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HTML化した人:lain.
騎士見習い「もう疲れたよ……」
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 07:50:54.52 ID:9b91y1IMo

 これは、未来永劫誰にも理解されないであろうある男の、孤独な戦いの物語である。
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 07:52:31.97 ID:9b91y1IMo




 title:騎士見習い「もう疲れたよ……」



3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 07:53:33.59 ID:9b91y1IMo

「お前って大した奴だよな」

 あまり大きくもない声。うす暗くなった山中に低く鳴る。
 鳴る、という表現にはとりあえず違和感はなかった。的を射ている。
 それは低く唸るようでもあり、威嚇するようでもあり、さらに言えば恨めしげでもあった。

「疲れた、だあ?」
「でも、本音だよ……」
「ああ知っているとも。何せ俺も足が棒のようなんでね」

 相棒の声には、ちくちくと、それでも控えめに抑えられた棘がある。
 だが対応を間違えれば、それがすぐにでも心臓にまで刺さる鋭利な針になるのは自明のようだ。
 小さくため息をつく。前を歩く相棒には聞こえないように。無駄な努力だと分かってはいたが。

「ほんっと、大した奴だぜ。ため息をつきたいのはこっちだってのによ」

 ほらやっぱり聞こえてた。顔をしかめる。

「全く、本隊はどこを歩いてるのやら」
「分かんないよ……」
「知ってるさ」

 相棒はそこでようやくこちらに振り向いた。肩越しに、顔の半分だけをこちらに。

「分かってたら聞かない」

 だろうね。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 07:55:08.95 ID:9b91y1IMo

 周囲には緑しかなかった。暗く淀んだ新緑のカーテン。そして靄が出始めている。
 そして寒い。この時期の山中では体温を奪われた上での衰弱死は珍しくない。

「そう、珍しくない」

 相棒は再び前を向いていた。それでも声だけはこちらに届く。

「だから道に迷うことだけは避けたかったんだ」

 でも、と思う。地図を預かって進路を設定するのはウィリアムの役目だったのだ。
 それに口出ししてきたオルトロック、つまり相棒にも非が――

「ない」
「……でも」
「余計な口出しを含めて最終的な進路決定をするのはお前の役目だろ」
「……」

 口をつぐむしかなかった。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 07:55:46.01 ID:9b91y1IMo

 靄はそろそろ霧と呼べそうなくらいに濃くなってきていた。
 衰弱死は珍しくない……

「お?」

 相棒が声を上げたのは、暗い想像がウィリアムの頭に立ち込め始めていた時だった。

「ありゃなんだ?」

 相棒が指をさす先。木々の間、霧の向こうに何やらぼんやりと大きな影が見えた。
 甲高い音が聞こえた。相棒の口笛。

「神は我らを見放さなかった、ってな」

 あまり大きくもないが、その館はどうやら幻ではないようだった。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 07:56:34.12 ID:9b91y1IMo

 鍵はかかっていなかった。だからと言って勝手に入っていいわけはないのだが、相棒は躊躇しなかった。

「ノックはした、誰も出てこない、俺たちは凍えてる、なら入る。この道筋は間違っているか?」
「……いいや」

 問題がないはずもなかった。だが、凍えていたのは事実だ。日没が迫り、気温は先ほどよりもさらに下がっていた。
 館の中もそう暖かいわけでもない。ただ、衰弱死からは程遠い。
 息をついて荷物を下ろした。ついで、中から地図を取り出して床に腰を下ろす。
 一点に指を置き、くねくねと延びる線をたどると、数秒もしないうちにそれは途絶えた。

「僕らがいるのはこのエリアのどこかだ」
「ひどく曖昧だな」

 街道に沿って迂回するよりも山を一つ越えれば早いなどとかつて提案した相棒の口調は、どうやらウィリアムを責めているようだった。

「……仕方ないよ、まさか山中に入るはずもないからそこらへんはあいまいな地図しか支給されなかったし」
「まさか演習で迷子になるなんぞ、上の奴らも思わなかったろうな」

 華々しき王国騎士団の軍事演習。出発時にはまさか寒気に殺されかけるなど考えもしなかった。
 あのころに戻りたい。でもできればそれより前、過酷な騎士団に見習いとして放り込まれる前のささやかながら幸せな生活に戻りたい。

(父さん……獅子は我が子を過酷な状況で鍛えるっていつも言ってたけど、こんなところで死にかけるなんて思っちゃいなかったろうね)
「はぁ……」

 ため息は相棒と同時だった。自分と同じような彼の苦笑いを見たところ、どうやら似たようなことを考えていたのは間違いない。
 もっとも、彼の家はウィリアムと比べ物にならないほど裕福だが。
 と。
 苦笑いの間を、猛烈な火炎が駆け抜けた。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 07:58:53.36 ID:9b91y1IMo

「――!?」

 のけぞって倒れる。轟音に視線を振ると、館の扉が炎に包まれていた。
 魔術。誰が。そこまで考えて失敗を悟る。幸運にも何者かからの攻撃は外れた。しかし二撃目がないとは限らない。出所をたどるべきだった。
 身体を焼かれる痛みを想像し硬直しかけた首を強引に反対に振る。相棒の背中が見えた。
 いつの間にか立ちあがり、抜剣し、突撃を開始している。判断の速さ、正確さに舌を巻く。届かない。
 だが、そのほかに見えたものがあった。悟って叫ぶ。

「待って!」

 相棒が、上段に剣を構えた格好で止まる。自分の声よりそれは速かったから、言わずとも静止していただろう。

「……?」

 相棒の怪訝そうな気配が、背中越しに伝わってきた。
 その目の前にへたり込む小さな影。子供……いや。

「あなたたち……」

 弱弱しい視線がウィリアムとオルトロックを同時に捉えた。

「……何?」

 線の細い少女がそこにいた。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/30(水) 07:59:40.72 ID:9b91y1IMo

 to be continued...
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/30(水) 08:44:52.82 ID:HEW5kM5SO
ほぅ。面白そうじゃん
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/30(水) 11:48:40.69 ID:rQ0iyY/9o
待ってた。 乙乙
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/30(水) 11:49:08.74 ID:oV056XMm0
>>1

キタイシテルヨ
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 23:02:59.58 ID:9b91y1IMo

「クビって、そりゃ一体どういうことだ!」

 執務室に怒声と机を叩く音が響いた。
 ウィリアムはぎょっとしたが、それらの主である相棒は気付かなかったようだった。
 もっとも気付いたとしても無視していただろうが。

「決まりは決まりだ」

 ほんの少しの間を空けて、低い、落ち着いた声がそれに答えた。
 相棒が叩いた机。声はその机に着いた三十代前半の男のものだ。

「君たちも理解できないわけではないだろう」

 声にはその男だからこその重みがあった。歴戦の戦士が持つ気迫だ。
 ウィリアムはその声に恐怖した。相棒の怒気もわずかに後退した気配がある。
 それでも引き下がる様子はなかったが。

 存外広くない執務室。そこには四人の人間がいた。
 一人はいまだ怒りを隠しもしないオルトロック。その隣にウィリアム。
 机を挟んで対面側にもう二人。剣の王国が誇る騎士団のトップ、騎士団長。そして彼を補佐する副官だ。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 23:03:57.78 ID:9b91y1IMo

「……だが、そんなの重すぎるだろ!」
「命令違反、勝手な行動。十分すぎると思うが」

 騎士団長の言葉に、う、と相棒が詰まる。

「懲戒免職で済んでいることに感謝してもらってもいいくらいだな」
「それは……」

 その通りだ。と、ウィリアムは心の中で頷いた。
 剣の王国騎士団の規律は異様に厳しい。起床の時間から就寝の方法まで。
 それこそおはようからおやすみまで付きまとうそれは、諸国の中でも類を見ない。
 それはしかし、だからこそ維持できる質というものがあるということでもある。

「騎士団長自らお前たちに伝えるのだ。それだけでも光栄に思え」

 と、これは副官。

「本来ならばお前たちのような見習いに直接話すような事ではないのだ」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 23:05:39.25 ID:9b91y1IMo

 本来ならば。そう、本来ならばウィリアムたちのような見習いなんぞに騎士団長が直接伝えることではない。
 相応の者に相応の伝え方をさせて、後はぽいだ。
 いや、それだけで済めばいい。

「お望みならばさらにペナルティも付けるが」
「っ……」

 武官貴族である彼らの家にも何らかの害が及ぶことも考えられた。
 完全に沈黙した相棒に、にこりともせずに騎士団長は席を立った。
 彼は背後の窓に向き直り、後ろで手を組む。

「私も心苦しく思っていることを理解してほしい」

 相棒が舌打ちするのを、ウィリアムは聞こえないふりでごまかした。
 なぜ彼はそんなに無茶をするのだ。
 いや、理由は知れていた。

「どうせ俺の家が怖くて、罰なんぞ与えられないくせに」
「ロック」

 ウィリアムは今度はさすがに制止の声を上げたが、相棒は気にも留めなかったようだ。

「図星だろうが騎士団長さんよお」
「……」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/30(水) 23:07:59.59 ID:9b91y1IMo

 オルトロック・アロー。彼は剣の王国にある三大貴族の内の一つ、アロー家の家の息子である。
 剣の王国においては王と、それに任命された騎士団長が軍事力の全てを司る。しかしそれでも無視できないものというのは存在する。
 それが彼のような者だ。

「……決定は覆らない」
「ふーん……」

 空気が険悪に重くなるのを感じた。
 これはまずいな。ウィリアムは断じた。これはまずい。

「じゃあ、分かってるんだろうな」
「そうだな」

 特に気負いのない声に、オルトロックも違和感を感じたようだ。

「おい?」
「だから、君たちには話があるのだ」

 騎士団長が、再びこちらに向き直った。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 00:27:09.02 ID:GfgkKPq6o

 騎士団長の話が終わって。二人は事務所内の廊下を歩いていた。
 早足で歩く相棒の後ろをウィリアムが追いかける。

「ロック」

 相棒は止まらない。相変わらずの怒気が背中から漂っている。

「ロックってば」

 肩に伸ばした手は、届く前に彼に振り払われた。
 彼が勢いよく振り向くのに合わせて、後ろでまとめた彼の金の長髪が翻った。

「うるせえ!」

 迫力に押されて、出しかけた言葉を飲み込む。

「ロック……」
「ああウィル、お前は大した奴だよ全く! この屈辱に涼しい顔でいやがって! ああ憎たらしい」
「屈辱ってほどじゃ」
「いいや、お前は分かってねえんだ!」
「……」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 00:27:55.30 ID:GfgkKPq6o

 ウィリアムには、騎士団長の話は特に屈辱的なもののようには思えなかった。

「むしろ寛大じゃないか。僕たちにチャンスをくれただろ?」
「チャンス?」

 相棒の顔が引きつる。

「お前、それ本気で?」
「うん」
「バカじゃねえの!? バッカじゃねえの!? またはアホか!」

 ひどい。ウィリアムは顔をしかめた。
 まあ実は彼の言っていることも分かる。騎士団長が言ったのは、彼らに再就職先を用意してくれるということだった。
 で、その就職先というのが――

「傭兵隊だぞ!?」

 剣の王国が抱える傭兵隊である。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 00:28:43.59 ID:GfgkKPq6o

 それは、元々は流浪の戦闘集団だった。
 強く雄々しい彼らは、金さえ積めばどのような者の命も受けた。
 一国の王から、それこそただの一平民まで。
 ただ、積むべき報酬は一個人に手が出せる金額ではないため後者はそうそうあることではなかったが。

 彼らに誇りがなかったわけではない。
 現に彼らは探していたのだ。仕えるべき主を。帰るべき故郷を。

 傭兵隊の誕生から数十年。彼らはついに見つけた。
 安住の地、そして献身に値する者とをだ。
 それが剣の王国、そしてその初代王である。
 以来彼らは王国の治安維持にその全力を捧げている。

「違う!」

 しかし相棒は言う。

「歴史は今はどうでもいい!」

 まあそうだろう。間違いなく彼の怒りの原因はそこにはない。
 問題なのは――

「傭兵隊が平民どもの集まりだって事だ!」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 00:30:17.71 ID:GfgkKPq6o

 騎士団と傭兵隊はその性格が異なる。
 まず騎士団は、王から直接の任命を受けた騎士団長によって組織され、構成員もその筋のプロが多く経験豊富だ。
 対して傭兵隊長は王からの任命を受けてはいない。構成員も現在は平民からの有志の集まりである。
 ただ訓練の質は良く、実のところそんじょそこらの国の正規軍など問題にならない強さなのだが、相棒は不満のようだ。

「そんなところで活躍しても意味がない!」

 そう、強いといっても傭兵隊は所詮平民の集まりである。
 騎士団で手柄を上げるのと傭兵隊で同じ手柄を上げるのとでは昇進の度合いも全く違う。
 そもそも傭兵隊では手柄を上げるほどの仕事をもらうのさえ難しい。

 でも、とウィリアムは思う。
 気楽でいいじゃないか、と。

「お前、やっぱすげえな!」

 相棒は頭を抱えて叫ぶ。

「頭いいのか悪いのか全然わかんねえ!」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 00:31:05.90 ID:GfgkKPq6o

 仕方のないことだ。ウィリアムは所詮下級貴族の息子で相棒は上級貴族の息子。
 ショックの度合いが違う。

「まあ、ロックにはいい薬なんじゃないか」
「何?」
「普段威張り散らしてるんだから、下々の者の気持ちも味わってみるといい」

 びきり。こわばる音が聞こえた気がする。
 次の瞬間には、目の前に刃の切っ先があった。全く反応できていない。

「……」

 相棒は。本当に怒ると無口になる。
 それは、いつ斬られてもおかしくないというサインでもある。

「事務所内での抜剣は死罪だよ」
「知るか」

 ずい、と切っ先が寄ってくる。ウィリアムは眉間にわずかに痛みを覚えた。

「ああそうかい……」
「……」

 相棒は本当に怒ると無口になる。
 対してウィリアムは。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 00:32:31.75 ID:GfgkKPq6o

「じゃあ、言わせてもらうけどね、そもそも誰のせいでクビに、迷子になったと思ってる!?
 一番の原因を思い出してよ。そう、君が僕の進路決定に口を出してきたからじゃないか!
 あのまま無難に行けばちゃんと目的地について、こんなことにならずに済んだのに!
 僕だって免職は痛いんだよ! 何だよ山を越えた方が早いって!
 バカなの!? またはアホなの!?」

 キレると口数が段違いに増える。
 もっとも、相棒は気にも留めなかったようだが。

 まだまだ言いたいことはあった。
 だが、言ってもどうにもなりはしない。
 相棒だってそうだ。抜剣してウィリアムを斬り殺したところで銅貨一枚にもならない。
 いい加減わかれよ、馬鹿が!

 気持ちが伝わったのかは知らないが。
 しばらくして相棒は剣をおさめた。
 舌うち一つ。いちいち癇に障る。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 00:33:07.25 ID:GfgkKPq6o

「一つ聞かせろ」
「なんだよ」
「なんでアイツのこと黙ってなきゃいけないんだ?」
「あの子ね」

 アイツ。あの子。
 山中の館で出会った少女の事だ。

「アイツのこと話せばまた話は違ってくるんじゃねえのかよ」
「どうかな?」
「だってアイツ、魔術式なしで魔術使ってたぜ? ありえねーよ」
「そうだね」
「だったら」
「それでもだ」

 相棒は頭を傾けた。

「わかんねえ奴」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/31(木) 00:33:37.64 ID:GfgkKPq6o

 to be continued...
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/31(木) 00:34:39.01 ID:GfgkKPq6o
求む、感想・アドバイス
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 00:35:31.10 ID:y+MtebE+o
乙乙次回もwkkt
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/31(木) 19:34:35.08 ID:oOWR7geDO
期待乙
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage ]:2011/03/31(木) 23:47:59.84 ID:8DLQFuHm0
乙です。
ブレずに、そのまま突っ走って下さい。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/04/01(金) 23:07:02.62 ID:43xzsA3AO
それらしき雰囲気を醸し出してはいると思う。
そろそろ主役コンビの容姿に少しくらい触れてもらえると、より入り込みやすいと要望
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 20:34:29.20 ID:rVhEFPKqo

 時間は数日分さかのぼる。
 短い黒髪の少年は、十六歳にしてはやや小柄な身体を包む革鎧の心地悪さに辟易としながら館の廊下を歩いていた。
 騎士見習いに与えられる軽装備だが、彼には少し大きい。
 身体とそれの間にたまった汗が気持ち悪くぬめるのも、不快感の増加に一役買っていた。

 どこか幼さの残る目元を困ったように歪ませ、彼は足を進める。
 しばらく歩くと人影が見えてくる。玄関ホールには二人の人間がいた。

「……もうそのへんでいいんじゃないかな、ロック」

 頭を掻きながら相棒の横顔に声をかけた。
 こちらはすらりと背の高い少年だった。やはり十六歳。革鎧の上からでも姿勢の良さでかなり鍛えているのが分かる。
 長い金髪を後ろでまとめ、精悍な顔つきには微塵も緩みがない。
 相棒は右手に剣をぶら下げたまま視線だけちらりとこちらにくれると、「そうだな」と頷いて見せた。

「確かに、これ以上絞っても特に何も出そうにない」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 20:36:41.76 ID:rVhEFPKqo

 魔術の火炎に襲われて少し後の事だ。
 場所は館に入ってすぐ、玄関ホール(というほど広いわけでもないが)である。
 玄関の扉を背中にして正面両脇から二つの階段が二階へと続き、それにはさまれるように一階の廊下が奥に伸びている。

「中はどうなってた?」
「こんな山深くにある以外は何の変哲もないただの屋敷……でも誰もいない。その子以外は」

 簡単に報告して、ウィリアムは相棒の隣に立った。見下ろす。
 最初に目に入ったのは、長く伸びた栗色の髪だった。それは、彼と相棒が持つランタンの頼りない光を優しく反射して、淡く輝くようにも見えた。
 そしてその下にひどく怯えて震える瞳。いかにも弱弱しく、彼はかつて飼っていた子犬を思い出した。

 かんばせは薄暗がりでもすっきりと整って見える。
 年は彼らより一つ二つ下といったところ。
 だいぶ幼さを残しているものの、これから美しく開花していくのが容易に想像できる顔立ち。
 ただ、

(儚い……)

 そう思ってしまう程に少女の持つ存在感は希薄だった。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 20:37:43.01 ID:rVhEFPKqo

 へたり込んだ、小柄で華奢な身体が震えている。
 着ている白い簡素なネグリジェでは確かに寒そうだが、そのせいではないだろう。
 ウィリアムは同情を覚えた。相棒がかなりきつい尋問をしたことは想像に難くない。
 と、オルトロックが口を開く。

「だまされるなよ」

 言って示す背後の扉は、先ほどの炎でまんべんなく黒く煤けていた。
 焼け落ちはしていないものの、人間がまともに喰らっていれば大火傷だったろう。
 少女が物陰から放った魔術の炎によるものだ。

「見かけによらず“ああいうこと”をするのに躊躇しない奴なんだよ、こいつはな」

 彼は右手に持った少女に剣を突き付けて、突如声を張り上げた。

「もう一度名前を言え!」
「ク、クリア……」

 震えの度合いを一段階上げて少女が答える。

「なぜ俺たちを襲った! 言ってみろ!」
「物音と、話声がして……こ、怖かったから……」
「ほらな、こいつはただ怖いって理由だけであれをぶっ放す、すっばらしい判断力をお持ちってわけだ」
「はあ」

 生返事しながらもウィリアムは疑問に思った。

「君は、僕たちが騎士団所属って分からなかったってこと?」
「騎士団……?」
(……?)
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 20:38:37.42 ID:rVhEFPKqo

 剣の王国騎士団を知らない人間はいない。剣の王国が抱える世界でも屈指の戦力だ。
 どんなに世情に疎かろうと自然と耳に入ってくるし、入ってくるならば覚えていない訳がない。
 そして、それを襲うことの愚かしさも知らないはずはないのだ。

(何者?)
「さあな、そのあたりは聞いても要領を得なかった。パパがどうとか言ってたがな。
 訳ありには間違いねえんだろうが、俺にはそれは興味ねえよ」
「訳あり……魔術が関係ある?」
「知らねえけど、多分な」
「いやちょっと待って、なんでこんな女の子が魔術を……」

 あの火炎が魔術以外の何かである可能性はない。
 しかし魔術というのは高度な技術であって、訓練されていない人間が使えるものではない。
 なぜなら魔術発動の要である構成陣の複雑さは常人にはそうそう理解できるものでもなく、
そもそもそうした技術は各国の常備軍が厳重に――
 と、そこでウィリアムははたと気付いた。

「構成陣は?」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 20:40:50.04 ID:rVhEFPKqo

 近くの床を見渡すものの、あるはずのそれはない。
 暗くて見えないのかと思い、ランタンを高く掲げるが、やはり見つけることは出来なかった。
 相棒が少女から目を離さないまま頷く。

「ああ、それなんだがな、ないぞ」
「え?」

 それはあり得ない話だった。
 今この世に存在する唯一の魔術は、その正式名称を血陣魔術という。
 血液で構成陣(魔術式ともいう)と呼ばれるものを描き、完成によってその効力を発揮するのである。
 構成陣は通常円環状であり、中にいくつもの幾何学的な模様を有する。
 複雑、そして巨大であればある程導き出される力はより大きく、より強力になるというのが通説だ。

 つまり、構成陣がなければ魔術は働かない。
 それは魔術発動の要だからだ。

「それが……ない?」
「見るか?」
「え?」

 相棒はこちらの返事も聞かず、少女に顎をしゃくって見せた。
 少女はびくりと身体を震わせる。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 20:42:14.03 ID:rVhEFPKqo

 相棒の意図を読み取って、彼女は恐る恐る掌を上にして差し出した。

「変な真似はするなよ。その首と身体が別行動、ってなりたくなきゃな」
「……!」

 少女の顔が恐怖にひきつる。そんなに脅さなくてもいいのに、とウィリアムは気の毒に思った。
 が、そのとき。
 少女の手から光輝があふれ出した。

「……!」

 朝日に似た輝きだった。
 少女の手から生まれたその球光は、眩しく目を焼くとゆっくりと天井まで昇りホール全体を照らし出した。
 昼のように、というと少し大げさだが、ランタンが要らなくなるくらいには明るい。
 ウィリアムはぽかんとして見上げていた。

「大発見だぜ、こりゃあ」

 相棒の、抑えながらも興奮を隠し切れていない声。

「新しい魔術体系の発掘だ。これで俺たち、昇進かもな」

 光明の下で、相棒の金髪がきらきらと輝いていた。彼の喜悦を表しているかのように。
 光明はしばらくしてから消えた。
 ランタンの明かりだけに戻ったホールは、ウィリアムにはどうにも暗く思えた。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/02(土) 20:56:50.21 ID:OavlxGGDO
ktkr

