28:55.52 ID:pd9i2CU5o<> ストローを止めると、少し遅れて氷の触れ合う音も止んだ。 それを確認し、ほむらはほんの一口、ドリンクを吸った。
グラスの中の液面が僅かに下がる。
「まどかは完全に私のものだから」
余裕を孕んだ言葉を生み出した、その唇が笑みを湛える。
杏子は目を逸らし、またストローに吸い付いた。
ズズズ…と、空気の混じった音がして、杏子はその時始めてグラスに多少水分を絡みつかせた氷しか入っていない事を知った。
ほむらのグラスはまだその容積の三分の二以上、ドリンクで占められている。
杏子にはテーブルの上の二つのグラスの中身が、そのまま二人の余裕の違いを表しているように思えてくるのだった。
「前にも聞いたっけな…あの娘とどうやってカップルになったのかって――」
ほむらは、表情を動かさずにまどかを見つめている。
杏子は、その視線を追うようにじゃれ合う二人に向き直った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:29:31.28 ID:pd9i2CU5o<> 「聞きたい?」
杏子が視線を横に向け直すと、ストローがドリンクに染まり、グラスの液面がまた少し、下がるのが見えた。
「ああ、聞きたいね」
胸に巣食うもやもやしたものが、レズの先輩であるほむらの体験談によって無くなるかもしれないという淡い期待を含んだ予感――
杏子はそれに縋りつくように、ほむらを凝視した。
「少しばかり、長くなるわよ」
そう言って、ほむらはまた喉を潤した。
杏子は唾を飲み込んでほむらに集中する。
ほむらはまたゆっくりと、ストローをグラスの中で一周させた。
氷の音が二人の間に響き渡る。
杏子にはその音が、自分たちを過去の世界に誘う合図の鐘のように聞こえた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:31:16.84 ID:pd9i2CU5o<>
第一章 転入
「あ、あの…あ、暁美…ほ、ほむらです…その、ええと…どうか、よろしく、お願いします」
いじめてオーラ全開の自己紹介をしたのは、この日見滝原中学校に転校してきたばかりの、まだメガほむと呼ばれていた頃のほむらである。
「暁美さんは、心臓の病気でずっと入院していたの。
久しぶりの学校だから、色々と戸惑うことも多いでしょう。 みんな助けてあげてね」
担任の早乙女がクラスにそう語りかけ、和やかな雰囲気でほむらの学校生活は始まったかに思えたが、
それから数十分して、世の中はそんなに甘くないことを彼女は知ることになる。
授業に、全くついていけないのだ。
今まで闘病に生活のすべてを費やしていたほむらは、同年代の生徒たちに比して勉学に遅れを取ってい、学力が極端に低かったのである。
何を聞いても受け付けない、そしてその状況を打破するための策すら浮かぶことのない自分の脳に絶望し、不甲斐なさに萎縮する。
休み時間が来ると、休む間もなくクラスメート達がほむらを取り囲み、矢継ぎ早の質問で彼女を攻め立てた。
そしてそれらの質問にさえ上手く答えることの出来ない自分に、ほむらは更に絶望と苛立ちとを深めていくのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:31:53.59 ID:pd9i2CU5o<> 「暁美さん?」
物珍しさに取り付かれた、クラスメート達の質問攻めをストップさせたその声の方に振り返ると、
優しそうな表情をたたえた女生徒がほむらに微笑みかけていた。
「保健室、行かなきゃいけないんでしょ? 場所、分かる?」
「え?…いいえ…」
「じゃあ案内してあげる。 私、保健係なんだ」
ほむらが蚊の翅音のような礼を述べようとしたその間に、その女生徒はほむらを取り囲んでいたクラスメート達に、
「みんな、ごめんね。 暁美さんって、休み時間には保健室でお薬飲まないといけないの」
と、ほむらに代わり説明を終えてくれていた。
ほむらには、苦痛を伴う質問攻めから自分を解き放ってくれたこの女生徒は女神に思えた。
しかし連れ立って歩き出すと、話題の見つからないほむらはただただ黙って彼女について歩くことしか出来ない。
ほむらは自分を気の利かない奴だと責め、きっと案内してくれているこの娘もそう思っているに違いないと思い始めていた。
永遠に届くことはないと知りつつも、心のなかで目の前の後ろ姿に謝り続ける。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:32:33.51 ID:pd9i2CU5o<> 「ごめんね。 みんな悪気は無いんだけど、転校生なんて珍しいから、ハシャイジャッテ!」
「いえ、その…ありがとうございます…」
そう言った後で、折角話しかけてくれたのに会話としてそれを発展させることが出来ない自分をほむらは更に嫌悪した。
そしてこれではいけない、と思った。 が、どうすればいいのかは分からない。
「そんな緊張しなくていいよ。 クラスメートなんだから」
しかしそんな事は気にしていないというように、女生徒は自分に笑顔を向け、話しかけ続けてくれる。
「私、鹿目まどか。 まどかって呼んで」
「え? そんな…」
いきなり名前で呼ぶのは気安すぎると思う。
自分などに呼び捨てにされて、嫌な気分になったりしないかと、不安になってしまう。
だがまどかは、やはり一向にそんな事を頓着していない様子だ。
「いいって。 だから私も、ほむらちゃんって呼んでいいかな?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:33:13.08 ID:pd9i2CU5o<> ほむらは、まどかが自分の事を下の名前で呼ぼうとしているのだと知り、少し気持ちが陰った。
そんな自分の内面は他人の好意を無下にしているようで、更に罪悪感が積もってくる。
「私、その…あんまり名前で呼ばれたことって、無くて…すごく、変な名前だし…」
自分の名前は好きではない。
出来るなら苗字で呼んで欲しかった…だがそれをはっきりとは言えず、
ところどころ詰まった言葉を発する度に、ほむらの話は要領を得なくなってくる。
これではいけない、またそう思った。 朝から何度同じことを考えたか、分からない。
「えー? そんなことないよ。 何かさ、燃え上がれーって感じで、カッコイイと思うなあ」
まどかは、やはりそんな事は一切頓着していない。
悪気は全くないのだ。 ほむらの名前に対する感想も、嘘偽りのないまっさらなものだろう。
それが分かるだけに、ほむらは更に辛く追い詰められていくのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:33:54.60 ID:pd9i2CU5o<> 「――名前負け、してます」
モヤモヤと、いくつも言いたいことが複雑に頭の中を巡っているが、結局それしか言葉に出来なかった。
「そんなのもったいないよ。 せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ」
その声の調子に吸い込まれるように、ほむらはそうかも知れない、と、同意をしかけて、
出来もしないことに心を動かしている自分に驚いた。
そして自分の冷えた心をほぐしてくれたその声の主を見上げ、
視界いっぱいの優しい笑顔に、思わず顔を赤らめて、ほむらは硬直してしまった。
もし…もし私がカッコよくなったなら、この笑顔は私の側にずっといてくれるのだろうか。
ほむらはそんな事を考えている自分に、再び戸惑った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:34:36.63 ID:pd9i2CU5o<> 保健室で薬を服用している最中から、ほむらは胸の内に冷たい不安が溜まっていくのを感じていた。
この学校の構造はよくわからないし、建物の中はどこも似たような調子で、ここが何階かも分からない。
ドジな自分は休み時間が終わるまでに教室に戻ることが出来ないかもしれない…
授業に遅れたら、教室に入った途端に、クラス中の視線が私の弱り切った心を押しつぶすだろう。
ほむらは不安に胸が締め付けられ、孤独に痺れて泣き出しそうになりながら保健室を出た。
「終わった? 教室、帰ろっか」
ところが廊下に出ると、まどかの笑顔がほむらを迎えてくれた。
不案内なほむらの事を考えて、待っていてくれたのだった。
その優しさに、ほむらの胸がキュンと詰まり、体中が熱くなったようだった。
彼女の異常な恋は、この時既に動き出していたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:35:17.15 ID:pd9i2CU5o<> 数学の授業が開始されて数十分後、ほむらはせっかく治ったばかりの心臓が停止するかと思った。
そしてその危機は今以て継続中である。
全開の鼓動に、いつこの慣らし運転中の脆弱な血流ポンプがぶっこわれるのかと不安になる。
何が起こったかというと、授業中に指名され、クラス中の視線を浴びる位置に引っ立てられたのである。
「じゃあ、この問題やってみようか」
目の前に映し出された問題は何を意味しているのか全く分からない。
ほむらはとりあえずペンを持ち上げ、書こうとする格好だけをつけてみたが、それで状況が変わるわけでもない。
「ああ、君は、休学してたんだっけな。 友達から、ノートを借りておくように」
震えながら立ち尽くすほむらに、慌てて教師はそうフォローをしたが、
転入したばかりなのに…友達って、誰よ? そう考えながらその公開処刑にも似た仕打ちに、ほむらの眼には涙が溜まっていった。
泣き出しそうな顔を俯かせて席に戻る。
まどかにノートを貸してもらえるよう、頼もうと思ったが、声が震えそうなので止めた。
こんな自分は、カッコ悪い、そう思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:35:58.53 ID:pd9i2CU5o<> 午後の体育でも、ほむらは晒し者になっていた。
みんなが一生懸命汗を流している気配を感じながら、独り外れて木陰に蹲り、休んでいる。
「準備体操だけで貧血って、ヤバいよねー?」
「半年もずっと寝てたんじゃ、仕方ないんじゃない?」
自分の事を嘲るように話している女生徒の会話が冷たく耳に入ってくる。
もしかしたらそんな会話に、あのまどかも加わっているんじゃないかと恐れて、ほむらは話し声のする方を見ることも出来なかった。
やはり、自分はカッコよくなんてなれないのだと、ほむらは思っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:36:43.09 ID:pd9i2CU5o<> 授業が終わると、外階段掃除の当番に任ぜられ、ほむらは男女一名ずつの後ろについて校舎裏の暗がりに導かれてきた。
「ここの当番は天国ですわ」
ところが女生徒の方は清掃区域に着くやいなや、そう言って掃除用具を放り投げた。
「えっと…あの…掃除しないんですか?」
恐る恐るそう聞いたほむらに、口を歪めて女生徒は語り始めた。
「いいんですの。 ここは空気の流れがとてもよろしくてゴミがたまりにくい上に、
先生方もめったに訪れないので最高のサボりスポットなのですわ。
それに私や上条くんのような貴族階級に属するものが、掃除などという卑しい作業なんかそもそもできない相談ですの」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:37:42.37 ID:pd9i2CU5o<> 「やっぱり志筑さんはよく分かってるなあ」
上条くんと呼ばれた男子生徒はそう言い、ニヤニヤしながらほむらの後ろに回りこんできた。
ほむらが嫌な雰囲気を感じ取ったと同時に、上条は無言で彼女を羽交い締めにし、その動きを封じた。
その左腕には包帯が巻かれているが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「ひっ…な、何をするんですか…!?」
「へへへっ…なにするんだろうね…?」
「ご安心下さいまし。 とっても楽しいことですわ」
身動きの取れないほむらの眼前に、美しい顔をガチャピンのように醜く歪めた、志筑さんと呼ばれた女生徒が迫ってくる。
何か恐ろしいことが待っているのだと思う。
そしてそれに抗うことの出来ない自分の無力に、ほむらは絶望する事しか出来なかった。
今日一日で、そして行く行くはこの惨めな人生を終えるまで、一体何度絶望をすればいいのだろうか?
ほむらは自分の身に振りかかるであろう途方も無い絶望の総和を予感して身を震わせた後、小さな嗚咽と共に涙を落とした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:39:07.24 ID:pd9i2CU5o<> 「あはは、この娘、既に泣いちゃっているよ。 志筑さん、やっぱり許してあげようよ」
上条は冗談でも言うように、笑い混じりにそう言った。
許してやろうなどとは露程も思っていない物言いだ。
「やめて下さい…許して――」
ほむらが許しを乞うための言葉を紡いでいる最中、目の前のにやけガチャピン顔が一瞬で引き締まった。
「ひうっ!!」
腹に食い込む衝撃に息が止まり、そのまましばらくほむらの呼吸が停止した。
衝撃で下を向いた視界に、腹に当たった志筑の握りこぶしが映り、
ほむらは動転する思考で腹パンを食らったことだけは何とか了解をした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:39:40.31 ID:pd9i2CU5o<> 「志筑さんは、本当に腹パンで他人をイジメるのが好きだよねえ…」
息が詰まって絶命の予感すら覚えているほむらの必死とは裏腹に、のんびりとした口調で上条が喋っている。
「何も知らない動物並の男の子達は、すぐにおっぱいとかお尻に眼をやりがちですが――」
志筑が演説をぶち始めた辺りで、ようやくほむらの体が呼吸の仕方を思い出した。
一度遠ざかりかけた命を引き寄せるように、ほむらはゼエゼエと一生懸命呼吸をし続けている。
「本当に気持ちの良い感触を得られる部分は――」
溢れる涙をまぶたの外に追いやったとき、視界の中の志筑の顔がまた力を溜めて引き締まり、それを見たほむらの背筋が冷えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:40:10.25 ID:pd9i2CU5o<> 「うぐう!!」
「お腹ですわっ!」
衝撃に狂ったほむらの体が、また呼吸を忘れた。
必死にその動作を取り戻そうとするが、口から「あ…あ…」と、砂粒のような声が漏れるのが、ほむらの精一杯であった。
そうやって苦しみに溺れていると、不意に、自分の体を支えていた拘束が解け、ほむらは地面にうつ伏せに崩れ落ちた。
「僕もパンチしたいや…志筑さん、代わってよ」
「この娘のお腹、病みつきになりますわよ」
真っ暗な視界の中に、二人が言葉を交わし、ハイタッチする音が響き渡った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:40:43.56 ID:pd9i2CU5o<> 「いっ…痛い!」
ほむらの長い三つ編みの髪が引っ張られ、感じる痛みを何とか和らげようと、そのベクトルに従うようにほむらは顔を上げた。
「ほら、しっかり立ち上がってくださいまし」
だが志筑によって、更に髪は引っ張られ続けている。
ほむらは生まれたばかりの小鹿のように、ふらふらしながら漸く立ち上がることが出来たと思ったその矢先――
「おぶっ!!」
先程とは比較にならない衝撃がほむらの腹部を襲った。
脳天まで痺れ上がるような怖気が体中に満ち溢れ、それが腹の奥に集約し、次いで喉元までこみ上げてきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:41:58.86 ID:pd9i2CU5o<> 「おえええええっ」
ほむらは嘔吐し、その吐瀉物の上に腹を抱えて倒れこんだ。
「まあ、とても汚いですわ!」
「ごめんごめん、ついつい力み過ぎちゃったよ」
上条の愉快にはしゃいだ声が聴こえるが、ほむらは体の内にあるすべてを吐き出さんとする生理に抗うことも出来ず、
ただただ痙攣しながら苦しみの中に横臥していた。
「…恭介ーって、うわっ! 何これ!? どうしたの!?」
別の女子が来て、自分の惨状を見つけたようだ。
助けてくれるのか、それともこの女子も加わってもう一度ボディーブローをされるのか、五分五分だな、と、ほむらはかすれた脳内に予感した。
「さやか、大変なんだ! 掃除をしていたら暁美さんが突然お腹を押さえて吐いたんだ!
保健委員の鹿目さんを呼んできてくれるかい! 大至急だ!!」
「お願いいたしますわ!」
「分かった、まどかを呼んでくる!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:42:49.22 ID:pd9i2CU5o<> さっきまでとは打って変わった二人のうろたえ芝居がほむらの耳に届いてきて、彼女は漸く命の危険が去ったのだと安堵した。
そして暗転した世界の中、声だけ聞こえたさやかという女生徒にほむらは深く感謝した。
「ふう、危なかったね。 さやかはああいう性格だから、こう言う事をしているとがみがみとうるさいんだ。」
「間一髪でしたわね…しかしこの娘、入院生活が長いと聞いた時から目を付けておりましたけど、
予想通りパンチしがいのある脆弱なお腹ですわねえ…堪りませんわ」
「そうそう、腹筋が乏しいお腹は、手に取るように分かる内臓の感触がとてもいいよね。
いやあ、事故で手がこんなになってしまって、毎日がイライラの連続だったんだよ。
さやかは病院にまで押しかけてきて僕を虐めるしさあ…
腹パン遊びを教えてくれた志筑さんには、本当に感謝しているよ」
「腹パンは貴族のたしなみですわ」
走り去るさやかの足音を見送って、漸く漏れた二人の本音はどう考えても悪魔の言葉であった。
そして少しして、ほむらはゆっくりと抱き起こされた。
まどかが呼ばれて来るにはまだ早いと思ったが、とりあえず何かに縋りつきたかったし、
まどかに蹲ったままのカッコ悪い姿を見せるのも嫌だった。
「か…鹿目…さん…?」
漸く開く事の出来た視界の先には志筑のガチャピン顔が立っていて、それを見て絶望したほむらの腹に再び衝撃が突き刺さった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:43:31.87 ID:pd9i2CU5o<>
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:44:06.65 ID:pd9i2CU5o<> 「ほむらちゃん! 大丈夫!?」
あれから3発食らってダウンしていたほむらのもとに、切羽詰った声と共にまどかが駆けてきた。
そしてすぐに背中を撫でるまどかの掌を感じ取り、ほむらは今度こそ危機は去ったのだと感じた。
「ほむらちゃん、お腹痛いの!? 今保健室につれていくからね!!」
「ていうかこれ、救急車呼んだほうがいいんじゃない?」
さやかの放った救急車、という言葉がほむらの心に重くのしかかった。
これ以上、目立つことをして晒し者にされることは耐えられない。
ほむらは必死にまどかの制服を掴み、
「大丈夫…だから…」
何とか、そう伝えることに成功した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:44:59.49 ID:pd9i2CU5o<> ほむらが動けるようになるまでまどかは背中をさすり続けてくれた。
そして吐瀉物で汚れたほむらの制服を自分のハンカチで拭いてくれ、地面にぶち撒かれたそれも綺麗に片付けてくれた。
ほむらはその様子をただ呆然と見ていることしか出来ず、自分は死んだほうがいいのかもしれない、そう思っていた。
「大丈夫? 立てる?」
確認をしながら、まどかはほむらに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がった。
この時腹パンの2名は、既に居なくなっていた。
「ありがとう…鹿目さん、ありがとう…」
「すぐに保健室に着くからね。 頑張って、ほむらちゃん」
まどかにもたれかかりながら、ほむらはゆらゆらと力なく歩き出した。
制服越しに、まどかの温もりが伝わってくる。
ほむらはまたまどかにカッコ悪いところを見せてしまった自分の情け無さを噛み締めながら、
それでも高まってくる胸のときめきを、持て余していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:45:57.10 ID:pd9i2CU5o<> 「さやかちゃん、ここまで付き合ってくれて本当にありがとう。
私はもう少しほむらちゃんの様子を見てから帰るから、先に帰ってていいよ」
保健医が不在であった保健室で、まどかがそう伝えると、さやかはお言葉に甘えまして、と言って颯爽と保健室を出て行った。
まどかとふたりきり!
ほむらの心臓は、すぐに過負荷運転を開始した。
それは病み上がりの心臓を持つほむらにとって生命の危機でもあるのだったが、
彼女はまどかで昂った心臓が原因でなら死んでもいいと思った。
「まだ、お腹痛い?」
異常なまでの緊張状態で、言葉を発すると裏返った変な声が出そうな気がし、
ほむらはまどかの問いに対し、俯いた首を左右に振る事だけで精一杯だった。
「なんか顔が赤いみたい…熱があるのかな?」
躊躇なく、まどかはほむらにその顔を近づけてきた。
それを見て、未知の体験への期待と恐怖に頭が白っぽくなってゆくほむらは、戸惑いながらそれを見つめているのみだ。
どうすればいいか分からないが、このまままどかが近づいてくれば、非常に恐ろしいことが起こってしまいそうな気がする。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:46:33.58 ID:pd9i2CU5o<> 息遣いまで感じられる距離にその顔が近づいたとき、ほむらの中で何かが壊れた気がした。
そして決定的だったのは、おでことおでこが触れ合ったその瞬間だった。
「ひゃあああああっ!!」
額から高圧電流のような衝撃が体中を駆け巡り、体とは別にあるはずの精神までもが痙攣をしたような気がした。
そして一気に、それら全てが溶け崩れたように弛緩し、ほむらの知覚は快楽で飽和した。
ほむらは浮いている自分を感じていた。
温かい空気に包まれて、手を離した風船のようにどこまでも、どこまでも昇って行きそうな感覚。
こんな快感が、この世に存在したのかと思えるほど、それはほむらにとって未体験ゾーンであった。
ほむらは思った――
こんな感覚が味わえるのならば、たとえ絶望の中にであろうとも、もう少し生きているのも、いいかもしれない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:47:11.18 ID:pd9i2CU5o<> 「きゃあっ!! ほむらちゃん…!!」
だがその時、まどかが張り裂けるような悲鳴を上げてほむらから離れた。
快楽の虜になっていたほむらには突然何が起こったのか知れなかったが、ワンクッション置いた後、
下半身にありえざる感覚を見出して急速にすべてが冷めていくのを感じた。
「…え…ええっ!?」
ぐしょぐしょに濡れた下半身からは人肌の熱気が立ち上っており、
腰掛けている椅子からは、ぼたぼたと雨垂れのように、下半身を濡らしているその液体が床に滴り落ちている。
暖かく臭うそれはまさしく、ほむら自身の尿であった。
――失禁。
ほむらがその言葉を脳内の辞書に求めたとき、まどかは逃げるように保健室を出て行った。
――人生、終了のお知らせ。
ほむらは自らの尿にまみれながら、すべてがどうでも良くなってしまった自分をまるで他人事のようにヘラヘラと笑っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:47:59.82 ID:pd9i2CU5o<> しばらく呆けていると、不意に保健室の扉が開いた。
誰が入ってきたかは知らなかったが、ほむらは自分を殺して欲しいと頼むつもりで、扉に顔を向けた。
「ほむらちゃん! 大丈夫!?」
まどかだった。 ほむらは眼を疑ったが、まさしく、鹿目まどかだった。
「ほむらちゃん、立てる?」
ほむらは、脇にあったベッドにもたれるように、なんとか立ち上がった。
「これに着替えて! 汚れた制服は、この中に!」
まどかはそう言って、体操服とポリビニール袋とをほむらの眼前のベッドに置いて、
持っていたバケツから雑巾を取り出し、絞ってほむらの尿をせっせと拭き出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:48:30.04 ID:pd9i2CU5o<> ほむらが体操服に着替え終わったとき、床と椅子の尿は綺麗に拭き取られていた。
しかしそれでも部屋中に尿の臭いが立ち込めている。
まどかは換気扇をフルパワーにし、椅子と床とに消毒用のアルコールスプレーを丹念に吹きかけ、
もう一度それを拭うと大分臭いはましになった。
「これでよし…と」
まどかは額に浮き出た汗を拭うと、尿の混ざった雑巾の絞り汁を流しに捨て、雑巾を水洗いし、
自らの手もレモン石鹸を用いて丹念に洗った。
「誰も来なくてよかったね。 これで大丈夫だよ」
ほっと溜息をついた後の、大事を為し終えたまどかの笑顔を見て、ほむらの涙腺は一気に決壊した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:48:57.62 ID:pd9i2CU5o<> 「鹿目さん…ごめんなさい…私…私…」
泣きじゃくりながら謝罪を繰り返すほむらの肩を、まどかは優しく撫でながら、
「ほむらちゃんは病み上がりだから、まだ体が弱っているんだよ。 だから仕方ないよ。
クラスのみんなには、絶対内緒にするからね」
そう言って、またとびきりの笑顔をみせてくれた。
「ほむらちゃん、一緒に帰ろ。 家まで送って行くから」
自らのそれと繋ぎ合わせるために差し出されたまどかの手から、ふわりと嗅覚に触れたレモン石鹸の香りに混じって、
しぶとく染み付いた自分の尿の残り香が、ほむらの胸中に罪悪感を呼び起こした。
そしてその罪悪感の中に、中核たる何かの予感のようなものが組み込まれているのを感じたほむらは、
その正体を見極めようと罪悪感の中を必死に探り始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:49:31.12 ID:pd9i2CU5o<> まどかと手を繋いで校舎を出、再び胸の高まりを覚えたほむらの脳内で、興奮と直結したその予感が急速にその内容を再生し始める。
それはいく度か、教育番組で見たことのある内容だった。
動物は、自らの所有物を示すとき、尿で匂いづけをするのだという半ば常識とも言える雑学である。
呼び起こしてはいけない予感だったことに気が付いたが、了解してしまった今において、それはどうすることも出来ない。
手を繋いで並歩するまどかを見るたびに、匂いづけをした対象に対しての動物的な独占欲が疼くのに、ほむらは耐えねばならなくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:50:12.14 ID:pd9i2CU5o<> 「じゃあ、また明日学校でね」
まどかは変わらぬ笑顔と共に別れの言葉を口にした。彼女を見送った後、ほむらは尿意を覚えて自宅のトイレに入った。
便座に腰を落ち着けると、自分の尿をせっせと拭いてくれていたまどかの姿が脳裏に浮かび、
身震いをした後にほむらは心地良く放尿した。
尿の臭いが鼻を突くと、レモン石鹸の香料では隠しきれていなかった、まどかの手に染み込んだアンモニア臭がフラッシュバックして、
ほむらの思考はまどかと自分の尿との堂々巡りの様相を呈した。
その邪な考えを断ち切る様に水を流し、
自分の尿の混じった水が渦を巻いて便器に吸い込まれていくさまを見ていたほむらの思考は、まどかの、とまたまどかを続けていた。
まどかのおしっこを、その匂いをいつか私にも付けてもらわなければいけないのではないか?
いや、そうであるべきだ! これはきっと運命なのだろう!
ほむらは、この日一日で、まどかとの出会いで、人外の領域への道へ、そして二度と引き返すことの出来ない道へ、
一歩、その足を踏み出してしまっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/06/30(木) 20:50:43.90 ID:pd9i2CU5o<>
多分明日第二章やる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/06/30(木) 21:54:47.75 ID:HGI5GiyV0<> 乙っちまどまど! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/06/30(木) 22:42:53.78 ID:DNxDzk8M0<> | ', i l / l イ,、-‐ーー‐--、::::,、-‐ー-、l !::i;::::::::::';::::::::::::::::::l l:::::::::` ‐、
| ', l イ// l/ r'/ /-''"´ ̄ ̄ヽ `,-''"´``‐、 ヽl';::::::::::';ヽ/:::::ノ ノ::::::::::::';::::\
| ',! l/ /::::/::::::/::::::::::l l:l lヽ、二ニニニニニニ、-'´:';:::::::::::::';:::::::
ヽ! /、:/:::::;イ::_,、-'´ノ:l し u l:!';:l ';::::/:l', ';::::::l';::::::';:::::::::::::';::::::
___l___ /、`二//-‐''"´::l|::l l! ';!u ';/:::l ', ';::::::l ';:::::i::::::l:::::::';:::::
ノ l Jヽ レ/::/ /:イ:\/l:l l::l u !. l / ';:::l ', ';:::::l. ';::::l::::::l::::::::i::::
ノヌ レ /:l l:::::lヽ|l l:l し !/ ';:l,、-‐、::::l ';::::l:::::l:::::::::l:::
/ ヽ、_ /::l l:::::l l\l ヽ-' / ';!-ー 、';::ト、';::::l:::::l:::::::::l::
ム ヒ /::::l/l::::lニ‐-、`` / /;;;;;;;;;;;;;ヽ! i::::l::::l:::::::::::l:
月 ヒ /i::/ l::l;;;;;ヽ \ i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l l::l::::l:::::::::::::
ノ l ヽヽノ /:::l/:l /;;l:!;;;;;;;;;', ';;;;;;;;;;;;;;;;;ノ l:l:::l:::::::::::::
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__|_ ヽヽ /イ//l::l ヽ、;;;;;;;ノ.... し :::::::::::::::::::::ヽ /!リ l::::::::::::::
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.・. ・ ・. ・ ヽ \ リ レ ヽ! り レノ `y
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<>sage<>2011/07/01(金) 12:42:28.63 ID:W0fFk62AO<> まさかの続きキター <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/01(金) 14:26:58.00 ID:kVWExaiEo<> イージーモードと言うにはあまりにエグい前回だったが……さて、今回はどうなるやら
しかしなんだ……あの仁美AA使われると途端にギャグに見えちまうwwwwwwww <>
1<>sage <>2011/07/01(金) 19:05:38.64 ID:PFs+Giuho<> 今回は第三章までひたすら変態ほむ。
第四章から久兵衛さんが登場するのでエグくなる感じかな。
登場人物が足りなくて、準モブを長寿アニメから借りてきたりしちゃったので、そこら辺読み手的にどうなんだろう…って感じ。
じゃあ行きます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/01(金) 19:06:29.51 ID:PFs+Giuho<> 第二章 転換
昨夜はまどかの事を考えながらの[田島「チ○コ破裂するっ!」]にのめり込み過ぎ、2時間ほどしか睡眠をとることが出来なかったが、
ほむらはまどかへの欲望を精神力に転嫁し、何とか居眠りをせずに一時限目の授業を乗り切ることが出来た。
しかし、相変わらず授業に付いていけなかったのは言うまでもない。
ほむらは焦り始めていた。
「あ…あの…鹿目さん…」
保健室に薬を飲みに行く途中で、ほむらは意を決してまどかに話しかけてみた。
「どうしたの、ほむらちゃん?」
まどかは昨日と全く同じ優しい笑顔で応じてくれた。
昨日の吐瀉物と尿の記憶がフラッシュバックして申し訳ない気持ちに打ちひしがれたが、
一方で鼻を利かせ、昨日付けた尿の臭いがすっかり落ちてしまっている事を知り、
残念な気持ちになっているおぞましいもう一人の自分がいることを、ほむらは感じ取っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/01(金) 19:07:13.71 ID:PFs+Giuho<> 「すみません…休み時間を潰してしまって…」
本来ならば保健室の場所を覚えてしまえばまどかは付き添わなくてもいい筈だったが、
昨日の嘔吐事件でほむらの体調を危険視した担任の早乙女が、不慮の事態に備え、
しばらく保健委員であるまどかにほむらへの付き添いを命じたのはまさに怪我の功名というものであった。
ほむらは腹パンの苦しみと引き換えに、休み時間にまどかを独占する権利を獲得したのである。
「別にいいんだよ、これが保健委員のお仕事だし。 それにほむらちゃんの体のほうが私の休み時間より大切だよ」
やはりまどかは女神であった。
ほむらはその無垢な笑顔と善意とを目の当たりにし、
昨夜、このまどかの痴態を妄想して数時間に及ぶ変態的な[田島「チ○コ破裂するっ!」]をしてしまった自分の悪を呪った。
「…もう一つ、お願いがあるのですが…」
だがしかし、ほむらはまどかとのつながりを更に強固なものにするため、昨夜考えた作戦を実行に移す事としたのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/01(金) 19:08:55.54 ID:PFs+Giuho<> 「なになに? 私に出来ることは少ないかも知れないけど、言ってみて!」
まどかは、人の役に立てることが嬉しくて仕方ない、といった風に応じてくれ、
それは欲望に染まったほむらの背筋を罪の意識で容赦なく冷やしまくった。
「…えっと、あの、ノートを、貸していただけたらと…」
ほむらは後ろめたい打算を打ち消すかのように、勇気を振り絞って言った。
それを聞いたまどかは眼を輝かせ、
「うん、いいよ! 私のでよければ、ドンドン使ってよ!」
そう、言ってくれたのだった。
ほむらはその胸の内に、よっしゃ、と、ガッツポーズを取った。
最早後ろ暗い気持ちを知覚する彼女の善の部分は消し飛んでしまったようだ。
まどかのノートを手に入れるということは、
まどかの筆跡、こびりついたまどかの匂い、その両者を仮にとは言え自らの手中に収めるばかりか、
「ここ、わからないから」などと言葉巧みにまどかを勧誘し、ふたりきりのお勉強会や、
それを踏み台にし、更にその先の関係にまで発展させることが可能になる事を意味するのである。
ほむらは昨日、全く働かなかった不甲斐ない脳が、まどかへの欲望というきっかけを得、
それに関する事となると異常なまでに回転を高め、素早く正確な知恵を搾り出すようになった事に自分事ながら驚愕していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:09:33.38 ID:PFs+Giuho<> 「ほむらちゃん、帰ろっか」
今日もまどかと一緒に帰ることができる。
しかも、まどかの家まで付いていくことが出来るのだ!
それは聖典(ノート)を借りに行く約束をしたからであった。
ほむらは、自分の計算通りに事が運んでいく様を、喩えようのない高揚感に打ち震えながら見つめていた。
だがしかし、不慮の事態は起こるものであった。
「よーし、今日はまどかと一緒に帰っちゃうもんねー! …あれ、今日も転校生と一緒なの?」
張り裂けんばかりの大声と共に、二人の間を引き裂くように割り込んできた声の主は――
「うん、今日はほむらちゃんにノートを貸してあげる約束なんだ」
「へええ、そうなんだ」
――美樹さやかであった。 ほむらは奈落の底に落ち込むような落胆を覚えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:10:18.23 ID:PFs+Giuho<> 「ノートを取ってくるから、ちょっと待っててね」
ここがまどかのおうち!
現代風の瀟洒な一戸建て住宅は、その場所は、ほむらの脳内に聖地として記憶をされた。
家の中は、どんな匂いがするのだろうか…?
そしてまどかの部屋にはどんな物が置いてあるのだろうか…?
妄想に妄想を重ねても、実際には決して及ばない事を悟り、ほむらは目の前の聖なる屋敷を自ら探検したい衝動に駆られた。
そして、もしかしたら中の様子を見たことがあるかも知れない人物に、自然と眼が向いていた。
「…何よ?」
ぶっきらぼうに自分に向けられた短い言葉の後の、気まずい沈黙。
美樹さやかはまどかのように、自分に優しい人間では無いらしい、と、ほむらは思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:10:55.23 ID:PFs+Giuho<> 「え…と…あの…み、美樹さんは…そのう…」
その沈黙を何とか破ろうと、ほむらは人見知りの口下手を抑えこんで、何とか言葉を紡ごうとした。
しかし、なかなかうまく行かない。
ほむらが必死に、要領を得ない言葉の破片を並べていると、だんだんとさやかの顔には苛立ちが募って来るようだった。
そしてそれを確認したほむらは、更に言葉に詰まっていき――
「ちょっとあんたさ、もっとはっきりモノを言いなさいよね!!」
とうとう、さやかの堪忍袋の緒がぶち切れた。
「ご…ごめんなさい…」
「ごめんなさいじゃないでしょ! ちゃんと聞きたいことをはっきりと、言ってみなさいよ! そしたら答えてあげるからさ!」
「えっと…あの…」
「だからさあ、聞こえないんだってば!」
地獄の責め苦のような会話に耐えかねて、ほむらの眼にはじわりと涙が溜まっていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:11:24.99 ID:PFs+Giuho<> 「お待たせ! ノート、持ってきたよ!」
大量のノートを抱え、二人のもとに戻ってきたまどかは、漂う異常な空気をすぐに察知した。
「どうしたの、ほむらちゃん?」
ほむらは眼をこすりながらしくしくと泣いており、その近くにいるさやかはまるでお手上げといったふうである。
「なんかさ、会話しようとしたら泣き出しちゃった」
まどかは、ほむらの肩を優しく抱き寄せて、
「ほむらちゃん、どうしたの? 具合、悪いの?」
そう、聞いてくれた。
美樹さやかとはエライ違いだと、ほむらは思った。
自分を押しつぶすようなプレッシャーを感じなくなると、何とか、言葉がつなげるようになった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:12:07.61 ID:PFs+Giuho<> 「美樹さんに…その…鹿目さんの、家に、入ったこと…あるか、どうか…聞いて、みようと、思ったの…
あの…えっと…だけど、私…緊張して…上手く…その…喋れなくて…」
「うんうん、ちゃんとほむらちゃんの言ってる事、分かるよ。 さやかちゃん、私の家に入ったことあるか、だって」
まどかが通訳を済ませると、さやかは溜息をついてから、言った。
「そんなの当たり前じゃない。 あたしとまどかは親友同士なんだから――」
――親友。
その言葉を聞いて、ほむらの中を冷たいものが走った。
そしてそれは血流に乗って体中を駆け巡り、ほむらの隅々に嫉妬というものを教えてまわった。
「――って言うかさ、あんたノート借りたりする前に、日常会話から練習した方いいんじゃないの?」
胸に突き刺さる言葉。
そこから、赤い血潮の代わりにどす黒い怒りが噴き出しそうになり、ほむらは止血をするように強く胸を押さえて、それに耐えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:12:56.06 ID:PFs+Giuho<> 「もう、さやかちゃん、酷いよ!
…ごめんね、ほむらちゃん。 さやかちゃんね、悪気はないんだよ。
ただちょっとハッキリものを言い過ぎる性格なだけだから、気にしないでね…」
「う…うん…」
「ていうかさ、用事、終わったんだよね? まどか、早く行こ」
さやかは、まだほむらの方に向いているまどかの手を握り、自分の方に引き寄せながらそう言った。
ほむらは連れ去らせそうになっているまどかを見、慌てて、
「ど…どこかへ、おでかけ…ですか?」
と、聞いた。
「さやかちゃんの家で、映画のDVDを見るんだ。 もしよかったらほむらちゃんも一緒に…」
「まどか、駄目じゃない!」
ほむらを誘おうとしたまどかの言葉を遮り、さやかが放った言葉。
「転校生は、これからまどかが貸してあげたノートを使って遅れを取り戻すためのお勉強をするんだよ!
あたしらは邪魔しないように、ここでお暇しなきゃ!」
邪魔者を切り捨てるように、さやかは言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:13:37.50 ID:PFs+Giuho<> まどかは、ほむらが見ている前で美樹さやかに連れ去られた。
惨めな敗北感に打ちひしがれ、涙で滲んでいく視界でそれを見送ったほむらの中に、複雑な変化が起こっていた。
まどかの家まで付いていくことが出来、有頂天になり、熱く昂った気持ちが、美樹さやかによって一気に冷まされた。
それは怒りに炙られ、嫉妬に叩かれ、苛立ちに研磨され、鋭利な形を作っていく。
ほむらは、心のなかに冷たく鋭い刃を得た。
――美樹さやかを、いつか、まどかの側から排除しよう。
どんな手を、使っても――。
胸の中に生じたものの冷たさに、ほむらは身震いをして我に返った。
そして自分が考えていたことの恐ろしさに絶息するほどだった。
――殺意。 ほむらの、美樹さやかへの感情はまさしく、その形をしていた。
その後、ほむらがどんなに自分の中の冷たい部分を抑えこもうとしても、
腹パンから救われた時に感じた、さやかへの感謝の気持ちが、再び彼女の心によみがえることはなかったのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:14:05.93 ID:PFs+Giuho<> それから少しして、まどかとのぎこちない友人関係を続けていたほむらは、彼女との関係に違和感のようなものを感じ始めていた。
「ぐへへえ…まどかがどれくらい成長したか、見てあげるもんねー」
「きゃっ! さやかちゃん、やめて! くすぐったいよ!」
時を経るごとに、ほむらのさやかへの怒りは募っていく。
今も、さやかは後ろからまどかに襲いかかり、まるで変態オヤジのようにその成長途中の乳房を揉みしだいている。
「み、美樹さん、そう言うの、良くないと思います!」
自分も同じことをしてみたいのだという嫉妬の気持ちは棚に上げ、ほむらは勇気を振り絞って、さやかを叱りつけた。
「何よ、転校生。 まどかはあたしの嫁になるんだから、別にいいじゃないのさ」
セクハラに熱中しているときのさやかは、このようにふてぶてしき事この上ない。
まどかを自分の玩具か何かだと思っているのだろう、と、ほむらは思う。 そしてそれはとてもうらやまけしからん事であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:15:11.92 ID:PFs+Giuho<> r 、...-――- ...
. イ:| ..:..:....:....:.....:.....:.. ミ...、
/........:| ..:...:......:ヽ:、:...:. \:.. \
/ ./ /| ..:...:{:......:|:..ヽ\ヽ:.ヽ:.....ヽ
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/ .:′/{/___乂..:..:..ト.丁x=ミ、..:i!..:..:..iう):..: 見てあげるもんねー
,′:|...:|l ,ァ=ミ ∧{:..:{ 'f.::うi}ト、|..:..:...i)):....{
/イ 八 :{ { ん:.1 \} ヒ..ソ |:..:...|::.八:.、
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_ r‐ ミ...:込. ‘廴 ノ j{:..:.../ /7 ム=、
〈 v`{__ノ ヽヽ:{:> .. . イハ|r<トイ (_/ノ ム
r―廴} __}_ :ト、:{::.:ir≧i‐_ ...斗≦}八 __入 ( イノ ノ
> ._) ( __,.. ヽ≧八¨¨}}r― ´ 人r乂 ‘ァ'
〈 Y、 / ハ>‐‐ミ }}}_,. ≦ ̄ ̄ 〉{ \下 ==イハ
ヽノ \ _ , ィチ 〉.........:={:..:}-:............. 〈八 了不´ |
{ `廴_ / {............:.:.廴「`:.............. } / // }:{ {、
ノ /:ハ:i {:.:.:.:.:.::イ| |ヽミ::........:.:.{ム:、 j::{ |、 ノ}'\
,イ{ {:/ }:} ノ</::/八.{ ∧:{>ミ:.:.〉 ト __ノ 八:∨ム ノ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:15:59.58 ID:PFs+Giuho<> 「鹿目さんは、女の子ですから…えっと、美樹さんの、お嫁さんには、なれないと、思います。」
自分こそが、本気でまどかを嫁に欲しいのである。
ほむらは正論を言うたびに追い詰められていくような気がしていたが、そんな自分の事はやはり棚に上げていた。
「転校生はまどかの事になるといちいちうるさいんだから……あーあ、なんか興醒めしちゃったなあ…」
さやかはそう言いながら、もう飽きたとでも言うようにまどかを開放した。
まどかがほむらに駆け寄ってくる。
その様子は、ほむらの胸に温かいものを注ぎこみ、その心がくすぐられるような高揚感を与える。
「ほむらちゃん、助けてくれてありがとう!」
まどかの謝礼に、身が震えるほど嬉しくなる。
まどかを、美樹さやかの毒牙から私が守ったのだという自負――。
それは、ほむらとまどかの間に、澱のように蓄積し続け、凝り固まった違和感を一瞬にして溶解せしめたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:16:43.95 ID:PFs+Giuho<> ほむらは気が付いた。
自分にありがとうと言った、この同級生のか弱さを――
周囲の女子よりも幼くさえ見える彼女の、魅力の正体を――
――守って、あげたくなるのだ。
庇護の対象として、まどかはこれ以上無いほどしっくりとハマっているのである。
そんなまどかに、ほむらは今まで頼っていた、守ってもらっていた。
違和感の正体は、まさしくそれだった。
それを了解したほむらは、自分を変えようと決心した。
まどかに守られる私じゃなくて、まどかを守る私になりたい!
それはほむらの人生の、最大の転換点であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:17:09.91 ID:PFs+Giuho<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:17:50.43 ID:PFs+Giuho<> 「――違和感」
杏子は種々雑多なものから、自分にとって真に必要なものを見つけたかのように、
ポツリとほむらの話から得た、そのキーワードを復唱した。
「そうさ、違和感だ」
ほむらは自らの過去語りから、何かを見出したであろう杏子に、無言で眼を向けた。
「あたしも感じているんだ…仕事をしているときは大丈夫なんだけど、家に帰ってさやかと二人きりになったとき、
そばに行って手を繋いでみたりさ、抱きついてみたりするんだけど、その後どうしたら良いかわかんなくなってさ…
体が震えてきて、動けなくなって…結局何も出来ないんだ…
そんな時、感じるんだよ、とてつもない違和感を!」
杏子は、自分とさやかの間にわだかまるものを、打破するための答えを得られるような気がして、
血走らせた眼をほむらに向け、
「それで、その後どうなったんだい?」
と、聞いた。
しかしほむらは、
「人と人との関係は、そう簡単じゃないのよ」
そう言って杏子に冷静を促し、淡々と続けるのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:18:25.30 ID:PFs+Giuho<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:18:57.33 ID:PFs+Giuho<> まどかとの関係を変革させるため、その日からほむらは血の滲むような努力を始めた。
日課となっていた、まどかをイメージしてのオナニーを一日一時間まで短縮し、代わりに勉強時間の上乗せを一時間、
そしてストーキングを兼ねた、自分の家と鹿目家とを往復する三十分以上のジョギングを新たに日課として追加し、
学力、そして体力…すなわち学生としての資質を、充分に涵養することに集中し始めたのである。
そして、その効果はめきめきと現れていく。
「それじゃあ、この問題、出来る者…」
30名ほどの教室に、チラホラとしか手が上がらないほど難しい、数学の問題が眼前のボードに映し出されている。
だがその手を上げているチラホラの中に、彼女の姿はあった。
「じゃあ、暁美くん」
「はい」
ほむらはボードまで歩み出、難解な問題を一片の逡巡もなく解き終えた。
教師は唖然とそれを見、クラス中に嘆息が飽和した。
ほむらは自分を見る多くの視線の中から、まどかのそれを選り分けると、
私、カッコイイかも――そう思い、満足して席についた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:19:48.15 ID:PFs+Giuho<> あれほど憂鬱だった体育の時間も、ほむらにとって惨めな時間ではなくなっていた。
今日の体育は3000メートル走である。
トラックをぐるぐる回るだけのつまらなくて、それでいてキツイ嫌な時間だったが、ほむらはその中に密かな楽しみを見出していた。
だらだらと走るクラスメートの群れから、眼鏡越しに、ふらふらと走る周回遅れのまどかを発見したほむらは、
獲物を見つけたチーターのように彼女目がけて加速した。
「鹿目さん、大丈夫?」
並走してその様子を観察すると、まどかは汗だくになって紅潮した顔で、必死のランニングフォームをとっている。
「あ…ほむらちゃん…」
あえぐような息継ぎに自分の名前を絡めたまどかの様子を見、ほむらは胸の内に性的な欲望の隆起を見た。
「もう少しだよ、一緒に走ろう」
「うん…ありがとう…」
今の私ってやっぱりカッコイイ!!
そう思った後、ほむらは今夜のベッドの中に持っていくため、まどかの汗の匂いと共に、その様子を強く、脳裏に刻み込んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:20:29.10 ID:PFs+Giuho<> 「最近ホント、すごいよね、ほむらちゃん…」
一緒に帰る道すがら、まどかは力なく、そう切り出した。
え? と、ほむらがその顔を向けると、
「お勉強も、運動も、転校してきたばかりの時とは全然違うもんね…
なんか、ほむらちゃんが遠くに行っちゃったみたい…」
その言葉と、夕日に照らされたまどかの寂しそうな笑顔は、ほむらの背中に滲んで、そこから彼女の内面をじわりと冷やした。
「遠くに行ったなんて…そんな事ないわ! 私たち、友達じゃない!」
そんな力強いほむらの言葉にも、まどかはうなだれたまま、うん、と、相変わらず力なく答えた。
「うん…だけどね、私最近考えるんだ…今の私に、ほむらちゃんの力になれることって、あるのかなって…
ほむらちゃん元気になっちゃって、保健委員として力になってあげることもなくなっちゃったし、
お勉強だって…今はほむらちゃんのほうがすごいし…」
「みんな、みんな…鹿目さんの、お陰だよ…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:21:06.26 ID:PFs+Giuho<> 「うん…私ね、ほむらちゃんの力になれて、嬉しかった…お掃除の時、吐いてたほむらちゃんを助けることが出来た事、
そしてその後、保健室での事――
そして、ノートを貸して欲しいって、言われた事も、すごく嬉しかったの…」
ほむらは、まどかの辛そうなその声に、我が身を抉られるような思いに絶句した。
「ごめんね…本当はほむらちゃんがいろいろ出来るようになって、一緒に喜ばなきゃいけないのに…それが友達なのに…
もう自分が、何もしてあげられないって思うと、なんだか寂しくなっちゃって…
ごめんね…私、ダメな娘だね…ごめんね…ほむらちゃん…」
ほむらは、自分を責めるように喋り続けるまどかの手を握り、
「人生は勉強や運動だけで出来ているんじゃ、ないと思うの。
私に出来なくて、鹿目さんに出来ること、まだたくさんあると思うわ。」
そう、伝えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:22:07.27 ID:PFs+Giuho<> 涙ぐんで自分を見上げるまどかを見、ほむらの中に巣食ういやらしい部分が躍り出した。
こんな時に、何を考えているんだろう…
ほむらはそう思ったが、勝手に口が動き出す。
「私、あなたと、もっと仲良くなりたい。 もっと親密になりたい。
そうすれば、もっとあなたの事が分かるようになれば、あなたに頼るべき部分も、たくさん見つかるはずだと思うの」
「ほむらちゃん…」
「あなたのおうちに、二人きりで遊びに行けるような…美樹さん以上のお友達に、なりたい」
下心を隠す真剣な眼差しを向けて語られたその言葉に、まどかはクスッと笑い、ほむらは一瞬、その調子を狂わせた。
「お友達に、以上も以下も、無いよ」
「そ…そうね(汗」
ほむらは、一本取られた、そう思った。
「でも、そういえば今まで、ほむらちゃんを家に招待してなかったね…ごめんごめん」
いつもの笑顔が、まどかに戻ってきたのを見、ほむらは安堵した。
そしてその一瞬だけ、彼女は下心を忘れることが出来た。
「その顔が、私の頼るまどかよ。 その笑顔に、何度救われたかわからないわ」
「えへへ…ほむらちゃん、やっと名前で、呼んでくれたね!」
ほむらは自分の顔がみるみる紅潮していくのを感じていたが、
頬を照らす夕日の色合いが、それを誤魔化してくれるはずだと固く信じ、臆すること無くまどかに最高の笑顔を向けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:22:48.01 ID:PFs+Giuho<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:23:22.37 ID:PFs+Giuho<> 「そうか、二人の関係に違和感があるからって、自分だけが変わっちゃあ、相手に更なる違和感を与えてしまうわけか。 難しいな…」
「そうよ」
「でもいい話だったじゃないか…晴れて仲良くなれて、そのままゴールインって、訳だろ?」
ほむらはまた一口、ドリンクを飲んでから、落ち着いた様子で、
「甘いわね」
とだけ、言った。
「…なん…だと…?」
杏子は、もう一波乱あるのかと、暗い予感を重ねて驚嘆した。
その中に、レズの恋というものの難しさを見る思いがする。
「終わりを迎えたのよ。 私の間違いが原因でね」
波乱どころでは、なかった。
杏子は、自分の事を考え、本当に大丈夫だろうかと思った。
今でさえぎこちないさやかとの関係が終わりを迎えたとき、自分だったら彼女との関係を再構築することが、果たして出来るのだろうか?
ほむらは青くなっている杏子を一瞥し、またストローをグラスの中で回転させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:23:52.27 ID:PFs+Giuho<>
…
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/01(金) 19:25:42.79 ID:PFs+Giuho<> 今日はここまで。
多分明日2100頃、「第三章 楽園、追放」を投下するはずです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/01(金) 19:32:36.67 ID:kVWExaiEo<> 乙マミさん!
そういやぁ、時系列上ドリルヘアの可愛い紅茶好きなあの先輩がまだ生きてる訳だ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<>sage<>2011/07/01(金) 23:11:26.18 ID:W0fFk62AO<> 乙あん
前回に引き続きさやかは安定してるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/02(土) 09:05:24.70 ID:d0IKYsdIO<> 乙っちまどまど!
前の奴も見てたよ〜頑張って…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:00:50.30 ID:ZhUlgdF/o<> 第三章 楽園、追放
まどかの父に挨拶をし、弟と遊ばせてもらい、
そしてぬいぐるみなど、所狭しと可愛い物が並べられたまどかの部屋に迎えられ、ほむらは天国を見ているような気分になっていた。
いや、まさしくそこは楽園そのものであったのだ。
「えへへ…なんだか恥ずかしいな…」
「そんな事無いわ! 素敵な部屋じゃない!」
まどかの部屋を記憶に留めることが出来れば、
日課であるオナニーの際、思い浮かべる事が出来るシチュエーションに、かなりの幅が広がる。
ほむらは何時間か後の、昨日までより妄想の質が向上し、程度の高くなった快感を予測してこの時かなりの興奮状態であった。
その、興奮に粗くなった自らを戒めるように深呼吸をし、気持ちを落ち着けていると、不意にまどかが立ち上がった。
「まどか?」
「ごめん、ちょっとトイレ…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:01:44.41 ID:ZhUlgdF/o<> まどかが部屋を出て行くと同時に、ほむらの目付きが変わった。
腕時計を素早く操作し、ストップウォッチを作動させ、人外の目付きでもう一度部屋の中を眺め回す。
最初に目についたのは、もちろんベッドだ。
そして枕元の棚に置いてあるぬいぐるみ…可愛らしい机…ハンガーに掛けられた制服…ほむらはいやらしく舐め回すようにそれらを視姦した。
そして最後に目についたのは、こぢんまりとしたタンスであった…。
あの引き出しの中身は…恐らくまどかの下着!!
それが手中にあれば、私のオナニーライフはどうなってしまうのだろうか…ゴクリ!
ほむらはその小さなタンスの中に入り込み、
小鳥が水浴びをするように「下着浴」としゃれ込みたい衝動に駆られたが、時計を見て、グッとそれを堪えた。
もうすぐ、まどかがトイレから帰還するに違いない。
ほむらがそう思ってから二十秒程で、まどかが帰ってきた。
トイレに立ってから、約三分経っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:02:17.05 ID:ZhUlgdF/o<> 「まどか、悪いんだけど、私にもトイレ、貸してくれる…?」
尿意はなかったが、ほむらは焦る気持ちを抑え、立ち上がった。
「案内しようか?」
「大丈夫よ、部屋に入るまでにトイレの場所は確認したから」
ほむらは滑るように部屋を出、サーキットを走るレーシングカーのように最短ラインでトイレに突っ込んだ。
深呼吸し、芳香剤の香りから選り分けて、まどかの残り香を味わう。
そう、まどかの痕跡が消える前にと、急いでトイレに駆け込んだのだ!
ああ、まどかの匂い!!
そしてほむらは、先刻までまどかのむき出しの尻が密着していたであろう便座に、下着を下ろして座り込んだ。
ああ、まどかの温もり!!
ほむらは、興奮しきった自らの股間に、その手を持っていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:02:51.91 ID:ZhUlgdF/o<> 「ただいま、まどか」
何食わぬ顔でまどかの部屋に戻ったほむらは、まどかには見えぬよう最大限の注意を払って、
自分の粘液が付着したその手を彼女のベッドに滑りこませ、シーツに擦りつけた。
重苦しさが腹の底に結晶し、それがじわりと背中を冷やす。
自分のした行為に寒くなる。
だけど、それがやめられない自分を、更にエスカレートさせようと脳のいやらしい部分を働かせる自分を、
ほむらは、しかたないわね、と、あっさり肯定した。
全てはこの、まどかの魅力のせいなのだと思う。
まどかさえいなければ、私が変態に目覚めることはなかったのだ。
だから私は悪くない――。
たとえ屁理屈であったとしても、一応の理由付けに、
ほむらは詰まったようなその気分が暖かく弛緩していくのを多少の後ろめたさとともに感じていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:03:20.82 ID:ZhUlgdF/o<> 「そうそう、せっかくお邪魔させてもらうのだからと、おみやげを持ってきたんだったわ――」
ほむらは自分のバッグの中から、多少のお菓子と、ペットボトルの緑茶を取り出した。
――なぜ、緑茶なんて渋いものを、ですって?
――ふふふ、今に分かるわ…
ほむらは持参してきた紙コップに緑茶をなみなみと注ぎ、まどかにそれを薦めた。
「ありがとう、のど乾いてたんだ…」
まどかが緑茶を飲み干すのを確認したほむらは、宴席で上司に媚を売る下っ端のように、間髪を置かずに緑茶を注いだ。
「どう、おいしい?」
「うん」
「まだたくさんあるわよ」
ほむらが執拗に眼で訴えると、まどかはまた少し、緑茶を飲んでくれた。
だが、まだ足りない。
しかし、こんなこともあろうかと、ほむらは次の手を考えていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:03:50.86 ID:ZhUlgdF/o<> 「そうだ、乾杯ごっこをしましょう!」
「乾杯ごっこ?」
「前までいた中学校で流行っていたの。
ビールを乾杯するようにジュースやお茶を飲むと、ちょっぴり大人になった気分が味わえるのよ」
「へえ、そうなんだ!」
そんな意味不明な遊びが、あるわけがないだろうに。
しかし疑問を差し挟む余地を与えないように、ほむらは目の前の緑茶を、ごぶ、ごぶと旨そうにのどを鳴らして飲み下した。
「ふう、おいしい。 まるで緑茶じゃないみたいだわ」
「へえ、どんな風に違うの?」
ほむらはまどかの紙コップにちらりと目をくれ、
「自分で体験してみたほうが早いわよ!」
詐欺師のようなドヤ顔でそう言うと、まどかは好奇心をたたえた眼で目の前の、
何の変哲もない緑茶をまじまじと覗き込み、コップを掴み上げた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:04:17.04 ID:ZhUlgdF/o<> いい、のどごしで味わうのよ。
大量の緑茶を一気に食道に流しこんで、その感触と、のどに沁み込む豊かな味わいを楽しむの。 一気に、たくさん飲むのよ」
ほむらのその言葉に誘われるように、まどかは紙コップの緑茶を一気に飲み下した。
「ぜんぜん違うでしょう?」
「う…うん…」
ほむらはまどかの表情から、違いなど感じてはいないことを読み取っていた。
いや、違いなど始めからあるわけがないのだ。
こんな物、どんな飲み方をしたって、ただの緑茶である。
「そっか、まどかは乾杯ごっこは始めてだもんね。 それじゃあ一気に二杯、行ってみましょうか!
この遊びは元々中ジョッキでやるものなのよ。 慣れていないまどかには、紙コップじゃ量が少なすぎたのね」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:04:51.98 ID:ZhUlgdF/o<> ほむらはそう言って、まどかの紙コップに緑茶を満タン、注ぎ込み、血走り始めた眼で、彼女の方をじっと見つめた。
その視線に気圧されたまどかが、紙コップに口をつける。
「一気! 一気!」
ほむらは急かすように、掛け声を浴びせかけている。
その様子はまるで、一昔前の大学生の新歓行事だ!
結局、ほむらは二杯と言っておきながら、何食わぬ顔でまどかに三杯の緑茶を飲ませることに成功した。
そして数分後――。
「ほむらちゃん、ちょっと、トイレ行ってくるね…」
緑茶の利尿作用キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
計 画 通 り !!(ニヤリ
ほむらは、まどかが部屋を出ると同時に、時計を操作して二分半の計測をスタートさせた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:05:31.72 ID:ZhUlgdF/o<> ほむらは素早く、まどかの紙コップをつかみ取り、彼女の口が付いていた部分を舐め回した。
間接キッス!!
そしてベッドの脇に滑りこみ、柔らかな布団の中に顔を突っ込み、存分に深呼吸を繰り返した。
寝床の匂い!!
次に顔を枕まで滑らせ、過呼吸気味になるまで、まるで自分を責めるように匂いを嗅ぎ続け、舐め回し、
唾液が付いた枕をバレないようにひっくり返した。
妖怪、枕返し!!
そしてまるでばね仕掛けの玩具のように立ち上がり、真っ直ぐに壁に掛かった制服に突進し、頬ずりし、匂いを嗅ぐ。
制服、最高!!
ほむらは時計を見た。 二分半まで、あと一分二十秒…
ようし、そろそろ最後のお楽しみと行きましょうかしらァ…。
ほむらはタンスの前に正座をし、まるで仏壇に向かうように手を合わせ、一息に下から三段、引き出しを引いた。
「おお…」
パンツ、ブラ、オーヴァーニーハイソックス…
眼前に広がるそれらはまさしく、天界の花畑そのものであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:06:16.61 ID:ZhUlgdF/o<> ほむらはブラを取り出し、それをカチューシャのように頭の上に置いた。
そしてニーソをまるでスカーフのようにクビに巻き、
次いでパンツを手に取り、鼻に押し付け、存分にその匂いを吸い込んだ。
パンツからは、洗い上がりの清潔な匂いしかしなかったが、そんな事は問題ではなかった。
それが直接、まどかの恥部に触れたことのある布である、という事実。 それだけが重要なのである。
そうやって、まどかで満ち溢れた自分――それはもう、とてつもなくほむほむなのであった。
ほむらは思った。 まどかを放置しておけば、良くないことが起こるであろう。
きっとまどかで、いつか世界大戦が起こってしまう――
――それを止めるのは、私しかいない!
私がまどかを管理しなくてはならない!
ほむらはこの時、世界を憂うる立場まで、その存在を上昇させたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:06:52.59 ID:ZhUlgdF/o<> 二分半――先程、トイレからまどかが帰ってきたのは3分後だった。
そこから安全マージンを30秒取ったその時間まであと一分――。
ほむらはまどかの下着を見にまとい、賢者タイムであった。
落ち着いて、それらを外す。
しかし、いざ手に取ると、その三種の神器を、どうすればいいのかわからなくなった。
そして、生まれ出た衝動は、彼女でさえ薄ら寒くなるようなそれだった。
ほむらは自らのバッグを引き寄せ、ジッパーを開放した。
照明の白色光を拒否するように、黒々と底の見えないバッグの口…
それはまどかを食らわんとしている自らの欲望の象徴のように、ほむらには思えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:07:27.27 ID:ZhUlgdF/o<> ――逡巡。
そんなことして、いいの? あなた人間じゃなくなるわよ。
あなたのやろうとしていることは、泥棒なのよ。
下着泥棒。 分かる? 最も忌むべき犯罪の一つだわ。
あなたが変態なのは分かるけど、超えてはいけない一線というものはあって然るべきなのではないの?
あなたは人間よ。 知恵の木の実という、禁断の果実を食し、楽園を追放されたという、生まれながらの罪を背負った人間よ。
この上、更に禁断の果実を、重ねて食するというの?
それでは待っているのは地獄しか無いわよ!
破滅よ!
考え直しなさい! 暁美ほむら!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:08:01.77 ID:ZhUlgdF/o<> ――逡巡。 しかし、それは一瞬のことであった。
人間ですって?
人間として生きようとしていた私が、病気になって、それゆえに遅れた惨めな学校生活をし、虐められ、死のうとまで思った。
それを救ってくれたのは何?
まどかへの欲望じゃない!
その生命の恩人たる、欲望を――
――私の存在を肯定してくれた、今や私そのものになったそれを――
――否定するくらいなら、人間なんて、ク ソ く ら え よ !
ほむらは、三種の神器を自らの鞄に突っ込んだ!
もう、後戻りはできない。
二分半まで、あと45秒。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:08:42.50 ID:ZhUlgdF/o<> 後ろめたさがつきまとう。 まるで蛇のように、絡みついて、締め付ける。
始めて犯した罪は、あまたあるそれらの中で、最も下等なものだった。
それを振り払うように、ほむらは思った。
――これは違うわ。 こうするしかなかったのよ。
これはまどかの下着類だけど、私が触れてしまった物。
私で汚された物。 これをタンスに戻すと、まどかの下着が全部、汚染されてしまうわ。
それを防ぐために、私自身が回収するしかなかったのよ。
そうやって罪を肯定してしまうと、ほむらの心に生じたのは、新たな罪を求める衝動だった。
それは盗んだパンツで、家に帰ってからでも出来ることであった。
しかしもう一度、自分に汚されていない、パンツで!
あと、40秒。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:09:55.45 ID:ZhUlgdF/o<> ほむらの頭の中に、くっきりと欲の形が浮き上がる。
それは昔読んだ、品のない漫画の絵を形作った。
――変態仮面。 パンツをその顔面に装着する事によって、比類なきパワーを得るヒーロー。
まだ時間はある。 自分も、なりたいと思った。 やってみたいと思った。
今、やめておけば、安全にこの変態行為の膜を閉じることが出来る。
だが、やりたい。
まどかパンツを、顔面に!! それは自分に罪をそそのかした蛇に、罪そのものに、更に余計な足を描く行為。 つまり蛇足。
だがあと35秒。 勝てる勝負だと、思った。 いざ――
――装着!! まどかの恥部が直に触れたその部分が、ダイレクトに、自分の鼻に、口に!
ほむらは、神の匂いをかいだ。
それは、天上の空気。 この世には、存在し得ない筈の物。
「ああ、まどか…刻が見える…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:10:34.99 ID:ZhUlgdF/o<> 想像を絶するまでの豊かな時。 ほむらは見た。 沢山の金色に輝く光の粒が流れ、尾を引き、万物がそれに流されている。
時の流れ。 それは一定ではなく、時に曲がり、くねり、淀みながら、河のように。
しかし、それに流されているもろもろは、すべて一定の距離を保っている。
だから相対的に、時の流れは一定だと思われているのだ。
あの中で見ている限り、周りのものを観察することによる相対的な時しか、人類は観測できないだろう。
しかしほむらは、その埒外から、絶対を見た。
それは神に触れたとも言える、不思議な体験であった。
流れの中に、人類が勝手に作った目盛りが見えた。
絶対から見れば不均等極まりないそれ。
あと、30秒であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:11:11.75 ID:ZhUlgdF/o<> ――コンコン。
不意にドアが音を立て、ほむらは時の流れの外から、その内側に引き戻された。
えっ…なにが起こったの? 何? ノック?
時間は…あと27秒残っているのに…まどかじゃない?
まさか…
「まどかー。 お菓子持ってきたから、入っていいかな?」
その声は、まどかの父、鹿目知久のものであった。
ちょっと待って――そう、ほむらが発する前に、ドアのノブがガチャリと金属音を立てて回転した。
そう、まどかは年頃の娘とは言え、親に一切の隠し事をしていない、とってもいい娘なのだった。
そんな親子の関係において、ノックはすなわち、入っていいか? という確認ですら無く、
入るよ、という合図でしか無い。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:12:05.85 ID:ZhUlgdF/o<> ほむらは脳内に状況を打破するための策を求めた。
しかし、思考の糸が絡まり、解くことはかなわず、切羽詰った時間がその中に染みこんでくる。
――ホワイト・アウト。
ほむらの脳は、転校してきたばかりの、不甲斐ない、役に立たないそれに戻っていた。
ドアが開く。そこから時を固める冷気が侵入し、ほむらを、そして万物を凍らせ始めた。
それに抗うように、何とか彼女は顔面に装着されたパンツを外すことに成功したが、そこで限界であった。
ドアが開き、視線が交錯すると、完全に凍りついた時に挟まれた両者は一瞬、その動きを止めた。
刻の河は、流れるばかりではなく、凍りつくこともあるのね――その時、ほむらはそんな事を思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:12:47.46 ID:ZhUlgdF/o<> 「あのさ…君は、何をしているのかな…?」
知久の、声。
静寂を突き破るその声は、凍りついた時間を溶かすために注ぎこまれた熱湯のようであった。
ほむらはそれを浴び、周囲を取り巻く時とともに凍りついていた自らが、ひび割れる音を聞いた。
知久は眉間にシワを刻みながら無言で部屋に侵入し、テーブルの上に、持ってきたお菓子を置き、
それからほむらが手にしていたまどかのパンツを乱暴に奪い取った。
「ほ、ほむーっ! ほむーっ!」
言葉を忘れるほどの衝撃を受けたほむらの弁明は、最早人語ではなかった。
知久は、ほむらのバッグの口からはみ出たまどかのソックスまで発見し、その中から三種の神器をも奪い取っていった。
急いていて、ジッパーを閉め忘れていたのだった。
そして部屋を出掛けに彼が放った、言葉。
「君、もう家には来ないでくれるかな」
「お…お義父さん…」
ほむらは蛇に足を描く行為により、禁断の果実を奪われ、楽園を追放されたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:13:44.63 ID:ZhUlgdF/o<> 「ほむらちゃん、どうしたの?」
それから1分20秒ほど経って、まどかが帰ってきた時に放った言葉である。
部屋の外で、知久とまどかが話しこむ声が聞こえた後に、彼女は部屋に戻ってきたのだった。
ほむらは自らの罪をまどかに吹きこまれたのだと思い、冷たく縮こまっていた。
「…お義父さん、なんか言ってた?」
「洗濯物を持って行くって…おかしいなあ…帰ってきたとき、洗濯物は出しておいたはずなのにね」
「…そう」
知久は、まどかに何も言っていないらしい。
考えれば当然だ。 自分の娘に、友達が変態だったなんて、言えるはずがないのだ。
しかしまた次、ノコノコとこの家に私が踏み込んだら――
次はないだろう。 終わったのだ。
もう、まどかと私は…完全に…。
ほむらは家に帰った後、何度も、何度もその事実を反芻し、そのたび滂沱の涙を流し、慟哭した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:14:18.15 ID:ZhUlgdF/o<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:15:09.72 ID:ZhUlgdF/o<> 「あんた、勝負師だな…尊敬するよ…」
杏子が深い溜息を吐いて、静かに、ほむらにそう語りかけた。
「負けたのよ」
「いや、勝ち負けは関係ない。 立派な勝負だったさ」
「浅ましい勝負だったわ」
ほむらのグラスには、もう氷しか入っていなかった。
杏子はそれを一瞥し、言った。
「勝負に貴賎はない。 あるとするなら、すべてが立派な勝負、その事実だけさ。 あんたは立派に戦ったんだ」
杏子は、ほむらを社員として欲しくなった。
これほどまでの、聞いていて肌がヒリ付くような勝負を、若干中学2年生の若さで、体験してきている――
そんな人材は、そうそういるものではない。
商戦は、その名の通り戦いである。
勝負の種類はどうあれ、そう言った修羅場をくぐり抜けてきた者ならば、商業的な知識を詰め込んでやれば、ほぼ即戦力たりうる。
それにほむらのような人材が貴重なのは、負けを知っているというその事実が大きかった。
会社において負けを知らしめるとなると、それは赤字を伴う。
予め負けを知っている人材は、貴重なのである。
負けを知ると、負け癖が付くこともあるが、現実を見るとほむらはまどかをモノにしている。
彼女は負けを覆して、見事に勝利を収めたのだろう。
話を聞く限りでは、絶望的とも言えるその状況を好転せしめたほむらは、勝負師としては、最高の逸材だった。
杏子は思った。
ほむらほどの勝負師なら、億単位でその損得がある、胃の絞られるような一瞬の勝負さえ、難なくやってのけるであろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:15:51.82 ID:ZhUlgdF/o<> 「ほむらちゃーん」
まどかがプールから上がり、水を滴らせながら駆け寄ってきた。
「私たちもう上がるけど、ほむらちゃんはどうする?」
「そうね、上がりましょうか」
ほむらが立ち上がったので、それにつられるように杏子も立ち上がった。
「さやかちゃんとお風呂に入って、その後卓球をするんだ!」
「そう、じゃあ私たちも一緒に、お風呂に行きましょう…いいわよね、杏子」
「あ、ああ…」
杏子は、まどか達と並んで歩き出したさやかを見た。
自分が上手くリードできないばかりに、ギクシャクした関係にはまり込んでいる、大好きな相手――。
このバカンスで、少しは関係が前進するかと思ったが、
寧ろまどかと遊んでばかりいるさやかは、自分との距離を更に広げたように見えるのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:16:18.30 ID:ZhUlgdF/o<> 「あんたさ、うちの会社に来ないか? あんたほどの勝負師なら、即戦力として使えそうなもんだし、来なよ」
杏子は浴槽に浸かり、うーん、と、伸びをしながらほむらにそう、聞いた。
「嫌よ」
ほむらの即答に、杏子は顔をしかめて、
「ソッコーで振られちまったなあ、どうしてだい?」
そう聞くと、ほむらは、
「まどかとの時間が短くなりそうだから、私はヌルい公務員でいいわ」
と言って笑った。
だが実際は、グリーフシード事件に付きっきりになり、以前より帰りが遅くなっている事を、杏子は知っていた。
杏子が人材協力をし始めてから、ほむらはまるで執念の塊になったように捜査を再開したのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:17:38.58 ID:ZhUlgdF/o<> あの事件は、ほむらが警官になって、始めて捜査を担当した事件なのだそうだ。 格別のこだわりがあるのだろう。
その話はまたあとで聞くとして、と思って、杏子は続けた。
「それで、その後どうしたんだい?」
「…あなたは私を勝負師といったけれど、私はあの後、勝負を投げていたのよ
今まどかと一緒なのは、たんなる運。 棚からぼた餅ね」
「そうなのか?」
「ええ、私はあの後、登校拒否になって、廃人同様の暮らしをしていたわ。
そして学年が上がったとき、まどかと離れ離れのクラスになったことを確認して、
漸く登校を再開し、彼女とは目も合わせずに過ごしたの。
もちろん、毎晩のストーキングは欠かさなかったけど」
「おいおい、ヒデーな。 その時まどかはきっと悲しかったと思うぞ」
ほむらは杏子の言葉から、その当時の自分の心境を思い出し、
「そうかも知れないわね。 でも、そうするしかなかったの」
そう言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:18:29.25 ID:ZhUlgdF/o<> 「…それで? その後は?」
「私は中学を卒業すると、半年の教育期間を経て警察官になり、性犯罪を担当する刑事になったの。
当時見滝原市では、異常とも言える強姦事件がポツポツと起こり始めていてね。
急増したのは去年の暮位からの半年ほどの間だけど、警察の一部ではそれらの事件に、関連性があると睨んでいた。 その事件が…」
「グリーフシード事件か…!」
「そう、それは、今から3年前、つまり私たちが中学3年生の時、第一回目の強姦殺人が起こったことから始まったの」
「私が商業高校を一年で中退して、サークル杏の社長になった年だな…」
杏子も、この事件には因縁めいたものを感じていた。
自分とさやかを結びつけた事件が、まどかとほむらの関係にも、影響を与えていたのか…
そう思って、それで?…と言いかけたとき、ほむらが会話を切った。
「のぼせてしまうから、上がってからにしましょう」
杏子は、それから十数分のお預けを食らうことになった。
そしてその後、卓球台の横で、昔話は再開されたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:18:57.54 ID:ZhUlgdF/o<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/02(土) 21:21:53.86 ID:ZhUlgdF/o<> 今日はここまでかな。
中卒で働くのは、賞味期限切れを抑制するための手段だから突っ込まないでね。
労働少女は条理を覆す存在だってことで。
明日は「第四章 マミリーマート」を、1730頃投下予定。 だんだんえげつなくなってきます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/02(土) 21:36:16.89 ID:XmnnEWSbo<> 乙っちまどまど!
マミリーマート……久兵衛くるかー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/02(土) 21:41:48.86 ID:qrLV+KsJo<> 乙っち乙まど
アニメ本編だとキュゥべえはいっぱい出てきたけどこのシリーズでは一人きり……だよね?
あんな吉良吉影の人間味を更に薄めたような奴が量産されてても困るが <>
1<>sage <>2011/07/03(日) 17:32:57.74 ID:mL/S0WZao<> 第四章 マミリーマート
三年前の春、二日後に迫った役員会に備え、久兵衛は料亭で都合の付いた役員たちを接待していた。
「いやあー、久兵衛君はなかなか見どころのある男だねぇー」
「ありがとうございます、河豚田専務」
河豚田鱒雄――。
株式会社マミリーマートの専務取締役であり、商品本部長。それに、物流、品質管理本部長を兼務している。
マミリーマート社長、磯野波平の長女、佐沙江の夫であり、社長の太鼓持ちと揶揄されている、その役職がもったいないほどの小物である。
しかし、小物であり、馬鹿であるほど、久兵衛にとっては利用価値のある大切な人物たりうる。
鱒雄は、久兵衛が最も重用する役員であったが、社長に物を言われると、ころっと自らの方針を覆してしまうのが玉に瑕だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:33:33.57 ID:mL/S0WZao<> 「河豚田君の言うとーり。 久兵衛君には、今後ますます働いてもらわなきゃーねっ」
「これはこれは穴子専務、こちらこそよろしく。 今日こそは僕に女の世話をさせて下さいよ。
常務お好みの、いい女、用意してますから――」
穴子某――。
株式会社マミリーマートの専務取締役であり、総合企画部長である。
商社時代からの鱒雄の同僚であり、若本規夫似の渋い声が特徴である。
ほとんどの役員が久兵衛の世話した女に溺れ、その弱みにつけ込まれる形で彼に利用されていたが、
彼は極度の恐妻家であり、それゆえ久兵衛が連れてくる女には手を付ける度胸がなく、彼の意のままに、とは行かない。
しかし鱒雄と仲が良く、彼を使えば何とか動かせるし、酒を飲めば話せる男で、久兵衛と馬も合う、使いでのある役員の一人だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:34:53.52 ID:mL/S0WZao<> 誤 「これはこれは穴子専務、こちらこそよろしく。 今日こそは僕に女の世話をさせて下さいよ。
常務お好みの、いい女、用意してますから――」
正 「これはこれは穴子専務、こちらこそよろしく。 今日こそは僕に女の世話をさせて下さいよ。
専務お好みの、いい女、用意してますから――」
スマソ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:35:30.89 ID:mL/S0WZao<> 「そんな事より、君がこうして僕らを接待するということは、何か裏があるんだろう?
まあ、僕の情報網から、大体予想は付いているんだけどね」
「さすがは伊佐坂常務。 常務が居るとお話が早くて助かります。 しかし堅苦しい話は後ほど…今は大いに楽しみましょう」
伊佐坂甚六――。
株式会社マミリーマートの常務取締役であり、システム本部長である。
高校を卒業した後、長らく浪人生活を経て、大学進学を諦め、世捨て人ニートとなった後、
その無駄な時間を利用し見識を高め、現代の孔明と言われるまでの知識人になり、
その能力を買われ、磯野波平に招へいされた異端児である。
システム構築に関しては天才的な頭脳の持ち主であったが、童貞期間が長く、
ハニートラップを用いての掌握は役員の中で最も容易だった。
しかしその知識量から他生小賢しいところがあり、しばしば久兵衛を出し抜こうとする、扱いづらい男でもあった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:36:15.56 ID:mL/S0WZao<> 「甚六さんは頭を使い過ぎていけないや…僕みたいに楽しめる時は大いに楽しまなきゃ損じゃないか。 なあ、久兵衛」
「ごもっともです、磯野常務。 ささ、一献――。」
磯野勝雄――。
株式会社マミリーマートの常務取締役であり、波平の息子である。
そして見滝原一帯をシメる巨大不動産会社、株式会社花沢不動産の一人娘、花子の夫であり、同社の専務でもある。
甚六のように秀才肌ではないが頭の回転がとにかく早く、まだ二十歳前のくせにかなりのやり手である。
ずる賢く搾り出されるその知恵は、時に久兵衛すら舌を巻くが、
穴子ほどでは無いにしろ恐妻家で、それゆえ女を世話して弱みを握った後、最も久兵衛に従順となった。
中途採用の平社員である久兵衛だったが、
このように専務、常務クラスの役員たちの弱みを握り、彼らを手足のように使いこなし、影の社長と言われるまでになっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:37:11.12 ID:mL/S0WZao<> 「久兵衛君、君の考案した『看板娘システム』は良好だよ! 男客が全体で最大5%増加し、売り上げも4%増えた!」
「ははっ…相変わらず伊佐坂常務は仕事の話ですか…熱心ですねえ…」
久兵衛は、集客力強化のため、伊佐坂に「看板娘システム」の導入を勧めていた。
「看板娘システム」とは、十代の清純そうな娘を各店舗に配置する、という、ただそれだけの、システムとも言えないシロモノだったが、
これによって商品の値段がコンビニに比して安いスーパーなどを無視してまで、
好みの娘がいるマミリーマートに通うスケベな男客が急増し、売り上げを着々と伸ばしていた。
その手柄はすべて甚六のものになっている。
久兵衛は自らが好き勝手やる代わりに、アイデアをこのように各役員に売って、彼らの信用を得ることを欠かさなかった。
「それでさ…君が見滝原店に新しく入れた娘なんだけど…」
久兵衛は、やはりそれか、と、思った。
ロリコンである甚六は、久兵衛があてがう少女たちだけでは満足できず、彼が拾ってきた看板娘を、しばしば欲しがるのであった。
「えっと…巴マミ君ですか?」
「そう、その娘! 中学校卒業したばかりなんだろう? それでいてあの巨乳…堪らないよ!
看板娘なんて辞めさせて、僕にくれよ! ああ、勃起してきた! まるでみくるちゃんだもんな!!」
久兵衛は自らがスカウトし、契約したばかりの、巴マミというアルバイトの事を考え始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:37:47.07 ID:mL/S0WZao<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:38:16.94 ID:mL/S0WZao<> ――その日、久兵衛は看板娘に適当な少女を探すため、街をぶらつき、職業安定所に入っていき、
そして大勢の求職者たちの中から、一瞬でターゲットとなる少女を発見した。
見滝原中学校の制服姿で、慣れない様子で求人広告を見回っている。
久兵衛はすぐさまその少女に駆け寄った。
この手の少女はグズグズしていると、風俗関係の業者に強引にスカウトされてしまうからである。
それは久兵衛が過去にやったことのある仕事でもあった。
近寄りながら、男好きのする安産体型であることを確認し、久兵衛はよだれを垂らしそうになって舌なめずりをした。
「良い求人、全然ないね」
後ろからそう話しかけた久兵衛を振り返った、怯えたようなその顔を見、久兵衛はヒュウ、と、口笛を吹きそうになった。
上玉である。
看板娘としては最高の逸材だと、久兵衛は思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:38:46.92 ID:mL/S0WZao<> 「やあ、ごめん。 急に話しかけちゃったから、ちょっとびっくりしたかい?
安心してくれ。 怪しい者じゃないからね。 僕は――」
そう言って、久兵衛は懐から彼の名刺を取り出した。
「――こういう者さ」
少女は名刺というものを初めて見るかのように、恐る恐るそれを確認し、
「…株式会社、マミリーマート…人材スカウト担当?」
と言い、怪しむように久兵衛の顔と、その名刺とを交互に見ている。
「まあ、特に役職はないね。 僕はちょっと特別でね――」
そう言って、今度は社員証を提示した。
「これで、僕が本当にマミリーマートの人間であることが、証明できただろう?」
そう言って営業畑に居たときのスマイルを投げかけてやると、漸く少女の顔から不信が六割ほど、抜けたようだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:39:20.68 ID:mL/S0WZao<> 久兵衛は、長らくアンダーグラウンドな世界で生きてきた。
クスリの売人から始まり、次いで誘拐を伴う、半ば強引な水商売の斡旋、そして公に出来ない死体の処理――。
そんな中、当時、マミリーマートの広報担当の一幹部であった波野海苔助という男の、
女関係の火消しを手伝うこととなり、そのツテでマミリーマートに入社。
波野はその横着な性格が災いして失敗を繰り返し、現在は海外赴任という、体の良い本社追放の憂き目に遭っているが、
久兵衛は素早くアングラ時代の人間関係を駆使し、
前述の通り女を使って他の役員に次々と取り入り、現在の地位を獲得したのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:40:00.41 ID:mL/S0WZao<> 「巴マミ君といったね。 もしよかったら、僕と契約して看板娘的なコンビニ店員になってよ」
「看板娘?…コンビニの、店員さんの勧誘ですか?」
久兵衛に連れられて喫茶店まで付いてきてくれたものの、その少女、巴マミはまだ、久兵衛に対してどこかよそよそしい。
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるね。 普通のアルバイトとの違いはお給料と、ちょっとした条件が付くことさ」
マミは、じっと久兵衛の話を聞いている。
何かおかしな点を見つけたら、即座に質問をしようという決意のようなものをたたえているが、
その表情には自らの先行きに対する不安が滲み出てもいる。
「条件は、そのままの君で居ることだ。 そうしたらアルバイトの時給に120円、上乗せされるよ。
そして仕事ぶりが評価されれば契約社員にもなれる」
「そのままの、私?」
マミは早速、自分に対して放たれた意味不明なその言葉を聞き返した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:40:37.74 ID:mL/S0WZao<> 久兵衛は珈琲を啜りながら、
「そう、結構難しいんだな、これが」
と言って、ふう、と、溜息を吐いた。
「仰る意味が分かりません。 きちんと説明をお願いします」
マミはたどたどしく、演じるようにそう、聞き返した。
明らかに緊張した物言いであることが分かる。
中学校でかなり高等な教育まで施されるこの時代において、中卒の就職は以前より多くなったが、
それでもまだ、高校まで終了してからの就職が多数を占めていた。
大学は既に、研究機関としての側面がかなり強くなっている。
久兵衛は、中学生であるマミの就職活動という事実が、この不安をたたえた微妙な表情と密接に関連している気がした。
「ちゃんと説明をしてあげるから、そんなに緊張しなくていいよ」
久兵衛のその言葉に、胸の内を見透かされた事を知ったマミは、うっ、と、その表情と言語を詰まらせた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:42:06.26 ID:mL/S0WZao<> 「失礼な言い方になると思うけど、勘弁してくれ。
女の子はね、好きな男の子ができたりすると、無意識のうちにその相手の好みに合わせて変わろうとするものさ。
君にそういう相手や、付き合っている彼氏が居る居ないは別としてね、そういう変化をお店では出さないで欲しいんだ。
少しでもそういう男っけがあると、看板娘としての魅力が激減して、男客がしらけて遠のいてしまうからね。
要は、君はそのままの君で居ることが、一番魅力的だということさ。 その魅力を集客力に役立てようというのが、僕の方針だ」
「…私の…魅力…?」
そう言って、考え込む格好を見せたマミに、久兵衛は、
「おっと! 深く考えちゃいけないよ!
女の子の魅力というものはね、それを意識した途端に劣化を始める不思議なものなんだ。
魅力を勘違いしてどぎつい化粧をしているビッチになんか、誰も用はないからね。
そのままの君だ。 何も考えず、そのままの君…いいね」
と、釘を刺した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:42:47.96 ID:mL/S0WZao<> 「…よくわからないけど――」
マミは、俯いて言った。 その声は、はっきりと震えていた。
「――よくわからないけど…私…そう言うの…嫌です…」
「意外だなあ、大抵の娘は、二つ返事なんだけど」
「すみません…私、魅力で人を…とか、そう言うの、絶対嫌なんです…」
マミは、膝に置いた手にグッと力を入れ、体を縮めるようにしながら話し始めた。
それを見た久兵衛は、マミがその発達しすぎた体つきにコンプレックスを持っているのではないかと考えた。
性欲に目覚め始めた男子生徒たちに、ジロジロと見られて嫌な思いをしてきたのだろう。
年齢不相応に憂いをたたえた表情は、既に処女を喪失している証左かも知れない。
それは男に捨てられたときの女の表情に似ていた。
「…普通のアルバイトかパートで、いいんです…私に、普通の、普通の仕事を、させて下さい…」
静かに雨が降るように、マミはそう言って泣き崩れた。
そのあまりの美しさに、魂が、まるで磁石に引かれたように吸い寄せられるような不思議な感覚を、久兵衛は覚えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:43:31.62 ID:mL/S0WZao<> しばらくその泣き様に見入っていた久兵衛だったが、ふと、周囲の視線が自分たちに集中している事に気が付いた。
二十代後半の自分が、中学生と喫茶店で二人きりで、なおかつ相手が泣いているとなると、あらぬ疑いを掛けられる。
「――じゃあ、当初は普通のアルバイトということで契約を進めようか。
それにも一つ、条件を付けさせてもらうけど、いいかな?」
マミは、涙に濡れ、真っ赤になった眼で久兵衛を見上げた。
それを見た久兵衛は、またその心中にゾクリと欲望の高まりを覚えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:44:07.95 ID:mL/S0WZao<> 「…条件って…なんですか…?」
震える声質が、久兵衛の胸を鳴らした。
こう言う表情や声が似合う女は、いい。
そしてこの女が、もう少し熟れたらな…と、久兵衛は思った。
「…泣き止んで、もらえるかな?」
「…ごめんなさい」
久兵衛の言葉に顔を上げ、マミはその涙を拭った。
そして雨上がりに、虹がかかった空のような笑顔を作った。
久兵衛はそれを見て残念な気持ちになり、俯いて眼を背けた。
この女が、もう少し熟れたら――
「泣き止んでくれたね。 それじゃあ契約、成立だ」
――僕がめちゃくちゃに、壊してやろう。
マミが壊れていくその様子を想像して、久兵衛はとっておきの営業スマイルを、彼女の正面に向けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:45:07.08 ID:mL/S0WZao<> それから少しして、見滝原店の売り上げが4%程伸びた事を確認した久兵衛は、空いた時間にそこを訪れていた。
「巴マミ君は、ちゃんと看板娘が出来ているようだね。
彼女は普通のアルバイトということで契約したけど、給料は看板娘として、時給120円をプラスしておいてくれ。
それと、来月から契約社員になってもらおう。」
久兵衛のその言葉を聞いて、店長が首を傾げた。
「ケチな久兵衛さんにしちゃあ、おかしい話ですね。
普通のアルバイトなら、無闇に給料を上げるような人事はせず、その時給だけくれてやっていればいいとか言いそうなものなのに…
もしかしたらあの娘に、気でもあるんですかぁ?」
店長は冗談のつもりで言ったようだったが、
久兵衛はそれを聞いて、プライドを素手で撫で付けられるような不快を感じ、一瞬、眉間に皺を刻んだ。
「冗談を言うのもいい加減にしてくれないかな…巴君はまだガキじゃないか?
僕はね、彼女と契約するとき、看板娘になることを薦めたんだ。
ところが彼女は普通のアルバイトにしてくれと言った。
それが僕のカンに触っただけだよ。 僕は自分がこれと思った契約を、成立出来なかったことなんか今までなかったんだから」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:45:55.21 ID:mL/S0WZao<> 久兵衛の能面のような面の下に蠢く怒りを感じ取ったのか、店長は汗をかきながら、
「す、すみませんでした…」
そう言って縮こまった。 本社の人間を怒らせれば、雇われ店長の首など、簡単に刎ねられてしまうのだ。
コメツキムシのようにお辞儀を繰り返す店長を見、久兵衛が、分かればいいんだ、と、帰ろうとしたその時――
「ティロ・フィナーレ!! どーん!!」
久兵衛の背中がどつかれ、危うく彼は前のめりにレジカウンターに突っ込むところだった。
殺してやろうと思って振り返ると、そこには太陽のような笑顔をたたえたマミが立っていた。
「お久しぶりですね、久兵衛さん」
「何だ、巴君か…何だい、そのティロ・フィナーレとかいうのは?」
「私の必殺技です!」
マミは人差し指を拳銃のバレルに見立てて、久兵衛に向けて構えるような格好をし、
「バーン!」と言ってドヤ顔で久兵衛にウインクをした。
やっぱりガキじゃないか、と、久兵衛はそれを見て思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:46:38.69 ID:mL/S0WZao<> 「巴君…久兵衛さんにそんな事しちゃ駄目じゃないか…」
そのマミのあまりに無礼な振る舞いに狼狽し、勃起した陰茎の亀頭のような顔色になった店長が、
だらだらと流れる汗をハンカチで拭いながらマミに小言を言っている。
久兵衛はそれを見て、マミの教育がなっていないこいつはクビにしようと心に決めた。
「(君のクビで贖ってもらうから)別にいいよ。 それより巴君、仕事にはもう慣れたのかな?」
「ハイ、とっても楽しく、毎日仕事をさせてもらっています。
このお仕事を勧めてくれて、本当にありがとうございます、久兵衛さん」
始めて出会ったときの暗い表情なんかどこ吹く風である。
その弾けるような笑顔に心底気分を害した久兵衛は、
始めて会ったとき感じた、この娘に対する自分の評価は見立て違いだったのではないかと思った。
そして明るいのは看板娘としてはいいことだが、こんなうるさいガキの相手は真っ平御免だとも思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:47:19.85 ID:mL/S0WZao<> 「…久兵衛さん…ちょっといいですか?」
急に、マミが作ったように、笑顔を滲ませたような表情になって聞いてきた。
「何かな?」
「そのう…マミって、名前で…呼んでいただけますか…?
みんなそう呼ぶので、そっちの方がしっくり来るんです…」
そのもじもじとした表情を見、久兵衛は不覚にも勃起をした。
そしてこんなガキに勃起をしてしまったという事実に、彼のプライドは瞬時に色褪せた。
「わかったよ、マミ。 こう呼べば、いいんだろう?」
「…ハイ!」
やはり笑顔が似合わない女だ、と久兵衛は思った。
というよりは、沈鬱な表情のほうが似合いすぎるというところか。
そして泣き顔は、さらに良かった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:47:47.17 ID:mL/S0WZao<> そういう顔が似合うのは、幸せになれない女の典型だと思う。
どうせ幸せになれないなら、僕がこの手で、不幸に染めてやりたい。
看板娘としてもう少し稼いでもらい、落ち着きを備えた大人の女になったら、
自分の物にし、いじめ抜いて、そのゾクゾクする不幸な表情を飽きるほど鑑賞して、発狂させて人生を終わらせてやろう。
久兵衛はチンピラ時代から、何人もの女をそんなふうにして人間として終わらせてきた。
クスリ漬けにし、犯し尽くし、中絶をさせ、精神病院に入れたりコンクリート詰めにしてダムに沈めたりしてきた。
女たちの破滅しゆく姿は千差万別で、それぞれ趣があった。
久兵衛はまるで芸術作品を作るように、楽しみながら女たちを壊していったのだった。
このガキももう少し成長したら、その芸術作品の一つになるのだ、それは確定事項だと、久兵衛は思った。
――事実この3年後に、マミは自殺を遂げることになる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:49:09.95 ID:mL/S0WZao<> 「…また、お店に寄ってくださいね」
「まあ忙しいからね、いつになるかはわからないけどね…」
帰り際、マミの顔に、職安で出会ったときのような憂いがたたえているのを見、久兵衛はゾクリと寒くなり、彼女から眼を逸らした。
その表情は気に入っていたが、何故か見続けていると、良くないような気がしたのだった。
「本当はみんな、巴君、って、苗字で呼んでるんですよ…だけど久兵衛さんには、下の名前で呼んで欲しいんでしょうねぇ…
真面目に働いてはくれるけど、いつもは独りぼっちで寂しそうなんですよ…
それが、久兵衛さんが来た途端に、あれですもんねぇ…」
店長が、マミにそれと気付かれないように、久兵衛にそう、耳打ちをした。
顔を見ると、締まりの無い、なんとも卑猥な表情をしていた。
こいつはやはりクビにすべきだな、久兵衛はそう思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:49:36.48 ID:mL/S0WZao<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:50:09.79 ID:mL/S0WZao<> 「――巴君は、入ったばかりですからねえ…もう少し看板娘として稼いでもらって、その後、代わりの看板娘が見つかったら――」
――僕が玩具にして、散々楽しんだその後に、廃人になった彼女を――
「――伊佐坂常務に、お届けしましょう」
「嫌だ! 今欲しいよ! ロリ巨乳は僕のものだ!!」
やはり片時も待てないらしい。
育ってしまえばロリっ子としての魅力が激減するのだろう。
「いや、しかし看板娘は、ビジネスの話でもありますし…
今夜は常務お好みの、11歳処女を待たせてありますので、そちらでご勘弁の程を…」
「そうだね、ビジネスは遊びとは別に考えなくちゃね…僕とした事が、そんな基礎中の基礎を失念していたよ」
11歳処女と聞いて、甚六はカメレオンのように顔色を変えて、ぬけぬけと言った。
久兵衛はゲスな男だと思った。
餌に食いついて釣り上げられた魚が「基礎中の基礎を失念していたよ」
などと格好をつけた物言いをしているのを見ると、滑稽さを通り越して虫酸が走る。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:50:48.24 ID:mL/S0WZao<> 「甚六さんは相変わらずだね。 それより久兵衛、さっさと本題に入ろうぜ!」
本題、というのは、この接待の目的である。
久兵衛は役員たちを、用意した女と引き合わせる前に、かならず仕事上での頼み事をするのが常であった。
だから仕事の話が終わらないと生殺しもいいところで、いつもこのように一番若い、欲望の塊である勝雄が急かすのであった。
「ハハハッ、勝雄君は若いねえ、もう勃っているのかい?」
鱒雄が茶化すと、勝雄は照れ笑いと共に赤面して、坊主頭をボリボリと掻いた。
「そうですねえ、それではみなさん、そろそろ本題に入りましょうか…」
久兵衛がそう言うと、緩みきっていた役員たちの顔が一瞬で引き締まった。
それを見まわし、視線を甚六で止め、
「それでは情報網から概要を掴んでいる、という伊佐坂常務に代弁していただきましょうか」
久兵衛がそう言うと、甚六は待っていました、と言わんばかりのドヤ顔を作った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:51:27.58 ID:mL/S0WZao<> 「久兵衛君が新しい人件費削減案を出してくれた。 その名も、『ぶっ続け労働』というものだ。
アルバイトないしパートを20時間労働4時間休憩でこき使い、死ぬまでしゃぶり尽くすというものさ。 イカスだろう?」
「なんと、20時間労働…」
「エエーッ! そんな事が出来るのかい!?」
穴子と鱒雄が、即座にその異常性に反応した。
鱒雄の歓声は裏返っている。
甚六は、それらを一瞥し、懐から黒い錠剤の入った瓶を取り出してから、続けた。
「既に緑ヶ丘店で実績があるのさ。
この錠剤を飲ませれば、働く喜びだけを感じる精神状態になって、20時間労働なんて難なくこなしてくれるようになる。
まあ被験体は一ヶ月と8日で発狂して、強姦事件を起こした後、電車に轢かれて死んだけどね」
甚六が掲げ、役員たちに示したその錠剤を見、勝雄が、
「これは、どういうものなんだい?」
と聞いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:51:54.25 ID:mL/S0WZao<> 「久兵衛君と愉快な仲間達が開発した、現代のヒロポン、グリーフシードさ!
これで我が社の利益は、鰻登りだ!!」
甚六が、まるで自分の手柄であるかのようにそう言った。
久兵衛は栄達とか、そういうものには興味がない。
だから、甚六のそのような言い方にも、まるで反応はしなかった。
「なーるほど…それで明後日の役員会でこれを社長に認めさせるわけだねぇ」
穴子が、腕を組んでそう言った。
「そう、だけど、そう言うのにうるさい人がいますよねえ…」
甚六がニヤケ面を他の役員たちに向ける。
「そうか、鹿目常務を黙らせて欲しいんだね!!」
やはりこういう時、一番鋭いのは勝雄であった。
「ご賢察のとおりです、磯野常務」
この時始めて、久兵衛が本題に口を挟んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:52:22.06 ID:mL/S0WZao<> 鹿目詢子――まどかの母である。
株式会社マミリーマートにおける末席の常務取締役で、リスクマネジメント・コンプライアンス委員長を勤めている。
マミリーマートが磯野家を中心とした一族企業であるという事実を隠蔽するため、
そして男女を平等に役員にとりたてているというイメージ戦略用の格好をつけるため、
常務に抜擢された名ばかり役員である。
しかしその役職から、法令遵守を声高に叫び、それに呼応した若い社員達の支持を得て、
えげつない商売を進めようとしている久兵衛たちの障害となってき始めた、言わば眼の上のたんこぶである。
「ぶっ続け」を社長である波平に認めさせようとするとき、詢子が邪魔をしてくることは容易に想像できた。
久兵衛は、明後日の役員会での、「鹿目潰し」の為、彼の息のかかった役員達をこの宴席に招いていたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:53:50.65 ID:mL/S0WZao<> 「なるほどぉ…鹿目君は、最近企業倫理を掲げて青臭いガキ共を扇動し、小さな派閥を作り上げていると聞く。
ここで潰しておかないと、後が厄介だねえ」
穴子が腕を組んで目を閉じ、貫禄に満ちた声でそう言うと、
「いやあ、でも鹿目君は、結構なやり手だからねえ…有能な役員を潰すなんて、会社に対してマイナスにならないかい?」
と、鱒雄がニヤニヤしながら、明後日潰す相手をおだてている。
「これから、贅肉を落としたシャープで利益の上がる会社を作り上げるためには、法令の解釈による行動範囲の拡大、
つまり網の目をくぐるようなやり方が必要で、僕のところでもそういったやり方でシステムを作ろうとしていて、
グリーフシードによる『ぶっ続け』もそうした考えのもと、何とか法律を誤魔化せるように、頑張っているんだ。
既に厚生労働省から、そして警察庁から、それぞれ3人を天下り入社させ、コネクションもバッチリだ。
ここまでしてきて、会議で鹿目君に台無しにされたら、堪ったもんじゃないからね。」
甚六が眼鏡のレンズをキラリと光らせながら、詢子を潰す、という動かぬ決意をたたえて、鱒雄を牽制するように言い放った。
「そうだね、会社の利益のために、鹿目さんには小さくなっておいてもらわなきゃね。
鹿目さんがどんなに有能だとしても、僕達4人掛かりで責め立てられちゃあ、ぐうの音も出ないだろうしね。
明後日は、会社のために、僕ら4人が力を合わせて鹿目潰しをやり遂げ、『ぶっ続け』を父さんに認めてもらおうじゃないか!」
勝雄が、波平の息子らしく、リーダーシップを持って締めくくった。
ヤリたくてうずうずしているのだろう。 久兵衛はパンパン、と、二度、手を叩き、女たちを宴席に招き入れた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:54:33.83 ID:mL/S0WZao<> ふすまが開け放たれ、それぞれ違った年齢の女たちが入ってくる。
見滝原高校の制服を着た、高校生は鱒雄用に、
色っぽい、胸のあいたドレスを着た、二十代半ばくらいの女は勝雄用、
一人だけ久兵衛の配下のチンピラに連れられた子供は甚六用、
そして着物姿の、厚化粧をした30過ぎの年増女は穴子用だった。
甚六用の小学生女児は既に泣いていて、手を引いているチンピラに足を止めて抵抗していたが、
チンピラが女児の顔面に寸止めパンチをすると大人しくなり、甚六に連れられて布団を用意してある奥の間に引っ張られていった。
鱒雄は奥の間には引っ込まず、
「ひゃあ! 和香女ちゃんと同じくらいじゃないか!! 興奮するねえ!!」
と言いながら、まるでタケノコの皮でも剥くように、義妹と同い年位の少女の制服を脱がし始めた。
「鱒雄義兄さんは、本当に和香女が好きなんだねえ…」
同じく奥の間には行かず、宴席で女にフェラチオをさせている勝雄が、鱒雄にそう言うと、
「そういう訳じゃないよ、彼女と同い年位って言う背徳感がたまらないのさ」
若い乳房を揉みしだきながら、鱒雄はそんな事を言っている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:55:22.69 ID:mL/S0WZao<> 久兵衛は、どっちでもいいじゃないか、と思ったが、口には出さず、
芸妓を呼んで自分に酒を注がせ、目の前の痴態を鑑賞し始めると、
甚六が入っていった部屋から断末魔のような女児の悲鳴が聞こえた。
芸妓はそんな事は慣れっこで、酒を注いだり、料理を小鉢にとったりしながら、
景気はどうですやろか? などと穴子と久兵衛に聞いている。
久兵衛は相槌を打ちながら、まだこのような乱交宴席に慣れていないであろう若いお手伝いが、
料理を運んできたまま、唖然として二組の痴態を見ているのを気にしながら、
「穴子専務も、ヤッたらどうですか?」
と、グーに握りしめた人差し指と中指との間に親指を滑り込ませ、卑猥なハンド・サインを作って、
童貞のように汗をかきながら俯いている穴子に、その隣に擦り寄り、彼に酌をしている年増女との性交を勧めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:55:57.09 ID:mL/S0WZao<> 「いやあ…やはり僕はやめておこう…きれいなバラには刺があるって言うしねえ…」
そう言ってチラチラと年増女を見やる穴子の顔には、まんざらでもなさそうな雰囲気が漂っている。
久兵衛は、あと一押しだな、と思った。
「刺があるなら、品種改良をしてその刺をなくすことが出来るのも、人間ではないですか?」
そう言って久兵衛は立ち上がり、富士山のごとく盛り上がっている股間を穴子に見せ、
「僕だってしますよ。 それでいて穴子専務だけがしないなんて、ちょっとおかしな話ですよねえ」
と言うと、彼の隣に居た芸妓が、
「久兵衛はんはうちと寝はるんですよねえ」
そう言って擦り寄ってきたが、久兵衛はそれを跳ね除け、
勝雄と鱒雄の痴態をチラチラと見やりながら空いた食器を片付けているお手伝いを指差し、
「そこの君、こっちに来いよ!」
と大声を張り上げると、少女の顔はみるみる恐怖に歪み、それを確認した久兵衛は更に股間を膨張させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:56:28.10 ID:mL/S0WZao<> 「こ…この娘はあきまへん! まだ修行中のおぼこですよって…お客様の夜の相手なんて、とても務まりまへん!」
芸妓が久兵衛を必死に説得しようと試みているが、久兵衛は、
「やるといったらやる!」
と、聞かず、マミと同い年位の少女を冷たい視線で射抜き、手招きをした。
少女は久兵衛と、隣の芸妓とを交互に見ながら「お師匠さん…」と、芸妓に助けを求めるような格好で逡巡している。
久兵衛は芸妓の方に目を転じ、
「料亭はここ以外にもたくさんあるよね…あまり固いことを言うと、違う店を贔屓にしたくなってしまうよ?
それでもいいのかい? 僕らみたいな上客をみすみす手放すなんて、馬鹿みたいだよねえ…」
圧するようにそう言うと、芸妓はふう、と、溜息を付いて、
「お客様の相手をおし!」
と、少女に強く命じた。
師匠が弟子を裏切った瞬間である。
その時の少女の絶望の表情といったら! 久兵衛の表情の薄い顔が、ニンマリと卑猥な笑みを、顔中にたたえたほどだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:58:31.23 ID:mL/S0WZao<> いつまでも突っ立っている少女に業を煮やした久兵衛がチッ、と、舌打ちをすると、芸妓が彼女を久兵衛の隣まで引っ張ってきた。
少女はその途中で「お師匠さん、助けて…」と、芸妓に求めたが、彼女は冷たく無表情になり、
まるで罪人を連行するように、押し黙って少女を久兵衛の隣に座らせたのだった。
すぐに、久兵衛の両手がムカデのように少女の体を這い回り始めた。 相手に不快感を与えるだけの、最低の愛撫である。
久兵衛はその愛撫を通して、マミはこの女の一割五分増し位かな、と、卑猥な想像力を働かせていた。
少女は怯えきり、歯の根が合わぬほど震え始めた。
「さあ、穴子専務もひとかどの男なら、ウジウジしないで浮気セックスをしましょう!
奥さんが何ですか!? そんなの糞食らえですよ!!」
穴子は追い詰められて周りを見回した。
「鱒雄義兄さん! 僕のイクところ、ちゃんと見ていてね!!」
「見ているよー、勝雄君」
互いに婿養子状態で相手の実家に住まい、その立場を共感しあっている二人は仲がいいらしく、
こう言う席があると決まって二人でその行為を見せ合っているのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:59:01.90 ID:mL/S0WZao<> こう言うストレスの発散の仕方もあるのだろう、と、妙に納得する反面、
そこまでの異常行動に駆り立てる要因である結婚というものに、久兵衛はいささか冷めた物の見方をしていた。
隣でワイシャツを卑猥に撫で回している女に勃起しながら、妙に義理立てして震えるほど我慢をしている穴子を見ていても、馬鹿らしいと思う。
そうまでして、結婚などをしなければならないのは不幸である。
久兵衛は子供の頃、水木しげるの、妖怪の本を読むのが好きだった。
そこに書いていた事実で、妙に彼の気を引いたのは、猫は長く生きると、猫又という妖怪になるのだという一節だった。
当時、久兵衛は猫を見るたびに、妖怪になっている個体がいないかよく観察したが、確認をすることは出来なかった。
だが今はそれに確信を持っている。 それは人間の女を見てきたからだった。
女は、時を経ると間違いなく妖怪になる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 17:59:29.38 ID:mL/S0WZao<> 醜くただれ、シワを刻み、健全なる精神は健全なる身体に宿るの格言のとおり、そうなってしまった女はその精神までもが醜くなっていく。
それは、既に人ではなく、妖怪だと思う。
妖怪にとっつかまり、蜘蛛に糸を絡められた哀れな虫のように自由を奪われ、魂を吸われゆく過程が、結婚生活なのだと思う。
そんな風に、年を経ると、人は妖怪になるのだ。 なら、猫もそうかも知れないではないか。
久兵衛は、自分が女を次々と破壊していったのは、妖怪をこの世にこれ以上増えるのを抑えるためだったのではないかと考えた。
自分は、妖怪退治の陰陽師だったのかも知れない。 それなら、自分のしてきたことは必ずしも悪ではないな、と、久兵衛は思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 18:00:01.50 ID:mL/S0WZao<> 穴子は、ふう、と、落ち着き払った溜息を吐いた。
甚六が女児と共に入っていった奥の間からは、さっきから、おかあさーん、という女児の叫び声が、間断なく聞こえ続けている。
それを聞いて、久兵衛は、プッ、と吹き出し、
「聞きましたか? おかあさーん、だって。 伊佐坂常務、よくもまああんなガキと出来ますよね」
穴子にそう、話しかけた。 穴子は黙したまま、だんだんとその目付きが変わっていっているようだった。
「みんな、狂ってますよね。 でもそれは、おかしなことじゃあ無いと思うな。
人間以外の生き物なんて、せいぜい十年生きるくらいでしょ? 穴子専務はいくつです? 三十代後半といったところでしょう?
こんなに発達した頭脳を持っている生き物がそんなに長生きして、気が狂わないほうがおかしいですよ。
専務も、狂っている自分をお認めになったらどうですか?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 18:00:36.39 ID:mL/S0WZao<> そして自らが拘束している少女の耳元に、息を吹きかけるように、
「僕達、狂っているんだよ」
と囁くと、少女は涙を落として、「堪忍して…堪忍して…」と、それしか喋る事が出来ない人形のように繰り返すのだった。
「るあああああっ!! ちーくしょおおおぉぉう!!」
不意に、穴子が人造人間セルのような奇声を発し、
「家内がなあんだって言うんだあああ!!」
久兵衛にあてがわれた隣の女を押し倒した。
その声に、久兵衛の拘束の中でギクリと体を硬直させた少女が、耳を抑え、絹を裂くような悲鳴を発した。
「やった!!」
久兵衛がまた一人、役員を掌握した瞬間である。
そして彼は、腕の中で震えている少女の顔を無理やり穴子と年増女の方に向け、
「よく見るんだ! 終わったら、僕達もあれと同じことをするからね」
少女の耳を抉るように、そう吹き込んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 18:01:03.09 ID:mL/S0WZao<> / ̄⌒⌒ヽ
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(6 つ / ちくしょう・・・
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ll ヽ二ノ__ { / ハ `l/ i' i _ `ヽ
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 18:01:29.14 ID:mL/S0WZao<> 「明後日の会議の主役は、穴子専務にやっていただきましょう」
ヤリ終わって、生まれ変わったような顔つきになった穴子に、久兵衛は営業スマイルと共にそう言うと、
穴子は、任せておいてくれ、と、厚ぼったい唇を歪めた。
「いやあ、勝雄君は若いねえ…」
満足したのか、鱒雄は服を着て、久兵衛の隣に座り、そう言って一口、酒を飲んだ。
年上女は飽きたのか、勝雄は鱒雄用にあてがった高校生と絡み合い、汗だくになって腰を動かしている。
三人がその様子を見ていると、奥の間のふすまが開いて、全裸の甚六が青ざめた顔で久兵衛の後ろ隣に走ってきた。
「ハハハッ、甚六君、なんて格好だい?」
茶化す鱒雄を無視し、甚六は久兵衛の耳元で、
「ちょっとまずい事になったみたいだ」
と、焦りの濃く色づいた囁きを吹き込んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 18:01:54.64 ID:mL/S0WZao<> 久兵衛はそれを聞いて、また面倒なことを…と思ったが、すぐにそれが甚六の新たな弱みとして利用出来ることを思いついた。
これで少しは扱いやすい男になってくれるだろう。
「まずい事って、どうなったんです?」
分かりきった質問を、落ち着いて投げかけた久兵衛に、甚六は紫色に変色した唇で、
「あの娘を気持よくしてあげようと思ってヘロインを使ったら、動かなくなって…呼吸もしてないし、脈もないんだよ…どうしよう…」
と、震えながらに訴えてきた。
少し前から、女児の泣き叫ぶ声が聞こえなくなっていたので、久兵衛はそんなところだろう、と思っていたが、
甚六に脅しを含めるためにわざと深刻な表情を作り、
「それはいけませんね、何とか僕の手のものが処理しておきますけど、最近はこういうこともやり難くなってきたんですよねえ…」
と言うと、甚六は跪いて神でも拝むような姿勢になり、
「ありがとう、恩に着るよ」
と、謝した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 18:02:23.42 ID:mL/S0WZao<> 久兵衛は隣で震えている甚六にあてつけるように携帯電話を取り出し、
その罪を植えつけるように大声で、ドラム缶と生コンと死体を輸送する車を用意するように、と、配下のチンピラに指示を出した。
目の前では勝雄がよだれを垂らしながら仰け反って、小刻みに痙攣し、射精したことが久兵衛にも分かった。
そろそろお開きにするかな、と、久兵衛が考えた矢先、甚六が、なあ…、
と、久兵衛に話しかけてき、久兵衛がそちらの方に向き直ると、甚六の勃起した陰茎が目に入った。
その視線の先には、さっきまで久兵衛が犯していた芸妓の卵であるお手伝いの少女が、
股間から血と久兵衛の精液とを垂れ流しながら放心している。
「なあ…あの娘もうダメなら、この娘としても、いいかな?」
「僕のお古ですけど、それでもいいなら…」
久兵衛が言い終わる前に、甚六は少女にのしかかっていった。
全く、コイツには敵わないな、と、久兵衛は思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/03(日) 18:03:26.11 ID:mL/S0WZao<> 今日はここまでかな。
明日帰ってきたらまた「第五章 接触」投下する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/03(日) 18:06:04.46 ID:FlASI11No<> 乙マミ!やっぱりマミさんは可愛い!
……けどBAD確定なのがわかってるからちょっとかなしい
今回も良いエグさだった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/03(日) 22:20:50.20 ID:yf8UuQfRo<> 乙っちまどまど! <>
1<>sage <>2011/07/04(月) 19:34:10.87 ID:1ohbMxF+o<> >>142
俺もマミさん大好きなんだよねえ…巨乳ってあまり好きじゃないんだけどマミさんだけは別格だった。
なんて言うか、いじめたくなる可愛さ。
投下する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:35:06.04 ID:1ohbMxF+o<> 第五章 接触
朝に弱い鹿目詢子であったが、役員会のある今日は珍しく早く起き、まどかに先んじて朝食を取り、彼女が起きる頃に出社した。
本社ビルに入り、役員室のあるフロアまで、エレベーターを使って一気に上がる。
体に重みを感じ、エレベーターの扉が開くと、そこには見知った危険人物の姿があった。
「これはこれは鹿目常務殿。 今日はお早いですねえ」
元チンピラの中途採用者――久兵衛である。
品のない平社員が上級役員室フロアに居る。 それだけで異常な事態であった。
「あんた、なんでこんなところにいるんだ?」
詢子が睨みつけ、詰問すると、久兵衛は、
「そんな風に怖い顔をしなくてもいいのではないですかあ?
僕はあなた以外の役員の方々とは、とても仲良くしてもらっているものでねぇ…」
と、含みを持たせたいやらしい口調で言い、
「いやあ、社長の覚え目出度き鹿目常務殿に叱られては堪ったものではないので、
僕はこれで、足を棒にして各店舗を監視して回る、辛い、辛いお仕事に戻りましょうかねえ」
エレベーターに滑りこんでいった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:35:35.82 ID:1ohbMxF+o<> 久兵衛の後ろ姿を見送って、正面に向き直ると、
いつの間にか穴子、磯野(勝雄)、伊佐坂の各役員が絨毯の敷かれた廊下に出て、ジメッとした視線を詢子に向けていた。
詢子は視線に込められた陰湿な空気に、ゾクリと背筋が冷え上がった。
「おはようございます…」
詢子がそう挨拶すると、三人は頷くようにほんの少し頭を下げて会釈をし、相変わらず冷たい視線で彼女を睨みつけていた。
その視線から逃れるように、詢子は自分の執務室に入っていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:36:18.78 ID:1ohbMxF+o<> 執務室に入ると、詢子は会議の資料を開き、それを確認し始めた。
緑ヶ丘店で労働基準法を違反した長時間労働が行われ、従業員が性犯罪を起こし、死亡した事件についての資料である。
その異常なまでの労働時間に、詢子は何か恐ろしいものがこの事件の後ろに横たわっているのを、はっきりと感じていた。
あの久兵衛と言う男が、何かをしているに違いない。
マミリーマートは磯野波平を中心とする一族企業ではあったが、まだ彼に影響力のあった以前は、それほど酷くはなかった。
そう、久兵衛が、あの男が来てから、会社はドンドンおかしくなっていったのだった。
それを何とかしようと、念願の常務昇進を果たし、この上級役員フロアに執務室を置く身分になってみて、始めて気が付いたのは、
このフロアは、既に久兵衛と結託した法規軽視派の魔窟になっていた、ということだった。
詢子は気骨のある若い有能な社員を集め、企業倫理を説き、新しい組織づくりのための屋台骨を作ろうとしていた。
今日の役員会で腐敗した経営に一石を投じ、何とかマミリーマートをクリーンな企業に戻さなければ…
詢子は義憤にかられ、何度も確認をしたレポートに再度、眼を通した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:36:49.08 ID:1ohbMxF+o<> 「遅いじゃないか、鹿目くうん!」
20分前に会議室に入ったはずが、既に社長以下、役員達が勢揃いしており、詢子はいきなり穴子に叱りつけられた。
「会議は9時半からではなかったのですか?」
詢子の言葉に、穴子は醜い顔に怒気を含ませ、
「9時からに変更になったのだよ! 通達があっただろう!? 一体君は何を考えているのだねえ?」
と、周囲に詢子の失態を印象付けるように叫んだ。
彼らは意図的に、詢子に時間の変更を知らせなかったのである。
会議前から既に、「鹿目潰し」は開始されていたのだった。
「急な変更だったのだろう? いいじゃないか。 会議を始めよう」
社長の波平が、なだめるようにそう言い、会議がスタートした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:37:49.50 ID:1ohbMxF+o<> 磯野波平――。
株式会社マミリーマート、代表取締役社長である。
材木問屋から発展した中堅商社、山川商事の課長を勤めていたが、
同社が倒産の危機に至った折に縁戚関係を利用し、鱒雄の会社、海山商事との合併を提唱し、これを成功させた。
そして新会社、海川商事の水産物部の部長を経て、取締役、次いで常務に昇進。
その間、大手家電メーカーの豆芝、菓子メーカーのカリブー、殺虫剤メーカー明日製薬、大手ファーストフードチェーンのランランルー、
インスタント食品メーカー日珍食品、そして農協などとの取引を通し、海川商事を総合商社として発展させた。
そして彼は7年前、海川グループがコンビニチェーン、マミリーマートを作る際、社長に抜擢されたのだった。
そして昨年、長男の勝雄が商業高校を卒業するやいなや、
花沢不動産の一人娘、花子と結婚させ、マミリーマート本社のある見滝原市を掌握させた。
波平はかようにして、自らが王として君臨する、一つの街を手に入れたのであった。
しかし今は商業的なカンも鈍り、自らのワンマンな決定で大赤字も出す老害に成り下がって求心力が低下し、
ガタガタになった役員達の間に、久兵衛のような魔物が入り込む余地をも作ったのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:38:49.84 ID:1ohbMxF+o<> 波平の月並みな演説の後、切り出したのはシステム担当の伊佐坂甚六であった。
「近頃は愛社精神が向上し、遅くまで残業をしてくれるパート、アルバイト、社員が増加しておりまして、
人件費削減の観点からも、彼らの崇高な勤労意欲を会社のシステムに組み込み、
より無駄のない雇用、残業管理システムを構築したいと考えております。
つきましてはアルバイト、パートを20時間体勢で店内に配置し、
彼らの愛社精神に答える雇用体系を新たに加えようと思いますがいかがでしょう?」
それを聞いた波平は顔をしかめ、
「20時間も働かせるのか?」
と、疑問を呈した。 甚六はすかさず、
「緑ヶ丘店で、勤労意欲溢れる25歳のアルバイト店員が、店の休憩室で寝泊りをし、
平均して一日20時間店内に留まってくれた実績があります。
会社としてはその精神に大いに感服し、
当社開発部の開発したグリーフシードという栄養剤を進呈し、彼の溢れんばかりの愛社精神をサポートいたしました」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:39:33.86 ID:1ohbMxF+o<> ぬけぬけとそう言った甚六に、怒りが突沸するのを感じた詢子は我慢がならなくなって立ち上がり、
「20時間労働なんて、気が狂っています! 当然のことながら労働基準法違反です!
そんな事、コンプライアンス委員会としては、見過ごすわけには行きません!
それに先ほど、伊佐坂常務は緑ヶ丘店の店員の事を報告したようですが、大事なことが抜けています。
その店員は、既に過労により精神を害し、死亡しているのです!」
そう発言すると、波平の丸眼鏡の奥の目が光を放ち、
「死亡とは、それは本当かね、甚六君?」
甚六に、報告を求めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:40:28.10 ID:1ohbMxF+o<> 「確かに死亡しておりますが、それは当社の雇用とは何ら関係がありません。 言いがかりもいいところです」
甚六は言いながら、詢子を睨みつけた。
「鹿目常務によると、過労ということでしたがこれには根拠がありません。
20時間は純粋な労働時間ではなく、雇用期間内に店内に彼がいてくれた時間の、一日あたりの平均値であり、
実働は残業時間を含め一日平均11時間ほどで、仮眠を含め休憩はきちんと取らせております。
彼は家に帰るのが面倒だということで、店の休憩室で寝泊りをしていたのです。
だから店内にいた時間が、一日20時間という数字になったのです。
従業員達は家に帰る時間も惜しむほどの、企業戦士なのです。 本当に、社長を尊敬し、会社を愛してくれています。」
嘘を散りばめた報告ではあったが、その中で社長を尊敬、と言われると波平もその表情を崩し、それを見た甚六は得意げに続けた。
「彼の死亡について報告いたしますと、死因は轢死。
経緯につきましては、強姦事件を起こし、警察に追われ、抵抗しながらの逃亡の末、海の手線にダイブし、外回り快速にはねられました」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:41:06.24 ID:1ohbMxF+o<> 波平は詢子を見、
「鹿目君、我が社のアルバイトから性犯罪者を出した事は甚だ遺憾ではあるが、これはどう考えても過労ではないだろう?
君は何を根拠に過労と発言したのか?」
厳しく詰問した。
「それは…労働時間と、体力、それに伴う精神状態を考慮し…」
「おい、従業員が過労と断定していない状況で、憶測でそんな事を言ったというのかね?」
歯切れが悪くなった詢子に、穴子のヤジが襲いかかった。
「憶測ではなく、緑ヶ丘店の従業員にも話をよく聞いた上で…」
「医師の診断書でもあるのかねえ!?」
穴子の怒鳴り声に、詢子は黙するしかなかった。
それに調子づいた穴子は、立ち上がり、
「恐れ多くも社長の前で、未確認の事項をあたかも確定事項のように報告するとは、役員の風上にも置けん奴だねえ、君は」
と、詢子が役員であることの資質そのものを問う声を上げた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/04(月) 19:42:04.10 ID:1ohbMxF+o<> 詢子は冷静に考え、今は緑ヶ丘店での異常な労働時間についてのみ意見をするべきであると踏み、
「とにかく、20時間という異常な拘束時間は法令で認めることが出来ませんので、却下願います」
と、締めくくろうとしたが、
「鹿目君は、法令遵守というものを履き違えているのでは無いのかね? 我が社は営利企業だよ?
法令で自らの行動を縛り付けることのみに腐心する君みたいな役員がいるから、
業界1位のヘブンイレブン、2位のローションをいつまでも超えることが出来ず、3位に甘んじているばかりか、
つい最近中卒の若造がお飾りの社長になったばかりの、宗教団体出資のサークル杏にまで追い上げられているんだ。
当社に勤めているという自負があるなら、法律に縛られるのではなく、法律解釈を利用して、いくら儲けられるか考えるべきではないのかね?
君は当社の利益を法律で削り、経営を圧迫して楽しいのかね?
そんな風で、どの面を下げて当社から役員報酬をかっさらっているのかね?」
たたみかけ、圧[ピーーー]るように穴子が言う言葉に、他の役員達からチラホラと拍手が上がり、詢子は更に追い詰められた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:42:51.68 ID:1ohbMxF+o<> 圧殺するように です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:43:55.06 ID:1ohbMxF+o<> 「コラ、穴子君、言い過ぎではないか?
毎日法律屋にあれこれ言われて気をもんでいる鹿目君の気持ちも考えんか!」
波平が威厳をたたえて叱りつけるも、穴子は、
「法律屋風情にいいように扱われている鹿目君がいけないのです。
我々は、当社に忠誠を誓い、日夜無駄のない経営を、多くの利益をと、汗を流しているのに、
それを法律屋の言う事を鵜呑みにする鹿目君に、無駄にされ続けているのです。
私は社員たち、ひいてはパート、アルバイトに到るまで、全従業員を代表し、申し上げているのです」
しゃあしゃあと言った。
「いやあ、鹿目君はよくやってくれていると思うけどなあ…女性にしては、有能だしねぇ」
鱒雄が、女性にしては、というところに、ことさらにアクセントをおいてそうおだてると、勝雄が、
「今は女性がとか、そういう事は問題じゃないよ。 今は会社をどう儲けさせ、盛り上げていくかが最重要事項だ。
それを踏まえた上で、採決を取ろうじゃないか」
言外に詢子を批判し、穴子に賛成して採決を強行しようとしている。
つまりは詢子に賛成しないように、と言っているのである。
詢子は、流れるような批判と、採決までの運び方を観察し、事前に役員達が示し合わせているのかも知れないと思った。
そして今朝、久兵衛が役員室フロアにいた事を思い出して、苦虫を噛み潰したような思いがしたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:44:33.49 ID:1ohbMxF+o<> 「ぶっ続け」が採択されるのを阻止できず、役員会後も仕事に追われ、深夜、詢子はクタクタに打ちひしがれて帰宅した。
「ママ、おかえりなさい」
出迎えてくれたのは中学3年生になった、娘のまどかだった。
「ただいま、まどか。 パパは?」
「今、タツヤを寝かしつけているよ」
「そうか」
リビングに上がると、まどかがウィスキーを持ってき、グラスにロックで注いでくれた。
「ありがとう、まどか。 今日は遅いからもう寝な」
「ううん、ちょっとママとお話ししていたいな…」
詢子は、そうかい、と言って、ウィスキーを一口、胃袋に流し込み、言った。
「何か、悩み事でもあるのか?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:45:05.50 ID:1ohbMxF+o<> まどかは俯いて、うん、と、切り出した。
「うん、進路のことなんだけど…」
「進路?」
詢子は、そういえば娘も、そういう事で悩む歳なのだな、と、しみじみ感じていた。
そしてこの時、漸く会社役員から母である自分に戻ることが出来たような気がし、その心中で彼女はまどかに深く感謝をした。
「…私ね、高校進学…どうしようかな、って、考えているの…
私…得意なことも、自慢できることも、なりたいものも、何もなくて…
だから、高校に行っても、なんとなく過ごして…終わりなのかなって…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:45:35.62 ID:1ohbMxF+o<> 「まどかはさ、本当になりたいもの、無いのか?」
詢子がそう言ってまたグラスに口を付けると、まどかはグラスをカウンターに戻す音を確認してから、
「本当は、ママみたいにかっこ良くなりたかったんだけど…でも、どんなに頑張っても無理で…」
そう言いながら、まどかは2年の時、クラスに転校してきた暁美ほむらの事を考えていた。
最初は弱々しかった彼女は、努力を重ね、まどかを追い越し、どんどんかっこ良くなっていったのだった。
だが、ほむらはまどかの家に遊びに来た日を境に登校拒否になり、
3年生になってクラスが変わってからはまた登校するようになったのか、学校で見かけるようになったが、
まどかと仲良くなったときの明るさはどこへやら、こそこそしてまるで別人のようになっていた。
そしてまどかが話しかけようとすると、決まって逃げた。
何も知らないまどかは、自分があの日、ほむらに何か酷い事をしてしまったのではないかと、気に病んでいたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:46:30.59 ID:1ohbMxF+o<> 「…ごめんね、ママ。 私本当、ダメな娘だね。 ママの娘として、失格だよね…」
詢子は話しながら泣き出したまどかの頭を優しくなで、
「別に仕事ばかりが人生じゃないぞ」
そう言いながら、頭の中に今日の役員会の事がフラッシュバックし、
「ぶっ続け」を阻止できなかった自分は、まどかが言うようにかっこ良くなんてないのだと思った。
そして、まどかを会社組織という妖怪の巣に放り投げることはしたくない、そうも思っていた。
そして意を決し、まどかを抱き寄せ、
「じゃあ、お嫁さんになったらいいじゃないか。
中学校卒業したら、パパと一緒に花嫁修業して、誰よりも素敵なお嫁さんになれるように、頑張れ。
そうしたら、何年後かにあたしが、うんと素敵な男を連れてきてやるよ。
今は女も働く時代だから、逆にしっかりしたお嫁さんは貴重だぞ」
そう言って、心から娘の幸せを祈った。
「ママ…ママぁ…」
まどかは、母の胸に泣きつき、溢れる感情をぶちまいた。
そして疲れて眠るまで、泣き止まなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:47:09.69 ID:1ohbMxF+o<> 季節がめぐり、その年の、冬の足音が聞こえてきた頃、詢子はとある料亭でサークル杏の専務取締役、野比のび助と会っていた。
「お忙しいところ、足をお運びいただき、誠に恐縮です」
「どうも」
野比は、茫洋とした表情の中にも、ライバル企業の役員と会っているという緊張感を漲らせた眼で、詢子を見据えた。
「で、今日は一体なんの用です?」
同業他社の幹部同士が密会しているなど、あらぬ疑いを掛けられる恐れがあるため、会談を手早く切り上げたいのだろう。
野比はすぐに本題をと言外に含め、詢子を急かした。
「実はおたくに、見滝原市へ進出してもらいたいのです」
要望をダイレクトに、詢子は伝えた。
それを聞いた野比の眼が、驚愕に見開かれた。
「そんな無茶な話があるかい、君らのお膝元じゃないか!?」
野比は会談を打ち切ろうという雰囲気を見せたが、詢子はそれを引き止めるように、
グリーフシード、ぶっ続け雇用などの情報を包み隠さず、知っている限り話した。
聞いている野比の表情が、変化してくるのを感じながら。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:47:51.06 ID:1ohbMxF+o<> 詢子には、サークル杏なら動いてくれるという、確信があった。
サークル杏は、見滝原市の隣、下部暮市にあるキリスト教系の教会が分派して出来た新興宗教団体、
「さくら会」が出資して誕生したコンビニチェーンである。
厳格な教えがバックボーンにある企業体系であるため、企業倫理に反することはしない上、
発足当時から会社に籍を置き、この春、商業高校を中退し、社長に就任した佐倉杏子は、
曲がったことが嫌いで、なおかつ好戦的な性格であるとの情報を詢子は得ていた。
そのため、ぶっ続けや、グリーフシードなどのおぞましい雇用実態を教えてやれば、
彼女なら見滝原市に進出し、自らの正義を示しに来るだろう踏んだのである。
しかしその際、会社の疲弊をおそれ、杏子を抑えようとするであろう人物が、慎重派であるこの野比であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:48:41.63 ID:1ohbMxF+o<> 「…君はそう言うけどね、我が社だって余裕があるわけじゃないんだよ。
もちろん佐倉にこのことを話せば、彼女のことだ、ぶっ潰す、とか息巻いて進出したがるだろうね。
だがね、信者数が多い宗教が母体になっているからと言って、その企業が磐石だと考えるのは間違いだよ。
確かにさくら会は見滝原市にも支部があり、あそこの信者の数も1万を数えている。 しかしね、逆に考えてみてくれたまえ。
サークル杏は、その信者たちが好意で優先的に利用してくれるからこそ、何とか持っているコンビニチェーンなんだよ。
そして本当は、ビジネスと宗教とを分離し、彼らに頼らない企業組織を作りたいと思っているんだ。 それは佐倉の意志でもある。
今はその地盤を固めている段階であって、見滝原市なんて危ないところに進出するほどの余力はまだないのだよ」
野比は一息にそう言い、立ち上がろうとした。
ここで逃げられたら、もう絶望的だ…詢子はなりふり構わず、野比の袖を掴んで引き止めた。
野比は自らを見上げる詢子に、ハッとするような艶めかしさを感じ、その足を止めてしまった。
「お願いいたします。 このままではマミリーマートはダメになってしまいます。
何とか御社が見滝原市に進出し、健全な雇用体系を地域に示し、我が社が異常なのだということを知らしめて欲しいのです。
だからもう少しだけ、私の話を聞いてください」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:49:11.63 ID:1ohbMxF+o<> 詢子のそのなみなみならぬ様子に、野比はふう、と、溜息を吐き、
「ちょっと一服しようと思ってね、別に逃げようなんて思っていないよ」
そう言って、背広の内ポケットから煙草を取り出した。
「喫煙なら、話しながらで結構です」
詢子が灰皿を差し出すと、野比はやれやれ、と言って一本取り出し、料亭のマッチで火をつけ、旨そうに煙を吐いた。
「で、もう少し聞いて欲しいのはどんな内容だい?」
詢子は、サークル杏を進出させるための、最後の切札を脳内で反芻しながら、言った。
「企業としての下地を固めている最中なら、取っておきのご提案があります」
野比は、重大な内容である事を察したのか、早々に煙草を消し、身を乗り出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:49:54.10 ID:1ohbMxF+o<> 「いったい、どういう案だね?」
「業務提携、もしくは合併です。 そちらがよろしければ、すぐにでも、あるチェーンと合併の話を進める用意があります」
野比は、考え込んだ。 合併と言っても、適当な相手がいなければ、出来ない話である。
彼は、いくら考えてもその相手となる企業を、見つけ出すことが出来なかった。
「一体どこと合併するというのだね?
メガストップは巨大ショッピングセンターチェーンのネオングループだからこちらが吸収されかねないし、
デイリーウロブチ以下は規模が小さすぎて下地を固めるには役不足だよ?」
「もう一社、あるではないですか?」
「もう一社って、君…」
野比は、それだけはありえない話だと、思った。
詢子は続ける。
「クウカイと合併出来れば、コンビニチェーンとしての下地は充分ではありませんか?」
野比は、詢子の口からそれを聞いても、やはりありえない話だと思っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:50:45.66 ID:1ohbMxF+o<> 「クウカイって、君ねえ、あそこは仏教系で、キリスト教系であるうちとは毛色が合わなすぎるとは思わないのかね?」
詢子はそれを聞いて、しめた、と思った。
「おかしいですね。 先程宗教とビジネスとは分離したいとおっしゃっていたのに、
合併相手先が仏教系と知るやいなや、毛色が合わない、ですか?」
野比はそれを聞いて、うっ、と、言葉を一瞬、詰まらせてから、
「そんな話、あちらさんが了承するわけが無いじゃないか!」
と、語気を荒げた。 詢子は様子が変わった野比を見て、もう少しだ、あと一押しだ、と思った。
まどかの姿が脳裏に浮かぶ。 自分の事を、カッコいいと言ってくれる娘の姿が。
詢子は思った。 腐った会社に勤めている自分は、カッコよくなんてないのだと。
そして、カッコよくなるには、娘に本当に胸を張れる母親になるには、
自らがおかしくなり始めている会社の分まで、間違った行いをすることによって、組織を正しく変えねばならないのだと。
詢子は、役員という、かろうじてそれが出来る立場に居た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:51:53.22 ID:1ohbMxF+o<> 「クウカイの方は、ビジネスパートナーとして、サークル杏を求めていますよ。
後はあなた方次第です。 あなた方が、本当にビジネスと宗教とを分離して考えることが、出来るかが」
最後通牒を付きつけられ、野比は完全に沈黙した。
クウカイは、仏教の一派が出資して誕生したコンビニチェーンであったが、
最近の無宗派墓地や、自然葬の増加など、所謂寺離れによってその屋台骨が急速にぐらついていた。
弱体化したクウカイは、ヘブンイレブンやローション、ひいてはマミリーマートから虎視眈々と吸収合併の機会を伺われていたのである。
それ故、休暇と偽って詢子が京都に赴き、クウカイ本社を訪れたとき、
とうとう吸収合併の使者が来たかと、社長の弘法3世が泣きながら応じたのだった。
彼が求めたのはただ一つ――
新会社名及び店舗名に、「クウカイ」の名を残す、対等な関係による合併。
そして規模的に考えてそれはサークル杏相手しかありえなかったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:52:29.79 ID:1ohbMxF+o<> 「君は本当にやり手だねえ…しかし、これほどまでに他社に塩を送って、大丈夫なのかね?」
帰り際、野比はたった一時間ほどの会見で疲弊しきった自分を感じながら、しみじみと詢子にそう、尋ねた。
「今、見滝原市ではマミリーマートが独占状態で君臨しております。
そしてそれ故、異常が正常としてまかり通っている現状があります。
そこに御社が入っていただき、健全な競争が促進されるのであれば、必ずしも当社にしてもマイナスでは無いと、私は考えております」
「君はそう考えているだろうけどね、君の会社の他の役員がどう考えているか分かったもんじゃないだろう?
まあ、この話は社内で検討するから、少し返答に時間を要するけど、いいかい?」
「できるだけ急いで――早くしないと、クウカイが同業他社の餌食になってしまうので…
重ねて言っておきますが私の条件としては、見滝原市進出がなければ、合併話は無しにさせていただきますよ。
その際、クウカイは恐らくマミリーマートと…これをみすみす指を咥えて見過ごす手は、ありませんよね」
野比はコクリと頷き、彼の乗ったセンチュリーは、静かに、滑るように走りだして行った。
詢子は、動き出した――そう思いながら闇に溶けていくそのテール・ランプの赤を見送っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/04(月) 19:53:10.43 ID:1ohbMxF+o<> 今日はここまで。
次回は「第六章 労働少女」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/04(月) 19:55:22.36 ID:VE6tTW3ko<> 乙まど
ママさん起死回生の一手……? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/04(月) 20:45:01.72 ID:84HVrQdho<> 乙っちまどまど!
次回も楽しみにしてるよ <>
1<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:43:18.45 ID:VBx2BBYxo<> 昨日今日とサビ残させられて、しんどいから休もうと思ったが、
読んでくれる数少ない人達のためになんとか頑張って投下します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:43:59.20 ID:VBx2BBYxo<> 第六章 労働少女
年が開けて冬が終わり、ある日、野比は社長室に直々に呼び出しを食らっていた。
ノックをし、「社長、野比です。 よろしいでしょうか?」と、尋ねると、「おう」という杏子の声がし、野比はドアを開けた。
「まあこっちに来いよ」
そう言った杏子はロッキーを咥えながら椅子にふんぞり返って、一枚の紙を眺めている。
野比が近づくと、
「食うかい?」
と、一袋分のロッキーを差し出されたが、野比は、いえ…と言ってそれを固辞した。
「お姉ちゃん、人と話す時くらい食べるの止めなよ!
…すみません、野比専務。 社長とはいえ、不躾な姉で…」
傍らに立っている社長秘書――杏子の妹が、姉の非礼を謝したが、野比はあまり気にしてはいなかった。
彼女は常に動き回っている杏子に振り回され、日に日にやつれていっており、
野比は杏子の非礼よりその妹の体調のほうが心配であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:44:41.25 ID:VBx2BBYxo<> 「野比。 本社の意見、要望のメールにこんなのがあったんだけどさあ、これどう思う?」
妹の忠告を無視し、杏子が差し出したメールを見、野比は背筋が凍りつくような寒気に襲われた。
それは匿名のメールで、去年、野比が詢子に聞いた見滝原市でのマミリーマートの雇用体系の概要を暴露し、
クリーンなサークル杏が進出してこの悪の会社を打ち破るべきだと書かれていた。
野比はそのメールの裏に詢子が動いていることをはっきりと感じ取った。
野比はあの後、杏子以外の役員を緊急招集し、見滝原市進出と、クウカイとの合併話を相談し、
その結果、詢子の接触はマミリーマートの罠であると判断し、
この一件を社長である杏子には伏せておくようにしようとの結論を得ていたのだった。
若くて猪突猛進型の杏子は、それなら進出だと言うに決まっているからである。 それは会社を危険に晒すことになるかも知れない。
杏子は有能であったが、多少無謀なところもあり、そのあたりをカバーするために、
こうして役員達が胃に穴の空くような思いで秘密会議を開き、杏子が道を誤らないようにサポートをしていたのである。
それはさくら会宗祖である杏子の父の要望でもあり、秘密会議には彼も同席していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:45:34.91 ID:VBx2BBYxo<> 杏子は去年、1年通った商業高校を中退していたが、それは1年で学科全過程を習得し、卒業させろといった時、
3年への飛び級しか認められないと学校側が突っぱねたのに彼女がぶち切れたからである。
若すぎる一方で杏子が天才的とも言える商才を持っていた事は、確かであった。
クウカイとの合併については彼女がどういう反応をするかはわからなかったし、
それを教えて反応を見、社長の器を確かめたいといった者もあったが、
詢子によって合併と見滝原市進出はセットであると釘を刺されたため、それはできないことだった。
このメールの意味するところは、待てど暮らせど反応のないのに業を煮やした詢子が、
からめ手で揺さぶってきたというところだろうと、野比は思った。
不幸だったのは、杏子の気まぐれかつ多方面に及ぶ行動力であった。
こんな危険なメールは普通、担当者が握りつぶすのが常であったが、
恐らく杏子が抜き打ちでメールチェックをした際に、見つけてしまったのだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:46:18.78 ID:VBx2BBYxo<> 「こんなのはきっとデマでしょう」
ポーカーフェイスを作ってそう言った野比に、杏子は、
「根拠は?」
と、詰め寄ったが、野比も負けじと、
「あまたあるデマにいちいち根拠を求め続けていたら、人生が終わってしまいますよ」
と、軽く流すように応じた。 しかし杏子は、
「あたしのカンでは、コイツはデマじゃあないね」
と言い、またロッキーの包みを開けた。
野比は、彼女の有能さの原泉であるその動物的とも言えるカンを、この時ほど呪わしいと思ったことはなかった。
「それでは百歩譲ってデマではないとしましょう! ではどうするおつもりですか?
今当社がやらなければならない事は、サークル杏をコンビニエンスストアとして各地域に定着させることでしょう!
そのための商品開発、利便性の向上、課題は山積しております!
こんな情報に踊らされ、いちいち動いていたんじゃあ、たまらんのですよ、社長!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:47:07.05 ID:VBx2BBYxo<> 野比は怒気を含めてそう叫び、杏子の執務机を両の平手でバン、と叩いた。
それを見た杏子はニヤリと口元を歪め、
「あんたさあ、分かりやすいんだよねえ…そんな態度じゃあ、コイツがデマじゃあないですって、言っているようなもんじゃないか」
その口がそう言葉を紡いだ時、野比はシマッタ、と思った。
「得体のしれないクスリによる20時間労働…マミリーマートのやり方は、このメールを見る限り最低だ。
そんな会社は、もうあたしらがぶっ潰しちゃうしか、無いよねえ」
野比は、マミリーマートにおびき出され、サークル杏が潰されてしまう結果を想像して、冷や汗が頬を撫でるのを感じていた。
「社長! 簡単にぶっ潰すとかいいますけどねえ、向こうとこちらじゃあ規模が違うんですよ!
一位がヘブンイレブン、二位がローション、三位がマミリーマート、そしてその後に、漸く当社です、そういう強さの順番なのですよ!
食物連鎖という言葉はご存知ですか? 学校で習いましたよね?」
「うるせえなあ、何が食物連鎖だ! 安っぽい悪役みたいな事言ってるんじゃねえぞ!」
杏子は野比の言葉を、鼻にもかけていない様子である。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:48:12.62 ID:VBx2BBYxo<> しかし野比は持ち前の根気で、何とか杏子に分かってもらおうと必死である。
「もし見滝原に進出するなら、どこかと提携なりして、規模を…」
「そんな必要はないね。 悪はあたしらだけで叩く!」
せっかくの野比の提案を無視して杏子はそう言い、
「あたしはね、さくら会の支部があるところには、必ずサークル杏を建てたいんだよ。
そしていつか、さくら会より、サークル杏がある町のほうが、多くなる。
それが、あたしの野望さ。 つまり親父とは、ライバルってこった。
見滝原には約1万の信者がいるけど、サークル杏は一店舗だって有りはしないから、気になって夜も眠れなかったさ。
そんな時、このメールだろう? こりゃあ、神様があたしに行けって、言ってるんだよ、きっと」
と、腕を組み、ウンウンと自分で納得しながらそう言った。
野比は、このままでは最悪の結果しか待っていない…何とかクウカイと合併しなければ、と、思い、
社運が崖っぷちに立たされていることをいまさらながら痛感し、
詢子が接触してきたとき、すんなりと合併話を杏子にしていれば状況も違ったものになっていたかも知れない、
と、また胃が痛み出す程の後悔をも感じていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:48:53.31 ID:VBx2BBYxo<> それから少ししたある日、久兵衛は見滝原店に来た新しいアルバイトに、一瞬で失望していた。
「え…本社の人ですか? 美樹さやかちゃんでーす! ヨロシクっ!」
自分が契約したわけではない。
とにかく働かせてくれと、新しく代わった店長に申し込んできたようで、
看板娘としてどうかとその店長から連絡があったので、久兵衛が様子を見に来たのだったが、このザマだった。 無駄足という奴である。
中卒で既に男と同棲をしている、彼はいつかビッグになる男だから、今はあたしが頑張って、彼をサポートする!
と、久兵衛が頼んでもいないのに馬鹿丸出しの自己紹介をし、
こんなクズが看板娘として使えるわけが無いじゃないか、と、彼をして思わしめた逸材であった。
「…どうでしょうか、久兵衛さん…私としては、看板娘を代わって欲しいんですけど…」
マミはそんな事を言っているが、認めるわけには行かなかった。
「あの娘は才能がないよ。 看板娘は、今まで通り君で行く。 いいね、マミ。」
マミは俯いて、そうですか…と、残念そうだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:49:48.12 ID:VBx2BBYxo<> 「前から不思議だったんだけど、君は一体、どうしてそんなに看板娘を辞めたがるんだい? わけがわからないよ」
久兵衛がそう聞くと、マミは顔を赤らめて更に俯き、
「それは、ええっと…」
と、歯切れが悪くなったので、久兵衛はむかついてその話題を切りやめた。
「まあとにかく、僕はこれで本社に戻るから、しっかり働いてくれよ」
「えっ…もう帰るんですか…?」
マミは泣きそうな顔になり、久兵衛はそれを見てまた勃起をした。
そういえば、一年前より大人びてきている感じがする。 久兵衛はその裏に、男の気配があるような気がし、気分が悪くなった。
看板娘に出来る人材は、マミの代わりはそうそう居るものではない。 新しく捜すのは、面倒なことだった。
「サークル杏が進出してくる気配があるのさ。 花沢不動産からそういう情報が入ってね。
だからそれに対していろいろ作戦を立てなきゃならなくてね、忙しいんだよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:50:53.19 ID:VBx2BBYxo<> 久兵衛が帰るとき、マミは店の外まで見送りに来た。
「また、寄ってくださいね。 美樹さんのお友達なんかで、看板娘になれそうな娘がいたら、久兵衛さんにお知らせしますから」
やはり何故だろうか、と、久兵衛は思った。
「君はやっぱりおかしいね。 そうまでして高待遇の看板娘を辞めたがるなんて、普通じゃないよ。
差し支えなかったら、理由を教えて欲しいものだね」
また同じ質問をしてしまった、と、久兵衛は思った。
そしてそれを聞いたマミはまた、俯いた。 堂々巡りである。
「その…看板娘は…好きな人が出来て、その人の…好みに合わせて…自分を変えちゃあいけないって、聞いたから…あの…」
やはり男か…久兵衛は、契約したばかりの頃の、マミのガキ臭い笑顔と、目の前の別人の様になった彼女とを脳内に見比べ、
裏切られたような複雑な心境に、吐き気を催す程気分を害した。
「そうか、君には好きな男ができたんだね。 分かった、僕の方でも君の代わりを探しておくよ」
このクソ忙しいのに、また稀少な清純派少女を探さなければならないとは――
久兵衛はそんな苦労も知らずに勝手を言うマミを恨めしく思い、
そして代わりの看板娘が見つかったら、その好きだという男の目の前で散々に犯してやろうと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:51:40.79 ID:VBx2BBYxo<> 「その…わたし…あの…別に好きな人が居るとかじゃなくて…」
久兵衛は尚もグダグダと語り続けようとするマミを、ぶん殴りたい衝動に駆られた。
もじもじとしているその態度に不快なのか、なんなのかはわからなかったが、
とにかく腹の底で黒い炎が燃え上がり、胸を焦がしているようで、久兵衛は腹を切り裂いて胸の内を掻き回したくなった。
「あのねえ、マミ、僕は忙しいって言っているだろう? 君の私生活の話なんか、聞いている暇は無いんだよ!
分かったらとっとと仕事に戻ってくれるかな?」
久兵衛は一息にそう叫んで、歩き出した。
こんなにイラついたのは何年ぶりだろうか?
きっとサークル杏が進出してくる準備に忙しいせいだ。
開店したら、数カ月で潰してやろうと、久兵衛は思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:52:31.61 ID:VBx2BBYxo<> 久兵衛に怒鳴られ、マミは店に戻るなりトイレに駆け込んで、その個室の中で泣いた。
久兵衛がせっかく好意で自分を優遇してくれているというのに、どうしてあんなふうに言ってしまったのだろうか…?
恩を仇で返す行為だと、マミは狂おしいほどの後悔に責められた。
マミは既に両親と死別している。
保険金と、彼らが残した財産とがあったが、
両親の葬儀を取り仕切ってくれた遠い親戚が、自分たちが管理するからと、それらを持って行ってしまった。
そして中学3年の夏、彼らがマミのマンションを訪れ、言ったのは、
もうお金はないから、中学を卒業したら働け、と、その一言だった。
マミは両親から、彼女が高校を卒業するまでの蓄えはきちんとされていると聞いていたので、そんなはずは無いと思ったが、
金銭の管理を彼らに委ねてしまったのでどうすることも出来ない。
困ったマミは、その日から職業安定所に通い始めたが、なかなか思うような求人に巡りあえず、ある日その親戚に相談をした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:53:45.72 ID:VBx2BBYxo<> 彼らは言ったのだった。
体を売れと。 お前ならいい値で売れるからと。
遅ればせながら、その時マミは気が付いたのだった、彼らは最初から売春をさせるつもりで自分の世話を焼いていたのだと。
マミは、嫌だ、と言い、また不毛な職探しを続けることになった。
それは出口のない迷路を、ひたすら歩き続けるような苦行だった。
そんな時、久兵衛に声を掛けられた。
彼は普通の仕事を与えてくれ、今は契約社員として、看板娘として、それなりに良い給料を貰っている。
久兵衛はマミにとって、体を売らねばならぬ状況から、救ってくれた恩人であった。
だけど最近、こうも思うのだった。
自分が恩人と慕う久兵衛にとって、自分は各店舗に一人以上、つまりあまたいる看板娘のうちのたった一人――。
そういう風にしか思われていないのではないか、と。
好きな男が居るわけでもない自分が、
そういう事を理由に看板娘を辞めたいなどと、久兵衛に申し出る必要性は、一体どこにあるというのだろうか――?
それ以上考えると、抜け出せない、厄介な所にハマり込んでしまうような気がし、マミは涙を拭ってトイレを出た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:54:22.94 ID:VBx2BBYxo<> 「マミさん? 大丈夫ですか?」
まだ涙の痕跡が残っているのか、さやかはマミの顔を見ながら、そう聞いた。
「大丈夫よ。 美樹さん、それじゃあお掃除から教えてあげるわね」
始めての、年下の後輩――。
マミは、妹が出来たような気がし、嬉しくなると同時に、猛烈な責任感を抱いた。
「それにしても、あの久兵衛って奴、感じ悪いですよねえ…マミさん、あいつに意地悪されてないですか?」
「本社の人に、そんな事言っちゃあダメよ。 親元に嫌われたら、みんな迷惑しちゃうんだから」
自分で言ってしまった、親元に嫌われたら――という言葉が、冷たい感覚となってマミの胸に入り込んで、絞めつけた。
マミはそれを振りほどくように、精一杯の笑顔を作って、さやかに向けた。
その時思い浮かべたのは、さやかが感じ悪い、と言ったその顔だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:55:28.01 ID:VBx2BBYxo<> それからしばらくし、ほむらは、ようやっと私服警官として、見滝原署に赴任したばかりであった。
陰ながらでもいいからまどかを守りたい、そのために警察官を志したほむらだったが、入ってみると警察学校は魑魅魍魎の巣窟だった。
男は陰茎でモノを考えている様なクズばっかりで、彼らに比して数が少ない婦警の候補生たちを、発情期の獣のように取り合っていた。
だからどんな醜い顔をした女子にも、必ず相手がいるという異常な世界であった。
私は安定した公務員であるところの警察官の結婚相手を見つけに来ました! と、誰はばかること無く公言するクズ婦警もいた。
それらを見るたびに、気持ちが折れそうになるほむらだったが、
外出の許可が降りるたびにまどかをストーキングし、何とか挫折せずに乗り切ったのだった。
まどかは、高校には行かず、家で花嫁修業をしているようだった。
それはほむらを安堵させた。 高校なんて行ってしまえば、すぐに男が出来、まどかの純潔が奪われてしまう恐れがあったからだ。
警察学校に拘束されて、ほとんど自由のなかったほむらは、それだけが心配のタネであった。
だから外出許可が降りると常に、まどかを監視に行っていたのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:56:11.82 ID:VBx2BBYxo<> しかし晴れて巡査の階級を得、教育を兼ねた交番勤務も終え、拘束が無くなったほむらは、
家に帰ったらまどかをストーキングし放題であった。
「ああ、見ているだけで幸せよ…まどか…」
ほむらは見滝原署の性犯罪担当の刑事として迎えられ、今、深夜パトロールの最中である。
去年、凶暴化した性犯罪者が、警官に追われている最中に海の手線電車にはねられ、死亡する事件があったが、
今年に入り、また一件凶悪な変態による事件があったばかりで、警戒強化中であった。
まあ、言われたルートを巡回した後は、まどかの家に直行し、暗がりから彼女の部屋を監視しているのであったが。
自室のカーテンの隙間から見えるまどかは、裁縫をやっているようだった。
「ピンクの布地に、パッチワークを施して、テーブルクロスを作っているのね…かわいいわ、まどか。
ああ、そのテーブルクロス、出来上がったら私にくれないかしら…
え、いいって、ありがとう、まどか! 大好きよ! そのテーブルクロスを敷いて、一緒にお食事しましょう!」
電柱の陰に隠れ、一人でまどかと会話をしている気になっているほむらであった。
彼女は楽園追放事件の後、まどかと一言も会話をすること無く過ごしてきたのである。 これくらい病んでいて、当然であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:56:56.25 ID:VBx2BBYxo<> その時、ほむらの内ポケットにある、携帯電話が着信を知らせた。
「…はい、暁美巡査です」
――暁美巡査か! 今どこにいる?