血液かー
よくある展開だと少女の肉体や血液自体が魔法陣として組まれてるってやつだな
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 21:03:37.44 ID:rVhEFPKqo

 時は戻って現在。剣の王都。

「昇進。そのために連れてきたっつーのに……」

 相棒が寮の二人部屋のドアを開ける。
 すると、二つあるベッドの内の一つにちょこんと腰かけた、簡素なワンピースドレスの少女がびくりとこちらを向いた。
 クリアという名の少女は言いつけ通り、こんな狭く男くさい部屋でもちゃんと待っていたようだ。
 たとえ逃げたところで行き先がないというのが実情だろうが。

 彼女を他の寮生に見つからないようにここに入れるのにはかなり苦労した。
 まあいったん入れてしまえば誰かが勝手にここに立ち入ることはないから、安心できるが。
 アロー家子息の機嫌を損ねるような馬鹿をやる奴はそうそういない。

 それよりも山から引っ張ってくるのが骨だった。
 彼女は無理やり連れて来ることにはそれほど抵抗しなかったが、なにしろ体力がなかった。
 館で見つけた地図から計算すればさほどかからない帰還が、彼女を加えることでおよそ二倍に延びたのだ。

「苦労した分の見返りぐらいあるべきだと思うんだがな」

 怯える少女を睨んで追い打ちに威嚇すると、相棒は次にその目でウィリアムを刺した。

「さあて、説明してもらおうじゃねえか。どうしてこいつを庇うようなことをしやがる? え?
 まさか、こいつに情でも移ったか? お前は面がよけりゃ得体の知れねえ奴でもいいってのか? あん?」
「この子には同情するけど庇ったつもりはないよ。僕だって誰かさんのせいでただクビになるだなんてまっぴらごめんだからね」
「ウィィィィル……言うようになったじゃねえかお前。よほど血の海で泳ぎたいと見えるな」

 相棒の視線がさらに険しくなった。

「確かに水遊びは好きだったけどね、君のお世話にだけはなりたくないな」
「遠慮するなよ、俺は今サイコーにゴキゲンなんだ」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 21:04:43.94 ID:rVhEFPKqo

 相棒が柄に手をかけるのを見計らってウィリアムは言葉を続けた。

「君は騎士どまりが望みかい?」
「ん?」
「君の野望はその程度かい?」
「んん?」
「もっと上を狙ってみないか、そう言ってるのさ」

 相棒の顔が訝しげに曇る。

「どういうことだ?」
「想像してごらんよ。確かに僕たちはノーラグで魔術を使う少女を発見した。でも、ただそれだけだ。
 上に報告すればある程度評価はしてもらえるだろうけどね。後はハイ御苦労さまで終わりだ。
 さらに大きい手柄は上が横取りさ。でも、うまく立ち回ればもっとうまみはあるはずなんだ」
「……なるほど」
「今君の想像している通りだ。つまり――」
「俺たちでその新魔術を解析、実用化に持ってくのか」
「当たり」

 相棒は柄から離した手でその顎を撫でた。

「そいつは……かなりいいな」
「でしょ?」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 21:06:16.14 ID:rVhEFPKqo

 自分たちでそれを成し遂げてしまえば、確かに上がそれを横取りする隙はなくなる。
 そうなれば自分たちは若くして重役、のはずだった。
 相棒の手がようやく柄を離れた。
 心の中でかいた大量の冷汗をぬぐいつつ(なれないことはするもんじゃない)、ウィリアムは微笑んで見せた。

「もし成功すれば騎士団に戻れるだけじゃないよ」
「幹部の椅子も狙えるかもな」

 相棒はにやりと笑うと、すっかり機嫌を直して部屋の外に出ていった。おおかた酒場にでも行くのだろう。
 部屋の空気が軽くなった。

「ぷはっ! こ、怖かった……!」
「っ……」

 いきなり脱力して壁に寄りかかるウィリアムに、驚いた少女が肩を震わせた。
 深呼吸数回ののちに、少女の視線に気付いて彼は苦笑した。

「いや、そんなに怖がられてもね……ロックならいざ知らず、僕けっこう弱いし」
「……」

 彼女が顔を伏せるのを見ながら、ため息をついて天井を仰いだ。
 ぽつり、とつぶやく。

「――ごめん」
「……?」

 おそるおそる、といった様子で少女が再び顔を上げる気配がする。

「気の毒に思うよ。彼、自分が良ければ他人の都合なんて考えないで突っ走るところがあってさ。
 なんとか止めようと思ったけど、僕じゃ無理だった。頭だけはそれなりにいいはずなんだけれどね。
 やっぱり度胸が足りないみたいだ。
 即研究対象物って事態は避けられたのは確かだけど」
「……」
「君には君の生活があったのに、こんなことになってしまった。本当にごめん。
 なんとかうやむやにして君を元の場所に返せるようにするよ。その、ちょっとだけ我慢してほしい」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 21:07:12.63 ID:rVhEFPKqo

 本当は気は進まなかったのだ。
 他人を面倒を押し付けてまで自分の保身を図るなど。
 それではきっと、人として大事なものを失ってしまう。

「……あ。でも勘違いしてほしくないのは、彼も本当は悪い奴じゃないってことだよ」
「……?」
「確かに他人の都合は考えないけど、自分が正しいと思ったことは必ず成し遂げる。
 それがどんなに困難だったとしてもね。僕も昔ロックのそんなところに助けられた。
 なんて言うんだろう。彼はね、人当たりは悪いけど、性根までは腐ってないんだ」

 少女が納得してくれたかはわからない。
 ただ、彼が視線を下ろすと彼女はもう震えてはいなかった。

「本当にごめんね……」
「パパが……」

 少女が口を開いた。

「?」
「パパが言ってたの……」

 少女の声は小さくか細く、聞き取るのに苦労した。
 だが、好感のもてる美しい声音だった。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 21:08:54.58 ID:rVhEFPKqo

「……なんて?」
「いつか、わたしを迎えに来る人たちがいるから……その人たちについて行けって……」
「へえ……?」

 パパって誰だ?
 疑問は湧いたが、訊いても答えないだろうなと勘が告げていた。

「あ、そうだ。まだ僕らの名前を教えてなかったね。僕はウィリアム・オウル。
 しがない弱小貴族の一人息子だ。ウィルと呼ぶといいよ。
 そして彼はオルトロック・アロー。僕とは比べ物にならないくらいいいとこの息子だ。
 彼のことは……僕はロックって呼んでるけど、今君がそう呼んだら怒るだろうね。
 もし慣れてきたらそう呼ぶといいよ」

 彼女が控えめに頷くのを確認し、少し寝ることを提案して部屋を出た。
 相棒はきっといつものように酔いつぶれるはずだから後で介抱に行かなければならない。
 またため息が出た。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 21:11:33.64 ID:rVhEFPKqo

     ※


 机で書類を読んでいた壮年の彼――キリト・スライは副官の呼ぶ声にしばし気付かなかった。

「……なんだ?」
「良かったのですか騎士団長」
「彼らか」
「ええ、何とでも理由を付けて免職を取り消すことはできたはずです。相手はあのアロー家ですよ?
 私も表向きは平静を演じましたがこれはかなり……」
「そうだな」

 書類を読む目を止めずに彼は応じた。

「ならばなぜ?」
「年長者の義務だからな」
「はい?」

 やはり書類から目を離さないまま騎士団の頭は続けた。

「後進の育成だよ」
「つまり?」
「彼らには期待している。そういうことだ」

 彼は淡々と書類にサインを施した。

「……アローの男とは言え、少々荷が重すぎやしませんか?」
「獅子は子を幾百もの試練で鍛えるという」
「彼は乗り越えると?」
「さて……」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 21:15:21.69 ID:rVhEFPKqo

「……恐れながら申し上げます。それは軽挙にすぎるかと」
「……」
「もし彼に深刻な害があれば、卿が黙ってはおりますまい。
 それに時間もかけていられません。彼は奴らとの戦いのための大事な戦力です」
「……」
「騎士団長」
「果たして――」

 やはり書類から目は離さなかったが、彼の視線がある一点で止まった。
 記入した者の几帳面さがうかがえる整った字。
 一人の男の名がそこにある。

「成し遂げるのは本当にアローなのか」
「は?」
「あるいはオウルかもしれんな」
「……あの下級武官の息子が?」

 副官の眉間が訝しげに寄る。

「有り得ません、あれは怯懦の極みです」

 長は答えなかった。
 ただ、凝視する。
 力を持ちながらも仕えるべき国を持たないその男の名を。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[前回感想・助言thx! sage]:2011/04/02(土) 21:17:12.71 ID:rVhEFPKqo

 to be continued...
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/02(土) 22:44:39.84 ID:O/5CAwFWo

今ひとつ全体が見えてこないな
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/02(土) 22:59:16.58 ID:rVhEFPKqo
>>44
意見thx
早急対処を約束
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/02(土) 23:02:31.80 ID:O/5CAwFWo
>>45 進まないと分からない部分があるのは当然だが世界観の説明がもう少し欲しいかな
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/02(土) 23:08:13.78 ID:seMiNlgDO
最初の掴みが、イマイチ!会話形式に慣れる俺には、文章が長い。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/02(土) 23:55:07.33 ID:rVhEFPKqo
>>46>>47
具体的で大変助かる
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/03(日) 00:00:01.48 ID:oZxktyuDO
これ好きだな。この雰囲気と言うかテンポを保ってほしい。頑張ってくれ
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/04/03(日) 01:01:22.60 ID:D8VC7vIJ0
世界観をもっとkwsk

あと1乙
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)[sage]:2011/04/03(日) 06:06:22.78 ID:A+XnZRfO0
初見だが、オリジナル総合に投下してた人かな?

世界観があんまりわからないのも
ローグ系のゲームやってるみたいで個人的には好感
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/03(日) 07:20:06.89 ID:PgOVj4mDO
世界観は少なめに、説明的文章が増えるとゴジャゴジャして、テンポ悪くなる!
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/03(日) 07:25:56.84 ID:D/3S+L2do
世界観説明おk
ただしバランスとやり方とテンポに気をつける
thx
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/03(日) 07:48:33.56 ID:D/3S+L2do
ついでに
オリジナル要素と俺の勉強不足が重なって、だいぶ分かりにくく申し訳ないと思う
特に分からない謎な部分、知りたい部分など教えてもらえばバランス、展開を考慮したうえで重点的に描写していく
協力お願いします
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/04/03(日) 07:57:12.80 ID:MALuqDJAO
現状維持で問題なし派
世界観が分からないわけではないし、地の文のバランスだって気になるところはないかな
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/03(日) 17:07:24.43 ID:PgOVj4mDO
館、女の子、
執務室、クビ
展開が面白い、映画的な、あまり見掛けない展開がいいね!
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage ]:2011/04/04(月) 00:01:45.42 ID:4m+uUFnU0
乙です。
ここは貴方の世界だから、思うが儘に描いて下さい。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/04(月) 11:24:36.60 ID:yIqajdpDO
方向性がわからないから、不安定、方向性がわかれば読む方、安心するけど、作者に任せるわ!
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/05(火) 19:44:49.48 ID:XAKsuA5uo
次の投下は早くて明後日、遅くて土曜あたりになる予定
これはもうちょっと調査と設定練りが必要と判断したためで、
もし待つという人がいたら申し訳ないですはい。慌てず急ぐ
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/05(火) 22:24:54.84 ID:MaJoBVrko
待ってる
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/11(月) 11:31:57.46 ID:Onj29wiDO
約束は守れなかった用だな!いい作品で返してくれ、期待しているよ!
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 17:02:57.71 ID:GkR30S+0o

「≪大いなる陸地≫。そう呼ばれる大陸に俺たちの国はある」

 ひどくだるそうな声がした。
 昨日酒の魔力に負け、溺れた、哀れな敗者の声だ。

「六大大国が一つ、剣の王国だ」

 その声はテーブルに突っ伏しているせいか、くぐもってひどく聞き取りづらい。

「金色の穂揺れる金野原の国、火花散る鉄山の国、
 紙とインクの大梟の国、寄せ集めたる群れの国、
 悪名高き城壁の国。
 そのどの国よりも強く、雄々しい剣の王国。
 そう、俺たちの国だ」

 声の主はひどく弱っているようだった。体力的には知らないが、精神的にはひどく参っている。
 そう見えた。

「君主国はいくつもあるが、剣の王国が、特に他と分けて"王国"と呼ばれる理由。
 それは≪剣の王国騎士団≫だ。剣国騎士団とも言う。
 王の剣たる最強の戦士たち。
 その異様なまでの軍事力を誇っているから、王の国、なんだ」

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 17:04:11.86 ID:GkR30S+0o

 そこでようやく相棒は顔を少しだけ上げた。
 生気のない目が横目に見えた。

「小さいころから言い聞かされてた。
 俺はいつかその一員になって、ひとかどの人物になるんだって。
 武功を立てて、幹部に昇り詰めて――」
「飲みすぎるとよくないっていつも言ってるでしょ」
「そして、ゆくゆくはこの国の英雄になるんだ」

 相棒はいつものようにこちらを無視した。

「俺は親父に教育と称して殴られ叩かれする理由をそういうふうに教えられてたし、そう信じてた。
 そうだ、俺は大人物になるんだってな。
 だから踏ん張ってこれたんだよ……」
「……」

 二日酔いの彼はひどく消耗し、だらりとしてしまうのが常だが、今回はいつものそれに輪をかけてひどかった。

「……まあ、自業自得と思うけどね」

 右隣から迫る殺気と若干弱弱しい拳から退避して座り直すと(距離を取るのを忘れない。弱った相棒は追ってこないだろう)、
 ウィリアムは腕を組んだ。

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 17:05:44.01 ID:GkR30S+0o

「仕方ないよね。
 あの時ロックが山越えなんて言わなければこんなことにはならなかったし。
 どんなに苦労してようと、それが不意に無駄になることなんてよくあることだよ。
 だいたい――ああいやもちろんロックが頑張ってたのは知ってるけども」

 最後の一行は相棒の手が剣の柄に伸びたのを見て急遽付け加えたものだ。

「……それでもこの仕打ちは耐えられねえよ。強くなきゃ生きてる意味がねえし」
「優しくなきゃ生きてる資格がない気もするけどね」
「……」
「ところでさ」
「んだよ」
「どうしたのさ」

 それ、と控えめに相棒の頬を指さす。赤く腫れている。
 といってもそこだけではない。
 目の周りも軽度の痣になってしまっているし、拭いてあるものの鼻血の跡もある。
 相棒は、ああ、と頷いた。

「親父にカンドウされた」
「……?」
「感動されて勘当された」
「……ああなるほど」

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 17:07:31.15 ID:GkR30S+0o

「親父はまず笑ったよ。オルトロック、今日はいい報せがあるんだ、ってな。
 俺も笑った。それは俺の報せよりも上等かい、と。
 親父の青筋が増えたか太くなるかした気がするがそれはどうでもいい。
 親父は新品の剣を持ってこさせてから言った。ちょうど試し斬りをするとこだった、って」
「それは……すごいね」
「ああ、すごい上等の剣だったぜ」
「いや……ああそう……」

 とその時、部屋の扉が開いた。

「お待たせしました、傭兵隊長がいらっしゃいましたのでこちらへどうぞ」

 やっとか、相棒がつぶやく。
 二人は傭兵隊長に会うためにこじんまりとした待合室で待たされていたのだ。
 待ち時間は短くなかった。
 先ほどの会話の前にも延々と相棒の愚痴を聞かされていたし、呼び出しがなければまだ続いていただろう。

(愚痴はこれっきりだといいけどね)

 それはかなり無理な話に思えたが。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 19:08:22.91 ID:GkR30S+0o

 さて数刻ほどのち、そこでウィリアムは思い出していた。自分の父親の事だ。
 彼は、獅子は試練でもって子を鍛える、などとうそぶく割には弱弱しかった。
 母が病で死んでしまってからは、さらに気弱になった感がある。
 何に関してもびくびくしている自分を見ているようで、彼のそんなところはあまり好きではなかった。

 ただ、父は優しかった。
 生前の母は厳しかったが、彼女に叱られて逃げ込む先はいつも父の書斎だった。
 彼は形の上ではウィリアムを叱りつつも、母から匿ってくれた。
 そう言う意味では父のことは好きだった。

 武官であるにも関わらず父の部屋は本で埋まっていて、その点もウィリアムにとって好感だった。
 母が遠ざかっていったあとは適当に本を探して父のひざの上で読書をしていた。
 難しい字のほとんどは父に教わったのだ。

 騎士団をクビになったことを告げた昨日、父は特に何も言わなかった。
 何か言いたかったのかもしれないが、父が何か言う前に出てきてしまった。
 ウィリアムを、父は止めなかった。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 19:09:43.64 ID:GkR30S+0o

 そんなことを思い出したのにあまり理由はない。
 しいて言えば、

「がはははははは!」

 この笑い声の対極にいるのが父のような気がしたせいかもしれない。

「うるせーな」

 隣に立つ相棒がうめく。
 ウィリアムも心の中で同意した。
 笑い声はしばらく続いて、それからおさまった。

「おう、兄者から聞いているぞ、お前たちが例の見習いか!」
「……」
「ただの演習で迷子になった挙句、こんなところに飛ばされたらしいな馬鹿どもめ!」

 声の主が笑うのに合わせてその背後の数人も含み笑いを洩らした。
 相棒が舌打ちする。例のごとくウィリアムは聞かなかったふりをした。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 19:11:32.26 ID:GkR30S+0o

 塀で囲われた広場。
 ここは傭兵隊の管理下にある訓練場王都支部だ。
 簡単な鍛錬はここで行われ、ただの平民を良質な傭兵に変える。
 その敷地を背後にそびえたっているのは――その表現があっているように思える――、一人の巨漢だった。

「態度がでかくて大変よろしい! 俺はデグラ・スライ、傭兵隊長を務めている。
 普通ならば見習い相手に出張ってくることはないんだが、今回は特別だ!」
「へえ、俺がアローの息子だからか?」
「そう思いたいなら思っとけ!」

 傭兵隊長は一気に言いきると、さっと振り返って歩き出した。
 当然ウィリアムたちはそれに続こうとして――デグラの背後に控えていた数人に行く手をふさがれる。

「……なんだよ?」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 19:12:30.93 ID:GkR30S+0o

「テストだ!」

 人の壁の向こうにのしのしと進む傭兵隊長の頭が見える。

「お前たちの実力を見せてみろ!」
「はあ?」
「お前たち、全力でやれ! 手ぇ抜いたら飯も抜くからな!」
「承知いたしました!」

 威勢の良い声とともに目の前の傭兵たちが抜剣する。
 動作に淀みはない。少なくとも訓練期間は一年をくだらないと見える。

 いきなりか。とウィリアムは狼狽した。
 確かに傭兵隊長デグラ・スライは豪快な性格と有名だが、いきなりか。
 思わず震える足取りで一歩下がった。

 と。
 相棒のため息が聞こえた。

「こっちは二日酔いなんだよ」

 その手にはすでに抜き身の剣。

「だから手加減はできねえからな」

 その口角がきりりとつり上がった。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 19:54:17.77 ID:GkR30S+0o

◆◇◆◇◆


 怒号が飛び交っていた。
 相当に騒がしいはずなのだが、どこか寒々しい。
 この北の地にはまだぬくもりはない。
 ただ、そんなことを考える余裕は実のところなかったが。
 剣の王国騎士団北管区長は荒野に展開する部隊、その伝令兵に矢継ぎ早に指示を出した。

「奴らを槍兵隊で押し戻せ! それから弓兵隊を前に!」
「は!」

 さほど間を開けずして指示どおりに槍兵の列が整然と前進する。
 その間にいくつかの影がすばやく飛び交う。
 槍兵の数人が転倒したのが見えた。

 いや、彼らは訓練された戦士だ。
 転倒した、のではなく打ち倒されたのだ。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 19:59:55.90 ID:GkR30S+0o

(化け物どもめ……)

 十数マイル程先に、そびえたつ壁が見える。大きい。
 小高い丘の上にあるこの陣営と同じくらいの高さがある。
 横にも長い。右にも左にも果てしなく続いている。
 その内側は見えない。そこには一体何がある?

(怪物領域か!)

 夢想に沈むうちにも事態は進行している。
 槍兵の奮闘によって、≪化け物≫たちはだいぶ後退したようだった。

「槍兵隊後退! 弓兵隊、矢をつがえよ!」

 槍兵が後退を始めるが、数個の影がすぐさま反転し、それに追いすがるのが見える。
 しかし焦りはない。焦ってはいけない。

「――放てッ!」

 声とともに矢が天を駆け昇る。
 弧を描いたそれは、一瞬の後、一気に下り影を呑み込んだ。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/16(土) 20:00:46.66 ID:GkR30S+0o

 to be continued...
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/04/16(土) 20:23:05.30 ID:Ylgt6LdEo

完結さえしてくれればなにしたっていいよ・・・・・・
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/04/17(日) 09:10:23.19 ID:8n6Eg14xo
期待
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/17(日) 17:44:50.43 ID:huW+QNpDO
2人?
3人?
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/17(日) 22:14:14.19 ID:huW+QNpDO
最初、相棒、
一人称、俺が居て相棒2人の印象がある!
ロックの相棒がウイリアムス、ウィリアムスの相棒がロッキで2人か?
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/18(月) 18:18:50.81 ID:yM5v7x3Mo
>>73
約束をやぶった事だったら申し訳ない
プロットがようやく確立したからペースは上がると思う
そのこと以外で俺が何かやらかしていたら、すまないけど教えてほしい

>>76
申し訳ない、何を言ってるのか分からなかった
とりあえずウィリアムの相棒がロックで、二人より多いということはないので脳内補完をお願いしたい
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:30:57.18 ID:yM5v7x3Mo

 この大陸に傭兵隊と名のつく戦闘集団は数あれど、剣の王国傭兵隊に並ぶものはめったにない。
 だからそれをくじくのは易くはない。だがしかし難くもない。
 それがオルトロックの感想だった。

「せッ!」

 気合とともに剣を振りぬく。
 硬質な手応えとともに相手の得物はすっぽ抜けて飛んでいった。
 返す一手で鳩尾に一撃。昏倒する傭兵を蹴飛ばし、手と得物を引き戻す。

「わわ!」

 ウィリアムの声。
 オルトロックのすぐ横を駆け抜ける彼を追って、男が一人駆けこんでくる。
 そしてどうやらその男は、標的をオルトロックに変えたようだ。
 大上段からの一撃。
 突撃の勢いを乗せたそれを、オルトロックは舌うち一つでいなした。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:31:57.64 ID:yM5v7x3Mo

 重い一撃だったが、流してしまえばどうということはない。
 一歩でそれを無効にすると、彼はさらに別の一歩を踏みこんだ。

「ほらよッ!」

 鈍い手応え。ずるりとくずおれるその向こうにウィリアムの照れ笑いが現れる。

「はは……」
「お前なあ」

 文句の一つも言いたかったが、その代わりに彼を思い切り突き飛ばす。
 よろめいたウィリアムに機先を制される形で、大柄な男はたたらを踏んだ。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:32:42.17 ID:yM5v7x3Mo

 鋭く息を吐き剣を一閃。
 ウィリアムの陰から手首をえぐられ、大男の剣が地に落ちる。
 重傷ではないが、これでしばらくは戦えまい。

 痛みに倒れる男……と一緒に地面に投げ出されるウィリアムを無視し、オルトロックは最後の一人を睨んだ。
 まだ若い――二十の半ばといったところか――その男は、口笛を一吹き鳴らすと、肩に担いだ長剣を下ろし、

「……」

 構えた。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:33:17.08 ID:yM5v7x3Mo

 易くもないが、難くもない。
 その評価は、若干の修正が必要だろうなと、

「っ……」

 一撃にあおられながらオルトロックは判断した。
 その傭兵の攻撃はひどく重かった。

「シッ――!」

 得物それ自体の重量も相当のものだ。
 だが、それを威力に変えるのははっきりと使い手の技量である。
 一手をかわし、一手をいなし、だが確実に選択肢は減っていく。

(この……!)