切羽詰った先輩刑事の声がする。 ほむらは事件だ、と、直感した。
去年の轢死事件と、今年に入っての事件、二つの事件は凶暴化した変態によるものという共通した特徴を持っており、
早くから関連性を疑う声が上がっていた。
しかし2例のみでは憶測の域を出ず、凶暴化は精神疾患の可能性も疑われ、関連性については一部の捜査員が主張しているに過ぎない。
だが彼らは、実際に凶暴化した変態を逮捕しようとした捜査員達は、その異常なまでの性欲や体力を間近に見、
凶暴化した変態を変態紳士と名づけ、殺処分しか無いと声高に主張していた。 そしてその主張は、何故かすんなりと通ったのであった。
「今は巡回ルートA−7ですが」
――見滝原水源公園に来てくれ! 今すぐだ!!
「了解しました! 現場に直行します!!」
プツ。
「――まどか、また来るわね」
ほむらは、名残り惜しむように暗がりの中に消えて行った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:57:44.52 ID:VBx2BBYxo<> 公園に着くと、ほむらは無線機のスイッチを入れ、点検をした。
「えっと、こちらほむほむ、現着、どうぞ…だっけ」
――ほむほむ、こちらジーパン、そちらの感明よし、現在位置を知らせろ、どうぞ
「返信が来た! ええと、現在位置、水源公園、西入口、どうぞ」
――ほむほむ、こちらジーパン、目標は現在、ジャングルジムから、大噴水方向に向け、逃走中、回りこめるか?
ほむらは、入り口に掲げられていた公園の地図を見た。
「ジーパン、こちらほむほむ、可能です、大噴水に向かいます、おわり」
ほむらは、拳銃を構えて走りだした。
だがその時も、自分が銃を使うかも知れないなどとは、露程も思っていない彼女であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:58:18.32 ID:VBx2BBYxo<> 大噴水に到着したほむらは、ジャングルジム方向を監視できる茂みに隠れ、
「ジーパン、こちらほむほむ、大噴水に到着、どうぞ」
と、報告をすると、
――こちらジーパン、そこから、目標は確認できないか?
無線からの声とダブって、先輩刑事の肉声も闇の中から響いてきた。
「こちらほむほむ、確認出来ず」
――警戒せよ!
見失ったのだと、ほむらは思った。
恐る恐る拳銃を構え、ゆっくりと歩き出す。 音が聞こえるだけでなく、心臓の鼓動が、胸の内に感じ取れる。
のどが渇く。 何もしていないのに息が切れ始めた。
いつもなら、何気なく歩く夜道、その中に、暗くて全く見えない部分がいくつもあることを、いまさらに気がついた。
そのどこかに、目標が、一部の刑事から変態紳士と呼ばれ恐れられているものが、隠れているのかも知れない…。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:58:44.55 ID:VBx2BBYxo<> 自分が立てる足音が、もどかしい。
そしてそれ以外の音は、風の音や、公園の外をまばらに通る車の音、そして自分の立てる音にかき消され、聞こえない。
自分の居場所だけが、変態紳士に知られているような気さえする。
「暁美君」
ギクリと体中が収縮したような気がした。
振り返ると、ジーパンと呼ばれている先輩刑事だった。
「先輩…変態紳士は…?」
「見失った…だがまだそう、遠くへは行っていないはずだ。
二手に分かれてさがそう! 応援も呼んだ! 何かあったら無線で!」
「了解!」
ジーパン刑事は、足音をほとんど立てずに暗闇の中に消えていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 19:59:33.67 ID:VBx2BBYxo<> ほむらは、また暗がりの中を独りで歩き出した。
虫の声、頬を撫でる夜風、自分の足音…知覚するすべてがそのどこかに恐怖を絡めている。
息が詰まりそうになって、溜息を吐く。
溜息にすべての音がかき消され、怖くなって周りを確認した。
そして、胸を押さえてまた歩き出す。
…わたしは…
自分の足音がする――道を外れてみる…
芝生――足音がしなくなる…
すると、足音がしないことが、今度は怖くなる。
道に戻る。 足音がする。
…私は…はです…
…! なにか聞こえた…?
振り返る。 何も見えない。 ぐるりと体を回転させて見回す。
暗い。 街灯に照らされた、その部分だけしか見えない。
心臓の鼓動が溢れ出し、そのリズムに体が急かされる。 呼吸もそれにつられるように、早く、激しくなっていく。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 20:00:28.67 ID:VBx2BBYxo<> 息苦しい焦りを断ち切るように、もう一度、大きく深呼吸して歩み出そうとしたその瞬間――
「私はほむほむ派です」
変態紳士――ほむらの思考は、完全に暗闇に飲まれていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 20:00:55.26 ID:VBx2BBYxo<> ほむらは、もつれる足を何とか動かして、走っていた。
息が切れる、というより、体が呼吸を拒否しているかのようだった。
いつぞやの、腹パンを思い出していた。
そしてその時の、もうどうでも良い自分を。
あの時は、本当にどうでも良かった。 苦しくて、死ぬかも知れないな、位しか考えなかった、と、思う。
だが今は、怖い。 死ぬとか、そう言うのよりも、まず怖かった。
何故こんなに息を吸い込めないのだろうか?
何故体がこんなにも重たいのだろうか?
こんなに走ったんだ、もう、振り切っただろう――
――感触。 背中に何か触れた。
追いつかれている!?
もうダメだ、そう思ったとき、ほむらは足をもつれさせ、芝生の運動場にうつ伏せに倒れこんでいた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 20:01:34.49 ID:VBx2BBYxo<> 「暁美君!!」
その声に振り返ると、暗闇の中に、かろうじてその輪郭を確認できる体の形が、変態紳士に体当たりをかけるのが見えた。
「先輩!!」
ほむらは、考える前にそう、声を上げていた。
目を凝らす、二つの体が、激しくぶつかり合っているのが見えたが、輪郭が闇に溶けて、何がどうなっているのか分からない。
「暁美君! コイツを撃て! 暁美くうううん!!」
「先輩!! 先輩!! 先輩!! せんぱあああああい!!」
助けなくては、と思う。 何かしようと、思う。
だけど何をしていいか分からない。 呼ぶことしか出来ない。
「あけみくん!! あけみくうううん!! あうあああ!!」
音がする。 何の音だか、分からない、考えたくない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 20:02:16.78 ID:VBx2BBYxo<> 「うぎゃあああああああああああ!! なんじゃこりゃあああああああああああああ!!」
ジーパン刑事の、悲鳴。 最後の方は、うがいのような音だった。
ほむらは逃げた。 腰が抜けていたので、芋虫のように這いずりながら、逃げた。
まただ、息が切れる。 怖い。 もう嫌だ。 こんな仕事、辞める。
やめるから、許して…許して。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
這いずりながら、ほむらは言葉の通じないだろう相手に、心のなかで謝り続けていた。
「あおっ…あお…っ」
ずいぶん向こうから、ジーパン刑事の断末魔が聞こえる。
ごめんなさい。 見捨てて、ごめんなさい。私、もう辞めます。 お給料もいらないから――だからおうちに帰してください。
先輩。 私帰ります。 怖いんです。 もういやだから――
「私はほむほむ派です」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 20:02:51.68 ID:VBx2BBYxo<> 「嫌あああああッ!! 怖いよおおおおおおっ!! 誰かあああああッ!!」
すぐ後ろに、気配が感じ取れる。
さっきまでは何も感じ取れなかったのに、何をやっても手遅れな今、それははっきりと感じ取れる。
恐怖が体中を覆っている。 ほむらはありったけ、喚いていた。
怖い。 なぜ怖いのか?
暗いからか、相手が見えないからか… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 20:03:33.75 ID:VBx2BBYxo<> ほむらは、相手を、見ようと思った。 自分を殺した相手くらいは、見ておきたかった。
ほむらは訳のわからないことをわめきながら、何とか体を反転させた。
らんらんと輝く二つの眼。 体の芯を鋭く抜けていく恐怖。 そういえば腹パンの時、恐怖はなかった。
あの時は、絶望していたから。 そうだ、今は、希望があるから、怖いんだ。
「うわあああああああああん!! こわいよおおおおおおお!!」
希望があるから、怖いんだ。
「まどかあああああああああああああああっ!!」
ほむらは、自分の体の中の、すべてをぶちまけるように、希望を叫んだ。
指に、バネのきいた鉄の抵抗があった。
恐怖を押しこむようにそれを引くと、反動と共にすべての音が消え、聴覚が耳鳴りに飲みこまれた。
顔に、何かがべチャリとひっ付いた。
温かい…この人、生きていたんだな――と、ほむらは思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/05(火) 20:04:26.03 ID:VBx2BBYxo<> 今日はここまで。
次回は「第七章 降格」
しんどい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/07/05(火) 21:26:46.53 ID:DonXBr6fo<> 俺が殺られちまった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/05(火) 21:31:31.13 ID:40LT/AmPo<> 今更だけど、同じ人を長時間働かせても残業代とかつくし人件費余計にかからね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/05(火) 22:03:26.79 ID:1Y9ucMYqo<> 詢子さん死んじゃいそう……
前の話でまどかを働かせまいとしたのは
詢子さんの意思を継いで、とかだったりして <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/05(火) 22:24:10.75 ID:NeZ492APo<> 第七章は降格か……
ここからまどっちとどう繋がったか早く知りたいな
乙っちまどまど <>
乙さや<>sage<>2011/07/05(火) 23:02:00.41 ID:XcIfJCBqo<> ジーパンが変態紳士って良くあるオチかと思ったら……ごめんね、敬礼 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/06(水) 00:13:00.86 ID:/HeGF1uIO<> マミさんはこのころから久兵衛が好きで久兵衛もまたマミさんに惹かれてたのか
悲恋やな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/06(水) 00:13:38.03 ID:/HeGF1uIO<> マミさんはこのころから久兵衛が好きで久兵衛もまたマミさんに惹かれてたのか
悲恋やな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)<>sage<>2011/07/06(水) 12:58:09.34 ID:XBrivlaw0<> やっぱりレイーポしようとしたんか <>
1<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:19:36.74 ID:Z8BMx8C4o<> >>201
なん…だと…!?
今日はわりかし涼しかったのでしんどくない。 投下します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:20:32.62 ID:Z8BMx8C4o<> 第七章 降格
その夜、久兵衛は花沢不動産社長宅を訪れ、応接間で勝雄と会談していた。
花沢不動産から連絡があったときは、既に遅かった。
新興宗教団体のさくら会見滝原支部が購入した3つの土地は、そのままコンビニの店舗用地として適当な立地と面積とを持っており、
それに気が付いた勝雄が久兵衛に連絡をしてきたのだった。
「磯野常務、これは失態ですよ。
もともと花沢不動産の仕事は、他のコンビニが入って来られないように、立地条件のいいところを押さえておくことなのですから。
これでは格安で3店舗分もの土地をサークル杏にくれてやったようなものじゃあないですか」
「済まない、久兵衛。 さくら会見滝原支部は何度も取引があったお得意様だったから、ついつい気が緩んでいた。
まさかサークル杏がさくら会に土地を買わせるとは思いも寄らなかったんだ…」
久兵衛はその言い訳を聞いて、役員である勝雄に、あからさまに聞こえるように舌打ちをした。
「謝罪の言葉なんて、要りませんね。 問題は、どう落とし前を付けるかということですよ。
さくら会は、この土地にどれほどの値がついたとしても、もう決して手放さないでしょうしね」
「済まない…っ!!」
土下座をしている勝雄の後頭部を見、久兵衛は踏みつけたい衝動にかられていた。
ぺこぺこと安っぽい頭だと思う。
サークル杏の奇襲、それを止められなかった馬鹿な役員。
イラつきが止まらない。
久兵衛はその中に、今日会ったマミの、もじもじとした表情を重ねてしまい、思わず応接間のテーブルを殴りつけてしまった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:21:12.95 ID:Z8BMx8C4o<> ほむらが目を覚ますと、そこは病院のようだった。
「気が付いたか、暁美君」
その声は、ボスと呼ばれている上司の刑事だった。
「…私は…どうして…?」
「君は、変態紳士の駆除に成功したんだ。
応援のチームが現場に駆けつけたとき、変態紳士の死体と共に、君が気を失っているのを見つけてね。
ここまで運んできたというわけさ。 いや、本当によかった」
ほむらは、食物をゆっくりと咀嚼し、飲み込むように事情を了解していった。
そして昨日の記憶が、ゆっくりと形を取り戻していくのも、感じていた。
記憶の中に、真っ先に冷たく蘇ったのは、先輩刑事の叫び声だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:21:41.54 ID:Z8BMx8C4o<> 「あの、先輩は…?」
ボスは、俯いて首を左右に振った。
沈黙が重い。 ほむらは自分の情け無さを反芻し、静かに涙を流した。
「私…なにも出来ませんでした…先輩が危ない時…怖くて…固まってました…私…私…」
ボスはほむらの肩に手を置き、
「誰も、君を責めたりはせん」
しっかりとした口調で、そう言った。
ほむらが黙していると、
「辞めたくなったか?」
ボスの声が、また聞こえた。
「いいえ」
考える前に、答えていた。
「続けさせてください」
言い終わって、脳裏に浮かんだのはまどかの顔だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:22:33.52 ID:Z8BMx8C4o<> ほむらはすぐに退院し、一日、休みを貰った。
これからもあんなふうに変態紳士と戦うのであれば、格闘中に外れてしまう危険性のあるメガネは不便であったので、
手術を予約し、それまでのつなぎにコンタクトレンズを買い、その後、街を散策することにした。
かようにしてこの世界のメガほむは、ほむほむへと変貌を遂げたのであった。
平日の街は人通りが少なく、代わりに仕事で走り回っている車が多かった。
忙しく動く街を、なにもすることがない身で眺めるのは、なにか変な気分を、そして見えない壁のような周囲との距離感を伴った。
しかし、周囲と自分との距離感は、昨夜の事を反芻するたびに強く形を持った実感としてほむらを襲った。
自分は昨夜、確かに人を殺した。
銃の反動が、生々しく体に残っている。 何度もやった射撃訓練の時のそれとは、全く別の重みを含んだ、全く同じ反動。
発砲したとき、後悔した気がする。
火薬の炎で、相手の顔が浮かび上がった気がする。
一瞬のことで、見たわけでは無いはずだが、何故かはっきりと想像ができる。
左目に当たって、何かが飛び散って、それから何発か、撃った気がする。
声も聞いた気がする。 言葉ではなく、声。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:23:47.35 ID:Z8BMx8C4o<> 自分の手を見てみた。 そこに拳銃の重みと、冷たさが蘇ってくる。
昨日は確かめる余裕がなかったが、射撃の後、銃は熱くなる。 その熱さが、人を殺せるエネルギーだと思う。
ほむらは自分の体温でも、人は殺せるのかも知れないと思った。
ふと、周りを見ると、信号待ちをしている商用バンが目に入った。
中のドライバーは、ハンドルを叩いてイライラしているようだ。
昨夜人を撃ったクセに、ほむらは今、全く静かだった。 イライラしている人間が、羨ましくさえある。
どうしてこんなにも静かなのかと思うが、そう考えることさえ静寂を破る、いけない行為のような気がして、
結局心は夜のように沈んで動かなくなる。 足だけが進んでいる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:24:38.51 ID:Z8BMx8C4o<> ふと、自分の顔は、今どんなだろう、と考える。
ひどい顔だと言うことは見なくてもわかるが、問題はなにがどう、酷いのかということだ。
見てみたくなった。
見たらあまりの酷さに絶望するかも知れないが、
怖いと分かっているホラー映画を見たくなるときのように、絶望だって、してみたくなることがある。
ブティックのショーウインドウを見てみた。 自分の輪郭が写っている。
しかし、のっぺりと影のようで、表情が確認できる、とまでは行かなかった。
自分がのっぺらぼうだと思うと少し安心し、表情が見えなかった事で少しがっかりした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:25:28.26 ID:Z8BMx8C4o<> 自分で見ることが出来ないのなら、今度は誰かに顔を見せたくなった。
「まあ、ひどい顔!」その声を聞いたら、安心するような気がした。
だけどすれ違う人々は、自分を気に留めなかった。
ひどい顔の自分に、昨夜、人を撃ったばかりの自分に、まるで気がつかない。
これじゃあ、未解決の事件が山ほどあるわけだと、ほむらは思った。
明日になれば、人を殺した実感も少し薄れるだろう。 顔もマシになるはずだ。
一週間も経てば、すっかり顔も元通りで、殺人者も周囲に溶けこんで、自分が人を殺したことすら忘れて、みんな元通りで。
でもそんな世の中は良くないと思う。
ほむらは自分の顔を晒すように歩き続けた。
これが殺人者の顔よ! よく見て! そんな風に。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:26:22.89 ID:Z8BMx8C4o<> 赤信号で、止まった。 横断歩道の向こう側に居る、信号待ちの歩行者を見る。
7・8名といったところか、数えるのも面倒だった。
一人ずつ、見ていくと、不意にほむらの静寂が、破れた。 ザワザワと、体中が騒ぎ出した。
血が巡りながら、血管を擦るその音までも、聞こえるような気がした。
まどかが居た。 信号待ちの、歩行者の中に。
ほむらは、俯いた。 逃げようと思った。 だけど逃げなかった。
賭けをしようと、思った。 ひどい顔の私だ、メガネも外した。きっとまどかは、私と気がつかないだろう。
だからそれに賭けて、思い切ってすれ違ってしまえ!
ほむらはわくわくと躍り出しそうな心の内を、必死で押さえ、信号が変わるのを待ち続けた。
まどかが私と気がつかなかったら、安堵するだろうか、それとも――
ほむらは、絶望してみたい自分を、感じていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:27:09.65 ID:Z8BMx8C4o<> 信号が、青になる。 まどかが歩き出すのが見える。
眼を合わせないように、視界の端にまどかを捉えながら、歩き出す。
うんと近くをすれ違ってやろうと思う。 まどかはきっと私に気がつかない。
気付かれずにすれ違うことが出来れば、まどかへの想いさえも吹っ切れそうな気がする。
仕事上の事とはいえ、人を殺した私は、もうまどかとは別の世界を生きているのだから、まどかを求めては、いけないのだ。
それを自分に刻み付けるために、すれ違って、気付かれずに絶望をする。
それでいい。
まどかが近づいてくる。 もう少し、あとちょっと――
「ほむら…ちゃん?」
顔を上げると、目が合った。 まどか。
「ほむらちゃんだよね…中学の時、一緒だった…」
ほむらは、動転した思考の収集をつけることを保留し、とにかく走りだしていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:27:43.18 ID:Z8BMx8C4o<> 「ほむらちゃん! 待ってよ! どうして逃げるの!?」
そんな事を言いながら追いかけてくる気配は、ほむらの全力疾走にみるみる引き離されて、すぐに感じられなくなった。
後ろを振り返ったとき、まどかは既にいなかった。
せっかく話しかけてくれたのに、どうして逃げてしまったのだろう?
後悔が胸を圧迫し、息苦しいほどだ。
胸のつかえを吐き出すように溜息を吐くと、同時に涙も溢れた。
『君、もう家には来ないでくれるかな』という鹿目知久の声と、昨夜の拳銃の反動が交互にほむらを襲う。
もう、まどかとは会ってはいけないのだと、思う。
だけどこうして逃げるのは、良くないとも思う。
次、まどかに会う日があれば、もう会えない理由をちゃんと説明をしよう、ほむらはそう、決心をした。
だけど一方で、その日は永遠に来ないで欲しいとも、思ってしまうのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:28:39.66 ID:Z8BMx8C4o<> 「あなたは一体、何をやっているんですか!!」
野比は社長室に入るなり、両の拳を思い切り杏子の執務机に叩きつけた。
「何のことだい?」
杏子はしれっとしていたが、その傍らに立っている妹は、まるで自分が叱責されたように青ざめて縮こまっている。
野比は彼女を気にしながらも、煮えくり返っているハラワタを冷ます術を持たず、
「とぼけないで頂きたい!! さくら会見滝原支部に、店舗用地を3店舗分も買わせたのは、社長、あなたでしょう!!」
怒鳴った後、もう一度、執務机を殴りつけることに相成った。
杏子の妹は、殴られたのは自分であるかのようにギクリと体を硬直させ、震えながら充血した眼球を涙で濡らし始めている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:29:17.33 ID:Z8BMx8C4o<> 「ああ、そうさ。 それが?」
居直り強盗のような杏子の態度に呆れ返り、野比はそんな相手と話をしている自分自身さえ阿呆らしく感じ、大きくため息を吐いた。
落ち着いたというよりは冷めてしまっていたが、役員を代表して社長室に来ているからには、きちんと要件を果たさねばならない。
野比は重い唇を動かし、何とか杏子に質問をし始めた。
「…何故、我々に何の相談もなく、用地を購入させたのです?」
杏子は答えるのも面倒だ、という態度で溜息を吐き、
「あんたらに相談しても、あれこれ議論をするだけで、ちっとも前に進みやしない。
社長であるあたしが決めたんだから、会社はそのように動くしか無いだろう? だったらそんな議論させるだけ無駄じゃないか?
それに、これはマミリーマートに対する騙し討ちの奇襲作戦だ。
敵を欺くには、まず味方からってね!」
そう答えた後、八重歯を見せて笑い、得意げにドヤ顔を作った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:29:55.87 ID:Z8BMx8C4o<> 「もう、あなたにはついて行けない」
野比は、冷たく突き放すように言った。
杏子は腹心の部下の言葉に、心臓に冷水が掛けられたような寒気を感じたが、それを顔には出さず、
「なら、どうするって言うんだい? 辞表は受け取らないよ」
自分に決定権があるのが、当たり前だと言うように、サラリとそう言った。
「僕は、全役員を代表して、言ったのですよ?」
野比の顔には、憐れむような表情さえ浮かんでいるが、杏子は表情を変えずに、
「そんな事、今更言うまでもないだろう?」
ホワイトロリータを食いながら、しゃあしゃあとそう言ってのけた。
野比はその様子を見、物分りの悪い小学生を相手にした後のような、疲れきった溜息を吐いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:30:31.72 ID:Z8BMx8C4o<> 「分からないのなら、教えて差し上げましょう。 明日、そして明後日、何がありますか?」
「役員会と、株主総会だ。 会社が見滝原市進出を公にする。 総会屋への根回しはいいんだろうな?」
野比は杏子の言葉に、やれやれ、と、オーバーアクションで肩をすくめ、諭すように語り始めた。
「予言をして差し上げましょう。 あなたは明日、役員会で見滝原市進出を提唱し、猛反発を食らい、却下されるでしょう。
そしてあなたは社長を下ろされ、社長室付という肩書きの、一介の中堅社員に成り下がるのです」
その言葉の衝撃を受け、さすがの杏子もポーカーフェイスを貫き通せなくなり、立ち上がって、
「てめえ、黙って聞いていればペラペラとデタラメを喋くりやがって、あんまりなめた口聞いてると、ただじゃ置かねえぞ!!」
と、凄味を効かせたが、野比は一歩も引かず、
「ですから、ただじゃ置かないのはあなたの方なんです」
と、冷静を絵に描いたように応じた。
杏子の妹は震えながらすすり上げ、潤んだ瞳からは涙が流れだしていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:31:06.66 ID:Z8BMx8C4o<> 「おい! めそめそしてんじゃねえぞ!!」
怒り心頭の杏子が怒鳴りつけると、妹は緊張の糸が切れたように、ウェェン…と、声を上げて泣き出した。
「ぴいぴいうるせえぞ!! 便所にでも行ってやがれ!!」
妹が、しゃくり上げ、目をこすりながら社長室を出て行くと、杏子は流石に事の重大さが飲み込めたのか、
椅子に腰を落ち着け、追い詰められた表情になり、野比の方を見上げた。
「秘書に八つ当たりとは、感心しませんな」
話の流れとは関係の無い、余裕のようなものまで感じさせる野比のその言葉は、杏子を更に追い詰めた。
「そんな事はどうでもいいだろ。 教えてくれよ。 何が不満なんだ? あたしの方針が、間違っているはずはないだろう?」
逆転した立場を噛み締めながら、すがるように、聞いた。
野比は妹が退出した後の、急に弱々しくなった杏子の変化を見、
妹の前で叱責したのは間違いだったかも知れないという後悔に、我が身を絞めつけられた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:31:52.21 ID:Z8BMx8C4o<> 「何度も申し上げております通り、我が社には見滝原市に進出する余裕がありません。 出すとしても現状、1店舗が限界です。」
「1店舗じゃあ、勝負にならねえじゃねえか!」
「場所を精査すれば、1店舗でも充分です。
社長がこだわっているのは、購入した用地から見て私にも分かりますが、マミリーマートとの真っ向勝負でしょう?
マミリーマート本社近くの、見滝原店、緑が丘店、見滝原2号店に、ぶつける形で用地が購入されていますからね。
しかしこれは、無謀というものです。 3店舗をむざむざ潰しに行くようなものだ!
会社の現状から、行くなら真っ向からの競争を避け、郊外の住宅地もしくはさくら会支部付近に、1店舗。
これで様子見をしてから、徐々に拡充していくしかありません。
一気に3店舗など、予算的に無理があるうえ、あの位置取りじゃあマミリーマートも全力で潰しに掛かってくるのは眼に見えています。」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:32:21.52 ID:Z8BMx8C4o<> 分かっている事であった。 しかし、と、杏子は思い、言った。
「しかしだな、これは正義の為の――」
「それが、最もよろしくない!」
杏子の言葉を遮り、野比が続ける。
「あなたがそう言い、行動に出るだろう事が分かりきっているから、
マミリーマートがそれを利用し、我々をおびき出し、弱体化させ、乗っ取ろうとしているのですよ!」
「マミリーマートが仕掛けてきた罠だって言う、根拠は!?」
杏子はどうせ根拠のない憶測だ、答えられる筈がない、と思って聞いたが、
「去年の秋、マミリーマートの幹部が私と接触し、社長が踊らされたメールと同じ内容の事を、伝えてきました。」
野比は、スラスラと答えた。 それは、あまりにも重い事実を、杏子に植えつけ、彼女を激高させた。
「どうして、それを今まであたしに伏せていたんだ!!」
「現にそれを知った今、あなたはマミリーマートに踊らされているでしょうが!!」
そう言い切った後で、野比は杏子が悔しさを表情に滲ませ、泣いている事に気がついた。
彼は立っているのも辛いほど杏子の涙に打たれたが、顔を背ける事はしなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:34:32.54 ID:Z8BMx8C4o<> 「マミリーマートの役員は、僕の心を動かすようにメールと同じ内容の事を話し、
クウカイとの合併を仲介する用意があるとちらつかせ、
進出しれくれないと合併話は無しにすると脅して、再三、進出を急かしました。
僕は正直、その時進出に意見が傾きかけましたよ。
だが、社に持ち帰って、戦略担当の骨川君に相談したところ、
マミリーマートはそのバックボーンである海川グループがその気になれば、
クウカイと合併した我が社をも、見滝原市進出で上手く弱体化させることが出来れば、吸収することが可能で、
それが出来れば業界2位のローションを難なく抜くことが出来る、恐らくそれが狙いだろうと、試算してくれた。」
言葉の合間に野比が見る杏子は、泣きながら、その姿勢が徐々に崩れていくようで、見るたびに彼の胸は抉られるような痛みを訴えてくる。
「相手の裏をかき、自らの利に変える。 商戦というのは、悲しいですが、そういうものなのです。
僕らは、社長の、そういう正義感のあるところが大変好きですが、実際、正義で社員に飯を食わせることは出来ないのですよ。
だから僕は、心を鬼にして、申し上げます」
杏子は、真っ赤に潤んだ瞳を、野比に向けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:35:01.47 ID:Z8BMx8C4o<> 「あなたはまだ社長として、あまりにも未熟だ。
ですから進出の件は、役員会を開き、社長には伏せておくと、内々に決定していたのです。
どうしても、と、言うのなら、あなたを社長室付に降格し、1店舗だけ、新たに設置する権限を与えます。
その権限で、見滝原市進出を、ご自分の手だけで、やってごらんなさい」
杏子はスーツの袖で乱暴に涙を拭い、野比を睨みつけて、
「やってやろうじゃねえか! あんたらが土下座して、あたしに戻ってきてくれと頼みに来る日が待ち遠しいぜ!
あたしは必ず成功する! 必ずだ! 最後に愛と勇気が勝つストーリーってのは、そういうもんだからな!!」
はっきりと、宣言をした。
「あなたが進出するというのなら、接触してきたマミリーマート幹部への一応の義理立ては充分ですので、
そのマミリーマート幹部を通してクウカイとの合併話を進めますよ。 あそこの持っているサービスや自社ブランドは、魅力的ですからね。」
野比は当たり前のようにそう言って一礼し、社長室を出た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:35:43.83 ID:Z8BMx8C4o<> 鹿目潰しの為の乱交宴会を開いた料亭で、久兵衛とその手足である役員達が、緊急の会合を開いていた。
その議題は、もちろん――
「おかしいのは、何故この時期に、ヘブンイレブンやローションまでもが逡巡する見滝原市への進出を、
あの業界4位で、我が社に売り上げで大きく水を開けられている筈のサークル杏がやろうとしているかですよ」
久兵衛が発した、この言葉に集約される。
「確かに、不自然だねえ…そしてあの無謀極まりない用地の購入の仕方…まるで我が社に喧嘩を吹っかけているようだよ」
穴子が、訝し気に腕を組みながら言うと、
「正社員から、アルバイトに到るまで、さくら会からの採用を一切していないことに対する報復措置かな?
さくら会はサークル杏の母体だから企業スパイが入り込むことを懸念して、あそこと関係のある人は入社を遠慮してもらっているんだ」
甚六が反応した。 しかし、
「それなら同業他社のすべてがやっていることだから、わざわざウチだけに喧嘩を吹っ掛ける理由にはならないよ」
勝雄がその意見を打ち消すと、各員、ウーン、と黙りこみ、しばしの間、こもったような静寂が訪れた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:36:35.18 ID:Z8BMx8C4o<> 「…まあ、サークル杏については、今後その動き方をよく観察するとして、グリーフシードによる3例目の発狂者がでたそうだね」
久兵衛が話題を変えると、すかさず甚六が、
「見滝原2号店の、18歳のアルバイト店員だ。 天下りのパイプを使って警察にお願いをしたら、すぐに駆除してくれたよ。
我が社と警察とのお付き合いはかなり良好になってきていて、
今度我が社から、夜勤の警官に夜食を配達するシステムを考案し、それによって消費期限切れの弁当をスムーズに廃棄しながら、
警察との付き合いを更に良好なものにして行こうというつもりさ。
だから警察沙汰については、各員心配は無用だよ」
警察官が一名殉職したことなど知らせる価値もないと踏んで省略し、得意げに報告をした。
「いやあー、心強い限りだねえ。 援交もやりたい放題じゃないか!」
鱒雄が満足そうに、満面の笑みで頷きながらそう言ったが、久兵衛は何かが引っかかっているような気がしていた。
「もしかしたら、グリーフシードによるぶっ続けをサークル杏が知ってしまったのかも知れないねぇ…
あそこは企業倫理にかーなり厳しいからねぇ…そうなら、ああやって喧嘩を吹っ掛けるように進出してくるのも頷けるんだが…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:37:40.01 ID:Z8BMx8C4o<> 憶測でしか無い穴子のその言葉の中の、
「企業倫理」という言葉が、奥歯の間に挟まったような久兵衛の引っかかりを、瞬時に氷解せしめたような気がした。
「企業倫理といえば、鹿目常務ですよねえ…」
一同が、はっとしたように顔を見合わせた。
冷たい沈黙が通り過ぎる。
「…まさかあ、いくら鹿目君でも、そんな事は…」
鱒雄が引きつった顔で笑い飛ばそうとしたが、
「いや、鹿目君ははっきりとぶっ続けを止めさせようという意思に満ち溢れているじゃないか。
現に今も、定期的に役員会で文句を付け続けている。
サークル杏を我々にけしかけ、あそこが馬鹿みたいに法令遵守しているのを見せつけ、
それを役員会でのぶっ続け批判のタネにしようと踏んでいるんじゃないのかねえ」
穴子は、もう詢子がサークル杏を利用していると決めつけているようだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:38:12.26 ID:Z8BMx8C4o<> 「鹿目常務は相変わらず邪魔ですが、確証が持てない今の状態ではいたずらにそう決めつけて動くわけには行きませんね。
彼女と、サークル杏については引き続き監視を継続するということでよろしいですか?
この件に関しては、僕も動いてみますので」
久兵衛がそう締めくくると、
「それじゃあ僕は、鹿目君の周囲を探ってみるよ」
と、鱒雄が、
「僕はさくら会からサークル杏について」
と、勝雄が、
「それじゃあ僕は、天下りのパイプから、警察や政界、官僚たちを通して、業界全体の動きを探ってみるよ」
と、甚六が、それぞれ引き受け、サークル杏や詢子の動きを注視することと相成った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:39:00.46 ID:Z8BMx8C4o<> 「穴子専務はこの件、どうします?」
久兵衛が問いかけると、穴子は申し訳なさそうに、
「みんな済まないが、僕の方はちょっと退っ引きならない仕事があってねぇ…コイツに全力を傾注しなければならない。
力になれなくて、本当に、済まないねぇ…」
と、謝したのに反応し、
「それでは、その仕事の内容というのだけ、教えては貰えないでしょうか?」
久兵衛がすかさず問うた。
「社長命令でね、あのクウカイをいつまでもごねさせてないで、
とっとと吸収できる段取りをつけろということで、坊主達を脅しに京都に行かねばならないのだよ。
社長は海川グループ発足当初に、ローションの母体である財閥系商社の六ツ菱商事にずいぶん虐められたことをまだ根に持っていてね、
ローションを抜くことが我が社の至上命題だとうるさいんだよ。 そのためにはクウカイを吸収しちまうのが、一番手っ取り早いんだ」
「そうでしたか…成果の方を、期待しております」
「ああ、久兵衛君も、期待しているよ」
この日は真面目な会合であったので、乱交は抜きで解散となった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:40:04.42 ID:Z8BMx8C4o<> この夜も、鹿目家付近の電柱の陰に、暁美ほむらの姿があった。
「あ、お義母さんが帰ってきたわ。 今日も遅くまで、お勤めお疲れ様です」
ほむらは小声でそう言って、自分に気がついていない鹿目詢子にペコリと頭を下げた。
扉を開けて詢子を出迎えたのはタツヤを抱いた知久と、エプロン姿のまどかであった。
温かい家族の風景が、ほむらには眩しかった。 彼女は既に、孤独の身であったからである。
「まどか…」
まどかが最後に扉を閉め、後はほむらを独り残して、温かい家族の団欒が家の中で始まったようだった。
今日、まどかに話しかけられた。 彼女は自分の事を認識し、同じ世界の住人として、コミュニケーションを取ろうとしたのである。
それは彼女が、同じ世界のものであることを、触れることさえ出来る存在であるということを、ほむらに再認識させた。
その事実は、今までまどかを絶ってきたほむらの忍耐を、その継続の末に構築された壁のようなものを、一挙に瓦解せしめた。
そしてそれらの事実を了解したほむらは、強烈にまどかを欲しはじめたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:40:30.24 ID:Z8BMx8C4o<> しかし、壁を構築してから経た歳月そのものが、その残骸の先に茫漠たる未開の荒野を形成しているようで、
そこに歩み出すことの叶わぬほむらは、ただただ、電柱の陰で忍び泣く意外に自らの行動の可能性を見いだせなかったのである。
昨日までは、見ているだけで幸せであったのが、この先ずっと、見ているだけしか出来ぬことの絶望と、戦わねばならなくなった。
しかしほむらは、逃げることが出来なかった。 戦い続けるしか、方策がなかった。
あの時、賭けた。
まどかに気付かれなかったら、絶望して終りにしようと。 そしてその賭けは裏目に出た。
ほむらは意に沿わず生じた希望に縛り付けられ、次の日もその次の日も、来る日も来る日も、
まどかとの間に広がった距離を噛み締めながら、涙を流す因果を背負ったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:41:12.96 ID:Z8BMx8C4o<> 次の日、新社長就任を明日に控えた野比は、再び詢子と会合を開いていた。
「我々はあなたを完全に信用するまでには至らなかった。 それ故、進出は1店舗が限度でした。
我が社の現状と重ね、どうか理解していただきたい」
「いえ、動いて頂けただけでも、ありがたい事だと思っております」
詢子はそう言ったが、当初の案とはかけ離れすぎたサークル杏のアクションに、内心忸怩たる思いであった。
購入された店舗用地は3店舗分。 しかし現実に建つのは1店舗で、杏子は社長の座から引きずり降ろされるという。
野比と彼女との間にゴタゴタがあったのは確かだろう。
そして現実、サークル杏は1店舗を切り捨てることによって、クウカイとの提携という、最大の旨味を得ることが出来る決定を行った。
その立役者たるこの野比という男は、まさしく商売人であった。
しかもその必ず潰されるであろう1店舗は、杏子が自らの責任において設置運用するという。
それはつまり、最悪の場合であるが、見滝原進出失敗の責めを杏子に負わせ、正義感のある彼女を会社組織から追放し、
宗教色の薄くなったサークル杏の企業倫理観がマミリーマートのそれに近いものになるのではないかという懸念が払拭できないのである。
詢子は、してやられたかな、と思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:42:06.69 ID:Z8BMx8C4o<> 「この3つのいずれかの場所に、1店舗のみということでしたが、それでは我が社におけるほぼ最良の店舗群との競争にさらされ、
失礼ですが半年も持たないかも知れませんが、その後はどう言った見滝原市での戦略を持っているのかお教え願います」
詢子は問うたが、
「我が社の戦略を、同業他社の役員であるあなたに言う義理まではないでしょう」
予想通りの返答であった。
詢子は、クウカイ社長の、サークル杏への親書を渡すことをはっきりとためらっていた。
これでは、利用されただけではないのか――
「あなたの倫理観溢れる行動に敬意を表して、一つだけお教えしましょう」
野比の言葉に、詢子はすべての知覚を集中させるように、体中のセンサーを瞬時に彼の方に向けた。
「これから先の戦略、それは僕にも分からないのです」
集中が拡散し、眩暈のように疑問がのしかかって来る。
この男は、何を言っているのか――? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:42:51.31 ID:Z8BMx8C4o<> 「負けを知った後、当社の佐倉は、再進出か、それとも諦めると言うか…あなたなら、どちらだと思いますか?」
詢子の胸に、希望の温かみが流れこむようだった。
「私は――」
しかしそれを遮って、野比が放った言葉。
「彼女は、負けを一度も知らない人間だ。 手痛い敗北を喫したら、もう立ち直れないかも知れない。
商売人としての側面を成長させすぎ、正義を忘れてしまうかも知れない。
僕にも、こればかりは読めんのですよ。
だけどね、僕は、彼女が負けを知って成長した後、もう一度社長をやってもらおうと思っている。
僕は、自分が社長の器ではないという事は、よくわきまえているつもりだからね」
詢子は、杏子に会ったことがあるわけでは、無かった。 だが――
「私は、御社の佐倉氏を、信じます。 必ず再進出してくれるものと、確信しております。」
詢子は、その思いを託すように、弘法3世からの親書を野比に手渡した。
「何度も言いますが、それはどうか、わからないですよ」
野比の顔から、緊張がほぐれた。 初めて見る表情だと、詢子は思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:43:52.06 ID:Z8BMx8C4o<> 季節が巡り、冷たい風が吹きすさぶようになっていた。
杏子は降格して社長室付となり、数名の部下とともに新店舗設置予定の見滝原と、本社のある下部暮とを往復する日々を過ごしていた。
「社長、クウカイが合併に合意したそうです。 来年度の下半期から新会社サークル杏クウカイが立ち上がります」
杏子の下に配属された若い社員が驚喜して、長らく使われていなかった小会議室にある、彼女の平社員用のスチール製執務机の前で報告した。
「あのなあ…」
「なんでしょう、社長」
「あたし、もう社長じゃあねえんだけど…」
若い社員はうっ、と一瞬固まったが、すぐに勢いを盛り返し、
「社長は社長です! だいたい何ですか、社長室付って? 言いづらいんですよねえ…!
サークル杏の社長は、あなたを置いて他にはいませんよ!!」
さくら会宗祖の娘である杏子は、そのカリスマ性で社員たちから絶大な支持を得ており、未だに彼女を社長と呼ぶ者が後を絶たなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:44:19.35 ID:Z8BMx8C4o<> 「…じゃあ社長でいいや!」
「その意気です!」
「お前、今日から社長代理な」
「え?」
杏子は立ち上がり、社長代理を命ぜられ、唖然としている平社員を一瞥し、
「あたしは見滝原へ行く! 留守はあんたに任せるからな! 秘書を呼べ!」
命じた。
「い…いや、あの…これからクウカイの役員が本社を訪れ、合併に伴う諸々の調整の為、会議が開かれるのですが…
オブザーバーとして出席したほうがよろしいのでは…?」
「おう、そうか。 社長代理、出席の方をよろしく頼むな。 帰ったら目を通すから概要を報告書にまとめておけ」
「いや…その…あの…私は平社員ですから…役員会議は…そのう…」
「あたしだって社長室付とか言う、あって無いような身分なんだ! その代わりが平社員だろうがなんだろうが関係ないだろ!
それに今のあたしの仕事は見滝原に店舗を作ることだけだ! 分かったら秘書を呼べ!」
「は…はいい!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:44:59.41 ID:Z8BMx8C4o<>
/: : : : : : : : : :/=ミ__V\ V: : : : / l: ハ: : : : : : : : /: : : : : : : : :}
l : : : l :!: : : :〃 二ヾミ、\V: : :/ l: ! l: : : : : : : /: : : : : : : : : :!
{: ハ´l:ハ: : : / ん: . : } 〉` ゝ∨{ // !: : : : : :/j: : : : : : : : : : }
{: ハ Vヘ: : { _{‐し: ソ ∨`ー--/─/:-:、:_/ l : : : : : : : : : :,′
∨ !∨ ヽ:{ ` ‐´ テ二/=≦ノ`ヽ: : : : : : : : : :l お前、社長代理な
!: { V // ん: : :ィ´ ヾz/:/: :/: : : : : : !
Vハ ´ {‐:し :リ / /:/: :/: : : : /: :/
Vハ ┌v-- _ `'ー'く /:イ: :/: : : : //:/
l: : :\ { `ーv┐/ / / / /://:/: : : : //:/
l: : : : :\ ` 、 ノ /:/7:/: : : : イ レ′
/: : : : :l : :\  ̄ ̄ /´ /:/: : /: l
l: : : : : ハ: : l-\ _ .ィ:ー‐/: : /: : : {
/: :/: : :l V:′  ̄ ̄ / ̄ ̄ ̄|:l: : !: : /:/l: : : : : {
/: :/⌒i⌒ノ {⌒ヽ、 V: : l : ´: l : !: : : : :|
/⌒\/ ヽ く \/ ヽ 、/⌒ヽ : : : : : : : ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:45:44.25 ID:Z8BMx8C4o<> 期せずして社長代理になってしまった平社員が出ていった後、少しして杏子の妹が入ってきた。
「なあに…お姉ちゃん…?」
「見滝原に行く。 ゲルトルートホテルを、一週間予約してくれ」
妹は、少し咳き込んだ後、
「分かりました…」
弱々しく言った後、出て行こうとしたのを、杏子が呼び止め、
「そうだ、現地の社員たちに激を飛ばすための、スピーチの草稿を作ったから、チェックしておいてくれ。
そんで店舗の建設を視察した後、さくら会でも少し仕事をしよう。 りんご園も見に行きたいから、時間をやりくりしとかないとな。
現地の奴らと調整し、明日までにそれらのスケジュールを組んでおいてくれよな」
「…分かりました…」
妹がふらふらと部屋を出た後、杏子は出張の準備に取り掛かった。
杏子は降格されてからも衰えを見せるどころか、更にワンマンぶりを遺憾なく発揮するようになり、毎日がこの調子であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/06(水) 19:47:07.17 ID:Z8BMx8C4o<> 今日はここまで。
次回は「第八章 激動」
今日はAA挿絵忘れなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/06(水) 19:49:24.93 ID:rTNgFmyJo<> 乙!
あ、これ挿絵なんだ…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/06(水) 21:04:25.01 ID:/o18g5/xo<> 乙っちまどまど!
なるほど、はじめはこんな再開なのね……
さて、これからどうなるかな〜 <>
1<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:51:22.35 ID:vOL+EVpUo<> 愛知県から引越し出来ますように
七夕なので、願い事書いてみた。 投下する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:51:55.06 ID:vOL+EVpUo<> 第八章 激動
「ばっかもーん!!」
クウカイとの合併交渉に失敗し、手ぶらの帰社をした穴子に、耳がキンキンと痛むほどの波平の叱責が襲いかかった。
「穴子君、君は一体何をしに京都まで行ったのだ? 寺でも観てきたのかね?」
穴子は脂汗に溺れそうになりながら、
「申し訳ありません…」
震える声で謝罪した。
「クウカイとの合併が白紙に戻った今、わしが社長在任中に、ローションを抜く手立てはあるのか?」
なじるような波平の質問に、穴子は内心、そんな事知るか、と思いながらも、
「…全力を尽くす所存です…」
あくまで低姿勢で応じた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:52:22.48 ID:vOL+EVpUo<> 「だいたい、我々より格下のサークル杏に合併話を持っていかれるなど、どういう事なんだね? 京都であった事を説明したまえ!」
波平が興奮を抑えこむように腕を組み、革張りの椅子にふんぞり返りながら、言い放った。
「いや、もう、どんなに圧力をかけても、ただのらりくらりとかわし続けられ、ある日突然合併はサークル杏とすることになったと言われ…」
「ばっかもーん!!」
穴子のしょうもない報告に、また波平がぶち切れた。
その後、30分以上に及ぶ波平の小言を聞き流しながら、穴子は京都で自分が舐めた屈辱の味を反芻していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:52:55.20 ID:vOL+EVpUo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:53:47.42 ID:vOL+EVpUo<> 穴子がクウカイ本社に到着して感じたのは、この企業を説き伏せるのはちょろいものだろうという楽観であった。
経営が行き詰まっているクセに、どこにも緊張感が感じられなかったのである。
それは問題が解決したか、ただ単に企業自体が無能の集まりであるかのどちらかであることを示している。
勿論問題が解決したなどという情報はどこにもなく、クウカイという会社の成り立ちを考えると、
日本全国にあり、壇家から無尽蔵にカネを搾り取る寺がバックに付いているという一見、安定型の体制であった。
それに甘えきり、無能の集まりになっているからこそ、
経営は火の車であり、同業他社が吸収の機会を狙っている状況にあるのだということが、恐らく飲み込めていないのであろう。
「マミリーマート、専務取締役の穴子です」
「よう来はりましたなあ、粗茶でもいかがどす?」
応じたのはクウカイの専務、智泉3世であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:54:24.93 ID:vOL+EVpUo<> 「お茶なんか出している余裕がおありですかな?
聞いたところによると、あなた方のチェーンの経営はかなりの行き詰まりを見せているとかで、
もうそろそろ、我々のような大会社の軍門に下ることも、念頭においておいたほうが賢明であると言うことですがねえ」
穴子の脅しとも言える忠告であった。会談ののっけからこのような重い話題を浴びせかけると、大抵弱い会社はグロッキーするのである。
しかし、
「まあまあ、そうビジネスの話ばかりではお疲れになりますやろ。
宇治茶の上質なのがありますよって、
今、たてて差し上げましょ。 しばしお待ちいただけませんですやろか?」
智泉3世は穴子を茶室に案内し、手順に従ってゆっくりと抹茶をたて、穴子が一気に飲み干すのを待ってから、
「それでは私は所要がありますので」
と言って、次回の会談の日程と場所を一方的に押し付け、居なくなったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:55:19.62 ID:vOL+EVpUo<> それからは、寺巡りであった。
珍念とか言う案内の坊主と、智泉3世とが穴子を会談と称して著名な寺に連れ出し、
珍念のガイドで、まるで観光さながらであった。
穴子がビジネスの話を持ちかけると、
「そんな話より、この大層美しい庭をみてみなはれ――」
と、そんな具合であり、一向に話は進まないのであった。
そんな時である。 サークル杏社長となっていた野比と出会ったのは。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:55:57.70 ID:vOL+EVpUo<> 「これはこれはマミリーマートの穴子専務。 サークル杏の野比です」
苔寺とか言う、ジメジメした寺を観光していたときのことであった。
穴子は同業他社の社長が直々に京都入りをしていたことに驚いたが、何とか平静を取り繕って、
「おやあ…サークル杏の野比社長、あなたもクウカイを欲しがっているのですかな?」
聞いたのだが、
「僕はただの観光ですよ」
あっさりと流されたので、毎日の寺巡りでストレスが溜まっていた穴子は、格下の会社をいじめてやろうと、
「そういえば君のところはあの杏子ちゃんとか言うガキを社長から下ろしてから、ずいぶんマトモになったみたいじゃないかねえ?
僕達もうかうかしていられないよねえ…さっさとクウカイを吸収して、無謀にも見滝原に進出するという君たちサークル杏を迎え撃つ体勢を取らなきゃあねえ…」
嫌味たっぷりに牽制をしてやった。
穴子は自分たちのところが手こずっているのだから、格下のサークル杏がクウカイをモノに出来るなどとは、露程も思っていない。
それにサークル杏の母体はキリスト教系の新興宗教団体であり、
仏教系であるクウカイとは、最も近付きづらい組織であるという考えもあった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:56:38.14 ID:vOL+EVpUo<> 「ほう、あなた方がクウカイを吸収するのですか! それは羨ましい限りだ! 僕達じゃあ、吸収なんてとてもとても…!」
今になって考えて見れば、野比は大袈裟に驚いた格好をし、そう言ったのだが、大規模な企業の後ろ盾を得、有頂天になっていた穴子は、
「ハハハッ、サークル杏とは規模が違うよ、君ぃ!」
傲頑に笑い飛ばし、言い放ったのであった。
野比はマミリーマートさんにはかないませんなあ…とか言って恭しく一礼し、消えていった。
穴子は格下の会社を虐め、交渉が全く進まなかった今までの鬱憤が少しでも紛れたのに気を良くし、
寺を見物してから、帰路の車内で吸収を断るなら倒産しかないと坊主を脅し、ホテルに帰ったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:57:19.43 ID:vOL+EVpUo<> ホテルに付いて、シャワーを浴びていたら、携帯が鳴った。
「もしもし、穴子だが」
「穴子専務ですか? クウカイ吸収合併の話ですが、どうなっています?」
久兵衛であった。 彼らしくもなく、焦っているようであった。
「まあ、京都流の、のらりくらりと結論を伸ばすやり方にてこずってはいるが、どうしたんだい? そんなに慌てて…」
「サークル杏が、クウカイとの合併を画策しているらしいんです…」
穴子は、京都に来ていた野比のことを考えて背筋が凍るような思いをしたが、藁にもすがる思いで、
「そんな事ってあるのかね? キリスト教系の奴らが、仏教系のクウカイと合併などと、馬鹿な事が…」
ひきつる顔を何とか作り替え、形ばかり笑い飛ばしたが、
「どうもこの合併話に、鹿目常務が一枚かんでいるらしいのです。
見滝原進出の見返りに、クウカイと結びつける…ありえない話ではないと思います」
トドメのような久兵衛の言葉に、穴子の血の気が引いていくようであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:58:04.25 ID:vOL+EVpUo<> その後、すぐに車を飛ばしてクウカイ本社を訪れ、社長である弘法3世を問い詰めると、彼は当たり前のように、
「合併はサークル杏さんとすることにいたしましたわ。
彼らはあんたがたと違い、新しい店舗名にクウカイの名を残してくれはるし、
なにより京都、奈良など我々のお膝元の店舗は、サークル杏の名前を出さずに、
今まで通りクウカイとしてやっていけるとまで言ってくれはったんやから、ありがたい事ですわ」
穴子は、目の前が真っ白になっていく己の視界に、平衡感覚をぐらつかせ、その場にヘタリ込んだ。
「おやおや、お客さん、お茶でもいかがどす?」
ぶち切れた穴子は、場所もわきまえずに「要らん!!」と叫んで、ホテルに戻り、
「くおおおおおおっ!! 畜生!! 畜生!! ちーくしょーう!! 鹿目えええええっ!!」
合併がうまく行かなかったのは自分が完全体では無かったからだと、キャラ違いの自責にかられ、
自室で転げ回りながら、詢子への怨嗟を呻き通したのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:58:36.57 ID:vOL+EVpUo<> ___ _ └,' //、 l,;;;;;;;、 l\ \,.、;;;;;;;;;;;゙, `、
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 19:59:30.62 ID:vOL+EVpUo<> 穴子は見滝原に帰ると、社長に会いに行く前に、すぐさま久兵衛と接触を持った。
「情報が遅れてしまい、申し訳ありませんでした」
久兵衛は狼狽しきっていたが、穴子は彼を叱責する気にもならなかった。 それより気になっていたことは、
「僕はこの失敗で降格になるのかね?」
と、自らの保身であった。
「それに付いては僕や河豚田専務が根回しをしておきます。 それより鹿目常務の事は、社長には言わないようにしたほうがいいでしょう。
彼女への報復は、今夜料亭で、僕らの秘密会議で話し合うのです」
「当然僕もそのつもりだよ。 会社の決定事項は料亭での秘密会議後に、漸くあの老害に下ろすことにしているんだ。
身内が他社に塩を送ったなどと言うことを社長に話すと、大袈裟に騒ぎ出したりするかも知れない。
そんな無様なところや、役員から裏切り者が出るような社内の状況を新聞記者なんかに嗅ぎつけられたら、
我が社の株価はどうなるか分かったもんじゃないからね」
それだけ確認をすると、久兵衛は頷いて、穴子を社長室に押しやったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:00:23.15 ID:vOL+EVpUo<> 「久兵衛さんですね?」
穴子との話し合いを終え、今回の事態の火消しに走り回っているとき、
後ろから自分を呼び止める声に振り返ると、最初に視界に飛び込んできたのは警察手帳であった。
「おやおや、可愛い刑事さんが、僕に何の用だい?」
「見滝原署性犯罪担当の暁美と言います。 少しお話がしたいのですがよろしいでしょうか?」
久兵衛は穴子の保身のため必死だったが、気を取り直し、警官に声をかけられている状況に有り得ない程のリラックスモードで、
「デートのお誘いなら、喜んで」
陰茎を勃起させ、ニヤニヤしながらそう答えた。
「デートでもなんでも構いませんが、質問に答えていただけますね?」
ジョークの通じない女刑事の顔を見、久兵衛は歳に似合わぬその冷たい目から、この女は人を殺したことがあるな、と、気が付いた。
性犯罪担当の若い警官が人を殺したとなると、その相手は変態紳士しかいない。
捜査の手が回ってきたのだと、久兵衛は思ったが、だからどうなるものでもなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:01:06.41 ID:vOL+EVpUo<> 「はいはい、何ですか?」
久兵衛は余裕をぶっこいてあくび混じりにそう答えた。
「マミリーマートでの常軌を逸した時間外労働と、労働者が服用しているジーエス、と呼ばれている薬剤についてお聞きしたいのですが」
「僕は知らないね」
ポーカーフェイスで即答した久兵衛だったが、
「滝ノ台中条店の店長から、あなたが20時間労働の契約をアルバイト店員と交わし、錠剤を渡していたという供述を得ておりますが」
暁美巡査も無表情で応答した。
久兵衛は滝ノ台中条店の、気の弱そうな店長の顔を思い浮かべ、
今夜にも、リンチした後おもりを付け、港に沈めてカニの餌にしてやろうと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:01:52.76 ID:vOL+EVpUo<> 「全く身に覚えが無いねえ…僕みたいなスーパーバイザーは、雇われ店長どもにずいぶん忌み嫌われているからね。
連中、何かマズイ事があるとすぐ僕らの名前を出すんだ。
僕らも本社では下っ端扱いでねえ、ずいぶん苦労しているっていうのに、酷い話だと思わないかい?」
同情を誘うように言った久兵衛の言葉を無視し、暁美巡査は、
「とにかく、詳しく話を聞きたいので、署まで同行願います」
任意同行を求めたが、久兵衛は、
「僕も忙しくてねえ…署まで来て欲しいんだったら、ちゃんとした令状なり書類を揃えて来てくれよ。 それが出来るなら、だけどね」
余裕たっぷりにそう答え、悠々と歩いて行った。
ほむらはその様子を見、コイツが一枚かんでいるに違いない、と確信した。
変態紳士はほむらが殺処分した3例目からぷっつりとその出現を途絶えさせていたが、
3例を調査し、その全てがマミリーマートのアルバイトであることを突き止め、
ほむらが独自に動いた結果、滝ノ台中条店店長がゲロし、今日、久兵衛にたどり着いたという次第だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:02:54.85 ID:vOL+EVpUo<> 「暁美君、君、今日マミリーマートの社員に任意同行を求めたそうじゃないか」
ほむらが署に戻るなり、ボスに呼びつけられ言われたのがこの言葉だった。
ほむらは、ついさっきのことを何で知っているのかと、不気味な不自然さを感じた。
「変態紳士の事件に当該社員が関係していると思い、話を聞いてみようと…」
「熱心なのはいいが、そう言うのはねえ…謹んでもらわないと」
ボスは責めるような口調と態度を持って、ほむらを圧した。
「しかし――」
「こういう捜査はね、腰をすえてやらねばならない。
我々も裏付けを進めていたのだが、今日君が独断で動いてしまったことにより、それが相手に知られてしまったかも知れないんだよ」
反論を遮られ、叱責された内容に、ほむらは一理あると思った。
ボスに対する、申し訳ない気持ちと、自分の軽はずみな行動を後悔する気持ちが混ざり合い、
ほむらは自分が小さくなっていくような気分だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:03:34.44 ID:vOL+EVpUo<> 「申し訳ありませんでした。 以後、このような事が無いよう、気を付けます」
「まあ、君が熱心なのはいい事だ。 問題はそれが行きすぎてしまったという所にある。 つまり、誰も悪くないのだ。
というわけで今後は、きちんと足並みを揃えるために、捜査に関しては僕の指示意外では動かないようにして欲しい。 いいね」
なにか処分があるかと肝が冷えたが、寛大なボスの言葉に、ほむらは彼に対する尊敬の念が温かく胸の内に生じるのを感じていた。
「了解しました。 今回の件を報告書にまとめてありますので、ご一読下さい」
ほむらは報告書のデータが入った記憶媒体を、ボスの机に置いた。
「分かった。 これからも頑張ってくれ。 君には大いに期待しているからな」
ほむらはこみ上げる嬉しさに、顔が綻ぶのを必死に堪えながら一礼し、ボスのデスクを離れた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:04:14.43 ID:vOL+EVpUo<> マミは、マンションに帰るとすぐ、紅茶を淹れ、独りぼっちで飲み始めた。
しかし、焦りのような、緊張のような、胸を締め付ける悪い予感に味も香りも相殺され、一口すすった後は、
ただただ、その琥珀色の温もりが次第に冷めていくのを眺めているだけであった。
潰れそうな胸に溜め息で抗うが、そのたびにのしかかる重苦しい沈黙と虚しさに、夕暮れ時の外の景色のように、心が暗く沈んでいく。
今日、久しぶりに本社の監視員が店の様子を見に来たが、それは久兵衛ではなかった。
その時胸に植えつけられた何かが、マンションに帰り、独りになった瞬間に芽を出し、胸を締め付けながら成長していくようであった。
久兵衛はどうしたのだろうか?
――転勤? ――配置換え? それとも――何?
誰も答えることが出来ない疑問は、心を沈める重みとなって沈殿していく。
そして自分が久兵衛のことを全く知らないのだという事実が、さらなる重みとなって、のしかかる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:04:52.78 ID:vOL+EVpUo<> 寂しいのは、いつもだった。
家に帰れば、いつも独りだったからだ。
しかし久兵衛が居なくなってしまったかも知れないという事実がそれに加わると、
世の中そのものに捨てられたような、孤独以上の、絶望が襲ってきたのだった。
それは親戚に体を売るように言われたときの、あの絶望と等質であった。
マミは昨日、看板娘を辞める手立てを見出した。 それを今日、来るはずだった久兵衛に伝えようと思っていた。
さやかの友達で、鹿目まどかと言ったか――彼女こそ、看板娘にふさわしい逸材だった。
人事のことは店長に相談すればいい筈だったが、何故か言えなかった。 久兵衛でなければいけない気がした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:05:32.90 ID:vOL+EVpUo<> 契約の時、久兵衛が言ったのだった。 男っけがあると、看板娘としてはあまりよくないと。
それは器用な方ではないマミにとって、看板娘で居続ける限り、異性とは付き合うことが出来ないという事に等しい条件であった。
だが、代わりが見つかった――そう伝え、異性との付き合いが可能になった自分を見て、久兵衛がどういう反応をするのか、見てみたかった。
見てどうするのかはわからなかったが、とにかくそうしたい衝動がマミの中に凄まじかった。
しかし、久兵衛がいないとなれば、それは叶わないのか――そう思うとまた、急速にすべてがヤケクソに堕するような絶望に襲われる。
――でも、と思う。
でも、明日は来てくれるかも知れない。 何事も無く、いつもの久兵衛が、ひょっこり現れるかも知れない。
今日来られなかったのもきっと、風邪を引いたとか、そんな理由だろう。
どうして今日、久兵衛の代わりに来た監視員にそれを聞かなかったのだろうと思う。
そして明日、店長に久兵衛のことを聞いてみようと思う。
それを聞いたら、安心出来るはずだ。
マミは、いつの間にか流れていた涙を拭って、冷めた紅茶を飲み下した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:06:03.99 ID:vOL+EVpUo<> 夜、いつもの料亭で久兵衛を除く役員達が、会合を開いていた。
「久兵衛君は、何故遅れているんだい?」
「野暮用、って言っていたけど…」
社長から叱責され、その怒りが尾を引いている穴子の問いに甚六が答えたが、その後はまた、沈黙が場を支配した。
彼らもまた、久兵衛を待っているのであった。
彼が来ないと、話が進まない。 最早久兵衛の存在感は、そこまでになっていたのであった。
障子の開く、音。 一同の視線が吸い寄せられた。
「やあ、待たせたね。 始めようか」
「久兵衛君、今日の遅参は――」
噛み付くような、穴子の問いを遮り、
「今日、刑事にいろいろ聞かれてね、その後始末さ」
久兵衛の放った言葉に、一同が緊張した。
「事情聴取されたのかい?」
甚六が、ありえない、というふうに問うたが、久兵衛はまあそれはおいおい、と言って、話題を変えた。
「まあそれはおいおい…伊佐坂常務、一連の動きについて、説明をお願いしますよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:06:36.99 ID:vOL+EVpUo<> 甚六が、一息付いてから、報告を始めた。
「サークル杏進出について、それからあそこがクウカイと提携したことについて、
それらはすべて、鹿目常務の手引きであることが判明してしまった」
それを聞いた一同は、苦虫を食わされたような顔つきになった。
「鱒雄さんに調べてもらったところ、鹿目詢子が常務昇進を果たした一昨年からとりあえず去年まで、彼女が休暇を取った日を精査したところ、
その理由に家族旅行、とあるのが6日分あったが、
見滝原中学校に問い合わせたところ、彼女の長女はいずれの日も登校していることが判明した。」
「つまりズル休みだったということさ」
鱒雄がいつもの調子で、ニコニコと注釈を入れたが、それが場を和ませるには、雰囲気は悪すぎた。
「それでね、僕の方で鉄道会社から防犯カメラの映像を、
警察経由で借り受け、チェックしてみたところ、どんぴしゃり、鹿目常務が写っていたんだ。
彼女は一人で京都行きの新幹線に乗り、京都駅で降りているところまで確認出来た。
なんと彼女は、ズル休みを使って、泊り込みで1回、日帰りで3回、京都に行っている事が判明したんだよ!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:07:25.79 ID:vOL+EVpUo<> 甚六が興奮気味に続けようとしたが、それを勝雄が遮り、
「僕の方でサークル杏を探ってみたところによると、見滝原進出も、合併話も、うちの役員が手引きしたという事だった。
その時応対したのは当時専務だった野比のび助ただ一人で、
彼と接触したといううちの役員については彼以外誰も知らないみたいだったけど、もうそれが誰なのかなんて考える必要も無いよね」
腹立たしさを顕に、言った。
「それは僕の方で調べた事柄とも一致し、すぐに京都出張中の穴子専務に情報を流したんだけど、
結局、既にサークル杏とクウカイは合併に関する話し合いを完了させていて、専務には無駄足をさせてしまいました。
先の会合の際、専務がカンを働かせ、鹿目常務が怪しいとおっしゃったとき、
彼女を拉致監禁し、リンチしてでも吐かせていたら状況は違ったものになっていたかも知れないのに、
僕の中にも、まさか身内がそこまでするはずがないという甘い考えがあり、こんなことになってしまった。
これは僕のミスでもあり、穴子専務には多大な迷惑をかけてしまった。 それについて、深くお詫びいたします」
久兵衛がそう言い、深々と、穴子に頭を下げた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:08:03.12 ID:vOL+EVpUo<> 「それで、これから一体、どうするのだね?」
穴子も、自分の保身のために動いてくれた久兵衛には辛く当たることが出来ず、興奮を抑えつけるように言うと、久兵衛は面を上げ、
「その前に、少し話題が脱線しますが、よろしいでしょうか?」
問うたが、穴子はその無表情を一瞥し、取り繕うような威厳を持って黙殺した。
久兵衛はずぶとい神経でそれを肯定と受け取り、穴子に謝っていた先程とは打って変わったおぞましい表情を作り、続けた。
「実は今日、可愛らしいデカに任意同行を求められましてねえ…
何でも滝ノ台中条店の店長がぶっ続けとグリーフシードについて、その女刑事にゲロしたらしくてですねえ…
適当にあしらって、その後天下りの社員に連絡して、見滝原署の方に釘を刺してもらっておいたから何とか大丈夫でしょうが、
流石にこう言う事はちょっと困るので、伊佐坂常務、今度からは口の堅い人間に店長をやってもらうようにしないと、困りますよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:08:44.33 ID:vOL+EVpUo<> 久兵衛から脅しを掛けられた甚六は、緊張した面持ちになり、
「ああ、分かった。 滝ノ台中条店の店長にも、よく言っておく――」
「その必要は無いね」
話を遮られ、えっ? と、停止した甚六に、ニヤリと不気味に顔を歪めた久兵衛が続ける。
「滝ノ台中条店店長ね――彼、もう居ないから」
一同の顔が、青ざめて引きつった。
「…どういう事かな…?」
何とか口を動かし得たのは、勝雄であった。
「今頃は港の底で海の生き物達の餌になっているんじゃないのかな?」
その一言に、再び冷たい緊張が広がった。
先程久兵衛に対し、尊大に構えていた穴子すら、土のような顔色に、脂汗の玉を浮かべている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:09:37.34 ID:vOL+EVpUo<> 久兵衛は事の重大さを、役員達が飲み込んだのを確認してから、また語りだした。
「いいかな、僕達は、はっきりとヤバいことをやっているんだ。
天下りを受け入れたから大丈夫とか、そういうデタラメは、もうやめたほうがいい。
僕の方でグリーフシード代謝物質の解毒剤を開発し、今のところ発狂する社員は居なくなったが、
解毒剤使用後の個体は体が弱っているのか働きは鈍くなるんだ。 それに非正規労働者は使い捨てが一番だから、
サークル杏の事が一段落したら、この解毒剤、使うのを止める事にするよ。
そうなった時、警察がいつ、牙を剥いてくるか分からない。 今日のデカみたいのも居るしね。
さっき天下りパイプを通じて情報を仕入れたところ、あのデカはよほど嗅覚がすごいらしくてね、だいたいのスジは掴んでるみたいなんだ。
天下りどうこうと言っても、証拠を押さえられてしまえば、パクられるしか無いからね。
何が言いたいかというと、グリーフシード関係の組織は会社から離し、僕の方で一手に引き受けるようにする、ってことさ。
僕ならカタギじゃないから、警察のあしらい方も慣れているからね。
その上で、会社はそのサポートという形で、天下りなり、何なりで警察や役所をなだめておいて欲しい」
一息付いて、久兵衛が座をぐるりと見渡すと、静寂の中に各員がゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
確認するように穴子に顔を向けると、小さく頷いて、久兵衛がグリーフシード関係を一手に引き受ける話を、肯定しているようだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:10:57.81 ID:vOL+EVpUo<> 会社としても、スキャンダルの種を抱えているより、久兵衛のような一個人に押し付けてしまえるならそうしたい話だった。
抑えていたはずの警察が動いたとなれば、尚更である。
「異論は無いようだね。
それでは、天下りの人脈を活用し、発狂者の駆除だけは、警察にやってもらえるよう、お願いしてもらえるかな?」
それを聞いた甚六が乾いた声で、分かった、と言った。
「それで、本題なんだけど――」
一同が、久兵衛にヒリついた視線を向ける。
「――鹿目常務の事は、我慢の限界だ――」
久兵衛はそう言って、ニッコリと微笑み、彼女に対する報復の決定を、おぞましい言葉にし、周囲にばら蒔いた。
今更ながらに実感した、自分たちの罪に圧倒されている役員の誰もが押し黙り、彼に対して異論を唱えるものは、一人として居はしなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:11:47.53 ID:vOL+EVpUo<> 次の日、杏子は見滝原に到着して、すぐに雑居ビルの一室に構えている現地事務所に顔を出し、数名の社員たちに演説をぶちあげた後、
来年早々にオープンする予定の、店舗の建設を視察していた。
「すごい…もうほとんど完成しているのね」
妹が寝不足の、色の悪い顔に精一杯の喜びを浮かべ、言った。
「おう、本来は3店舗で協力し、マミリーマートの客を分散させる方針だったが、
設置可能なのが1店舗だけとなると、他店と少し離れている、緑ヶ丘店と競合するこの場所しか無かった。
ぐるりと車を巡らせてみたが、利便性はマミリーマート緑ヶ丘店より、このサークル杏見滝原店の場所のほうが断然いい。
何とかいい勝負になるとあたしは踏んでいるんだがな…」
杏子は腕を組み、自らが発案した最良の方針である3店舗同時進出は出来なかったものの、与えられた条件の中でアイデアを振り絞り、
その結果、決定したこの1店舗で、充分な勝負ができる筈だろうという不確かな自信を、何とか裏打ちし、自分に言い聞かせるように言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:12:31.63 ID:vOL+EVpUo<> 「いやあ、なんだろうね、この宗教っぽい色使い…この街の景観とは相容れない、おかしな建物が出来上がるみたいだねえ…」
周囲の人間に聞かせるような、大げさな声が上がった方を見ると、色白な、あくどい顔をした青年と目が合った。
彼は杏子たちを確認するなりニヤニヤしながら近寄ってき、
「君たちかわいいね。 僕と契約して、マミリーマートのアルバイト店員になってよ」
杏子の事を知ってか知らずか、ぬけぬけと言った。
「あたしら、あんたの言うこの宗教っぽい色使いのおかしな建物の関係者でね…」
杏子が妹をかばうようにし、その男を睨みつけ、押し戻すように言うと、男は大げさな身振りで驚愕を表し、
「ほーっ! それじゃあ君が、この見滝原に進出するという無謀な決断を行ってサークル杏社長を下ろされた蛮勇、佐倉杏子氏だね?
いやはや、経済誌の写真で見るよりさらにお美しかったものだから、気づかなくてねえ、申し訳ありませんでしたねえ…」
杏子の無能っぷりをその美貌と対比させ、周囲に披瀝するように大声を出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:13:21.63 ID:vOL+EVpUo<> 「うるせえ! 無謀かどうかは、結果を見ねえとわからねえんじゃねえのか?」
思わず大声を上げた杏子に、胸に久兵衛というネームプレートを付けたその青年はまた大げさなジェスチャーで身を縮め、
「ヒイ! 怖い怖い…社長を下ろされて、イライラしているのは分かるけど、八つ当たりされちゃあ敵わないねえ…」
そう言って、こそこそと逃げていった。
「何だ、あの胡散臭そうな野郎は…」
杏子はそう言って視察を続けたが、一介の平社員でしかなさそうな久兵衛に、
まるで重役のような存在感が感じられるのが不気味でならなかった。
「お姉ちゃん…私あの人…怖い……なんか、ヤクザみたいじゃない?」
杏子は妹のその言葉を黙殺したが、その脳裏には、昔、さくら会が小さな新興宗教団体でしか無かった頃の記憶が蘇っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:14:05.28 ID:vOL+EVpUo<> 教会に逃げこんでくる人々――その多くは、金銭の悩みを抱えており、彼らの後を追うように、決まって借金取りのヤクザ者が教会を訪れた。
杏子の父は、ヤクザを決して中に入れず、借金まみれの者たちを匿い続け、
彼らに施しを与え続けていたから、みるみる教会は貧乏になり、杏子の一食がリンゴ半個の時もあったほどであった。
空腹に加え、昼夜を問わず押しかけてくるヤクザの荒々しい声に、杏子も妹も疲れ、怯えきっていたのだった。
妹も、その時のことを思い出しているに違いなかった。
いつしか杏子の感じていたそのひもじさや怯えは、怒りとなって弱い者いじめをするヤクザ者たちに向けられていったのである。
「あんなのが跳梁跋扈している状況なら、マミリーマートが悪の企業だってのも頷けるな。 ことさら許せねえぜ。 全力でぶっ潰す」
「お姉ちゃん…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:14:55.38 ID:vOL+EVpUo<> 心配そうな視線を向ける妹に、杏子は安堵を促すように微笑みかけ、
「さくら会は、いつも弱い者たちの味方だったじゃないか。
そのさくら会が母体となったあたしらサークル杏が、悪の企業を打ち砕かなくてどうするのさ?
あたしらが見滝原を見捨て続けていたら、さくら会までもが冷たい団体だって思われちまう。
だからあたしらはここに来るしか無かったのさ。 野比達は単なる商売人だから、そこら辺が分かってねえ。
あいつらが進めているクウカイとの合併もいいけどさ、その前に、サークル杏最後の仕事として、この進出だけは、何とか成功させなきゃな」
キッパリと、自らの想いのほどを宣言した。
「うん、頑張ろうね」
妹は表情をほころばせてそう答えたが、内心では正義にこだわりすぎ、社長の座を追われ、ヤクザ者の脅しを受け、
荒れ狂う風圧にたった独りで揉まれているような姉が痛々しく、どこまでも心配であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/07(木) 20:15:54.16 ID:vOL+EVpUo<> 今日はここまで。
次回は「第九章 報復」
ああ、会社辞めてえ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/07(木) 21:05:36.55 ID:c9DvyDEYo<> 乙っちまどまど!