 認めたくはなかったが手練だ。
 平民の中にも、いた。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:33:46.20 ID:yM5v7x3Mo

(いやいや落ち着け……)

 心乱せば隙が生じる。隙生じれば勝ち目はない。
 あのクソ親父の教えだ。
 大きく後退し、距離を取る。
 男は追ってこず、そのまま長剣を脇に構えた。

 確かに付け入る隙はない。心の中で頷く。
 相手の得物はツーハンデッド・ソード、まともにやり合えば威力で負ける。
 ならば速度と手数で攻めればよいのだが、

(……ないな)

 繰り返すが付け入る隙はなかった。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:34:26.32 ID:yM5v7x3Mo

 威力で勝てないが隙はない。
 そうして選択肢は限られる。
 選択肢が限られるということは相手にとって対策は容易。
 それで斬り合えば勝機はない。
 勝機がなければ負けるしかない。
 負ければ……

(負ければそこで終わりだ)

 これもクソ親父の教え。
 負ければ戦場ではすなわち死。
 当然のことながらそこから先はない。
 ならば勝つしかない。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:34:55.04 ID:yM5v7x3Mo

 同時だった。
 地を蹴り離すのは同時。
 攻撃も同時。
 ただ、得物の重量の分、オルトロックの方がその速度は上。
 リーチを含めてもオルトロックの方がまだ速い。

(届け!)

 手加減はない、その余裕もない。
 刃を必殺の軌道に乗せ、相手の胴を薙ぐ。
 手ごたえは――あった。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/18(月) 20:35:05.85 ID:8wXVv3nDO
2人なら地文で相棒は変だ!地文なら固有名称を使うべきだろう!
会話の中ならOKだろう!相棒の使い方の認識の違いみたいだ!
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:35:54.40 ID:yM5v7x3Mo

(勝っ――)

 思うと同時に衝撃に沈む。容赦のない轟音が、オルトロックを地面にたたきつぶした。
 ……うめき声すら出なかった。

 歪む視界をようやくのことで持ち上げる。
 革鎧の前面を引き裂かれ出血するその傭兵は、それでも動きを止めなかった。
 長剣をゆっくりと大上段に持ち上げ――

(こいつ、マジで……)

 俺を殺す気だ。

 だが、それと同時に見えたものがあった。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:37:04.25 ID:yM5v7x3Mo

「だッ!」

 男が脇の下から血を噴いた。
 革鎧の防御のないそこを剣で薙ぎ払われ、男の身体が傾ぐ。
 ウィリアムだ。

 それもそうだ。
 あの馬鹿は臆病だが、それでも勝機を逃す程阿呆ではない。
 そして、目の前のこの男はそんなことも分からない愚か者だ。

 長剣はその重量で大きな威力を発揮する。
 が、それは保持する健康な身体があるという前提のもとでのことであって、
 その前提が崩されればそのような重量物、ただの荷物でしかない。
 男がよろめくその足元に。

「……ッ!」

 身体をよじって蹴りを放つ。叩き潰された肩が猛烈に痛んだが、どうでもいい。
 男がその蹴り足をふみ、盛大に転倒した。
 そしてそれに飛びかかる相棒。

(勝ったか……)

 どこかほっとしたような心地で。
 オルトロックの意識は闇にのまれた。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/18(月) 20:37:51.50 ID:yM5v7x3Mo

 to be continued...
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/18(月) 20:42:38.86 ID:yM5v7x3Mo
>>85
む、難しいな
こう見えてバカなんだよ俺
いや申し訳ない
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/18(月) 20:49:59.94 ID:8wXVv3nDO
ごめんなさい!変な所にコメント入った!77スレを読んで 書いたけど、投下中だと分からんかった!
ごめんなさい、反省してます!
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/04/18(月) 20:59:58.86 ID:0GJgv3VAO
相棒が二人だと思うのはかなり読解力に問題がある気が……
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/18(月) 21:05:57.78 ID:yM5v7x3Mo
>>90
いや気にしないでほしい、レスは大歓迎
でも「ウィリアムス」、「ロッキ」は個人的に気になるわけですはい
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/18(月) 21:20:47.80 ID:8wXVv3nDO
2人のに地文に相棒をを使う?固有名称が普通でしょう、自分があっての相棒!最初、一人称、自分と相棒2人、一人称語りの計3名のイメージを持ったけど自分の存在が出てこないから混乱しだけ!
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage ]:2011/04/19(火) 07:00:19.70 ID:SLAgLxXp0
乙です。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/19(火) 10:02:31.41 ID:OkNw2zNMo
>>93
ごめん、やっぱり良くわからないからこれからの課題としてゆっくり考えていくよ
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:42:29.14 ID:OkNw2zNMo

 筋骨隆々小山のごとしの傭兵隊長は、再びだみ声で笑った。

「まあ、及第点だ。ポカした元見習いのくせにそこそこやるじゃねえか」

 巨体と髭で熊のような風貌。
 その大男の声は何やらやたらと迫力がある。

「及第点、か」

 その笑い声に隠れるようにして、相棒のつぶやきが聞こえた。
 医者に見せたところ骨に異常ありということで、彼は肩を三角巾で固定してウィリアムの横に立っている。

「おう、及第点だ。ほそっこいのが降参しなければ、もうちょっと加点してやっても良かったがな」

 即座に飛んでくる相棒の尖った視線から目をそらし、ウィリアムは先ほどの模擬戦闘の結末を思い出していた。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:43:20.29 ID:OkNw2zNMo

     ※


 長剣を取り落として転倒した男の背中にまたがり、ウィリアムはその首に剣を突き付けた。
 告げる。

「僕はあなたを怪我なしに戦闘不能にする方法を持ちません。降参します」
「は……? おいウィル!?」

 地に伏す相棒が抗議の声を上げるが、ウィリアムは聞き流した。

「聞き入れてもらえますか? でなければあなたは小さくない傷を負うことになりますが」
「……」

 男は横目でこちらを見上げた。特に感情という感情をこめない平坦な目。
 硬い石のような。

「……傭兵隊長もそれでいいでしょう?」

 十歩ほど離れた場所からこちらを眺めていた彼は、すぐには返事をよこさなかった。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:44:07.22 ID:OkNw2zNMo

「……」

 ウィリアムの頬を汗が伝う。
 下の男からは目を離せない。気を抜けばすぐにでも立場が逆転する恐れがある。
 そうなれば"勝てはしなかったが、負けなかった"という事実を刻むことはできない。

 まあ厳密にいえば負けるのだが、完全に打ち負かされたのとはだいぶ違う。
 それによって傭兵隊長の評価は変わるし、下りてくる仕事が比較的大きくなり、相棒の満足度も変わり、ついでに自分の境遇も変わってくる。
 それはウィリアムにとっては重要なことだ。
 そしてあの少女にとっても。

「まあ、いいだろう」

 だから、傭兵隊長のその声を聞いたときはほっとしたのだ。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:44:55.46 ID:OkNw2zNMo

     ※


「それにしてもお前たちは面白い組み合わせだな」

 傭兵隊所有の建物、その廊下を傭兵隊長について歩いていた。

「公爵家と男爵家の組み合わせがそんなに面白いか?」
「俺が言ってるのはさっきのお前たちだよ」

 口調に気を使わない相棒にひやひやしながらも、傭兵隊長が言っている意味は気になった。

「どういうことです?」
「お前は弱くて臆病に見えるが阿呆ではないな?」
「……どうでしょう」

 傭兵隊長デグラは肩越しにこちらに振り向くと、にやりと口元を引き上げた。

「俺の目はごまかせんぞ。お前は確かにあの中で一番技量はなくまともにやり合えば最初に脱落していた。
 だが……いや、だから自分の強みを生かしたわけだ」
「何だそれは」
「なんだ、気付いてなかったのか? お前だよアロー」
「は?」
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:46:51.34 ID:OkNw2zNMo

 デグラは続ける。

「あの時、一番練度で劣ったオウルは自分の強みを生かした。
 すなわち、自分に強力な味方がいることを、だ」
「……なるほど、それが俺か」
「自分では敵わない相手はお前に任せ、お前の技量に注目させる」
「そして、俺に奴らの注目が集まったところで自分はその隙を狙う、って寸法か」

 相棒の横目視線がより厳しく鋭くなった。

「はは……」

 笑ってごまかそうとするが、失敗したようだ。

「俺を利用したわけだ」
「ごめん」
「別にいいぜ、アイボウだしな」

 露骨な嫌味口調。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:47:39.44 ID:OkNw2zNMo

「助け合ってるんだか利用してるんだかわからない。だから、なかなか面白い組み合わせ、というわけだ」

 デグラは前に向き直ると、つきあたりのドアの前で止まった。

「ここが俺の部屋だ」

 ドアの向こうは待合室とそう変わらない狭い部屋だった。

「……」

 いや、見回すと分かるが、面積自体はそれなりにある。
 が、騎士団長のものと比べると見劣りするし、なにより、

「ひでえな、こりゃ」

 相棒の言う通り、ひどかったのだ。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:48:12.66 ID:OkNw2zNMo

 壁際には本や書類が積み重なり床面積の大部分を圧迫している。
 残りは執務机、衣服や中身のわからない木箱などが占拠していた。
 机の上もカップやら書類やらで表面が見えなくなってしまっている。

「俺の居住スペースでもあるからな」

 特に恥じる様子もなく、書類を書き分け進むと机に着いた。

「さて」

 一呼吸。

「本日をもってオルトロック・アロー、ウィリアム・オウルの二名を、傭兵としてこの隊に迎え入れる」

 先ほどまでのどこか適当な態度とうって変わって、おごそかな口調だった。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:48:52.61 ID:OkNw2zNMo

「騎士ではなく?」
「騎士ではなく、だ。特別扱いはしない。いいな?」

 はあ、と相棒がため息をつく。

「ま、すぐにこことはおさらばだけどな」
「そうなるといいな」

 傭兵隊から騎士団に移籍した例は少ないが、あるにはある。
 なによりあの少女がいる。

「承知いたしました、これからよろしくお願いいたします」
「おう、よろしく!」

 ウィリアムに威勢よく応じた傭兵隊長は、「というわけで」と続けた。
 ついでにさしだされる一枚の封書。

「早速初任務だ」

 相棒が色めき立つ。

「でけえ仕事か?」
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:49:27.41 ID:OkNw2zNMo

 だが傭兵隊長は、いいや、と首を振った。

「これをある人物に届けるんだよ」
「は? お使いなら下っ端にやらせとけよ」
「じゃあ、お前たちの役目だ」

 デグラは笑うとウィリアムに封書を押し付けた。

「封書の宛名の人物を探せ。そしてそれを渡すんだ」

 封書の表面に目を落とす。

「"フォールス・ネイム"?」
「胡散臭え名前だな」
「この人物はどこに?」
「さあ?」
「は?」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/19(火) 11:50:14.03 ID:OkNw2zNMo

 傭兵隊長の顔を見るが、彼は笑って手を振った。

「俺は知らねえよ。兄者がお前らに探させろって言ってたんだ。
 おっとこれは言っちゃまずかったか。忘れろぃ」
(騎士団長が?)

 キリト・スライ、デグラ・スライ。
 騎士団長と傭兵隊長が兄弟であることは有名である。
 だが、騎士団長が傭兵隊長を経由してまでわざわざ自分たちに下す任務とは何だ?
 ウィリアムはいぶかったが、デグラは笑って言う。

「まあそんな身構えるな。どうせ大したもんじゃねえだろ。さあ分かったらさっさと出てけ」
「……かしこまりました」
「昼飯とか支給されねえのかよ」

 確かに時刻はちょうど昼時だった。だが傭兵隊長はすげなく返してくる。

「言ったろうが。手を抜いたら飯も抜くってな」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/19(火) 11:51:38.79 ID:OkNw2zNMo

 to be continued...
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/19(火) 11:55:38.54 ID:OkNw2zNMo
オリジナル度の高いものは初めてなので、意見・批評・アドバイスは甘口辛口関係なく随時募集
頭がよくないので上のようにすぐには理解できないこともあるだろうけど、どうかご協力お願いします
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/04/19(火) 15:04:58.93 ID:XL5UTkAAO
乙です
アドバイスとか出来そうも無いし今の所不満も無いし…
とにかく次回にも期待してます
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/04/19(火) 22:24:41.72 ID:APM3OcdAO
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage ]:2011/04/20(水) 06:01:42.87 ID:7Z+8M56/0
乙です。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga >>108どうも]:2011/04/23(土) 08:31:35.25 ID:SJjiHYjwo

 奥まった薄暗い裏路地の真ん中。そこに一人の少女が立っている。
 栗色の長い髪、あどけない顔立ち。ちんまりとした体躯。
 弱気な丸い目からの視線をきゅっ、と精一杯尖らせて、彼女は路地の奥を見据えていた。

「……」

 ここには風が吹かない。日の光は降り注がない。
 あるのはよどんだ空気のみ。

 生ぬるく頬を撫でる空気。
 じめじめと履物の裏を湿らせる地面。
 ここには風が吹かない。

 と。
 少女がおもむろに片手を掲げた。
 真っ直ぐ路地の奥。
 そこにあるのはレンガの壁と、壊れた木箱。

 突如、小さく何かがはじける音。
 それから燃え盛る炎の轟音。
 焼き尽くされる木箱の悲鳴。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 08:33:06.75 ID:SJjiHYjwo

 木箱は盛大に炎上したものの、しばらくもたたないうちに水によって消し止められた。
 黒髪小柄の少年は、水が入っていた桶を右手にぶら下げ背後を振りかえった。

「……」

 そこにも壁に寄りかかる少年がいる。
 金の長髪を後ろでまとめ、引き締まった顔つきはいつも通り怒っているように見えた。
 大柄ではないが、背はすらりと高い。
 彼はしばらく沈黙していたが、すっと壁から背を離すとゆっくり路地の真ん中に歩いてきた。

「どうだ、ウィル」
「ううん……」

 ウィルと呼ばれた黒髪の少年は、顎に手を当てると悩んでいるふりをした。
 その二人の様子を、離れたところから少女がびくびくとうかがう。

「さてね」
「分かったことがあったら何でも言っとけ。無駄に怪我したくなけりゃあな」

 物騒なことを言う相棒オルトロックに、ウィリアムは顎から手をはなして苦笑した。

「今はロックの方が怪我してるじゃない」

 確かに彼の左肩はいまだ三角巾で固定されていた。
 先日の傭兵隊支部での傷は治っていない。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 08:34:13.48 ID:SJjiHYjwo

「お前を叩きのめすのに不便はねえ。とにかく何でもいいから聞かせろよ」

 新しい魔術の実用化のため、少女の魔術について調べたい。
 そう言って裏路地に彼らを連れてきた彼はふん、と鼻を鳴らした。
 それをしばし眺めて、ウィリアムはすこし考える。

「そうだね……じゃあ僕が分かることは一つだけだ。
 彼女が使う魔術は僕たちが知っているものとは異なること」

 血陣魔術。それが今広く世界で知られている『魔術』と呼ばれものだ。
 血で構成陣と呼ばれるものを描画し、それによって力を取り出す技術である。
 血がなくては構成陣が描けない。構成陣が描けないということは魔術として成り立たない。
 そういうものだ。
 だから、血も構成陣もなく魔術を使って見せた彼女ははっきりと異常だった。

「んなこた分かってる。だからこそそれをモノにしようってんじゃねえか」
「そうだね。だけどそのためにはまず違いを認識しないと駄目だよ。
 彼女は血と構成陣を必要としない魔術を使用しているように見える。
 だからそれは新しい魔術体系じゃないか、そう考えられるわけだ」
「まあそうだな」
「でもそれは正確じゃない」
「ん?」

 相棒が片方の眉を上げる。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 08:35:13.16 ID:SJjiHYjwo

「さっきも言ったよね。
 彼女は血と構成陣を必要としない魔術を使用しているように"見える"。
 そうなんだ。実際に血と構成陣を必要としていないのかどうなのかはわからない」
「実際使ってねえじゃねえか」
「血なんて体内にたくさんある。例えばそれが外傷なしに減っていようとも外から判別する術はない。
 また、構成陣が目に見えるところに展開されてるとも限らない」

 彼はさらに怪訝そうに顔をしかめた。

「……お前は大した奴だな。言ってることがよくわかんねえ」
「そうかもしれないね」

 少女の方をちらりと見る。
 その視線にもびくりと反応する彼女にウィリアムは苦笑して、先を続けた。

「まあ何にしろ、すぐに真似できるモノじゃなさそうだ。だから――」
「駄目だ」
「……まだ何も言ってないよ?」
「どうせあいつが気の毒だとか下らねえことぬかすんだろうが。却下だ却下。
 俺の邪魔をさせはしねえよ」
「……」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 08:36:02.88 ID:SJjiHYjwo

 相棒はそう言うと少女の方に歩き始めた。

(自分は他人の人生を邪魔してることが分かってるんだろうか)
「強くなきゃ生きる意味がねえからな」
「……優しくなきゃ生きる資格がないよ」
「言ってろ」

 彼は、身体をこわばらせた少女の脇を通り抜け裏路地の出口の方に歩いて行った。

(勝手なんだから)
「と、そうだ」
「ん?」

 路地の曲がり角で相棒が振り向く。

「そいつも傭兵隊に登録しといた。お使いの宛先人を探せ」

 そいつ。それが示すのは恐らく――

「はあ!? まさかクリアも傭兵隊に入れたの!?」
「そう言ってんだろうが」
「馬鹿な! この子が戦えるはずがない!」
「別に戦わせるたぁ言ってないだろ」

 相棒はだるそうな目になると首を掻き、

「傭兵として行動してりゃ雑務はいくらでも出るからな、そいつにやらせりゃいいだろ。
 ついでに逃げないか監視もできて一石二鳥だ。
 さしあたってフォールス・ネイムとやらを探させればいい。
 分かったらさっさと調べさせろ」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 08:36:41.17 ID:SJjiHYjwo

 そう言うと角から姿を消した。
 反論する暇もなかった。

(まずいな……)

 少女を元の生活に戻してやる方法として、こっそり逃がすことも考えてはいたのだが。
 これで選択肢が一つなくなった。
 いまだ所在なさげにそこに立っている少女を見ながらウィリアムはうめいた。

 少し考えて、どうしようもないことに気付く。
 相棒も変なところで頭が回る。

「……仕方ないか」

 適当なところで諦め――諦めていいものか疑問だが――、ウィリアムは少女の方へ歩み寄った。
 こちらをうかがう彼女をあまり怯えさせないよう距離を取って立ち止まり口を開く。

「またごめんだね……彼にしてやられた。
 君はこれから傭兵隊に所属することになる」

 少女が不安そうに表情を曇らせた。

「ああ、いや。僕も助けるし、そこは心配しなくてもいい。
 ただ、元の生活に戻るにはもっと時間がかかりそうってことだ」
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 08:38:02.61 ID:SJjiHYjwo

 そこにはあまり頓着しないのか、それ以上少女の顔が曇ることはなかった。

「……ってことで、早速最初の仕事なんだけれど」

 持ってきた鞄から封書を取り出す。

「これを宛名の人物に届けなきゃならないんだ」
「フォールス・ネイム……」
「そう」

 識字は可能なようだ。

「で、この人の所在を調べると、そういうわけ」

 少女が小さく頷く。

「うん、じゃあ行こうか。僕も手伝うよ。慣れない土地で不便するだろうし」
「あり、がとう……」
「うん」

 ウィリアムはくすりと笑うと、少女を連れだって路地の出口へと足を進めた。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/23(土) 08:39:26.32 ID:SJjiHYjwo

 to be continued...
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/04/23(土) 20:44:54.55 ID:dwr1GnLgo
乙です
まあ引き篭もらせてるよりは外で働かせた方がいいかもなあ
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 21:56:57.11 ID:SJjiHYjwo

 傭兵隊王都支部の資料庫を探ってみたが、手掛かりはなかなかみつからなかった。

「おっかしいな」

 傭兵隊といえども剣の王国のそれは他の雑多なものとは趣が異なる。
 名とは裏腹に正式な王国戦力であり、王都の政方面とも密接な関係を持つ。
 王都からの種々の支援を受ける事ができ、王国の住民に関する情報提供もそれに含まれていた。
 とはいえ。

(まあ確かにネイムさんとやらが王国にいない可能性もあるけれども)

 うす暗い書架の林に向けて声を上げる。

「そっちはどう?」

 木の棚の陰からひょっこりと顔を出したその少女は、ふるふると頭を振って見せた。

「だめか……」

 これはなかなか骨が折れそうだ。資料の束を棚に戻し、ウィリアムはため息をついた。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 21:58:01.48 ID:SJjiHYjwo

「さて、どうしたものかな」

 少女と並んで往来を歩きながら、ウィリアムはぼんやりとつぶやいた。
 横の少女に合わせて歩みは遅い。

「王国の外にいる可能性も合わせて情報を集めないといけないし……」

 頭を悩ませながらふと隣を見ると、少女は落ち着かない様子であたりを見回していた。
 仕方のないことだろうな、とウィリアムは思った。
 裏路地に向かうとき、傭兵隊の支部へと向かうときの様子もこうだった。
 どうやら彼女はずっと山の屋敷を出たことがなかったようだし、ならばむやみに人が多いこの都は彼女に多大な負担をかけるだろう。
 そういった人間に王都はあまり優しくない。直接的な意味でも婉曲的な意味でも。

「はぐれないようにね」

 王都の大通りに近付くにつれて人の数は増えていく。
 あまり彼女の負担になるコース取りはしたくなかったがこれは仕方ない。
 向かっている先は人の集まる場所だからだ。