まどママやべぇ…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/07(木) 23:01:03.93 ID:nAilBGrzo<> 乙あん
ママさん逃げて超逃げて <>
1<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:44:56.81 ID:aFtyudIGo<> お買い物してたら遅くなった…それじゃあ再開。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:45:35.80 ID:aFtyudIGo<> 第九章 報復
ほむらは、先程パトロール終了の報告をし、今日も独り、まどかの家を電柱の陰から監視中であった。
「まどか…良く見えないわ。 今日は何をしているのかしら?」
部屋の中に居るまどかは、時々動いているのがカーテン越しの影となって確認できるが、
覗きに使うカーテンの隙間は狭く、位置取りが少しでもズレると、
このようにもぞもぞ動く影だけでは何をしているのかわからないのであった。
隣の電柱に移動し、角度を変えてカーテンの隙間からまどかの行動を確認しようと、ほむらが動きだそうとしたその時、
黒塗りのセダンが鹿目家前に停止し、中から素早く、黒ずくめの男2名が飛び出してきた。
「…何かしら!? お客さんにしては変だけど…」
男が二手に分かれ、一人が裏口に向かったとき、ほむらはゾクリと冷たい感覚に震え、駆け出したい衝動に駆られたが、
『もう家には来ないでくれるかな』そう言った鹿目知久の言葉がほむらの筋肉に制動をかけ、彼女は一瞬、行動を遅らせた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:46:15.73 ID:aFtyudIGo<> 男の一人が玄関のチャイムを鳴らした。 ほむらはそれを見て、漸く駆け出した。
男がインターホンのマイクでなにやら言っているのが見える。
すぐに扉が開き、出てきたのが知久だったのを見、ほむらの動きがまた、鈍った。
男は懐から何かを取り出し、知久は唖然とそれを眺めていた。
ほむらの中の、嫌な予感が形を作った。 冷たい、鉄の形。
間に合わないと判断し、「危ない!!」と、ほむらが叫んだ瞬間に、
プシュッ、とガスが抜けるような音に、シャコーン、と、ブローバックの機械音が重なりあう、
サイレンサー付き自動拳銃の発砲音が響き、知久は支えを無くした人形のように倒れこんだ。
ほむらはホルスターから、変態紳士駆除用に支給された、サイレンサー付き自動拳銃を取り出し、
彼女の声に驚いたように振り返ったその黒ずくめの男に、躊躇なく鉛弾を撃ち込んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:46:53.47 ID:aFtyudIGo<> 「お、お巡りが居るなんて、聞いてねえぞ!!」
その声に振り返ると、黒セダンの運転手であろうチンピラが、ヒイ! と言ってそのまま車を発進させ、逃げていった。
言い争うような声がし、ほむらがしまった、と思い、急いで鹿目家に侵入したとき、ダイニングルームから、
サイレンサーに火薬音を消され、ブローバックの音だけになった発砲音がカシャン、カシャンと二発、聞こえた。
ほむらがダイニングの扉を開け放つと、仲間だと思ったのか、黒ずくめがニヤリと彼女を見上げた。
その顔がほむらを認めて引きつった瞬間、彼女の体に響く反動とともに、黒ずくめは絶命していた。
「お義母さん!! タツヤくん!!」
ダイニングでは詢子と、タツヤが血みどろで倒れている。
生存が絶望視されるとほむらが判断した時、倒れた詢子がううっ…と、転がるのが見え、ほむらは彼女の方に駆け寄った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:47:19.55 ID:aFtyudIGo<> 「お義母さん! 大丈夫ですか!?」
詢子は薄目を開け、震えながら血に濡れた胸を抑え、ぎこちなく呼吸をしていた。
「…タツヤは…」
「タツヤくんは、大丈夫ですよ!」
とっさに衝いて出た嘘であった。 詢子はそれをはっきりと感じ取ったらしく、
「あんた…嘘が下手だねえ…」
最期の力を振り絞るように、引きつった笑顔を作った。
そして、首にかけられていたペンダントを引きちぎり、震える手で、それをほむらに差し出した。
それが何かはわからなかったが、ほむらは反射的に両手で詢子の手を包みこみ、頷いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:47:45.87 ID:aFtyudIGo<> 「…あんた…警察だろ…? ホントは…信用出来ないけどな…嘘が下手な奴に…悪い奴は…居ない…から…」
詢子はそう言って、大きく溜息を吐いた後、
「まどか…」
娘の名を呼び、ゴボリと血を吐いてこと切れた。
「…まどか!」
ほむらは署と救急に連絡して2階に駆け上がり、まどかの部屋の扉を叩き、
「警察です! 大丈夫ですか!? 開けてください!!」
そう叫んだが、一向に返事はない。
ほむらはまた寒気に震え、それに抗うように、思い切って扉に体当たりを掛け、開け放った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:48:37.08 ID:aFtyudIGo<> 「…まどか…!」
まどかのベッドが膨らんで、震えている。
ほむらは駆け寄って、布団を被っているまどかを優しく撫でたが、彼女はビクっと体を硬直させ、さらにガクガクと震えだした。
「まどか…私よ…暁美ほむらよ…あなたを助けにきたの…」
ほむらが優しく語りかけると始めて、まどかは涙に濡れた顔を恐る恐る布団から覗かせ、
「ほむら…ちゃん…?」
と、反応してくれた。
「そうよ、暁美ほむらよ。 警察官になって、あなたを助けに来たのよ」
安心させるようにそう言うと、まどかは無念そうに目を閉じ、涙を頬に追いやって、うっうっ…と嗚咽し、
「ほむらちゃん…パパが…パパが…」
と、また泣き出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:49:11.56 ID:aFtyudIGo<> ほむらはまどかのその様子に、見てしまったのか…と、辛い気持ちに襲われた。
自分が、楽園追放事件の事にこだわって行動が遅れたせいで、知久始め、まどかの家族が死なねばならなかったのかも知れないと思うと、
ほむらは自分を責める意外に気持ちの整理のつけようを知らなかった。
「ママは…? タツヤは…?」
ほむらは、まどかの問いには答えられず、ただただ、震えるその体を抱き寄せる事しか出来ない自分を呪った。
「酷いよ…こんなのあんまりだよう…」
そしてまどかは、そんなほむらの様子にすべてを察知し、また、悲しみをぶちまけるように、ほむらの胸で泣き声を上げた。
「嫌だあ…もう嫌だよ…こんなの…うわあああああん…」
ほむらはまどかを抱きしめる、その手に力を込めることしか出来ない自分の無力を重ねて呪い、いつしか、その顔は涙に濡れていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:49:54.13 ID:aFtyudIGo<> まどかを保護し、署に戻ったほむらは、すぐさまボスに呼び出された。
「何故君は事件があったとき、その場にいたんだね?」
一家惨殺事件に居合わせ、殺されていたかも知れない娘を保護したというのに、そんな自分を責めるような苛立たしげなボスの言葉を聞き、
ほむらは猛烈な違和感に眉をひそめ、以前感じた尊敬の念はその違和感の中に、瞬時に掻き消えた。
警察は信用が出来ない、と言った詢子の最期の言葉が蘇ってくるようであった。
「あそこは、旧友の家でしたので、仕事帰りに寄ってみようと…」
「まあいい、君はパトロールの後でもあることだし、疲れているだろうから今日は一旦帰りたまえ。
また明日、状況について詳しく聞く事にしよう」
まるでほむらが居続け、捜査に加わると邪魔であると言わんばかりの口調であったが、
署に連れてきたまどかの事を考えると、自分ばかりが仕事を続け、彼女をほったらかしにしておく訳にも行かなかったので、
「了解しました」
と言って、引き下がることにした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:50:20.81 ID:aFtyudIGo<> 「まどか、帰りましょうか」
ほむらの声に反応し、向けられたまどかの顔は、未だ涙に濡れ続けている。
「おうちに、帰れるの?」
ほむらは首を左右に振り、待合室の長椅子に腰掛けていたまどかに視線の位置を合わせるように屈み、
「まどかのおうちは今、捜査が行われている最中だから帰れないの。
だから不便だと思うけど、しばらくは私のおうちであなたを保護することにしたわ。 もしあなたがよければ、だけど」
そう言って、確認するようにまどかを見やると、彼女は視線を重ね、小さく頷いて了承してくれた。
「じゃあ、帰ろっか」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:51:05.05 ID:aFtyudIGo<> ほむらがまどかの手を取り、彼女を立ち上がらせようとした時、
「ねえ、罰なのかな…これって」
まどかが小さく、そう呟いた。
「きっと私が怠け者で、働かないで家でお嫁さんごっこなんかしてたから…罰があたちゃったんだ…」
自分を責めるまどかの声は、ほむらの胸にグイグイと食い込んでくるようであった。
「それは違うわ!」
ほむらは自らの無力を振り払うように、はっきりと言った。
「まどかのせいなんかじゃないわ。 悪い奴がいて、みんなそいつらのせいなの。
捜査が進めば、真相がきっと暴かれるわ。 まどかのせいなんかじゃないの…だからそんなに自分を責めたりしないで…」
まどかは泣きながら、うん…うん、とか細い声で返事をし、頷いていたが、その声の響きは、はっきりと自らを責めており、
ほむらはまどかが声を上げる度に、その胸を強く打たれた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:52:14.60 ID:aFtyudIGo<> 久兵衛は、鹿目家皆殺しが失敗したことを知り、突沸する感情に突き動かされ、手近にあった壁を思い切り殴りつけた。
「なんでいるはずのない警察官が現場にいたのかなあ!?
しかも聞くところによると、またしてもあの暁美ほむらだと言うじゃないか!!」
普段は表情を動かさない彼であったが、サークル杏関連で失敗が続き、そのピークを迎えていた苛立ちが、ここに来て爆発したのだった。
彼に事の成り行きを報告した、黒セダンの運転手のチンピラは震えながら、
「で…でも生き残ったのは未成年の長女ただ一人って言うし…大丈夫じゃないですかね…」
そう気休めを言ったが、久兵衛は彼を鬼のような形相で睨みつけ、
「そんな事言わなくても分かっているさ! だけど僕はね、自分の思い通りに事が運ばないと、とてもイラつくタチなんだよ!」
怒鳴った。 チンピラは最早、何も喋ることが出来ず、ただただその場で震えているばかりである。
久兵衛は、サークル杏に嫌がらせをすることによって何とか苛立ちを抑えようと、脳みそをフル回転させ、その方策を考え始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:53:00.12 ID:aFtyudIGo<> 「さあ、入って」
ほむらはまどかを連れ、ほむホームに帰宅していた。
まどかが涙に濡れた声でうん…と言って玄関に入り込むのを確認し、ドアの鍵を下ろしたその時、
――まどかを閉じ込めたわ!
己の悪魔の部分の囁きがはっきりと胸の内に生じるのを聞いたが、ほむらはその心に生じたボヤをすぐさまふみ消した。
ほむらは勝手がわからずおろおろしているまどかをとりあえず居間に連れていき、
「今、お布団を用意してくるから、ここで待っていなさいね」
と言ってソファに座らせると、寝室に直行し、オナニーの為にそこに置いてあるまどかの写真を片付け、布団を敷いて居間に戻った。
ほむらが戻ると、まどかは失った家族の名を呼びながらむせび泣いており、
それを見たほむらは再三、その悲しみがまるで自分の事のように心に染みこんで刺激するのを感じた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:53:32.72 ID:aFtyudIGo<> 「…今日は疲れているから、もう寝ましょうね」
コクコクと頷いて、ほむらに抱き起こされて立ち上がり、力なく歩き出すまどかを見ても、
ほむらの中の変態的な欲望は封じられていた。
ほむらは寝室に着くなり、まどかを自分のベッドに寝かしつけた。
「…ほむらちゃんのベッドじゃないの…?」
「まどかはお客様だから、そこでいいの。 私はお布団に寝るわ」
「でも…涙でシーツが汚れちゃうかも…」
「洗えばいいことよ」
そう言ってしまった後で、どす黒い自分の内面が、「洗う気なんて無いクセに…」と、囁くのを聞いたが、
ほむらはその声をまた胸の中で圧殺した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:54:01.79 ID:aFtyudIGo<> 「少しお仕事をしてくるわね」
まどかがベッドに入り込むのを確認し、ほむらはそう言って立ち上がり、寝室を出た。
ほむらはホッと胸をなでおろした。
今はまどかの悲しみに当てられているから大丈夫だが、少し落ち着いた後、自分の中にどんな恐ろしげな欲望が生じるのか、
それを考えただけでほむらは恐怖し、その場におれなかった。
悲しみをたたえたまどかの泣き声が、寝室から漏れ出している。
それは、ほむらを寄せ付けないバリアーのようで、彼女はいたたまれなくなり、逃げるように自室に入っていった。
「ん…?」
何気なくポケットに突っ込んだ手に、金属の感触が触れた。
取り出してみると、死に際に詢子が自分に託したペンダントであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:54:41.90 ID:aFtyudIGo<> 「お義母さんの形見だもの…後でまどかに返さなくちゃね…」
そう言いながらも、そのペンダントのヘッドがフタ付きの、中に物を入れるタイプのものであったことが、ほむらの興味をそそった。
気づくと彼女は、半ば反射的にそのフタをこじ開けてしまっていた。
中にあるのは家族の写真か何かだと思ったが、小さく切ったテープに貼り付けられたそれは、記憶媒体のようであった。
「これは…」
ほむらはそれを取り出し、次の瞬間、迷わずパソコンに挿入していた。
データの内容は、マミリーマートの社内秘で、グリーフシードと呼ばれるクスリによる20時間労働と、
その結果生じる発狂者について細かく記されており、警察や、厚生労働省からの天下り社員の名前と絡めて、
マミリーマートが事件のもみ消しを図っていることなどまでかなり詳細に記されており、
絢子がそんな社風を何とかしようと、サークル杏をクウカイと結びつけ、見滝原に誘致しようとしていたこと、
そしてその結果、会社を追われてしまうかも知れない、という内容の手記まであった。
彼女も殺されるとまでは思っていなかったのだろうと、ほむらは居たたまれない気持ちに襲われた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:55:19.45 ID:aFtyudIGo<> そのデータの中で、久兵衛という平社員が、役員達を利用し、様々な悪の組織を作っているのだという事実に、ほむらは目を止めた。
全てはほむらの予測したとおりで、詢子のデータは、それよりさらに一歩、踏み込んだ内容であった。
なにより恐ろしかったのは、天下りなどの関係構築を通じて、警察もこの事件に加担しているということだった。
ボスの事件に対する曖昧な態度と、余裕たっぷりであった久兵衛の様子…
そして変態紳士の殺処分がすんなりと通り、サイレンサー付きの自動拳銃がすぐさま支給されたことは、
詢子の最期の言葉――警察が信用できない――それに集約されているのだった。
詢子は、嘘が下手であったほむらの人柄を予想し、それに賭けてこの資料を託したのだった。
しかしほむらは、真実を前にして、そしてそれを包み込む組織の強大さをまじまじと感じ、我を忘れ、肉体も精神も、しばしその身動きが取れなくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:55:51.57 ID:aFtyudIGo<> 翌朝、ほむらは鼻をくすぐる朝食の匂いで目を覚ました。
目をこすり、しばし放心した後、漸く自分があの後、自室の机で寝てしまったことに気が付いた。
慌てて下に降りると、まどかがスクランブルエッグを作ってくれていた。
「ほむらちゃん、おはよう。 キッチン勝手に使っちゃった」
「お…おはよ…」
ほむらが寝ぼけた脳を持て余し、泣きはらした目のまどかを見ていると、
彼女はてきぱきと料理を皿に盛り付け、ダイニングのテーブルに運んでくれた。
「ほむらちゃん、どうぞ、召し上がれ」
「えっ…ああ…いただきます…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:56:22.85 ID:aFtyudIGo<> 起きたらすぐに食事の用意が出来ている、という今までに無かった状況に思考を停止していたほむらは、
まどかに言われて、初めてスクランブルエッグを口に運び、
「美味しいわ!」
反射的に、感嘆の声を上げてしまっていた。
「…私、こんな事くらいしか出来ないから…」
まどかはそんな事を言っているが、あまりの美味に、瞬時に頭が冴えてしまい、
今の状況を了解してしまったほむらは、顔を赤らめて俯き、黙りこくってしまった。
――これじゃあ、まどかが私のお嫁さんになっちゃったみたいじゃない!!
その考えがスイッチとなり、暴れ始めた欲望を抑えつけるため、ほむらは脳内に生じたその言葉を、脳の片隅深くに封印した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:57:06.10 ID:aFtyudIGo<> 警察署に着くと、すぐに昨夜のことを聞かれたが、ほむらは聞かれたことにだけ、最低限の返答をした。
まどかの一家を襲った事件は、単純に物取りの犯行と言う事で話が進められているようであり、
グリーフシードによる変態紳士の事件も、3例とも、別個の事件として、容疑者死亡でだらだらと捜査が行われている。
それらの事件の関連性を知ってしまったほむらであったが、警察は信用ができない、という詢子の最期の言葉を胸に、
素知らぬ顔で、捜査状況を見守っていた。
その行為は、家族を失って涙にくれるまどかの姿をフラッシュバックさせ、ほむらを苦悩させた。
だがしかし、迂闊に動いてしまえば自らがまどかの家族のように消されてしまいかねない状況であり、
真相を知る自分が居なくなってしまうことは、避けなければならぬ状況でもあったし、
なにより、今自分が居なくなるということは、まどかを、今度こそ本当に孤独の闇に放り込む行為なのであった。
優秀な警官であったほむらは、今、組織を観察し、どうやって捜査の方向を真実に向けていくかを考えるべきだとふみ、
まどかの泣き顔を思い出し、焦りそうになる自分に何とかブレーキを掛けながら、
雌伏の時を、歯を食いしばりながら過ごすことに決めたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:57:39.01 ID:aFtyudIGo<> まどかの家族の通夜、葬儀の準備を手伝うため、ほむらが早退の準備をしていたとき、
「やあ、暁美刑事。 暇しているかい?」
気安そうなその声の方を振り返ると、すべての黒幕であるその男が、ニコニコしながら立っていた。
「あなたは…」
その男――久兵衛は、はっきりと睨んでいるほむらの目付きなど物ともせず、
「今マミリーマートではね、『お巡りさんありがとう運動』ということで、新鮮なお弁当を届けるサービスをやっているんだけど、
何か他に、僕達優良企業にお手伝いしてほしいことがあったらなんなりと言って欲しいんだよね。
というわけでご意見、ご要望をこの紙に書いて、あちらに目安箱を設置しておくから、それに入れておいてくれるかなあ」
昨夜人を殺させたであろうことなどおくびにも出さずにしゃあしゃあと営業活動に勤しんでいる。
ほむらは腹の底から殺意が燃えたぎってくるのを感じていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:58:31.05 ID:aFtyudIGo<> 「あなた方に、何かしてほしいだなんて思っていないわ」
ほむらは突っぱねるように言ったが、久兵衛はそれを意にも介さず嫌らしく歪めた顔をグイ、とほむらに近づけて、
「冷たいねえ…君とはもっと仲良くしたいんだけどねえ…」
脅しのような口調で言った。
睨み返すと、冷たい視線同士が交錯し、パチッと火花が散ったようであった。
「なかなか威勢がいい感じだけどねえ…お役所仕事ってのは、そんなふうだと長続きしないよ。 まあせいぜい頑張ることだねえ」
久兵衛はそれだけ言って、帰り際にすれ違った婦警の尻を触り、おっと失礼、とか言いながら消えていった。
ほむらは、これから始まるであろう久兵衛との長い戦いを予見し、急に目の前が真っ暗になる様な気分に襲われたが、
まどかの悲しそうな顔が脳裏を走り、その顔を、笑顔に戻す為ならどんなに長期戦になろうとも、と、戦い抜く決意を新たにした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 20:59:09.51 ID:aFtyudIGo<> 年が変わり、それから2ヶ月ほど経ったその日、杏子は下部暮市にあるサークル杏本社内の、
小会議室を利用した彼女のオフィスにあるスチール製執務机にて、ロッキーを咥えながら放心していた。
サークル杏見滝原店は、惨敗に終わった。
それも非常にえげつないやり方で。
それは、サークル杏見滝原店が開店したその日から、既に始まっていたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:00:01.90 ID:aFtyudIGo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:01:00.61 ID:aFtyudIGo<> その日、杏子は開店したばかりの見滝原店を視察していた。
「くそう! お客が来ねえじゃねえか…」
すると、爆音と共に大量のバイクが駐車場に押しかけてきたのである。
「来た!!」
歓喜して杏子が外を見ると、様子が少し違っていた。
旭風防やロケットカウル、シボリハンドル、段付きシート…そしてそんな下品なマシンに乗っている人間はすべてがノーヘルであった。
暴走族達は、駐車場にデタラメに単車を止めるなり、バーベキューや鬼ごっこ、
ビリーズ・ブートキャンプ、そして囲碁など、思い思いの時間を過ごし始め、一般客が入って来られない様な状況を作った。
「な…なんだあいつら…おい、警察だ!!」
杏子がそう言うやいなや、暴走族が店内に入ってき、
「わしらはお客じゃけんのー。 警察とは何やあ?」
と言い、ティロルチョコやうんまい棒など、安い商品を手に取り、しかもそれをレジに持っていくでもなく店内をうろつき、
次第にエロ本コーナーに固まっていき、立ち読み防止のテープを勝手に破り、読みながらセンズリまでもを始める次第であった。
「てめえら、あたしらの店で何やってるんだ! 止めろ!!」
杏子が必死に暴走族たちにつっかかって行ったが、
「なんじゃあ、オネエちゃんが相手してくれるんかあ?」
と、暴走族達は勃起した陰茎を顕に、杏子を犯そうとするのを店員たちが必死で守り、這々の体でホテルに逃げ帰ってきたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:01:56.90 ID:aFtyudIGo<> ホテルの部屋に着くと、妹がベッドに寝転がっていた。
「おい、昼寝なんかしてる場合かよ!」
杏子は妹を叩き起こし、
「暴走族が見滝原店を乗っ取りやがった! 悪質な嫌がらせだ!
さっき警察に通報したが、どうもうちには協力したくない感じらしい! きっとマミリーマートが汚い手を使ってやがるんだ!
さくら会見滝原支部に頼んで、自警団を結成してもらおう! 手配を頼む!
あたしは本社に戻って事後の対応を協議するから、戻るまでこっちで窓口役をやってくれ」
一息にそう命じたが、妹は立ち上がろうとし、ベッドから転げ落ちた。
「おい、寝ぼけている場合じゃねえっての!」
杏子がそう言いながら妹の手を取った瞬間、
「あちっ!!」
湯を沸かしたヤカンのようなその体温に、杏子は思わず手を引っ込めてしまった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:02:38.34 ID:aFtyudIGo<> 「おねえちゃん…」
妹はよろよろと立ち上がろうとしたが、
「ひでえ熱じゃねえか! 救急車呼ぶから寝てろ!」
杏子はそう命じながら、畳み掛けるように悪化する状況に、
体中に浮かび出る冷や汗によって自らの体温がみるみる下がっていく気がしていた。
「おねえちゃん…ごめんね…ごめんね…」
ベッドで仰向けになりながら泣き出した妹の顔は、熱があるくせにロウのように血の気がなく、
頬はそげ、まるで死にゆくもののそれであった。
そして弱々しく涙に濡れて吐き出される悲痛な謝罪は、杏子の胸に深く抉り込まれ、かき乱すようであった。
「もう喋るな!! 寝てろって!!」
思考が動転していた杏子は、とにかく耳障りなその口を塞ごうと、大声を出し、直後、冷たい後悔に打ち震え、沈黙した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:03:17.13 ID:aFtyudIGo<> 妹を病院に送った後、杏子は自分が空っぽになったかのような虚脱感にさらされた。
しかしすぐに我に帰り、現地の社員たちを招集し、対応を協議したが、
店に暴走族が入り込んだ時のショックに重ね、妹が居なくなった事実が喉元を締め付け、
溺れたような感覚に、最早何をやってもダメなのではないかと、弱気になっている自分をひしひしと感じていた。
そしてなにより彼女に引導を渡したのは、本社に報告に戻ったとき、父親に言われた言葉であった。
『人を倒れさせるまでこき使うとは、正義などと大層な事を言いながら、お前がやっているのはマミリーマートと同じ事ではないか!』
ずしりと、重たかった。
そしてその重みに従うように、杏子は転げ落ちていく己を感じていた。
それは暴走族やヤクザ、浮浪者などが連日詰めかけ、アルバイトも逃げ、
店長もノイローゼになっていったサークル杏見滝原店の凋落と、あたかも連動しているかのようであった。
かようにして、サークル杏見滝原店は開店後2ヶ月を待たずに撤退を余儀なくされたのである。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:04:15.30 ID:aFtyudIGo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:04:45.52 ID:aFtyudIGo<> 唾液を吸ってもろくなったロッキーが、杏子の口元で折れ、机に落ちた。
視界に映る天井の模様が涙で滲み、照明の明かりと混じり合う。
自分さえも溶けていく気がする。 すべてを涙にとかしてしまう投げやりな気持ちに、傾きそうになる。
杏子は立ち上がった。 これからどうしようかという方策があるわけではなかったが、とりあえず立った。
涙を拭うと、室内のすべてがはっきりと目に入った。
溶けていたのは、ぼやけていたのは自分だけだと、気が付いた。
部屋を出て、廊下に歩みだした。 力強く、歩を進めた。
向かう先は、社長室だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:05:11.59 ID:aFtyudIGo<> 秘書に在室を確認し、社長室に入室すると、
「待っていましたよ」
現社長である野比のび助の、静かな声に迎えられた。
「今回は無茶をして済まなかった…いや、すみませんでした…」
彼の前に歩み寄るなり、杏子はそう言って深く、頭を垂れた。
「いい顔つきになりましたね。 それで、ご用件は?」
杏子は一瞬、口詰まったが、
「…会社を、辞めさせて欲しい」
何とか、小さいが、はっきりとした言葉を紡ぐことが出来た。
「いいでしょう、その前に、今回の失敗を分析し、事後、どのように経営に生かしたらいいのか、それを報告してください」
杏子はしばし黙した後、
「その必要はないだろ。 あたしは会社から居なくなる人間だ」
そう言って、野比を見上げた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:05:50.20 ID:aFtyudIGo<> 「あなたはこの会社からはいなくなります。 しかし来季より、新会社サークル杏クウカイがスタートしますね?
あなたにはそこの社長をやってもらいたいのですよ」
「…何だって…!?」
野比の言葉に、杏子は驚愕し、絶句した。
「あなたはさくら会でシスターをやるような器の人間ではないのですよ。
今回の負けを取り返すまで、辞めてもらうわけにも行きませんしね。」
「新会社の、初めての仕事が、見滝原進出だと言っても、あたしに社長を押し付ける気なのか?」
野比はその言葉を聞いて、予想通りだな、と思った。
物取りの犯行と見せかけてはいたが、どう考えても会社組織に消されたとしか思えない詢子に対しても、良き餞になるであろう。
「役員会で通りさえすれば、どうぞ、お好きなように」
野比は、漸く自分には違和感があり、重すぎる社長の地位から退くことが出来るという安堵に、温かい溜息を吐いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:06:38.85 ID:aFtyudIGo<> 杏子が決意を新たにしていた頃、マミリーマート見滝原店近くのファミレスでは、ささやかなお茶会が開かれていた。
マミは本音を言えば自分のマンションに呼び、自分で淹れた紅茶と手作りのケーキを振る舞いたかったのだが、
お茶会メンバーのさやかもまどかも、帰りが遅くなるといけないというので、内心泣く泣く近くのファミレスで妥協したのであった。
「いやあー、サークル杏もぶっ潰したし、最高にいい気分ですねえ!」
「さやかちゃん、そんな言い方って、無いよ」
紅茶を飲み、ケーキを頬張りながら、雰囲気を賑やかにしてくれているさやかとまどかの二人に、マミは優しく微笑みかけ、
「でも美樹さんも、すごく頑張って働いてくれるから、助かるわ」
語りかけると、さやかは、
「そうだぞ―! あたしが恭介のために一生懸命働いているから、あのサークル杏を愛の力で撤退に追いやることに成功したのだー!
だーかーら、何つうかな、自信? 安心感? ちょっと自分を褒めちゃいたい気分つーかねえ…。
まあ、舞い上がっちゃってますねえ、あたし。
これからのマミリーマート見滝原店の売り上げは、この労働少女さやかちゃんが、ガンガン働いて、上げてっちゃいますからね!」
調子に乗って自らも、どこまでも上がっていきそうな雰囲気であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:07:35.73 ID:aFtyudIGo<> そんなさやかをやんわりと無視し、マミはそれより…と、小声でまどかに話しかけ、
「それより、鹿目さんはバイトとか、しないの? もしよかったら、一緒に働かない?」
久兵衛よろしく巧みに勧誘を開始した。
「え…でも…私…人の役に立てるような事って…何も無いし…」
まどかは、口詰まりながら一緒に暮らしているほむらの事を考えていた。
理由は教えてくれないが、彼女は大のマミリーマート嫌いであったのである。
死んだ母は、マミリーマートの役員であった。
家族の死と関係しているのではないかと、一度それとなく聞いたことがあったが、
ほむらの顔がみるみる恐ろしくなり、それ以上探ることは出来なかった。
働くにしても、自分が世話になっているそんなほむらに一度相談してからでないと、恐ろしいことに繋がりそうな気もするまどかであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:08:29.11 ID:aFtyudIGo<> 「あっ…! もうこんな時間! 帰って恭介のご飯作らなきゃ!」
さやかが安っぽい腕時計で時間をチェックしながら立ち上がり、多少大袈裟に帰宅する旨をマミに伝えたとき、
すかさずまどかも立ち上がり、
「私もほむらちゃんが心配するから帰らなきゃ…マミさん、また今度…」
そんな事を言いながら、二人連れ立ってさっさと帰ってしまった。
二人を精一杯の笑顔で見送ったマミであったが、独りになると、裏切られたような、虚しい孤独感を覚え、
気持ちはまだ日暮れの早い外の闇ように、暗く沈んでいくのだった。
マミは店を出、独り寂しく帰宅を開始した。
靴音は、孤独に触るように響いた。 孤独を踏みしめながら、歩いているのだと思う。
ふと、マミは20メートルほど前を歩く背広の後ろ姿に目を止めた。
孤独感に押され、マミはその背中に向かって、反射的に駆け出していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:08:58.59 ID:aFtyudIGo<> 「久兵衛さん!!」
後ろ姿まで、あと10メートルほどのところで、マミは力いっぱい叫んでいた。
誰か自分を知っている人間と話したかった。
自分と、社会とのつながりを、確認したかった。
「久兵衛さん!!」
二度目に叫んだ時、えっ? と言って振り返ったその顔は、久兵衛のものではなかった。
マミは堕ちていくような絶望に脱力し、減速した。
「あ…ごめんなさい…人違いでした…」
そしてがっくりと項垂れ、その勢いで、力なく謝罪した。
男が視界から消えるのを確認してから、マミはふらふらと歩き出した。
久兵衛とは、気まずい別れ方をしてから、随分会っていなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:09:44.59 ID:aFtyudIGo<> 不安がマミを追い立てる。
冷たく、足を急がせる。
マミは走りだしていた。 温かい照明の漏れる自分のマンションに向かって。
自動ドアが開いて、明かりの中に歩み出たとき、いけないな、と思った。
エレベーターのボタンを押し、扉が開き、その中に誰も居なかった時、自分の中に巣食う寂しさが、
つうん、と、その情動を体中にほとばしらせた。
また、いけないと思った。 自分の部屋のある階のボタンを押し、途中でだれも入ってこないように祈りながら、長い時間、待った。
減速の重みがかかり、扉が開くと同時に、マミは走りだした。
自分の部屋。 鍵穴がもどかしいのは、視界がぼやけてきたからであった。
漸く扉が開き、その中に入った瞬間、マミは声を上げて、泣いた。
締め付ける孤独に、搾り出されるように声を上げ、涙の時間が絶望を滲ませるまで、彼女は喘ぎ通した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:10:35.25 ID:aFtyudIGo<> 久兵衛は専務である穴子と一緒に、見滝原市郊外にある、国会議員、美国久臣の邸宅を訪れていた。
「おお、よく来たねえ」
美国議員はゆったりと浴衣を着込んだ、くつろいだ姿で座椅子に腰掛け、土下座をしている二人に声をかけた。
「日頃、先生には当社に格別のお引き立てを賜り、誠にありがたく存じております」
穴子がうやうやしく挨拶をするも、美国は、
「ああ、長ったらしいのはいいから、本題だよ、本題」
と、制したので、
「それでは本題に入らせていただきます。 実はここにいる久兵衛君が、とても公に出来ない製薬工場をつくろうと言うことで、
それならば裏口から先生にお認めいただけるよう、お願いしようと、参上つかまつりました次第でございます」
と、穴子が挨拶するのを待ちわびていたように、久兵衛は「ギフト」と安っぽく印刷された長方形の紙箱を、美国の手前にすべらせた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:11:03.82 ID:aFtyudIGo<> 「ほう、なんだろうね」
「お気に召すものかわかりかねますので、一応、お手に取ってその質感なり、何なりをお試しください」
久兵衛の言葉に、美国は箱を開け、
「タオルの詰め合わせねえ…。 君ぃ、これは一番もらって嬉しくないギフトじゃあないかねぇ…」
ブツを見て、顔をしかめる美国に対し、久兵衛は更にうやうやしく、
「何も言わず、一度お手に取って…」
と言い、怪しげな含み笑いをすると、美国もわかった、と言わんばかりにビニール包装を破り、タオルを手に取った。
やはり安物の質感であったが、美国の目はタオルではなく、それを取り出した後の、箱の底面に釘付けとなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:11:38.96 ID:aFtyudIGo<> 「ふうむ…まあいいだろう」
薄っぺらいタオルの下には、福沢諭吉の肖像がずらりと並んでおり、美国が持ち上げてみると、その箱はずしりと重たかった。
久兵衛は更にたたみかけるように、
「先生にこのような安タオルを長く愛用していただくのも忍びないので、工場の売り上げから毎月、新しいものを送り届ける所存であります」
その一言で、海川グループの製薬工場から移転させ、今度久兵衛が組織を別にし、
規模を拡大して作るグリーフシードと合成麻薬の工場は、誰からも咎められることのない聖域になったのである。
久兵衛と美国、そして穴子は、ニヤリと同じように歪められた顔を合わせ、秘密の約束を沈黙の中に交わしたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/08(金) 21:12:54.96 ID:aFtyudIGo<> ここまで。
次回「第十章 初夜」
エロ嫌いな人は飛ばしていいです。 それ以前に見てる人少なそうだなw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/08(金) 21:17:35.44 ID:EKbwrF+io<> 乙おり
鹿目さんちは全滅してたのか…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<><>2011/07/08(金) 23:46:05.79 ID:og/5LDfs0<> 乙ほむ
挿絵AAはなかったね
これで大体の状況は、前作とつながったのか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/09(土) 00:13:05.15 ID:QE6n2GT0o<> 乙っちまどまど!
前の時点で既に出てきてなかったもんな……
美国議員まで出してきたか……! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>sage<>2011/07/09(土) 18:32:22.51 ID:8+9/zMp70<> ひさびさに覗いたら一番好きなSSの続編がきてたあああああああああああああ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:04:54.18 ID:/WD2I+jPo<> >>323
ゴメン、忘れてた。 疲れてるといつもこうなんです…
| l| ハ l、ヽ !ヽ ヽ\ ヽ | |
| | l | |lヽヽ |__ヽ, -r―r―― | | l | |
l l, i l |l | .| ヽ--r――==L _,>==L==ミミ=@l |ヽ l | /
| | || | / |l,イ | !. ヽ \/TT////、(l _,、 \` | .| ヽ / /
| i | l | |,|/|--| | ヽ ヽ \ l|/////> l リ \ | | /i | |
| |.| ,. -イi´|イ,. |_ | | ヽ ヽ ヽ 、___,. -'_-つ V |/|l /
| ,lィ´ ,/-/(l ̄` ヽ | ヽ と,-- ' ´ ヽヽ| ,|l |l /
l ,.イl | ,イ////==/> ヽ | / / / / / ;; | | .|| | X
ヽ |V// l|//|///リ`,} ヽ 、 ; ; l| / リ | ,/ \
ヽ l |/ヽ ,|;;;/`゛> '´, ,-' , ; リ / .レ
ヽ |リヽ ヽ| ´´ // , -- ,;/ VX
ヽ ト、ヽ ヽ ; ; / / / , ' ,イl / ヽ
! ヽ| ヽ ゛; r‐'´ / /l/l ∧ ヽ //
ヽ ヽ|``ヽ ゛、 / / | / .ヘ ヽ //
..∧ l| | .| \ ゛、 / // レ .ヘ ヽV /
/ ヽ li| V l`ー-゛ -------------- '´ // ヽ r--,
これ入れようと思ってたんだがね…まあ仕方ないか。 投下します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:06:20.52 ID:/WD2I+jPo<> 第十章 初夜
「あのね、ほむらちゃん!」
お茶会から帰り、食事時も、入浴時も悩み続けていたまどかは意を決し、ソファでくつろいでいるほむらに切り出した。
「…何かしら?」
「私…ほむらちゃんのお世話になってばかりなの、よくないかな…と思って…それで、私ね、働こうかなって…思うの…」
「その必要はないわ」
ほむらは目も合わせずに即答した。
「ねえ…ほむらちゃん…」
「何?」
「ほむらちゃんてさ…私のこと…嫌いなのかな…?」
思いがけないまどかの言葉は、冷たい感触となってほむらの背筋を走った。
まどかの方を見やると、涙をうるませ、言葉をつないでいる。
「私…ほむらちゃんのおうちに、なんか馴染めていないし…今日だって、ほむらちゃん、目も合わせてくれないし…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:07:01.77 ID:/WD2I+jPo<> ほむらは、自らの欲望を制するため、一つ屋根の下に暮らしてはいたものの、まどかへはあまり接近しないように心がけていたのだった。
そう、ほむらは自らの変態性を抑えこみ、同棲を始めてから、今の今までまどかに指一本触れていない賢者であったのだ!
しかしその自制が、まどかをここまで追い詰めていたとは、思っても見なかったほむらでもあった。
「私…あまり役に立って無いよね…負担だよね…だからもう、独りぼっちでもおうちに帰ろうと思うの…」
「ダメよ!」
ほむらは立ち上がった。 いけないと思いつつも、まどかの方に近寄っていく。
「おうちになんて、もう二度と、帰さないわ」
言いながら、ほむらは、まどかの動きを封じるように、力強く彼女を抱きしめていた。
ほむらは、自らが欲望の化身に、瞬時に変化したように感じた。
それは、欲望がまどかを包み込んだまさにその瞬間であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:08:03.43 ID:/WD2I+jPo<> 「ほむら…ちゃん…?」
まどかは、自らを抱きしめる並々ならぬほむらの膂力に微かな恐怖を感じた。 しかし、もう遅い。
「嫌いなんかじゃないの、その逆よ! 私、隠れまどかファンだったんだもの!!」
ほむらのトチ狂い気味に興奮し始めた様子に混乱を覚えたまどかは、
身を捩ってその拘束から逃れようとしたが、力が違いすぎ、それが敵わない。
「ほむらちゃん、どうしたの? なんかおかしいよ!?」
「(*´Д`)ハァハァ、ずっとあなたを見守っていたの! 私ね、レズストーカーだったんだよ!
私が警察官になったのも、あなたを守りたかったからなのよ!
来る日も来る日もあなたを見におうちまで通って…
あの事件があった日も、まどかを見におうちまで行っていたから、殺し屋から助けることが出来たのよ!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:08:38.86 ID:/WD2I+jPo<> 「ほむらちゃん…ちょっと待って…落ち着いて…」
まどかの感じている恐怖は、さらなるほむらの豹変に、みるみる具体性を持ってくる。
「ごめんね! わけ分かんないよね…気持ち悪いよね…だけど私は…私の本当の気持は――」
目の前で人間がこれほどまでに変貌するという珍事を、まどかは今までに一度も体験したことがなかった。
「まどか! 愛しているわ!」
ほむらは、まどかの精一杯の抵抗を物ともしない自分に、果てしない優越を感じ、
それが、同棲開始から封じ込められ続けていた彼女の欲望を、一挙に体表に導き出したかのようであった。
ほむらはまどかをソファに押し倒し、涙を流して何事かわめこうとしているその唇に、自らのそれを押し付け、塞いだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:09:10.86 ID:/WD2I+jPo<> 「んんーーっ! んっ…んう…っ…」
ほむらの舌が、まどかの口中を這い回った。
舌を絡め、歯茎まで犯し尽くす間に、まどかの抵抗が弱くなっていく。
名残り惜しむように二人の舌先が離れたとき、まどかの抵抗は完全に沈黙していた。
「キス、初めて?」
接吻によって欲望の一端を消化し、にわかに落ち着きを取り戻したほむらの言葉に、
まどかは潤んだ瞳に肯定の色を乗せ、小さく頷いた。
初めての唇を自らが奪ったのだという事実は、沸き起こる満足感に続いて、ほむらの中に更なる欲望を生じさせるに充分なものであった。
ほむらは無言でまどかの服を脱がしにかかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:09:42.89 ID:/WD2I+jPo<> 「ほむらちゃん! ダメ! これ以上は…!」
まどかは脱力した手で、何とかほむらの手首を掴んだが、その手はてきぱきとブラウスのボタンを外していく。
そしてブラジャーを跳ね上げ、控えめな乳房が顕になると、ほむらは眩暈のような欲望に突き動かされ、
瞬時に、膨らみの中央にある桃色に吸いついていた。
「嫌っ! ほむらちゃん! ダメ! おっぱいダメだよ! 止めようよ!」
まどかはほむらの額を掌ではねつけ、必死の抵抗を試みたが、ほむらはそれを物ともせず、右の乳首を吸い、甘噛みし、
右手は当然のように左の乳房を揉みしだき、乳首をなぶり、こね回している。
ほむらの指先や、舌、歯の与える刺激に、まどかは身を捩り、声を上げる。 左様に多彩な反応を示すのを見、
ほむらは美しい音色を示す楽器を吹奏しているような、うっとりとした気分に引きこまれていくのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:10:09.97 ID:/WD2I+jPo<> 「もうダメ…もう許して…」
ほむらが乳房から顔を離すと、まどかの肌は汗ばみ、桜色に艷めいていた。
その顔に目を転じると、充血して潤んだ瞳から、涙の線が頬を這いずっており、
その痛々しさに、ほむらの中の良心が、罪の響きを教える警鐘を胸中に打ち鳴らした。
「ごめんね、まどか。 びっくりしちゃったね…怖かったね――」
ほむらはそんな罪悪を感じつつ、囁きながらまどかの顔に近づき、その頬に接吻をし、涙の道をなぞるように舌を這わせた。
そして口を耳元まで持って行き、耳たぶを優しくかじりながら、ほむらは言ったのだった。
「――でも、止められないの。 許してね」
まどかの筋肉が強ばるのを、ほむらは触れ合う肌を通して感じ取った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:10:49.35 ID:/WD2I+jPo<> 耳元から、舐めるようにまどかの顔を見ると、これまで感じたことが無かった、卑猥な刺激に対する恐怖が蔓延しているようであった。
ほむらは、またゾクリと罪悪感にその身を縮めた。
しかし今までまどかをいやらしく愛撫していたのだという満足感と、これから自分が感じるであろう快楽との板挟みとなり、
それらで充満したほむらの脳内において、罪悪感などは所詮、それらを更に引き立たせる一匙のスパイスに過ぎないのであった。
ほむらは無言のまま、まどかの下半身を侵略にかかった。
まどかはスカートをきつく押さえ、抗っているが、ほむらはそれに構うこと無くグイグイとスカートを下ろしに掛かっている。
「嫌…! 嫌…! やめて…やめてよう!!」
まどかは自らの劣勢を悟ったのか、首をふるふると横に振り、髪の毛を振り乱しながら、か細い声を上げ、
同情を誘う形でほむらの行動を何とか抑えこもうとしているらしいが、それは更にほむらを昂らせるだけの、逆効果でしか無い。
ほむらは更にスカートを下ろすその手に、力を漲らせた。
スカートの下から手を侵入させればいいものの、それをしなかったのは当のほむらの思考も動転していたからであったが、
最早そんな事は関係の無いことであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:11:20.66 ID:/WD2I+jPo<> ズリッ、とスカートが力任せに腰を滑り、パンツの淡い色が視界に捉えられたとき、ほむらの興奮度は本日の最高記録を難なく更新した。
ほむらの進軍を遮るものは、最早パンツ一枚――それは何も無いものと同じ事であった。
「ハアハア…イタダキマス!!」
ほむらは瞬時に、その布に吸いついていた。
まどかの恥部を直接に覆い、その味も香りも沁み込ませた柔らかな布は、恥部そのものにも相当する逸品であった。
それはあの楽園追放事件の際、ほむらが想像の中に感じ、絶対の刻を見たときの味であり、その香りがするものなのだ。
それだけに留まらず、ほむらの耳には悲痛なまどかの悲鳴までもが染み渡ってくる。
ほむらは宇宙のスケールをも凌駕するそれら知覚の衝撃波をまともに食らい、
前後不覚になりながら、それでも本能に従うようにまどかをむさぼり味わっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:12:00.18 ID:/WD2I+jPo<> 浅ましいことである。 そしてそのような行動には、決まってペナルティが控えている。
ほむらは、パンツに染み込んだ自らの唾液に、まどかの味も香りも薄められてくるのを感じた。
不快である。
自らの業が豊かな味わいを損なう。
その不条理は神の与えた大いなる罰であり、ほむほむに対する、もうそろそろやめましょうねという警告でもあるはずであった。
しかしほむらは止めなかった。 止めよう筈がないではないか!
敵城攻め入るまたとない好機に、軍を引き上げるのはただに愚将の兵法である!
好機到来の今に、臆病者の行為をあえて選択し、実行するのは臆病者以下の存在である!
なぜなら臆病者には、いつ如何なる時も臆病以外に選択肢などないからである! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:13:17.35 ID:/WD2I+jPo<> だがどうだ! また邪魔をする! まだ居たのか、矮小なるわが良心よ!
私は2ヶ月以上、まどかと一つ屋根の下、耐えに耐えた! そう、忍耐の時は去ったのだ!
見るがいい、目の前のまどかを!
その比類なき美を前にして、良心の呵責だの、何だのとぶつくさ文句をたれ、何もせぬのは最早人間ではない!!
そう、美に正しく感動をし、生じる欲望は、人類だけの特権ぞ!
それを遮るおのれは、邪魔者でしか無いと知れ! 愚かなる良心よ!
しかし、ほむらの小さな良心は、ちっぽけなその体をいっぱいに広げ、彼女の欲望をなんとか薄めんと抵抗する。
だが、声がする。 体を動かす衝動が伝えてくる。
いいか! 歴史を見てみよ! 世に名を残している偉人共に、欠片でも良心などというものがあるのか?
彼らの多くは偉大なる殺戮者であろう?
何事かを成し遂げんとする者の前に、立ちはだかる良心は偉大への前進を妨げる己の凡庸である! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:14:13.67 ID:/WD2I+jPo<> 良心至上主義者の凡愚共はいつもそれを大事にする。 他人に勧める。
だがな、暁美ほむら! 誰かがそれをぶち壊さねば、何も変わらぬ。 変えようという意志が無くなるからだ!
そして変えようという意志がなくなれば、現状を支える力さえも骨抜きになり、色あせ、崩れゆくのだ!
現にまどかは、ウジウジと何の行動もしなかったお前に嫌われていると思い、家に帰ろうとしていたではないか!
目の前の美を見よ! 帰していいのか? 手放していいのか?
これを手放すという事はだ、誰か他の者に譲るということであるぞ? どうだ? 譲るか?
この美が他の誰かに穢されるのを、またいつぞやのお前みたいに、電柱の影から覗きみるのか?
嫉妬と絶望との最大値が精神を犯し尽くすのを感じ、お前の人生の可能性が修羅の道一つになってしまうことが、正しい選択か?
今一度言う。 良心はときに変革の敵であり、自らを滅ぼしさえする怠け者の概念である。
良心至上主義は、世を凡庸で埋め尽くし、管理しやすくせんとする為のシステムの一部である。
お前はそれに管理され、まどかを手放すのか?
管理する方としては、それでいいのだぞ? レズなど社会のゴミでしか無い。
お前が良心に従ってくれれば、そのゴミが生まれ出るのを防いでくれる、そういう管理システムだからなあ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:15:16.43 ID:/WD2I+jPo<> ホムラチャン、ダメダヨ! ソイツノイイナリニナッチャダメ! リョウシンハ、タイセツダヨ――
ばちり!!
ほむらはその空想の中で、己に残った虫けらほどの良心を踏み潰し、トドメを刺した。
そしてほむらはまどかのパンツを引っ張り下ろし、興奮に開花し始めていたその蕾と、自らの唇との、ハイブリッドな接吻を行った!
「ダメっ!! 汚いよ、ほむらちゃん!! ああっ!!」
女性器を刺激し、味わい尽くすほむらの舌先に抵抗するまどかの手段は、自らの股間に貼りつくほむらの頭蓋を押し戻す両の手と、
否定を吐き散らすその言語とであったが、
両の手に付いては次第に力をなくし、言語に付いても次第に退行を示し、赤子の喚き声同様になっていった。
そしてそれらの力が無に帰した事を確認したほむらは漸く舌による執拗な責めを止め、
まどかの全体像をその視界に捉える位置まで己を上昇させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:16:03.80 ID:/WD2I+jPo<> 紅潮していた。
美しく、花開くように。 あるいは果実の甘く熟すように。
そしてこのまどかの体に、それら変化を巻き起こしたのが、紛れもなく自分であるという自負――ほむらは狂喜した。
刺激に神経がかき乱され、何が起こったのか知らず、ただただ昂った体を震えさせているまどかに、蛇のように己を絡めながら、
ほむらはまどかの耳元に再び口元を持って行き、囁いたのだった。
「まどかのあそこ、とっても美味しかったわ」
恥ずかしさのあまり、まどかはぷい、と横を向いた。
なんと哀れな抵抗か! そのようなことでほむらの毒牙から逃れられると思っているのであろうか!
ほむらは、まどかが視界から振り切ったその顔に余裕の笑みを浮かべながら、先程まで口を付けていたそこに己の指を接地させた。
「あっ!!」
ほむらの指は、まどかの神経に直接電流を流し、その体を仰け反らせたかのようであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:17:03.28 ID:/WD2I+jPo<> 「もっと、気持よくするわね」
ほむらの言葉に、まどかの体が、またも刺激に備えて強張った。
ほむらはその抵抗とも言えなくなった抵抗の欠片を、愛おしいと思った。
そしておもむろにまどかの女性器を激しく掻き回し、くちくちと卑猥な音を立て始めた。
「ほら、聞こえる? まどかのここ、いやらしい音を立てているわ!」
まどかの耳元に、直接に恥辱を注ぎこむように囁きかけるほむらは、自らも快楽を欲し、まどかの太腿に股間をこすりつけている。
恥辱に彩られた刺激に責められて、まどかは最早叫ぶしか出来ないようであった。
悲鳴である。 怖いのだ。
強大すぎる神経の興奮によるそれは、受け皿である体が順応しきれない今、快楽ではなく単に刺激として知覚されるしか無い。
それら刺激に、体も、脳も漂白され、乗っ取られようというときに、感じるのは恐怖しかありえない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:17:39.25 ID:/WD2I+jPo<> しかしその一方で、その単なる刺激の先に、快楽の予感を見、
それを追い求めようとしてしまう恥ずかしい自分がいることも、まどかは感じていた。
恐怖の中に、快楽の喜びが混じり合ってくるのだ。
そしてそれをほむらに、第三者に見られているという事実。
恥辱。 僅かな、残りかすのような理性が警告するそれ。
少女であるまどかが、大人への脱皮をする際の断末魔のような、それぞれ別個の感情に引き裂かれんとするその悲鳴を浴びて、
ほむらは狂喜の中に、沸き起こる狂気を重ね、まどかの刺激が快楽へと変遷するその時まで、
その腕の筋肉を酷使し、刺激を与え続けるのであった。
「ああああああッ!! らめええええええええッ!!」
まどかは陸に打ち上げられた魚のように大きく仰け反り、その股間に当てていたほむらの手に、温かい液体がほとばしった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:18:32.38 ID:/WD2I+jPo<> ほむらは間髪を置かず、最早抵抗の術が無くなったまどかの股を開き、自らの股間と合わせ、レズセックスの奥義、貝合わせへ移行した。
お互いの体が、快楽によって繋ぎ合わされた瞬間、全く同時に、二つの体が同じように、
まるでスイッチが入ったかの如く痙攣し、
「あっ!」
と、小さな声が漏れた。
それはその心は別として、二つの体が、初めて同じ領域を見た瞬間であった。
ほむらはその腰を動かし、快楽をまどかにこすりつけた。
「あっ…まどか…っ!!」
「うあああっ…ほむら…ちゃん!!」
粘膜同士がこすれあう音と、それに連動するかのような快感の波が、ジンジンと理性を削りつぶし、欲望のみを加速させる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:18:58.34 ID:/WD2I+jPo<> やりたいことが、いやらしいことが、めまぐるしく、次々矢のごとく過ぎていく。
結果、取り残された体はしたい事が分からず、ただただ、肉体を凌駕した快楽に酩酊し、
その身を駆け巡りながら、体の許容を超えて溢れでた余剰の快楽をも掴み取ろうと、更に腰を使い、
うねうねと原初の感覚の海に、沈んで行くほかないのである。
「ほむらちゃん! ほむらちゃん!」
まどかも、気がつけばその理に身を委ね、快楽を貪る貪欲な自分をさらけ出していたが、
「まどか…まどかああ!!」
脳天まで痺れ上がるほど、なみなみと快楽を与えられたほむらには、こすれ合う花弁の感触さえも怪しい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:19:31.03 ID:/WD2I+jPo<> それは、相手のことを無視して快楽に溺れている所作の結果によるものではない。
それは、快楽に結び付けられたその二つの体が、快楽によって同化しているというわけであった。
二人は今、同じ時間軸において、全く同じものを感じているという道理であるのだ!
それは交わる、という言葉の意味そのものである。
「まどかあああああああ!!」
そして二人は、交わったまま――
「ほむらちゃああああああん!!」
――絶頂を、迎えた。 同性において、愛の成立した瞬間であった。
良心を退けた欲望が、愛情へと遷移したのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:20:04.12 ID:/WD2I+jPo<> ほむらは、まどかの胸に崩れ落ち、何度か大きく息をついた後、
ぬくもりを与えるように彼女を抱き寄せ、その耳元で愛の言葉を唱え続けた。
愛情の、刷り込み。
それは、彼女の懺悔であった。
突沸する感情に煽られ、まどかを犯してしまった彼女の、後から追いついてきた本当の気持ち。
伝わらないかも知れない… 嫌われてしまったかも知れない…
それでも、伝えなくてはならないその気持ちを、ほむらは白く滲んだ頭の中から必死に手繰り寄せ、まどかに伝え続けた。
「…ほむらちゃん…ありがとう」
ほむらの胸で泣く、まどかの震える声が、その心を直接に触れたようであった。
「…まどか…」
「私、おうちに帰らないことにするね。 ほむらちゃんの、お嫁さんに…なるから」
ほむらは、まどかをその胸に力いっぱい押し付けるように抱き、自らも、慟哭した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:20:30.92 ID:/WD2I+jPo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:21:00.29 ID:/WD2I+jPo<> 「イイハナシダナー…」
杏子は熱っぽく語り終えた後のほむらを見、溜息を吐いた後、そう感想した。
「まあ、これが私とまどかの馴れ初めね」
「それで?」
ほむらは、聞き返してきた杏子の真剣すぎる表情に、違和感を覚えた。
「それでって?」
「グリーフシード事件さ、どうなったんだい?」
恋の話から、すぐさま仕事の話に乗り換えようとしている。
ほむらはこの無粋が、さやかを離れさせている要因ではないかと思った。
「あなたねえ…」
「うん?」
杏子は、ほむらの心配の意味が分からないらしい。 ほむらも本人同士で解決すれば良いことだと思った。
「まあ、いいわ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:21:26.53 ID:/WD2I+jPo<> /: /: : : : : : :j: : 、: : : / !| !| ヽ : : : |ヽ ; : : : : |: ;ハ:|
.' : i: : : : : : :/|: :ハ : :′ |! }| ハ : : ! |: i: : : : :|:i:| l:!
|l: :l: : : : -‐ナ弋{¬ー{- { |!_斗-┼t-|.: : : : !:|:! |!
||: :|.:.:. : : : :| __ゝ! 厂_ノ∠_ jノ|: : : : ; :|:| } / / / | _|_ ― // ̄7l l _|_
|ハ小; : : : :〈 ̄〃 (_,ヾ 〃イ´(_ ̄〉 |.: : : ,': :|:| _/| _/| / | | ― / \/ | ―――
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l :ハヘヽ ,!\| ::::::::::::::: ′ ::|::::::::::::: /.:/ノ: :/ ノ
`{ 〉`ー、 .| | ノィ イ{: :/
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ノ: l : : l: : l : : : } ̄ ̄`Y´ ̄ ̄{: : l : : l : : :|: |
〆-‐、 : l: : l: 厂ノ || トへ : :l : : :L-‐、
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:22:00.39 ID:/WD2I+jPo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/09(土) 19:23:00.96 ID:/WD2I+jPo<> 今日はここまで。
次回は「第十一章 再発」
そろそろ書き溜め終わらせないとヤバい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/07/09(土) 19:32:49.14 ID:OmYTdvl9o<> どういうことだオイ…見に来たら濡れ場じゃねぇかよ(;´Д`)ハァハァ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/09(土) 21:02:20.66 ID:QE6n2GT0o<> 乙っちまどまど!
いろんな気持ちが出てきてよかったぜ <>
プロ<><>2011/07/09(土) 22:28:20.52 ID:smffBgf30<> 乙ほむほむ!
貝合わせっていいものですよね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/09(土) 22:52:29.49 ID:3R9b3owMo<> 同棲レイプ!野獣と化した.........
お疲れ様でした <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>sage<>2011/07/10(日) 00:34:01.04 ID:DreHzoet0<> 非常に乙
まどかがほむほむ以外の人によって汚されなくて本当に良かった
とか思ってる俺きめえ <>
1<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:34:37.06 ID:qyMGvmjuo<> >>356
大丈夫。 こんなの書いている俺が一番キモイから
投下する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:35:08.57 ID:qyMGvmjuo<> 第十一章 再発
まどかとほむらが、愛にまみれた初夜を過ごしてから半年ほど経った頃、再び変態紳士が見滝原の夜を騒がせた。
駆除したのは、またしてもほむらであった。
ほむらは、憔悴しきった顔で、静かにほむホームの扉を開けた。
「ほむらちゃん!」
寝ているはずのまどかが、玄関に居た。
ほむらの心臓が縮み上がり、脳天から冷たい嫌な予感が降りてきた。
「どうして寝ていないの!? 早く寝なさい!!」
焦りすぎ、思いがけず大きな声が出てしまったことに、後ろ暗さを感じたとき、
まどかの頬を涙の粒が這い降りるのが見え、ほむらはその後暗さが後悔の文字を形作るのを見た気がした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:35:35.38 ID:qyMGvmjuo<> 「ほむらちゃんが、危ない目にあっているような気がして…眠れなかったの…」
ほむらの心臓が、またひやりと反応をした。
「私なら大丈夫よ。 こうして元気に帰ってきたじゃない。 もう遅いから寝ましょう」
ほむらは取り繕うように言ったが、まどかは引かなかった。
まどかの中にも、その嗅覚を通して悪い予感が徐々にその形を作っていく。
「ほむらちゃんと、キスしてから寝る」
「今日は疲れているのよ」
「いつもは疲れていてもしてくれるのに、どうして今日はだめなの?」
もしかして、今してきた事を――変態紳士駆除という名の『殺し』を――まどかに感づかれたのかも知れない――。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:36:29.45 ID:qyMGvmjuo<> ほむらは、冷たく脳を走る予感と、言う事を聞かないまどかへのもどかしさが化合し、怒りが生成されていくのを阻止できなかった。
「いい加減にしないと、怒るわよ!」
だがしかし、ほむらが昂ぶるたびに、まどかはその芯の強さを後ろ盾た冷静を深めていく。
まどかは気がついていたのだった――
「ねえ、ほむらちゃん、私、怖いの」
「何が怖いのよ! 全部気のせいだわ!」
「ほむらちゃん、どうして出かけたときと、服が変わっているの?」
――ほむらから、火薬の匂いがすることを。
そして、彼女が危険な任務についていることも、薄々。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:37:01.97 ID:qyMGvmjuo<> 「…まどか…」
一番触れられたくない疑問を浴びせられ、立ち尽くすほむらに、素早くまどかが抱きついた。
真新しいスーツの奥から滲み出す、火薬とは別のその匂いに、まどかはただ、恐ろしくなった。
「今日ね、お買い物行ったとき、交番のお巡りさんの鉄砲見てみたの…ほむらちゃんの鉄砲と、全然違った…
ねえ、ほむらちゃん、一体どんなお仕事しているの?
怖いよ! もうお巡りさん辞めようよ! 私ほむらちゃんが居なくなっちゃうの、怖いよ!!」
ほむらは観念したように、静かにまどかを抱き寄せた。
まどかはそんなほむらを見上げる際、ブラウスの襟についた小さなシミを見つけ、ギクリと動けなくなった。
それは先程、ほむらに抱きついたとき鼻に触れた匂いのするものの、シミのようであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:37:31.44 ID:qyMGvmjuo<> 「分かったわ。 大好きなまどかがそこまで言うなら、今のお仕事、変えてもらえるようにお願いしてみるわね」
「本当? 約束だよ?」
「ええ、約束するわ。 だからもう寝ましょう」
ほむらは、嘘を付いている自分に寒くなった。
上層部はほむらを異動させたがっていたが、変態紳士駆除のベテランであり、現場が彼女を必要としているという事実と、
ほむら自身の希望だけが、それを押しとどめていた。
つまり、ほむらが異動の希望をしてしまえば、上層部の思惑通り、それは簡単に通る筈なのであった。
まどかは、なんとなくだが、確信があったわけではなかったが、ほむらの約束は嘘だと直感した。
まどかはもう一度、ほむらの襟についたシミ確かめるようにはっきりと視界に捉えてみた。
やはり、血のシミであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:38:00.87 ID:qyMGvmjuo<> ――返り血を浴びたスーツは、警察署で処分をして正解だった。
ほむらはまどかを寝かしつけた後、シャワーを浴びるため、脱衣所で服を脱ぎながら、そう考えていた。
だがしかし、ブラウスを脱いだ時、ふわりと血の匂いが立ち上ったのを感じ、ほむらはまた、その動きを止めた。
――まどかが、この匂いに気がついてしまっていたら――。
そう考えた瞬間、ほむらの目に、襟についた赤い斑点が飛び込んできた。
冷たく、時間が凍りついていく感じがした。
ほむらは急いで自分の部屋に戻り、タンスの中から同じブラウスを取り出し、シワを付け、血のついたそれとすり替えた。
――翌朝、まどかが何事もなかったかのようにふるまってくれているのを見、ほむらはホッと、胸をなでおろしたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:38:29.98 ID:qyMGvmjuo<> その朝、3日ぶりに恭介が起き上がったので、さやかは嬉しさのあまり目頭が熱くなってくるのを感じていた。
「恭介…よかった…」
「さやか…僕は一体…?」
長い眠りから覚めたばかりの恭介の脳は、生まれたばかりのそれに酷似した状態にあったが、
「恭介ったら、変なクスリを沢山飲んだ後、3日間も眠り続けていたんだよ」
掻い摘んで説明したさやかの声を聞くなり、
「そうだ! さやか、クスリは?」
恭介は今、一番大切なものを思い出した次第であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:38:57.40 ID:qyMGvmjuo<> しかし、さやかは黙りこくっている。
「さやか、早くあのクスリを出してくれよ! 僕をシャキッとさせてくれよ!」
追い詰めるような恭介の言葉に、さやかはその重い唇を動かし、
「恭介、あれね…捨てちゃったの」
何とか報告をしたのだが、
「( ゚Д゚)ハァ? 何を言っているんだい、さやか?」
恭介は、そんなさやかに激しく詰問をした。
「ねえ、恭介。 あのクスリ、やめよう? あれ、絶対よくないよ。
あたしインターネットで見たよ。 あれMDMAっていう、麻薬の一種なんだって…
ねえ恭介、やめようよ。 麻薬なんて恭介らしくないよ…」
必死のさやかの説得は、ガツンというお星様が見えるほどの衝撃によって中断された。
恭介を見上げ、その右手が握り締められているのを確認して漸く、さやかは彼に殴られたのだと了解した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:39:27.33 ID:qyMGvmjuo<> 「き…恭介…」
自分の愛する男が、自らを殴ったなどということは、認めたい事実とはあまりに距離がある。
戸惑いながら恭介を見続けていると、
「どうしてさやかは僕をいじめるのかなあ?」
なじるような言葉を浴びせかけられた。
「い…いじめてなんか…あたし、恭介の為を思って…」
「何が僕のためなんだよ! 僕はね、あのクスリがないと音楽がわいてこないんだ!
何がMDMAだよ? あれはラムネ菓子の高級品だって言っているじゃないか! にわか知識で適当なこと言わないでくれよ!
全く、僕から音楽を取り上げるなんて、いじめじゃなきゃあ一体何なんだよ? 言ってご覧よ、さやか!!」
「ごめん、恭介…本当に、ごめんね…」
さやかは、自らの説得を聞き入れられなかった無念と、恭介の責めるような声の調子にきつく挟み込まれ、嗚咽し始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:39:54.84 ID:qyMGvmjuo<> 恭介はそんなさやかを見、こうかはばつぐんだと踏んだあとはにわかに優しい表情を取り繕い、
「…分かってくれたんだね、さやか」
薄気味の悪い猫なで声を発して、さやかの方に掌を差し出し、
「じゃあ、僕の音楽の為に、おクスリ代を出してくれるかい?」
ただの一片も恥じることもなく言ってのけた。
「うん…恭介の為だもんね…あたしも頑張るから…そのお薬、いくらなの?」
さやかは貧しい財布をまさぐりながら問うた。
「2万円」
「えっ?」
「2万円だよ。 早く」
「でも…今月はもう…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:40:25.27 ID:qyMGvmjuo<> さやかはあと2万3千円で二十日間を暮らし、その中から5千円以上は貯金したいと考えていた。
しかしそんなことも知らないし、考えない恭介は、
「クスリ、2万円! 僕の音楽的才能、プライスレス!」
と、相変わらずさやかを攻め立てる。
さやかは乏しい貯金を切り崩す事を泣く泣く決心し、恭介に2万円を渡す約束をした。
「それでこそだ! さやか、愛しているよ!」
――そして翌日、さやかが金を下ろして持ってくると、
恭介は形ばかりさやかを抱きしめ、その頬に接吻をした後、クスリを買いにボロアパートを駆け出した。
部屋に独り残されたさやかは暗澹とした気分であった。
アルバイトを始めたばかりの頃は、こっそり貰ってくる廃棄品の弁当で何とか持ちこたえることが出来たが、
今はそれがどこかに横流しされているらしく、手に入らなかった。
もしかしたら、給料の前借りしか無いかも知れない――さやかは、そんな自分の無力にただただ涙した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:40:51.87 ID:qyMGvmjuo<> 久兵衛は、美国久臣の了承を経て小さなビルを借り切り、その中に作った製薬工場でニンマリしていた。
「やっぱりクスリは儲かるねえ。 一度やってみたかったんだ。
でもクスリは始めるのに色んな所に挨拶しなきゃいけないから、個人ではとてもいけない。 マミリーマートに入社して本当によかったよ」
製薬工場では、工場長と呼ばれている小指のない、気味の悪い男以外、3名の従業員しか居らず、
しかもその3名は何を作っているか知らされて居なかった。
勿論知ろうとする者は、容赦なく港に沈められ、カニの餌にされてしまう。
「ヒヒッ…こう不景気じゃあ、こんな事くらいでしか儲けることが出来ませんでねえ…」
工場長は、久兵衛に出来たばかりのグリーフシードを渡しながら言った。
「工場長、あのMDMAの純度の低い奴、飛ぶように売れているよ。
安くて手軽にキメることが出来るのが魅力みたいだね。」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:41:33.47 ID:qyMGvmjuo<> 工場長はヒヒヒッと、得意げに笑い、
「ヒヒヒッ…あれは最高傑作ですわ。 純度が低くて末端価格が従来の約20分の1に出来る上、
ラムネ菓子の味をつけているので、バカな連中がぼりぼりとお菓子がわりにやるんで、どんどん中毒者が増えているんですわあ」
久兵衛に大ヒットの訳を説明した。
「最高にクールじゃないか! この街の奴ら、みんなジャンキーにしちゃえよ!」
久兵衛のご機嫌は最高潮であった。
警察沙汰にかこつけて、マミリーマートからグリーフシードの製造権を掌握し、リスクを引き受ける代償にと、
合成麻薬の製造も認めさせ、その利の6割は久兵衛の財布に入るのであった。
彼はもう、会社から貰う給与明細を見るのが阿呆らしくなっていた。
賢明な読者諸君はお気づきの事と思うが、恭介がキメているのはこの久兵衛の製薬工場で作られた合成麻薬である。
さやかが愛のためにと汗水たらして労働した貧しい対価が、
巡り巡るまでもなくそのまま久兵衛の懐に入るという、血も涙もない経済が回転していたという残忍たる事実は、
なまじおかしなつくり話より悲劇であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:42:11.98 ID:qyMGvmjuo<> サークル杏クウカイ社長となっていた杏子は、見滝原再進出の準備を着々と進めていた。
「それでは来年度早々の開店を目指し、サークル杏クウカイ見滝原店の計画を進めるということでよろしいでしょうか?」
専務取締役に退いた野比が、社長室で杏子に確認をした。
「そうだ。 それでな、一つわがままを言わせて欲しい。」
「なんでしょう?」
「店舗位置は、あたしが直々に決定したい。 見滝原に腰を据えて、現地をくまなく偵察してな。
見滝原は発展を続けている街だから、経年劣化する地図で見るより、現地を見たほうがコンビニ需要のある地域が分かりやすいしな。
それで、マスコミに嗅ぎつけられないように、一番安い部屋を借りてくんねえかと思ってな」
「見滝原にお住まいになるとなりますと、出勤に差し支えますが?」
一番痛いところを突かれ、杏子は拝むように両手を合わせ、
「その間は頼むよ社長代理。 あたしの見滝原進出にかける熱意は、あんたが一番良く知っているはずじゃないか」
目の前の男を神に見立てるように、嘆願したのだった。
それは、杏子の運命を変える決定でもあったのだったが、この時の、当の本人にそのことが分かろう筈もなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:42:39.49 ID:qyMGvmjuo<> ほむらは、まどかの携帯を機種変更させ、キッズケータイを買い与えた。
「…なんかこれ、恥ずかしいよ…」
まどかは変質者対策の防犯ブザースイッチを兼ねたストラップをいじくりながら、訴えるようにほむらに問いかけた。
「最近物騒だから、それが一番いいのよ」
変態紳士事件の再発に伴い、まどかをそれらから守るための処置であったが、
ほむらはまどかと、可愛らしいキッズケータイとの組み合わせを見、自らの性的趣味の開発がまた一歩、進むのを感じた。
――可愛い!! まどかが、私のお嫁さんだけでなく、私の娘にもなってくれるとは!!
両親を失ったまどかの悲しみに当てられて、停滞していたほむらの欲望は、それが復活したあの初夜以来、留まるところを知らなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:43:08.17 ID:qyMGvmjuo<> それからというもの、ほむらは毎日、暇さえあれば携帯のアプリを起動し、
GPSでまどかを追跡し、その行動を、仕事をしながらストーキングすることに性を出すようになった。
そして、その日がやってきたのだった――
――まどかの反応が、家から一歩も出なかった日。
「まどか、今日はどこにも行かなかったの?」
「えーとね、今日はさやかちゃんのお店に寄ってから、お買い物に行って、帰ってきてお掃除をして、ご飯の準備をしたんだよ」
ほむらは、自らの監視結果と食い違う証言が、何故起こるのかという事に、始めから気がついていた。
「まどか、あなた今日、携帯を家に置き忘れたわね?」
まどかはあっ…と、口詰まり、それから小さくごめんなさい…と謝罪して、項垂れた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:43:47.72 ID:qyMGvmjuo<> 「あの携帯は、あなたが危ない目にあったときのために、私が買ってあげた物でしょう? どうして忘れて家を出たりするの?
途中で気づいたりしなかったの?」
怒気を含めて問い詰めると、まどかは泣きそうになりながら、
「さやかちゃんのコンビニで気がついたけど、後はお買い物するだけだったし…大丈夫だと思って…」
(ノ∀`)アチャー、気づいていたことを告白してしまった!
嘘を付けばいいのに、それをしないまどかを見て、ほむらはいとおしさが胸に沸き起こるのを感じたが、
同時に気づいていながら、自分が買い与えた携帯を家に置いたままであったという事実に対し、猛烈な怒りも込み上げてくる。
ほむらはまどかを寝室に引っ張り込み、激情にかられて、新たなる性癖の入り口とも言えるその言葉を口走っていた。
「どうやらお仕置きが必要なようね、まどか!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:44:27.99 ID:qyMGvmjuo<> /:::::::::/:::::::::::::::::./::|:/::::`|ヽ// |:.:.:/|.:.:.ノヽ _ | '
/:::::::::/:::::::::::::::::::笏テ::rヾ|:// :|:./:U/ |.:.:.:.ト、!
'::::::::::::!:::::::::::::::::/:.:込r少:.〈 / ‐/- ..j.._:/|:.:.|
i::::::::::::ィ::::::::::::::::.':.::.:.:.:.:.:.::.:.:.:ヽ ィ=ミ、、|:./!.|:.:.| どうやらお仕置きが必要なようね、まどか!
i::::::::/r!::::::::::::::.':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\ :廴:.rバイ!.:.|:.:.|
i::::::::ゝj::::::::::::/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:..: , `ー^ iリ :.从:|
|:::::::::/:::::::::::イ.:.:.:.::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:.:/ ∧イ:.:.:|
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:45:05.98 ID:qyMGvmjuo<> 「ごめんなさい…ごめんなさい…」
ほむらはまどかの服を脱がせ、その背中を露出させ、ぺたぺたと何かを貼りつけた。
「ほむらちゃん! 怖いよ! なにするの!?」
ほむらは、まどかの目の前でライターをカチッ、シュボっと鳴らし、火をつけて怯えさせてから、
「お灸よ。 とっても熱いの」
と、ドスの効いた声で脅しかけ、
「少しでも動いたら、お灸の数がどんどん増えていくわよ」
念を押すように言った。
まどかの背中に貼りつけたお灸に火をつけ、そこから奇妙な香りのする煙が出て居るのをじっと観察していると、
「熱い! 熱いよ、ほむらちゃん、熱い!」
熱が伝わり始めたのか、まどかが泣きはじめた。
ほむらは一瞬、罪悪感に、もうお仕置きはやめようと体を動かしかけたが、甘やかすのはいけないと、何とかそれを思いとどまった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:45:47.46 ID:qyMGvmjuo<> まどかは、ヒィーヒィー泣きながら、たまに、フーフーと、背中に届くはずもないのに、枕に向かって熱い物を冷ますような息遣いをし、
「熱いよう…もうしないから、許してよう…」
と、ほむらに訴える。
「まだよ! 火が消えるまで、続けるの! 反省しなさい!」
ほむらはそう言った後の、まどかの絶望の表情に胸を鋭く抉られたように感じた。
しかし、紅潮させていく体を動かせずに、ああ、とか、ううっ、とか、声だけで必死に悶えているまどかには、
なんともいえぬ美しさが漂っていることも事実であった。
そう言った視点に気づいてしまうと、苦しむまどかを見たときの罪悪感でさえ、手繰り寄せていけば快楽に通じている気がしてくる。
「アアーッ…フウ、フーっ…ヒィーっ、熱い、熱いよう…ほむらちゃん、もう許して…ウウッ…ウウーッ…フー、フー…アアーっ…」
ほむらは気が付くと、次のお仕置きは何にしようか、と思案し始めていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:46:27.83 ID:qyMGvmjuo<> それからしばらく、まどかはずっと良い子にしており、ほむらは本末転倒と知りつつも、
お仕置きをしたくてたまらない自分を持て余していた。
まどかはお灸が余程効いたのか、全くボロを出さない。
ほむらは、とうとう我慢ができず、夕食後、居間でテレビを観ているまどかに…
「ねえまどか」
「何、ほむらちゃん」
「日本一小さな淡水魚って、なーんだ?」
いきなりクイズを出すというトチ狂った暴挙に出た!
まどかは、突然のクイズに、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしている。
「時間が無くなるわよ! あと5秒! 4,3,2…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:46:56.39 ID:qyMGvmjuo<> しかし、ほむらが非情なるカウントダウンを始めると、にわかに焦り始め、
「ええーっ、わかんないよぉ…」
考え込む振りをするが、どうにも分からないらしい。
ほむらはそのまどかの様子に、既に興奮を感じていた。
「ブブーっ! 時間切れよ。 答えはメダカ」
ほむらは、へえ、そうなんだ…とか何とか言って感心しているまどかの腕を掴み、一片の情すらも消え失せた表情で、
「クイズが分からなかったまどかには、お仕置きが必要ね」
まどかの顔が青ざめるその様を見、優越に打ち震えながら言ったのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:47:29.28 ID:qyMGvmjuo<> そしてまたある時はお風呂で…
「まどか、体を洗ってあげるわ」
「えっ…いいよ…自分で出来るよ…」
ほむらは、彼女の好意を峻拒するまどかを睨みつけて、
「ひっ…こわいよ、ほむらちゃん!」
動けなくしてから、
「さあ、いい子にして体を洗わせなさい!」
ヘチマタワシでゴシゴシとその体を洗ってあげ始めたのである。
そのままで終わってくれれば、通常の恋人同士の洗いっこなのであったが…
「あっ! ほむらちゃん、そこ、だめだよ!」
ほむらは当然のように、まどかの体をひと通りゴシゴシした後、その女性器を侵略にかかったのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:48:21.20 ID:qyMGvmjuo<> 「ああんっ…ううっ…ほむらちゃん…ダメっ!」
刺激を受けたまどかはその体をよじりながら、当然その女性器を花開かせ、そこからは蜜が垂れてくる。
「コラ、まどか! あそこからぬるぬるを出すのを止めなさい!」
無理に決まっているじゃないか!
ほむらはそんなまどかのあそこを、クチュクチュと執拗なまでに、優しく手で刺激をし続ける。
「ダメっ! ダメっ! あんっ! ああん!!」
「あなたがぬるぬるを止めない限り、あそこは永遠に綺麗にならないわよ!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:48:58.22 ID:qyMGvmjuo<> ほむらはこの辺りから、まどかの女性器の、ある一点を執拗なまでに攻め始めていた。
「ああーっ!! そこダメっ!! だめえええええっ!! ほむらちゃんやめてえええええっ!!」
耐えられなくなったまどかの股間から、温かい液体が噴出した。
そう、二人が始めて会ったあの日から、夢に見てきたまどかのおしっこ!
あの保健室での一件を思い出し、ほむらはあべこべになった立場に優越感を乗せ、まどかに宣言をするのだった。
「おトイレとお風呂の区別がつかないまどかには、お仕置きの必要があるわね!」
とまあこんなふうに、まどかがボロを出すのを待つのではなく、ほむらはいけないことと知りつつも、
積極的にお仕置きをするように持っていくのが常となりつつあったのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:49:36.10 ID:qyMGvmjuo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:50:05.31 ID:qyMGvmjuo<> 「お仕置き、ねぇ…」
杏子は椅子にふんぞり返って、天井を見上げながら、ポツリと言った。
「そうよ、大好きだからって甘やかしすぎては、いけないの」
ほむらはそう言って、目の前で恋人を無視し、まどかと卓球に興じているさやかを睨みつけた。
杏子はうーん、と、考え込んだが、自分がさやかにお仕置きをするというシチュエーションを、どうやっても妄想することが出来なかった。
妄想の中で、気の強いさやかが拒絶してしまうと、すぐに自分が謝ってしまうのだ。
「とにかく、このままではいけないと思うのなら、いろいろ動いてみることね。
何もしないで事態が好転するなど、無いと思っていたほうがいいわ」
「…それより、グリーフシード事件の話だったろ」
せっかく自分が話題を恋の方に持っていったのに、逃げるように事件の話題に振り返す――。
ほむらは、ここまでヘタレなら、杏子の恋はもうだめなのかもしれないと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:50:32.33 ID:qyMGvmjuo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:51:11.02 ID:qyMGvmjuo<> それからまた月日が経って、その年の秋も深まって来た頃、ほむらは堕落の底の住人と化していた。
水面下でほむらが捜査の方向を誘導し続けた甲斐があって、夏の終わりにグリーフシード事件の捜査本部が置かれることになり、
勿論ほむらはその一員になった。
しかし有能な人間は圧力を掛けられ、見る見るうちに捜査本部を抜けていき、
代わりに来るのは定年まで安泰に行きたいと願う、つまり警察官生活の消化試合をしにくるジジイばかりだった。
誰もが、自らの生活を優先させ、正義に命を掛けようなどという警察官が、自分の仲間が、どこにもいないという事実――。
まどかの母の敵を討つため、そして自らの正義のため、ほむらは再三の、異動の勧めにも従わず、捜査本部に居座り続けた。
それは、組織というものに対する、抵抗の意味も含まれていたのかも知れない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:51:48.17 ID:qyMGvmjuo<> 上層部も、ほむらを異動させるのを諦め、彼女を徹底して飼い殺す方針に転換したようだった。
いや、本当は最初から異動させる気がなく、
どこまで真実を知っているか分からない彼女を捜査本部に封じ込め、監視するのが狙いだったのかも知れない。
しかし、捜査に関する書類を作成しても、どこかに難癖を付けられ、突き返され、
毎日を無為に過ごし、とっくに気持ちが折れていたほむらにとって、そんなことは最早どうでもいいことだった。
「やあ、暁美刑事。 無駄な仕事をしているね。 そんなんで国民の税金である給料をもらって、恥ずかしくないのかい?」
久兵衛が定期的に挨拶に来るのも、ほむらの心を折った。
「君たちに、この事件は解決できないよ。
早いとこ異動させてもらわないと、せっかく有能なのに、警察官としての君の未来は一体どうなるのか、僕はそれが心配でならない」
組織で動かないと、自分一人の力だけでは何も出来ない…そして自分と一緒に動いてくれるその組織は、どこにもないのである。
ほむらは犯人が目の前にいても指一本触れることの出来ない自分の無力に苛立ちながら、
帰宅後――まどかの顔を見ることが出来るその瞬間だけを待ち望んで、ただただ時間が過ぎるのを待つだけの「仕事」を続けるのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:52:13.70 ID:qyMGvmjuo<> 警察署に挨拶に行った後、久兵衛は久しぶりにマミリーマート見滝原店の様子を見に行ってみた。
「やあやあ、ご無沙汰しちゃって」
「あ、久兵衛さんじゃないですか! 久しぶりですねえ…長期出張でもされていたんですか?」
店長が、明らかに怯えたように応じると、エロ本を整頓していたさやかが反応して久兵衛を一瞥し、チッ、と舌打ちをしてそっぽを向いた。
レジにはマミが立っており、その視線がくすぐったかったが、長らく会っていないと話しかけづらく、
また特に話すこともないと思い、久兵衛は目も合わせず無視を決め込んでいた。
「まあ色々とね、この店舗の成績はとてもいいから、そんなに怯えることはないよ」
「いやあ、ありがとうございます。 これも久兵衛さんのお陰ですよ」
ありきたりなお世辞に心底うんざりした久兵衛は、じゃ、僕は近くに来て寄ってみただけだから、と、足早に店を出た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:52:48.05 ID:qyMGvmjuo<> 「ちょっとちょっと、久兵衛さん!」
店を出、久兵衛を取り巻く雰囲気が外のそれに置き換わった時、店の一部が彼を追いかけ、呼び止めてきたので、
久兵衛は何かな? と、振り返ると、店長がいやらしい顔をして小走りで駆け寄ってきた。
「久兵衛さん、帰るのが早すぎですって…」
「まあね、僕は忙しいし、ちょっと寄っただけだからって、言ったじゃないか? 何か用かい?」
本社の人間は店に不要な緊張をもたらすので、帰るならさっさと帰ってほしい相手であるはずなのに、呼び止めるとはこれ如何に?
久兵衛は不気味に思った。
「ちょっと、巴君に話しかけてあげてくださいよ」
「マミに? なんで?」
久兵衛がマミ、と名前で呼ぶと、店長の顔が、何かを悟ったかのように更に卑猥に歪んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:53:27.33 ID:qyMGvmjuo<> 「久兵衛さんてば、ここ半年以上顔見せなかったじゃないですか?
その時巴君はですね、久兵衛さんはいつ来られるんですか?久兵衛さんはどうしたんですか?
って、毎日毎日僕や様子を見に来る本社の方に聞いたりして、それはそれは痛々しかったんですからね」
久兵衛は、ゴクリとつばを飲み込んだ。
「久兵衛さん、困りますよ。 女の子泣かせたりしちゃあ。 巴君は日に日に弱ってくるし、もう大変だなこりゃって、思ってましたよ。
そんな時、久兵衛さんが来てくれたと思ったら、すぐ帰っちゃうなんて言って…それどんなプレイですか?
巴君はずっと久兵衛さんを待っていたんだから、少し位話しかけてあげてくださいよ。 彼女、ノイローゼなっちゃいますよ」
話を聞きながら、久兵衛の陰茎はムクムクと勃起を始めていた。
そういえば最近、女を抱いていないな、と、久兵衛は思い、チンポジを直しながら店に戻っていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:53:53.56 ID:qyMGvmjuo<> 一度出た店に再び入るのは、少し気が引ける。
店内にメロディーが響き渡り、いらっしゃいませ、とさやかの声がし、そっちに目を向けると視線が衝突し、あからさまに嫌な顔をされた。
久兵衛はその時、いつかこの美樹さやかに「ぶっ続け」をやらせ、クスリの副作用で発狂させて、ほむらに処分してもらおうと思った。
「いやあいやあ、そういえばタバコを切らしていたんだったよ」
久兵衛はマミのいるレジに滑りこむなり、わざとらしく独り言を言った。
マミは嬉しさの滲ませた顔を隠すように俯かせ、ぎこちなく、朗読するように、
「どのタバコでしょうか?」 と聞いた。
「チェリー」
久兵衛はマミの背後にある棚に置かれた、赤と白のパッケージを指差し、言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:54:25.20 ID:qyMGvmjuo<> 「…あ、これですね。 410円になります」
久兵衛は五百円玉をカウンターに置き、マミがお釣りを手渡してきたとき、わざとその指先に触れてみた。
マミの手は電気が通ったかのように引っ込み、彼女はお釣りを床にぶちまいてしまった。
幾つもの澄んだ金属音は、マミの神経を大いに引っ掻き回した事であろう。
「す…すみません…」
顔を真っ赤に染めたマミは、レジカウンターから飛び出してきて、久兵衛の前にしゃがみ込み、お釣りの小銭を拾い始めた。
久兵衛は、背中に店長の焦りまくった視線が刺さっているのをくすぐったく感じていた。
それに加え、目の前で小銭を拾うマミを見下ろしているとなれば、少しいたずらをしてみたくもなろう。
久兵衛の残酷な欲望が走りだした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:55:07.19 ID:qyMGvmjuo<> 「巴君! 君は何年勤めているのかな? お釣りを落とすのが許されるのは、3週間目までだよ」
マミ、と名前で呼んでいた自分が、久しぶりに来たと思ったら、巴君、と呼び方を変えている…
とっさに久兵衛を見上げたマミの顔は絶望に染まっており、久兵衛はそれを見て射精しそうになった。
いじめがいのある泣き顔である。
コロコロと変化する表情――この女は誰が好きなのかと思っていたら、まさか自分のことだったとは――
久兵衛は、目の前の、悪くない女が自分の事を好いているという事実に、震えるほどの優越を味わった。
――この女は、脳内にどんな僕を作り上げているのだろうか?
その「僕」をぶち壊したとき、どんな顔をして絶望するのだろうか――
――見たい!
久兵衛は近いうちに、マミを犯すことを決心した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:55:35.25 ID:qyMGvmjuo<> 「本当に、すみませんでした」
久兵衛が店を出るとき、マミは外まで見送りに来て、ペコペコと頭を下げ続けていた。
「気にしなくていいんだよ、マミ」
マミ、と呼んでやると、表情に希望が浮かび上がる。 久兵衛はこの女が自分に気があるという確信を更に深めた。
久兵衛はマミにウインクをし、
「僕のお釣りの取り方が悪かったんだ。 ワザとさ。
あの時の店長の顔、見たかい? 傑作だったよ。
時々ああいうお芝居をして、雇われ店長たちの気を引き締めてやるのも僕らの仕事なんだ。 だから君が引け目を感じる必要はないのさ」
と、優しく語りかけてやると、マミの表情はすっかり晴れ渡っているではないか。
久兵衛は泣かせてやりたくなったが、何とかこらえた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:56:03.07 ID:qyMGvmjuo<> 「…あの、私…」
久兵衛は身構えた。 告白だと思ったのである。
女を何人も潰してきた久兵衛であったが、付き合い始める前から相手に好かれていたなどという経験は、これが始めてであった。
いや、もしかしたら誰も久兵衛を愛してなど居なかったかも知れない。 彼も、女を愛したことなど無かった。
「…何だい?」
言葉を、待った。
「見つけたんです。 私の代わり」
「君の、代わり?」
久兵衛は拍子抜けをしたが、興味のある話題でもあった。
マミは看板娘を辞めたがっていた。 その代わりの事であろう。
客引きの清純派少女は貴重な人材である。
「鹿目まどかさんって言うんです。 美樹さんの親友で」
「…鹿目…?」
久兵衛は、その苗字にぴくりと反応した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:56:28.64 ID:qyMGvmjuo<> 「ええ、鹿目さん。 ご存知なんですか?」
「いや、知らないが…鹿目ねえ…」
久兵衛は口詰まりながら、どこかで聞き覚えのあるその苗字を脳内に検索し続けていた。
だが、
「うん、やっぱり知らないな。 知っていると思ったのは僕の気のせいだね」
久兵衛は思い出せなかった。
鹿目――それは彼が以前、ヒットマンに殺害させた、マミリーマートの常務取締役の苗字であったが、
彼にとって消した人間など最早ゴキブリ以下の存在でしかなく、 すぐに忘却してしまっていた。
「その娘、さやかの友達って言ったね? あんな風じゃつとまらないよ? 大丈夫なんだろうね?」
「ええ、美樹さんとは全然タイプが違います。 毎日美樹さんに会いに来るんですが、とってもいい子ですよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:56:55.54 ID:qyMGvmjuo<> 「ふうん、毎日来てくれるのか。 なら僕も、来れたらだけどなんとか時間を作って様子を見に来ることにするよ。
それでもし会えたら、契約できるか聞いてみよう。 でも、最近忙しくってね…それじゃあ!」
久兵衛はマミに手を振り、足早に駆け出した。 今日は政治家に挨拶に行く日であったのだ。
――その後久兵衛は、鹿目まどかを確認し、そのあまりの可愛らしさに驚愕したとき、看板娘を交代させることを決め、
マミを犯そうと心に決めたのだった。
しかもまどかの可愛さは反則的で、彼は契約したら急接近し、すぐにでも犯そうと考えてしまった。
だが、何故かマミと付き合った後は、まどかを犯す事は次第にどうでも良くなっていったのだった。
それがマミに対する自分の純粋な気持ちによるものだと気がついたときには、すべてが手遅れになっていたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:57:28.85 ID:qyMGvmjuo<> 定時を迎えるとすぐに、ほむらは警察署を出た。
早くまどかに会いたい、そう思って、少し駆け足気味に歩道を蹴っていく。
最近、とにかく疲れる。 何もしていないのに、クタクタだ。
でもそんな時、帰ってまどかに会えば、疲れは吹っ飛んでしまうのだ。
ほむホームに到着した。 ベルを鳴らして、カギを開ける。
扉をひらくと、まどかが駆けてくる足音が心地良い。
「おかえりなさい、ほむらちゃん!!」
抱きついてくるまどかを、しっかりと抱きとめ、両腕を力いっぱい使って、抱きしめる。
――ほら、あの人よ、例の事件に関わっている…
――ああ、あの解決しない事件かい…
自分に後ろ指を指す、警察官たちの心無い言葉が蘇ってくる。
きっと組織と戦っていた詢子も、同じような苦しみを背負っていたのだろうと、思う。
しかし、まどかを抱きしめていると、脳裏に浮かんでくるそれらが不思議と痛くないのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:57:56.72 ID:qyMGvmjuo<> 唇を重ね、絡みあう舌の感覚が溶けていく。
今日一日、感じた辛い思いも溶けていく。
――あの人に関わると、上から目を付けられてろくな事がないわよ…
――とっとと異動すればいいのに、空気が読めないって、ああいう人のことをいうんだよね…
嫌な思いがすべて溶けると、明日もそれらに耐えられるだけの自信が湧いてくる。
それを得て初めて、ほむらはまどかの唇から、自分のそれを離すのだ。
「…今日はサンマが安かったから、たくさん買ってきたの」
「いい匂いだわ。 残さず食べるわね」
まどかが食卓を整えようとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。
「あっ、お客さんかな――」
「いいわ、私が対応するから、まどかは食卓を準備して」
ほむらは、玄関に向かって歩き出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:58:24.56 ID:qyMGvmjuo<> 玄関の覗き窓を覗くと、若い男が立っているようであった。
ほむらはそれを確認して、対応の仕方を決定した。
この家に男が来ること自体、いいことでは決して無い。
「…何かしら?」
ドアチェーンをかけたままで玄関をほんの10センチほど開け、来客を、変態紳士を殺傷するときの眼で睨みつける。
これで大抵のまねかれざる訪問者は逃げていくのだが、この男はそうではなかった。
ヒッ、と驚いたものの、帰ろうとせず、要件を語り始めた。
「私、マミリーマートの者なんですが、ここに故、鹿目常務のお嬢さんが保護されていると聞き、伺った次第でありまして…」
ほむらはこの男を、はっきりと追い返すべきであると決めた。
「帰って頂戴」
しかし男は帰らず、ほむらの視線に当てられて脂汗みどろになりながらも、続けるのだった。
「いやあ、その、僕は鹿目常務にずいぶん可愛がられたクチでして、
お嬢さんがもし困っているなら、当社への就職を支援させていただこうと…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:59:16.69 ID:qyMGvmjuo<> ――お義母さんに可愛がられた? だから何だというの?
お義母さんが命を狙われているときに助けることも出来なかった連中が、
そして殺された後ものうのうと組織に従って今まで生きてきた奴が、今になってまどかを連れ去ろうとやって来る…。
ほむらは、組織を構成するエゴの最小単位を、玄関の扉越しに見た気がしていた。
そしてそれは、警察官たちの、組織に寄り添うエゴたちの、ほむらに対する不快な言葉を、再び彼女の脳内に浮かび上げた。
――誰も正義を行わない、そのくせ建前だけは重要視する。
今もコイツは、まどかを建前の道具に使おうとしているに過ぎない。 だったら、私は――
「帰れと言っているのが聞こえないのかしら? 警察を呼ぶ、と言いたいところだけど、私自身が警察官なの。
ブタ箱に宿泊したいのなら、今すぐ手続きをしてあげるわ」
男は、ドスの利いた声を聞いて、何かを新聞受けに突っ込み、今度こそ逃げるように帰っていった。
ほむらがそれを取り出してみると、「株式会社マミリーマート 就職説明会案内」と書かれていた。
ほむらはそれをくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に捨てた。
だがそれは、まどかに契約を迫るその白い悪魔は、その後幾度も、まるで嫌がらせのように新聞受けに入れられる事になるのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 17:59:57.22 ID:qyMGvmjuo<> 「さっきの人、なんだったの?」
まどかは、食卓についたほむらに、心配そうに訪ねてきた。
「なんでもないわ。 ただの悪徳セールスマンよ」
サラリと流したほむらの態度に安心したのか、まどかは、
変な人が最近多いんだね、と、ほむらの買い与えたキッズケータイを見ながら言い、「いただきます」と、食事に手を合わせた。
ほむらはそんなまどかの動きを、手振りで制し、ちょっといい? と、聞くと、まどかは手を止めてほむらを見た。
「まどか、あなたに就職支援を約束して、取り入ろうとする者が現れても、決して言いなりになっては駄目」
「え…就職?」
「そう、あなたは私が養うから、働く必要はないのよ。 ずっと家で私のお嫁さんをやっていて頂戴」
組織に消された詢子――。
組織に疎まれ、飼い殺されている自分――。
そして、組織に利用され、正しい事にさえ目を向けられないその他大勢――
――まどかは絶対、そんな風にしない、まどかは絶対、働かせない。 すべての必要なお金は、私が稼ぐ。
そして今まで通りの、幸せな日々を――。
ほむらが、決心を固めた夜であった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 18:00:25.06 ID:qyMGvmjuo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 18:01:02.50 ID:qyMGvmjuo<> 杏子はそれを聞き、全てに合点がいったようであった。
「そうか、だからあんた、あたしがまどかを働かせようとしたとき、あんなに怒ったんだな」
「そうよ、あなたはしてはいけないことをしたの」
「でも、さやかが危なかったんだぞ!」
ほむらはまどかと卓球をしているさやかを睨みつけた。
そして気持ちが変わっていない事を確認し、
「別にあの時死んでくれていても、よかったと思うわ」
杏子に、言葉にしたそれを叩きつけた。
「てめえ!」
杏子が吠えたが、ほむらは余裕を持って、
「あなたはいいの?」と、問うと、杏子は、その言葉の意味を知ってか知らずか、「…何がだよ?」と、怒りを鎮めた。
「美樹さやかとの関係よ。
ギクシャクしたまま放置していると、そのうちあなたも、
あの時彼女を見殺しにしていたほうが良かったと、後悔することになると思うけど」
杏子はそれを聞くなり動けなくなり、反論も出来なくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 18:01:39.73 ID:qyMGvmjuo<> 今日はここまで
次回は「第十二章 迷い」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/10(日) 18:21:37.56 ID:P10bkXRdo<> 乙乙
ちゃくちゃくと前回に向けて進んでいる……
久兵衛の死後もMM上層部は断罪されずに残ってるんだよなぁ…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>sage<>2011/07/10(日) 18:22:26.20 ID:DreHzoet0<> 乙!
今日もおもしろかった
大体これでイージーモード以前の状況になったかな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/10(日) 21:59:31.48 ID:VPOoMUC6o<> 乙っちまどまど!
毎度毎度面白いっすな〜 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/10(日) 22:25:32.12 ID:qyMGvmjuo<> ようやく書き溜めがおわった。
久兵衛とマミさんのデートとか書いていたけど、誰得で省いても本編に影響なかったのでボツにした。
とにかくあと二日で終わりですわ。 間に合ってよかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/11(月) 00:42:30.49 ID:OO5lMi4DO<> >>409
本編終わった後でいいからみたいなぁなんて(チラッチラッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/07/11(月) 01:59:39.36 ID:tHCpF+H2o<> 乙ほむほむ
こっから杏さやか
前作の終わり復習してくっか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/07/11(月) 02:25:21.73 ID:MAPxkLpho<> >>409
誰得って俺得に決まってるじゃないか! <>
1<>sage <>2011/07/11(月) 03:25:50.48 ID:TRdx1Xl5o<> 15センチくらいのムカデに噛まれて飛び起きた…
デエト回はちょっと遅れるかもだけど書いてみますね…イテェ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage <>2011/07/11(月) 19:40:08.28 ID:TRdx1Xl5o<> なんか読み返してみたら今日の長すぎたな…投下する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:41:02.90 ID:TRdx1Xl5o<> 第十二章 迷い
卓球が終わり、夕食までの間を自由時間とし、ほむらはまどかと部屋でくつろごうと思っていたのだったが、
さやかがのこのこと部屋にまで付いてきたので、ほむらはイライラしながらまどかとさやかの会話を聞く羽目になった。
「いやあー! ここは楽しいねえー! また来年も来ようよ、まどか!」
「うん! みんな一緒にね!」
ほむらには、さやかの言葉が、ここにいない杏子がいなくても十分楽しい、と、言外に行っているような気がし、ハラワタが沸えくった。
杏子との関係が終わってしまえば、またワープアに戻る筈であり、
そうなったらこんなグレードのホテルにはとても来れるはずがないのだが、
一体どういうプランでここに来年も来ようとしているのだろうか?
ほむらは、まどかを独占されていることに加え、何の考えもなくモノを言っていそうなさやかをくびり殺したい衝動にかられていた。
ワープアであるさやかが、杏子に見初められて、まるでシンデレラのような待遇の変化を享受しているというのに、
それを邪険に扱っているのはどういう了見なのか、ほむらは理解に苦しんでいたのである。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:41:37.82 ID:TRdx1Xl5o<> 「美樹さやか! あなたは恋人をほったからして、一体どういうつもりなの?」
ほむらはとうとう堪忍袋の緒をぶち切れさせ、さやかを謗ってしまっていた。
「はあ? 恋人? あんた何言ってんの?
あたしと杏子は公では上司部下だけど、私ではただの友達であって、恋人とかそんなんじゃないし!」
ほむらはさやかの言葉に、絶望にも似た衝撃を受けていた。
――どういう事なの、杏子!? あなたナメられているわよ!!
二人の想いがここまで食い違っているのであれば、杏子の恋の難易度はただごとではなかろうと、ほむらは思った。
ほむらは、この悪すぎる状況を何とかしなければならないという義務感のような情動に突き動かされ、
杏子の部屋に向かって走りだしていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:42:06.96 ID:TRdx1Xl5o<> ほむらがノックすると、すぐに勢い良く扉が開き、「さやか!」と、嬉しさに弾けるような声と共に杏子が顔を出したが、
目の前にいるのがほむらだと確認できた瞬間、はっきりと分かるほど落胆した表情になったので、ほむらは更に神経をイラ付かせた。
「杏子、美樹さやかの認識が大変なことになっているわよ!」
ほむらは叫んだ。
しかし、さやかに飢えているのだろう杏子はその言葉に相応の反応を示す事ができぬほど弱りきっており、
まあ、入れよ、と、息絶えそうな声で言って、ほむらを招き入れたのだった。
「何よ、この部屋!? あなたレズをナメているわね!!」
ほむらは、ベッドの形状を確認するやいなや、落胆の混じった高い声を上げた。
その部屋は、ツインベッドルームであった。
ほむらたちの部屋は勿論、ダブルベッドルームである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:42:33.41 ID:TRdx1Xl5o<> 「――で、さやかの認識がどうしたって?」
ほむらを部屋に招き入れるなり、杏子はベッドの上に膝を抱えて、縮こまるように座り込んで、言った。
いつもの「空海?」がないということは、さやかに無視され続け、余程精神をやられているのであろう。
その様子は先程までとはまるで別人のように痛々しい。
ずっとこんな風にして、さやかを待ち続けていたのだろうと思うと、ほむらにしても人事とは思えず、その胸がズキズキと傷んだ。
「美樹さやかは、あなたの事をただの友達だと言ったわ。 あなた分かっているの?」
「…ああ、そうさ。 あたしたちはまだ、ただの友達だよ」
ほむらは、耳を疑った。
「何言ってるの? あなた美樹さやかが好きなんでしょう? 何故友達なんて、そんなに平然と言えるの?」
ほむらのなじるような言葉を聞きながら、杏子はそれらが傷口に触れたかのように、表情をよじっていく。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:43:01.19 ID:TRdx1Xl5o<> 「勘弁してくれよ。 あたしらにはもう少し時間が必要なんだ」
「悠長なこと言わないで頂戴! 私だって今、まどかを美樹さやかに独占されているのよ!
いい? あなたの相手は迷惑なの! 主人であるあなたが責任をもってしつけなさい!!」
杏子は泣きそうになっている。 まるで大人に叱られている子供である。
「ちょっと待ってくれよ…やっとの事でさやかと友達になれたんだからさ…それでいきなりレズっぽく襲いかかったら、
せっかくここまで来れたのに、さやかに嫌われてしまうかも知れないじゃんか…
もう少し時間をくれよ…さやかを怖がらせないように、じっくりと腰をすえてかかろうと思っているんだからさ…」
要は、これ以上接近しようとすれば、関係を壊してしまうのではないかという危惧が恐ろしくて前に進めず、
友達関係に妥協し甘んじて、ぬるま湯に浸かっているのですと、ほむらには聞こえるのだった。
なんというヘタレ! ほむらは煮え切らぬ態度の杏子に怒りを爆発させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:43:45.59 ID:TRdx1Xl5o<> 「…じゃああなたは美樹さやかの友達ね。
美樹さやかに好きな男ができて、その男と彼女が寝るようになっても、友達なら祝福出来るわけね?
美樹さやかはヴァイオリニスト崩れのチンピラと付き合ったことのある穴あき娘だから、
また男に走ることは容易に想像できるわ! その時、私と一緒に美樹さやかの恋を応援しましょうね! 友達なら出来るでしょ?」
杏子は泣きながらムキになり、
「祝福なんかしねーもん!! 男なんか近づけねーもん!! さやかに付く悪い虫は、あたしが全員ぶっ潰す!!」
まるで小学生である。
「…あなたそれじゃあ最低だわ。 美樹さやかの、最低の友達」
哀れむような、それでいて容赦のないほむらの断言に、とうとう反論が出来なくなった杏子は泣き崩れ、
「もうどうしたらいいかわかんねえんだもん…助けてくれよ…あたし、このままじゃダメになっちまう…」
ベッドを掻きむしりながらおいおいと嗚咽混じりに叫ぶのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:44:23.31 ID:TRdx1Xl5o<> ほむらは全国展開しているコンビニチェーンの社長とは思えない、その情けない姿に胸を締め付けられ、
「…分かったわ…私もレズの先輩として力になってあげるし、きっとまどかもそうしてくれるはずよ」
打って変わって優しくそう、語りかけた。
杏子は泣き崩れた顔を上げ、
「本当か…助けてくれるのか…?」
涙にふやけた声を震わせた。
「ええ、私は真面目に頑張るガチレズの味方で、現状に甘えて前に進めないヘタレの敵。 あなたはどっちなの? 佐倉杏子」
杏子は袖でゴシゴシと涙を拭い、
「あたし、頑張るよ! 絶対さやかとラブラブになる!!」
と、決意を新たにした。
「じゃあ、今まであった事を話してみなさい! その中にきっと、美樹さやかがあなたを避ける理由があるはずよ!」
杏子は、しばしの沈黙の後、ポツポツと、今までの経緯を語り始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:44:50.17 ID:TRdx1Xl5o<> 「…ねえ、さやかちゃん…」
まどかは、隣に座り、黙り込んで何かを考えているさやかの意識に、自分の声を滑りこませるように、聞いた。
「…何? まどか」
かすれた声で反応したさやかは、先程ほむらが出て行った後から、ずっと黙り通し、今やっと口を開いた次第であったのだ。
まどかは、親友の、沈黙の理由を探り確かめるように、
「杏子ちゃん、ずっと寂しそうだったよ…」
ぽつりと、言葉を浮かべた。
――沈黙。 まどかは、さやかの無言の返答に、その原因の中核に杏子が鎮座していることを、今はっきりとつかみとった。
「…もしよかったら、話してくれないかな…?」
まどかの問い掛けが重いのだろう。 さやかは更に項垂れ、苦い表情になった。
「あたし達、もう駄目なんだ…」
さやかは、苦しみに言葉を詰まらせながら、ポツポツと語り始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:46:15.10 ID:TRdx1Xl5o<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:46:45.19 ID:TRdx1Xl5o<> 間一髪で変態紳士化は避けられたものの、グリーフシードの影響で体が弱りきっていたさやかは、
さくら会系列の病院に、3日ほど入院していた。
そしてその、退院の日――。
「…色々とありがとうね、杏子。 入院費、絶対返すから」
「…これからどうするんだい?」
心配そうな杏子の問いに、さやかは精一杯の笑顔を作り、
「まあ独りならなんとかなるっしょ。 警備員でもやるよ」
答えて、手を降った。
「じゃあね、杏子」
早く帰ってほしいと、さやかは思った。
ああは言ったが、本心はこれからの生活に対する不安で、押しつぶされそうになっていたのだった。
杏子を見ていると、その温もりに縋りつきそうになる自分の弱い部分が、その潰れそうな神経を撫ですさるのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:47:55.99 ID:TRdx1Xl5o<> しかし、杏子は帰らなかった。 あろうことか、近づいてくる。
――ダメ。 あたし杏子に頼っちゃうよ…駄目なあたしをさらけ出しちゃう…
さやかの思考の中に、その悲痛な叫びが弾け、不安にも似た知覚が染み渡ったその余韻に、新たに滴下された言葉の雫――
「さやか。 あたしと一緒に来てくんないかな…?」
言葉と共に、握り締められた手の温もり――
「…もしよかったらさ、あたしの秘書になってくれよ。 あんたに、支えて欲しいんだ。 側にいて欲しいんだ」
さやかの視界は、徐々に涙で霞んでいった。
「…無理だよ…あたし、秘書なんて、なにしていいか分からないし…それに、働く気力も、やる気みたいなものも、今何も無いの…」
涙で何も見えなくなった視覚の代わりに、包みこむ温かな感触が、
さやかに、杏子がきちんと手を握りしめてくれているという事実を知らせ続けていた。
「大丈夫だよ。 あたしの側にいてくれよ。 仕事は、一年前まで秘書をやってくれた妹を付けるから、教えてもらうといい。
実務をやりながら勉強して、資格を取るんだ。 頑張り屋のさやかなら出来るよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:48:37.76 ID:TRdx1Xl5o<> 「…こんなあたしでもいいの? コンビニ店員しか、やったこと無いんだよ?」
「…大丈夫だって。 お手伝いみたいなもんだからさ…」
杏子は、妹が倒れてから心を入れ替え、あまり物事を人にやらせず、自分でやるようにしていた。
「でも…向こうで住むところとか…」
それを聞いて、杏子はハッとして固まった。
そして欲望の絡んだアイデアを注意深く取り出し、邪な考えを抜き取るように、言葉を繋いだ。
「あたしのマンションに、開いている部屋があるから、そこを使うといいよ。
えっと…そう、ルームシェアだよ! 欧米では一般的なんだ!」
杏子は、同棲という言葉をかみ殺して、人当たりのいい言葉に置き換え、取り繕うように言った。
「…なあ、来てくれるかい?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:49:04.39 ID:TRdx1Xl5o<> 「…でも…なんか悪いし…」
「来て欲しいんだ!」
逡巡していたさやかではあったが、杏子の強い言葉に、頷くしか無かった。
さやかは思った。
こんなに自分を必要としてくれているなら、もう一度頑張ってみよう。
杏子のために、働いてみよう。
さやかは涙をぬぐって、はっきりした視界の正面に、杏子を捉え直して、言った。
「じゃあ、あたし頑張るよ。 だから少しだけ、杏子を頼るね」
杏子はそれを聞いて、照れたように俯き、
「頼っているのは、あたしの方さ」
と言って、笑った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:49:36.91 ID:TRdx1Xl5o<> その日から二人の生活が、そして次の日から、さやかの秘書見習い生活が始まった。
それは、二人の関係を阻む、問題の始まりでもあった。
「おはようございます!」
「おはよう、美樹さん」
元気の良いさやかの挨拶に答えるのは、彼女の補佐をしている杏子の妹ただ一人である。
秘書課員達は、当初からさやかに冷たかった。
カリスマであり、会社のアイドルでもある杏子の秘書を務めることは、秘書課員たちの希望のようなもので、
誰もが激務を覚悟した上で自分がなりたいと思っているのに、そこに秘書検定も取っていない、中途採用の得体の知れない女が入ってき、
その栄光の役職を掠め取ったなどという人事は、絶望を与えられることにも等しいあり得なさであった。
しかもその補佐に、社を退いていた杏子の妹まで付けるというVIP待遇である。
秘書課員達の疑念と嫉妬の炎が、容赦なくさやかいじめという形を持って燃え盛り始めたのも、むべなるかなである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:50:03.38 ID:TRdx1Xl5o<> 「美樹さん、あなた新人のくせに出社が遅いわねえ、さっさと掃除して頂戴な」
お局と呼ばれる秘書課長のババアが、さやかの遅参を詰りながら自在ぼうきをほうり投げた。
さやかはもっと早く出社したかったのであるが、杏子がなかなか彼女を手放さず、出社が遅れたのだった。
そんな言い訳は勿論出来ないので、さやかはすみません、と謝って掃除を開始した。
「アーッ! ラーメンこぼしたあ!!」
声のする方に目を向けると、カップの味噌ラーメンを食っていた秘書課員が、明らかにワザと、床にスープを注いでいた。
杏子の妹が急いで雑巾を取りに行こうとするも、
「コラ! 佐倉さん! お掃除は下っ端の美樹さんの仕事でございますよ!」
お局がこれを阻止するのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:50:47.27 ID:TRdx1Xl5o<> さやかは朝っぱらから、雑巾の絞り汁と味噌ラーメンのコクのあるスープとが入り交じった香りを、
床に這いつくばった姿勢で、汗をかきながら嗅ぐことになったのである。
そして漸く床が綺麗になったと思ったその刹那――
「アッ、ゴメン!」
目の前に再度、スープが注ぎこまれ、床にたたきつけられたその飛沫が、容赦なくさやかの顔に浴びせかけられた。
さやかが涙を堪えて、床を再度拭き直していると、
「美樹さん! いつまで床を拭いているの!!」
お局の叱責が飛んでき、さやかは「スミマセーン!」とそれに大声で応じなくてはならないのだった。
――負けるもんか! 負けるもんか!
さやかは熱を入れ、雑巾がけを超速で行っている。
杏子の妹は、そんな健気なさやかと、執務机にふんぞり返っているお局とをおろおろと交互に見、
何も出来ずにただただ固まっているのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:51:18.11 ID:TRdx1Xl5o<> 杏子の妹と秘書課を出、社長室に向かう頃には、さやかは既にクタクタになっていた。
「…ごめんなさいね、美樹さん…」
杏子の妹はうつむきながら、申し訳なさそうに謝ったが、彼女が悪いわけではないので、さやかは、「大丈夫! 気にしてないって!」
と、カラ元気で応じた。
「…お局さんも、他の人達も、あんな風じゃ無かったの…みんなお姉ちゃんの秘書になりたくて、頑張ってきたのに、
美樹さんにその役目を取られたから、ヤキモチを妬いているんだと思う…」
「…そっか、そうなんだ…」
杏子妹は、そう言ったさやかの顔を見て、軽率な言葉を発した事を後悔した。
「あたしが入ったことで、会社の中が乱れているんだ…なんか気が引けちゃうな…」
さやかには、何気なく発した言葉が、時間が経つにつれ、自らを締め付けていく鎖のように感じられるのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:52:36.36 ID:TRdx1Xl5o<> 「あっ…でも、美樹さんが悪いわけじゃないと思うな! お姉ちゃんが悪い! 私、後でお姉ちゃんに注意しておきますね!」
取り繕うような妹の調子にも、さやかは乗ってこなかった。
自分を責めて、沈んだままだ。
「…杏子は悪くないよ…あたしの命の恩人だし…仕事も、あたしが杏子に頼ったようなもんだし…」
妹はさやかの言葉を聞いて、「ごめんなさい…」と、謝る事しか出来なかった。
しかし、これではよくないと思う。
なんとかさやかを気持よく働かせないと、それが自分の役割なのだから…妹は、話題を探した。
「…あの…お姉ちゃんとは、どうですか?」
言ってしまった後で、妹はまた後悔をした。
「…どうって?」
さやかの返答を聞いて、変なこと聞いちゃった、という後悔が具体性を帯びてくる。
妹は、すべてを放り出し、その場から逃げてしまいたくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:53:34.79 ID:TRdx1Xl5o<> 「そ…その…不躾な姉なので…失礼な事とか…無いかなと思って…」
姉がレズであることを知ってしまっていた妹であったから、その同棲相手であるさやかを前にして、
モノを言うたびにそれがタブーのような気がしてきて、仕舞いには思考まで動転してくる有様であった。
「…あのう…変なこと聞いて…ごめんなさい…」
そんな妹の配慮を見て、杏子がレズであることを感づいていたさやかは、
自分と杏子、二人の関係に対する周囲の認識を見た気がし、複雑な思いに言葉を詰まらせた。
実際杏子はさやかにエッチな事は何もしていなかったし、ただただ普通にルームシェアをしていただけだったから、
それだけに想像の先行するこう言った他人の感じ取り方は、さやかを必要以上に追い詰める結果になってしまうことは致し方ない。
「あ…あの…あんな姉ですが…とにかくよろしくお願いします!」
社長室の前で、深々と頭を下げられ、そう嘆願されたが、一体どこまでお願いされているのだろうか?
さやかは考えるたびに深みにハマっていく自分を感じながら、
そんな霧のようにかすんだ自分と相手との認識の隔たりに対する歯がゆい思いを振り切るように作り笑いを浮かべ、
「うん」と返すのが精一杯であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:54:11.15 ID:TRdx1Xl5o<> 「さやか!!」
社長室に入ると、喜びの溢れでた杏子の表情に迎えられ、複雑に傷のついたさやかの心は、多少癒されたような気がした。
妹は部屋に入るなり、台に置かれていた花瓶を持ち、最初に花を取り替えるんです、と、さやかに伝え、部屋を出て行った。
さやかがそれを追いかけようとすると、杏子が袖を掴んで引き止め、
「さやかはあたしの側にいてくれよ」
と、甘えてきた。
「でもお花取りに行く場所とか、あたしわかんないよ? ちゃんと仕事覚えて、杏子の役に立てるようにならなきゃ…」
といったものの、杏子はさやかを離さず、
「そんなの後で場所だけ聞いときゃいいじゃねえか! とにかくさやかはそこにいてくれ。
さやかが居ないと気が気じゃなくて仕事が捗らねえんだ!」
と、こんな調子であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:54:37.89 ID:TRdx1Xl5o<> さやかが仕方なく、社長室の掃除を始めようとすると、花瓶の水を換えてきた妹が社長室に戻ってき、
「これからお花を取りに行くので、付いてきてください」
と、さやかに一緒に来るように行ったので、さやかが付いて行こうとすると、
「おい、花くらいでさやかを使うんじゃねえ!」
杏子が妹にキレた。
「何よ! お姉ちゃんが、美樹さんに仕事を教えてくれって私に頼んだんじゃない!!」
「うるせえ! 連れていくことねえだろって言ってんだ! 教えるならここで、口頭で教えたらいいじゃねえか!!」
姉妹喧嘩が始まり、険悪なアトモスフィアがさやかの心に沁み込んで、胸を押さえつけ始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:55:30.59 ID:TRdx1Xl5o<> 「…あのさ、あたし、お花取りに付いて行くよ。 口頭じゃよくわかんないと思うし…ごめんね、杏子」
さやかがそう言って恐る恐る杏子を見たとき、彼女は突然穴に落ち込んだようなあっけに取られた表情をし、
その後、明らかに嫉妬に満ち満ちた目付きで妹を睨んでいた。
「ごめんね杏子、すぐに覚えて、出来るようになるから、だから喧嘩しないで、あたしに勉強させてよ、ね」
さやかは自分の存在が、秘書課やこの姉妹の仲など、
多くのものに亀裂を生じさせる要因になっていることに、恐怖にも似た不安を感じていた。
「別に怒ってねえけどさあ…」と、杏子が言いかけたとき、妹が、
「時間が惜しいので、早く行きましょう、美樹さん」
と言って、さやかの手を取り、社長室を足早に出た。
妹に手を掴まれたとき、チッ、という杏子の舌打ちが部屋に響いたのを、さやかは聞き逃がしてはいなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:55:58.72 ID:TRdx1Xl5o<> 花をもらってきて、花瓶に生け直すと、さやかは杏子の下に走り寄り、
「ちゃんと覚えたからね。 明日からは一人でできるから」と、報告すると、
「そうか、そうか」と、杏子もデレデレとしながら応じてくれ、さやかは杏子の機嫌が治っただろうことに深く安堵した。
「次は、部屋の中を掃除します」
しかし妹のきっぱりとした声がすると、杏子の顔がムスッと豹変し、それを見て焦ったさやかが、
「ちゃんと覚えるから! そしたら明日から一人でできるから! ね!」
と、いちいちフォローしてやらねばならず、大変であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:56:45.05 ID:TRdx1Xl5o<> 二人が部屋の掃除を始めると、杏子はなにやら書類を広げ、確認しながらペタペタとハンコを押していたが、すぐに放り出し、
さやかの後に付いて「そうそう、上手い」とか言いながら掃除の指導を始めた。 すると、
「お姉ちゃん! 仕事しなよ!」
当然のように妹がこれにキレた。
「うるせえ! お前がさやかにベタベタするから、気が散って何も出来ねえんだよ!」
「ベタベタなんてしてないでしょ! 私は教えているだけ!」
姉妹喧嘩は一気にその火種が燃え上がり、危険な状態に遷移した。
「ちょっとちょっと、喧嘩は駄目だって!」
さやかが間に入ってなんとか止め、収まったものの、完全にそれが消えるわけはなく、
さやかは痛いまでの杏子の視線を背中に浴びながら、社長室の清掃を終えたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:57:46.63 ID:TRdx1Xl5o<> 次は、スケジュール管理を教わった。
「愚姉のスケジュールです。 時間が押しているので掻い摘んで…」
「おい、誰が愚姉だよ! ふざけんな!」
妹は吠える杏子を完全に無視してかかっていた。
しかしさやかは杏子の機嫌が気になって仕方がなかった。
「十時から役員の方が来られるんですね」
「ええ、そうです。 戦略、広報担当の骨川常務が業務報告に来られるので、ご案内しなければいけません。
それにその前に、今やっている書類の決裁を終えてもらいたいんですけどね…」
そう言って、妹が嫌味っぽく、遅々として進まぬ仕事が広がっている杏子の執務机を一瞥した。
「うるせえな、今やっているじゃねえか!」
杏子がペタリと判を押した。 しかし、未決済の書類はまだ山積しており、とても十時まで終わりそうにない。
さやかはピンチを感じ取った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:58:31.84 ID:TRdx1Xl5o<> 「杏子、頑張って!」
さやかが応援の言葉を送ると、杏子の書類を確認するスピードがにわかにアップしたようであった。
今度は判を押さずに、机の隅に書類をすべらせる。
何かが気になり、決裁出来なかったのだろうとさやかは思った。
ただハンコを押すだけが仕事では無いのである。
「頑張れ! 頑張れ!」
「おっしゃあ! 燃えてきた!」
さやかの声援に答えるように、杏子は猛スピードで書類を片付けていく。
妹は、呆れたような表情でそれを眺めていた。
「さやか、終わったぞ!」
「やったね、杏子!!」
終了したのは、十時二分前であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:59:07.67 ID:TRdx1Xl5o<> それからは、役員や部長級の社員達が代わる代わる社長室を訪れ、その度に杏子は指示を出したり、
一緒になって考えたり、書類を突き返して担当者を社長室に呼び付けたりし、
その結果杏子の所要が増えると、妹がさやかを近くに呼んで、スケジュールを組み込む要領を教えた。
杏子のスケジュールは何かがあるたびに増えていき、管理が大変そうであった。
さやかはこんな事が自分に出来るのかと、不安を感じ始めていた。
そしてそんな不安の中、スケジュールと時計とを交互に見ながら昼休みがやってきたが、
時計が正午を指していることをいくら確認しても、さやかの頭は休み時間に切り替わらず、なんだか変な気分であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 19:59:34.56 ID:TRdx1Xl5o<> 杏子は邪魔な妹を社員食堂に追いやって、さやかと二人、レストランで昼食をとっていた。
「どうだい? 仕事は」
「うーん、めまぐるしすぎて、何が何だか分からないや…」
杏子はエスカルゴのなんとやらを口に放り込み、咀嚼し飲み込んでから、
「まあすぐに慣れるって」
と、楽観論を展開した。
「うん、頑張るよ」
さやかも、そう思わねばやっていけなかった。
不安をそうするようにエスカルゴを噛み下し、笑顔を作ると、杏子は顔を赤らめ、俯いて「ヘヘヘ…」と照れ笑いをした。
「どうしたの、杏子?」
「な…何でもねえよ…」
杏子は、まるでデートみたいだ、と思って、ひとり舞い上がっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 20:00:02.64 ID:TRdx1Xl5o<> 午後は会社から出、車で銀行や商社、そして食品会社などを巡り、商談やら挨拶やらをして、社に戻ると6時を過ぎていた。
「あたしはもう一仕事するけど、さやかは疲れたろうから帰っていいぞ」
さやかは杏子の好意を受けることに迷いを感じていた。
付いていくばかりで何も出来ていなかった自分が、その上先に帰るなどと、許されることではない気がする。
「そうですね、もう秘書の仕事はないので、先に帰っていてもいいと思います。
あ、念のため、明日のお姉ちゃんのスケジュールだけは、明日の業務開始までに頭に入れておいてくださいね。」
しかし妹もそう言ってくれたので、さやかは好意に甘えて帰ることにした。
「じゃあ先に帰っているね。 杏子は何時に帰るの?」
「あと1時間もあれば帰れると思う」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 20:00:37.09 ID:TRdx1Xl5o<> 「そう、じゃあ晩ご飯作っておくよ。 何がいい?」
さやかの申し出に、杏子は戸惑いながらも、嬉しそうな表情を浮かべ、
「さやかの作るものなら、何でもいいよ」
と、答えた。
それはさやかが同じ問い掛けをしたとき、いつも恭介がする答えと全く同じで、
さやかはその言葉の中に不安の種を見た思いがしたが、それを振り払うように、
「じゃあ、オムライスでいいかな?」
笑顔を作って、言った。
オムライスはかつて恭介によってたぬきの餌にされた料理であった。
何でもいい→オムライスの流れは、さやかにとってトラウマであったが、彼女はそれをあえて試し、克服したい気持ちになったのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 20:01:06.49 ID:TRdx1Xl5o<> 「さやかー! ただいま―!」
杏子が帰ってくると、さやかが出来上がった料理をテーブルに並べている最中だった。
「あ…ごめんね、お出迎え出来なくて」
「いいって、いいって、それより腹ペコだ! 早く食べよう!」
普段、小腹が空いたときはお菓子やジャンクフードでそれを満たす杏子であったが、
今日はさやかが手料理を作ってくれるということで、耐えに耐えていたのであった。
「いただきます! ひゃあ、うめえ!!」
杏子は息継ぎのように賞賛を唱えながらオムライスを瞬く間に完食し、おかわりまでする始末であった。
杏子の胃袋は幸福で満タンであった。 さやかの手料理を満腹になるまで食うことが出来たという、幸福である。
さやかはそれを見て、オムライスをたぬきの餌にされたトラウマが克服できたような気がし、素直に嬉しくなったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 20:01:42.49 ID:TRdx1Xl5o<> さやかは、食器を片付けたあと、自室で杏子の明日のスケジュールを確認したあと、秘書検定の勉強を始めた。
しかし、始めて十分も経たないうちに、部屋の扉がノックされ、
「さやかー、あそぼうぜー」
と言って、杏子が入ってきた。
「ええー、あたし、いま勉強中なんだけど…」
さやかがそう言って渋ったが、
「明日でもいいじゃんか。 居間でテレビ見ようぜ。 それともゲームすっか?」
と、杏子は、「少しだけだからね」と言うさやかを居間に引っ張り出し、ソファに並んで座り、テレビをつけた。
しかし杏子はどんな番組をやっているのか分からない。
体のセンサー全てがさやかに釘付けだからである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 20:02:19.18 ID:TRdx1Xl5o<> 杏子は、だんだんと思考がさやかで飽和していく自分を感じていた。
そして勇気を振り絞り、体を少し、さやかの方にスライドさせ、寄り添ってみた。 さやかは黙ってテレビを観ている。
杏子はうっとりとさやかを見つめながら、自分の中にエッチな衝動が泉のように湧き出すのを感じている。
女性器が熱く興奮して、さやかを求めて花開いていくのが分かる。
杏子はそれをどうしていいか分からずに、腿をもじもじとすりあわせ、持て余しながら、
己の中に蓄積されていくさやかへの情動に、なんとか抗っていた。
「…どうしたの、杏子?」
突然声をかけられて、あまりの驚愕に杏子のすべてが制動された。
「えっと…あのさ…」
そして動転によってかき回され、もつれた毛糸のようになった思考が紡いだ言葉――
「手、繋いでいいかな?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 20:02:57.72 ID:TRdx1Xl5o<> 杏子は自分が言ったことの真意を分からずに、浴びせかけられたかのような冷や汗の存在を肌に感じたが、隣のさやかは、
「べつに、いいよ」
と、あっさりと応じてくれたのだった。
杏子はジリジリと右手を動かし、さやかの左手に近づけながら、猛烈な違和感を覚えていた。
そう、違和感としか言い表せない、しかも二人の関係の、どこに違和感を覚える要因があるのか分からない、もどかしい知覚だ。
そんなことを考えながら、杏子の手が、さやかのそれに触れたその瞬間、
さやかの体が瞬時にこわばったのが、触れ合った肌を通して杏子にも感じ取れた。
――さやかを怖がらせちまったかも知れない!
杏子の腹に、冷たく重い、鉛の網のような後悔が広げられた。
しかしすぐに、繋いだ手から伝わるさやかの温もりが、近くにあるその顔が、それらさやかのすべてが入り込んで、
その鉛を溶かしながら杏子の体中を駆け巡り、鼓動を高め、加熱させていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 20:03:48.28 ID:TRdx1Xl5o<> ――どういう事だオイ、ドキドキし過ぎて体が動かねえじゃねえか!!
気がついたら杏子は手を繋いだまま、固まってしまっていた。
彼女の精神と肉体とを留めているのは、あの違和感であり、手を繋いだ時感じた後悔でもあった。
そのままさやかに最接近をかけても、あの手を繋いだ時の彼女のこわばりが拒絶してくる気もするし、
このまま離れてしまったら、自分を怖がったさやかがどこか知らないところに逃げて行ってしまい、二度と近づけない気もしてくる。
結局杏子は手を繋いでいるだけという、いわば子供の距離に己を留め、猛烈な違和感に囲まれながら、
しかし昂ぶる心に、今自分がさやかを独占していると言う満足感を配色した幸福にそれらすべてを溶かし込み、
このままでいいのかも知れない、幸せだし――と、動けない自分を肯定し始める次第であった。
杏子のヘタレが萌芽を見た瞬間である。
そしてそのヘタレは、さやかに対する彼女の行動方針を決定する際、必ず意見し、
二人の関係が動き出そうとするとき、それを平行線に留める緩衝剤の役割を果たすのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/11(月) 20:04:49.56 ID:TRdx1Xl5o<> 十二章長すぎだから今日はここまでにするね。
明日後半。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/07/11(月) 21:59:07.36 ID:s0m1kEnvo<> もう杏子とさやかに媚薬でも盛ったらええんとちゃう? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/11(月) 22:01:46.79 ID:OO5lMi4DO<> おっつおっつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/11(月) 22:56:15.72 ID:hiZmcTjGo<> 乙っちまどまど!
杏子ちゃんの反応に対してさやかちゃんはどう思ってるのかねー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/11(月) 23:14:18.25 ID:u4Ct/gxio<> 乙あん
まどほむは爛れきってもう触れないけどこっちのカップルはまだ健全……なのかなぁ?
そういえば神まどさんって出るのかしらん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/07/12(火) 10:29:44.47 ID:Be3SVFLgo<> ヘタレあんこちゃんあんあん
ここからさや杏に転じるわけですね <>
1<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:32:57.21 ID:XhQxPMf9o<> 後半投下します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:33:45.93 ID:XhQxPMf9o<> それから一週間して、さやかも仕事の基本をひと通り覚え、杏子の妹もりんご園に帰っていった。
仕事中は、業務というただ一点においてそれぞれの行動を決定すればよかった二人であったが、
家に帰った後は、相変わらず二人とも相手との距離をどのくらいに設定したらいいのか全く分からず、
そんな日常の積み重ねが二人の関係を更にぎこちないものにさせていった。
「――社長、本日のスケジュールは以上です。 よろしいですか?」
「…あのなあ、よろしいですかじゃねえっての!」
さやかには、杏子の求めている事が分かっていた。
だけど、にこやかに笑って、素知らぬ顔で、それをかわしている。
「ふたりきりの時は、杏子って呼んでくれって、言ったじゃねえかよ、さやか!!」
さやかはそれを聞いて、フフッと笑い、
「すみませんでした、社長」
と、冷たく返すのが半ば日課のようなものとなっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:34:40.89 ID:XhQxPMf9o<> さやかは仕事中、杏子を「社長」と、役職名で呼ぶことにしていた。
そうでないと杏子が仕事中にもかかわらずさやかにデレ過ぎ、堕落してしまう事がなんとなく分かり始めたからである。
杏子は、いつでもさやかに甘えたがる。 自分の距離に、さやかを置きたがるのだ。
しかし結局、杏子のヘタレた性格により、その距離というのは友達以上にはどうしてもならない。 中途半端なままである。
さやかは杏子を役職名で呼ぶことによって、仕事中という事を暗に知らしめ、二人の距離を仕事用のそれに保つ術を身につけたのであった。
そして結果、距離が明確な仕事中には、杏子も頼もしい上司であり、さやかも彼女に全幅の信頼を置くことが出来ている。
だがしかしこの方法は、かように上手く行っている二人の関係を、
家に帰って仕事という前提が取り払われた後、更にギクシャクしたものに変貌させてしまうと言う不幸も重ねて誘発していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:35:08.06 ID:XhQxPMf9o<> さやかにしてみても、仕事中に杏子と事務的な距離をおくのは辛い選択であったのは否めない。
この一週間以上、杏子のスケジュールを管理してきて、さやかは杏子が他人や組織との関係にまみれて生きていることが分かってきた。
恭介のことで実家を追い出され、その恭介にも裏切られ、最早頼るべきが杏子しか居なくなっていたさやかとは、正反対である。
つまり、杏子の気持ちを疑いたくは無いのだが、杏子にとってのさやかは、
杏子の保有する多くの関係性の中のうちの、たった一つなのであると言う厳然たる事実を、考えないわけにはいかなかったのである。
だから、近づけるときには、より杏子と近づいていたいというのが、さやかの偽らざる心境であったのだ。
しかしその一方で、仕事中の、しっかりとお互いの距離を確定させた杏子との関係が、
ギクシャクした家でのそれより格段に楽であると言う事実も、さやかの中にその実感を深く刻み込んでいるのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:35:56.12 ID:XhQxPMf9o<> さやかは空っぽになりたいと思っていた。
いうなれば、影に。 杏子の秘書としての自分だけに。 もどかしい事を何も感じなくていい存在に。
しかしそれは、自分の人間性というものを、押し殺す行為に他ならない。 だが、さやかはあえてそれをしたかった。
もどかしかった。 自分の、人間というものを形作るその何かが。
さやかはその日、自分のその人間の、醜い部分を感じなくてはな らないということを、なんとなく分かっていたのだった。
「そういえば今日さ、15時からフリーじゃねえか!」
――始まった。 さやかは胸の内に、冷たく呟いた。
「さくら会本部教会に寄るか! さやか、車を手配してくれ」
自分は影だと言い聞かせる。 影に、感情はないのだと。
「分かりました――」
さやかはぐっと拳を握りしめた。 車の手配をうっかり忘れてしまえば、本部教会へはいけなくなるかも知れない。
行きたくない。 だけど――
「――社長」
――影は、その主である肉体には逆らえないのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:36:42.12 ID:XhQxPMf9o<> 会社での業務を為し終え、杏子とさやかを乗せたセンチュリーは今、下部暮市中心街を、さくら会本部教会に向け走っている。
ビルの合間を縫って、静かに車が走っている。
時々、ビルの影に飲み込まれる。 太陽が隠れて、暗くなる。
自分はこの部分なのだと、言い聞かせる。 暗くて、空気がちょっぴり重い部分。
影をつくっている部分には、そのビルには、たくさんの人がいて、いろいろな作業をこなして、
それ自体が有機的な組織を形作っているというのに、その影は、冷たく無機質で、その輪郭を真似ているだけだ。
あれが、あたし。 杏子の裏返しの、空っぽの輪郭。
車がビルの影を抜け、さやかは姿を表した太陽のあまりの眩しさに目を細めた。
杏子はきっと、眩しくないのだろうと思う。 杏子はいつだって明るいところにいるから。 あたしは、影だから眩しいのだ。
車が減速して、右折した。 ビルが見えなくなる。 郊外の道は、常に太陽が見えて、さやかには辛い。
さくら会本部教会は、すぐそこであった。
その事実も、さやかには辛かった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:38:40.25 ID:XhQxPMf9o<> 杏子が車から降りる前から、沢山の教会関係者が並んで、彼女を迎えている。 さやかがいても居なくても、対応は同じだろう。
ここもまた、杏子の持つ多くの関係を、さやかに知らしめる場所であった。
しかし、こんな神父やらシスターやら信者たちやらは、上辺だけの付き合いで、目ではない。
一番おぞましい相手は、別にいるのだ。
車のドアが開け放たれ、杏子が降り立った。
車外に出て、彼らのいる空間に晒された杏子に急接近してくる小さな影を見て、さやかは自らの心に深い影の生じるのを感じた。
「逢いたかったよ! キョーコ!!」
この声を聞くと、いつもさやかはイライラする。 キョーコじゃなくて、杏子だっつうの、と思う。
「おお、ゆま。 元気にしてたかー」
――千歳ゆま。 変態紳士に両親を殺害され、さくら会見滝原支部に保護され、本部教会の孤児院に入所してきた孤児である。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:39:44.21 ID:XhQxPMf9o<> 杏子はしゃがみ込み、目線を同じくしたゆまの頭を、優しく撫でた。
こうなったとき、杏子は自分と同じ目線を喪失したのだと、さやかは思う。
「キョーコ! 肩車して!」
――だあめ、甘えるんじゃないの! さやかは心のなかでゆまを叱った。
「おお、いいぞー。 よっこらせ」
しかしそんなさやかの気持ちを知らない杏子は、気前よくゆまを肩車してやった。
それを見たさやかは努めて無表情を作り、歩き出した杏子の後を、まるで影のように付いて歩くのだ。
「わーい! 高い、高いよ、キョーコ!」
ゆまは杏子の目線より高くなった己のそれに興奮し、はしゃいでいた。
しかしおもむろにさやかの方に振り返り、肩車で杏子に気づかれないのをいい事に、
さやかに舌を出し、表情を様々に歪め、彼女を嘲るための顔芸を披露し始めたのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:40:17.68 ID:XhQxPMf9o<> 杏子はそんなことは知らず、「ゆまもたくさん食べて、大きくなるんだぞー」とか言いながら歩いている。
ゆまは、出会った当初から杏子を独占しようという気迫に満ち満ちており、動物的なカンで、杏子がさやかを想っている事に気づき、
その結果として、このように徹底的にさやかを嫌っていたのである。
子供であるという気安さを最大限に利用し、時々自らを睨みながらベタベタと杏子にまとわり付くゆまを見て、
さやかは自分が影であると、人間的な感情を捨てた仕事の道具なのだと何度も自分自身に言い聞かせねばならなかった。
さやかが感情をこらえながら歩いていると、沢山の信者やら協会関係者やらが、杏子さん、杏子さんと杏子に詰めかけ、
さやかは熱狂し始めたその人ごみに杏子が埋没していくのを、空虚な感覚を持って眺めていた。
ここでは、杏子は仕事の時でもない、家でさやかとのぎこちない関係に陥っている時でもない、全く違う杏子になってしまう。
さやかは、杏子との関係が、どんな距離で接したらいいのかが、分からなくなる。
そして知らぬ間に、こうして杏子が見えなくなるまで、お互いの距離が遠くなってしまうのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:41:40.88 ID:XhQxPMf9o<> 自分から、杏子が見えなくなるまで遠くなったその時も、ゆまは杏子にベッタリとへばりついているのだろうと思うと、
さやかはどうしたら良いかわからなくなるほど打ちひしがれてしまうのであった。
さやかは孤独を持て余し、ブラブラと教会の庭を散策し、
普段ゆまの世話をしている中年のシスターが、花に水をやっているのを見つけるなり、
「千歳ゆまちゃんの引取先は見つかったんですか?」
と、急かすように聞いてしまっていた。
「ああ、ゆまちゃんはねえ…なかなか決まらないのよねえ…」
シスターはゆまの引き取り手を探すのを、半ば諦めてしまっている感じがする。
ゆまは両親に虐待をされていたらしく、その痕が生々しく体に残っているのである。
そういう子供は、引き取りに来る里親からも敬遠されがちなのであった。
まるでペットショップで売れ残っている動物だと、さやかはゆまを哀れむ一方で、
自分に向けてあらん限り多種多様な変顔をして見せるそのひねくれた性格を考察するに、
誰からも愛されないのは当然の報いであるとも思ってしまう。
しかしさやかは、ここに来るたびにあんなのがいるのは冗談じゃないと思って、
「あきらめないで、頑張ってゆまちゃんを引きとってくれる里親さんを探しましょう!
あたしも、会社でそういう人が居ないか聞いてみますから!」
と、シスターを勇気づけるように力を込めて言うのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:43:13.10 ID:XhQxPMf9o<> 話が切れると、シスターはペコリとお辞儀をし、さやかも会釈を返して歩き出した。
気がつけば太陽は遠くの山並みに隠れ、その輝きだけで空をかろうじて照らしている。
独りに戻ると、ゆまがどこか遠くへ居なくなって欲しい、と願っている自分の浅ましさを恥じる気持ちが急速に形を作り、
「あたしって、嫌な女だ」 と、さやかは独り呟いていた。
自分の影は霞んで見えなくなった。 こうやって、自分もいつか杏子のそばから消えてなくなってしまうのではないかと、不安になる。
「美樹くん、美樹くん」
「あっ…どうも…」
声のする方に振り返ると、こそこそと手招きしているのはさくら会宗祖であり、杏子の父その人であった。
「君に、ちょっと相談があるんだけどねえ」
「…何でしょうか?」
さやかが反応を示すと、杏子の父は手招きをして教会の一室に消えていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:43:46.32 ID:XhQxPMf9o<> 杏子の父の後を追い、建物の一室に入ると、彼は机に幾つかの写真を並べ、
「実はね、杏子にお見合いをさせようと思っていてね」
と、切り出した。
それはさやかには衝撃的な内容であったが、なんとか表情の変化を抑えこみ、
「杏子が、お見合い…ですか?」
平静を装って聞き返すことが出来た。
杏子父が、そんなさやかの表情を探るように見てから、続ける。
「杏子は男勝りな性格というかだねえ、私が縁談を勧めてもあんまり乗り気じゃあ無くてねえ…心配で夜も眠れないんだよ。
もしよかったら、秘書の君から、この資料を渡してお見合いを勧めてくれないかなあと思ってねえ。
きっと君が勧めてくれると、杏子もその気になってくれると思ったんだ」
と言って、お見合い写真と資料を封筒に入れ、「杏子の為に、協力して欲しい」と、さやかに渡してきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:45:16.95 ID:XhQxPMf9o<> ,. r ー--.-.-.、__
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/:/: : /:/:/: : : : : : r-- 、: :ヽ
/:/: : : : !: : : : : : : :/:,.! ヽ: ヽ
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/:/: :ーノ: : : : : :,/`ヽ、__,! ヽ,r- 、.:ゝ
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-=,少彡_:_: : :| ´ ヽ、 |:.ミ レズは良くない(キリッ
=Kl:/ ,ヽヽ,| / |i´
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ヾ、 ヽ `` r-´ー‐ヘ !
V ̄i  ̄ ̄ ̄ /
r-|、 ヽ、 ,ノ::::::L,,/
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:46:03.36 ID:XhQxPMf9o<> 父は、杏子がレズであることを、そしてさやかを好いていることを知っていたが、それを認めたくない彼は、
さやかにお見合いを勧めさせ、杏子との関係を終わらせようと踏んでいたのである。
さやかが、杏子に他の者との関係を勧めるということは、二人の関係を終わらせる意思があることを意味する筈であるから。
さやかは女の勘で杏子父のその残忍たる謀に感づき、すべてのものが急速に自分から遠のいていくような、眩暈にも似た知覚にさらされていた。
「さやか、こんなところに居たのか!」
不意に背後から杏子の声がし、背筋が反り返るほど驚愕したさやかは、
次いで反射的に杏子父から渡されたお見合い資料をかばんに突っ込んでいた。
「もう、探したんだ…ん? 何してんだ、さやか?」
「え、なんでもないよ」
さやかは何事もなかったかのように、かばんを手に持ち、杏子の方を振り返った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:47:19.02 ID:XhQxPMf9o<> すると杏子ははっきりと父を睨んでおり、
「さやかに変なことしてねえだろうな」
と、ドスの利いた声を浴びせかけていた。
さやかは自分を守ろうとするそんな杏子の態度が、妹との喧嘩を始め、多くのトラブルを巻き起こす要因であるのを十分承知していたから、
「別になんでもないんだよ、杏子! お父さん、杏子の事いろいろ心配してくれているんだから、そんな風に言っちゃ駄目じゃない!」
と、父をかばうように杏子を押しとどめていた。
しかし杏子はそんなさやかの気遣いも知らず、
「おい親父、二度とさやかに近づくんじゃねえぞ」
ガンを飛ばしながら吐き捨てたのだった。
「杏子! 駄目じゃない! お父さんに謝りなって!」
杏子は、さやかの注意を聞かず、
「いいのいいの。 さやか、帰ろう」
さやかの手を取り、父から離れさせようとするように力強く、出口の方に引きずっていく。
さやかはとっさに杏子父のほうを向いて頭を下げたが、その時彼の視線が、嘆願するような重みを含んでいるのが感じ取れ、
鞄の中のお見合い資料が気になって、体の内側がムズ痒くなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:48:15.54 ID:XhQxPMf9o<> 「…さやかさあ、親父と何話していたんだ?」
帰りの車内で、杏子が探るように発した言葉に、さやかは、
「別に、普通の事だよ。 杏子の仕事はどうかとか、無理してないかとか、ちゃんと食べているかとか、そういう話」
平然を装って嘘を言いながら、必要以上に神経が乱れていくのを感じ、取り繕うように笑顔を作ったが、
それがただの顔面のこわばりのように引きつったので、そこから自分の内面を勘ぐられはしないかと気が気ではなかった。
「ならいいんだけどさあ…」
感づかれてはいない。 さやかは一つ仕事を為し終えたような安堵を感じた。
既に外は暗くなっていて、そのおかげかも知れないと、さやかは暗闇に感謝したい気分にもなった。
「親父はあたしらが一緒にいることが、面白くないらしいからさ、なんか変なこと言われたんじゃないかって、心配でさあ。
あいつがなんかおかしな事言っても、さやかは気にしなくていいんだぞ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:49:23.35 ID:XhQxPMf9o<> さやかは、やはりそうなのか、と思った。 杏子父は、杏子がレズなのを知って、意図してさやかと杏子を離れさせようと画策し、
さやかにお見合いを勧めさせる気なのだ。
さやかがそんなことを暗澹と考察しながら聞いた、杏子の言葉は、しかし、彼の謀以上の毒を含んだそれであった。
「全くさあ、あたしたちはただの友達だろ? 変なことなんて何もしていないってのに、何勘ぐってんだろうな」
杏子はある種誤魔化すような明るさを持って、運転手にそれを聞かせ、アリバイを作るように宣言したのだった。
それはさやかにとり、聞き捨てならぬ言葉であった。
ただの友達――それはある種の安堵も感じさせる言葉であったが、
また一方である種裏切られたかのような違和感も、さやかの胸に強く抉りこむ言葉であった。
さやかは、杏子がレズなのを知っていた。
その杏子が、さやかに告白した二人の関係が、「ただの友達」だという事実は、強く拒絶されたにも等しい衝撃を持ってさやかを襲った。
友達、と聞いて、さやかは親友であった仁美のことを連想した。
ある日仁美はさやかを喫茶店に呼び出し、留学させるからと一方的に恭介を奪っていったのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:50:16.35 ID:XhQxPMf9o<> 親友であった仁美が、ある日突然手のひらを返したと言う経験は、
ただの友達と言う杏子との関係が、更にもろいものであると言う予感を生じさせるに充分なものであった。
さやかの中に、杏子に対する不信感が蒸留されていく。
むやむやと鬱積してきた何かが、「ただの友達」と言う告白に炙られ、そこから純粋な不信感が分離精製されてくる。
「ただの友達」と言うその薄っぺらい響きは、思い立ったその時にすぐ、関係を終わらせることの出来る便利で儚い絆のように、
さやかには感じられるのであった。
さやかは今、杏子に手のひらを返される自分を、危機感にも似た焦りを持って、明確に想像することが可能になっていた。
そして、レズであるのにその欲望を抑えこみ、杏子がぎこちなく続けてきたさやかとの生活と、
杏子を取り巻く様々な、自分以外の数多くの関係というものが符合し、そこにお見合い資料を渡したときの杏子父の言葉が降ってくる。
――杏子の為。 そう、さやかとの中途半端でぎこちない生活を続けることは、はっきりと杏子の為にならない筈だ。
さやかの入社で、雰囲気が悪くなった秘書課員達――
仲違いした杏子と妹――
千歳ゆまに、杏子の父、そしてさくら会の信者や関係者達――
さやかには、杏子を取り巻くすべての関係が、自分と杏子が離れることが杏子の為であると考え、
その時が来るのを待ち望んでいるような気がしてくるのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:50:59.35 ID:XhQxPMf9o<> 車が、二人の住むマンションの前で、滑らかに停車した。
あのぎこちない関係が始まるのかと思うと、さやかの肺には溜息の素が詰まってくるようだったが、なんとかそれを吐き出さずに耐えた。
運転手に礼を言い、見送ってからマンションに入り、エレベーターに乗り込む。
狭い空間の中、二人はただただ押し黙っている。 もう始まっているのだと思う。
いつものあの、ぎこちない関係の再構築がである。 そしてそれは、二人の暮らすあの部屋に入ったとき、きっかりと完了するのだ。
エレベーターの扉が開く。 廊下は照明に照らされて明るくなっていた。
さやかは自分の影を探してみた。
見つけたのは、天井からの照明に照らされた体から、微かに伸びる、薄くて、まるで蠢く棒のような、
太陽に照らされたときに生じるそれとは全く似ても似つかない歪な形の影だった。
それを見て、今の自分そのものだと、さやかは思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:51:26.38 ID:XhQxPMf9o<> 「もう遅いけどさ、なんか食べよっか」
さやかがぎこちなく問うと、杏子も、
「もう疲れているから、カップ麺でも作ろうぜ」
演じるように聞き返した。
さやかは、杏子の好きな「赤いケツネ」を取り出したが、粉末スープとお湯を入れ、5分待つだけで完成するそれは、
薄っぺらな人間関係の象徴のように思え、彼女は恐ろしくなってそれを戻した。
「ねえ杏子…オムライス、作っていいかな?」
「えっ…でもさやかも、疲れているんじゃないのか? 無理しなくていいんだぞ」
気遣いが、二人の間に鎮座している。 距離を孕んで。
「いいの、作らせてよ。 あたしが作りたいの。 十分もあればできるから、いいでしょ?」
さやかはそんな気遣いを振り払うように、半ばムキになって、フライパンを用意していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:52:03.89 ID:XhQxPMf9o<> 杏子は、出来上がったオムライスを、ガツガツと無言で掻き込んでいた。
「ねえ、美味しい?」
「え?」
食べるのに夢中であった杏子は、そよ風のようなさやかの言葉の内容が聞き取れず、食事の手を止め、聞き返した。
「最初の頃はさ、美味しい美味しいって、言いながら食べてくれたよね」
「美味いよ、さやかの作る料理は、なんでも美味いよ!」
さやかには、杏子の言葉が既に言い訳にしか聞こえなくなっていた。
「もういい! 知らない!」
さやかは強くテーブルをぶっ叩き、その反動で乱暴に立ち上がった。
「ちょっ…さやか…」
「あたし、勉強するから…それじゃ」
さやかは食べかけのオムライスと杏子をダイニングに残して、独り自分の部屋に戻っていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:52:47.80 ID:XhQxPMf9o<> 自室に入るなり、さやかは激情にかられて辞表を書き始めた。
しかしどんな事を書いていいのか分からず、結局、
「一身上の都合により、退職します」とだけ書いて、「辞表」と書き込んだ封筒に突っ込んで、それを鞄に放り込んだ。
その後は、何もすることが無くなった。
いずれ辞めるのであれば、秘書検定の勉強など、意味が無いことであるからだ。
さやかは、自分のベッドに寝転がった。
独りだけのベッドである。 これも恐らく杏子の気遣いなのだろうということは分かる。
この部屋には、二人の住まいには、気遣いが充満している。
ふたりの距離を図るとき、必ず気遣いが間に割り込んでくる。
さやかには、それら気遣いのすべてが、杏子がいつか自分を突き放すときの手掛かり足掛かりの為のものであると、思えてしまうのだった。
さやかは、部屋の隅に置かれた、自分の鞄を一瞥してみた。
杏子のお見合い資料と、自分の辞表とを孕んだその黒い鞄。
――あれらもまた、気遣いが形になったものなのだろうか?
さやかは自分の鞄が、この世で一番重たい物質に思えてきて鬱陶しく感じ、目をそらして天井に向き直った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:53:42.21 ID:XhQxPMf9o<> 杏子は今、何をしているのだろうと考える。
いつもはご飯を残すと、「食い物を粗末にするな」と言って怒るのに、今日は何も言ってこない。
それも気遣いなのかも知れないが、もしかしたら、自分を見捨ててしまったから、何も言いに来ないのかも知れない。
いつもならこうして別々の部屋にいると、杏子の方から、「さやかー」と、甘えてくるはずなのに、今日は来ない。
それも気遣いなのかも知れないが、もしかしたら、もう自分が必要でなくなったから、来ないのかも知れない。
さやかは、距離を置こうと思った。
裏切られるより、裏切るほうが楽だと思った。
仁美や恭介が杏子に置き換わって、そこに彼女を取り巻く様々な関係が染みこんでいって、すべてが自分を拒絶する感じ。
それに対抗するには、自分が拒絶するしかないのだと、さやかは結論した。 明日から、家の中でも仕事の距離で接しようと思う。
一番楽な距離で。 そして、だんだんとその距離を遠くしていって…それが一番いいと思った。
気が付くと、視界が涙でぼやけ始めている。
一番楽な選択をしたのに、何故――さやかはそう思っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/12(火) 19:56:34.20 ID:XhQxPMf9o<> 今日はここまで。
次回で終章とエピローグやって終わり。
番外章のデート回は出来次第投下しようと思っているけど、一週間位掛かるんじゃないかと思うんだよねえ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>sage<>2011/07/12(火) 20:01:24.47 ID:jkzmY2Re0<> 乙!!!!
すれ違いは大好物です。もう夕飯いらね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/12(火) 20:02:25.56 ID:8xcxCfkoo<> 乙乙
……前作と今までが嘘みたいなプラトニックさwwwwwwww
良いねぇ、甘酸っぱいねぇ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/12(火) 21:59:32.72 ID:Jv5wmxogo<> 乙っちまどまど!
いいね〜次回に現在に追いつくのかな?
緊張感があって読み応えがあります <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<>sage<>2011/07/12(火) 22:13:13.65 ID:3bu7y2NAO<> 乙!
こんなにさやかに共感するとは思わなんだ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/07/13(水) 00:28:44.76 ID:Vu0c/jGt0<> 意外なキャスティングだったが、杏子のような人間を旗頭にした組織は、堕落しないかも知れんなあ。
マミリーマート上層部のドス黒さと、現実を見ながらも人間は捨てたくないサークル杏クウカイの体質の差が面白い。
しかし・・まだ終幕まで行ってないが、全員の名優ぶりに心が震えるぞハート。
(何故か、黒くなればなるほどQBが気に入ってしまう私であった)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<><>2011/07/13(水) 00:44:47.80 ID:lYJ2Ktya0<> まだか
続きはまだか俺の胸が切なさで張り裂けそうなのだが <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/14(木) 17:23:51.16 ID:alr8upMY0<> 全裸待機 <>
1<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:54:50.44 ID:G0xaiGGno<> じゃあ投下します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:55:38.64 ID:G0xaiGGno<> 終章 夜
「さやかちゃん、辛かったんだね」
話しながら泣き出していたさやかの背中を、まどかは優しく撫でさすりながら言った。
「辞表と、お見合いの資料は、まだ渡していないの?」
さやかは、まどかの問いに、更に苦しむように
「今もバッグの中に入ってる。 渡そうと思うんだけど、渡せないの」
鳴き声と共に搾り出すように言った。
「それ、渡さないほうがいいと思うよ」
「でも…もう駄目なんだよ…あたし、居なくなったほうが杏子の為なんだよ…」
「そんなことないよ。 杏子ちゃん、さやかちゃんと仲良く出来なくて、とっても辛そうだったもん」
まどかは、素直に自分の見てきた事実の感想を述べた。
そしてそれは、客観性という最も公平な物の見方をそなえた、つまり正確な意見でもあった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:56:05.58 ID:G0xaiGGno<> 「杏子が辛くったって、杏子の周りの人達、みんなそれで喜ぶんだよ? きっと杏子も、そのほうが幸せだよ」
しかし、その一方でこのようにさやかの観点から導きだされる物の見方があることも事実であった。
「そうやって全部さやかちゃんが背負い込んじゃだめだよ。
それは杏子ちゃんの問題なんだから。 本来は杏子ちゃんが、どっちを取ったら幸せか考えなきゃいけないんだよ」
「でも…でも…」
「さやかちゃんが悩んできたこと、勇気を持って、杏子ちゃんに話そ? それで二人が離れていくなら、それでいいと思うんだ。
だけど、今のままだったら、二人の関係を築く前に、さやかちゃんが勝手に逃げたことになっちゃうんじゃないかな?」
まどかの言葉に、さやかは黙すしか無かった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:56:35.61 ID:G0xaiGGno<> 「さやかちゃん、杏子ちゃんに嫌われるのが怖いんでしょ?
だから自分から、離れていこうとしている。
でも離れるなら、自分の気持ち、全部ぶつけてからにした方が、後悔がないと思うんだ」
「分かった。 あたし杏子にちゃんと伝えるね。 頑張ってみるね」
さやかが決意した瞬間であった。 ヘタレな杏子では、やはりこうは行くまい。
「うん、もうすぐみんなでご飯食べに行く時間だね。 それが終わったら、杏子ちゃんと二人きりになれるようにするから、頑張ってね」
まどかは、さやかの涙をぬぐってやりながら、
「ほら、さやかちゃんも泣き止んで。 さやかちゃんのそんな顔見てたら、また杏子ちゃん辛くなっちゃうよ」
と、優しく言ってやると、さやかも「うん、そうだね」と、湿った顔を飛び切りの笑顔に作り替えるのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:57:26.33 ID:G0xaiGGno<> 「呆れた! あなた全然美樹さやかのことが分からないんじゃない!」
質問しても、「分からない」を連発されて怒りが頂点に達したほむらが罵ると、杏子は項垂れたまま「うん…」と、力のない返事をした。
「何がうん、よ! あなたがウジウジして美樹さやかと距離を取り過ぎているから、向こうの気持ちがさっぱりわからなくて、
こっちもアドバイスの仕様がないっていっているのよ!」
杏子はまた、うん…と、最期の息遣いのような返事をした。
ほむらは二つの寝床が離れているツインのベッドを指さして、
「こんなふうにね、最初からお互いが離れていたら分かるものも分からないに決まっているでしょう?