「居酒屋……?」
「そ、居酒屋。知らないかな、お酒を売ったりしてるところなんだけれど。
 人が集まりやすくて簡易の宿をやってるところもあるんだ。
 つまりそれだけ情報が集まりやすい」

 まあ順当な選択だろう。
 宿に泊まる客と言うのは王都の外から来た人間ということであるし、その中には王国外からの訪問者もいるはずだ。
 外れならば次はもっと大きい宿か、あるいは商館が候補になる。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 21:58:44.97 ID:SJjiHYjwo

 結論から言うと、最初の居酒屋の最初の一人で決着がついた。

「あの人……」

 ざわと騒がしい店内、その入り口をくぐったところで少女がすっと腕を持ち上げた。
 指さすのは店のテーブルの一つに着いて今ちょうどジョッキをあおった男だ。

「あの人がどうかした?」
「あの人が、知ってる……気がする……」
「え?」
「……ごめんなさい」

 ウィリアムの訝しげな視線を受けて、彼女は手を引っ込めると俯いて謝った。

「……」

 ウィリアムはしばし考えたが、どうせ片っ端から声をかけることを思い出し、

「じゃあそうだね、あの人から声をかけてみようか」

 彼女を連れて足を踏み出した。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 22:00:28.30 ID:SJjiHYjwo

「ああ、知ってるぜ。……どうした?」

 面食らったウィリアムの表情を見て、それこそ面食らった表情で男は訊いてきた。

「え、あ、いいや。それで、彼はどこに?」
「兄ちゃん、モノが欲しいときはどうするか分かってるだろ?」
「ええと、一杯でいいですかね」
「冗談。三杯だ」
「……わかりました」

 どうせ傭兵隊の経費から落ちる。

「王都からちょうど西にある村にいたぜ。正確にはいたらしいって話だが」

 一杯目を飲み干した後男の口から出てきたのは、何とも頼りない情報だった。

「え、ちょっと」
「俺は会ってないからな。いや安心しろよ、確かのようだから」

 ウィリアムの表情が曇るのを見ておごりを取り上げられると思ったのか、男はそれらを引き寄せ心もとない断言をした。

「でも、確かのようだ、じゃ困りますよ」
「地図はあるか?」

 ウィリアムのささやかな抗議を聞き流すと、男はウィリアムの荷物から地図を奪い取った。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 22:01:09.96 ID:SJjiHYjwo

「おいおいそんなんで大丈夫かよ」

 呆れた顔でオルトロックが言う。

「でも情報らしい情報はそれしかなかったし……」

 ウィリアムの抗弁に、しかし相棒は冷めた目を元には戻さなかった。

「まあそれを今の今まで確認しなかった俺も俺だけどよ」

 彼はため息をつき、宿の部屋の隅に目をやった。
 彼の視線にさらされ、少女は相変わらず居心地悪そうに身じろぎする。
 ウィリアムは気まずい雰囲気の出口を求めてせまい部屋に視線をさまよわせた。
 結局どこにも行きつくこともなかったが。

 ここは王都の西の村の宿。
 王都から一日をかけて移動し、一夜を経た後だ。
 これからフォールス・ネイムを訊ねようとしていたところである。

「無駄骨だったら殴るからな」
「それはちょっと……」
「お前に反論する権利はねえ」

 オルトロックは座っていたベッドから勢いをつけて立ち上がると、伸びをした。

「ん、さて行くか」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 22:01:55.57 ID:SJjiHYjwo

 村の中を人を探して歩く。クリアは宿に残してきた。
 寂れている、というのは言いすぎだが、あまり人は多くなさそうだ。
 主幹街道から外れた場所にひっそりとあるその村は、まだ肌寒い風が吹いていた。

「フォールス・ネイム?」
「ご存知ありませんか」

 農作業道具を肩に担いだその男は、胡散臭げにウィリアムたちを見た。

「知らんな」

 心なしか相棒の方から怒気が漂ってくるのを感じる。
 やっぱり違うじゃねえかよ、と。

「で、でも、この村にいるって聞いたんです」
「知らんものは知らん」

 覚悟とも諦めともつかない心地でウィリアムは思った。
 これは殴られるな。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/23(土) 22:03:39.52 ID:SJjiHYjwo

「話はそれだけか? 俺は行くぞ」

 そう言うと、男はさっさと歩きだした。
 相棒が無言で無事な右の拳を持ち上げた。

「……そういえば」

 殴られる痛みを予想し閉じた瞼の向こうから声がする。
 瞼を持ち上げると、男がこちらに振り返っていた。

「村の北にあまり大きくもない山がある。そのふもとだか山中だかに変な男がいるらしいぞ」

 どうやら。
 とりあえず今すぐ殴られることはなくなったようだった。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/23(土) 22:04:44.14 ID:SJjiHYjwo

 to be continued...
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/04/23(土) 22:41:26.83 ID:4qnBcQCAO
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/04/24(日) 00:05:30.24 ID:qP3CTYpKo
乙!
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/04/24(日) 00:39:34.06 ID:MdKsPuLDo
乙です
ウィリアムがいなかったらオルトロックはその辺の通行人でも殴って歩くんだろうか
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/24(日) 02:53:49.11 ID:s2dCX8QDO
オルトロック、糞過ぎ
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga >>130あり得る……か?]:2011/04/26(火) 00:22:22.40 ID:qwixLUU/o

 村の北。
 東に見上げた日が、真上にくるまで歩いたころ。

「あれか?」

 小さな山の裾に小屋を見つけた。
 どう見ても職人の手が入ったようには見えないみすぼらしい作りのそれ。
 風雨にさらされたためだろう、表面はくすみ傷んでいる。
 そう長い間立っていたわけではないはずだ。建てて一年ももつようには見えなかった。

 ノックは湿った木材によってくぐもる。
 ちゃんと中にいるであろう人物に聞こえたか不安だった。
 実際誰もいないのではないかと危惧したころ、だが一人の男がその薄い戸をあけて姿を現した。

「……何だ?」

 平坦な声。老人特有のどこか疲れた声でもある。
 いや、実際には初老ですらないだろう。推測するに四十の半ばから後半。
 中肉中背、身体はどこか剣呑な緊張感に満ちている。

「フォールス・ネイムだな」

 ぞんざいな口調で問う相棒に対し、男は黙ってしばらくこちらを眺めた。
 彼の眼球はあまり動かない。ガラス玉のように生気がなく、静かな水面のように揺らぎがなく。

「……そうだ」

 彼の肯定の声もまた、死者のごとく静謐だった。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 00:23:46.00 ID:qwixLUU/o

「虎を狩ったことはことはあるか?」

 封書から取り出した書面に目を落としながらフォールスが訊ねてきた言葉は、

「虎ぁ?」

 その意図がよくわからないものだった。

「どういう、意味ですか?」
「虎。強い生き物だ。俊敏で、かつ強力。それがこの山中にいる」

 山中にいる。そう聞いて、革鎧を着けていないことを強烈に意識する。
 届け物だけということで今回は平服のまま来ていた。

「それをわたし一人で狩ろうと思っている」

 ちらり、と彼の目がこちらに向く。

「お前たちなら、どう成し遂げる?」

 ウィリアムは相棒と顔を見合わせた。

「虎、ですか」
「虎、か」

 それを狩る?
 首をひねった。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 00:25:06.08 ID:qwixLUU/o

「まあ、そうだな」

 相棒が口を開く。

「一人だろ? 真正面からは馬鹿らしい、俺ならまずその虎の生息域、活動範囲を調べるな」
「……」
「そんで、罠をいくつかと柵を用意する。柵は簡単なものでいい。
 ある程度動きを制限できりゃいいからな。
 次に柵でそいつの主要な通り道をこっそり囲うんだ。全部じゃない。ここがミソだ。
 それからその柵の内側に火を放つ。虎は慌てふためいて逃げ回るが、主要な通り道はふさがれてる。
 開いてるところをやっと見つけるが、そこにはガチャン! と罠がある。
 あんたはそこで待ち伏せして、できた隙をつき、後は好きにすりゃいいってわけだな」

 彼はこんなもんだ、と言いきると、「だが」と付け加えた。

「これを実行する前に大事なことがある」
「どうして虎を狩るか。それをはっきりさせねばなりません」

 ウィリアムが言葉を継ぐ。それに合わせてフォールスの視線もこちらに滑る。

「背景と目的によって手段は変わります。
 その虎をどうして狩るんでしょうか。
 売るためですか。何かしら邪魔なんですか。それとも他の目的ですか。
 売るためだとしたら生け捕りがいいのか、死んでてもいいのか。
 邪魔なんだとしたら、狩る必要はありません、どこかしらに追い払うか、もしくは自分がどこかに移動すればいいんです。
 狩るのは色々と労力が要ります。できるならば別の対策を取った方がいい。
 つまり、情報が足りないんですね」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 00:26:52.78 ID:qwixLUU/o

 フォールスはしばらく黙った後に文書を折りたたんで懐にしまった。

「まあ、合格か」
「合格? 何がだ?」
「これに書いてあったことだが」

 懐を示しながら彼は続ける。

「お前たちを教育してほしい、だそうだ」
「え?」

 呆気にとられる二人を尻目に、フォールスは振り返りやはり薄い戸を開けた。

「アローにオウルか。まあ悪くない。良いかと聞かれれば疑問だが。
 怪我を治したらまた来い。
 教えることは……多いか、少ないか。さて……」

 戸が閉まった。
 二人は再び顔を見合わせた。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/26(火) 00:28:09.87 ID:qwixLUU/o

 to be continued...
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 08:09:55.93 ID:9lgfJ+yZ0
ウィルどうみても官僚とか政治家向きじゃ(ry

武官系の貴族なうえに地位が低いから騎士しか道がなかったのかね?

あ、>>1乙です
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/27(水) 01:13:44.88 ID:LZ1Zonjxo

 夜気が身体をしんと冷やす。
 王都の夜は、まだまだ寒い。

「結局、あれはどういうことだったんだろうな」

 あれから十数日。三角巾が取れた左肩を軽くほぐしながら相棒が言う。
 彼の右手のランタンがゆらゆらと揺れた。

「さあね。僕にもわからないや」

 傭兵隊の夜警任務は夜の暗闇、その恐怖との戦いだ。
 子供のころよく母から言い聞かされた。よい子にしてないと、化け物が暗闇からやってきて食べられてしまうと。
 化け物は城壁の国からやってくる。どうしてか彼らは石壁をものともしないらしいのだ。
 しかし、彼らはお伽話の住人ではない。れっきとした現実の生物である。

『お前たちを教育してほしい、だそうだ』

「教育。誰が誰に頼んだんだか」
「まあ今までの事実と推測を重ね合わせるに、騎士団長が彼に頼んだって事なんだろうけど」

 だが分からない。
 クビにした見習い二人の面倒をみるように騎士団長自ら誰かに頼むのはもちろん、その誰かというのが得体の知れない人物であることもそうだ。
 何かしらのコネクションがあると見るのが当然だが、何と言ってもやはり得体が知れないわけである。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/27(水) 01:14:33.87 ID:LZ1Zonjxo

「どうする?」
「どうしようか……」

 オルトロックの怪我は癒えた。
 フォールス・ネイムの言いつけを守るならばそろそろ再訪問すべきだが。

「そこまでは任務じゃないしな」

 そういうわけだ。

「ああ、なら行ってこい」

 次の日の昼。傭兵隊長室にて。
 傭兵隊長は書類に目を通しながら言った。

「……なんでだ?」
「特に理由はない」

 書類の内容が癇に障ったのか、彼は眉間にしわを寄せていた。

「なんだそりゃ」
「いや、理由がないわけじゃないが」
「と言いますと」
「俺は兄者を信頼してるからな、何かしら考えがあるんだろう。
 フォールスに教育を頼んだ。そのフォールスがまた来いと言った。
 なら、行くべきだ」
「傭兵隊長はフォールス・ネイムをご存知で?」
「いや、知らん」
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/27(水) 01:16:08.89 ID:LZ1Zonjxo

「んだよ、それ」
「別に行きたくない理由があるわけでもないんだろ?」
「そりゃ、まあ」
「ならいいじゃねえか。何ならそういう任務ってことで命令してやってもいいぞ――あ、ちくしょう」

 唐突にデグラが毒づいた。

「どうしました」
「ん、いや……」

 彼ははぐらかそうとしたらしいが、相棒は見逃さなかった。

「金野原の国からの依頼?」
「お前」
「おいおい、マジかよでけえ仕事じゃねえか」
「他国からの仕事が全部でかいわけじゃねえ」
「じゃあ他国からの仕事には間違いねえんだな」

 しまった、と傭兵隊長の顔が渋くなる。

「どうしたんだよ、誰かしくったのか」
「違う、剣国傭兵隊はめったにしくじらない。信頼があるからな」
「じゃあ……しくる前の段階か。人手が足りてねえとかか?」
「違う」

 傭兵隊長は否定したが、その否定の仕方には微妙なぶれがあった。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/27(水) 01:17:07.39 ID:LZ1Zonjxo

「図星か」
「違うっつってんだろうが」

 さすがにこれ以上はボロは出さない。
 そんなことで舐められるわけにはいかないからだ。
 だが、残念ながら。傭兵隊長が嘘が得意な方でないのはウィリアムの目にも明らかだった。
 問答は長くは続かなかった。

「――ああ、そうだよ、人手不足だ!」

 傭兵隊長はうんざりといったていで書類を机に叩きつけた。

「こちとらベテランは異形狩りに出払ってる。残った奴も新人の教育で手いっぱいだ。
 最近傭兵隊は無駄に膨張しちまったからな、そこは仕方ねえんだ。
 でもよ、あいつら金野原の野郎、自分の尻拭いもできねえのか!」
「じゃあ俺たちを異形狩りに回せよ。それで人手不足は解消だ」
「ふざけてんのか」

 異形。それはかの悪国の戦闘兵器だ。
 どの生物よりも強靭な肉体持ち、俊敏に動きまわり、頭も悪くない。
 一匹を狩るためにも十数人の人出が必要で、集団になられた場合必要な人数はさらに際限なく膨らむ。

 剣の王国は彼らが他国へ被害を及ぼす前に駆除する義務を負っている。
 そしてそれに参加することは、戦士としての最大の名誉であり活躍の機会である。
 もちろん出世の好機でもあるのだ。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/27(水) 01:17:46.41 ID:LZ1Zonjxo

「お前らは見習いだ、新人だ。そんな大仕事任せられるか」
「仕方ねえな、じゃあ金野原の仕事で我慢しとく」
「おう、そうしとけ」

 頷いた後で、傭兵隊長は「ん?」と首をかしげた。

「ちょっと待て」
「さあウィル。支度をしようぜ」
「待てよ」
「金野原の国か。街道に沿って、馬車で五日ってところだな」
「おい」
「あそこには白いパンがあるらしいぜ、楽しみだな」
「おい聞いてるのか!」

 相棒はさっさと部屋の扉に手を掛けていた。

「うっせえな御大。一度下した命令をすぐに変えるつもりかよ」
「まだ命令じゃない」
「でも言ったことに間違いない」
「う。いや、でもな」
「ロック」

 さすがにウィリアムも声を上げたが、相棒はさっと手を上げてそれを制した。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/27(水) 01:20:25.07 ID:LZ1Zonjxo

「ウィル、お前の言いたいことも分かる。デグラのオッサンがかわいそうだ、と」
「極言すればそうだけど、若干ニュアンスが違うよ」
「でもな、命令は一回下されたら、そう簡単に変えちゃいけないのが鉄則だ」
「でも僕たちにはフォールスさんに会いに行くっていう――」
「ウィル!」

 相棒の唐突な大声に、ウィリアムは思わず身体を震わせる。

「……過去は、振りかえるもんじゃない。懐かしく思い出すもんだ」
「意味がわからないよ」
「つーことでデグラのオッサン、行ってくるわ」
「ちょっと待て」
「さすがにしつこいぞ」
「いや、俺ぁ諦めた」

 ため息をついて、傭兵隊長は深く椅子に座りなおした。

「まあ、お前たちは面白いコンビだしな、任せてみてもいいかもしれん」
「腹ぁ括ったか」
「誰のせいだ。……だが、お前たちだけで行かせるわけにはいかん。お守りをつける」
「人手不足じゃねえのかよ」
「まあそうなんだが、お前たちに着くはずの教育係だからな。どの道同じことだ」
「なるほど」

 傭兵隊長が書類を差し出す。
 机に近いウィリアムがそれを受け取った。

「明日、その依頼書に対応した命令書を下す。
 お守りにもその時に合わせる。この建物の前だ。早めに来い」

 ウィリアムは書面に目を落とした。
 金野原の国。金の穂揺れる国。
 そこで起きるあれこれは、今はまだ霧の中で。
 このときはまだ平和だったと。後で思い出するとも知らず。
 今はただ、流されるのみ。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage 相変わらず短いなー]:2011/04/27(水) 01:22:37.57 ID:LZ1Zonjxo

 to be continued...
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/04/27(水) 15:46:27.38 ID:/hywOdK9o
乙です
個人的には今のペースで問題無いよ
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/27(水) 21:51:05.33 ID:5YECbDr80
この量で短いとか……
更新頻度も高いし書くの超速いじゃないですかー!

ていうか展開速くてネイムのじいさんとか忘れそうだ

それと乙!
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/28(木) 07:28:06.43 ID:11G1r4Jso
展開速いかあ
そういえば必要な贅肉が少なく話が巻き巻きな気がするなー
もうちょっとじっくり書くべきなんだろっか
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/28(木) 20:30:21.89 ID:11G1r4Jso

 心地よい振動が、規則正しく身体を揺らしていた。
 南方に向かっていることを意識するせいか、風もどことなく暖かい気がする。
 気を抜けば瞼が重くなりそうで、春を強く意識した。
 できることならば目的地に着くまで眠っていたい気もしたが、

「……」

 馬車の中の空気はそれを許さないほど気まずくこわばっていた。
 まずあまり大きくもないバスに五人も乗っているため狭い。
 クリアは居心地が悪そうだ。
 もっとも、居心地が悪いのは狭いせいだけではなかったろうが。

 ウィリアムの横に座った相棒がわざとらしく咳払いする。
 その視線は先ほどから対面に注がれていた。いや睨んでいると言った方が正しい。
 あからさまに敵意を振りまいていた。

 剣呑な眼光の先にいる彼は、しかし毛ほども気にした様子はなかったが。
 瞑想でもしているかのように目を閉じ、一言も言葉も発しない。
 その隣に座って同じ顔でにこにこ笑っている女とは対照的である。

 相棒がもう一度咳払いをする。
 男はやはり反応しなかった。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/28(木) 20:31:13.68 ID:11G1r4Jso

「喉の調子よくないの? 飴でもあげましょうか?」

 女が機嫌よく言うが、今度は相棒が無視する。

「クリアちゃんはいる?」

 こくりと頷く少女に飴を渡し、

「ウィル君もどう?」
「あ、もらいます……」

 ウィリアムも恐る恐る受け取る。
 ちらりと横目で見ると、相棒のこめかみに太い青筋が見えた。

「疲れてない? クリアちゃんは華奢なんだからちゃんと言いなさいね」

 少女が再び頷く。

「ウィル君は大丈夫よね、男の子だもの」
「はあ……」
「うるせえよてめえら! ちょっと黙ってろ!」

 とうとう相棒が我慢の限界に達したようだった。
 狭い馬車の中でがばと立ちあがり、声を張り上げる。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/28(木) 20:31:55.72 ID:11G1r4Jso

「さっきから聞いてりゃクソみてえな飴がどうしたとか疲れがどうとか! ちったあ黙ってられねえのか!?」
「そ、そんなにピリピリしなくても……」
「あん、誰がピリピリしてるって? おい言ってみろよウィル、誰がピリピリしてるって?」
「そういう時は飴をなめるといいわ」
「いらねえよ!」

 差し出された飴を突き返しながら相棒ががなりたる。
 徐々にヒートアップしているのは、きっとその対面の男がこんな大声の中でも全く意に介さず涼しげな顔をしているせいだろう。
 依然瞑目したままの彼。

 端麗な顔立ちの男だった。目を閉じていても分かるその涼しげな目元。
 すっと通った鼻筋。薄い唇は形良く自然に真っ直ぐ結ばれている。
 落ち着いたブラウンの髪色で、顔の輪郭まで非の打ちどころがなかった。

「……おいお前」
「……」

 男は答えない。

「おい」
「……」
「おいっつってんだろ!!」
「呼んでるわよアデル」

 女の声を受け、ようやく男が目を開いた。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/28(木) 20:32:30.61 ID:11G1r4Jso

 冷水のようにぴんとした冷気を伴う視線だった。
 思わず背筋が伸びるような心地になる。
 騎士団長を思い出した。大鷹の異名を持つあの傑物。
 彼はどことなく彼に似ていた。

「……なんだ」

 声もまた寒気を感じるほどに涼やか。
 ただしそれは、相棒に対しては火に注ぐ油となる。

「なんだ、じゃねえ! すかしやがって気分悪い!」
「うるさい。少しは落ち着いたらどうだ」
「俺か!? 落ち着いてるぜ。お前を一息で斬り殺せるぐらいにはな!」
「そうか、よかったな」

 そう言うと再び男は瞼を下ろした。

「この――!」
「落ち着いて、ロック君」

 春のそよ風に似た声が相棒の言葉を遮った。

「クリアちゃんが怖がってるわ」

 飴を口にふくんで縮こまる少女の頭を撫でながら、女が相棒にほほ笑む。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/28(木) 20:34:06.33 ID:11G1r4Jso

 こちらも端正な容貌の女だった。
 切れ長な瞳はしかし優しく緩み、天使のような笑顔を形作っている。
 すっきりとした輪郭の顔だが、ふっくらとした優しげな雰囲気があふれていた。
 艶のある茶色の髪を後ろでまとめ、女性にしては背の高い方か。
 そして、隣の男と瓜二つの顔。

「……双子なら片割れの躾けはちゃんとしとけよお前。こいついろいろとなってないぜ」

 相棒の鋭く細待った目が女を突きさす。
 女は気にした様子もなかったが。

「お前じゃなくてミリアよ」
「知るか」
「ごめんなさいね、アデルはちょっと物静かなの」
「嫌味ったらしいの間違いだろ」
「お前ほどじゃないな」
「そこが嫌味ったらしいっつってんだよ!」

 再び相棒が叫び散らす。ウィリアムは思わず耳をふさいだ。
 御者の方にも聞こえていただろうが、アロー家の子息と知っているのだろう、特に注意は来なかった。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/28(木) 20:34:44.54 ID:11G1r4Jso

「ちょっと……静かにしようよロック」
「俺がうるさいってのか?」
「いや、ええと……」

 相棒がここまで荒れているのには理由がある。

「その、この前怪我させられて気に食わないのは分かるけどさ」
「俺は負けちゃいねえ!」
「そ、そうは言ってないでしょ!」

 このアデルという男。
 彼は先日傭兵隊支部の訓練場における模擬戦闘で、相棒と斬り合い実質叩き伏せたその張本人だ。
 そして、本日付でウィリアムたち二人の教育係となった者でもある。
 模擬戦闘では最終的にウィリアムの不意打ちによって勝ちを拾ったが、それでも相棒は溜飲を下げていないようだ。

「おい御者、馬車を停めろ」
「ロック? ちょっと」
「そしてお前、表に出な」

 馬車の中に新たな緊張が走った。
 ウィリアムは胸中で頭を抱えた。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/28(木) 20:35:45.38 ID:11G1r4Jso

 他国での任務は剣の国の信頼にかかわる。
 他国から莫大な支援を受けることによって成り立っている剣国は、信頼を失うわけにはいかない。
 そのため剣国内での同規模の任務よりも責任は重くなりがちである。

(こんな調子で任務完遂なんかできるのか……!?)

 剣の国を発ってから四日。ずっとこの居心地の悪い空気である。
 恐ろしく嫌な将来しか思い描けなかった。
 なんとか相棒をなだめようと口を開いたその時。

「あれ……?」

 そこにいる五人のものとは違う声が聞こえた。御者だ。
 どことなく不穏な気配を感じて、全員の意識がそちらに向く。

「ありゃ、なんだ?」

 そう言って御者が指さす先には。

「……?」

 地平から立ち上る煙が見えた。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage GW中はもっと投下増やせるはず]:2011/04/28(木) 20:37:25.27 ID:11G1r4Jso

 to be continued...
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/04/29(金) 11:09:00.93 ID:N4ApdVCjo

あと亀ですまんが>>147
ちょっと置いてきぼりにされてる感じがあるんでそうしてもらえるとありがたいです
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/04/29(金) 15:51:39.58 ID:SIHQk5gAO

投下ごとの場面転換が激しくてちょっと混乱するかな、とは思う
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/29(金) 16:52:55.57 ID:IjNqtEz7o
置いてきぼり……敗因が分かった気がするなあ
>>157の言うように、一場面ですぐ息切れするから転換が多いし
意見thx、改善努力をしてくるよ
あと、置いてきぼりと言えば、世界観・設定面で置いてきぼり感はやっぱりまだある?
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/04/30(土) 09:58:16.16 ID:Xd2RwXMAO
設定云々に関しては特に問題ないと思うよ
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/04/30(土) 22:32:55.22 ID:ieqblCKHo
俺も問題ないですよ
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/01(日) 12:14:16.42 ID:4dmodQwko
>>159>>160
どうもです
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 12:15:00.42 ID:4dmodQwko

 金野原の国。≪大いなる陸地≫における最大の農業国である。
 剣の王国の南西に位置し、群れの国に次いで広い国土。
 より南にあることもあり、いくぶんか暖かい。
 土地も広きにわたって多分に天の恵みを授かっており、この国が農業大国としての地位を築く要因となっている。

 収穫期の金野原の国には一面たわわに実った小麦の穂が風にそよぎ、その国名の通り金色の原を成すことで有名だ。
 今はまだ春の初めであり、秋まき小麦でもまだ金野原を作るには至っていないものの、農地には青い穂がさわやかに揺れていた。
 それもまた美しい景色には違いない。
 その脇で小屋がいくつか焼け落ち煙――馬車から見えたのはこれだろう――を上げていてはそれどころではないだろうが。

 小屋は農夫の大事な財産の内の一つだ。
 中の農業道具を風雨で朽ちさせないように粗末ながらも丈夫に作ってある。
 それがなくなってしまえば不便を強いられるのは間違いないし、農夫は嘆くはずだ。命があれば。

 農地に隣接する村――剣国の一般的な村よりもだいぶ規模が大きい――も、少なくない被害を受けていた。
 村を囲う柵は乱暴に押し倒されていたし、村の中にも火を放たれた家屋がちらほら見られ、全焼は免れているものの傷みは激しい。
 その玄関先で呆然と立っているのは、それでもまだ運の良い人々である。
 道端にうずくまっている人影も見えた。

「こりゃ、いくらか死んでるんじゃないか」

 驚いた顔でしかし縁起でもない事をつぶやく相棒だが、それはよほどのことがない限り間違っていないように思えた。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 12:16:14.06 ID:4dmodQwko

 国境を越え、金野原の国一つ目の村。つまり最南端。
 先ほど馬車を降りたばかりだが、任務はすでに始まっているようだった。

 道は荒れている。何頭もの馬で踏み荒らしたように。
 実際そうやって踏み荒らしたのだろう。"彼ら"にそれができる能力があることは事前に依頼書で分かっていた。
 その道を歩いていくと、一際大きな建物が見えてくる。

「ここもね」

 ミリアの言葉通り、その屋根は半分が焼け、壁には大穴が空いていた。
 元は穀倉で、中の農作物を守る役割を担っていたのだろうが、今はその役目を果たせていない。
 ウィリアムは周りを見回した。しかし、アデルが言う。

「……見たところ事が起こってからすでにだいぶたっている。もう近くにはいないだろう」
「そう、ですね」

 これらをなした者たちはすでに作物を強奪し、遠く離れただろう。もう危険は去っている。
 それでも。ウィリアムは緊張を解けなかった。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 12:17:06.76 ID:4dmodQwko

 改めて村の被害を歩いて見て回っている最中に、村の長を見つけた。
 彼は村の者たちに指示を飛ばしているところだった。

「これはこれは……遠いところをよくぞいらっしゃいました」

 憔悴した顔で彼は言う。そこには非難の色も見て取れた。
 すなわち、なぜもう少し早く来なかったのかと。
 それに対しては意味のある答えは返せそうにない。そして早く来れたところで五人ではどうしようもない。
 だから気付かなかったふりをした。

「例の強盗団ですか」
「ええ」

 最近金野原の国を騒がせている者たちがいることは依頼書で述べられていた。
 村々を襲い、その収穫物等を強奪しているのだそうだ。

「この村もやられました」

 村長の顔に沈痛な色がにじむ。

「もう国には?」
「ええ、通報はしました。しかしそれに何の意味があるのか……」

 意味はある。
 強盗団の被害が広まってからは、金野原の国はその被害を受けた村に見舞金などの援助を行っているからだ。
 強盗団の足跡をつかみ、次の被害を防ぐための情報にもなる。
 だが、つい先ほどまで蹂躙されていた者としては悲壮感がぬぐえないのだろう。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 12:18:26.96 ID:4dmodQwko

「国に防衛のための人員を要請した矢先でした。
 まさかそのすぐ後に襲われるとは……運がなかったとしかいいようがありません。もっと早く打診していれば」

 その人員と言うのが、自分たちのはずだった。
 村長もそこらへんのことは知っているように見えた。

 金野原の国と強盗の関係は長い。彼らは慢性的に作物強盗に悩まされていた。
 年間を通して村々に被害を出す彼らは生産効率や村民のやる気を大きく減退させ、ひいては国庫に小さくない影響を与えていたのだ。
 そこで数ヶ月前、金野原の国は跋扈する作物強盗たちを駆逐するための作戦に乗り出た。
 持てる軍事力を集結させ、しらみつぶしに壊滅させる方法を採用したのである。

 それは単純ながらも一定の効果を示した。
 国は容赦しなかったし、それが大きな抑止力になり襲撃の数は大きく減った。
 あるいはそのまま撲滅に至るかもしれない。そう思う人間も少なくなかった。
 しかしそうはならなかった。

 追い詰められた獣は時に信じられない力を見せる。強盗たちとてそれは同じだった。
 撲滅まであと少しと見えた強盗たちは組織的に動くようになる。
 国は、何らかの変化があったと見た。
 そしてそれは正しかった。
 強盗たちは今までにない俊敏さを手に入れ、神出鬼没になり、攻撃的に村々を襲うようになったから。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 12:19:59.28 ID:4dmodQwko

 剣の王国が大々的に登場するのはこのあたりからである。
 とはいえもともと剣の王国は軍事力の支援は行なっていたが。
 剣国は支援を受ける見返りにその攻撃力を他国に貸し出している。

 まあそこらへんのことは置いておくとして、金野原の国は尻拭いを剣の王国に依頼した。
 そこで今回派遣されてきたのが自分たちというわけだ。

「ただずいぶんと、その……」

 村長が口ごもる。言いたいことは察せられた。
 アデルが答えて言う。

「すまないが、剣国が今回動かせるのは私たち五人だけだ」
「はあ……」

 村長の落胆は、隠されているもののそれがかえってあからさまだった。
 相棒が口を開く気配を察してウィリアムは慌てて話を切り上げた。

「では私たちはこれで失礼します、必ず強盗団は何とかしますので」

 相棒の背中を押し、そそくさとそこを離れた。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/01(日) 12:20:38.41 ID:4dmodQwko

 to be continued...
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/01(日) 21:49:27.26 ID:324o2MADO
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/02(月) 04:41:13.77 ID:NomXlTnto
乙です
そういやクリアも来てるのはオルトロックが強引に押し通したのだろうか
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/04(水) 00:52:09.51 ID:qak9e7+uo

 街道沿いの宿に入ってしばらく。相棒の機嫌はようやく危険域を脱したようだった。

「ったくよー」

 それでもまだ文句は尽きないようだったが。

「んだよせっかく来てやったっていうのにあの態度はよ」
「仕方ないよ、弱り切った人っていうのはあんなものさ。
 それに僕たちだって無償の奉仕をしているわけじゃない」

 剣国は支援の見返りに武力を貸し出している。
 支援がなければその現在の国体を維持することは難しい。
 剣国はそれを表だって認めてはいないが。

「まあそうだがよ」

 部屋はそう広くはない。五人も詰め込めばなおさらだ。
 もちろん男性陣と女性陣用に二部屋とってあるが、今は話すために一部屋に集まっている。
 ウィリアムとロックは部屋に備え付けてあった椅子に座り、ミリアとクリアはベッドに腰掛け、アデルについては入り口脇で壁に寄りかかっている。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/04(水) 00:56:16.43 ID:qak9e7+uo

「それで、これからどうするのかしら?」

 ミリアが話の口火を切る。
 全員の視線がアデルに集まった。現在、この中での指揮官は彼である。

「リグ・ボーナムに会う」
「リグ・ボーナムっつーのは?」

 相棒の声にはだいぶ勢いを弱めたものの、相変わらず棘がある。

「あんたの知り合いか? だったらきっとものすげえクソ野郎なんだろうな」
「この一帯の管理官だ」

 相棒の皮肉だか何だかにアデルは反応しなかった。
 さて金野原の国は農業の効率化のために領主農奴制を採用している。
 というより自然な歴史の流れの上にそれがあるのだが、とにかく領主がいてその下の農奴が実際に農業に従事する。

 ただ領主、農奴といっても旧世代のそれとは異なる。
 領主は莫大な権力や富を持っているわけではなく、農奴を管理監督する以上の者ではない。
 理由は簡単、あまりに力を持たれては生産、ひいては国に都合が悪いからだ。
 あまりに私腹を肥やし、それが露呈すれば厳しく罰せられる。

 そして農奴も名前以上のものではない。
 彼らはいまだ農奴と言う呼称を引きずってはいるがあまり強い拘束はされない。
 形式として領主から土地を借り、それに見合った地代を納める。
 地代はその時々に異なるが、それ以上は取られず残りは自分の財産とすることができるのでやる気を削がない形にはなっていた。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/04(水) 00:57:49.24 ID:qak9e7+uo

「それで、管理官というのは?」
「領主のさらに上に立つ者だ」

 ウィリアムに答えてアデルが続ける。

「この国の生産システムとして、まず総督がいる。
 その下に管理官数名がつき、さらにその下に領主がいる。
 領主がその土地の主だとすれば管理官はより広く、管区長といったところだ。
 リグ・ボーナムはこの管区の管理官というわけだな」
「なるほど。彼に会って、それから対策に乗り出すと」
「そうだ」

 頷いて、彼は壁から背を離した。

「とりあえずは明日になってからだ。
 移動もある。各自身体を休めておくように」

 ミリアとクリアはもう一つの部屋に戻っていった。
 と、相棒が舌打ちする。

「もう一部屋取れりゃあな」
「同感だ」

 アデルが言い、相棒はもう一度舌打ちした。
 この二人と一緒の部屋であることに、今更ながらウィリアムはげんなりした。
173 : ◆/GgRTOxpqo[sage]:2011/05/04(水) 00:59:12.39 ID:qak9e7+uo

 to be continued...
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/04(水) 06:15:42.54 ID:qak9e7+uo
今更ながら鬱注意
すぐにってわけじゃないけれど
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/04(水) 14:09:40.99 ID:I5CB+UQRo
乙です
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/04(水) 18:29:51.68 ID:VBWBra4N0
鬱展開来るのかー…乙
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2011/05/04(水) 20:16:12.07 ID:r64pjQ3N0
1乙
一気に読んだから分かるけど最初より見やすくなってると思います
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/05(木) 19:35:07.07 ID:Plz/PCKdo
>>177
マジスか、良かった

・業務連絡
他に関わっていたスレが全て終了したのでこれからはこれに集中できる模様
GW中はさっぱりだったけど、投下増やせるかも
次。オリジナルクロススレに参加表明出してまいりました
もしよかったら見に来てください

以上
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/08(日) 22:35:03.91 ID:E4eg+KHMo

 案の定眠れない。
 オルトロックとアデル二人に挟まれる位置取りのベッドで、居心地悪く身じろぎする。
 双方の威圧感が消えて両側から寝息が聞こえてきても、なかなか寝付くことはできなかった。
 目をつぶることに飽きて、窓の方に目をやる。月の光が冷たく射しこんでいるのが見える。

「……」

 身体をゆっくりと弛緩させて、そしてじっと息をひそめていると、過去が闇の中からゆっくりと進みでてくる気配がした。

『ウィル。男の子は強くなくてはいけないよ』

 低く優しいが、どうにも威厳はないその声。
 よく知っている。父のものだ。

『強くなくちゃ生きられないからね』

 昔から、彼は事あるごとにウィリアムにそう言い聞かせていた。

『次に男の子は優しくなくちゃいけない』

 そこで彼は父は決まってほほ笑むのだ。

『優しくなきゃ生きる資格がないからね。忘れないようにしなさい』
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/08(日) 22:36:17.85 ID:E4eg+KHMo

 何度も聞かされた話だが、果たして、と思う。
 自分はそれに応える強さと優しさを手に入れてきただろうかと。

(いいや)

 考えるまでもなく。
 強さと言うならば、自分はいつも卑怯に逃げ回っている。卑屈にただただ耐えている。
 そこに強さはあったろうか。
 優しさと言うならば、自分の思いやりは、どこか他人に嫌われないための自衛策。
 そこに優しさはあったろうか。

 唇をかみしめるだけの甲斐性もなく、ウィリアムは情けない心地で息を吐いた。
 月の光は、雲に隠れたのだろう、先ほどよりも弱く思える。
 家を出る直前に見た、父の呆けた顔を思い出した。
 それからようやく眠りに落ちた。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/08(日) 22:40:52.59 ID:E4eg+KHMo

 再び一日馬車に揺られて。たどり着いたのは大きな都市だった。
 ミリアが感嘆の声を上げる。

「わあ、綺麗ねえ!」

 剣国王都の方がどう見ても綺麗だし、いうほどではないとウィリアムは思ったが。
 ただまあ、この国のどこか土臭いイメージとはかけ離れた場所であることは確かだ。

 門を通って城壁を抜けると、目につくのはレンガ造り、石造りの建物の数々。
 城壁によって面積は限られ、人の多さに釣り合わないために床面積を増すため建物も数階建てになる。
 それら高い建物が整然と並ぶ様は、都市にはありふれているが確かに今まで見てきた村々とは全く異なっていた。
 昼下がりの日の光の中、人通りも多い。

「このあたりで最も大きい都市だ」

 先頭はアデル。ここには来たことがあるのか、足取りに迷いはなかった。
 その後ろをウィリアム、アデルから距離を置いてオルトロック、最後尾にミリアとクリアが並んで歩く。

「各地で収穫、徴収された作物はいったんここに集められる。
 集められた作物はその後さらに国の中心部に集積されるか、もしくは他国へ輸出される」

 アデルの声は独り言のようでもあった。注意して聞かなければ喧噪にまぎれて消えてしまう。
 もしかしたら本人にも聞かせる気はないのかも知れなかった。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/08(日) 22:41:46.99 ID:E4eg+KHMo

 メインストリートをしばらく歩き続けると視界が開けた。
 広場には露店が立ち並び、種々雑多な商品があふれかえっていた。

「ねえねえクリアちゃん、あれを見て」

 広い場所に出てにわかに落ち着きをなくすクリアに、ミリアが声をかける。
 彼女の指さす先には焼き菓子の露店。

「おいしそうじゃない?」

 ためらいがちに頷くクリアを見て、ミリアがこちらに笑いかける。

「じゃあそういうことで」
「……は?」

 顔をしかめる相棒にミリアは言う。

「ボーナムさんへの面会はあなたたち三人に任せるわ。わたしたちはちょっと用事ができたから」
「用事ぃ……?」

 相棒が声のトーンをひとつ下げた。

「菓子食うことが用事かよ。ちょいと俺を舐めてるんじゃねえか?
 観光に来たわけじゃねえんださっさと行くぞ」
「観光しちゃだめとは言われてないわ」
「常識ねえのかてめえはよ」

 常識。相棒が言うとひどくむなしく響くな、とウィリアムはこっそり思った。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/08(日) 22:42:56.83 ID:E4eg+KHMo

「ねえアデル、いいでしょ」
「……行ってこい」
「はあ!?」

 アデルはうるさげに相棒を見た。

「どうせ大勢で押し掛けても面会人数は限られる。
 だったら市井の情報でも集めてもらった方が都合がいい」
「そういうこと! クリアちゃん、行きましょ」

 ミリアはそう言うと、クリアの手を引っ張って人ごみの中に消えた。
 相棒が舌打ちする。また機嫌を損ねたらしい。

「なんだよてめえらはよ。やってらんねえ、俺も抜けるわ」

 そう言うと、ウィリアムが制止する前に相棒も人ごみの中に消えた。
 アデルとウィリアムだけが残された。

「ええと……」
「……」

 アデルが再び歩き出す。ウィリアムは気まずい思いを抱えたままそれに続いた。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/08(日) 22:44:04.22 ID:E4eg+KHMo

 to be continued...
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/09(月) 01:24:58.74 ID:avrWsSMyo
乙です
なんか気の休まらないパーティだなー
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/11(水) 19:52:21.45 ID:lSgkn7ERo

 昼下がりの日の下、露店で買った焼き菓子をぽそぽそ齧りつつ人々の間を縫い歩きながら。
 クリアは恐る恐る隣を見上げた。
 少女とは違って背の高い女だった。見たところ頭一個分ほど背の差があるか。

「……」

 クリアは少し考え、違うのは背の高さだけではないな、と思い直した。
 自分はあんなに明るく微笑まない。

「おいしい?」

 急に問いかけられ視線が合う。クリアは慌てて目をそらして頷いた。

「そう、よかった」

 それはとても優しい声だったが、少女はどうにも落ち着かなかった。
 確かに柔らかい雰囲気と所作だが、それでもどこか油断ならないものがあるというか。
 とはいえ屋敷を出てからこのかた少女の気が本当に休まったことはない。外界へ出るのが父からの言いつけであろうとも。
 一人でいれる時間は貴重だ。その間だけは見知らぬ土地だろうとある程度は落ち着ける。

「人の多いところは苦手? 表情硬いわよ」

 考えを読まれたようでどきりとした。
 くすくす笑いの気配を感じて、少女は恥ずかしさにさらに視線を伏せた。
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/11(水) 19:53:24.11 ID:lSgkn7ERo

 しかし確かにこんなに人の多いところは初めてだった。
 剣国王都――ウィリアムに教えてもらって最近ようやく各国の名前と位置を覚えた――では人目を避けるように過ごしていたし、
こんなに堂々と出歩けるようになったのは最近のことだ。
 傭兵隊――騎士団と傭兵隊、他様々なことについてもウィリアムに習った――に所属するようになって、一応の身分を手に入れたことがその理由だが、
少女自身がそれを望んだかというと、別段そういうこともない。
 屋敷にこもりっきりの生活に慣れていたし、自分以外の人間と関わるのは苦手だからだ。
 今回の遠出にクリアを引っ張ってきたのは、彼女が逃げないように見張るためということもあるらしい。
 しかし、人との関わりは少女をひどく消耗させていた。

 消耗といえば、魔術を禁止されていることもなんとなく負担に感じられた。
 あの二人が言うには少女のような魔術の使い方は普通ではないらしく、他の人間に見られるところでは使わないように厳命されていた。
 もし見られれば色々と都合が悪いのだそうだ。クリアにはよくわからなかったが。
 屋敷では、少女が息をするように魔術を使うことはほとんど当たり前のことだった。
 父は少女と違って魔術を使うには手順を踏む必要があるようだったが、そちらの方こそ普通ではないのだと信じていた。

「クリアちゃんはロック君のところの子だったっけ?」

 考え事をしていたので反応が遅れた。
 質問を頭で繰り返してから少女は頷いた。
 傭兵隊に登録する際、クリアはアロー家の人間として処理されたらしい。
 もちろん血のつながりがある云々ではなく使用人、という偽装(と呼べるか疑問な程のお粗末さだが)である。
 それはすでにオルトロックから聞かされている。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/11(水) 19:54:47.22 ID:lSgkn7ERo

「じゃあ、ロック君との付き合いは長いの?」

 ひやり、とする。
 首を振ると、ミリアは不思議そうに続けた。

「そうなの? どうりでなんだか仲が良くないように見えたけど」

 どう答えるか迷い、結局何も言わないことを選んだ。

「でもそれなら納得いくわ。アロー家の使用人名簿の中にあなたの名前はなかったし。あなた新入りだったのね」

 心臓が跳ねる。
 身元がばれないようにとあの二人からはきつく言われていた。
 それが自分のためでもあることは理解している。

(この人……)

 女が革鎧を身に付け剣を帯びていることを思い出す。
 彼女は戦う人間であるというということを強烈に意識した。
 油断ができない。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/11(水) 19:55:22.04 ID:lSgkn7ERo

「大変ねえ、配属早々にこんな体力仕事……おまけに遠出でしょ? 無理してない?」

 彼女の声には特に変調はなかった。例えばこちらの素性をうかがうとか、何か訝しんでいるとかいったような。
 声はそのまま心配しているように聞こえた。
 しかし、それは安心材料たりえるのか。