あなたは恋をナメているのよ! 気遣いと優しさを押し出して、後は待っていれば手に入ると思っているんでしょう?
それは大いなる間違いだわ!」
ほむらに叱責され、とうとう杏子は声を上げて泣き出し、
「あたしの恋はベリーハードだああ…」
絶望を言語に昇華させ、鳴き声に交えて部屋中にばら蒔いた。
「ベリーハードなんかじゃないわ! 始まる前から終わっているのよ!
あなたが直面しているのはね、スーパーマリオの最初のステージで、始めに出会ったクリボーが怖くて先に進めないまま、
時間切れを迎えようとしているに等しい愚かな状況なのよ!」
ほむらも最早、彼女を慰める気さえなくなっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:58:05.01 ID:G0xaiGGno<> おいおいと声を上げて泣いている杏子を見て、後はどう諦めをつけるかだけが問題だな、と、ほむらが思っていると、
不意に部屋の扉がノックされた。
廃人化寸前の杏子の代わりにほむらが扉を少し、あけてみると
「ほむらちゃん、晩ご飯食べに行こ」
まどかと、その隣に俯き加減の、決まりの悪そうな顔をしたさやかが立っているではないか!
ほむらは腕時計を確認し、もうそんな時間なのか、と思いながら、
「ちょっと待っててね、支度するから」
とだけ言って、扉を閉めた。
「杏子、御飯の時間よ! 泣き止んで頂戴!!」
ほむらはそう言って、ベッドに突っ伏していた杏子をたたき起こし、
「早く、顔洗って!!」
と、洗面所に引きずっていき、洗面台に無理くり杏子の顔を突っ込んで蛇口を全開にし、水攻めにした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:58:35.35 ID:G0xaiGGno<> 「ガボガボ…苦しい!!」
洗面所で溺れている杏子を見て、自分がにわかに焦りすぎていたことを知ったほむらは、杏子を水攻めから開放し、
「美樹さやかが、あなたに会いに来ているわ。 だからその涙の痕跡を今すぐ完全に消し去りなさい!」
力強くそう言った。
「あたし、さやかになんてもう会えねえよ…」
しかし弱気になっているヘタレ杏子に、ほむらは、
「美樹さやかは、あなたに会いたいと言っているわ。 これは起死回生のチャンスよ!
分かったら笑顔を作って一緒に御飯を食べるの! いいわね!」
嘘をついて食卓に誘導しようとする有様であった。
本当はまどかと二人で食事を取ることが出来さえすればいいほむらであったが、
みんな一緒に、仲良く食事を取らないと、肝腎のまどかが悲しむのである。
それだけは避けたかったから、脅してでも杏子には笑顔で食卓に付いてもらわねばならなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:59:06.33 ID:G0xaiGGno<> それからしばらくして、重苦しい通夜のような夕食が終わり、ほむらはその怒りを杏子にぶちまけようと、
当然のように彼女の部屋についていこうとしたが、
「ほむらちゃん、お部屋に帰ろ」
まどかにそう言われてしまえば、もう杏子のことなどどうでも良くなってしまうほむらであった。
見ると、さやかも杏子に付いて行くではないか! ほむらはまどかが自分に返還されたことを知って、驚喜した。
そしてその込み上げてくる嬉しさは、ほむらに余裕をもたらしもした。
「あの二人、放っておいていいの?」
ほむらの余裕が、まどかに聞かせた言葉である。
しかしまどかも知らんぷりをして、
「もう、ふたりだけの問題だよ」
と言って、ほむらの手を引き、自分たちの部屋に戻っていったのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 19:59:52.37 ID:G0xaiGGno<> さやかが扉を閉めると、二人の部屋は気まずさで飽和したように感じられた。
「ねえ、杏子」
さやかは、そんな雰囲気を無視し、言葉を繋いだ。
「あたしね、あんたともう、別れようと思うの」
言い終わると、堰を切ったように杏子の鳴き声が響き渡った。
「なんでだよ! 理由を教えてくれよ! あたしそんなの嫌だよ!なあ、さやかぁ!」
「あたしね、ずっとずっと、辛かった…」
さやかは、まどかに話したのと同じ内容の事を、杏子の涙にしみこませるように、ゆっくりと語りだした。
自分の中途採用が会社を乱してしまったと感じたこと――
姉妹喧嘩の原因になってしまったのが、辛かったこと――
自分には何も無いのに、杏子の周りは沢山の人がいて、自分はその中の一つでしか無いのではないかと思ったこと――
「そんなことねえよ! あたし、さやかのこと大好きだよ!!」
杏子は、今になって初めて知る、さやかの苦悩を、自分がずっと知らぬままであったという事実に驚愕し、
その自らの情け無さに涙しながら、そう叫んだのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:00:29.82 ID:G0xaiGGno<> 「そう、あたしのこと好きなんだ。 じゃあ見せたいものがあるんだけど…」
さやかはそう言って、バッグの中から杏子の父から託されたお見合い資料を取り出して、杏子の前に並べた。
「何だよ…これ…?」
「杏子のお父さんがさ、あたしに寄越したんだ。 杏子のお見合い相手だってさ。
あたしと居るより、こういう男の人と居たほうが、杏子も幸せなんじゃないって、お父さん言ってたよ。 あたしもそう思うし」
さやかが突き放すように言うと、杏子は泣きながら狂ったように、
「ヤダ、ヤダ! さやかがいい!!」
と、さやかに抱きついてきたのである。
その杏子の必死な様子に、本当に覚悟が備わっているのかを、さやかは試そうと思った。
そして会社を離れれば友達という関係であるとはいえ、一応上司であるのに、
そんな杏子を試すなどと大それた立場にいる己に、違和感がまるでないことをさやかは不思議に思った。
「じゃあさ、キスしてよ」
「えっ?」
さやかの言葉に、杏子は彼女の意志で動かせる物すべての動きを停止させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:01:12.45 ID:G0xaiGGno<> 心臓の鼓動が聞こえてくる。
それが鼓動して血を送り出すたびに、さやかが体中を駆け巡っているように感じられる。
さやかに抱きついている今の状態でも、ばかになってしまいそうなのに、キスなんて…
しかし他に選択肢のない杏子は、勇気を振り絞り、さやかの顔に自らのそれを近づけて行き――
――やった! キスできたよ!!
唇がさやかの肌に触れ、その弾力を持った感触が、実感として体中に沁み渡り、
痺れ上がった杏子の体はキスの出来た満足に、そこで力尽きたように動きを止めた。
後は固まったまま震え、動けなくなるいつものヘタレトランス状態が待っているのだ。
「こんなんじゃだめだよ」
しかし放たれたさやかの言葉は、残忍極まるものであった。
「ほっぺにチュウなんてさ、子供のすることじゃん。 こんなんじゃだめ。 キスとは認めません」
浴びせられた言葉がそのまま蓄積されていくかのような、杏子の従順に落胆していく様にさやかは打ち震え、
今、自らが杏子を統べる立場にいるのだということが更にはっきりと実感させられた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:01:48.81 ID:G0xaiGGno<> さやかは自らに抱きついている杏子をひっぺがし、ああ…と、悲しげな声を上げている彼女を、そのままベッドに押し倒した。
「いい? あたしが教えてあげる。 どうやったらキスになるか、一回だけ教えてあげるからね」
さやかは目を閉じたと思ったら、一息に杏子の唇に自らのそれを吸い付かせていた。
杏子は、戸惑った。 心の準備がまだ出来ていなかったのだ。
しかし、さやかの舌が口中に侵入し、杏子のそれに触れ合い、絡み、その粘膜同士が愛しあう感覚に、
体中を痺れさせ、それが体表の感覚を失わせ、さやかが触れているその部分だけが興奮するような接触感を訴える状況に、
すぐさま杏子の戸惑いは溶け、今まで二人の関係に挟まっていた違和感までもが消失していく気がし、
杏子は自分が生まれ変わっていくように感じていた。
もっとさやかを感じていたい! キスしていたい!
杏子がそのまっすぐな欲望を認め、されるがままではなく、自らも舌を絡め、さやかを味わおうと決心したその時、
さやかの舌が杏子の口から抜き取られ、唇も引き剥がされてしまった。
「ひゃうう…さやかぁ…もっとぉ…」
杏子はその脳内をさやかに犯され埋め尽くされ、一桁の足し算も出来ぬほどのばかになってしまっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:02:32.10 ID:G0xaiGGno<> 「これがキスだよ。 わかる? さっき杏子がやったのは、子供の遊びなんだよ」
さやかが吐き捨てるように言って、杏子から離れようとすると、その袖を掴まれ、
「さやかぁ…もっとキスぅ…」
杏子がキスでくたくたになった体を必死に使って引き止めてきた。
それを見たさやかの中に、愛おしさに触媒され、ゾクリと残忍な欲望が沸き起こる。
さやかは杏子の耳にフッ、と息を吹きかけ、体中が性器になったかのような敏感なその体を痙攣させてから、
「もうしてあげないよ。 一回だけって言ったじゃん。
教えてあげただけだから、もう二度と、あんたにキスなんてしてあげないんだからね」
残酷なその言葉を拾うと、杏子はむせび泣きながらベッドの上をのたうち、
「やだやだぁ…そんなのやだあ…さやかぁ…ゆるしてよぉ…」
駄々をこねる子供のようになった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:03:17.20 ID:G0xaiGGno<> 自分に対する愛おしさに理性を漂白され、赤子のようになっている杏子に対し、さやかの欲望が更にその成長を加速させる。
しかし、今まで自分にちゃんと向き合ってこなかった杏子に対するお仕置きは、まだ終っていないのだった。
「許すも何も、あたしたちって、ただの友達なんでしょ? ただの友達が、さっき教えてあげたような恋人同士のキスなんかする訳ないじゃん。
それとも何? 友達同士のキスして欲しいの? さっきあんたがやったみたいな、ほっぺにチュってする、子供みたいなキスを」
自分に対する最大の失言を持って、さやかは杏子を責め始めた。
杏子はそれを聞いて、
「ごめんよぉ…ごめんよぉ…さやかが好きなんだよぉ…だけどそんなこと言ったらどうなってしまうのか、こわかったんだよぉ…」
さやかの服に縋りつき、後悔を泣き叫んだ。
「じゃあさ、そんなにあたしが好きなんだったらさ――」
さやかはお見合い資料を杏子の眼前に示した。
「――これをお父さんに突き返してさ、あたしの事が好きだって、あんたが言いなさいよ。 はっきりと」
「いう! いう!」
「そんでさ、あんたと関係のある人たちみんなに、あたしの事が好きだって、
あんたらなんかよりずっと、あたしのことが大事だって、言いなさいよね」
「いう! いう!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:05:09.18 ID:G0xaiGGno<> 杏子はさやかのキスの感覚に未だ酩酊しており、全財産をよこせと言っても肯定しそうな勢いであった。
「さやかぁー…キスしてよぉ…お願いだよぉ…何でもするからさぁ…」
さやかは、性的な興奮にやられて、ベッドに横になって体をいやらしくくねらせている杏子に、
「じゃあ起き上がってさ、あたしんとこまでキスしに来てよ」
ベッドに腰掛けている姿勢のまま、這いずっている赤子を待ち受ける母親のように形ばかり手を差し伸べ、残忍に言い放ったのであった。
しかし杏子は、体を動かそうとするたびにいやらしい刺激が電撃のように体を駆け巡り、
「ひっ!」とか、「あはぁ!」とか言いながら悶え、結局さやかのスカートを、震えながら必死に掴むことしか出来なかったのである。
「だめだぁ…ちからはいんねえよぉ…さやかぁ…あうう…」
さやかはそんな杏子の痴態を見、
「あんたって、ホントに情け無いんだから…」
そう言って、エッチな予感に溺れている杏子に顔を近づけ、
「お願いしますって、いいなよ」
ご主人様の要求をしてしまった。
「おねがいします! おねがいします!」
しかし、上司であるはずの杏子は、あろうことかふたつ返事でおねだりをしてしまう。
さやかと杏子の、むき出しの、本来の関係が顕になったのである。
これが、この二人の魂に刻まれた、出会った時から運命づけられた本当の序列であるのだった!
そう、杏子が能動的にさやかに働きかけ、掌握しようとしていた事自体、とんだ間違いなのであった!
「あたしのこと、好き?」
「すき! すき!」
「フフッ…じゃあ、目、閉じて…」
さやかは杏子を焦らせまくり、おねだりをさせ、好きと言わせ、ようやく接吻をしてやったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:05:49.24 ID:G0xaiGGno<> 杏子の体の、細胞一つ一つに到るまでが、その瞬間を待ちわびており、一斉に驚喜したかのような感覚に震えた。
先程さやかがキスを終えてからというもの、杏子は喪失感に晒され続けていたのであった。
それが今、また唇同士が触れ合い、吸いつき、舌同士が愛のやりとりを始めると、喪失感が補完されていくかのような、
一体感でもあり、安心感も含んでいそうな、そんな自らが完全に近づいたような、神々しいまでの感覚に満ち溢れていくのである。
不意に、キスをしながら、服の上をさやかの手があやしく撫で回し始めた。
身につけた布を隔ててもなお、その肉の感触が、体に電流のような刺激を与えながら這いずり回る感覚に、
杏子の体はオーバーヒート寸前にまで、瞬時に昂った。
そしてその手が、杏子の胸を捉えたとき、彼女は歯を食いしばり、刺激に備えていたが、
下腹部に、さやかのもう一方の手の感触が来たと思ったとき、杏子のすべてが違う次元まで飛んでいき―― <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:06:29.80 ID:G0xaiGGno<> 「へえ、キスして、ちょっと体触られただけでイッちゃうんだ…」
さやかは愛撫を始めたとたん、体を急激に仰け反らせ、がくがくと痙攣をしながら脱力していった杏子に、感嘆の声を上げた。
杏子は放心しながら、ブルブルとその体を震わせている。
「でもねえ杏子…まだ始まったばかりなんだよ?」
さやかは言いながら、杏子の服を脱がせ始めた。
「ひゃっ! らめっ!」
「…じゃあ止めていいの?」
「やめないでぇ!」
前後不覚になっている杏子の服をようやく脱がせ、ブラジャーを取る時、素肌にさやかが触れてしまうと、
「ひうっ! らめっ!」
杏子の体が瞬時にはねるので、服を脱がせるだけなのに余計に時間がかかる有様であった。
かようにただただ服を脱がせているだけにもかかわらず、布が肌を擦ったり、さやかの指が触れたりするたびに、小さな声を上げ、
杏子の体がピクン、ピクンとベッドをはねるのが、さやかにはたまらなく愛おしく感じられてくるのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:07:07.13 ID:G0xaiGGno<> 「それじゃあ杏子、パンツ脱がすよ? いい?」
「ひっ…ひっ!」
杏子は最早、上手く喋ることの出来ぬまで助平に大脳を支配しつくされているようであった。
さやかがベチョベチョになった杏子のパンツを脱がせると、
「わあ…何これ? すっごい!」
興奮しきって充血している杏子の性器がじとじとに湿っており、それが部屋の明かりに照らされてぬらぬらし、
そこから甘酸っぱい匂いが熱気を孕んで立ち上っている。
それを見たさやかの脳内には、性欲よりも先に、単なる好奇心が走っていた。
「ねえ、触っていい?」
言い終わるか終わらぬかのうちに、その体の一番熱い部分に触れた瞬間、
「ぴいいいいいいっ!」
と杏子がおかしな叫び声を上げ、そこからピュッピュッとなにやら液体を吹き出しながらまた絶頂を迎えた。
「わっ! 何これ!? 水鉄砲みたい!」
「ひいっ…ひいっ…」
さやかは、自分への想いから、そして体に触れてもらったうれしさからか、
珍妙な反応を示すまでに興奮しきった杏子に対する愛おしさが胸の奥から沸き起こるのを実感していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:08:07.01 ID:G0xaiGGno<> 「あんたって、なんかすっごく可愛いんだけど…
ねえ、抱きしめたくなっちゃった…あたしも、おかしくなってきたみたい…」
さやかは何かに突き動かされるように服を脱ぎ始め、その最中、上手く脱げなくて、もどかしさを感じた自分に驚いた。
自分に服を脱ぐよう促していたのは、はっきりと愛欲であった。
「ああ、可愛い! 杏子、あんたってこんなに可愛かったんだね!
今抱きしめてあげるからね! ぎゅうって、してあげるからね!」
肉体の加熱が精神の許容を超え、杏子は快楽以外に、自分が自分でなくなる恐怖だけを感じる状態であった。
「さや…まってえ…おかしくなるう…」
その恐怖がさやかを制動しようとしたその言葉は、かすれて不明瞭であり、さやかはそんなうわ言を無視して杏子に抱き付くと、
「あああああっ! ひぃぃぃいいいくぅうううう!!」
その肌と肌が触れ合った瞬間にも杏子は体をこわばらせ、悲鳴を上げて痙攣しながら再び絶頂した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:08:45.27 ID:G0xaiGGno<> 「杏子、またイッちゃったの?」
「ひっ…ひっ…ひえええええん…」
杏子はおかしくなりすぎた自分が恐ろしすぎ、とうとう声を上げて泣き出してしまった。
快楽に飲み込まれたまま、体がもとに戻らなくなるのではないかと危惧したのである。
しかしまだ気持ちよくなっていないさやかは…
「ねえ、あたしもそんなふうにしてよ。 気持よくしてよ。 あんたばかりずるいでしょ?」
容赦なく杏子の性器に、自らのそれを押し付けたのであった。
「ひぃぃぃいいいっ! いやあああああやめてえええ!!」
思わず逃げ出しそうになった杏子であったが、
「ちょっと、自分だけ気持ちよくなって、逃げようったってそうはいかないぞ〜!」
性的興奮に運動神経を骨抜きにされ、クニャクニャになっていた彼女は、さやかにいとも簡単に拘束されてしまう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:09:11.14 ID:G0xaiGGno<> 「あっ! いいっ! 杏子、んっ!」
そして、さやかによって熱くなった部分同士が擦り合わされ始め…
「ああああああああああっ!! あああああああああああっ!! むっ!!」
杏子はシーツを掻きむしり、手元にあった枕にかじりついた。
「むぅうううううう!! むぅうううううう!!」
杏子は枕を唾液でびとびとになるまでかじりながら体を暴れたように痙攣させ、
「ああっ…ふぁっ…ちょっと杏子、暴れないでよ! あんっ!」
それを拘束するさやかを手こずらせ続けた。
そしてさやかがそうなるまでに数えきれないほど絶頂し、
あまりの興奮に過呼吸気味になり、行為を終えた後、さやかが介抱をせねばならぬ有様であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:09:41.99 ID:G0xaiGGno<> さやかは杏子に水を飲ませ、落ち着くのを待ってからシャワーを浴びせてやり、体液に染まっていない自分のベッドに杏子を寝かしつけた。
杏子は「側にいてくれ」とか、「行かないでくれ」とかうわ言のような言葉を発しながら、
次第に睡魔にまどろみ、疲れきった体をようやっと休めたのであった。
さやかは杏子が完全に眠りの世界に行ってしまったことを確認してから、ベッドから立ち上がり、
カーテンをずらして外の景色を見た。
月が煌々と照って、凪いだ海をキラキラと浮かびあげている。
ガラス越しに外の音は聞こえてこなかったが、寄せては返す波の音が、さやかの頭の中で明瞭に想像できた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:10:47.89 ID:G0xaiGGno<> ――夜。 その時、それは影なのだと、さやかは気が付いた。
太陽が地球の反対側を照らしているときの、影になっている部分が夜なのだ。 あたり一面が、影になっている。
自分は、影だと思う。 杏子について歩くだけの、空っぽでちっぽけな存在。
昼は、そんな存在でいいと思う。
さっきはああ言ったけど、人前で自分たちの関係を、ただの友達だと断じなくてはならないことも、あるのだろう。 建前として。
杏子の気持ちがわかった今、他人との関係において、自分たちのことを杏子がどうタテマエようが、さやかは気にならない気がした。
どんなに薄くなろうとも、小さくなろうとも、影は体から離れない。 その絆だけを感じていれば、いいと思った。
ただしである、夜は、その空間自体が影なのだ。 あたしに、杏子が包まれるのだ。
さやかは、自分たちの関係の隅々に感じていた違和感のすべてが無くなっていることに気が付いた。
さやかは杏子との距離をどうしたらいいのかを、完全に理解した。
影がのびたり、縮んだり、濃くなったり薄くなったりするように、不器用な杏子との距離をあたしが調整しなくてはならないのだ。
そして二人きりの夜は、思い切り包んであげる。 あたしが、杏子の全てになる位に。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:11:40.25 ID:G0xaiGGno<> さやかは、カーテンの隙間に浮かぶ月に、自らの手をかざしてみた。
影になった。 手の形の、影だ。 今杏子が起き上がったら、あたしの体は月明かりに浮かぶ影に見えるのだろう。
ふと、杏子は理解したのだろうか、と、思った。
振り返ると、さやかが開いたカーテンの隙間からの月明かりに、
杏子の肌が、先程まで興奮しきっていたのが嘘のように白く照らされている。
杏子はきっと知らないだろう、と思う。
あたしが影であることを。 昼間はちっぽけで空っぽでも、夜になればあたしが杏子の全てを包み込む程大きくなるのだということを。
どうやったら知らしめることが出来るのだろうと考える。
言葉では言いたくない。 影は何も言わないからだ。
夜は影。 あたしはあんたの影。
ただそれだけのことを伝えるのに、どうにももどかしいことを考えるものだと、さやかは自嘲し、
カーテンを閉めて、ベッドの杏子の隣に滑り込んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:12:24.32 ID:G0xaiGGno<> 杏子の寝息が聞こえる。
「明日からは、あたしがちゃんとリードしてあげるからね」
さやかは杏子の髪を撫でながら言って、またカーテンの方を見た。
この部屋は、カーテンの影なのだと思った。
すると、さやかはハッと気がついて、起こしていた体を横たえ、ぴったりと杏子に並ぶ形で寝転がった。
明日、杏子より先に起きよう。
そして、カーテンをいっぱいに開けるんだ。
それで起きなかったら、「杏子、起きて!」って叫んだりして。
すると突然の陽の光に当てられて、まだ夜が忘れられない、夜が恋しい杏子は、
太陽を遮るように覗き込むあたしを、影になったあたしを、はっきりと見るだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:12:51.67 ID:G0xaiGGno<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:14:10.72 ID:G0xaiGGno<> エピローグ 朝
気持ち良い朝だったが、ほむらは憂鬱であった。
また昨夜の夕食のように、ぎこちない二人を交えて食卓を囲むなど、考えたいことではなかった。
しかしまどかがみんな一緒でないとだめだというので、また朝食も一緒に取ることになっておるのだ。
――もう来年は、あのカップルを連れてこないことにしよう。
――いや、来年は別れているか!
ほむらがそんな打算を脳内に浮かべていると、「あっ! 来たよ!」と、向に座っているまどかの声が聞こえた。
二人は、仲良く手を繋いで、微笑みながら現れた。
ほむらがあっけに取られていると、二人はテーブルに向い合って腰掛け、目を合わせて、お互いフフッと照れ笑いをした。
――何よあれ! どういう事なの!? ほむらは違和感を覚えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:15:27.16 ID:G0xaiGGno<> ほむらが混乱をしていると、彼女の隣に腰掛けた杏子が、
「昨日は色々ありがとうな、あたし達、恋人になれたんだ」
と、耳打ちしてきた。
杏子のその様子はしおらしく、杏子がさやかをモノにしたのではなく、さやかが杏子をモノにしたのだと言うことが、
ほむらにもなんとなく理解が出来た。
それはほむらを更に混乱せしめる状況であった。
「よかったね、二人とも。 仲直りできたんだね」
まどかがそう言うと、さやかと杏子はまた、見つめ合ってフフッと笑い、
杏子が運んできた朝食を箸に取り、さやかのもとまで持って行き、
「くうかい?」 「あーん」
とか、
「あ、杏子のほっぺにご飯粒が付いている。 食べちゃお」
などと、正視に耐えない恥戯の限りを公衆に披露し始めたのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:16:21.20 ID:G0xaiGGno<> ――何? このバカップルの骨頂は!?。
それを見たほむらは、同席している自分らまでもが恥にまみれてしまっているかのような不快感に眉をひそめた。
「まどか、あなた何かしたんでしょう?」
ほむらが問い掛けたが、
「二人が頑張ったんだよ。 テヘッ」
まどかは話をはぐらかし、いたずらっぽく笑みを浮かべるだけであった。
ほむらは更にワケが分からなくなり、独りだけ置いて行かれたような状況に、からかわれているような怒りが込み上げてくるのを感じた。
「一体なんなのよ? 何がベリーハードよ? 馬鹿馬鹿しい!」
ほむらは、やはり来年はこの二人を連れてこないことにしよう、そう思った。
杏子「あたしの恋はベリーハード」 完 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/14(木) 20:21:56.82 ID:G0xaiGGno<> 番外章は微妙なとこだね。
すまねえが時間がないから来週までに出来なければ無くなりそう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/14(木) 21:27:19.95 ID:RQStUWMho<> 乙っちまどまど!
ヘタレな杏子ちゃんを包むさやかちゃん
いいカップルよ、よかった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/14(木) 21:32:40.65 ID:ScXA3C/DO<> おっつなんだよ番外編書いたあとは
第三部がはじまるんだよね?ね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/07/14(木) 21:44:13.60 ID:6byuX9hRo<> 乙
さやかになりたい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/07/14(木) 21:53:36.12 ID:xh1v7EOo0<> 「光には影が付き従う。だが、光が翳れば、影もまた・・・」by パウル・フォン・オーベルシュタイン(OVA版銀英伝)
QBとマミの関係は「闇と太陽」・・太陽を得て闇はより深くなったが、太陽を失った闇は消えるしかなかった。
杏子は光。さやかは影。2人が一つになった時、初めて完全になれた。
・・こんな素晴らしいコントラストがおがめるとは、夢にも思わなかったでござるよ。
・・心から賛辞を贈る。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/14(木) 23:19:57.53 ID:ruygtLq/o<> 乙っち乙まど!
さやあんか……中々良いじゃないの。
でもやっぱりマミが好きな俺としては番外編も楽しみなのでした。出来たら見せて欲しいなー……って。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/15(金) 00:01:26.08 ID:nIAKNK5Ho<> 乙!前回に引き続き楽しませて貰いました
昼はパワフルな若社長とその従順な秘書、夜は子猫ちゃんと御主人様
胸が熱くなるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/15(金) 02:04:46.35 ID:o/BSsb1IO<> 乙!
俺の息子が張り裂けそうです
マミQ好きなんで番外編も(できれば)楽しみにしてます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/07/15(金) 14:56:22.28 ID:qmCTK8hDo<> 乙まど!
さや杏ごちそうさまでした <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/07/16(土) 22:01:21.50 ID:/JjMvqp00<> 原作「まどか☆マギカ」の杏子は、「お父さんのいい娘」になろうとしたんだよな。
よく言われてるけど、さやかはバカで、真っ直ぐで、独善的で・・他人のために自分を犠牲にしようとして、しくじると崩れて、自分を愛しているものを拒絶して滅びてしまう。
杏子の、高潔に見えて本当は弱かった父親と、そっくりそのままに。
さやかが支配者(S)で、杏子が愛の奴隷(M)なのは、本編に隠された関係と同じ。
それを一歩だけ越えた事で、この作品の世界では2人は滅びずに済む(もしさやかが自覚せず、拒否したら、2人とも滅びていたはず。杏子はさやかを愛した事で、既に父親から拒否されたから)。
乙でした。 <>
1<>sage saga<>2011/07/16(土) 22:15:16.36 ID:UXPZdivbo<> とりあえず明日も外出禁止で番外編書き溜めるよ。
一週間後をめどに完成させたい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/18(月) 15:10:57.18 ID:l3LB3q7IO<> 乙っちまどまど!
ゆっくり待ってるぞー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/07/18(月) 23:34:48.71 ID:EN1yPvs7o<> 今よんでるけど追いつけないから先に乙しちゃうよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/07/21(木) 22:23:19.51 ID:sHZVI6r2o<> 乙!
影って所て原作の魔女戦での影画おもいだしたわー。
番外編も楽しみにしてます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/22(金) 09:41:26.51 ID:iojh2Hc7o<> >>526
楽しみにしています。ここで待っていれば良いのでしょうか。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/22(金) 14:37:43.74 ID:iojh2Hc7o<> 板追加したらiPhoneでも見れた! <>
1<>sage saga<>2011/07/22(金) 20:59:03.33 ID:pUyKS5i0o<> >>530
この土日のうちに番外編か、遅れてる理由っていうか言い訳のどちらかが投下されるハズ
なのでこのままお待ちください
でも内容は単なるマミさんいじめだったり… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/22(金) 23:20:32.84 ID:iU8diVCIO<> >>532
>でも内容は単なるマミさんいじめだったり…
やばい、今から勃起してきた…… <>
1<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:00:41.33 ID:ceiqhnp9o<> 再開します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:01:14.73 ID:ceiqhnp9o<> 番外章1 メンテナンス・デイ
朝食後、ほむらたちの部屋でくつろいでいると、またも杏子にお預けを食らわせてさやかがまどかと会話をしていた。
「…本当はね、マミさんも、一緒に来たらどうかなあって、思っていたの…」
ほむらは、まどかのその言葉にぴくりと反応をした。
さやかのバイト先の先輩だった巴マミは、すべての黒幕、久兵衛の情婦であった。
マミは久兵衛と何らかのトラブルがあったのか、自宅で首を吊って死んでいるのを、久兵衛自身が通報し、ほむらが現場に召集され、
その自殺を、ほむらが無理やり久兵衛による他殺とでっち上げ、彼の家を捜索する為の踏み台にしたという、
いくら事件解決のためとはいえ、思い出したくない過去があったのであった。
そしてその後、久兵衛はマミの後を追うように事故死し、彼に証拠隠滅をさせずに、大量の資料が手に入ったのであった。
しかし久兵衛のほうが一枚上手で、彼の自宅にあった資料だけでは、捜査の足がつかないようになっていたのである。
今でも憶えている、あの時、ほむらはあの男に負けたと思ったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:01:46.03 ID:ceiqhnp9o<> 「ふうん、マミさん、死んじゃったんだよね…」
「うん…あんなに幸せそうだったのに…どうして自殺なんか…」
まどかが悲しいことを思い出して、泣きそうになっている…
ほむらは自分の出番だと思ったが、さやかがまどかを抱き寄せて、その頭をなで始めるのを見、
やはりコイツは殺しておくべきだった、と思った。
全く、美樹さやかには気遣いとかそういうものが無いのだろうか?
「幸せそうだった?」
「うん、買い物の途中に一度だけ、見たことがあるんだけど、彼氏とデートの約束があるからって、とっても嬉しそうだったの…」
「マミさんの彼氏、ねえ…」
さやかは、その男に心当たりがあった。
――久兵衛。
やっぱりあの男は、女の子を不幸にする奴だったのか、と、さやかは怒りと共に、自分にグリーフシードを渡したその顔を思い出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:02:26.13 ID:ceiqhnp9o<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:02:52.25 ID:ceiqhnp9o<> その日、マミは見滝原駅近くの「イザベル門」の前で久兵衛を待っていた。
「あっ、マミさん! こんにちは!」
そこに、買い物中のまどかが通りかかったのであった。
「あら、鹿目さん。 こんにちは」
「…誰か待っているんですか? なんだかとっても嬉しそう…」
まどかの問いに、マミは嬉しくなって、
「今日は、彼氏とデートなの!」
弾むように答えたのだった。
「――それじゃあ私、お邪魔にならないうちに退散しますね」
まどかが買い物に戻るのを見送った後、マミは腕時計を見て、溜息を吐いた。
久兵衛は約束の時間を十五分過ぎても、現れないのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:03:20.05 ID:ceiqhnp9o<> 「…ねえ彼女、誰か待っているの?」
マミが声の方に目をやると、髪を染め、耳にピアスを付け、チャラチャラした服装の男が2名、立っていた。
無論それぞれの陰茎も彼らと同様、起立の姿勢をとっている事は言うまでもなかろう。
マミはすぐさま目を逸らしたが、一瞬彼らと目を合わせてしまったという事実は、最早ロックオンをされたのと同義であった。
二人のチャラ男は素早くマミに接近し、彼女を他の通行人から覆い隠すように立ちはだかった。
「君、可愛いね…これから俺達と楽しいコトしない?」
「…結構です」
否定の意味を込めてマミは言ったのだが、
「結構ってことは、OKって意味だよね、じゃあ行こうよ」
チャラ男は悪徳商法よろしくそれを肯定の意味にすり替え、勝手にマミの手を取って歩き出そうとした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:03:59.22 ID:ceiqhnp9o<> 「ちょっと止めてください! 彼氏が来ますから!」
「でも君、さっきからずっと待っているよね? 彼氏、デートすっぽかしたんじゃないの?
そんな男のことなんて考えなくていいから俺達と遊ぼうよ!」
「もうすぐ来てくれるんです、離して!!」
往生際の悪いマミを見、マミを引っぱっていない方のチャラ男が、
「すみませーん! この人の彼氏って、どこかにいませんかあー!」
まるで街頭募金活動のごとく通行人に大声で訴えかけたが、当の彼氏である久兵衛はどこにも居らず、
その他の通行人は誰も彼もが見て見ぬふりを決め込んでいるようであった。
「居ねえじゃん! さあ、行こうよ! あれ、俺達の車だからさあ!」
マミを引き摺る男が指さしたのは、真っ黒で、スモークをガラスというガラスに張り巡らした、車高の低い下品なミニヴァンであった。
原型はコロモ自動車のエスティバのようであったが、そんな事はどうだっていいだろう。
しかもよく見ると、「カーセックス専用」と書かれたステッカーが貼られているではないか! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:05:55.29 ID:ceiqhnp9o<> ――あれに連れ込まれたら、もう終わりだ――
マミは必死に踏ん張って抗ったが、男の力は当然マミのそれよりも強く、彼女はジリジリと趣味の悪い車にその体を近づけていった。
通行人は、マミが目を向けようとすると、その視線を避けるようにそっぽを向いたり、
踵を返し、もときた方に戻って行ったりして、誰しもが無関係を必要以上に体中で表現している。
不意にグイ、と、更に大きな力に、マミはつんのめって車に向け、更に前進させられた。
見ると、もう一人のチャラ男もマミを引き摺るのに加勢していた。
「ショウさん、助かるっす!」
「いいから早いとこ乗せちまおうぜ!」
マミは歯を食いしばって耐えるが、それでも体が進んでいく。
そしてズルズルと底を舗装に引っかかれている視界の中の靴は、次第に涙に滲んでいくのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:06:38.42 ID:ceiqhnp9o<> その時久兵衛は、マミが拉致されそうになるのを遠巻きに見物し、陰茎を勃起させ、腹を抱えて笑っていた。
マミをナンパしている二人のホストのうち一人、通称「ショウさん」は、彼がクスリを流通させるのに使っている下っ端であった。
「アハハッ! あいつら、何やっているんだ? まるでアリじゃないか!」
久兵衛には、二人のホストがその車にマミを連れ込もうとしている様子が、アリが餌を巣に運び込もうとしている様に見えた。
小さな虫をいたぶってアリの巣のそばに置くと、ちょうど今のマミのように、足を踏ん張り、抵抗しながら引き摺られていくのだ。
久兵衛は笑いながらマミを見た。
マミはイヤイヤと顔を左右に振りながら、引き摺られている。
「ハハハッ…マミ、必死じゃないか! 頑張れ! 負けちゃうぞ!」
久兵衛は爆笑しながら見ていたが、そのマミの表情を見やったとき、
その笑顔は血の雫が凝固するように、急速にその感情を放棄し、引きつって固まった。
マミの目に、涙が見えた。
泣いているじゃないか――
久兵衛は胸を冷やす黒い予感に突き動かされ、走りだしていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:07:10.36 ID:ceiqhnp9o<> 久兵衛は充分間に合う距離まで接近すると減速し、呼吸を整え、悠々と、まるで今来ましたよと言わんばかりにナンパの現場に歩み入り、
「やあ、マミ。 なんだか賑やかだねえ」
軽く手を上げ、にこやかに問いかけた。
「新しい友だちが出来たのかい?」
「久兵衛!!」
マミが張り裂けんばかりに久兵衛の名を呼ぶと、ショウさんと呼ばれたホストがギクリと動きを止め、手を離した。
「き…久兵衛さんっすか…」
「ちょ…ショウさん、なんで手え離すんすか?」
「おい、そいつ離せ! いいから!!」
ショウさんの並々ならぬ様子に、しぶしぶもう一人のホストもマミを開放した。
「久兵衛!!」
マミが久兵衛の胸に抱きついていく。
ショウさんは久兵衛にペコリと頭を下げ、
「すいませんっす…久兵衛さんの女だとは露知らず…」
しおれた菜っ葉のようになって謝罪をした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:07:41.00 ID:ceiqhnp9o<> 「まあいいけどね、君たち、女性をナンパする際は、もう少しスマートにやらなきゃあ駄目じゃないか」
久兵衛の諭すような口調に、ショウさんは、
「ハイっす! すみませんっす!」
と、一言謝るたびにペコペコとお辞儀をしており、隣で唖然としているもう一人の後頭部を鷲掴みし、
「お前も謝れ!」
と言って、その男の頭を無理やり下げると、その男も、
「すみませんす」
と謝罪したものだから、久兵衛には彼らがお辞儀をすると謝罪をする仕掛けになっている人形に見え、思わず笑ってしまった。
そしてひと通り笑うと、
「もう飽きたから君たちどっか行けよ」
と冷たく突き放し、それを聞いたホストたちは下品なミニヴァンに乗って、ビリビリという下痢のような排気音と共に居なくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:08:16.24 ID:ceiqhnp9o<> イザベル門をくぐった先にあるミヒャエラ芸術公園のベンチで、久兵衛は泥人形のようなオブジェを見ながら、退屈をしていた。
何でも芸大生達の作品らしいが、久兵衛にはゴミにしか見えない。
百年先もそう呼ばれる物にのみ、芸術の名を与えていいのだと、彼は思う。 しかし目の前のオブジェは百年後、ゴミになるに違いないのだ。
そんな事を考えている久兵衛の隣に腰掛けているマミは、かれこれ30分以上、泣き止もうとしていない。
久兵衛はそんなマミを見捨てて、家に帰ろうかと思っていた。
しかし、それでは当初の目的を達成できないため、久兵衛は黙って彼女の隣にいるしか出来なかったのである。
久兵衛の頭の中の予定表に、この日はメンテナンス・デイと記されていた。
付き合い始めて2週間。
来る日も来る日もいじめ抜いていたら次第にマミの様子が狂おしくなっていったので、
久兵衛はそろそろ、飴と鞭の、飴の日、つまりマミの豆腐メンタルを回復するために、
いじめをやらないで、全面的に優しく接してやる1日を設ける必要性を感じたのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:08:47.55 ID:ceiqhnp9o<> 付き合い始めた当初は、どれだけ早く潰して死なせようか考えていた久兵衛であったが、
ここでマミに優しくし、その寿命を伸ばしてやろうと考えたその理由に付いては全く分からなかったし、考えようともしなかった。
いつもの気まぐれだと、久兵衛はそれ以上思考を進めることを放棄したのだ。
それはその思考の末に鎮座している答えを得るのが、恐ろしかったからなのかも知れない。
とにかくこの日は、久兵衛がそれと決めたマミのメンテナンス・デイであった。
徹底的に優しくし、情婦の寿命をのばす試み。
目標を立てたらそれを達成しなければ気持ち悪くなるタチの久兵衛であったから、
とにかくここでマミを捨てて帰ることだけは出来ないことであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:09:20.56 ID:ceiqhnp9o<> 「なあ、いつまで泣いているんだよ?」
久兵衛は半ばうんざりしながら、隣のマミに話しかけた。
このままでは、マミが泣き通したまま、その目的を達成できずにメンテナンス・デイが終了してしまう危惧がある。
「…怖かった…」
マミが、風に草のこすれ合う音のような微かな声を上げた。
「はあ? 何だよ? 聞こえないって」
「…怖かったの…!」
久兵衛のぶっきらぼうな問い掛けに、マミはしゃくり上げながら同じ言葉を、少し語気を強めて繰り返した。
久兵衛は呆れきって、
「怖かったって、君ねえ、あんなのはチンピラのうちでも最も下等な部類に入る奴らだよ?
あんなのを怖がっていたら、街なんか歩けないんだって。
それに彼らは女を喜ばせるプロだから、連れていってもらえばきっと僕なんかと居るよりずっと楽しかったと思うよ。
世の中どうなっているのか、金払ってまであんなゴミみたいな連中と遊びたいってバカな女がゴマンといるんだからね。
おい、分かっているのかい? 君は無料でホストと友だちになれる機会を逃したんだよ?
全くそんなだからいつまで経っても友だちができないんじゃないか。
あいつらに電話して、もう一度来てもらうからさ、一度騙されたと思って、あのダンゴムシみたいな車でどっかに連れて行って貰えよ」
皮肉たっぷりに答えてやったが、言った後でいつものいじめる調子に戻っている己に気が付いた久兵衛は、ハッとして固まった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:10:04.14 ID:ceiqhnp9o<> マミの方を見ると、予想通り、久兵衛の言葉に含まれる毒気に当てられて、搾り出すような泣き声まで上げ始めた。
「…どうしてそういう事、言うの?
あなたの事が好きなのよ…あんな人達に付いて行ける訳ないじゃない…!
それなのに久兵衛ったら…酷いわ! あんまりだわ!」
通行人がチラチラと、発狂しかけ、泣いているマミの方を見ていくようになった。
久兵衛は我慢がならなかった。 さっきナンパされていた時もそうだった。
マミの泣き顔を、久兵衛は他人に見せたくなかったのだ。
一番いい表情は、自分だけのものにしておきたい。
久兵衛はとっさに、通行人から隠すように、マミをその胸に抱き寄せていた。
「ああごめん…本当にごめん(棒読み)…おいマミ、謝っているじゃないか? いい加減にしろよ…なあ…もう泣くなって」
久兵衛はマミを抱き寄せ、あやしながら、自分たちを見物している通行人に、
「オイ、見てるんじゃねえよ」
ガンを飛ばし、追い払った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:10:40.25 ID:ceiqhnp9o<> マミは久兵衛の胸でしばし震えた後、顔を上げ、
「もう酷い事、言わない?」
かすれた声で問いかけた。
「ああ」
「ねえ久兵衛…」
「何だよ?」
「私のこと、好き?」
久兵衛はあまりに馬鹿げたマミの問いかけに絶望し、本当に面倒な女だ、と思ったが、
「ああ、すきだよ」
これで済むなら安いものだ、と思い、一息にそう言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:11:06.26 ID:ceiqhnp9o<> 「本当に?」
同じ質問を繰り返すマミに怒りが突沸しそうになったが、脳内にメンテナンス・デイと三度唱え、久兵衛は何とか耐え切った。
「ああ、本当さ。 マミ、君が好きだ」
久兵衛はあまり嘘を付きたくなかった。
嘘も言い続ければ、本当になってしまいそうな気がする。
建前の天秤が、嘘を付くたびにぐらぐらと揺れるのだ。
「…ありがとう、久兵衛」
マミは涙に濡れたその顔に笑顔を滲ませた。
笑顔は、嫌いだった。 何故なのかは考えない。
また天秤が、ぐらぐらと揺れている気がするせいかも知れない。
久兵衛は、訳も無く胸がむかついてくるのを感じて、マミから目を逸らした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:11:36.88 ID:ceiqhnp9o<> 「昼飯を食べに行こう」と、久兵衛が立ち上がると、マミは彼に許可を取ることもなく、彼の手を握った。
久兵衛はムカッとし、振りほどこうとしたが、
今日は何の日? ルッルー♪
と、どこかで聞いたような歌が脳内再生され、それが不可能になった。
手を繋いだまま、歩き出す。
通行人にジロジロ見られて不快だったので、いちいちガンを飛ばしながら歩いていたら、目が疲れて大変だった。
結局、通行人の視線は無視することにした。
「ねえ、お昼どこに行くの?」
「…どこか行きたいところでもあるのかい?」
「うーん…と…久兵衛が行きたいところなら、どこでもいいわ」
「じゃあ聞くなよ」
久兵衛は、こんな調子のマミとの会話にも、ほとほと疲れきっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:12:12.16 ID:ceiqhnp9o<> マミは、久兵衛が飯を食いに建物に入ろうとすると、足を止めて抗った。
「何だよ? ここ、気に入らないのかい?」
「…久兵衛…ここって…」
「ゲルトルートホテルだよ。 それがどうしたんだい?」
「ここで食べるの?」
久兵衛は既にかなり腹が減っており、ホテルの入口で逡巡しているマミをぶん殴りたくなったが、何とか押さえ、
「高級ホテルのレストランで昼飯食っちゃダメなのかい?」
と吐き捨てて、マミを引き摺るように回転扉に入っていった。
途中でマミは、一階にある「アントニー」とか言う安くさいバイキングレストランに立ち止まろうとしたが、久兵衛はそんな彼女を無視し、
乱暴に引きずりながらエレベーターに乗り込み、そのまま最上階に上がっていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/24(日) 12:13:25.50 ID:ceiqhnp9o<> 次回は番外章1の後半。
長文を連投するとウザイらしいので今回はできるだけ一回の投下を短めに行く。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/24(日) 12:15:30.22 ID:Cp6YzL6Vo<> 乙マミ
べぇさんがもっとデレていれば…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/24(日) 13:02:39.44 ID:XQm0z1bZo<> 待ってた乙
やべぇ
今までなんとも思ってなかったべぇさんに惚れちまうこれ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/07/24(日) 13:37:59.74 ID:d+XYTa2z0<> こ・・・こいつ・・・自分の感情を理解できないだけで、実はマミの笑顔と泣き顔で↓↑リモコン操作されている・・・
愛情という怪物に下半身から侵食され、しまいには暗黒の海に呑まれてしまう運命の二人・・
なんという恍惚、なんと言う刺激!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/24(日) 23:25:05.34 ID:u+DrJwIro<> …嫌だと思っても引き込まれます
あなたのお陰で物の見方に幅が生まれるように思えます
恐らく歳下だと思える>>1に畏怖を覚えました
あなたの生み出したあんこちゃんが好きです
そして多分俺、きゅうベェみたいな奴なんだ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/25(月) 03:32:06.05 ID:rKNODww3o<> 乙っちまどまど!
>>1の書くキャラは好きよん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:04:00.04 ID:PJIL60mEo<> >>557
そこまで言われるとむず痒いなあ…
ちなみに僕は28歳の肉体労働者です。
投下します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:04:34.06 ID:PJIL60mEo<> エレベーターの先は、別世界のようであった。
分厚い絨毯を引かれた薄暗い廊下の先にはスーツを着こなした人形のような男が直立しており、久兵衛を見るなりペコリとお辞儀をした。
「予約していた久兵衛だけど」
「お待ちしておりました。 こちらへどうぞ」
マミは久兵衛に連れられてテーブルまで来たが、放心状態で座ることさえ忘れていた。
「座れよ」
「あ…はい…」
マミはキョロキョロしながら座ったが、その後もおろおろと落ち着かなかった。
「ねえ…」
「何だよ?」
「ここ…高いんじゃない? 私…お金…」
とってもいいコなマミは、食事は割り勘だと思っていたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:04:59.77 ID:PJIL60mEo<> 「いちいち気にするなよ。 誰も君の財布なんか当てにしていないからさ」
久兵衛は、奇妙だと思った。
今まで食事を共にした女たちの中に、自分の財布を気にするものはこのマミ以外一人も居なかったからである。
「でも…なんか…悪いわ…」
もごもごと何事かを言っているマミに対し、イラついた久兵衛は、
「じゃあ君だけ外に出て、ランランルーにでも行って独りでハンバーガーでも食べるがいいさ。 僕はここで魚介類のコース食べるから」
と、突き放すように言うと、やはりマミは俯いて泣きそうな顔になったので、久兵衛は慌てて、
「…って言うのは冗談だからね」
と、取り繕わねばならなかった。
疲れる一日である。 久兵衛はマミを見て、早く明日になれよ、そうしたらボコボコにいじめてやるからさ、と、心のなかに呟いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:05:32.50 ID:PJIL60mEo<> 「前菜はスモークサーモンのサラダ、リケソのノンオイル青じそドレッシング和えでございます」
久兵衛は小皿が置かれるなりぺろりと平らげたが、
マミは、「わあすてき!」とか「おいしい!」とかいちいちリアクションしながら、ちまちまと大事そうにサラダを食っている。
「そんなに美味いなら、どうしてちびちび食べているんだよ?
本当は不味いんだろ? 正直に言えよ」
「本当よ、美味しいわ。 こういう所で食べたこと無いから、きちんと味わって食べているんじゃない!」
マミは半ばムキになって答えたので、久兵衛は激しい徒労感に襲われ、もう話しかけるのはやめようと思った。
「ふうん」
マミの気に障らない話題というのは、どういうものなのだろうか?
話しかけるたびに機嫌を悪くされるのでは、マミのメンテナンスは失敗に終わってしまうのが眼に見えている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:06:11.43 ID:PJIL60mEo<> 「妙に慣れているみたいだけど、久兵衛はここ、よく来るの?」
マミは前菜を食べ終わると、探るように聞いてきた。
「まあね」
久兵衛が軽く答えると、マミは疑いの色を濃くしたジト目になり、
「ふうん、だれと?」
と、刺のあるアクセントで聞いてきた。 別の女と来ていると思ったらしい。
しかしそうではなかったので、久兵衛は、
「独りで」
またサラリと答えた。
久兵衛がここに来るようになったのはマミリーマート入社後の事であり、
それから今までの間、セックスフレンドやレイプは別にして、マミ以外の誰とも付き合っていなかったので、
このレストランに女と来ていないのは本当だった。
「嘘! 独りでこんな所に来て、どうするのよ!」
存在しない女に対する嫉妬でヒステリーを起こしかけているマミを見て、心の底からうんざりした久兵衛は、
「人を見ているんだよ。 面白いんだ」
当たり前だろ、というふうに、本当のことを言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:06:55.08 ID:PJIL60mEo<> 「人を見ている? それ、本当に面白いの?」
久兵衛を射ぬく為に照準しているかのような疑いの視線は、疑問に遷移し、行き場を無くして宙に浮いた。
「そうさ、ここは今みたいにランチタイムもやっているだろう?
でも圧倒的に人気なのは、ディナータイムの方なんだ。
僕も初めて来たのは夜だったんだけど、なんて言うのかなあ、
ここで夕食を取っている連中ってさ、ほとんどカップルだったんだけど、違和感があるように感じられたんだよね」
「違和感?」
マミが問うたとき、
「…あさりのコンソメスープ、アジノ・モ・ト風でございます」
給仕がスープを持ってきたので、二人は話を中断し、ありがとう、と、ねぎらいの言葉をかけた。
給仕が居なくなると、久兵衛はスープの表面をスプーンで撫でながら、切れた話題をその動きでたぐるように話を再開した。
「…彼らは演じていたんだ。 操られているようでもあった。 その不自然が、違和感の正体だった」
「…それって、どういう事なの?」
「だいたいカップルがこういう所に来るのは、記念日とか、プロポーズとかが多いって言うのは、分かるだろう?」
久兵衛がそう言ったとき、マミの表情が期待の色を纏って輝いたが、彼はスープの方に目をそらしてそれを無視した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:07:26.97 ID:PJIL60mEo<> 「そういう奴らって、言っていることが大体同じなんだよね。
人間ていうのはさ、人それぞれぜんぜん違うだろう?
なんでそういう時だけはステロタイプに、みんな同じセリフを吐くのかなって、僕は疑問に思い始めた。
そんな時ね、カップルたちの会話の、個性とも言えないいくつかのパターンの中に、
必ず存在する共通項みたいな話題を見つけたんだ。 何だと思う?」
マミはしばし黙し、考え込んだ後、
「分からないわ」
と、呆気無く降伏宣言をした。
久兵衛はスープを一口すすってから、
「夜景さ」
と、答えてやった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:08:03.62 ID:PJIL60mEo<> 「夜景?」
「そう、彼らは必ず、この展望レストラン『アーデルベルト』からの夜景を美しい、と評し、これに絡めて愛の言葉を紡ぐんだ。
僕はそれに気が付いた後、ランチタイムにここに訪れてみようと決心した」
そう言って、久兵衛はガラスごしの景色を顎で示した。
「見るがいいさ。 ステロタイプな愛の言葉を触媒する、美しい夜景の正体を」
マミは、黙って眼前に広がる見滝原中心部の景観を眺めている。
「目の前の道路はクリームヒルト大通り、あの建物は市役所だね。
市役所は夜になると税金を無駄に使ってライトアップし、それはそれはあやしくその姿を浮かびあげる。
向こうに見えるのが見滝原駅の駅舎だね。 それと駅ビル。
あそこにはネチズンウォッチの、宣伝看板を兼ねた時計が見えるだろ?
あれも夜になるとピカピカとうるさいんだ。
ずーっと向こうに我がマミリーマートの本社ビルがあるんだけど、それはここからじゃあ見えないね」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:08:38.18 ID:PJIL60mEo<> くだくだとしゃべくっていると、マミが、私も…と、小さな声でなにか口を挟んだが、久兵衛はそれを無視して語り続けた。
「まあそんなふうだけどね、どうだい? きったない景色だろう?
地上十五階のここからみると、少し空気が霞んでいるのも分かるし、
渋滞でよちよち進む車を見ると、ここまで排気ガスのむっとした臭いとエンジンの熱が漂ってくるようで不快極まりないね
こんなのを、夜になって、電気がつくだけでロマンチックだとか、綺麗とか言って、
まるでクスリでもキメているようにトロンとした目をして、愛してるだの、これからも一緒だのと言っている連中ってのは、
おめでたいというより、可哀想になってくるだろう?
連中は、暗闇、そしてそのなかで人類が営むために付ける明かりにごまかされた景色と、
この高級レストランというシチュエーションに騙され操られて、その勢いで空っぽの、誰に言わせても同じような愛の言葉を、
演じるように、ぼんやりと語っていたんだな。
そんな催眠術みたいな仕掛けで男と女が簡単にくっつくから、世の中ろくな事が起こらないんだよ。
まあなんて言うのかな、ここに喜び勇んで夜景を見に来る連中なんて言うのは、浅はかなにわかってとこかな。 つまりバカなんだよ」
語り終え、得意げにマミを見てみると、まるで自分が悪口を言われたかのような、いつもの泣きそうな顔になっており、
それを見て久兵衛はシマッタ、と思った。
もしかしてさっき私も…と何か言っていたのは、「私も夜景を見てみたい」とでも言ったのではないか!? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:09:25.08 ID:PJIL60mEo<> 久兵衛は、自分の顔がみるみる青くなっていくのを感じながら、マミの機嫌を直すその言葉を脳内検索エンジンフル回転で探り始めた。
「えっと、だからさ、なんて言うのかな、そう、夜景を見たいというのは、悪くないアイデアではあるが、その、手順が問題なんだな…」
そう言って、その先を考えながらマミの方に視線を向けると、彼女は充血して涙の用意をしている眼で久兵衛を見据え、
「手順?」と、ちりのように小さくかすれた言葉を発して彼の言葉をじっと待っている。
「そうだ、僕は夜景の種明かしを知ってしまった。
その上で、ここから夜景を見、美しいと思うのと、最初から夜景しか知らないのでは雲泥の差がある。
今日君に、昼間の汚い景色を見せたのは、まずその美しさの種を知っていて欲しかったからなんだ。
だってそうだろう? その種を知っている僕が、知らない君をいきなり夜ここに連れてきて、
夜景を見せて喜ばせるなんて、まるで騙しているみたいじゃないか?
いいかい、芸術はね、こういう何も無いところから生まれるんだよ。
このきったない景色を見た後で、夜景を見てみたいと思うのは、とても素晴らしいことだ。 芸術の本質をよく分かっている!」
久兵衛は、いつものことながら清流のようによどみなく吐き出る嘘のセリフに自らも酩酊しながら、
どうだい?というふうにマミを見やると、
「それじゃあ、久兵衛は私に嘘を付きたくなかったから…」
とか言いながら、翳っていた表情がみるみる明るくなって来る。
吐き出す嘘と受け取る方の信じたい内容がうまく噛み合ったことに満足しながらも、
久兵衛は急に明るみを帯びたマミの表情が、夕暮れ時に点灯し始めたイルミネーションのように思え、ギクリと背中が冷え上がった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:09:55.81 ID:PJIL60mEo<> 「シタビラメのムニエル、イヌカレー風です」
メインディッシュが運ばれてくると、久兵衛は話題を変えるチャンスだと思い、
「どうだい? おいしいかい?」
と、聞いてみると、マミは満足そうに、うん、と返事をしてくれた。
「意外だね、僕は君がこのレベルの料理に満足できるかどうかは、ちょっと怪しいな、と、思っていたんだけど…」
「…どういう事?」
「君なら、もっと美味いものを知っているだろう?」
マミは顔中に疑問を浮かべて、久兵衛を見、また探るような顔つきになって、
「久兵衛、もっと美味しいところ知っているの?」
と、聞いてきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:10:28.75 ID:PJIL60mEo<> 久兵衛はそんなマミの様子を見、失言をしてしまった、と思った。
「まあどうでもいいじゃないか、美味しいならいいんだ。 満足だろ?」
久兵衛はそう言って取り繕ったが、マミは執拗であった。
「確かに美味しいわ。 だけどそれとこれとは別よ! もっと美味しいところを知っているのに、私には教えないのね!
一体誰となら一番のお店に行くの?」
また言外に架空の女を引き合いに出し、セルフ嫉妬をしているマミを見て、久兵衛は不思議に思った。
そこまで浮気を疑うということは、逆に浮気をして欲しいのではないか? この女は、嫉妬がしたくてたまらないのではないか?
しかし今は目の前の問題を何とかしなくてはいけない。
一番美味しい所に食べに行くことは、マミに負担をかけることであり、それは本日の性質上、してはならないことであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:11:05.80 ID:PJIL60mEo<> 「教えて、どこが一番なの? そこに行かなくてもいいから、教えて。 出来ればだれと行くのかも」
どんなにごまかそうとしても、マミは梃子でも動かなそうである。
出来れば、とか言っているが、本当は誰と行くのかを一番知りたいのだろう。
久兵衛はしぶしぶ口を開いた。
「君の家だよ。 普通にいつも僕が訪ねた時に君が作ってくれる料理のほうが美味いじゃないか。
だけど今日は君に負担を掛けたくないから、外食にするって決めたんだよ」
それを聞いて、マミはみるみる嬉しそうな顔になり、
「じゃあ夕食は家で食べましょう! あなたの好きなオムレツ作ってあげる!」
と、宣言し、久兵衛はまたこれを奇妙に思った。
「でも、夕食も料亭に予約してあるんだけど…」
――せっかく料理を作る手間を省いてやっているのに、自分から料理を作りたいと言い出すんじゃあ、
僕は何のために骨を折っているのかわかりゃしない。
もしかしたらこの女、僕に優しくされるのも迷惑なんじゃああるまいか――。
久兵衛は、目の前の、マミの喜色満面の理由が分からず、ただただ不気味だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:11:35.62 ID:PJIL60mEo<> 「あのさあ、料亭のキャンセル料、結構するんだよ?」
久兵衛がそう言うと、マミは先程までの態度がどこへやら、急にしぼんだようになって、
「そう、それは残念だわ…久兵衛に負担をかけるわけにも行かないものね…」
心から残念そうに言った。
「君はお刺身とか、和食は嫌いなのかい?」
「好きよ」
「じゃあいいじゃないか。 今日の主役は君だから、わざわざ僕に気を使う必要なんか無いんだよ」
言葉でマミを、頭から抑えつけるようにしてやるが、彼女はまだ納得がいかないようであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:12:15.33 ID:PJIL60mEo<> 「どうしたんだい? 外食、嫌なのかい?
そんな顔されたんじゃあ、僕としても楽しくないから、気に入らないことがあるならちゃんと言ってもらえるかな?」
マミは、食事の手を止めて、
「あなたに負担を掛けたくないの…私に気を使ってくれるのは嬉しいけど、あまりお金のかかるところは…」
と、辛そうに身を捩りながら、言った。
それを見て、はっきりと久兵衛は、このマミが今までの女と違うのだということを認識した。
チンピラ時代に付き合った女は、久兵衛が飯をおごったり、何かを買い与えたりするのが当たり前だと言わんばかりに振舞った。
そしてその度に増長していき、それが久兵衛の目に余る状態になるくらいに、彼が女を壊し始めるのがだいたいのパターンであった。
年が若くて浅ましさが育ちきってないからなのか、今までのDQN女達と違って育ちがいいからなのかなんなのかは分からないが、
とにかくこのマミは異質であった。
しかし久兵衛にとって、その事実はうれしさよりも、今までとは勝手が違うという扱いづらさ、面倒くささが先に立つ。
それは、その受け取り方は、とても悲しいことであったが、久兵衛は勿論そんな事実に気づくことはないのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:12:45.25 ID:PJIL60mEo<> 「そんなに男の財布に気を使うなんて、君は普通じゃないね。
とにかく、今日はそのまめまめしい性格を何とか抑えこんで、僕の財布の心配は一切しないことだね。 出来るかい?」
久兵衛が一息に言うと、マミは暗い顔で、うん、と頷いた。
「そのほうが、僕も気が楽ってもんだ」
久兵衛はそう言って、冷めないうちにと、急いでムニエルを口に運び出した。
メインディッシュが下げられ、デザート、コーヒーと続いても、
マミの表情はどこか物憂げで、抱えている心配の種がなんなのかわからない。
久兵衛はさすがに疲れ切り、そんなマミを無視して、味気ない料理を胃袋に放りこみ続けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:13:18.20 ID:PJIL60mEo<> ホテルを出、マミに何かを買ってやろうと駅前の中心街に向けて歩いていると、
ふと彼女が立ち止まり、小さな公園に久兵衛を引っ張っていった。
まだ昼間であったが、久兵衛はマミが発情したのだと思い、公衆トイレの存在を確認し、歩きながら自らも陰茎を勃起させたが、
公園のベンチの前に来るなりマミが泣き崩れたので、彼は予想外の展開に対応策を見失った。
「私、あなたと別れたくない!」
ワケがわからなかった。
「( ゚Д゚)ハァ? どうしてそうなるんだよ?」
マミは久兵衛に抱きつき、泣き声に絡めながら言うには、
「だって今日の久兵衛、いつもと全然違うんだもの…まるで別人みたいで…とにかく怖いの…不安になるの…
もしかして、私のこと、嫌いになって…それでこんな風にしてくれるのかも知れないって…」
と、まるで要領を得ないので、
「ちょっと、訳がわからないから、どうしてそこまで不安になるのか説明してくれよ」
久兵衛はぐらぐら揺れる思考の中で、とりあえず何かをつかんで安定させるように、冷静を演じながら聞いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:13:53.96 ID:PJIL60mEo<> 「別れる前みたい…だって、もうダメだと分かっている病人とか、退院させて、みんなでパーティーとかしたりするでしょう?
なんか私も、そんな風されているように思えるの…今日の久兵衛…優しすぎるから…」
豪勢な飯をおごったり、優しくしたりするのが、まるで手切れ金であるかのように感じたらしい。
「そんなことないって…ないない…あるわけないじゃないか…」
今日何度目かわからないが、面倒な女だと思った。 やはりいじめられている方が性に合っているというのだろうか?
かと言って、今日もいじめ続けていたら確実に発狂しそうな勢いだったし、
一体この女のメンタルはどうやったら最良のコンディションに持っていけるのだろうか? と、さすがの久兵衛もお手上げ状態であった。
「…本当?」
「本当さ! 別れたりしないよ!」
――涙に濡れた瞳を見ていると、胸がズキズキと痛い。 後で痛み止めでも飲んでおこうと思う。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:14:21.58 ID:PJIL60mEo<> 「久兵衛…?」
「何だよ?」
「私のこと、本当に好き?」
またである。 この女は、一体何度同じ事を言わせれば気がすむのであろうか?
「すきだよ。 なんども言っているじゃないか」
「だって不安なんだもの…目を逸らすし…」
久兵衛はそう言われるとマミの眼を直視しなければいけない気がしたが、同時にそれを見てはいけない気もするのであった。
「目を逸らすのはねぇ、泣き顔なんか見たくないからさ!」
結局目を逸らしたままの、その口を衝いて出た言葉に、久兵衛は重く、黒い衝撃を受けた気がした。
いつもは泣き顔が見たくてたまらなくなってマミをいじめているのに、今日に限ってはそうではないというのか?
――もう、やめよう。 久兵衛はそう思った。 マミに優しくするのは今日限りだ。 でないと自分まで、おかしくなってしまう。
そうだ、気まぐれとはいえ、普段と違うことをすると、こんな風にろくな事にならないのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:14:49.08 ID:PJIL60mEo<> マミは、そうね、泣き顔はよくないわね、とか言いながら涙を拭いて久兵衛に向き直った。
「ねえ久兵衛…もう一度好きって言って」
胸を圧するような痛みに抗うように、久兵衛はとっさにマミを抱き寄せていた。
「好きだよ、マミ。 大好きだ」
抱きしめると、マミの肩越しに人気のない小さな公園の景色だけが見えた。
顔を見なくてもいいと、楽に好きだと言える。
すんなりと、嘘が言える。
久兵衛は、今度から好きだと言うときは、マミを抱きしめてからにしようと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:15:47.17 ID:PJIL60mEo<> 駅ビルのデパートで、久兵衛はマミを婦人服売り場に連れていったが、しばらくしてそれを猛烈に後悔し始めた。
マミはしばしば立ち止まり、引き返し、その度にワンピースやらブラウスやらを取り出して、
ハンガーのかかったまま自分の胸元に持って行き、久兵衛にどう? といちいち聞いた。
似たような服ばかりで、久兵衛はどれでもいいのではないかと思ったが、マミのこだわりは凄まじく、
久兵衛がいいと言っても、この模様が、この襟の形がと、どこか気に入らないとすぐに商品を取り替え、また久兵衛にどうかと聞いた。
自分がいいと意見しているのに、それを無視するならいちいち聞いてくれるなよ、と思いつつ、
久兵衛は彼にとって拷問のようなマミの服選びに付き合わされたのである。
そして、なにより恐ろしかったのは2時間ほど粘り付くように婦人服売り場に居たにもかかわらず、
マミは一着も服を買わなかったことであった。
久兵衛は婦人服売り場を離れる時、二度とマミと一緒に買物なんか行くものか、と、思っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:16:17.08 ID:PJIL60mEo<> 漸く婦人服売り場から解放され、デパートをぶらぶらしていると、マミがデパート内の本屋に行きたいと言い出した。
「いいよ、行こうか」
「えっと…本屋へは、一人で行くわ」
「( ゚Д゚)ハァ? 何故だい?」
「い…いいじゃない…ちょっとそこで待っていてね」
マミは久兵衛を休憩用の長椅子に座らせ、いそいそと小走りで本屋の方に消えていく。
変態的なエロ本でも買いに行くのかと興味をいだいた久兵衛は、そんなマミを尾行することにし、立ち上がった。
途中、マミはキョロキョロと周囲の警戒をし、危うく久兵衛は見つかってしまうところであったが、
何とか彼女の警戒網をかわし、本屋の前まで到着した。
しかしマミは、本屋をスルーし、歩いて行くではないか!
久兵衛はますます興味を引かれた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:16:43.36 ID:PJIL60mEo<> 結局マミが立ち止まったのは、宝飾店の前であった。
彼女は、ガラスケースにへばりつき、なにやら商品をみているらしい。
買わずに眺めているだけのマミを、店員が迷惑そうにしているのが面白くて、
久兵衛はクックッと忍び笑いをしてから、ソロリソロリと近づいていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:17:09.44 ID:PJIL60mEo<> 「…きれい…」
マミの視界には、ガラスケース内のプラチナネックレスが映し出されている。
トップにはトパーズだろうか? 黄色い宝石がセットされていて、トップを、宝石を中心とした花に見立て、その周りを5枚の花弁の輪郭を描くようにプラチナの線が飾っている。
ちなみにプライスタグには、78000円と書かれている。
「はあ…」
マミが溜息をつくと、ショーケースのガラスが吐息で少し曇り、しばらくすると晴れるようにもとに戻っていった。
「何見てるんだい?」
いきなり後ろから浴びせかけられた声に、マミは心臓が鷲掴みされたように感じ、それと連動するようにギクリと背筋が縮み上がった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:17:53.99 ID:PJIL60mEo<> 「き、久兵衛…どうしてここにいるの?」
マミがまだ驚愕に昂ったまま収まりのつかない胸を押さえ、そう言いながら振り返ると、
「放ったらかしにされるのもつまらないからね、付いてきたのさ」
久兵衛は、マミの肩越しに伸び上がるように、ショーケースの中身を見ながら言った。
「君はこれが欲しいのかい?」
マミは観念したように、
「…そうよ、ちょっと前に見つけて、とても気に入ったから、それから少しづつお給料をためているの…
クレジットカードもあるけど…借金はこわいし…」
と、教えてくれた。
「ふうん、だから君は服を買わなかったんだね。 僕に言えば買ってあげたのに」
久兵衛が、疑問を解消させた心地良さとともにポツリというと、マミはそんな、悪いわと言って、寂しそうにショーケースを離れようとした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:18:28.10 ID:PJIL60mEo<> 久兵衛はマミの手を取って引き止め、
「…何だよ、買わないのかい?」
と、聞くと、マミは、
「…まだお金が溜まっていないの」
残念そうに言った。
「まだって、君ねえ…いつになったら貯まる予定なんだい?」
「あと、3ヶ月位あれば…」
久兵衛は、ネックレス一つ満足に買えないマミの経済力を心から哀れんだ。
クスリで荒稼ぎしている久兵衛にとって、こんな金額ははした金の領域であったのだった。
「ええー、3ヶ月? そんな悠長なこと言ってたら、売れちゃうんじゃないの? 無くなっちゃうよ?」
久兵衛が嫌味っぽくマミをいじめていると、店員が目ざとく久兵衛に擦り寄り、そうですとも、このデザインは大変人気で…
などと講釈を垂れ始めたので、久兵衛はシッシッ、と、野良犬を追い払うように店員を遠ざけた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:18:54.50 ID:PJIL60mEo<> 「つまり君は、お金を貯めるだけ貯めて、このネックレスを、
鳶に油揚げをさらわれるが如く、誰かに買われてしまうんだよ?
あーあ…可哀想なマミ! 君みたいなみみっちい消費者は、いつだってそうさ! 欲しい時に、肝腎の商品がないんだ!」
マミは、いつものように、目に涙を溜め、ブルブルと震え始めた。
泣き出す時のサインである。 久兵衛はすかさず、
「だから、僕が買ってあげるよ」
と、フォローを入れた。 するとマミは、えっ、と言って体の動きと表情とを硬直させ、我に返るとすぐ、
「そんな、高いし…悪いわ…」
またレストランの時と同じようにオロオロし始めた。
「…でも、ここで買わないと、他の誰かに取られちゃうよ? いいのかなあ? いいのかなあ?」
「…でも…悪いし…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:19:43.94 ID:PJIL60mEo<> マミは強情であった。
どうあっても久兵衛に金を出させたくないらしい。
久兵衛は、やはりマミは異質だと思った。 最早彼にとって変人の領域である。
むしろ宝飾店に久兵衛を引っ張っていき、これ買って、と、傲岸不遜にねだるのが彼にとっての女のスタンダードであったから、
買ってやると言っているのになお峻拒するマミは、久兵衛にとって気味悪くさえあった。
「おーい、これ下さい。 着けて帰るんで包まなくていいです」
業を煮やした久兵衛は、勝手に店員を呼びつけ、そう伝えていた。
店員は、魚肉ソーセージを見せつけられた野良犬のように素早く近寄ってき、ショーケースを開け、ネックレスを取り出した。
マミはその様子を、本当に他人に買われてしまっているところに遭遇してしまったかのように、呆然と見つめている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:20:15.63 ID:PJIL60mEo<> 「はい、プレゼント」
久兵衛は会計を終え、持ってきたネックレスをマミの首に装着してやりながらそう言うと、
今まで放心していたマミが弾けるような笑顔を作り、
「ありがとう、久兵衛!」
と、感謝し、興奮しながらショーケースの上に置いてある鏡にプラチナと黄色い石の輝く自分の胸元を写し、
「わあきれい!」とか「すてき!」とか、言いながら次第にボルテージを上げていき、仕舞いには泣き出す始末だったので、
久兵衛は慌ててマミの手を引き、階段まで連れていき、
「バカ! 人前で泣くなよ! 一体何が気に入らないんだよ!?」
と、必要以上に慌てなくてはいけなかった。
「…ごめんなさい…でも嬉しくって…嬉しくって…」
マミは涙を流しながら笑っていて、久兵衛はどっちかにしろよ、と、思いながら、
しかし嬉しいというのならメンテナンスは成功だな、やっぱり女の機嫌をとる時はモノを買ってやるに限ると、内心ほくそ笑んでいた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:20:53.96 ID:PJIL60mEo<> 「嬉しいのは分かったからさあ、人前で泣くなって。 店員や通行人にジロジロ見られて、恥ずかしいんだから…」
「うん…ごめんなさい…ちょっとトイレに…」
と言って、マミが階段の踊場にあるトイレに入るやいなや、搾り出すような鳴き声が聞こえてきたので、久兵衛は本当に嬉しいのか?
と、心配になってきた。 本当は自分で買おうとしていた物が僕に買われてしまって、プライドを傷つけているのではないだろうか?
しばらくそんなことを考えていると、マミがトイレから出てきて、まだ涙の痕跡が見える顔で、
「ありがとう」とか「嬉しい」とかまた連呼しだしたので、久兵衛はその顔をハンカチで拭い、
「もうここを出よう。 ちょっと早いけど、料亭に行くんだ。
あそこなら個室だから、いくら君が泣いても人前に付かないしね」
と言って、その手を引きながら階段を、人目につかぬように急いで降りていかねばならなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:21:22.42 ID:PJIL60mEo<> 外に出ると、既に辺りは薄暗くなってきており、
ビルのイルミネーションが輝きだし、車もポジションランプかヘッドライトをつけて走行している。
久兵衛はマミとタクシーに乗り込み、料亭の名を伝えた。
タクシーが動き出す。
一つ目の信号を右に折れ、次の信号で停まった辺りで、今まで買い物をしていた駅ビルの時計が窓の外に見えた。
「本当ね、時計の看板が綺麗に光っているわ」
レストランでの夜景の話を思い出しているのだろう。 マミがそう言って窓の外を指さした。
「ネチズンウォッチの宣伝看板だね。 今度またホテルのレストランで、夜に見てみようね」
久兵衛はマミにそう約束し、腕時計と、外で電飾が輝いている時計と、時刻が同じであることを確かめるように交互に見た。
どちらの時計にも、netizenというロゴが光っている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:21:51.70 ID:PJIL60mEo<> 「…僕はね、ネチズン派なんだ」
久兵衛がポロッとしゃべると、マミはえっ? と言って夜景から久兵衛の方に向き直った。
「腕時計さ。 会社では、スイス製のオメーガとかロラックス、それにタグ・ハイヤーとか、国産ならサイコーが人気なんだけどね」
「そういうのって、こだわりなの?」
「子供の頃からのね。 腐れ縁みたいなものかな」
久兵衛は、そう言った後で視線を窓の外に転じ、話題を切ったが、
「あなたの子供の頃の話って、聞いてみたいわ」
そう言ったマミの言葉に、つまらない話だけどね、と、前置き、話し始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:22:22.40 ID:PJIL60mEo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/25(月) 19:24:10.87 ID:PJIL60mEo<> 今日のは長すぎたな…
次回は「番外章2 時の記念日」
昭和テイストで書いてみたかっただけの久兵衛過去話です。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/25(月) 19:27:36.71 ID:VAlo6iVBo<> 乙兵衛
久兵衛さんはゲスでクズで最低のド変態可愛い
今更ですけど苗字って判明してましたっけ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/25(月) 20:35:22.61 ID:/bbhQ6ERo<> まさかの久兵衛過去話ktkr
俺は長い方が嬉しいからそんなに気にしなくていいんだぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/26(火) 00:25:30.38 ID:sf0zskaV0<> アジノ・モ・ト風わらたww
今日は確かにうまみ調味料記念日やなww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/26(火) 08:30:32.10 ID:eGlN6Xh1o<> 乙っちまどまど!