「……大、丈夫」

 ようやくそれだけ言って、言葉に詰まった。
 と、頭を撫でられる感触。

「もし不調を感じたときはわたしにいいなさい」

 見上げると、やはり笑顔がそこにあった。

「わたしが力になるわ」

 やはり優しく柔らかいそれ。
 警戒心を解くまでは至らなくとも。それはウィリアム以外にも信用してもよさそうな人間はいることを教えてくれた。

「これ食べる? わたしはもうおなかいっぱい」
「……ありがとう」

 ミリアから手つかずの焼き菓子を受け取って、クリアはほんの少しだけ微笑んだ。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/11(水) 19:55:53.94 ID:lSgkn7ERo

 to be continued...
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/11(水) 22:25:16.13 ID:VDq62FoZo
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/11(水) 22:34:44.61 ID:UhxwEaIjo
乙です
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/13(金) 08:22:46.99 ID:a+4pIxh1o

 昼下がりの日の下、鼻の頭をごしごしこすりつつ人の間を縫い歩きながら。
 オルトロックは鷹揚にあたりを見回した。
 チンケな都市だな。そう思った。

 剣国王都には及びもしない広さ、高さ、壮麗さ。
 人はどこか土に汚れて埃っぽい臭いがするし、街の景観にも疑問が残る。
 入った居酒屋もどこか狭苦しくて、やはり土臭い。
 それでも。

「……うめえなこれ」
「だろ?」

 文句たらたらのオルトロックに顔をしかめていた店主が、その時だけにやりとした。
 カウンターのオルトロックが手にしているのはハムを白いパンで挟んだサンドイッチ。
 ただそれだけのものなのだが、オルトロックは思わずうなった。

「この安さで、この美味さ。詐欺じゃねえのか?」
「どんな詐欺だよ阿呆」

 店主がもう一枚、皿を彼の前に出した。同じサンドイッチが乗っている。
 目で問うと、サービスだ、と店主は笑った。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/13(金) 08:24:12.07 ID:a+4pIxh1o

 作物強盗が出没しているものの、まだまだ収穫物の供給に余裕はある。
 物価はそこそこ。金野原の国の誇りである白いパンは、品質において他の追随を許さない。
 良質な小麦を使えるが故の特権である。

「なるほどな」

 全て平らげ息をつく。酒を頼むとこれも安くて美味かった。

「まあ、安いのは現地で食ってるからってのもあんだろ。
 見たところお前さんは剣国の出身だから、国元で食えば関税やらがかかってることもあるだろうしな」
「だが、ほとんどは支援物資として剣国に供給されてる」
「食うのは騎士団やお偉方だろ?」

 それもそうか。納得して、酒に口をつけた。

「でも、安く出せるのもここいらで終わりかもなあ」
「どういうことだ?」
「知ってるだろ。強盗だよ」
「ああ」

 作物強盗の被害がじわじわと広がっている。
 それに従って収穫量、および他国への供給量が落ちているらしい。
 まだまだ収穫物の供給には余裕がある。が、それが長く続くとは限らない。

「剣国への支援は協定で決まってるとはいえ、まず自国の食いぶちがまかなえてなきゃな」
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/13(金) 08:25:09.37 ID:a+4pIxh1o

 二杯めの酒を飲み干し、オルトロックは訊ねた。

「次はどこだと思う?」
「あん?」
「次に作物強盗の被害を受けるとこだよ」
「さあなあ……この前は北だろ? だったらもう一つ村があるから、もしかしたらそこかもな」

 そうか、とオルトロックは頷き、酒の追加を頼んだ。
 ふと思いついて問う。

「都市が襲われることはあり得るか?」

 店主は目を丸くして、それから呆れのため息をついた。

「お前はあり得ると思うのか?」

 オルトロックはいや、と否定し、

「だがある条件の上でならあり得るさ」
「ある条件?」
「たとえば内通者」

 店主は顔をしかめた。
 心もち声をひそめるようにして問うてくる。

「間諜がいるってのか?」
「さあな、知らねえよ。あり得るならって話だ」
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/13(金) 08:26:36.62 ID:a+4pIxh1o

 そうか、とどこか安心したように店主が頷いた。

「身内にそういうのがいると疑うのは心が痛む」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」

 オルトロックはさらに酒を注文すると、にやりと笑った。

「まあでも強盗に怯えるのはこれが最後になると思うぜ。なんたって俺が来たからな」

 店主の訝しげな視線を受けて、オルトロックは気持ちよく舌を躍らせた。

「俺は剣国傭兵隊が一人、オルトロックだ。そんな強盗団の一つや二つ、すぐに潰してみせるからよ」
「傭兵? 武装してるからまさかとは思ったが、人数は?」
「五人だ」

 身を乗り出してきた店主が、ゆっくりと下がっていった。
 あからさまに落胆が見えた。

「んだよその顔は」
「だってなあ……」
「五人だろうがなんだろうが、剣国の武力に違いはねえ」
「いっそのこと騎士団が来てくれりゃあなあ」
「……」

 運ばれてきた酒を断り、金を置いて席を立った。
 気分を害したときは酒は飲まない。どんな美酒だろうがまずくなるからだ。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/13(金) 08:27:12.25 ID:a+4pIxh1o

 to be continued...
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/13(金) 09:57:22.29 ID:NZv55bLho
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/13(金) 19:44:17.92 ID:aHPgOycUo
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/15(日) 17:50:04.44 ID:ISM8V998o

 昼下がりの日の下、黒髪の頭をぽりぽりと掻きつつ人の間を縫い歩きながら。
 ウィリアムはこっそりため息をついた。アデルは気付かなかったようだ。無視した可能性も高いが。
 前を行く彼の歩みは速い。人の間をするすると魔法のように抜けていく。
 遅れずについていくのはなかなか骨だった。

 そこで気付く。人が増えている。
 広場の中でも人が特に多い場所に入っているらしい。

「中心部だ」

 アデルの声がやはりかろうじて聞こえた。
 中心部。そこは文字通り都市の中心で、ここら一帯の行政・経済機能が集中している。
 そこから都市とその近郊の全てが決まり、全てが施行される。
 そこにないのは作物庫くらいだ。作物庫に関しては都市の南、国の中心部へと伸びる道沿いに集中しているはずだった。

「ボーナム氏は?」
「あそこだ」

 彼が指さす先。そこには一際大きい石造りの建物があった。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/15(日) 17:50:50.23 ID:ISM8V998o

 受付でボーナムへの面会を申し込むと応接室に通された。
 アデルと並んでソファーに座ったが、なんとなく気詰まりを感じて身じろぎする。
 なんとなくもなにも、もちろん隣の男のせいだが。
 しばらく空白の時間があった。

「あの」

 思わず口を開いてしまったのは、その空白の居心地があまりに悪かったからだ。

「アデルさんは、今回の任務についてどう思います?」
「どう、とは?」
「いえ、その、五人じゃないですか。強盗団がそれより少ないことはあり得ないでしょう。
 そうなると任務達成の確度はどんなものかと思いまして」

 アデルはしばし考える間をはさんだ。

「……今言えるのは、確度云々はともかく我々の責務は重いということだ。
 分かってると思うが、我々の働きはそのまま金野原の国から剣国への支援規模に直結する。
 手を抜くことはもちろん、単純なミスも許されない」
「でも」
「ああ、君たちは新人だ。だが分かっていて志願したのだろう?」

 志願したのはオルトロックだが。
 しかし、来てしまった以上は関係がない。

「はい……」
「ならば全力を尽くすべきだ。安心するといい、命を投げ出せとまでは言わない」
「本国からの増援は?」
「期待はしない方がいいだろう。彼らは今、異形狩りに集中している。
 ただ、ある程度時期が下れば応援はあり得るとみていい」

 彼はにこりともせずに言いきると、背筋を伸ばした。
 それと同時に彼らの向かいにあるドアが開いた。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/15(日) 17:51:56.74 ID:ISM8V998o

 まず見えたのは、なかなかに恰幅のよい髭の中年男性だった。
 次にそれに抱きつく若い娘。

「やっぱりパパって最高だわ!」
「はっはっは、そういうお前こそ最高だよ」

 二人は何が楽しいのか、妙にはしゃいだ雰囲気だった。
 ウィリアムはそれをぽかんと見つめた。彼らはそれにかまわず会話を続ける。

「いいえ、やっぱりパパの方が最高よ。あたしのために屋敷一つ建ててくれるところなんて正気とは思えない!」
「はっはっは、おもちゃの家を買う話からそこまで発展しているお前こそぶっ飛んでるさ!」
「うふふ、それでもかなえてくれるパパ素敵!」
「それでも物怖じしないお前が可愛くて仕方ないよ」
「あたしもパパ大好き!」
「お初にお目にかかりますボーナム管理官」

 さらっと会話を始めるアデルに唖然としながらも、ウィリアムは彼にならって立ちあがり礼をする。

「おお、君たちが剣国からの」
「はい。アデル・トリガーと申します」
「リグ・ボーナムだ。知ってると思うが」
「僕は――」
「あたしはクリスよ!」

 娘の元気のいい声に遮られ、ウィリアムは名乗る機会を失った。
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/15(日) 17:52:41.14 ID:ISM8V998o

「ねえねえ、あなた傭兵さん? とっても格好いいのね、あたしの旦那さんにならない?」

 もちろんアデルに向けた言葉だ。それを聞いてリグがにわかに焦りだす。

「な、何を言ってるんだクリス、お前はまだ13じゃないか。パパは許さないぞ!」
「パパのことは大好きよ、でもあたしたちの愛は引き裂けないの!」
「何たることだ、お前をそんな子に育てた覚えはない!」
「あたしの世話は乳母のマリーがしたわ」
「絵本の読み聞かせはパパがしたじゃないか」
「あたし絵本は好みじゃないの。だって美形が出てこないんだもの」
「強盗団の規模はどれほどですか?」
「およそ三十から四十だ」

 さすがに職務は忘れないということか。リグはアデルに即答した。
 ひょうきんなパパの顔から、管理官の渋いそれになる。

「少ないと思うか? だが我々はその小勢ごときに悩まされているのだ」
「ホントウザいわよねー」

 口をとがらせてクリスが向かいのソファーに座る。
 リグはその隣に腰かけた。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/15(日) 17:55:11.56 ID:ISM8V998o

 さて、とリグは息を継いだ。

「君たちは何をしてくれるのかな?」
「強盗団の排除、ないしは無力化を」
「それは確実に成せることかね」
「我々を何だとお思いですか?」
「失礼した。期待しよう」

 リグは笑って、髭を撫でた。
 彼の態度はいささか尊大の気があった。
 それは恰幅のよい体つきに似合ってはいたが、ポーズのために取っているわけでもあるまい。
 剣国は金野原の支援なしには成り立たない。その力関係を理解している者の態度だ。

「どんな手を使ってでも成し遂げてくれ。
 協力は惜しまん。と言うよりも、今回剣国へ依頼しようと提案したのは私なのだ。
 この顔に泥を塗ることだけは避けてほしい」
「分かりました。ではまず強盗被害の記録を戴きたいのですが」
「そうだな、まずはこれだ」

 リグが懐から紙を取り出す。広げると小さいテーブル一枚ほどの大きさになった。
 金野原の国の地図だ。あちらこちらに印がつけられ、被害の書き込みがされている。

「強盗被害は各地で起きている。場所に決まった傾向はなく、それこそあちこちが襲われている。
 北で起きたと思ったら次は最南端で起きたなんてことも珍しくない」
「時間間隔は?」
「おおよそ一から二カ月だ。もっと短いこともあるし、長いことももちろんある」
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/15(日) 17:56:30.81 ID:ISM8V998o

「なるほど、被害の規模については?」
「国に打撃を与える程ではないものの、都市レベルではなかなか痛い、と言ったところだ」
「人的被害は?」
「死者はいない。だが、負傷者は数えるのも馬鹿らしい」
「死者は、いない?」

 思わず口を開いたのはウィリアムだった。
 集まる視線に居心地の悪さを感じつつも、言葉を続けた。

「それは本当ですか?」
「ああ、あくまで記録の上では、という話だが」

 被害に遭った村はすでに見ていた。あれほど荒らされて怪我人が出ていても死者がいない。
 それは奇妙に思えた。

「強盗はしても殺す度胸はなかったということだろう。
 それよりも、我々は一刻も早く強盗団を殲滅しなければならない」

 そう言ってリグはソファーを立った。クリスも一緒に席を立つ。

「では君たちの働きに期待する」
「じゃあね、未来の旦那様」
「おいこらクリス、まだそんなこと言ってるのか!」
「愛は不滅よ!」

 ドアをくぐり、声が遠ざかっていった。
 面会は終了ということだろう。
 ウィリアムも立ちあがるアデルに続いて部屋を出た。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/15(日) 17:57:22.22 ID:ISM8V998o

 to be continued...

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/16(月) 00:51:24.47 ID:8f8Xe4p0o
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/16(月) 09:50:58.38 ID:0ZrWuNBSo
乙です
強盗団結構小規模なんだな
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagasage]:2011/05/18(水) 22:40:59.64 ID:MiRo0WXWo

 都市の門近くに宿を取った。剣国傭兵隊権限により、一人一部屋ずつ取ることができた。
 宿泊用の部屋は二階より上となっており、一階は簡易の酒場である。

「情報をまとめよう」

 リグから受け取った地図を酒場のテーブルに広げ、アデルがつぶやいた。
 それは酒場の喧噪にまぎれて聞こえにくかったが、不思議と聞き逃すことはなかった。
 それは他の三人も同じだったらしい。誰も訊き返すことはしなかった。

「強盗被害はおよそ七ヶ月前に始まった。
 いや、そもそもこの国は慢性的に強盗被害に悩まされていたが、強盗たちに変化があったのがそれぐらいになる。
 より攻撃的に、多数で動くようになったのがそれ以降ということだ。
 それ以来、散発的に比較的大規模の被害が起きており、その数八件」
「一ヶ月に一件かそれ以上ってとこですか」
「そうだ。ただし、時間間隔は必ずしも一定ではない。短いときは三日、長い時で三カ月。
 被害を受けた村、町は四方に散っていて、これといった傾向はない。
 これまでの被害総額は……数えるのが馬鹿らしいな」
「強盗団の規模はどれくらい?」

 ミリアが口を開く。
 アデルはそれに頷いて応えた。

「およそ三十から四十だそうだ」
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagasage]:2011/05/18(水) 22:41:50.86 ID:MiRo0WXWo

「なんだ、拍子抜けするくらい少ないんだな」

 相棒が肩をすくませて言う。

「五人でもなんとかいけそうじゃねえか」
「それについてだが」

 しかしアデルが口をはさんだ。

「俺はもっと多いと踏んでいる。
 その二から三倍だ。百人は下らないだろう」
「その根拠は?」

 ウィリアムが問うと、アデルは目だけで彼を捉えた。

「被害額が大きすぎる。これは単純に少数では無理な数字だ。
 的確に人数を配置し、適切な場所を襲い、そのために確度の高い情報がなければ成すことはできない。
 各地に人員を散らして情報収集と即時襲撃を行っているはずだ」
「つまり、交代人員と後方支援の人員がいるというわけね」

 ミリアが納得したように頷いた。

「そうだ。特に情報は重要で、このファクターがなければここまでの被害は出ていなかっただろう」
「間諜……」

 それは相棒のつぶやきだった。

「そういうことだ」
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagasage]:2011/05/18(水) 22:43:02.12 ID:MiRo0WXWo

「ミリアさんたちの方は何か掴めましたか?」
「被害に遭った商人数人から話を聞けたわ。
 クリアちゃんが見つけてくれたおかげでね」
「クリアが?」
「ええ。この子人探しの才能あるわよ」

 ミリアはそう言って隣に座るクリアの頭を撫でた。
 クリアは小さい身体で身じろぎしたが、特にいやがる様子はなかった。

「それでね、やっぱり直接襲撃に関わった強盗団の人数はそんなに多くはないみたい。
 でも、その行動速度がそれ以前の比じゃないらしいわ。
 どっと襲ってきたかと思ったら、さっと後に引いて何も残らない、みたいな」
「なるほど」
「やはり情報収集や事前準備が周到であると見た方がいい」
「次の被害予想地はどこだよ?」
「不明だ」
「おいおい……」

 相棒が顔をしかめる。
 アデルは目を細めながら地図を示した。

「先ほど言ったように襲撃の最短時間間隔は三日。
 だが見てみるといい、その時襲撃された村の一つはここからみて西北、一つは南。
 距離にすれば二つの村の間はおよそ七十マイルほどだ。
 これを考慮すればどんな馬鹿でも予想が無駄だとわかるだろう?」
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagasage]:2011/05/18(水) 22:43:35.29 ID:MiRo0WXWo

 相棒の顔が不機嫌に歪んだ。

「それでも大体の予想はつくだろうが」
「そうだな。恐らく襲撃を受ける村には大体共通点がある」
「共通点?」
「襲うのに易く、奪うのに足る場所だ」

 要するに警戒が甘く、備蓄の多い村町ということだ。
 当然のことだが、リスクに見合ったリターンは重要である。

「該当地は?」
「警戒が甘いものはいくつもあるが、襲うのに足る備蓄があるのは限られている。
 十分な収穫があった場所は警戒も厳しくなる」
「ま、当たり前だな。
 そんな簡単なことをさも重要そうに言うことは理解できねえが」
「馬鹿にも分かりやすく話してるからな」
「この……っ」

 ウィリアムは話がそれる前に慌てて結論を促した。

「そ、それで結局被害予想地は?」
「いくつか襲撃にちょうどいいであろう場所をピックアップしておいた」

 そう言って彼は地図に指を滑らせる。
 この都市からみて南に二つ、西南に一つ、東に一つ。計四つ。
 どれも小規模の村だが、収穫量は比較的多い。しかし、それに見合った警備態勢が整っていない場所だった。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagasage]:2011/05/18(水) 22:44:15.95 ID:MiRo0WXWo

「警備人員は中から大規模の村町に集中している。
 これらの村についても人員を配備したかったのだろうが、この国の広さからして限界はある」
「じゃあわたしたちはこの四つの村に重点をおいて対策を立てるのね」
「いや」

 アデルは首を振る。

「それぐらいは強盗団も予想しているだろう。
 彼らの情報収集力を甘く見ないならば、そろそろ俺たち傭兵隊が入国したことは掴んでいるはずだ。
 五人という数字をどう見るかはわからないが、警戒はするだろう。
 ならば裏をかく方法を選択するとみていい」
「じゃあ、どうするんだよ」

 先ほど馬鹿にされたのが尾を引いているのか、やはり不機嫌に相棒が問う。
 アデルは黙りこむと、しばらく考えるように間を空けた。
 と。
 その次に口を開いたのは珍しいことにクリアだった。

「あの……」

 ほとんど酒場の喧噪にかき消されていたが、隣のウィリアムには何とか聞こえた。

「ん、何?」
「……こっちを見てる人が、いる」

 今度は全員に聞こえた。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagasage]:2011/05/18(水) 22:45:52.56 ID:MiRo0WXWo

 五人の間に軽い緊張が走る。恐らく全員が全員強盗団の可能性を考えたからだ。

「……どこに?」

 ウィリアムが問うと、彼女は怯えるように俯き身体を縮こまらせて囁いた。

「……右」

 視線だけそちらにやると、そこにはいくつかのテーブル。それから酒場の入口。
 それらのテーブルにこちらを向いている人間はいなかった。

(なら……入口!)

 ウィリアムが判断したその時だった。ドアが勢いよく開いた。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagasage]:2011/05/18(水) 22:46:56.86 ID:MiRo0WXWo

 to be continued...
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/18(水) 23:11:01.94 ID:XTNwoO8DO
これは気になる引き
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/19(木) 02:41:30.38 ID:SFKc1lJYo
乙です
追いつけるとは思えないがどうなるか…
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/20(金) 02:42:04.68 ID:YSQRQ9Wwo
かなり面白い
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/22(日) 08:48:48.15 ID:cmdvyis0o

 見えたのはだいぶ傾いた日の光に照らされた都市の風景。そしてそれを背後に背負って立つ小柄の人影。
 薄暗い店内からは逆光となっておおよその輪郭しかつかめない。
 次の瞬間、人影は開け放った入口から真っ直ぐこちらに突進を開始した。

(まずい……!)

 体勢の問題で抜剣がしにくい。抜けたとしても距離が悪い。こちらが態勢を整える前に人影は行動を完了するだろう。
 立ちあがった勢いで椅子が倒れた。その音ともに、目前に迫った人影が脇を通り抜けて跳び上がる。

「ダーリン!」

 叫び声が上がった。恐らく人影のもの。問題はその声の高さと内容だった。
 振りかえると、跳びかかられたアデルが小さい動きでそれをかわすのが見えた。
 人影が別のテーブルに突っ込み派手にそれらがひっくり返る。相棒が余波を受けて倒れ、騒音が店内に響き渡った。

「……なに?」

 クリアのつぶやきが聞こえた。
 ぽかんとした表情は、多分自分も同じなんだろうなとウィリアムは思った。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/22(日) 08:49:45.67 ID:cmdvyis0o

「ダーリンったら!」

 人影は思いのほかすぐに立ちあがって見せた。
 見たところ怪我もない。

「本当に本当に恥ずかしがり屋さんね!」

 管理官の娘がそこにいた。

「この子は?」
「ええと……」
「ボーナム氏の娘だ。名はクリス」

 ミリアに答えてアデルが言う。

「まあ! 名前覚えててくれたのね、これは運命よ!」

 感極まったように叫び、クリスがアデルに詰め寄る。

(運命?)
「パパのところを抜け出すのは大変だったわ。
 でもダーリンのためならなんてことはない、だって愛は不滅だもの!」
「……愛だかなんだか知らねえが」

 自分に乗っかった椅子をどけながら相棒が立ちあがる。

「ちょっと躾がなってねえんじゃねえかそこのガキ」
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/22(日) 08:50:27.52 ID:cmdvyis0o

「あら」

 心底驚いたふうにクリスが声を漏らした。

「なにかしらコレ」
「あ?」
「確かにあなたも美形よ。でもダーリンを見てしまうとあなたみたいなのは粗大ゴミにしか見えないの」
「んだとコラァ!」
「あんまり下品な叫び声あげないで、みんなが見てるじゃない」
「君のせいだと思うよ……」

 ウィリアムの声は当然のごとく無視された。

「そんなことよりダーリン、式はいつ挙げるの?
 あたし早い方がいいなーなんて」
「瞬発力の高さについては感心する。さすがは管理官の娘といったところか」

 アデルはいつの間にかさりげなくクリスから距離を空けていた。

「だが、そんなことを言うためにここまで来たのか?」
「何言ってるの、とっても大事なことじゃない!」
「君にとって大事なことが他の人間にも大事なことだと思わない方がいい」

 だがクリスはひるまない。

「ダーリンってホントに恥ずかしがり屋さんなのね!」
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/22(日) 08:50:59.98 ID:cmdvyis0o

「クリア、覗いてたのってあの子?」

 拍子抜けしてクリアに問うと、彼女は首を振った。

「多分……違う」
「え?」
「そういえば」

 唐突にクリスが口調を変えた。

「さっきこの酒場を覗いてる変な人がいたわよ。なんだったのかしらあの人」

 ことん。
 開け放った入口の方から、小さな小さな音がした。
 ついで空気が抜ける細く鋭い音。
 見ると入口が煙たく曇って視界が遮られていた。

「何!?」

 相棒の声と同時に煙の奥から荒々しく影が踏み込んできた。
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/22(日) 08:51:57.32 ID:cmdvyis0o

 正確に把握できなかったが一人ではない。
 そしてきらめく何かが見えた。恐らく刃物。屋内でも取り回しのきく小ぶりのもの。
 ウィリアムは焦って後退し、クリアにぶつかって共に倒れた。
 そこに駆け込んでくる敵が一人。

(まず……)
「――っらァ!」

 相棒がこちらを跳び越えその勢いのまま人影に殴りかかった。
 拳が的確に相手の得物を持つ手を捉える。慌てて取り落とした武器を拾おうとした敵の顔を相棒の足が捉えた。

「起きろウィル、奴らだ!」

 酒場がにわかに騒がしくなる。視界が利かないためにあちこちで転倒したり物がひっくり返る音が響く。
 その騒音の中を迷わず駆けてくる影。
 慌ててクリアを支えて立ち上がる。相棒が二人目の突進に弾き飛ばされた。迫る刃。
 だが、それはウィリアムの横を通り過ぎ数歩歩いて倒れた。

(……?)

 いつの間にかアデルが前方に立っている。影を横から殴りつけたのは彼のようだった。

「ウィリアム、外へ出ろ」

 短く告げて、彼は三人目の人影とぶつかった。

「こっちよウィル君!」

 その脇を駆け抜けミリア。クリスの手を引きながらだ。
 ウィリアムは立ちあがって駆けだす相棒に続き、クリアの手を引いて慌てて外に飛び出した。
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/22(日) 08:52:39.26 ID:cmdvyis0o

 to be continued...
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/22(日) 11:09:37.33 ID:S61KOXKco
乙です
クリスとクリア注意しないと読み間違うな
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/24(火) 21:39:05.84 ID:IDOBMmceo

 外は思いのほか穏やかだった。夕焼けに包まれた静かな都市の風景。
 だが、背後からはそれとは反対に荒々しい騒音が響いている。
 道には立ち止まりこちらを見ている者も多かった。

「早く警備兵に連絡を……」
「いえ、それでは間に合わないわ」

 ミリアが鋭く告げる。

「わたしたちへの襲撃のためだけにこんなに派手なことするわけない。
 ということはこの都市自体への襲撃と見るべきよ」
「ずいぶん思い切ったことを……」

 相棒がうめく。

「確かに裏をかかれたな」
「南門へ向かうわよ」
「作物庫か!」

 ここが静かなのは狙うものが(自分たち傭兵以外には)ないからだ。
 強盗が狙うのは収穫物。ならば南門付近に彼らはいる。

「待って、ダーリンは……!」
「アデルは強いから大丈夫!」

 ミリアは再びクリスの手を引いて走り出した。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/24(火) 21:39:40.38 ID:IDOBMmceo

「そのガキは置いてった方がいいんじゃねえのか!?」
「駄目よ、どこに強盗がいるか分からない。
 そんな状況で真っ先に狙われるのは誰?」

 有力者の娘だ。
 攫えば収穫物に加えて身代金も取れる。
 相棒は舌打ちし、ミリアたちを追い越した。
 ウィリアムはクリアの手を引いてその後を追う。

 相変わらず都市は整然としていた。強盗団が侵入してきているだろうことにも気付かず。
 だがそれでも。
 大通りを南門に近付くにつれてざわつきが大きくなってきた。
 最初に聞こえたのは男の声だった。

「ええいお前たち、いい加減にしないか!」

 その声はあくまで尊大で、特に怯えたところもなければ焦ってもいなかった。

「お前たちのせいでどれくらい被害が出たと思っている。食いっぱぐれたのも一人や二人ではないぞ!」

 角を曲がって見えたのは通りの脇に続く作物庫。そこに止まった数台の馬車に、明らかに都市の人間ではない男たち三十人程。
 そしてその男たちの中の数人に取り押さえられひざをついた恰幅の良い中年だった。

「パパ!」
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/24(火) 21:40:26.84 ID:IDOBMmceo

 周りに他の人間はいない。

(……? おかしいな)

 いや一般人は逃げていてもおかしくはない。
 ただ、いてしかるべき作物庫の番人がいないのは奇妙だった。

「おお、クリスか!」
「パパ大丈夫!?」
「案ずるな、見ての通りぴんぴんしとる!」

 だが、次の瞬間リグは目の前にいた男に殴られて地に転がる。
 クリスの悲鳴が上がった。
 地に這いつくばったリグは、それでも口を休めなかった。

「クリィィィス!」
「なにパパ!?」
「アレ、持ってこい!」
「アレって……あれよね!?」
「そうだアレだ!」

 リグは娘をしっかり見据えて地から半身を引き剥がした。

「ポッチャレータムグレート!」
(なにそれ)
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/24(火) 21:41:42.09 ID:IDOBMmceo

 訝しむウィリアムに構わずリグは続ける。

「アレならば全て片付けられる! 究極の爆薬だ!」
「で、でもパパ!」
「無論パパごとだ。だがお前がやってくれるなら本望この上ない!」
「そ、そんなことあたしにはできないわ!」
「パパを愛してるならやってくれ!」
「だって、だって……パパの遺産はあたしが十八にならないと相続できないじゃない!」

 それ以前に強力すぎる爆薬は作物ごと燃やしてしまいかねないが。

(いやいや……)

 問題はそんなことじゃない。

「ぬう、よく覚えていたな娘よ、その通りだ! 仕方ない、だったらポッチャリオンハイパーで手を打とう!」
「ねっちりぴったり超強力毒矢ね!」

 無論。その間ウィリアムたちは黙って突っ立っていたわけではない。
 じりじりと牽制のごとく近寄ってくる強盗数人とにらみ合っていた。

「……突撃はわたしとロック君ね。ウィル君はこの子たちを連れて下がって」

 アデルがいない今、指揮権は自動的にミリアに下る。

「了解」

 ミリアと相棒は前へ、ウィリアムたちは後ろへ。
 だが。
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/24(火) 21:42:37.22 ID:IDOBMmceo

「野郎ども、ずらかるぞ!」

 野太い声が響き渡る。同時に、強盗たちが馬車に飛び乗った。

「しまった!」

 積み込みは既に終わっていた。
 リグも馬車に引きずり込まれる。行動が異常に速い。
 追いかけようとしたミリアと相棒の足元に、しかし何かが投げ込まれた。
 反射的に飛び退く二人の目の前で盛大に破裂する爆竹。

「チッ、こけおどしかよ!」

 わめく相棒を尻目に馬車が走りだす。

「パパぁ!」
「クリス!」

 追いかけるが無論馬車の全速力にかなうわけがない。一台目、二台目。次々と南門を抜けて走り去った。
 だがリグの分一人多く乗せていたせいか最後の馬車はほんの少し遅い。
 前の一台と間を空けて南門を抜けようとしたその馬車の目の前に、ふらりと人影が出てきた。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/24(火) 21:45:41.01 ID:IDOBMmceo

「アデルさん!」

 右手に長剣、左手に何やら白い布のようなものを携えた彼は、特にどうということもなく迫りくる馬車を見据えた。
 確かに恵まれた体躯である。だがそれでもその何倍もの質量をもつ馬車を止めるにはほど遠い。
 身構えた彼を見てウィリアムはアデルの正気を疑った。

(あぶな……!)

 次の瞬間。
 アデルは左腕を振った。大きい布が翻った。表面に真紅の円陣が描かれたそれは――

「構成陣、だとォ!?」

 猛烈な閃光が視界を埋め尽くした。激震が地を揺さぶる。耐えきれずウィリアムは膝をついた。
 鼓膜がびりびりと振動する。
 しばらくして光が消えても、視界は焼けてしまっていて何も見えなかった。

「久しぶりだが……上手くいったか」

 アデルの細いつぶやきが、それでもやはりしっかり聞こえる。
 徐々に晴れてくる視界に、大きくえぐられた地面とひっくり返った馬車。そしてそのすぐ手前に立つ男が見えた。

「魔術技能士……」

 彼らは、そう呼ばれている。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagesaga]:2011/05/24(火) 21:46:12.65 ID:IDOBMmceo

 to be continued...
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/25(水) 20:12:17.67 ID:D+YQJ8f/o
乙です
魔術技能士って魔術師の一種だろうか
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/27(金) 21:47:16.64 ID:qKW626njo

 魔術技能士。それは構成陣を理解し、力を行使する者たちの名である。
 単純に魔術士と呼ばれないのは、魔術というものが個人の特別な資質によるものでないことに由来する。
 構成陣を精密に描画することができれば、理論上誰にでも行使できるのが魔術だ。

 それゆえ構成陣の知識は各国が厳重に管理し、取り扱っている。
 剣国においてもそれは例外ではない。
 騎士団からそれを持ち出そうとしてそれが露呈すれば無事ではいられない。
 そうして命を失った者も、それなりにはいる。

「なのに、なんでお前がそれを扱えるんだよ」

 相棒が酒場のテーブルを指で叩きながら不満げにつぶやいた。
 あの騒動から二日後の昼だ。
 五人で着いたテーブルには簡単な昼食が並んでいるが、相棒は手をつけようとしなかった。

「傭兵隊はほぼ剣国の常備軍の扱いだ。
 ならば、魔術の知識を傭兵隊に融通していてもおかしくはあるまい」

 サンドイッチをつまみながらアデルが答える。
 これはこの二日間で何度かやりとりされた内容である。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/27(金) 21:48:01.64 ID:qKW626njo

「魔術騎士による知識供与、でしたっけ?」

 ウィリアムはスープの器を引き寄せながらつぶやいた。

「傭兵隊にも魔術技能士の育成は必須だとかで」
「そうよ。わたしとアデルはその講習生なの」
「てことはミリアさんも?」
「アデルほど優秀じゃないけどね」

 ミリアは苦笑した。

「まあ、魔術技能士なんて物々しく言ったところでただのいち傭兵よ。
 それほど使い勝手のいいものじゃないし」

 ウィリアムはそれとなくクリアを見た。
 視線に気づいて、彼女はまばたきした。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/27(金) 21:49:03.81 ID:qKW626njo

 昼食を終えて部屋に戻ったウィリアムは、ベッドに腰掛けて本を開いた。
 二日前の襲撃。あれから強盗たちの気配はない。
 警戒を強めた都市に二度も襲撃を掛けられないというのが実情だろう。
 ウィリアムたちも昨日程の警戒はしていなかった。

 二日前に捕縛した強盗数名は今は管理官、つまりリグの管理下にある。
 明日あたりに国から遣わされてくる役人に引き渡されるだろう。

「……」

 だからウィリアムたちは格別の警戒はしていなかったのだが。
 それでも廊下を行く気配には気付く。
 部屋のドアを開けると金の長髪が視界に入った。

「ロック?」
「ウィルか」

 こちらを振り返る相棒は、眠そうに首を掻いた。

「どうしたのさ」
「俺が部屋を出る用事ってったら一つしかねえだろ」

 酒だ。
 しかしウィリアムは引っかかりを感じていた。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/27(金) 21:50:01.19 ID:qKW626njo

 特に大きな引っかかりではない。
 それでもその違和感は頭からはがれおちてはくれなかった。

「ま、そういうわけで」
「待って」

 言うと、相棒は踏み出した足を止めた。
 小さく剣帯が音を立てた。

「なんでお酒を飲むのに武装する必要があるのさ」
「……」

 相棒は再び首だけ振りかえると品定めするようにウィリアムを眺めた。
 しばらくしげしげとした視線がウィリアムを撫でた後、相棒は口を開いた。

「やっぱりわかるか?」
「まあ、それなりに相棒やってるし」
「そうか。そうだよな」

 にやり。相棒の口角がつり上がる。

「ついでだ。お前もついてこい」
「どこに?」

 相棒はさらに笑みを大きくする。

「俺たちの出世街道さ」

 ざわり。ウィリアムの胸に不穏な予感が去来した。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/27(金) 21:50:38.96 ID:qKW626njo

 to be continued...
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/05/28(土) 21:48:16.00 ID:gWcW8hQ3o
乙です
国家資格なのかな?この世界の魔術師の総称って感じか
ウィリアムに気付かれるまで部屋の前をうろうろしてたりしたんだろうか
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/31(火) 19:42:59.45 ID:hn5qBihAo

 相棒に連れられて着いたのは、管理官の事務所だった。あの大きな建物だ。
 どういうことなのかと相棒に問いかけても、にやにや笑うだけで返事はない。
 応接室に通され、ソファーで待つことしばし。

「これはこれは」

 恰幅の良い中年が笑顔で現れた。
 ただしあちこち包帯を巻いている。先日の襲撃、そのさなかのアデルの魔術で怪我を負ったせいだ。
 そのわりにやはりつやつやしたままで、怪我の気配は微塵も感じさせない。
 それは管理官の威厳と言うよりは、何かの冗談にも思えたが。
 彼はソファーに腰掛けると、溌剌と声を上げた。

「先日の君たちの働きには感謝している。おかげで強盗たち数人を捕縛できた。
 情報を引き出すことでじきに強盗団本体も壊滅に追い込めるだろう」
「いえいえ、それもこれも管理官の身をていした勇敢な行動のたまものですよ」

 相棒が似合わない敬語で答える。
 そのせいというわけでもないが、ウィリアムは落ち着かなかった。

「はっはっは、そうかもしれないな」
「ええ、ええ、その通りですとも」

 ひとしきり二人で笑いあった後、ふとリグが相棒に訊ねる。

「ところで君たちは何をしに来たのだ。もう事件は解決したようなものだろう?」
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/31(火) 19:43:35.17 ID:hn5qBihAo

 相棒は待ってましたとばかりに口を開いた。

「実はそれについて進言がありまして」
「進言?」
「ええ。俺たちはこの間の襲撃事件で強盗団の末端構成員数名を捕縛しました。
 彼らを締め上げれば、あなたの言うように強盗団本体の位置も割り出せるでしょう」
「うむ」
「ただし、これは強盗団の方だって予想しているはずです。当然のことですが」
「だろうな。だから時間との戦いになる」

 はい、と相棒は首肯する。

「ですが、強盗団被害はこの国の最大と言っても問題ないほどの懸案事項。
 もっと迅速な対応を検討する必要があると俺は思うんです。
 強盗団にこれ以上時間を与えれば、奴らはさっさと逃げてしまうでしょう。それではまずい」

 リグは確かに、と頷いたうえで顔をしかめた。

「しかし、国からの役人を待つ以外の方法があるというのかね?」
「またまた管理官殿。あなただって分かっているはずだ」

 訝しげな顔をする管理官に、相棒はにんまりと笑いかけた。
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/31(火) 19:44:18.13 ID:hn5qBihAo

 それからしばらく後。

「へっ、楽勝だぜ」

 ウィリアムたちは夕暮れの街道を歩いていた。

「あのデブ管理官、ちょろっと餌をちらつかせたらパクっと食い付きやがって」
「……」

 相棒の得意げな独り言を聞き流しながら、ウィリアムは縄を握る手で鼻の頭を掻いた。

「ウィルも思うよな。アイツ絶対要職向いてねえよ」

 からからと笑う相棒に頷く気にもなれずに縄の先を見る。
 明らかに柄の悪い男が縄で縛られたまま前を歩いていた。捕縛した強盗団の一人だ。

「ねえロック」
「なんだ?」
「……うまくいくかな」
「さあな」

 そっけない相棒の声を聞きながら、ウィリアムはため息をついた。
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/31(火) 19:44:55.40 ID:hn5qBihAo

 強盗団の本拠地捜索、掃討を自分たちに任せてほしい。
 それが相棒の申し出だった。
 もちろんリグはいい顔をしなかった。独断で行動すれば最悪国への背任行為とみなされてしまう。
 しかし相棒は引き下がらなかった。

「あなたにだって悪い話じゃない。俺たちだけで解決すれば、国だってあなたを高く評価するはずです」

 ほんの少し、リグが揺らぐのが分かった。それでもしぶる管理官に相棒は告げる。

「大丈夫ですよ。捕縛した強盗全てを使うわけじゃない。
 一人ぐらいなら問題ないでしょ? 誤魔化すことだってできる。
 何より――こちらには魔術技能士がいるんですから
 大丈夫、無茶はしませんよ……」

 あっけなく管理官は陥落した。相棒の言う通り、一人ぐらいならと思ってしまったのだろう。
 失敗したときの苦さは並大抵のものにはならないはずなのだが。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/31(火) 19:45:32.57 ID:hn5qBihAo

 さて、縄の先の強盗はしばらくして街道を外れた。
 間違った方向に導かれるということはないだろうと思えた。
 この強盗が帰ることのできる場所と言うのは強盗団以外にはないからだ。
 自分たちを上手く出し抜ければ強盗団に復帰することもできる。そう思わせるのがコツだった。
 だからこそ罠には気をつけなければならないが。

「せめてアデルさんたちに強力してもらえれば……」

 管理官をそそのかすのに魔術技能士の存在を利用したにも関わらず、他のメンバーには知らせないまま出てきてしまった。

「それじゃ意味ねえ。手柄は俺たちで独占だ。
 あんなすかした奴にはおこぼれだってやるもんかよ」
「……」

 ありていにいって、不安だった。
 だがそれを告げたところで相棒がやめると言いだすわけもない。
 それでも森が近付いてくるに付けて、胸にざわざわとした思いが広がるのを感じた。

「やっぱりミリアさんにだけでも相談を」

 そう言ったところで強盗が立ち止まった。

「ん? おい、さっさと歩けよ」

 相棒がいら立った声で強盗の背中をつついた。
 と、その手が止まる。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/31(火) 19:46:17.92 ID:hn5qBihAo

「ロック……」
「ああ」

 相棒が険しい視線で頷く。
 すばやくウィリアムの手から縄を奪って強盗の背中に寄った。

「撃つな! 撃てばこいつにも当たるぞ!」

 だいぶ日が傾き暗く陰った森の木々。その間からクロスボウを構えた男が二人、姿を見せた。

(来た……!)

 本拠地だ。少なくともその目前まで来た。
 相棒との打ち合わせでは、ここから隙を見て逃げ出し都市の警備兵に報告することになっていた。
 だが。

「ウィル、行けるとこまで行くぞ」

 相棒が囁く。

「い、行けるとこって?」
「親玉だよ」
(無茶だ!)

 ウィリアムの無言の悲鳴を背後に、相棒はじりじりと人質ごと前進する。
 人質の陰に隠れるならばウィリアムもそれに続かなくてはならない。
 だが足を踏み出そうとしたその鼻先を高速の何かが通り過ぎた。

「え?」
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/31(火) 19:47:01.69 ID:hn5qBihAo

 右方を見ると、地面がくぼんで陰になっていた。何者かがそこから這い出し、得物を構えている。
 強盗団の一人だ。

(しまっ――)

 即座に相棒を引きずり倒し地に伏せた。
 その頭上を幾本もの矢が通り過ぎた。
 今まで拘束していた強盗が、縄の持ち手を失い歓声を上げて森の仲間の方へ駆けていく。
 人質を逃した。

(まずい……!)