マミさんかわええ…… <>
1<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:29:35.79 ID:NgDOzvxIo<> うま味調味料記念日とか知らなかったです、はい。
今日も少なめに投下しますです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:31:14.51 ID:NgDOzvxIo<> 番外章2 時の記念日
――久兵衛が小学校に入ったばかりの頃、彼の家はどちらかというと裕福な方ではなかった。
彼の父は、しがない地方公務員であった。 その当時、この国は景気が良く、民間の給与は公務員の俸給を完全に凌駕していたのである。
月曜日が来るたび、クラスメートたちが日曜日に遊びに行った先のことを話すのに、久兵衛はいつも羨望の眼差しを送ってばかりだった。
彼の家は、週末の度に、ネズミーランドだの、動物園だのに、遊びにいく余裕は無かったのだ。
そんな彼のこだわりがその萌芽を見た日――その日も、日曜日だった。
「久兵衛、ヘリコプターを見に行こう」
久兵衛は父の言葉に、退屈を感じながら読んでいた漫画本を放り出し、
「行く!」 と、脊髄反射で応答していた。
それは6月10日、時の記念日のことであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:32:06.35 ID:NgDOzvxIo<> 「ヘリコプター、どこに来るの!?」
久兵衛は運転席の父に、大声で話しかけた。
父の車は、安いというだけで買った中古の乗用車で、ズコバコとエンジン音が酷く、運転中は大声で話さないと聞こえないのだった。
「見滝原市役所だ。 ネチズンウォッチが自社製品の宣伝を兼ねた実験をするんだってさ!」
ボロボロボロボロ…ズドドドドっ…バコバコ
久兵衛は想像力をフルに発揮してみたが、時計とヘリコプターという二つのものがどうやっても結びつかなかった。
ズズズズッ…ゴクン…バコココココっ
それはこのお粗末なエンジンのせいでもあるのではないかと思う。
彼がいくら考える事に集中しようと思っても、エンジンのやかましさと振動が、積み上げた思考をいとも簡単に突き崩すのだった。
そしてしばらく乗っていると、シートを通して振動が股間を激しく突き動かし、決まって久兵衛は勃起をしてしまうのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:32:35.79 ID:NgDOzvxIo<> 信号待ちの時間は、いきり立った股間を鎮める時間だったが、それがうまく行った試しがなかった。
むしろアイドリングの、低い回転に伴うドロドロした振動のほうが股間を優しく刺激し、陰茎は最早手がつけられない状態に育ってしまう。
そして自分のすぐ右で、エンジンの振動を拾ってガクガクと揺れているシフトレバーなんか見てしまうともうどうしようもない。
負けず嫌いの彼は、シフトレバーと張り合って、自らの陰茎を更に硬くしようとしてしまうのだ。
しかしいくら硬くしても、シフトノブが分身するほどの、あの振動だけは真似できない。
陰茎がなぜ硬く、大きくなるのかさえ分からない子供時代の久兵衛であったが、
陰茎をあのように振動させることができたら、きっとものすごい特技になるに違いない、と、何故か確信を持っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:33:01.90 ID:NgDOzvxIo<> 信号が青になった。
ボルボルボル…ゴクッ
久兵衛は父親の真似をして、自らの陰茎をローギアに押し込んでみた。
「イテッ!」
ズダダダダッ…グン…バンバンバン…ガコン
「久兵衛、お前、なにチンコいじってるんだ?」
バコバコバコ…
「えっ?」 エンジン音にかき消され、父の声は聞こえなかった。
「なにチンコいじっているんだって、聞いてるんだ!」
漸く聞こえた。 大きな声で言うには恥ずかしすぎるセリフだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:33:31.09 ID:NgDOzvxIo<> 「いじってないよ!」
言ってしまった後で、久兵衛は自らの陰茎をズボン越しに握り締めている事に気がついて、その手を膝の上にすべらせてごまかした。
「別に悪いことじゃないぞ! 今のうちいじっておくと、チンコが大きく育つ! そうすると女の子にもてるんだ!」
信号で停止した途端に父は大声を張り上げて言った。
エンジン音のこもっている室内では聞き取りづらいが、窓を全開にしているので車の外にはよく聞こえるらしい。
歩道を歩いていた女の人が、顔を歪めて車を覗き込んだので、久兵衛はウィンドウレギュレターを超速で回し、汗みどろになって窓を閉めた。
「何故閉めるんだ? 暑いから開けておきなさい!」
ちなみに昔の大衆車はエアコンなど付いてはいない。
久兵衛はまた窓を開けながら、
「別にもてたくなんか無いよ」 通行人に配慮し、小さな声で言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:34:00.96 ID:NgDOzvxIo<> 「それは久兵衛がまだガキだからだ! あと十年もしたら、モテたくてしょうがなくなる!
その時に小さなチンコだったら、お前は後悔することになるんだぞ!」
久兵衛は、話の途中から、ぐるぐるとまた窓を閉め始めた。
「開けておきなさい!!」
父の叫びが怒気を含んでおったので、久兵衛はしぶしぶ窓を全開にした。
「モテたところで、何の特があるのさ?」
うんざりした表情の久兵衛に、父がニヤリと笑った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:34:27.96 ID:NgDOzvxIo<> 「エンジンになれる!」
父は、アクセルを踏み込んだ。
ヴァウゥゥウウウウン!!
ギアがニュートラルなので、エンジンが空回りする。 ひどい音と振動で、眩暈がしそうだ。
ガクガク揺れるシフトノブが生きているように思える。
それを横目で見た久兵衛は、グッと陰茎に力を入れた。
「わけがわからないよ。 どうして女の子にモテると、エンジンになれるんだい?」
振動が落ち着いてから、久兵衛が非難を込めたアクセントで聞くと、
「エンジンの構造を、勉強してみろ! エンジンになると、気持ちいいぞ!! それ、快楽の雄叫びだ!!」
父は喋りながらハイテンションになり、またアクセルを景気よく踏み込んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:35:05.81 ID:NgDOzvxIo<> ヴァヴウウウウウウウウウウウウン ガボッ!
何が快楽の音だ? 久兵衛にはそのやかましい音が、やめてくれと言っているように聞こえた。
それは、幼稚園の時の運動会の、おやこ競争とか言う競技に、父の代わりに駆りだされ、走っていた祖父を思い出させる。
――ひい…ひい…
――おじいちゃん、頑張れ!
ガボン ガボン ヴァウゥゥウウウウン
爆音が聞こえる。 祖父は、久兵衛に会うたびに、いつも戦争の話をした。
――いいか久兵衛、戦場での生き死には、足で決まるんだ。走って、伏せて、走って、伏せて!
そのうち、伏せる時が辛いことに気がつく。 だけど走ってばかりいると、的になるんだ。
走って、伏せて。 これを続けられる奴が生き残る。 おじいちゃんは強かったんだぞ。
しかし久兵衛は、運動会でビリッケツを取った祖父を見たとき、彼の話は嘘だったのだと思った。
――おじいちゃんのうそつき! 伏せるどころか、走ることも出来なかったじゃないか!
祖父は、運動会の3日後、息を引き取った。 久兵衛は、嘘を付いた罰が当たったのだと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:35:41.58 ID:NgDOzvxIo<> 父が調子にのって空吹かしを続けていると、不意にパパアン!と、後ろからクラクションが鳴らされた。
冷たいプレッシャーが、ヤレたシートを突き抜けて背中に刺さる。
信号は、青になっていた。
車はガクンガクンとまるで巨人に蹴飛ばされたように発進し、久兵衛はシートの上で跳ね回った。
父は、「ロデオだ!」と叫んだが、久兵衛はその言葉の意味がさっぱり分からなかった。
なんとなく、卑猥な意味なんだろうなと思って、脳内に接続したその言葉の響きに、陰茎を更に膨張させたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:36:07.69 ID:NgDOzvxIo<> 見滝原市役所に着くと、見物人や新聞社も来ているようで、かなりの人ごみであった。
しかしそれらは、新聞記者やら、難しそうな顔をした大人たちばかりで、ただ市役所前の広場に大きな円を作って、
流れる汗を拭いているだけであったので、久兵衛はすぐに退屈になってしまった。
6月10日のその日は、相当な蒸し暑さであった。 久兵衛は早くヘリコプターが見たいと思っていた。
しかしなかなかやってこない。
「ねえ、ヘリコプターは?」
久兵衛はなじるように父に聞いたが、彼もまた暑さでイライラし始めており、
「黙って待っていなさい!」と叱責されてしまった。
久兵衛は付いてきたことを後悔し、することもないので、陰茎をいじくりながらその時を待つことにした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:36:35.50 ID:NgDOzvxIo<> 漸くヘリの音がし始めたとき、久兵衛はクローバーの花に群がっているコガネムシを殺している最中だった。
――それではこれより、当社ネチズンウォッチが開発いたしました国産初の耐震装置、Pショック付き腕時計の投下実演を開始します――
そんなアナウンスがなされたが、久兵衛には上の空であった。
「来た!」
久兵衛は3匹目のコガネムシをアスファルトに叩きつけ、上空を見上げ、眩しさに目を細めた。
空の青に付いたシミのようなヘリコプターの影は、ぐるぐる旋回をしながら大きくなっていき、
次第に塗装された機体の模様まで見て取れるくらいの大きさになっていった。
そしてそのあたりに来ると、バタバタとローターの回る音が、猛烈な重量感を含んでおり、久兵衛は圧倒された。
彼はこんな近くをヘリが飛んでいるところを、見たことがなかった。
その上、ヘリがホバリング飛行までし始めたとき、久兵衛は感激のあまり雄叫びを上げていた。
「うおおおおっ! 凄い! 空中で止まっている!!」
彼にとっては、その精一杯の叫び声がヘリの音で聞き取りづらくなっていたことさえ、珍しかったのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:37:13.39 ID:NgDOzvxIo<> 不意にヘリのドアが開き、そこからぬっ、と、手が出てきたのを見て、久兵衛の興奮は更なるステージへとレヴェルアップを果たした。
「父さん! 人がのっている!」
久兵衛の子どもらしい感嘆に、父は、
「当たり前だろ? 人が乗らないと飛ばないに決まっている。 航空機は、人を空に持っていくための道具だしな」
大人の感覚でそれを流した。
久兵衛は、言いたいことはそんなんじゃなかったんだ…と、もどかしい気持ちになった。
しかし、ヘリから生えたその手が、何かを落としたとき、久兵衛はそんなもどかしさなど瞬時にどうでも良くなってしまった。
「なんか落とした! ねえ、なにあれ?」
地面に落ちたそれを手に取り、男が「動いています」とマイクで叫ぶと、
歓声と拍手とが巻き起こり、久兵衛は独りだけ仲間はずれになったような寂しさを感じた。
「ねえ、父さん、なにあれ?」
父もまた、周りの大人達に倣って拍手をしており、久兵衛は肉親に裏切られた感覚を、子供の精神に覚えこまされた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:37:40.71 ID:NgDOzvxIo<> 「ねえ父さん! ねえってば!」
久兵衛は父の手にぶら下がり、彼が拍手をし続けるのを邪魔し、自分に注意を向けさせた。
「何だ久兵衛! 怒るぞ!」
「あれ何って、聞いているじゃないか!」
久兵衛の必死に、父は面倒くさそうな顔をしながら、
「時計だよ、腕時計。 車の中で教えただろ? ネチズンウォッチが自社製品の宣伝を兼ねた実験をするって」
「時計!?」
久兵衛が唖然としていると、またヘリから、ひらひらとたなびくリボンを付けられ、観衆から見やすく配慮された腕時計が投下された。
久兵衛はまた歓声が沸き起こったら話しかける機会が完全になくなってしまうと思い、
「あんな事して、壊れないの?」
割りこむように大声で聞くと、
「だから壊れないように作ったんだろ?」
父は面倒くさそうに答え、二つ目に投下された時計も壊れていないことを確認し、歓声を上げ、拍手した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:38:22.36 ID:NgDOzvxIo<> 結局、投下された腕時計10個は全て壊れることが無く、ヘリは悠々と飛んでいき、投下実演は大成功で終了した。
「すごいなあ、久兵衛。 国産品もあそこまで性能がよくなったんだなあ。 なんだか誇らしい気分だな。」
久兵衛は未だ信じられない気分だった。
当時の腕時計というのは、今からすると信じられないほど壊れやすく、
久兵衛も父が時計を着けたり外したりするときにうっかり取り落とし、時計が壊れて止まってしまうのを何度も見たことがあったから、
ヘリから落として壊れないなどと、まるで手品でも見せられているかのような気分であった。
「父さんもあれ買ったら? 落としても壊れないならいちいち修理代かからなくていいんじゃない?」
「バカ、新製品なんか高くて買えるか! あれ5千円もするんだぞ! 俺みたいなクソ公務員の給料には高嶺の花ってやつだ!」
久兵衛の父の給料が1万3千円位、かけソバ一杯25円位の時代であった。
車のローンに、久兵衛の給食費と、家計は苦しかったのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:38:56.07 ID:NgDOzvxIo<> 「いいか久兵衛。 公務員にだけはなるなよ。 ちゃんと勉強して、いい仕事に就いて、俺と母さんを楽させてくれ!」
父は、自らの人生を諦めてしまっている者特有の、諦念と悔しさとが入り交じったような歪んだ表情を作り、
小学校に上がったばかりのガキに嘆願した。
久兵衛は、「ああ」だか「うう」だか、適当に流すような返事をして、その答えを保留した。
彼は嫌だった。 自分の、未来の可能性が無くなってしまって、子供に頼るしか無い、情けない親の姿を見せられるのが。
それに勉強なんてよく分からないし、何をどう頑張ったら、そのいい仕事とやらに就けるのか、久兵衛には皆目見当が付かなかったのである。
恐らく父親も知らないのだろう。 知らないくせに、子供にはそれをやらせようとしている。
そしてあわよくば、自分が楽をしたいのである。 久兵衛にとってこういう事を口走る父は、卑怯者の見本であった。
貧乏人はそうやって親子で足を引っ張り合いながら、貧乏の連鎖を繰り返すしか無いのだと、
久兵衛も子供心に自分の人生を諦め始めていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:39:22.34 ID:NgDOzvxIo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:39:49.46 ID:NgDOzvxIo<> 「…へえ、久兵衛も大変だったのね」
マミが慈愛に満ちた言葉をかけてくれたそのとき、タクシーはゆっくりと停車し、料亭に到着したことを知らせた。
「3250円です」
タクシーの運ちゃんがニコニコしながら金額を伝えると、
あろうことかマミが代金を払おうとしたので、久兵衛は慌ててそれを止めねばならなかった。
「おい、マミ! なに勝手に払おうとしているんだよ! 全く、君は本当に手癖が悪いね!
お金のことは心配しないでくれと言ったはずじゃないか! いいかい、今日という日が終わるまで、君が財布に触れることは禁止する!」
久兵衛が支払うと、マミはふくれっ面になって、
「別にタクシー代くらいいいじゃない! 私たち、恋人同士でしょ? だったら支え合うのが普通だわ!
ねえ、少しは私を頼ってくれてもいいじゃない! そんなに私って、頼りないのかしら…あなたの役に立ちたいのに…」
だんだんとそのメンタルが怪しくなってくる始末であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:40:20.50 ID:NgDOzvxIo<> 「お…おいおい…そんなに気にすること無いじゃないか! 今日は君が主役なんだから、堂々としていていいんだよ!」
久兵衛が慌ててフォローをしたが、
「でも…なんだか必要ないって言われているみたいな気がして…」
マミは自分で自分を追い詰めるように言いながら俯いて、また泣き出しそうな勢いである。
久兵衛は慌てた。
「そんなこと無い無い! むしろ君が大事だから、こうして色々おもてなししているんじゃないか!」
「でも…でも…」
マミは心底つらそうな顔をしていて、それを見た久兵衛の胸のあたりが、また疼くように痛み出した。
――また始まった! 途中でドラッグストアに寄ってもらって、痛み止めを買ってくるんだった!
久兵衛は後悔した。 そして腹が減ってきた。
「とにかく店に入ろう! こんなところで喋っていても埒があかないからさ、いいだろ?」
久兵衛は、マミの顔を見ずに、手を引き、料亭に入り込んでいった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/26(火) 19:42:03.45 ID:NgDOzvxIo<> ここまでかな。 次回第二章後編
えらく昔っぽいのはパラレルワールドの時間軸ってことで突っ込まないでね。
ただ昭和テイストのモノを書きたかっただけだからね。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/26(火) 20:28:53.78 ID:dhAfaswoo<> 乙マミ
……大半がチンコの話だったけど、まさか話したのかよ久兵衛さん? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/26(火) 22:14:19.93 ID:eGlN6Xh1o<> 乙っちまどまど!
子供のときは不思議に思うよね、ちんちんって <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/07/27(水) 02:29:28.32 ID:im9EslB10<> QB・・・「変な奴」。しかし・・なぜだろう。知れば知るほど、こいつが哀れにしか思えなくなるのは・・なぜ、あんなに悪い男に愛嬌があるのだろう・・。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/07/27(水) 14:41:01.73 ID:YBxw6eIAO<> 乙
本編のべぇさんにもし感情があったら、魔法少女システムは簡単に破綻するなと思いました
あと、マミさんはめんどくさいカワイイ <>
1<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:11:08.51 ID:9D66Aakko<> チンコの話はしていないよ!
投下する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:11:40.64 ID:9D66Aakko<> 部屋に案内されると、またマミは座椅子に腰掛けるなりキョロキョロとし始め、
「お金のことは気にしなくていいんだからね!」
と、また久兵衛が念を押さねばならなかった。
「ねえ久兵衛…なに食べるの?」
そんな事を聞いたところで、不安が消えるわけでは無いのだが、マミは聞かざるを得なかった。
「とりあえず和牛のしゃぶしゃぶと、舟盛りが出るんだ! でっかい船に、ヒラメとか、タイとかが乗っかっているんだよ!
他のおかずはとにかく一番いいのを作れって言って、任せてある。 勿論君のためさ!」
それを聞いたマミはやはり高そうだと思ったのか、顔面を引きつらせながら、「うれしい、うれしい」と、棒読みで感激していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:12:13.16 ID:9D66Aakko<> 「あのね、久兵衛…」
豪勢な料理の話で放心気味だったマミは、不意に顔を引き締め、なにか決心をしたように語りだしたので、
「何だい? 改まって…」と、久兵衛も真剣に聞き返してみた。
「次のデートは、もっと私も、久兵衛に何かしてあげられるような、そんなデートにしたいの…」
久兵衛が口を挟もうとしたが、
「あ、違うの…今日のデートは楽しいの。 だけど…ほら、さっきも言ったじゃない?
私たち、恋人同士だから、お互い協力しあって…そういう関係にしていきたいの…
私はお金とか無いから、こんなお店に久兵衛をつれてくることは出来ないけど、
料理は得意だから、愛情込めて、久兵衛の好きなもの、何でも作ってあげるわ。
…こんな私だけど、頼りないかも知れないけど、それでも何か出来ることがあると思うから、だからお願い、少しでいいから私を頼ってね」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:12:50.37 ID:9D66Aakko<> 久兵衛はおかしな事を言うものだと思いながら、また胸の疼くような痛みが生じているのに気が付いた。
今までの女たちは、久兵衛を利用しつくす事しか考えていなかった。
飯を奢らせ、宝飾品やブランドバッグを買わせ、自分がいかに多くの男を虜にし、恵まれているかという事を、
周囲に披瀝する為に生きているのが女だと、久兵衛は思っていたのである。
だからこうして、自分に何かをしてやりたいなどと言う女は、寧ろ何か裏があるのではないかと、久兵衛は勘ぐってしまう。
彼は、女に騙されて死んでいったチンピラ共もまた、幾人も見てきたのであるから、
この臆病なまでの感じ方が、彼をここまで生き延びさせてきた処世術でもあったし、
そんなふうに感じることが、寧ろ久兵衛にとって当然の感覚であった。
――マミは一体、何を考えているんだ?
久兵衛の脳裏に、女にハメられた記憶の数々が蘇ってくる。
しかしどの記憶も、このマミの考えを見抜くための材料にはならなそうなのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:13:22.92 ID:9D66Aakko<> 「分かったよ、これからは、デートの時も晩ご飯は君の料理を御馳走になろうかな?」
久兵衛は、これは駆け引きだと思った。 女が何かを申し出ると、それ以上の何かを求められる。
そうやって女によって泥沼に引きこまれ、借金まみれにされ、
借金取りのヤクザ達に連れ去られ、精肉工場で肉骨粉にされてうなぎの養殖場に放りこまれたチンピラの顔が久兵衛の脳裏をよぎった。
バカだったが、いい奴だった。 いい奴ばかりが、死んでいくのだ。
「ええ、そうして! 私、頑張るから! 何を作って欲しい?」
マミの弾けるような声が、思い出に浸る久兵衛の思考を打ち破った。
「何でもいいよ」
この女は、自分で料理を作るという安上がりの行為の先に、どんな見返りを求めているのだろうか?
久兵衛がポーカーフェイスの下に疑いを隠した眼でマミを観察していると、
「じゃあ何を作ってあげようかしらね」とか言いながら独りで勝手に機嫌を良くしていて見苦しかった。
早くどんな見返りが欲しいのか、言って欲しい。 でないと喉に何かが引っかかったようなもどかしい気分が解消されないではないか。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:14:18.79 ID:9D66Aakko<> 「――そうだ、ねえ、久兵衛――」
――嘆願するような言葉の響き――そら、来た。 漸くこのマミの中の女の本性が拝めるってわけだね。
君は一体、どんな見返りが欲しいんだい――?
「――さっきの話の続き、してくれない?」
「えっ?」
久兵衛は拍子抜けし、マミが何を話しているのか分からなくなった。
「久兵衛の、子供の頃のお話。 私、あなたの事、何も知らないんだもの。 色々知りたいわ!」
――何か弱みでも握るつもりなのだろうか?
久兵衛は不気味に思いながらも、警戒しながら、昔話を始めた。
「確か親父とヘリを見に行った話をしたんだったよね」
「ええ」
「君さ、昔ワルプルギスの夜っていう、大災害が起こったのを知っているかい?」
「昔そういう災害があったというのを社会の授業でやったことがあるわ」
久兵衛は、自分が知っているあの大災害を、授業でしか知らないというマミの言葉の中に、彼女との年齢の差をずしりと感じ、
年の離れた二人がこうして一緒にいることの、不思議を思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:14:47.71 ID:9D66Aakko<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:15:15.62 ID:9D66Aakko<> 久兵衛が小学校の4年生に上がったばかりの頃、見滝原市を、後にワルプルギスの夜と言われる大災害が襲った。
久兵衛達家族の住んでいた公務員用の公営住宅や、彼の通っていた小学校も相当の被害を受け、彼らは隣の下部暮市に引っ越すことになった。
この時、父が公務員だったことにより、優先的に下部暮市職員用の公営住宅があてがわれ、
素早く住むところが決まったのはこの貧乏家族始まって以来の幸福であった。
そして久兵衛の父は、災害復興担当職員として勤務するようになったのである。
それは、彼ら貧しい家族にとって、まさに転機であった。
久兵衛の父は被災者の為と言いながら土建屋と癒着し、工事の落札金額を教えるなどの見返りに、大量の賄賂を受け取り始めたのである。
これにより、久兵衛の家はみるみる裕福になっていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:16:21.60 ID:9D66Aakko<> 久兵衛が中学に上がる年、彼の家は念願の二階建てガレージ付きマイホームを新築し、車は陰茎の勃起を誘発するゴミのような中古車ではなく、
嘘のようにエンジン音が小さく、エアコンやパワーウインドウまでもが装備された、
オッサン自動車の「ダイトーリョー」を、新型が出るたびに買い換えるという裕福っぷりであった。
本当はメルセデス・ベンキを買いたかったらしいが、あまり派手にやると税務署や警察がうるさいというので、車は国産にしていたのである。
久兵衛がそんな裕福な生活のカラクリに感づきはじめたとき、父が自慢の愛車に久兵衛を乗せ、走りだして言ったのは、
「お前に中学の入学祝いを買ってやらないとな」
という言葉であった。 それを聞いて久兵衛は暗澹とした気分になった。
彼は父に何かを買ってもらうのがたまらなく嫌だったのである。
父は少し前まで、自分で人生を切り開くことを諦めており、久兵衛を頼ろうとしていた寄生虫のような男なのだ。
しかし断ると機嫌を悪くされて後が面倒なので、彼はしぶしぶ振動のない車に乗って、勃起もせずについて行ったのであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:17:09.18 ID:9D66Aakko<> 到着した先は、駅前にあった時計屋であった。
「よし、まずは腕時計を買ってやる!」
「要らないよ。 学校に時計くらい設置されているしさ」
当時まだ腕時計は高級品であり、厨房が持つシロモノではなかった。
ネチズンのジュニヤを始め、ヤングヒッター、サイコーのマドニーなど、学童用の低廉価手巻商品がポツポツと市場に出回り始めていたが、
それすら金持ちのガキを対象にした商品であったし、
高価なものを学校に持ってくるとトラブルの元となるので久兵衛にとって腕時計は無用の長物に思われたのだった。
「いいから黙って付いてきなさい!」
しかし父は峻拒する久兵衛を叱りつけ、彼を引っ張って時計店に入っていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:17:53.99 ID:9D66Aakko<> 久兵衛は、どれも同じに見えるショーケース内の時計たちを眺めながら、
早く時間が過ぎ去り、閉店になるか、父が諦めるかして何も買わずに済ませたいと考えていた。
しかし昼を回ったばかりで、閉店まではまだ時間があったし、父も意地でも久兵衛に腕時計を買わせたいらしく、一歩も引かない構えであった。
そして久兵衛がグズグズと逡巡していると、父が痺れを切らしたようにショーケースから時計を取り出してもらい、久兵衛の目の前に並べ、
「ほら、この中ならどれがいい?」
選ぶことを強要し始める有様であった。
目の前に並べられたそれらは、漸く高級サラリーマンに普及し始めた自動巻きのサイコーマチックやネチズンジェット、
それに手巻高級機のサイコーロードマーブルなどで、やはりまったくもってガキの持つシロモノではない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:19:23.34 ID:9D66Aakko<> 分不相応なものを自分のガキに持たせようという父の成金根性に心底辟易した久兵衛は学童用廉価商品のコーナーに行こうとしたが、
「ああいうのは俺の息子に似つかわしくない。 だいたいジュニヤだの何だのと、商品名が安くさいじゃないか。 ダメだダメだ」
と、父によって阻止されてしまった。 もともと貧乏だったから腕時計自体、似つかわしくないだろ、と、久兵衛は思った。
しかし彼は仕舞いには、「俺の息子だから目が高い」などとのたまい、
国産最高級品のグランドサイコーやら、ロラックス、オメーガなどの超級品を並べ、更に分不相応の選択を息子に強要する有様だった。
そしてその時久兵衛は思い出したのだった。 3年程前の、見滝原市役所での、投下実演の事を。 そして彼は時計屋の主に、
「あのさ、昔ネチズンウォッチが時計をヘリから落とすパフォーマンスやったことあるだろ? あれと同じのって、無いかな?」
と、聞いてしまっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:19:51.59 ID:9D66Aakko<> あの時父は、歪んだ表情で言ったのだった。 俺にはあれは高嶺の花だと。
それが今はアコギな事で稼ぎまくり、超高級品を息子に買わせようとする豹変ぶりだ。
しかもあれほど公務員である己が嫌だったはずなのに、最近は、公務員になるなら俺のコネがあるからすぐだぞ、とかのたまっている。
久兵衛はその、手のひらを返すような父の変貌を気に入らなかった。 だから彼に物を買ってもらうのも嫌だったのだろうか。
いや、もしかしたら汚い金で生きている自分自身が嫌だったのかも知れない。
久兵衛はこの頃、善悪について考え込む事が多くなっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:20:26.01 ID:9D66Aakko<> 「ああ、あれね、大量に仕入れた当時の売れ筋商品だったから、まだ在庫が残っている筈だ…」
時計屋の主は、長期在庫がはけるのが嬉しくて仕方ない、という表情で店の奥に引っ込んでいき、しばらく後、
「あったよ、これだ! コイツを指名買いするなんて、子供にしちゃあ渋い趣味してるね、君」
ホクホク顔で、色あせたプライスタグが付いた幾つかの商品を持ってきたのだった。
「父さん、僕これが欲しい。 ヘリを見に行った時から、ずっと欲しかったんだ」
売れ残りの中から好みのデザインを探り出し、久兵衛が父にそう伝えると、父の表情が歪んだ。
それはあの時の、俺には5千円の時計は高嶺の花だと言ったときの、そして久兵衛に、いい仕事に就いて楽をさせてくれと言ったときの、
あの、人生の負け犬で、卑怯者の父の表情そのままであった。
久兵衛はそれを見て、父があの時の惨めさを思い出しているのだろうと思い、
成金になって偉そうになった彼の、化けの皮を剥いだような、勝利の感覚に身も震えんばかりに昂った。
それは被災者の為の仕事、と言う言葉を連発して人当たりを良くしながら、
影では賄賂を受け取っているという父の卑怯に対する久兵衛の勝利の瞬間に、彼には思えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:21:07.47 ID:9D66Aakko<> 時計は長らく動かずに眠っていたので油切れを起こしているだろうからというので、油を差して調整をするため、
しばらく時計屋に預けることになって、父と久兵衛は手ぶらで時計店を後にした。
その後、父は無言になり、次に久兵衛を文房具屋に連れていき、今度は彼に選ばせること無く、
ドイツ製のペンギンとか言う一番高い万年筆を買い与えた。
「お前には、失望した」
父が帰りの車内で、久兵衛に吐き捨てた言葉であった。
久兵衛はそれを無視していた。
「あろうことか売れ残りなんか買うなんて…」
父は苦悩しているようであった。 恐らく貧乏であった頃の自分と息子とを重ねあわせているのだろうと、久兵衛は思った。
あの時高嶺の花だと言った商品を、時を経て売れ残りになったそれを、その事実を覚えていた息子が指名買いしたことで、
そこに在りし日の惨めな自分を勝手に見ているのだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:21:57.86 ID:9D66Aakko<> ――小物。 久兵衛は脳内に父をそう、評した。
成金根性は、彼の薄汚い卑金属の地金を覆う薄いメッキなのだ。
高いものを買い、家を建て、高級車に乗る彼を、皮一枚はいでやると、そこには小汚い貧乏人が確かに存在しているのである。
父は何度も、俺は被災者の為に働いているのだと、久兵衛に言った。
それすらも、メッキであるのだと久兵衛は思った。
自分の悪事を正当化するために、そんな人当たりのいいセリフで取り繕っているのだ。
――偽善。
父は、人当たりのいいセリフでごまかし続けないと、悪事を行うことが出来ない、
情けない、貧乏人だった自分を忘れられない小心者の偽善者だったのだ。
そんな父から何か買ってもらうのが嫌だったのもむべなるかなである。
久兵衛は、自分はそんなふうにならないと決心した。
しかし、彼の見てきた社会は、善人がバカを見、父のような悪人が得をする社会であったことも事実であった。
善人は、ニコニコしながら、その裏にある悪に気づかないまま、
いいように扱われ続ける家畜のような存在として、久兵衛の眼に映ったのである。
久兵衛はまた、そんな善人にもなりたくないと思った。
彼はこの時、本当の悪人になろうと決心した。
父のような偽善者ではなく、また家畜のような善人でもない、本当の、悪人に。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:22:27.92 ID:9D66Aakko<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:23:02.09 ID:9D66Aakko<> 「それじゃあ久兵衛は、お父さんが悪いことしているのが、ずっと許せなかったのね」
「まあね。 僕が今もネチズンの時計にこだわっているのは、それが僕にとって、父に対する反逆と勝利の象徴であったからなのかも知れない」
久兵衛は、彼が悪人になろうと決心した事を省いて、マミに昔話をしていた。
マミは何一つ気づいていない。
自分がクスリで荒稼ぎしていることも、役員達を利用して会社を悪の組織にしていることも、平然と殺しをさせていることも。
久兵衛は、マミに自分が悪の権化であることを、話さないほうがいいと踏んでいた。 それは、余計なトラブルに繋がる気がする。
久兵衛がそんな事を考えていると、料亭の女将が部屋まで来て、
「お料理の準備が遅れていて、誠に申し訳ありまへん。 もうすぐ準備ができますよって…」
と、深々と頭を下げて謝し始めた。
「ああ、別にいいんだよ。 僕らが早くここに着きすぎただけだから。 お喋りでもして気長に待っているから、気にしないでくれ。」
腹が減ってはいたが、マミが居るのでキレる訳にもいかず、優しく対応した久兵衛に女将が微笑んで引っ込んでいった。
久兵衛は、もしかしたら自分がいましたことは偽善の一種なのかも知れないと思って、背筋がじわりと寒くなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/27(水) 19:25:07.96 ID:9D66Aakko<> 今日は短すぎたかな?
次回は「番外章3 少年の日」
甘酸っぱいのか何なのかよくわからない回 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/27(水) 20:52:20.60 ID:1JvCxavUo<> 劇団乙カレー
あぁ、回を追うごとに久兵衛さんが愛おしくなっていく……こんな風にこまして行ったんですかこの外道!wwwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/27(水) 23:17:26.14 ID:AdpOpcx7o<> 乙乙
久兵衛さんの壮絶なる悪堕ちの過程が楽しみである <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/27(水) 23:18:30.91 ID:ySteTykr0<> 乙マミ
この久兵衛さん感情があるから本編とは違ってうちらも理解ができちゃったりするのかねー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/28(木) 07:31:57.97 ID:fJlPTQXdo<> 乙っちまどまど!
父を見て育った結果か <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/07/28(木) 15:18:53.96 ID:n6kiqolbo<> 乙兵衛
久々に見たら再開されてた
久兵衛さんみてたら、L.A.コンフィデンシャルのダドリー・スミスたんを思い出した <>
1<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:47:40.67 ID:030eTpfUo<> 投下しますよー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:48:10.99 ID:030eTpfUo<> 番外章3 少年の日
「中学に上がったって言ってたわね。 そういえば久兵衛は、初恋いつだったの?」
マミの突然の質問に、久兵衛は戸惑った。
彼は、恋を知らない。
「そんなの知らないよ。 君はどうなんだい?」
「私は――」
言いながらマミが俯いて恥ずかしそうな笑顔を作るのを確認し、久兵衛は彼女から眼を逸らした。
「――あなたが初恋の相手」
久兵衛はぐっと拳を握り締め、「ふうん、そうかい」と、こともなげに答えた。
マミに対して、何も情が無いことを自分に言い聞かせるように。
そして久兵衛は、恋の記憶の代わりに、始めて女とヤリたいと、心から思ったときのことを考え始めていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:48:40.74 ID:030eTpfUo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:49:07.54 ID:030eTpfUo<> 久兵衛は中学に上がり、ガキの頭で考えることの出来る全ての悪に手を染めだした。
「おばちゃん、チェリーくれ」
学校の購買でタバコを買うなどは、一番最初に行った悪であり、今日も授業をサボって彼は校庭のスミでいい香りの煙をふかすのである。
体育館の裏。 いつもの場所で、ソフトパッケージの封を切ると、酸味の効いた豊かな香りがふわりと広がった。
これが厨房になっていた久兵衛の、至福の時であった。
切った封の反対側をトントンと叩いて、出てきた白い紙の巻かれたフィルターをつまんで引きぬく。
フィルターに印刷された、ピンクの桜のマークが少し色っぽい。 吸い込みながら100円ライターで火をつける。
「ふう、美味い」
フルーティーな酸味を含んだフレーバーが柔らかく嗅覚に触れる。 その知覚が恋しくて、もう一度煙を吸い込んだ瞬間―― <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:49:35.53 ID:030eTpfUo<> 「コラ、久兵衛君!」
甲高い声に呼び止められた。
誰に何を咎められても動じることのなくなっていた彼であったから、煙を吐いてその余韻を楽しんだ後、漸く振り返り、
「なんだ、パトリシアか」
おせっかい焼きの学級委員長が立っているのを、あだ名を呼ぶことで認めてやった。 本当の名前は知らないし、どうでもいい。
「教室に戻りなさい! 授業が始まるわよ!」
久兵衛はまた煙を吐き出した後、
「やなこったね」
返事をするなり、また壁に向き直って煙を吸い込み始めた。
「たばこは体に悪いからやめなさい!」
パトリシアはそう言うなり、久兵衛の口元から吸いかけのタバコを奪いとり、地面に投げ捨ててふみ消した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:50:09.52 ID:030eTpfUo<> 「何をするんだよ! 僕がタバコを吸ったところで君の体がおかしくなるはずはないだろう? なら僕の好きにさせてくれよ!」
「ダメなの! 規則だから!」
パトリシアは、規則を盲信していた。 馬鹿なのだと、久兵衛は思う。
いくら勉強が出来るか知らぬが、人に何かをさせようというのにその理由が
「規則だから」というのは規則という垣根を超えて考える事の出来ない自らの馬鹿を丸出した哀れな所業である。
久兵衛はこの女の相手をするのが阿呆らしくなって、彼女を突き飛ばし、学校を飛び出した。
その日一日、久兵衛の手には、彼女を突き飛ばした時の、あまりに軽く、柔らかで非力そうな感触が留まり続けていた。
その後もパトリシアは久兵衛を更生させようと、何度も彼が非行を働いているときに介入して来、
その度に久兵衛が学校から逃げ出すのが彼ら二人の日常となっていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:51:01.82 ID:030eTpfUo<> 久兵衛が中学校3年になったある日、パトリシアが学校に来なくなった。
ニュースでは下部暮市在住の高級官僚が、商社に極秘資料を横流ししたとかで家宅捜索が行われているところが映しだされており、
テレビの前の親の会話と、学校内のうわさ話とで、久兵衛はその高級官僚がパトリシアの父であることを確信した。
「ちーす」
久兵衛は、気がつけば登校してすぐに職員室に顔を出していた。
普段は職員室などに、間違っても自分から来る筈のない生徒に対するざわめきが上がるたびに、
不穏な空気が充填されていくような感じがする。
空間そのものが久兵衛を拒絶していた。 しかし彼は臆すること無く、担任の机に歩み寄り、それを思い切り蹴って教師を怯えさせてから、
「溜まっているプリントとかさ、パトリシアの家に届けてきてあげようと思うんだけどね。 どうかな?」
一息に言った後、挑発するように教師の顔を覗き込んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:51:28.94 ID:030eTpfUo<> 「そ、そんなの先生が行くから、君が心配することじゃないんだよ…」
教師は汗を拭き、目を逸らしながら久兵衛に伝え、暗に彼に職員室から出ていくように伝えているかのようであったが、
久兵衛はそんな彼の醸しだす雰囲気を無視し、
「でももう3日も溜めているだろう? パトリシアの机はプリントで一杯だ。
本来は毎日持って行ってあげなきゃならないのに、こんな扱いってないんじゃないかな?
つまり何だ、先生がちゃんと仕事してないから、僕みたいなクズがクラスメートの心配をしなくちゃならないってわけさ。 分かる?」
教師の仕事ぶりをバカにするように、嫌味を職員室中に吐き散らした。
「…でも、まあ…色々と問題が、ねえ…特に君は…その、アレだし…」
担任はなおも逡巡している。
パトリシアの家は捜査やら何やらで色々とゴタゴタしているため、教師でさえ行きづらいというのに、
久兵衛のような不良が顔を出して余計なトラブルを巻き起こしはしないかと、気が気では無いのだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:52:02.81 ID:030eTpfUo<> 「全く君たち教師はいつだってそうだね。 ハナッから僕が問題を起こすって決めつけているんだろう?
そんなだから学校が嫌になってしまうんだってどうして分からないのかねぇ。
パトリシアは、君ら教師が見捨てて無視を決め込んでいる、クズである僕の更生を馬鹿みたいに信じて、いつも小言を言ってくれた。
だから恩返しをしたいっていうこの僕の気持ちも分からないって言うんじゃあ、もう教育なんてやめちまえよ。 君らには無理だから」
久兵衛が得意げに嫌味を吐き続けていると、ジャージィを着た生徒指導担当が、「貴様、先生にどういう口を聞いているんだ、コラァ!」
と、久兵衛の襟首を掴み上げたが、彼は動じなかった。
「だからさあ、暴力でしか物事を解決できない低能に、教育なんて無理だって言っているのさ。
僕をどうにかしたいなら、ちゃんと言葉で伝えてくれよ。 僕も言葉で君らの相手をしてやっているんだからさ。
税金で給料貰っているんだろ? 税金泥棒で人生終わりたくないならちょっとは本気出せよ」
「何だと、コラァ…」と、生徒指導が拳を握り締め、職員室に冷たい暴力の予感が立ち込めた。
「ま…まあまあ、ジャージィ先生、落ち着いて…。 久兵衛君、プリントの件はそれじゃあ君に任せたから、ね。 これで満足だろう?」
担任が割って入り、生徒指導をなだめて、久兵衛の目的を達成させ、問題を集結させた。
久兵衛は襟に食い込んだ生徒指導の手を引き剥がし、
「じゃあ僕は早退しますんで」
と言い、タバコを咥えて火をつけながら、足で職員室のドアを蹴り、出て行った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:52:37.97 ID:030eTpfUo<> 久兵衛が呼び鈴を押したとき、玄関口に出てきたのはパトリシアその人であった。
「あ、久兵衛君…どうしたの?」
しかし顔は真っ青で、頬がこけて以前の元気は無くなっている。
「プリント持ってきてやったんだ」
久兵衛が束になったそれらを差し出すと、パトリシアは小さくありがとう、と言ってそれを受け取った。
「いつから学校に戻るんだよ?」
久兵衛の問い掛けに、パトリシアは俯いて、分からない、と答えた。
パトリシアは青い顔に精一杯の悲愴を浮かべ、下唇を噛んで小刻みに震えている。
久兵衛はその表情を見て、ここに来てよかったと思った。
そして、陰茎がムクムクと起立するのを感じていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:53:12.80 ID:030eTpfUo<> 「ねえ、久兵衛君…」
久兵衛が帰ろうと思ったとき、何かを決心したようにパトリシアが引き止めてき、話し始めた。
「何かな?」
「どうして、人は悪いことするの? どうして、みんな笑顔で暮らしていけないの?
一人ひとりが正しいことをちゃんとやっていれば、みんながそんなふうに幸せに生活していけるのに、どうしてそうはならないの?
教えて。 久兵衛くんはどうして、悪いことばかりするのか。 そうすれば、私、お父さんが悪いことした理由も、分かる気がするの」
パトリシアは真剣であった。 その真剣さに、久兵衛は笑いそうになった。
いや、笑った。
ひと通り笑って、バケツいっぱいの絶望をぶっかけられたようなパトリシアの顔を見、陰茎を極限まで勃起させ、言った。
「君は秀才だから熱力学のナントカ法則を知っているだろう? エントロピーは増大するんだよ。 物事は無秩序に帰する。
それは僕らも同じでね、君がいくら秩序を叫んだところで、だらしない人間って奴は、どうしたって堕落するんだ。
規則があったら、それを誤魔化して得をしたい奴が必ず出てくる。 世の中、それが自然なんだよ」
パトリシアはショックで何も言えないようだった。
それを認めた久兵衛は、更にその嗜虐性を加速させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:53:48.63 ID:030eTpfUo<> 「それにねえ、君は僕の事を悪い奴だと思っているみたいだけど、君だって似たようなものじゃないか」
パトリシアはギクリと久兵衛を見上げ、「…どういう事?」と、かすれた声で呟いた。
「僕の親父は今、ワルプルギスの夜の復興担当部長をやっていてね、好き放題汚職してるんだ。 尤も、捕まるようなヘマはしていないけどね。
君の父親も汚職官僚なんだろう? 僕ら二人は似たもの同士さ。」
「私は父とは違うわ! 一生懸命、世の中がよくなるように、その前にクラスがよくなるように、委員長として頑張ってきたんだもの!
私は悪いことは絶対にしない! 久兵衛君にもさせたくない!
だから私は、頑張り続けるわ! 父にも、ちゃんと罪を償ってもらって、それからまた家族みんなで頑張るの!
そうやって頑張り続ければ、きっと世の中は答えてくれる! そうすれば、きっとよくなっていくはずよ!」
久兵衛は、目の前の女が絶望的にバカなのだと思い、溜息を吐いて肩をすくめた。
全く、何のためにお勉強なんてするんだろうか?
この女は、こんな幼稚な理論を展開するバカ女は、学年で五本の指に入るほどの秀才なのである。
久兵衛は勉強という奴が三文の特にもならぬことをこの時はっきりと理解した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:54:40.16 ID:030eTpfUo<> 「まあ君の願いがエントロピーを凌駕すればそれは可能かもしれないけどねえ、
実際熱力学の法則に反する事実なんか見たこと無いしね。 あるとしたらそれは魔法って奴じゃないかな?
それに君はお父さんのことを自分と関係ないって言ってたけど、
そのお父さんの爛れた稼ぎで君は今まで生活してきたんだと言う事を分かっていないのかな?
汚職官僚の子供同士、君と僕は限りなく等価な罪を背負って生きている、いわば同じ穴のムジナなんだよ。
僕はその罪を充分に理解しているからマシだけど、君はそれを理解していないみたいだね。 その無知はさらなる罪だよ。
人間は発達した頭脳を持っている。 知らなかったで済まされる罪なんて、人間である以上どこにもないんだ。
人は自らのあり方や行いについて深く考察しながら生活していく義務を持っている動物だ。 それが知性の意味だ。
君はそれを無視して、自分に都合のいいことだけを考え、自分の罪を省みること無く、今まで過ごしてきた。 それはもうとんでもない罪悪さ。
人が人たる、動物と人とを分けることの出来る唯一のもの、すなわち知性という尊いものに対する重大な反逆なんだから」
「…やめて…そんなの…違うわ…」
パトリシアは久兵衛の植えつける罪の意識に耐えられず、次第に涙に濡れ、嗚咽に震え、その体勢を小さくうずくめていった。
久兵衛は張り裂けんばかりに膨張し、それでもなおギンギンと鼓動のたびに血液を送り込まれる陰茎を感じながら、
また自らの残虐性をも大きくふくらませていくのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:55:18.32 ID:030eTpfUo<> 「ハハハッ、パトリシア。 安心してよ。 僕らだけじゃない。 みんながみんな罪だらけなんだから。
よくテレビCMでやっているだろう? アフリカの恵まれない子供らが1円の募金でワクチン打てば助かるって。
あんなの嘘っぱちさ。 病気にならなくってもそのうち飢えて死ぬんだからさ。 当然だよね。
その一方で僕らは一日三食美味しくご飯をいただくだろう?
江戸の昔は一日二食が主流だったっていうのに、それを三食に増やして、アフリカの恵まれない子供らが一日一食も食えないときに、
僕らは三食がっつり食べて、無駄なエネルギーを消費し続けているんだ。 大罪だよ。
僕らが一食分削って、彼らに分け与えれば、何人が助かるか知れない。 だけどそんな事誰もしない。
アフリカの恵まれない子供らなんて何人死のうが知ったことじゃないし、
彼らを遠いこの国から見殺しにしたところでどんな法律にだって引っ掛かりはしないんだからね。
そんな薄情者たちが1円募金して、ガキが飢えに苦しむ時間を伸ばしたくらいで良い事したって満足しているのがこの世の中さ。
結局ね、そうやって人が人を踏みつぶして成り立っているのが世の中であり、僕らの人生なんだよ。
君がいくら頑張ったところで、世の中なんて良くなりゃしない。 それ以前に、君も貧乏国の社会を踏みつぶす悪人のひとりだ。
いいかい、僕らは生きているだけで人殺しの罪人であり続ける運命を持っているんだ。
殺人犯って奴らとは、その行為が眼に見えるか見えないかの違いがあるだけなんだよ。
もっと広く、犯罪者というものと対比するなら、それが法律という血の通わないシステムに否定されるか否か、それだけだ。
そうやって君が生きる為に眼に見えない犠牲が生ずるのが嫌なら、君自身が死ぬしか無いね」
久兵衛はナイフで傷口をえぐり続けるようにパトリシアを責め、最期にうずくまっている彼女に覆いかぶさるようにして、
その耳元で「明日もプリントを届けに来るからね」と、囁いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:55:59.96 ID:030eTpfUo<> 久兵衛はパトリシアの家を出ると、何かに急かされるように全速力で駆け出し、
自宅に帰って自室に駆け込み、扉の鍵をかけて全裸になり、オナニーを始めた。
三こすり半で最初の射精を迎えたが、久兵衛は陰茎を更にしごき続け、
涙に震えるパトリシアの姿を想像しながら更に2発の射精をして力尽きた。
頭が血流の鼓動を拾ってズキズキと痛み、シンシンとおかしな耳鳴りがして思考が手の届かないどこかによせて置かれているような気がした。
呼吸を整え、思考が脳に引き戻されていく感覚に身を晒しながら、久兵衛はパトリシアの家に彼女以外人がいなかったことを思い出していた。
明日またプリントを持っていったとき、パトリシアをレイプしようと久兵衛は思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:56:31.84 ID:030eTpfUo<> 彼女を突き飛ばした時の、弱々しい感触が手のひらに蘇ってくる。
あんなの、ちょっと力を入れただけで、すぐに押さえつけることが出来るだろう。
そう考えると、3回の射精を経て弱り切っていた陰茎が、また起床してウーンと伸びを始めた。
ああ! 始めてのセックスがレイプだなんて、最高にイカしているじゃないか!
そうやって汚職官僚の子供同士が心さえも通わせないセックスをし、悪人の血の濃い子供を産ませるのだ。
その子供を、生まれ落ちたその時から本物の悪人として、自分の知るあらゆるネガティヴを教えながら汚い金を使って育ててやろう。
純粋な悪人をこの世に降り立たせること。 それが彼流の愛であり、この世に対する復讐であり、義務でもあるのだと、久兵衛は思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:57:30.24 ID:030eTpfUo<> 翌朝、久兵衛は起きがけにまたパトリシアを思い出して朝立ちオナニーをし、
朝食の後、またオナニーをして、それでもおさまらない陰茎をズボンの中で上向きにセットして登校した。
久兵衛はそのままパトリシアの家に直行したくなったが、もし家族が居たときのことを考えると、
一応プリントを持って、これを届けに来たという格好位をつけて置かなければいけない気がしたので、とりあえず学校に向かうことにした。
学校に着くと、全校集会を行うということで慌ただしく、久兵衛は立たされたり座らされたりする全校集会が嫌いであったから、
クラスから離れて、集会の行われる体育館の外で居眠りをこくことを決め、
いつもタバコを吸っているあの場所に行き、寝転がってスパスパやり出した。
集会は校長の話で始まったようであった。 マイクを通してスピーカーで拡声されたしわがれ声は、久兵衛の居るところまではっきり届いた。
――悲しいお知らせがあります――
久兵衛は心臓を握り締められたかのような感覚に起き上がり、校長の言葉を待った。
彼が学校で教師の話しを聞こうなどと思ったのは、これが最初で最後であった。
校長のゆっくりした声は、悲痛を演じながら、パトリシアの死を伝えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:58:16.23 ID:030eTpfUo<> 久兵衛はタバコを消し、しばし放心した。
そして、黙祷、と、スピーカーが震えたとき、久兵衛はファスナーを下ろして陰茎を出し、シコシコとオナニーを始めた。
久兵衛は、オナニーしながらパトリシアの死に顔をはっきりと想像できた。
昨日見た彼女の表情が、死体のそれに近いと思ったからなのかも知れない。
久兵衛はパトリシアの死体に精液を注ぎこむ想像をしながら陰茎を超速でしごき続けた。
そして黙祷やめ、の、号令がかかるまでに、久兵衛は体育館の外壁に射精を終えた。
――パトリシアが死んだ! きっと自殺したんだ!
そうだ、父親が捕まって弱っている所に僕が罪の話をして、君が死ぬしか無い、と、言ったから死んだんだ! 僕が殺したんだ!
久兵衛は、感動に震えた。 レイプして子供を産ませるなど、陳腐なアイデアでしか無かったことを思い知った。
人生を終わらせる。 それは素晴らしいことだった。 何も無駄がない。
久兵衛は女と付き合うときの極意を得た気がした。
がやがやと集会の終わりの雰囲気が壁越しに伝わってくる。
久兵衛はうきうきと体の底から沸き起こる春の陽気のような温かみに突き動かされ、走りだした。
そして教室に帰ろうとしている自分のクラスに合流し、担任の肩を掴んで、目があった瞬間ニンマリと笑い、その耳元で呟いた。
「先生。 パトリシアを殺したのは、僕ですよ」
久兵衛はこの時、漸く本当の悪人になれた気がしたのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:58:42.37 ID:030eTpfUo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:59:15.52 ID:030eTpfUo<> 「ねえ、どうしたの、久兵衛?」
その言葉に我に返ったとき、マミの顔は驚くほど近くにあって久兵衛を疑惑に満ち満ちた目で眺めており、
久兵衛はそれを確認して始めて、マミをほったらかして考え事をしていたことに気が付いた。
「ん、ああ、なんでもないよ」
久兵衛は取り繕ったが、マミは更に表情に混じる疑惑分を強め、
「久兵衛ったら、私が初恋の話をしたから、初恋の人の事を思い出していたのね」
嫉妬のアクセントを含んだ言葉を吐きかけた。
「そうじゃないよ。 ちょっと中学の時の同級生のことを思い出していたんだ」
久兵衛はマミの、初恋、という言葉に戸惑った。 パトリシアに感じたのは、そんな上等な感情ではない。 はっきりと劣情だった。
「女の子のことでしょう? どうして素直にその娘のこと、好きだったって言えないの? 何か後ろめたいことでもあるの?」
久兵衛はマミの反応に、中学の同級生の事を思い出していた、というのが失言だったことに気が付き、またまた焦った。
「そんな事無いさ。 僕が好きになったのは君が初めてだよ」
久兵衛はマミの疑り深い問いかけに疲れ始めていた。架空の女に、死んだ女。 一体どれほどの存在しない者たちに嫉妬するのだろうか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 19:59:42.00 ID:030eTpfUo<> 「30にもなって初恋なんて嘘くさいわ。 久兵衛はその娘のこと好きだったのよね?」
「マミ、誤解だ。 勘弁してくれよ。 その娘とはデートだってしてないんだから、本当に何にもなかったんだ。
父親が犯罪をしてね、それを苦にして自殺しちゃったんだよ。 そういう事って、時々思い出したりするだろ? 僕もトラウマなんだよ」
「別に怒っていないわ」
顔は怒っているけどね。
「ごめんよ。 君を前にして考え事をしてしまったことは謝るよ。
でも本当にびっくりした出来事だったんだ。 だから時々思い出しちゃうんだよ」
久兵衛は言いながら、何故こうも自分が下手に出なくてはならないのかというムカつきが溜まっていくのを感じていた。
やはり女は疲れる。 早く明日になって、この女を虐めなくては―― <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 20:00:13.38 ID:030eTpfUo<> 久兵衛がそんな事を考えていると、座卓を挟んで向かいに座っていたマミが立ち上がろうと中腰になり、
「ねえ、そっちに移動していい? あなたの隣に…」
と言って久兵衛を、何か思いつめたような目で見てきた。
久兵衛はそれを見た瞬間に、弾かれるように目を背けていた。
それは、精神に直接訴えかけるような、見続けてはいけない類の目付きであった。 マミは時々、そういう目をするのだ。
マミは、久兵衛の隣に座椅子を設置し、座った。
「なんだか急に寂しくなって…あなたが他の女の子のこと考えているって思ったら、居ても立ってもいられなくなって…」
マミはそう言って、久兵衛の手を握った。
「だからこうして、あなたに触れたくなったの。 座卓を挟んで向かい合っていると、なんだかあなたが遠くにいるような気がして…」
「だからそんな風に考えていた訳じゃあ…まあ、勝手にしなよ」
久兵衛はその手を振りほどきたくなったが、明日が来るまでと思い、なんとか耐えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 20:00:41.40 ID:030eTpfUo<> マミに寄り添われているという、ムズ痒いような不快感に半身を支配され、
それが話題さえ吸収したようになって個室に沈黙が訪れたとき、料理が運ばれてきて、久兵衛は助けられたような気分になった。
「ほら、料理が来たよ。 食べようか」
久兵衛がそう言いながら、目の前に運ばれてきたどんぶり茶碗のフタを開けたとき、
視界に飛び込んできたのがうなぎだったので、彼はギクリとその動きを止めた。
「久兵衛、どうしたの?」
過去の記憶に誘われた彼には、隣にいるマミの声が、またしても聞こえなくなっていくのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 20:01:19.07 ID:030eTpfUo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 20:02:24.87 ID:030eTpfUo<> 今日はここまで。
次回「番外章4 土用の丑の日」
トラウマ回。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/28(木) 20:20:17.36 ID:edSIA7NFo<> 乙
うなぎがトラウマとか
ケツにつっこんだんですか久兵衛さん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/28(木) 20:43:18.18 ID:RoiHXRQCo<> 乙!
これで良い、これで本編の外道べぇになってくれる……
でもなんだか寂しくもあったり <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/28(木) 20:56:24.83 ID:030eTpfUo<> >>658
変換ミス見つけた…鬱すぎる
最期に→最後に <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/28(木) 21:32:51.45 ID:qeO4iN2IO<> 乙! 続きがたのしみですなあ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/28(木) 22:42:33.49 ID:ijdI4zJ0o<> 乙
ぐうぅ…毎回本当感動するわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/28(木) 22:42:38.23 ID:fJlPTQXdo<> 乙っちまどまど!
うなぎか……! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/07/29(金) 01:18:19.00 ID:uFJfph4b0<> ・・QBがQB過ぎる・・・なんてヤツだ。厨房の分際で既に一人・・・。
この男は、ネジ1本だけ外れた時計のように、生真面目で精密で正確で・・そしてきっちりおかしい。
これじゃ病ミさんとQBが死ぬしかないじゃない。・・・悲しいなあ。なんでだろ。何でこんな男に情けをかけたくなるのかなあ。。。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/07/29(金) 01:34:01.54 ID:aP6CGw/Wo<> >>676
マミが惚れてるからだろう。
くそっ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<><>2011/07/29(金) 15:47:50.26 ID:j4kQhgre0<> ようやく全部読んだ
まさか前作の終わりから続けられるとは思わんかった
さやかの反応から一方通行なんじゃないかと不安だったが裏事情が良かった
杏さやかと思ったらさや杏か
詢子さん陵辱かと思ってた自分は最低思った
後、細かいネタが多すぎて突っ込みきれないのと語彙の豊富さが素晴らしいです <>
1<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:08:41.28 ID:HjE5MlJWo<> >>678
とりあえずお疲れ様です。 そしてありがとう。
こんな長々したものを読んでもらえるだけで嬉しいです。
じゃあ遅くなったけど投下します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:09:35.49 ID:HjE5MlJWo<> 番外章4 土用の丑の日
中学校を卒業し、高校を2週間で中退し、家をでた久兵衛は、麻薬の売人や風俗の下っ端をやりながら徐々に闇の世界での信用を得ていき、
体良く使える一匹狼としてヤクザたちから珍重される一方、小さな組からスカウトなどが来たりもするくらいになっていた。
しかしそんな彼は今、闇の仕事を休み、あるチンピラと行動を共にし、擬似的な逃亡生活をエンジョイしていた。
このチンピラはロベルタとか言う源氏名のキャバ嬢に入れ込みすぎ、服だのバッグだのを買わされ続け、
闇金に手を出し、その借金がかさんで今、ヤクザたちから追われている最中なのだ。
コイツはもうすぐ死ぬ――久兵衛が行動を共にしている一番の理由はそれだった。
彼は人が破滅し、死にゆくさまを見るのが一番の楽しみになっていたのだ。
しかし今回はちょっとやり過ぎかなと、さすがの久兵衛も時々後悔のような感情に突き動かされていた。
ヤクザに追われている男と行動を共にするということは、
自分が手助けなどを何もしなかったとしても、その相手側のヤクザを敵に回す可能性が強いからである。
だがそんなスリルさえ、久兵衛は楽しんでいるフシがあった。
彼は、この腐りきった人生がいつ終わってもいいというような、半ば投げやりとも言えるような気分で生きていたのである。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:10:16.00 ID:HjE5MlJWo<> 「ハラ減ったなあ…久兵衛。 昨日食った生ごみの蛆、プチプチしててうまかったなあ…」
そのチンピラは、カラになっている胃袋を腹の上から撫でさすりながら久兵衛を振り返った。
「最近はカツアゲやオヤジ狩りもやりづらくなってきたよね。 あちこちにヤクザが君を探してパトロールしている。
だから金があったとしてもおちおち買い物にもいけない。
もうΓ県を離れて、死国にでも高飛びしたほうがいいんじゃないかな?」
「よせよ、どこ行ったって俺の顔は知れているんだ。 それに金もなければ高飛びもできねえ」
チンピラは、既に何をしてもダメだと悟ってしまっているようであった。
久兵衛はそんな他人の絶望を見て、自がその埒外に居ることの優越を体中に染み渡らせた。
「そういえばここら辺に教会がある筈だよ。 そこで施しを頂こうじゃないか」
久兵衛はピクニック気分であった。
しかしそんな彼の明るさがチンピラにとっては救いでもあるらしく、
「オメエと居ると、本当に気分が楽になるなあ…よし、行ってみるか!」
彼は不健康に痩せこけた顔を精一杯笑顔に作り替え、公園の近くにある小さな教会に向け、足を引きずりながら歩き出したのだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:10:55.16 ID:HjE5MlJWo<> 教会の扉をノックし、しばらくして扉が開けられると法衣をまとった貧相な神父が立っており、
チンピラはそれを確認するなり、まるでΖガンダムが変形をするように超速で土下座の体勢を取り、
「俺たちを匿ってください! ちょっとやばい連中に追われていて、のっぴきならねえんです! 頼んます!」
と、元気な声を張り上げたものだから、久兵衛はコイツはもう少し生き延びるかも知れない、と、暗澹とした気分になった。
「何も御構いできませんが、神様はすべての方に平等です。 どうぞこちらへ…」
神父が奥へ案内をすると、チンピラはイヌのように付いていき、
「腹が減って死にそうだなあ! もう3日も食ってねえや!」
と、わざとらしい、嘘の独り言を張り上げた。
久兵衛は昨日、生ごみをタカっている蛆ごと腹いっぱい食ったこの男の浅ましさとしぶとさを目の当たりにし、
更に気持ちが陰っていくようであった。
そしてこのままではこの男がだらだらと生き延びてしまい、自分の時間が無駄になると思った久兵衛は、
便所に行くふりをして事務所のようなところに忍びこみ、勝手に電話を使ってヤクザの事務所にかけ、
この教会に彼がいることを教える代わりに、2万円を貰う取引を瞬く間に終了させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:11:48.58 ID:HjE5MlJWo<> 久兵衛が物置のような部屋に入ると、そこにはあのチンピラの他に、くたびれた背広を着たサラリーマンだった風の男と、
浮浪者みたいな男とが座り込んでいて、異様な臭気が立ち込めており、まるでカブトムシの飼育箱のようだと彼は思った。
彼が床に腰掛けるとすぐに飼育箱の扉がノックされ、
小学校高学年に届いたか届かないか位のと、小学校に上がるか上がらないか位の2名のロリガキが、お盆におかゆを持って参上した。
「くーかい?」
大きい方のガキがそう言っておかゆを一膳ずつ配って回っており、
それを受け取った浮浪者もサラリーマン風も、
「ありがとう、きょうこちゃん」
と、礼を言ったので、久兵衛はそのガキがキョウコ、という名前なのだと知ったが、だからどうなるものでもなかった。
キョウコは、久兵衛が口説くにはあまりにも幼なすぎた。 そんなガキの名前を覚えたところで、意味はないのである。
キョウコじゃない方のガキは、指をしゃぶりながら、黙っておかゆを食っている連中のほうを見ている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:12:16.78 ID:HjE5MlJWo<> 「くーかい?」
久兵衛にも、キョウコがおかゆを持ってきたので、彼はそれを奪うように取ると、ちびガキが久兵衛の方を見た。
そして久兵衛がおかゆを口に運ぶと、ちびガキはそれを目で追っているではないか。
久兵衛はわざとらしく見せびらかすようにおかゆを食い、次いで一匙のおかゆをちびガキの方に差し出し、
「欲しいのかい?」
と言ってやると、その顔に期待が満ちて表情がほころび、トテトテと久兵衛の方に近寄ってきたので、
頃合いを見計らってそのおかゆを素早く自分の口に持って行き、旨そうに飲み下して、
「あげない」
と、舌を出してやると、ちびガキの顔はみるみる梅干しのようにくしゃくしゃになり、仕舞いにはサイレンのような大声で泣き出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:12:43.21 ID:HjE5MlJWo<> 「こら、なくんじゃねえ」
とか言いながらキョウコが飛んできてちびガキをひっぱたき、部屋から引き摺り出すのを見て、久兵衛は腹を抱えて笑った。
廊下からは退場させられたちびガキの鳴き声が間断なく聞こえており、
それに混じって「あたしのりんごをわけてやるからさあ」とかいうキョウコのあやす声が飼育箱の中まで届いてくる。
「何だあのガキ、トンだ三文芝居だねえ!
表では神の前では皆平等とか言っていながら、本心は僕らみたいなクズが邪魔で仕方なくて、
あんなふうに飢えたふりしたガキを使って僕らの痩せこけた良心を刺激し、早々に追いだそうって魂胆なんだねえ!
きっとあいつら、僕らにこんな不味い粥を食わせておいてさ、陰ではものすごくいい物食べているんだぜ!」
久兵衛が得意満面にそう言って周囲を見回すと、サラリーマン風と浮浪者とが彼を猛烈に睨みつけており、チンピラがおろおろとしていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:13:29.42 ID:HjE5MlJWo<> 「君、施しを受けておいて、そんな言い方って無いじゃないか!」
サラリーマン風が立ち上がって久兵衛を糾弾し始めたので、久兵衛は無言で彼をぶん殴り、言った。
「うるさいねえ、不味い粥だけしか貰えなくて腹が減っているってのに余計なエネルギーを使わせるなよ」
伸びているサラリーマン風にそう吐き捨てると、久兵衛は座っておかゆをかき込み、食い終わると器を放り投げて寝転がった。
浮浪者はサラリーマン風を介抱しながら久兵衛を睨んでいる。
しばらくするとまたキョウコが入ってきて、浮浪者たちにごちそうさまでした、とか言われながら器を回収し始めた。
浮浪者など、まるでキョウコが女神であるかのように手を合わせ、拝むような格好をしていて、久兵衛はそれを見て爆笑してしまった。
そしてキョウコは久兵衛の器を拾うなり、歩み寄ってきて、
「おじさん、のこさないでください」
と言って彼に器を突き返してきたではないか。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:14:12.66 ID:HjE5MlJWo<> 「僕はまだ20代前半だからおじさんなんて呼ばれる筋合いはないけどね、ちゃんと食べたじゃないか!
こんな不味い粥を食べてあげたのに、なんで君はそうやってケチをつけてくるのかなあ?」
久兵衛が面倒くさそうに返答すると、キョウコは器を指さし、飯粒が4つほど残っていることを示し、
「おこめは、のうかのひとたちが、いっしょうけんめいつくったものだから、こんなふうにのこしたりしちゃ、いけないんだぞ!」
と、ガキの分際で説教をしてきたものだから、久兵衛は脳天を怒りが突き抜けていく感覚に立ち上がり、
彼女を見下ろす体勢になって充分に威圧し、ガンを飛ばしてから、
「それはあのちっこい方のガキに分けてあげる分さ。 お腹がすいているそうだから、食べさせるといい」
と言ってやり、器を突き出したが、キョウコは受け取らず、
「これはおまえのぶんなんだ! たべものをそまつにしちゃだめなんだぞ!」
と強情を張ったので、久兵衛は握りこぶしを振り上げて脅かした。 大抵のガキはこれでビビる。
しかしキョウコは一歩も引かなかった。 器を力いっぱい突き返したまま、久兵衛を見据えている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:15:01.00 ID:HjE5MlJWo<> すると不意に、久兵衛のこめかみに鈍い衝撃が走り、彼は床に叩きつけられた。
「久兵衛!」
チンピラの声が聞こえた、と思ったら久兵衛の腹が蹴られ、彼はおう、という声と共に呼吸が出来なくなった。
「オメエは黙ってみていればよ、杏子ちゃん達に失礼なことしやがって、許せねえんだよ!!」
浮浪者の声がして顎が蹴り上げられ、コチン、と前歯がかち合う音と衝撃が響いて口の中に血の味が滲み、
脇腹に靴の先が刺さり込んで喉元に酸っぱいものが込みあげた。
サラリーマン風と、浮浪者にリンチされているのだと悟り、久兵衛は必死で左腕をかばった。
「止めろやオラァ!」
チンピラの吠える声が聞こえ、自分を痛めつける圧力が減った。 ひとりを引き受けてくれたのだと思った。
「やめろ! けんかはだめ! やめろ!」
キョウコの必死に叫ぶ声が聞こえる。 久兵衛は左腕が気になって反撃できない。
「何をしているんだ! やめなさい!!」
その時、神父のよく通る声が小汚い部屋に響き渡り、全ての闘争が一斉に止んだ。
久兵衛は痛む腹を右手で押さえ、左腕の時計を見た。
「…よかった…壊れてない…」
久兵衛の左腕にはめられた時計の金色の秒針が、部屋の乏しい明かりを受けて輝きながら一秒を五回に刻んでいた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:15:56.24 ID:HjE5MlJWo<> 神父の説教が終わり、なお重苦しさが留まる部屋の中で、久兵衛が時計を外し、ジコジコとゼンマイを巻き出したとき、
チンピラが久兵衛の手元を覗き込み、
「なにかと思ったら、随分ボロっちい時計じゃねえか。 だいたい今の時代に、そんな非防水の手巻きなんか流行らねえぞ。
自動巻き買えよ。 サイコーファイブとかさ、安いのあるじゃん」
と、つまらなそうに言ってきた。
「一応僕にも宝物って言うのがあるのさ」
久兵衛はそう言ってゼンマイを巻き終え、時計を腕にはめ直した。
それは彼が中学の入学祝いに、汚職成金の父に買わせた売れ残りの腕時計であった。
「ふうん、そういえばやられているとき、必死でかばっていたもんな」
久兵衛はチンピラの言葉を流し、本当に壊れていないことを確かめるように秒針の動きを目で追っていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:16:46.50 ID:HjE5MlJWo<> 「お前って、なんかそういうトコあるよな」
久兵衛はチンピラの言った言葉の意味がよくわからなくて、そういうトコって? と聞き返した。
「なんか優しいっていうかさ、そんなボロを買い換えずに使い続けるあたり、お前らしいとか、思うんだよな。
今もさ、俺みたいなクズに付き合ってさ、一緒に逃げてくれているだろ? 俺、嬉しいんだよ。
こんな騙されてばかりの人生だったけど、なんて言うかさ、一人だけでも、友達って言うのができたんだって、そんな感じでさ、
俺、お前のこと、本当に友達だと思っているんだ」
久兵衛は、勝手な解釈をして自分を友達にでっち上げようとしているこの男が不憫になった。
そしてこんなだから、簡単に騙されてしまうんだなと、自らの脳内の辞書の中の、反面教師の頁にこの男のこういった習性を書き加えた。
自分は、この男がどんなふうに破滅し、死んでいくのかを間近で観察しようというだけの傍観者なのである。
それ以上でも以下でもない。 友達なんてもっての外だ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:17:21.01 ID:HjE5MlJWo<> 久兵衛がそんな風なことを考えていると、不意に外から賑やかな雰囲気が久兵衛たちの居る部屋まで漂ってきた。
久兵衛はチンピラを追っているヤクザが来たのだと確信した。
「ひぃっ! 奴らが来やがった!!」
チンピラも同感したらしい。 頭を抱えてうずくまり、震えだした。
「僕が様子を見てこようね」
部外者というか、寧ろ通報した本人である久兵衛はそう言って立ち上がり、クズ人間達が溜まっている牢獄のような小さな部屋を出た。
歩いている途中で、生活スペースのような部屋からは、「こわいよおねえちゃーん」と、さっきのちびガキが恐怖に泣き叫ぶ声に混じって、
キョウコが「だいじょうぶだぞ、おやじもねえちゃんもついているから、こわくないぞ」と、ちびガキを励ます声が聞こえてきた。
久兵衛は先程脅したときに全く動じなかったキョウコの態度をちらと思い出し、
もしかしたらあのガキは大したタマなのかも知れないと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:18:05.60 ID:HjE5MlJWo<> 入り口に向かうにつれ、ヤクザたちの罵り声は明瞭となっていき、
久兵衛と行動を共にしていたチンピラを求めているのだということが久兵衛にもわかるようになっていった。
「オラァ!! チンピラァ!! おるんじゃろがあ!! 金返せやあ!!」
「チンピラ出せや糞坊主がァ!! ヤクザなめとんかワリャあ!!」
貧相な神父は、扉越しに、
「お引き取りください!! ここは神の家ですよ!! 狼藉は許しません!!」
などと久兵衛にとって意味不明な事を言っており、
「アハハッ! 何が神の家だよ! お前の家じゃないか! もしかしてあの小汚い神父は神様のつもりなのかな!?」
彼は腹を抱え、声を殺して笑った。
そして久兵衛は、この偽善者じみた神父があのチンピラをヤクザに引き渡すシーンを、どうしても見たいと思うようになっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:18:52.96 ID:HjE5MlJWo<> それから一週間ほど、久兵衛はこの「さくら会」とか言う貧乏な教会崩れの宗教団体施設で、
その神父の娘である姉妹のうち、弱っちい妹の方をいじめながらだらだらと過ごしていた。
チンピラを含む三人は、すっかりとこの団体の信者となってしまい、積極的に掃除や買い物を手伝ったり神父の教えを聞いたりしていたが、
久兵衛はそんなあほらしいことはせず、官能小説を読んだり日光浴をしたりしながら、そんな連中を傍観しているのだった。
そんな中、浮浪者とサラリーマン風は何かのアルバイトを始め、日給から毎日団体に金を納めだした。
そしてサラリーマン風に至っては、なにやら起業したかったんですとか言い出してへんてこな発明品を作り、営業活動まで始める次第であった。
そしてヤクザに目を付けられて外に出られないチンピラは、次第に働いている他の二人に引け目を感じていき、
自分の情け無さに悶えながら、鬱々と引き篭っていたのだった。
その間、毎日のようにヤクザが彼を求めて教会に脅しに来続けていたことは、言うまでもなかろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:19:52.26 ID:HjE5MlJWo<> 「なあ、久兵衛」
ある日、チンピラが蚊の羽音のようなか細い声で、久兵衛に問いかけてきた。
普段はそんな小さな声が聞こえない彼であったが、極限まで退屈していたため、
「なんだよ?」
即座に返事が出来た。
「俺さ、ここから出ていこうと思うんだけどさ…」
「何いってんだよ! 出たら殺されるじゃないか!!」
久兵衛は、その馬鹿げた提案に即座に反対した。
そして、殺されるのを待ち望んでいたはずなのに、何故そんな事を言ってしまったのだろうとおかしな気分になった。
「俺さ、団体に対して何も奉仕できてないしさ、もうなんか嫌になっちゃってさ。
だからもう、思い切って出ちゃってさ、当たって砕けろでさ。 あいつらも、俺を殺すまではしないんじゃないかって、思うんだよ。
だからさ、一生懸命働いてあいつらに金返してさ、真っ白になった体で、もう一回ここに帰ってきてさ、
みんなみたいに働いてさ、教会を支えていけるようになりたいんだ」
チンピラはそう言って、肯定を求めるように久兵衛を見た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:20:33.20 ID:HjE5MlJWo<> 久兵衛はコイツが本当にバカになってしまったのだと思った。
宗教に頭がやられてしまって、正しいことが理解できなくなってしまって、もうきっとどうしようもないのだろう。
そんなチンピラの豹変ぶりを見て、久兵衛は賄賂を貰う身分になってころりと変わった父の事を思い出していた。
「じゃあ勝手にするがいいさ」
頭がおかしくなった奴には、もう何を言っても無駄なのだと諦め、久兵衛はチンピラを放り出すように吐き捨てた。
「もう一つ、頼みがあるんだ」
久兵衛は無言で顔だけを向け、なんとか聞いてはやるけどさ、という態度を示した。
「俺のこと追ってるヤクザは、死体を処理する時、精肉工場でミンチにした死体を、うなぎの餌にするって知っているか?」
「まあ裏業界では有名な話だね。 そこのうなぎがうまいって事も」
「もし俺が帰って来なかったらさ、あそこの系列のうなぎ養殖場からうなぎを買ってきてさ、食べて欲しいんだ。
俺とお前は友達だからさ、だから俺の一部を持っているうなぎをさ、お前に食べて欲しいんだよ。
俺さ、お前の体の何分の一かになってさ、そうすると、ずっと一緒にいられるじゃん。
俺、お前と友達だからさ、だからずっと一緒にいたいんだよ。 バカで騙されてばかりの俺にさ、付き合ってくれたお前だからさ、
なあ、ゴメンな、気持ちわりいよな、だけどさ、もしかしたら死ぬって考えたらさ、無性にお前に食って欲しくなったんだよ。
だから頼むよ。 うなぎ食ってくれ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:21:22.16 ID:HjE5MlJWo<> 久兵衛は意外な展開になったな、と思いながらも、うん、と肯定の返事をしていた。
「うん、分かったよ。 約束する」
「ありがとう、ありがとう。 うなぎボーンも食べてくれよな」
「分かったよ。 骨まで食べるよ」
チンピラは、久兵衛の返事を聞くと晴れやかな表情で立ち上がった。
「ありがとう。 じゃ、俺、行くよ。 気が変わらないうちに行く。神父さんたちによろしくな」
彼は、ここに来て始めて、外に通じる扉を自分で開けた。
薄暗い建物の中から見えるその姿は、溢れる光に飲み込まれてよく分からなかった。
チンピラが出て行くと、待ち構えていたヤクザが、
「出てきやがった!!」
と声を上げ、次いで、
「俺は逃げないぞ!」
と、チンピラの声が聞こえた。 彼らに関する音はそれっきりで、久兵衛が追うように教会を出た時、もうチンピラの姿はなかった。
「久兵衛君、彼はどうしたんだ!?」
声に慌てて出てきた神父が、後ろから久兵衛に声をかけてきた。
「みんなが働いているのを見せつけられて、外に出られない自分が役に立たない人間だと思い込んで、絶望して死にに行ったんだよ。
あいつはそんなタマじゃなかったのに、そんな奴を虚弱にして、ヤケクソにして…何が新しい教えだ。 この偽善者め」
久兵衛は神父を振り返ること無くそのままさくら会を出て、二度と戻らなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:22:02.03 ID:HjE5MlJWo<> 久兵衛はさくら会を出て3日後、チンピラを連れ去ったヤクザ、「射太興業」の事務所に呼び出されていた。
「まあ座れや」
久兵衛が示されたソファに腰掛けると、3万円が渡された。
そしてその時初めて久兵衛は、ヤクザとチンピラの身元を取引した自分を思い出した。
「お金は2万円のはずですが」
ヤクザは、久兵衛の律儀さを豪快に笑い、
「あいつをあの教会から出るように説得してくれたんじゃろ? あいつが全て吐いたわ。 1万はその追加料金じゃ」
と、教えてくれた。
久兵衛はそれを聞いて、あのチンピラが、自分に被害が及ばぬように嘘の供述をしたのだと直感した。 あいつは、そういう奴だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:22:36.38 ID:HjE5MlJWo<> しかし久兵衛は余分にもらった1万円を返した。
「何や、もらっとけいうたじゃろ」
久兵衛は首を左右に振って否定の意を示し、
「彼は、うなぎの餌に?」
ヤクザの、色眼鏡の先にある冷たい眼をのぞき込みながら、聞いた。
ヤクザは、ほう、わしらが死体始末するカラクリを知っとるのか、と、腕を組みながら言い、少し考え込んだ後、
「まあお前がキレ者だって噂はよく聞いているからな、そんなアングラ情報誌に書いてあるような知識があったところで、
そんなのを使ってうちの組をどうこうしようってバカ言うんじゃあ無いんじゃろ?