 即座に起き上がり相棒を引きずって逃走を図る。
 が、その先にもクロスボウを構えた人影。
 逃げ場を失って硬直した。

「チェックメイトだ。大人しく捕まっときな、命まではとらねえよ」

 森の中から声がした。それが強盗団の頭の声だろう。なぜだかそうだと分かった。
 だが分かったところで何がどうなるわけでもなかった。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/31(火) 19:47:28.67 ID:hn5qBihAo

 to be continued...
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/31(火) 22:28:00.79 ID:CEbmGqino
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage 待ってくれてる人がいるならその人へ]:2011/06/05(日) 20:50:24.91 ID:B/++CPHjo
申し訳ないス
あちらのメドが立ったら投下するっス
多分明日明後日くらい
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/20(月) 16:22:08.35 ID:Z6ZcJh/Vo

 牢屋は洞窟を利用して作られたなかなかしっかりしたものだった。
 日が沈んでかなり暗い。その闇の中から舌打ちが聞こえた。

「まさか読まれてたとはよ」

 相棒だ。牢屋に入ってから彼の機嫌は、当たり前だがすこぶる悪かった。

「読まれてたね、完全に」

 まさか手柄を焦るひよっこが出しゃばってくるという詳細が分かっていたわけではあるまいが。
 それでも強盗団は、少人数による襲撃への対策ぐらいは立てていたらしい。
 まあ考えてみれば当然だが、それでも逃げに徹していれば逃亡くらいは成功していたかもしれない。

「なんだよ、文句あるのかよ」
「……いいや」

 ごつごつした岩肌に背中を預ける。
 これからのことを予想すると、少し気が重くなった。
 武器は全て取り上げられ、とうに尋問は終了している。
 聞かれたのは、自分たちの目的、援軍の有無。
 誤魔化すまでもなく剣国傭兵隊の一員であることは割れていた。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/20(月) 16:22:40.35 ID:Z6ZcJh/Vo

 だがまあとりあえず、すぐさま殺されることがなかったのは僥倖だった。

「これからどうする?」

 相棒がぶっきらぼうにつぶやく。

「どうするもこうするも……」

 できることなどない。
 相棒も分かっていただろう。ただ、他に話すことがなかったのだ、きっと。

「だがよ」
「確かに、逃げられちゃうね」

 尋問の終わり際、強盗たちの会話が聞こえた。
 どうやら今夜中にも本拠地の場所を移すらしい。
 再び相棒の舌打ちが聞こえた。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/20(月) 16:23:10.74 ID:Z6ZcJh/Vo

「だったらなんとかしてふんじばってやんねえと……」
「どうやってさ」
「そりゃあお前……」

 相棒の声が小さくなる。

「……お前、特技が鍵開けだったりしねえか?」
「もしそうならとっくに開けてると思わない?」
「だよな」

 すとん、と相棒が座る音がした。
 相変わらずだが、できることがない。
 はあ。ため息をついてウィリアムは座ったままみじろぎした。

 そのまま時間だけが過ぎた。
 世の闇が深くなり、月明かりだけがうっすらと洞窟の入り口を照らしている。
 洞窟の外に広がる木々は何も語らない。
 見張りはとうにいなくなっていた。
 もしかしたらもう強盗団ごと移動してしまったのかもしれない。

 そうなれば絶望的だった。
 自分たちを気にかける者がいなくなる。
 もしかしたらここで餓死して終わりかもしれない。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/20(月) 16:23:37.99 ID:Z6ZcJh/Vo

 まんじりともせず、ウィリアムはじっと檻の格子を見つめていた。
 洞窟のやや奥の方からは、かすかな寝息が聞こえる。
 相棒は焦燥すら感じることはないらしい。その図太さが少々うらやましかった。

 闇の中、空気が静かに流れていく。
 夜はゆっくり更けていく。
 と。

 かた……

 わずかな音が牢屋の入口の方から聞こえた。
 はっとして顔を上げた。少々うとうとしていたらしい。眠りかけていたことに我ながら驚いた。
 低い声が聞こえてくる。

「今開ける」

 それは聞き覚えのある声だった。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/20(月) 16:24:55.45 ID:Z6ZcJh/Vo

「独断行動はほどほどにしておけ。能力がないならなおさらな。
 俺が気付かなかったらどうなっていたかわからん」

 アデルの声は月光と同じくらい冷たかった。
 相棒は反駁の気配を見せたが、恥の上塗りになることは分かっていたのだろう、特にわめくことはなかった。

「ありがとうございます。そして申し訳ありませんアデルさん」

 ウィリアムの礼に、アデルは首を振った。

「いや。まあどうせそろそろ動くべきだとは思っていた。
 まさかお前たちに先を越されるとは思わなかったが」

 息を吐いてアデルが口をゆがませる。

「これから強盗団を解体する」
「しかし、もう彼らは逃げてしまったのでは?」
「いいえ、まだいるわ」

 木々の奥から女の声がした。
 これにも聞き覚えがある。

「ミリアさん……!」
「彼らはまだこの奥で最後の荷造りをしているわ。今なら間に合う」

 何やら荷物を背負ったままミリアは言い、にこりとこちらに笑いかけた。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/20(月) 16:25:51.77 ID:Z6ZcJh/Vo

「行くぞ」

 くるりとアデルが振り向いた。強盗たちがいる方へ。

「ちょ、ちょっと待ってください」

 慌ててウィリアムは声を上げた。
 アデルは肩越しに振り向いた。

「なんだ?」
「この四人だけですか? 他の人員は?」
「いない」
「じゃあ、どうやって強盗団を……」
「秘密兵器」

 ミリアが背中の荷物を示して言った。

「強力爆薬よ、リグ・ゴールドさんのね。ポッチャレータム……グレートだったかしら?」
「それを強盗団の通り道に仕掛けて終わらせる」
「なあるほどな」

 機嫌を直した相棒がにやりと笑った。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/20(月) 16:26:23.51 ID:Z6ZcJh/Vo

「作戦は単純だ。だが、時間のなさが問題だ。急ぐぞ」

 足を踏み出したアデルに、しかしウィリアムは再び声を上げた。

「殺すんですか……!?」

 アデルはほんの一拍足を止めたが、何も言わずに再度足を踏み出した。

「彼らは誰も殺してないんですよ!?」

 アデルは足を止めない。ミリアはこちらを見ていたが、困ったような顔をするだけだった。
 ウィリアムは走ってアデルの前に回り込んだ。

「そ、それにですよ? もし強盗団の移動ルートをあてそこなったらどうするんです!?
 この山の奥、強盗団が正規の道を通るとも考えにくい……」
「ではどうすると言うんだ? 殺す覚悟がないまま見逃し、さらに被害を広げるのか?」
「それは……」

 口ごもらざるを得ない。代案を示さずに主張するのは愚か者だ。
 だが、それでも簡単に譲るわけにはいかない。
 必死に頭を絞り、回転させ。

「なら……なら!」

 ウィリアムは一つの策を選択した。

「僕が彼らを説得します!」

 とても無謀で、訳のわからない案を。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/20(月) 16:26:52.28 ID:Z6ZcJh/Vo

 to be continued...
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/20(月) 21:34:42.70 ID:cjaN31Nfo
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/21(火) 11:28:10.34 ID:KWKP99dAO
ヴァイスとデニムみたいだな
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 18:47:01.52 ID:3O5WJ/1vo

 夜中の濃い闇の中、強盗たちは最後の準備をしていた。

「早くしろ! さっさと引き上げるぞ!」
「うっす!」

 頭にこたえる手下たちの声。
 だが、その一人が荷を押し上げた瞬間、耳をつんざく轟音が響き渡った。
 光が瞬き、地が揺れ、強盗たちの数人がよろめく。
 熱を持った風が押し寄せ、木々が砕け倒れる音が聞こえた。

「な、なんだ!?」

 悲鳴に近い叫び声。しかしあたりを見回す強盗たちの目には何も映らない。
 爆音の余韻の中、いち早く我に帰った頭が声を張り上げた。

「何かはわからねえが、とにかく準備を終わらせろ!
 いいか、すぐにここを離れるぞ!」
「それは無理だ」

 ぼそぼそと呟くようでいて、誰の耳にもそれは届いた。

「誰だ!?」

 強盗たちが振り向く先に彼はいた。

「俺か。剣国傭兵隊、魔術技能士だ」
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 18:47:38.58 ID:3O5WJ/1vo

「魔術技能士!? あいつが例の!」

 強盗たちの動揺は明白だった。
 誰もが落ち着きをなくし、怯えを顔に表した。

「落ちつけ!」

 だが頭の一声でそれはおさまる。

「相手は一人だ。たとえ強力な魔術技能士だろうとこの人数差はどうしようもねえだろ」

 頭が右手で合図をすると、数人がクロスボウを取りだして構えた。

「で、どうするんだ、魔術技能士さんよ」
「……」

 アデルは無言。
 ただ、右手に提げた白い布をゆっくりと広げて見せた。

「構成陣……」

 それは誰のつぶやきか。

「……それが血陣魔術の構成陣か。俺も初めて見た」

 頭がうめく。

「だが、どうせそれでしとめられるのはこの人数の内のほんの十数人ってとこだろ。
 それじゃお前が死んで終わりだぜ?」
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 18:50:26.63 ID:3O5WJ/1vo

 明白な事実を告げられたところで、アデルは顔色を変えることはなかった。

「先ほどの爆発」
「あん?」
「俺の後方およそ半マイル。そこが爆心地だ」
「……」

 訝しげな表情の頭に、さらにアデルは告げた。

「血陣魔術で吹き飛ばした。半径二百ヤード程の面積が焼けただろう。
 本当かどうか確かめたいのなら一人まで行くことを許す」
「まさか……」
「そうだ、この構成陣もそれと同じものだ」

 強盗団の間に冷たい緊張が走った。

「お前たちが矢を放つよりも俺が構成陣を完成させる方が速い。
 ……いや、どうだろう。分からないなら試してみる価値もあるが……」

 頭は忌々しげな表情でアデルを睨んだが、しばらく考える間をはさんだ後再び口を開いた。

「お前の目的はなんだ……? 俺たちを殺すのならとっくにやっているだろう」
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 18:51:54.07 ID:3O5WJ/1vo

「そうだな。俺としてもそれが確実だと思ったんだが」
「……?」
「部下が納得してくれなかった」
「どういう意味だ?」
「後は任せた」

 声とともに、ウィリアムは隠れていた木の陰から歩み出た。

「……はい」

 月明かりの薄暗がりの広場。そこに居並ぶ強盗団が目に入る。
 こちらを狙う矢の切っ先が気配だけでも突き刺してくるようで、ウィリアムは軽く身震いした。

「傭兵隊のガキ?」

 頭の声が聞こえる。数刻前に聞いたその声。
 それを耳におさめながら、ウィリアムは長剣を脇に構えた。
 アデルに借りた、ずっしりと重いそれ。

「僕は、あなたに決闘を申し込みます」

 声を静かに、夜の闇に吐きだした。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/21(火) 18:52:30.49 ID:3O5WJ/1vo

 to be continued...
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/21(火) 22:14:41.72 ID:eheYyotvo
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/26(日) 13:36:36.25 ID:mXqLSzhDO
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/15(金) 18:54:48.69 ID:x0vODkjRo

 月の光が冷たかった。
 あたりに息の詰まる緊張が静かに張り詰めているのを、ウィリアムは肌で感じた。

「……約束は守るんだろうな」

 彼と対峙した強盗の頭がぶっきらぼうに問う。
 周りに集まった強盗たち。それからすこし離れて二人の人間が寄り添うように立っていた。
 いや、片方がもう片方を羽交い絞めにして、その喉元にナイフを突き付けている。

「ああ」

 アデルは頷いた。

「お前が勝ったら俺たちは強盗たちの移動は見逃す。その後この人質を解放する。
 既にこの男の代わりに大事な構成陣を渡しているのだから、信じてほしいものだな」
「……」
「剣の国は誇り高き騎士の国だ。信頼してもらっていい」
「信頼、ねえ……」

 舌打ちし、それでもどうにもならないことを悟って頭がウィリアムに視線を移した。
 ぶるり。密かに背筋を震わせる。実は足も震えている。
 どうにもならない。この恐怖も。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/15(金) 18:55:20.10 ID:x0vODkjRo

 長剣を脇に構えて息を詰める。
 頭は短剣を手で弄びながらちらりとこちらをみた。ウィリアムとは対照的に余裕がある。
 もしくはその振りか。舐められないことの必要性を理解しているようだ。

「お前みたいなガキをいたぶるのは好きじゃねえんだがなぁ……」

 だからと言ってためらうこともないようだった。
 次の瞬間、短剣がウィリアムの目の前で閃く。

(速い!)

 首をすくめる。もっともそれは牽制で、こちらに届くことはなかったが。
 だが二撃目もそうであるという保証はない。
 ふっ! 息を鋭く吐く。同時にウィリアムは長剣を斬り上げた。
 十分な勢い。初めて使う武器とこの緊張にしては上出来だった。
 だが手応えはない。

「ッ!」

 慌てて長剣を引き戻し――いやその暇なく身体をよじる。
 短剣がそれを掠めた。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/15(金) 18:55:48.28 ID:x0vODkjRo

(やっぱりあっちの方が速い……!)

 それだけではない。間合いを見切り、先読みし、なおかつ次の手を打つのにためらいがない。
 相手の方がはるかに上であることを認める。
 それでも諦めるわけにはいかなかった。

 裂帛の気合と共に、ウィリアムの一撃が振り下ろされる。
 ついで二撃、三撃。間合いを測って慎重にだ。
 頭はそれら全てをほんの半歩分の体さばきでかわして見せた。

「くっ……」

 長剣は重い。ウィリアムとてそれなりに鍛えてはいたが、それでも長引けば酷くまずい。
 もともと相手の方が技量は上なのだ。
 ……それで焦ったのが良くなかったのだろう。

「シッ――!」

 渾身の力を刃に乗せた、その手に。

「つっ!」

 痛みが走った。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 18:56:15.02 ID:x0vODkjRo

 to be continued...
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/16(土) 01:35:18.40 ID:nA8N5Scxo
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/16(土) 01:44:54.11 ID:sFyMgH35o
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/28(木) 20:55:56.63 ID:1n82qtylo

 痛みは小さかった。しかし、同時に致命的でもあった。

(まずい……!)

 握力にわずかの鈍り。ついで引き起こされる小さな狂い。
 長剣がわずかに軌道を変えた。

「ッ――!」

 呼気が聞こえた。閃きが見えた。
 激しく肉に食い込む刃の感触。痛打される鼻づら。よろめく足を払われ地面に倒れ伏す。

「くっ……」

 悪態の隙間に空気を薄く切り取る音が聞こえた。

「呆気なかったな、チェックメイトだ。動くなよ?」

 首の後ろに冷たい感触が当たった。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/28(木) 20:56:41.53 ID:1n82qtylo

 組み敷かれ、その重みと圧迫感にうめき声が漏れる。
 手からは長剣の感触は消えていた。
 歓声が聞こえてくる。他の強盗たちのものだろう。

「で? どうやら俺の勝ちのようだが魔術技能士殿?」
「……」

 歓声と反対に、沈黙は鼓膜を揺すらない。
 アデルがじっとこちらを見つめているのが分かる。
 歓声がおさまり、静寂が落ちてから。さすがに訝しく思ったらしい頭がさらに声を上げた。

「おいィ?」

 その声が終わるか終わらないかといったタイミングだったろう。
 風を切る音がわずかに聞こえた。
 それから背中の上の頭がわずかに震える気配。

「……っ!」

 悲鳴は聞こえなかった。
 他の強盗たちが異変に気づくまでにまたしばらくかかった。

「お頭?」

 不意にウィリアムの背中から重みが消えた。
 少し間をおき、ウィリアムは痛む肩をさすってゆっくり立ち上がった。
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/28(木) 20:57:24.21 ID:1n82qtylo

 立ちあがって見える光景にあまり変化はない。
 相変わらずうす暗く、月の光が冷たい。周りに強盗たち。
 彼らの表情が驚きに染まり、足元に強盗の頭が倒れていることを除けば、静かな夜のままだ。

「がっ……あ……」
「お頭!」

 強盗の何人かが走り寄ってこようとしていた。
 ウィリアムはそばに落ちていた頭の短剣を拾い上げ、それをもとの持ち主につきつけると強盗たちを恫喝した。

「近付くなッ! 近付けば彼の命はないぞ!」
「お頭になにをした!」

 ウィリアムは頭にかがみこみ、彼の背中から小さなそれを引き抜くと、足を止めた強盗たちにそれを掲げて見せた。

「これは毒矢だ! 矢じりには猛毒が塗りこめられている!」

 どよめきが広がった。様々な内容のそれらは、総合するとこう聞こえた。

「矢だと? 一体どこから?」
「俺だよ!」

 今にも笑い出しそうなその声。

「このオルトロック・アロー様が! お前たちの頭領を討ち取った!」
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/28(木) 20:57:59.10 ID:1n82qtylo

 近くの木の陰から、背の高い少年が姿を現した。

「当たって良かったわ。ロックくんがどうしても撃ちたいって言うからどうなることかと思ったけど……」

 オルトロックと並んで苦笑いのミリアもいる。

「ふ、不意打ち……」
「バーカ、引っかかる方がわりぃんだよ!」

 毒矢。それはリグがポッチャリオンハイパーと呼んでいたものだ。
 同じように、最初の爆発もポッチャレータムグレートのもの。
 決して血陣魔術による破壊ではない。
 決闘を持ち出すことによって立ち位置を調整し、わざと勝たせて油断したところを撃ち落とす。
 そういう計画だった。(もっとも、勝つつもりでやってもウィリアムは負けていただろうが)

「お頭!」
「放っておけば彼は死ぬぞ!」

 ウィリアムは慎重に周りをうかがいながら言葉を重ねた。

「助けたいか!」

 あからさまに肯定する声はなかったが、その気配だけは感じ取れた。
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/28(木) 20:58:25.10 ID:1n82qtylo

「解毒剤はある!」

 どよめきが起こった。
 ウィリアムの頬を汗が伝う。ここが一番大事なところだった。

「欲しければ――」

 もし誘導を間違えば、水の泡だ。

「欲しければ、剣国騎士団に入門しろ!」

 静寂が、落ちた。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/28(木) 20:58:52.93 ID:1n82qtylo

 to be continued...
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/29(金) 19:59:20.68 ID:1KMaV15Ro

 やはり何かを誤ったか。
 そう錯覚するほどの静けさだった。

「騎士団に、入門……?」

 それは誰のつぶやきだったか。

「そう……そうです」

 ゆっくりと、口を開く。
 ひりつく喉の奥。

「察するに、あなたたちはこの国での農作システムにあぶれた人々だ。
 今更強盗をやめろと言っても生きるためにそれをやめることができない。
 加えて、この国があなたたちの復帰を認めるとも思えない」

 強盗たちは奪いすぎた。既に許される範囲を逸脱している。この国では。

「かといって僕たちはあなたたちの悪行を看過することはできない。
 しかし、あなたたちの組織は見た目よりも巨大です。なおかつ複雑だ。
 潰して潰し切れるものじゃない」

 組み伏せた頭のうめき声が聞こえる。
 あまり長引かせれば彼が死んでしまうことも考えられた。それではまずい。
 あくまで彼には人質でいてもらわなければならない。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/29(金) 19:59:54.14 ID:1KMaV15Ro

「だから僕たちは、僕たちの国は、あなた方を丸ごと受け入れます。
 あなたたちの罪科を水に流し、あなたたちに働き口を与えましょう」

 どよめき。先ほどとは種類の違うそれ。

「嫌とは言わせません」

 強盗の頭を示す。

「ここで頷いてもらえなければ、解毒剤はなしです」

 言葉を切った。

「……」

 強盗たちの困惑の気配が感じられた。
 当然だろう。"美味い話すぎる"のだ。
 普通にこの条件を提示すれば、警戒されてしまう。
 だから呑まざるをえない状況に持ってきた。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/29(金) 20:01:07.63 ID:1KMaV15Ro

「こ、の……」

 取り押さえた強盗の頭が何かをうめいた。
 その背中に囁く。

「卑怯なのは承知の上です」
「ぐ……」
「でも、僕たちの国は計算高き合理主義者の国です。
 これくらいは当然と思っていただかないと」

 もちろん後ろめたさはあったが。

「おらおら!」

 ガラの悪い声が響く。

「どうせお前たちに選択肢はねえんだ、さっさと腹ぁ括りやがれ!
 じゃないと毒で死ぬ前に頭領の喉をひっ裂くぞ!」

 強盗たちの間に緊張が走る。
 無理もあるまい。この強盗団は、この頭領で持っているにすぎないからだ。
 先ほど巨大といったものの、その実彼らはあまりに数が少なすぎる。それを補っているのが彼だ。
 彼の存在は、その意味は大きい。

 そのまま月がほんの少し夜空を滑り。
 強盗の頭のうめき声が弱まってきたころ。

「……」

 強盗たちはその身をウィリアムたちにさし出した。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/29(金) 20:01:35.30 ID:1KMaV15Ro

 to be continued...
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/07/29(金) 20:17:56.31 ID:49GH6aTqo
wktk
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/07/29(金) 22:35:52.02 ID:d1mGBA5lo
乙した
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/31(日) 19:17:17.16 ID:ugV/V+31o

 心地よい振動が、規則正しく身体を揺らしていた。
 北に向かっているが、風は暖かい。
 気を抜けば瞼が重くなりそうで、春のただ中を知る。
 ミリアとクリアが寄りかかり合って眠っている。
 自身もうとうとしながら、ウィリアムは隣の高笑いを聞いていた。

「うはははは!」

 狭い馬車の中、しかしオルトロックの機嫌は上々だった。
 当然だ。大仕事を成し遂げたのだから。

「まあ、ちょろいもんだったな。俺の手にかかれば強盗団の一つや二つ!」

 まあ、騒いでいるのは彼一人だったが。

「出世だ出世!」

 隅にはそれを複雑な表情で聞く強盗団の頭もいる。
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/31(日) 19:18:07.87 ID:ugV/V+31o

 昨晩の決闘の後、ウィリアムたちは強盗団の頭に解毒剤を投与したうえで捕縛した。
 強盗たちを騎士団に取り込むといっても、すぐに全員を輸送できるわけではない。
 そのため、人質として彼を先に移送することにしたのだ。
 頭領を騎士団に送り届け、報告が終わり次第強盗団の残りを本隊が迎えに行くだろう。
 もちろん表立って、ではない。
 金野原の国の多くの人々が知らないまま、事態は決着する。

 恐ろしく迅速だった。十日もたっていない。だが、とりあえずは解決だ。
 どんな形であれ、注目はされるはずだった。

「どんな形で注目されますかね」

 眠気でぼんやりとしたまま、隣で瞑目しているアデルに問う。

「さて」

 やはりぼそぼそと呟くような声。

「あまり好ましい形とはいかないかもしれないな」
「……でしょうね」
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/31(日) 19:19:41.22 ID:ugV/V+31o

 確かにウィリアムたちは、異例の速さで事態を収束させた。
 だが、それが騎士団の利益になるとは言い難い。
 騎士団はただでさえ、人員の質の低下を嘆いている。
 強盗団は確かにその道では恐ろしい程の力を発揮した。
 だが、騎士団として存分に活躍するだろうとは、恐らく言えない。

 他にも色々と問題はある。
 だが、オルトロックはそれに気付いていないようだった。

(……まったく)

 高笑いは響き渡る。春風を背景に。
 馬車はまだ、数日ほど進み続けるはずだ。
 できればその間は気付かないでいてくれよ。ウィリアムは胸中で相棒に願った。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/31(日) 19:20:14.88 ID:ugV/V+31o

 to be continued...
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/08/02(火) 19:57:46.62 ID:E1xnZq3jo

◆◇◆◇◆


 彼はいつものように書類に目を通していた。
 騎士団長執務室の中は薄暗い。もう夜が近い。

「……」

 一通り読み終わった後で、書類を机に置いた。
 どこか慎重に、丁寧に。自覚はあった。

「これは、事実か」
「ええ」

 彼の問いに答える声があった。男性のもの。

「彼らは、強盗団問題を解決しました。この短期間で」

 確かに短い。にわかには信じがたい。
 だが、どこか納得もあった。
 分かっていたわけではない。断じて。しかし、どこか予感はあった。気がする。

「そうか」
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/08/02(火) 19:58:55.49 ID:E1xnZq3jo

「驚かれないのですね」

 今度は女性の声。

「ああ」

 予感は、あったのだ。
 優秀な指揮官はついていた。だが、これはその指揮官による手際ではないだろう。

「オウルだな」
「その通りです」

 男の声は平坦。どこまでも平らで、感情を読むことはできない。
 その裏に感情が存在していないことも考えられた。

(こいつはそういう男だ)

 これから来る夜の静けさにも似ている。

「これからどうなさいます?」

 男に比べれば、まだ女の声は生きている気配が感じられる。
 だがそれも比較の話。
 彼女もまた、夜の者だ。
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/08/02(火) 19:59:27.04 ID:E1xnZq3jo

「どうもしない」
「放置すると?」
「ああ」
「何をお考えで?」

 ふと、何を考えているか分からない、といわれた事を思い出した。
 彼らほど夜ではないかもしれない。
 だが、他の者から見れば自分も同じくらい読めない者なのだろう。認める。

「……」

 答えは与えなかった。
 夜には言葉はそぐわない。せいぜい囁きがひそやかにあるのみ。
 目の前の二人も、特別回答が欲しいわけではないようだった。
 当然だ。彼らは考える必要がないからだ。ただ、遂行する。
 その点にかけては彼ら以上は望めない。

 窓の外を見た。
 夕焼けの、その残滓が見えた気がした。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/02(火) 20:00:18.33 ID:E1xnZq3jo

the end
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/02(火) 20:07:12.05 ID:E1xnZq3jo
想定している長さに対してペースが遅すぎる。原因は練り込みが足りなく、予定の結末までの間埋めに四苦八苦しているため
一区切りついたので、練習して出直します
今までありがとうございました
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/08/03(水) 06:32:44.77 ID:nxmM3rAmo
えっ?
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/03(水) 16:04:17.21 ID:P5npidyDO
えっ?



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