奴はな、肉骨粉に加工されてな、今朝、養殖場に持って行かれたわ。
人肉飼料はのぉ、うなぎの大好物なんじゃ。 バクバク食いよるでぇ。 そんでな、味も良くなるし、大きく育つ。
そんでこっちも、邪魔な死体をな、綺麗に処理できるしな、いいことずくめよ。」
開き直ったように説明した。 それを無表情で聞いていた久兵衛は、
「その1万でうなぎをご馳走してください。 彼の肉を食った、まさにそのうなぎを」
と言って、ヤクザを見据えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:23:09.49 ID:HjE5MlJWo<> ヤクザはしばしあっけに取られたように放心していたが、
「コイツは傑作じゃあ! 人肉うなぎの事実を知ってる人間で、食いたいなんて言ったのはお前が始めてじゃ!」
おもむろに笑い出し、うなぎ養殖場と、どこかの料理屋に電話を入れ、うな重を作らせる段取りを付け、
「昼飯時までまちいや」
と言って、ニヤリと笑った。
久兵衛は退屈だったが、待つことにした。
そしてそのヤクザのボスと世間話をしながら意気投合していき、その組の専属のような身分になることを決めた。
その1時間ほど後、昼飯に運ばれてきたうな重は、開けてみると何の変哲もないうな重であった。
久兵衛がそれを凝視していると、
「何や、怖気付いたんか? 食わんのか?」
馬鹿にしたようなアクセントで問いかけるヤクザのボスは、ニヤニヤと上辺だけは笑ってはいたが、肝腎の目が笑っていない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:24:07.75 ID:HjE5MlJWo<> 久兵衛はそんな表情を見、これを食べなかったら次は自分がうなぎの餌にされるのだと直感した。
「いただきますよ。 一万円が勿体無いじゃないですか」
そう言いながら箸で切り取った身は柔らかく、立ち上る湯気はうなぎの香りを孕んで嗅覚から食欲を刺激し、
久兵衛は空腹に加速されたその知覚に抗うこと無く、一口目を口に入れた。
「美味い!」
そ れは、本当に極上のうなぎであった。
久兵衛は人肉を食ったうなぎだということを完全に忘却し、二口目にとりかかった。
あまりのウマさに箸と咀嚼の動きが徐々に加速していき、仕舞いには喉が詰まってお茶をもらった。
そしてそのお茶で喉の詰まりを胃袋に押しやり、さあ次の一口と思ったときに、重箱はカラであった。
「きゅっぷい」
それは最高に美味かった。 久兵衛はそれ以上美味い物を未だ知らぬ。
だがしかしそれ以来、久兵衛は何故かうなぎを食べることが出来なくなってしまったのだった。
ちなみに新興宗教団体さくら会が、ベンチャー企業を立ち上げて成功した、
木手英一とかいうサラリーマン風の男の支援を受けて全国に広がり始めるのは、それから2年ほど後のことであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:24:37.28 ID:HjE5MlJWo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/29(金) 21:26:05.70 ID:HjE5MlJWo<> 今日はここまで。
次回「番外章5 涙のキス」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/29(金) 21:39:29.17 ID:FzScRV3+o<> 乙彼
あんこさんマジ天使 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/29(金) 22:23:58.68 ID:Q3vY91BHo<> 乙!
ここに繋がってくるのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/29(金) 23:44:16.45 ID:Z5ee/nqSo<> 乙っちまどまど!
ここに繋がるのな
相変わらずいいキャラを書きなさる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/30(土) 00:27:26.26 ID:TIJDQNtLo<> 乙!名もないチンピラに涙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/07/30(土) 00:39:02.62 ID:rL6DL4Txo<> 乙!
戦国時代の豪放武将のようなエピソードだを <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/07/30(土) 00:43:08.00 ID:3NYBvBP/o<> ロベルタって源氏名のキャバ嬢に入れ込んでるからゴッツさんか?ww>チンピラ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/07/30(土) 13:05:00.31 ID:Vwdp0lji0<> QB・・・ある意味、こいつの人生に感嘆したくなってきた。悪党のくせに・・。マミが惚れるだけの事はあるのかも知れん。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/07/30(土) 15:53:48.08 ID:L4isTwLF0<> これだけ黒いのを書ける>>1マジすげえ
時系列も相関もよく考えてるな <>
1<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:49:12.31 ID:ObSJY7JKo<> 黒いものしか書けないけどね…
投下する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:49:46.76 ID:ObSJY7JKo<> 番外章5 涙のキス
「どうしたの、ねえ、久兵衛! ねえってば!」
マミに体を揺さぶられ、久兵衛はハッと我に帰り、自分がうな丼を凝視したまま固まっていることに気が付いた。
そして震える手でどんぶり茶碗の蓋を閉じ、
「ああ、何でもないんだ…何でもない…ちょっと疲れただけだよ…」
と言いながら、うな丼の茶碗を床にどけた。
「ごめんなさいね。 私が買い物に付きあわせたり、我侭言ったりしたから、久兵衛疲れちゃったのね。 本当に、ごめんなさい」
「いや、マミのせいじゃないよ…僕はうなぎが駄目でさ、ちょっと見ただけでアレルギー反応って言うか、そんなふうなんだ」
久兵衛は震えていた。
蒲焼になったうなぎを見ているだけで、自分がその一部となって吸い込まれてしまいそうなおぞましい不安に襲われる。
マミはそんな久兵衛の体を優しく抱き寄せ、
「落ち着いて、落ち着いて」
と、背中をさすってくれていた。
マミがそばにいて、うなぎから自分を守ってくれている…なんだかそんな気分であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:50:21.68 ID:ObSJY7JKo<> 久兵衛は、ふう、と溜息を吐いて、
「もう大丈夫だ。 マミ、腹減ったよ。 一緒にしゃぶしゃぶを食べよう。 うなぎのことはもう忘れたから、大丈夫だ」
と言ったそばから、箸を取り落としてしまっていた。
「大丈夫じゃないじゃない!」
マミはそう言って、腹減った、を連発している久兵衛のために、しゃぶしゃぶを湯にくぐらせ、口元まで運んでやった。
「ほら、食べられる? しゃぶしゃぶよ。 うなぎじゃないわよ」
久兵衛はマミの箸からしゃぶしゃぶを食い、飲み込んで、
「ああ、美味い」
と言って、もう一度溜息を吐いた。
マミが自分を喰らわんとするうなぎを退治してくれたような安心感に、久兵衛は、震える手でなんとか箸をつかめるようになった。
「マミも食べろよ。 美味しいよ」
マミは久兵衛の方を見てクスッと照れたように笑い、「あーん」と、口を控えめに開けた。
久兵衛はしゃぶしゃぶを湯にくぐらせ、マミの口に放りこんで、
「まるで、鳥がヒナに餌をやっているみたいだ」
そう言って、笑った。 あまりにも自然に笑みが出たので、久兵衛はこの時、自分が笑ったことに気がつかなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:50:50.83 ID:ObSJY7JKo<> 久兵衛が刺身やら吸い物やら茶碗蒸しやらを食っている間、マミはちょくちょく箸を久兵衛の口元に持って行き、
「はい、これも食べて」
とか言いながら女房気取りで物を食わせ、その後決まって「あーん」とか言って自らも食べさせてもらおうとしてくるので、
久兵衛はいい加減面倒くさくなって、そんな応酬にピリオドを打とうと思い、
マミが口を開けている際に眼を閉じる性質を逆手に取り、大量のわさびをヒラメの刺身に包んでその口に放りこんでやった。
マミは餌を貰ってニコニコと満足そうに咀嚼したが、いきなり生真面目な表情になり、次いで手を口に当てて2秒ほど固まり、
「ふぁっ!」
と悲鳴を上げ蹲ったとき、久兵衛はマミが自分の事を見えていないのをいいことに、口を押さえてクックッと、声に出さずに笑った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:51:19.81 ID:ObSJY7JKo<> 「うーっ! うーっ! うーっ!」
マミはわさびの刺激で喋ることが出来なくなっており、久兵衛は何故そうなっとるのかを知らぬと言った風に、
「どうしたんだいマミ? ヒラメはふぐじゃないから毒は無いはずなんだけどなあ…」
これ以上無いほどのんびりと声を掛けてやった。
マミはしばらく悶えた後、「うんっ! うん!」と、大袈裟に体中を使って飲み込んで、ボロボロと涙を流しながら、
「わさび! わさび!」
と、鼻のあたりを抑えながら、くぐもった、訴えるような声を上げた。
「そうか、わさびの量が多すぎたんだね。 ごめんごめん」
久兵衛はマミの背中をさすってやりながら、白々しくそう言った後、耐え切れずにプッ、と吹き出してしまい、
それを聞いて振り向いたマミの顔が猛烈な怒りを含んでおったので、久兵衛は、
「ほんとうにごめんよ」
と、形ばかり謝り、次に「あーん」されたときはわさび山盛りの逆襲が来るなと予想を立てた。
もしかしたら、うなぎが放り込まれるかも知れないが、その時はマミ自身をうなぎの餌にするしかあるまい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:51:46.32 ID:ObSJY7JKo<> しかし、待てど暮らせど一向に「あーん」をしてこないマミに、久兵衛は次第に不安を覚えていった。
――もしかして機嫌を悪くされたんじゃあるまいか!
――げっ! そういえば今日はマミをメンテナンスする日じゃなかったか! ヤバい! 忘れてた!
久兵衛は隣で黙々と、わさび抜きで刺身を食べているマミの方を向いて、
「マミ…おーい、マミさあん…」
か細く、長く伸ばした気味悪い声で、マミの機嫌を伺うように声をかけたが、一向に反応がない。
「…もしかして、怒っているのかい?」
腹の底に鬱積した冷たい予感を言葉にし、恐る恐る質問すると、
マミはふぐのように頬をふくらませながら久兵衛の方に顔を向け、無言のプレッシャーをかけてきたので、彼は絶望した。
――ヤバいなんてもんじゃない! 今日一日、僕が自分を殺して頑張ってきた努力が水の泡じゃないか! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:52:19.52 ID:ObSJY7JKo<> 「マミ、本当にゴメン! 僕に山盛りのわさびを食べさせていいから、どうか許してもらえないだろうか?」
久兵衛は背に腹を代えられず、とうとう最大限の譲歩をしてしまった。
マミはそれを聞くなりおぞましい表情でニヤリと笑い、
「言ったわね、久兵衛」
待ってました、と言わんばかりであった。
久兵衛はそれを見て、自分が罠にハメられたような、恐怖にも似た感覚に震えた。
――やはりコイツは女だった!
なかなかしっぽを出さないから油断していたが、確かに男なんかよりずっと卑劣で残忍な女の一面を、このマミも持っていたんだ!
「さあ久兵衛! 眼を閉じてあーんしなさい!」
しかし久兵衛は観念し、言われたとおりにした。
自分が言い出したことだ。 そこから逃げるのは直接に彼の負けたことを意味するのである。 だからそれだけは出来なかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:52:47.20 ID:ObSJY7JKo<> 久兵衛が目を閉じ、口を開けて待っていても、一向に何も放り込まれる気配が無かったので、
どんなにおぞましい量のわさびが口に入れられるのかと、彼の中には恐怖の蓄積が起こり始めていた。
「マミ、まだかい?」
動かぬ状況に痺れを切らした久兵衛が問うと、
「今お刺身に、うんと沢山のわさびを仕込んでいるの」
と、おぞましき返答が成されたので、久兵衛は更に恐々とした。
このままではうなぎばかりでなく、刺身も食べられぬ人間になってしまうおそれがあるではないか!
「さあ、準備ができたわよ! 観念なさい!」
久兵衛の体が強張った。 まるで歯医者だな、と思う。
「はい、あーん」
口を開けて待っているのに、あーん、とは手の込んだ嫌がらせである。 体が恐怖の予感に、更にこわばっちまう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:53:18.79 ID:ObSJY7JKo<> そしてとうとう放りこまれた刺身の味は…
久兵衛は、歯ざわりでそれがタイであることを突き止めた。
醤油と入り交じった魚の旨味。
それにわさびが溶けて…
「あれ?」
久兵衛は咀嚼してみた。 わさびの味は無かった。 そのまま飲み下す。
「おい、どういう事なんだい? わさびが無いじゃないか!」
目を開けて、マミを問い詰めると、その顔は先程のおぞましい表情が嘘のようにしおらしくなっている。
「私、そんな酷い事出来ないわ。 あなたが謝ってくれただけで充分なの。 せっかくのお料理なんだから、美味しく頂きましょう」
久兵衛はマミの言葉を聞いて、穴に落ち込んでゆくような、強烈なショックを覚えた。
単に肩透かしを食らったから、というだけの陳腐な落胆ではない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:53:43.46 ID:ObSJY7JKo<> 「マミ! そんなんじゃ君はだめになるぞ!」
久兵衛は、絶望的なまでのもどかしさをマミに感じ、どうしていいか分からぬまま、大きめの声を張り上げてしまっていた。
「やられたらやり返さないと、どんどん負け犬になっていってしまうんだ! こう言うのは、きちっとけじめをつけたほうがいいの!」
マミはオロオロしながら、でも…とか言ってまたまた逡巡し始めたので、久兵衛はヤケクソになって、
「君がやらないなら、僕自身がやる! ハラキリだ!」
と言って、舟盛りのスミに盛りつけて置かれたわさびの塊を箸でつまみ、一息に自分の口に放り込んだのである。
「久兵衛!」
マミのシャウトが聞こえるやいなや、久兵衛の口内ではわさびのあのねちっこい、
頭骸骨を貫いて脳を直接に刺激しているかとさえ思える猛攻がまさにスタートしていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:54:49.67 ID:ObSJY7JKo<> 「くをーーっ!!!」
悶えながら畳に蹲ってゆく久兵衛を、マミが背中をさすりながら、
「あなたなんて事するの!?」
呆れた声を上げて介抱していると、久兵衛は涙で滲んだ目をマミに向け、
「けじめだよ」
ニヤリと笑い、やせ我慢をして蹲った姿勢から起き上がった。
「もう、馬鹿なんだから!」
そんなマミの言葉に、バカとは何だ、と、久兵衛が反論しようとしたとき、
彼の唇に、ひやりと、マミの柔らかいそれの感触が触れ、一気に口が塞がれた。
舌が挿し入れられ、わさびに痺れたそれに絡まりあい、不快を溶かして取り去ってくれているように、久兵衛には思えた。
そしてマミは久兵衛から離れるなり、
「ツーンと来たわ!」
と言ってまた蹲ることになった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:55:16.04 ID:ObSJY7JKo<> 「馬鹿だな君は! 一体何を考えているんだ!」
涙を流し、頭を抱えながら叫んだ久兵衛に、
「お互い様よ!」
と、マミが返し、久兵衛はもう何が何だか、何故こんな事が起こったのかさえ分からなくなった。
「そういえば、これが今日初めてのキスよ! 酷いキスだわ! 折角のデートなのに…」
そう言っているマミの目から流れている涙は、
わさびの為のものなのか、酷いキスをしてしまった情け無さのようなものから来ているのか分からない。
まあ、多分どちらでもあるのだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:55:50.43 ID:ObSJY7JKo<> それより未だ酷いわさびの、脳への攻撃のほうが久兵衛にとって深刻であった。
「キスしてきたのは君の方じゃないか!」
なんとか久兵衛が答えると、
「全くそのとおりだわ!」
マミが泣き顔で答えた。 久兵衛はそれを見て、
「ひどい顔だね!」と言い、マミが、
「あなたもよ!」と、返した。
そして二人は、涙と鼻水でグシャグシャになった顔で、最低の笑顔を作り、笑い合った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:56:17.76 ID:ObSJY7JKo<> 飯を食った後、店の者にタクシーを呼ぶように言って、久兵衛は「ああ、食ったくった」と言って寝転がった。
するとマミが近寄ってきて、久兵衛の頭を持ち上げて、膝枕にのっけてくれた。
「よせよ、恥ずかしいじゃないか」
「いいじゃないの、誰も見ていないんだから。 それに私たち、恋人同士だもの」
「恋人同士でも、やってみっともないことはあるものさ」
久兵衛はマミの行動を牽制するように言ったが、マミは動じず、
「おうちに帰ったら膝枕で耳掃除してあげるわ」
などと言っている。 久兵衛はそんなマミの言葉を受け、
「またわさびを口に放り込むぞ!」
ふざけた調子で怒鳴ると、
「じゃあ今度こそ、私もあなたにわさびを食べさせるわ!」
と、マミも応酬してきて、久兵衛は、その調子だ、やられたらやり返すんだ、と言って、また自然に笑った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:56:47.78 ID:ObSJY7JKo<> 帰りのタクシーに乗り込み、久兵衛が運転手に、マミのマンションの名前を伝えたとき、彼はその胸の内に微かな違和感の萌芽を見た。
そしてその隣にマミが寄り添ってきたとき、その柔らかな感触と温もりとがその違和感に送り込まれ、
それは鮮明に、冷たくトゲトゲしい形をもって心の内壁を削り、焦りにも似た知覚を持って久兵衛を追い立てるようであった。
――何かが、おかしいぞ? 何だ?
久兵衛は、そ知らぬ顔で、座席の上の尻を横に滑らせ、少しマミから距離をおいた。 そうすると、違和感は和らいだのだ。
それに気がついたのか、マミは久兵衛の左手に自らのそれを重ねようとしたが、久兵衛は時計を見る振りをして、それをかわした。
マミが久兵衛の方に顔を向けた。 視線がくすぐったかったが、久兵衛は気づかぬふりをした。
「久兵衛、どうしたの? なにか変よ?」
そら来た、と、久兵衛は思った。
「何が変なんだい?」
久兵衛は、白々しくそう答えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:57:15.43 ID:ObSJY7JKo<> 「なんか、急によそよそしくなったわ」
久兵衛はマミの方に顔を向け、なんでそんな事を言うのか分からないなあ、という表情を作り、そんなことないよ、と言った。
「じゃあどうして離れていくの?」
「タクシーは広いからね。 ゆったりと使わないと勿体無いじゃないか」
久兵衛はそう言った後、ああ、疲れた、と、大袈裟に溜息を付いて、話しかけるな、という無言の圧力をマミにかけ、
外の景色を眺めながら違和感の理由を探り始めた。
マミは相変わらず視線をこちらに向けている。
久兵衛はそれを気にしながらも、急速にマミに対してどう接すればいいのかを分からなくなり、
ただただ、この違和感が無くなってくれれば、その答えが得られるはずだと考えながら、ぼんやりとガラス越しに流れる街の明かりを眺めていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:57:50.95 ID:ObSJY7JKo<> 交差点でタクシーが停止したとき、とある喫茶店の看板に照明がついており、目に飛び込んできたそれが、
久兵衛の心に絡みついて違和感を形作っていた疑念の糸を、瞬時に解き放ったようであった。
その喫茶店「喫茶ワルプルギス」は、彼がマミの家に通うのに、毎回その前を通る、いわばランドマークのようなものであった。
照明を付けられて煌々としているその看板が闇を切り裂いて視覚に訴えかけ、
いつも久兵衛がその前を通るとき、考えていることを再確認させる。
そう、この前を歩くとき、久兵衛はいつも、マミをいじめようと、どうやって彼女を人として終わらせようかと、考えていたのだった。
それが、今日はどうだった?
最初はよかった。 久兵衛はその心に距離を保ちながら、マミの恋人を演じていたのだから。
しかしだんだんと、マミに優しくするのが苦痛ではなくなっていった。 久兵衛は慣れたのだと思った。
嘘を付くのに慣れたのだ、と、浮かび出た考えを補強しようとして、
嘘を吐き続ければ本当になる、という言葉が思いがけなく浮かんできて、久兵衛はハッとした。
建前の天秤が、いつの間にか傾いたまま停止しているような気がした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:58:27.74 ID:ObSJY7JKo<> そういえばついさっき、料亭で食事をしているとき、どうだった?
考えがそこに至ったとき、久兵衛の中を戦慄が走った。
――豹変。 久兵衛の脳裏に、その単語が浮かび上がった。
そのキーワードは、久兵衛にとって最も忌むべきものだった。
災害後に偽善者になった父や、宗教にやられて精神虚弱になり、まるで自殺するようにヤクザに捕まったチンピラが思考の中を駆け巡った。
豹変は、裏切りの象徴であり、結果、急速な堕落をそれが起こった本人にもたらす。
しかも今まで見てきた豹変者は、それに気がついていなかった。
久兵衛は、はっきりとマミによって堕落させられかけていた己を発見していた。
そして取り返しの付かない事になっていたかも知れないと、冷や汗の浮き上がるのをシャツの下に感じた。
久兵衛はいつの間にか自分より、そのヒエラルキーを下に設置されていたマミと、対等に接してしまっていた事を、思い出していた。
しかも、それはごく自然に成されていたのだ。 久兵衛は恐ろしくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 18:59:26.21 ID:ObSJY7JKo<> 自分がマミとそういう接し方をするきっかけはなんだったのかと、久兵衛は考え始めた。
その答えはすぐに見つかった。 うなぎだった。 自分の弱点だ。
うなぎを見て、まるでスポンジのようにグズグズと泡だった自分の心の隙間に、
うなぎを退治すると見せかけて、滲み込むようにマミが入ってきた。
自分の心に、マミがその存在を植えつけようとしたのだと、久兵衛は思った。 自分の弱みにつけ込んで。
マミはうなぎを退治してくれたのではなく、本当はうなぎそのものだったのだと、久兵衛は思った。
自分の中の古いしがらみを取り去り、そこに、全く同じ形をして絡みつく、新しいだけの、同じようなしがらみだ。
マミは狙っていたのだろう、と久兵衛は思った。
自分の過去を探り、弱みを見つけ出し、そこに入り込まんと、ずっと下手に出ながら、自分の事を観察していたのだ。
久兵衛の中で、全てのつじつまが合うように、論理が形作られた。
それは当然マミの意図とは違うものだったが、そんな事は、マミの意思などは、始めから彼にとって関係の無いものだったのだ。
――なんて卑劣な女だ! 今まで見てきた中で、一番性悪な女じゃないか! 飛んだ食わせ物だ!!
沸き起こるどす黒く冷たい情動――
久兵衛は、マミに対する距離というものを、狂っていたそれを、その感情の力でそれ以前の通りに補正した。
そして、こんな事が起こるなら、やはりマミは危険だから、いつか殺すしか無い、と、自分に言い聞かせた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/30(土) 19:01:19.02 ID:ObSJY7JKo<> 長いと思うけど、次回で終わらせるね。
次回は「番外章6 受胎日」 「番外最終章 その日」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/30(土) 21:04:27.97 ID:C1r2qgA30<> 乙マミ
豹変かー… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/30(土) 22:28:19.03 ID:xe33zBsBo<> 乙マミ
[ピーーー]よこのバカップル
……ってバッドエンド確定なんだよな 久兵衛さんもっとデレておくれよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/31(日) 01:42:31.79 ID:lfua1MdNo<> 乙っちまどまど!
久兵衛もんもんとしとるなー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/31(日) 05:38:55.99 ID:FMLBFEdBo<> 乙
べぇさんデレてくれよ頼むよ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage <>2011/07/31(日) 06:00:04.60 ID:i9MxVeeJ0<> 乙
久兵衛って、ほんとバカ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/07/31(日) 10:38:52.01 ID:1adxE+PV0<> QB・・・やはりお前は死ぬしかない(TT)・・・天はすでにお前に死を与えていたのだ。これほどの女を・・何と言う愚か、何と言う勘違い・・・。
悲しいもんだな。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/07/31(日) 11:08:54.40 ID:rVLM43z10<> QBはマミさんに出会うのが遅すぎたんだ
贖えぬほどの罪を過去に犯してしまった
マミさんという女神を手にする資格を失っていたんだ <>
1<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:27:53.92 ID:iSV2qj4Jo<> 前半分投下します。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:29:30.72 ID:iSV2qj4Jo<> 番外章6 受胎日
マミのマンションに到着すると、久兵衛の陰茎はムクムクと勃起を始めた。
それは、彼が思い出したマミへの害意に、あたかも従っているようであった。
久兵衛は心を遠ざけたまま、熱くなってきた体をマミのそれに寄り添わせ、
「さっきはごめんね。 ちょっと疲れていたみたいだ」
作られた優しい調子で言った。
マミは滲ませた笑顔を俯かせ、いいえ、私も…と、呟いた。
久兵衛はマミの手を握り、自動ドアをくぐり、エレベーターに入って彼女の部屋のある階のボタンを押した。
上昇するエレベーターの中、二人は無言であった。 それは、何かが何かに堰き止められているかのようであった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:30:22.58 ID:iSV2qj4Jo<> エレベーターが上昇するにつれ、久兵衛の中に、今日、マミに対して蓄積され続けた何かが、はちきれんばかりに膨らんでいく。
それは単なる欲望としてしか、彼には知覚できない。 それは今まで劣情だと思い続けてきた感覚であったからである。
久兵衛はマミの横顔を見て、心に疼くものが嗜虐心であると感じている。
うずうずと腹の底に、何かが溜まっていく感じ。 もどかしくて、それ自体を破壊したくなる衝動。
それは少年だったあの日、パトリシアというあだ名の学級委員長に罪の意識を植えつけ、
いじめ抜いて自殺させた時に感じたそれと酷似していた。
エレベーターが開くと、久兵衛はマミの手を乱暴に掴んで引き、早足で歩き出した。
そしてマミの部屋の前まで来ると、久兵衛が素早く合鍵で扉を開け、部屋に滑りこみ、彼女を力いっぱい玄関に引きずり込んだ。
バタン、と、ドアの閉まる音と共に辺りが真っ暗になり、久兵衛は力強くマミを引き寄せて、唇を重ねていた。
マミの舌を吸い、自らもそれを挿し入れ、とろけるような愛撫を体中に染み渡らせながら、
しかし久兵衛の左手だけはそんな甘い感覚を享受していないかのように時々壁にぶつかりながら電気のスイッチを探り当てた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:31:06.52 ID:iSV2qj4Jo<> 電気が付くや否や、久兵衛は唇をマミのそれから離し、乱暴に靴を脱いで玄関に放り出し、マミを部屋の中に引きずって行った。
マミは慌てて久兵衛と同じように靴を玄関に放るように脱ぎ捨て、
「久兵衛!?」
セックスの始まる予感に彼の名を叫んで足を踏ん張り、
「シャワーを浴びさせて!」
と、嘆願した。 しかし久兵衛は、抵抗されている、というシチュエーションに、更に欲望を加速させ、
「そんなのどうだっていいだろ! もう我慢ができないんだ!」
言いながら、マミのブラウスのボタンを外し始めた。
「ダメよ! 汗臭いわ!」
ブラウスのボタンをあらかた外し、胸をはだけさせると、そこからむわっと濃縮された女の匂いが解き放たれ、
久兵衛の、毛ほどまでに擦り切れていた理性を完全に懲らしめた。
マミは体臭の強い方では無かったが、やはり一日中蓄積され続けてきたそれは、男の理性を破壊するに十分な威力を持っていたのである。
「いい匂いじゃないか! シャワーで流してしまうなんて勿体無いよ!」
久兵衛はそう言ってマミの豊満な胸の谷間に顔を突っ込み、クンカクンカと深呼吸を繰り返しながらジリジリと寝室に向かっていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:32:12.85 ID:iSV2qj4Jo<> 寝室の扉を開くと、二人は縺れ合うようにベッドに倒れ込み、久兵衛はマミのブラウスを剥がし取り、
ブラジャーを外して乳首を吸い、乳房を揉みしだいた。
そして嗅覚が胸の匂いになれてきた頃、久兵衛はマミの腕を力づくで、バンザイの姿勢にベッドに押し付け、
「嫌っ!! ヤメテ!! シャワーを浴びたいの!!」と嘆願する、マミの泣きそうな声に後押しされる欲望を感じながら、鼻をワキに押し付け、
「マミの匂いで頭がバカになりそうだ!!」
その卑猥な香りに赤熱し、ズボンを突きあげてテントを作っている陰茎をマミの太腿に、腰を蠢かしていやらしくこすりつけ始めた。
マミは恥ずかしい部分の匂いを嗅がれているという事実に嫌悪を感じ、当初は抗っていたが、
匂いを嗅いで狂喜する久兵衛と、自分の下半身をこすりまわっているその陰茎の熱と感触とに、
徐々に理性を侵食され、体臭を嗅がれるという恥そのものを受け入れる自らの精神の浅ましさを感じ始めていた。
しかし久兵衛が器用に彼女の服を脱がせ、スカートをとっぱらって歓声を上げたとき、その脳内に瞬時に凝結した理性が、
「ダメぇ!!」と、その両手に股間を押さえさせ、両の足にその股をしっかりと閉じさせるだけの力を与えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:33:17.40 ID:iSV2qj4Jo<> しかし久兵衛はいとも簡単にマミの手を取り払い、ぴったりと閉じられたその股間に鼻を押し付け、
「色々なものが混じり合った、とにかく凄い匂いがする!! 最高だよ、マミ!!」
フガフガとパンティー越しに熱い鼻息を押し付けながら彼女にとっては恥ずかし過ぎる感想を述べた。
マミはその精神を恥の濃縮液に浸け込まれたようになって、両手で目を覆い、
どうしたらいいのか、ワケが分からなくなり、混乱をきたし、そのうちにパンティーを温める久兵衛の鼻息を快く感じ、
徐々に股を閉じる力が薄れていく自分の底抜けのいやらしさに、さらなる恥を上塗りされ、とうとうすすり泣きを始める有様だった。
久兵衛は、そんなマミの気持ちなど完全に無視して思う存分股の匂いを堪能し、
その嗅覚に刺激された欲望に耐えられなくなったその時、そこから顔を離し、いそいそと服を脱いで全裸になった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:34:40.08 ID:iSV2qj4Jo<> 鼻を押し付け始めたときはぴったりと閉じられていたマミの股間であったが、
その香りを貪っているうちに徐々に開いていったのか、久兵衛が裸になりながら見やったそこは既に大開脚の状態であった。
股を開きながらめそめそと泣いているマミに、久兵衛は精神と肉体との葛藤を見出し、
なんとも形容しがたいいじらしさのような、もどかしさにも似た感覚の沸き起こるのを感じた。
久兵衛は素早くマミのパンティーを下ろし、彼女が否定を喚く中、
それと正反対を唱えるように粘液に染まり、充血して花開いた女性器が、時々ぴくぴくと蠢く様を鑑賞し始めた。
しかもそこからは、パンティー越しとはまた違う、濃密な香りが立ち上っており、
久兵衛の陰茎は最早勃起の限界点を突破したのか、痛みすら感じるほどになっており、
それを何とかするにはもう、女性器にそれを突っ込み、快楽を染みこませるしか方策が無いまでとなっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:35:18.61 ID:iSV2qj4Jo<> 久兵衛がのしかかってくるのを感じ、マミはピクンとはねるように体を反転させ、
性欲に支配されんとしている脳の、かすれかかった理性の部分をフルに働かせ、
枕元の棚に置いてあるティッシュ箱の裏を必死にまさぐり、ビニール包装に包まれた丸いものを久兵衛に差し出して、
「お願い! 今日はこれを使って!」
なんとか懇願することに成功をした。 それはマミの理性が、まさに性欲に打ち勝ったその瞬間であった。
「何だい、これは?」
しかし久兵衛は、しかめっ面を作り、マミの手渡したそれを見ながら、冷たい言葉を彼女に吐きかけた。
「こ、コンドームよ。 今日は赤ちゃんが出来ちゃうかも知れない日だから、ちゃんと避妊をして欲しいの」
コンドーム、という単語を語るにも恥ずかしそうに赤面をするマミの、その必死の懇願を無視し、
久兵衛は、「へっ」と鼻で笑ってそれを後ろに放り投げた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:35:56.00 ID:iSV2qj4Jo<> 「コンドームなんて使うのは、ちゃんとしたセックスじゃないね!そもそもセックスをすれば子どもが出来るのは当然の成り行きじゃないか!
いいかい、セックスは、常に子供が出来るかどうかの博打なんだ!それに抗おうとする避妊なんて、つまり甘ったれの概念なんだよ!
子どもができないようにヤろうだなんて、呆れた考えだ! 卑怯だ! そんなのは、ガキがやるセックスだ!
君はこの僕に、ガキのセックスをさせようって言うのかい? ええ? どうなんだい?」
久兵衛の言葉責めに、マミは「違うの、違うの」と泣きながら首を横に振り、なんとか分かってもらおうと必死である。
しかしその必死は、彼女の体がいきなり仰け反り、「あっ!」という声が漏れたその瞬間に中断を見た。
久兵衛の指が、マミの女性器に触れたのだ。 それが膣口に至るやいなや、膣内に吸い込まれ、温かく包みこまれていく。
「お願い、コンドームを使って! あっ!!」
マミがコンドーム、という単語を放つと、久兵衛は膣の中で指を動かし、感じさせた。
「コンドームを使わなければ駄目なら、セックスは中断だ! それでもいいのかい?」
「…仕方ないわ…ひゃん!! あっ!! きゃう!!」
久兵衛は、セックス中断も辞さぬというマミの決意を、揺るがせるように指を使い、マミを攻めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:36:22.83 ID:iSV2qj4Jo<> 「ここをこんな風にしている癖にさ、そんな事言ったって説得力のカケラもないって、どうして分からないのかねえ…」
久兵衛は膣内の指でマミのGスポットを刺激し、その体が仰け反り、悲鳴が漏れるのを鑑賞しながら、のんびりと言った。
そして引き込まれるような力に抗い、おもむろに指を引きぬくと、マミの性器がチュポっ、と、卑猥な音を立てた。
「こんなに指に吸いついてきてさ、ここは陰茎と精液を飲み込みたくてしょうがないって言っているじゃないか」
久兵衛はそう言いながら、正常位でマミとの性交を始めんと、のしかかりながら女性器にあてがう陰茎の角度を調整している。
「だめ! だめ!」
しかし、マミの理性はかろうじて言葉による否定を浴びせかけ続けておる。
「嘘言うない! 正直な下の口が、なんて言っているのか教えてやる!」
久兵衛はマミの理性を否定して、陰茎の先端を、マミの膣口にグッ、とあてがった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:37:04.48 ID:iSV2qj4Jo<> 「ああーっ! ああーっ! だめ…だめだめだめぇ!!」
ゆっくりと陰茎が侵入してくるのを感じながら、マミの口が否定の連発をするのを受け、久兵衛は、
「僕のせいにするなよ! これは君のいやらしいあそこが、勝手に僕の性器に吸い付いて、飲み込もうとしているんだからね!
言っておくけど、僕はなんにも力を入れていないんだよ? まさしくこれが、君の体の、セックスに対する答えなんだ!
避妊しなくても、セックスしたいってさ! つまり僕の考えに同意してくれているって訳だ! ありがたいねぇ!」
言い終わるくらいに、久兵衛の性器は完全にマミのそれに飲み込まれ、二つの体は密着していた。
マミは、自分の無力感にまた、泣き出していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:37:56.78 ID:iSV2qj4Jo<> 久兵衛はその涙を舐めとりながら、口をマミの耳元に持って行き、
「大丈夫だよ。 そんなに簡単に妊娠なんてしないよ。 世の中、子供ができないって苦労しているカップルがいっぱいいるじゃないか。
そういうもんだよ。 もし子供ができても、それはとても素晴らしいことじゃないのかい? 君は、僕の子供が欲しくないのかい?」
と、優しさを演じながら囁きかけた。
久兵衛はその時、パトリシアというあだ名の、中学時代の学級委員長を妊娠させたいと考えたときのことを思い出していた。
マミに対して沸き起こる何らかの感情は、パトリシアに感じたそれをはるかに凌駕するものだったが、
感情の種類としては同じ種類のそれであった。 久兵衛には単なる劣情と知覚されるそれである。
料亭でマミが久兵衛にわさびを食わせなかったとき、パトリシアとよく似ていると思った。 お人好しで、勝手に自分が傷つくタイプだ。
「欲しいわ。 私、あなたの赤ちゃんを産みたい」
マミの言葉に、久兵衛はその内面に勝ち誇ったような笑みを作った。
「じゃあ何だって避妊なんかしようとするんだい?」
「だって、色々心配だったんだもの…その、責任とか…」
「君は心配性なんだね、今日のデートみたいに、全部僕にドーンと任せておけばいいじゃないか、ね?」
久兵衛は優しく囁きかけ、瞳を潤ませながらコクリと頷いたマミを抱きしめて、
自分の内面が浮き上がったような黒々とした笑みで、その表情を歪めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:39:03.20 ID:iSV2qj4Jo<> 「それじゃあ動くよ。 セックスを始めるよ。 僕達の赤ちゃんをつくろうね」
マミが小さく、うん、と言って頷くのを確認した久兵衛は、ゆっくりと腰を使い、
それを徐々に早めていって、マミが狂っていく様を鑑賞した。
今まで、マミはセックスの時に苦痛の表情を示すことが多かったが、今日、彼女がはっきりと豹変したのだという事を久兵衛は感じ取った。
彼とのセックスにおいて、マミは純粋に、快楽だけを享受し始めたのだと、久兵衛は思った。 豹変は堕落である。
それは彼に取り、とてもつまらない変化であったが、今日という限りにおいては、そのようなことがどうでもいい事だと感じられた。
マミに対してあふれ出る感情の波に翻弄され、混乱し、そんな事にかまっている暇や精神的余裕は無かったのである。
久兵衛は腰をせっせと動かしながら快楽に興じ、自らがそれを感じるたびに、体を捩り、くねらせ、悲鳴をあえぐマミを見て、
さらなる加速を見る自らの欲望に、抗うこと無くまた更に腰の速度を高めていくのだった。
それは快楽の輪が、二つの体をつないで、ぐるぐると回っているようにも感じられた。
久兵衛は昂っていた。 その気分の上昇は、マミの処女を破壊したときのそれを確実に凌駕していたが、
彼はそれが何故なのか深く考えなかった。 そもそも、快楽を享受せんと必死の動作を続ける彼に、思考の余裕があったハズはない。
彼はエンジンになっていた。 子供の久兵衛に、セックスをそう形容した父の言葉が、脳裏にフラッシュバックしていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:39:53.34 ID:iSV2qj4Jo<> ト、__
, = - = _ {: :\≧x '  ̄ ̄ ̄ `´ ̄ ̄ ̄ア
二ニ=≦ ≧=/ r≦: :/ ,ィミ、
_ ,.ィ≦ \':::o, γ::o, ヽ  ̄{{  ̄`丶
 ̄ ̄./ / ./ / / ヾノ ヽ::ノ }>-.八 \
,ィミx/ / ./ , ,イ ハ \ _ , jヽ ヾ __ \
〃 / / / / / // / | `´` ´ / ⌒>x  ̄\ ヽ
{{ / / / /_イ=≦_ニ=彡' /イ i! i| | ム _ イ 、 ヾ ̄`ヽ ヽ \
>′, { ,イ / / \ l | |⌒y'ハ ̄ / __ ノー― \ハ ハ
,.{{ .{ | | / |/ _ノ \ | リl i| || リ イ _ , } } i|
__/ ゞil | | i{,ィ=示弍 =ュ、 j/ | {{ jrイ⌒} {{ ハ| i|
,〈〃 /| ハ 八 | ´ ̄ ' ヾ≧ミ、_ リ /ーイ}{ヾ_ノ| 八ィ=-ミ、 { リ ノ、
/ {{ / j/ }⌒ヾ//// __ .//`Y / / ハ }}.人 /{ (_./ \
ィ{ 乂{ 弋 } /ー―ヽ /// / イ / Yイ }イ} | ≧=r―‐=≦ 人 \
/.八 \ / ー‘, {ィ =ミハ ,イ/./ イ ヾ リ |ー|ー/,、\ー\. \ ___,.ィ  ̄ ̄ \
∨ \ _≧=〃 \ ゞ-==彡' ,ィ≦彡'--=<_/__.八{/=ミ ̄ `ー―=≦¨ ハ
ヽ \ {{ .≧ . ≦ \ ___ , }
\ ≧==-=八 ‘, ¨ ij / ___.. =≦ }ー―=≦_ ,ニ=ー―=彡
/\ { \ \ } , ィ≦_≧x /  ̄≧=――=≦
〉 ≧==彡へ {ヽ ヽ / __ イ<_ィ=ニ ̄ ハ\ {
\ ヾ_リ_〉八 ー ' ,. イ } ≧=-=≦ }、.ハゝ
}\ _>‘  ̄ ヽ 〈 / 八____彡へ \ー ― =ミ、
ノ .リ ̄/ / ヽ ヾー―=ニ二_ ノ }\ ヾ
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八 ハ : { \ \ | }/ ハ
\ イ― \ / | i .≧=-} 〉 iト、___ ノ リ
‘ = − =≦ }≧、 ...::_:::::/| | ij / ノ / |r、 /
l .≧=- 、:::Y | .ハ // イ リ{ /
‘, ´ | / } 〃 / ゝ=ニ ___ 彡
‘, l,' .| / ./ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:40:58.64 ID:iSV2qj4Jo<> 「久兵衛…なんかヘン…わたし…なんかヘンなの…」
マミは口の端からヨダレを垂らしながら、喘ぎ混じりに訴えてきた。
久兵衛はそれを聞いて、マミが絶頂に近いのだという事を感じ取った。
愛撫の際、何度か絶頂したことのあるマミであったが、彼と交わって乱暴な性交に翻弄されていたときに絶頂するなど、
今までに全くなかったことであった。
「イッちゃえよ。 イキそうなんだろ? ほら、ほらぁ」
「嫌っ! 久兵衛も一緒に…じゃなきゃ…嫌なの…」
マミはそんな事を言いながら抗っていたが、久兵衛がピストンの速度を早めながら乳首を刺激してやると、
まるでブリッジするように仰け反って、長く尾を引く悲鳴を上げ、それが尽きた後に、絶息したままがくがくと痙攣し、
次いで糸が切れたようにぐにゃりと脱力して、少しして思い出したように肩で息を吐きはじめた。
その際下半身では強烈な締め付けと吸いつきが起こって、久兵衛は下腹に力を込めてその快楽に抗い、
なんとか射精の衝動を抑えこむことに成功をした。
マミは荒い呼吸をしながら、その顔を満足気に緩めており、
久兵衛はその表情に少女のそれではない女の色気と共に、底の見えぬ穴のような欲望を見た気がした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:42:23.01 ID:iSV2qj4Jo<> マミの呼吸が整うのを待って、久兵衛がピストンを再開すると、マミは賢者タイムをすっ飛ばしてまた快楽に声を上げて溺れ始め、
久兵衛は先程感じた底なしの欲望をその中にはっきりと見た。
いつの間にかマミは、久兵衛の動きにあわせ、自らも腰をくねらせ、積極的に快楽の収集に勤しんでいるようであった。
乳房が揺れ、買ってやったネックレスが跳ね回りながら光り、汗と粘液との区別が曖昧になって、
体臭やらなにやら、この部屋の全てが溶け合うような感覚に、久兵衛もその精神を流しこんで肉体を空っぽにし、
自らも射精の予感を追い求め、エンジンを動かす為の、単なる部品になったような気分に堕ちていった。
そして堕ち切らんとしたまさにその時、下腹に生じた射精の予感が急速に大きく、具体性を持って、
久兵衛の陰茎を、快楽を押し出す痙攣が襲って、彼はマミの膣内に、今までに体験したことのないほどの大量の精液を注ぎこんでいた。
マミは久兵衛の陰茎が脈打ち、精液が粘膜を叩くその感触さえ快楽に変換し、
二度目の絶頂を迎えて体を仰け反らせ、またストンと落ちるように脱力した。
久兵衛は射精の虚脱感にモヤのかかったような思考を捨ておいたまま、
震えながら息を切らしているマミを力強く抱き寄せて、自らも2、3度大きく息を吐いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:43:14.89 ID:iSV2qj4Jo<> ぼんやりとした思考のモヤが晴れてきて、久兵衛は無意識にマミを抱き寄せていた自分を発見し、その事実に驚愕した。
しかしすぐに今日という日がマミに対して徹底的に優しく接する日だという事を思い出し、
それを持って頭を重くする疑念を無理くり納得させた。
そして久兵衛がベッドから立ち上がろうとしたその時、
「一つ、わがままを言わせて」
同じように快楽の世界から帰還したマミの声が、脳に直接響いた。
「何だよ? わがままって?」
マミは一呼吸おいてから、言った。
「今夜は、泊まっていって欲しいの」
いつもの如く、わがままとも言えぬ小さなわがままである。 久兵衛は目の前の女の、あまりに欲の小さいことを不憫に思った。
「別にいいけどさ。 なんで?」
「だって久兵衛、いつもエッチした後帰っちゃうでしょ? 私ずっと寂しくって…」
「泊まると迷惑じゃないかい?」
「いいの、寧ろ側に居てほしいわ」
久兵衛は分かった、と言って起き上がるのをヤメた。
普段はそんな事を言われたらウザイと思うのに、何故かこのときはその限りではなかったが、
久兵衛はデートで疲れていたから帰るのが面倒なのだろうと、自分を納得させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:44:02.11 ID:iSV2qj4Jo<> シャワーを浴びせてやった後、マミを腕枕していると、彼女がいきなりフフッと笑ったので、久兵衛は気味悪くなった。
「一体何だよ? いきなり笑ったりして」
久兵衛が問うと、マミはまたフフッと笑い、
「久兵衛と一緒」
そう言って、撫でるように彼の腕に触れた。
「分かりきったこと言うなよ」
「だってお話ししていたいんだもの」
マミの手は、久兵衛の胸板を優しく撫で回し始めた。
「何も話題がないのに話なんかしても仕方ないだろう? 明日は仕事があるんだろうし、今日はもう疲れたろうから、寝たら?」
言いながら、久兵衛は明日、仕事をサボろうと思っていた。
だいたい彼は、マトモに仕事をした事があまり無い。
役員達に女をあてがったり、適当なビジネスモデルの提案をしているだけで彼は生活の安定を約束されているのだ。
それに今は、グリーフシードと合成麻薬の工場すら持っている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:44:58.08 ID:iSV2qj4Jo<> 不意にまた、マミがフフッと笑った。
「今度は何だよ?」
マミはまた一呼吸おいてから、言った。
「音がするわ」
「何の音だよ?」
「時限爆弾みたいな音」
久兵衛は腕時計を外さずにマミを抱いたことに気が付き、「ちょっとごめんよ」と言って彼女の頭をどけて腕をフリーにし、
ステンレスのブレスが付いたそれを外して、枕元の棚に置いた。
「私もこれ、外さないと…」
マミはそう言って、久兵衛が買ってやったネックレスを外して、時計の隣に置いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:45:28.95 ID:iSV2qj4Jo<> しかし何度も伸び上がるように起き上がり、ネックレスがそこにあることを確認しようとするものだから、久兵衛は鬱陶しくなって、
「そんなに心配なら、ここに掛けといたらいいんじゃないか?」
そう言って、ベッドの支柱にネックレスを掛けてやると、マミは「これならいつでも目が届くわね」と言って上機嫌になったが、
また伸び上がるように棚に目をやったので、久兵衛が、
「今度は何だよ?」
とまた聞いてやる羽目になった。
「腕時計、見せてもらおうと思って」
「勝手にどうぞ。 ただの売れ残りの国産品だから、思う存分見るがいいさ」
そう言ってやるとマミはまた上機嫌になり、腕時計を見ながら、
「なんで針が細かく動いているの?」
と聞いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:46:35.59 ID:iSV2qj4Jo<> 「それクォーツじゃないからね。 機械式時計だから、針がそんな風に動くんだ。 昔はみんなそうだったんだよ」
マミはよく分かっていないのか、ふうん、と曖昧な反応をして時計を耳に当て、「優しい音がするわ」といった後、また久兵衛に向き直って、
「これがお父さんから買ってもらった腕時計なの?」
と聞いてきた。
「違うよ。 それは2本目。 親父から買ってもらったのはさ、壊しちゃったんだ」
久兵衛は父から買ってもらった腕時計を壊した後、時計屋を巡って、ネチズンの古い機械式の売れ残りがあるかどうかを訪ね、
クリスタルヘブン33石とか言う自動巻きのカレンダー付き腕時計を購入していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:47:22.49 ID:iSV2qj4Jo<> 彼は何故か、自分の身につける腕時計はあの耐震装置の付いた機械式時計の、さらに売れ残りでなければいけない気がしたのだった。
構造上、耐震装置というのはクォーツ時計には付いていないのである。
「どうして?」
マミは久兵衛が父から買ってもらった腕時計を、何故壊したかを聞いた。
「あれさあ、随分長いこと動いていてさ、水没して止まったことも二回くらいあったな。
それでも修理屋に持って行くと、錆びた文字盤も取り替えられて、ちゃんと動くようになって帰ってきてさ、
そんな風で、定期的に油差すだけで十年以上もきちんと動きつづけてさ、なんだか気持ち悪くなってきたんだよね。
不安って言うかさ、コイツは、僕より長生きしてしまうんじゃないかって疎ましくなったりしてさ、
そんで、ある日腕につけたまま喧嘩したんだよ。そしたら止まっちゃった。
そしたらなんか安心しちゃってさ、ああ、コイツも死んだんだなって、それから机の中に放り込んだまま直していないな」
久兵衛は喋りながら、自分がマミにも同じように不安のような、漠然とした何かを感じて、彼女を壊そうとしている事を考えていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:48:14.12 ID:iSV2qj4Jo<> 「喧嘩しちゃ駄目じゃない!」
マミは父から買ってもらった腕時計の顛末よりも、喧嘩という単語に大きく反応をした。
マミは、久兵衛がチンピラではなく模範的な人間であると思っているらしい。 久兵衛は失言をした事を後悔しながら、
「まあ済んだことだしいいじゃないか! もう喧嘩なんかしていないよ」
そう言ってごまかした。
マミは、それならいいんだけど、と言った後で、
「それ、直してみない?」と、提案してきた。
「直りっこないよ」
「私は直ると思うわ、そうだ、賭けをしましょうよ。 私は直る方に、あなたは直らない方に、面白そうじゃない?」
「一体何を賭けるんだよ?」
と、久兵衛が訊くと、マミは困った顔になって考え込んだ後、
「勝った時に決めるわ」と、適当であった。 やはり欲のない、気の毒な女であると久兵衛は思った。
久兵衛は、「なんだよ、それ」と言いながら、明日にでも机から出して、時計屋に持って行ってみようと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:48:49.97 ID:iSV2qj4Jo<> 「ねえ」
「今度は何だい?」
「ナカノさん、すごく働いてくれるようになったの、知ってる?」
何を言い出すのかと思いきや、ぶっ続けの契約をして、グリーフシードを飲んだジジイの話だった。
それは当然、久兵衛にとっては触れたくない話題だった。
「彼がどうかしたのかい?」
マミはまた一呼吸、置いた。
「私もね、あんなふうにばりばり働けるようになりたいわ」
久兵衛の腹の底に、冷たく重いものがひやりとのしかかったように感じられた。それは感情に直結され、怒りを弾きだした。
「いきなり変なこと言うなよ! 怒るよ!」
めらめらと燃え上がるような、怒りだった。 燃え上がっているくせに、腹の中は妙に寒々とする。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:49:22.99 ID:iSV2qj4Jo<> 「…ごめんなさい。 でもなんとか、あなたの役に立ちたかったの」
マミは久兵衛の豹変に、驚いたように縮こまり、謝した。
「全く、君は本当にろくな事を言い出さないね、君がぶっ続けなんかやったら、一体僕はいつ君の紅茶を飲みに来ればいいんだい?」
とっさに、自分はマミの紅茶を飲むためだけにここに来ているのだとも言えるような内容が口を突いて出たので、
久兵衛はマミとの関係の、意外にドライな本当の意味を見た気がして安心したが、
今日は一滴も紅茶を飲んでいないことを思い出し、それで満足をしたような自分にまた薄暗い不安のようなものを感じた。
「ねえ久兵衛」
久兵衛はマミに思考を覗かれはしないかと不要な警戒をしながら、落ち着き払った自分を演じ、
「何だい?」
と、さっきの苛立ちを嘘のように沈め、優しく応じた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:51:29.72 ID:iSV2qj4Jo<> しかしマミの問い掛けは、
「あなた、悪いことしていないわよね?」
先の質問をはるかに凌駕するほどの衝撃を備えていたのだった。
久兵衛はどうでもいいような質問をされたときのことを必死に思い出し、
「なんで? 僕がそんなふうに見えるのかい?」
声が不自然にならぬよう注意し、落ち着いて答えた。
「この前ね、あなたが居ないとき、うちの店に警察がきたの。
ほら、あの鹿目さんと一緒に暮らしている、暁美さんって言う、目付きの鋭い人ね。
あの人が来て、ナカノさんのこと、いつからあんな風なんだとか、あと、あなたの事も聞いて行ったわ。
私、怖くなって、それからずっと、怖くて、独りぼっちになると辛くって、
あなたが来た時も、そのことが脳裏に蘇って…」
久兵衛は、最近マミが狂おしかったのは、もしかしたらそのせいだったのかと思い、ほむらに対する怒りがこみ上げてきた。
先の質問も、不安で自分が何をやっているのかを、あのジジイに何が起こっているのかを探ろうとしたに違いない。
思いがけず強い調子でマミを叱ってしまったことに、久兵衛は薄暗い後悔をその背に滲ませた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:52:22.69 ID:iSV2qj4Jo<> しかし久兵衛は、そんな心の乱れさえもマミに気取られぬよう、ニッコリと笑顔を作って、
「ああ、暁美ほむらかい? 彼女はちょっと頭がおかしいから、心配しなくていいんだよ。
僕も仕事で警察署によく行くんだけど、彼女だけ空気が読めていないって言うか、周りから疎外されているのが分かるんだ。
それでね、ああいう輩はたまに目立とうとして、そういう突飛なことをやらかして、それがまた周りを困らせる結果になっちゃうんだよ。
本当、あんな問題児が居ると警察も大変なんだなって思うよ」
ほむらをバカにするように、一息に言ってやった。
「そうなの…頭がおかしい警察官が居るなんて、なんだか怖いわ…」
マミは、まだ何か引っかかっているようであったが、久兵衛が優しく彼女を抱き寄せ、
「警察は公務員だから、民間と比べて一度採用してしまったら首にしづらい所があるらしくてね、
ああいうおかしな人間が結構多いんだ。 税金泥棒って奴さ、あんな奴何も出来ないから、本当に安心していいんだよ。
だって考えても見てよ、暁美ほむら意外に、警察官がお店に来たことがあるかい?」
「無いわ。 全然無いわ」
久兵衛は更に力を込めてマミを抱きしめ、
「つまりはそういう事さ」
と言って頭を撫でてやり、安心させた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:53:19.19 ID:iSV2qj4Jo<> しばらくマミの声が聞こえないと思っていたら、見るとマミは目を閉じているではないか。
「寝たのか」
久兵衛が独りごちると、マミは急に目を開けて、「寝ていないわ」
と言ってまた目を閉じた。
そしてしばらくするとまた目を開け、「ねむい、ねむい」と言い出したので、久兵衛は可笑しくなって、
「じゃあ寝ろよ。 明日仕事なんだろう?」
と聞いてやると、またマミはかっと目を見開き、
「寝たくないの、今日が終わってしまうのが嫌」
言いながら、またゆっくりと眼を閉じてしまって、かと思ったらまた思い出したように目を開けて、
「眠くない、ねむくない」と、不毛な自己暗示をかけ始めたので、久兵衛は笑いながら、
「もう寝ちゃえ、寝ちゃえよ。 眠くなーる、眠くなーる」
ゆったりとしたリズムで、か細い声を出してマミに催眠をかけ始めた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:54:33.63 ID:iSV2qj4Jo<> マミは数分間頑張り続けていたが、ドロドロとした眠りの世界に、ゆっくりと沈んでいくように沈黙し、静かな寝息を立て始めた。
その様子を見て、フッ、と微笑んでしまった久兵衛は、また自らの行為に、絶望にも近い違和感を覚えた。
――オイ、お前、何やっているんだ?
その違和感に追われ、久兵衛はマミを起こさぬようにゆっくりとベッドから起き上がり、
密着していた体を離して、独りベッドの縁に座り込んだ。
頭の中に、幾多の人影が、浮かび上がっては消えて行くような感じがした。
最初に、死んだ父親が、お前も豹変したじゃないか、と、自分を笑っている映像が浮かんだ。
次いでうなぎの餌になったあのチンピラが、お前もこっちに来いよ、と、手招いていた。 こっちに来ると楽だぞ。
それから、チンピラの彼女だったロベルタを殺したときの映像がよみがえってきた。
あの後久兵衛はロベルタと付き合うふりをして人気のない山奥に連れていき、チンピラを食ったうなぎを食ったことを話しながらリンチし、
仲間のヤクザたち数名にさんざんレイプさせ、彼らが満足した後、お前みたいなクズはこうしてやる、
と言って女性器にシガーライターを押し付けて、焦げ臭い匂いとそれに交じる彼女の悲鳴とを聞いて、久兵衛は大爆笑し、
満足してロベルタを山中に放逐して帰ってきたのだった。
ロベルタは後に、山中で首を吊っているのを発見され、その場所は心霊スポットになった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:55:35.15 ID:iSV2qj4Jo<> それから、付き合ってきた幾多の女たちが、脳裏に現れては久兵衛に恨み言を言い続けた。
3回中絶させ、精神病院に入れた女や、自分を財布がわりに使おうとしたので、頭に来てゴルフクラブで殴り、うなぎの餌にした女、
そしてコンクリート詰めにして港に沈めた女に、クスリ漬けにしてワタリ蟹の餌にした女。
名前さえ忘れた幾多の女の影が、久兵衛を謗り、現れては消えていった。
そして最後に、パトリシアが現れて、マミを見て、この人も私とおんなじにしてあげるわ、と言って、消えた。
久兵衛はマミを見た。
女たちの黒々と重い影は、久兵衛の背中にのしかかって、一斉にマミに避難の視線を向けているように感じられる。
久兵衛は頭痛にも似た、強烈な苛立ちを覚えた。
「今日は優しくする日だからね。 明日からは違うよ」
久兵衛は女たちに確認をするように言った。
すると、苛立ちは嘘のように引いていったのだ。 まとわりつくようなそれらの気配も。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:56:53.47 ID:iSV2qj4Jo<> 時計を見ると午前0時を今、まさに回ったところだった。
それを見て、久兵衛の頭の中にスイッチが入ったような気がした。
堰を切ったように、マミをいじめるアイデアが脳内を駆け巡り、久兵衛は彼女の悲鳴と鳴き声と、絶望の予感に身を震わせた。
そして久兵衛はおもむろに、ベッドの支柱に掛かっているネックレスを掴んで、思い切り引っ張った。
プラチナのチェーンは軽い抵抗を示した後、ブツッ、という音と、何か金属の質感以上のものを含んだような、有機的な感触と共に千切れ、
久兵衛はその感触に、ゾクリと背筋が冷えた気がしたが、それを振り払うようにネックレスを、ベッドと壁の隙間に放り込んだ。
ネックレスは、軽くチェーンの音をさせ、絨毯に着地したようだった。
――あーあ、君の寝相が悪いから、せっかく買ってあげたネックレスが千切れてどこかに飛んでいっちゃったんだね、僕は知らないよ。
久兵衛はそう自分に罵られて、泣き出すマミの姿を明瞭に想像することができた。
それに満足し、遅いからもう寝よう、と思った久兵衛の中に、またゾクリと寒い予感が走り、
彼はそれに突き動かされるようにベッドと壁の隙間を覗き込んでいた。
細く切り出した闇の先に、プラチナの光沢と、黄色い石の煌きが確かにあることを確認して、
久兵衛は漸く電気を消して寝転がり、眠りの中に入っていった。
彼らが丸一日を使ってデートをしたのは、これが最初で、最後であった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 15:58:03.43 ID:iSV2qj4Jo<> しばらくしたら最終章投下します <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/31(日) 16:28:37.03 ID:ONl58nSz0<> 乙マミ
こんなAAあるのかww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/31(日) 16:50:16.68 ID:FMLBFEdBo<> 乙
怨霊がQBにまとわりついてるのか
可哀想な男だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/07/31(日) 17:47:47.17 ID:V4thhX7no<> 乙兵衛
マミさんの胸に顔埋めてshknkknkしたい! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:11:33.44 ID:iSV2qj4Jo<> 番外最終章 その日
それから四週間後のその日、久兵衛は残虐な精神を引っさげて中絶後のマミをいじめ抜くため、
陰茎を極限まで勃起させて彼女のマンションの扉を開いた。
しかしそこには、ドアノブで首を吊ったマミの姿があったのである。
久兵衛はあまりに予想とかけ離れたその光景に驚愕し、動転した思考によって得た答えは、
たぶんこれは悪い冗談に違いないという、恐ろしく陳腐なそれであった。
中絶を一回させたくらいで、死のうなんて考えるのは、彼が知るかぎり目の前の女しかいなかったのだ。
「…おいマミ、あまりふざけていると怒るよ?」
久兵衛は立ちこめる異様な臭気を無視し、マミに近寄ってその体に触れて、
そのすべてを飲み込んでしまいそうなまでの冷たさに、反射的に手を引っ込めてしまっていた。
「おい…君…」
離した後も、指先にまとわりついているようなその冷たさに、
久兵衛は漸く目の前で取り返しの付かないことが起こっているのだということを了解し始めた。
久兵衛はマミの首が引っかかっているタオルを外し、手足が硬直し始めていたその体を抱きとめ、
何をしていいのか分からなかったので、とにかく自分の体温を送り込むように抱きしめていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:12:10.70 ID:iSV2qj4Jo<> 「馬鹿だな君は…なんでこんな事してしまったんだよ…やられたらやり返せって、いつだったか言ったじゃないか…」
久兵衛の中に、焦りのような、不安にも似た、とにかく強大な情動が、まるで津波のように押し寄せてくるのが分かった。
久兵衛は人形のように硬直したマミの腕を、そんな事を言いながら優しく撫で、温めるようにマッサージし続けた。
しばらくそれを続けていたが、今度はマッサージしていない足がどんどんと硬直していったので、
久兵衛は恐ろしくなって救急車を呼んだ。
「マミ、頑張れ! 救急車がもう少しで来てくれるからね!」
マミはひどい顔をしていたが、久兵衛がマッサージしながら表情を整えてやると幾分かましになったので、
久兵衛は頑張ればなんとか彼女が助かるのではないかと錯覚し、更に優しく彼女を温め続けた。
久兵衛はマミの体が完全に硬直したら、本当にだめになってしまうような気がしていた。
しかし徐々に硬直は腕を履いあがってきて、抱きとめたばかりの時は柔らかかった二の腕まで、固まってくる有様であった。
足も硬くなってきて、久兵衛は弱気になりそうになっている自分を必死に持ちこたえながら、マミの体を温め続けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:12:46.64 ID:iSV2qj4Jo<> 「マミ、親父から買ってもらった時計だけどね、今日直ったから取りに来いって、電話があったんだよ。
君、賭けたろう? 直るか直らないかって…
賭けは君の勝ちだ。 何でも言うこと聞いてやるよ。 だから目を覚ませよ。 頼むよ」
久兵衛がマミの死体を励ましていると、救急隊が到着して、部屋に入ってき、マミを見るなり諦めた表情をしたので、
「必ず助けてやって下さい。 必ず」
久兵衛が念を押すようにそう言ってやったが、彼らは目を背け、小さく首を振って、マミを担架に乗せ、毛布を被せて運んでいった。
そして次に来たのは暁美ほむらだった。
「通報したのはあなたなんですって?」
久兵衛はマミが助からないかも知れないという、暗い穴ぐらのような、冷たい絶望に落ち込んで行く自分を感じながら、
「そうだけど」
と何とか呟くように返事をすることに成功した。
その一言を発するだけで、一日分の体力を使ったような気がして、久兵衛は座り込んだままぐったりと項垂れた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:13:15.99 ID:iSV2qj4Jo<> 「遺体を発見したのは何時頃か聞かせてもらえないかしら?」
――遺体? この女は何を言っているんだ? マミは病院で元気になって帰ってくるに決まっているじゃないか。
十年以上使い続けた挙句、腕に付けたまま喧嘩してぶっ壊した、売れ残りの時計だってしっかりと直ったんだから、
マミだってちゃんと病院で治ってくるさ。
久兵衛はそんな事を考えながらほむらを無視した。
「どうして遺体を発見した時、警察に通報をしなかったの?」
――マミは助かるんだ。 なんで君らを呼ばなきゃあ行けないんだよ。 遺体って呼ぶなよ。
久兵衛はピクリとも動かなかった。
「答えたくないのね。 まあいいわ。 巴マミはあなたが殺したって線で捜査を進めてあげるわ。
余罪まみれのあなただから、それはそれはやりがいのある仕事でしょうね。
巴マミも、あなたと出会わなければこんな事にならなかった筈なのに、可哀想なものだわ」
――僕が、殺した? 僕と出会わなければ、よかった? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:13:56.08 ID:iSV2qj4Jo<> 久兵衛の中に、冷たい何かが急速に広がっていって、
それが信管でも起爆させたかのように突然に彼は立ち上がり、ほむらの襟首を掴み上げていた。
「もう一度言ってみろよ」
自分のせいだと分かっていた。 自分がマミを不幸にしたのだと、ここまで追い詰めたのだと気がついていた。
だけど連鎖的に、爆発のように生じる感情の急激な高ぶりを、久兵衛は自分でどうすることも出来ずに、
起こったことを、そしてその結果心に生じた変化を受け止め切れない自分を、
そして何事もなかったかのように過ぎていく時間を、それに乗って流れていくこの世界そのものを、
呪い、憎んでわめき散らしたい気分なのに、体のほうがどうにも気怠くて、結局眼の前の警官を睨み据えるしか出来ぬ自分の小ささと無力に、
また更なる感情の爆発を、行動の発現を伴わぬその途方も無い絶望の空回りを自らの胸に響かせるのであった。
「何度でも言うわよ。 あなたに出会わなければね、彼女はこうなることは無かったのよ。
巴マミが何をしたのか知らないけど、あなたが彼女を殺したんでしょ? 鹿目詢子とその家族のように」
九兵衛は、自分にとってどうでもいい人間と、マミを対比されたことに対し、胸の内に新たな感情の高まりを見た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:14:51.02 ID:iSV2qj4Jo<> ――鹿目詢子が何だって言うんだ。 あんな女とマミを一緒にするなよ。
しかしほむらは怒りに狂った表情で睨みつける久兵衛をすました表情で見返し、襟をつかんだ久兵衛の手を払いのけた。
「このあと詳しい話を聞くから、署まで同行して頂戴」
たったそれだけのことなのに、久兵衛は支えを無くしたように、へなへなと脱力し、その場にヘタリ込んだ。
そして追い打ちをかけるような、言葉――
「そうそう、マミリーマートはあなたを見捨てたみたいよ。 まるでトカゲがしっぽを切るような感じかしら?
ここに来る際も、普段みられる何の妨害も無かったしね。 そう、あなたももう終わりってわけ。
グリーフシード事件、鹿目家一家殺害事件、そしてその他もろもろの余罪を、忘れたとか知らないとかもう言わせないわ。
洗いざらい吐いてもらうわよ。」
自分を見下ろし、勝ち誇ったようなほむらの言葉を聞いて、久兵衛は、目の前の警察官は自分より更に悪人なのではないかと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:15:31.22 ID:iSV2qj4Jo<> 「君には無理さ。 どれ一つ解決出来っこないよ」
久兵衛はかすれた声で、なんとか目の前の悪に対抗した。
「正義は、かならず勝つものよ」
久兵衛は、答えなかった。
悪人は、自らを正義と称す。 本当の正義というものなど見たことはないが、それは自らを正義と称さぬはずである。
この女は、やはり本物の悪人だ。 自分と同じだ。
そういえば、この女はどんなに圧力をかけても豹変をしなかった。
だが正義という言葉を使わねばならないという点において、この女は弱い。 その後ろ盾に甘えている。
久兵衛は確信した。 コイツには解決出来ない。
自らを正義と称しながら、詢子とマミとを同列にし、マミを貶めるようなこの女には、意地でも負けない。
――僕の作り上げた組織を、舐めるなよ。
久兵衛は黙したまま、ニヤリと口元を歪ませた。
ほむらが顔を覗き込む気配がした。 久兵衛は自分の自信にみちた顔を、見るがいいと思った。
「あなた、もしかして泣いているの?」
久兵衛は俯いたまま、やはり答えなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:16:20.17 ID:iSV2qj4Jo<>
… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:17:50.93 ID:iSV2qj4Jo<> ――あの時、と、ほむらは思った。
あの時、久兵衛は泣いていた。 ほむらには信じられぬ光景であった。
自身に満ちあふれた表情をしていてくれれば、まだ救いようはあったかも知れない。
しかし、彼は滂沱の涙を流し、だが声を上げずに、唇をかみしめて震えていた。
その時、ほむらはあの男には、勝てないのではないか、と、何故か確信してしまった。 事件は解決しないのではないかと。
何人も人を殺めてきた久兵衛であった。 そんな彼が、情婦一人の死に、あそこまで縮こまって、
その時はそんな事予想だにしなかったが、結局次の日にすべてを放り出すように死んでいったのだ。
ほむらにはその不可解さが、直接に事件の難解さにつながっているような、
不気味な不安の発生源となっているのがはっきりと感じられたのであった。
サークル杏から人材協力も成されて捜査が進められ、加えて久兵衛がいない今、マミリーマートの裏組織は瓦解寸前である。
事件は、いつか解決するのだろう。
しかし久兵衛には、二度と勝つことのできないほむらであった。
番外編 終わり <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 19:20:45.69 ID:iSV2qj4Jo<> 終わりです。
長々と読んでくださった方々、本当に有難うございました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/07/31(日) 19:33:12.81 ID:tX1VoVus0<> 丁度完結したところに出くわせるなんて…お疲れ様です
久兵衛は気付くのが遅すぎたんだな むしろ気付いてるのにそれを意地になって否定していたからああなったのか
杏さやもすれ違っていたけど、この二人はもう取り返しがつかないんだよな…
素敵なSSをありがとう乙っちまどまど!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/31(日) 20:03:29.96 ID:uhid8dY8o<> お疲れ様でした!
長い間楽しませてくれて本当にありがとう、最後まで面白かったです。
久兵衛氏の迷える哀れな魂に安らぎあれ、なんて言ったらうなぎの餌にされてしまうだろうか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/31(日) 20:37:00.38 ID:nKteMjZIO<> 乙!
マミ久についてはバッドエンドだとわかっているにもかかわらず引き込まれました。
次回作楽しみにしてます! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/07/31(日) 21:14:35.84 ID:iSV2qj4Jo<> >>781
ゴメン誤
しかし久兵衛には、二度と勝つことのできないほむらであった。→しかし久兵衛には、決して勝つことのできないほむらであった。
どうでもいいか!
明日html化依頼する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/07/31(日) 21:42:43.84 ID:ONl58nSz0<> それを言うなら一か所九兵衛が
乙マミでした <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/07/31(日) 23:52:36.60 ID:FMLBFEdBo<> 乙!
ここ数日毎日楽しかったよ、終わってしまうのが寂しい
というわけで3期に期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/08/01(月) 00:03:39.86 ID:Uc6h7vODo<> 乙っちまどまど!
最後に久兵衛の気持ちが一気に伝わってきて心を打たれたよ……
よかった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/08/01(月) 00:31:01.00 ID:ofnGAYbL0<> QBは、もともと壊れていた・・・・。
壊れている事で、人間を辞める事で、器用に悪の営業として生きる事ができた。
マミだけが、それを修理する事ができた。
そして、人間に戻ったらQBは
死 ぬ し か な い じ ゃ な い(TT)。
どんどん人間的になっていくQBってのは、他に類を見ないと思う。
素晴らしかった・・・。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/08/01(月) 01:31:43.04 ID:+myG7twMo<> 個人的に最高峰のSS
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/08/01(月) 11:24:24.68 ID:o0aGKz9q0<> 乙
まどかベースでなんて凄まじい作品を作ったんだ・・・
ふと思ったんだけど、杏子の教会に来てたサラリーマンてまさかドラ○もん・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>sage<>2011/08/01(月) 16:44:00.99 ID:dROswIgS0<> あるカップリング目当てで読んでいたが、重いストーリーも凄く楽しめた
お仕事頑張って下さい <>
1<>sage saga<>2011/08/01(月) 18:49:33.04 ID:bGZO6gKro<> html化依頼出してきました。
長らくお付き合い頂き、誠に有難うございました。
前作でほむらがクズみたいな感想が多かったので、彼女の名誉を挽回すべく、
過去を掘り下げて後付けで書いたのが本作です。
結局ほむほむは変態の域を出ることはありませんでしたが…
因みに番外編で教会に来ていたサラリーマン風はキテ○ツです。
最後の辺りに九兵衛が混じっていたのは私のパソコンがアホなせいです。
あと3期はありません…過去は掘りつくしたし、マミさんがいないのでもう無理です… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/01(月) 19:02:44.80 ID:2QI9E6/Jo<> あれ、そういえばホームレスってその後出番ありましたっけ?
そして……まだ未来があるじゃあないか
まどか側名有りだとおりキリ・中沢が出てないし
最後一人はともかく白黒カップルをどう料理するかは結構気になってたんだよねー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/08/01(月) 19:27:46.32 ID:KhTCtxUOo<> マミさん救済ルートも見たいがこの二人はバッドエンドだから良い気がしないでもない
織キリが見たいのは同意 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/08/01(月) 19:31:01.76 ID:bGZO6gKro<> >>795
ホームレスは特に出ませんが、教団幹部になったという脳内設定があります。
続きはねぇ…脱サラの為に書いている新人賞応募原稿に力を入れたいから無理かなあ…
因みに今シリーズはその練習台だったりする。
おりきり消化不良でゴメンなさい。
このスレが堕ちるまで質問等には答えるつもりです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/01(月) 19:46:19.90 ID:PV/fQk3So<> イージーモードの時に、ベリーハードの構想はなかったってことでok? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/08/01(月) 20:31:53.61 ID:OoQfKZi7o<> 結局御国議員とその御息女はどうなったんですか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2011/08/01(月) 21:00:17.68 ID:bGZO6gKro<> >>798
無かった。
イージーモード終わった時、まどかとほむらはなんで同棲してたの?
とか、まどかの家族はどうなったの?
とか疑問が次々思い浮かんできて、
脳内で必死に辻褄合わせてたらなんだか書かなきゃイカンきがして来て、5月14日に書き始めた。
>>799
美国議員みたいな悪人のその後は、読者の想像に任せているんだ。
憎まれっ子世にはばかるをガチで見続けて来ている俺が考えるとろくな事にならないから…
おりこ、キリカについてはなんにも考えてなかったごめんなさい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/08/01(月) 21:51:25.76 ID:ofnGAYbL0<> いつか、どこかで、あなたの本が読めるように。
・・どうにかして、デビューしたら知る方法はないもんかな。
それは、もう絶対買って読みたいもんだからさ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/01(月) 22:42:01.63 ID:xm4Ug7ZTo<> まとめでイージーモード読んで、今日ベリーハード一気読みしました
長い間乙でした
個人的に>>756が映画の1シーンみたいでお気に入り <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/01(月) 23:17:22.77 ID:bokAqgUmo<> これ、本編の結末に近い感じになったとすると
ほむらはまどかを救えず
杏子はさかやを失ってしまうんだよな
そんな未来にはならないよな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/08/01(月) 23:50:52.39 ID:kGEAuiToo<> 前作では「悪」だと思ってたのに・・・
久兵衛が何か可愛そうになってきます・・・
マミさんとのHappyEndルートが欲しくなる話です・・・
お疲れ様でした <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/02(火) 05:14:53.41 ID:W9VuRqYto<> 終わった
今後の執筆頑張って下さい <>
1<>sage saga<>2011/08/02(火) 18:52:44.88 ID:2H+2nnjFo<> >>801 >>805
出来る限り頑張ります。
>>802
一気読みとかマジでお疲れ様です。
>>803
未来のことを考えると私はロクでもないです。
まどか就職→ほむら絶望エンドとか考えてしまったり…
>>804
いつか悪人であることがバレて関係が壊れるだろうからマミ久に関してはハッピーは無いだろうと思います。
残念だろうけどやっぱりマミさんは悪には染まり切れませぬ。
全レスウザイっすね。お目汚しすいませんっした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/08/02(火) 21:54:32.22 ID:ccptCEuS0<> 杏子 :さやか中毒。さやか成分が切れると
「こ・・こいつ・・・」「死んでいる・・・」
ほむら:邪悪なまどパニスト。まどかのパンツがないと
「こ・・こいつ・・」「死んでいる・・・」
QB :「マミ抜きでお願いします」「はい、悪党一丁」
「こんどはマミたっぷりで」「はい、SM一丁」
「あ、マミ売り切れちゃった。悪いねえ」「・・・・」
「こ、こいつ・・・」「死んでいる・・・」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/08/03(水) 12:23:05.40 ID:As9Zk0S00<> >>800
構想無かったのか
前作最後のさやかの反応は杏子との仲が良好だからこそだと思ったら、今作では全く逆の意味だったり
して予想外だったから、次作をある程度予定してたのかと思ってたわ <>